特許第6507726号(P6507726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507726
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/40 20160101AFI20190422BHJP
   B60W 20/14 20160101ALI20190422BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20190422BHJP
   B60K 17/356 20060101ALI20190422BHJP
   B60K 6/52 20071001ALI20190422BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20190422BHJP
   B60L 7/12 20060101ALI20190422BHJP
   B60L 50/40 20190101ALI20190422BHJP
   B60L 50/50 20190101ALI20190422BHJP
   B60L 53/00 20190101ALI20190422BHJP
   B60L 55/00 20190101ALI20190422BHJP
   B60L 58/00 20190101ALI20190422BHJP
   B60L 15/20 20060101ALI20190422BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20190422BHJP
【FI】
   B60W20/40
   B60W20/14
   B60W10/08 900
   B60K17/356 BZHV
   B60K6/52
   B60W10/02 900
   B60L7/12 Q
   B60L11/18 A
   B60L15/20 S
   B60K6/48
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-46204(P2015-46204)
(22)【出願日】2015年3月9日
(65)【公開番号】特開2016-165942(P2016-165942A)
(43)【公開日】2016年9月15日
【審査請求日】2018年2月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】太田 敏雄
【審査官】 田中 将一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−171605(JP,A)
【文献】 特開2003−291676(JP,A)
【文献】 特開2000−085393(JP,A)
【文献】 特開2005−341751(JP,A)
【文献】 特開2004−175313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 − 6/547
B60W 10/00 − 20/50
B60K 17/28 − 17/36
B60L 1/00 − 3/12
B60L 7/00 − 13/00
B60L 15/00 − 15/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力が常に伝達される左右の主駆動輪と、走行状態に応じて動力が伝達される左右の副駆動輪とを有する四輪駆動車両の前記副駆動輪に動力を伝達する動力伝達装置において、
車載の蓄電池から供給される電力を消費して回転することにより前記副駆動輪に伝達される動力を発生する一方、給電が停止された状態で前記副駆動輪に連動して回転することにより前記蓄電池に回生される電力を発電するモータと、
電子制御を通じて前記モータと前記副駆動輪との間の動力伝達率を0%〜100%の間で連続的に変更するカップリングと、
前記モータおよび前記カップリングをそれぞれ制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、車両の走行中、前記蓄電池の残量が予め定められるしきい値以下に低下したとき、前記モータへの給電を停止したうえで前記動力伝達率を0%よりも大きな値に設定することにより前記モータによる発電を開始する一方、前記蓄電池の残量が予め定められるしきい値を超えて回復したとき、前記動力伝達率を0%に設定することにより前記モータによる発電を終了するものであることを前提として、
前記モータによる発電が開始される際に設定される前記動力伝達率は、車両の走行状態に応じて異なる値に設定されるものであって、
前記車両の走行状態は、少なくとも、一定速度で走行する走行状態とブレーキによって減速する走行状態とを含み、
一定速度で走行する走行状態で前記モータによる発電が開始される際に設定される前記動力伝達率は、ブレーキによって減速する走行状態で前記モータによる発電が開始される際に設定される前記動力伝達率よりも小さい値に設定される動力伝達装置。
