(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
油中水型乳化油脂組成物全体中、油脂40〜97重量%、無脂乳固形分0.05〜3重量%(乾燥重量)、穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料及び昆布エキスを合計で0.1〜2.86重量%(乾燥重量)、及び水分2〜55重量%を含有し、発酵調味料/昆布エキス(乾燥重量比)が95/5〜15/85であり、前記発酵調味料が、魚醤、醤油、味噌、オイスターソースからなる群から選ばれる少なくとも1種であるパン練り込み用油中水型乳化油脂組成物。
パーム系油脂のエステル交換油の分別液状部であり且つヨウ素価が35〜62の油脂が、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/(SSS含量)の重量比率が4〜20且つ(SSU含量)/(SUS含量)の重量比率が1以上である請求項3に記載のパン練り込み用油中水型乳化油脂組成物。
SSS:トリ飽和脂肪酸グリセリド
SSU:1,2−ジ飽和脂肪酸−3−モノ不飽和脂肪酸グリセリド(光学異性体を含む)
SUS:1,3−ジ飽和脂肪酸−2−モノ不飽和脂肪酸グリセリド
穀粉100重量部に対して、油脂2〜30重量部、無脂乳固形分0.1〜5重量部(乾燥重量)、穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料及び昆布エキスを合計で0.01〜1重量部(乾燥重量)含有し、前記発酵調味料/前記昆布エキス(乾燥重量比)が9
5/5〜15/85であり、前記発酵調味料が、魚醤、醤油、味噌、オイスターソースからなる群から選ばれる少なくとも1種であるパン生地。
パーム系油脂のエステル交換油の分別液状部であり且つヨウ素価が35〜62の油脂が、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/(SSS含量)の重量比率が4〜20且つ(SSU含量)/(SUS含量)の重量比率が1以上である請求項8に記載のパン生地。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のパン生地は、穀粉、油脂、無脂乳固形分、穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料及び昆布エキスをそれぞれ特定量含有することを特徴とする。
【0010】
前記穀粉は、食用であれば特に限定はないが、例えば、小麦、米、とうもろこし、馬鈴薯、タピオカ、甘藷などの穀物を挽いたり粉砕したりして作った粉で、それらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。そして、該穀粉中には、小麦粉を80重量%以上含有することが好ましい。前記小麦粉は、例えば、強力粉、中力粉、薄力粉等が挙げられ、それらの群より選ばれる少なくとも1種を使用することができるが、蛋白質含量の多い強力粉が望ましい。また、前記穀粉中には、80重量%以下であれば、前記穀物由来の澱粉及びその加工澱粉を含んでいても良い。
【0011】
前記パン生地中の油脂は、従来マーガリンやショートニング等に使用されるいかなる油脂を使用してもよく、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、亜麻仁油、桐油、サフラワー油、かや油、胡桃油、芥子油、向日葵油、綿実油、菜種油、コーン油、大豆油、辛子油、カポック油、米糠油、胡麻油、落花生油、オリーブ油、椿油、茶油、ひまし油、葡萄油、カカオ脂、シア脂、サル脂、コクム脂、ボルネオ脂等の植物性油脂や、魚油、鯨油、牛脂、乳脂、豚脂、鶏油、卵黄油、羊油等の動物性油脂が挙げられ、また、これらの油脂をエステル交換したものや、硬化、分別したもの等、通常食用に供されるすべての油脂類からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。前記油脂の含有量は、前記穀粉100重量部に対して、2〜30重量部が好ましく、5〜20重量部がより好ましく、8〜15重量部が更に好ましい。前記油脂の含有量が2重量部より少ないと、生地の伸展性が低下したり、出来たパンが硬くなる場合があり、30重量部を超えると、生地作製時にダレが生じたり、加熱調理後のパンから油のしみ出しが見られたり、食感が悪い場合がある。
