(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記透明層が、ガラス等のケイ素化合物、ビニル樹脂、アクリル樹脂及びポリカーボネート樹脂の中から選択される少なくとも1種により設けられたものである請求項3に記載の金属部材。
【背景技術】
【0002】
建材には、剛性の高い素材として金属板が、とりわけ鋼板が多く用いられている。特に屋外で用いられる建材は、長時間屋外に晒されることから、酸や水分等に対する高耐食性が求められる。
【0003】
これに対して、塗装により鋼板に耐食性を付与する方法が知られている。これは、耐食性を有する塗料を鋼板の表面に塗膜として形成するものであり、機能性を発揮するために十分な塗膜を形成する必要がある。
鋼板そのものに高耐食性を付与した素材として、高耐食性めっき鋼板が知られている。これは、鋼板に合金によるめっき加工を施したものである。
【0004】
一方で、内装や外装のために用いられる建材には装飾性が求められるところ、鋼板には着色や、研磨により模様を付与する。
【0005】
ここで前述の高耐食性めっき鋼板は、表面加工を施すことが困難であり、装飾性を付与するための加工を施し難い。
【0006】
これに対して、溶融亜鉛めっき鋼材にりん酸塩処理を実施し、その後黒染め剤で処理することにより溶融亜鉛めっき鋼材を黒染めする方法が知られている(例えば、特許文献1)。
また、粉末状の塗料により高耐食性めっき鋼板を着色する粉体塗装の技術が用いられている(例えば、特許文献2)。
【0007】
さらに、鋼板の表面に設けられた溶融Zn系めっき層と、該溶融Zn系めっき層の表層に水蒸気処理によって形成された酸化物かつ/または水酸化物を含む黒色の層とが設けられた溶融Zn系めっき鋼板に線状模様を有する溶融Zn系めっき鋼板が知られている(例えば、特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1の技術は、表面の模様がスパングルに限られる。さらに、加工後、溶融亜鉛めっき鋼材に白錆が発生するものであり、建材としての性能が低下する。
また、上述のスパングル模様は意匠性を有するものの、意匠がその模様に限られる上、仕上がりを制御することが困難な場合がある。
【0010】
一方で、特許文献2のような粉体塗装は色彩の自由度が高いが、高耐食性めっき鋼板の全体が粉末塗料の質感となり、金属そのものの質感とは異なる質感しか現出することができない。
【0011】
研磨により模様を形成する場合、金属の種類や表面の着色の状況によって、研磨模様をはっきりと視認できない、金属特有の質感が失われるといった問題がある。
また、高耐食性めっき鋼板に仕上げ加工を施さずに使用する場合、鋼板の色数が鈍い銀色に限られ、建築仕上材としての使用範囲が大いに狭まる。
【0012】
特許文献3の溶融Zn系鋼板は、水蒸気処理によって酸化物かつ/または水酸化物の被膜を形成しこれを研磨するため、水蒸気処理を行うための設備を要する。また、酸化物または水酸化物の被膜の形成量が少ないと研磨が困難であり、多いと被膜が一度に脱落してしまうため、研磨により意図する模様を施すことが困難であって、加工性に難がある。
【0013】
本発明は、上述の課題を受けて開発されたものである。すなわち、本発明は金属板の表面に明確なコントラストが生じ、金属素地由来の質感を容易に視認できる意図した通りの研磨模様を施した金属部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は鋭意検討の結果、金属に着色した上で研磨して着色層を貫通する線状部の貫通部を設けることで、金属の耐食性を維持したまま、当該金属板に金属素地由来の質感を明確に視認できる研磨模様を備えた金属部材とすることができることを見出した。さらに、色層を顔料及び樹脂により設ける、または着色効果を有する薬剤を金属に反応させて形成することにより、加工性が向上し意図した通りの研磨模様を形成することが可能であることを見出した。本発明はこの知見に基づく。
【0015】
