(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本願明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、セルロース等の繊維の質量に関する値は、特に記載した場合を除き、絶乾質量(固形分)に基づく。「A及び/又はB」は、特に記載した場合を除き、AとBの少なくとも一方であることを指し、Aのみであってもよく、Bのみであってもよく、AとBとの双方であってもよいことを意味する。
【0015】
(微細繊維状セルロース含有組成物)
本発明の組成物は、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物と、(B)非セルロース粉粒物を含む。この組成物中の水分含有量は、組成物の全質量に対して2〜94質量%であり、(B)非セルロース粉粒物の含有量は、組成物の全質量に対して0.1〜12質量%である。なお、本願明細書において、上記の組成物は、微細繊維状セルロース含有組成物ということもある。
【0016】
本発明の組成物は、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物と、(B)非セルロース粉粒物を含み、かつ各要素の含有量を所定の範囲内とすることにより、優れた流動性を有する。さらに本発明の組成物は、水等への分散媒への再分散性に優れている。このような効果は、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物の周りに、(B)非セルロース粉粒物が存在することにより、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物自体の流動性が良化することにより得られるものと考えられる。また、組成物中には、一定量の水分が含有されており、かつ(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物が細粒化されているため、再分散性に優れているものと考えられる。
【0017】
本発明の組成物は、粉粒物である。すなわち、本発明の組成物は粉状及び/又は粒状の物質からなる。ここで、粉状物質は、粒状物質よりも小さいものをいう。一般的には、粉状物質は粒子径が1nm以上0.1mm未満の微粒子をいい、粒状物質は、粒子径が0.1〜10mmの粒子をいうが、特に限定されない。
本願明細書における粉粒物の粒子径はレーザー回折法を用いて測定・算出することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(Microtrac3300EXII、日機装株式会社)を用いて測定した値とする。
【0018】
本発明の組成物における微細繊維状セルロースの含有量は、組成物の全質量に対して5質量%より多いことが好ましい。微細繊維状セルロースの含有量は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、組成物の流動性と再分散性をより効果的に高めることができる。また、微細繊維状セルロースの含有量を上記範囲とすることにより、微細繊維状セルロースが有する特性が発揮されやすくなる。
【0019】
組成物中の水分含有量は、組成物の全質量に対して2〜94質量%であればよい。水分含有量は、5〜92質量%であることが好ましく、10〜90質量%であることがより好ましく、15〜80質量%であることがさらに好ましく、20〜80質量%であることが特に好ましい。水分含有量を上記範囲内とすることにより、組成物の流動性と再分散性をより効果的に高めることができる。
【0020】
組成物中の(B)非セルロース粉粒物の含有量は、組成物の全質量に対して0.1〜12質量%であればよい。(B)非セルロース粉粒物の含有量は、0.4〜12質量%であることが好ましく、1〜12質量%であることがより好ましく、3〜10質量%であることがさらに好ましい。(B)非セルロース粉粒物の含有量を上記範囲内とすることにより、組成物中の粒子の大きさ(累積中位径)を所望の範囲に制御することができ、静電気の発生等を抑制することができる。これにより、組成物の流動性を効果的に高めることができる。また、(B)非セルロース粉粒物の含有量を上記範囲内とすることにより、組成物の乾燥状態を所望の状態に制御することができるため、再分散性を効果的に高めることができる。
【0021】
組成物中の微細繊維状セルロースと非セルロース粉粒物の配合比(質量比)は、1:1〜200:1であることが好ましい。微細繊維状セルロースと非セルロース粉粒物の配合比(質量比)を上記範囲内とすることにより、組成物の流動性と再分散性をより効果的に高めることができる。
【0022】
組成物の累積中位径は、100〜1350μmであることが好ましく、200〜1300μmであることがより好ましく、500〜1200μmであることがさらに好ましい。
組成物中には、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物の1粒子又は複数粒子の周りに、(B)非セルロース粉粒物の1粒子又は複数粒子が存在し、一体となった粒体(粉粒体)が存在する。また、組成物中には、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物の1粒子又は複数粒子、(B)非セルロース粉粒物の1粒子又は複数粒子が単独でも存在する。すなわち、組成物の累積中位径は、組成物中に存在する全種の粒子(粉粒体)の合計累積中位径である。
組成物の累積中位径を上記上限値以下とすることにより、組成物中に含まれる粒子の表面積を適切な範囲とし、水等の分散媒との接触面積を大きくすることができ、再分散性を高めることができる。組成物の累積中位径を上記下限値以上とすることにより、粉舞を抑制することができ、流動性を良化させることができる。また、組成物の累積中位径を上記下限値以上とすることにより、組成物中の粒子同士が意図しない凝集をすることを抑制することができ、流動性及び再分散性を高めることができる。
【0023】
組成物の累積中位径は、レーザー回折法を用いて測定・算出することができる。具体的には、レーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(Microtrac3300EXII、日
機装株式会社)を用いて粒子径を測定する。次いで、組成物集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブが50%となる点の粒子径を算出する。
【0024】
組成物の安息角は、4〜50°であることが好ましく、5〜45°であることがより好ましく、5〜40°であることがさらに好ましく、10〜40°であることが特に好ましい。安息角は、組成物の流動性に関与するパラメーターである。安息角は小さい方が組成物の流動性(フィード性)は高まる傾向にあるが、安息角が小さい場合であっても組成物中に微細粒子が多量に存在する場合は、粉舞が生じるため流動性(フィード性)は悪化する。すなわち、組成物の安息角は上記範囲内であることが好ましく、これにより、効果的に組成物の流動性を高めることができる。
【0025】
組成物の安息角は、安息角測定器(アズワン)を用いて測定する。具体的には、安息角測定器のシュートに100ml分の組成物を仕込み、シュート口を開いて組成物を下部に落下させる。そして、落下後の組成物の斜面と水平面のなす角度を測定し、組成物の安息角とする。
【0026】
組成物の嵩密度は、0.1〜0.7g/mlであることが好ましく、0.2〜0.7g/mlであることがより好ましく、0.2〜0.5g/mlであることがさらに好ましい。嵩密度は大きい程、組成物を構成する粒子の粒径は小さい傾向にある。このため、水等の分散媒との接触面積を大きくすることができ、再分散性が高まる。一方で、嵩密度が大きすぎると、組成物中の粒子同士が意図しない凝集を起こすことがあり、好ましくない。また、嵩密度が小さすぎると、粒子の形状が不均一になり、粒径が大きくなる傾向があるため、流動性(フィード性)が悪化する。すなわち、組成物の嵩密度は上記範囲内であることが好ましく、これにより、効果的に組成物の流動性を高めることができる。
【0027】
