特許第6508672号(P6508672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6508672硫化リチウム粒子および硫化物系無機固体電解質材料の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6508672
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】硫化リチウム粒子および硫化物系無機固体電解質材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 17/22 20060101AFI20190422BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20190422BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20190422BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20190422BHJP
   C03C 3/32 20060101ALN20190422BHJP
   H01B 5/00 20060101ALN20190422BHJP
【FI】
   C01B17/22
   H01B1/00 E
   H01B1/06 A
   H01B1/10
   !C03C3/32
   !H01B5/00 E
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-27970(P2015-27970)
(22)【出願日】2015年2月16日
(65)【公開番号】特開2016-150859(P2016-150859A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】田村 素志
(72)【発明者】
【氏名】松山 敏也
(72)【発明者】
【氏名】山本 一富
【審査官】 壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−278423(JP,A)
【文献】 特開2011−084438(JP,A)
【文献】 特開2014−169196(JP,A)
【文献】 特開平09−283156(JP,A)
【文献】 特開2013−189370(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/098351(WO,A1)
【文献】 特表2014−522373(JP,A)
【文献】 米国特許第09023252(US,B2)
【文献】 欧州特許第00802159(EP,B1)
【文献】 米国特許第05958281(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化リチウムにより構成され、かつ、リチウムイオン電池用の固体電解質材料の原料に用いられる硫化リチウム粒子であって、
前記硫化リチウム粒子の表面に層状の亀裂が形成されており、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が0.1mm以上1.5mm以下であり、
X線光電子分光分析法で測定される、前記硫化リチウム粒子の表面から深さ方向5nmまでの範囲における酸素濃度が20.0atom%以下である、硫化リチウム粒子。
【請求項2】
前記亀裂の幅が0.01μm以上2.00μm以下の範囲内にある、請求項1に記載の硫化リチウム粒子。
【請求項3】
前記亀裂の長さが2.0μm以上30.0μm以下の範囲内にある、請求項1または2に記載の硫化リチウム粒子。
【請求項4】
請求項1乃至いずれか一項に記載の硫化リチウム粒子を原料として用いる硫化物系無機固体電解質材料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化リチウム粒子、硫化物系無機固体電解質材料および硫化物系正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
