(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の歯科切削加工用レジンブロックは、(A)樹脂マトリックス、(B)球状もしくは略球状の有機無機複合粒子、を含んでなる歯科切削加工用レジンブロックである。
【0016】
本発明における歯科切削加工用レジン系ブロックとは、コンピュータ上に取得された三次元座標データに基づいて切削加工機によって、歯科補綴物を作製する際に使用される、樹脂(レジン)マトリックスを一成分とするブロック体のことを言う。大きさや形状には制限はなく、目的に応じた大きさや形状のものを選択すればよい。大きさとしては、通常一辺の長さが5mm〜150mmの範囲から選択される。形状としては直方体、円柱形、ディスク状などから用途や切削装置に応じて任意に選択される。体積としては、通常1.8cm
3〜 200cm
3の範囲から選択される。本発明のクラックを低減するという効果は、特に大きい体積の硬化された成形体で顕著であり、このような観点から成形体の体積が10cm
3〜200cm
3である事が好ましく、25cm
3〜200cm
3であることがより好ましい。
【0017】
(A)樹脂マトリックス
本発明における(A)樹脂マトリックスとは、(B)有機無機複合粒子が分散する分散媒としての役割を持つ成分である。樹脂マトリックスとしては、樹脂であれば特に制限が無く、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂いずれも使用する事ができるが、歯科補綴物の審美性の観点から透明性が高い樹脂が好ましい。具体的には、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂、シクロオレフィンポリマー、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、あるいはこれらのコポリマーが好適に使用される。特に安全性や高い透明性、屈折率コントロールが容易であることから、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂が好適に使用される。
【0018】
樹脂マトリックスとしては、有機無機複合粒子を容易に分散させるために、有機無機複合粒子を混合する工程においては流動性を示すものが好ましい。また、樹脂マトリックスを製造するための重合性単量体に有機無機複合粒子を分散させておき、重合性単量体を重合硬化することによって、樹脂マトリックスと有機無機複合粒子との混合物、すなわち本発明の歯科切削加工用レジン系ブロックを得ても良い。
【0019】
上記樹脂マトリックスの原料となる重合性単量体としては、特に限定されず、ラジカル重合性単量体やエポキシ化合物、オキセタン化合物などのカチオン重合性単量体などが挙げられる。ラジカル重合性単量体としては、重合性の良さなどから、(メタ)アクリレート系の単量体が好適に用いられる。当該(メタ)アクリレート系の重合性単量体を具体的に例示すると、次に示すものが挙げられる。
【0020】
(a1)単官能ラジカル重合性単量体
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ラウリル(メタ)アクリレート、n−ステアリル(メタ)アクリレート、テトラフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシートリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレートなど、酸性基を有する単官能重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸、N−(メタ)アクリロイルグリシン、N−(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸、O−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルチロシン、N−(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N−(メタ)アクリロイル−p−アミノ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−o−アミノ安息香酸、p−ビニル安息香酸、2−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N−(メタ)アクリロイル−5−アミノサリチル酸、N−(メタ)アクリロイル−4−アミノサリチル酸などおよびこれらの化合物のカルボキシル基を酸無水物基化した化合物、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデカン−1,1−ジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデカン−1,1−ジカルボン酸、12−(メタ)アクリロイルオキシドデカン−1,1−ジカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキサン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−3’−メタクリロイルオキシ−2’−(3,4−ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテートアンハイドライド、4−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)トリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,2,6−トリカルボン酸無水物、6−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−2,3,6−トリカルボン酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル−1,8−ナフタル酸無水物、4−(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン−1,8−トリカルボン酸無水物、9−(メタ)アクリロイルオキシノナン−1,1−ジカルボン酸、13−(メタ)アクリロイルオキシトリデカン−1,1−ジカルボン酸、11−(メタ)アクリルアミドウンデカン−1,1−ジカルボン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンフォスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンフォスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ブロモエチルハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリルアミドエチルジハイドロジェンフォスフェート、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、10−スルホデシル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロキシプロピル−3−ホスホノプロピオネート、3−(メタ)アクリロキシプロピルホスホノアセテート、4−(メタ)アクリロキシブチル−3−ホスホノプロピオネート、4−(メタ)アクリロキシブチルホスホノアセテート、5−(メタ)アクリロキシペンチル−3−ホスホノプロピオネート、5−(メタ)アクリロキシペンチルホスホノアセテート、6−(メタ)アクリロキシヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、6−(メタ)アクリロキシヘキシルホスホノアセテート、10−(メタ)アクリロキシデシル−3−ホスホノプロピオネート、10−(メタ)アクリロキシデシルホスホノアセテート、2−(メタ)アクリロキシエチル−フェニルホスホネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸、N−(メタ)アクリロイル−ω−アミノプロピルホスホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2’−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネートなど、水酸基を有する単官能重合性単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N、N−(ジヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどを挙げることができる。
【0021】
(a2)二官能ラジカル重合性単量体
2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシジトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレート、あるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクトなど、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、およびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどのメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト、たとえば、1,6−ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)−2,2−4−トリメチルヘキサン;酸性基を含むものとして、無水アクリル酸、無水メタクリル酸、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル、ジ(2−メタクリロイルオキシプロピル)フォスフェート、ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔9−(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェートなどを挙げることができる。
【0022】
(a3)三官能ラジカル重合性単量体
トリメチロールプロパーントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパーントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパーントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−(メタ)アクリロキシエチルイソシアヌレート)などを挙げることができる。
【0023】