組成物の嵩密度は、安息角測定器(アズワン)を用いて測定する。具体的には、安息角測定器のシュートに100ml分の組成物を仕込み、シュート口を開いて組成物を下部に落下させ、下に設置した容器(満杯容積∨=50ml)に盛りきり充填する。次に、盛りきり組成物の盛り上がり部分を水平カットし、容積を満杯にする。容器に残存する組成物の質量を秤量し、下記の計算式より嵩密度(g/ml)を算出する。
嵩密度(g/ml)=粉末の質量(g)/粉末の体積(ml)
【0028】
なお、安息角を小さくするためや、嵩密度を大きくするために、組成物中の水分含有量をより低減させることも考えられる。しかし、組成物中の水分含有量が低すぎると、組成物の再分散性が悪化する傾向があり好ましくない。
また、安息角を小さくするためや、嵩密度を大きくするために、組成物中の(B)非セルロース粉粒物の添加量を増やすことも考えられる。しかし、非セルロース粉粒物の添加量が多すぎると、(B)非セルロース粉粒物の粉舞が起こるため、流動性(フィード性)が悪化する傾向にあり好ましくない。また、(B)非セルロース粉粒物の添加量を増やした場合は、多量の非セルロース粉粒物により再分散液の粘度が高まり、再分散が困難になる。
すなわち、本発明では、安息角、累積中位径、嵩密度及び水分含有量等の各要素の配合割合、これら全てのバランスがよいことが重要である。
【0029】
((A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物)
本発明の組成物は、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物を含む。
【0030】
(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物中に含まれる微細繊維状セルロースの濃度は、(A)粒状物の全質量に対して、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20%質量%以上であることがさらに好ましい。また、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物中に含まれる水分含有量は、(A)粒状物の全質量に対して、2〜94質量%であることが好ましく、10〜90質量%であることがより好ましく、15〜80質量%であることがさらに好ましく、20〜80質量%であることが特に好ましい
【0031】
<微細繊維状セルロース>
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
【0032】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2〜1000nm、より好ましくは2〜100nmであり、より好ましくは2〜50nmであり、さらに好ましくは2〜10nmであるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。
【0033】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による平均繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0034】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0035】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0036】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1〜1000μmが好ましく、0.1〜800μmがさらに好ましく、0.1〜600μmが特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0037】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0038】
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0039】
<化学的処理>
微細繊維状セルロースは、セルロース原料を解繊処理することによって得られる。また、本発明では、解繊処理前にセルロース原料に化学的処理を施し微細繊維状セルロースにイオン性置換基を付加することが好ましい。イオン性置換基はアニオン基であることが好ましく、アニオン基としては、リン酸基、カルボキシル基及びスルホン基から選択される少なくとも1種の置換基を挙げることができる。中でも微細繊維状セルロースは、リン酸基を有することが好ましい。
【0040】
本発明で使用する微細繊維状セルロースは、イオン性置換基を0.1〜3.5mmol/g有することが好ましい。上述したようなイオン性置換基を上記割合で有する微細繊維状セルロースは、静電反発効果により超微細化することができる点で好ましい。またイオン性置換基を有する微細繊維状セルロースは、静電反発効果により水中で凝集せず、安定する点においても好ましい。
【0041】
<化学的処理一般>
セルロース原料の化学的処理の方法は、微細繊維を得ることができる方法である限り特に限定されない。化学的処理としては、例えば、酸処理、オゾン処理、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシルラジカル)酸化処理、酵素処理、またはセルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理などが挙げられる。なお、本発明で用いる微細繊維状セルロースはリン酸基又はカルボキシル基を有することが好ましい。このため、化学的処理の方法としては、リン酸基又はカルボキシル基を有する化合物及び/又はその塩による処理を行うことが好ましい。
【0042】
酸処理の一例としては、Otto van den Berg; Jeffrey R. Capadona; Christoph Weder;
Biomacromolecules 2007, 8, 1353-1357.に記載されている方法を挙げることができる。具体的には、硫酸や塩酸等により微細繊維状セルロースを加水分解処理する。高濃度の酸処理により製造されるものは、非結晶領域がほとんど分解されており、繊維の短いもの(セルロースナノクリスタルとも呼ばれる)になるが、これらも微細繊維状セルロースに含まれる。
【0043】
オゾン処理の一例としては、特開2010−254726号公報に記載されている方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維をオゾン処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系懸濁液を粉砕処理する。
【0044】
TEMPO酸化の一例としては、Saito T & al. Homogeneous suspensions of individualized microfibrils from TEMPO-catalyzed oxidation of native cellulose. Biomacromolecules 2006, 7 (6), 1687-91に記載されている方法を挙げることができる。具体的には、繊維をTEMPO酸化処理した後、水に分散し、得られた繊維の水系懸濁液を粉砕処理する。
【0045】
酵素処理の一例としては、WO2013/176033号公報(WO2013/176033号公報に記載の内容は全て本願明細書中に引用されるものとする)に記載の方法を挙げることができるが、特に限定されない。具体的には、繊維原料を、少なくとも酵素のEG活性とCBHI活性の比が0.06以上の条件下で、酵素で処理する方法である。
【0046】
セルロースまたは繊維原料中の官能基と共有結合を形成し得る化合物による処理としては、国際公開WO2013/073652(PCT/JP2012/079743)に記載されている「構造中にリン原子を含有するオキソ酸、ポリオキソ酸またはそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物」を使用する方法を挙げることができる。
【0047】
<アニオン性置換基導入>
微細繊維状セルロースはアニオン基を有することが好ましい。中でも、アニオン基は、リン酸基(リン酸エステル基ということもある)、カルボキシル基及びスルホン基から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
