(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6508934
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】電磁干渉抑制体を備える装置
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20190422BHJP
H01F 1/00 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H01F1/00
【請求項の数】8
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-255517(P2014-255517)
(22)【出願日】2014年12月17日
(65)【公開番号】特開2016-115889(P2016-115889A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年10月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(72)【発明者】
【氏名】近藤 幸一
(72)【発明者】
【氏名】岡 利昭
(72)【発明者】
【氏名】吉田 栄吉
(72)【発明者】
【氏名】池田 昌
【審査官】
石坂 博明
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−030596(JP,A)
【文献】
特開2009−021403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
H01F 1/00−1/44
H01L 21/54
23/00−23/04
23/06−23/26
H05K 1/00−1/02
9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜在的なノイズを放射し得る潜在的ノイズ放射源と、前記潜在的なノイズを受信し得る潜在的ノイズ受信部と、電磁干渉抑制体とを備える装置であって、
前記電磁干渉抑制体は、金属軟磁性扁平粉を結合剤で結合してなるシート状のものであり、
前記電磁干渉抑制体には、複数のスリットが形成されており、
前記電磁干渉抑制体は、前記潜在的ノイズ放射源と前記潜在的ノイズ受信部とに跨るように設けられており、
前記スリットは、前記電磁干渉抑制体の面内方向の実効的な誘電率が500以下となるように、形成されている
装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置であって、
前記電磁干渉抑制体の面内方向の実効的な誘電率は100以下である
装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれかに記載の装置であって、
前記スリットの深さは、前記電磁干渉抑制体の厚みの83%以上である
装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の装置であって、
前記スリットの幅は、0.02mm以上0.4mm以下である
装置。
【請求項5】
請求項4記載の装置であって、
前記スリットの幅は、0.05mm以上である
装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の装置であって、
前記スリットのピッチPと前記電磁干渉抑制体の厚みtとの比P/tが1以上80以下である
装置。
【請求項7】
請求項6記載の装置であって、
前記比P/tは、50以下である
装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の装置であって、
前記スリットの誘電率は1以上20以下である
装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属軟磁性扁平粉を結合剤で結合してなるシート状の電磁干渉抑制体を備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁干渉抑制体としては、例えば、特許文献1に開示されたものがある。特許文献1の電磁干渉抑制体の表面には、柔軟性を付与するために、破線状の切込みが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−49406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上述したような電磁干渉抑制体の新たな利用方法とそれに基づく構成を備える装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の発明者らは、研究の結果、次のような点に気付いた。1)2つの伝送路のように一方が潜在的なノイズを放射し得る潜在的ノイズ放射源であり他方がその潜在的なノイズを受信し得る潜在的ノイズ受信部である(一方が他方に影響を与え得る)場合に、潜在的ノイズ放射源と潜在的ノイズ受信部とに跨るように電磁干渉抑制体を配置することで、一方から他方への干渉を抑制することができる。2)スリット無しの電磁干渉抑制体の場合、周波数によって干渉抑制効果が得られない場合があるが、スリットを形成すると比較的広い周波数に亘って干渉抑制効果を得ることができる。