本発明は(1)、研磨模様が施された金属部材Aであって、金属からなる基部1aと、基部1aの表面に設けられた基部1aとは異なる色の色層3と、を備え、色層3は、基部1aとは反対側から基部1aの側へ色層3を貫通する複数の線状の貫通部3aと、色層3を基部1aとは反対側から基部1aの側へ貫通しない複数の線状の溝部3bとを有し、色層3が、顔料及び樹脂よりなるものであり、貫通部3aは、色層3の基部1aとは反対側の表面を研磨することにより形成されたものである金属部材Aに存する。
【0016】
本発明は(2)、研磨模様が施された金属部材Aであって、金属からなる基部1aと、基部1aの表面に設けられた基部1aとは異なる色の色層3と、を備え、色層3は、基部1aとは反対側から基部1aの側へ色層3を貫通する複数の線状の貫通部3aと、色層3を基部1aとは反対側から基部1aの側へ貫通しない複数の線状の溝部3bとを有し、色層3が、基部1aに着色効果を有する薬剤を反応させることにより形成されるものであり、貫通部3aは、色層3の基部1aとは反対側の表面を研磨することにより形成されたものである金属部材Aに存する。
【0017】
本発明は(3)、色層3の基部1aとは反対側の表面に設けられた透明層4を更に備える上記(1)又は(2)に記載の金属部材Aに存する。
【0018】
本発明は(4)、透明層4が、ガラス等のケイ素化合物、ビニル樹脂、アクリル樹脂及びポリカーボネート樹脂の中から選択される少なくとも1種により設けられたものである上記(3)に記載の金属部材Aに存する。
【0019】
本発明は(5)、透明層4の色層3とは反対側の表面に積層された顔料と樹脂よりなる有色透明の上色層5と、上色層5の透明層4とは反対側の表面に積層された樹脂よりなる透明の保護透明層6と、を更に備える上記(4)に記載の金属部材Aに存する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の金属部材Aは、基部1と、基部1とは異なる色の色層3と、を備え、色層3が線状の貫通部3aを複数有することにより、貫通部3aに基部1が露出した部分と基部1が色層3に覆われている部分が生じる。このため、基部1の表面に明確なコントラストを生じ、金属素地由来の質感を容易に視認できる研磨模様を備えることができる。
また、基部1の表面は変質しないため、耐食性が損なわれない。
【0023】
本発明の金属部材Aは、色層3が線状の溝部3bを更に有することにより、貫通部3bと溝部3bとを通じて視認できる基部1の色合いに、それぞれ差が生じる。このため、金属部材Aにより複雑な研磨模様を備えることが可能となる。
【0024】
本発明の金属部材Aは、色層3が、顔料及び樹脂よりなるものであることにより、色層3を剥落させずに容易に研磨することができ、意図した通りの研磨模様を形成することができる。
また、大掛かりな設備を要さずに、容易に基部1に色層3及び透明層4を設けることが可能となる。
【0025】
本発明の金属部材Aは、色層3が、基部1aに着色効果を有する薬剤を反応させることにより形成されるものであることにより、色層3を剥落させずに容易に研磨することができ、意図した通りの研磨模様を形成することができる。
また、基部1の表面に一様に色層3を設けることが可能となる。さらに、基部1の表面が積極的に不活性化されるため、耐食性が向上する。
【0026】
本発明の金属部材Aは、色層3の基部1とは反対側の表面に設けられた透明層4を更に備えることにより、耐食性が向上する。このため色層3を保護して、明確なコントラストを有する研磨模様を維持することが可能である。
【0027】
本発明の金属部材Aは、透明層4の色層3とは反対側の表面に積層された顔料と樹脂よりなる有色透明の上色層5と、上色層5の透明層4とは反対側の表面に積層された樹脂よりなる透明の保護透明層6と、を更に備えることにより、研磨模様のコントラストを維持したまま、自在に金属部材Aを着色することが可能となり、金属部材Aの装飾性が向上する。
【0028】
本発明の製造方法は、研磨模様が施された金属部材Aの製造方法であって、金属よりなる基部1に有色の塗料を付与し、色層3を形成する着色工程B3と、色層3の基部1とは反対側の表面を研磨し、線状の複数の貫通部3aを形成する研磨工程B4と、を有することにより、金属素材の表面に明確なコントラストを生じ、金属素地由来の質感を容易に視認できる研磨模様を付与することができる。
