特許第6508043号(P6508043)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6508043
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】二軸配向ポリプロピレンフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20190422BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   C08J5/18CES
   B32B27/32 E
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-512403(P2015-512403)
(86)(22)【出願日】2015年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2015055794
(87)【国際公開番号】WO2015129851
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2018年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2014-38199(P2014-38199)
(32)【優先日】2014年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-196330(P2014-196330)
(32)【優先日】2014年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久万 琢也
(72)【発明者】
【氏名】岡田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−297659(JP,A)
【文献】 特開平06−297658(JP,A)
【文献】 特開平10−231369(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/146367(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/065584(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/002934(WO,A1)
【文献】 特開平10−180963(JP,A)
【文献】 特開2002−234124(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00〜 5/02
5/12〜 5/22
B32B1/00〜43/00
CAplus(STN)
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面の表層に平均粒子径が0.1μm以上1.0μm未満である粒子を含み、フィルムの長手方向における引張弾性率EMDと幅方向における引張弾性率ETDの和EMD+TDの値が4.5GPa以上であり、全ヘイズが1%以下であり、85℃100時間処理後の熱収縮率が、フィルムの長手方向と幅方向のいずれも1.0%以下であり、少なくとも片面の十点平均粗さSRzが500nm以下である二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項2】
少なくとも片面の中心平均表面粗さSRaが50nm以下である、請求項1に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
フィルムの面内位相差Retが0.1〜500nmである、請求項1または2に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
フィルムの厚み方向の位相差Rthとフィルムの面内位相差Retとの比の値Rth/Retの値が1以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
二軸配向ポリプロピレンフィルムの一方の面とその裏面との間の静摩擦係数μsが0.5以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
二軸配向ポリプロピレンフィルムの融点Tmが158℃以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
フラットパネルディスプレイ用フィルムとして用いられる、請求項1〜6のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項8】
請求項1〜7に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムを用いたフラットパネルディスプレイ。
【請求項9】
フィルムコンデンサ用素子として用いられる、請求項1〜6のいずれかに記載の二軸配向ポリプロピレンフィルム。
【請求項10】
請求項に記載の二軸配向ポリプロピレンフィルムを用いたフィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高強度、低熱収であり、かつ透明性に優れ、フラットパネルディスプレイ用フィルムやディスプレイなどの製造工程用フィルムやコンデンサ用フィルムとして好適に用いることのできる二軸配向ポリプロピレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
二軸配向ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等に優れるため、包装用途、離型用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途等の様々な用途に用いられている。
【0003】
更に近年、ポリプロピレンフィルムの光学特性と生産性を活かし、偏光子保護フィルムや位相差フィルムなど、フラットパネルディスプレイ用のフィルムとして展開する検討が実施されている(例えば特許文献1、2)。しかし、ポリプロピレンフィルムは、溶融押出時に生成するポリプロピレンのβ晶に起因してフィルム表面が粗れ、フィルムのヘイズが高くなる場合があり、ディスプレイ用途で使用したとき視認性が低下する場合があった。特に、二軸延伸フィルムでは、幅方向の延伸工程でβ晶に起因するフィブリルが発生し、ヘイズが高くなる場合があった。ポリプロピレンフィルムの透明性を向上させるためには、原料に立体規則性の低いポリプロピレンを用いることや、ポリエチレン成分の含有量を増やすことや、石油樹脂などを添加して、ポリプロピレンの結晶性を低くする手法が考えられるが、上記成分は一般に柔軟成分であったり、耐熱性が低いため、添加量が多いとフィルムの強度や耐熱性が低下する場合があった。また、製法では、透明性の低下を防ぐために、未延伸や縦一軸延伸とする手法が考えられるが、フィルムの強度が低下する場合があった。例えば、特許文献3には、原料にシンジオタクチックポリプロピレンを用い、押出後の冷却ロールを低温化させて未延伸シートの結晶生成を抑え、かつ長手方向に1〜4倍の範囲で一軸延伸することにより、ポリプロピレンフィルムの透明性を改善する例が記載されている。これらのポリプロピレンフィルムは、原料に結晶性の低いシンジオタクチックポリプロピレンを用いていること、また、延伸倍率が低く更に一軸延伸であることから、フィルムの強度が不十分である場合があった。フィルムの強度が不十分であると、フラットパネルディスプレイ用フィルムでは、例えば偏光子と本発明のフィルムを貼り合わせる際に、装置の張力によりフィルムが変形し、位相差が変化してディスプレイの色調がずれてしまう場合があった。また、コンデンサ用途では耐電圧が低下する場合があった。
【0004】
ポリプロピレンフィルムの強度と透明性を両立する例が、特許文献4、5に記載されている。しかし、フラットパネルディスプレイ用で使用するには、強度・透明性共に不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−152455号公報
【特許文献2】特開2010−164733号公報
【特許文献3】特開2010−195993号公報
【特許文献4】特開2003−170485号公報