硫化リチウムは、全固体型リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料の原料として用いられている。このような硫化リチウムに関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2013−75816号公報)に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、平均粒子径が10μm以下の炭酸リチウムを流動状態で、ガス状の硫黄化合物と、450℃以上炭酸リチウムの融点以下の温度で接触させて、炭酸リチウムと硫黄化合物との反応を行うことにより、無機固体電解質の製造を容易にすることができる微細な硫化リチウム粒子が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−75816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、微細な硫化リチウム粒子は大気中の水分や酸素によって酸化分解され易いことが明らかになった。そのため、従来の硫化リチウム粒子には多くの酸素が含有されていた。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料の製造を容易にすることができ、かつ、純度が高い硫化リチウムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
硫化リチウムにより構成され、かつ、リチウムイオン電池用の固体電解質材料の原料に用いられる硫化リチウム粒子であって、
上記硫化リチウム粒子の表面に層状の亀裂が形成されており、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が0.1mm以上1.5mm以下であり、
X線光電子分光分析法で測定される、上記硫化リチウム粒子の表面から深さ方向5nmまでの範囲における酸素濃度が20.0atom%以下である、硫化リチウム粒子が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
上記硫化リチウム粒子を原料として用いる硫化物系無機固体電解質材料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料の製造を容易にすることができ、かつ、純度が高い硫化リチウムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態における硫化リチウム粒子の製造方法の一例を示す模式図である。
図2】本実施形態における硫化リチウム粒子の製造方法の一例を示す模式図である。
図3】実施例1で得られた硫化リチウム粒子の拡大図を表す電子顕微鏡写真を示す図である。
図4】比較例1の硫化リチウム粒子の拡大図を表す電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
<硫化リチウム粒子>
本実施形態の硫化リチウム粒子は、硫化リチウムにより構成されたものであり、表面に層状の亀裂が形成されており、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が0.1mm以上1.5mm以下である。
【0014】
本実施形態の硫化リチウム粒子の平均粒子径d50は、1.5mm以下であり、好ましくは1.0mm以下である。平均粒子径d50が上記上限値以下であると、硫化リチウム粒子と他の原料との接触面積が大きくなり反応が促進されるため、リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料の製造を容易にすることができる。
また、本実施形態の硫化リチウム粒子の平均粒子径d50は、0.1mm以上であり、好ましくは0.2mm以上である。平均粒子径d50が上記下限値以上であると、反応系で発生した水が硫化リチウム粒子に付着して粒子が固着するのを防ぐことができる。また大気中の水分や酸素による硫化リチウム粒子の酸化分解を抑制することができ、不純物である酸素の含有量を低下させることができる。これにより、得られる電池材料のリチウムイオン伝導性をより良好なものとすることができる。
【0015】
本実施形態の硫化リチウム粒子の平均粒子径d50は、硫化リチウム粒子の製造方法および製造条件を適切に調節することにより制御することが可能である。
本実施形態においては、とくに硫化リチウム粒子の製造方法として粒子状の水酸化リチウムと硫化水素との反応によって硫化リチウムを合成する製造方法を選択すること、原料である水酸化リチウムの平均粒子径d50等が、上記硫化リチウム粒子の平均粒子径d50を制御するための因子として挙げられる。
【0016】