【0048】
<置換基の導入量>
イオン性置換基の導入量は特に限定されないが、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1〜3.5mmol/gであることが好ましく、0.14〜2.5mmol/gがより好ましく、0.2〜2.0mmol/gがさらに好ましく、0.2〜1.8mmol/gが特に好ましい。イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、イオン性置換基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースのスラリーの粘度を適切な範囲に調整することができる。
【0049】
<リン酸基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースはリン酸エステル基などのリン酸由来の置換基(単にリン酸基ということもある。)を有していることが好ましい。
【0050】
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩(以下、「化合物A」という。)を反応させることにより行うことができる。この反応は、尿素及び/又はその誘導体(以下、「化合物B」という。)の存在下で行ってもよく、これにより、微細繊維状セルロースのヒドロキシル基に、リン酸基を導入することができる。
【0051】
リン酸基導入工程は、セルロースにリン酸基を導入する工程を必ず含み、所望により、後述するアルカリ処理工程、余剰の試薬を洗浄する工程などを包含してもよい。
【0052】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物Aおよび化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0053】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及び/又はその塩である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0054】
これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0055】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3〜7がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0056】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料に対するリン原子の添加量は0.5〜100質量%が好ましく、1〜50質量%がより好ましく、2〜30質量%が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を下記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0057】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素、ベンゾレイン尿素、ヒダントインなどが挙げられる。この中でも低コストで扱いやすく、ヒドロキシル基を有する繊維原料と水素結合を作りやすいことから尿素が好ましい。
【0058】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料に対する化合物Bの添加量は1〜300質量%であることが好ましい。
【0059】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0060】
<リン酸基の導入量>
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1〜3.5mmol/gであることが好ましく、0.14〜2.5mmol/gがより好ましく、0.2〜2.0mmol/gがさらに好ましく、0.2〜1.8mmol/gよりさらに好ましく、0.4〜1.8mmol/gが特に好ましく、最も好ましくは0.6〜1.8mmol/gである。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースのスラリーの粘度を適切な範囲に調整することができる。
【0061】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0062】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、
図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。
【0063】
<カルボキシル基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、上述した<リン酸基導入工程>において、カルボン酸由来の基を有する化合物を用いることで、カルボキシル基を導入することができる。
【0064】
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等のトリカルボン酸化合物が挙げられる。
【0065】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0066】
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0067】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0068】
上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。
【0069】
<カチオン性置換基導入>
本実施形態においては、イオン性置換基としてカチオン性置換基が微細繊維状セルロースに導入されていてもよい。例えば繊維原料にカチオン化剤およびアルカリ化合物を添加して反応させることにより、繊維原料にカチオン性置換基を導入することができる。
カチオン化剤としては、4級アンモニウム基を有し、かつセルロースのヒドロキシル基と反応する基を有するものを用いることができる。セルロースのヒドロキシル基と反応する基としては、エポキシ基、ハロヒドリンの構造を有する官能基、ビニル基、ハロゲン基等が挙げられる。カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルトリアルキルアンモニウムハライド或いはそのハロヒドリン型の化合物が挙げられる。
アルカリ化合物は、カチオン化反応の促進に寄与するものである。アルカリ化合物は、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩などの無機アルカリ化合物であってもよいし、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物およびその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等の有機アルカリ化合物であってもよい。カチオン性置換基の導入量の測定は、たとえば元素分析等を用いて行うことができる。
【0070】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、置換基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行うことができる。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0071】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5〜80℃が好ましく、10〜60℃がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5〜30分間が好ましく、10〜20分間がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100〜100000質量%であることが好ましく、1000〜10000質量%であることがより好ましい。