(a4)四官能ラジカル重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エトキシ化ジトリメチロールプロパーンテトラ(メタ)アクリレートなどのテトラ(メタ)アクリレート化合物、ヘキサメチルジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサンのようなジイソシナネートの間に脂肪族を有するジイソシアネート化合物などを好適に用いることができる。
【0024】
なお、上記のラジカル重合性単量体は、すべて単独で、もしくは組み合わせて使用可能である。
【0025】
本発明の樹脂マトリックスの原料として重合性単量体を用いた場合、重合性単量体を重合硬化させるために、重合開始剤を用いるのが好ましい。硬化性組成物の重合方法には、紫外線、可視光線等の光エネルギーによる反応(以下、光重合という)、過酸化物と促進剤との化学反応によるもの、熱エネルギーによるもの(以下、熱重合という)等があり、いずれの方法であっても良い。光や熱などの外部から与えるエネルギーで重合のタイミングを任意に選択でき、操作が簡便である点から、光重合や熱重合が好ましい。採用する重合方法に応じて下記に示す各種重合開始剤を適宜選択して使用すればよい。
【0026】
例えば、光重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、ベンゾフェノン、4,4’−ジメチルベンゾフェノン、4−メタクリロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、ジアセチル、2,3−ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナントラキノン、9,10−アントラキノンなどのα−ジケトン類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド類等を使用することができる。
【0027】
なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N−メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン類、ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物などを挙げることができる。
【0028】
また、熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p−フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
【0029】
これら重合開始剤は、単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の配合量は、樹脂マトリックス100質量部に対して0.01〜5質量部であることが好ましい。
【0030】
(B)有機無機複合粒子
本発明における(B)有機無機複合粒子は、(B−2)有機樹脂中に(B−1)無機粒子が分散している粒子であり、(B−1)無機粒子と(B−2)有機樹脂とが複合化されている粒子である。(B)有機無機複合粒子は球状、もしくは略球状であることを特徴とする。
【0031】
なお、ここでいう略球状とは、走査型や透過型の電子顕微鏡の撮影像の画像解析において求められる平均均斉度が0.6以上であることを意味する。平均均斉度は0.7以上であることがより好ましく、0.8以上であることが更に好ましい。平均均斉度は、走査型又は透過型の電子顕微鏡を用いて測定される。
【0032】
具体的には、有機無機複合粒子の撮影像を画像解析することにより、有機無機複合粒子の最大長、最小幅から平均均斉度を求める。電子顕微鏡による撮影像としては、明暗が明瞭で、粒子の輪郭を判別できるものを使用する。画像解析は、少なくとも粒子の最大長、最小幅の計測が可能な、画像解析ソフトウェアを用いて行う。無作為に選択した100個の有機無機複合粒子について上記の方法で粒子の最大長、最小幅を求め、有機無機複合粒子の平均均斉度を下記式によって算出する。
【0034】
上記式において、有機無機複合粒子の数を(n)、i番目の有機無機複合粒子の最大長を長径(Li)、この長径に直交する方向の径を最小幅(Bi)と定義する。
【0035】
球状もしくは略球状の有機無機複合粒子を用いた場合、有機無機複合粒子と樹脂マトリックスがなじみやすく、有機無機複合粒子と樹脂マトリックスの界面に空気泡などが内包され難くなり、クラックの発生を抑制していると推定される。従って、前記効果をより高度に発揮させる観点から、使用する有機無機複合粒子の平均均斉度は0.7以上であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。
【0036】
本発明における(B)有機無機複合粒子の粒径に制限はないが、切削性や審美性の観点から、有機無機複合粒子の平均粒子径が1〜50ミクロンであることが好ましく、7〜16ミクロンであることがより好ましい。有機無機複合粒子の平均粒子径は、レーザー回折−散乱法による粒度分布をもとにして求めるメディアン径を示す。測定に供するサンプルは、0.1gの有機無機複合粒子をエタノール10mLに均一に分散させて調製する。
【0037】
