特許第6508506号(P6508506)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6508506ベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6508506
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】ベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/329 20060101AFI20190422BHJP
   A61K 47/50 20170101ALI20190422BHJP
【FI】
   C08G65/329
   A61K47/50
【請求項の数】18
【全頁数】57
(21)【出願番号】特願2014-61070(P2014-61070)
(22)【出願日】2014年3月25日
(65)【公開番号】特開2014-208794(P2014-208794A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2017年2月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-61428(P2013-61428)
(32)【優先日】2013年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】粒崎 拓真
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕二
【審査官】 工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】 野村英作,谷口久次,Reimer-Tiemann反応におけるポリエチレングリコール類の添加効果,日本化学会誌,1989年,V0l.1989, No.6,pp.977-982
【文献】 Dvora Berkovich-Berger and N. Gabriel Lemcoff,Facile acetal dynamic combinatoiral library,Chemical Communications,2008年 2月 7日,pp.1686-1688
【文献】 Rachna Jain, Stephany M. Standley, and Jean M. J. Frechet,Synthesis and Degradation of pH-Sensitive Linear Poly(amidoamine)s,Macromolecules,2007年 1月12日,Volume 40, Issue 3,pp. 452-457
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 65/329
A61K 47/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で示される、ベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体。

【化57】
(式中、R1は水素原子または炭化水素基であり;
R2、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子、電子吸引性置換基または電子供与性置換基であり、
R2およびR6は前記水素原子であり、R3、R4、R5はそれぞれ前記電子吸引性置換基または前記電子供与性置換基であり、R3、R4、R5の少なくとも1つは前記電子吸引性置換基であり、R3、R4およびR5における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が0.16≦Σσ≦1.37であるか、またはR2とR6との少なくとも一方が前記電子吸引性置換基または前記電子供与性置換基であり、R2、R3、R4、R5およびR6における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−1.12≦Σσ≦1.20であり、
前記電子吸引性置換基が、炭素数2〜5のアシル基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜5のカルバモイル基、炭素数2〜5のアシルオキシ基、炭素数2〜5のアシルアミノ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜4のアルキルスルファニル基、炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、炭素数6〜10のアリールスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、シアノ基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数6〜10のアリールオキシ基からなる群より選ばれており(ただし炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数6〜10のアリールオキシ基からなる群より選ばれた官能基は、R3またはR5を占めている場合に限る)
前記電子供与性置換基が炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数6〜10のアリールオキシ基からなる群より選ばれており(ただし炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数6〜10のアリールオキシ基からなる群より選ばれた官能基は、R2、R4またはR6を占めている場合に限る)、
X1が、式(a)、式(b)、式(c)、式(d)、式(e)、式(f)、式(g)、式(h)、式(i)、式(j)、式(k)、式(l)、式(m)および式(n)からなる群から選択され、
Pはポリエチレングリコールであり;
wは1〜8の整数であり;および
Z1およびZ2は独立して選択された2価のスペーサーである。)

