(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記少なくとも2種類のアセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド付加物のうち、HLB値が高い方の該アセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド付加物のHLB値が14以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品用組成物の製造方法。
前記少なくとも2種類のアセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド付加物のHLB値がともに14以上であることを特徴とする請求項1に記載の電子部品用組成物の製造方法。
前記セラミックス原料粉末に対して、前記少なくとも2種類のアセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド付加物のうちHLB値の高いアセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド付加物を先に添加し、次いでHLB値の低いアセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド付加物を添加することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電子部品用組成物の製造方法。
前記セラミックス原料粉末は、酸化亜鉛(ZnO)を主成分とする酸化亜鉛バリスタ用の原料粉末であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電子部品用組成物の製造方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面および表を参照して、本発明に係る一実施の形態例を詳細に説明する。最初に、電子部品等の製造に使用するセラミックス原料粉末の混合について説明する。セラミックス原料粉末の混合において、湿潤、解砕、安定化という分散の三要素(ステップ)が重要となるが、原料粉末を単に混合した状態では、原料粉末の粒子は凝集状態にある。このような状態の原料粉末に界面活性剤を添加すると、その界面活性剤が粒子に吸着し、粒子表面が液体に濡れやすくなる(湿潤)。
【0015】
上記のように界面活性剤の添加により、凝集していた粒子がばらばらになり(解砕)、ばらばらになった粒子の表面にさらに界面活性剤が吸着すると、高分子の立体障害により粒子同士の接近を防ぎ、分散状態を維持させることができる(安定化)。セラミックス原料粉末の分散性を向上させ、そのようなセラミックス原料粉末を使用した電子部品(例えば、バリスタ)の特性を向上させるためには、分散における上記各ステップに対して界面活性剤が効果的に働きかける必要がある。
【0016】
次に、本発明の一実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタおよびその製造方法について説明する。本実施例において各セラミックス原料粉末は表1に記載の添加量を使用している。
図1は、本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタ(酸化亜鉛ディスクバリスタ)の製造工程を時系列で示すフローチャートである。
図1のステップS11で、表1に示す配合組成に基づき酸化亜鉛バリスタの原料粉末を調合する。ここでは、例えば、メジアン平均粒径3μm程度の酸化亜鉛(ZnO)、酸化ビスマス(Bi
2O
3)、酸化コバルト(CoO)、酸化マンガン(MnO)、酸化ニッケル(NiO)を秤量する。
【0017】
さらにステップS11では、求められる製品特性に応じて酸化アンチモン(Sb
2O
3)や酸化クロム(Cr
2O
3)等の粒成長抑制物質を添加する。また、焼結助剤として各種ガラス(SiO
2等)を添加する。なお、表1における各原料の添加量は、ZnO 100mol%に対する比で示している。HLB値が2種類の界面活性剤の合計添加量は、界面活性剤を添加することによるスラリー粘度変化との関係から、原料粉末 100wt%に対して、0.5〜3.0wt%の範囲で特に良好な分散性と粘度が得られる。
【0018】
【表1】
【0019】