【特許文献5】特開2009−012225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、上記した問題点を解決することにある。すなわち、高強度、低熱収であり、かつ透明性に優れ、フラットパネルディスプレイ用フィルムやディスプレイなどの製造工程用フィルムやコンデンサ用フィルムとして好適に用いることのできる二軸配向ポリプロピレンフィルムを提供することにある。なお、本発明において強度とは、変形しにくい性質の強弱を言うものであり、その指標として引張弾性率が用いられる。すなわち、本明細書において高強度とは、引張弾性率が高いことを示すものとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、少なくとも片面の表層に平均粒子径が0.1μm以上1.0μm未満である粒子を含み、フィルムの長手方向における引張弾性率EMDと幅方向における引張弾性率ETDの和EMD+TDの値が4.5GPa以上であり、全ヘイズが1%以下であり、85℃100時間処理後の熱収縮率が、フィルムの長手方向と幅方向のいずれも1.0%以下であり、少なくとも片面の十点平均粗さSRzが500nm以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、高強度、低熱収であり、かつ透明性に優れることから、フラットパネルディスプレイ用フィルムやディスプレイなどの製造工程用フィルムやコンデンサ用フィルムとして好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムの長手方向における引張弾性率EMDと幅方向における引張弾性率ETDの和EMD+TDの値が4.5GPa以上である。EMD+TDの値が4.5GPa未満であると、フラットパネルディスプレイ用フィルムとして用いたとき、例えば偏光子と本発明のフィルムを貼り合わせる際に、装置の張力によりフィルムが変形し、位相差が変化してディスプレイの色調がずれてしまう場合がある。また、コンデンサ用途では耐電圧が低下する場合がある。EMD+TDの値はより好ましくは5.0GPa以上、更に好ましくは5.5GPa以上、最も好ましくは6.0GPa以上である。EMD+TDの値は高いほど好ましいが、20GPa程度が上限であり、より好ましくは10GPa以下、更に好ましくは7GPa以下である。また、EMDの値およびETDの値は、共に2GPa以上であることが好ましい。EMD+TDの値が4.5GPa以上であっても、長手方向と幅方向の引張弾性率に一定以上の差がある場合、フィルムが裂けるなど、ハンドリング性が低下する場合がある。EMD+TDの値を上記範囲とするためには、フィルムの原料組成を後述する範囲とし、低立体規則性ポリプロピレンなどの柔軟成分を低減させつつ高透明フィルムを得ること、また、製膜条件を後述する範囲とし、フィルムを高倍率で延伸して二軸配向ポリプロピレンフィルムを得ることが好ましい。
【0010】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、EMD/ETDの値が0.5以上2.0以下であることが好ましい。EMD/ETDの値が上記範囲を外れると、二軸配向ポリプロピレンフィルムの配向のバランスが悪くなり、ハンドリング時にフィルムが裂けやすくなる場合がある。EMD/ETDの値は、より好ましくは0.55以上1.5以下、更に好ましくは0.57以上1.2以下である。EMD/ETDの値を上記範囲とするためには、MDとTDの延伸条件や熱固定条件を後述する範囲として二軸配向ポリプロピレンフィルムを得ることが好ましい。
【0011】
尚、本願においては、フィルムの製膜する方向に平行な方向を、製膜方向あるいは長手方向あるいはMD方向と称し、フィルム面内で製膜方向に直交する方向を幅方向あるいはTD方向と称する。
【0012】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、全ヘイズが1%以下である。全ヘイズが1%を超えると、フラットパネルディスプレイ用フィルムとして用いたとき、ディスプレイの視認性が低下する場合がある。また、コンデンサ用途では、特に2μm以下の薄膜フィルムとしたとき、金属層の蒸着時などにフィルム破れが発生する場合がある。これは、ポリプロピレンのβ晶に起因して発生するフィルム内部の微小なボイドがフィルム破れの原因になっているためと考えられる。全ヘイズは、より好ましくは0.8%以下、更に好ましくは0.5%以下である。全ヘイズは透明性の観点から低いほど好ましいが、実質的には0.05%程度が下限である。
【0013】
全ヘイズを上記範囲とするためには、フィルムの原料組成を後述する範囲とすること、また、キャスト条件や縦延伸条件を後述する範囲内とし、キャストシートのβ晶を低減させることが好ましい。
【0014】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、85℃100時間処理後の熱収縮率が、フィルムの長手方向と幅方向いずれも1.0%以下である。熱収縮率が1.0%を超えると、フラットパネルディスプレイを高温下で使用したとき、フィルムの収縮応力によってフィルムが剥がれ視認性が低下したり、フィルムの収縮応力によって位相差が変化し、色調が変化する場合がある。コンデンサ用途では、コンデンサ製造工程および使用工程の熱によりフィルム自体の収縮が生じ、素子端部メタリコンとの接触不良により耐電圧性が低下する場合がある。熱収縮率は、より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.3%以下、最も好ましくは0.1%以下である。下限は特に限定されないが、フィルムが膨張しすぎる場合もあり、実質的には−1.0%程度が下限である。熱収縮率を上記範囲とするためには、原料組成を後述する範囲内とし、透明性を維持しつつ低融点成分の添加量を出来る限り低減させることや、縦延伸条件、横延伸条件、熱固定条件、リラックス条件を後述する範囲内とし、強度を維持しつつ熱収を低減させることが好ましい。
【0015】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、少なくとも片面の十点平均粗さSRzが500nm以下であることが好ましい。少なくとも片面のSRzが500nm以下であると、フラットパネルディスプレイ用フィルムとして用いたとき、ディスプレイの視認性をより高いものとすることができる。少なくとも片面のSRzは、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは150nm以下、最も好ましくは100nm以下である。少なくとも片面のSRzは低いほど好ましいが、実質的には1nm程度が下限である。SRzを上記範囲とするためには、フィルムの原料組成を後述する範囲とすること、また、キャスト条件や縦延伸条件を後述する範囲内とし、キャストシートのβ晶を低減させることが好ましい。
【0016】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、少なくとも片面の中心平均表面粗さSRaが50nm以下であることが好ましい。少なくとも片面のSRaが50nm以下であると、フラットパネルディスプレイ用フィルムとして用いたとき、ディスプレイの視認性をより高いものとすることができる。少なくとも片面のSRaは、より好ましくは20nm以下、更に好ましくは15nm以下である。少なくとも片面のSRaは低いほど好ましいが、実質的には1nm程度が下限である。SRaを上記範囲とするためには、フィルムの原料組成を後述する範囲とすること、また、キャスト条件や縦延伸条件を後述する範囲内とし、キャストシートのβ晶を低減させることが好ましい。
【0017】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムの面内位相差Retが0.1〜500nmであることが好ましい。フラットパネル用ディスプレイフィルムでは、使用される部位によって求められるフィルムの位相差は異なり、偏光子保護フィルムなどの光学等方フィルムでは、0.1〜100nm程度、1/4λ位相差フィルムなどの位相差フィルムでは、50〜500nm程度であることが好ましい。位相差が500nmを超えると、ディスプレイの色調が変化する場合がある。また、コンデンサ用途では、位相差が高いほどフィルムの配向が高く、耐電圧が向上するため好ましい。Retの値を上記範囲とするためには、原料組成や、縦延伸条件、横延伸条件、熱固定条件、リラックス条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
