【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究事業「染谷生体調和エレクトロニクス」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記一般式(a1)で表されるモノマーが、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-アクリロイルトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリセロール(メタ)アクリレート、およびこれらの組合せからなる群から選択されたモノマーであることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の導電性ハイドロゲル。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<導電性ハイドロゲル>
本発明の導電性ハイドロゲルは、共有結合によって架橋されたポリマーを分散質と、導電材料とを分散質として含むものである。ここで、本発明のハイドロゲルの分散媒は水であるが、生体への影響が少なく、本発明の効果が阻害されない限り、水以外の成分を含むものであってもよい。
【0011】
なお、本明細書では、共有結合によって架橋されたポリマーを「架橋ポリマー」と称し、架橋部分以外の基本骨格を構成するポリマーを単に「ポリマー」と称することとする。
【0012】
また、本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味するものとする。
【0013】
〔架橋ポリマー〕
本発明の導電性ハイドロゲルの分散質をなす架橋ポリマーの基本骨格を構成するポリマーは、下記一般式(a1)で表されるモノマーから得られる構成単位を含むものである。
【0015】
〔式(a1)中、R
1は、水素またはメチル基であり、R
2は水酸基で置換された炭素数1〜12のアルキル基または水酸基で置換された炭素数6〜20のアリール基であり、XはO、SまたはN-R
3(R
3は、水素または水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜12の基)である。〕
式(a1)中、R
1は、導電性ハイドロゲルの軟らかさの点では水素が好ましく、機械的強度をより高める点ではメチル基が好ましい。
【0016】
R
2を構成する、水酸基で置換された炭素数1〜12のアルキル基の例としては、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル基などが挙げられる。また、水酸基で置換された炭素数6〜20のアリール基の例としては、2−ヒドロキシフェニル基、3−ヒドロキシフェニル基、4−ヒドロキシフェニル基、2−ヒドロキシナフチル基、3−ヒドロキシナフチル基、4−ヒドロキシナフチル基などが挙げられる。これらのうち、得られる導電性ハイドロゲルの柔軟性の点で好ましいのは、水酸基で置換された炭素数1〜12のアルキル基である。また、R
2の炭素数が多すぎると導電性ハイドロゲルの含水率が低下して硬くなる傾向があり、炭素数が少なすぎると導電性ハイドロゲルに用いられる導電材料との親和性が低下する傾向がある。そのため、R
2がアルキル基である場合の炭素数は1〜8が好ましく、1〜6がより好ましく、1〜4がさらに好ましい。
【0017】
Xは、低弾性率の導電性ハイドロゲルを得られやすい点で、Oが最も好ましい。
【0018】
XがN-R
3の場合、R
3の例としては、水素、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、2−ヒドロキシ−1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル基などが挙げられる。R
3の炭素数が多すぎると相対的にシリコーン含有量が下がり、酸素透過性が低下する傾向があることから、R
3は水素、炭素数1〜10のアルキル基またはアリール基が好ましく、水素または炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。
【0019】
前記一般式(a1)で表されるモノマーの好適な例として、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-(2-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-(3-ヒドロキシプロピル)(メタ)アクリルアミド、N-アクリロイルトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、グリセロール(メタ)アクリレート、が挙げられ、これらは単独でまたは組み合わせて用いることができる。これらの中で良好な機械的強度を有する導電性ハイドロゲルを得られる点で2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましく、中でも、生体適合性の点で最も好ましいのは2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下、HEMA)である。なお、本明細書において(メタ)アクリルという語はメタクリルおよびアクリルの両方を表すものとし、(メタ)アクリロイル、(メタ)アクリレートなどの語も同様に解釈されるものとする。
