(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フッ素含有樹脂組成物層に含まれる前記フッ素樹脂は熱可塑性樹脂であり、前記フッ素濃度勾配層に含まれる前記フッ素樹脂は熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁導体。
前記フッ素含有樹脂組成物層は、熱硬化性樹脂の硬化物を含む海相と、前記海相に分散されたフッ素樹脂を含む島相とから構成された海島構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の絶縁導体。
前記フッ素濃度勾配層中の最もフッ素原子含有量の低い箇所におけるフッ素原子含有量と、前記フッ素含有樹脂組成物層の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量との差が10原子%以上であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の絶縁導体。
前記フッ素濃度勾配層中の最もフッ素原子含有量の低い箇所におけるフッ素原子含有量が、15原子%以下であることを特徴とする請求項1から4のうちいずれか1項に記載の絶縁導体。
前記フッ素濃度勾配層中の最もフッ素原子含有量の低い箇所が、前記導体の表面から3μm以内の範囲内にあることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか1項に記載の絶縁導体。
前記フッ素含有樹脂組成物層の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量が20質量%以上70質量%以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1から6のうちいずれか1項に記載の絶縁導体。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、絶縁導体においては、絶縁皮膜による導体の絶縁性が長期間にわたって維持できるように、導体と絶縁皮膜との密着性が高いことが望ましい。しかしながら、特許文献1に記載されている絶縁導体は絶縁皮膜内に気孔を有するため、導体と絶縁皮膜との密着性が低下するおそれがある。
【0009】
また、絶縁皮膜表面の潤滑性を向上させるために、特許文献2、3に記載されているように絶縁層にフッ素樹脂を加えることは有効である。しかしながら、フッ素樹脂とフッ素樹脂以外の樹脂とは親和性が低いため、フッ素樹脂とフッ素樹脂以外の樹脂との間に大きな亀裂が生じやすいという問題があった。
【0010】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、部分放電が発生しにくく、かつ絶縁皮膜と導体との密着性に優れ、亀裂が生じにくい絶縁導体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本発明の絶縁導体は、導体と、前記導体の表面に備えられた絶縁皮膜とを有する絶縁導体であって、前記絶縁皮膜は、熱硬化性樹脂の硬化物およびフッ素樹脂を含むフッ素含有樹脂組成物層と、前記導体と前記フッ素含有樹脂組成物層との間に配置された、熱硬化性樹脂の硬化物およびフッ素樹脂を含み、前記フッ素含有樹脂組成物層側から前記導体に向かってフッ素原子含有量が低減する濃度勾配が設けられているフッ素濃度勾配層とを有していることを特徴としている。
【0012】
このような構成とされた本発明の絶縁導体によれば、絶縁皮膜のフッ素含有樹脂組成物層は、熱硬化性樹脂の硬化物およびフッ素樹脂を含むので比誘電率が低減する。よって、絶縁皮膜の部分放電開始電圧が高くなる。また、導体とフッ素含有樹脂組成物層との間に配置されているフッ素濃度勾配層は、フッ素含有樹脂組成物層側から導体に向かってフッ素原子含有量が低減する濃度勾配が設けられていて、フッ素濃度勾配層のフッ素含有樹脂組成物層側は、フッ素含有樹脂組成物層と組成が共通するのでフッ素含有樹脂組成物層との密着性が高くなり、フッ素含有樹脂組成物層と濃度勾配層との間に亀裂が生じにくくなる。さらに、フッ素含有樹脂組成物層およびフッ素濃度勾配層は、熱硬化性樹脂の硬化物を含むので、熱による変形が起こりにくく、高温でもフッ素含有樹脂組成物層と濃度勾配層との高い密着性を維持できる。一方、フッ素濃度勾配層の導体側は、導体との密着性が低いフッ素樹脂の含有量が少ないので、導体との密着性が高くなる。よって、絶縁皮膜と導体との密着性が向上する。
【0013】
ここで、本発明の絶縁導体においては、前記フッ素含有樹脂組成物層に含まれる前記フッ素樹脂は熱可塑性樹脂であり、前記フッ素濃度勾配層に含まれる前記フッ素樹脂は熱可塑性樹脂であることが好ましい。
この場合、フッ素含有樹脂組成物層とフッ素濃度勾配層に含まれるフッ素樹脂は、表面自由エネルギーが低く、熱硬化性樹脂との相溶性が低いため、加熱することにより、絶縁皮膜の表面側に移動するので、フッ素濃度勾配層の導体側のフッ素樹脂の含有量がより確実に少なくなり、絶縁皮膜と導体との密着性がより高くなる。
【0014】
また、本発明の絶縁導体においては、前記フッ素含有樹脂組成物層は、熱硬化性樹脂の硬化物を含む海相と、前記海相に分散されたフッ素樹脂を含む島相とから構成された海島構造を有することが好ましい。
この場合、フッ素含有樹脂組成物層は、熱硬化性樹脂の硬化物を含む海相とフッ素樹脂を含む島相とに分かれた非連続的な海島構造となるので、熱硬化性樹脂の硬化物とフッ素樹脂との間の亀裂が成長しにくくなり、大きな亀裂がより生じにくくなる。
【0015】
また、本発明の絶縁導体においては、前記フッ素濃度勾配層中の最もフッ素原子含有量の低い箇所におけるフッ素原子含有量と、前記フッ素含有樹脂組成物層の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量との差が10原子%以上であることが好ましい。