【0018】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムの厚み方向の位相差をRthとしたとき、上記のRetとの比の値Rth/Retの値が1以下であることが好ましい。フラットパネル用ディスプレイフィルムにおいて、Rth/Retの値が1以下であると視野角特性が向上する。Rth/Retの値は、より好ましくは0.8以下、更に好ましくは0.5以下である。Rth/Retの値は、使用されるディスプレイの構成によって目標値は適宜設定されるものであるが、0.1程度が制御可能な下限値である。Rth/Retの値を上記範囲とするためには、原料組成や、縦延伸条件、横延伸条件、熱固定条件、リラックス条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
【0019】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムの一方の面とその裏面との間の静摩擦係数μsが0.5以下であることが好ましい。静摩擦係数μsが0.5を超えると、フィルムの滑り性が悪くハンドリングが困難となり、製膜中や後加工時にシワが入ったり、製品ロールの巻き姿が悪化する場合がある。静摩擦係数μsは、より好ましくは0.45以下、更に好ましくは0.4以下である。静摩擦係数μsは、ハンドリング性の観点からは低い方が好ましいが、静摩擦係数μsを低くするためには、表面を粗す必要がありヘイズが上昇して透明性が悪化してしまうため、0.1程度が下限である。静摩擦係数μsを上記範囲とするためには、原料組成やフィルムの積層構成、縦延伸条件、横延伸条件を後述する範囲内とすることが好ましい。
【0020】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、融点Tmが158℃以上であることが好ましい。融点Tmが158℃未満であると、耐熱性が不足し熱収縮率が大きくなる場合や、エチレン成分の含有量が多いため、引張剛性が低下したり、フィッシュアイが発生しやすくなる場合がある。融点Tmはより好ましくは160℃以上、更に好ましくは163℃以上である。熱収縮率低減の観点から、二軸配向ポリプロピレンフィルムの融点Tmは高い程好ましいが、現実的には180℃程度が上限である。融点Tmを上記範囲とするためには、原料組成を後述する範囲内とし、特に、耐熱性の低いエチレン成分の含有量を低下させることや、縦延伸条件、横延伸条件、熱固定条件、リラックス条件を後述する範囲内とすることが好ましい。なお、示差走査熱量計での測定において、フィルムの融解ピーク温度が2点以上観測される場合は、最も温度が低いピーク温度を二軸配向ポリプロピレンフィルムの融点Tmとする。
【0021】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの厚みは用途によって適宜調整されるものであり特に限定はされないが、0.5μm以上100μm以下であることが好ましい。厚みが0.5μm未満であると、ハンドリングが困難になる場合があり、100μmを超えると、未延伸シートの厚みが厚くなるため、押出時の冷却ロールでの除冷速度が遅くなり、β晶が形成しやすくなって、フィルムのヘイズが高くなる場合がある。厚みは、フラットパネルディスプレイ用途では5〜60μmであることがより好ましく、5〜30μmであることが更に好ましい。コンデンサ用途では0.5〜10μmであることが好ましく、1〜3μmであることが更に好ましい。厚みは他の物性を悪化させない範囲内で、押出機のスクリュウ回転数、未延伸シートの幅、製膜速度、延伸倍率などにより調整可能である。
【0022】
次に、二軸配向ポリプロピレンフィルムに用いると好ましいポリプロピレン原料について説明する。
【0023】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムには、少なくとも2種類のポリプロピレン原料(ポリプロピレン原料A、および、ポリプロピレン原料Bとする)を用いることが好ましい。ポリプロピレン原料Aとしては、フィルムの強度を向上させるため、結晶性の高いポリプロピレン原料を用いることが好ましく、ポリプロピレン原料Bとしては、フィルムの透明性を向上させるため立体規則性の低いポリプロピレン原料を用いることが好ましい。
【0024】
ポリプロピレン原料Aは、好ましくは冷キシレン可溶部(以下CXS)が4質量%以下でありかつメソペンタッド分率は0.95以上であるポリプロピレンであることが好ましい。これらを満たさないと製膜安定性に劣ったり、フィルムの強度が低下したり、寸法安定性および耐電圧性の低下が大きくなる場合がある。
【0025】
ここで冷キシレン可溶部(CXS)とはフィルムをキシレンで完全溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分のことをいい、立体規則性の低い、分子量が低い等の理由で結晶化し難い成分に該当していると考えられる。このような成分が多く樹脂中に含まれているとフイルムの熱寸法安定性に劣ったり、高温での絶縁破壊電圧が低下する等の問題を生じることがある。従って、CXSは4質量%以下であることが好ましいが、更に好ましくは3質量%以下であり、特に好ましくは2質量%以下である。CXSは低いほど好ましいが、0.1質量%程度が下限である。このようなCXSを有するポリプロピレンとするには、樹脂を得る際の触媒活性を高める方法、得られた樹脂を溶媒あるいはプロピレンモノマー自身で洗浄する方法等の方法が使用できる。
【0026】
同様な観点からポリプロピレン原料Aのメソペンタッド分率は0.95以上であることが好ましく、更に好ましくは0.97以上である。メソペンタッド分率は核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、該数値が高いものほど結晶化度が高く、融点が高くなり、高温での絶縁破壊電圧が高くなるので好ましい。メソペンタッド分率の上限については特に規定するものではない。このように立体規則性の高い樹脂を得るには、n−ヘプタン等の溶媒で得られた樹脂パウダーを洗浄する方法や、触媒および/または助触媒の選定、組成の選定を適宜行う方法等が好ましく採用される。
【0027】
また、ポリプロピレン原料Aとしては、より好ましくはメルトフローレート(MFR)が1〜10g/10分(230℃、21.18N荷重)、特に好ましくは2〜5g/10分(230℃、21.18N荷重)の範囲のものが、製膜性やフィルム強度の観点から好ましい。メルトフローレート(MFR)を上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。
【0028】
ポリプロピレン原料Aとしては、主としてプロピレンの単独重合体からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の不飽和炭化水素による共重合成分などを含有してもよいし、プロピレンが単独ではない重合体がブレンドされていてもよい。このような共重合成分やブレンド物を構成する単量体成分として例えばエチレン、プロピレン(共重合されたブレンド物の場合)、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチルペンテン−1、3−メチルブテンー1、1−ヘキセン、4−メチルペンテン−1、5−エチルヘキセン−1、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5−メチル−2−ノルボルネンなどが挙げられる。共重合量またはブレンド量は、耐絶縁破壊特性、寸法安定性の点から、共重合量では1mol%未満とし、ブレンド量では10質量%未満とするのが好ましい。
【0029】
続いてポリプロピレン原料Bについて説明する。
【0030】
ポリプロピレン原料Bとしては、上述したポリプロピレン原料Aとの相溶性が良く、かつ、高い透明性を得るために、結晶性や立体規則性の低いポリプロピレン原料であることが好ましい。このようなポリプロピレン原料Bとしては、非晶性ポリプロピレンや低立体規則性ポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、α−オレフィン共重合体などを用いることができるが、少ない添加量で優れた透明性を得ることができることから、非晶性ポリプロピレンや低立体規則性ポリプロピレンが特に好ましい。
【0031】
