特許第6508526号(P6508526)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6508526-重量流動化処理土 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6508526
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】重量流動化処理土
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/00 20060101AFI20190422BHJP
   C09K 17/10 20060101ALI20190422BHJP
   E02F 7/00 20060101ALI20190422BHJP
   C09K 17/02 20060101ALN20190422BHJP
【FI】
   E02D3/00 101
   C09K17/10 P
   E02F7/00 D
   !C09K17/02 P
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-152303(P2015-152303)
(22)【出願日】2015年7月31日
(65)【公開番号】特開2017-31656(P2017-31656A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】神谷 雄三
(72)【発明者】
【氏名】清田 正人
(72)【発明者】
【氏名】小島 利広
【審査官】 荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−069446(JP,A)
【文献】 特開2015−067481(JP,A)
【文献】 特開2007−269974(JP,A)
【文献】 特開2003−138551(JP,A)
【文献】 特開2004−196850(JP,A)
【文献】 特開2002−087869(JP,A)
【文献】 特開平07−034800(JP,A)
【文献】 米国特許第06158925(US,A)
【文献】 米国特許第06379455(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 1/00−3/115
E02F 5/00−7/10
H02G 9/00−9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌にセメント系固化材、重量骨材、および水を混合した流動化処理土であって、
セメント系固化材、重量骨材、および土壌の量比が、乾燥状態で、セメント系固化材3〜20質量%、重量骨材15〜35質量%、土壌10〜45質量%、および残量が水からなり、湿潤密度が1.5g/cm以上であってブリーディング率が3%未満であり、さらに該流動化処理土1mあたりの重量骨材量が750kg以下であり、さらに該流動化処理土1mあたりの単位水量が500〜750kgであって混練後90分経過のJHフロー値が100mm以上であることを特徴とする重量流動化処理土。
【請求項2】
請求項1の重量流動化処理土において、材齢28日の一軸圧縮強さが0.05N/mm以上であって、硬化後の透水係数が1.0×10−5cm/s未満である重量流動化処理土
【請求項3】
土壌とセメント系固化材と重量骨材の細粒分の合計容量Sに対する単位水量Wの比(W/S)が4未満である請求項1に記載する重量流動化処理土。
【請求項4】
重量骨材が比重3.0以上の非鉄スラグである請求項1〜請求項3の何れかに記載する重量流動化処理土。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高密度の流動化処理土に関し、より詳しくは、流動化処理土において、重量骨材を含有した高密度であってブリーディング率が小さい重量流動化処理土に関する。
【0002】
掘削土など建設発生土の利用方法として流動化処理工法が知られている。この処理工法は、掘削土などに水と固化材を混合して流動化状態の土(流動化処理土)にし、これを埋め戻し箇所に流し込む工法である。この流動化処理土は地下構造物空間の裏込めや埋戻し、地中埋設管の埋戻し、空間充填、水中盛土および液状化対策等に用いられている(特許文献1)。
【0003】
水中盛土や液状化対策に用いる流動化処理土は重量の大きな高密度の処理土が有利である。水中の盛土や液状化によって浮き上がりを生じる地盤に、重量の大きな流動化処理土を混合することによって、盛土や地盤の浮き上がりを有効に抑制することができる。また、重量の大きな流動化処理土はケーソンの中詰材などにも使用することができる。従来の流動化処理土は比重が概ね1.2〜1.3g/cmであり、通常の土壌と大差ない(特許文献2)。
【0004】
流動化処理土の重量を大きくするには、掘削土などに水およびセメントなどの固化材と共に重量骨材を配合すればよいが、単に重量骨材を配合しただけでは、セメントや土との比重差が大きいのでブリーディング(材料分離)を生じる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−140507号公報
【特許文献2】特開2013−64314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、流動化処理土に重量骨材を配合したときに生じる材料分離をうまく解決したものであり、重量が大きくしかもブリーディング率が小さい高密度の重量流動化処理土を提供する。
【0007】
本発明は、以下の構成からなる重量流動化処理土に関する。
〔1〕土壌にセメント系固化材、重量骨材、および水を混合した流動化処理土であって、