【請求項2】
動力が常に伝達される左右の主駆動輪と、走行状態に応じて動力が伝達される左右の副駆動輪とを有する四輪駆動車両の前記副駆動輪に動力を伝達する動力伝達装置において、
車載の蓄電池から供給される電力を消費して回転することにより前記副駆動輪に伝達される動力を発生する一方、給電が停止された状態で前記副駆動輪に連動して回転することにより前記蓄電池に回生される電力を発電するモータと、
電子制御を通じて前記モータと前記副駆動輪との間の動力伝達率を0%〜100%の間で連続的に変更するカップリングと、
前記モータおよび前記カップリングをそれぞれ制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、車両の走行中、前記蓄電池の残量が予め定められるしきい値以下に低下したとき、前記モータへの給電を停止したうえで前記動力伝達率を0%よりも大きな値に設定することにより前記モータによる発電を開始する一方、前記蓄電池の残量が予め定められるしきい値を超えて回復したとき、前記動力伝達率を0%に設定することにより前記モータによる発電を終了するものであることを前提として、
前記モータによる発電が開始される際に設定される前記動力伝達率は、車両の走行状態に応じて異なる値に設定されるものであって、
前記車両の走行状態は、少なくとも、一定速度で走行する走行状態と下り坂を慣性走行する走行状態とを含み、
一定速度で走行する走行状態で前記モータによる発電が開始される際に設定される前記動力伝達率は、下り坂を慣性走行する走行状態で前記モータによる発電が開始される際に設定される前記動力伝達率よりも小さい値に設定される動力伝達装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の動力伝達装置において、
前記制御装置は、前記モータによる発電を開始する場合に前記動力伝達率を設定するとき、当該設定前の動力伝達率から当該設定後の動力伝達率まで徐々に変化させる動力伝達装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のうちいずれか一項に記載の動力伝達装置において、
前記制御装置は、前記蓄電池の残量が予め定められるしきい値以下に低下した場合であれ、四輪駆動が必要とされる走行状態が検出されるときには、前記動力伝達率を100%に維持した状態で、前記モータの制御を通じて前記左右の副駆動輪を駆動させる動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4に記載の動力伝達装置において、
前記制御装置は、前後の車輪速差および左右の車輪速差の少なくとも一に基づき、四輪駆動が必要とされる走行状態を検出する動力伝達装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の動力伝達装置において、
前記モータの動力を前記左右の副駆動輪に分配する差動機構を有し、
前記カップリングは、前記モータと前記差動機構との間に設けられる動力伝達装置。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のうちいずれか一項に記載の動力伝達装置において、
前記モータは第1および第2のモータを含み、これら第1および第2のモータは前記左右の副駆動輪にそれぞれ前記カップリングを介して連結される動力伝達装置。
【請求項8】
請求項〜請求項7のうちいずれか一項に記載の動力伝達装置において、
前記車両の走行状態は、一定速度で走行する第1の走行状態、下り坂を慣性走行する第2の走行状態、およびブレーキによって減速する第3の走行状態を含み、
前記制御装置は、車速に基づき前記第1の走行状態を、車速およびアクセルの操作状態に基づき前記第2の走行状態を、車速およびブレーキの操作状態に基づき前記第3の走行状態を判定する動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1に記載されるように、従来、前輪をエンジンで駆動するとともに、後輪をモータで駆動する車両が存在する。車両の制御装置は、車両の走行状態などに応じてモータを制御することにより、その時々で必要とされるモータのトルクを後輪へ付与する。また、車両の減速時などの状況下において、モータは発電機として機能する。このモータにおける発電時の回転抵抗が制動力として利用される。また、当該発電される回生エネルギとしての電力は車両の蓄電池に供給されてその充電に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014−69657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特許文献1に記載の車両も含め、走行用の動力源の一であるモータを利用して回生発電を行う車両においては、つぎのようなことが懸念される。たとえば車両の減速時、モータは後輪に連動して回転するため、モータによる発電量を制御することが難しい。蓄電池の容量には限度があるため、すぐに満充電の状態に至ることがある。そしてこの後も、モータにより発電される電力が蓄電池に供給される場合、蓄電池は過充電の状態となってその劣化が助長されるおそれがある。