本実施形態の硫化リチウム粒子は、X線光電子分光分析法で測定される、硫化リチウム粒子の表面から深さ方向5nmまでの範囲における酸素濃度が20.0atom%以下であり、好ましくは18.0atom%以下である。これにより本実施形態の硫化リチウム粒子を原料として用いて得られる、リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料のリチウムイオンの伝導度をより良好なものとすることができる。
ここで、硫化リチウム粒子の表面から深さ方向5nmまでの範囲における酸素濃度は、具体的には以下の方法により測定した値である。
まず、酸素濃度を1.5ppm以下、水分濃度を0.5ppm以下に制御したアルゴン雰囲気のグローブボックス内で硫化リチウム粒子を360MPaでプレス成型し、φ9.5mmの硫化リチウムペレットを得る。次いで、この硫化リチウムペレットの表面に対し、以下の条件によりX線光電子分光分析(XPS)をおこない、硫化リチウムペレット表面の組成を分析する。得られたスペクトルから硫化リチウム粒子の表面から深さ方向5nmまでの範囲における酸素濃度を算出する。
測定装置:PHI社製QuanteraSXM
X線源:単色化Al(1486.6eV)
検出領域:100μmφ
検出深さ:5nm(取り出し角45°)
測定スペクトル:ワイドLi1s、O1s、S2p、F1s、C12p
【0017】
また、本実施形態の硫化リチウム粒子は、例えば図3に示すように、表面に層状の亀裂が形成されている。こうした亀裂が形成されていることにより、硫化リチウム粒子と他の原料を混練する際に硫化リチウム粒子が砕けてより微粒子化しやくなる。その結果、硫化リチウム粒子と他の原料との接触面積が大きくなり反応が促進されるため、リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料の製造を容易にすることができる。
また、反応が促進されるため、大気との接触時間が減り、大気中の水分や酸素による硫化リチウム粒子の酸化分解をより抑制することができ、不純物である酸素の含有量をより低下させることができる。これにより、得られる電池材料のリチウムイオン伝導性をより良好なものとすることができる。
【0018】
上記亀裂の幅は、電池材料の製造をより容易にすることができる観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.05μm以上、さらに好ましくは0.10μm以上、特に好ましくは0.20μm以上である。そして、上記亀裂の幅は、より純度が高い硫化リチウムを提供できる観点から、好ましくは2.00μm以下、より好ましくは1.00μm以下、特に好ましくは0.50μm以下である。
上記亀裂の幅は、例えば、電子顕微鏡(SEM)写真から測定することができる。
【0019】
上記亀裂の長さは、電池材料の製造をより容易にすることができ、かつ、より純度が高い硫化リチウムを提供することができる観点から、好ましくは2.0μm以上30.0μm以下の範囲内にあり、好ましくは5.0μm以上20.0μm以下の範囲内にある。上記亀裂の長さは、例えば、電子顕微鏡(SEM)写真から測定することができる。
【0020】
上記亀裂の深さは、電池材料の製造をより容易にすることができ、かつ、より純度が高い硫化リチウムを提供することができる観点から、好ましくは0.1μm以上100μm以下の範囲内にあり、好ましくは1.0μm以上50.0μm以下の範囲内にある。上記亀裂の幅は、例えば、電子顕微鏡(SEM)写真から測定することができる。
【0021】
本実施形態の硫化リチウム粒子の表面の層状の亀裂は、硫化リチウム粒子の製造方法および製造条件を適切に調節することにより形成することが可能である。
本実施形態においては、とくに硫化リチウム粒子の製造方法として粒子状の水酸化リチウムと硫化水素との反応によって硫化リチウムを合成する製造方法を選択すること、使用する硫化水素の濃度、原料である水酸化リチウムの平均粒子径d50、原料である水酸化リチウムの予備加熱条件等が、硫化リチウム粒子表面の層状の亀裂を制御するための因子として挙げられる。
【0022】
<硫化リチウム粒子の製造方法>
本実施形態の硫化リチウム粒子の製造方法は、従来の製造方法とは異なるものである。本実施形態の硫化リチウム粒子を得るためには、使用する硫化水素の濃度、原料である水酸化リチウムの平均粒子径d50、原料である水酸化リチウムの予備加熱条件等の条件を高度に制御することが重要である。
【0023】
以下、本実施形態の硫化リチウム粒子の製造方法の一例について説明する。ただし、本実施形態の硫化リチウム粒子の製造方法は、以下の例に限定されない。