本発明における(B)有機無機複合粒子に用いる(B−1)無機粒子の材質は、特に制限がなく、通常の歯科用硬化性組成物にフィラーとして使用されているものは、いずれも用いることができる。具体的に、周期律第I、II、III、IV族、遷移金属から選ばれる金属の単体、これらの金属の酸化物や複合酸化物、フッ化物、炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、水酸化物、塩化物、亜硫酸塩、燐酸塩等からなる金属塩、これらの金属塩の複合物等が挙げられる。好適には、非晶質シリカ、石英、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化イッテルビウム等の金属酸化物、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−チタニア−ジルコニア等のシリカ系複合酸化物、ホウ珪酸ガラス、アルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等のガラス、フッ化バリウム、フッ化ストロンチウム、フッ化イットリウム、フッ化ランタン、フッ化イッテルビウム等の金属フッ化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の無機炭酸塩、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩等が採用される。
【0038】
これらのうち、金属酸化物及びシリカ系複合酸化物は、緻密な材質にするために、高温で焼成されたものが好ましい。その効果を向上させるために、ナトリウム等の少量の周期律表第I族金属の酸化物を含有させることが好ましい。
上記材質の無機粒子の内、シリカ系複合酸化物粒子は、屈折率の調整が容易である。更に、粒子表面にシラノール基を多量に有するため、シランカップリング剤等を用いて表面改質が行い易いため、特に好ましい。
【0039】
上記例示した、シリカ−ジルコニア、シリカ−チタニア、シリカ−チタニア−酸化バリウム、シリカ−チタニア−ジルコニア等の粒子は、強いX線造影性を有しているので好適である。更には、より耐摩耗性に優れた硬化体が得られるので、シリカ−ジルコニア粒子が最も好ましい。
【0040】
本発明の(B)有機無機複合粒子に用いる(B−1)無機粒子の一次粒子の平均粒子径は、有機無機複合粒子よりも小さい粒子径であれば特に制限されないが、光沢性が高く、機械的強度が高いことから、10〜1000nmであることが好ましく、40〜800nmがより好ましく、50〜600nmが最もより好ましい。また、(B−1)無機粒子の形状は、球形状であるのが、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れた硬化性組成物の硬化体が得られることから、特に好適に用いられる。
【0041】
なお、本発明における(B−1)無機粒子の平均粒子径とは、走査型や透過型の電子顕微鏡の撮影像から、一次粒子径の円相当径(対象粒子の面積と同じ面積を持つ円の直径)を画像解析により測定したものをいう。測定に用いる電子顕微鏡撮影像としては、明暗が明瞭で粒子の輪郭を判別できるものを使用し、画像解析の方法としては、少なくとも粒子の面積、粒子の最大長、最小幅の計測が可能な画像解析ソフトを用いて行う。また、これら一次粒子の平均粒子径、平均均斉度は、上記によって計測した一次粒子径より、下記式によって算出する。
【0044】
ここに、粒子の数(n)、粒子の最大長を長径(Li)、この長径に直交す方向の径を最小幅(Bi)である。これらの値を算出する場合、測定精度を保つためには少なくとも40個以上の粒子を測定する必要があり、100個以上の粒子について測定することが望ましい。
これらの(B−1)無機粒子は、公知の如何なる方法により製造される無機粒子であっても良い。例えば、無機酸化物や複合酸化物などであれば、湿式法、乾式法、ゾルゲル法のいずれの方法で製造されたものであっても良い。形状が球状で、単分散性に優れる微細粒子を工業的に製造する上で有利である点、さらには屈折率の調整や、X線造影性を付与することが容易である点を考慮すると、ゾルゲル法によって製造することが好ましい。
【0045】
ゾルゲル法により球状のシリカ系複合酸化物粒子を製造する方法は、例えば特開昭58‐110414号公報、特開昭58−151321号公報、特開昭58−156524号公報、特開昭58−156526号公報等に記載されており、公知である。
【0046】
この方法においては、まず加水分解可能な有機ケイ素化合物、あるいはこれに更に加水分解可能な他の金属の有機化合物を加えた混合溶液を用意する。次に、これらの有機化合物は溶解するが、生成物である無機酸化物は実質的に溶解しないアルカリ性溶媒中に前記混合溶液を添加し、加水分解し、無機酸化物を析出させ、該析出物を濾別した後、析出物を乾燥する。
【0047】
この様な方法で得られる無機粒子は、表面安定性を付与する為に、乾燥後500〜1000℃の温度で焼成されても良い。焼成に際しては、無機粒子の一部が凝集する場合がある。この場合は、ジェットミル、振動ボールミル等を用いて凝集粒子を一次粒子に解きほぐし、更に粒度を所定範囲に調整してから、使用することが好ましい。この様に処理することにより、歯科用組成物として用いた場合の組成物の研磨性等が向上する。
【0048】
(B−1)無機粒子は、平均粒子径、材質、形状が異なる、複数の無機粒子の混合物であっても良い。
【0049】
有機無機複合粒子に使用する無機凝集粒子は、重合性単量体に対する濡れ性を向上させるために、疎水化剤により表面処理することが好ましい。
【0050】
