(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507795
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】電圧周波数変換形A/D変換器
(51)【国際特許分類】
H03M 1/60 20060101AFI20190422BHJP
【FI】
H03M1/60
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-70663(P2015-70663)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-192629(P2016-192629A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大島 明浩
【審査官】
工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】
特開平2−248118(JP,A)
【文献】
特開2013−147020(JP,A)
【文献】
実開平5−50838(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M1/60
H04N1/04−1/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力電圧に基づく電荷と帰還ループを介して帰還される電荷とが平衡するように注入される平衡コンデンサを備え、前記平衡コンデンサに注入された電荷の平衡状態における入力電圧に比例した周波数を有するパルス列をカウントしてデジタル的に積分するように構成され、
起動時に前記平衡コンデンサを急速充電する高速起動手段を設けた電圧周波数変換形A/D変換器において、
前記入力電圧として、定電流源と抵抗と温度センサとして機能するダイオードとの直列回路における前記定電流源と前記抵抗との接続点の電位を用い、
前記高速起動手段は、前記平衡コンデンサの電位と、前記抵抗と前記ダイオードとの接続点の電位とを比較するコンパレータを有することを特徴とする電圧周波数変換形A/D変換器。
【請求項2】
前記高速起動手段は、ASICで構成されることを特徴とする請求項1記載の電圧周波数変換形A/D変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧周波数変換形A/D変換器に関し、詳しくは、起動時間の短縮に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高精度・高確度のA/D変換器として、電圧周波数変換形A/D変換器が用いられている。
【0003】
電圧周波数変換形A/D変換器のアプリケーションは、動作原理上、DC〜10Hz程度の低周波計測に限られるが、単純な構成でありながら16〜18bit程度の精度/確度が得られることから、たとえば差圧・圧力伝送器のダイオード温度センサのA/D変換器などに用いられる。
【0004】
差圧・圧力伝送器において、圧力を高精度/高確度で計測するためには、測定データの温度補償を行うために、温度も同時に計測する必要がある。温度信号はDC〜0.1Hz程度の低周波信号であり、温度測定データを用いて圧力測定データに対する温度補償を行うことにより、電圧周波数変換形A/D変換器でも十分な精度/確度が得られる。
【0005】
図4は、従来の電圧周波数変換形A/D変換器の一例を示す構成説明図である。
図4において、コンパレータCMPの非反転入力端子には、入力電圧Vinを出力する入力電圧源ISが接続されている。コンパレータCMPの反転入力端子には、基準電流Irefを出力する基準電流源CSと切換スイッチSWが直列接続されるとともに、平衡コンデンサとして機能するコンデンサCbと抵抗Rrefとの並列回路を介して共通電位点に接続されている。
【0006】
切換スイッチSWのL接点は共通電位点に接続され、H接点はコンパレータCMPの反転入力端子に接続されている。切換スイッチSWの可動接点は、ゲートGの出力信号により切換駆動される。なお、
図4では、ゲートGとしてノアゲートNORを用いている。
【0007】
コンパレータCMPの出力端子は、インバータINVを介してD型フリップフロップD−FFのD端子に接続されている。
【0008】
D型フリップフロップD−FFのクロック端子には所定のクロック信号CLKを出力するクロック源CLSが接続され、Q端子はゲートGの一方の入力端子に接続されている。ゲートGの他方の入力端子にはクロック源CLSが接続されている。