【0012】
前記パン生地中の油脂には、豊かな乳風味とコクを付与する観点から、乳脂肪を含有していることが好ましく、乳脂肪の含有量は、前記油脂全体中0.1〜30重量%が好ましく、0.5〜20重量%がより好ましく、0.7〜10重量%が更に好ましく、1〜7重量%が特に好ましい。前記乳脂肪の含有量が0.1重量%より少ないと、豊かな乳風味とコクの付与効果が得られにくい場合があり、また30重量%を超えると、効果が頭打ちになったり、価格が高くなる場合がある。乳脂肪とは、牛乳由来の脂質を言い、バター、発酵バター、生乳、牛乳、特別牛乳、濃縮乳、クリーム、発酵クリーム、加糖練乳、無糖練乳、チーズ、全脂粉乳、バターミルク、バターミルクパウダー及びこれらを酸、酵素、加熱処理したものや分別したものなどが例示でき、これらの群より選ばれる少なくとも1種が用いられる。
【0013】
前記パン生地中の油脂には、豊かな乳風味とコクを増強する観点から、パーム系油脂のランダムエステル交換油の分別液状部であり且つヨウ素価が35〜62の油脂を含有することが好ましい。また、該ヨウ素価は37〜58がより好ましく、40〜55が更に好ましい。前記分別液状部のヨウ素価が35より低いと、硬すぎて生地に練り込まれにくい場合があり、また62より高いと、軟らかすぎて生地の混捏時にすべって練り込まれにくい場合がある。
【0014】
前記パン生地中のパーム系油脂のエステル交換油の分別液状部の含有量は、前記油脂全体中10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましく、30〜60重量%が更に好ましい。前記分別液状部の含有量が10重量%より少ないと、豊かな乳風味とコクの増強効果が得られにくい場合があり、また70重量%を超えると、効果が頭打ちになったり、生地に練り込まれにくくなる場合がある。
【0015】
パーム系油脂のランダムエステル交換方法としては、「ナトリウムメチラートなどのアルカリ触媒などを用いた化学法」や「リパーゼを用いた酵素法」など、一般的に食用油脂に適用することができる方法が挙げられる。なお、本発明におけるランダムエステル交換方法としては、「化学法」もしくは「トリグリセリドの2位にもある程度の反応性があるリパーゼ、例えば、Thermomyces属由来のリパーゼなどを用いる酵素法」を利用することが好ましい。
【0016】
前記エステル交換に供するパーム系油脂のヨウ素価は30〜58が好ましく、その範囲であれば、最終的に得られる油脂のヨウ素価を35〜62に調整し易い。前記エステル交換に供するパーム系油脂としては、例えば、そのまま使用する場合、パーム油、パームステアリン、パーム中融点部、パームオレインが挙げられ、そのまま使用しない場合でも、ヨウ素価が30〜58の範囲外にあるパームダブルオレイン、パームスーパーオレイン、パームトップオレイン、パームハードステアリンなどのパーム系油脂と他のパーム系油脂を混合してヨウ素価30〜58に調整しても良い。
【0017】
前記エステル交換後の分別方法としては、食用油脂に一般的に適用される方法が挙げられ、例えば、パーム系油脂のエステル交換油を温調しながら攪拌して結晶を析出させた後、その油脂を加圧圧搾装置に導入して圧搾して液状部を得る。具体的には、パーム系油脂のランダムエステル交換油を5〜48時間、分別に供するエステル交換油脂の融点よりも2〜14℃低い温度で温調しながら攪拌して結晶を析出させ、その油脂を加圧圧搾装置に導入し、前記温度を維持しながら0.5〜5MPaで圧搾すると、容易にヨウ素価が35〜62の液状部が得られて好ましい。
【0018】
更に前記パーム系油脂のエステル交換油の分別液状部であり且つヨウ素価が35〜62の油脂は、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/(SSS含量)の重量比率が4〜20且つ(SSU含量)/(SUS含量)の重量比率が1以上であることが好ましい。
【0019】
前記SSS含量は、2重量%未満であると生地に練り込まれにくくなる場合があり、13重量%を超えると口溶けが悪くなる場合がある。また前記SSUとSUSの合計含量は、34重量%未満では軟らかすぎて生地の混捏時にすべって練り込まれにくい場合があり、54重量%を超えると硬くなり生地に練り込まれにくくなる場合がある。
【0020】
