(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、メタクリレートとアクリレートの総称であり、「(メタ)アクリロニトリル」とは、メタクリロニトリルとアクリロニトリルの総称であり、「(メタ)アクリルアミド」とは、メタクリルアミドとアクリルアミドの総称である。
【0011】
〔トナー用結着樹脂〕
本発明のトナー用結着樹脂(以下、「結着樹脂」ともいう。)は、ビニル系単量体(A)(以下、「(A)成分」ともいう。)と、多官能(メタ)アクリレート(B)(以下、「(B)成分」という。)からなる単量体混合物を共重合した共重合体からなる。
【0012】
<(A)成分>
(A)成分は、ビニル系単量体(A)である。
(A)成分としては、ビニル基を1つ有する、たとえばスチレン、o−、m−、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン等のスチレン類;ビニルナフタレン類;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレン等のエチレン系不飽和モノオレフィン類;塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル等のビニルエステル類;アクリル酸、メタクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−クロロエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性モノカルボン酸およびそのエステル類;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリルアミド等のエチレン性モノカルボン酸誘導体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテル等のビニルエーテル類;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル等のエチレン性ジカルボン酸およびその誘導体;ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン等のビニルケトン類;ビニリデンクロリド、ビニリデンクロロフルオリド等のビニリデンハロゲン化物;n−ビニルピロール、n−ビニルカルバゾール、n−ビニルインドール、n−ビニルピロリドン等のn−ビニル化合物類等が挙げられる。
(A)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0013】
これらの中では、スチレンおよびn−ブチルアクリレートの少なくとも一方が好ましく、スチレンとn−ブチルアクリレートとを併用することが好ましい。
【0014】
スチレンとn−ブチルアクリレートとを併用する場合、これらの合計を100質量%としたときに、スチレンの割合は65〜95質量%が好ましく、65〜90質量%がより好ましく、75〜85質量%がさらに好ましい。n−ブチルアクリレートの割合は5〜35質量%が好ましく、10〜35質量%がより好ましく、15〜25質量%がさらに好ましい。スチレンの割合が上記範囲の下限値以上であり、n−ブチルアクリレートの割合が上記範囲の上限値以下であると、得られる結着樹脂のガラス転移温度が低くなり過ぎない。そのため、得られたトナー粒子同士がブロッキングしにくく、保存安定性に優れる。一方、スチレンの割合が上記範囲の上限値以下であり、n−ブチルアクリレートの割合が上記範囲の下限値以上であると、得られる結着樹脂のガラス転移温度が高くなり過ぎない。そのため、トナーの低温での定着性に優れる。
【0015】
<(B)成分>
(B)成分は、多官能(メタ)アクリレートである。
多官能(メタ)アクリレートとは、1つの分子内に2つ以上のビニル基を含有する(メタ)アクリレートである。
ビニル基を2つ有する(メタ)アクリレートとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、デカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタデカエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタコンタヘプタエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレンジ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