【0009】
ゲートGの出力端子はカウンタCOUに接続されている。
【0010】
このような構成の動作を、
図5のタイミングチャートを用いて説明する。
5−1)電源VDDの投入前はコンデンサCbには電荷が充電されていないので、
図5(c)に示すコンパレータCMPの反転入力端子の入力信号VCBの電圧は0Vである。
5−2)電源VDDが投入されると、
図5(b)に示すように入力信号源ISからアナログ入力信号Vinが出力される。入力信号源ISがたとえばダイオード温度センサであれば、温度にもよるが、アナログ入力信号Vinとして0.6V程度のDC信号が入力されることになる。ここでは、Vin=0.6Vの信号が入力されたと仮定する。
【0011】
5−3)この状態では、VCB<Vinであることから、
図5(d)に示すコンパレータCMPの出力信号CMPOは「H」レベルになり、
図5(e)に示すD型フリップフロップD−FFのD端子に入力される信号Dは「L」レベルになり、
図5(f)に示すD型フリップフロップD−FFのQ端子からゲートGの一方の入力端子に出力される信号Qも「L」レベルになる。
【0012】
これにより、
図5(g)に示すゲートGの出力信号GOとしては、
図5(a)に示すクロックCLKと逆位相の信号が出力されることになる。
5−4)ゲートGの出力信号GOが「H」レベルのとき、基準電流源CSを介してコンデンサCbが充電される。このとき、コンパレータCMPの反転入力端子の入力信号VCBの電位変化ΔV
H[V]は、(1)式で表される。
【0013】
【0014】
ゲートGの出力信号GOが「L」レベルのとき、コンデンサCbに充電された電荷は、リファレンス抵抗Rrefを介して放電される。このとき、コンパレータCMPの反転入力端子の入力信号VCBの電位変化ΔV
L[V]は、(2)式で表される。
【0015】
【0016】
(1)、(2)式は、時間T
CLK/2[sec]後の電位変化を表している。
【0017】
5−5)(1)、(2)式の大小関係から明らかなように、Iref*Rref>2VCBかつVCB<Vin=0.6Vの間は、VCBの電位は徐々に上がっていく。
【0018】
5−6)VCB>Vin=0.6Vになった時、コンパレータCMPの出力信号CMPOは「L」レベル、D型フリップフロップD−FFのD端子に入力される信号Dは「H」レベル、D型フリップフロップD−FFのQ端子からゲートGの一方の入力端子に出力される信号Qは「H」レベルになる。したがって、ゲートGの出力信号GOは「L」レベルになるので、(2)式にしたがい、コンパレータCMPの反転入力端子の入力信号VCBの電位が下がっていく。
【0019】
5−7)5−3)〜5−6)の動作を繰り返して、定常的には、VCB=Vin=0.6Vに制御される。このような動作は、チャージバランス(電荷平衡)と呼ばれる。コンパレータCMPの反転入力端子の入力信号VCBを高い電位に保つためには、切換スイッチSWの可動接点が固定接点「H」側に切り換えられる回数を増やす必要があり、逆にVCBを低い電位に保つためには、切換スイッチSWの可動接点が固定接点「H」側に切り換えられる回数を少なくする必要がある。
【0020】
これにより、VCB=Vinになった時のゲートGの出力信号GOの立上り回数をカウントすることで、A/D変換器として機能する。なお、ゲートGの出力信号GOの周波数fTS[Hz]は、2Vin<Iref*Rrefのとき、(3)式で表される。
【0021】
【0022】
特許文献1には、温度変化に影響されにくく、かつ安価に構成できるアナログ電圧デジタル変換器の技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】実開平5−50838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
しかし、従来の構成によれば、正確なA/D変換値を得るためには、基準電流源CSを介してチャージバランス容量Cbを充電するのにあたり、VCB=Vinとなるまでの起動時間が必要になる。
【0025】
電池駆動の無線機器などでは、回路を間欠的に動作させて電力の消費を小さくしていることから、この起動時間はできるだけ短縮することが望ましい。
【0026】
起動時間を短縮するには、
a)チャージバランス容量Cbを小さくする
b)基準電流源CSから生成出力される基準電流Irefを大きくする