ステップS12では、上記のステップS11で秤量したバリスタ原料を粉砕・整粒する。具体的には、ボールミルで10mmφのアルミナメディアを用いて24時間粉砕し、粒を整える。続くステップS13において、上記のように粉砕・整粒された原料粉末に、親水性と疎水性の強さのバランスを示す値であるHLB値がそれぞれ異なるように予め調整した2種類の界面活性剤を添加し、混合する。この2種類の界面活性剤は、予め混合しておいたものを原料粉末へ添加してもよいが、どちらか一方を添加してから次いで他方の界面活性剤を添加してもよい。この場合はHLB値の高い方の界面活性剤を先に添加すると、上記分散の各ステップに効果的に作用させることができるため好適である。そして、ステップS14で、スラリーを作製する。例えば、上記混合物に重合度300のポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレングリコール系湿潤剤、イオン交換水を加えてスラリーを作製する。
【0020】
このように、本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタでは、セラミックス原料粉末の混合工程において添加する界面活性剤として、一方はHLB値が親水性の範囲内の値を取るように調整され、他方は一方のHLB値よりも高くなるように調整されて、HLB値がそれぞれ異なる少なくとも2種類のアセチレングリコール系界面活性剤を添加することを特徴とする。すなわち、分散の三要素である上記各ステップに必要とされる界面活性剤の性質が異なっていることに着目して、HLB値の大きい界面活性剤が先に湿潤に作用し、続いて、HLB値の小さい界面活性剤が安定化に作用する。これにより、原料粉末に対して十分な分散効果が得られる。さらに分散性を向上させるために、原料粉末の混合工程において全てまたは一部の原料粉末を仮焼成してもよい。
【0021】
セラミックス原料粉末に添加するHLB値の異なる界面活性剤としては、2種類とも基本構造が同一のものが望ましく、特にアセチレングリコール系界面活性剤が最適である。その理由は、アセチレングリコール系界面活性剤は、基本構造に炭素(C)の三重結合を有するが、そのアセチレングリコールのCの三重結合が、通常のシングル結合の界面活性剤や二重結合の界面活性剤に比べて、それ自体の反応活性度が高いという特性を持っているからである。また、本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタの場合、バリスタ原料粉末の主成分がZnOであって、ZnOは表面電位が非常に小さく、電荷的に界面活性剤を吸着することが難しい。そのため、単にHLB値の異なるその他の界面活性剤を2種類以上添加するだけでは、所望の分散性向上を得ることができないからである。
【0022】
図1に示す製造工程に戻り、ステップS14でスラリーを作製した後、ステップS15の造粒工程において、スプレードライヤーでスラリーの水分を飛ばして顆粒を作製する。このときの乾燥温度は、例えば180℃である。続くステップS16において、一軸プレス機で製品サイズ(円盤状)に合わせてプレス成形する。なお、このときの圧力は、1000〜3000kgfである。
【0023】
ステップS17では、例えば、1100〜1300℃、昇降温度速度200℃/hrで焼成を行い、続くステップS18で、焼成体を700℃でアニール処理する。ステップS19において、例えば、Agペースト(ホウ珪酸ガラスを含む)を用いて端子電極を印刷し、600〜800℃で焼付けを行なう。そして、ステップS20において、電極が形成された素子にはんだを用いてリード付けを行なう。
【0024】
続くステップS21では、例えば、エポキシ樹脂で素子に外装保護膜を形成して絶縁性を確保するとともに、製品表面に印字を行なう。そして、最終工程であるステップS22において、酸化亜鉛バリスタのバリスタ電圧、漏れ電流等の電気的特性を検測する。
【0025】
次に、本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタについて、種々の実験データを参照しながら、さらに詳細に説明する。
【0026】
本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタは、その原料粉末に添加する界面活性剤として、例えば以下の化1に示す分子構造を有するアセチレングリコール系界面活性剤のエチレンオキサイド付加物の構造を変え、HLB値を予め調整したものを使用する。アセチレングリコール系界面活性剤は、酸化亜鉛バリスタのバリスタ原料粉末の主成分であるZnOと相性が良いため、界面活性剤として好適である。この場合、原料粉末に1種類のHLB値の界面活性剤を添加しただけでは、湿潤あるいは安定化の一方にしか作用しない可能性があるため十分でない。