【0072】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0073】
<解繊処理>
イオン性置換基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0074】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0075】
本発明では、微細繊維状セルロースを濃縮、乾燥させた後に解繊処理を行ってもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、およびWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、濃縮した微細繊維状セルロースをシート化してもよい。該シートを粉砕して解繊処理を行うこともできる。
【0076】
微細繊維状セルロースを粉砕する際に粉砕に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
【0077】
<その他の成分>
(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物は、微細繊維状セルロースと水分の他に他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、水溶性高分子や界面活性剤を挙げることができる。水溶性高分子としては、合成水溶性高分子(例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリアクリルアミドなど)、増粘多糖類(例えば、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、ペクチンなど)、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒロドキシエチルセルロースなど)、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロース等のデンプン類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類等、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を使用することができる。
【0078】
((B)非セルロース粉粒物)
本発明の組成物は、(B)非セルロース粉粒物を含む。非セルロース粉粒物は、非セルロース粉粒物の全質量に対してセルロースを1質量%以下含む粉粒物であり、好ましくは、セルロースの含有量が0質量%の粉粒物である。
非セルロース粉粒物は粉状及び/又は粒状の物質からなる。ここで、粉状物質は、粒状物質よりも小さいものをいい、粒子径が1nm以上0.1mm未満の微粒子をいう。また、粒状物質は、粒子径が0.1〜10mmの粒子をいう。なお、粒子径は、「(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物」の項目で記載した方法と同様の方法で算出することができる。
【0079】
中でも、(B)非セルロース粉粒物は粉状物質であることが好ましい。(B)非セルロース粉粒物としては、例えば、無機微粒子や有機微粒子を挙げることができる。
無機微粒子としては、金属、ガラス繊維、岩石成分、無機化合物、化学合成により製造された成分等からなる微粒子が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、ゼオライト、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、カオリン、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、カーボンブラック、ケイ酸アルミニウム、ケイソウ土、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、アルミナ水和物、アルミノシリケート、ベーマイト、擬ベーマイト、酸化鉄などが挙げられる。
有機微粒子としては、樹脂、天然物由来の成分、糖類、化学合成により製造された成分等からなる微粒子が挙げられるがこれらに限定されない。例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリシロキサン、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、キチン、キトサン、デキストリン、オリゴ糖、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリン、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトール、乳酸菌、カゼインなどの微粒子を挙げることができる。
上述した微粒子は単独で用いることが好ましいが、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0080】
(B)非セルロース粉粒物の一次平均粒子径は、3〜2000nmであることが好ましく、5〜500nmであることがより好ましく、5〜50nmであることがさらに好ましい。また、(B)非セルロース粉粒物のBET法による比表面積は、20〜500m
2/gであることが好ましく、30〜400m
2/gであることがより好ましく、50〜300m
2/gであることがさらに好ましい。(B)非セルロース粉粒物の一次平均粒子径や比表面積を上記範囲内とすることにより、組成物の流動性をより効果的に高めることができる。
【0081】
本発明では、(B)非セルロース粉粒物としては無機微粒子を用いることが好ましく、疎水性無機微粒子を用いることがより好ましい。本発明では、疎水性無機微粒子は、炭素原子の含有量が1.0質量%以上の微粒子であることが好ましく、疎水基を有する無機微粒子であることがより好ましい。疎水性無機微粒子中の炭素原子の含有量は1.5〜10質量%以上であることが好ましく、1.5〜7質量%以上であることがより好ましい。
また、疎水基としては、極性基を有さない炭化水素基を有する基等を挙げることができる。炭化水素基を有する基としては、例えば、アルキル基やフェニル基を挙げることができる。また、炭化水素基を有する基としては、アルキルシリル基やシロキサン結合を有する基等も例示することができる。アルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基等を挙げることができる。また、シロキサン結合を有する基としては、ジメチルポリシロキサン基等を挙げることができる。
【0082】
中でも、(B)非セルロース粉粒物はシリカ微粒子であることが好ましく、疎水性シリカ微粒子であることがより好ましい。疎水性シリカ微粒子は、疎水基を有するシリカ微粒子であることが好ましく、疎水基としては上述したような基を挙げることができる。中でも、トリメチルシリル基を有するシリカ微粒子や、ジメチルポリシロキサン基を有するシリカ微粒子を用いることが好ましい。
【0083】
無機微粒子に表面処理剤を用いて表面処理を行うことで、疎水性を付与してもよい。好ましい表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリル化剤、フッ化アルキル基を有するシランカップリング剤、有機チタネート系カップリング剤、アルミニウム系のカップリング剤、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル等を挙げることができる。
【0084】
(その他の成分)
本発明の組成物は、さらに吸湿剤などを含有してもよい。吸湿剤としては、例えば、シリカゲル、ゼオライト、アルミナ、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、水溶性酢酸セルロース、ポリエチレングリコール、セピオライト、酸化カルシウム、ケイソウ土、活性炭、活性白土、ホワイトカーボン、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、第二リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム及び吸水性ポリマー等が挙げられる。