ビニル基を3つ以上有する(メタ)アクリレートとしては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO(エチレンオキサイド)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
(B)成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
(B)成分を用いることにより、得られる結着樹脂は、架橋構造を有するものとなる。
【0016】
これらの中では、架橋の程度が適度であり、後述するトルエン不溶分が適度な範囲の結着樹脂が得られやすい点から、ビニル基を3つ以上有する(メタ)アクリレートを使用することが好ましく、なかでも、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびEO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートの少なくとも一方が好ましい。
【0017】
<(A)成分と(B)成分の質量比>
(A)成分と(B)成分との質量比[(A):(B)]は、98.5:1.5〜99.8:0.2((A):(B))の範囲である。このような範囲であれば、架橋の程度が適度であり、後述するように、トルエン不溶分の含有量が適度な範囲の結着樹脂が得られやすい。上記範囲よりも(B)成分の比率が小さいと、得られる結着樹脂は架橋が不十分となり、後述するトルエン不溶分が少なくなりやすい。一方、上記範囲よりも(B)成分の比率が大きいと、得られる結着樹脂は架橋の程度が過度となり、後述するトルエン不溶分が多くなりやすい。
【0018】
<トルエン不溶分>
本発明の結着樹脂は、共重合体100質量%中に、トルエン不溶分を5.0〜35.0質量%含む。共重合体のトルエン不溶分は、10〜30質量%が好ましい。
トルエン不溶分は、共重合体の架橋の程度の指標となり、トルエン不溶分が多いほど、架橋の程度が大きいことを意味する。
本発明の結着樹脂は、トルエン不溶分が上記範囲であって架橋の程度が適度な共重合体からなる。そのため、トナーの製造工程において、本発明の結着樹脂と、ワックス、着色剤、荷電制御剤等の他の成分とをたとえば150℃以上の高温で混練した場合でも、耐ホットオフセット性に優れ、粉砕性および定着性も良好なトナーを製造できる。
【0019】
トルエン不溶分が上記範囲の結着樹脂を用いると、たとえば150℃以上の高温で混練した場合でも、上記の特性に優れるトナーが得られる理由は、以下のように考えられる。
トルエン不溶分が上記範囲の上限値を超える共重合体は、架橋の程度が過度であるため、150℃以上の高温においても粘度が高い。よって、混練時には、共重合体に対して大きなせん断応力が加わり、分子鎖が切れたり、3次元網目構造が破壊されたりしやすい。その結果、高温での混練後に得られたトナーは、結着樹脂が低分子量化したものとなり、低温での定着性には優れるが、耐ホットオフセット性に劣るものとなる。
また、トルエン不溶分が上記範囲の下限値未満である共重合体は、架橋の程度が低いため、高温での混練時の粘度は低く、混練時に加わるせん断応力も小さい。そのため、分子鎖が切れたり、3次元網目構造が破壊されたりはしないが、元々の架橋の程度が低すぎるため、得られたトナーは耐ホットオフセット性に劣る。
【0020】
これに対して、トルエン不溶分が上記範囲である共重合体は、架橋の程度が適度であるため、150℃以上の高温において粘度はそれほど高くない。よって、混練時には、共重合体に対してせん断応力があまりかからず、そのため、分子鎖が切れたり、3次元網目構造が破壊されたりしにくい。すなわち、分子鎖や3次元網目構造を維持でき、これにより、耐ホットオフセット性や定着性が良好なトナーを製造できる。
【0021】
本明細書において、トルエン不溶分は、以下のように求めた値である。
試料1gと濾過助剤5gをトルエン60mlに加えた液を室温で3時間振とうさせた後、ろ過する。ろ紙上に残存した残渣分を135±5℃の乾燥機内で2時間乾燥させ、室温まで冷却した後の残渣分の質量W(g)を測定する。そして、下記式により求めた値がトルエン不溶分である。
トルエン不溶分(質量%)=(W−5)×100
【0022】
共重合体のトルエン不溶分を上記範囲に調整するためには、共重合する(A)成分と(B)成分との質量比[(A):(B)]を98.5:1.5〜99.8:0.2の範囲とすることに加えて、後述のように、重合温度、重合に使用する重合開始剤の量等の重合条件を適切に制御することが必要である。