【化58】
(式中、R7は水素原子またはスルホ基であり;
R8およびR11は独立して水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基であり;
R9はハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり;および
R10は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である。)
【請求項2】
Z1およびZ2が独立してエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合および2級アミノ基から選ばれる結合を有していてもよい飽和炭化水素基である、請求項1記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項3】
Pが末端に炭化水素基または化学反応可能な官能基を有する直鎖型のポリエチレングリコールである、請求項1または2記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項4】
wが1であり、Pが式(2)で示されることを特徴とする、請求項3記載の親水性ポリマー誘導体。
【化59】
(式中、Yは炭素数1〜24の炭化水素基であり;
nは3〜2000の整数である。)
【請求項5】
wが1であり、Pが式(3)で示されることを特徴とする、請求項3記載の親水性ポリマー誘導体。
【化60】
(式中、X2はX1と異なる化学反応可能な官能基であり;
Z3は2価のスペーサーであり;および
nは3〜2000の整数である。)
【請求項6】
Pが末端に炭化水素基またはX1と異なる化学反応可能な官能基を有する分岐型のポリエチレングリコールである、請求項1または2記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項7】
wが1であり、Pが式(4)で示されることを特徴とする、請求項6記載の親水性ポリマー誘導体。
【化61】
(式中、Yは炭素数1〜24の炭化水素基であり;
nは3〜1000の整数であり;および
vは0または2である。)
【請求項8】
wが1であり、Pが式(5)で示されることを特徴とする、請求項6記載の親水性ポリマー誘導体。
【化62】
(式中、X2はX1と異なる化学反応可能な官能基であり;
Z3は2価のスペーサーであり;
nは3〜1000の整数であり;および
vは0または2である。)
【請求項9】
wがv+2であり、Pが式(6)で示されることを特徴とする、請求項6に記載の親水性ポリマー誘導体。
【化63】
(式中、X2はX1と異なる化学反応可能な官能基であり;
Z3は2価のスペーサーであり;
nは3〜1000の整数であり;および
vは0または2である。)
【請求項10】
X2が活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基、ビニル基、アミノ基、オキシアミノ基、ヒドラジド基およびアジド基よりなる群から選択される、請求項5、8または9記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項11】
X2が、式(a)、式(b)、式(c)、式(d)、式(e)、式(f)、式(g)、式(h)、式(i)、式(j)、式(k)、式(l)、式(m)および式(n)からなる群から選択される、請求項5、8または9記載の親水性ポリマー誘導体。
【化64】
(式中、R7は水素原子またはスルホ基であり;
R8およびR11は独立して水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基であり;
R9はハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり;および
R10は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である。)
【請求項12】
Z3がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合および2級アミノ基から選ばれる結合を有していてもよい飽和炭化水素基である、請求項5、8または9記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項13】
Pが末端数2〜8のポリエチレングリコールであり、Pを構成するポリエチレングリコールの全ての末端がそれぞれZ2に対して結合しており、wが前記ポリエチレングリコールの末端数に等しい、請求項1または2記載の親水性ポリマー誘導体。
【請求項14】
Pが、式(r)、式(s)、式(t)、式(u)および式(v)からなる群から選択される、請求項13に記載の親水性ポリマー誘導体。
【化65】
(式中、nは3〜2000の整数である。ここで、Pが式(r)で表される場合にはwが2であり、Pが式(s)で表される場合にはwが3であり、Pが式(t)で表される場合にはwが4であり、Pが式(u)で表される場合にはwが4であり、Pが式(v)で表される場合にはwが8である。)
【請求項15】
前記電子吸引性置換基が、トリフルオロメチル基、シアノ基、アセチル基、メトキシカルボニル基、メチルカルバモイル基、アセトキシ基、アセトアミド基、メトキシルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチルスルファニル基、フェニルスルホニル基、ニトロ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基またはt-ブトキシ基であり(フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基またはt-ブトキシ基はR3またはR5を占めている場合に限る)、前記電子供与性置換基が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基またはフェノキシ基である(フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基またはフェノキシ基はR2、R4またはR6を占めている場合に限る)ことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一つの請求項に記載の親水性ポリマー。
【請求項16】
前記電子吸引性置換が、トリフルオロメチル基、シアノ基、アセチル基、メトキシカルボニル基またはニトロ基であることを特徴とする、請求項15記載の親水性ポリマー。
【請求項17】
前記電子吸引性置換基がトリフルオロメチル基、シアノ基またはニトロ基であることを特徴とする、請求項16記載の親水性ポリマー。
【請求項18】
前記電子供与性置換が、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基またはアセトアミド基である(フェニル基、メトキシ基またはエトキシ基はR2、R4またはR6を占めている場合に限る)ことを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一つの請求項に記載の親水性ポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸加水分解可能なアセタールリンカーを有し、生理活性タンパク質、ペプチド、抗体、核酸および低分子薬物などの生体機能性分子、並びにリポソームやポリマーミセルなどの薬物キャリアの化学修飾に用いられる親水性ポリマー誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラッグデリバリーシステムにおいて、抗原性の低い親水性ポリマーによる生体機能性分子や薬物キャリアの化学修飾は、これら薬物等の水溶解性およびバイオアベイラビリティーを増大させ、血中循環時間を延長させる有効な手法である。その一方で、親水性ポリマーが結合した薬物等がターゲットとする組織や部位に輸送された後、当該親水性ポリマーによる水和層の形成が細胞膜との相互作用を低下させ、細胞への取り込みやエンドソーム脱出といった体内・細胞内動態を阻害することが知られている。このような問題に対して、親水性ポリマー鎖を好適なタイミングで薬物等から脱離させることによって克服しようとするアプローチが行なわれている。その戦略の多くは還元的環境、特異的酵素の有無といった、生体内の各部分における環境変化を親水性ポリマー鎖脱離の引き金として利用するものであり、その中の1つがpHの変化を利用する手法である。
【0003】
生体内の腫瘍組織周辺は正常組織と比較して酸性環境であることが知られており、また、薬物等がエンドサイトーシス経路により細胞内へ導入された後のエンドソーム内部のpHも次第に低下する。そこで、これらの酸性環境下において親水性ポリマーを選択的に脱離させることを目的として、構造中に酸加水分解性のアセタールリンカーを導入した親水性ポリマー誘導体の合成例が多数報告されている。しかし、アセタールリンカーの加水分解性を制御できている例は無く、また、アセタールリンカーの導入方法に課題があるものも少なくない。
【0004】
例えば、特許文献1では種々のアルデヒドまたはケトンから誘導されたアセタール基を介して、低抗原性の親水性ポリマーであるポリエチレングリコールが2本結合した分岐型ポリエチレングリコール誘導体、およびその合成法が開示されているが、加水分解性の評価データは記載されていない。また、ここに記載の合成法は、種々のアルデヒドまたはケトンに対して過剰量のポリエチレングリコールを反応させてアセタールリンカーを有するポリエチレングリコール誘導体を得るものであり、反応後に未反応のポリエチレングリコールが多く残留する。この混合物を原料としてポリマー末端の活性化を行った場合、未反応のポリエチレングリコールの末端も活性化された不純物が副生してしまうことになる。このような不純物を含む活性化ポリエチレングリコールを薬物の修飾に用いると、結果としてアセタールリンカーを含まないポリエチレングリコールが修飾された薬物が生成し、薬物の体内動態や物理的性質などに大きな影響を与える。したがって、ポリエチレングリコール不純物を薬物との反応前に除去する必要があるが、工業的スケールで生産する場合、ポリマー不純物の分離除去は技術面およびコスト面で大きな弊害となる可能性がある。
【0005】
アセタール化合物を得る別の方法としては、アルコール類とビニルエーテル類を酸性条件下で反応させる方法がある。例えば非特許文献1では、種々の官能基を有するビニルエーテル類とポリエチレングリコールを反応させることで、種々の官能基がエチリデンアセタールリンカーを介して結合したポリエチレングリコール誘導体を合成している。ただし、本文献においても加水分解性の評価データについては示されていない。
【0006】
非特許文献1に記載の合成法は、低分子化合物であるビニルエーテル類をポリエチレングリコールに対して過剰量使用するため、未反応のポリエチレングリコールが多く残留することはない。しかしながら、当該合成法で導入されるアセタール基はエチリデンアセタール構造を含むため、導入可能なアセタール基の種類が限定される。ベンジリデンアセタール基を導入する場合には必然的にケタール構造となり、ケタール構造は酸に対して敏感であることから、当該合成法ではケタール交換反応により2本のポリエチレングリコールがケタール基を介して結合した二量体不純物が多く副生することとなる。このことから、非特許文献1に記載の合成法は、ベンジリデンアセタールリンカーを有するポリエチレングリコール誘導体の合成には適用が難しい。
【0007】
一方、非特許文献2では、低分子モデル薬物の水酸基を利用して形成させたアセタール基を有するユニットを合成し、これを別途合成した活性化ポリエチレングリコール誘導体と縮合させることで、低分子モデル薬物が脂肪族またはベンジリデンアセタールリンカーを介して結合した数種類のポリエチレングリコール誘導体を合成している。ここでは、アセタール基周辺の構造の違いが加水分解速度、即ちポリエチレングリコール鎖の脱離速度に影響を与えることを示しているものの、アセタール基周辺の構造との相関が明らかにされておらず、加水分解性を制御できているとは言えない。また、低分子モデル薬物の水酸基を利用してアセタール基を形成させる方法であるため、タンパク質や薬物キャリアなど低分子薬物以外の化学修飾に用いることは難しい。
【0008】
このように、生体内の酸性環境下で親水性ポリマー鎖を脱離させることを目的として、構造中にアセタールリンカーを導入した親水性ポリマー誘導体の例は多数あるものの、任意のpHにおいてアセタールリンカーの加水分解速度、即ち親水性ポリマー鎖の脱離速度が的確に制御された親水性ポリマー誘導体に関しては、今までその例は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2005/108463号パンフレット
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】第57回高分子学会年次大会,高分子学会予稿集, 57, 1897(2008年5月)
【非特許文献2】Bioconjugate Chem. 2004, 15, 1254-1263
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
生体内の各部分におけるpHの偏りは非常に小さく、例えば腫瘍組織周辺は正常組織のpH 7.4と比較して酸性環境であるものの、pHはおよそ6.0の弱酸性である。また、エンドソーム内部もpHは5.5〜6.0の弱酸性であり、エンドソーム内部は次第に酸性化してリソソームのpH 4.5〜5.0に近づくが、最終的にリソソームと融合するため、エンドソーム内に取り込まれた薬物等がリソソーム酵素による分解を回避するためには、pH 5.5付近でのエンドソーム脱出が求められる。このように、腫瘍組織周辺またはエンドソーム内部などの生体内の各部分における僅かなpHの差を利用して親水性ポリマー鎖を脱離させ、薬物等の部位選択的な細胞内取り込みやエンドソーム脱出といった体内・細胞内動態を調節しようとする場合、生体内の弱酸性環境のpHにおけるアセタールリンカーの加水分解速度を的確に制御する必要がある。
【0012】
本発明の課題は、生体内の弱酸性環境のpHにおける加水分解速度を的確に制御可能なアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、生体内の弱酸性環境のpHにおける加水分解速度を的確に制御可能なベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体を開発した。
【0014】
本発明の最も顕著な特徴は、化学反応可能な官能基と親水性ポリマーが、置換基を有するベンジリデンアセタールリンカーを介して結合していることにある。ベンジリデンアセタールリンカーのベンゼン環上における置換基の種類および位置を適切に選択することで、アセタールリンカーの加水分解速度に影響を与えるアセタール基周辺の電子密度および立体障害の度合いを調節できる。この特長により、アセタールリンカーに所望の加水分解速度を付与することができ、当該親水性ポリマー誘導体を結合させた薬物等から、任意の速度で親水性ポリマー鎖を脱離させることが可能となる。
【0015】
本発明の親水性ポリマー誘導体は、置換基を有するベンジリデンアセタール基が導入されたリンカーユニットと親水性ポリマー前駆体をカップリング反応させることにより合成できる。したがって、特許文献1のようにアセタール基形成のために過剰量の親水性ポリマーを使用する必要が無く、未反応の親水性ポリマー不純物の除去を必要としないため、工業的スケールでの生産が容易である。また、導入できるアセタール基の種類に制限は無く、非特許文献1の合成法で導入できないベンジリデンアセタール基も導入可能である。更に、非特許文献2と異なり、本発明の親水性ポリマー誘導体はアセタールリンカーの末端に種々の官能基を導入できるため、様々な生体機能性分子および薬物キャリアと共有結合を形成させることが可能である。
【0016】
即ち、本発明は以下のものである。
[1] 式(1)で示される、ベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体。
【化1】
(式中、R1は水素原子または炭化水素基であり; R2、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子または置換基であり、R3、R4、R5の少なくとも1つは電子吸引性の置換基であるか、またはR2とR6との少なくとも一方が置換基であり; X1は化学反応可能な官能基であり; Pは親水性ポリマーであり;wは1〜8の整数であり;およびZ1およびZ2は独立して選択された2価のスペーサーである。)
【0017】
[2] R2およびR6は水素原子であり、R3、R4およびR5における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が0.16≦Σσ≦1.37である、[1]の親水性ポリマー誘導体。
【0018】
[3] R2とR6との少なくとも一方が置換基であり、R2、R3、R4、R5およびR6における置換基定数(σ)の合計(Σσ)が−1.12≦Σσ≦1.20である、[1]の親水性ポリマー誘導体。
【0019】
[4] X1が活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基、ビニル基、アミノ基、オキシアミノ基、ヒドラジド基およびアジド基よりなる群から選択される、[1]〜[3]のいずれかの親水性ポリマー誘導体。
【0020】
[5] X1が、式(a)、式(b)、式(c)、式(d)、式(e)、式(f)、式(g)、式(h)、式(i)、式(j)、式(k)、式(l)、式(m)および式(n)からなる群から選択される、[1]〜[4]のいずれかの親水性ポリマー誘導体。
【化2】
(式中、R7は水素原子またはスルホ基であり; R8およびR11は独立して水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基であり; R9はハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり;および R10は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である。)
【0021】
[6] Z1およびZ2が独立してエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合および2級アミノ基から選ばれる結合を有していてもよい飽和炭化水素基である、[1]〜[5]のいずれかの親水性ポリマー誘導体。
【0022】
[7] Pが末端に炭化水素基または化学反応可能な官能基を有する直鎖型のポリエチレングリコールである、[1]〜[6]のいずれかのポリエチレングリコール誘導体。
【0023】
[8] wが1であり、Pが式(2)で示されることを特徴とする、[7]のポリエチレングリコール誘導体。
【化3】
(式中、Yは炭素数1〜24の炭化水素基であり;nは3〜2000の整数である。)
【0024】
[9] wが1であり、Pが式(3)で示されることを特徴とする、[7]のポリエチレングリコール誘導体。
【化4】
(式中、X2はX1と異なる化学反応可能な官能基であり; Z3は2価のスペーサーであり;およびnは3〜2000の整数である。)
【0025】
[10] Pが末端に炭化水素基またはX1と異なる化学反応可能な官能基を有する分岐型のポリエチレングリコールである、[1]〜[6]のいずれかのポリエチレングリコール誘導体。
【0026】
[11] wが1であり、Pが式(4)で示されることを特徴とする、[10]のポリエチレングリコール誘導体。
【化5】
(式中、Yは炭素数1〜24の炭化水素基であり;nは3〜1000の整数であり;およびvは0または2である。)
【0027】
[12] wが1であり、Pが式(5)で示されることを特徴とする、[10]のポリエチレングリコール誘導体。
【化6】
(式中、X2はX1と異なる化学反応可能な官能基であり; Z3は2価のスペーサーであり; nは3〜1000の整数であり;およびvは0または2である。)
【0028】
[13] wがv+2であり、Pが式(6)で示されることを特徴とする、[10]のポリエチレングリコール誘導体。
【化7】
(式中、X2はX1と異なる化学反応可能な官能基であり; Z3は2価のスペーサーであり; nは3〜1000の整数であり;およびvは0または2である。)
【0029】
[14] X2が活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基、ビニル基、アミノ基、オキシアミノ基、ヒドラジド基およびアジド基よりなる群から選択される、[9]、[12]または[13]のいずれかのポリエチレングリコール誘導体。
【0030】
[15] X2が、、式(a)、式(b)、式(c)、式(d)、式(e)、式(f)、式(g)、式(h)、式(i)、式(j)、式(k)、式(l)、式(m)および式(n)からなる群から選択される、[9]、[12]または[13]のいずれかのポリエチレングリコール誘導体。
【化8】
(式中、R7は水素原子またはスルホ基であり; R8およびR11は独立して水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基であり; R9はハロゲン原子を含んでいてもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり;および R10は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である。)
【0031】
[16] Z3がエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合および2級アミノ基から選ばれる結合を有していてもよい飽和炭化水素基である、[9]、[12]または[13]のいずれかのポリエチレングリコール誘導体。
【0032】
[17] Pが末端数2〜8のポリエチレングリコールであり、Pを構成するポリエチレングリコールの全ての末端がそれぞれZ2に対して結合しており、wが前記ポリエチレングリコールの末端数に等しい、[1]〜[6]のいずれかのポリエチレングリコール誘導体。
【0033】
[18] Pが、式(r)、式(s)、式(t)、式(u)および式(v)からなる群から選択される、[17]のポリエチレングリコール誘導体。
【化9】