また前記(SSUとSUSの合計含量)/(SSS含量)の重量比率は、4より小さいとSSSが多く口溶けが悪くなるか、もしくはSSS、SSU、SUSの合計量が少ないために結晶速度の遅い軟質の油脂となって生地に練り込まれにくくなる場合があり、20より大きくなると、結晶核となるSSSが相対的に少ないために粗大結晶となり生地との混合状態が悪化してパンの食感が悪くなる場合がある。
【0021】
前記(SSU含量)/(SUS含量)の重量比率は1未満であると、SSUに対してSUSが多くなり結晶速度が遅く経時的に物性変化が大きくなり、生地に練り込まれにくくなる場合がある。
【0022】
上記記載のパーム系油脂を原料とし、上記記載のエステル交換方法及びエステル交換後の分別方法に従えば、多大な試行錯誤をすることなく前記分別液状部のトリグリセリド組成を得ることができる。
【0023】
本発明におけるSSS含量、SSU含量、SUS含量は「AOCS Official Method Ce 5c−93」に準拠してHPLCにより分析できる。また、SSU/SUS比率は、HPLCを用いて硝酸銀カラムにより分析できる。分析条件は「Journal of the American Oil Chemists Society,68,289−293,1991」記載の方法に準拠して分析できる。更に、ヨウ素価は、日本油化学会制定、基準油脂分析試験法2.3.4.1−1996」に準拠して測定できる。
【0024】
前記パン生地中の無脂乳固形分の原料としては、例えば、牛乳、クリーム、脱脂乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、バターミルク、バターミルクパウダー、ホエー蛋白質、カゼイン蛋白質、乳清ミネラル、加糖練乳、無糖練乳、チーズ等が挙げられ、中でも脱脂乳、脱脂粉乳、バターミルク及びバターミルクパウダーが好ましく、バターミルクパウダーがより好ましい。前記無脂乳固形分の含有量は、穀粉100重量部に対して、乾燥重量で0.1〜5重量部が好ましく、0.3〜3重量部がより好ましく、0.5〜2.5重量部が更に好ましく、1〜2重量部が特に好ましい。前記パン生地中の無脂乳固形分の含有量が0.1重量部より少ないと豊かな乳風味とコクが感じられない場合があり、5重量部より多いと効果が頭打ちになったり、価格が高くなる場合がある。
【0025】
前記パン生地中の穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料は、穀類又は魚介類の原料を自己消化及び/又は酵素を添加して、蛋白質などを分解して製造される調味料を意味し、例えば味噌、醤油、みりん、豆板醤、甜麺醤、魚醤、オイスターソースなどが挙げられ、これらのうち魚醤、醤油、味噌、オイスターソースからなる群から選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
【0026】
前記パン生地中の昆布エキスは、昆布原藻、もしくはその乾燥品を水抽出、アルコール抽出又はアルカリ抽出して得られる抽出液、該抽出液の濃縮液、あるいは該抽出液を粉末化したものを意味し、更に塩、糖、アミノ酸、有機酸、核酸等で調味されていてもよく、一般に市販されている昆布エキス等を用いることができる。上記において、抽出前に前記昆布原藻、もしくはその乾燥品を切断し、砂等の異物を取り除いておくことが好ましい。
【0027】
前記パン生地中の穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料と前記昆布エキスの合計含有量(乾燥重量)は、前記穀粉100重量部に対して、0.01〜1.5重量部が好ましく、0.02〜1重量部がより好ましく、0.03〜0.5重量部が更に好ましく、0.05〜0.3重量部が特に好ましい。前記発酵調味料と昆布エキスの合計含有量が0.01重量部より少ないと、豊かな乳風味とコクを付与する効果が得られない場合があり、1.5重量部より多いと発酵調味料や昆布エキスの風味が感じられる場合がある。
【0028】
また、前記パン生地中の発酵調味料/昆布エキス(乾燥重量比)は95/5〜15/85が好ましく、90/10〜20/80がより好ましく、85/15〜40/60が更に好ましく、80/20〜55/45が特に好ましい。前記重量比が95/5より大きいと、後味の乳風味が弱く感じられる場合があり、15/85より小さいと、先味の乳風味が弱く感じられる場合がある。
【0029】