【0005】
本発明の目的は、より適切な回生発電を行うことができる動力伝達装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成し得る動力伝達装置は、動力が常に伝達される左右の主駆動輪と、走行状態に応じて動力が伝達される左右の副駆動輪とを有する四輪駆動車両の前記副駆動輪に動力を伝達するものである。
【0007】
そして、当該動力伝達装置は、車載の蓄電池から供給される電力を消費して回転することにより前記副駆動輪に伝達される動力を発生する一方、給電が停止された状態で前記副駆動輪に連動して回転することにより前記蓄電池に回生される電力を発電するモータと、電子制御を通じて前記モータと前記副駆動輪との間の動力伝達率を0%〜100%の間で連続的に変更するカップリングと、前記モータおよび前記カップリングをそれぞれ制御する制御装置と、を備えている。
【0008】
前記制御装置は、車両の走行中、前記蓄電池の残量が予め定められるしきい値以下に低下したとき、前記モータへの給電を停止したうえで前記動力伝達率を0%よりも大きな値に設定することにより前記モータによる発電を開始する一方、前記蓄電池の残量が予め定められるしきい値を超えて回復したとき、前記動力伝達率を0%に設定することにより前記モータによる発電を終了する。
【0009】
この構成によれば、車両の走行中、蓄電池の残量が予め定められるしきい値以下に低下したときにはモータによる発電が開始される。モータへの給電が停止されているとき、副駆動輪の回転力はカップリングの動力伝達率に応じてモータに伝達される。モータは、当該伝達される回転力に応じて回転することにより発電する。一方、前記蓄電池の残量が予め定められるしきい値を超えて回復したときにはモータによる発電が終了される。このように、蓄電池の残量に応じて、より適切な回生発電が行われることにより、モータによる余剰電力の発電、ひいては蓄電池の過剰充電が抑制される。
【0010】
上記の動力伝達装置において、前記モータによる発電が開始される際に設定される前記動力伝達率は、車両の走行状態に応じて異なる値に設定されることが好ましい。
ここで、カップリングを介してモータに伝達される回転力が大きいときほど、モータの発電量は増加する。このとき、発電量のみならずモータによる回生制動力も増加する。このため、車両の走行状態によっては、モータによる回生制動力に起因して、運転者にわずかながらにも衝撃を感じさせるおそれがある。この点、上記構成のように、モータによる回生発電を開始する際に設定されるカップリングの動力伝達率の値を、車両の走行状態に応じて異ならせることにより、車両の走行状態に応じた、より適切な回生発電が行われる。また、車両の走行状態に応じた、より適切な回生制動力を発生させることが可能となるため、車両の乗り心地も確保される。
【0011】
上記の動力伝達装置において、前記制御装置は、前記モータによる発電を開始する場合に前記動力伝達率を設定するとき、当該設定前の動力伝達率から当該設定後の動力伝達率まで徐々に変化させることが好ましい。
【0012】
このようにすれば、カップリングの動力伝達率の急変に伴う衝撃を低減することができる。変更前のカップリングの動力伝達率と目標とする動力伝達率との差が大きいときほど有効である。
【0013】
上記の動力伝達装置において、前記制御装置は、前記蓄電池の残量が予め定められるしきい値以下に低下した場合であれ、四輪駆動が必要とされる走行状態が検出されるときには、前記モータの制御を通じて前記左右の副駆動輪を駆動させることが好ましい。
【0014】
このように、四輪駆動による走行を蓄電池の充電に優先させることにより、車両の走行安定性を継続的に確保することができる。
上記の動力伝達装置において、前記制御装置は、前後の車輪速差および左右の車輪速差の少なくとも一に基づき、四輪駆動が必要とされる走行状態を検出するようにしてもよい。
【0015】
前後の車輪速差に基づき前輪または後輪のスリップを検出することが可能である。また、左右の車輪速差に基づき車両のカーブ走行を検出することが可能である。走行安定性を確保する観点から、スリップが発生するとき、あるいはカーブ路を走行するときには、四輪駆動による走行が好ましい。
【0016】
上記の動力伝達装置において、前記モータの動力を前記左右の副駆動輪に分配する差動機構を有していてもよい。この場合、前記カップリングは、前記モータと前記差動機構との間に設けられることが好ましい。前記カップリングは一つだけ設ければよい。
【0017】
上記の動力伝達装置において、前記モータは第1および第2のモータを含んでいてもよい。この場合、これら第1および第2のモータは前記左右の副駆動輪にそれぞれ前記カップリングを介して連結されることが好ましい。