【0085】
また、本発明の組成物は、さらに他の成分を含有してもよい。他の成分としては、水溶性高分子や界面活性剤を挙げることができる。水溶性高分子としては、合成水溶性高分子(例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルアルコール、メタクリル酸アルキル・アクリル酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、イソプレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリアクリルアミドなど)、増粘多糖類(例えば、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、クインスシード、アルギン酸、プルラン、カラギーナン、ペクチンなど)、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒロドキシエチルセルロースなど)、カチオン化デンプン、生デンプン、酸化デンプン、エーテル化デンプン、エステル化デンプン、アミロース等のデンプン類、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン類等、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸の金属塩等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤を使用することができる。
【0086】
(組成物の製造方法)
本発明は、微細繊維状セルロースのスラリーを得る工程と、微細繊維状セルロースを含むスラリーを濃縮し、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物(濃縮物)を得る工程と、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物(濃縮物)と(B)非セルロース粉粒物を混合する工程と、を含む組成物の製造方法に関するものである。
【0087】
微細繊維状セルロースのスラリーを得る工程は、上述したような化学的処理工程と解繊処理工程を含むことが好ましい。必要に応じて、化学的処理と解繊処理工程の間にアルカリ処理工程等のその他の工程を設けてもよい。
【0088】
微細繊維状セルロースを含むスラリーを濃縮し、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物(濃縮物)を得る工程(以下、濃縮工程ともいう)は、微細繊維状セルロースのスラリー中の水分の一部を除いて濃縮物を得る工程である。この工程では、濃縮物に水分の一部は残留するため、濃縮物には、水分と微細繊維状セルロースが含有される。
【0089】
濃縮工程では、微細繊維状セルロースのスラリーに濃縮剤を添加して、ゲル化を行う工程であることが好ましい。濃縮剤としては、酸、アルカリ、多価金属の塩、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン性高分子凝集剤、アニオン性高分子凝集剤などが挙げられる。中でも、濃縮剤は多価金属の塩であることが好ましい。多価金属の塩としては、例えば、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、ポリ塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化アルミニウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム等を挙げることができる。
【0090】
濃縮工程では、濃縮剤を添加した後に濾過処理を行うことが好ましい。濾過処理工程は圧縮工程を含むことが好ましい。このような圧縮工程を設けることにより、濃縮物中の水分の含有量を好ましい範囲に調節することができる。
【0091】
濾過処理工程で使用する濾材は特に限定されないが、ステンレス製、濾紙、ポリプロピレン製、ナイロン製、ポリエチレン製、ポリエステル製などの濾材を使用できる。酸を使用することもあるため、ポリプロピレン製の濾材が好ましい。濾材の通気度は低いほど歩留りが高まるため、30cm
3/cm
2・sec以下、より好ましくは10cm
3/cm
2・sec以下、さらに好ましくは1cm
3/cm
2・sec以下である。
圧縮工程では、圧搾装置を用いてもよい。このような装置としては、ベルトプレス、スクリュープレス、フィルタープレスなど一般的なプレス装置を用いることができ、装置は特に限定されない。
圧縮工程に供するスラリーの濃度は、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることがさらに好ましい。圧縮工程に供するスラリーの濃度を上記範囲内とすることにより、脱水濾液の増加を抑制でき、脱水工程を効率よく行うことができる。圧縮時の圧力は0.2MPa以上であることが好ましく、0.4MPa以上であることがより好ましい。
【0092】
濃縮工程は、さらに酸処理工程を含んでもよい。酸処理工程は、上記の濾過処理工程等の前後に設けられることが好ましく、濾過処理工程の後に設けられることが好ましい。酸処理工程が濾過処理工程の後の設けられる場合、酸処理工程は濃縮剤を除去するための酸洗浄工程であってもよい。
酸処理工程では、例えば、無機酸(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等)、有機酸(ギ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸等)を用いて処理を行うことが好ましい。具体的には、上述した工程で得られた濃縮物を上記の酸性液に浸漬することが好ましい。使用する酸性液の濃度は特に限定されないが、10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは1%以下である。酸性液の濃度を上記範囲とすることにより、セルロースの分解による劣化を抑制することができる。
【0093】
さらに酸処理工程の後には、濾過を行うことが好ましい。この濾過処理工程では、さらに圧縮工程を行ってもよい。
【0094】
濃縮工程では、さらに乾燥工程を設けてもよい。乾燥工程を設ける場合は、酸処理工程の後に設けることが好ましい。乾燥工程は、オーブン乾燥工程であることが好ましく、例えば、30〜70℃に設定をしたオーブンで、1〜60分間乾燥を行うことが好ましい。
【0095】
濃縮工程で得られる濃縮物の固形分濃度は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、20%質量%以上であることがさらに好ましい。
【0096】
濃縮工程では、濃縮方法として、有機溶剤による脱水を用いてもよい。有機溶剤を用いて濃縮した後、乾燥工程を設けてもよい。有機溶剤によって処理した後に乾燥することで、微細繊維状セルロースの水素結合を抑制することができ、再分散性の観点から好ましい。
【0097】
有機溶剤の例としては、特に限定されず、次のものが例示できる:メタノール、エタノール、1−プロパノール(n−プロパノール)、1−ブタノール(n−ブタノール)、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール(イソプロパノール、2−プロパノール)、イソペンチルアルコール(イソアミルアルコール)、t−ブチルアルコール(2−メチル−2−プロパノール)、1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン(MEK」)、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノン、メチル−ノルマル−ブチルケトン、エチルエーテル(ジエチルエーテル)、エチレングリコールモノエチルエーテル(セロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(セロソルブアセテート)、エチレングリコールモノ−ノルマル−ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF、N,N−ジメチルホルムアミド)、ジメチルアセトアミド(DMAc、DMA、N,N−ジメチルアセトアミド)、オルト−ジクロルベンゼン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル(酢酸イソアミル)、酢酸エチル、酢酸ノルマル−ブチル、酢酸ノルマル−プロピル、酢酸ノルマル−ペンチル(酢酸ノルマル−アミル)、酢酸メチル、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、ジクロルメタン(二塩化メチレン)、スチレン、テトラクロルエチレン(パークロルエチレン)、1,1,1−トリクロルエタン、トルエン、ノルマルヘキサン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロルエタン(二塩化エチレン)、1,2−ジクロルエチレン(二塩化アセチレン)、1,1,2,2−テトラクロルエタン(四塩化アセチレン)、トリクロルエチレン、二硫化炭素、ガソリン、コールタールナフサ(ソルベントナフサを含む。)