特許第6507914号(P6507914)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6507914-ガラス繊維の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6507914
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】ガラス繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 37/075 20060101AFI20190422BHJP
   C03B 37/08 20060101ALI20190422BHJP
   D01D 4/02 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   C03B37/075 Z
   C03B37/08
   D01D4/02
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-152223(P2015-152223)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-31003(P2017-31003A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年5月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】辻本 知
【審査官】 松本 瞳
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−089433(JP,A)
【文献】 特開昭62−162007(JP,A)
【文献】 特開2003−201141(JP,A)
【文献】 特開昭62−252337(JP,A)
【文献】 特開2016−023116(JP,A)
【文献】 米国特許第05895715(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/00−37/16
D01D 1/00−13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブッシング内の溶融ガラスを前記ブッシングの底部に形成されたノズルから引き出して中空部を有するガラス繊維を製造するガラス繊維の製造方法であって、
前記ブッシングの底部を陽極として構成するとともに、前記ブッシング内に陰極を配置し、前記陽極と前記陰極との間に直流電圧を印加し、
前記ブッシング内の溶融ガラス中の成分を電気分解することで発生させた泡を前記溶融ガラスとともに前記ノズル内に流入させることにより、前記中空部を形成することを特徴とするガラス繊維の製造方法。
【請求項2】
前記ブッシングの底部から前記泡を発生させることを特徴とする請求項1に記載のガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空部を有するガラス繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
中空部を有するガラス繊維は、樹脂材料の補強材として用いると軽量化を図ることができるという利点がある。この種のガラス繊維は、特許文献1の段落[0003]に記載されるように、ノズルの外管と内管との間の環状部分に溶融ガラスを通過させるとともに、内管を通じる空気を溶融ガラスに供給して紡糸することで製造される。また、特許文献2には、ノズルの側部から空気を流入する構成が開示されている。さらに、特許文献3には、ノズル(紡糸口金)から引き出される溶融ガラスに外気を自然吸引させることで、中空部を有するガラス繊維を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−010442号公報
【特許文献2】特開2003−201141号公報
【特許文献3】特開2003−267747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中空部を有するガラス繊維の製造では、中空部を形成するための気体をノズル内に供給する流路構造が複雑になり易く、例えば、そうした流路構造が破損し易い。すなわち、中空部を有するガラス繊維の製造において、ノズル内への気体の供給について未だ改善の余地がある。
【0005】