(式中、nは3〜2000の整数である。ここで、Pが式(r)で表される場合にはwが2であり、Pが式(s)で表される場合にはwが3であり、Pが式(t)で表される場合にはwが4であり、Pが式(u)で表される場合にはwが4であり、Pが式(v)で表される場合にはwが8である。)
【発明の効果】
【0034】
本発明によるベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体は、生体内の弱酸性環境のpHに合わせてベンジリデンアセタールリンカーの加水分解性速度を調節でき、当該親水性ポリマー誘導体を結合させたこれらの薬物等から、ターゲット部分のpHにおいて選択的に親水性ポリマー鎖を脱離させることが可能である。したがって、当該親水性ポリマー誘導体を結合させた生体機能性分子や薬物キャリアがターゲットとする組織や部位に輸送された後、親水性ポリマー鎖が脱離することで、従来親水性ポリマー修飾の欠点であった親水性ポリマーの水和層形成に起因する細胞内取り込みやエンドソーム脱出の阻害といった問題を根本的に排除することができる。即ち、当該親水性ポリマー誘導体を薬物等の化学修飾に使用することで、薬物等の本来の機能の発現を妨げることなく、水溶解性、バイオアベイラビリティーの増大および血中循環時間の延長といった親水性ポリマー修飾による利点のみを付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例に記載の式(26)、式(29)、式(30)および式(31)の化合物を用いた、pD 5.5のMES重水緩衝液中、37℃における加水分解試験の結果である。
図2】実施例に記載の式(26)、式(29)、式(30)および式(31)の化合物を用いた、pD 7.4のHEPES重水緩衝液中、37℃における加水分解試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書で使用する用語「アセタール」とは、アルデヒド類から誘導されるアセタール構造およびケトン類から誘導されるアセタール構造、即ちケタール構造の両方を意味する。
【0037】
本発明の式(1)におけるR1は水素原子または炭化水素基であり、炭化水素基の炭素数は10以下が好ましく、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、t-ブチル基、フェニル基およびベンジル基などが挙げられる。R1の好ましい実施形態としては水素原子またはメチル基であり、更に好ましくは水素原子である。
【0038】
本発明の式(1)におけるベンゼン環は複数の置換基を有していてよく、ベンゼン環上における置換基の種類および位置を適切に選択することで、アセタールリンカーの加水分解速度に影響を与えるアセタール基周辺の電子密度および立体障害の度合いを調節できる。これにより、アセタールリンカーに所望の加水分解速度を付与することができる。
【0039】
本明細書において、式(1)におけるベンゼン環上の置換基は「置換基定数(σ)」を用いて説明しているが、これはベンゼン誘導体の反応速度または平衡に及ぼす置換基の影響を定量化したHammett則における置換基定数を意味する。しかし、公知のようにHammett則はパラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体のみに適用され、立体障害の影響を受けるオルト置換ベンゼン誘導体には適用できない。そこで、オルト置換ベンゼン誘導体の場合には、上記Hammett則を拡張したTaftの式における置換基定数を意味する。
【0040】
上記パラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体において、Hammett則は下記式(7)で表わされる。

log(k/k0)=ρσ (7)

(式中、kはパラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体の任意の反応における速度定数または平衡定数であり、k0は上記ベンゼン誘導体が上記置換基を有さない場合、即ち置換基が水素原子である場合の速度定数または平衡定数であり、ρは反応定数であり、σは置換基定数である。)
【0041】
上記式(7)における反応定数(ρ)は、反応の種類、温度、および溶媒等の反応条件によって定まる定数であり、これはHammettプロットの傾きから算出できる。本発明のベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体の酸加水分解反応においては、実施例に記載の式(26)、式(29)および式(30)の化合物について実施した加水分解試験の結果から、「ρ=−3.0」と算出される。
【0042】
上記式(7)における置換基定数(σ)は、反応の種類に関係なく、置換基の種類と位置によってのみ定まる定数であり、置換基を有さない場合、即ち置換基が水素原子である場合は「0」である。本明細書で使用する用語「電子吸引性」とはσが正の値である場合を意味し、用語「電子供与性」とはσが負の値である場合を意味する。
【0043】
前述のように、Hammett則はパラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体のみに適用され、立体障害の影響を受けるオルト置換ベンゼン誘導体の場合には適用できない。そこで、そのような立体障害の影響を位置の因子、即ち置換基の位置定数(Es)として導入し、オルト置換ベンゼン誘導体の場合にも適用できるように、Hammett則を拡張したのがTaftの式である。Taftの式は下記式(8)で表わされる。

log(k/k0)=ρ*σ*+Es (8)

(式中、kはパラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体の任意の反応における速度定数または平衡定数であり、k0は上記ベンゼン誘導体が上記置換基を有さない場合、即ち置換基が水素原子である場合の速度定数または平衡定数であり、ρ*は反応定数であり、σ*は置換基定数であり、Esは置換基の位置定数である。)
【0044】
公知のように、パラ置換およびメタ置換ベンゼン誘導体の反応定数(ρ)とオルト置換ベンゼン誘導体の反応定数(ρ*)はほぼ等しいことから、本明細書ではρとρ*は同じものと定義する。また、オルト位の置換基定数(σ*)は、例えば「Charton,
M. Can. J. Chem. 1960, 38 2493-2499」で述べられているように、パラ位の置換基定数に類似していることから、本明細書におけるオルト位の置換基定数は、相当するパラ位の置換基定数を適用する。
【0045】
パラ位およびメタ位における置換基定数(σ)は「Hansch, C.; Leo, A.; Taft, R. W. Chem. Rev. 1991, 91, 165-195」に記載されており、置換基定数(σ)が未知の置換基については「Hammett,
L. P. Chem. Rev. 1935, 17(1), 125-136」に記載の方法で測定し求めることができる。また、位置定数(Es)は「Unger, S. H.; Hansch, C. Prog. Phys. Org.
Chem. 1976, 12, 91-118」に記載されている。ただし、本明細書で使用するEsは、水素原子を「0」と定義したものである。
【0046】
式(1)において、ベンゼン環上に複数の置換基を有する場合、それらの置換基定数(σ)および位置定数(Es)には加成性が成り立つと定義し、σの合計を「Σσ」、Esの合計を「ΣEs」とそれぞれ表わす。
【0047】
本発明のベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体の好適な加水分解速度は、pH
5.5、37℃の緩衝液中における加水分解半減期(t1/2)が1時間〜6ヶ月の範囲であり、より好ましくは1時間〜1ヶ月の範囲であり、更に好ましくは1時間〜24時間の範囲である。本明細書では、上記加水分解条件でt1/2が24時間である、実施例に記載の式(26)の化合物から導出される数値を用いて、本発明の好適な置換基定数の合計(Σσ)の範囲を規定する。Taftの式(8)を用いて、式(26)の化合物についてのlog(k/k0)を算出すると、下記式(9)が得られる。

log(k/k0)=−3.0×0.23−1.16=−1.85 (9)

(式中、−3.0は反応定数(ρ)、0.23は置換基定数の合計(Σσ)、−1.16は位置定数の合計(ΣEs)を表わす。)
【0048】
上記式(9)および式(7)を用いて、式(1)のR2およびR6が水素原子である場合にt1/2が24時間である置換基定数の合計(Σσ)を算出すると、下記式(10)が得られる。

log(k/k0)=−3.0×Σσ=−1.85
Σσ=0.62 (10)
【0049】
また、式(1)のR2およびR6が水素原子である場合にt1/2が1時間であるときの速度定数をk’としてlog(k’/k0)を算出すると、下記式(11)が得られる。

log(k’/k)=log(24k/k)=1.38

式を変形して

log(k’/k)=log[(k’/k0)/(k/k0)]=1.38
log(k’/k0)−log(k/k0)=1.38

上記式(9)を代入すると

log(k’/k0)−(−1.85)=1.38
log(k’/k0)=−0.47 (11)