セメント系固化材、重量骨材、および土壌の量比が、乾燥状態で、セメント系固化材3〜20質量%、重量骨材15〜35質量%、土壌10〜45質量%、および残量が水からなり、湿潤密度が1.5g/cm以上であってブリーディング率が3%未満であり、さらに該流動化処理土1mあたりの重量骨材量が750kg以下であり、さらに該流動化処理土1mあたりの単位水量が500〜750kgであって混練後90分経過のJHフロー値が100mm以上であることを特徴とする重量流動化処理土。
〔2〕上記[1]の重量流動化処理土において、材齢28日の一軸圧縮強さが0.05N/mm以上であって、硬化後の透水係数が1.0×10−5cm/s未満である重量流動化処理土
〔3〕土壌とセメント系固化材と重量骨材の細粒分の合計容量Sに対する単位水量Wの比(W/S)が4未満である上記[1]に記載する重量流動化処理土。
〔4〕重量骨材が比重3.0以上の非鉄スラグである上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する重量流動化処理土。
【0008】
〔具体的な説明〕
以下、本発明を具体的に説明する。なお、%は各々の定義に従う他は説明がない限り質量%である。
本発明の重量流動化処理土は、土壌にセメント系固化材、重量骨材、および水を混合した流動化処理土であって、セメント系固化材、重量骨材、および土壌の量比が、乾燥状態で、セメント系固化材3〜20質量%、重量骨材15〜35質量%、土壌10〜45質量%、および残量が水からなり、湿潤密度が1.5g/cm以上であってブリーディング率が3%未満であり、さらに該流動化処理土1mあたりの重量骨材量が750kg以下であり、さらに該流動化処理土1mあたりの単位水量が500〜750kgであって混練後90分経過のJHフロー値が100mm以上であることを特徴とする重量流動化処理土である。
【0009】
本発明の重量流動化処理土に用いられる土壌は、掘削土などの建設発生土などの一般に流動化処理される土壌であり特には制限されない。
【0010】
本発明の重量流動化処理土に配合する固化材は、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、混合セメント、高炉セメントなどの各種セメント、これらのセメントに石膏や石灰などを添加したものが知られている。本発明はこれらの固化材を使用することができる。なお、本発明において、各種セメント、および各種セメントに石膏や石灰を添加したものを含めてセメント系固化材と云う。
【0011】
本発明の重量流動化処理土は重量骨材を含み、重量骨材を含むことによって湿潤密度1.5g/cm以上の重量を有するようにしたものである。重量骨材は比重3.0以上の骨材であり、非鉄スラグを用いることができる。具体的には、比重3.0以上の銅スラグ、フェロニッケルスラグ、転炉スラグなどを用いることができる。通常、これらの非鉄スラグは比重3.0以上であるので、流動化処理土の重量を増すのに好適であり、また、一般にガラス質であるため吸水性が無いので、骨材による流動性の変化を生じ難い利点がある。
【0012】
流動化処理土に重量骨材を配合する場合、重量骨材とその他の材料とは大きな重量差があるので材料分離(ブリーディング)を生じ易い。ブリーディング(bleeding)は、フレッシュコンクリートまたはフレッシュモルタルにおいて、固体材料の沈降または分離によって、練混ぜ水の一部が遊離して上面に滞留する現象であり、ブリーディング率によって材料分離の程度が示される。ブリーディング率の測定方法は規格(土木学会規準JSCE-F 522-2007「プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリーディング率及び膨張率試験方法(ポリエチレン袋法)(案)」)に定められている。一般に、ブリーディング率が3%以上になると材料分離が大きいので実用に適さない。
【0013】
本発明の重量流動化処理土は、該処理土に含まれる材料の細粒分の合計容量Sと単位水量Wの比(W/S)を指標にして材料の配合を調整することによって、ブリーディングを低減している。具体的には、本発明の重量流動化処理土に含まれる土壌、セメント系固化材、および重量骨材の細粒分の合計容量Sに対し、単位水量Wの比(W/S)を4未満に管理することによって、ブリーディング率を3%未満に制御している。細粒分は粒径0.075mm未満の粒子であり、セメント系固化材のほぼ全量が細粒分である。土壌や重量骨材の細粒分はその種類によって異なる。
【0014】
重量流動化処理土に含まれる土壌、セメント系固化材、および重量骨材の細粒分の合計容量Sと単位水量Wの比(W/S)に対するブリーディング率(混合3時間後)の変化を図1に示す。図1のグラフに示すように、W/S比が3.5以下ではブリーディング(材料分離)を生じないが、W/S比が3.5を超えるとブリーディング率が急激に高くなり、W/S比が4を超えるとブリーディング率が4以上になる現象が見られる。この現象に基づき、本発明は重量流動化処理土のW/S比を4未満に管理してブリーディング率を3%未満に制御している。
【0015】
一方、一般に流動化処理土の単位水量は、水を加えて混練後90分経過したときのJHフローが100mm以上になる量が好ましい。地下空洞および狭隘空間への充填には、ポンプ圧送による施工が一般的であり、施工に必要とされる時間等を考慮すると、流動性の基準としては、混練直後ではなく混練後90分経過したときに流動化処理土が十分な流動性を有することが好ましい。具体的には、旧日本道路公団基準「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」1.2シリンダー法(JHSA 313-1992)(以下、JHフロー)で100mm以上のフロー値を有することが好ましく、狭隘空間に対しては270mm以上のフロー値を有することが好ましい。
【0016】
本発明の重量流動化処理土は、上記W/S比が4未満になる範囲で、材料の種類や配合量を調整し、混練後90分経過のJHフロー値が100mm以上になるように単位水量が定められる。あるいは、上記JHフロー値が100mm以上になる単位水量に基づいて、上記W/S比が4未満になる範囲で材料の種類や配合量が調整される。狭隘空間に適用する場合にはJHフロー値270mm以上を基準にすればよい。