【0006】
本発明の発明者らは、この研究の結果に基づいて、次のような推定を行った。a)上述した電磁干渉抑制体は、面内方向に比較的高い誘電率を有している。b)この高い誘電率に起因して電磁干渉抑制体内に電界が誘導されてしまい、その電界によって潜在的ノイズ源と潜在的ノイズ受信部とが結合している可能性がある。c)スリットを形成すると、電界が分断され、それによって、上述した電界による結合が抑制される。d)電磁干渉抑制体に対して面内方向の実効的な誘電率が500以下となるまでスリットを形成する(即ち、多数のスリットを形成する)と、上述した結合抑制効果をより確実にえることができることからも、当該推定は妥当であると予想される。本発明は、このような推定と知見に基づくものであり、具体的には、以下に掲げる電磁干渉抑制体を備える装置を提供する。
【0007】
本発明は、第1の装置として、
潜在的なノイズを放射し得る潜在的ノイズ放射源と、前記潜在的なノイズを受信し得る潜在的ノイズ受信部と、電磁干渉抑制体とを備える装置であって、
前記電磁干渉抑制体は、金属軟磁性扁平粉を結合剤で結合してなるシート状のものであり、
前記電磁干渉抑制体には、複数のスリットが形成されており、前記潜在的ノイズ放射源と前記潜在的ノイズ受信部とに跨るように設けられている
装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、第2の装置として、第1の装置であって、
前記スリットは、前記電磁干渉抑制体の面内方向の実効的な誘電率が500以下となるように、形成されている
装置を提供する。
【0009】
また、本発明は、第3の装置として、第2の装置であって、
前記電磁干渉抑制体の面内方向の実効的な誘電率は100以下である
装置を提供する。
【0010】
また、本発明は、第4の装置として、第1乃至第3のいずれかの装置であって、
前記スリットの深さは、前記電磁干渉抑制体の厚みの83%以上である
装置を提供する。
【0011】
また、本発明は、第5の装置として、第1乃至第4のいずれかの装置であって、
前記スリットの幅は、0.02mm以上0.4mm以下である
装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、第6の装置として、第5の装置であって、
前記スリットの幅は、0.05mm以上である
装置を提供する。
【0013】
また、本発明は、第7の装置として、第1乃至第6のいずれかの装置であって、
前記スリットのピッチPと前記電磁干渉抑制体の厚みtとの比P/tが1以上80以下である
装置を提供する。
【0014】
また、本発明は、第8の装置として、第7の装置であって、
前記比P/tは、50以下である
装置を提供する。
【0015】
また、本発明は、第9の装置として、第1乃至第8のいずれかの装置であって、
前記スリットの誘電率は1以上20以下である
装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スリットにより電磁干渉抑制体内に生じる電界を分断し、潜在的ノイズ放射源と潜在的ノイズ受信部との結合を広い周波数帯域で抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態による装置を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の実施例による装置の効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照すると、本発明の実施の形態による装置1は、潜在的なノイズを放射し得る潜在的ノイズ放射源2と、潜在的なノイズを受信し得る潜在的ノイズ受信部3と、電磁干渉抑制体4とを備えている。
【0019】
潜在的ノイズ放射源2及び潜在的ノイズ受信部3は、例えば、回路基板上に設けられた2つの伝送線路や、回路基板上に搭載された2つの部品、伝送線路と部品などである。
【0020】
電磁干渉抑制体4は、金属軟磁性扁平粉を結合剤で結合してなるシート状のものである。金属軟磁性扁平粉としては、例えば、Fe、Fe−Si合金、Fe−Si−Al合金、Fe−Si−Cr合金、アモルファス合金、ナノ結晶合金からなるものが挙げられる。
図1に示されるように、電磁干渉抑制体4は、潜在的ノイズ放射源2と潜在的ノイズ受信部3とに跨るように設けられている。
【0021】