の二つの方法があるが、精度/確度との兼ね合いもあり、起動時間だけを考慮して、これらの値を決めることはできない。
【0027】
本発明は、このような課題を解決するものであり、その目的は、起動時間を短縮できる電圧周波数変換形A/D変換器を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0028】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
入力電圧に基づく電荷と帰還ループを介して帰還される電荷とが平衡するように注入される平衡コンデンサを備え、前記平衡コンデンサに注入された電荷の平衡状態における入力電圧に比例した周波数を有するパルス列をカウントしてデジタル的に積分するように構成され
、起動時に前記平衡コンデンサを急速充電する高速起動手段を設けた
電圧周波数変換形A/D変換器において、
前記入力電圧として、定電流源と抵抗と温度センサとして機能するダイオードとの直列回路における前記定電流源と前記抵抗との接続点の電位を用い、前記高速起動手段は、前記平衡コンデンサの電位と、前記抵抗と前記ダイオードとの接続点の電位とを比較するコンパレータを有することを特徴とする。
【0029】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電圧周波数変換形A/D変換器において、
前記高速起動手段は、ASICで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
これらにより、短時間で起動できる電圧周波数変換形A/D変換器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図2】
図1の動作を説明するタイミングチャートである。
【
図3】本発明の他の実施例を示す構成説明図である。
【
図4】従来の電圧周波数変換形A/D変換器の一例を示す構成説明図である。
【
図5】
図4の動作を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例を示す構成説明図であり、
図4と共通する部分には同一の符号を付けている。
【0034】
図1において、電圧周波数変換形A/D変換器としての基本的な動作原理は、
図4に示した従来の電圧周波数変換形A/D変換器と同じであるが、起動時間を短縮するために、起動時にコンデンサCbを高速に充電する高速起動回路FSUを設けた点を特徴としている。
【0035】
高速起動回路FSUを構成するコンパレータCMP’の反転入力端子は、切換スイッチSW’のH接点と、コンパレータCMPの反転入力端子と、コンデンサCbと抵抗Rrefの並列回路の一端と、切換スイッチSWのH接点に接続されている。
【0036】
コンパレータCMP’の非反転入力端子は、抵抗R1を介して共通電位点に接続されるとともに、抵抗R2を介してコンパレータCMPの非反転入力端子に接続されている。
【0037】
コンパレータCMP’の出力信号は、切換スイッチSW’の可動接点を切換駆動する駆動信号として切換スイッチSW’に入力されている。
【0038】
スイッチSW’のL接点は電源VDDのラインに直接接続され、可動接点は抵抗Rcを介して電源VDDのラインに接続されている。
【0039】
図1のように構成される電圧周波数変換形A/D変換器としての基本的な動作は
図4の従来構成と同じなので、
図2のタイミングチャートを用いて高速起動回路FSUの動作について説明する。
【0040】
2−1)
図2(a)に示す電源VDDを投入する前は、コンデンサCbには電荷は充電されておらず、
図2(c)に示すコンパレータCMP’の反転入力端子の入力信号電圧VCBは0Vである。
2−2)電源VDDが投入されると、入力信号源Vinから信号が入力される。入力信号源Vinがたとえばダイオード温度センサであれば、温度にもよるが、Vin=0.6V程度のDC信号が入力されることになる。ここでは、
図5と同様に、Vin=0.6Vの信号が入力されたと仮定する。
【0041】
2−3)入力信号源Vinからの信号は、コンパレータCMPの非反転入力端子に入力されるとともに、抵抗R1とR2からなる分圧回路にも入力される。ここで、R1とR2の抵抗値が、R1:R2=5:1で表されると仮定すると、高速起動回路FSUを構成するコンパレータCMP’の非反転入力端子の電位VDIVは、
VDIV=Vin*R1/(R1+R2)=0.5V
となる。
【0042】