本実施形態の硫化リチウム粒子は、例えば、粒子状の水酸化リチウムと硫化水素との反応によって硫化リチウムを合成する製造方法により得ることができる。より具体的には、本実施形態の硫化リチウム粒子は、以下の2つの工程を含む製造方法により得ることができる。
(A)反応槽の内部に配置され、かつ、加熱された多孔質材に対し、水素ガスと硫黄蒸気を供給して上記水素ガスと上記硫黄蒸気を反応させることにより、硫化水素ガスと上記水素ガスを含む反応ガスを生成する工程
(B)生成した上記反応ガスを粒子状の水酸化リチウムに接触させて上記硫化水素ガスと上記水酸化リチウムを反応させることにより、硫化リチウム粒子を生成する工程
【0024】
この製造方法によれば、硫化リチウムは粒子状で生成され、生成する硫化リチウムが原料の水酸化リチウムの形状を継承して反応槽から取り出せる。そのため、原料の水酸化リチウムの平均粒子径d50を調整することにより、得られる硫化リチウム粒子の平均粒子径d50を容易に調整することができる。
【0025】
以下、各工程について詳細に説明する。図1は、本実施形態における硫化リチウム粒子の製造方法の一例を示す模式図である。
【0026】
(硫化水素ガスと水素ガスを含む反応ガスを生成する工程(A))
はじめに、反応槽101の内部に配置され、かつ、加熱された多孔質材103に対し、水素ガスと硫黄蒸気を供給して上記水素ガスと上記硫黄蒸気を反応させることにより、硫化水素ガスと上記水素ガスを含む反応ガスを生成する。
【0027】
反応槽101は、例えば、カーボン、ステンレス鋼、ガラス、アルミナ、アルミニウム、インコネル、ハステロイ等の耐熱性材料により構成されている。得られる硫化リチウム粒子において、不純物である炭酸リチウムの量を低減させる観点および反応槽101の耐強度と金属不純物の混入を防ぐ観点から、反応槽101はステンレス鋼およびガラスから選択される一種または二種以上により構成されていることが好ましく、ガラス製であることがより好ましく、硬質ガラス製であることが特に好ましい。
【0028】
反応槽101の内部には、多孔質材103が配置されている。
多孔質材103は、水素ガスと硫黄蒸気との反応を促進するための触媒であり、耐硫化性と耐水素化性を併せ持つ材料により構成されていることが好ましく、例えば、活性炭、ゼオライト、および活性アルミナから選択される一種または二種以上の材料により構成されている。多孔質材103は、不純物である炭酸リチウムの量を低減させる観点から、ゼオライトおよび活性アルミナから選択される一種または二種以上の材料により構成されていることが好ましく、低価格で高温での安定性が高い活性アルミナにより構成されていることが特に好ましい。
多孔質材103は、水素ガスおよび硫黄蒸気が連続的に接触して反応できるように、水素ガスと硫黄蒸気の通り道に配置されていることが好ましい。例えば、図1に示すように、水素ガス導入管105や硫黄107と、水酸化リチウム109との間の位置に配置されていることが好ましい。
また、水素ガスと硫黄蒸気との反応をより効果的に促進する観点から、多孔質材103の細孔には銀、プラチナ、モリブデン、コバルト、ニッケル、鉄、バナジウム等の金属が担持されていてもよい。
【0029】
多孔質材103を反応槽101の内部に配置する構成としては特に限定されないが、例えば、図1に示すように、ステンレスメッシュなどの金属メッシュ;ステンレスパンチングなどのパンチングメタル;ステンレスエキスパンドなどのエキスパンドメタル等から選択される一種または二種以上の多孔性シート111の表面に粒子状の多孔質材103を敷いておく構成が挙げられる。これにより、多孔質材103へ流れてきた水素ガスおよび硫黄蒸気と多孔質材103との接触面積を増大させることができるため、水素ガスと硫黄蒸気との反応をより効果的に進めることができる。
【0030】
水素ガスは、例えば、水素ガスが充填された容器から水素ガス導入管105を通って反応槽101の内部に導入される。このとき、水素ガスの導入量は、水素ガス導入管105に設けられたガス導入弁によって調節できる。
【0031】
硫黄蒸気は、例えば、反応槽101の内部に硫黄107を配置し、この硫黄107を加熱することにより生成させることができる。
硫黄107を加熱する温度としては硫黄蒸気が発生する温度であれば特に限定されず、例えば、180℃以上445℃以下とすることができる。硫黄107を加熱する温度を上記下限値以上とすることにより、硫黄蒸気圧がより適度となり、得られる硫化水素ガスの濃度が高くなるので、硫化リチウムの生成をより効率的におこなうことができる。硫黄107を加熱する温度を上記上限値以下とすることにより、硫黄蒸気圧を1気圧以下にすることができ、水素ガスと反応せずに反応槽101を通過する硫黄の量を抑制することができる。