【0027】
【化1】
【0028】
そこで、本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタでは、HLB値が異なる界面活性剤を少なくとも2種類、原料粉末に添加することで、上述した分散の三要素が成立し、その結果、セラミックス粒子の分散が確保されてセラミックス素子の高性能・高品質化を実現できる。
【0029】
ここでは、酸化亜鉛バリスタの原料粉末に添加する界面活性剤として、表2に示すようにHLB値が異なるように調整した4種類(HLB値(A)〜HLB値(D))のアセチレングリコール系界面活性剤を用意した。そして、実験では、HLB値の異なる2種類のアセチレングリコール系界面活性剤(一方を「界面活性剤1」、他方を「界面活性剤2」とする)を、表3に示すように混合した。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
本実施の形態例では、表3に示すように、試料No.2〜No.5については、1種類のアセチレングリコール系界面活性剤(それぞれ、界面活性剤1としてHLB値(A)〜HLB値(D))を添加した。また、試料No.6〜No.11については、界面活性剤1および界面活性剤2として、それぞれHLB値の異なる2種類のアセチレングリコール系界面活性剤を添加した。なお、試料No.1は、比較例として界面活性剤を添加しない酸化亜鉛チップバリスタである。
【0033】
表3においてサージ電流とは、バリスタ原料粉末に添加する界面活性剤のHLB値を変化させて作製した酸化亜鉛チップバリスタについて、サージ耐量の評価を行なった結果を示している。ここでは、8/20μs波形を印加したときの電流耐量を測定した。なお、試料No.6〜No.11については、界面活性剤1と界面活性剤2を1:1の割合で添加した。
【0034】
一般的には、HLB値が15以上の界面活性剤であれば親水性が高いと評価される。上記表3のサージ耐量の評価結果をみると、HLB値が11未満の親水性の低い界面活性剤(A)を1種類添加した試料No.2と比較して、界面活性剤(A)とそれよりもHLB値が高い界面活性剤(B)〜(D)という、HLB値が異なる2種類の界面活性剤を添加して作製した試料No.6、試料No.7および試料No.8の方が耐サージ性が向上していることがわかる。また、HLB値が11以上14未満に調整された界面活性剤(B)を1種類のみ添加した試料No.3と比較すると、同じ界面活性剤(B)と他のHLB値を有する界面活性剤の2種類を添加した試料No.6、試料No.9、および試料No.10の方がサージ耐量が向上している。
【0035】
そして、HLB値が14以上の界面活性剤(C)のみを添加した試料No.4と比較すると、界面活性剤(C)に加えて他のHLB値を有する界面活性剤も添加した試料No.7、試料No.9および試料No.11の方がサージ耐量が良好である。さらに、HLB値が17以上の界面活性剤(D)のみを添加した試料No.5と比較した場合にも、界面活性剤(D)と、それとは異なるHLB値を有する界面活性剤の2種類を添加した試料No.8、試料No.10および試料No.11の方が耐サージ性が向上した。
【0036】
以上より、1種類のHLB値の界面活性剤のみを添加した場合と比較して、本発明に従ってそれぞれHLB値が異なるように調整された界面活性剤を2種類以上混合して添加した方が耐サージ性が向上しており、これは原料粉末の分散性が向上したことに起因する。特に、少なくとも一方の界面活性剤のHLB値が14以上である試料No.10と試料No.11において顕著な効果が見られた。このことから、添加する界面活性剤1と界面活性剤2の少なくとも一方の界面活性剤の親水性が高いか、あるいは双方の界面活性剤の親水性がHLB値が14以上と高い値に調整されていることが、原料粉末混合工程における分散性の向上につながり、酸化亜鉛バリスタの特性が向上すると考えられる。
【0037】
また、本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタにおいて原料粉末の分散性が向上した理由のひとつは、反応性が高い、すなわち良好な濡れ性を持つアセチレングリコールを反応させ、そのエチレンオキサイドの付加物と言われる炭素(C)の三重結合周辺の分子構造で立体障害を生み、酸化亜鉛バリスタのバリスタ原料粉末の主成分であるZnO同士が凝集しないためであると考えられる。
【0038】