本実施の形態の電磁干渉抑制体4には、複数のスリット5が形成されている。スリット5の延びる方向については特に限定はない。また、スリット5は、互いに平行である必要はなく、交差していてもよい。また、多角形の辺をスリット5で形成することとしてもよい。複数のスリット5を形成した電磁干渉抑制体4を潜在的ノイズ放射源2と潜在的ノイズ受信部3とに跨るように設けると、潜在的ノイズ放射源2と潜在的ノイズ受信部3との間の空間的な結合を減じることができる。
【0022】
特に、本実施の形態のスリット5は、電磁干渉抑制体4の面内方向の実効的な誘電率が500以下となるように設定されている。電磁干渉抑制体4の面内方向の実効的な誘電率が500以下であれば、比較的広い周波数範囲に亘って潜在的ノイズ放射源2と潜在的ノイズ受信部3との間の結合を減じることができる。これは、スリット5により電磁干渉抑制体4の面内方向に誘起される電界を適切に分断することができ、電界による結合の増加を抑えることができるためであると推定される。電磁干渉抑制体4の面内方向の実効的な誘電率が100以下であると、殆どすべての周波数範囲において、潜在的ノイズ放射源2と潜在的ノイズ受信部3との間の結合を減じることができる。
【0023】
なお、本実施の形態において電磁干渉抑制体4の面内方向の実効的な誘電率は、摂動法により測定することができる。摂動法については、例えば、特開平11−118732号公報の0002段落などに記載されている。
【0024】
本実施の形態のスリット5の深さは、電磁干渉抑制体4の厚みの83%以上である。83%より小さい深さのスリット5では、電界の分断効果が小さいことから、83%以上であることが好ましい。スリット5の深さは100%であっても構わない。特に、スリット5が電磁干渉抑制体4を横断又は縦断している場合には、深さ100%のスリット5により電磁干渉抑制体4が小片に分断されることになるが、その場合は、両面テープなどの粘着テープからなる基材に電磁干渉抑制体4の小片を貼り付けて分断配置された状態を維持することとすればよい。
【0025】
推奨するスリット5の幅は、0.02mm以上0.4mm以下である。幅が0.02mmより小さいと電界の分断効果が得られにくいためであり、0.4mmより大きいと潜在的ノイズ放射源2と潜在的ノイズ受信部3との間の結合を減じる効果が低くなってしまうためである。結合を更に効果的に減じるためには、スリット5の幅は、0.05mm以上であることが好ましい。
【0026】
スリット5のピッチをPとし電磁干渉抑制体4の厚みをtとした場合において、比P/tが1以上80以下であることが望ましい。比P/tが1より小さいと製造が困難である。また、比P/tが1より小さいと、スリット5の方向と
潜在的ノイズ放射源2及び潜在的ノイズ受信部3の配置との関連も考慮しなければならない。例えば、潜在的ノイズ放射源2から磁界が発生する際に当該電磁干渉抑制体4の面内方向の成分に対して反磁界が大きく働いてしまい、実効透磁率が低下して、磁気損失によるノイズ抑制効果が低下してしまうためである。潜在的ノイズ放射源2と潜在的ノイズ受信部3との間の結合を効果的に抑制するためには、上述した比P/tは、50以下であることが好ましい。
【0027】
本実施の形態のスリット5は、切断により形成された状態、即ち、空気層である。換言すると、本実施の形態のスリット5の誘電率は1である。スリット5は、そのサイズや形状を維持するために誘電体で埋められていてもよい。但し、スリット5の誘電率が20を超えてしまうと電界を分断する効果が低くなってしまうことから、スリット5の誘電率は1以上20以下であることが好ましい。
【実施例1】
【0028】
本発明の効果を確認するため、3次元の電磁界シミュレータを用いてシミュレーションを行った。シミュレーションを行うに当たって、
図2に示されるような評価系モデルを想定した。一方が潜在的ノイズ放射源2として機能し他方が潜在的ノイズ受信部3として機能し得る2つのループコイルに電磁干渉抑制体4を跨るように設け、2つのループコイル間の干渉を計算した。結果としてのグラフを
図3に示す。グラフにおいて、潜在的ノイズ放射源2と潜在的ノイズ受信部3との間の結合を抑制できている場合、内部減結合率Rdaは正の値を有している(Rda>0)。
【0029】
図3を参照すると、実効的な誘電率が500の場合には、約1.5GHzまでの周波数範囲で内部減結合率Rdaが正の値を有していることが理解できる。加えて、実効的な誘電率が100の場合には3GHzまでの周波数範囲の殆どにおいて内部減結合率Rdaが正の値を有している。即ち、実効的な誘電率が100の場合には、3GHzまでの殆どすべての周波数範囲において、潜在的ノイズ放射源2と潜在的ノイズ受信部3との間の結合を減じることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 装置
2 潜在的ノイズ放射源
3 潜在的ノイズ受信部
4 電磁干渉抑制体
5 スリット