【0018】
この構成によれば、左右の副駆動輪が2つのモータによってそれぞれ独立して駆動される。この場合、2つのモータと左右の副駆動輪との間にそれぞれカップリングを設けることにより、2つのモータと左右の副駆動輪との間の動力伝達率をそれぞれ自在に変更することが可能となる。
【0019】
上記の動力伝達装置において、前記車両の走行状態は、一定速度で走行する第1の走行状態、下り坂を慣性走行する第2の走行状態、およびブレーキによって減速する第3の走行状態の少なくとも一を含んでいてもよい。この場合、前記制御装置は、車速に基づき前記第1の走行状態を、車速およびアクセルの操作状態に基づき前記第2の走行状態を、車速およびブレーキの操作状態に基づき前記第3の走行状態をそれぞれ判定するようにしてもよい。
【0020】
第1〜第3の走行状態の少なくとも一に応じて、カップリングの動力伝達率が変更されることにより、第1〜第3の走行状態における車両の乗り心地を確保することが可能である。これは、車両の走行状態に応じて、好ましい回生制動力の大きさが異なるからである。たとえば、車両が定常走行しているときには、カップリングの動力伝達率の変化に伴う衝撃をなるべく抑えたいので、カップリングの動力伝達率を抑えることが好ましい。これに対して、ブレーキ操作によって車両が減速するときには、減速したいという運転者の意思が明らかであるため、カップリングの動力伝達率、ひいては回生制動力を大きくしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の動力伝達装置によれば、より適切な回生発電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1の実施の形態における動力伝達装置が搭載された車両の概略構成を示すブロック図。
図2】第1の実施の形態におけるカップリングの制御手順を示すフローチャート。
図3】第2の実施の形態におけるカップリングの制御手順を示すフローチャート。
図4】第3の実施の形態における動力伝達装置の一例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施の形態>
以下、動力伝達装置を四輪駆動の車両に具体化した第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両11は、走行用の主駆動源である内燃機関(エンジン)12を備えている。内燃機関12の駆動力は、トランスミッション13、フロントディファレンシャルギヤ14および左右のフロントドライブシャフト15,15を介して、左右の前輪16,16にそれぞれ伝達される。車両11が走行(前進、後進)するとき、内燃機関12により発生する駆動力は、常に左右の前輪16,16に伝達される。
【0024】
また、車両11は、蓄電池(BAT)21および動力伝達装置22を備えている。動力伝達装置22は、走行用の副駆動源であるモータ23、電子制御カップリング24、リヤディファレンシャルギヤ25およびECU(電子制御装置)26を有している。
【0025】
モータ23の駆動力(トルク)は、その出力軸23s、電子制御カップリング24、リヤディファレンシャルギヤ25および左右のリヤドライブシャフト27,27を介して、左右の後輪28,28にそれぞれ伝達される。
【0026】
モータ23としては、たとえば分巻直流機が採用される。分巻直流機とは、電機子巻線と界磁巻線とが互いに並列に接続されるものをいう。モータ23は、車両11の減速走行時あるいは慣性走行時、発電機(他励発電機)として機能する。他励発電機とは、磁界を発生させる界磁巻線の電源として自己の起電力ではなく別の電源を使用するものをいう。なお、ここではモータ23に供給される界磁電流は一定に維持される。
【0027】
電子制御カップリング24は、モータ23の駆動力をリヤディファレンシャルギヤ25へ伝達する。電子制御カップリング24は、ECU26による電子制御を通じてその伝達トルク(動力伝達率)が0%から100%までの間で無段階に変更される。図示は割愛するが、電子制御カップリング24は、メインクラッチ(多板摩擦クラッチ)、パイロットクラッチ(電磁多板クラッチ)、カム機構および電磁石を有している。電磁石の電磁力によってパイロットクラッチが係合し、その係合力(摩擦トルク)がカム機構を介してメインクラッチに伝達されることにより、当該メインクラッチが係合する。電磁石に供給する電流を制御することにより、電子制御カップリング24の伝達トルクを制御することが可能である。
【0028】
蓄電池21は、モータ23、電子制御カップリング24を含む各種の電装品、およびECU26を含む各種のコンピュータ機器の動作電源である。また、蓄電池21は発電機として機能するモータ23により発電される電力を蓄える。
【0029】