【0023】
<分子量分布>
本発明の結着樹脂である共重合体は、ラボプラストミルにより170℃で10分間混練した後のテトラヒドロフラン可溶分をゲルパーミエーションクロマトグラフィで測定して得られる分子量分布曲線の最大ピークが、分子量4.0×10
3〜2.0×10
4の範囲に存在する。
上記分子量分布曲線の最大ピークが、上記範囲の下限値未満に存在すると、耐ホットオフセット性が低下する。一方、上記分子量分布曲線の最大ピークが、上記範囲の上限値を超えた範囲に存在すると、粉砕性および定着性が低下する。
最大ピークとは、分子量分布曲線の高さが最大となるピークを意味し、本発明の結着樹脂である共重合体は、分子量4.0×10
3〜2.0×10
4の範囲に存在する。
【0024】
共重合体の分子量分布曲線の最大ピークが、上記範囲に存在するように調整するためには、共重合する(A)成分と(B)成分との質量比[(A):(B)]を98.5:1.5〜99.8:0.2の範囲とすることに加えて、後述のように、重合温度と、重合に使用する重合開始剤の量等の重合条件を適切に制御することが必要である。また、後述のように、重合方法として懸濁重合法を採用することも分子量分布を制御しやすく好ましい。
【0025】
<共重合体の製造方法>
本発明の結着樹脂である共重合体は、(A)成分と(B)成分とを上述の質量比で含有する単量体混合物を共重合することにより得られる。
重合方法としては特に制限されないが、共重合体の分子量分布を所望の範囲となるように制御しやすいことから、懸濁重合が好ましい。
重合においては、上述のとおり、(A)成分と(B)成分とを上述の質量比としたうえで、重合温度と、重合に使用する重合開始剤の量を適切に制御する等して重合条件を制御することにより、トルエン不溶分が上記範囲内であって、かつ、分子量分布曲線の最大ピークが上記範囲に存在する共重合体を製造できる。
具体的には、重合温度は、130〜140℃が好ましい。そして、重合開始剤は、(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して、2.0〜18.0質量部が好ましい。このような条件で重合を行うことにより、トルエン不溶分が上記範囲内であって、かつ、分子量分布曲線の最大ピークが、上記範囲に存在する共重合体が得られやすい。重合温度が上記範囲の下限値以上であると、トルエン不溶分が大きくなり過ぎず、また、分子量分布曲線の最大ピークが、上記範囲に存在し、それよりも分子量の大きい範囲に最大ピークを有しにくくなる。重合温度が上記範囲の上限値以下であると、トルエン不溶分が小さくなり過ぎず、また、分子量分布曲線の最大ピークが、上記範囲に存在し、それよりも分子量の小さい範囲に最大ピークを有しにくくなる。
【0026】
懸濁重合では、ノニオン系分散剤を使用することが好ましい。具体的には、イオン交換水にノニオン系分散剤を加えた後、(A)成分と(B)成分からなる単量体混合物および重合開始剤を加え、撹拌しながら、上記の条件で重合を行い、共重合体の懸濁液を得る。重合時間は、たとえば0.5〜5時間である。また、必要に応じて、重合後にアルカリ水溶液を添加するなどして、懸濁液のpHを調整してもよい。
【0027】
ノニオン系分散剤としては、例えばポリビニルアルコール(PVA)、メチルセルロース、エチルセルロース、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド(PEO)などが挙げられる。これらの中でも、特にケン化度が80〜90%、重合度が1500〜5000のPVAが好ましい。
なお、このようなノニオン系分散剤を使用すると、アニオン系またはカチオン系分散剤を使用した場合に比べて、高い分散性を安定して得ることができる。
【0028】
重合開始剤としては特に限定されないが、例えば過酸化ベンゾイル(BPO)、t−ブチルパーベンゾエート等の過酸化物系開始剤;2,2−アゾビス(イソブチロニトリル)、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等のアゾ系開始剤などが挙げられる。
【0029】
<トナー>
本発明の結着樹脂は、電子写真法において静電荷像を現像するトナー用の結着樹脂として好適に使用される。
トナーは、通常、少なくとも本発明の結着樹脂と、ワックスと、着色剤と、荷電制御剤とを含有する。
【0030】
