特許第6508907号(P6508907)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6508907
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】低い放散値を有するニトリルゴム
(51)【国際特許分類】
   C08F 236/12 20060101AFI20190422BHJP
   C08L 9/02 20060101ALI20190422BHJP
   C08J 3/20 20060101ALI20190422BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20190422BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   C08F236/12
   C08L9/02
   C08J3/20 DCEQ
   C08J3/24
   C08F2/38
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2014-208740(P2014-208740)
(22)【出願日】2014年10月10日
(65)【公開番号】特開2015-78367(P2015-78367A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2017年8月17日
(31)【優先権主張番号】13290246.1
(32)【優先日】2013年10月14日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516112462
【氏名又は名称】アランセオ・ドイチュランド・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スヴェン・ブランダウ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・カイザー
(72)【発明者】
【氏名】ハンス・マグ
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ・ヴェステッペ
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−523901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 236/12
C08F 2/38
C08J 3/20
C08J 3/24
C08L 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルモノマーおよび少なくとも1種の共役ジエンモノマーを乳化重合させることによって、ニトリルゴムを製造するための方法であって、
分子量調節剤としてのtert−ノニルメルカプタンの存在下に、使用されるモノマーを合計したものを基準にして、少なくとも60重量%、好ましくは60%〜98%、より好ましくは62%〜95%、特には65%〜95%の転化率にまで、前記乳化重合を実施し、
前記ニトリルゴムが、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルモノマーおよび少なくとも1種の共役ジエンモノマーの繰り返し単位を含、前記ゴムが、0.25mg/(kg*ムーニー単位)以下の一般式(I)
【数1】
[式中、
[揮発性成分]は、VDA推奨規格278(09/2002版)に従ったTDS GC−MS分析法において28.4分〜34.0分の間で求めた、ニトリルゴムの揮発性成分濃度(単位:mg/kg)であり、
[ムーニー粘度]は、ASTM D 1646に従って求めた、100℃におけるニトリルゴムのムーニー粘度ML1+4(ムーニー単位)であり、
[ニトリル含量]は、ニトリルゴムにおける無次元のα,β−不飽和ニトリル含量であり、そのような含量は、DIN 53 625に従ってKjeldahl法により重量%の単位で求められる]
による放散指数Eを有することを特徴とする、方法
【請求項2】
式(I)による前記放散指数Eが、0.22mg/(kg*ムーニー単位)以下、特に好ましくは0.20mg/(kg*ムーニー単位)以下である、請求項1に記載の方法
【請求項3】
前記ニトリルゴムが、1種または複数のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位をさらに含む、請求項1または2に記載の方法
【請求項4】
前記少なくとも1種の共役ジエンが、(C〜C)共役ジエンおよびそれらの混合物から、好ましくは1,2−ブタジエン、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレンおよびそれらの混合物から選択され、特に好ましくは1,3−ブタジエンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法
【請求項5】
前記少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルが、(C〜C)α,β−不飽和ニトリルおよびそれらの混合物から、好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルおよびそれらの混合物から選択され、特に好ましくはアクリロニトリルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法
【請求項6】
前記ニトリルゴムが、10〜150ムーニー単位(MU)、好ましくは20〜100MUのムーニー粘度(100℃におけるML1+4)を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法
【請求項7】
tert−ノニルメルカプタンの形態にある前記分子量調節剤が、
a)少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも97重量%の純度のtert−ノニルメルカプタンの形態にあるか、または、
b)少なくとも50重量%であるが95重量%を超えないtert−ノニルメルカプタンと、1種または複数のさらなる異性体のノニルメルカプタンおよび/または1種または複数のさらなるC10〜C16アルキルチオールとを含む混合物の形態にあるか、
のいずれかで使用される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記分子量調節剤が、前記モノマー混合物100重量部を基準にして、0.05〜3重量部、好ましくは0.1〜1.5重量部の量で使用される、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低い放散値(emission value)を有するニトリルゴム、それを製造するための方法、そのニトリルゴムを含む加硫可能な混合物、さらには、それらの混合物から加硫物を製造するための方法、ならびにそのようにして得られる加硫物に関する。
【背景技術】
【0002】
ニトリルゴムは、略して「NBR」とも呼ばれるが、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルモノマー、少なくとも1種の共役ジエン、および場合によっては1種または複数のさらなる共重合性モノマーのコポリマーまたはターポリマーであるゴムである。このタイプのニトリルゴムおよびそのようなニトリルゴムを製造するための方法は公知であり、たとえば(非特許文献1)を参照されたい。
【0003】
NBRは、典型的には、乳化重合によって製造され、最初にNBRラテックスが得られる。このラテックスから、通常は塩または酸を使用するコアグレーションによって、NBR固形物が単離される。乳化重合は、典型的には、分子量調節剤を使用して実施される。一般的に使用される分子量調節剤は、メルカプタンをベースとするものである。ドデシルメルカプタンの使用は、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸、フマル酸、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、クロロプレンなどのモノマーをベースとするエマルションゴムの分子量調節には特に重要である。
【0004】
(特許文献1)には、ジオレフィンたとえばブタジエンと、場合によってはさらなる共重合性モノマーたとえばスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチル、フマル酸エチル、またはメチルビニルケトンとをベースとする合成ゴムを、分子量調節剤としての脂肪族メルカプタンの存在下に乳化重合させることによって製造することが記載されている。これらのメルカプタンが、少なくとも7個、好ましくは10個以上の炭素原子を含んでいることが開示されている。少なくとも50%のドデシルメルカプタンを含み、そして合計が100%になるようなバランス量の、10〜16個の炭素原子を有するメルカプタンの形態のものとを含む、188〜230の平均分子量を有する脂肪族メルカプタンを使用するのが好ましい。
【0005】
(非特許文献2)には、一般論として、アルキルメルカプタン、ジスルフィドおよびポリスルフィド、またはキサントゲンジスルフィドを使用することによって、ニトリル−ブタジエンゴムの分子量を調節することが可能であると記載されている。tert−ドデシルメルカプタンおよびジイソプロピルキサントゲンジスルフィドが、主として使用される調節剤として挙げられている。
【0006】
tert−ドデシルメルカプタン(略して「TDM」または「TDDM」とも呼ばれる)も、工業的実施では使用されることが多い。たとえば、Chevron Phillipsから商業的に入手可能なTDMが知られており、それらは一般的に、極めて広い範囲の各種異性体の混合物からなっている。
【0007】
ニトリルゴムをベースとして製造される加硫物から揮発性物質のガスが出るかどうか、またはどの程度出るかは、極めて広い範囲の用途、たとえばニトリルゴムの床仕上材に関連する。本出願人の検討したところでは、VOC試験(VDA推奨規格278(09/2002)に従ったTDS GC−MS分析法の手段により実施)で、TDMを使用して製造したニトリルゴムには、高い比率の硫黄化合物と、さらには、TDM中の硫黄非含有不純物が含まれることが判明した。使用モードおよび目的に依存して、これらが、実使用時にガスを発生して、著しく、気になる不快な迷惑臭をもたらす可能性があり、そのため、許容不可能となることもあり得る。
【0008】
ラテックスのコアグレーションに使用することが可能な塩が、得られるNBRの性質に与える影響については、膨大な文献が存在しているものの、分子量調節剤が、ニトリルゴムの中の揮発性成分の含量に与える影響についての示唆や研究は存在しない。
【0009】
(特許文献2)には、エマルション中でブタジエンとアクリロニトリルとをフリーラジカル共重合させるための方法が開示されているが、その方法は、モノマーおよび分子量調節剤たとえば、tert−ドデシルメルカプタンのための、有利には、特殊なコンピュータを援用した計量添加プログラムによって調節され、さらに、得られたラテックスを酸性媒体の中で後処理して固形のゴムが得られる。その方法の顕著な利点は、コアグレーションにおいて酸を使用することによって、乳化剤として使用された樹脂石鹸および/または脂肪酸石鹸がゴムの中にとどまる、すなわち他の方法におけるような洗い出しがないことがあると述べられている。そこでは、そのNBRが良好な性能の利点を有しているだけでなく、特に、方法の経済性が改良され、洗い出した乳化剤による廃水汚染も避けられるということが主張されている。10〜30重量%のアクリロニトリルを含むブタジエン−アクリロニトリルコポリマーが、高い抗膨潤性および有利な加工性に加えて、良好な弾性と低温特性とを特徴としていると記載されている。この特許の教示からは、ニトリルゴムのVOC値または加硫されたNBRの性能プロファイルに影響することを可能とする手段を推量することはできない。