ECU26は、車両11に設けられる各種のセンサの検出結果を車両11の走行状態あるいは運転者の要求を示す車両情報として取得し、当該取得される車両情報に応じてモータ23および電子制御カップリング24をそれぞれ制御する。センサには、各車輪に設けられる車輪速センサ31、車速センサ32、アクセルペダルセンサ33、およびブレーキペダルセンサ34が含まれる。ECU26は、これらセンサを通じて各車輪の回転速度(車輪速)Vw、車両11の走行速度である車速V、アクセルペダルの踏み込み量Pa、ブレーキペダルの踏み込み量Pbをそれぞれ車両情報として検出する。
【0030】
ECU26は、車両11が通常の走行状態(前進、後進)であるとき、電子制御カップリング24の伝達トルクを100%に維持する。そしてECU26は、車両11の走行状態に応じてモータ23の回転を制御することにより、後輪28,28へ伝達される駆動力を制御する(通常の四輪駆動制御)。内燃機関12と異なり、車両11が走行(前進、後進)するとき、モータ23により発生する駆動力は、補助的に左右の後輪28,28に伝達される。
【0031】
ECU26は蓄電池21に設けられた電圧センサ35を通じて蓄電池21の電圧を常に監視し、当該電圧に基づき蓄電池21の充電量(残量)を検出する。ECU26は、蓄電池21の充電量が低下したとき、モータ23による回生発電を行うための制御として、モータ23への給電を停止する。またこのとき、ECU26は、その時々の車両11の走行状態に応じて電子制御カップリング24の伝達トルクを設定する。当該伝達トルクの制御を通じて、モータ23の発電量、ひいては回生制動力を制御することが可能である。
【0032】
<動力伝達制御の処理手順>
つぎに、後輪に対する動力伝達制御の処理手順を説明する。当該処理はECU26により実行される。なお、車両11は走行中であって、ECU26は通常の四輪駆動制御を実行している。
【0033】
図2のフローチャートに示すように、ECU26は電圧センサ35を通じて蓄電池21の電圧を取り込む(ステップS101)。
つぎに、ECU26は、蓄電池21の電圧に基づき蓄電池21の残量低下、すなわち蓄電池21を充電する必要があるかどうかを判定する(ステップS102)。
【0034】
具体的には、ECU26は、つぎの条件(A)が成立するかどうかを判定する。
・蓄電池21の充電量(残量)>しきい値X(%) …(A)
蓄電池21の電圧と充電量との間には相関関係があるため、電圧に基づき充電量を推定することが可能である。充電量を判定するためのしきい値Xは、たとえば満充電時の蓄電池21の充電量を基準として設定される。なお、充電の要否判定は、蓄電池21の電圧としきい値との比較を通じて行ってもよい。
【0035】
ECU26は、蓄電池21への充電が必要でない旨判定されるとき、すなわち蓄電池21の充電量がしきい値Xを超えている旨判定されるとき(ステップS102でNO)、四輪駆動制御を実行し(ステップS103)、処理を終了する。
【0036】
ECU26は、蓄電池21への充電が必要である旨判定されるとき、すなわち蓄電池21の充電量がしきい値Xを超えていない旨判定されるとき(ステップS102でYES)、ステップS104へ処理を移行する。
【0037】
ステップS104において、ECU26は四輪を駆動させる必要があるかどうかを判定する。具体的には、ECU26は、つぎの2つの条件(B1),(B2)の少なくとも一が成立するかどうかを判定する。
【0038】
・前後の車輪速差>しきい値Vw1 …(B1)
・左右の車輪速差>しきい値Vw2 …(B2)
条件(B1)は、スリップを判定するためのものである。前後の車輪速差がしきい値Vw1よりも大きな値であるとき、車両11にスリップが発生している旨判定される。条件(B2)はカーブ走行を判定するためのものである。左右の車輪速差がしきい値Vw2よりも大きいとき、車両11はカーブ路を走行している旨判定される。
【0039】
ECU26は、四輪を駆動させる必要がある旨判定されるとき、具体的には2つの条件(B1),(B2)の少なくとも一が成立する旨判定されるとき(ステップS104でYES)、先のステップS103へ処理を移行して四輪駆動制御を実行あるいは継続する。
【0040】
すなわち、蓄電池21の充電量(電圧)がしきい値X以下に低下している場合であれ、スリップが生じているとき、あるいはカーブ路を走行しているときなどの四輪駆動性能が必要とされる状況下においては、車両11の走行安定性を確保することが蓄電池21の充電に優先される。
【0041】
ECU26は、四輪を駆動させる必要がない旨判定されるとき、具体的には2つの条件式(B1),(B2)のいずれも成立しない旨判定されるとき(ステップS104でNO)、四輪駆動制御を中止する(ステップS105)。すなわち、ECU26は、蓄電池21を充電するためにモータ23への給電を停止する。モータ23が停止されることにより、車両11は前輪駆動状態となる。
【0042】