また、貫通部3aが形成された色層3に透明の塗料を付与して透明層4を形成し、貫通部3aに透明層4の一部を侵入させる上塗り工程B5と、を有することにより、下塗り工程が不要となる。
【0029】
本発明の製造方法は、透明層4の色層3とは反対側の表面に有色透明の塗料を付与して上色層5を形成する着色工程B3と、上色層5の透明層4とは反対側の表面に透明の塗料を付与して保護透明層6を形成する外側上塗り工程B7と、を更に有することにより、研磨模様のコントラストを維持したまま、自在に金属部材Aを着色することが可能となり、金属部材Aの装飾性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。
また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0032】
図1は、金属部材Aを示す断面図である。
本発明の金属部材Aは板状で、一方側の表面に研磨模様を備えるものであり、主に建材として用いられる。金属部材Aは、板状の金属からなる基部1と、基部1の表面に設けられた基部1とは異なる色の色層3と、色層3の基部1とは反対側の表面に設けられた透明層4と、を備える。
ここでは、基部1が銀色であり、色層3が黒色である例で示す。
【0033】
色層3は、色層3の厚さ方向、すなわち色層3を透明層4側から基部1側まで貫通する線状の複数の貫通部3aと、これを貫通しない溝部3bとを有する。貫通部3a及び溝部3bは、色層3の基部1とは反対側の表面を研磨することにより形成されたものである。
貫通部3aと溝部3bは方向性のないランダムな線状に形成されている。
【0034】
上述の通り、基部1が銀色であり、色層3が黒色であることから、基部1は色層3に比べて明度、彩度共に高く、両者の間にコントラストを有する。
また、溝部3bを通じて視認できる基部1は、貫通部3aを通じて視認できる基部1、色層3のいずれとも異なる見た目となり、金属部材Aは複雑な模様を備える。
【0035】
ここで、基部1には高耐食性めっき鋼板が好ましく用いられる。
高耐食性めっき鋼板は、鉄製の鋼板に、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムの中から選択される少なくとも1種の金属を鋼板にめっき加工し、めっき層1bを形成したものであり、主に建材の用途に用いられる。
更に好ましくは、亜鉛、アルミニウム、マグネシウムの全てを含む合金をめっき層1bとして、鋼板にめっき加工を施したものである。
かかる組成のめっき層1bを形成することにより、鋼板に屋外での使用に適する高耐食性を鋼板に付与することが可能となる。
【0036】
図2は、金属部材Aの製造方法を示すフローチャートである。
本発明の製造方法は、研磨模様が施された金属部材Aの製造方法であって、金属よりなる基部1に有色の塗料を付与し、色層3を形成する着色工程B3と、色層3の基部1とは反対側の表面を研磨し、線状の複数の貫通部3aを形成する研磨工程B4と、貫通部3aが形成された金属に透明の塗料を付与して透明層4を形成し、貫通部3aに透明層4の一部を侵入させる上塗り工程B5と、からなる。
【0037】
本発明の製造方法は、既に柱材、壁材、建具等、建材としての利用に応じて成形されたものに対して施すものである。
【0038】
高耐食性めっき鋼板は予め脱脂又はリン酸処理を施されたものを用いるか、又は素地調整工程B1により脱脂した後に用いる。
素地調整工程B1では、高耐食性めっき鋼板の脱脂及び洗浄を行う。これにより、リン酸塩被膜や塗料が高耐食性めっき鋼板に密着し、耐久性が増す。
まず、60〜70℃以上のアルカリ脱脂水溶液に10〜30分程度、高耐食性めっき鋼板を浸漬し、脱脂する。
【0039】
脱脂が終了した高耐食性めっき鋼板は水洗する。
これにより、以下の高耐食性めっき鋼板の表面に付着した油脂が取り除かれることにより後述する化成処理以下の工程における被膜形成が阻害されることがなくなり、高耐食性めっき鋼板の表面の加工性が向上する。
【0040】
図3は、化成処理工程B2を経た高耐食性めっき鋼板を示す断面図である。
化成処理工程B2では、高耐食性めっき鋼板を複合リン酸塩溶液に浸漬し、高耐食性めっき鋼板の表面に複合リン酸塩被膜からなるアンカー層2を形成する。本工程は、予めリン酸処理をなされた高耐食性めっき鋼板を用いる場合、省略できる。