この場合、フッ素濃度勾配層中の最もフッ素原子含有量の低い箇所におけるフッ素原子含有量が、フッ素含有樹脂組成物層の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量よりも10原子%以上低く、フッ素含有樹脂組成物層とフッ素濃度勾配層とのフッ素原子含有量の差が大きくなるので、絶縁皮膜と導体との密着性が確実に向上する。
【0016】
また、本発明の絶縁導体においては、前記フッ素濃度勾配層中の最もフッ素原子含有量の低い箇所におけるフッ素原子含有量が、15原子%以下であることが好ましい。
この場合、フッ素濃度勾配層中の最もフッ素原子含有量の低い箇所におけるフッ素原子含有量が15原子%以下と低いので、絶縁皮膜と導体との密着性がより向上する。
【0017】
また、本発明の絶縁導体においては、前記フッ素濃度勾配層中の最もフッ素原子含有量の低い箇所が、前記導体の表面から3μm以内の範囲内にあることが好ましい。
この場合、フッ素濃度勾配層中の最もフッ素原子含有量の低い箇所が、導体の表面から3μm以内の範囲と近いので、絶縁皮膜と導体との密着性がさらに向上する。
【0018】
また、本発明の絶縁導体においては、前記フッ素含有樹脂組成物層の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量が20質量%以上70質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、フッ素含有樹脂組成物層は、フッ素原子含有量が20質量%以上70質量%以下の範囲内にあるので、比誘電率が確実に低減し、部分放電開始電圧が確実に高くなる。
【0019】
また、本発明の絶縁導体においては、前記フッ素濃度勾配層と前記フッ素含有樹脂組成物層とが連続相であることが好ましい。
この場合、フッ素濃度勾配層とフッ素含有樹脂組成物層とが連続相であり、フッ素濃度勾配層とフッ素含有樹脂組成物層とが剥離しにくいので、絶縁皮膜と導体との密着性がさらに確実に向上する。
【0020】
また、本発明の絶縁導体においては、前記フッ素濃度勾配層の厚みが2μm以上15μm以下の範囲内にあることが好ましい。
この場合、フッ素濃度勾配層は、厚みが2μm以上15μm以下の範囲内にあるので、導体とフッ素濃度勾配層の密着性と、フッ素濃度勾配層とフッ素含有樹脂組成物層の密着性の両者を向上させることができ、これにより、絶縁皮膜と導体との密着性をさらに向上させることができる。
【0021】
本発明の絶縁導体の製造方法は、上述の絶縁導体を製造する絶縁導体の製造方法であって、導体の表面に、熱硬化性樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む電着液を電着させて、電着層付き導体を得る電着工程と、前記電着層付き導体を、前記フッ素樹脂粒子の融点に対して−40℃以上+30℃以下の温度で加熱して乾燥させる乾燥工程と、を含むことを特徴としている。
【0022】
このような構成とされた本発明の絶縁導体の製造方法によれば、乾燥工程において、電着層付き導体を、フッ素樹脂粒子の融点に対して−40℃以上+30℃以下の温度で加熱することによって、導体の表面にあるフッ素樹脂を外側に移動させることができ、これにより、フッ素濃度勾配層とフッ素含有樹脂組成物層とを有する絶縁皮膜付き導体(絶縁導体)を製造することができる。
【0023】
ここで、本発明の絶縁導体の製造方法においては、前記乾燥工程における加熱時間が5分以上であることが好ましい。
この場合、乾燥工程における加熱時間が5分以上とされているので、導体の表面にあるフッ素樹脂を外側により多く移動させることができ、これによりフッ素濃度勾配層とフッ素含有樹脂組成物層とを有する絶縁導体をより確実に製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、部分放電が発生しにくく、かつ絶縁皮膜と導体との密着性に優れ、亀裂が生じにくい絶縁導体およびその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態である絶縁導体および絶縁導体の製造方法について、添付した図面を参照して説明する。
【0027】
<絶縁導体>
図1は、本発明の一実施形態である絶縁導体の横断面図である。
本実施形態の絶縁導体10は、
図1に示すように、導体11と、導体11の表面に備えられた絶縁皮膜12とを有する。
【0028】
[導体]
導体11の材質は、良好な導電性を有する銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属であることが好ましい。
図1に記載されている導体11は、横断面が円形の金属線とされているが、導体11の横断面形状は特に制限はなく、例えば、楕円形、四角形であってもよい。また、導体11は、金属板であってもよい。
【0029】
[絶縁皮膜]
絶縁皮膜12は、フッ素含有樹脂組成物層13と、導体11とフッ素含有樹脂組成物層13との間に配置されたフッ素濃度勾配層14とを有する。フッ素含有樹脂組成物層13は、熱硬化性樹脂の硬化物およびフッ素樹脂を含む。フッ素濃度勾配層14は、フッ素含有樹脂組成物層13側から導体11に向かってフッ素原子含有量が低減する濃度勾配が設けられている。
【0030】
(フッ素含有樹脂組成物層)
フッ素含有樹脂組成物層13は、導体11を絶縁する作用を有する。
フッ素含有樹脂組成物層13は、熱硬化性樹脂の硬化物およびフッ素樹脂を含む。フッ素含有樹脂組成物層13中のフッ素樹脂は、フッ素含有樹脂組成物層13の比誘電率を低減させ、部分放電開始電圧を高めて、部分放電を発生しにくくする効果がある。
【0031】