本発明の目的は、中空部を有するガラス繊維の製造において、中空部を形成するための気体をノズル内に容易に供給することのできるガラス繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するガラス繊維の製造方法は、ブッシング内の溶融ガラスを前記ブッシングの底部に形成されたノズルから引き出して中空部を有するガラス繊維を製造するガラス繊維の製造方法であって、前記ブッシングの底部を陽極として構成するとともに、前記ブッシング内に陰極を配置し、前記陽極と前記陰極との間に直流電圧を印加し、前記ブッシング内の溶融ガラス中の成分を電気分解することで発生させた泡を前記溶融ガラスとともに前記ノズル内に流入させることにより、前記中空部を形成する。
【0007】
この方法によれば、外部からブッシングのノズル内に気体を導く流路構造を省略することができる。また、ブッシング内にブッシングとは別部材の陽極を配置することを回避することができる。
上記ガラス繊維の製造方法において、前記ブッシングの底部から前記泡を発生させることが好ましい。
【0009】
上記方法によれば、ノズルを有する底部(陽極)から泡を発生させることで、ノズル内に泡を効率よく流入させることができる
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中空部を有するガラス繊維の製造において、中空部を形成するための気体をノズル内に容易に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】(a)は、本実施形態のガラス繊維の製造装置を示す概略断面図であり、(b)は、ノズル内に泡が流入される状態を示す模式図である。
図2】(a)及び(b)は、中空部を有するガラス繊維を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、ガラス繊維の製造方法及びガラス繊維の製造装置の実施形態について図面を参照して説明する。なお、図面では、説明の便宜上、構成の一部を誇張して示す場合がある。また、各部分の寸法比率についても、実際と異なる場合がある。まず、ガラス繊維の製造装置について説明する。
【0016】
図1(a)に示すように、ガラス繊維GFの製造装置11は、ブッシング12と、ブッシング12内の溶融ガラスMGに直流電圧を印加する電極(陽極13及び陰極14)とを備えている。こうしたガラス繊維GFの製造装置11は、電極に接続される直流電源15を備えている。
【0017】
ガラス繊維GFの製造装置11におけるブッシング12は、側壁部12aと底部12bとを有している。底部12b(ブッシングプレート)には、複数のノズルNが形成されている。ブッシング12には、図示を省略したガラス溶融炉を用いて調製された溶融ガラスMGが供給される。
【0018】
図1(b)に示すように、各ノズルNの有する流路は、上下に延在する柱状であり、下方へ溶融ガラスMGが引き出されることでガラス繊維GFが紡糸される。ノズルNの内径(流路径)は、例えば、0.50mm以上、2.00mm以下の範囲に設定される。
【0019】
図1(a)及び図1(b)に示すように、ガラス繊維GFの製造装置11における電極は、ブッシング12の底部12bにより構成される陽極13と、ブッシング12内に配置される陰極14とを有している。陰極14は、ブッシング12内において底部12bの上方に配置されている。陰極14は、例えば、ブッシング12の上方からブッシング12内に挿入される。なお、陰極14の形状は、棒状であってもよいし、板状であってもよい。陰極14は、ブッシング12の底部12bに沿って延在する部分を有することが好ましい。
【0020】
陽極13と陰極14との電極間距離Dは、例えば、2mm以上、50mm以下の範囲に設定される。ガラス繊維GFの製造装置11における陽極13(ブッシング12)及び陰極14は、白金製又は白金合金製であることが好ましい。
【0021】
ガラス繊維GFの製造装置11は、ブッシング12内の溶融ガラスMGを加熱するための交流電源16をさらに備え、この交流電源16によりブッシング12(側壁部12a)を通電加熱することができるように構成されている。なお、ガラス繊維GFの製造装置11は、図示を省略するが、ガラス繊維GFを一定の速度で引き取る引取装置を備えている。引取装置は、ガラス繊維GFを巻き取る巻取装置として構成してもよい。また、ガラス繊維GFの製造装置11は、ガラス繊維GFを冷却する冷却装置を備えていてもよい。
【0022】
次に、ガラス繊維GFの製造方法について主な作用とともに説明する。
図1(a)及び図1(b)に示すように、ガラス繊維GFの製造方法は、ブッシング12内の溶融ガラスMGをブッシング12の底部12bに形成されたノズルNから引き出して中空部を有するガラス繊維GFを製造する方法である。ガラス繊維GFの製造方法では、ブッシング12内の溶融ガラスMG中の成分を電気分解することで発生させた泡Bを、図1(b)に破線矢印で示すように溶融ガラスMGとともにノズルN内に流入させることにより、ガラス繊維GFに中空部を形成する。この方法によれば、外部からブッシング12のノズルN内に気体を導く流路構造を省略することができる。