【0010】
(特許文献3)、(特許文献4)、および(特許文献5)にはそれぞれ、不飽和ニトリルおよび共役ジエンをベースとするニトリルゴムが記載されており、前記ニトリルゴムはそれぞれ、10〜60重量%の不飽和ニトリルを含み、15〜150、または(特許文献3)においては15〜65の範囲のムーニー粘度を有し、モノマー単位100molあたり少なくとも0.03molのC12〜C16−アルキルチオ基を含むが、このアルキルチオ基には、少なくとも3個の三級炭素原子と、それらの三級炭素原子の少なくとも一つに直接結合した硫黄原子とが含まれている。それぞれのニトリルゴムは、分子量調節剤として適切な構造のC12〜C16−アルキルチオール(「連鎖移動剤」として機能し、したがってポリマー鎖の中に末端基として組み入れられる)の存在下に製造される。
【0011】
(特許文献5)に記載のニトリルゴムは、そのコポリマー中に3〜20の範囲の不飽和ニトリル組成分布幅「ΔAN」(ANはアクリロニトリルを表している)を有していると記述されている。それらを製造するための方法は、(特許文献3)の方法とは異なって、重合の開始時には、全モノマーの30〜80重量%だけを用い、残りの量のモノマーは、重合転化率が20〜70重量%となったところでのみ計量仕込みする。
【0012】
(特許文献4)に記載のニトリルゴムは、35000未満の数平均分子量Mnを有する低分子量を3〜20重量%の割合で含んでいると記載されている。前記ゴムを製造するための方法は、(特許文献3)とは異なって、重合前には、アルキルチオールの10〜95重量%だけをモノマー混合物に混合し、残りの量のアルキルチオールは、重合転化率が20〜70重量%に達してからのみに、計量仕込みする。
【0013】
(特許文献3)、(特許文献5)、および(特許文献4)によれば、ニトリルゴムを製造するためには、いずれの場合においても、分子量調節剤として2,2,4,6,6−ペンタメチルヘプタン−4−チオールおよび2,2,4,6,6,8,8−ヘプタメチルノナン−4−チオールの化合物の形態のアルキルチオールを使用することが不可欠である。この関連で、慣用される公知のtert−ドデシルメルカプタンを調節剤として使用すると、性能がより劣るニトリルゴムが得られるということが指摘されている。
【化1】
【0014】
(特許文献3)、(特許文献5)、および(特許文献4)において製造されるニトリルゴムは、有利な性能プロファイルを有しており、ゴム混合物に良好な加工性を与え、加工の際の型の汚れが少ないと主張されている。得られる加硫物が、低温安定性と耐油性の良好な組合せならびに良好な機械的性質を有しているとの記載がある。さらに、75%を超える、好ましくは80%を超える高い重合転化率、特に射出成形のための各種タイプのNBRにおける、硫黄またはペルオキシドを用いた加硫における高い加硫速度、ニトリルゴムの短いスコーチ時間、および高い架橋密度があるために、その製造方法の高い生産性ということが強調されている。(特許文献3)、(特許文献5)、(特許文献4)のいずれにおいても、使用した分子量調節剤が、NBRの性質およびそれらの放散特性に与える影響(もし、あるとすれば)については何の示唆も与えていない。
【0015】
(特許文献6)には、15重量%〜50重量%の結合された不飽和ニトリルの含量と、15〜150ムーニー単位の範囲のムーニー粘度(100℃におけるML1+4)とで、0゜〜20゜の範囲の鎖の分岐(Δδ値として知られているものから求められる)と、メチルエチルケトン中20℃で測定して85重量%以上の溶解性とを示す、特殊な分岐状のニトリルゴムが開示されている。それらのニトリルゴムは、分子量調節剤を使用した重合を実施することにより得られるが、ここでその調節剤は、1回の仕込みで、すなわち一度に重合混合物に添加するのではなく、少なくとも2工程、好ましくは3工程またはそれ以上の間に添加するが、ただし、全重合時間にわたって連続的に添加することもまた可能である。(特許文献6)においては、各種の鎖調節剤を使用することができるが、それらは、(特許文献7)、p.3、51〜58行、およびp.4、パラグラフ3に記載されている。好ましいのは、アルキルチオール、たとえば2,4,4−トリメチルペンタン−2−チオール、2,2’,4,6,6’−ペンタメチルヘプタン−4−チオール、2,2’,4,6,6’,8,8’−ヘプタメチル−ノナン−4−チオールおよびそれらの混合物である。
【0016】
(特許文献8)、(特許文献9)、および(特許文献10)それぞれに、ゴムおよびそれに相当する加硫物いずれもの中において、それらに伴う特定のイオン含量およびイオン指数、ならびに特定の性質を有する特定のNBRニトリルゴムを製造するために使用される方法が開示されている。たとえば(特許文献11)に記載されているような特定のドデシルメルカプタンが、それらの方法における分子量調節のために使用することができる。したがって、ポリマー鎖の中には、使用された調節剤物質の破片が見いだされる。
【0017】
各種の一級、二級および三級メルカプタンの存在下におけるブタジエン/アクリロニトリルコポリマーの製造は、(非特許文献3)において検討されている。ポリマーの分子量およびムーニー粘度の調節能力に関連する、メルカプタンの性能に特に焦点が合わせられていた。最低の結果が得られたのは、n−アルキルメルカプタンを用いたときである。それとは対照的に、二級メルカプタンたとえば、2−ノニルメルカプタン、2−デシルメルカプタンおよび混合物が、低温(5℃)ではより効率的な調節剤であることが見いだされた。三級C〜C13メルカプタンが、最善の結果を示した。70/30ブタジエン/アセトニトリルコポリマーおよび80/20ブタジエン/アセトニトリルコポリマーの場合の、5℃での重合における最適な移動定数が得られた。tert−ノニルメルカプタンを使用すると、重合は、最高で59%以下までの転化率で進行した。それにしても、製造されたブタジエン/アクリロニトリルゴム中の揮発性物質含量に関して分析された調節剤物質の影響(あるとすれば)、およびゴムおよびそれをベースとする加硫物の他の性質が影響される程度については、何の示唆も与えられていない。
【0018】
まとめれば、今日までのところ、明らかに低減された揮発性物質含量と、それと同時に、変化せずに残っている性能プロファイル、および特に加硫物に関連して良好な性能とを有するニトリルゴムを得るために、分子量調節剤としてメルカプタンを使用することができる公知の手段が依然として存在していないということが言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第A2,434,536号明細書
【特許文献2】旧東独国特許第154 702号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第A0 692 496号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第A0 779 301号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第A0 779 300号明細書
【特許文献6】国際公開第A2001/094432号パンフレット
【特許文献7】欧州特許第0 799 300B1号明細書
【特許文献8】国際公開第A2008/142042号パンフレット
【特許文献9】国際公開第A2008/142035号パンフレット
【特許文献10】国際公開第A2008/142039号パンフレット
【特許文献11】国際公開第A2008/142037号パンフレット
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,VCH Verlagsgesellschaft、Weinheim,1993,p.255〜261
【非特許文献2】Ullmanns Enzyklopaedie der technischen Chemie[Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry],4th edition,volume 13,p.611〜612
【非特許文献3】J.Appl.Polym.Sci.,1968,Vol.12,1075〜1095
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、それに続く加工工程において、良好な性能プロファイルを有する加硫物を与え、それと同時に、産業において典型的に使用されている分子量調節剤のTDMをもっぱら使用して製造されたニトリルゴムに比較して、明らかに改良された放散特性を有するニトリルゴムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
驚くべきことには、特定の分子量調節剤を使用して乳化重合を実施し、それと同時に重合を60%以上の転化率になるまで実施すると、極めて良好な加硫特性および改良された放散特性を有するニトリルゴム、およびそれらをベースとした優れた加硫物物性を有する加硫物が得られるということが見いだされた。
【0023】
したがって、本発明は、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルモノマーと少なくとも1種の共役ジエンモノマーとの繰り返し単位を含み、0.25mg/(kg*ムーニー単位)以下の一般式(I)
【数1】
[式中、
[揮発性成分]は、VDA推奨規格278(09/2002版)に従ったTDS GC−MS分析法において28.4分〜34.0分の間で求めた、ニトリルゴムの揮発性成分濃度(単位:mg/kg)であり、
[ムーニー粘度]は、ASTM D 1646に従って求めた、100℃におけるニトリルゴムのムーニー粘度ML1+4(ムーニー単位)であり、
[ニトリル含量]は、DIN 53 625に従ってKjeldahl法により求めた、ニトリルゴム中のα,β−不飽和ニトリル含量(単位:重量%)である]
による放散指数(emission quotient)Eを有するニトリルゴムを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
ニトリル含量は、一般式(I)においては無次元数として与えられる(あるいは「正規化された」と表現される)が、このことは、一般式(I)においては、「重量%」という単位が考慮されていないということを意味している。
【0025】
理解しやすいように言えば、これは次のことを意味している:したがって、本発明は、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルモノマーと少なくとも1種の共役ジエンモノマーとの繰り返し単位を含み、0.25mg/(kg*ムーニー単位)以下の一般式(I)
【数2】
[式中、
[揮発性成分]は、VDA推奨規格278(09/2002版)に従ったTDS GC−MS分析法において28.4分〜34.0分の間で求めた、ニトリルゴムの揮発性成分濃度(単位:mg/kg)であり、
[ムーニー粘度]は、ASTM D 1646に従って求めた、100℃におけるニトリルゴムのムーニー粘度ML1+4(ムーニー単位)であり、
[ニトリル含量]は、ニトリルゴムにおける無次元のα,β−不飽和ニトリル含量であり、そのような含量は、DIN 53 625に従ってKjeldahl法により重量%の単位で求められる]