ここで、上記式(11)および式(7)を用いて置換基定数の合計(Σσ)を算出すると、下記式(12)が得られる。
log(k’/k0)=−3.0×Σσ=−0.47
Σσ=0.16 (12)
【0050】
式(10)および式(12)より、式(1)のR2およびR6が水素原子である場合、0.16≦Σσ≦0.62であれば当該親水性ポリマー誘導体のt1/2は1時間≦t1/2≦24時間である。同様に1時間≦t1/2≦1ヶ月および1時間≦t1/2≦6ヶ月におけるΣσの範囲をそれぞれ算出すると、1時間≦t1/2≦1ヶ月のときは0.16≦Σσ≦1.11であり、1時間≦t1/2≦6ヶ月のときは0.16≦Σσ≦1.37である。
【0051】
本発明で使用可能な置換基は、当該親水性ポリマー誘導体の合成過程におけるベンジリデンアセタールリンカーのアセタール化反応、ベンジリデンアセタールリンカーとポリエチレングリコール前駆体のカップリング反応および当該親水性ポリマー誘導体の末端官能基変換反応、更には当該親水性ポリマー誘導体と薬物等との結合形成反応を阻害しない、電子吸引性または電子供与性の置換基である。
【0052】
電子吸引性の置換基は、炭素数2〜5のアシル基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数2〜5のカルバモイル基、炭素数2〜5のアシルオキシ基、炭素数2〜5のアシルアミノ基、炭素数2〜5のアルコキシカルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素数1〜4のアルキルスルファニル基、炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、炭素数6〜10のアリールスルホニル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基およびシアノ基であり、好ましい例としてはトリフルオロメチル基、シアノ基、アセチル基、メトキシカルボニル基、メチルカルバモイル基、アセトキシ基、アセトアミド基、メトキシアルボニルアミノ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、メチルスルファニル基、フェニルスルホニル基およびニトロ基が挙げられる。電子供与性の置換基は、炭素数1〜4のアルキル基であり、好ましい例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基およびt-ブチル基が挙げられる。メタ位では電子吸引性、パラ位およびオルト位では電子供与性である置換基は、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数6〜10のアリール基および炭素数6〜10のアリールオキシ基であり、好ましい例としてはフェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、t-ブトキシ基およびフェノキシ基などが挙げられる。
【0053】
式(1)のR2とR6との少なくとも一方が水素原子以外の置換基である場合については、上記置換基で立体障害の影響が最も大きいフェニル基および最も小さいフッ素原子の位置定数(Es)を用いて、pH 5.5、37℃の緩衝液中におけるt1/2が1時間≦t1/2≦24時間、1時間≦t1/2≦1ヶ月、および1時間≦t1/2≦6ヶ月であるΣσの範囲をそれぞれ算出すると、1時間≦t1/2≦24時間のときは−1.12≦Σσ≦0.45であり、1時間≦t1/2≦1ヶ月のときは−1.12≦Σσ≦0.94であり、1時間≦t1/2≦6ヶ月のときは−1.12≦Σσ≦1.20である。
【0054】
式(1)のR2およびR6が水素原子である場合、Σσは正の値であることからR3〜R5の少なくとも1つは電子吸引性の置換基であり、R3〜R5のうち上記以外は電子供与性の置換基であってもよい。例えば1時間≦t1/2≦24時間のときに0.16≦Σσ≦0.62を満たす好ましい実施形態においては、式(1)のR3〜R5のうち1つはトリフルオロメチル基、シアノ基、アセチル基、メトキシカルボニル基およびニトロ基よりなる群から選択される置換基であり、より好ましくはトリフルオロメチル基またはシアノ基である。別の好ましい実施形態においては、式(1)のR3〜R5のうち1つはトリフルオロメチル基、シアノ基、アセチル基、メトキシカルボニル基およびニトロ基よりなる群から選択される置換基であり、かつR3〜R5のうち上記以外の1つはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基およびアセトアミド基よりなる群から選択される置換基である。より好ましくはR3〜R5のうち1つはトリフルオロメチル基、シアノ基またはニトロ基であり、かつR3〜R5のうち上記以外の1つはメチル基、エチル基、プロピル基またはメトキシ基である。もう一つの好ましい実施形態においては、式(1)のR3〜R5のうち2つはフッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子よりなる群から独立して選択される置換基であり、より好ましくは塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子よりなる群から独立して選択される置換基である。
【0055】
また、式(1)のR2とR6との少なくとも一方が水素原子以外の置換基である場合、例えば1時間≦t1/2≦24時間のときに−1.12≦Σσ≦0.45を満たす好ましい実施形態を以下に示す。式(1)のR2およびR6のうち一方がフッ素原子またはメトキシ基であり、もう一方が水素原子であるときは、R3〜R5のうち1つはトリフルオロメチル基、シアノ基、アセチル基、メトキシカルボニル基およびニトロ基よりなる群から選択される置換基であり、より好ましくはトリフルオロメチル基またはシアノ基である。式(1)のR2とR6との少なくとも一方がシアノ基であるときは、R3〜R5のうち1つはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基およびアセトアミド基よりなる群から選択される置換基であり、より好ましくはメチル基、エチル基またはメトキシ基である。式(1)のR2およびR6が独立してフッ素原子またはメトキシ基であるときは、R3〜R5のうち1つはトリフルオロメチル基、アセチル基、メトキシカルボニル基、フェニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子よりなる群から選択される置換基であり、より好ましくはトリフルオロメチル基、フェニル基またはフッ素原子である。式(1)のR2およびR6のうち一方がメチル基またはエチル基であり、もう一方が水素原子であるときは、R3〜R5のうち1つはアセチル基、メトキシカルボニル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子よりなる群から選択される置換基であり、より好ましくはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。式(1)のR2およびR6のうち一方が塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、もう一方が水素原子であるときは、R3〜R5は水素原子、もしくはR3〜R5のうち1つはフェニル基またはアセトアミド基であり、より好ましくは水素原子である。式(1)のR2およびR6のうち一方がプロピル基、イソプロピル基またはブチル基であり、もう一方が水素原子であるときは、R3〜R5のうち1つはフッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であり、より好ましくは塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。式(1)のR2およびR6のうち一方がt-ブチル基、フェニル基、トリフルオロメチル基およびニトロ基よりなる群から選択される置換基であり、もう一方が水素原子であるときは、R3〜R5のうち2つはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基およびアセトアミド基よりなる群から選択される置換基であり、より好ましくはR3〜R5のうち2つはメチル基、エチル基、t-ブチル基、メトキシ基およびアセトアミド基よりなる群から選択される置換基である。式(1)のR2およびR6が独立してメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子よりなる群から選択される置換基であるときは、R3〜R5のうち2つはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、メトキシ基、エトキシ基およびアセトアミド基よりなる群から選択される置換基であり、より好ましくはR3〜R5のうち2つはメチル基、エチル基、t-ブチル基、メトキシ基およびアセトアミド基よりなる群から選択される置換基である。
【0056】
このように、本発明のベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体に所望の加水分解性を付与するための適切な置換基の種類および位置は、式(7)、式(8)および式(9)を用いて上述の計算を行なうことで合理的に設定可能である。
【0057】
本発明の式(1)におけるX1は、化学修飾の対象となる生理活性タンパク質、ペプチド、抗体、核酸および低分子薬物などの生体機能性分子、並びにリポソームやポリマーミセルなどの薬物キャリアに存在する官能基と反応して共有結合を形成する官能基であれば特に制限されない。例えば、「Harris, J. M. Poly(Ethylene Glycol) Chemistry; Plenum Press: New
York, 1992」、「Hermanson, G. T. Bioconjugate Techniques,
2nd ed.; Academic Press: San Diego, CA, 2008」および「PEGylated
Protein Drugs: Basic Science and Clinical Applications; Veronese, F. M., Ed.;
Birkhauser: Basel, Switzerland, 2009」などに記載されている官能基が挙げられる。
【0058】
X1の好ましい例を挙げれば、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基、ビニル基、アミノ基、オキシアミノ基、ヒドラジド基およびアジド基である。更に具体的には、生体機能性分子のアミノ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基またはカルボキシ基であり、生体機能性分子のチオール基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基またはビニル基であり、生体機能性分子のアルデヒド基またはカルボキシ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、チオール基、アミノ基、オキシアミノ基またはヒドラジド基であり、生体機能性分子のアルキニル基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、チオール基またはアジド基であり、生体機能性分子のアジド基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基はアルキニル基である。
【0059】
ここで「活性エステル」とは、式:−C(=O)−Lで表わされる活性化されたカルボキシ基を示し、Lは脱離基を示す。Lで表わされる脱離基としては、スクシンイミジルオキシ基、フタルイミジルオキシ基、4-ニトロフェノキシ基、1-イミダゾリル基、ペンタフルオロフェノキシ基、ベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基および7-アザベンゾトリアゾール-1-イルオキシ基などが挙げられる。「活性カーボネート」とは、式:−O−C(=O)−Lで表わされる活性化されたカーボネート基を示し、Lは上記と同様の脱離基を示す。
【0060】
本発明の好適な実施形態において、X1は群(I)、群(II)、群(III)、群(IV)および群(V)で示される基である。
群(I):生体機能性分子のアミノ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)
群(II):生体機能性分子のチオール基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)および(j)
群(III):生体機能性分子のアルデヒド基またはカルボキシ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(g)、(k)、(l)および(m)
群(IV):生体機能性分子のアルキニル基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(g)、(k)、(l)、(m)および(n)
群(V):生体機能性分子のアジド基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(j)
【0061】
【化10】

【0062】
式中、R7は水素原子またはスルホ基であり、スルホ基として具体的にはスルホン酸ナトリウムおよびスルホン酸カリウムが挙げられるが、好ましくは水素原子である。R8、R11は水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基であり、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基およびペンチル基などが挙げられる。R9はハロゲン原子を含んでもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ベンジル基、4-メチルフェニル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、4-(トリフルオロメトキシ)フェニル基、ビニル基、クロロエチル基、ブロモエチル基およびヨードエチル基などが挙げられるが、好ましくはメチル基、ビニル基、4-メチルフェニル基または2,2,2-トリフルオロエチル基である。R10は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である。
【0063】
本発明の式(1)におけるZ1は官能基X1とベンジリデンアセタールリンカー間の2価のスペーサーであり、Z2はベンジリデンアセタールリンカーと親水性ポリマー鎖間の2価のスペーサーである。これらは共有結合で構成され、ベンジリデンアセタールリンカーよりも酸加水分解に対して安定であれば特に制限は無いが、好ましくはアルキレン基単独、またはエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合および2級アミノ基から選ばれる結合をアルキレン鎖中もしくは末端に有するアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜24である。説明のためであって、制限するものではないが、アルキレン基の好ましい例としては、(z1)のような構造が挙げられる。エーテル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z2)または(z3)のような構造が挙げられる。エステル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z4)のような構造が挙げられる。カーボネート結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z5)のような構造が挙げられる。ウレタン結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z6)のような構造が挙げられる。アミド結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z7)のような構造が挙げられる。2級アミノ基を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z8)のような構造が挙げられる。好ましい実施形態において、pおよびqは独立して1〜12の整数である。例えば、官能基X1をタンパク質内部のような疎水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは大きい方が好ましく、親水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは小さい方が好ましい。
【0064】
【化11】

【0065】
本発明の式(1)におけるPは親水性ポリマーであり、具体的な例としては、ポリアルキレングリコール、ポリオキサゾリン、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアミノ酸、並びに上記ポリマーに由来するコポリマーなどが挙げられ、好ましくはポリアルキレングリコールであり、さらに好ましくはポリエチレングリコールである。
【0066】
本明細書で使用する用語「ポリエチレングリコール」は、エチレンオキシドの重合で得られる分子量分布を有するポリエチレングリコール、並びに単一分子量のオリゴエチレングリコール類をカップリング反応で結合した単分散のポリエチレングリコールの両方を意味する。
【0067】
本発明の一態様では、式(1)におけるPは直鎖型のポリエチレングリコールである。
【0068】
この態様の好ましい実施形態では、式(1)のPは式(2)で示される。
【化12】
【0069】
式中、nはポリエチレングリコール鎖1本あたりの繰り返しユニット数であり、分子量分布を有するポリエチレングリコールにおいては、化合物の数平均分子量(Mn)に基づいて、各種理論的な計算をすることにより算出することと定義する。
【0070】
式中、Yは炭素数1〜24の炭化水素基であり、具体的な例としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ヘンエイコシル基、ドコシル基、トイコシル基、テトラコシル基、フェニル基、ベンジル基、クレジル基、ブチルフェニル基、ドデシルフェニル基およびトリチル基などが挙げられ、好ましくは炭素数1〜10の炭化水素基、より好ましくはメチル基またはエチル基であり、更に好ましくはメチル基である。
【0071】
この態様のもう1つの好ましい実施形態では、式(1)のPは式(3) で示される。
【化13】
【0072】
式中、X2はX1と異なる化学反応可能な官能基であり、Z3は官能基X2とポリエチレングリコール鎖間の2価のスペーサーである。当該ポリエチレングリコール誘導体は、X1とX2の2つの異なる反応性官能基を有しているため、例えばX1に薬物を結合させ、X2に標的指向性分子を結合させることで、標的指向性を有するポリエチレングリコール−薬物結合体を提供することができる。
【0073】
X2の好ましい例を挙げれば、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基、ビニル基、アミノ基、オキシアミノ基、ヒドラジド基およびアジド基である。更に具体的には、生体機能性分子のアミノ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基またはカルボキシ基であり、生体機能性分子のチオール基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、活性エステル基、活性カーボネート基、アルデヒド基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、エポキシ基、マレイミド基、ビニルスルホン基、アクリル基、スルホニルオキシ基、カルボキシ基、チオール基、ジチオピリジル基、α-ハロアセチル基、アルキニル基、アリル基またはビニル基であり、生体機能性分子のアルデヒド基またはカルボキシ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、チオール基、アミノ基、オキシアミノ基またはヒドラジド基であり、生体機能性分子のアルキニル基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基は、チオール基またはアジド基であり、生体機能性分子のアジド基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基はアルキニル基である。
【0074】
本発明の好適な実施形態において、X2は群(I)、群(II)、群(III)、群(IV)および群(V)で示される基である。
群(I):生体機能性分子のアミノ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)および(f)
群(II):生体機能性分子のチオール基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)および(j)
群(III):生体機能性分子のアルデヒド基またはカルボキシ基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(g)、(k)、(l)および(m)
群(IV):生体機能性分子のアルキニル基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(g)、(k)、(l)、(m)および(n)
群(V):生体機能性分子のアジド基と反応して共有結合を形成することが可能な官能基
下記の(j)
【0075】
【化14】