また、前記パン生地中の(発酵調味料)/(昆布エキス)/(無脂乳固形分)の比率は、乾燥重量で、(0.4〜35)/(0.1〜15)/(55〜99)が好ましい。
【0030】
前記パン生地を作製するためには、前記において穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料及び昆布エキス、油脂、無脂乳固形分などを生地に直接添加する方法と、該発酵調味料、該昆布エキス、該油脂、該無脂乳固形分を練り込み用油中水型乳化油脂組成物として生地に添加する方法とがあり、理由は定かではないが、油中水型乳化油脂組成物として添加する方が、本発明の効果が発揮され易い。但し、該練り込み用油中水型乳化油脂組成物に加えて、生地に直接穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料及び昆布エキス、油脂、無脂乳固形分などを添加しても良い。
【0031】
前記練り込み用油中水型乳化油脂組成物は、前記油脂を含有する油相部と、前記穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料及び昆布エキス、前記無脂乳固形分及び水分を含有する水相部からなることが特徴である。
【0032】
前記油中水型乳化油脂組成物中の油脂の種類は、前記パン生地中の油脂と同様であり、その含有量は、前記油中水型乳化油脂組成物全体中40〜97重量%が好ましく、50〜95重量%がより好ましく、60〜85重量%が更に好ましい。前記油脂の含有量が40重量%より少ないと、練り込み用油中水型乳化油脂組成物としての好ましい物性を得ることができない場合があり、また97重量%を超えると、好ましい風味を付与するに十分な水溶性風味素材を添加することができない場合がある。
【0033】
また前記油中水型乳化油脂組成物には、豊かな乳風味とコクを付与する観点から、乳脂肪を含有していることが好ましい。乳脂肪は前記パン生地中の乳脂肪と同様であり、その含有量は前記油中水型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体中0.1〜30重量%が好ましく、0.5〜20重量%がより好ましく、0.7〜10重量%が更に好ましく、1〜7重量%が特に好ましい。前記乳脂肪の含有量が0.1重量%より少ないと、豊かな乳風味の付与効果が得られにくい場合があり、また30重量%を超えると、効果が頭打ちになったり、価格が高くなる場合がある。
【0034】
さらに前記油中水型乳化油脂組成物には、豊かな乳風味とコクを増強する観点から、パーム系油脂のエステル交換油の分別液状部であり且つヨウ素価が35〜62の油脂を含有していることが好ましい。該パーム系油脂のエステル交換油の分別液状部であり且つヨウ素価が35〜62の油脂の含有量は、油中水型乳化油脂組成物に含まれる油脂全体中10〜70重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましく、30〜60重量%が更に好ましい。前記分別液状部の含有量が10重量%より少ないと、豊かな乳風味とコクの増強効果が得られにくい場合があり、また70重量%を超えると、効果が頭打ちになったり、練り込み用油中水型乳化油脂組成物としての好ましい物性が損なわれる場合がある。
【0035】
前記油中水型乳化油脂組成物中のパーム系油脂のエステル交換油の分別液状部は、前記の通り、パーム系油脂をランダムエステル交換及び分別することで得ることができる。
【0036】
前記油中水型乳化油脂組成物中のパーム系油脂のエステル交換油の分別液状部は、SSSを2〜13重量%含有し、SSUとSUSを合計で34〜54重量%含有し、(SSUとSUSの合計含量)/(SSS含量)の重量比率が4〜20且つSSU含量/SUS含量の重量比率が1以上であることが好ましい。
【0037】
前記SSS含量は、2重量%未満であると保型性が悪くなる場合があり、13重量%を超えると口溶けが悪くなる場合がある。また前記SSUとSUSの合計含量は、34重量%未満では結晶速度が遅く経時変化が大きくなる場合があり、54重量%を超えると硬くなり可塑性が悪くなる場合がある。
【0038】
また(SSUとSUSの合計含量)/(SSS含量)の重量比率は、4より小さいとSSSが多く口溶けが悪くなるか、もしくはSSS、SSU、SUSの合計量が少ないために結晶速度の遅い軟質の油脂となる場合があり、20より大きくなると、結晶核となるSSSが相対的に少ないために粗大結晶となり物性が悪化する場合がある。