【0023】
本実施形態におけるガラス繊維GFの製造方法では、ブッシング12の底部12bから上記の電気分解により泡Bを発生させる。換言すると、本実施形態におけるガラス繊維GFの製造方法では、ブッシング12の底部12bを陽極13として構成するとともに、ブッシング12内に陰極14を配置し、陽極13と陰極14との間に直流電圧を印加する。この方法の場合、ノズルNを有する底部12b(陽極13)から泡Bを発生させることで、ノズルN内に泡Bを効率よく流入させることができる。また、ブッシング12内にブッシング12とは別部材の陽極13を配置することを回避することができる。
【0024】
上記電気分解における直流電圧(直流電源15)は、溶融ガラスMG中の成分の電気分解により発生する泡Bを増加させるという観点から、0.4V以上であることが好ましい。また、この直流電圧は、電極の損傷を抑えるという観点から、2V以下であることが好ましい。この直流電圧値は、直流電源装置の実測値である。
【0025】
上記電気分解における直流電流(直流電源15)は、溶融ガラスMG中の成分の電気分解により発生する泡Bを増加させるという観点から、5A以上であることが好ましい。また、この直流電流は、電極の損傷を抑えるという観点から、35A以下であることが好ましい。この直流電圧値は、直流電源装置の実測値である。
【0026】
ここで、溶融ガラスMG中の成分の電気分解について説明する。溶融ガラスMG中には、例えば、酸素(酸素イオン又は酸素を含む化合物)が含まれる。この場合、電気分解中の陽極13では、下記式(1)で示される酸化反応により酸素ガスが発生する。
【0027】
2−→1/2O+2e…(1)
すなわち、溶融ガラスMG中の成分の電気分解により発生する泡Bは、例えば、酸素ガスにより形成されている。なお、電気分解により発生するガスは、溶融ガラスMG中の成分のうち、陽極13で酸化反応する成分(化合物)に基づくため、上記の泡Bには、酸素ガス以外のガスが含有される場合もある。
【0028】
なお、上述したブッシング12内の溶融ガラスMGを加熱するための交流電圧(交流電源16)は、例えば、1V以上、5V以下の範囲に設定されるとともに、交流電流(交流電源16)は、2000A以上、4000A以下に設定される。なお、交流電源16を用いた抵抗加熱では、溶融ガラスMG中の成分は実質的に電気分解されない。
【0029】
次に、ガラス繊維GFについて説明する。
図2(a)及び図2(b)に示すように、ガラス繊維GFの製造装置11により製造されるガラス繊維GFは、中空部Hを有している。ガラス繊維GFの中空部Hは、図2(a)に示すように、ガラス繊維GFの長さ方向に沿って連続した中空部Hであってもよいし、図2(b)に示すように、ガラス繊維GFの長さ方向において離間した複数の中空部Hであってもよい。このようなガラス繊維GFの中空部Hの態様は、例えば、上記電気分解における直流電圧を制御することで、溶融ガラスMG中の泡Bの生成量を調整することにより、変更することができる。ガラス繊維GFの径方向における中空部Hの寸法は、例えば、ガラス繊維GFの直径の0.1%以上、70%以下の範囲である。なお、ガラス繊維GFの直径(繊維径)は、例えば、3μm以上、30μm以下の範囲である。
【0030】
ガラス繊維GFは、例えば、所定の長さに切断したカット繊維として用いることができる。こうしたカット繊維は、樹脂材料と混合することで樹脂材料の補強材として用いることができる。なお、カット繊維の端面(切断面)は、中空部Hの開口を有していてもよいし、カット繊維を加熱することで前記開口を封止してもよい。
【0031】
このように中空部Hを有するガラス繊維GF(カット繊維)と、樹脂材料と複合することで、低誘電率の複合材料を提供することが可能である。カット繊維と樹脂材料とを含有する複合材料の用途としては、例えば、回路基板用途等の電子機器用途が挙げられる。なお、ガラス繊維GFを所定の長さに切断したカット繊維は、例えば、コンクリート、モルタル等の無機系材料に混合して建築用途に用いてもよい。
【0032】
以上詳述した実施形態によれば、次のような作用効果が発揮される。
(1)ガラス繊維GFの製造方法は、ブッシング12内の溶融ガラスMGをブッシング12の底部12bに形成されたノズルNから引き出して中空部Hを有するガラス繊維GFを製造する方法である。ガラス繊維GFの製造方法では、ブッシング12内の溶融ガラスMG中の成分を電気分解することで発生させた泡Bを溶融ガラスMGとともにノズルN内に流入させることにより、ガラス繊維GFに中空部Hを形成している。
【0033】