ポリプロピレン原料Bとして、好ましく用いられる非晶性ポリプロピレンとしては、主としてアタクチックな立体規則性を有するポリプロピレンポリマーが主成分であることが好ましく、具体的には、ホモポリマーあるいは、α−オレフィンとのコポリマーが挙げられる。特に後者、即ち、非晶性ポリプロピレン−α−オレフィン共重合体が好ましい。なお、本願において「主成分」とは、特定の成分が全成分中に占める割合が50質量%以上であることを意味し、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、最も好ましくは95質量%以上である。
【0032】
上記非晶性ポリプロピレンは、ホモポリプロピレン重合の際、アイソタクチックポリプロピレンの副産物として製造することができる。ガラス転移温度が一般のポリプロピレンと比べると低いため、ホモポリプロピレンの沸騰n−ヘプタン(またはキシレン)可溶分として抽出することができる。あるいは、結晶性ポリプロピレンの製造時に適用される触媒及び重合条件を変えて独立して非晶性ポリプロピレンを重合することも可能である。本発明に好ましく用いられる非晶性ポリプロピレンは、従来公知の製造方法により製造されたものであれば特に限定することなく使用することができる。以上のような特徴を有する非晶性ポリプロピレンとしては、住友化学(株)製“タフセレン”などの市販品を適宜選択の上、使用することができる。
【0033】
本発明における非晶性ポリプロピレンとして非晶性ポリプロピレン−α−オレフィン共重合体を用いる場合、該α−オレフィンとしては、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、4−メチル・1−ペンテン、あるいはプロピレン−エチレン−1−ブテンなどが望ましい。
【0034】
またこのようなα−オレフィンを用いた非晶性ポリプロピレン−α−オレフィン共重合体としては、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・環状オレフィン共重合体、プロピレン・エチレン・ブタジエン共重合体などが挙げられる。
【0035】
ポリプロピレン原料Bとして、好ましく用いられる低立体規則性ポリプロピレンとしては、プロピレンの単独重合体であって、重合触媒としてメタロセン触媒を用いて製造されたものが好ましい。低立体規則性ポリプロピレンの融点は、100℃以下であり、60〜90℃であることがより好ましく、65〜85℃であることが特に好ましい。重量平均分子量は4万〜20万であることが好ましく、分子量分布Mw/Mnは1〜3であることが好ましい(Mw:重量平均分子量、Mn:数平均分子量)。以上のような特徴を有する低立体規則性ポリプロピレンとしては、出光興産(株)製“エルモーデュ”などの市販品を適宜選択の上、使用することができる。
【0036】
また本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上述したポリプロピレン原料Aおよびポリプロピレン原料Bの他に、強度向上や耐電圧向上の観点から分岐鎖状ポリプロピレンHを含有させてもよい。添加する場合は、0.05〜10質量%が好ましく、より好ましくは0.5〜8質量%、さらに好ましくは1〜5質量%含有せしめることが好ましい。上記分岐鎖状ポリプロピレンHを含有させることで溶融押出した樹脂シートの冷却工程で生成する球晶サイズを小さく制御でき、透明性や強度に優れたポリプロピレンフィルムを得ることができる。
【0037】
上記の分岐鎖状ポリプロピレンHとしては、製膜性の観点からメルトフローレート(MFR)は1〜20g/10分の範囲にあるものが好ましく、1〜10g/10分の範囲にあるものがより好ましい。また溶融張力については、1〜30cNの範囲にあるものが好ましく、2〜20cNの範囲にあるものがより好ましい。また、ここでいう分岐鎖状ポリプロピレンHとは、カーボン原子10,000個中に対し5箇所以下の内部3置換オレフィンを有するポリプロピレンである。この内部3置換オレフィンの存在はH−NMRスペクトルのプロトン比により確認することができる。
【0038】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムを構成するポリマー中に含まれるエチレン成分の含有量が10質量%以下であることが好ましい。より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。エチレン成分の含有量が多いほど、結晶性が低下して、透明性を向上させやすいが、エチレン成分の含有量が10質量%を超えると、強度が低下したり、耐熱性が低下して熱収縮率が悪化したりする場合がある。
【0039】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムを構成するポリマー中に含まれる石油樹脂の含有量が5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、石油樹脂を含まないことが最も好ましい。石油樹脂を添加することにより、透明性や強度向上させることができるが、石油樹脂の含有量が5質量%を超えると、耐熱性が低下して熱収縮率が悪化したり、また、原料コストが高くなる場合がある。
【0040】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、フィルムを構成するポリマー中に含まれるシクロオレフィンポリマーの含有量が5質量%以下であることが好ましい。より好ましくは3質量%以下、更に好ましくは1質量%以下であり、シクロオレフィンポリマーを含まないことが最も好ましい。シクロオレフィンポリマーを添加することにより、耐熱性や強度向上させることができるが、シクロオレフィンポリマーの含有量が5質量%を超えると、ポリプロピレンとの相溶性の問題から透明性が低下してヘイズが悪化したり、また、原料コストが高くなる場合がある。
【0041】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、透明性、耐熱性、強度の観点からフィルムを構成するポリマー中に含まれるポリプロピレンポリマーの含有量が95質量%以上であることが好ましい。より好ましくは96質量%以上、更に好ましくは97質量%以上であり、最も好ましくは98質量%以上である。
【0042】
本発明のポリプロピレン原料には、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤などを含有せしめることもできる。
【0043】
これらの中で、酸化防止剤の種類および添加量の選定は長期耐熱性の観点から重要である。すなわち、かかる酸化防止剤としては立体障害性を有するフェノール系のもので、そのうち少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。その具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えばBASF社製Irganox(登録商標)1330:分子量775.2)またはテトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製Irganox(登録商標)1010:分子量1177.7)等を併用することが好ましい。これら酸化防止剤の総含有量はポリプロピレン全量に対して0.03〜1.0質量%の範囲が好ましい。酸化防止剤が少なすぎると押出工程でポリマーが劣化してフィルムが着色したり、長期耐熱性に劣る場合がある。酸化防止剤が多すぎるとこれら酸化防止剤のブリードアウトにより透明性が低下する場合がある。より好ましい含有量は0.1〜0.9質量%であり、特に好ましくは0.2〜0.8質量%である。
【0044】
本発明のポリプロピレン原料には、本発明の目的に反しない範囲で、結晶核剤を添加することができる。既述の通り、分岐鎖状ポリプロピレン(H)は既にそれ自身でα晶またはβ晶の結晶核剤効果を有するものであるが、別種のα晶核剤(ジベンジリデンソルビトール類、安息香酸ナトリウム等)、β晶核剤(1,2−ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウム、N,N’−ジシクロヘキシル−2,6−ナフタレンジカルボキサミド等のアミド系化合物、キナクリドン系化合物等)等が例示される。但し、上記別種の核剤の過剰な添加は延伸性の低下やボイド形成等による透明性や強度の低下を引き起こす場合があるため、添加量は通常0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、更に好ましくは0.05質量%以下とすることが好ましく、添加しないことが最も好ましい。