フッ素樹脂は、融点が熱硬化性樹脂の硬化物の分解温度よりも低い熱可塑性樹脂であることが好ましい。フッ素樹脂の融点は、250℃以上350℃以下の範囲内にあることが好ましい。フッ素樹脂は、単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。フッ素樹脂の例としては、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)および四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)を挙げることができる。これらのフッ素樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0032】
熱硬化性樹脂は、イミド結合およびアミド結合のいずれか一方もしくは両方を有する樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂の例としては、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミック酸樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂およびポリエステルイミド樹脂を挙げることができる。これらの熱硬化性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。熱硬化性樹脂は、イミド結合を有するポリイミド系樹脂(ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂)であることが特に好ましい。
【0033】
フッ素含有樹脂組成物層13の厚みは5μm以上100μm以下の範囲内にあることが好ましい。フッ素含有樹脂組成物層13の厚みがこの範囲にあると、絶縁皮膜12の可撓性を損なわずに、比誘電率を低減させることができる。
【0034】
フッ素含有樹脂組成物層13は、厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量が10原子%以上50原子%以下の範囲内にあることが好ましく、20原子%以上40原子%以下の範囲内にあることがより好ましい。フッ素原子含有量がこの範囲にあると、絶縁皮膜12の可撓性を損なわずに、フッ素含有樹脂組成物層13の比誘電率を低減させることができる。フッ素含有樹脂組成物層13の厚み方向における中央領域は、フッ素含有樹脂組成物層13の厚み方向における中心に対して、導体11側にフッ素含有樹脂組成物層13の厚みの1/4の長さの位置から導体11側とは反対側にフッ素含有樹脂組成物層13の厚みの1/4の長さの位置までの範囲である。例えば、フッ素含有樹脂組成物層13の厚みが40μmの場合、中央領域は、フッ素含有樹脂組成物層13の厚み方向における中心に対して、導体11側に10μmの位置と導体11側とは反対側に10μmの位置までの範囲である。
【0035】
フッ素含有樹脂組成物層13は、フッ素原子含有量が均一であることが好ましい。具体的には、フッ素含有樹脂組成物層13の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量の最高値と最低値の差は、5原子%以下であることが好ましい。フッ素含有樹脂組成物層13のフッ素原子含有量が均一であると、フッ素含有樹脂組成物層13の比誘電率が均一になるので、部分放電が発生しにくくなる。
【0036】
ここで、本実施形態において、フッ素含有樹脂組成物層13のフッ素原子含有量は、フッ素含有樹脂組成物層13に含まれる元素の全原子個数に対するフッ素の原子個数の割合である。例えば、導体11が銅で構成され、フッ素含有樹脂組成物層13がポリアミドイミドとフッ素樹脂とで構成されている場合は、フッ素原子含有量は、フッ素含有樹脂組成物層13に含まれるフッ素(F)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、銅(Cu)の合計原子個数に対するフッ素(F)の原子個数の割合である。フッ素含有樹脂組成物層13の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量は、例えば、フッ素含有樹脂組成物層13の厚み方向に沿って各元素の含有量を線分析し、中央領域に含まれる各元素の含有量を算出することによって求めることができる。
【0037】
フッ素含有樹脂組成物層13は、熱硬化性樹脂の硬化物を含む海相(マトリックス相)と、海相に分散されたフッ素樹脂を含む島相(ドメイン相)とから構成された海島構造を有していることが好ましい。フッ素含有樹脂組成物層13が海島構造を有することは、走査型電子顕微鏡(SEM)と、エネルギー分散型X線分光(EDS)分析装置とを用いて確認することができる。例えば、フッ素含有樹脂組成物層13の断面を、SEM−EDS分析装置を用いて観察し、フッ素が検出されない連続した部分(海相)と、フッ素が粒状に検出された部分(島相)とが確認された場合は、フッ素含有樹脂組成物層13は海島構造を有すると言える。
【0038】
島相の形状は、特に制限はなく、球形状、楕円球形状、円錐形状、多角形状、板形状、円柱形状、多角柱形状及びこれらの形状を組合せた形状とすることができる。島相の形状は、太い部分の間に細いくびれた部分を有するくびれ形状や瓢箪形状であってもよい。くびれ形状や瓢箪形状の島相は、海相との接触面積が広く、海相との密着性が向上するので、低濃度フッ素層13全体の形状安定性が高くなる。
【0039】
(フッ素濃度勾配層)
フッ素濃度勾配層14は、導体11と絶縁皮膜12との密着性を向上させる作用を有する。