【0076】
式中、R7は水素原子またはスルホ基であり、スルホ基として具体的にはスルホン酸ナトリウムおよびスルホン酸カリウムが挙げられるが、好ましくは水素原子である。R8、R11は水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基であり、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基およびペンチル基などが挙げられる。R9はハロゲン原子を含んでもよい炭素数1〜10の炭化水素基であり、具体的な炭化水素基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、ベンジル基、4-メチルフェニル基、トリフルオロメチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、4-(トリフルオロメトキシ)フェニル基、ビニル基、クロロエチル基、ブロモエチル基およびヨードエチル基などが挙げられるが、好ましくはメチル基、ビニル基、4-メチルフェニル基または2,2,2-トリフルオロエチル基である。R10は塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子から選択されるハロゲン原子である。
【0077】
X2はX1と異なっていることが必要であり、X1と X2の好ましい組み合わせとして、X1が活性エステル基または活性カーボネート基のときは、X2はマレイミド基、ビニルスルホン基、α-ハロアセチル基、アルキニル基およびアジド基から選択される基であり、X1がアルデヒド基のときは、X2はマレイミド基、ビニルスルホン基、アルキニル基およびアジド基から選択される基であり、X1がマレイミド基、ビニルスルホン基またはα-ハロアセチル基のときは、X2は活性エステル基、活性カーボネート基、アルキニル基、アジド基から選択される基であり、X1がアルキニル基またはアジド基のときは、X2はマレイミド基、ビニルスルホン基、α-ハロアセチル基、活性エステル基、活性カーボネート基、アミノ基およびオキシアミノ基から選択される基であり、X1がアミノ基またはオキシアミノ基のときは、アルキニル基、アジド基、チオール基またはカルボキシ基であり、X1がチオール基のときは、X2はアミノ基、オキシアミノ基、アジド基およびカルボキシ基から選択される基である。より好ましくは、X1が活性エステル基または活性カーボネート基のときは、X2はマレイミド基、α-ハロアセチル基、アルキニル基およびアジド基から選択される基であり、X1がアルデヒド基のときは、X2はマレイミド基、α-ハロアセチル基、アルキニル基およびアジド基から選択される基であり、X1がマレイミド基またはα-ハロアセチル基のときは、X2は活性エステル基、活性カーボネート基、アルキニル基、アジド基から選択される基であり、X1がアルキニル基またはアジド基のときは、X2はマレイミド基、α-ハロアセチル基、活性エステル基、活性カーボネート基、アミノ基およびオキシアミノ基から選択される基であり、X1がアミノ基またはオキシアミノ基のときは、アルキニル基、アジド基またはチオール基であり、X1がチオール基のときは、X2はアミノ基、オキシアミノ基およびアジド基から選択される基である。
【0078】
Z3は共有結合で構成され、ベンジリデンアセタールリンカーよりも酸加水分解に対して安定であれば特に制限は無いが、好ましくはアルキレン基単独、またはエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合および2級アミノ基から選ばれる結合をアルキレン鎖中もしくは末端に有するアルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、好ましくは1〜24である。説明のためであって、制限するものではないが、アルキレン基の好ましい例としては、(z1)のような構造が挙げられる。エーテル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z2)または(z3)のような構造が挙げられる。エステル結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z4)のような構造が挙げられる。カーボネート結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z5)のような構造が挙げられる。ウレタン結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z6)のような構造が挙げられる。アミド結合を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z7)のような構造が挙げられる。2級アミノ基を有するアルキレン基の好ましい例としては、(z8)のような構造が挙げられる。好ましい実施形態において、pおよびqは独立して1〜12の整数である。例えば、官能基X2をタンパク質内部のような疎水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは大きい方が好ましく、親水性環境で結合させたい場合は、pおよびqは小さい方が好ましい。
【0079】
【化15】

【0080】
本発明の別の一態様では、式(1)におけるPは分岐型のポリエチレングリコールである。
【0081】
この態様の好ましい実施形態では、式(1)のPは式(4) で示される。
【化16】

【0082】
式中、Yは炭素数1〜24の前記炭化水素基であり、vは0または2である。
【0083】
vが0の場合は2本のポリエチレングリコール鎖を有し、vが2の場合は4本のポリエチレングリコール鎖を有する。一般にポリエチレングリコールによる生体関連物質の化学修飾では、必要以上にポリエチレングリコールとの結合点を導入すると生体関連物質の活性点を潰し、その機能を低下させるため、ポリエチレングリコールの分子量を大きくして効果を高める試みが行われている。しかし、分子量の増大にともなって粘度も増大するため、例えば注射製剤のような水溶液製剤での取り扱いが困難となる。当該ポリエチレングリコール誘導体は分岐型構造であるため、同一分子量の直鎖型のポリエチレングリコール誘導体と比較して粘度が低く、水溶液製剤などの用途で有用である。
【0084】
この態様の別の好ましい実施形態では、式(1)のPは式(5) で示される。
【化17】
【0085】
式中、X2はX1と異なる化学反応可能な前記官能基であり、Z3は前記2価のスペーサーであり、vは0または2である。
【0086】
当該ポリエチレングリコール誘導体は、1つのX1と2つまたは4つのX2を有しており、例えばX1に薬物を結合させ、X2に標的指向性分子を結合させれば、高い標的指向性能を得ることができる。
【0087】
この態様のもう一つの好ましい実施形態では、式(1)のPは式(6) で示される。
【化18】
【0088】
式中、X2はX1と異なる化学反応可能な前記官能基であり、Z3は前記2価のスペーサーであり、vは0または2である。
【0089】
抗体−薬物複合体(ADC)関連分野においては、薬物の運搬効率を上げるために抗体に対して複数の薬物を結合させることが好ましいが、抗体に複数の結合点を導入すると抗原との親和性の低下が問題となる。当該ポリエチレングリコール誘導体は2つまたは4つのX1と1つのX2を有しており、例えばガンを標的としたADCでX1に抗ガン剤を結合させ、X2に抗体を結合させれば、抗体との結合点を増加させずに、抗ガン剤の運搬効率を向上させることができる。
【0090】
本発明のもう一つの態様では、式(1)におけるPは末端数2〜8のポリエチレングリコールであり、Pを構成するポリエチレングリコールの全ての末端がそれぞれZ2に対して結合しており、wが前記ポリエチレングリコールの末端数に等しい。
【0091】
この態様の好ましい実施形態では、式(1)のPは、式(r)、式(s)、式(t)、式(u)および式(v)からなる群から選択される。Pが式(r)で表される場合にはwが2であり、Pが式(s)で表される場合にはwが3であり、Pが式(t)で表される場合にはwが4であり、Pが式(u)で表される場合にはwが4であり、Pが式(v)で表される場合にはwが8である。
【化19】
【0092】
本発明の式(2)および式(3)におけるnの好適な範囲は3〜2000であり、より好ましくは20〜1500であり、更に好ましくは40〜1000であり、最も好ましくは60〜500である。また、式(4)、式(5)および式(6)におけるnの好適な範囲は3〜1000であり、好ましくは10〜800であり、更に好ましくは20〜500であり、最も好ましくは30〜300である。
【0093】
本発明のベンジリデンアセタールリンカーを有する親水性ポリマー誘導体は、置換基を有するベンジリデンアセタール基が導入されたリンカーユニットと親水性ポリマー前駆体をカップリング反応させることにより合成できる。このカップリング反応によって生じる結合は、反応に使用される官能基の組み合わせによって決定されるものであり、前記2価のスペーサーZ2に含まれるエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合または2級アミノ基である。合成した当該親水性ポリマー誘導体は、必要に応じてベンジリデンアセタールリンカーの末端官能基を化学変換する。この官能基変換に用いられる反応は、従来公知の方法を用いることができるが、式(1)のベンジリデンアセタール基、前記2価のスペーサーZ2およびZ1に含まれる結合を分解しない条件を適切に選択しなければならない。
【0094】
ベンジリデンアセタールリンカーユニットと親水性ポリマー前駆体をカップリング反応させ、さらに末端官能基を化学変換する典型的な例としては、以下のような工程が挙げられる。ここでは代表的な親水性ポリマーであるポリエチレングリコールを例として説明する。
【0095】
(A) ベンジリデンアセタールリンカーユニットの合成
【化20】