この後、ECU26は、車両11の走行状態に応じて電子制御カップリング24の伝達トルクを制御する。これは、車両11の走行状態に応じた回生発電(蓄電池21の充電)を行うためである。具体的には、ECU26は、つぎのようにして電子制御カップリング24の伝達トルクを制御する。
【0043】
すなわち、先のステップS105において四輪駆動制御を停止した後、ECU26は、現在の車両11の走行状態が、定常走行状態(第1の走行状態)であるかどうかを判定する(ステップS106)。定常走行状態とは、高速道路などにおいて一定車速で走行している状態をいう。具体的には、ECU26は、つぎの条件(C)が成立するかどうかを判定する。
【0044】
・車速の単位時間当たりの変化量(速度変化)<しきい値ΔV …(C)
ECU26は、車速の単位時間当たりの変化量が、しきい値ΔVよりも小さな値であるとき、車両11は定常走行状態である旨判定する。
【0045】
ECU26は、車両11の走行状態が第1の走行状態である旨判定されるとき、具体的には条件(C)が成立する旨判定されるとき(ステップS106でYES)、電子制御カップリング24の伝達トルクを設定値α1に設定し(ステップS107)、処理を終了する。
【0046】
設定値α1は、たとえば5%〜10%程度の小さな値に設定される。これは、定常走行状態において発電が開始されるとき、後輪28,28の回転力がモータ23へ伝達されることに伴う衝撃を低減する観点に基づく。電子制御カップリング24の伝達トルクをより小さな値に設定することにより、後輪の回転力が電子制御カップリング24を介してモータ23に伝達され始めるときの衝撃(回生発電に伴い発生する制動力に起因する急激なブレーキング現象など)の発生が抑えられる。これにより、車両11の乗り心地も確保される。
【0047】
ECU26は、車両11の走行状態が第1の走行状態でない旨判定されるとき、具体的には条件(C)が成立しない旨判定されるとき(ステップS106でNO)、ステップS108へ処理を移行する。
【0048】
ステップS108において、ECU26は、現在の車両11の走行状態が下り坂を走行している状態(第2の走行状態)かどうかを判定する。具体的には、ECU26は、つぎの2つの条件(D1),(D2)が成立するかどうかを判定する。
【0049】
・アクセルペダルの踏み込みが解除されていること(アクセルオフ) …(D1)
・車速>しきい値Vh1 ………………………………………………………(D2)
アクセルオフの状態で車速がある程度の速さに維持される場合、車両11は何らかの斜面を下っていると考えられる。
【0050】
ECU26は、車両11の走行状態が第2の走行状態である旨判定されるとき、具体的には2つの条件(D1),(D2)が両方とも成立する旨判定されるとき(ステップS108でYES)、電子制御カップリング24の伝達トルクを設定値α2に設定し(ステップS109)、処理を終了する。
【0051】
設定値α2は、たとえば30%〜50%程度の値に設定される。ただし、長い下り坂を走行しているときなどには、設定値α2を100%にしてもよい。下り坂が長いときほど、より大きな回生制動力を発生させることが好ましいからである。
【0052】
ECU26は、車両11の走行状態が第2の走行状態でない旨判定されるとき、具体的には2つの条件(D1),(D2)の少なくとも一が成立しない旨判定されるとき(ステップS108でNO)、ステップS110へ処理を移行する。
【0053】
ステップS110において、ECU26は、現在の車両11の走行状態が運転者の意思による減速走行状態(第3の走行状態)であるかどうかを判定する。具体的には、ECU26は、つぎの2つの条件(E1),(E2)が成立するかどうかを判定する。
【0054】
・ブレーキペダルが踏み込まれていること(ブレーキオン) …(E1)
・車速>しきい値Vh2 ……………………………………………(E2)
ただし、しきい値Vh2は、先の条件(D2)におけるしきい値Vh2よりも小さな値、たとえば0km/hに設定される。
【0055】
ECU26は、車両11の走行状態が第3の走行状態である旨判定されるとき、具体的には2つの条件(E1),(E2)が両方とも成立する旨判定されるとき(ステップS110でYES)、電子制御カップリング24の伝達トルクを設定値α3に設定し(ステップS111)、処理を終了する。
【0056】
設定値α3は、たとえば50%〜100%程度の値に設定される。ブレーキペダルの踏み込み量が大きい場合などにおいては、停車したいという運転者の意思が強いため、設定値α3を100%に設定してもよい。
【0057】
ただし、電子制御カップリング24の伝達トルクを現状値から設定値α3まで急激に増加させるのではなく、徐々に増加させることが好ましい。モータ23へ伝達される後輪28,28の回転力(トルク)の急変に伴う衝撃を低減するためである。なお、先のステップ107,S109において、伝達トルクを現在値から設定値α1,α2へ変更するときも同様である。
【0058】