【0032】
工程(A)では、加熱された多孔質材103に対し、水素ガスと硫黄蒸気を供給することにより水素ガスと硫黄蒸気を反応させる。これにより硫化水素ガスと水素ガスを含む反応ガスを生成することができる。この反応ガスは水素ガスで希釈された硫化水素ガスである。
多孔質材103を加熱する温度としては水素ガスと硫黄蒸気との反応が効率よく進む反応温度であれば特に限定されず、例えば、150℃以上700℃以下、好ましくは250℃以上500℃以下とすることができる。
【0033】
多孔質材103や硫黄107を加熱する加熱装置は特に限定されないが、例えば、反応槽101の内部を加熱できる加熱手段と、この加熱手段の出力を調整して、反応槽101の内部を一定の温度に保持できる温度調整器とから構成される。加熱手段は特に限定されないが、発熱線、ランプ加熱等の公知の加熱手段が使用でき、反応槽101の内部を加熱できるものなら何でもよい。
【0034】
上記反応ガス中の硫化水素ガスの濃度は、粒子状の水酸化リチウム109との反応をより効果的に進める観点から、好ましくは1体積%以上であり、より好ましくは3体積%以上である。また、上記反応ガス中の硫化水素ガスの濃度は、排ガス処理をより単純なものにする観点から、好ましくは50体積%以下であり、より好ましくは30体積%以下である。
ここで、上記反応ガス中の硫化水素ガスの濃度は、反応槽101の内部に導入される水素ガスの導入量や硫黄蒸気の生成量を調整することにより制御できる。なお、硫黄蒸気の生成量は、反応槽101の内部に配置する硫黄107の量や、硫黄107を加熱する温度を調整することにより制御できる。なお、通常、反応終了時点以降の排ガスに含まれ硫化水素ガスの濃度が反応ガス中の硫化水素ガスの濃度に相当する。
【0035】
(粒子状の硫化リチウムを生成する工程(B))
つぎに、生成した上記反応ガスを粒子状の水酸化リチウム109に接触させて硫化水素ガスと水酸化リチウム109を反応させることにより、硫化リチウム粒子を生成する。
ここで、下記(1)式のような反応が起きていると考えられる。
2LiOH + HS → LiS +2HO (1)
水酸化リチウム109と硫化水素との反応が進行し、反応系から原料である水酸化リチウム109が消失すると、反応による水の発生が止まるため、水の発生量をモニタリングすることにより、反応の進行度合を知ることができる。
【0036】
水酸化リチウム109のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50は、好ましくは1.5mm以下であり、より好ましくは1.0mm以下である。平均粒子径d50が上記上限値以下であると、水酸化リチウム109と反応ガスとの接触面積が大きくなり反応が促進されるため、得られる硫化リチウム粒子中の未反応原料をより低減させることができる。その結果、より高純度の硫化リチウム粒子を得ることができる。
また、水酸化リチウム109のレーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50は、好ましくは0.1mm以上であり、より好ましくは0.2mm以上である。平均粒子径d50が上記下限値以上であると、反応系で発生した水が硫化リチウム粒子に付着して、粒子が固着するのを防ぐことができる。また反応ガスとともに水酸化リチウムや得られた硫化リチウム粒子が排気されてしまうことを抑制することができるため、排ガス処理をより単純なものにすることができる。また、水酸化リチウムや得られた硫化リチウム粒子が反応ガスによって飛散することを抑制することができるため、硫化リチウム粒子の収率を向上させることができる。
【0037】
水酸化リチウム109は、反応ガスが連続的に接触して反応できるように、反応ガスの通り道に配置されていることが好ましい。例えば、図1に示すように、多孔質材103と、ガス排出管113との間の位置に配置されていることが好ましい。
【0038】
水酸化リチウム109を反応槽101の内部に配置する構成としては特に限定されないが、例えば、図1に示すように、ステンレスメッシュなどの金属メッシュ;ステンレスパンチングなどのパンチングメタル;ステンレスエキスパンドなどのエキスパンドメタル等から選択される一種または二種以上の多孔性シート111の表面に粒子状の水酸化リチウム109を敷いておく構成が挙げられる。これにより、水酸化リチウム109へ流れてきた反応ガスとの接触面積を増大させることができるため、反応ガスと水酸化リチウム109との反応をより効果的に進めることができる。