による放散指数Eを有するニトリルゴムを提供する。
【0026】
本発明はさらに、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルモノマーおよび少なくとも1種の共役ジエンモノマーを乳化重合させることによる、ニトリルゴムを製造するための方法も提供するが、その特徴としているところは、tert−ノニルメルカプタンの存在下に、用いられたモノマーの合計を基準にして少なくとも60重量%の転化率になるまでその乳化重合を実施することである。
【0027】
本発明はさらに、本発明によるニトリルゴムを含む加硫可能な混合物、この加硫可能な混合物を製造するための方法、この加硫可能な混合物をベースとする加硫物、およびそのような加硫物を製造するための方法も提供する。
【0028】
ニトリルゴム:
本発明によるニトリルゴムは、0.25mg/(kg*ムーニー単位)以下、好ましくは0.22mg/(kg*ムーニー単位)以下、より好ましくは0.20mg/(kg*ムーニー単位)以下の一般式(I)
【数3】
[式中、
[揮発性成分]は、VDA推奨規格278(09/2002版)に従ったTDS GC−MS分析法において28.4分〜34.0分の間で求めた、ニトリルゴムの揮発性成分濃度(単位:mg/kg)であり、
[ムーニー粘度]は、ASTM D 1646に従って求めた、100℃におけるニトリルゴムのムーニー粘度ML1+4(ムーニー単位)であり、
[ニトリル含量]は、DIN 53 625に従ってKjeldahl法により求めた、ニトリルゴム中のα,β−不飽和ニトリル含量(単位:重量%)である]
による放散指数Eを有する。
【0029】
ニトリル含量は、一般式(I)においては無次元数として与えられるが(あるいは「正規化された」と表現される)が、このことは、一般式(I)においては、「重量%」という単位が考慮されていないということを意味している。
【0030】
理解しやすいように言えば、これは次のことを意味している:したがって、本発明は、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルモノマーと少なくとも1種の共役ジエンモノマーとの繰り返し単位を含み、0.25mg/(kg*ムーニー単位)以下の一般式(I)
【数4】
[式中、
[揮発性成分]は、VDA推奨規格278(09/2002版)に従ったTDS GC−MS分析法において28.4分〜34.0分の間で求めた、ニトリルゴムの揮発性成分濃度(単位:mg/kg)であり、
[ムーニー粘度]は、ASTM D 1646に従って求めた、100℃におけるニトリルゴムのムーニー粘度ML1+4(ムーニー単位)であり、
[ニトリル含量]は、ニトリルゴムにおける無次元のα,β−不飽和ニトリル含量であり、そのような含量は、DIN 53 625に従ってKjeldahl法により重量%の単位で求められる]
による放散指数Eを有するニトリルゴムを提供する。
【0031】
VDA推奨規格278(09/2002版)に従ったTDS GC−MS分析法において28.4分〜34.0分の間で求めた濃度を有する揮発性成分は、典型的には、使用した分子量調節剤の揮発性成分である。
【0032】
ASTM D 1646に従うニトリルゴムのムーニー粘度(100℃におけるML1+4)の測定は、典型的には、カレンダー加工をしていない本発明によるニトリルゴムについて実施する。
【0033】
特定の分子量調節剤を使用せずに重合したり、用いられたモノマーの合計を基準にして少なくとも60%までの転化率にならないように重合したりしたニトリルゴムは、明らかに劣った放散特性を有している。本発明によるニトリルゴムを使用して製造した加硫物は、もはや、関連した用途、たとえば床仕上材において、悪臭の問題は一切示さない。本発明によるニトリルゴムは、それと同時に、優れた加硫特性を特徴としている。
【0034】
本発明によるニトリルゴムには、少なくとも1種のα,β−不飽和ニトリルモノマーおよび少なくとも1種の共役ジエンモノマーの繰り返し単位が含まれる。本発明によるニトリルゴムにはさらに、1種または複数のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位が含まれていてもよい。
【0035】
少なくとも1種の共役ジエンの繰り返し単位が、(C〜C)共役ジエンまたはそれらの混合物に由来しているのが好ましい。特に好ましいのは、1,2−ブタジエン、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチルブタジエン、ピペリレン、およびそれらの混合物である。特に好ましいのは、1,3−ブタジエン、イソプレンおよびそれらの混合物である。極めて特に好ましいのは1,3−ブタジエンである。
【0036】
本発明のニトリルゴムを製造するために使用されるα,β−不飽和ニトリルは、各種公知のα,β−不飽和ニトリルであってよいが、(C〜C)α,β−不飽和ニトリル、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリルまたはそれらの混合物が好ましい。アクリロニトリルが特に好ましい。
【0037】
1種または複数のさらなる共重合性モノマーを使用する場合には、それらはたとえば以下のものであってよい:芳香族ビニルモノマー、好ましくはスチレン、α−メチルスチレンおよびビニルピリジン、フッ素化ビニルモノマー、好ましくはフルオロエチルビニルエーテル、フルオロプロピルビニルエーテル、o−フルオロメチルスチレン、ペンタフルオロ安息香酸ビニル、ジフルオロエチレンおよびテトラフルオロエチレン、あるいはそうでなければ、共重合性の老化防止性モノマー、好ましくはN−(4−アニリノフェニル)アクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)メタクリルアミド、N−(4−アニリノフェニル)シンナミド、N−(4−アニリノフェニル)クロトンアミド、N−フェニル−4−(3−ビニルベンジルオキシ)アニリン、およびN−フェニル−4−(4−ビニルベンジルオキシ)アニリン、ならびにさらに非共役ジエン、たとえば4−シアノシクロヘキセンおよび4−ビニルシクロヘキセン、またはそうでなければ、アルキン、たとえば1−ブチンまたは2−ブチン。
【0038】
さらに、使用される共重合性ターモノマーは、ヒドロキシル基を含むモノマー、好ましくは(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルとすることもできる。しかしながら、それに相当する置換された(メタ)アクリルアミンを使用することもまた可能である。
【0039】
有用なアクリル酸ヒドロキシアルキルモノマーとしては以下のものが挙げられる:(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−フェノキシ−2−ヒドロキシプロピル、モノ(メタ)アクリル酸グリセリル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシオクチル、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、イタコン酸ジ(エチレングリコール)、イタコン酸ジ(プロピレングリコール)、イタコン酸ビス(2−ヒドロキシプロピル)、イタコン酸ビス(2−ヒドロキシエチル)、フマル酸ビス(2−ヒドロキシエチル)、マレイン酸ビス(2−ヒドロキシエチル)、およびヒドロキシメチルビニルケトン。
【0040】
さらに、使用される共重合性ターモノマーは、エポキシ基を含むモノマー、好ましくは(メタ)アクリル酸グリシジルとすることもできる。
【0041】
エポキシ基を含むモノマーの例としては、以下のものが挙げられる:イタコン酸ジグリシジル、p−スチレンカルボン酸グリシジル、アクリル酸2−エチルグリシジル、メタクリル酸2−エチルグリシジル、アクリル酸2−(n−プロピル)グリシジル、メタクリル酸2−(n−プロピル)グリシジル、アクリル酸2−(n−ブチル)グリシジル、メタクリル酸2−(n−ブチル)グリシジル、アクリル酸グリシジルメチル、メタクリル酸グリシジルメチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸(3’,4’−エポキシヘプチル)−2−エチル、メタクリル酸(3’,4’−エポキシヘプチル)−2−エチル、アクリル酸6’,7’−エポキシヘプチル、メタクリル酸6’,7’−エポキシヘプチル、アリルグリシジルエーテル、アリル3,4−エポキシヘプチルエーテル、6,7−エポキシヘプチルアリルエーテル、ビニルグリシジルエーテル、ビニル3,4−エポキシヘプチルエーテル、3,4−エポキシヘプチルビニルエーテル、6,7−エポキシヘプチルビニルエーテル、o−ビニルベンジルグリシジルエーテル、m−ビニルベンジルグリシジルエーテル、p−ビニルベンジルグリシジルエーテル、3−ビニルシクロヘキセンオキシド。
【0042】
それらに代わるものとして、さらなる共重合性モノマーは、以下のものであってよい:カルボキシル基を含む共重合性ターモノマー、たとえばα,β−不飽和モノカルボン酸、それらのエステル、α,β−不飽和ジカルボン酸、それらのモノエステルもしくはジエステル、それらに対応する酸無水物、またはそれらのアミド。
【0043】
使用されるα,β−不飽和モノカルボン酸は、好ましくは、アクリル酸およびメタクリル酸であってよい。
【0044】
α,β−不飽和モノカルボン酸のエステル、好ましくはそれらのアルキルエステルおよびアルコキシアルキルエステルを使用することもまた可能である。α,β−不飽和モノカルボン酸のアルキルエステル、特にC〜C18アルキルエステルが好ましく、特に好ましいのは、アクリル酸もしくはメタクリル酸のアルキルエステル、特にC〜C18アルキルエステル、特にはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸tert−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−ドデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、およびメタクリル酸2−エチルヘキシルである。さらに、好ましいのは、α,β−不飽和モノカルボン酸のアルコキシアルキルエステル、特に好ましいのは、アクリル酸もしくはメタクリル酸のアルコキシアルキルエステル、特にアクリル酸もしくはメタクリル酸のC〜C12−アルコキシアルキルエステル、極めて特に好ましいのは、アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸メトキシエチルである。アルキルエステルたとえば上に挙げたものと、アルコキシアルキルエステルたとえば上に挙げた形態のものとの混合物を使用することも可能である。シアノアルキル基中の炭素原子の数が2〜12個のアクリル酸シアノアルキルおよびメタクリル酸シアノアルキル、好ましくはアクリル酸α−シアノエチル、アクリル酸β−シアノエチル、およびメタクリル酸シアノブチルもまた使用することもまた可能である。その中のヒドロキシアルキル基の炭素原子の数が1〜12であるアクリル酸ヒドロキシアルキルおよびメタクリル酸ヒドロキシアルキルを使用することも可能であり、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、およびアクリル酸3−ヒドロキシプロピルが好ましいが、さらには、フッ素置換されたベンジル基を含むアクリル酸エステルもしくはメタクリル酸エステル、好ましくはアクリル酸フルオロベンジルおよびメタクリル酸フルオロベンジルを使用することも可能である。フルオロアルキル基を含むアクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステル、好ましくはアクリル酸トリフルオロエチルおよびメタクリル酸テトラフルオロプロピルを使用することもまた可能である。アミノ基含有のα,β−不飽和カルボン酸エステル、たとえばアクリル酸ジメチルアミノメチルおよびアクリル酸ジエチルアミノエチルを使用することもまた可能である。