、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、テレビン油、ミネラルスピリット(ミネラルシンナー、ペトロリウムスピリット、ホワイトスピリット及びミネラルターペンを含む。)。
【0098】
また有機溶剤の例としては、特に限定されないが、水と混和性を有するものが好ましく、さらに極性を有するものが好ましい。極性を有する有機溶剤の好ましい例としては、アルコール類、ジオキサン類(1,2−ジオキサン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類の具体例は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、またはt−ブチルアルコール等である。それら以外の極性を有する有機溶剤の好ましい例としては、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。有機溶剤を選択する際、溶解パラメーター値(SP値)を考慮してもよい。2つの成分のSP値の差が小さいほど溶解度が大きくなることが経験的に知られているため、水との混和性がよいとの観点からは、水に近いSP値を有する有機溶剤を選択することができる。
【0099】
濃縮剤と有機溶剤を組み合わせて濃縮、または乾燥を行ってもよい。工程順序は特に限定されないが、濃縮剤によって濃縮した後に有機溶剤による処理を行うことで、有機溶剤の使用量を減らすことができるため好ましい。
【0100】
濃縮剤と有機溶剤を組み合わせて濃縮、または乾燥を行う場合、有機溶剤の添加に先立って、濃縮剤を用いて微細繊維状セルロース濃度を5質量%以上にすることが好ましく、10質量%以にすることがより好ましく、20質量%以上にすることがさらに好ましい。微細繊維状セルロース濃度を上記範囲とすることにより、有機溶剤の必要量が抑制されるため好ましい。
【0101】
有機溶剤による処理前または処理後、または処理中にアルカリ性または酸性の溶液を加えてもよい。アルカリ性の溶液を加えることで濃縮物を再分散させる際に微細繊維状セルロースの電荷が高まり再分散しやすくなる。濃縮物はアルカリ性の溶液を加えることで膨潤し、濃縮度合いが悪化する可能性があるため、有機溶剤の存在下で添加することが好ましい。有機溶剤が膨潤を抑制することができる。
酸性の溶液は濃縮剤を微細繊維状セルロース濃縮物または乾燥物から除去するために用いられるが、有機溶剤が共存することで濃縮剤が除去された微細繊維状セルロース濃縮物または乾燥物の膨潤を抑えることができる。
【0102】
濃縮剤と有機溶剤を併用する際の有機溶剤の使用量は特に限定されないが、微細繊維状セルロースの絶乾質量に対して100〜100000質量%であることが好ましく、100〜10000質量%であることがより好ましく、100〜1000質量%であることがさらに好ましい。有機溶剤の使用量を上記範囲内とすることにより、有機溶剤の使用量を抑制しつつも、膨潤抑制効果が十分に得られるため好ましい。
【0103】
これらの濃縮剤は1種類でも良いし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乾燥方法としては、例えば、一般に用いられる乾燥機を用いる方法等が挙げられる。
【0104】
(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物と(B)非セルロース粉粒物を混合する工程(以下、混合工程ともいう)は、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物に(B)非セルロース粉粒物を添加して、撹拌混合を行う工程である。混合工程では、撹拌機を用いて撹拌混合を行うことが好ましい。
なお、混合工程では、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物を再度溶液中に分散させた後に、非セルロース粉粒物を添加する方法も採用できる。混合工程では、(A)微細繊維状セルロースと水分を含む粉粒物の流動性が確保されており、非セルロース粉粒物と均一に撹拌ができる方法を採用することが好ましい。
【0105】
上記の工程を経ることで微細繊維状セルロース含有組成物が得られる。この組成物の保存温度は、4〜40℃が好ましく、4〜30℃がさらに好ましい。圧力は、常圧で保管することが好ましい。湿度は、70%以下が好ましく、60%以下がさらに好ましい。
【0106】
微細繊維状セルロース含有組成物を保存する場合は、例えば、アルミパウチ等の袋や密封できる容器に添加し、密封後、保存することが好ましい。また、アルミパウチや密封した容器はそのままの形態で輸送することができる。
【0107】
<再分散>
上述した工程で得られた微細繊維状セルロース含有組成物は、水等の溶媒に再分散させることで用いられることが好ましい。このような再分散スラリーを得るために使用する溶媒の種類は、特に限定されないが、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物を挙げることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール類、多価アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF),ジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられる。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、t−ブチルアルコール等が挙げられる。多価アルコール類としては、エチレングリコール、グリセリンなどが挙げられる。ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノt−ブチルエーテル等が挙げられる。
【0108】
微細繊維状セルロース含有組成物の再分散は常法により行うことができる。例えば、微細繊維状セルロース含有組成物に、上記した溶媒を添加して微細繊維状セルロース含有組成物を含む液を調製する工程と、この微細繊維状セルロース含有組成物を含む液中の微細繊維状セルロースを分散させる工程により、再分散を行うことができる。
【0109】
微細繊維状セルロース含有組成物を含む液中の微細繊維状セルロースを分散させる工程に用いる分散装置としては、上記の<解繊処理>において記載した解繊処理装置と同様のものを使用してもよい。
【0110】
(用途)
本発明の微細繊維状セルロース含有組成物の用途は特に限定されない。微細繊維状セルロース含有組成物は、例えば増粘剤として使用されることが好ましい。この場合、微細繊維状セルロース含有組成物の再分散スラリーは、増粘剤として各種用途(例えば、食品、化粧品、セメント、塗料、インクなどへの添加物など)に使用することができる。また、樹脂やエマルションと混合し補強材としての用途に使用することもできる。さらに、微細繊維状セルロース再分散スラリーを用いて製膜し、各種フィルムとして使用することもできる。
【実施例】
【0111】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0112】
[製造例1]
微細繊維状セルロース1(CNF1)の製造