ECU26は、車両11の走行状態が第3の走行状態でない旨判定されるとき、具体的には2つの条件(E1),(E2)の少なくとも一が成立しない旨判定されるとき(ステップS110でNO)、処理を終了する。
【0059】
モータ23により発電される電力が蓄電池21に供給されることにより、蓄電池21は充電される。やがて、蓄電池21の充電量がしきい値Xを超える程度に回復したとき(ステップS102でYES)、ECU26は四輪駆動制御を実行する。この四輪駆動制御には、つぎのような処理が含まれる。
【0060】
すなわち、ECU26は、まず電子制御カップリング24の伝達トルクを0%に設定する。これにより、四輪駆動制御の実行前にモータ23による回生発電が行われていた場合には、当該回生発電が停止される。つぎに、ECU26はアクセルペダルの踏み込み(アクセルオン)が検出されるとき、電子制御カップリング24の伝達トルクを100%に設定する。以後、ECU26はモータ23の回転を制御することにより、後輪28,28へ伝達される駆動力を制御する。
【0061】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)車両の走行中、蓄電池21の充電量がしきい値X以下に低下した場合、かつ四輪駆動性能が必ずしも必要とされない走行状態である場合、モータ23による発電が開始される。蓄電池21の充電量が回復した場合、モータ23による発電が終了される。蓄電池21の充電量に応じて、より適切な回生発電が行われることにより、モータ23によって無駄な余剰電力が発電されることが抑制される。また、蓄電池21の過剰充電も抑制されるので、蓄電池21の製品寿命の維持向上が図られる。
【0062】
(2)ここで、モータ23に伝達される回転力が大きいときほど、モータ23の発電量は増加する。このとき、発電量のみならずモータ23による回生制動力も増加する。このため、車両11の走行状態によっては、モータ23による回生制動力に起因して、運転者にわずかながらにも衝撃を感じさせるおそれがある。そこで本例のように、モータ23による発電が開始される際、電子制御カップリング24の伝達トルクを車両11の走行状態に応じて異なる値(α1,α2,α3)に設定すれば、車両の走行状態に応じた、より適切な回生発電が行われる。また、車両の走行状態に応じた、より適切な回生制動力を発生させることが可能となるため、車両の乗り心地も確保される。
【0063】
(3)ECU26は、モータ23による発電を開始する場合、電子制御カップリング24の伝達トルクを設定するとき、当該設定前の伝達トルクから特定の設定値(α1,α2,α3)まで徐々に変化させる。このようにすれば、電子制御カップリング24の伝達トルクの急変に伴う衝撃を低減することができる。設定前の伝達トルクと目標となる設定値(α1,α2,α3)との差が大きいときほど有効である。
【0064】
(4)蓄電池21の残量低下が検出される場合であれ、四輪駆動が必要とされる走行状態であるときには、四輪駆動による走行を蓄電池の充電に優先させる。これにより、車両11の走行安定性を継続的に確保することができる。
【0065】
(5)電子制御カップリング24の伝達トルクを制御することにより、モータ23から後輪28,28へ伝達されるトルクを制御することができる。このため、高精度のモータが不要である。
【0066】
(6)モータ23として分巻直流機が採用されている。発電時(回生時)、たとえば界磁電流を制御することによりモータ23の発電量を制御することが可能であるものの、この場合には界磁電流を制御する回路などの構成を設ける必要がある。この点、本例では電子制御カップリング24の伝達トルクの調節を通じて、モータ23の発電量を制御することができる。モータ23に印加される界磁電流を制御する必要がないため、界磁電流を制御するための回路などの構成が不要である。
【0067】
<第2の実施の形態>
つぎに、動力伝達装置の第2の実施の形態を説明する。本例の動力伝達装置は、基本的には先の図1に示される動力伝達装置と同様の構成を有するものであって、ECUによる動力伝達制御の処理手順の点で第1の実施の形態と異なる。
【0068】
本例の動力伝達制御の処理手順は図3のフローチャートに示される通りである。当該フローチャートのステップS101〜ステップS103の各処理については第1の実施の形態と同様であるため、それら処理についての詳細な説明を割愛する。
【0069】
さて、図3のフローチャートに示すように、ECU26は、蓄電池21への充電が必要である旨判定されるとき、すなわち蓄電池21の充電量がしきい値Xを超えていない旨判定されるとき(ステップS102でYES)、四輪駆動制御を中止する(ステップS201)。この後、ECU26は、車両11の走行状態に応じて電子制御カップリング24の伝達トルクを制御する(ステップS202)。
【0070】
ただし、ステップS202の処理内容としては、文頭に「・」を付したつぎの3つの処理群のうちの少なくとも一を含めばよい。