【0045】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上述した原料を用い、二軸延伸されることによって得られる。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、ステンター同時二軸延伸法、ステンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、製膜安定性、厚み均一性、フィルムの高剛性と寸法安定性を制御する点においてステンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0046】
次に、上記ポリプロピレン原料を用いたフィルムの構成について説明する。
【0047】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、高強度と高透明性と低熱収を同時に満たすため、少なくとも2層の積層構成とすることが好ましい。
【0048】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、積層構成の内、少なくとも1層(以後、I層とする。)は、高強度と低熱収の観点からポリプロピレン原料Aを96質量%以上含むことが好ましい。I層中のポリプロピレン原料Aの含有量は、より好ましくは97質量%以上、更に好ましくは98質量%以上である。I層中のポリプロピレン原料Aの含有量が96質量%未満であると、フィルムの配向が低くなり強度が低下したり、また、耐熱性の低い添加成分が多い場合には、熱収が大きくなる場合がある。
【0049】
また、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、積層構成の内、少なくとも1層(以後、II層とする。)は、透明性と低熱収の観点からポリプロピレン原料Aとポリプロピレン原料Bの混合割合が50:50〜95:5(質量比。以下同じ)であることが好ましい。より好ましくは60:40〜95:5、更に好ましくは70:30〜93:7である。II層中のポリプロピレン原料Bの混合割合が50を超えると、強度や耐熱性が低下する場合がある。5未満であると未延伸フィルムの立体規則性が高くなりすぎて、延伸時に透明性が低下する場合がある。
【0050】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、少なくとも2層以上の積層構成であり、上述したI層およびII層が少なくとも1層ずつ含まれていることが好ましい。フィルムの厚み方向における、I層の積層厚み割合は、0.5%以上であることが好ましく、より好ましくは1%以上、更に好ましくは1.5%以上、最も好ましくは2%以上である。II層の積層厚み割合は、1%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上、更に好ましくは15%以上、最も好ましくは20%以上である。
【0051】
また、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、上述した積層構成の内、少なくとも片面の表層に粒子(以下、易滑粒子という)を含むことが、摩擦係数低減の観点から好ましい。易滑粒子は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定はされず、無機粒子としては、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カーボンブラック、ゼオライト粒子等、有機粒子としては、アクリル系樹脂粒子、スチレン系樹脂粒子、ポリエステル系樹脂粒子、ポリウレタン系樹脂粒子、ポリカーボネート系樹脂粒子、ポリアミド系樹脂粒子、シリコーン系樹脂粒子、フッ素系樹脂粒子、あるいは上記樹脂の合成に用いられる2種以上のモノマーの共重合樹脂粒子等が挙げられる。ただし、ポリプロピレン樹脂は表面エネルギーが低いために、粒子を添加して延伸すると、延伸時に粒子界面が剥離してボイドが発生し、ヘイズが上昇して透明性が低下する場合がある。透明性向上の観点から、表面にシランカップリング処理をした上記無機粒子または有機粒子を用いることが好ましく、特にシランカップリング処理したシリカ粒子が好ましい。
【0052】
易滑粒子の平均粒子径は、0.1μm以上1.0μm未満であることが好ましい。平均粒子径が0.1μm未満であると、粒子が凝集して粗大粒子となり、透明性が低下する場合がある。平均粒子径が1.0μm以上であると、延伸時に粒子界面にボイドが発生しやすくなり、透明性が低下する場合がある。また、表層に添加した粒子が製膜中に脱落し、表面粗さが大きくなったり、ヘイズが上昇する場合がある。平均粒子径は、0.1μm以上0.9μm未満であることがより好ましく、0.1μm以上0.8μm未満であることが更に好ましい。また、ハンドリング性向上の観点から、2種類以上の平均粒子径の異なる粒子を併用しても構わない。
【0053】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、少なくとも2層の積層構成とし少なくとも片面の表層に易滑粒子を含むことが好ましい。このとき易滑粒子を含む層の厚みは0.05〜2.0μmであることが好ましい。0.05μm未満であると、製膜中に易滑粒子が脱落する場合がある。2.0μmを超えると、ヘイズが上昇し透明性が低下する場合がある。易滑粒子を含む層の厚みは0.1〜1.0μmであることがより好ましく、0.2〜0.8μmであることが更に好ましい。
【0054】
易滑粒子を含む層の原料における、易滑粒子の含有量は、0.01質量%以上1.0質量%未満であることが好ましい。含有量が0.01質量%未満では、摩擦係数低減の効果が得られない場合がある。含有量が1.0質量%以上では、ヘイズが上昇し透明性が低下する場合がある。含有量は、より好ましくは0.05質量%以上0.9質量%未満であり、更に好ましくは0.1質量%以上0.8質量%未満である。
【0055】
次に本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムの製造方法を説明するが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0056】
まず、ポリプロピレン原料AをA層用の単軸押出機に供給し、ポリプロピレン原料Aとポリプロピレン原料Bを90:10(質量比)でドライブレンドした原料をB層用の単軸押出機に供給し、200〜260℃にて溶融押出を行う。そして、ポリマー管の途中に設置したフィルターにて異物や変性ポリマーなどを除去した後、マルチマニホールド型のA層/B層複合Tダイにて1/4〜1/200の積層厚み比になるように積層し、キャストドラム上に吐出し、A層/B層の層構成を有する積層未延伸シートを得る。ここで積層構成はA層/B層/A層の3層積層構成としても良く、その際の積層厚み比(個別のA層とB層の比率)も1/4〜1/200であることが好ましい。この際、キャストドラムは表面温度が10〜40℃であることが、透明性の観点から好ましい。また、A層がドラムに接触する面とすることが、透明性の観点から好ましい。また、A層/B層/A層の3層積層構成としても構わない。キャスティングドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、平面性が良好でかつ表面粗さの制御が可能なエアーナイフ法が好ましい。エアーナイフのエアー温度は、0〜50℃、好ましくは0〜30℃で、吹き出しエアー速度は130〜150m/sが好ましく、幅方向均一性を向上させるために2重管構造となっていることが好ましい。また、フィルムの振動を生じさせないために製膜下流側にエアーが流れるようにエアーナイフの位置を適宜調整することが好ましい。
【0057】
また、キャスティングドラムへ密着させた後に、フィルムの非キャスティングドラム面をさらに強制的に冷却させることで、非キャスティングドラム面のβ晶生成を抑えることができ、フィルムのヘイズを低下させたり、平滑性を向上させることができる。特にフィルムの厚みが厚い場合は、キャスティングドラムの温度を低く設定して、フィルムのキャスティングドラム面のβ晶を低減させても、非キャスティングドラム面の温度は急激には低下せず、β晶が生成し、ヘイズや平面性の悪化に繋がる場合がある。β晶の生成しやすい温度は、80〜120℃であるため、キャスティングドラムへ密着させた後に、フィルムの非キャスティングドラム面を強制的に80℃以下まで冷却させることが好ましい。80℃以下まで低下させる時間は、キャスト後5秒以内であることが好ましく、4秒以内であることが更に好ましい。非キャスティングドラム面の冷却方法は、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、設備として簡易で、表面粗さの制御がし易く、平滑性が良好であるエアーナイフ法が好ましい。