複合リン酸塩被膜及び後述する塗料等の層は、外側、すなわち建材として用いられた際に露出する側に形成されれば足り、高耐食性めっき鋼板に屈曲がある場合も同様である。
また、高耐食性めっき鋼板の断面、すなわち心材がめっき層1bに覆われていない部分や、建材として用いられた際に露出しない側にアンカー層2の被膜や後述する塗料の層が形成されても差し支えない。
【0041】
複合リン酸塩溶液の組成は、リン酸塩化処理剤5〜10質量%、全酸度15〜30%、全鉄0〜4g/Lが好ましい。また、複合リン酸溶液の温度は65〜75℃、高耐食性めっき鋼板の浸漬時間は10〜30分が好適である。
これにより、高耐食性めっき鋼板の表面に複合リン酸塩被膜よりなるアンカー層2が形成される。アンカー層2が形成されることにより、防錆性、耐食性が付与されると共に、後述する塗料による色層3の高耐食性めっき鋼板に対する定着性が向上する。また、高耐食性めっき鋼板の光沢を抑制し、意匠性が向上する。
【0042】
複合リン酸塩溶液に浸漬した高耐食性めっき鋼板は、湯洗し、表面から複合リン酸塩溶液を除去する。
湯洗を終えた高耐食性めっき鋼板は、自然乾燥又は空気を吹き付けることにより乾燥させる。
【0043】
着色工程B3においては、複合リン酸塩被膜層の表面に有色の色層3を形成する。
着色工程B3では、まずJIS規格で#400のディスクサンダーにより、高耐食性めっき鋼板を研磨し、表面を荒らす。これにより、後述する下塗りの塗料が高耐食性めっき鋼板に密着する。
エアーブローにより、高耐食性めっき鋼板に付着した研磨片を除去する。
【0044】
研磨した高耐食性めっき鋼板には、下色として黒色の塗料を付与し、色層3を形成する。塗料には、アクリルシリコン塗料が好ましく用いられる。
塗料の希釈は塗料と希釈溶媒の体積比が5:1〜1:2の範囲となることが好ましい。溶媒には、シンナーを好ましく用いることができる。この際、完全に不透明とするのではなく基材である高耐食性めっき鋼板の表面が視認できる程度に塗布する。
【0045】
下色として黒色を着色することにより、後述する研磨によって色層3が削れた部分と色層3が形成されている部分との間に視覚的なコントラストが生じ、表面全体に金属素地の質感を呈する模様が形成される。
また、後述する着色工程B3において良好な発色が得られる。色層3が着色により形成されることにより、後述する研磨工程において色層3を剥落させずに容易に研磨することができ、意図した通りの研磨模様を形成することができる。また、大掛かりな設備を要さずに、容易に基部1に色層3及び透明層4を設けることが可能となる。
下色の塗布を終えた高耐食性めっき鋼板は80〜120℃で10〜30分程度の炉乾燥を行う。
【0046】
図4は、研磨工程B4を経た高耐食性めっき鋼板を示す断面図である。
研磨工程B4では、炉乾燥を終えた高耐食性めっき鋼板をディスクサンダーにより研磨し、スクラッチ加工を施す。具体的には、#40程度のディスクサンダーを用いて、1〜3回程度、鋼板の表面全体を研磨する。
これにより、高耐食性めっき鋼板に、色層3を後述する透明層4側から基部1側まで貫通する線状の複数の貫通部3a及び、色層3を透明層4側から基部1側まで貫通しない線状の複数の溝部3bがそれぞれ形成される。
すなわち、高耐食性めっき層1bの性能を維持したまま、高耐食性めっき鋼板の表面に明確に視認できる模様が形成される。貫通部3aと溝部3bとが存在することにより、金属部材Aにより複雑な研磨模様を備えることが可能となる。
【0047】
この際、
図4に示すように研磨によって色層3、アンカー層2及びめっき層1bが一部削られるが、心材である鋼1aが露出するには至らず、高耐食性めっき鋼板は全体としてめっき層1bに覆われ、耐食性を維持した状態となる。
また、これにより色層3が削られた貫通部3aと溝部3b及び全く研磨されていない部分との間に、視覚的なコントラストが明確に生じ、意匠性を持った金属素地由来の質感を容易に視認できる研磨模様が現出する。
研磨を終えた高耐食性めっき鋼板は、エアーブローに掛けて研磨片を取り除く。
【0048】
図5は、研磨工程B4を経た高耐食性めっき鋼板を示す画像である。
研磨工程B4により、高耐食性めっき鋼板の表面にランダムな研磨痕による貫通部3a及び溝部3bによる研磨模様が施され、高耐食性めっき鋼板の表面が金属素地の質感を呈する。