尿素100g、リン酸二水素ナトリウム二水和物55.3g、リン酸水素二ナトリウム41.3gを109gの水に溶解させてリン酸化試薬を調製した。
乾燥した針葉樹晒クラフトパルプの抄上げシートをカッターミルおよびピンミルで処理し、綿状の繊維にした。この綿状の繊維を絶対乾燥質量で100g取り、リン酸化試薬をスプレーでまんべんなく吹きかけた後、手で練り合わせ、薬液含浸パルプを得た。
得られた薬液含浸パルプを140℃に加熱したダンパー付きの送風乾燥機にて、160分間加熱処理し、リン酸化パルプを得た。
【0113】
得られたリン酸化パルプをパルプ質量で100g分取し、10Lのイオン交換水を注ぎ、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。次いで、得られた脱水シートを10Lのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液を少しずつ添加し、pHが12〜13のパルプスラリーを得た。その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られた脱水シートをFT−IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1230〜1290cm
-1にリン酸基に基づく吸収が観察され、リン酸基の付加が確認された。従って、得られた脱水シート(リン酸オキソ酸導入セルロース)は、セルロースのヒドロキシル基の一部が下記構造式(1)の官能基で置換されたものであった。
【0114】
【化1】
【0115】
式中、a,b,m及びnはそれぞれ独立に自然数を表す(ただし、a=b×mである。)。α
1,α
2,・・・,α
nおよびα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和−直鎖状炭化水素基、飽和−分岐鎖状炭化水素基、飽和−環状炭化水素基、不飽和−直鎖状炭化水素基、不飽和−分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、およびこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0116】
得られたリン酸化セルロースにイオン交換水を添加し、0.5質量%スラリーを調製した。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理し、セルロース1懸濁液を得た。
このセルロース1懸濁液を、さらに湿式微粒化装置(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で245MPaの圧力にて1回処理し、微細繊維状セルロース1(CNF1)を得た。X線回折により、微細繊維状セルロース1(CNF1)はセルロースI型結晶を維持していた。
【0117】
(リン酸基の導入量(置換基量)の測定)
置換基導入量は、繊維原料へのリン酸基の導入量であり、この値が大きいほど、多くのリン酸基が導入されている。置換基導入量は、対象となる微細繊維状セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%繊維状セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(アンバージェット1024;オルガノ株式会社、コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、
図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
【0118】
[製造例2]
微細繊維状セルロース2(CNF2)の製造
乾燥質量200g相当分の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプとTEMPO2.5gと、臭化ナトリウム25gを水1500mlに分散させた。その後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が5.0mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応を終了した。
その後、このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、10Lのイオン交換水を添加した。次に、撹拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返した。得られた脱水シートをFT−IRで赤外線吸収スペクトルを測定した。その結果、1730cm
-1にカルボキシル基に基づく吸収が観察され、カルボキシル基の付加が確認された。この脱水シート(TEMPO酸化セルロース)を用いて、微細繊維状セルロースを調製した。
【0119】
上記で得られたカルボキシル基が付加したTEMPO酸化セルロースにイオン交換水を添加し、0.5質量%のスラリーを調製した。このスラリーを、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理し、セルロース2懸濁液を得た。
このセルロース2懸濁液を、さらに湿式微粒化装置(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で245MPaの圧力にて10回処理し、微細繊維状セルロース2(CNF2)を得た。X線回折により、微細繊維状セルロース2(CNF2)はセルロースI型結晶を維持していた。
【0120】
<繊維幅の測定>
微細繊維状セルロース1及び2の繊維幅を下記の方法で測定した。
解繊パルプスラリーの上澄み液を濃度0.01〜0.1質量%に水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)により観察した。製造例1及び2では、幅4nm程度の微細繊維状セルロースになっていることを確認した。
【0121】
微細繊維状セルロース1及び2の結晶化度については、X線回折装置を用いて測定し、下記の計算式から求めた。なお、下記計算式の「結晶化指数」は、「結晶化度」ともいう。
【0122】
セルロースI型結晶化指数(%)=〔(I22.6−I18.5)/I22.6〕×100 (1)
〔I22.6は、X線回折における格子面(002面)(回折角2θ=22.6°)の回折強度、及びI18.5は、アモルファス部(回折角2θ=18.5°)の回折強度を示す。〕
0.45≦αω(m・rad/sec) (2)
〔αは、片振幅(m)、ωは、角速度(rad/sec)を示す。〕。
【0123】
微細繊維状セルロース1及び2の置換基量及び結晶化度は表1に示した。
【0124】
【表1】
【0125】
<実施例1>
CNF1の固形分濃度が0.4質量%になるように水に希釈した。この希釈液100mlに対して濃縮剤として塩化カルシウム1gを添加してゲル化させた。このゲルを濾過した後、濾紙で2分間圧縮し、固形分濃度21.4質量%の濃縮物を得た。この濃縮物を0.1N塩酸水溶液100mlに30分間浸漬後、濾過し、固形分濃度21.2質量%の濃縮物を得た。なお、この濃縮物の固形分以外の残部は水分である。
この濃縮物96.2質量部に対してシリカ(AEROSIL(登録商標)R 812 S(日本アエロジル)、以下、「シリカA」という。)を3.8質量部添加し、ミキサーで撹拌した。このようにして、実施例1の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0126】
<実施例2>
実施例1において、濾紙での圧縮時間を30秒に変更した以外は実施例1と同様の方法で濃縮物を得た。濃縮物の固形分濃度は4.1質量%であった。この濃縮物を0.1N塩酸水溶液100mLに30分間浸漬後、濾過し、固形分濃度5.6質量%の濃縮物を得た。以降の処理は実施例1と同様とし、実施例1の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0127】
<実施例3>
実施例1において、濾紙での圧縮時間を60秒に変更した以外は実施例1と同様の方法で濃縮物を得た。濃縮物の固形分濃度は8.1質量%であった。この濃縮物を0.1N塩酸水溶液100mLに30分間浸漬後、濾過し、固形分濃度10.5質量%の濃縮物を得た。以降の処理は実施例1と同様とし、実施例3の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0128】
