特許第6508774号(P6508774)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6508774
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット組立体
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20190422BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   C23C14/34 C
   H01L21/285 S
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-116873(P2015-116873)
(22)【出願日】2015年6月9日
(65)【公開番号】特開2017-2355(P2017-2355A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143411
【氏名又は名称】株式会社高純度化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】海野 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】柴山 卓眞
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭57−145981(JP,A)
【文献】 特開2000−096219(JP,A)
【文献】 特開昭60−135572(JP,A)
【文献】 特開昭61−166965(JP,A)
【文献】 特開昭63−072874(JP,A)
【文献】 特開2003−226967(JP,A)
【文献】 特開平04−285159(JP,A)
【文献】 特開平09−156913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
H01L 21/28−21/288
21/329
21/44−21/445
29/40−29/49
29/872
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタリングターゲットとバッキングプレートとを、ロウ材を用いることなく、一体化したスパッタリングターゲット組立体において、
平面視上円形又は矩形に形成され、かつ、第1の面から第2の面に向けて拡がる傾斜面からなる側面を有するスパッタリングターゲットと、
前記スパッタリングターゲットよりも大きい熱膨張係数を有すると共に、前記スパッタリングターゲットが嵌合する貫通穴を有するバッキングプレートと、
前記バッキングプレートを、冷却板又は冷却シートに接触するように取り付ける押え部材と、
を備え、
前記スパッタリングターゲットをバッキングプレートの貫通穴に嵌合させることにより、前記バッキングプレートがスパッタリングターゲットの側面を保持すると共に、
前記押え部材によって、前記バッキングプレートは冷却板又は冷却シートに接触するように取り付けられることを特徴とするスパッタリングターゲット組立体。
【請求項2】
前記スパッタリングターゲットの第1の面が、スパッタリングターゲットの露出面であるスパッタリング面であり、
前記スパッタリングターゲットの第2の面が、冷却板又は冷却シートの上に載置される
冷却面であることを特徴とする請求項1記載のスパッタリングターゲット組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリングターゲットの組立体に関し、詳しくは、ターゲットと、該ターゲットよりも高い熱膨張率を有するバッキングプレートとを有し、両者を接合するロウ材を用いることなく、ターゲットとバッキングプレートとを一体化したスパッタリングターゲット組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングターゲット(以下単に「ターゲット」ともいう。)は、スパッタリング装置に装着され、各種半導体デバイスの電極、ゲート、配線、素子、保護膜等を基板上に形成するためのスパッタリング源として使用される。
このターゲットの材質としては、通常、AlまたはAl合金、高融点金属及び合金(W、Mo、Ti、Ta、Zr、Nb等及びその合金)、高融点シリサイド(MoSiX 、WSix 等)、白金族等が用いられている。
【0003】
また、図4に示すように、前記ターゲット10は、支持及び冷却目的でバッキングプレート11上に、InもしくはSn合金系の低融点ロウ材12を用いてロウ接合され、ターゲット10とバッキングプレート11とを一体化している。