【0020】
本発明の導電性ハイドロゲルの分散質をなす架橋ポリマーにおいて、前期一般式(a1)で表されるモノマーから得られる構成単位の含有量が少なすぎると本発明の効果が得られにくい。そのため、前記一般式(a1)で表されるモノマーは、重合の際、重合原液から重合溶媒を除いた成分の質量の合計を100質量部とすると、これに対し20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましく、70質量部以上がよりいっそう好ましく、85質量部以上が最も好ましい。なお、本明細書においては、以降の記載においても、重合の際の重合原液から重合溶媒を除いた成分の質量の合計を100質量部とし、これに対する質量割合を「質量部」として表すものとする。
【0021】
本発明において、ポリマーがさらに(メタ)アクリルアミド系モノマーから得られる構成単位を含むと、導電性ハイドロゲルの含水率が高くなり、導電性が向上する点で好ましい。なお、本明細書において(メタ)アクリルアミド系モノマーとは重合性基にメタクリルアミド基またはアクリルアミド基を有するモノマーを表す。
【0022】
(メタ)アクリルアミド系モノマーの好適な例としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド(以下DMA)、N,N−ジメチルメタクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、2−ヒドロキシエチルメタクリルアミド、2−ヒドロキシエチルアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸(以下AMPS)が挙げられ、これらは単独でまたは組み合わせて用いることができる。これらの中で、導電性ハイドロゲルの含水率を向上する点および良好な溶解性を有する点からDMAが最も好ましい。
【0023】
(メタ)アクリルアミド系モノマーから得られる構成単位の含有量としては、少なすぎると含水率が低くなって導電性ハイドロゲルの柔軟性が低下するため、(メタ)アクリルアミド系モノマーの配合量は0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、多すぎると含水率が高くなりすぎて機械的強度が低下することから、70質量部以下でが好ましく、60質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。
【0024】
また、ポリマーに、さらに(メタ)アクリル酸から得られる構成単位が含まれると、導電性ハイドロゲルの粘着性を高める点で好ましい。
【0025】
(メタ)アクリル酸としては、柔軟性の観点から、アクリル酸が好ましい。
【0026】
(メタ)アクリル酸から得られる構成単位の含有量としては、少ないと粘着性が低下することから、(メタ)アクリル酸の配合量は0.1質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、5.0質量部以上がさらに好ましい。また、多いと含水率が高くなりすぎて機械的強度が低下することから、50質量部以下が好ましく40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。
【0027】
本発明の導電性ハイドロゲルの分散質である架橋ポリマーは、共有結合により上記のポリマーが架橋された構造を有する。架橋によりポリマーおよび導電材料の溶出が抑制され、優れた生体適合性を有する導電性ハイドロゲルを得ることができる。
【0028】
モノマーを重合する際に架橋させる場合には、架橋剤を用いることが好ましい。架橋剤は、多官能性であって、水、有機溶媒または有機モノマーに溶解する性質を有するものであればよい。このような架橋剤としては、ラジカル重合で反応可能な重合性基を二つ以上有するモノマーが好ましく、さらにはラジカル重合で反応可能な重合性基を二つ有するモノマーがより好ましい。重合性基の好適な例としては、(メタ)アクリレート基、(メタ)アクリルアミド基、スチリル基、ビニル基、アリル基が挙げられる。この中で、モノマー(a1)との共重合性の点で好ましいのは、(メタ)アクリレート基である。
【0029】
このような架橋剤の具体例としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、およびトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの二官能もしくは多官能アクリレート類、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−エチレンビスアクリルアミド、N,N’−プロピレンビスアクリルアミドなどのビスアクリルアミド類が挙げられる。これらの中で、溶解性の点および良好な柔軟性を有する導電性ハイドロゲルが得られる点でポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0030】