フッ素濃度勾配層14は、熱硬化性樹脂およびフッ素樹脂を含む。フッ素濃度勾配層14は、フッ素含有樹脂組成物層13側から導体11に向かってフッ素原子含有量が低減する濃度勾配が設けられており、導体11との密着性が低いフッ素樹脂の含有量がフッ素濃度勾配層14と比較して相対的に低くなっているので、導体11とフッ素濃度勾配層14との密着性は高くなる。また、濃度勾配が設けられているので、フッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13との密着性も高くなる。よって、導体11と絶縁皮膜12との密着性が向上する。また、フッ素濃度勾配層14に含まれている熱硬化性樹脂およびフッ素樹脂は、フッ素含有樹脂組成物層13に含まれている熱硬化性樹脂およびフッ素樹脂と同じであることが好ましい。また、フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14とが同じ熱硬化性樹脂およびフッ素樹脂を含むことによって、フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14との密着性が高くなり、可撓性が向上する。
【0040】
フッ素濃度勾配層14中の最もフッ素原子含有量の低い箇所におけるフッ素原子含有量(以下、「最低フッ素原子含有量」ともいう)をA原子%とし、フッ素含有樹脂組成物層13の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量をB原子%としたときの差(B−A)は10原子%以上であることが好ましい。この差(B−A)が10原子%未満であると、導体11とフッ素濃度勾配層14との密着性が十分に向上しないおそれがある。但し、差(A−B)が大きくなると、フッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13との密着性が低下するおそれがある。このため、差(B−A)は、20原子%以下であることが好ましい。
フッ素濃度勾配層14中の最低フッ素原子含有量は、例えば、フッ素濃度勾配層14の厚み方向に沿って各元素の含有量を線分析して、フッ素の含有量が最も低い箇所を検出し、そのフッ素原子含有量を算出することによって求めることができる。
【0041】
また、フッ素濃度勾配層14中の最低フッ素原子含有量は、15原子%以下であることが好ましい。フッ素濃度勾配層14中の最低フッ素原子含有量が15原子%を超えると、導体11とフッ素濃度勾配層14との密着性が十分に向上しないおそれがある。一方、フッ素濃度勾配層14中の最低フッ素原子含有量が低くなりすぎて、フッ素含有樹脂組成物層13のフッ素原子含有量との差が大きくなるとフッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13との密着性が低下するおそれがある。このため、フッ素濃度勾配層14中の最低フッ素原子含有量は、5原子%以上であることが好ましい。
【0042】
また、フッ素濃度勾配層14中の最もフッ素原子含有量の低い箇所は、フッ素濃度勾配層14が導体11の表面に接している部分でなくてもよい。すなわち、フッ素濃度勾配層14が導体11の表面に接している部分は、フッ素原子含有量が最低フッ素原子含有量よりも高くてもよい。但し、フッ素濃度勾配層14中の最もフッ素原子含有量の低い箇所が、導体11の表面から離れすぎると、フッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13との密着性が低下するおそれがある。このため、フッ素濃度勾配層14中の最もフッ素原子含有量の低い箇所は、導体11の表面から3μm以内の範囲にあることが好ましい。
【0043】
フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14とは不連続相であってもよいが、連続相であること、すなわちフッ素濃度勾配層14のフッ素原子含有量は、フッ素含有樹脂組成物層13のフッ素原子含有量に対して連続的に減少していることが好ましい。
【0044】
フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14との境界は、フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14とが連続相でない場合は、フッ素濃度が不連続に変化した位置である。また、フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14とが連続相である場合、フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14との境界は、フッ素濃度勾配層14のフッ素原子含有量が、フッ素含有樹脂組成物層13の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量よりも2原子%低くなった位置である。
【0045】
フッ素濃度勾配層14の厚みは2μm以上15μm以下の範囲内にあることが好ましい。フッ素濃度勾配層14の厚みが2μm未満にあると、導体11とフッ素濃度勾配層14の密着性と、フッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13の密着性の両者を向上させることが難しくなるおそれがある。一方、フッ素濃度勾配層14の厚みが15μmを超えても、導体11とフッ素濃度勾配層14の密着性と、フッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13の密着性の両者を向上させる効果が飽和し、また相対的にフッ素含有樹脂組成物層13の厚さが薄くなるので、絶縁皮膜12全体として比誘電率が低下するおそれがある。
【0046】
<絶縁導体の製造方法>
図2は、本発明の一実施形態である絶縁導体の製造方法のフロー図である。
本実施形態の絶縁導体の製造方法は、
図2に示すように、導体の表面に、熱硬化性樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む電着液を電着させて、電着層付き導体を得る電着工程S01と、前記電着層付き導体を、加熱して乾燥させる乾燥工程S02と、を含む。
【0047】
[電着工程]
電着工程S01では、導体の表面に、熱硬化性樹脂粒子と熱可塑性フッ素樹脂粒子とを含む電着液を電着させて、電着層付き導体を得る。ここで、電着液について、熱硬化性樹脂粒子が、イミド結合を有するポリイミド系樹脂粒子である場合を例にとって説明する。