疎水化剤としては従来公知のものが何ら制限なく使用される。好適な疎水化剤を例示すれば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニル−トリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、κ−メタクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル−トリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピル−トリメトキシシラン、γ−ウレイドプロピル−トリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤やチタネート系カップリング剤などが挙げられる。
【0051】
無機粒子の疎水化に用いる疎水化剤の使用量に特に制限はなく、好適な疎水化剤の使用量を例示すれば、無機粒子100質量部に対して、上記疎水化剤1〜30質量部である。
【0052】
表面処理方法は特に限定されるものではなく、公知の方法が制限なく採用される。代表的な処理方法を例示すれば、無機粒子と疎水化剤とを、適当な溶媒中でボールミル等を用いて分散混合し、エバポレーターや風乾で乾燥した後、50〜150℃に加熱する方法がある。更に、無機粒子及び疎水化剤をアルコール等の溶媒中で数時間程度加熱還流する方法がある。更に、粒子表面に疎水化剤をグラフト重合させる方法等がある。
【0053】
上記表面処理は、無機粒子に行っても良いし、無機凝集粒子に行っても良い。前記噴霧乾燥により無機凝集粒子を製造する場合は、この処理時に、同時に表面処理を行うことが効率的である。凝集粒子の製造方法については後述する。
【0054】
また、(B)有機無機複合粒子の(B−2)有機樹脂としては公知のものが特に制限なく使用でき、(A)樹脂マトリックスとして前述した樹脂と同種のものが使用できる。なお、(A)樹脂マトリックスと(B)有機無機複合粒子を構成する(B−2)有機樹脂の種類は、必ずしも同じである必要はなく、異なっていてもよい。本発明の(B)有機無機複合粒子を製造する事が容易であることから、(B−2)有機樹脂としては、重合性単量体を重合硬化させたものである事が好ましく、中でもアセトンやエタノールなどの有機溶媒と相溶性を有する重合性単量体を原料として(B−2)有機樹脂を形成させることが好ましい。また、得られる(B−2)有機樹脂の機械的強度や生態安全性等が良好であることから、(メタ)アクリレート系重合性単量体を原料として用いることが好ましい。なお、(メタ)アクリレート系重合性単量体は、前記(A)樹脂マトリックスにおいて説明したものと同種の重合性単量体を用いることができる。更に、重合性の高さや硬化体の機械的物性が特に高くなる等の理由から、二官能以上、より好適には二官能〜四官能の重合性単量体であるのが好ましい。これらの重合性単量体は、単独で使用しても、異種を混合して使用してもよい。
【0055】
(B)有機無機複合粒子において、(B−2)有機樹脂の含有量は特に限定されないが、機械的強度が高くなることから、無機粒子100質量部に対して、1〜40質量部が好ましく、5〜25質量部がより好ましい。なお、有機樹脂の含有量は、示差熱-熱重量同時測定を行った際の重量減少量より求めることができる。
(有機無機複合粒子の製造方法)
本発明の歯科切削加工用レジン系ブロックに使用する(B)有機無機複合粒子の製造方法は特に限定されず、球状あるいは略球状のものが得られる方法であれば任意に選択する事ができる。例えば、懸濁重合法、噴霧乾燥法、粉砕して得られた有機無機複合粒子をメカノケミカル法により球形化する方法、等が挙げられる。
【0056】
噴霧乾燥法では、(B−1)無機粒子の水系懸濁液を噴霧乾燥により造粒し、無機粒子が球状、あるいは略球状に凝集してなる無機凝集粒子を製造する。(B−1)無機粒子は、合成等の工程の際に生じた凝集を分散するための乾式、あるいは湿式分散工程を経たものを使用するほうが、(B)有機無機複合粒子の形状が、球状あるいは略球状のものが得られやすいことから好ましい。
【0057】
噴霧乾燥法に用いる、無機一次粒子の水系懸濁液の調製方法は特に限定されるものではないが、水系媒体に無機一次粒子を均一に分散させやすいという点で、ビーズミル等の混合装置を用いてスラリー状に調製する方法が好ましい。
【0058】
また、水系懸濁液中の無機一次粒子の濃度は、噴霧乾燥において噴霧可能である限り制限はない。通常、無機一次粒子の濃度は、5〜50質量%が好ましく、20〜45質量%がより好ましい。
【0059】
噴霧乾燥方法としては、高速の気流を用いて、上記方法で調製した水系懸濁液を細かい液滴に噴霧し、乾燥させる方法が挙げられる。噴霧状にされた水系懸濁液を、直ちに高温の空気や不活性気体などによって乾燥させることにより、粒度の揃った無機凝集粒子が得られる。乾燥に使用する気体の温度は、60〜300℃が好ましく、80〜250℃が特に好ましい。水系溶媒が揮発するに伴い、液滴内に分散する多数の無機一次粒子は凝集し、実質的に一個の球状の無機凝集粒子を形成する。噴霧乾燥を用いる造粒法においては、噴霧形式や噴霧条件に応じて、凝集粒子の粒径および粒度分布を制御できる。これらの制御方法自体は、公知技術である。
【0060】
前記噴霧乾燥により調製された無機凝集粒子には、無機一次粒子の凝集間隙からなる細孔が形成される。形成される細孔容積の範囲は、0.015〜0.35cm
3/gが好ましく、より好ましくは0.03〜0.33cm
3/gである。該無機凝集粒子における細孔容積は、不活性ガスを吸着させるガス吸着法によって測定した値である。
【0061】
ガス吸着法による細孔容積の測定では一般的に窒素ガスが用いられる。該無機粒子の所定量を測定容器に入れ、日本ベル社のBELSORP−miniIIを用いて、無機粒子の凝集間隙における各細孔径に相当する圧力での窒素ガス吸着量を測定し、各細孔における窒素ガス吸着量から細孔容積を算出すれば良い。