【0058】
得られた未延伸シートは、空気中で放冷された後、縦延伸工程に導入される。縦延伸工程ではまず複数の120℃以上150℃未満に保たれた金属ロールに未延伸シートを接触させて予熱し延伸温度まで昇温するが、この予熱工程において、一度未延伸フィルムの表面を150〜170℃に保たれた金属ロールに接触させることが、透明性向上の観点から好ましい。具体的には、例えば予熱ロールが6本ある場合、1本目を100℃、2本目を140℃に設定して徐々に昇温し、3本目と4本目を155℃に設定して、未延伸シートの両面を順次ロールに接触させ、5本目と6本目を140℃に設定して、延伸温度まで予熱するなどの条件を挙げることができる。上述した方法により、透明性が向上する理由は以下のように考えられる。キャスト後の未延伸シート表面には、空気中で放冷された後、微小のβ晶結晶が存在するが、続く縦延伸工程および横延伸工程でβ晶は開裂しフィブリルを形成してヘイズの原因となり、フィルムの透明性を低下させる場合がある。縦延伸の予熱工程において一度未延伸フィルムの表面を150〜170℃の金属ロールに接触させることにより、未延伸フィルム表面のβ晶をα晶に転移させることができ、結果的に得られる二軸配向ポリプロピレンフィルムの透明性が向上するものと考えられる。一度150〜170℃の金属ロールに接触させた後は、120℃以上150℃未満に保たれたロールにより、延伸温度まで予熱され、長手方向に3〜8倍に延伸した後、室温まで冷却する。延伸温度が150℃以上であると、フィルムの配向が弱くなり、強度が低下する場合がある。また延伸倍率が3倍未満であるとフィルムの配向が弱くなり、強度が低下する場合がある。
【0059】
次いで縦一軸延伸フィルムをテンターに導いてフィルムの端部をクリップで把持し横延伸を140〜165℃の温度で幅方向に7〜13倍に延伸する。延伸温度が低いと、フィルムが破断したり透明性が低下する場合があり、延伸温度が高すぎると、フィルムの配向が弱く強度が低下する場合がある。また、倍率が高いとフィルムが破断する場合があり、倍率が低いとフィルムの配向が弱く強度が低下する場合がある。
【0060】
本発明においては続く熱処理および弛緩処理工程ではクリップで幅方向を緊張把持したまま幅方向に2〜20%の弛緩率で弛緩を与えつつ、100℃以上140℃度未満の温度で熱固定(1段目)した後に、クリップで幅方向を緊張把持したまま前記の熱固定温度を超えて横延伸温度未満の条件で熱固定を施す(2段目)ように多段方式の熱処理を行うことが、高強度と低熱収の両立の観点から好ましい。
【0061】
弛緩率は熱寸法安定性を得る観点から5〜18%がより好ましく、8〜15%が更に好ましい。20%を超える場合はテンター内部でフィルムが弛みすぎ製品にシワが入る場合があり、弛緩率が2%より小さい場合は熱寸法安定性が得られない場合がある。
【0062】
1段目の熱処理・弛緩温度は100℃以上130℃未満がより好ましく、110℃以上130℃未満がさらに好ましい。100℃未満の熱処理温度ではフィルムが十分に弛緩せず、熱収縮が大きくなったり、フィルムがばたついてシワが入る場合がある。他方、130℃以上での熱処理の場合は分子鎖配向緩和が進行するためフィルムの強度が低下する場合がある。
【0063】
2段目熱処理温度は1段目の熱処理温度を超えて1段目の熱処理温度+30℃以下とすることで、1段目の熱処理工程で緩和不十分な運動性の高い非晶分子鎖を緩和させることができ、高強度と低熱収を両立できるものである。この観点から2段目熱処理温度は、1段目の熱処理温度+5℃以上、1段目の熱処理温度+25℃以下がより好ましく、1段目の熱処理温度+8℃以上、1段目の熱処理温度+15℃以下がさらに好ましい。
【0064】
多段式の熱処理を経た後はクリップで幅方向を緊張把持したまま80〜100℃での冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、ワインダ工程にてフィルムエッジ部をスリットし、フィルム製品ロールを巻き取る。
【0065】
以上のようにして得られた本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムは、包装用フィルム、離型用フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途で用いることができるが、特に高強度、低熱収であり、かつ透明性に優れることから、位相差フィルムや偏光子保護フィルムなどのフラットパネルディスプレイ用フィルムやディスプレイなどの製造工程用フィルムや、フィルムコンデンサ用素子として好ましく用いることができる。
【0066】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをフラットパネルディスプレイ用フィルムとして用いる場合は、偏光子の少なくとも片面に本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを貼り合わせて、偏光板として使用することができる。また、位相差フィルムとして用いる場合は、液晶セルと偏光板の間や偏光板の外側に、本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを所定の角度にて設置することにより使用することができる。たとえば、液晶パネルの両面に、上述した位相差フィルムや偏光板を配置し、背面から光源を当てることにより、液晶ディスプレイとして用いることができる。
【0067】
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムをコンデンサ用フィルムとして用いる場合は、まず表面に金属膜を設ける。金属膜を設けて金属膜積層フィルムとする方法は特に限定されないが、例えば、ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、アルミニウムを蒸着してフィルムコンデンサの内部電極となるアルミニウム蒸着膜等の金属膜を設ける方法が好ましく用いられる。このとき、アルミニウムと同時あるいは逐次に、例えば、ニッケル、銅、金、銀、クロムおよび亜鉛などの他の金属成分を蒸着することもできる。また、蒸着膜上にオイルなどで保護層を設けることもできる。
【0068】
本発明では、必要により、金属膜を形成後、金属膜積層フィルムを特定の温度でアニール処理を行なったり、熱処理を行なったりすることができる。また、絶縁もしくは他の目的で、金属膜積層フィルムの少なくとも片面に、ポリフェニレンオキサイドなどのコーティングを施すこともできる。
【0069】
このようして得られた金属膜積層フィルムは、種々の方法で積層もしくは巻回してフィルムコンデンサを得ることができる。巻回型フィルムコンデンサの好ましい製造方法を例示すると、次のとおりである。
【0070】
ポリプロピレンフィルムの片面にアルミニウムを減圧状態で蒸着する。その際、フィルム長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着する。次に、表面の各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、表面が一方にマージンを有した、テープ状の巻取リールを作成する。左もしくは右にマージンを有するテープ状の巻取リールを左マージンおよび右マージンのもの各1本ずつを、幅方向に蒸着部分がマージン部よりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、巻回体を得る。
【0071】
両面に蒸着を行う場合は、一方の面の長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着し、もう一方の面には長手方向のマージン部が裏面側蒸着部の中央に位置するようにストライプ状に蒸着する。次に表裏それぞれのマージン部中央に刃を入れてスリットし、両面ともそれぞれ片側にマージン(例えば表面右側にマージンがあれば裏面には左側にマージン)を有するテープ状の巻取リールを作製する。得られたリールと未蒸着の合わせフィルム各1本ずつを、幅方向に金属化フィルムが合わせフィルムよりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、巻回体を得る。