【0048】
(電着液)
電着液は、分散媒と固形部からなる。固形部は、ポリイミド系樹脂粒子とフッ素樹脂粒子とを含む。
【0049】
固形分中のフッ素樹脂粒子の含有割合は、好ましくは20質量%以上70質量%以下の範囲内、より好ましくは30質量%以上70質量%以下の範囲内である。また、ポリイミド系樹脂粒子のメジアン径は、好ましくは50nm以上400nm以下の範囲内、より好ましくは50nm以上200nm以下の範囲内である。また、フッ素樹脂粒子のメジアン径は、50nm以上500nm以下の範囲内であることが好ましい。更に、ポリイミド系樹脂粒子はフッ素樹脂粒子より小さいメジアン径を有することが好ましい。ここで、固形分中のフッ素樹脂粒子の好ましい含有割合を20質量%以上70質量%以下の範囲内としたのは、20質量%未満では絶縁皮膜の誘電率を下げることができず、70質量%を超えると絶縁皮膜が海島構造を形成しにくくなるからである。また、ポリイミド系樹脂粒子の好ましいメジアン径を50nm以上400nm以下の範囲内としたのは、50nm未満では、電着によって形成した電着層内の樹脂粒子間に存在する分散媒が少なく電着層の抵抗が大きくなるため電着速度が遅くなり、厚身の厚い電着層を得るのに時間を要し、400nmを超えると電着液の分散安定性が低下するからである。更に、フッ素樹脂粒子の好ましいメジアン径を50nm以上500nm以下の範囲内としたのは、50nm未満では、電着によって形成した電着層内の樹脂粒子間に存在する分散媒が少なく電着層の抵抗が大きくなるため電着速度が遅くなり、厚みの厚い電着層を得るのに時間を要し、500nmを超えると電着液が凝集して沈殿が発生し分散安定性が低下してしまうからである。
【0050】
分散媒は、極性溶剤、水及び塩基を含むことが好ましい。また、極性溶剤は水より高い沸点を有することが好ましい。極性溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、N,Nジメチルアセトアミド等の有機溶剤が挙げられる。更に、塩基としては、トリ−n−プロピルアミン、ジブチルアミン、ピペリジン、トリエチルアミン等が挙げられる。分散媒中の水の含有割合は、10質量%以上40質量%以下の範囲内であることが好ましく、18質量%以上30質量%以下の範囲内であることが更に好ましい。また、分散媒中の極性溶剤の含有割合は60質量%以上90質量%以下の範囲内であることが好ましく、分散媒中の塩基の含有割合は0.01質量%以上0.3質量%以下の範囲内であることが好ましい。更に、電着液中の固形分の含有割合は1質量%以上10質量%以下の範囲内であることが好ましい。
【0051】
ここで、分散媒中の水の好ましい含有割合を10質量%以上40質量%以下としたのは、10質量%未満では電着液の導電率が小さく電着による電着層を形成できず、40質量%を超えると電着液の乾燥時に分散媒の揮発速度が速くなり電着層を厚く形成すると電着層が発泡し易くなってしまうからである。また、分散媒中の極性溶剤の好ましい含有割合を60質量%以上90質量%以下の範囲内としたのは、60質量%未満では分散媒中における水の割合が多くなり揮発速度が速くなって発泡し易くなり、90質量%を超えると分散媒中における水の割合が減り電着速度が遅くなって、厚膜の電着層を得るのに時間を要するからである。また、分散媒中の塩基の好ましい含有割合を0.01質量%以上0.3質量%以下の範囲内としたのは、0.01質量%未満ではポリイミド系樹脂粒子のメジアン径が増加し分散安定性が悪化してしまい、0.3質量%を超えるとポリイミド系樹脂粒子のメジアン径が減少し、電着によって形成した電着層内の樹脂粒子間に存在する分散媒が少なく電着層の抵抗が大きくなるため電着速度が遅くなり、厚みの厚い電着層を得るのに時間を要するからである。更に、電着液中の固形分の好ましい含有割合を1質量%以上10質量%以下の範囲内としたのは、1質量%未満では電着速度が遅くなって、厚膜の電着層を得るのに時間を要し、10質量%を超えると分散安定性が悪化してしまうからである。なお、上記ポリイミド系樹脂粒子のメジアン径及びフッ素樹脂粒子のメジアン径は、動的光散乱粒径分布測定装置(堀場製作所製LB−550)を用いて測定した体積基準平均粒径である。
【0052】
次に電着液の製造方法を説明する。
(ポリイミド系樹脂ワニスの合成)
先ず、撹拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットルの四つ口フラスコ内に、極性溶剤と、イソシアネート成分と酸成分とを混合し、80〜130℃の温度に昇温してこの温度に2〜8時間保持して反応させることにより、ポリイミド系樹脂を得る。ここで、イソシアネート成分としては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等が挙げられ、酸成分としてはトリメリット酸無水物(TMA)、1,2,5−トリメリット酸(1,2,5−ETM)、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物(OPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、4,4’−(2,2’−ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物等が挙げられる。その後、上記合成したポリイミド系樹脂を、極性溶剤により希釈してポリイミド系樹脂ワニスを調製する。
【0053】
(ポリイミド系樹脂粒子の分散液の調製)
次いで、上記得られたポリイミド系樹脂ワニスを、有機溶剤で更に希釈し、塩基性化合物を加えた後、撹拌しつつ、室温下で水を添加する。これにより、メジアン径が50nm以上400nm以下の範囲内にあるポリイミド系樹脂粒子の分散液が得られる。
【0054】
(フッ素樹脂粒子の分散液の調製)