この方法によれば、外部からブッシング12のノズルN内に気体を導く流路構造を省略することができる。従って、中空部Hを有するガラス繊維GFの製造において、中空部Hを形成するための気体をノズルN内に容易に供給することができる。
【0034】
また、例えば、ノズルNの構造の複雑化は、ノズルNの損傷を招き易く、設備コストを増大させる要因となる。本実施形態では、ブッシング12のノズルNとしては、中空部を有しない中実のガラス繊維を製造するノズルと同等のノズルN(気体のみを流通する流路を省略したノズルN)を用いることができる。つまり、外管と内管とを有する二重構造のような複雑な形状のノズルを用いずに、中空部Hを有するガラス繊維GFを製造することが可能である。このようにノズルNの構造について複雑化を回避することが可能となるため、ノズルNの複雑化を要因とした設備コストの増大を回避することが可能となる。
【0035】
(2)ガラス繊維GFの製造方法において、ブッシング12の底部12bから上記の泡Bを発生させることが好ましい。換言すると、ガラス繊維GFの製造方法において、ブッシング12の底部12bを陽極13として構成するとともに、ブッシング12内に陰極14を配置し、陽極13と陰極14との間に直流電圧を印加することが好ましい。
【0036】
この場合、ノズルNを有する底部12b(陽極13)から泡Bを発生させることで、ノズルN内に泡Bを効率よく流入させることができる。従って、中空部Hを有するガラス繊維GFの製造効率を高めることが可能となる。また、ブッシング12内にブッシング12とは別部材の陽極13を配置することを回避することができるため、ブッシング12内の構造を簡素化することができる。
【0037】
(3)ガラス繊維GFの製造装置11は、溶融ガラスMGが引き出されるノズルNを底部12bに有するブッシング12と、ブッシング12内の溶融ガラスMGに直流電圧を印加する電極とを備えている。この構成によれば、上記(1)欄で述べた作用効果と同様の作用効果が得られる。
【0038】
(4)ガラス繊維GFの製造装置11における電極は、ブッシング12の底部12bにより構成される陽極13と、ブッシング12内に配置される陰極14とを有している。この場合、上記(2)欄で述べた作用効果と同様の作用効果が得られる。
【0039】
(5)ガラス繊維GFの製造装置11における陰極14は、ブッシング12の上方からブッシング12内に配置することができるため、陰極14と直流電源15との接続経路をブッシング12の側壁部12aを貫通するように設けることを回避することができる。従って、例えば、中空部を有しない中実のガラス繊維を製造するブッシングと同様の構成を有するブッシングを用いることが可能である。
【0040】
(6)ガラス繊維GFの製造装置11における陰極14は、ブッシング12の底部12bに沿って延在する部分を有することで、ブッシング12内において複数のノズルNやそれらノズルNの近傍から上記泡Bを発生させることができる。これにより、複数のノズルN内に泡Bを効率よく流入させることができる。従って、複数のノズルNを用いて中空部Hを有するガラス繊維GFを効率よく製造することが可能である。
【0041】
(変更例)
上記実施形態を次のように変更して構成してもよい。なお、以下では、ガラス繊維GFの製造装置11の変更例について説明するが、ガラス繊維GFの製造方法においても同様に変更することができる。
【0042】
・ガラス繊維GFの製造装置11では、ブッシング12の底部12bから上記の泡Bを発生させている。すなわち、ブッシング12の底部12bを陽極13として構成しているが、ブッシング12内のノズルN近傍に別途陽極を配置し、その陽極を用いて上記の泡Bを発生させてもよい。
【0043】
・ガラス繊維GFの製造装置11は、交流電源16を備え、ブッシング12を通電加熱しているが、例えば、バーナー等を用いてブッシング12を加熱してもよい。なお、ブッシング12に供給される溶融ガラスMGの温度が紡糸に適した温度に維持できれば、ブッシング12の加熱を省略してもよい。
【0044】
・ガラス繊維GFの製造装置11において、ノズルNの数は、特に限定されず、単数であってもよい。また、ノズルNに形成された流路の断面形状は、円形状であるが、例えば、楕円形状や多角形状等の異形断面形状に変更することもできる。
【0045】
・ガラス繊維GFの製造装置11において、ブッシング12内を気体で加圧することでノズルNから吐出される溶融ガラスMGの吐出量を調整してもよい。また、ガラス繊維GFの製造装置11において、ブッシング12への溶融ガラスMGの供給は、連続式でもよいし、バッチ式でもよい。
【符号の説明】
【0046】
11…ガラス繊維の製造装置、12…ブッシング、12b…底部、13…陽極、14…陰極、B…泡、N…ノズル、MG…溶融ガラス、GF…ガラス繊維、H…中空部。
図1
図2