架橋剤の配合量により導電性ハイドロゲルの硬さを調整することができるため、架橋剤の配合量は導電性ハイドロゲルの適用用途に応じて適宜決定される。例えば、フィルム形状の導電性ハイドロゲルを得る場合には、架橋剤の配合量は0.1質量部〜10質量部が好ましく、0.5質量部〜8質量部がより好ましく、0.8質量部〜5質量部が最も好ましい。
【0031】
本発明の導電性ハイドロゲルを重合により得る際は、重合を促進するために過酸化物やアゾ化合物に代表される熱重合開始剤や、光重合開始剤を添加することが好ましい。熱重合を行う場合は、所望の反応温度に対して最適な分解特性を有する熱重合開始剤を選択して使用する。一般的には10時間半減期温度が40℃〜120℃のアゾ系開始剤および過酸化物系開始剤が好適である。光重合開始剤としてはカルボニル化合物、過酸化物、アゾ化合物、硫黄化合物、ハロゲン化合物、および金属塩などを挙げることができる。これらの重合開始剤は単独または混合して用いられ、およそモノマー成分100質量%に対して1質量%くらいまでの量で使用される。
【0032】
〔導電材料〕
本発明における導電材料とは、2.0Ωcm以下の電気抵抗率を有する材料のことである。導電材料の形状は、特に限定されないが、分散性の観点からは粒子状または繊維状であることが好ましい。
【0033】
導電材料の具体例としては、炭素材料、金属材料、金属で表面被覆した合成繊維などが挙げられる。これらのうち、生体との接触における炎症の少なさの点において、炭素材料が最も好ましい。炭素材料としては、具体的には、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンファイバー、グラフェンおよびフラーレンなどが挙げられる。これらのうち、簡便な方法で導電性ハイドロゲル中に分散できる点で、カーボンブラック、カーボンナノチューブが好ましい。中でも、少ない含有量で導電性を発現する点および導電率の周波数依存性を抑制する点で、カーボンナノチューブが最も好ましい。
【0034】
本発明の導電性ハイドロゲルに用いる導電材料の断面径は、小さすぎると飛散性が高くなり作業性が低下する点から0.1nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましく、1.0nm以上がさらに好ましい。また、大きすぎるとモノマー等への分散性が低下する点から3000nm以下が好ましく、2000nm以下がより好ましく、1000nm以下がさらに好ましい。ここで、断面経とは、導電材料の形状が粒子状の場合は粒径のことを指し、導電材料の形状が繊維状の場合は、繊維経のことを指すものとする。また、断面径、粒径、繊維径とは数平均値を意味するものとする。
【0035】
導電材料の形状が繊維状の場合、繊維長が短すぎると得られる導電性ハイドロゲルの導電率が低下する可能性があることから、繊維長は0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。また、長すぎると得られる導電性ハイドロゲルから導電材料が露出することから、100μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。
【0036】
導電材料の含有量としては、少なすぎると導電性が低下することから、0.1質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、多すぎるとハイドロゲルの柔軟性が低下してしまうことから、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0037】
〔親水性ポリマー〕
本発明の導電性ハイドロゲルは、さらに親水性ポリマーを含んでいてもよい。親水性ポリマーを含むことで導電性ハイドロゲルの含水率を向上させることが可能となる。親水性ポリマーは水溶性を有することが好ましい。親水性ポリマーの好適な例としては、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、多糖類、ならびにこれらの誘導体や共重合体などが挙げられる。これらのうち、溶解性の点で好ましいのは、ポリビニルピロリドン、ポリジメチルアクリルアミド、ならびにこれらの共重合体である。中でも生体適合性の点で好ましいのは、ポリビニルピロリドンである。
【0038】
導電性ハイドロゲルが親水性ポリマーを含む場合、その含有量は、特に限定されないが、通常、導電性ハイドロゲルの質量(溶媒含まず)を基準として、多すぎると含水率が高くなりすぎて得られる導電性ハイドロゲルの機械的強度が低下する懸念があり、少なすぎると十分な含水率向上効果が得られないことから、0.05質量部〜30質量部が好ましく、さらに好ましくは0.1質量部〜20質量部程度である。
【0039】
〔その他〕