ワックスとしては、トナー用のワックスとして一般的に用いられるワックスを使用でき、例えばパラフィンワックス、フィッシャートロプシュワックス、カルナウバワックス、エステルワックスなどが挙げられる。これらワックス成分は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
トナー中のワックスの含有量は、本発明の結着樹脂100質量部に対して2〜20質量部が好ましく、4〜15質量部がより好ましい。
【0031】
着色剤としては特に制限されず、トナーの着色剤として一般的に用いられるものを使用できる。例えばカーボンブラック、ランプブラック、鉄黒、群青、ニグロシン染料、アニリンブルー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ハンザイエローG 、ローダミン6G 、カルコオイルブルー、クロムイエロー、キナクリドン、ベンジジンイエロー、ローズベンガル、トリアリールメタン系染料、モノアゾ系、ジスアゾ系染顔料などが挙げられる。これら着色剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
着色剤の含有量は、本発明の結着樹脂100質量部に対して、3〜10質量部が好ましく、5〜7質量部がより好ましい。
【0032】
荷電制御剤としては、トナーを正荷電トナーとして用いる場合は正荷電制御剤を用い、トナーを負荷電トナーとして用いる場合は負荷電制御剤を用いる。
正荷電制御剤としては、トナーを正荷電性に制御できるものであれば特に制限されず、トナー用の正荷電制御剤として一般的に用いられる荷電制御剤を使用できる。たとえば、ニグロシンおよび脂肪酸金属塩によるニグロシンの変性物、四級アンモニウム塩および四級アンモニウム塩基を含む高分子体、ホスホニウム塩およびホスホニウム塩基を含む高分子体、トリフェニルメタン染料およびこれらのレーキ顔料、高級脂肪酸の金属塩、ジオルガノスズオキサイド、ジオルガノスズボレート等が挙げられる。これら正荷電制御剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
負荷電制御剤としては、トナーを負荷電性に制御できるものであれば特に制限されず、トナー用の負荷電制御剤として一般的に用いられる荷電制御剤を使用できる。たとえば、モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族ハイドロキシカルボン酸、芳香族ダイカルボン酸系の金属化合物などが挙げられる。これら負荷電制御剤は1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
トナー中の荷電制御剤の含有量は、本発明の結着樹脂100質量部に対して0.1〜7質量部が好ましく、1〜5質量部がより好ましい。
【0033】
トナーは、本発明の効果を妨げない範囲内であれば、必要に応じて本発明の結着樹脂以外の結着樹脂(他の結着樹脂)、添加剤を含有していてもよい。
他の結着樹脂としては、トナー用の結着樹脂として一般的に用いられる樹脂を使用でき、例えばポリエステル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シクロオレフィン樹脂などが挙げられる。これら他の結着樹脂は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
トナー中の他の結着樹脂の含有量は、本発明の結着樹脂100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましい。
【0034】
添加剤としては、ステアリン酸亜鉛等の滑剤;酸化セリウム、炭化ケイ素等の研磨剤;酸化アルミニウム等の流動性付与剤;ケーキング防止剤;カーボンブラック、酸化スズ等の導電性付与剤等が挙げられる。
【0035】
さらに、トナーには必要に応じて適宜磁性粉が添加され、磁性トナーとされてもよい。
また、トナーは、流動性、保存安定性を確保する目的で、コロイダルシリカ、疎水性シリカなどの外添剤により表面処理されてもよい。外添剤の添加量はトナー100質量部に対して0.1〜5質量部であることが好ましい。
【0036】
トナーの平均粒子径は3〜20μmであることが好ましい。平均粒子径が上記範囲内であれば、帯電性がさらに優れ、キャリアと撹拌混合した際にもスペント化しにくいトナーとすることができる。
ここで「平均粒子径」とは、体積基準のメジアン径のことであり、具体的にはレーザ回折式粒度分布測定装置を用いて測定した値である。なお、トナーが外添剤で表面処理されている場合は、表面処理される前の状態のトナーの粒子径を測定する。
【0037】
トナーは、たとえば以下の製造方法により製造できる。