上記のようなバリスタ特性の向上から、従来のバリスタでは、サージ電流耐量が例えば4500A以上の仕様の製品を得ようとした場合、材料のみで特性を向上させることは困難であり、素子寸法を大きくする必要があったが、本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタは、素子寸法を変更することなくサージ電流に耐えることができるようになり、加えて小型化が可能となる。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態例に係る酸化亜鉛バリスタでは、原料粉末の混合時に、分子内にCの三重結合を一つ以上含むアセチレングリコール系界面活性剤であって、HLB値が異なるように調整した少なくとも2種類の当該界面活性剤を添加する。このように、酸化亜鉛バリスタの原料粉末(バリスタ原料粉末)の主成分となるZnOと相性のよいアセチレングリコール系界面活性剤を用いることにより、原料粉末の混合工程における分散性が著しく向上する。
【0040】
また、HLB値の異なるアセチレングリコール系界面活性剤を少なくとも2種類、添加することで、分散の各ステップに対応して原料粉末に界面活性剤が効果を発揮するので、より分散性が向上する。その結果、酸化亜鉛バリスタの耐サージ性が向上し、従来のバリスタよりも小型化が可能となる。
【0041】
<変形例>
本発明に係る酸化亜鉛バリスタは上記の実施の形態例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記の酸化亜鉛ディスクバリスタに特徴的な製造方法等を、積層バリスタの製造にも適用可能である。そこで、上記の実施の形態例の変形例として積層バリスタの製造工程について説明する。
【0042】
図2は、変形例に係る積層バリスタの製造工程を時系列で示すフローチャートである。
図2において、ステップS31〜S34は、
図1のステップS11〜S14に対応し、同様に、
図2のステップS39〜S41は、
図1のステップS17〜S19に対応するため、ここでは、
図1と異なる工程について説明する。すなわち、
図2のステップS35では、作製されたスラリーよりシートを作製する。ここでは、例えば、ドクターブレードによって成膜し、所定厚のグリーンシートを作製する。
【0043】
続くステップS36において、例えば、Ag/Pd電極ペーストを用いて内部電極パターンを印刷し、内部電極を形成したグリーンシートを含む複数層の積層体をホットプレスで熱圧着し、積層する。次のステップS37でダイシングを行なう。ダイシングとして、積層グリーンシートを所定の製品サイズに合わせて切断する。そして、ステップS38では、ダイシング後の積層体を所定温度で保持等して、脱バインダーを行なう。
【0044】
また、
図2のステップS42では、端子電極に、例えばNi層、Sn層の順に電解メッキによりメッキ層を形成する。続くステップS43において、最終製品に対するバリスタ電圧、漏れ電流等の電気的特性を検測する。
【0045】
さらなる変形例として、例えば、
図1のステップS13および
図2のステップS33における、原料粉末と2種類の界面活性剤との混合工程において、一部の原料粉末(ZnO,Bi
2O
3,Sb
2O
3)については仮焼成をしても良い。具体的には、例えば、酸化亜鉛100mol%に対して、外掛けで酸化ビスマス(Bi
2O
3)を0.1〜1.5mol%、酸化アンチモン(Sb
2O
3)を0.01〜2.0mol%、ZnOを0.1〜1.0mol%の範囲で混合し、700〜1000℃の温度範囲で仮焼成を行なう。そして、仮焼成した原料をZnO 100mol%に加え、さらに仮焼成していないBi
2O
3を加え、その他の原料粉末と混合する。
【0046】
このように、原料粉末の少なくとも一部を仮焼成することで、耐サージ性を向上させる要因のひとつであるZnOの粒の均一性も兼ね備えることができるため原料粉末の混合工程における分散性がより向上し、作製されるバリスタの特性が向上する。さらに、原料粉末のうちBi
2O
3の一部を仮焼成し、残りを仮焼成せずに他の原料粉末等と混合することにより、ZnOの粒成長を促進するBi
2O
3の機能を損なうことなく、より高いサージ耐量を持つバリスタを製造することができる。
【0047】
また、上記の実施の形態例では、HLB値の異なる2種類のアセチレングリコール系界面活性剤を「界面活性剤1」と「界面活性剤2」としてセラミックス原料粉末に添加しているが、添加する界面活性剤の種類は2種類に限定されず、HLB値の異なる3種類以上の界面活性剤を原料粉末に添加するようにしてもよい。