【0039】
前記(SSU含量)/(SUS含量)の重量比率は1未満であると、SSUに対してSUSが多くなり結晶速度が遅く経時的に物性変化が大きくなり好ましくない場合がある。
【0040】
上記記載のパーム系油脂を原料とし、上記記載のエステル交換方法及びエステル交換後の分別方法に従えば、多大な試行錯誤をすることなく前記分別液状部のトリグリセリド組成を得ることができる。
【0041】
前記油中水型乳化油脂組成物中の無脂乳固形分は、前記パン生地中の無脂乳固形分と同様であり、その含有量は、前記油中水型乳化油脂組成物全体中、乾燥重量で0.05〜3重量%が好ましく、0.1〜2.5重量%がより好ましく、0.3〜2重量%が更に好ましく、0.4〜1.5重量%が特に好ましい。前記無脂乳固形分の含有量が0.05重量%より少ないと豊かな乳風味とコクが感じられない場合があり、3重量%より多いと製造時に離水し安定的に生産することが困難となる場合がある。
【0042】
前記油中水型乳化油脂組成物中の穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料と昆布エキスは、前記パン生地中の発酵調味料及び昆布エキスと同様であり、その含有量(乾燥重量)は合計で、前記油中水型乳化油脂組成物全体中0.1〜5重量%が好ましく、0.2〜3.5重量%がより好ましく、0.3〜2.5重量%が更に好ましく、0.5〜1.5重量%が特に好ましい。前記発酵調味料及び昆布エキスの合計含有量が0.1重量%より少ないと、豊かな乳風味とコクを付与する効果が得られない場合があり、5重量%より多いと発酵調味料や昆布エキスの風味が感じられる場合がある。
【0043】
また、発酵調味料/昆布エキス(乾燥重量比)は95/5〜15/85が好ましく、90/10〜20/80がより好ましく、85/15〜40/60が更に好ましく、80/20〜55/45が特に好ましい。前記重量比が95/5より大きいと、後味の乳風味が弱く感じられる場合があり、15/85より小さいと、先味の乳風味が弱く感じられる場合がある。
【0044】
前記水分は、前記油中水型乳化油脂組成物中2〜55重量%が好ましく、3〜40重量%がより好ましく、4〜30重量%が更に好ましく、5〜20重量%が特に好ましい。水分の含有量が2重量%より少ないと豊かな乳風味とコクが弱く感じられる場合があり、55重量%より多いと乳化が不安定になって、製造時に離水し安定的に生産することが困難となる場合がある。
【0045】
本発明の油中水型乳化油脂組成物においては、前記記載の原材料の他に、必要に応じて、糖類、食塩、乳化剤、増粘剤、香料、酸化剤及び各種酵素などを添加することもできる。
【0046】
前記油中水型乳化油脂組成物のパン生地中の含有量はパンの種類により異なるが、一般的にはパン生地の穀粉100重量部に対して、2.1〜75重量部が好ましく、2.1〜60重量部がより好ましく、2.3〜50重量部が更に好ましく、2.5〜35重量部が特に好ましい。前記油中水型乳化油脂組成物の含有量が2.1重量部より少ないと、生地の伸展性が低下したり、豊かな乳風味とコクが感じられにくい場合があり、また75重量部より多いと、生地作製時にダレが生じたり、加熱調理後のパンから油のしみ出しが見られたり、食感が悪かったり、発酵調味料や昆布エキスの風味が感じられる場合がある。
【0047】
本発明のパン練り込み用油中水型乳化油脂組成物の製造方法は、通常の油中水型油脂組成物と同様の方法で実施でき、以下に例示する。まず、50〜80℃に加温溶解した油脂に油溶性原料を混合して油相部を得る。一方、50〜70℃の温水に、前記穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料、昆布エキス、無脂乳固形分などの水系原料を攪拌溶解して水相部を得る。前記油相部に前記水相部を添加し、予備乳化した乳化液を、急冷捏和装置にて捏和して、本発明の油中水型乳化油脂組成物を得る。なお、前記穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料及び昆布エキスは、油相部に添加し均一に分散させてから水相部と乳化しても構わないが、最初に水相部に添加してから油相部と乳化することで、より本発明の効果を享受することができる。
【0048】