まず、本発明の結着樹脂と、ワックスと、着色剤と、荷電制御剤と、必要に応じて他の結着樹脂、添加剤、磁性粉とを含むトナー原料混合物を混合機にて充分に混合した後、熱混練機中で混練する。ついで、これを冷却固化し、混練物を得る。ついで、該混練物を粉砕機で粉砕し、得られた粉砕物を分級し、所定の平均粒子径の粒子を回収して、トナーを得る。さらに、必要に応じて得られたトナーに外添剤を添加してトナーを表面処理する。
混合機としては、たとえばヘンシェルミキサー、ボールミルなどが挙げられる。熱混練機としては、たとえば加熱ロール、ニーダー、エクストルーダーなどが挙げられる。粉砕機としては、たとえばハンマーミル、ジェットミルなどが挙げられる。
【0038】
本発明の結着樹脂は、上述のとおり、150℃以上の高温でワックス、着色剤、荷電制御剤等の他の成分とともに混練した場合でも、得られた混練物は粉砕性に優れ、所定の粒径まで容易に粉砕できる。また、得られたトナーは、耐ホットオフセット性および定着性に優れる。そのため、本発明の結着樹脂を用いてトナーを製造する場合には、トナー原料混合物を150℃以上で混練することが好ましく、150〜250℃で混練することがより好ましい。混練温度が250℃を超えると、たとえば結着樹脂、ワックス等が分解する等して、得られるトナーの性能が低下する可能性がある。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、例中「部」とは「質量部」を、「%」とは「質量%」を示す。
尚、実施例1〜5、実施例8は参考例である。
【0040】
「実施例1」
<結着樹脂の製造>
イオン交換水200部にノニオン系分散剤(株式会社クラレ製、「PVA235」)0.2部を加えた後、表1に示す部数の(A)成分および(B)成分からなる単量体混合物と、重合開始剤(過酸化ベンゾイル)とを加え、撹拌しながら表1に示す重合温度で2時間保持して懸濁重合を行い、共重合体の懸濁液を得た。
得られた懸濁液を30℃まで冷却し、遠心脱水機で脱水し、50℃、24時間の条件で乾燥させて、結着樹脂を得た。
得られた結着樹脂について、下記の方法で分子量分布とトルエン不溶分を測定した。結果を表1に示す。分子量分布については、表1に、最大ピークの位置に対応する分子量を記載した。また、
図1に分子量分布のグラフ(分子量分布曲線)を示す。
図1のグラフにおいて、横軸は分子量Mの対数であり、縦軸は分子量Mの分子の質量分率である。
【0041】
<トナーの製造>
得られた結着樹脂100部と、天然ガス系フィッシャートロプシュワックス(Shell MDS社製、「SX−105」)5部と、着色剤(三菱化学株式会社製、「カーボンブラックMA−100)5部と、荷電制御剤(藤倉化成株式会社製、「FCA−1001−NS」)5部とを小型粉砕機で混合し、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製、容量100mL、回転数70回転)により170℃で10分間混練した。その後、30℃まで冷却して混練物を得た。混練物をラボジェットミル(日本ニューマチック工業株式会社製)で粉砕した。
このときの粉砕性を下記の方法にて評価した。
また、得られた粉砕物を風力分級機(日本ニューマチック工業株式会社製)で分級し、平均粒子径6〜10μmのトナーを得た。そして、該トナーについて、下記の方法にて、定着性および耐ホットオフセット性を評価した。結果を表1に示す。
【0042】
<測定・評価>
(1)結着樹脂の分子量分布の測定
結着樹脂を、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製、容量60mL、回転数70回転)により170℃で10分間混練した後、室温のテトラヒドロフランに溶解させ、可溶分の分子量分布をGPC(検出器として昭和電工株式会社製の「Shodex RI−71」、カラムとして昭和電工株式会社製の「Shodex A−806M」を使用)で測定した。テトラヒドロフランは10ml、これに加える結着樹脂の質量は10mgとした。
【0043】
(2)結着樹脂のトルエン不溶分の測定
試料1gと濾過助剤(昭和化学工業(株)製ケイソウ土、ラジオライト#700)5gをトルエン60mlに加えた液を室温で3時間振とうさせた後、ろ過した。ろ紙上に残存した残渣分を135±5℃の乾燥機内で2時間乾燥させ、室温まで冷却した後の残渣分の質量W(g)を測定した。そして、下記式によりトルエン不溶分を求めた。
トルエン不溶分(質量%)=(W−5)×100
【0044】
(3)粉砕性の評価