本発明の導電性ハイドロゲルの含水率は、低すぎると導電性ハイドロゲルの柔軟性が低下することから、10%以上が好ましく、20%以上がより好ましく、30%以上がさらに好ましい。また、高すぎると導電性ハイドロゲルの機械的強度が低下することから、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましく、70%以下がさらに好ましい。
【0040】
ここで、含水率は、導電性ハイドロゲル試料の乾燥状態での質量と湿潤状態での質量とから、
[((湿潤状態での質量)−(乾燥状態での質量))/(湿潤状態での質量)]
により算出される値である。
【0041】
湿潤状態とは、試料を室温(23℃)の純水中に24時間以上浸漬した状態を意味し、湿潤状態での質量は、試料を純水中から取り出し、試料片の表面水分を拭き取った後速やかに測定した質量である。また、乾燥状態とは、試料を真空乾燥器で40℃、16時間乾燥した状態を意味する。乾燥状態での質量は、上記真空乾燥の後速やかに測定した質量である。
【0042】
本発明の導電性ハイドロゲルの弾性率は特に限定されないが、用途が筋電計、血圧計、脈拍計、体組成計などのフレキシブルセンサーデバイスの場合、装着感を少なくする点で200psi以下が好ましく、150psi以下がより好ましく、100psi以下がさらに好ましい。
【0043】
本発明の導電性ハイドロゲルの伸度は特に限定されないが、高ければ動的な生体部位に用いても導電性ハイドロゲルが破れにくくなる点から、100%以上が好ましく、150%以上がより好ましく、200%以上が最も好ましい。値が高いほど、導電性ハイドロゲルが破れにくいことを意味する。
【0044】
本発明の導電性ハイドロゲルの弾性率および伸度は、生理食塩水による湿潤状態の試料から最も狭い部分の幅が5mmのアレイ型サンプルを切り出した後に引張試験機で破断するまで速度100mm/分で引っ張って測定する。サンプルの初期標点距離(Lo)と破断時サンプル長(Lf)を測定する。各組成について8個の試料の測定を行い、平均値を報告する。引張弾性率は、応力/ひずみ曲線の初期の線形部分で測定する。伸び率=[(Lf−Lo)/Lo]×100である。
【0045】
本発明の導電性ハイドロゲルの形態は特に限定されず、用途に応じた様々な形態とすることができるが、フレキシブルセンサーデバイスとしての使用を想定した場合にはフィルム状とすることが好ましい。その場合、厚すぎると柔軟性が低下し、薄すぎるとハンドリング性が悪くなることから、0.1μm〜1000μmが好ましく、1μm〜700μmがより好ましく、10μm〜500μmがさらに好ましい。
【0046】
<導電性ハイドロゲルの製造方法>
本発明の導電性ハイドロゲルの製造方法の一例として、下記の製造方法が挙げられる。
【0047】
まず、導電材料を(a1)で表されるモノマーと混合し、湿潤化させて分散溶液を調製する。ついで、該分散溶液を、重合開始剤、架橋剤、重合溶媒等を混合して重合原液を調製する。該重合原液を容器や枠へ流し込み、熱または光を当てることにより重合原液を重合させてゲルを形成する。得られたゲルを容器や枠から剥離する。さらに、得られたゲルを抽出溶媒により抽出してもよい。また、重合溶媒や抽出溶媒として水以外を用いた場合には、さらに水により置換を行う。以上のようにして、導電材料を担持したハイドロゲルが得られる。
【0048】
重合方法としては、熱重合開始剤によるラジカル重合法や、光重合開始剤による光重合法が挙げられる。
【0049】
熱重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、アゾ系開始剤等の一般的な熱重合開始剤が挙げられる。
【0050】
光重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキサイド系開始剤、ベンゾフェノン系開始剤等の一般的な光重合開始剤が挙げられる。
【0051】
重合溶媒としては、有機系、無機系の各種溶媒が適用可能である。例を挙げれば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、tert−アミルアルコール、3,7−ジメチル−3−オクタノール、テトラヒドロリナロールなどの各種アルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの各種芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロイン、パラフィンなどの各種脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチル、二酢酸エチレングリコールなどの各種エステル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールランダム共重合体などの各種グリコールエーテル系溶媒であり、これらは単独あるいは混合して使用することができる。これらの中で水、アルコール系溶媒およびグリコールエーテル系溶媒は得られた導電性ハイドロゲル中から溶媒を水による洗浄で容易に除去できる点で好ましい。
【0052】