【0017】
硬化後の流動化処理土は、自立する強度を有し流出しないことが必要とされる。自立に必要な強度は、材齢28日の一軸圧縮強さが概ね0.04N/mm以上であるが、端部等の流出が懸念される箇所においては、少なくとも0.05N/mm以上の強度が求められるので、本発明の重量流動化処理土は、材齢28日の一軸圧縮強さが0.05N/mm以上であることが好ましい。
【0018】
本発明の重量流動化処理土は、疎水性が求められる環境において使用する場合には、硬化後の透水係数が1.0×10−5cm/s未満であることが好ましい。疎水性が必要な施工現場とは、例えば、港湾工事等に使用されるケーソン構造物の中詰めである。本発明の重量流動化処理土の硬化後の透水係数が1.0×10−5cm/s未満であれば、水の浸透が極めて少ないので、海水による化学的浸食に対する抵抗性が向上する。
【0019】
本発明の重量流動化処理土の材料配合は、例えば、セメント系固化材3〜20質量%、重量骨材15〜35質量%、土壌10〜45質量%、水は残量の範囲が好ましい。セメント系固化材、重量骨材、土壌は乾燥状態の質量である。セメント系固化材の量が3質量%未満では十分な強度が得られず、20質量%を上回ると流動性が低下する。重量骨材の量は15質量%未満では十分な密度が得られず、35質量%を上回ると材料分離抵抗性が低下する。さらに、重量骨材の量が重量流動化処理土1mあたり750kgを上回ると材料分離を生じ易いので、重量骨材の量は重量流動化処理土1mあたり750kg以下が好ましい。
【0020】
さらに上記材料配合量において、水量は、上記W/S比が4未満であって、混練後90分経過のJHフロー値が100mm以上になる単位水量であることが好ましく、具体的には、例えば、重量流動化処理土1mあたりの単位水量500〜750kgであって、セメント系固化材(C)と水(W)の比(C/W)は0.15〜0.45の範囲が好ましい。
【0021】
上記材料配合量の範囲で、湿潤密度1.5g/cm以上であってブリーディング率3%未満になるように、さらに好ましくは、材齢28日の一軸圧縮強さが0.05N/mm以上であって硬化後の透水係数が1.0×10−5cm/s未満になるように、上記W/S比4未満、混練後90分経過のJHフロー値100mm以上の基準に基づいて、セメント系固化材、重量骨材、および土の具体的な配合量を定めればよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明の重量流動化処理土は、湿潤密度が1.5g/cm以上であるので、高い地盤密度を必要とする施工現場に適する。例えばマンホールの浮き上がり対策等の液状化防止措置などの施工現場に適する。また、本発明の重量流動化処理土はブリーディング率が3%未満であり、材料分離が殆ど無いので、均質な埋め戻しや充填効果を得ることができる。
【0023】
本発明の重量流動化処理土は、銅スラグおよびフェロニッケルスラグなどの非鉄スラグを重量骨材として用いることができ、さらに、単位水量および細粒分容量を一定の基準で管理することによって、非鉄スラグの種類にかかわらずに流動化処理土の流動性を調整することができる。また、セメント水比(C/W)を管理することによって、非鉄スラグの種類にかかわらずに流動化処理土の硬化後の一軸圧縮強さの予測が可能であり、品質管理が容易である。
【0024】
さらに、本発明の重量流動化処理土は、従来用いられていた凝集剤や分散剤などの高価な薬剤を必要としないので、材料コストを大幅に低減することができる。さらに、産業廃棄物として処分されている建設発生土、銅スラグおよびフェロニッケルスラグなどの非鉄スラグを有効に利用することができ、これらの処分費用を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】細粒分合計容量Sと単位水量Wの比(W/S)に対するブリーディング率を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施例および比較例によって具体的に示す。
各例において、表1に示す材料を用いた。
ブリーディング率は規格(土木学会規準JSCE-F 522-2007「プレパックドコンクリートの注入モルタルのブリーディング率及び膨張率試験方法(ポリエチレン袋法)(案)」)に従って測定した。
JHフロー値は旧日本道路公団基準「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」1.2シリンダー法(JHSA 313-1992)に従って測定した。
一軸圧縮強さは規格(JIS A 1216:2009「土の一軸圧縮試験方法」)に従って測定した。
透水係数は規格(JIS A 1218:2009「土の透水試験方法」)に従って測定した。
処理土の密度は規格(JIS A 1225:2009「土の湿潤密度試験方法」)に従って測定した。
【0027】
【表1】
【0028】
〔実施例1、比較例1〕
土壌に、セメント系固化材AまたはBと共に重量骨材としてフェロニッケルスラグFNを混合し、水を加えて混錬し、重量流動化処理土を調製した。配合量を表2に示した。この重量流動化処理土について、処理土の密度、JHフロー値、ブリーディング率、一軸圧縮強さ、透水係数を測定した。この結果を表3に示した(試料No.A1〜A6、B1〜B4)。
【0029】
〔実施例2、比較例2〕
重量骨材として銅スラグCuを用いた他は実施例1と同様にして重量流動化処理土を調製した。配合量を表2に示した。この重量流動化処理土について、処理土の密度、JHフロー値、ブリーディング率、一軸圧縮強さ、透水係数を測定した。この結果を表3に示した(試料No.A7〜A12、B5〜B8)。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】

図1