(式中、Arは置換基を有するベンゼン環であり、R1は水素原子または炭化水素基である。)
【0096】
アミノ基を代表的な保護基であるフタルイミド基で保護した3-アミノプロパノール誘導体と式(13)のカルボニル化合物をトルエン、ベンゼン、キシレン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒、もしくは無溶媒中、酸触媒存在下、反応させることでベンジリデンアセタール基を有する下記式(14)の化合物を得る。得られた化合物は、抽出、再結晶、吸着剤処理またはカラムクロマトグラフィーなどで精製してもよい。カルボニル化合物の代わりに、対応する低級アルコールのアセタール誘導体を使用することもできる。低級アルコールは好ましくは炭素数1〜5のアルコールであり、更に好ましくはメタノールまたはエタノールである。酸触媒は有機酸または無機酸のいずれでもよく、特に制限は無いが、具体的な例を挙げればp-トルエンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム、メタンスルホン酸、10-カンファースルホン酸、塩化水素、ヨウ素、塩化アンモニウム、シュウ酸および三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体などである。
【0097】
【化21】
【0098】
ここで「保護基」とは、ある反応条件下で分子中の特定の反応性官能基の反応を防止または阻止する成分である。保護基は、保護される反応性官能基の種類、使用される条件および分子中の他の官能基もしくは保護基の存在により変化する。保護基の具体的な例は多くの一般的な成書に見出すことができるが、例えば「Wuts, P. G. M.; Greene, T. W. Protective Groups in Organic
Synthesis, 4th ed.; Wiley-Interscience: New York, 2007」に記載されている。
【0099】
式(14)の化合物における保護基は、アセタール化反応の酸性条件で安定、かつベンジリデンアセタール基が分解する接触還元以外の方法で脱保護可能であれば、他の保護基も用いることができる。反応性官能基がアミノ基のときは、例えばアシル系保護基およびカーバメート系保護基が挙げられ、具体的にはトリフルオロアセチル基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基および2-(トリメチルシリル)エチルオキシカルボニル基などが挙げられる。また、反応性官能基がヒドロキシ基のときは、例えばシリル系保護基およびアシル系保護基が挙げられ、具体的にはt-ブチルジフェニルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、アセチル基およびピバロイル基などが挙げられる。
【0100】
次に、式(14)の化合物を脱保護試薬であるヒドラジン一水和物で処理して2つのフタルイミド基を脱保護した後、保護試薬であるトリフルオロ酢酸エチルを1モル当量反応させて、アミノ基の一方のみがトリフルオロアセチル基で保護された式(15)の化合物を得る。もしくは、式(14)の化合物に対して脱保護試薬の使用量を調節することで、アミノ基の一方のみがフタルイミド基で保護された式(15)と同類の化合物を得ることもできる。得られた化合物は、前述の精製手段にて精製してもよい。
【化22】
【0101】
式(15)の化合物における保護基は、ベンジリデンアセタール基が分解する酸性条件および接触還元、並びに当該ベンジリデンアセタールリンカーユニットと親水性ポリマー前駆体とのカップリング反応により生じる結合を分解する条件以外の方法で脱保護可能であれば、他の保護基も用いることができる。反応性官能基がアミノ基のときは、例えばアシル系保護基およびカーバメート系保護基が挙げられ、具体的にはフタルイミド基、9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基および2-(トリメチルシリル)エチルオキシカルボニル基などが挙げられる。また、反応性官能基がヒドロキシ基のときは、例えばシリル系保護基およびアシル系保護基が挙げられ、具体的にはt-ブチルジフェニルシリル基、t-ブチルジメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、アセチル基およびピバロイル基などが挙げられる。保護基の代表的な脱保護条件は前述の文献に記載されており、それぞれの保護基に適した方法を選択することができる。
【0102】
(B) ポリエチレングリコール前駆体の合成
開始剤であるメタノールをトルエン中もしくは無溶媒で、金属ナトリウム、金属カリウム、水素化ナトリウムまたは水素化カリウムなどのアルカリ条件下、エチレンオキシドをメタノールに対して3〜2000モル当量重合させ、式(16)のポリエチレングリコールを得る。開始剤としては炭素数1〜24の炭化水素基を有するアルコールが好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、t-ブタノール、フェノールおよびベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0103】
【化23】
【0104】
式(16)のポリエチレングリコールをトルエン、ベンゼン、キシレン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒、もしくは無溶媒中、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジンまたは4-ジメチルアミノピリジンなどの有機塩基、もしくは炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウムまたは炭酸カリウムなどの無機塩基の存在下、N,N’-ジスクシンイミジルカーボネートと反応させることで、式(17)のポリエチレングリコール前駆体を得る。上記有機塩基、無機塩基は用いなくとも良い。有機塩基、無機塩基の使用割合は、特に制限はないが、式(16)のポリエチレングリコールの水酸基に対して等モル以上が好ましい。また、有機塩基を溶媒として用いてもよい。得られた化合物は、抽出、再結晶、吸着剤処理、再沈殿、カラムクロマトグラフィーまたは超臨界抽出等の精製手段にて精製してもよい。
【0105】
【化24】
【0106】
式(17)のポリエチレングリコール前駆体における反応性官能基は他の反応性官能基も用いることができる。反応性官能基の好ましい例としては、当該ポリエチレングリコール前駆体と前記ベンジリデンアセタールリンカーユニットのカップリング反応によって生じる結合が、式(1)の2価のスペーサーZ2に含まれるエーテル結合、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、アミド結合または2級アミノ基となる官能基であり、具体的には活性エステル、活性カーボネート、アルデヒド基、スルホニルオキシ基およびアミノ基などが挙げられる。
【0107】
(C) ベンジリデンアセタールリンカーユニットとポリエチレングリコール前駆体のカップリング反応
式(15)のベンジリデンアセタールリンカーユニットと式(17)のポリエチレングリコール前駆体をトルエン、ベンゼン、キシレン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒、もしくは無溶媒中、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジンまたは4-ジメチルアミノピリジンなどの有機塩基、もしくは炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウムまたは炭酸カリウムなどの無機塩基の存在下、カップリング反応させることで、式(18)の化合物を得る。上記有機塩基、無機塩基は用いなくとも良い。有機塩基、無機塩基の使用割合は、特に制限はないが、式(17)のポリエチレングリコール前駆体の反応性官能基に対して等モル以上が好ましい。また、有機塩基を溶媒として用いてもよい。得られた化合物は、前述の精製手段にて精製してもよい。
【0108】
【化25】
【0109】
カップリング反応の反応条件は、ベンジリデンアセタールリンカーユニットの反応性官能基およびポリエチレングリコール前駆体の反応性官能基の組み合わせによって決定されるものであり、従来公知の方法を用いることができるが、式(1)のベンジリデンアセタール基、前記2価のスペーサーZ2およびZ1に含まれる結合を分解しない条件を適切に選択する必要がある。
【0110】
(D) ベンジリデンアセタールリンカーを有するポリエチレングリコール誘導体の末端官能基変換
式(18)の化合物を水、メタノールまたはエタノールなどのプロトン性溶媒、もしくはこれらを含む非プロトン性溶媒中、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムまたはアンモニアなどの塩基で処理することで、トリフルオロアセチル基が除去されてアミノ基に変換された式(19)の化合物を得る。得られた化合物は、前述の精製手段にて精製してもよい。
【化26】
【0111】
更に、式(19)の化合物をトルエン、ベンゼン、キシレン、アセトニトリル、酢酸エチル、ジエチルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはジメチルアセトアミドなどの非プロトン性溶媒、もしくは無溶媒中、トリエチルアミン、N-メチルモルホリン、ピリジンまたは4-ジメチルアミノピリジンなどの有機塩基、もしくは炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウムまたは炭酸カリウムなどの無機塩基の存在下、3-マレイミドプロピオン酸 N-スクシンイミジルと反応させることで、末端にマレイミド基が導入された式(20)の化合物を得る。上記有機塩基、無機塩基は用いなくとも良い。有機塩基、無機塩基の使用割合は、特に制限はないが、式(19)の化合物の反応性官能基に対して等モル以上が好ましい。また、有機塩基を溶媒として用いてもよい。得られた化合物は、前述の精製手段にて精製してもよい。
【0112】
【化27】
【実施例】
【0113】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0114】
1H-NMR分析では日本電子データム(株)製JNM-ECP400またはJNM-ECA600を使用した。測定にはφ5mmチューブを用い、重水素化溶媒がCDCl3、CD3CNまたはCD3ODの場合は、内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)を使用し、D2Oの場合はHDOを基準とした。
【0115】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析では、GPCシステムとしてSHODEX GPC SYSTEM-11、検出器である示唆屈折計としてSHODEX RIX8、GPCカラムとしてSHODEX KF801L、KF803L、KF804L(φ8mm×300mm)を3本直列に繋ぎ、カラムオーブンの温度を40℃とした。溶離液としてはテトラヒドロフランを用い、流速は1ml/分とし、試料の濃度は0.1wt%とし、注入容量は0.1mLとして測定を行った。検量線は関東化学(株)製のエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、並びにPolymer
Laboratory製の分子量600〜70000のポリエチレングリコールまたはポリエチレンオキシドのGPC用Polymer Standardsを用いて作成したものを用いた。データの解析はBORWIN GPC計算プログラムを使用した。Mnは数平均分子量、Mwは重量平均分子量を表わし、分子量分布はMw/Mnとしてその計算値を示した。
【0116】
加水分解試験で使用するpD 5.5のMES(2-morpholinoethanesulfonic acid)重水緩衝液とpD
7.4のHEPES(2-[4-(Hydroxyethyl)-1-piperazinyl]ethanesulfonic
acid])重水緩衝液は、それぞれ0.1MのMES重水溶液と0.1MのHEPES重水溶液に0.1Mの水酸化ナトリウム重水溶液を加え、「Glasoe, P. K.; Long, F. A. J. Phys. Chem. 1960, 64, 188-190」に記載されている以下の関係式に基づいて調製した。
pD=pHメーターの測定値+0.40
【0117】
加水分解率は1H-NMRで評価し、式(26)、式(29)および式(30)の化合物の場合は、アセタール基の水素の積分値をI1、加水分解で生成するアルデヒド基の水素の積分値をI2として、次の計算式により算出した。
加水分解率(%)=[I2/(I1+I2)]×100
【0118】
また、式(31)の化合物の場合は、アセタール基に結合したベンゼン環の積分値をI3、加水分解で生成するアセトフェノンのベンゼン環の積分値をI4として、次の計算式により算出した。
加水分解率(%)=[I4/(I3+I4)]×100
【0119】
(実施例1)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、Dean-stark管および冷却管を装備した300 mLの四つ口フラスコに2-ブロモベンズアルデヒド ジメチルアセタール(2.31 g, 10.0 mmol)、N-(3-ヒドロキシプロピル)フタルイミド(8.21 g, 40.0 mmol)およびトルエン(120 g)を仕込み、水をトルエンで共沸除去した。室温へ冷却後、p-トルエンスルホン酸ピリジニウム
(0.25 g, 1.0 mmol)を加え、副生するメタノールをトルエンで共沸除去しながら3時間反応を行った。トリエチルアミン(10 mL)でクエンチ後、酢酸エチル(100 mL)とヘキサン(100 mL)の混合溶液で希釈した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(100 mL)、飽和食塩水(100 mL)の順に洗浄した後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去し、残渣を再結晶にて精製して式(21)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm):
1.92-2.01(4H, m, -CH2CH2CH2O-), 3.53-3.67(4H,
m, -CH2CH2CH2O-), 3.75-3.81(4H, m, -CH2CH2CH2O-),
5.64(1H, s, >CH-), 7.08-7.49(4H, m, arom. H), 7.64-7.81(8H, m, arom. H)
【0120】
【化28】
【0121】
(実施例2)
温度計、窒素吹き込み管および攪拌機を装備した100 mLの三つ口フラスコに式(21)の化合物(1.00 g, 1.73 mmol)、エタノール(36 mL)およびヒドラジン1水和物(0.84
mL)を仕込み、60℃で6時間反応を行った。室温に冷却して濾過後、濾液をジクロロメタン(108 mL)で希釈した。10%食塩水(80
mL)で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去して式(22)の化合物を得た。