【0039】
水酸化リチウム109は、あらかじめ予備加熱しておくことが好ましい。これにより得られる硫化リチウム粒子の表面に層状の亀裂を生成させることができる。水酸化リチウム109の予備加熱方法としては、例えば、水素、窒素、アルゴンガス等のガスを流しながら加熱する方法が挙げられる。水酸化リチウム109の予備加熱温度は、得られる硫化リチウム粒子の表面に層状の亀裂を効果的に生成させる観点から、200℃以上450℃以下で行うことが好ましい。ここで、加熱温度および加熱時間が高いほど、得られる硫化リチウム粒子の表面の層状の亀裂の大きさを増大させることができる。
【0040】
工程(B)では、例えば、反応ガスと水酸化リチウム109を接触させながら加熱することにより反応ガスと水酸化リチウム109を反応させる。これにより硫化リチウム粒子を生成することができる。
反応ガスと水酸化リチウム109を加熱する温度としては、445℃以下が好ましく、420℃以下がより好ましい。加熱する温度が上記上限値以下であると、水酸化リチウム109が溶融するのを抑制できるため、水酸化リチウムの相互間で融着が起こって塊状になることを抑制できる。これにより、反応ガスと水酸化リチウム109との反応をより効果的に進めることができる。
また、反応ガスと水酸化リチウム109を加熱する温度としては、130℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。加熱する温度が上記下限値以上であると、反応ガスと水酸化リチウム109との反応速度をより向上させることができる。
【0041】
水酸化リチウム109を加熱する加熱装置は特に限定されないが、例えば、反応槽101の内部を加熱できる加熱手段と、この加熱手段の出力を調整して、反応槽101の内部を一定の温度に保持できる温度調整器とから構成される。加熱手段は特に限定されないが、発熱線、ランプ加熱等の公知の加熱手段が使用でき、反応槽101の内部を加熱できるものなら何でもよい。
【0042】
また、本実施形態の硫化リチウム粒子の製造方法において、工程(A)と工程(B)との間に、生成した反応ガスを115℃以上445℃以下に冷却させる工程をさらにおこなうことが好ましい。こうすることで、工程(A)で445℃を超える温度に加熱された反応ガスがそのままの温度で水酸化リチウム109に接触することを抑制することができる。これにより、水酸化リチウム109が溶融するのを抑制できるため、水酸化リチウム109の相互間で融着が起こって塊状になることを抑制でき、反応ガスと水酸化リチウム109との反応をより効果的に進めることができる。
なお、生成した反応ガスを115℃以上445℃以下に冷却させる方法としては特に限定されないが、例えば、115℃以上445℃以下の冷却部に接触させて冷却させる方法が挙げられる。ここで、冷却部としては、例えば、図2に示す連結管205等が挙げられる。
【0043】
未反応の反応ガスや反応ガスと水酸化リチウム109との反応で生成する水を含む排ガスは、例えば、ガス排出管113から反応槽101の外部へ排出される。
ここで、反応槽101のガス排出管113に反応ガスと水酸化リチウム109との反応で生成する水を捕捉する冷却部を設けておくことが好ましい。反応ガスと水酸化リチウム109との反応が終了すれば、硫化リチウムが生成する際に発生する水が上記冷却部へ凝縮しなくなる。そのため、硫化リチウムが生成する際に発生する水が上記冷却部へ凝縮しなくなるまで上記工程(A)および上記工程(B)をおこなうことにより、排ガスの量を最小限にすることができる。
【0044】
本実施形態の反応槽101は、図2に示すように、第一反応槽201および第二反応槽203により構成されていることが好ましい。こうした構成を取ることにより、第一反応槽201で上記工程(A)をおこなうことにより硫化水素ガスと水素ガスを含む反応ガスを生成させ、生成した反応ガスを第二反応槽203に供給し、第二反応槽203で上記工程(B)をおこなうことができる。すなわち、工程(A)と工程(B)とを明確に分けることができる。これにより各工程の温度をより容易に制御することができる。
【0045】
以上の工程により、本実施形態の硫化リチウム粒子を得ることができる。
【0046】