また、めっき層1bが維持されることで、高耐食性めっき鋼板の耐食性が維持される。
【0049】
図10は、色層3を有さない研磨した高耐食性めっき鋼板を示す参考画像である。
図5と
図10とに示されるように、金属部材Aは、色層3を備えることにより、基部1の表面にコントラストを生じ、金属素地由来の質感を明確に視認できる研磨模様を備えることができる。
【0050】
次に、上塗り工程B5においては、高耐食性めっき鋼板に上塗りとして無色透明なアクリルシリコン塗料を塗布し、透明層4を形成する。
図6は、上塗り工程B5を経た高耐食性めっき鋼板を示す断面図である。
図6に示すように、上塗りに用いるアクリルシリコン塗料は、研磨工程B4において形成された貫通部3a及び溝部3bに入り込み、めっき層1b及び色層3の上に表面が平滑な透明層4を形成する。
また、アクリルシリコン塗料は高耐食性めっき鋼板の色層3が形成されていない断面や、内側にまで入り込んで塗膜を形成する。
【0051】
これにより、貫通部3a及び溝部3bと色層3の研磨が施されていない部分との間に生じた視覚的なコントラストを有する研磨模様を、高耐食性めっき鋼板の表面に定着させることができる。すなわち、透明層4が貫通部3aや溝部3bに入り込み、色層3と密着して色層3を保護することで、高耐食性めっき鋼板の表面に施した装飾を、長期間維持することが可能となる。さらに、アクリルシリコン塗料が無色透明であることにより、高耐食性めっき鋼板の質感を外観できる状態が維持される。
【0052】
また、万が一研磨工程B4において、高耐食性めっき鋼板の心材が露出したとしても、高耐食性めっき鋼板の断面に塗膜が形成されることで断面が保護され、高耐食性めっき鋼板の耐久性及び耐食性が向上する。
アクリルシリコン塗料により形成される被膜表面が平滑であることにより、後述する上色着色工程B6等の加工が容易になり、さらに建材として用いた際の手触りが向上する。
【0053】
図7は、上色着色工程B6を含む高耐食性めっき鋼板の製造方法を示すフローチャートである。
高耐食性めっき鋼板の意匠性をさらに高めるため、上述の製造方法により上塗り工程B5を終えた高耐食性めっき鋼板に、上色の着色を施す上色着色工程B6と、更なる上塗りを施す外側上塗り工程B7を更に施すことができる。
【0054】
図8は、上色着色工程B6を経た高耐食性めっき鋼板を示す断面図である。
上色着色工程B6においては、透明層4の色層3とは反対側の表面に塗料を塗布して有色透明の上色層5を形成し、任意の色彩に着色する。
塗料には、着彩のために扱いやすいことから、ウレタン塗料が好ましく用いられる。
着色工程B3では、前述した透明層4が乾燥した後、目的とする塗料を塗り重ねる。求める発色が得られる場合まで、適宜塗布と乾燥とを繰り返すが、有彩色を着色する場合、塗り回数を増やすことにより、良好な発色が得られる。
【0055】
上述した通り、上色着色工程B6が施されるのは上塗り工程B5で形成された平滑なアクリルシリコン塗料の被膜上であり、これにより高耐食性めっき鋼板を全体として一様に着色することが可能である。
また、塗料と希釈剤の体積比を5:1〜1:5として希釈することが好ましい。これにより、上色層5が有色透明となり、金属特有の質感が概観できる状態を維持したまま、高耐食性めっき鋼板を自在に着色することができる。希釈剤にはシンナーが好ましく用いられる。
【0056】
外側上塗り工程B7においては、着色工程B3を経た高耐食性めっき鋼板に、更に透明なアクリルシリコン塗料を塗布し、保護透明層6を形成する。
これにより、色層3及び上色層5の顔料を保護して、高耐食性めっき鋼板の表面に定着させることができる。
すなわち、高耐食性めっき鋼板の表面に施した装飾を、長期間維持することが可能となる。
【0057】
図9は、外側上塗り工程B7を経た高耐食性めっき鋼板を示す断面図である。
図9に示されるように、着色工程B3において形成された上色層5の上に、上塗りに用いたアクリルシリコン塗料が塗膜を形成し、上色層5はアクリルシリコン塗料の塗膜に挟まれた状態となる。上色層5が使用によっても損傷しない。
また、アクリルシリコン塗料が透明であることにより、高耐食性めっき鋼板の質感が外観できる状態が維持される。