【0045】
さらなる共重合性モノマーとしては、α,β−不飽和ジカルボン酸、好ましくはマレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、およびメサコン酸を使用することもさらに可能である。
【0046】
α,β−不飽和ジカルボン酸無水物、好ましくは無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、および無水メサコン酸を使用することもさらに可能である。
【0047】
さらに、α,β−不飽和ジカルボン酸のモノエステルまたはジエステルを使用することも可能である。
【0048】
これらのα,β−不飽和ジカルボン酸のモノエステルまたはジエステルは、たとえば、アルキル、好ましくはC〜C10−アルキル、特にはエチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチルまたはn−ヘキシル、アルコキシアルキル、好ましくはC〜C12−アルコキシアルキル、より好ましくはC〜C−アルコキシアルキル、ヒドロキシアルキル、好ましくはC〜C12−ヒドロキシアルキル、より好ましくはC〜C−ヒドロキシアルキル、シクロアルキル、好ましくはC〜C12−シクロアルキル、より好ましくはC〜C12−シクロアルキル、アルキルシクロアルキル、好ましくはC〜C12−アルキルシクロアルキル、より好ましくはC〜C10−アルキルシクロアルキル、アリール、好ましくはC〜C14−アリール、のモノエステルまたはジエステルであってよく、ここでいかなるジエステルも、混合エステルであってもよい。
【0049】
特に好ましいα,β−不飽和モノカルボン酸のアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、アクリル酸2−プロピルヘプチル、および(メタ)アクリル酸ラウリルである。特に、アクリル酸n−ブチルが使用される。
【0050】
特に好ましいα,β−不飽和モノカルボン酸のアルコキシアルキルエステルは、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、および(メタ)アクリル酸メトキシエチルである。特に、アクリル酸メトキシエチルが使用される。
【0051】
使用されるその他のα,β−不飽和モノカルボン酸としては、さらに以下のものが挙げられる:たとえばポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、N−(2−ヒドロキシエチル)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシメチル)アクリルアミド、およびウレタン(メタ)アクリレート。
【0052】
α,β−不飽和ジカルボン酸モノエステルの例には、以下のものが挙げられる:
・ マレイン酸モノアルキル、好ましくはマレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノプロピル、およびマレイン酸モノ−n−ブチル;
・ マレイン酸モノシクロアルキル、好ましくはマレイン酸モノシクロペンチル、マレイン酸モノシクロヘキシル、およびマレイン酸モノシクロヘプチル;
・ マレイン酸モノアルキルシクロアルキル、好ましくはマレイン酸モノメチルシクロペンチル、およびマレイン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ マレイン酸モノアリール、好ましくはマレイン酸モノフェニル;
・ マレイン酸モノベンジル類、好ましくはマレイン酸モノベンジル;
・ フマル酸モノアルキル、好ましくはフマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノプロピル、およびフマル酸モノ−n−ブチル;
・ フマル酸モノシクロアルキル、好ましくはフマル酸モノシクロペンチル、フマル酸モノシクロヘキシル、およびフマル酸モノシクロヘプチル;
・ フマル酸モノアルキルシクロアルキル、好ましくはフマル酸モノメチルシクロペンチル、およびフマル酸モノエチルシクロヘキシル;
・ フマル酸モノアリール、好ましくはフマル酸モノフェニル;
・ フマル酸モノベンジル類、好ましくはフマル酸モノベンジル;
・ シトラコン酸モノアルキル、好ましくはシトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、シトラコン酸モノプロピル、およびシトラコン酸モノ−n−ブチル;
・ シトラコン酸モノシクロアルキル、好ましくはシトラコン酸モノシクロペンチル、シトラコン酸モノシクロヘキシル、およびシトラコン酸モノシクロヘプチル;
・ シトラコン酸モノアルキルシクロアルキル、好ましくはシトラコン酸モノメチルシクロペンチル、およびシトラコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ シトラコン酸モノアリール、好ましくはシトラコン酸モノフェニル;
・ シトラコン酸モノベンジル類、好ましくはシトラコン酸モノベンジル;
・ イタコン酸モノアルキル、好ましくはイタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノプロピル、およびイタコン酸モノ−n−ブチル;
・ イタコン酸モノシクロアルキル、好ましくはイタコン酸モノシクロペンチル、イタコン酸モノシクロヘキシル、およびイタコン酸モノシクロヘプチル;
・ イタコン酸モノアルキルシクロアルキル、好ましくはイタコン酸モノメチルシクロペンチル、およびイタコン酸モノエチルシクロヘキシル;
・ イタコン酸モノアリール、好ましくはイタコン酸モノフェニル;
・ イタコン酸モノベンジル類、好ましくはイタコン酸モノベンジル;
・ メサコン酸モノアルキル、好ましくはメサコン酸モノエチル。
【0053】
使用されるα,β−不飽和ジカルボン酸ジエステルも、先に挙げたモノエステル基に基づいた類似のジエステルであってよいが、それらのエステル基が化学的に異なった基であってもよい。
【0054】
有用なさらなる共重合性モノマーとしてはさらに、一分子あたり少なくとも2個のオレフィン性二重結合を含むフリーラジカル重合性化合物も挙げられる。ポリ不飽和化合物の例としては、以下のものが挙げられる:ポリオールのアクリレート、メタクリレート、およびイタコネートであって、たとえば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ブタン−1,4−ジオールジアクリレート、プロパン−1,2−ジオールジアクリレート、ブタン−1,3−ジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、グリセリルのジ−およびトリ−アクリレート、ペンタエリスリチルのジ−、トリ−およびテトラ−アクリレートおよび−メタクリレート、ジペンタエリスリチルのテトラ−、ペンタ−およびヘキサ−アクリレートおよび−メタクリレートおよび−イタコネート、ソルビチルテトラアクリレート、ソルビチルヘキサメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−ジメチロールシクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリエチレングリコールの、または末端ヒドロキシル基を有するオリゴエステルおよびオリゴウレタンのジアクリレートおよびジメタクリレート。使用されるポリ不飽和モノマーはさらに、アクリルアミド、たとえばメチレンビスアクリルアミド、ヘキサメチレン−1,6−ビスアクリルアミド、ジエチレントリアミントリスメタクリルアミド、ビス(メタクリルアミドプロポキシ)エタン、またはアクリル酸2−アクリルアミドエチルであってもよい。ポリ不飽和ビニルおよびアリル化合物の例としては以下のものが挙げられる:ジビニルベンゼン、エチレングリコールジビニルエーテル、フタル酸ジアリル、メタクリル酸アリル、マレイン酸ジアリル、トリアリルイソシアヌレート、およびリン酸トリアリル。
【0055】
本発明によるニトリルゴム中における共役ジエンとα,β−不飽和ニトリルとの比率は、広い限界内で変化させることができる。共役ジエンの比率、または複数の共役ジエンを合計した比率は、ポリマー全体を基準にして、典型的には20重量%〜95重量%の範囲、好ましくは45重量%〜90重量%の範囲、より好ましくは50重量%〜85重量%の範囲である。α,β−不飽和ニトリルの比率を合計した比率は、ポリマー全体を基準にして、典型的には5重量%〜80重量%、好ましくは10重量%〜55重量%、より好ましくは15重量%〜50重量%である。それぞれの場合において、本発明によるニトリルゴムにおける共役ジエンおよびα,β−不飽和ニトリルの繰り返し単位は、合計して100重量%である。
【0056】
さらなるモノマーは、ポリマー全体を基準にして、0重量%〜40重量%、好ましくは0重量%〜30重量%、より好ましくは0重量%〜26重量%の量で存在させることができる。この場合、共役ジエンの繰り返し単位および/またはα,β−不飽和ニトリルの繰り返し単位の相当する比率を、これらのさらなるモノマーの比率で置きかえて、それぞれの場合において、全部のモノマーの繰り返し単位の比率が合計して100重量%になるようにしなければならない。
【0057】
さらなるモノマーとして(メタ)アクリル酸のエステルを使用する場合には、それらは典型的には1重量%〜25重量%の量で存在させる。さらなるモノマーとしてα,β−不飽和モノカルボン酸もしくはジカルボン酸を使用する場合には、それらは典型的には、10重量%未満の量で存在させる。
【0058】
本発明のニトリルゴムにおける窒素含量は、DIN 53 625に従ってKjeldahl法により求める。極性のコモノマーが含まれているために、そのニトリルゴムは、典型的には、20℃のメチルエチルケトン中に85重量%以上の量で溶解することができる。
【0059】
それらのニトリルゴムは、100℃において、10〜150ムーニー単位(MU)、好ましくは20〜100MUのムーニー粘度ML1+4を有する。
【0060】
そのニトリルゴムのガラス転移温度は、−70℃〜+10℃の範囲、好ましくは−60℃〜0℃の範囲である。
【0061】
好ましいのは、アクリロニトリル、および1,3−ブタジエンの繰り返し単位を含む本発明によるニトリルゴムである。さらに好ましいのは、アクリロニトリル、1,3−ブタジエン、および1種または複数のさらなる共重合性モノマーの繰り返し単位を含むニトリルゴムである。アクリロニトリルと、1,3−ブタジエンと、1種または複数のα,β−不飽和モノカルボン酸もしくはジカルボン酸、またはそれらのエステルまたはアミドの繰り返し単位、特にα,β−不飽和カルボン酸のアルキルエステルの繰り返し単位、極めて特に好ましくは(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチルまたは(メタ)アクリル酸ラウリルとの繰り返し単位を有するニトリルゴムが好ましい。
【0062】
ニトリルゴムを製造するための方法:
それらのニトリルゴムを、本発明による方法における乳化重合によって製造する。
【0063】
分子量調節剤:
本発明によるニトリルゴムを製造するための方法を、分子量調節剤としてのtert−ノニルメルカプタンの存在下に実施することが、本質的に重要である。これは、たとえば、以下のものであってよい:
a)少なくとも95重量%、好ましくは少なくとも97重量%の純度のtert−ノニルメルカプタン、または
b)少なくとも50重量%であるが95重量%を超えないtert−ノニルメルカプタンと、さらに1種または複数のさらなる異性体のノニルメルカプタンおよび/または1種または複数のさらなるC10〜C16アルキルチオールとを含む混合物。
【0064】
tert−ノニルメルカプタンa)(CAS No.25360−10−5)は、たとえばSigma Aldrichから少なくとも97重量%の純度で、またはChevron Phillipsから製品Sulfol(登録商標)90(少なくとも純度97重量%)として、または各種の化学品メーカーから市販されている。
【0065】
少なくとも50重量%であるが95重量%を超えないtert−ノニルメルカプタンと、さらに1種または複数のさらなる異性体のノニルメルカプタンおよび/または1種または複数のさらなるC12〜C16アルキルチオールとを含む混合物も同様にして、たとえばAtofinaからのメルカプタン175(tert−ノニルメルカプタン含量:65重量%、およびドデシルメルカプタン含量:35重量%)、またはChevron PhillipsからのSulfol(登録商標)100として、市販されている。
【0066】
重合において使用される分子量調節剤は、モノマー混合物100重量部を基準にして典型的には0.05〜3重量部、好ましくは0.1〜1.5重量部の量で使用される。当業者ならば、簡単な手作業の実験で、適切な量を決めることができる。
【0067】
分子量調節剤または分子量調節剤混合物の計量添加は、重合の開始時のみか、あるいは、開始時に加えて重合の過程で分割して実施する。バッチプロセスにおいては、典型的には、分子量調節剤または分子量調節剤の混合物の全量を最初に添加し、そのプロセスが連続法で実施される場合には、漸増的添加が有利であることがわかっている。次いで、分子量調節剤または調節剤混合物を、典型的には少なくとも2段の工程で添加するが、2段、3段またはそれ以上の工程で添加することも可能である。全重合時間全体にわたって連続的に添加することも可能である。分子量調節剤または分子量調節剤混合物を2段の工程で添加するのが特に好ましい。2段の工程で計量添加するためには、重合の開始に先だって、調節剤/調節剤混合物の全量を基準にして、5重量%〜65重量%、好ましくは10重量%〜65重量%の量の調節剤/調節剤混合物を最初に添加し、用いられたモノマーの全量を基準にして5%〜80%、好ましくは10%〜55%の転化率のところで、残りの量の調節剤/調節剤混合物を後から計量添加する(subsequent metered addition)のが有利であることが判明した。3段の工程および多段の工程で計量添加するためには、適切な予備的な実験で、分子量調節剤の最も好ましい量と最も好ましい添加時間を求めることが推奨される。
【0068】
分子量調節剤は、その機能に関連して、ニトリルゴムの中に末端基の形態で、ある程度は見いだされる、すなわち、ニトリルゴムには、対応するアルキルチオ末端基がある程度の量で含まれている。
【0069】
乳化剤:
使用される乳化剤は、アニオン性乳化剤、またはそうでなければ電荷を有さない乳化剤の水溶性の塩であってよい。アニオン性乳化剤を使用するのが好ましい。
【0070】
使用されるアニオン性乳化剤は、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、パルストリン酸、レボピマル酸を含む樹脂酸混合物を二量化、不均化、水素化、および変性することによって得られる、変性樹脂酸であってよい。特に好ましい変性樹脂酸は、不均化樹脂酸である(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,6th edition,volume 31,p.345〜355)。使用されるアニオン性乳化剤が、脂肪酸であってもよい。それらには、1分子あたり6〜22個の炭素原子を含む。それらは完全に飽和であってもよいし、分子の中に1個または複数の二重結合を含んでいてもよい。脂肪酸の例としては、カプロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸が挙げられる。それらのカルボン酸は、典型的には、由来のはっきりした油脂、たとえばヒマシ油、綿実油、ラッカセイ油、アマニ油、ココナッツ脂、パーム核油、オリーブ油、ナタネ油、ダイズ油、魚油、および牛脂などをベースにしている(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,6th edition,volume 13,p.75〜108)。好ましいカルボン酸は、ココナッツ脂肪酸および牛脂に由来するもので、部分的または全面的に水素化されている。
【0071】
変性された樹脂酸または脂肪酸をベースとするそのようなカルボン酸は、リチウム、ナトリウム、カリウム、およびアンモニウムの水溶性の塩の形態で使用される。ナトリウム塩およびカリウム塩が好ましい。
【0072】
アニオン性乳化剤は、さらに、有機基に結合されたスルホン酸塩、硫酸塩、およびリン酸塩である。有用な有機基は、脂肪族、芳香族、アルキル化芳香族系、縮合芳香族系、およびメチレンで橋かけされた芳香族の系であるが、そのメチレンで橋かけされた系および縮合芳香族系は、さらにアルキル化されていてもよい。そのアルキル鎖の長さは、6〜25個の炭素原子である。芳香族系に結合されたアルキル鎖の長さは、3個〜12個の間の炭素原子である。
【0073】
硫酸塩、スルホン酸塩、およびリン酸塩は、リチウム、ナトリウム、カリウム、およびアンモニウムの塩の形態で使用される。ナトリウム、カリウム、およびアンモニウムの塩が好ましい。
【0074】
このタイプのスルホン酸塩、硫酸塩およびリン酸塩の例としては、以下のものが挙げられる:ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルアリールスルホン酸ナトリウム、メチレンで橋かけされたアリールスルホン酸のナトリウム塩、アルキル化ナフタレンスルホン酸のナトリウム塩、およびメチレンで橋かけされたナフタレンスルホン酸のナトリウム塩(これらは、オリゴマー化されていてもよく、そのオリゴマー化レベルは、2〜10の間である)。典型的には、アルキル化ナフタレンスルホン酸およびメチレンで橋かけされた(そして場合によってはアルキル化された)ナフタレンスルホン酸は、異性体混合物の形態になっていて、それは、一分子中に1個を超えるスルホン酸基(2〜3個のスルホン酸基)を含むことができる。特に好ましいのは、以下のものである:ラウリル硫酸ナトリウム、12〜18個の炭素原子を有するアルキルスルホン酸ナトリウム混合物、アルキルアリールスルホン酸ナトリウム、ジイソブチレンナフタレンスルホン酸ナトリウム、メチレンで橋かけされたポリナフタレンスルホン酸塩の混合物、およびメチレンで橋かけされたアリールスルホン酸塩の混合物。
【0075】
電荷を有さない乳化剤は、酸性度が十分に高い水素を有する化合物の上への、エチレンオキシドの付加反応生成物およびプロピレンオキシドの付加反応生成物から誘導される。そのような化合物としては、たとえば、フェノール、アルキル化フェノールおよびアルキル化アミンが挙げられる。エポキシドの平均重合レベルは、2〜20の間である。電荷を有さない乳化剤の例は、8、10および12個のエチレンオキシド単位を有するエトキシル化ノニルフェノールである。電荷を有さない乳化剤は、典型的には、単独で使用されることはなく、それよりはアニオン性乳化剤と組み合わせて使用される。
【0076】
好ましいのは以下のものである:不均化アビエチン酸および部分水素化獣脂脂肪酸およびそれらの混合物のナトリウムおよびカリウム塩、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ならびにアルキル化およびメチレンで橋かけされたナフタレンスルホン酸。
【0077】
乳化剤は、モノマー混合物100重量部を基準にして、0.2〜15重量部、好ましくは0.5〜12.5重量部、より好ましくは1.0〜10重量部の量で使用される。
【0078】
上述の乳化剤を使用して乳化重合を実施する。重合が完了したときに、ある種の不安定性要素があると、早々と自己コアグレート化する傾向を有するラテックスが得られるが、前記乳化剤は、ラテックスの後安定化にも使用することができる。このことは、水蒸気を用いて処理することによって未転化のモノマーを除去する前、およびラテックスを貯蔵するより前に特に必要となる。
【0079】
重合開始剤:
乳化重合は、典型的には、重合開始剤を用いて開始されるが、重合開始剤が分解してフリーラジカルになる。そのようなものとしては、−O−O−単位を含む化合物(ペルオキソ化合物)または−N≡N−単位を含む化合物(アゾ化合物)が挙げられる。
【0080】
ペルオキソ化合物としては、過酸化水素、ペルオキソ二硫酸塩、ペルオキソ二リン酸塩、ヒドロペルオキシド、過酸、過エステル、過酸無水物、および2個の有機基を有するペルオキシドが挙げられる。ペルオキソ二硫酸およびペルオキソ二リン酸の有用な塩は、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム塩である。有用なヒドロペルオキシドは、たとえば、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、およびp−メンタンヒドロペルオキシドである。2個の有機基を有する有用なペルオキシドは、ジベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t−ブチルペルベンゾエート、t−ブチルペルアセテートなどである。有用なアゾ化合物は、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリル、およびアゾビスシクロヘキサンニトリルである。
【0081】
過酸化水素、ヒドロペルオキシド、過酸、過エステル、ペルオキソ二硫酸塩およびペルオキソ二リン酸塩は、還元剤と組み合わせても使用される。有用な還元剤は、スルフェン酸塩、スルフィン酸塩、スルホキシル酸塩、ジチオナイト、亜硫酸塩、メタ重亜硫酸塩、二亜硫酸塩、糖、尿素、チオ尿素、キサントゲン酸塩、チオキサントゲン酸塩、ヒドラジニウム塩、アミンおよびアミン誘導体たとえば、アニリン、ジメチルアニリン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンまたはトリエタノールアミンである。酸化剤と還元剤とからなる重合開始剤系はレドックス系として知られている。レドックス系を使用する場合には、遷移金属化合物たとえば鉄、コバルトまたはニッケルの塩をさらに、適切な錯化剤たとえば、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ニトリロ三酢酸ナトリウムおよびリン酸三ナトリウムまたは二リン酸四カリウムと組み合わせて使用されることも多い。
【0082】
好適なレドックス系としては、たとえば以下のものが挙げられる:
1)ペルオキシ二硫酸カリウムとトリエタノールアミンとの組合せ、
2)ペルオキシ二リン酸アンモニウムとメタ重亜硫酸ナトリウム(Na)との組合せ、
3)p−メタンヒドロペルオキシド/ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムと、硫酸鉄(II)(FeSO・7HO)、エチレンジアミノ酢酸ナトリウムおよびリン酸三ナトリウムとの組合せ、