本発明のパン生地の製造方法を以下に例示する。パン生地は、前記穀粉と、油脂、穀類及び/又は魚介類を原料とする発酵調味料、昆布エキス、無脂乳固形分、又は前記油中水型乳化油脂組成物、イースト、水及び必要に応じてその他の卵、糖類などを原料とし、ノータイム法、ストレート法、中種法、冷蔵中種法、冷凍生地製法など一般的な製パン工程を通じて調製する。原料の投入順序は何れでもよく、また各原料投入タイミングは、中種ミキシング時・本捏ね時の何れでもよく、公知の方法に準ずれば良い。
【0049】
本発明において、前記パン生地を通常の方法にて、加熱調理することで、容易に豊かな乳風味とコクを有するパンが得られる。本発明の生地を加熱調理したパンとしては、例えば、食パン、あんパンやクリームパン等の菓子パン、ロールパン、フランスパン等の堅焼きパン、バラエティブレッド、サンドイッチ等の調理パン、蒸しパン、またはそれらの二次加工品、或いはレンジ調理を必要とするもの等が挙げられる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0051】
<SSS含量及びSSUとSUSの合計含量の測定>
実施例・比較例における各トリグリセリド含量は、「AOCS Official Method Ce 5c−93」に準拠して、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いてODSカラムにより分析した。
【0052】
<SSU含量/SUS含量の重量比率の分析>
SSU含量/SUS含量の重量比率の分析は、HPLCを用いて硝酸銀カラムにより分析した。分析条件は、「Journal of the American Oil Chemists Society,68,289−293,1991」に記載の方法に基づいて実施した。
【0053】
<ヨウ素価の測定>
ヨウ素価は、「日本油化学会制定、基準油脂分析試験法2.3.4.1−1996」に従い測定した。
【0054】
<官能評価方法>
実施例・比較例で得られたパンの官能評価は、訓練された10名(男性5人、女性5人)のパネラーにより、以下の基準により実施し、それらの平均点を評価値とした。
(乳の風味)
5点:乳の風味が非常に強く、大変好ましい。
4点:乳の風味が強く、好ましい。
3点:乳の風味がやや強く、やや好ましい。
2点:乳の風味が弱く、もの足りない。
1点:乳の風味が感じられない。
(乳のコク)
5点:乳のコクが非常に強く、大変好ましい。
4点:乳のコクが強く、好ましい。
3点:乳のコクがやや強く、やや好ましい。
2点:乳のコクが弱く、もの足りない。
1点:乳のコクが感じられない。
【0055】
(製造例1) エステル交換油脂Aの作製
パーム核オレイン(ヨウ素価25、株式会社カネカ製)26重量部、パーム油(ヨウ素価52、株式会社カネカ製)69重量部、パームステアリン(ヨウ素価32.5、株式会社カネカ製)5重量部を混合し、90℃、真空下で脱水を行った。そこへナトリウムメチラート0.30重量部を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗した。次に、活性白土3.0重量部を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過してエステル交換油脂Aを得た。
【0056】
(製造例2) エステル交換油脂Bの作製
パーム核オレイン(ヨウ素価25、株式会社カネカ製)30重量部、パームステアリン(ヨウ素価32.5、株式会社カネカ製)47重量部、パーム油の極度硬化油(ヨウ素価1、株式会社カネカ製)23重量部を混合し、90℃、真空下で脱水を行った。そこへナトリウムメチラート0.30重量部を加え、90℃、窒素気流下で30分間ランダムエステル交換反応を行い、水を加えて反応停止後、水洗した。次に、活性白土3.0重量部を加え、減圧下で攪拌して20分後に全量濾過してエステル交換油脂Bを得た。
【0057】
(製造例3) パーム系油脂のエステル交換油の分別液状部の作製
脱酸処理されたパームステアリン(ヨウ素価35、株式会社カネカ製)100重量部を500Paの減圧下90℃に加熱し、0.2重量部のナトリウムメチラートを加えて30分攪拌してランダムエステル交換し、水洗した後、500Paの減圧下、90℃で2重量部の白土を加えて脱色した。脱色後の油脂を、70℃に加熱して完全に溶解し、46℃で攪拌しながら24時間晶析した。晶析後3.0MPaでフィルタープレスして液状部を得た。得られた液状部を240℃、200Paの条件で1時間脱臭してヨウ素価43のエステル交換分別油脂を得た。