【0058】
透明層4と保護透明層6とが同一の樹脂よりなるものであり、色層3及び上色層5の厚みは、透明層4及び保護透明層6の厚みに対して小さいものである。これにより、良好な発色及び研磨模様の視認性が得られる。また、高耐食性めっき鋼板及び着色層3が十分に保護される。
【0059】
上塗り工程B5、又は外側上塗り工程B7を終えた高耐食性めっき鋼板は、80〜120℃で10〜30分程度の炉乾燥を行う。乾燥を終えた段階で、リン酸塩被膜層、塗料層を合わせて20〜40μm前後の被膜が形成されていることが望ましい。
これにより、高耐食性めっき鋼板の耐食性を維持しながら、表面に金属素地の質感を有する装飾を与えることができる。
【0060】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0061】
基部1に色層3を形成する際には、基部1の材質に応じて各種の着色効果を有する薬剤を用いて、基部1の表面に化学反応を生じさせて着色することで、色層3を形成することが可能である。例えば、リン酸処理、電解着色、クロメート処理、アルマイト処理等を用いることが考えられる。
これにより、耐食性を向上させることができ、また、基部1の表面に一様に色層3を設けることが可能となる。さらに、容易に研磨することができ、色層3を剥落させずに意図した通りの研磨模様を形成することができる。
【0062】
透明層4又は保護透明層6として、ガラス等のケイ素化合物やビニル、アクリル又はポリカーボネート等の樹脂を利用できる。これらの材質でできた板を色層3に接着剤により接着する、これらの材質でできた板で基部1及び色層3を挟み込む等の方法により、透明層4を設けることが可能である。
【0063】
本発明の製造方法は、既に柱や壁面、建具等、建材として求める形状に成形された鋼板に施すことを想定しているが、本発明の製造方法をブランク材に施した後、求める形状に成形することも可能である。
また、金属部材A及び基部1の形状は板状に限られない。さらに、色層3や透明層4等は、基部1の表面の一方側のみに限らず、裏面や側面に設けても良い。
これにより、研磨模様の視認性を維持しながら金属部材Aを保護することが可能となる。
【0064】
金属板のめっき層1bには、Cu、Ni、Cr、Sn、Au等の素材や、これらの合金、Ni−P、Ni−B、Ni−W、Ni−Fe等の合金、SiC、CBN(立方晶窒ホウ素)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の複合素材、炭素素材、あるいはこれらの組み合わせを利用しても良い。
【0065】
金属板の基材には、鉄の他、ステンレス、アルミ、真鍮、銅、チタン等の素材やこれらの合金を適宜利用可能である。
【0066】
研磨工程B4においては、研磨の表面仕上げは任意であり、ディスクサンダー、オビタルサンダー等の研磨や手研磨などを適宜採用できる。例えば、貫通部3a及び溝部3bが形成する研磨模様に、方向性を持たせることができる。また、研磨の粒度も任意である。
【0067】
着色工程B3、上色着色工程B6、上塗り工程B5及び外側上塗り工程B7において着彩する色彩は任意である。それぞれの着彩にはウレタン塗料やアクリルシリコン塗料等、各種の塗料を利用可能である。
また、上塗り工程B5及び外側上塗り工程B7においては、無色透明のアクリルシリコン塗料が望ましい。
【0068】
下色の色彩の変更及び研磨工程B4における研磨方法や粒度、研磨回数を変更することにより、表面の模様を種々様々に変更することが可能であり、また独創的な仕上表情が現出可能である。
金属板の表面に明確なコントラストを生じ、金属素地由来の質感を容易に視認できる意図した通りの研磨模様を施した金属部材及びその製造方法を提供することを目的とする。
研磨模様が施された金属部材Aであって、金属からなる基部1aと、基部1aの表面に設けられた基部1aとは異なる色の色層3と、を備え、色層3は、基部1aとは反対側から基部1aの側へ色層3を貫通する複数の線状の貫通部3aと、色層3を基部1aとは反対側から基部1aの側へ貫通しない複数の線状の溝部3bとを有し、色層3が、顔料及び樹脂よりなるものであり、貫通部3aは、色層3の基部1aとは反対側の表面を研磨することにより形成されたものである金属部材A。