市販のフッ素樹脂粒子のディスパージョンを水で希釈した後、撹拌することにより、メジアン径が50nm以上500nm以下の範囲内にあるフッ素樹脂粒子の分散液が得られる。
【0055】
(電着液の調製)
ポリイミド系樹脂粒子の分散液とフッ素樹脂粒子の分散液を混合することにより、電着液が得られる。
【0056】
(電着)
電着液を導体の表面に電着させる方法としては、電着液に対向電極と導体とを浸漬し、次いで、対向電極を陰極とし、導体を陽極として、直流電圧を印加する方法を用いることができる。印加する直流電圧は、1V以上600V以下の範囲内にあることが好ましい。直流電圧印加時の電着液の温度は、5℃以上40℃以下の範囲内にあることが好ましい。直流電圧の印加時間は0.01秒以上300秒以下の範囲内にあることが好ましい。
【0057】
[乾燥工程]
乾燥工程S02では、電着工程S01で得られた電着層付き導体を加熱し、電着層を乾燥させて、絶縁皮膜を形成させることによって絶縁皮膜付き導体(絶縁導体)を得る。電着層付き導体の乾燥雰囲気は、特に制限はなく、大気雰囲気であってもよいし、不活性雰囲気であってもよい。
乾燥温度は、フッ素樹脂粒子の融点に対して−40℃以上+30℃以下の温度であることが好ましい。また、乾燥温度は300℃以上350℃以下の範囲内にあることが好ましい。この温度で加熱することによって電着層中のフッ素樹脂粒子が溶融あるいは軟化して、導体の表面にあるフッ素樹脂が外側に移動し、これによって、フッ素濃度勾配層が生成する。乾燥時間は、乾燥温度、導体のサイズや電着層の厚みなどの要因によって変動するが、通常は5分以上10分以下の範囲内である。
【0058】
また、乾燥工程S02では、電着層付き導体をフッ素樹脂粒子の融点に対して−40℃以上+30℃以下の温度で加熱する前に、予備乾燥として、200℃以上フッ素樹脂粒子の融点に対して−40℃未満の温度で乾燥してもよい。予備乾燥温度がこの範囲にあると、フッ素樹脂粒子を皮膜表面に移動させずに、電着層を効率よく乾燥させることができる。予備乾燥とその後の乾燥は、同じ加熱装置を用いて連続して行うことが好ましい。予備乾燥時間は、乾燥温度、導体のサイズや電着層の厚みなどの要因によって変動するが、通常は1分以上10分以下の範囲内であり、5分以上であることが好ましく、5分以上10分以下の範囲内であることが特に好ましい。
【0059】
以上のような構成とされた本実施形態の絶縁導体10によれば、絶縁皮膜12のフッ素含有樹脂組成物層13は、熱硬化性樹脂の硬化物およびフッ素樹脂を含むので比誘電率が低減する。よって、絶縁皮膜12の部分放電開始電圧が高くなる。また、導体11とフッ素含有樹脂組成物層13との間に配置されているフッ素濃度勾配層14は、フッ素含有樹脂組成物層側から導体に向かってフッ素原子含有量が低減する濃度勾配が設けられていて、フッ素濃度勾配層14のフッ素含有樹脂組成物層13側は、フッ素含有樹脂組成物層13と組成が共通するのでフッ素含有樹脂組成物層13との密着性が高くなり、フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14との間に亀裂が生じにくくなる。さらに、フッ素含有樹脂組成物層13およびフッ素濃度勾配層14は、熱硬化性樹脂の硬化物を含むので、熱による変形が起こりにくく、高温でもフッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14との高い密着性を維持できる。一方、導体11側は、導体11との密着性が低いフッ素樹脂の含有量が少ないので、導体11との密着性が高くなる。よって、絶縁皮膜12と導体11との密着性が向上する。
【0060】
本実施形態の絶縁導体10においては、フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14に含まれるフッ素樹脂を熱可塑性樹脂とすることによって、加熱することにより、フッ素樹脂が絶縁皮膜12の表面側に移動しやすくなるので、フッ素濃度勾配層14の導体11側のフッ素樹脂の含有量がより確実に少なくなり、絶縁皮膜と導体との密着性をより高くすることができる。
【0061】
本実施形態の絶縁導体10においては、フッ素含有樹脂組成物層13を、熱硬化性樹脂の硬化物を含む海相と、その海相に分散されたフッ素樹脂を含む島相とから構成された非連続的な海島構造とすることによって、フッ素含有樹脂組成物層13中の熱硬化性樹脂の硬化物とフッ素樹脂との間の亀裂が成長しにくくなり、大きな亀裂をより生じにくくさせることができる。
【0062】
本実施形態の絶縁導体10においては、フッ素濃度勾配層14中の最もフッ素原子含有量の低い箇所におけるフッ素原子含有量を、フッ素含有樹脂組成物層の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量よりも10原子%以上低くして、フッ素含有樹脂組成物層13とフッ素濃度勾配層14とのフッ素原子含有量の差を大きくすることによって、絶縁皮膜12と導体11との密着性を確実に向上させることができる。
【0063】
本実施形態の絶縁導体10においては、フッ素濃度勾配層14中の最もフッ素原子含有量の低い箇所におけるフッ素原子含有量を15原子%以下と低くすることによって、絶縁皮膜12と導体11との密着性をより向上させることができる。
【0064】
本実施形態の絶縁導体10においては、フッ素濃度勾配層14中の最もフッ素原子含有量の低い箇所を、導体11の表面から3μm以内の範囲と近くすることによって、絶縁皮膜12と導体11との密着性をさらに向上させることができる。
【0065】
本実施形態の絶縁導体10においては、フッ素含有樹脂組成物層13の厚み方向における中央領域のフッ素原子含有量を20質量%以上70質量%以下の範囲内とすることによって、比誘電率を確実に低減させることでき、これにより部分放電開始電圧を確実に高くすることができる。
【0066】