<実施例4>
実施例1と同様の方法で濃縮物を得た。濃縮物の固形分濃度は21.4質量%であった。この濃縮物を0.1N塩酸水溶液100mLに30分間浸漬後、濾過し、固形分濃度21.2質量%の濃縮物を得た。この濃縮物を60℃のオーブンで15分間加熱処理し、固形分濃度31.2質量%の濃縮物を得た。この濃縮物96.2質量部に対してシリカ(AEROSIL(登録商標)R 812 S、日本アエロジル株式会社製、以下、「シリカA」という。)を3.8質量部添加し、ミキサーで撹拌した。このようにして、実施例4の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0129】
<実施例5>
60℃のオーブンにおける加熱時間を25分とし、固形分濃度42.2質量%の濃縮物を得た以外は、実施例4と同様の方法で実施例5の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0130】
<実施例6>
60℃のオーブンにおける加熱時間を35分とし、固形分濃度50.3質量%の濃縮物を得た以外は、実施例4と同様の方法で実施例6の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0131】
<実施例7>
60℃のオーブンにおける加熱時間を45分とし、固形分濃度63.5質量%の濃縮物を得た以外は、実施例4と同様の方法で実施例7の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0132】
<実施例8>
60℃のオーブンにおける加熱時間を50分とし、固形分濃度94.1質量%の濃縮物を得た以外は、実施例4と同様の方法で実施例8の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0133】
<実施例9>
CNF2の固形分濃度が0.4質量%になるように水に希釈した。この希釈液100mlに対して濃縮剤として塩化カルシウム1gを添加してゲル化させた。このゲルを濾過した後、濾紙で2分間圧縮し、固形分濃度19.8質量%の濃縮物を得た。この濃縮物を0.1N塩酸水溶液100mlに30分間浸漬後、濾過し、固形分濃度20.2質量%の濃縮物を得た。以降の処理は実施例1と同様とし、実施例9の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0134】
<実施例10>
シリカAをシリカB(AEROSIL(登録商標)200、日本アエロジル株式会社製)に変更した以外は全て実施例1と同様とし、実施例10の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0135】
<実施例11>
シリカAを疎水化酸化チタン(STV−455、チタン工業株式会社製)に変更した以外は全て実施例1と同様とし、実施例11の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0136】
<実施例12>
濃縮物99.5質量部に対して、シリカAの添加量を0.5質量部とした以外は全て実施例1と同様とし、実施例12の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0137】
<実施例13>
濃縮物95.2質量部に対して、シリカAの添加量を4.8質量部とした以外は全て実施例1と同様とし、実施例13の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0138】
<実施例14>
濃縮物90.9質量部に対して、シリカAの添加量を9.1質量部とした以外は全て実施例1と同様とし、実施例14の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0139】
<比較例1>
実施例1において、シリカAを添加しなかった以外は全て実施例1と同様とし、比較例1の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0140】
<比較例2>
60℃のオーブンにおける加熱時間を90分とし、98.3質量%の濃縮物を得た以外は、実施例4と同様の方法で比較例2の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0141】
<比較例3>
濃縮物99.95質量部に対して、シリカAの添加量を0.05質量部とした以外は全て実施例1と同様とし、比較例3の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0142】
<比較例4>
濃縮物87質量部に対して、シリカAの添加量を13質量部とした以外は全て実施例1と同様とし、比較例4の微細繊維状セルロース含有組成物を得た。
【0143】
実施例及び比較例で用いた非セルロースシリカの物性は下記の通りである。
【0144】
【表2】
【0145】
(安息角の測定)
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース含有組成物の安息角を安息角測定器(アズワン)を用いて測定した。安息角測定器のシュートに100ml分の微細繊維状セルロース含有組成物を仕込み、シュート口を開いて微細繊維状セルロース含有組成物を下部に落下させた。落下後の微細繊維状セルロース含有組成物の斜面と水平面のなす角度を測定し、安息角とした。
【0146】
(累積中位径の測定)
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース含有組成物の累積中位径はレーザー回折散乱式粒子径分布測定装置(Microtrac3300EXII、日機装株式会社)
を用いて測定した。
【0147】
(嵩密度の測定)
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース含有組成物の嵩密度を安息角測定器(アズワン)を用いて測定した。安息角測定器のシュートに100ml分の微細繊維状セルロース含有組成物を仕込み、シュート口を開いて微細繊維状セルロース含有組成物を下部に落下させ、下に設置した容器(満杯容積∨=50ml)に盛りきり充填した。次に、盛りきり微細繊維状セルロース含有組成物の盛り上がり部分を水平カットし、容積を満杯にした。容器に残存する微細繊維状セルロース含有組成物の質量を秤量し、下記の計算式より嵩密度(g/ml)を算出した。
嵩密度(g/ml)=粉末の質量(g)/粉末の体積(ml)
【0148】
(評価)
(フィード性の評価)
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース含有組成物をビーカー(容積100ml)に仕込み、質量W1(g)を秤量した。ビーカーを静かに下向きに180℃回転させ、粉末を落下させた。落下した微細繊維状セルロース含有組成物の質量W2(g)を秤量した。仕込んだ微細繊維状セルロース含有組成物の質量に対する落下した微細繊維状セルロース含有組成物の質量の割合を下記の計算式で算出し、下記評価基準でフィード性を評価した。なお、本願明細書においてフィード性が良好であることは、組成物の流動性に優れることを意味する。
フィード性(%)=W2/W1x100
<フィード性評価基準>
◎:95%以上
○:80%以上、95%未満
×:80%未満
【0149】
(再分散性の評価)
実施例及び比較例で得られた微細繊維状セルロース含有組成物をイオン交換水100mlに添加し、水酸化ナトリウムで中和した。この水溶液を1500rpmで5分間撹拌し、0.4質量%の微細繊維状セルロースを含有する溶液を調製した。溶液を30分間静置し、分離の有無を観察し、下記の基準で再分散性を評価した。
<再分散性の評価基準>
◎:水と分離せずに均一に分散している。
○:若干、濁りが認められるが、水と分離せずに分散している。
×:水と分離している。
【0150】
【表3】
【0151】
【表4】
【0152】
実施例で得られた微細繊維状セルロース含有組成物は、フィード性及び再分散性に優れていた。一方、比較例で得られた微細繊維状セルロース含有組成物は、フィード性及び再分散性のいずれか又は両方が劣っており、好ましい性状を有していないことがわかる。