【0072】
以上のようにして作成した巻回体から芯材を抜いてプレスし、両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサを得ることができる。フィルムコンデンサの用途は、鉄道車輌用、自動車用(ハイブリットカー、電気自動車)、太陽光発電・風力発電用および一般家電用等、多岐に亘っており、本発明のフィルムコンデンサもこれら用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。なお、特性は以下の方法により測定、評価を行った。
【0074】
(1)フィルム厚み
マイクロ厚み計(アンリツ社製)を用いて5点測定し、平均値を求めた。
【0075】
(2)長手方向および幅方向の引張弾性率(EMD、ETD
二軸配向ポリプロピレンフィルムを試験方向長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製テンシロンAMF/RTA−100)を用いて、JIS K 7127:1999に規定された方法に準じて、25℃、65%RH雰囲気で5回測定を行い、平均値を求めた。ただし、初期チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分として、試験を開始してから荷重が1Nを通過した点を伸びの原点とした。
【0076】
(3)フィルムの全ヘイズ
本発明の二軸配向ポリプロピレンフィルムを、ヘイズメーター(日本電色工業社製、NDH−5000)を用いて、JIS K 7136:2000に準じて23℃でのヘイズ値(%)を3回測定し、平均値を用いた。
【0077】
(4)フィルムの表面粗さ(SRa、SRz)
二軸配向ポリプロピレンフィルムを、表面粗さ計(SURFCORDER ET4000A:(株)小坂研究所製)を用い、JIS B 0601:2001に基づき、下記測定条件にて測定を行い、中心平均表面粗さSRa(nm)および十点平均粗さSRz(nm)を求めた。ただし、測定は押出時にキャストドラムと接触する面について3カ所測定し、平均値とした。
【0078】
<測定条件>
測定速度:0.1mm/S
測定範囲:長手方向1000μm、幅方向400μm
測定ピッチ:長手方向1μm、幅方向5μm
カットオフ値λc:0.2mm
触針先端半径:0.5μm
(5)フィルムの面内位相差および厚み方向位相差(Ret、Rth)
王子計測(株)製の自動複屈折計(KOBRA−21ADH)を用い、波長548.3nmの光線に対する面内位相差及び厚み方向位相差を測定した。
【0079】
(6)長手方向および幅方向の85℃100時間処理後の熱収縮率
フィルムの長手方向および幅方向のそれぞれについて、幅10mm、長さ200mm(測定方向)の試料を5本切り出し、両端から25mmの位置に標線として印しを付けて、万能投影機で標線間の距離を測定し試長(l)とする。次に、試験片を紙に挟み込み荷重ゼロの状態で85℃に保温されたオーブン内で、100時間加熱後に取り出して、室温で冷却後、寸法(l)を万能投影機で測定して下記式にて求め、5本の平均値を熱収縮率とした。
【0080】
熱収縮率={(l−l)/l}×100(%)
(7)静摩擦係数μs
東洋テスター工業製摩擦測定器を用い、ASTM−D1894(1999年)に準じて、フィルムの一方の面とその裏面とが接触するように重ねてMD方向同士を摩擦させた時の初期の立ち上がり抵抗値を測定し、最大値を静摩擦係数μsとした。ただし、初期の立ち上がりが大きくて測定値上限(5.0)を超えた場合は測定不能とした。サンプルは、幅80mm、長さ200mmの長方形とし、5セット(10枚)切り出した。5回測定を行い、平均値を求めた。
【0081】
(8)フィルムの融点Tm
二軸配向ポリプロピレンフィルム5mgを試料としてアルミニウム製のパンに採取し、示差走査熱量計(セイコー電子工業製RDC220)を用いて測定した。まず、窒素雰囲気下で室温から260℃まで10℃/分で昇温(ファーストラン)し、10分間保持した後、20℃まで10℃/分で冷却する。5分保持後、再度10℃/分で昇温(セカンドラン)した際に観測される融解ピーク温度をフィルムの融点Tmとした。
【0082】
(実施例1)
表層(A)用のポリプロピレン原料として結晶性PP(a)((株)プライムポリマー社製、TF850H、極限粘度[η]:1.8dl/g、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)をA層用の単軸の溶融押出機に供給し、コア層(B)用のポリプロピレン原料として、上記結晶性PP(a)90質量部と、低立体規則性PP(b)(出光興産(株)製、エルモーデュS901、MFR:50g/10分、分子量分布Mw/Mn:2、融点:80℃)10質量部とをドライブレンドしてB層用の単軸の溶融押出機に供給し、240℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のA/B/A複合Tダイにて1/8/1の厚み比で積層し、30℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、7本のセラミックロールを用いて140℃に予熱を行い(ただし、ロール温度は1本目を100℃、2本目を125℃、3〜7本目を140℃とした)フィルムの長手方向に4.6倍延伸を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、170℃で3秒間予熱後、165℃で8.0倍に延伸した。続く熱処理工程で、1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に10%の弛緩を与えながら120℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま140℃で3秒間熱処理を行った。その後100℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、フィルムをコアに巻き取り、厚み12μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0083】
(実施例2)
実施例1の縦延伸工程において、7本のセラミックロールのうち、4本目と5本目の温度を155℃とし、それ以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0084】
(実施例3)
実施例1の熱処理工程において、弛緩率を15%とし、それ以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0085】
(実施例4)
表層(A)用のポリプロピレン原料として結晶性PP(a)((株)プライムポリマー社製、TF850H、極限粘度[η]:1.8dl/g、MFR:2.9g/10分、アイソタクチック指数:96%)をA層用の単軸の溶融押出機に供給し、コア層(B)用のポリプロピレン原料として、上記結晶性PP(a)85質量部と、低立体規則性PP(b)(出光興産(株)製、エルモーデュS901、MFR:50g/10分、分子量分布Mw/Mn:2、融点:80℃)15質量部とをドライブレンドしてB層用の単軸の溶融押出機に供給し、240℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のA/B/A複合Tダイにて1/10/1の厚み比で積層し、30℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、7本のセラミックロールを用いて140℃に予熱を行い(ただし、ロール温度は1本目を100℃、2本目を125℃、3〜7本目を140℃とした)フィルムの長手方向に4.6倍延伸を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、170℃で3秒間予熱後、165℃で8.0倍に延伸した。続く熱処理工程で、1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に10%の弛緩を与えながら120℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま140℃で3秒間熱処理を行った。その後100℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、フィルムをコアに巻き取り、厚み12μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0086】