【0062】
前記凝集状態の無機凝集粒子を用いて有機無機複合粒子を製造する場合、前述した有機樹脂として重合性単量体を無機凝集粒子の凝集間隙に侵入させ、有機無機複合粒子を調製するのが好ましい。重合性単量体を無機凝集粒子に侵入させる方法としては、重合性単量体溶液中に無機凝集粒子を浸漬する方法が挙げられる。重合性単量体溶液に含有される有機溶媒としては、公知の溶媒が制限なく使用可能であるが、溶媒の除去が容易になるように高い揮発性を有していること、容易に入手でき安価であること、製造の際に人体への安全性が高いなどの観点から、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒や、アセトン、ジクロロメタンなどを用いるのが好ましい。重合性単量体溶液に含有させる重合開始剤は、前述した重合触媒と同じものが使用できる。外部から与えるエネルギーで重合のタイミングを任意に選択でき、操作が簡便である点から、光重合開始剤または熱重合開始剤が好ましく、遮光下や赤色光下などの作業環境の制約無しに使用できる点で、熱重合開始剤がより好ましい。
【0063】
前記重合性単量体溶液に無機凝集粒子を浸漬させる場合、一般的に常温常圧下で実施するのが好ましい。無機凝集粒子と重合性単量体溶液との混合割合は、前述した有機樹脂の含有量となるよう無機凝集粒子100質量部に対して、重合性単量体溶液30〜500質量部が好ましく、50〜200質量部がより好ましい。無機凝集粒子内に十分に重合性単量体を侵入させるため、混合後は、静置することが好ましい。静置温度は特に制限はないが、通常は室温である。静置時間は30分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。無機凝集粒子の凝集間隙に重合性単量体溶液が浸入することを促進するために、有機樹脂溶液と無機凝集粒子との混合物を、振とう撹拌、遠心撹拌、加圧、減圧、加熱しても良い。
【0064】
前記重合性単量体溶液を無機凝集粒子の凝集間隙に浸漬した後、重合性単量体溶液から有機溶媒を除去する。有機溶媒の除去においては、無機凝集粒子に浸入している有機溶媒の実質的全量(通常、95質量%以上)を除去する。視覚的には、無機凝集粒子が互いに粘着して形成する凝固物が無くなり、流動状態の粉体が得られるまで除去を行えばよい。有機溶媒の除去操作は、公知の如何なる乾燥操作を行っても良いが、乾燥時間を短くするために、減圧下で加熱乾燥を行なう方法が好ましい。減圧度や乾燥温度は、除去する有機溶媒の揮発性や沸点を考慮して適宜選択すればよい。有機溶媒を除去した後、重合性単量体を重合硬化させ有機無機複合粒子を調製する。
【0065】
前記調製方法により得られる有機無機複合粒子の内部には、無機凝集粒子の凝集間隙からなる細孔が存在し、細孔容積の範囲は0.01〜0.30cm
3/gが好ましく、0.015〜0.20cm
3/gがより好ましい。有機無機複合粒子が有する細孔の平均孔径は、特に制限されるものではないが、3〜300nmが好ましく、さらには10〜200nmが特に好ましい。この平均孔径の範囲の場合、上記細孔容積を有する凝集間隙を容易に形成できる。なお、凝集間隙からなる細孔の平均孔径は、ガス吸着法で測定した孔径1〜500nmの範囲の孔における細孔容積分布をもとにして求めるメディアン細孔直径を示す。
【0066】
前記細孔容積を有する有機無機複合粒子を重合性単量体及び重合開始剤を含む硬化性組成物に配合した場合、前記細孔内に重合性単量体が毛細管現象により細孔内を充満させた状態で浸入し、この状態で重合硬化させることで、有機無機複合粒子内外が一体的に樹脂マトリックスで覆われると共に、有機無機複合粒子と樹脂マトリックスとの接着性が強固なものになる。これは、単にフィラー表面のみで接着している従来のフィラーと樹脂マトリックスとの間の接着と比較して遥かに強固であるため、本発明における有機無機複合粒子を配合した歯科切削加工用レジンブロックは高い機械的強度が与えられる。また、重合時に有機無機複合粒子と樹脂マトリックスが密に接着しているため、重合時のクラックの発生がより効果的に抑制されていると推定される。
【0067】
細孔容積が0.01〜0.30cm
3/gの有機無機複合粒子を配合した硬化性組成物を重合硬化して本発明の歯科切削加工用レジン系ブロックを製造する場合、有機無機複合粒子と樹脂マトリックスが密に接着し易く、また有機無機複合粒子自体が強固となるため、前述したクラックの発生を抑制する効果を得易くなる。従って、前記効果をより高度に発揮させる観点から、使用する有機無機複合粒子の細孔容積は、0.01〜0.30cm
3/gが好ましく、0.015〜0.20cm
3/gがより好ましい。
【0068】
本発明における有機無機複合粒子は、表面処理が実施されても良い。表面処理が実施されることにより、この有機無機複合粒子を配合した歯科用硬化性組成物の硬化体に、より高い機械的強度が与えられる。表面処理に用いる疎水化剤や表面処理方法は、前述の無機粒子の表面処理と同様である。
【0069】
本発明の歯科切削加工用レジン系ブロックに用いる(B)有機無機複合粒子の配合量は、(A)樹脂マトリックス100質量部に対して、50〜500質量部である事が好ましく、100〜300質量部である事がより好ましい。(B)有機無機複合粒子の配合量が少なすぎる場合、本発明の効果であるクラック抑制効果を得るのが難しい。(B)有機無機複合粒子の配合量が多すぎる場合、(A)樹脂マトリックス中に均一に分散させる事が難しくなる虞がある。
【0070】