重合溶媒の使用量は、少なすぎると特に親水性ポリマーを用いる場合に溶解しにくいことから、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、多すぎると重合しにくくなることから、90質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、70質量部以下がさらに好ましい。ただし、本発明では、重合原液から重合溶媒を除いた成分の質量の合計を100質量部とする。本発明における「質量部」はこの100質量部を基準にした質量割合である。
【0053】
重合に用いた容器から剥離する際の枠剥離方法としては、公知の方法が適用可能であるが、例として、ヘラ状のものを用いて剥がす方法、剥離溶媒に浸漬し膨潤させて剥離する方法等が挙げられる。これらの内、ハイドロゲルが破れにくい点で好ましいのは、剥離溶媒に浸漬し膨潤させて剥離する方法である。
【0054】
膨潤させて剥離する方法を用いる場合の剥離溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、tert−アミルアルコール、3,7−ジメチル−3−オクタノール、テトラヒドロリナロールなどの各種アルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの各種芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロイン、パラフィンなどの各種脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチル、二酢酸エチレングリコールなどの各種エステル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールランダム共重合体などの各種グリコールエーテル系溶媒であり、これらは単独あるいは混合して使用することができる。これらの中で導電性ハイドロゲルを膨潤させやすい点では水、アルコール系溶媒またはグリコールエーテル系溶媒が好ましく、水およびアルコール系溶媒が最も好ましい。
【0055】
ハイドロゲルを抽出する際の抽出溶媒としては、水、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、tert−ブタノール、tert−アミルアルコール、3,7−ジメチル−3−オクタノール、テトラヒドロリナロールなどの各種アルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの各種芳香族炭化水素系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、石油エーテル、ケロシン、リグロイン、パラフィンなどの各種脂肪族炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどの各種ケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、安息香酸メチル、フタル酸ジオクチル、二酢酸エチレングリコールなどの各種エステル系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、トリエチレングリコールジアルキルエーテル、テトラエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールランダム共重合体などの各種グリコールエーテル系溶媒であり、これらは単独あるいは混合して使用することができる。これらの中で導電性ハイドロゲル中の残存モノマー等の不純物成分を除去しやすい点では水またはアルコール系溶媒が好ましく、生体適合性の点からは水が最も好ましい。
【0056】
抽出する際の温度としては、使用する抽出溶媒の沸点よりも低い温度範囲とする。低すぎると導電性ハイドロゲル中の残存モノマー等の不純物成分が除去しにくい点から、40度以上が好ましく、50度以上がより好ましく、60度以上が最も好ましい。また、高すぎると導電性ハイドロゲルが膨潤しすぎてしまう可能性がある点から95度以下が好ましく、90度以下がより好ましく、85度以下が最も好ましい。
【0057】
抽出時間としては、短すぎると抽出が不十分となる点から、30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましく、1.5時間以上が最も好ましい。また、長すぎると生産性が低下する点から、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、6時間以下が最も好ましい。
【0058】
本発明の導電性ハイドロゲルは、電子デバイスに好適に用いられる。具体的には、筋電計、血圧計、脈拍計、体組成計などのフレキシブルセンサーデバイス:心電計、ステント、カテーテルなどのインプランタブルセンサーデバイス:人工義手・義足、人工眼などのブレインマシンインターフェースデバイスなどが挙げられるが、中でも筋電計、血圧計、脈拍計、体組成計などのフレキシブルセンサーデバイスに特に好適に用いられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0060】
(分析方法および評価方法)