本実施形態の絶縁導体10においては、フッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13とを連続相として、フッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13とを剥離しにくくすることによって、絶縁皮膜12と導体11との密着性をさらに向上させることができる。
【0067】
本実施形態の絶縁導体10においては、フッ素濃度勾配層14の厚みを2μm以上15μm以下の範囲内とすることによって、導体11とフッ素濃度勾配層14の密着性と、フッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13の密着性の両者を向上させることができ、これにより、絶縁皮膜12と導体11との密着性をさらに向上させることができる。
【0068】
また、本実施形態の絶縁導体の製造方法によれば、電着層付き導体を、乾燥工程S02において、フッ素樹脂粒子の融点に対して−40℃以上+30℃以下の温度で加熱して乾燥するので、導体の表面にあるフッ素樹脂を外側に移行させることができ、これにより、フッ素濃度勾配層14とフッ素含有樹脂組成物層13とを有する絶縁皮膜付き導体(絶縁導体)を製造することができる。
【0069】
さらに、本実施形態の絶縁導体の製造方法においては、乾燥工程S02における加熱時間を5分以上とすることによって、導体の表面にあるフッ素樹脂を外側により多く移動させることができ、これによりフッ素濃度勾配層とフッ素含有樹脂組成物層とを有する絶縁導体をより確実に製造することが可能となる。
【0070】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、
図1に記載されている本実施形態の絶縁導体10では、フッ素濃度勾配層14は導体11の表面全体に接するように形成されているが、この場合に限定されるものではない。具体的は、フッ素濃度勾配層14は、導体11の表面の一部に接するように形成されていてもよい。また、本実施形態の絶縁導体10においては、さらに導体11と絶縁皮膜12との密着性を向上させるために、導体11と絶縁皮膜12との間に密着層を設けてもよい。密着層は、絶縁皮膜12に含まれている熱硬化性樹脂を単独で含む層であることが好ましい。
【0071】
また、絶縁導体10の潤滑性を向上させるために、絶縁皮膜12のフッ素含有樹脂組成物層13との外周面に、熱硬化性樹脂およびフッ素樹脂を含み、フッ素原子含有量がフッ素含有樹脂組成物層13よりも相対的に高い高濃度フッ素含有樹脂組成物層を設けてもよい。またさらに、高濃度フッ素含有樹脂組成物層の外周面にフッ素樹脂を単独で含むフッ素樹脂単独層を設けてもよい。
【実施例】
【0072】
次に、本発明の作用効果を実施例により詳しく説明する。
【0073】
<本発明例1>
[ポリイミド系樹脂ワニスの合成]
先ず、撹拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた2リットルの四つ口フラスコ内に、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン747g、イソシアネート成分として4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート298g(1.19モル)、及び酸成分として無水トリメリット酸227g(1.18モル)を投入して130℃まで昇温させた。この温度で約4時間反応させることにより、数平均分子量が17000のポリアミドイミド樹脂(PAI)を得た。その後、上記合成したポリアミドイミド樹脂を、有機溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを使用し、ポリアミドイミド樹脂(不揮発分)の濃度が20質量%となるように希釈したポリアミドイミドワニス(ポリアミドイミド樹脂:N−メチル−2−ピロリドン=20質量%:80質量%)を得た。
【0074】
[ポリイミド系樹脂粒子分散液の調製]
次いで、上記得られたポリアミドイミドワニス62.5gを、N−メチル−2−ピロリドン140gで更に希釈し、塩基性化合物であるトリ−n−プロピルアミン0.5gを加えた後、この液を回転速度10000rpmの高速で撹拌しつつ、常温下(25℃)で水を47g添加した。これにより、メジアン径160nmのポリアミドイミド樹脂粒子の分散液(ポリアミドイミド樹脂粒子:N−メチル−2−ピロリドン:水:トリ−n−プロピルアミン=5質量%:76質量%:18.8質量%:0.2質量%)250gを得た。
【0075】
[フッ素樹脂粒子分散液の調製]
市販のペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)ディスパージョンを水で希釈した後、撹拌してPFA粒子分散液を得た(メジアン径200nm、PFA粒子:水=30質量%:70質量%)。
【0076】
[フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂複合コーティング用電着液の調製]
ポリアミドイミド樹脂(PAI)粒子分散液60gとフッ素樹脂(PFA)粒子分散液10gを混合し電着液を得た(PAI粒子:PFA粒子:N−メチル−2−ピロリドン:水:トリ−n−プロピルアミン=4.3質量%:4.3質量%:65質量%:26.2質量%:0.2質量%)。
【0077】
[絶縁銅線の作製]
上記調製した電着液を用いて絶縁銅線を作製した。具体的には、先ず、電着液を電着槽内に貯留し、この電着槽内の電着液の温度を20℃とした。次いで、長さが300mmで直径が1mmの銅線(導体)を陽極とし、上記電着槽内の電着液に挿入された円筒型の銅板を陰極とし、銅線と円筒型の銅板との間に直流電圧100Vを印加した状態で、銅線及び円筒型の銅板を電着槽内の電着液中に30秒間保持した。これにより銅線の表面に電着層が形成された電着層付き銅線を得た。次に、電着層付き銅線をマッフル炉に投入して、250℃で5分間加熱した後、300℃で5分間加熱する条件で加熱して、電着層を乾燥させて、表面に厚み45μmの絶縁皮膜が形成された銅線を得た。この絶縁皮膜付きの銅線(絶縁銅線)を本発明例1とした。