本実施形態の硫化リチウム粒子は、例えば、リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料、化学薬品の中間原料として好適に用いることができる。本実施形態の硫化リチウム粒子は、高純度であるため、特に高純度が求められるリチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料の原料として特に好適に用いることができる。
また、本実施形態の硫化リチウム粒子は、高純度であるため、リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質、固体電解質材料等の電池材料の原料として用いた場合、得られる電池材料のリチウムイオンの伝導度が特に優れている。
【0047】
(硫化物系固体電解質材料)
本実施形態の硫化リチウム粒子を原料として用いて得られる硫化物系無機固体電解質材料としては、例えば、LiS−P材料、LiS−SiS材料、LiS−GeS材料、LiS−Al材料、LiS−SiS−LiPO材料、LiS−P−GeS材料、LiS−LiO−P−SiS材料、LiS−GeS−P−SiS材料、LiS−SnS−P−SiS材料等が挙げられる。これらの中でも、リチウムイオン伝導性が優れており、製造方法が簡便である点から、LiS−P材料が好ましい。ここで、例えば、LiS−P材料とは、LiS(硫化リチウム)とPとをメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得られる材料を意味する。
【0048】
(硫化物系正極活物質)
本実施形態の硫化リチウム粒子を原料として用いて得られる硫化物系正極活物質としては、例えば、Li−Mo−S化合物、Li−Ti−S化合物、Li−V−S化合物等が挙げられる。
ここで、Li−Mo−S化合物は構成元素としてLi、Mo、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるモリブデン硫化物および本実施形態の硫化リチウム粒子をメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得ることができる。
また、Li−Ti−S化合物は構成元素としてLi、Ti、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるチタン硫化物と本実施形態の硫化リチウム粒子をメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得ることができる。
Li−V−S化合物は構成元素としてLi、V、およびSを含んでいるものであり、通常は原料であるバナジウム硫化物と本実施形態の硫化リチウム粒子をメカノケミカル処理等の混合粉砕することにより得ることができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)
図2に示す製造装置を用いた。第一反応槽201および第二反応槽203として硬質ガラス製の反応容器、多孔性シート111としてステンレスメッシュ、多孔質材103として活性アルミナ(住友化学社製KHA−24)を用いた。なお、第一反応槽201は石英ガラス製の反応容器内に設置した(図示せず)。
【0052】
硫黄(40g)を硬質ガラス製の反応容器(第一反応槽201)の下段、活性アルミナ(210g)を反応容器(第一反応槽201)の中段に配置した。ここで、活性アルミナはステンレスメッシュ上に敷いた。
次いで、この反応容器を石英ガラス製の反応容器内に設置し、水素ガス導入管105から反応容器内に水素ガスを流量1.0L/minで導入した。次いで、反応容器を300℃に加熱し、反応容器の下段に配置した硫黄から硫黄蒸気を発生させ、水素ガスと硫黄蒸気を活性アルミナに接触させた。これにより、水素ガスと硫黄蒸気とを反応させ、硫化水素ガスを発生させた。
次に、粒子状の水酸化リチウム(5.0g、平均粒子径d50:0.5mm)を入れた硬質ガラス製の反応容器に、水素ガスと硫化水素ガスとを含む反応ガスを送り込み、反応ガスと水酸化リチウムとを接触させながら、水酸化リチウムを400℃に加熱した。これにより、水酸化リチウムと硫化水素ガスとが反応し、硫化リチウム粒子が生成した。
ここで、水酸化リチウムおよび硫化リチウム粒子の平均粒子径d50は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(マルバーン社製、マスターサイザー3000)を用いて測定した。また、使用した粒子状の水酸化リチウムは300℃、24時間予備加熱処理をおこなったものを用いた。
【0053】