・第1の走行状態(定常走行)を判定し、当該判定される走行状態に応じて電子制御カップリング24の伝達トルクを制御する一連の処理(図2:S106、S107)。
【0071】
・第2の走行状態(下り坂走行)を判定し、当該判定される走行状態に応じて電子制御カップリング24の伝達トルクを制御する一連の処理(図2:S108、S109)。
・第3の走行状態(減速走行)を判定し、当該判定される走行状態に応じて電子制御カップリング24の伝達トルクを制御する一連の処理(図2:S110、S111)。
【0072】
したがって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態における(1)〜(3),(5),(6)と同様の効果を得ることができる。
(7)また、本例では蓄電池21の充電量がしきい値Xに達していない場合、四輪駆動の要否を問わず、車両11の走行状態に応じて必ず蓄電池21が充電される。このため、蓄電池21の充電を四輪駆動に優先させたい場合に好適である。
【0073】
<第3の実施の形態>
つぎに、動力伝達装置の第3の実施の形態を説明する。本例では、左右2つの後輪をそれぞれ独立した2つのモータで駆動する点で第1の実施の形態と異なる。
【0074】
図4に示すように、動力伝達装置22は、走行用の副駆動源である2つのモータ23a,23b、2つの電子制御カップリング24a,24b、およびECU26を有している。2つのモータ23a,23bは、それぞれ電子制御カップリング24a,24bを介して左右の後輪28,28に連結されている。2つのモータ23a,23bの駆動力は、各々に対応する電子制御カップリング24a,24を介して、2つの後輪28,28にそれぞれ伝達される。
【0075】
ECU26は、2つのモータ23a,23bおよび2つの電子制御カップリング24a,24をそれぞれ制御する。ECU26は、基本的には先の図2または図4のフローチャートに示される手順と同様の手順で2つの後輪28,28に対する動力伝達制御を実行する。ECU26は、蓄電池21の充電量がしきい値Xに達しないとき、モータ23を停止させたうえで、車両11の走行状態に応じて電子制御カップリング24の伝達トルクを制御する。これにより、車両11の走行状態に応じて蓄電池21の回生充電が行われる。また、車両の走行状態に応じた回生制動力が発揮される。
【0076】
したがって、本実施の形態によれば、第1の実施の形態の(1)〜(6)と同様の効果、または第2の実施の形態の(7)と同様の効果を得ることができる。
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
【0077】
・第2の実施の形態では、回生充電の際には、第1〜第3の走行状態の少なくとも一に応じて、電子制御カップリング24の伝達トルクを設定するようにしたが、この点、第1および第3の実施の形態についても同様に適用してもよい。
【0078】
・第1〜第3の実施の形態において、モータ23による回生発電を行う際(図2:S107,S109,S110、図3:S202)、車速Vのみに基づき電子制御カップリング24の伝達トルクを設定するようにしてもよい。車速によって後輪28,28の回転力は変化するため、車速のみに基づき伝達トルクを設定する場合であれ、その時々の車両11の走行状態(たとえば低速走行、中速走行、高速走行)に応じて、より適切な回生制動力を発生させることが可能となる。
【0079】
・第1または第2の実施の形態では、モータ23とリヤディファレンシャルギヤ25との間に単一の電子制御カップリング24を設けたが、つぎのようにしてもよい。たとえば、リヤディファレンシャルギヤ25と一方の後輪28との間、およびリヤディファレンシャルギヤ25と他方の後輪28との間に、それぞれ電子制御カップリング24を設ける。このようにしても、電子制御カップリング24の伝達トルクの制御を通じて、車両11の走行状態に応じた回生発電を行うことができる。また、車両11の走行状態に応じた、より適切な回生制動力が発揮される。
【0080】
・第1〜第3の実施の形態では、主駆動輪である前輪16,16の駆動源として内燃機関12を有する車両11を例示したが、内燃機関12に代えて電動機(モータ)が搭載される車両であってもよい。
【0081】
・第1〜第3の実施の形態では、前輪16,16を主駆動輪、後輪28,28を副駆動輪とする車両11を例示したが、後輪28,28を主駆動輪、前輪16,16を副駆動輪とする車両であってもよい。
【符号の説明】
【0082】
11…車両(四輪駆動車両)、16…前輪(主駆動輪)、21…蓄電池、22…動力伝達装置、23…モータ、23a…モータ(第1のモータ)、23b…モータ(第2のモータ)、24…電子制御カップリング、24a…電子制御カップリング(第1のカップリング)、24b…電子制御カップリング(第2のカップリング)、25…リヤディファレンシャルギヤ(差動機構)、26…ECU(制御装置)、28…後輪(副駆動輪)。
図1
図2
図3
図4