なお、(A)樹脂マトリックスの原料として重合性単量体を用いる場合、重合性単量体、有機無機複合粒子及び重合開始剤とを含む硬化性組成物を調整する際の重合性単量体の配合量を前記の通り調整すればよい。すなわち、重合性単量体100質量部に対して(B)有機無機複合粒子を好ましくは50〜500質量部配合し、より好ましくは100〜300質量部配合し、さらに必要量の重合開始剤を配合した硬化性組成物を調整し、これを重合硬化させて、本発明の歯科切削加工用レジン系ブロックを得ればよい。
【0071】
本発明の歯科切削加工用レジンブロックには、樹脂マトリックスと有機無機複合粒子のほかに、任意の成分を含有する事ができる。例えば、(B)有機無機複合粒子以外の(C)充填材、重合開始剤、重合禁止剤、蛍光剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、抗菌剤、X線造影剤などが挙げられる。
【0072】
(C)充填材は、本発明のブロックにおける機械的強度の向上、耐磨耗性の向上、熱膨張係数の低減、吸水性、溶解性の低減などの観点から配合される。
【0073】
(C)充填材としては、公知の充填材が制限なく使用でき、無機粒子および有機粒子、(B)有機無機複合粒子以外の有機無機複合粒子のいずれを用いてもよい。熱膨張率の低減、機械的強度の向上の観点からは、無機充填材を用いるのが好ましい。無機充填材として、前述した(B)有機無機複合粒子に含まれる(B−2)無機粒子と同じものが使用できる。このうち、シリカとジルコニア、シリカとチタニア、またはシリカと酸化バリウムとを主な構成成分とする複合酸化物が、高いX線造影性を有するため好ましく使用される。また、充填材の形状は、球形状であるのが、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性に特に優れた硬化性組成物の硬化体が得られることから、特に好適に用いられる。該充填材の平均粒子径は、0.001〜1μmであることが好ましく、0.01〜0.5μmであることが、耐摩耗性、表面滑沢性、光沢持続性の観点からより好ましい。
【0074】
本発明の実施の形態において、(C)充填材の配合量は、目的に応じて選択すればよいが、(A)樹脂マトリックス100質量部に対して通常10〜1000質量部の割合であり、より好ましくは100〜500質量部の割合で使用される。
【0075】
(歯科切削加工用レジン系ブロックの製造方法)
本発明の歯科切削加工用レジン系ブロックの製造方法に特に制限はなく、使用する材料によって適宜製造方法を使い分ければよい。例えば、樹脂マトリックスが熱可塑性樹脂の場合、(A)樹脂マトリックスと(B)有機無機複合粒子の混合混練物を加熱溶融し、金型内部に逐次射出成形する方法や、同様に金型内部に逐次プレス成形する方法をとることができる。(A)樹脂マトリックスの原料となる重合性単量体に(B)有機無機複合粒子、及び重合開始剤を配合させ、硬化性組成物を準備し、これを重合硬化することによって歯科切削加工用レジン系ブロックを製造することもできる。この場合、製造過程において、金型内に計量、充填、付形、脱泡操作等を行い、必要に応じて加熱や光による仮重合を行い、ついで、加熱、あるいは光による最終重合を行うことでブロック体を作製してもよい。また、必要に応じて、得られたブロック体の研磨、熱処理などの処理を行うこともできる。
【0076】
(歯科切削加工用レジン系ブロックの使用方法)
このようにして作製されたブロックは、必要に応じて、CAD/CAM装置に保持するためのピンを接合し、CAD/CAM用ブロックとして供する事ができる。これをCAD/CAM装置に接続して、設計に基づいて切削を行うことで、歯冠修復物を得る事ができる。
【実施例】
【0077】
以下に本発明に関する実施例と比較例を示すが、本発明は該実施例に限定されるものではない。実施例において用いられる材料、試験方法等を以下に示す。
【0078】
(重合性単量体)
M−1:1,6−ビス(メタクリルエチルオキシオルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
M−2:トリエチレングリコールジメタクリレート
【0079】
(有機無機複合粒子)
実施例に用いた有機無機複合粒子を以下の表1に示す。なお、表1のP−1とP−2は、ノズル式スプレードライヤーRL−8(大川原化工機社製)で噴霧乾燥により無機粒子を造粒し、表面処理剤としてγメタクリロイロキシプロピルトリメトキシシランを用いた。(噴霧乾燥条件:噴霧圧0.1MPa、供給スラリー量17kg/h)得られた無機粒子100質量部に対して、重合性単量体M−1を19質量部、重合開始剤としてI−1を0.5質量部となるよう配合し、窒素加圧0.4MPa、120℃で重合し、球形状の有機無機複合粒子を調製した。P−3は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機スプレードライヤーTSR−2W(坂本技研株式会社製)で無機粒子を造粒(噴霧乾燥条件:ディスクの回転速度10000rpm、乾燥温度200℃)した以外は、P−1と同様の方法によって球形状の有機無機複合粒子を調製した。P−4は、P−3と同様の方法で無機粒子を造粒した後、得られた無機粒子100質量部に対して、重合性単量体M−1を33質量部、重合開始剤としてI−1を0.5質量部となるよう配合し、混練を行いペースト状の混合物を調製した。このペースト状混合物を減圧下で脱泡した後、100℃で重合し、重合した硬化物を振動ボールミル(ジルコニアボール粒径:5mm)で粉砕し、不定形状の有機無機複合粒子を調製した。
【0080】
【表1】
【0081】