1H-NMR(CD3OD,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.73-1.78(4H, m, -CH2CH2CH2O-),
2.74(4H, t, -CH2CH2CH2O-), 3.57-3.70(4H, m,
-CH2CH2CH2O-), 5.67(1H, s, >CH-),
7.23-7.61(4H, m, arom. H)
【0122】
【化29】
【0123】
(実施例3)
温度計、窒素吹き込み管および攪拌機を装備した100 mLの三つ口フラスコに式(22)の化合物(0.30 g, 0.95 mmol)と脱水メタノール(18 mL)を仕込み、トリフルオロ酢酸エチル(0.13 g, 0.95 mmol)を脱水メタノール(18 mL)に溶解した溶液を滴下しながら撹拌した。滴下終了後、25℃にて2時間反応を行った。溶媒を減圧留去し、残渣をt-ブチルメチルエーテル(18 mL)で希釈した。イオン交換水(18 mL)で洗浄後、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、溶媒を減圧留去し、両末端のアミノ基がトリフルオロアセチル基で保護された化合物(40 wt%含有)との混合物として式(23)の化合物を得た。

1H-NMR(CD3OD,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.73-1.78(2H, m, NH2CH2CH2CH2O-),
1.83-1.88(2H, m, CF3CONHCH2CH2CH2O-),
2.74(2H, t, NH2CH2CH2CH2O-),
3.40(2H, t, CF3CONHCH2CH2CH2O-),
3.54-3.70(4H, m, -CH2CH2CH2O-), 5.68(1H, s,
>CH-), 7.23-7.63(4H, m, arom. H)
【0124】
【化30】
【0125】
(実施例4)
温度計、窒素吹き込み管および攪拌機を装備した300 mLの四つ口フラスコに脱水メタノール(12.8 g, 0.400 mol)、脱水トルエン(150 g)および金属ナトリウム0.3 g(13 mmol)を仕込み、窒素を吹き込みながら金属ナトリウムが溶解するまで室温で攪拌した。この溶液を5 Lオートクレーブへ仕込み、系内を窒素置換後、100℃に昇温した。100〜130℃、1 MPa以下の圧力でエチレンオキシド(1,987 g, 45 mol)を加えた後、更に2時間反応を続けた。減圧にて未反応のエチレンオキシドガスを除去後、60℃に冷却し、85%リン酸水溶液でpH
7.5に調整して式(24)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 2.68(1H, t, OH), 3.38(3H, s, CH3O-), 3.49-3.85(450H, m,
-(OCH2CH2)n-)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 5119, 重量平均分子量(Mw): 5226, 多分散度(Mw/Mn):
1.021
【0126】
【化31】
【0127】
(実施例5)
温度計、窒素吹き込み管、攪拌機、Dean-stark管および冷却管を装備した100 mLの三つ口フラスコに式(24)の化合物 (10.0 g, 2.00 mmol)とトルエン(40g)を仕込み、水をトルエンで共沸除去した。40℃へ冷却後、ピリジン(0.71 g, 9.00 mmol)、N,N’-ジスクシンイミジルカーボネート(1.54 g, 6.00 mmol)を仕込み、80℃にて7時間反応を行った。濾過後、酢酸エチル(45 g)で希釈し、ヘキサン(16 g)を添加して晶析を行った。濾過後、結晶を酢酸エチル(76 g)に溶解させ、ヘキサン(24 g)を添加して再度晶析を行った。濾過後、減圧下で乾燥して式(25)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 2.84(4H, s, succinimide), 3.38(3H, s, CH3O-),
3.48-3.85(448H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-),
4.44-4.48(2H, m, -CH2O-COO-succinimide)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 5129, 重量平均分子量(Mw): 5247, 多分散度(Mw/Mn):
1.023
【0128】
【化32】

【0129】
(実施例6)
温度計、窒素吹き込み管および攪拌機を装備した100 mLの三つ口フラスコに式(25)の化合物 (1.0 g, 0.20 mmol)と脱水ジクロロメタン36 gを仕込み、式(23)の化合物(純分60 wt%)を(206 mg, 0.30 mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(38 mg, 0.30 mmol)の脱水ジクロロメタン(4 g)溶液を滴下しながら撹拌した。滴下終了後、25℃にて3時間反応を行った。溶媒を減圧留去し、残渣を酢酸エチル(25 g)に溶解した後、ヘキサン(25 g)を添加して晶析を行った。濾過後、減圧下で乾燥して式(26)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.78-1.93(4H, m, -CH2CH2CH2O-),
3.26-3.37(2H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-), 3.38(3H,
s, CH3O-), 3.47-3.81(454H, m, CF3CONHCH2CH2CH2O-,
-CH2CH2CH2O-, -(OCH2CH2)n-OCH2-),
4.20(2H, t, -OCH2CH2OCONH-), 5.11(1H, brs, -OCONH-),
5.67(1H, s, >CH-), 7.21-7.59(4H, m, arom. H), 7.31(1H, brs, CF3CONH-)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 5424, 重量平均分子量(Mw): 5549, 多分散度(Mw/Mn):
1.023
【0130】
【化33】
【0131】
(実施例7)
温度計、窒素吹き込み管および攪拌機を装備した50 mLの三つ口フラスコに式(26)の化合物 (0.50 g, 0.10 mmol)と1Mの炭酸カリウム水溶液(15 g)を仕込み、25℃にて3時間反応を行った。ジクロロメタン(15 g)で抽出し、溶媒を減圧留去後、残渣を酢酸エチル(25 g)に溶解して無水硫酸ナトリウムで乾燥した。濾過後、ヘキサン(25 g)を添加して晶析を行った。濾過後、減圧下で乾燥して式(27)の化合物を得た。

1H-NMR(CD3CN,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.62-1.68(2H, m, NH2CH2CH2CH2O-),
1.71-1.77(2H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-),
2.67-2.71(2H, m, NH2CH2CH2CH2O-),
3.15-3.20(2H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-), 3.29(3H,
s, CH3O-), 3.41-3.69(452H, m, -CH2CH2CH2O-,
-(OCH2CH2)n-OCH2-), 4.08(2H, t,
-OCH2CH2OCONH-), 5.62(1H, s, >CH-), 5.73(1H, brs,
-OCONH-), 7.24-7.63(4H, m, arom. H)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 5408, 重量平均分子量(Mw): 5532, 多分散度(Mw/Mn):
1.023
【0132】
【化34】
【0133】
(実施例8)
温度計、窒素吹き込み管および攪拌機を装備した50 mLの三つ口フラスコへ式(27)の化合物(0.20 g, 0.040 mmol)とアセトニトリル(10 g)を仕込み、3-マレイミドプロピオン酸 N-スクシンイミジル(32 mg, 0.048 mmol)を加えて25℃にて3時間反応を行った。濾過後、溶媒を減圧留去した。残渣を酢酸エチル(25 g)に溶解した後、ヘキサン(25 g)を添加して晶析を行った。濾過後、減圧下で乾燥して式(28)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.78-1.83(4H, m, -CONHCH2CH2CH2O-),
2.44(2H, t, -CH2CH2-maleimide), 3.27-3.37(4H, m, -CONHCH2CH2CH2O-),
3.38(3H, s, CH3O-), 3.47-3.83(454H, m, -CH2CH2CH2O-,
-(OCH2CH2)n-OCH2-, -CH2CH2-maleimide),
4.20(2H, t, -OCH2CH2OCONH-), 5.18(1H, brs, -OCONH-),
5.65(1H, s, >CH-), 6.15(1H, brs, -NHCO-), 6.70(2H, s, maleimide),
7.20-7.60(4H, m, arom. H)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 5561, 重量平均分子量(Mw): 5694, 多分散度(Mw/Mn):
1.024
【0134】
【化35】
【0135】
(実施例9)
2-ニトロベンズアルデヒド ジメチルアセタールを用いて、実施例1〜6と同様の方法にて式(29)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.83-1.91(4H, m, -CH2CH2CH2O-),
3.26-3.36(2H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-), 3.38(3H,
s, CH3O-), 3.47-3.85(454H, m, CF3CONHCH2CH2CH2O-,
-CH2CH2CH2O-, -(OCH2CH2)n-OCH2-),
4.21(2H, t, -OCH2CH2OCONH-), 5.10(1H, brs, -OCONH-),
6.00(1H, s, >CH-), 7.50-7.86(4H, m, arom. H), 7.27(1H, brs, CF3CONH-)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 5391, 重量平均分子量(Mw): 5510, 多分散度(Mw/Mn):
1.022
【0136】
【化36】
【0137】
(実施例10)
4-ニトロベンズアルデヒド ジメチルアセタールを用いて、実施例1〜6と同様の方法にて式(30)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.80-1.93(4H, m, -CH2CH2CH2O-),
3.31-3.34(2H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-), 3.38(3H,
s, CH3O-), 3.47-3.81(454H, m, CF3CONHCH2CH2CH2O-,
-CH2CH2CH2O-, -(OCH2CH2)n-OCH2-),
4.20(2H, t, -OCH2CH2OCONH-), 5.09(1H, brs, -OCONH-),
5.56(1H, s, >CH-), 7.27(1H, brs, CF3CONH-), 7.62(2H, d, arom. H),
8.24(2H, d, arom. H)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 5375, 重量平均分子量(Mw): 5488, 多分散度(Mw/Mn):
1.021
【0138】
【化37】

【0139】
(実施例11)
2’-ニトロアセトフェノン ジメチルアセタールを用いて、実施例1〜6と同様の方法にて式(31)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.74-1.88(7H, m, CH3-, -CH2CH2CH2O-),
3.21-3.33(2H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-), 3.38(3H,
s, CH3O-), 3.41-3.81(454H, m, CF3CONHCH2CH2CH2O-,
-CH2CH2CH2O-, -(OCH2CH2)n-OCH2-),
4.21(2H, t, -OCH2CH2OCONH-), 5.06(1H, brs, -OCONH-),
7.27(1H, brs, CF3CONH-), 7.42-7.55(4H, m, arom. H)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 5402, 重量平均分子量(Mw): 5521, 多分散度(Mw/Mn):
1.022
【0140】
【化38】

【0141】
(実施例12)
【化39】

【0142】
特開2010-248504号公報に記載の方法で合成した式(32)の化合物に対して、塩酸を用いてt-ブチル基を除去することで、式(33)の化合物を得た。

1H-NMR(D2O,
内部標準TMS); δ(ppm): 3.14(2H, t, NH2CH2-), 3.40-4.00(452H, m,
-(OCH2CH2)n-OCH2-)
【0143】
【化40】