(実施例5)
まず、結晶性PP(a)(プライムポリマー(株)製、TF850H、MFR:2.9g/10分)を99.3質量部、表面シランカップリング処理したシリカ粒子(電気化学工業社製、SFP−20MHE、平均粒径0.3μm)を0.5質量部、さらに酸化防止剤であるチバ・スペシャリティ・ケミカルズ製IRGANOX1010、IRGAFOS168を各々0.1質量部ずつがこの比率で混合されるように計量ホッパーから二軸押出機に原料供給し、260℃で溶融混練を行い、ストランド状にダイから吐出して、25℃の水槽にて冷却固化し、チップ状にカットしてA層用のポリプロピレン原料(1)を得た。
【0087】
表層(A)用のポリプロピレン原料として上記ポリプロピレン原料(1)をA層用の単軸の溶融押出機に供給し、コア層(B)用のポリプロピレン原料として、上記結晶性PP(a)90質量部と、低立体規則性PP(b)(出光興産(株)製、エルモーデュS901、MFR:50g/10分、分子量分布Mw/Mn:2、融点:80℃)10質量部とをドライブレンドしてB層用の単軸の溶融押出機に供給し、240℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のA/B/A複合Tダイにて1/15/1の厚み比で積層し、30℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを得た。ついで、7本のセラミックロールを用いて140℃に予熱を行い(ただし、ロール温度は1本目を100℃、2本目を125℃、3〜7本目を140℃とした)フィルムの長手方向に4.6倍延伸を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、170℃で3秒間予熱後、165℃で8.0倍に延伸した。続く熱処理工程で、1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に10%の弛緩を与えながら120℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま140℃で3秒間熱処理を行った。その後100℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、フィルムをコアに巻き取り、厚み12μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0088】
(実施例6)
表層(A)用のポリプロピレン原料として上記ポリプロピレン原料(1)をA層用の単軸の溶融押出機に供給し、コア層(B)用のポリプロピレン原料として、上記結晶性PP(a)をB層用の単軸の溶融押出機に供給し、240℃で溶融押出を行い、60μmカットの焼結フィルターで異物を除去後、フィードブロック型のA/B/A複合Tダイにて1/30/1の厚み比で積層し、30℃に表面温度を制御したキャストドラムに吐出してキャストシートを形成し、更にキャスト後、キャストシートの非冷却ドラム面に温度30℃、圧力0.3MPaの圧空エアーを吹き付けて冷却し、キャストシートを得た。キャストから4秒後の非キャスティングドラム面の温度は75℃であった。ついで、7本のセラミックロールを用いて140℃に予熱を行い(ただし、ロール温度は1本目を100℃、2本目を125℃、3〜7本目を140℃とした)フィルムの長手方向に4.6倍延伸を行った。次にテンター式延伸機に端部をクリップで把持させて導入し、170℃で3秒間予熱後、165℃で8.0倍に延伸した。続く熱処理工程で、1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に10%の弛緩を与えながら120℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま140℃で3秒間熱処理を行った。その後100℃で冷却工程を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、フィルムをコアに巻き取り、厚み25μmの二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0089】
(比較例1)
実施例1において、コア層(B)用のポリプロピレン原料として結晶性PP(a)を使用(表層もコア層も同じ原料を使用)し、それ以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。原料の結晶性が高く、透明性が悪化した。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0090】
(比較例2)
実施例1において、コア層(B)用のポリプロピレン原料として結晶性PP(a)50質量部と、シンジオタクチックPP(c)(シンジオタクチックペンタッド分率:0.92、MFR:3.5g/10分)50質量部とをドライブレンドしてB層用の単軸の溶融押出機に供給し、それ以外は実施例1と同様の方法で二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。原料の結晶性および耐熱性が低く、透明性は良化したものの、強度と熱収が悪化した。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0091】
(比較例3)
実施例4の熱処理工程において、1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に10%の弛緩を与えながら145℃で熱処理を行ない、それ以外は実施例4と同様の方法で二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。弛緩時の温度が高いため、配向緩和が進み、フィルムの強度が悪化した。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0092】
(比較例4)
実施例4の横延伸工程において、横延伸倍率を5.5倍とし、それ以外は実施例4と同様の方法で二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの厚みは17μmであった。延伸倍率が低いため配向が弱く、フィルムの強度が悪化した。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0093】
(比較例5)
実施例6において、キャスト後、エアーによる冷却を実施しなかった以外は実施例6と同様の方法で二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの厚みは25μmであった。冷却を実施しなかったため、フィルムのヘイズ、平面性が悪化した。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0094】
(比較例6)
実施例6において、コア層(B)用のポリプロピレン原料にも、表層(A)用のポリプロピレン原料と同様の上記ポリプロピレン原料(1)を用い、それ以外は実施例6と同様の方法で二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの厚みは25μmであった。全層に粒子が含有されるため、フィルムのヘイズが悪化した。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0095】
(比較例7)
実施例5において、電気化学工業社製のシリカ粒子SFP−20MHEの代わりに、水澤化学株式会社製のシリカ粒子シルトンAMT−20S(粒径1.7μm、表面処理無し)を1.25質量部使用し、それ以外は実施例5と同様の方法で二軸配向ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムの厚みは12μmであった。延伸時に、粒子とポリプロピレンの界面にボイドが発生し、フィルムのヘイズが悪化した。二軸配向ポリプロピレンフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0096】
【表1】