(重合触媒)
I−1:ベンゾイルパーオキサイド
(充填材)
F−1:平均粒径0.2ミクロンの球状シリカジルコニアのγメタクリロイロキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物
F−2:レオロシールMT−10(株式会社トクヤマ製)
(外観試験)
硬化体組成物の目視評価およびX線観察を行い、硬化体組成物に亀裂(クラック)などが無いものを○、クラックが見られるものを×として評価した。
【0082】
(曲げ強度)
硬化体組成物から縦2mm、横2mm、高さ25mmの試験片を切り出し、耐水研磨紙1500番で長さ方向に研磨を行い±0.1mm、厚さ2±0.1mmの試験片とした。万能引張試験機オートグラフ(島津製作所製)を用いて、室温大気中、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/minの条件にて3点曲げ試験を行った。試験片5個について曲げ強度を評価し、その平均値を曲げ強さとした。
【0083】
[製造例1]
重合性単量体M-1とM-2を重量比75/25で混合した重合性単量体混合物100質量部に、重合開始剤I-1を0.4質量部混合溶解した。この重合性単量体混合物100質量部に対し、有機無機複合粒子としてP−1を240質量部添加し、プラネタリーミキサーを用いてよく分散させることで硬化性組成物を得た。これを真空脱泡したものを組成物1とした。
【0084】
[製造例2]
重合性単量体M-1とM-2を重量比75/25で混合した重合性単量体混合物100質量部に、重合開始剤I-1を0.4質量部混合溶解した。この重合性単量体混合物100質量部に対し、有機無機複合粒子としてP−1を230質量部、充填材としてF−1を230質量部添加し、プラネタリーミキサーを用いてよく分散させることで硬化性組成物を得た。これを真空脱泡したものを組成物2とした。
【0085】
[製造例3]
重合性単量体M-1とM-2を重量比75/25で混合した重合性単量体混合物100質量部に、重合開始剤I-1を0.4質量部混合溶解した。この重合性単量体混合物100質量部に対し、有機無機複合粒子としてP−1を230質量部、充填材としてF−1を225質量部、F−2を5質量部添加し、プラネタリーミキサーを用いてよく分散させることで硬化性組成物を得た。これを真空脱泡したものを組成物3とした。
【0086】
[製造例4]
重合性単量体M-1とM-2を重量比75/25で混合した重合性単量体混合物100質量部に、重合開始剤I-1を0.4質量部混合溶解した。この重合性単量体混合物100質量部に対し、有機無機複合粒子としてP−2を230質量部、充填材としてF−1を230質量部添加し、プラネタリーミキサーを用いてよく分散させることで硬化性組成物を得た。これを真空脱泡したものを組成物4とした。
【0087】
[製造例5]
重合性単量体M-1とM-2を重量比75/25で混合した重合性単量体混合物100質量部に、重合開始剤I-1を0.4質量部混合溶解した。この重合性単量体混合物100質量部に対し、有機無機複合粒子としてP−3を230質量部、充填材としてF−1を230質量部添加し、プラネタリーミキサーを用いてよく分散させることで硬化性組成物を得た。これを真空脱泡したものを組成物5とした。
【0088】
[製造例6]
重合性単量体M-1とM-2を重量比75/25で混合した重合性単量体混合物100質量部に、重合開始剤I-1を0.4質量部混合溶解した。この重合性単量体混合物100質量部に対し、有機無機複合粒子としてP−1を237質量部、充填材としてF−2を3質量部添加し、プラネタリーミキサーを用いてよく分散させることで硬化性組成物を得た。これを真空脱泡したものを組成物6とした。
【0089】
[製造例7]
重合性単量体M-1とM-2を重量比75/25で混合した重合性単量体混合物100質量部に、重合開始剤I-1を0.4質量部混合溶解した。この重合性単量体混合物100質量部に対し、充填材F−1を240質量部添加し、プラネタリーミキサーを用いてよく分散させることで硬化性組成物を得た。これを真空脱泡したものを組成物7とした。
【0090】
[製造例8]
重合性単量体M-1とM-2を重量比75/25で混合した重合性単量体混合物100質量部に、重合開始剤I-1を0.4質量部混合溶解した。この重合性単量体混合物100質量部に対し、有機無機複合粒子としてP−4を230質量部、充填材F−1を230質量部添加し、プラネタリーミキサーを用いてよく分散させることで硬化性組成物を得た。これを真空脱泡したものを組成物8とした。
【0091】
[実施例1]
組成物1を14×18mmの金型へ気泡を巻き込まないように150mmの高さまで填入し、上面を平滑化した後、加熱加圧重合器を用いて、圧力3kgf/cm
2、120℃30分の条件で加熱加圧重合を行った。金型から硬化体組成物を取り出し、樹脂マトリックス、有機無機複合粒子を含む歯科切削加工用レジン系ブロックを得た。外観試験、曲げ強度の結果を表2にまとめた。
【0092】
[実施例2〜6]
表2に示した組成物を用いた以外は実施例1と同様の方法によって歯科切削加工用レジン系ブロックを作製した。外観試験、曲げ強度の結果を表2にまとめた。
【0093】
[比較例1〜2]
表2に示した組成物を用いた以外は実施例1と同様の方法によって歯科切削加工用レジン系ブロックを作製した。外観試験、曲げ強度の結果を表2にまとめた。
【0094】
比較例1においては、外観試験の目視評価においてクラックの発生が見られた。そのため、曲げ強度の評価を行なうことができなかった。
【0095】
【表2】