このバッキングプレート11の材質は、通常、OFC(無酸素銅)、Cu合金、Al合金、SUS(ステンレス鋼)もしくはTi乃至Ti合金等の金属及び合金が用いられている。
前記したバッキングプレート11は、スパッタリング動作中にターゲット10に発生する熱を奪い取り、冷却するため、前記バッキングプレート11の裏面が冷却板(図示せず)に接するように配置される。
【0004】
そして、スパッタリング時、ターゲット10と基板との間に電圧が印加されると、出力の増大とともにターゲット10の温度が上昇する。
一方、前記バッキングプレート11は、ターゲット10が接合している面とは反対側から冷却され、ターゲット10自体の温度上昇を抑制している。
【0005】
しかしながら、ターゲット10とバッキングプレート11とは、通常、ロウ材12で接合されているため、出力がある値以上になり、ターゲット10の温度が接合面のロウ材12の融点よりも高くなった場合には、前記ターゲット10とバッキングプレート11とが剥離するという問題があった。
即ち、バッキングプレート11はスパッタリング動作時にターゲット10を冷却するものであるが、ターゲット10とバッキングプレート11との間に大きな熱膨張率の差がある場合には、スパッタリング動作時に過大な熱応力あるいは反りが生じる。その結果、ターゲット10に亀裂が発生し、あるいはターゲット10とバッキングプレート11との間のロウ接合部12に破損をきたし、バッキングプレート11がターゲット10から剥離することがあった。
【0006】
このような問題に対して、ターゲットの材料と近い熱膨張率を有する材料でバッキングプレートを作製すること、あるいはバッキングプレートやロウ材の厚さを制御することによって発生する反りや熱応力を低減させることが対策として考慮されてきた。
例えば、特許文献1では、低線膨張率の金属又は合金で形成されたターゲット用のバッキングプレートとしてMoとCuとの複合材、すなわちMo焼結体にCuを含浸したものやCu板とMo板とのバイメタルが提唱されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−67168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1記載のバッキングプレートは、低線膨張率の金属又は合金で形成されたターゲット用のものであり、使用できるターゲットが限定されるという課題があった。
また、バッキングプレートとして、MoとCuとの複合材、すなわちMo焼結体にCuを含浸したものやCu板とMo板とのバイメタルが用いられているが、このMo焼結体にCuを含浸した複合材を製造するのは手数が嵩むという課題があった。
更に、Cu板とMo板とのバイメタルは、その作製時やターゲットへのロウ接合作業時やスパッタリング動作時にそりが生じやすいという課題があった。
【0009】
本発明者は、ターゲットに亀裂が発生し、あるいはターゲットとバッキングプレートとの間のロウ接合部が破損し、バッキングプレートがターゲットから剥離するという課題を解決するために、ロウ接合を用いない方法を前提とし、ターゲット、バッキングプレートを形状面から鋭意研究し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、スパッタリング動作中に、ターゲットとバッキングプレートとが剥離することのないスパッタリングターゲットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するためになされた本発明にかかるスパッタリングターゲット組立体は、スパッタリングターゲットとバッキングプレートとを、ロウ材を用いることなく、一体化したスパッタリングターゲット組立体において、平面視上円形又は矩形に形成され、かつ、第1の面から第2の面に向けて拡がる傾斜面からなる側面を有するスパッタリングターゲットと、前記スパッタリングターゲットよりも大きい熱膨張係数を有すると共に、前記スパッタリングターゲットが嵌合する貫通穴を有するバッキングプレートと、前記バッキングプレートを、冷却板又は冷却シートに接触するように取り付ける押え部材と、を備え、前記スパッタリングターゲットをバッキングプレートの貫通穴に嵌合させることにより、前記バッキングプレートがスパッタリングターゲットの側面を保持すると共に、前記押え部材によって、前記バッキングプレートは冷却板又は冷却シートに接触するように取り付けられることを特徴としている。
【0012】
このように、スパッタリングターゲットに、第1の面から第2の面に向けて拡がる傾斜面からなる側面が形成され、またバッキングプレートに前記スパッタリングターゲットに貫通穴が形成され、この貫通穴にスパッタリングターゲットが嵌合、保持される。即ち、ロウ接合を用いることなく、スパッタリングターゲットとバッキングプレートを一体的に組み立てる。