硬質ガラス製の反応容器の排気口に冷却トラップを付けて、硫化リチウムが生成する際に発生する水の凝縮が無くなる時を反応の終点とした。終点までの加熱時間は3.5時間であった。また、反応終了時点で排ガスに含まれ硫化水素ガスの濃度は4.8体積%であった。
【0054】
得られた粉末について、X線回折装置(XRD)によりX線回折パターンを測定した。得られたX線回折パターンから得られた粉末は硫化リチウムであることがわかった。
また、原料である水酸化リチウムや炭酸リチウムのピークは認められず、得られた硫化リチウム粒子の純度が高いことがわかった。
また、得られた硫化リチウム粒子の平均粒子径d50は0.5mmであった。
得られた硫化リチウム粒子の表面を走査型電子顕微鏡により観察した。写真を図3に示す。得られた硫化リチウム粒子の表面には、層状の亀裂が複数観察された。
【0055】
(比較例1)
比較例として、高純度試薬の硫化リチウム粒子(Alfa Aesar社製、平均粒子径d50:0.01mm)を使用した。
この硫化リチウム粒子の表面を走査型電子顕微鏡により観察した。写真を図4に示す。この硫化リチウム粒子の表面には、層状の亀裂は観察されなかった。
【0056】
<リチウムイオン伝導性評価>
実施例1で得られた硫化リチウム粒子を使用して硫化物系固体電解質材料Li1112ガラス(結晶化のための熱処理なしの状態)を作製し、リチウムイオン伝導度を測定した。
イオン伝導度は、3.8×10−4Scm−1であった。
これに対し、比較例1の硫化リチウム粒子を使用して作製した硫化物系固体電解質材料Li1112ガラスのリチウムイオン伝導度は2.0×10−4Scm−1であった。
すなわち、実施例1で得られた硫化リチウム粒子を使用して作製した固体電解質Li1112ガラスは、比較例1の硫化リチウム粒子を使用して作製したLi1112ガラスの約2倍のリチウムイオン伝導度であった。
【0057】
<X線光電子分光分析評価>
実施例1で得られた硫化リチウム粒子と比較例1の硫化リチウム粒子について、それぞれ以下の手順によりX線光電子分光分析をおこなった。
まず、硫化リチウム粒子を360MPaでプレス成型し、φ9.5mmの硫化リチウムペレットを得た。次いで、この硫化リチウムペレットの表面に対し、以下の条件によりX線光電子分光分析(XPS)をおこない、硫化リチウムペレット表面の組成を分析した。
測定装置:PHI社製QuanteraSXM
X線源:単色化Al(1486.6eV)
検出領域:100μmφ
検出深さ:5nm(取り出し角45°)
測定スペクトル:ワイドLi1s、O1s、S2p、F1s、C12p
【0058】
得られた結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1で得られた硫化リチウム粒子は、比較例1の硫化リチウム粒子に比べてO/Li比が小さく、S/Li比が大きかった。すなわち、本実施形態の硫化リチウム粒子は、大気との接触による表面の酸化分解が抑制され、酸素の含有量が低く、より高純度であることがわかった。
以下、参考形態の例を付記する。
1.
硫化リチウムにより構成された硫化リチウム粒子であって、
前記硫化リチウム粒子の表面に層状の亀裂が形成されており、
レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が0.1mm以上1.5mm以下である、硫化リチウム粒子。
2.
X線光電子分光分析法で測定される、前記硫化リチウム粒子の表面から深さ方向5nmまでの範囲における酸素濃度が20.0atom%以下である、1.に記載の硫化リチウム粒子。
3.
前記亀裂の幅が0.01μm以上2.00μm以下の範囲内にある、1.または2.に記載の硫化リチウム粒子。
4.
前記亀裂の長さが2.0μm以上30.0μm以下の範囲内にある、1.乃至3.いずれか一つに記載の硫化リチウム粒子。
5.
リチウムイオン電池用の正極活物質、負極活物質または固体電解質材料の原料に用いられる、1.乃至4.いずれか一つに記載の硫化リチウム粒子。
6.
1.乃至4.いずれか一つに記載の硫化リチウム粒子を原料として用いて得られる硫化物系無機固体電解質材料。
7.
1.乃至4.いずれか一つに記載の硫化リチウム粒子を原料として用いて得られる硫化物系正極活物質。
【符号の説明】
【0061】
101 反応槽
103 多孔質材
105 水素ガス導入管
107 硫黄
109 水酸化リチウム
111 多孔性シート
113 ガス排出管
201 第一反応槽
203 第二反応槽
205 連結管
図1
図2
図3
図4