【0058】
(製造例4) ショートニングの作製
エステル交換油A52.0重量部、エステル交換油B18.0重量部、パーム油5重量部、パームダブルオレイン(ヨウ素価60)25.0重量部を混合し、65℃で融解して油相部を調製し、急冷混捏してショートニングを100重量部得た。
【0059】
(実施例1)油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)の作製
表1に示す配合に従い、油中水型乳化油脂組成物を作製した。即ち、エステル交換油脂A、エステル交換油脂B、パーム油およびパームダブルオレイン(ヨウ素価60)を70℃に加温・融解したところに、レシチンおよびグリセリン脂肪酸エステルを混合して油相部を調製した。次に、60℃の温水に魚醤パウダー、昆布エキス及びバターミルクパウダーを撹拌混合して水相部を調製した。油相部に水相部を徐々に添加し、その後約60℃に温調し、プロペラミキサーにて攪拌混合し乳化液にした。その後、急冷捏和装置にて捏和して、出口温度を15℃としてマーガリンを得た。
【0060】
(実施例2〜4)油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)の作製
表1に示す配合に従い、魚醤パウダーの代わりに醤油、味噌又はオイスターソースを用い、水で全体量を調整した以外は実施例1と同様にしてマーガリンを得た。
【0061】
(比較例1,2)油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)の作製
表1に示す配合に従い、魚醤パウダーと昆布エキスの配合比を変更し、水で全体量を調整した以外は実施例1と同様にしてマーガリンを得た。
【0062】
【表1】
【0063】
(実施例5〜7、比較例3,4)油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)の作製
表2に示す配合に従い、魚醤パウダーと昆布エキスの配合量を変更し、水で全体量を調整した以外は実施例1と同様にしてマーガリンを得た。
【0064】
(実施例8)油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)の作製
表2に示す配合に従い、油脂として乳脂肪を加え、他の油脂の配合量を調整した以外は実施例1と同様にしてマーガリンを得た。
【0065】
(実施例9)油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)の作製
表2に示す配合に従い、エステル交換油脂B及びパーム油に代えてパーム系油脂のエステル交換油の分別液状部(製造例3)を用い、他の油脂の配合量を調整した以外は実施例1と同様にしてマーガリンを得た。
【0066】
(実施例10)油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)の作製
表2に示す配合に従い、エステル交換油脂B及びパーム油に代えてパーム系油脂のエステル交換油の分別液状部(製造例3)及び乳脂肪を用い、他の油脂の配合量を調整した以外は実施例1と同様にしてマーガリンを得た。
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例11)パン生地及びロールパンの作製
表3に示す配合に従い、ロールパンを作製した。即ち、強力粉、砂糖、食塩、イースト、イーストフード、脱脂粉乳、魚醤パウダー、昆布エキス、水をミキサーボウルに投入し、縦型ミキサー(関東混合機工業(株)製「カントーミキサー」)にフックを取り付け、低速で3分間、高速で3分間混捏した。続いて20℃に温調したショートニング(製造例4)を添加し、低速で3分間混捏後、高速で3分間混捏し、捏ね上げ温度27℃の生地を得た。得られた生地を28℃の恒温槽にて、60分間フロアータイムをとった後、60gずつの生地に分割した。分割後、28℃で20分間のベンチタイムをとり、モルダー((株)フジサワ製「FM−31Z」)にて生地を伸ばした後、カールして展圧し、棒状の成型物を得た。この成型物を天板の上に置き、温度:38℃、湿度:75%で60分間最終発酵を行った。最終発酵後、200℃のオーブンで9分間焼成し、ロールパンを得た。