4)クメンヒドロペルオキシド/ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムと、硫酸鉄(II)(FeSO・7HO)、エチレンジアミノ酢酸ナトリウムおよび二リン酸四カリウムとの組合せ、
5)ピナンヒドロペルオキシド/ホルムアルデヒドスルホキシル酸ナトリウムと、硫酸鉄(II)(FeSO・7HO)、エチレンジアミノ酢酸ナトリウムおよびリン酸三ナトリウムとの組合せ。
【0083】
酸化剤の量は、100重量部のモノマーを基準にして、0.001〜1重量部である。還元剤のモル量は、用いられる酸化剤のモル量を基準にして、50%〜500%の間である。
【0084】
錯化剤のモル量は、用いられた遷移金属の量を基準にするが、典型的には、それと当モルである。
【0085】
重合を実施するためには、重合開始剤系の全部または個々の成分を、重合の開始時か、または重合の途中で計量添加する。
【0086】
重合の間に、活性化剤系の全部および個々の成分を、分割して添加するのが好ましい。順次添加を使用することによって、反応速度を調節することができる。
【0087】
重合時間は、5時間〜15時間の範囲であるが、モノマー混合物のアクリロニトリル含量と重合温度とに実質的に依存する。
【0088】
重合温度は、0〜30℃の範囲、好ましくは5〜25℃の範囲である。
【0089】
本発明によるニトリルゴムを得るためには、その重合を、用いられたモノマー混合物を基準にして、少なくとも60%の転化率になるまで実施するということが、本質的に重要である。重合は、転化率が、好ましくは60%〜98%、より好ましくは62%〜95%、特には65%〜95%の範囲になるまで実施する。この転化率に到達したら、その重合を停止させる。
【0090】
この目的のためには、反応混合物に停止剤を添加する。この目的に有用なのは、たとえば、以下のものである:ジメチルジチオカルバメート、亜硝酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバメートと亜硝酸ナトリウムとの混合物、ヒドラジンおよびヒドロキシルアミンおよびそれらに由来する塩、たとえば硫酸ヒドラジニウム、および硫酸ヒドロキシルアンモニウム、ジエチルヒドロキシルアミン、ジイソプロピルヒドロキシルアミン、ヒドロキノンの水溶性の塩、亜ジチオン酸ナトリウム、フェニル−α−ナフチルアミン、および芳香族フェノールたとえばtert−ブチルカテコール、またはフェノチアジン。
【0091】
乳化重合において用いる水の量は、モノマー混合物100重量部を基準にして、100〜900重量部の範囲、好ましくは120〜500重量部の範囲、より好ましくは150〜400重量部の範囲の水である。
【0092】
乳化重合の途中に、重合の際の粘度の低下のため、pH調整のため、およびpH緩衝剤として、水相に塩を添加することもできる。典型的な塩は、水酸化カリウムおよび水酸化ナトリウムの形態の一価の金属の塩、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、および塩化カリウムである。水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムおよび塩化カリウムが好ましい。それらの電解質の量は、モノマー混合物100重量部を基準にして、0〜1重量部、好ましくは0〜0.5重量部の範囲である。
【0093】
重合はバッチ式で実施することもできるし、あるいはそうでなければ、撹拌タンクのカスケードで連続的に実施することもできる。
【0094】
重合がスムーズに進行するようにするには、重合の開始時には、その重合開始剤系の幾分かだけを用い、残りは、重合をさせている間に後から計量仕込みする。重合は、典型的には、重合開始剤の全量の10〜80重量%、好ましくは30〜50重量%を使用して開始させる。重合開始剤系の個々の構成成分を後から計量仕込みすることもまた可能である。
【0095】
化学的に均質な製品を製造することを目的としているのならば、その組成がブタジエン/アクリロニトリルの共沸比から外れるようにする場合には、アクリロニトリルまたはブタジエンを後から計量仕込みする。10重量%〜34重量%のアクリロニトリル含量を有するNBRのタイプの場合、および40重量%〜50重量%のアクリロニトリルを有するタイプの場合には、後からの計量仕込みが好ましい(W.Hofmann,“Nitilkautschuk”[“Nitrile rubber”],Berliner Union,Stuttgart,1965,p.58〜66)。後からの計量仕込みは、好ましくは、たとえば旧東独国特許第154 702号明細書に記載されているように、コンピュータプログラムに基づいたコンピュータ制御で実施する。
【0096】
未転化のモノマーを除去するために、「反応停止させた(stopped)」ラテックスを水蒸気蒸留にかけることができる。この場合においては、70℃〜150℃の範囲の温度を使用し、温度を100℃未満とするために、圧力を下げる。水蒸気蒸留より前に、乳化剤を用いたラテックスの後安定化を実施することもできる。この目的のためには、本明細書において先に挙げた乳化剤を、100重量部のニトリルゴムを基準にして、0.1重量%〜2.5重量%、好ましくは0.5重量%〜2.0重量%の量で使用するのが有利である。
【0097】
ラテックスのコアグレーション:
ラテックスのコアグレーションの前またはその途中で、ラテックスに1種または複数の老化安定剤を添加することができる。この目的のためには、フェノール系、アミン系、さらにはその他の老化安定剤が適している。
【0098】
有用なフェノール系老化安定剤としては、以下のものが挙げられる:アルキル化フェノール、スチレン化フェノール、立体障害フェノールたとえば、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、エステル基を含む立体障害フェノール、チオエーテル基を含む立体障害フェノール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(BPH)、および立体障害チオビスフェノール。
【0099】
ゴムの変色がさほど重要ではない場合には、アミン系の老化安定剤たとえば、ジアリール−p−フェニレンジアミン(DTPD)の混合物、オクチル化ジフェニルアミン(ODPA)、フェニル−α−ナフチルアミン(PAN)、フェニル−β−ナフチルアミン(PBN)、好ましくはフェニレンジアミンをベースとしたものが使用される。フェニレンジアミンの例としては、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,3−ジメチルブチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、N−1,4−ジメチルペンチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(7PPD)、N,N’−ビス−1,4−(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン(77PD)などが挙げられる。
【0100】
その他の老化安定剤としては、ホスファイトたとえばトリス(ノニルフェニル)ホスファイト、重合させた2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン(TMQ)、2−メルカプトベンズイミダゾール(MBI)、メチル−2−メルカプトベンズイミダゾール(MMBI)、亜鉛メチルメルカプトベンズイミダゾール(ZMMBI)などが挙げられる。多くの場合、フェノール系老化安定剤と組み合わせた形で、ホスファイトが使用される。ペルオキシドを用いて加硫されるNBRのタイプでは主として、TMQ、MBI、およびMMBIが使用される。
【0101】
コアグレーションのためには、ラテックスを、塩基、好ましくはアンモニアもしくは水酸化ナトリウムもしくは水酸化カリウム、または酸、好ましくは硫酸もしくは酢酸を添加することによって、当業者には公知のpHに調節する。
【0102】
その方法の一つの実施態様においては、アルミニウム、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、およびリチウムの塩からなる群より選択される少なくとも1種の塩を使用してコアグレーションを実施する。それらの塩のアニオンとしては、典型的には、一価または二価のアニオンが使用される。ハロゲン化物が好ましく、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸水素塩、炭酸塩、ギ酸塩、および酢酸塩が特に好ましい。
【0103】
有用なのは、たとえば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸アルミニウムカリウム(カリウムミョウバン)、硫酸アルミニウムナトリウム(ナトリウムミョウバン)、酢酸ナトリウム、酢酸カルシウム、およびギ酸カルシウムである。ラテックスのコアグレーションのために水溶性のカルシウム塩を使用する場合には、塩化カルシウムが好ましい。
【0104】
塩は、ラテックス分散体の固形分含量を基準にして、0.05重量%〜10重量%、好ましくは0.5重量%〜8重量%、より好ましくは1重量%〜5重量%の量で添加する。
【0105】
本明細書で先に定義された群からの少なくとも1種の塩に加えて、コアグレーションにおいて沈殿剤を使用してもよい。有用な沈殿剤は、たとえば水溶性ポリマーである。それらは、ノニオン性、アニオン性、またはカチオン性である。
【0106】
ノニオン性ポリマー沈殿剤の例としては、変性セルロースたとえば、ヒドロキシアルキルセルロースまたはメチルセルロース、および酸性水素を含む化合物の上へのエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドのアダクト物が挙げられる。酸性水素を含む化合物の例としては、以下のものが挙げられる:脂肪酸、糖たとえばソルビトール、脂肪酸のモノグリセリドおよびジグリセリド、フェノール、アルキル化フェノール、(アルキル)フェノール−ホルムアルデヒド縮合物など。それらの化合物の上へのエチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの付加反応生成物は、ランダム構造であっても、ブロック構造であってもよい。これらの内でも、温度が高くなるほど溶解性が低くなるものが好ましい。特性的曇り点は、0〜100℃の範囲、好ましくは20〜70℃の範囲である。
【0107】
アニオン性ポリマー沈殿剤の例は、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸などのホモポリマーおよびコポリマーである。ポリアクリル酸のナトリウム塩が好ましい。
【0108】
カチオン性ポリマー沈殿剤は、典型的には、ポリアミンならびに(メタ)アクリルアミドのホモポリマーおよびコポリマーをベースとしている。好ましいのは、ポリメタクリルアミドおよびポリアミン、特にエピクロロヒドリンおよびジメチルアミンをベースとするものである。ポリマー沈殿剤の量は、ニトリルゴム100重量部に対して、0.01〜5重量部、好ましくは0.05〜2.5重量部である。
【0109】
他の沈殿剤を使用することもまた考えられる。しかしながら、さらなる沈殿剤が存在していなくても、本発明におけるプロセスを何の問題も無く実施することは可能である。
【0110】
コアグレーションのために使用するラテックスが、重量で1%〜40%の範囲、好ましくは5%〜35%の範囲、より好ましくは15%〜30%の範囲の固形分濃度を有しているのが有利である。