2−4)VDIV=0.5V、VCB=0Vより、
図2(b)に示すコンパレータCMP’の出力信号CMPO’は「H」になる。
2−5)コンパレータCMP’の出力信号CMPO’が「H」になることにより切換スイッチSW’の可動接点は固定接点「H」側に切り換えられ、コンデンサCbと電源VDDが抵抗Rcを介して接続される。これにより、コンデンサCbが充電され、コンパレータCMPの反転入力端子の入力信号電圧VCBの電位は急速に上がる。
【0043】
2−6)コンデンサCbがVCB>0.5Vまで充電された時点で、VCB>VDIV=0.5Vより、コンパレータCMP’の出力信号CMPO’が「L」レベルになる。これより、抵抗Rcを介した電源VDDによるコンデンサCbの充電が止まる。
【0044】
ここまでの動作でコンデンサCbは0.5Vまで急速に充電されることになり、この時点で、
0.5V<VCB<0.6V、VCB>Vin=0.6V
となる。
【0045】
2−7)これ以降の動作は、前述の5−3)〜5−7)と同じ動作になる。なお、2−6)までの動作から明らかなように、R1/(R1+R2)を大きくすることで、起動時間をより大幅に短縮することができる。
【0046】
ただし、あまり大きくしてしまうと、定常状態においても高速起動回路FSUが動作してしまうというリスクがある。したがって、R1/(R1+R2)の値は、前述の(1)、(2)式で表される電位変化を考慮して適切な値になるように設計することが望ましい。
【0047】
このように高速起動回路FSUを設けて起動時間を短くすることで、より正確なA/D変換値を得るまでの時間を短縮できる。
【0048】
ところで、
図1の構成では、入力信号源Vinと抵抗R1とR2からなる抵抗分圧回路が、並列接続された構成になっている。この結果、入力信号源Vinの出力インピーダンスが高い場合には、抵抗分圧回路と並列接続されていることで、コンパレータCMPの非反転入力の電位が下がってしまうことになる。
【0049】
これを防ぐためには、
(a)入力信号源VinとR1とR2からなる抵抗分圧回路の間にバッファを追加する
(b)R1とR2からなる抵抗分圧回路の抵抗値を大きい値に設定する
などの方法が考えられる。
【0050】
ところが、(a)の方法は、消費電力の増加や回路規模の増大を招くことから避けることが望ましい。
【0051】
(b)の方法についても、抵抗分圧回路をASIC内の抵抗で作ることを考えると、高抵抗は大きな面積を必要とすることから避けたい。
【0052】
これらを考慮すると、ダイオード温度センサ用途のA/D変換器に限られるが、
図3のように構成することが考えられる。
【0053】
図3は本発明の他の実施例を示す構成説明図であり、
図1と共通する部分には同一の符号を付けている。
図1と
図3の相違点は、コンパレータCMPの非反転入力端子の入力系統にある。
【0054】
すなわち、
図3の構成では、
図1の入力信号源ISに代えて、定電流源CCSと抵抗Rdと温度センサとして機能するダイオードDとの直列回路を接続し、定電流源CCSと抵抗Rdとの接続点をコンパレータCMPの非反転入力端子に接続し、抵抗RdとダイオードDとの接続点をコンパレータCMP’の非反転入力端子に接続している。
【0055】
図3の構成におけるアナログ入力信号Vinは、
Vin=Rd*Id+VDI
となる。
【0056】
したがって、VCB<VDIの間は、高速起動回路FSUが動作することによって、コンデンサCbを急速に充電することができ、起動時間を短縮できる。
【0057】
起動時間は、Rd*Idを小さくすることで短縮できる。ただし、あまり小さくすると
図1の場合と同様に定常状態においても高速起動回路FSUが動作してしまうというリスクがあるので、Rd*Idの値は、前述の(1)、(2)式で表される電位変化を考慮して適切な値になるように設計することが望ましい。
【0058】
なお、
図3の構成の場合、A/D変換出力にRd*Id分の電圧がオフセットとして乗ることになるが、Rd*Idが温度に依らず一定であれば、オフセット電圧分は実用上無視できるレベルといえる。
【0059】
以上説明したように、本発明によれば、起動時間を短縮できる電圧周波数変換形A/D変換器を実現できる。
【符号の説明】
【0060】
CMP、CMP’ コンパレータ
D−FF D型フリップフロップ
Cb コンデンサ(平衡コンデンサ)
Rref、Rc、Rd 抵抗
CS 基準電流源
CCS 基準電流源
D ダイオード(温度センサ)
SW、SW’ 切換スイッチ