【0078】
<比較例1>
電着層付き銅線を、250℃で5分間加熱した後、300℃で加熱しなかったこと以外は本発明例1と同様にして、表面に厚み45μmの絶縁皮膜が形成された比較例1の絶縁銅線を作製した。
【0079】
<比較例2>
フッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂複合コーティング用電着液の代わりに、ポリイミド系樹脂粒子分散液を電着液として用いたこと、電着層付き銅線を、250℃で5分間加熱した後、300℃で加熱しなかったこと以外は本発明例1と同様にして、表面に厚み45μmの絶縁皮膜が形成された比較例2の絶縁銅線を作製した。
【0080】
[評価]
得られた絶縁銅線(絶縁導体)について、絶縁皮膜の元素分布およびフッ素原子含有量と、摩擦係数と、可撓性とを下記の方法により測定した。
【0081】
(絶縁皮膜の元素分布およびフッ素原子含有量)
銅線を樹脂埋めし研磨により断面を出した後、SEM−EDS分析装置(日立ハイテク社製、電子顕微鏡SU8230)により、絶縁銅線の絶縁皮膜断面のSEM写真と、その絶縁皮膜断面のフッ素原子の元素マッピング画像を撮影した。そして、得られたSEM写真と元素マッピング画像から、絶縁皮膜にフッ素含有樹脂組成物層とフッ素濃度勾配層とが形成されているか、あるいはフッ素濃度勾配層が形成されず絶縁皮膜が絶縁層(フッ素含有樹脂組成物層)単層であるかを確認した。また、絶縁銅線の絶縁皮膜中のフッ素(F)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、銅(Cu)の各元素について合計原子個数を100原子%としたときの元素含有量を線分析して、絶縁皮膜の厚み方向における元素分布を確認した。そして、線分析により得られたフッ素含有量からフッ素濃度勾配層の厚みを計測し、フッ素濃度勾配層の最低フッ素原子含有量を抽出し、絶縁層(フッ素含有樹脂組成物層)のフッ素含有量を算出した。絶縁層のフッ素含有量は、絶縁層の中央領域におけるフッ素含有量の平均値とした。その結果を、
図3、
図4および表1に示す。
【0082】
(比誘電率)
LCRメーター(日置電機社製)を用いて、絶縁皮膜の静電容量と絶縁皮膜の膜厚から誘電率を算出し、この誘電率を真空の誘電率ε
0(8.85×10
−12F/m)で除することにより求めた。なお、絶縁皮膜の膜厚はマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
(密着性(浮き長さ))
JIS C 3216−3(巻線試験方法−第3部:機械的特性)の「5.5密着試験」に規定された方法に準拠して測定した。絶縁銅線(長さ300mm×直径1mm)の長さ方向の中央に、絶縁皮膜表面から銅線表面に達する切れ目を入れ、次いで試験片を卓上形精密万能試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフAGS−10kNX)を用い1秒間当り5±1mmの速度で、伸長率が15%となるまで伸長させた後、絶縁銅線に入れた切れ目の周囲を観察し、銅線から浮いている絶縁皮膜の長さ(浮き長さ)を測定した。なお、浮き長さの測定は、絶縁銅線の全面に対して行い、測定された浮き長さのうち最大の長さを表1に記載した。
【0084】
【表1】
【0085】
図3の(a)は、本発明例1で得られた絶縁銅線の絶縁皮膜断面のSEM写真であり、(b)は、その絶縁皮膜断面のフッ素原子の元素マッピング画像である。
図4は、本発明例1で得られた絶縁銅線の絶縁皮膜の厚み方向における元素分布を示すグラフである。元素マッピング画像において白い部分はフッ素原子を示す。
図3のSEM写真とフッ素原子の元素マッピング画像から、本発明例1で得られた絶縁銅線では、絶縁皮膜12に、フッ素含有樹脂組成物層13と、導体11とフッ素含有樹脂組成物層13と間に配置されたフッ素濃度勾配層14とが形成されていることが確認された。また、
図4のグラフから、フッ素含有樹脂組成物層とフッ素濃度勾配層とは、各元素の分布が連続的に変化しており、連続相を形成していることが確認された。これに対して、電着層付き銅線の乾燥温度が、250℃(PFA粒子の融点に対して−60℃)と低い比較例1で得られた絶縁銅線は、絶縁皮膜にフッ素濃度勾配層が形成されず、絶縁皮膜は絶縁層単層であった。
【0086】
また、表1に示すように、ポリアミドイミド樹脂およびフッ素樹脂を含む単層の絶縁皮膜を備えた比較例1の絶縁銅線と、ポリアミドイミド樹脂を単独で含む単層の絶縁皮膜を備えた比較例2の絶縁銅線とを比較すると、比誘電率は比較例1の絶縁銅線の方が低くなった。一方、密着性は比較例2の絶縁銅線の方が浮き長さが短く、優れていることが確認された。
これに対して、絶縁皮膜がフッ素濃度勾配層を有する本発明例1の絶縁銅線は、比誘電率は比較例1の絶縁銅線と同様に低く抑えられ、密着性は比較例2の絶縁銅線と同様に高いことが確認された。
【0087】
(フッ素含有樹脂組成物層の構造)
本発明例1の絶縁銅線について、フッ素含有樹脂組成物層の構造を、SEM−EDS分析装置(日立ハイテク社製、電子顕微鏡SU8230)により確認した。その結果を
図5に示す。
図5のSEM写真からフッ素含有樹脂組成物層は、ポリアミドイミドを含む海相15と、海相15に散されたフッ素樹脂を含む島相16とから構成された海島構造を有することが確認された。
【解決手段】絶縁導体10は、導体11と、導体11の表面に備えられた絶縁皮膜12とを有する絶縁導体であって、絶縁皮膜12は、熱硬化性樹脂およびフッ素樹脂を含むフッ素含有樹脂組成物層13と、導体11とフッ素含有樹脂組成物層13との間に配置された、熱硬化性樹脂およびフッ素樹脂を含み、フッ素含有樹脂組成物層側から導体に向かってフッ素原子含有量が低減する濃度勾配が設けられているフッ素濃度勾配層14とを有している。