【0111】
ラテックスのコアグレーションは、10〜110℃、好ましくは20〜100℃、より好ましくは50〜98℃の温度範囲で実施する。ラテックスのコアグレーションは、連続式でもバッチ式でも実施することができるが、連続式が好ましい。
【0112】
また別の実施態様においては、典型的には未転化モノマーを分離した後のラテックスを、酸を用いて6以下、好ましくは4以下の範囲、より好ましくは2のpHで処理することも可能であり、それによって、ポリマーの沈殿分離が起きる。その沈殿のためには、選択したpH範囲を可能とするすべての鉱酸および有機酸を使用することができる。pHを調整するためには、鉱酸を使用するのが好ましい。次いで、当業者には通常の方法で、懸濁液からポリマーを分離する。これもまた、連続式でもバッチ式でも実施することができるが、連続式が好ましい。
【0113】
コアグレート化したニトリルゴムの洗浄および乾燥:
コアグレーションの後では、ニトリルゴムは、典型的には、クラム(crumb)として知られる形態になっている。したがって、コアグレート化NBRの洗浄は、クラム洗浄とも記述されている。この洗浄では、脱イオン水、非脱イオン水のいずれも使用可能である。洗浄は、15℃〜90℃の範囲の温度、好ましくは20℃〜80℃の範囲の温度で実施する。洗浄水の量は、ニトリルゴム100重量部を基準にして、0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部、より好ましくは1〜5重量部である。ゴムのクラムを多段の洗浄にかけ、個々の洗浄工程の間ではゴムクラムを部分的に脱水するのが好ましい。個々の洗浄工程の間でのクラムの残存水分は、5重量%〜50重量%の範囲、好ましくは7重量%〜25重量%の範囲である。洗浄工程の段数は、典型的には1〜7段、好ましくは1〜3段である。洗浄は、バッチ方式でも連続方式でも実施される。多段連続プロセスを使用するのが好ましく、また水の使用量を節約するために、向流洗浄が好ましい。洗浄が完了したら、ニトリルゴムクラムを脱水するのが有利であるということが明らかになった。予備脱水したニトリルゴムの乾燥は、乾燥機で実施するが、有用な乾燥機としては、たとえば移動床式乾燥機および多段乾燥機が挙げられる。乾燥温度は、80℃〜150℃である。温度プログラムを用いた乾燥が好ましく、その場合、乾燥プロセスの終わりに向けて、温度を下げていく。
【0114】
本発明はさらに、少なくとも1種の本発明によるニトリルゴムおよび少なくとも1種の架橋剤を含む加硫可能な混合物も提供する。これらの加硫可能な混合物が、少なくとも1種の充填剤をさらに含んでいるのが好ましい。さらに、その混合物に、1種または複数のさらなる典型的なゴム添加剤を加えることもできる。
【0115】
それらの加硫可能な混合物の製造は、少なくとも1種の本発明によるニトリルゴムと少なくとも1種の架橋剤とを混合することにより実施される。1種または複数の充填剤および/または1種または複数のさらなる添加剤を使用する場合には、これらもまた混合する。
【0116】
有用な架橋剤としては、たとえば、以下のものが挙げられる:ペルオキシド系架橋剤たとえば、ビス(2,4−ジクロロベンジル)ペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ビス(4−クロロベンゾイル)ペルオキシド、1,1−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、tert−ブチルペルベンゾエート、2,2−ビス(t−ブチルペルオキシ)ブテン、4,4−ジ−tert−ブチルペルオキシノニルバレレート、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert−ブチルクミルペルオキシド、1,3−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、および2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン。
【0117】
これらのペルオキシド系架橋剤に加えて、架橋収率を向上させるのに役立つさらなる添加物を使用するのもまた有利となり得る。この目的にとって有用なものとしては、たとえば以下のものが挙げられる:トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリアリルトリメリテート、エチレングリコールジメタクリレート、ブタンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、二アクリル酸亜鉛、二メタクリル酸亜鉛、1,2−ポリブタジエン、またはN,N’−m−フェニレンジマレイミド。
【0118】
架橋剤の合計量は、ニトリルゴムを基準にして、典型的には1〜20phrの範囲、好ましくは1.5〜15phrの範囲、より好ましくは2〜10phrの範囲である。
【0119】
使用される架橋剤はさらに、元素状の可溶性もしくは不溶性の形態にある硫黄か、または硫黄供与体であってもよい。
【0120】
有用な硫黄供与体としては、たとえば以下のものを挙げることができる:ジモルホリルジスルフィド(DTDM)、2−モルホリノジチオベンゾチアゾール(MBSS)、カプロラクタムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、およびテトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)。
【0121】
本発明によるニトリルゴムの硫黄加硫においてはさらに、架橋収率の向上に役立つ可能性があるさらなる添加物を使用することも可能である。しかしながら、原理的には、その架橋は、硫黄または硫黄供与体を単独で用いて実施することも可能である。しかしながら、それとは逆に、本明細書で先に挙げた添加物を存在させるだけで、すなわち元素状の硫黄または硫黄供与体を添加せずに、本発明によるニトリルゴムの架橋を実施することも可能である。
【0122】
架橋収率を向上させるのに役立つ可能性がある有用な添加物としては、たとえば以下のものが挙げられる:ジチオカルバミン酸塩、チウラム、チアゾール、スルフェンアミド、キサントゲン酸塩、グアニジン誘導体、カプロラクタム、およびチオ尿素誘導体。
【0123】
使用されるジチオカルバミン酸塩は、たとえば以下のものであってよい:ジメチルジチオカルバミン酸アンモニウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(SDBC)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDMC)、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDEC)、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)、エチルフェニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZEPC)、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC)、ペンタメチレンジチオカルバミン酸亜鉛(Z5MC)、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケル、およびジイソノニルジチオカルバミン酸亜鉛。
【0124】
使用されるチウラムは、たとえば以下のものであってよい:テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TMTM)、ジメチルジフェニルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、またはテトラエチルチウラムジスルフィド(TETD)。
【0125】
使用されるチアゾールは、たとえば以下のものであってよい:2−メルカプトベンゾチアゾール(MBT)、ジベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、亜鉛メルカプトベンゾチアゾール(ZMBT)、および銅2−メルカプトベンゾチアゾール。
【0126】
使用されるスルフェンアミド誘導体は、たとえば以下のものであってよい:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(TBBS)、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(DCBS)、2−モルホリノチオベンゾチアゾール(MBS)、N−オキシジエチレンチオカルバミル−N−tert−ブチルスルフェンアミド、またはオキシジエチレンチオカルバミル−N−オキシエチレンスルフェンアミド。
【0127】
使用されるキサントゲン酸塩は、たとえば以下のものである:ジブチルキサントゲン酸ナトリウム、イソプロピルジブチルジブチルキサントゲン酸亜鉛、またはジブチルキサントゲン酸亜鉛。
【0128】
使用されるグアニジン誘導体は、たとえばジフェニルグアニジン(DPG)、ジ−o−トリルグアニジン(DOTG)、またはo−トリルビグアニジエン(OTBG)。
【0129】
使用されるジチオリン酸塩は、たとえば以下のものであってよい:ジアルキルジチオリン酸亜鉛(アルキル基の鎖長:C〜C16)、ジアルキルジチオリン酸銅(アルキル基の鎖長:C〜C16)、またはジチオホスホリルポリスルフィド。
【0130】
使用されるカプロラクタムは、たとえば、ジチオビスカプロラクタムであってよい。
【0131】
使用されるチオ尿素誘導体は、たとえば以下のものであってよい:N,N’−ジフェニルチオ尿素(DPTU)、ジエチルチオ尿素(DETU)、およびエチレンチオ尿素(ETU)。
【0132】
同様に添加物として有用なものとしては、たとえば以下のものが挙げられる:亜鉛ジアミノジイソシアネート、ヘキサメチレンテトラミン、1,3−ビス(シトラコンイミドメチル)ベンゼン、および環状ジスルファン。
【0133】
上述の添加物および架橋剤は、個別に使用しても、あるいは混合物として使用してもよい。ニトリルゴムを架橋するためには、以下の物質を使用するのが好ましい:硫黄、2−メルカプトベンゾチアゾール、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、ジアルキルジチオリン酸亜鉛、ジモルホリルジスルフィド、ジエチルジチオカルバミン酸テルル、ジブチルジチオカルバミン酸ニッケル、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、およびジチオビスカプロラクタム。
【0134】
架橋剤および上述の添加物はそれぞれ、約0.05〜10phr、好ましくは0.1〜8phr、特には0.5〜5phrの量で使用することができる(単一使用量、それぞれの場合において、活性物質基準)。
【0135】
本発明における硫黄架橋においては、本明細書において先に挙げた架橋剤および添加剤に加えて、さらなる無機物質または有機物質を同様に使用するのも有用であり、そのようなものとしてはたとえば、以下のものが挙げられる:酸化亜鉛、炭酸亜鉛、酸化鉛、酸化マグネシウム、飽和もしくは不飽和の有機脂肪酸およびそれらの亜鉛塩、多価アルコール、アミノアルコール、たとえばトリエタノールアミン、ならびにアミン、たとえばジブチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、シクロヘキシルエチルアミン、およびポリエーテルアミン。
【0136】