【0144】
(実施例13)
式(33)の化合物を5-アジドペンタン酸無水物と反応させることで、式(34)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.60-1.74(4H, m, -CH2CH2CH2CH2N3),
2.18(2H, t, -CH2CH2CH2CH2N3),
3.29(2H, t, -CH2CH2CH2CH2N3),
3.40-3.85(454H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-CONHCH2-), 6.30(1H, brs, -CONH-)
【0145】
【化41】

【0146】
(実施例14)
式(34)の化合物をトリエチルアミン存在下、ジクロロメタン中、N,N’-ジスクシンイミジルカーボネートと反応させることで、式(35)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.60-1.74(4H, m, -CH2CH2CH2CH2N3),
2.18(2H, t, -CH2CH2CH2CH2N3),
2.84(4H, s, succinimide), 3.29(2H, t, -CH2CH2CH2CH2N3),
3.40-3.85(452H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-CONHCH2-), 4.44-4.48(2H, m, -CH2O-COO-succinimide),
6.30(1H, brs, -CH2CONH-)
【0147】
【化42】

【0148】
(実施例15)
式(35)の化合物を実施例6と同様の方法にて式(23)の化合物と反応させて、式(36)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.60-1.93(8H, m, -CH2CH2CH2CH2N3,
-CH2CH2CH2O-), 2.18(2H, t, -CH2CH2CH2CH2N3),
3.26-3.37(4H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-, -CH2CH2CH2CH2N3),
3.40-3.85(458H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-CH2CONHCH2-, CF3CONHCH2CH2CH2O-,
-CH2CH2CH2O-), 4.20(2H, t, -OCH2CH2OCONH-),
5.11(1H, brs, -OCONH-), 5.67(1H, s, >CH-), 6.30(1H, brs, -CH2CONH-),
7.21-7.59(4H, m, arom. H), 7.31(1H, brs, CF3CONH-)
【0149】
【化43】

【0150】
(実施例16)
式(36)の化合物に対して、実施例7と同様の方法にてトリフルオロアセチル基を除去した後、ヨード酢酸無水物を反応させることで、式(37)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.60-1.93(8H, m, -CH2CH2CH2CH2N3,
-CH2CH2CH2O-), 2.18(2H, t, -CH2CH2CH2CH2N3),
3.26-3.37(6H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-, -CH2CH2CH2CH2N3,
ICH2CONHCH2-), 3.40-3.85(458H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-CH2CH2CONHCH2-, -CH2CH2CH2O-,
ICH2CONHCH2-), 4.20(2H, t, -OCH2CH2OCONH-),
5.11(1H, brs, -OCONH-), 5.67(1H, s, >CH-), 6.30(1H, brs, -CH2CH2CONH-),
6.96(1H, brs, ICH2CONHCH2-), 7.21-7.59(4H, m, arom. H)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 5764, 重量平均分子量(Mw): 5890, 多分散度(Mw/Mn):
1.024
【0151】
【化44】

【0152】
(実施例17)
【化45】

【0153】
特開2004-197077号公報に記載の方法で合成した式(38)の化合物に対して、実施例5と同様の方法にてN,N’-ジスクシンイミジルカーボネートを反応させることで、式(39)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 2.84(4H, s, succinimide), 3.38(6H, s, CH3O-),
3.40-4.00(903H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-(OCH2CH2)n-OCH<), 4.39(1H, dd, -CH2O-COO-succinimide),
4.49(1H, dd, -CH2O-COO-succinimide)
【0154】
【化46】

【0155】
(実施例18)
式(39)の化合物を実施例6と同様の方法にて式(23)の化合物と反応させて、式(40)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.78-1.93(4H, m, -CH2CH2CH2O-),
3.26-3.37(2H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-), 3.38(6H,
s, CH3O-), 3.40-4.00(909H, m, CF3CONHCH2CH2CH2O-,
-CH2CH2CH2O-, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-(OCH2CH2)n-OCH<), 4.08(1H, dd, -CH2OCONH-),
4.19(1H, dd, -CH2OCONH-), 5.05(1H, brs, -OCONH-), 5.67(1H, s,
>CH-), 7.21-7.59(4H, m, arom. H), 7.31(1H, brs, CF3CONH-)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 9697, 重量平均分子量(Mw): 9920, 多分散度(Mw/Mn): 1.023
【0156】
【化47】

【0157】
(実施例19)
【化48】

【0158】
特開2004-197077号公報に記載の方法で合成した式(41)の化合物に対して、トリエチルアミンおよび4-ジメチルアミノピリジン存在下、無水酢酸を反応させることで、式(42)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 2.08(6H, s, CH3CO-), 3.40-4.00(905H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-(OCH2CH2)n-OCH<, -CH2OCH2Ph),
4.22(4H, t, CH3COOCH2-), 4.54(2H, s, -CH2OCH2Ph),
7.27-7.38(5H, m, -CH2OCH2Ph)
【0159】
【化49】

【0160】
(実施例20)
式(42)の化合物に対して、特開2004-197077号公報に記載の方法でベンジル基を除去した後、実施例5と同様の方法にてN,N’-ジスクシンイミジルカーボネートを反応させることで、式(43)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 2.08(6H, s, CH3CO-), 2.84(4H, s, succinimide),
3.40-4.00(901H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-(OCH2CH2)n-OCH<), 4.22(4H, t, CH3COOCH2-),
4.39(1H, dd, -CH2O-COO-succinimide), 4.49(1H, dd, -CH2O-COO-succinimide)
【0161】
【化50】

【0162】
(実施例21)
式(43)の化合物を実施例6と同様の方法にて式(23)の化合物と反応させて、式(44)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.78-1.93(4H, m, -CH2CH2CH2O-),
2.08(6H, s, CH3CO-), 3.26-3.37(2H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-),
3.38(6H, s, CH3O-), 3.40-4.00(907H, m, CF3CONHCH2CH2CH2O-,
-CH2CH2CH2O-, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-(OCH2CH2)n-OCH<), 4.08(1H, dd, -CH2OCONH-),
4.19(1H, dd, -CH2OCONH-), 4.22(4H, t, CH3COOCH2-),
5.05(1H, brs, -OCONH-), 5.67(1H, s, >CH-), 7.21-7.59(4H, m, arom. H),
7.31(1H, brs, CF3CONH-)
【0163】
【化51】

【0164】
(実施例22)
式(44)の化合物に対して、水酸化ナトリウム水溶液を用いてアセチル基とトリフルオロアセトアミド基を除去した後、実施例8と同様の方法にて3-マレイミドプロピオン酸 N-スクシンイミジルと反応させることで、式(45)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.78-1.83(4H, m, -CONHCH2CH2CH2O-),
2.44(2H, t, -CH2CH2-maleimide), 3.27-3.37(4H, m, -CONHCH2CH2CH2O-),
3.40-4.00(909H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-,
-(OCH2CH2)n-OCH<, -CH2CH2CH2O-,
-CH2CH2-maleimide), 4.08(1H, dd, -CH2OCONH-),
4.19(1H, dd, -CH2OCONH-), 5.12(1H, brs, -OCONH-), 5.65(1H, s,
>CH-), 6.15(1H, brs, -NHCO-), 6.70(2H, s, maleimide), 7.20-7.60(4H, m, arom.
H)
【0165】
【化52】

【0166】
(実施例23)
式(45)の化合物を実施例14と同様の方法にてN,N’-ジスクシンイミジルカーボネートと反応させて、式(46)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.78-1.83(4H, m, -CONHCH2CH2CH2O-),
2.44(2H, t, -CH2CH2-maleimide), 2.84(4H, s, succinimide),
3.27-3.37(4H, m, -CONHCH2CH2CH2O-), 3.40-4.00(905H,
m, -(OCH2CH2)n-OCH2-, -(OCH2CH2)n-OCH<,
-CH2CH2CH2O-, -CH2CH2-maleimide),
4.08(1H, dd, -CH2OCONH-), 4.19(1H, dd, -CH2OCONH-),
4.44-4.48(4H, m, -CH2O-COO-succinimide), 5.12(1H, brs, -OCONH-),
5.65(1H, s, >CH-), 6.15(1H, brs, -NHCO-), 6.70(2H, s, maleimide),
7.20-7.60(4H, m, arom. H)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 10069, 重量平均分子量(Mw): 10321, 多分散度(Mw/Mn): 1.025
【0167】
【化53】

【0168】
(実施例24)
【化54】

【0169】
ペンタエリスリトールにエチレンオキシドを重合させて合成した式(47)の化合物に対して、実施例5と同様の方法にてN,N’-ジスクシンイミジルカーボネートを反応させることで、式(48)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 2.84(16H, s, succinimide), 3.47-3.85(1800H, m, -(OCH2CH2)n-OCH2-),
4.39(4H, dd, -CH2O-COO-succinimide), 4.49(4H, dd, -CH2O-COO-succinimide)
【0170】
【化55】


【0171】
(実施例25)
式(48)の化合物を実施例6と同様の方法にて式(23)の化合物と反応させて、式(49)の化合物を得た。

1H-NMR(CDCl3,
内部標準TMS); δ(ppm): 1.78-1.93(16H, m, -CH2CH2CH2O-),
3.26-3.37(8H, m, -OCONHCH2CH2CH2O-),
3.47-3.85(1806H, m, CF3CONHCH2CH2CH2O-,
-CH2CH2CH2O-, -(OCH2CH2)n-OCH2-),
4.20(8H, t, -OCH2CH2OCONH-), 5.11(4H, brs, -OCONH-),
5.67(4H, s, >CH-), 7.21-7.59(16H, m, arom. H), 7.31(4H, brs, CF3CONH-)
GPC分析; 数平均分子量(Mn): 19393, 重量平均分子量(Mw): 19897, 多分散度(Mw/Mn): 1.026
【0172】
【化56】

【0173】
(実施例26)
式(26)、式(29)、式(30)および式(31)の化合物(20 mg)をそれぞれpD 5.5のMES重水緩衝液(1 mL)とpD 7.4のHEPES重水緩衝液(1 mL)に溶解し、37℃の恒温槽で静置した。図1はpD
5.5、図2はpD 7.4における加水分解率の測定結果である。
【0174】
図1に示すように、式(26)、式(29)、式(30)および式(31)の化合物のpD 5.5、37℃における加水分解率半減期(t1/2)はそれぞれ24時間、2.2ヶ月、18日および36時間であった。また、pD 7.4、37℃においては、式(26)および式(31)の化合物は18日で10%程度の加水分解が見られたが、式(29)および式(30)の化合物は18日後でも加水分解は見られなかった。
図1
図2