その結果、スパッタリング動作中に、ターゲット及びバッキングプレートが温度上昇しても、従来の課題である、スパッタリングターゲットのバッキングプレートから剥離を防止することができる。
また、本発明にかかるスパッタリングターゲット組立体は、前記スパッタリングターゲットよりも大きい熱膨張係数を有すると共に、前記スパッタリングターゲットが嵌合する貫通穴を有するバッキングプレートを備えているため、温度上昇とともにバッキングプレートによってスパッタリングターゲットに応力が生じ、反り、破損が発生するのを抑制できる。
加えて、本発明にかかるスパッタリングターゲット組立体は、前記バッキングプレートを、冷却板又は冷却シートに接触するように取り付ける押え部材を備えているため、バッキングプレートの温度上昇が抑制され、更にスパッタリングターゲットの温度上昇が抑制される。
特に、本発明にかかるスパッタリングターゲット組立体にあっては、ターゲットの下面が貫通穴の内部に移動した場合には、バッキングプレートの貫通穴が想定外の温度で熱膨張によって拡大したことを示しているため、スパッタリング動作中に所定の温度以上の温度上昇があったことを確認することができる。
【0013】
ここで、前記スパッタリングターゲットの第1の面が、スパッタリングターゲットの露出面であるスパッタリング面であり、前記スパッタリングターゲットの第2の面が、冷却板又は冷却シートの上に載置される冷却面であることが望ましい。
このように、スパッタリングターゲットの第2の面が、冷却板又は冷却シートの上に載置されることにより、スパッタリングターゲットの温度上昇をより抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スパッタリング動作中に、ターゲットとバッキングプレートとが剥離することのないスパッタリングターゲットを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明にかかるスパッタリングターゲット組立体の一実施形態の概略構成を示す平面図である。
図2図2は、図1のI−I断面図である。
図3図3は、本発明にかかるスパッタリングターゲット組立体の変形例の概略構成を示す平面図である。
図4図4は、従来のスパッタリングターゲットを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明にかかるスパッタリングターゲット組立体の一実施形態を図1及び図2に基づいて説明する。
図1図2において、符号1はスパッタリングターゲット(以下、ターゲットという)であって、平面視上円形に形成されている。また、このターゲット1の上面(第1の面)1aから下面(第2の面)1bに向けて徐々に半径が拡がるように、周側面が傾斜面1cとして形成されている。
【0019】
前記ターゲット1の上面1aは、スパッタリング装置に装着した際、スパッタリング装置内に臨み、ターゲットが露出したスパッタリング面となる。一方、前記ターゲットの下面(第2の面)1bは、冷却板4の上に載置される冷却面となる。尚、冷却板4は、冷却シートであっても良い。
【0020】
また、図1図2において、符号2は、前記ターゲット1が嵌合する貫通穴2aを有するバッキングプレートである。このバッキングプレート2も、ターゲット1と同様に、平面視上円形に形成されている。また、このバッキングプレート2の上面2bから下面2cに向けて徐々に半径が拡がるように、内周側面が傾斜面に形成された貫通穴2aが設けられている。
この貫通穴2aは、前記ターゲット1が嵌合する寸法に形成される。即ち、ターゲット1をバッキングプレート2の貫通穴2aに嵌合させることにより、バッキングプレート2がターゲット1の側面を保持、固定できる寸法に形成される。
【0021】
また、図2に示すように、ターゲット1をバッキングプレート2の貫通穴2aに嵌合し、バッキングプレート2によってターゲット1を保持する際、ターゲット1の下面1bが、バッキングプレート2の下面2cと同一面上に位置するようになされる。
このように、ターゲット1の下面1bが、バッキングプレート2の下面2cと同一面上に位置するように保持された場合には、バッキングプレート2の下面2c及びターゲット1の下面1bを、冷却板4上に載置することができる。
【0022】
具体的には、ターゲット1の下面1bとバッキングプレート2の下面2cが同一面上に位置するターゲット組立体を、冷却板4上に載置し、押え部材3によりバッキングプレート2を冷却板4に取り付ける。これにより、バッキングプレート2の下面2c及びターゲット1の下面1bが、冷却板4上に接触した状態で取り付けられるため、より十分な冷却効果を得ることができる。