【0069】
(実施例12,13、比較例5,6)パン生地及びロールパンの作製
表3に示す配合に従い、魚醤パウダー及び昆布エキスの配合量を変更した以外は実施例11と同様にしてパン生地を得、更にこれを焼成してロールパンを得た。
【0070】
(実施例14,15、比較例7,8)パン生地及びロールパンの作製
表3に示す配合に従い、魚醤パウダー及び昆布エキスの配合比率を変更した以外は実施例11と同様にしてパン生地を得、更にこれを焼成してロールパンを得た。
【0071】
実施例11〜15、比較例5〜8のロールパンの各種評価結果を表3に示す。
【0072】
【表3】
【0073】
表3から明らかなように、パン生地に発酵調味料と昆布エキスとを併用することで、焼成したパン(ロールパン)に豊かな乳風味とコクが付与される。しかし、その配合量や両者の配合比率が本発明の範囲を外れたり、いずれか一方のみの使用では、パン(ロールパン)の乳風味とコクが不足する。
【0074】
(実施例16,17)パン生地及びロールパンの作製
表4に示す配合に従い、脱脂粉乳の配合量を変更した以外は実施例12と同様にしてパン生地を得、更にこれを焼成してロールパンを得た。
【0075】
(実施例18)パン生地及びロールパンの作製
表4に示す配合に従い、脱脂粉乳に代えてバターミルクパウダーを用いた以外は実施例12と同様にしてパン生地を得、更にこれを焼成してロールパンを得た。
【0076】
(比較例9)パン生地及びロールパンの作製
表4に示す配合に従い、脱脂粉乳を配合しない以外は実施例12と同様にしてパン生地を得、更にこれを焼成してロールパンを得た。
【0077】
実施例16〜18、比較例9のロールパンの評価結果を表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4から明らかなように、無脂乳固形分を配合することで、パンに豊かな乳風味やコクが増強される。
【0080】
(実施例19〜22、比較例10、11)パン生地及びロールパンの作製
表5に示す配合に従い、ショートニングと魚醤パウダー及び昆布エキスに代えて、実施例1〜4又は比較例1,2の油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)を用いた以外は実施例18と同様にしてパン生地を得、更にこれを焼成してロールパンを得た。得られたロールパンの評価結果を表5に示す。
【0081】
【表5】
【0082】
表5から明らかなように、パン生地に発酵調味料と昆布エキスを油脂組成物(マーガリン)として添加することで、直接添加した場合に較べて焼成したロールパンに豊かな乳風味とコクが増強される。しかし、その場合でも両者の配合比率が本発明の範囲を外れると、ロールパンの乳風味とコクが不足する。また、発酵調味料のなかでは魚醤(実施例1)が豊かな乳風味とコクの点で好ましい。
【0083】
(実施例23〜25、比較例12,13)パン生地及びロールパンの作製
表6に示す配合に従い、実施例1の油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)に代えて、実施例5〜7又は比較例3,4の油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)を用いた以外は実施例19と同様にしてパン生地を得、更にこれを焼成してロールパンを得た。得られたロールパンの評価結果を表6に示す。
【0084】
【表6】
【0085】
表6から明らかなように、パン生地に発酵調味料と昆布エキスを油脂組成物(マーガリン)として添加することで、パンに豊かな乳風味とコクが付与される。しかし、両者の配合量が本発明の範囲を外れると、パンの乳風味とコクが不足する。
【0086】
(実施例26〜28)パン生地及びロールパンの作製
表7に示す配合に従い、実施例1の油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)に代えて、実施例8〜10の油中水型乳化油脂組成物(マーガリン)を用いた以外は実施例19と同様にしてパン生地を得、更にこれを焼成してロールパンを得た。得られたロールパンの評価結果を表7に示す。
【0087】
【表7】
【0088】
表7から明らかなように、パン生地に乳脂肪やパーム系油脂のエステル交換油の分別液状部を添加することで、パンの豊かな乳風味とコクが増強される。