(1)引張弾性率、引張伸度(破断伸度)
生理食塩水(塩分濃度0.9%)による湿潤状態のサンプルを用いて測定した。フィルム状サンプルから規定の打抜型を用いて幅(最小部分)5.0mm、長さ14.0mmの試験片を切り出した。該試験片を用い、オリエンテック社製のRTG-1210型試験機(ロードセルUR-10N-D型)を用いて引張試験を実施した。引張速度は100mm/分で、グリップ間の距離(初期)は5mmであった。
【0061】
(2)含水率
フィルム形状の試験片を使用した。試験片を純水に浸漬して23℃に温度調整された室内で24時間以上おいて含水させた後、表面水分をワイピングクロス(日本製紙クレシア製“キムワイプ”(登録商標))で拭き取って湿潤状態での質量(Ww)を測定した。その後、該試験片を真空乾燥器で40℃、16時間乾燥させ、乾燥状態での質量(Wd)を測定した。次式にて含水率を求めた。
【0062】
含水率(質量%)=100×(Ww−Wd)/Ww
(3)導電率
1cm角のフィルム形状の試験片を用いた。試験片を生理食塩水(塩分濃度0.9%)に浸漬して23℃に温度調節された室内で24時間以上おいて含水させた後、表面水分をワイピングクロス(日本製紙クレシア製“キムワイプ”(登録商標))で拭き取って、UFO型セル電極に組み込んだ。その後、該電極をLCR Meter(GW INSTEK製、型番:LCR-821)と接続し、下記条件下で抵抗測定(Ω)した。得られた抵抗値(Ω)と試験片の膜厚から次式にて導電率を算出した。
【0063】
測定試料 :1cm×1cm
導体の断面積 :0.5cm
2
電極 :UFO型セル
測定周波数 :20Hz〜200kHz
測定信号電圧 :5mV
算出式
単位面積当たりの電気抵抗率(Ω・cm
2)=抵抗値(Ω)×導体の断面積(cm
2)
単位面積当たりの導電率(mS/cm
2)=[1/(単位面積当たりの電気抵抗率)]×1000
〔導電材料分散溶液の調製〕
(分散溶液A)
多層カーボンナノチューブ(CNT、昭和電工株式会社製、製品名:VGCF)を2.5g(5.0質量部)計量し、乳鉢に移した。モノマーである2-ヒドロキシエチルメタクリレート(以下HEMA、東京化成工業株式会社製)をビーカーに47.5g(95.0質量部)計量した。計量したHEMAの約半量を乳鉢に加え、乳棒で該CNTに剪断力をかけ、塊状になっている部分を細かくすり潰した。該CNTがペースト状になったら、残りのHEMA全量を乳鉢に加え、さらに乳棒で細かくすり潰し、分散溶液Aを得た。配合比を表1に示す。
【0064】
(分散溶液B)
モノマーとして、HEMAの代わりにメチルメタクリレート(以下MMA、東京化成工業株式会社製)を用い、配合比を表1の通りに変える以外は、分散溶液A1と同様の操作により、分散溶液B(CNT濃度3.0質量部)を得た。
【0065】
(分散溶液C)
モノマーとして、HEMAの代わりにエチルメタクリレート(以下EMA、和研薬株式会社製)を用い、配合比を表1の通りに変える以外は、分散溶液A1と同様の操作により、分散溶液C(CNT濃度3.0質量部)を得た。
【0066】
【表1】
【0067】
*1 東京化成工業株式会社製、2-ヒドロキシエチルメタクリレート
*2 東京化成工業株式会社製、メチルメタクリレート
*3 和研薬工業株式会社製、エチルメタクリレート
*4 昭和電工株式会社製、気相法炭素繊維(多層カーボンナノチューブ)
〔導電性ハイドロゲルの調製〕
以下、純水とは逆浸透膜で濾過して精製した水を表す。
【0068】
(実施例1)
面積100mm×100mm、厚さ125μmのプラスチックパラフィンフィルム(“パラフィルム”(登録商標))を3枚に重ね、カッターで外辺長80mm×80mm、幅5mmの枠を切り出し、スペーサー枠とした。該スペーサー枠を2枚の100mm×100mmのガラス板に挟み、重合容器を組み立てた。該重合容器を窒素雰囲気下のグローブボックス内に移した。
【0069】
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしてN,N’-ジメチルアクリルアミド(DMA、0.4g、10.0質量部)、架橋剤であるポリエチレングリコール#1000ジメタクリレート(23G、PolySciences社製、40mg、1.0質量部)、親水性ポリマーであるポリビニルピロリドンK90(PVPK90、0.16g、4.0質量部)および重合溶媒として純水(2.0g)を混合し、PVPK90が溶解するまで室温で撹拌した。分散溶液A(3.76g)および光重合開始剤であるイルガキュア(登録商標、チバ・ スペシャリティ・ケミカルズ社製)819(IC819、10mg、0.25質量部)をさらに加え、混合して重合原液を調製した。
【0070】
得られた重合原液をアルゴン雰囲気下で脱酸素した。続いて、脱酸素モノマー重合原液を前記重合容器の一方のガラス板に置かれたスペーサー枠の開口部に流し込み、スペーサー枠上に他方のガラス板を重ねて、ガラス板の4辺を固定した。オモテ面およびウラ面から各15分ずつ光照射(フィリップスTL03、1.6mW/cm
2、30分間)して硬化させることによりフィルム状の導電性ハイドロゲルを得た。
【0071】