尚、バッキングプレート2は押え部材3により冷却板4に取り付けられるため、常に冷却板4に接触した状態になすことができる。
【0023】
また、このターゲット1としては、通常用いられている、AlまたはAl合金、高融点金属及び合金(W、Mo、Ti、Ta、Zr、Nb等及びその合金)、高融点シリサイド(MoSiX 、WSix 等)、白金族等のいずれかの材質を選択することができる。
また、バッキングプレート11としては、通常用いられている、OFC(無酸素銅)、Cu、Cu合金、Al、Al合金、SUS(ステンレス鋼)もしくはTi乃至Ti合金等の金属及び合金のいずれかの材質を選択することができる。
尚、このターゲット1およびバッキングプレート11に用いることができる材質は、上記材質に限定されるものではなく、他の材質であっても良いが、材質の選定に当たっては、以下に述べるように、両者の熱膨張係数を考慮する必要がある。
【0024】
このターゲット1の材質及びバッキングプレート2の材質の選択に際しては、前記バッキングプレート2の熱膨張係数が、前記ターゲット1の熱膨張係数よりも大きいものを選択する必要がある。
前記バッキングプレート2が、前記ターゲット1よりも小さい熱膨張係数を有する場合には、温度上昇とともに、バッキングプレート2によってターゲット1に応力が生じ、反り、破損が発生するためである。
前記バッキングプレート2の熱膨張係数が、前記ターゲット1の熱膨張係数よりも大きいものとして、例えば、ターゲットがITOターゲットの場合には、熱膨張率がITOよりも大きい材料としてTiまたはTi合金を選択することができる。
【0025】
上記したように、ロウ材を用いることなく、ターゲット1をバッキングプレート2の貫通穴2aに嵌合させることにより、ターゲット1をバッキングプレート2に保持、固定するため、スパッタリング動作中に、ターゲット1及びバッキングプレート2が温度上昇しても、ターゲットとバッキングプレートが剥離することはない。
【0026】
また、スパッタリングターゲット組立体を、ターゲット1の上面1aが下方に向くように、スパッタリング装置に装着し、更にターゲット1とバッキングプレート2の熱膨張率の差によって、ターゲット1の嵌合が緩やかな状態となった場合においても、バッキングプレート2の貫通穴2aの内周側面が傾斜面に形成されているため、バッキングプレート2からターゲット1が脱落するのを防止することができる。
尚、前記バッキングプレート2の貫通穴2aの内周側面の傾斜角度、及びターゲット1の周側面の傾斜角度は、ターゲット1とバッキングプレート2の熱膨張率の差などを考慮して定められる。
【0027】
また、ターゲット1の下面1bが、バッキングプレート2の下面2cと同一面上に位置するように形成されたターゲット組立体にあっては、スパッタリング動作後、前記同一平面にあるか否かを確認することにより、スパッタリング動作中に所定の温度以上の温度上昇があったことを確認することができる。
即ち、前記同一平面が崩れていた場合(ターゲット1の下面1bが貫通穴2aの内部に移動した場合)には、バッキングプレート2の貫通穴2aが想定外の温度で熱膨張によって拡大したことを示しているため、スパッタリング動作中に所定の温度以上の温度上昇があったことを確認することができる。
【0028】
このスパッタリングターゲット組立体を組み立てるには、ターゲット1及びバッキングプレート2を所定温度、例えばスパッタリング動作中の温度(最高温度)と同等の温度下で、ターゲット1の貫通穴2aに嵌合させ、ターゲット1の下面1bが、バッキングプレート2の下面2cと同一面上に位置するようになすように組み立てる。
【0029】
このような温度下で、ターゲット1の貫通穴2aに嵌合させることにより、通常のスパッタリング動作では、ターゲット1の下面1bとバッキングプレート2の下面2cと同一面上に位置させることができる。
即ち、バッキングプレート2の下面2c及びターゲット1の下面1bを、冷却板4に接触した状態を維持することができる。
【0030】
尚、上記実施形態にあっては、ターゲット1、バッキングプレート2が、平面視上円形に形成されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、図3に示すように、平面視上、矩形に形成されているターゲット1、バッキングプレート2にも適用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ターゲット
1a 上面(第1の面)
1b 下面(第2の面)
1c 傾斜面
2 バッキングプレート
2a 貫通穴
2b 上面
2c 下面
3 押え部材
4 冷却板
図1
図2
図3
図4