混練物をラボジェットミルで粉砕した粉砕物について、レーザ回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製)により平均粒子径を測定した。そして、以下の評価基準にて粉砕性を評価した。
〇:平均粒子径10μm以下の場合。
×:平均粒子径10μm超の場合。
【0045】
(4)トナーの耐ホットオフセット性の評価
株式会社東芝製の市販の複写機を、定着ロールの温度を適宜変更できるように改造し、定着機とした。該定着機を使用して、A4サイズの上質紙上にID濃度0.9〜1.1程度になるよう調整した均一な画像を形成し、種々の温度(5℃間隔)で定着させた。定着後の文字が定着ロールに残り、オフセットし始める最低温度により、耐ホットオフセット性を以下の基準で評価した。
○:最低温度が200℃以上である場合。
×:最低温度が200℃未満である場合。
【0046】
(5)トナーの定着性の評価
(4)と同様の定着機を使用して、A4サイズの上質紙上にID濃度0.6〜0.8程度になるよう調整した均一な画像を形成し、種々の温度(5℃間隔)で定着させた。その後、得られた定着画像に対して、堅牢度試験機を使用して、荷重1.0kgで5往復の綿擦り試験を行った。綿擦り試験後の試験前に対するID残存率を求め、定着率とした。そして、定着率が90%以上となる最低温度により、定着性を以下の基準で評価した。
〇:最低温度が140℃以下の場合。
×:最低温度が140℃超の場合。
【0047】
「実施例2〜8、比較例1〜5」
表1および表2に示す部数の(A)成分および(B)成分からなる単量体混合物と、重合開始剤(過酸化ベンゾイル)とを加え、表1に示す重合温度で重合を行った以外は、実施例1と同様にして以降の工程を行い、同様の測定および評価を行った。結果を表1および表2に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
なお、トリメチロールプロパントリアクリレートとしては、共栄社化学株式会社製、「ライトアクリレートTMP−A」を用い、EO変性トリメチロールプロパントリアクリレートとしては、共栄社化学株式会社製、「ライトアクリレートTMP−3EO−A」を用いた。
【0051】
表1に示すように、各実施例では、混練物の粉砕性、トナーの耐ホットオフセット性および定着性がいずれも良好であった。
これに対して、比較例1は、使用した(B)成分の量が少なく結着樹脂のトルエン不溶分が少なかった。そのため、架橋が不充分で、トナーの耐ホットオフセット性が低下したものと考えられる。
比較例2は、使用した(B)成分が多く結着樹脂のトルエン不溶分が過剰であった。そのため、該結着樹脂は、粘度が大きく、トナー製造の際の混練時に大きなせん断応力を受けて低分子量化し、耐ホットオフセット性が低下したものと考えられる。
比較例3は、使用した重合開始剤の量が多く、結着樹脂の分子量分布曲線の最大ピークが低分子量側に存在していたため、耐ホットオフセット性が低下したものと考えられる。
比較例4は、使用した重合開始剤の量が少なく、結着樹脂の分子量分布曲線の最大ピークが高分子量側に存在していたため、定着性と粉砕性が低下したものと考えられる。
比較例5は、使用した(B)成分が非常に多く、結着樹脂のトルエン不溶分が非常に多かった。このようにトルエン不溶分が非常に多いと、結着樹脂の凝集力が強く、混練時に大きなせん断力を受けても、低分子量化しにくいものと考えられる。そのため、耐ホットオフセット性には優れていたが、定着性には劣った。また、該結着樹脂は、トルエン不溶分が非常に多く硬いため、粉砕性が悪かった。
【0052】
「参考例」
上記実施例1の<トナーの製造>におけるラボプラストミルでの混練温度を150℃とする点のみ変更し、トナーを製造した。得られたトナーについて上記と同じ方法で定着性と耐ホットオフセット性とを評価した結果、いずれも良好であった。
一方、上記実施例1の<トナーの製造>におけるラボプラストミルでの混練温度を90℃とする点のみ変更し、トナーを製造した。得られたトナーについて上記と同じ方法で定着性と耐ホットオフセット性とを評価した結果、定着性は良好であったが、耐ホットオフセット性が低下する傾向にあった。これは、混練温度が90℃と低いために、結着樹脂の粘度が高い状態で混練がなされることになり、結着樹脂には大きなせん断応力が加わる。そのため、分子鎖が切れたり、3次元網目構造が破壊されたりし、混練後に得られたトナーは、結着樹脂が低分子量化したものとなる。そのため、定着性には優れるが、耐ホットオフセット性が低下する傾向にあるものと考えられる。