得られた導電性ハイドロゲルを、純水に室温で浸漬することにより、ガラス板から剥離した。続いて、剥離した導電性ハイドロゲルを純水(300mL)入りの密閉保存瓶に移し、80℃で2時間残存モノマー等の不純物の抽出を行った。導電性ハイドロゲルを密閉保存瓶から取り出し、純水で軽く表面を洗浄後、生理食塩水内で保管した。
【0072】
得られた導電性ハイドロゲルの含水率、弾性率、伸度、導電率は表2の通りであり、機械的強度に優れたフィルムが得られた。
【0073】
(実施例2〜3)
組成を表2の通りに変える以外は実施例1と同様の重合を行い、フィルム状の導電性ハイドロゲルを得た。得られた導電性ハイドロゲルの含水率、弾性率、伸度、導電率は表2の通りであった。
【0074】
(実施例4〜5)
(メタ)アクリルアミド系モノマーとして、DMAの代わりに2-アクリルアミド-2メチルプロパンスルホン酸(AMPS、Alfa Aesar社製)を用い、組成を表2の通りに変える以外は実施例1と同様の重合を行い、フィルム状の導電性ハイドロゲルを得た。得られた導電性ハイドロゲルの含水率、弾性率、伸度、導電率は表2の通りであった。
【0075】
(実施例6)
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしてDMA(0.4g、10.0質量部)、架橋剤である23G(PolySciences社製、40mg、1.0質量部)、親水性ポリマーであるPVP K90(0.16g、4.0質量部)および重合溶媒として純水(2.0g)を混合し、PVPK90が溶解するまで室温で撹拌した。分散溶液A(3.0g)、アクリル酸(AAc、0.4g、10.0質量部)および光重合開始剤であるIC819(10mg、0.25質量部)をさらに加え、混合して重合原液とした。それ以外は実施例1と同様にして、フィルム状の導電性ハイドロゲルを得た。
【0076】
得られた導電性ハイドロゲルの含水率、弾性率、伸度、導電率は表2の通りであり、機械的強度に優れたフィルムが得られた。
【0077】
(実施例7)
組成を表3の通りに変える以外は実施例6と同様にして、フィルム状の導電性ハイドロゲルを得た。得られた導電性ハイドロゲルの含水率、弾性率、伸度、導電率は表2の通りであった。
【0078】
【表2】
【0079】
*5 和研薬株式会社製、N,N-ジメチルアクリルアミド
*6 Alfa Aesar社製、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸
*7 和研薬株式会社製、アクリル酸
*8 PolySciences社製、ポリエチレングリコール#1000ジメタクリレート
*9 BASF社製、イルガキュア819
*10 ポリビニルピロリドンK90
*11 重合原液から重合溶媒を除いた成分の質量の合計を100質量部とする。
【0080】
(比較例1)
架橋剤として両末端メタクリル変性ジメチルシリコーンオイル(FM7711、チッソ株式会
社製、60mg、1.5質量部)、親水性ポリマーとしてPVPK90(0.16g、4.0質量部)、AAc(0.4g、10質量部)および重合溶媒としてt-アミルアルコール(TAA、東京化成工業株式会社製)を混合し、PVPK90が溶解するまで室温で撹拌した。分散溶液B(3.36g)および光重合開始剤としてIC819(20mg、0.5質量部)をさらに加え、混合して重合原液とした。それ以外は実施例1と同様にして、フィルム状サンプルを得た。
【0081】
得られたフィルム状サンプルの含水率、弾性率、伸度、導電率は表3の通りであり、非常に硬く、伸縮性のないフィルムであった。
【0082】
(比較例2)
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしてDMAを用い、組成を表3の通りに変える以外は比較例1と同様にして、フィルム状サンプルを得た。得られたフィルム状サンプルの含水率、弾性率、伸度、導電率は表3の通りであった。
【0083】
(比較例3)
架橋剤としてFM7711(チッソ株式会社製、60mg、1.5質量部)、親水性ポリマーとしてPVPK90(0.16g、4.0質量部)、AAc(0.4g、10質量部)および重合溶媒としてTAA(東京化成工業株式会社製)を混合し、PVPK90が溶解するまで室温で撹拌した。分散溶液C(3.36g)および光重合開始剤としてIC819(20mg、0.5質量部)をさらに加え、混合して重合原液とした。それ以外は実施例1と同様にして、フィルム状サンプルを得た。
【0084】
得られたフィルム状サンプルの含水率、弾性率、伸度、導電率は表3の通りであり、非常に硬く、伸縮性のないフィルムであった。
【0085】
(比較例4)
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしてDMAを用い、組成を表3の通りに変える以外は比較例3と同様にして、フィルム状サンプルを得た。得られたフィルム状サンプルの含水率、弾性率、伸度、導電率は表3の通りであった。
【0086】
【表3】
【0087】
*12 チッソ株式会社製 両末端メタクリル変性ジメチルシリコーンオイル