さらに、スコーチ抑制剤を使用することもまた可能である。そのようなものとしては、シクロヘキシルチオフタルイミド(CTP)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)、無水フタル酸(PTA)およびジフェニルニトロソアミンが挙げられる。好ましいのは、シクロヘキシルチオフタルイミド(CTP)である。
【0137】
架橋剤の添加に加えて、本発明によるニトリルゴムは、その他の典型的なゴム添加剤と混合することもまた可能である。
【0138】
そのようなものとしては、たとえば当業者に公知の典型的な物質、たとえば充填剤、充填剤活性化剤、オゾン亀裂防止剤、老化安定剤、抗酸化剤、加工助剤、エクステンダー油、可塑剤、補強用材料、および離型剤などが挙げられる。
【0139】
使用される充填剤は、たとえば以下のものであってよい:カーボンブラック、シリカ、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土、タルク、カオリン、ベントナイト、カーボンナノチューブ、Teflon(後者は粉体の形状にあるのが好ましい)、またはケイ酸塩。
【0140】
有用な充填剤活性化剤は、特に以下のような有機シランである:ビニルトリメチルオキシシラン、ビニルジメトキシメチルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−シクロヘキシル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、イソオクチルトリメトキシシラン、イソオクチルトリエトキシシラン、ヘキサデシルトリメトキシシラン、または(オクタデシル)メチルジメトキシシラン。さらなる充填剤活性化剤としては、たとえば、トリエタノールアミンおよび74〜10000g/molの分子量を有するエチレングリコールのような表面活性物質が挙げられる。充填剤活性化剤の量は、典型的には、100phrのニトリルゴムを基準にして、0〜10phrである。
【0141】
加硫可能な混合物に添加することが可能な老化安定剤は、本明細書において、ラテックスのコアグレーションに関連して先に述べたものである。それらは、ニトリルゴム100phrを基準にして、典型的には約0〜5phr、好ましくは0.5〜3phrの量で使用される。
【0142】
有用な離型剤の例としては以下のものが挙げられる:飽和もしくは部分不飽和脂肪酸およびオレイン酸、ならびにそれらの誘導体(脂肪酸エステル、脂肪酸塩、脂肪アルコール、脂肪酸アミド)(それらは、混合物成分として使用するのが好ましい)、およびさらには、金型表面に適用することが可能な製品、たとえば低分子量シリコーン化合物をベースとする製品、フルオロポリマーをベースとする製品、およびフェノール樹脂をベースとする製品。
【0143】
離型剤は、混合物の一成分として、ニトリルゴムの100phrを基準にして、約0〜10phr、好ましくは0.5〜5phrの量で使用される。
【0144】
米国特許第A4,826,721号明細書の教示に従った、ガラスの強化材(繊維)を用いた補強、および脂肪族および芳香族ポリアミド(Nylon(登録商標)、Aramid(登録商標))、ポリエステル、および天然繊維製品から製造した、コード、織布、繊維による補強もまた可能である。
【0145】
加硫可能な混合物の製造を目的とした成分の混合は、典型的には、インターナルミキサー中、またはロール上で実施される。使用されるインターナルミキサーは、典型的には、「かみ合い方式(intermeshing)」のローター形状として知られているものを備えたものである。開始時に、本発明によるニトリルゴムをインターナルミキサーに仕込む。前記ゴムは、典型的には、ベールの形状になっていて、最初に微粉砕される。適切な時間(これは、当業者ならば簡単に決めることができる)の後に、架橋剤、充填剤、および添加剤を添加する。その混合は温度制御下で実施するが、ただし、混合物が、100℃〜150℃の範囲の温度に適切な時間滞留するようにする。さらなる適切な混合時間の後に、さらなる混合物成分たとえば、抗酸化剤、可塑剤、白色顔料(たとえば、二酸化チタン)、着色剤、およびその他の加工助剤を添加する。さらなる適切な混合時間の後に、インターナルミキサーのガス抜きをし、シャフトをきれいにする。さらなる時間の後に、インターナルミキサーを空にして、加硫可能な混合物を得る。上述の時間はすべて、典型的には数分の範囲であり、当業者ならば、製造する混合物に合わせて何の問題もなく決めることができる。混合ユニットとしてロールを使用するのならば、同様の方法および順序で、計量仕込みを進行させることが可能である。
【0146】
本発明はさらに、本発明によるニトリルゴムをベースとする加硫物を製造するための方法も提供するが、それが特徴としているのは、本発明によるニトリルゴムを含む加硫可能な混合物を加硫にかけることである。加硫は、典型的には100℃〜200℃の範囲の温度、好ましくは120℃〜190℃の温度、最も好ましくは130℃〜180℃の温度で実施する。
【0147】
この目的のためには、加硫可能な混合物を、エクストルーダー、射出成形系、ロール、またはカレンダーの手段によってさらなる加工にかける。このようにして得られた予備成形物を、次いで典型的には、プレス、オートクレーブ、加熱空気系、または自動マット加硫系として知られるものの中、120℃〜200℃、好ましくは140℃〜190℃の範囲の温度で加硫を完了させるのが有利であることが判明した。その加硫時間は、典型的には1分〜24時間、好ましくは2分〜1時間である。加硫物の形状およびサイズによっては、完全な加硫を得るために、再加熱による第二の加硫が必要になることもある。
【0148】
したがって、本発明は、そのようにして得ることが可能な、本発明によるニトリルゴムをベースとする加硫物も提供する。それらの加硫物は、伝動ベルト、ロールカバー、シール、キャップ、ストッパー、ホース、床仕上材、シーリングマット、またはシート、形材もしくは膜の形状をとることができる。さらに詳しくは、それらの加硫物は、以下のものであってよい:O−リングシール、フラットシール、シャフトシーリングリング、ガスケットスリーブ、シーリングキャップ、ダスト保護キャップ、コネクターシール、断熱ホース(添加PVCの存在下または非存在下)、オイルクーラーホース、空気吸込ホース、パワーステアリングホース、靴底もしくはその部品、またはポンプの膜。低い放散指数を有する本発明によるニトリルゴムは、床仕上材を製造するのに、極めて特に好適である。
【実施例】
【0149】
I.揮発性成分含量の測定
式(I)の意味合いの範囲に入る揮発性成分の放散は、VDA推奨規格278(09/2002版)に従ったTDS GC−MS分析法において28.4分〜34.0分の間で検出され、「mg/kg(ニトリルゴム)」の放散として表される。60m×0.25mm、1.00μm(5%フェニル)−メチルシロキサンの分離カラムDB−5MSを使用し、オーブン温度は、40℃、1分間、280℃まで、5℃/分で昇温。
【0150】
II.ニトリルゴムA〜Jの製造
(本発明実施例および比較例)
以下における実施例で使用するニトリルゴムA〜Jを、表1に記載した配合物および重合条件を用いて製造したが、すべての出発物質は、モノマー混合物100重量部を基準にした重量部で表されている。
【0151】
重合は、攪拌機付きの5Lオートクレーブの中で、バッチ式で実施した。オートクレーブバッチのそれぞれにおいて、1.25kgのモノマー混合物と、全量2.1kgの水と、Fe(II)を基準にして等モル量のEDTAとを用いた。オートクレーブの中に、最初に1.9kgの量の水を乳化剤と共に仕込み、窒素流を用いてパージした。その後で、安定剤を除去した(destabilized)モノマーと、表1に示された量の本発明の分子量調節剤または本発明ではない分子量調節剤を添加し、反応器をシールした。反応器の内容物の温度調節ができるようにしてから、鉄(II)塩(プレミックス溶液の形態のもの)およびpara−メンタンヒドロペルオキシド(Trigonox(登録商標)NT50)の水溶液を添加することにより、重合を開始させた。
【0152】
そのプレミックス溶液には、400gの水に対して、0.986gのFe(II)SO*7HOおよび2.0gのRongalite Cが含まれていた。
【0153】
転化率を重量分析することにより、重合の進行をモニターした。表1に記載した転化率に達したら、ジエチルヒドロキシルアミンの水溶液を添加することにより重合を停止させた。水蒸気蒸留の手段により、未転化のモノマーを除去した。
【0154】
それぞれのNBRラテックスをコアグレート化させる前に、前記ラテックスを、それぞれの場合において、50%強度のVulkanox(登録商標)BKFの分散体(NBR固形物を基準にして、0.3重量%のVulkanox(登録商標)BKF)と混合した。次いで、ラテックスをコアグレート化させ、洗浄し、得られたクラムを乾燥させた。
【0155】
乾燥させたNBRゴムは、ASTM D 1646による100℃におけるムーニー粘度ML1+4およびACN含量により、特性解析した。さらに、式(I)による放散指数Eを計算するのに必要な揮発性成分の含量を、先にI.項に記載したようにして、求めた。
【0156】
【表1A】
【表1B】
【0157】
【表2】
【0158】
表2は、次のことを明らかに示している:特定の分子量調節剤を使用すると同時に、重合転化率が60%以上にしなければならないという条件を満たしている本発明によるプロセスによって、慣用されるtert−ドデシルメルカプタンを使用するか、および/またはより低い転化率で得られたニトリルゴムとは明らかに異なって、TDS GC−MS分析法においてかなり低いVOC値と調節剤の放散とを示すポリマーが得られる。
【0159】
III.ニトリルゴムA〜Fの加硫物の製造
(本発明実施例および比較例)
ニトリルゴムD〜Jから、以下に示す方法により、加硫物V1〜V7を製造した。混合物成分の量は、100重量部のゴムを基準としたものであり、表3に示されている。
【0160】
【表3】
【0161】
混合物は、バンバリーミキサーの中で製造した。この目的のためには、ニトリルゴムと表3に記載されたすべての添加剤とを、最高120℃までの温度で合計4分間混合した。この目的のためには、最初にゴムをミキサーの中に仕込み、1分後にすべてのさらなる添加剤を添加し、さらに2分後に反転工程を実施した。合計して4分経過してから、そのゴムをミキサーから排出させた。得られた加硫物は、表4に示す物性を有していた。
【0162】
混合物の加硫特性は、ASTM D 5289−95に従い、Alpha Technology製のMDR2000 Moving Die Rheometerを使用し、160℃で分析した。以下に示す加硫計の特性値は、このようにして測定した。
【0163】
この文脈においては:
最小トルク:等温架橋の最低での加硫計の読みである
最大トルク:加硫計の示す最大値である
TS01:混合物のムーニー粘度が、開始時に比較して1ムーニー単位だけ上がるまでの時間(単位;分)である
10:最終転化率/加硫度の10%に到達した時間
50:最終転化率/加硫度の50%に到達した時間
90:最終転化率/加硫度の90%に到達した時間。
【0164】
【表4】
【0165】
本発明によるニトリルゴムをベースとする混合物V2、V4、V6、およびV7は、それぞれの比較例V1、V3、およびV5と比較すると、加硫においてより高い最大トルクを特徴としているが、これは加硫特性としては重要なパラメーターである。そのようにして得られるより高い架橋密度によって、使用者が、比較例の架橋密度と同等の架橋密度に到達するための、架橋のための出発原料の量を減らすことが可能となる。