特許第6509079号(P6509079)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6509079ヘリピロンAを有効成分とするPGC1α産生促進剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6509079
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】ヘリピロンAを有効成分とするPGC1α産生促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/366 20060101AFI20190422BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190422BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20190422BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   A61K31/366
   A61P43/00 111
   A61P25/00
   A61P25/28
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-167498(P2015-167498)
(22)【出願日】2015年8月27日
(65)【公開番号】特開2017-43566(P2017-43566A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2018年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 理弘
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 知倫
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−38103(JP,A)
【文献】 特開2013−60383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/366
A61P 25/00
A61P 25/28
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘリピロンAを有効成分とするPGC1α産生促進剤。
【請求項2】
経口剤である請求項1記載のPGC1α産生促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のPGC1α産生促進剤を有効成分とする神経の伝達改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(peroxisome proliferator-activated receptor−γ、PPARγ)コアクチベーター1α(以下PGC1αと記載する)の産生促進剤および産生促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
PGC1αは、ミトコンドリアを構成する分子、あるいはその機能発揮に重要な分子の発現の制御を行う主調節因子であり、ミトコンドリア合成やエネルギー産生を促進している。即ち、PGC−1は、筋機能とインスリン感受性に強い影響を与えている。またPGC1α活性化により、インスリン感受性が改善されることが知られている。また前述のとおり、ミトコンドリア(持久力やエネルギー代謝に関係し、肥満との関係が深い)の量に関係していることが知られるようになり、近年エネルギー代謝の面から研究が行われており、PGC1αの産生を促進することで疾患を改善する可能性が指摘されている。
例えば、特許文献1(特開2015−105236号公報)には、卵殻膜加水分解物がPGC1α遺伝子の発現を改善し、インスリン抵抗性を改善することが記載されている。特許文献2(特開2015−74653号公報)には、スダチ由来のリモネン‐トランス‐1,2‐ジオールがサーチュイン活性を促進し、PGC1αを活性化することが記載されている。
また、近年神経細胞におけるミトコンドリアの生合成やエネルギー産生の研究により、PGC1α遺伝子の発現が神経機能に強くかかわっていることが明らかになってきた。 例えばPGC1αのノックアウトマウスでは、神経変性疾患に見られるような神経細胞の脱落が見られ、逆にPGC1αの過剰発現によりミトコンドリア異常改善、神経細胞死が抑制されることが報告されている。また、アルツハイマー病、パーキンソン病を始め様々な中枢性疾患において、ミトコンドリアの機能異常が原因の1つであるといわれている。
【0003】
一方、ヘリピロンAは種々の植物に含有されている化合物であり、下記の一般式(1)で表される構造を持つ公知物質である。
【0004】
【化1】
一般式(1)
【0005】
本出願人はこのヘリピロンAについて着目し、研究を行い、一重項酸素消去剤、皮膚老化改善剤、しわ改善剤、たるみ改善剤、皮膚水分量改善剤、美白剤、メラニン抑制剤、一酸化窒素消去剤あるいは酸化防止剤などの用途(特許文献3:特許第5266046号公報)、PGC1α産生促進剤の用途(特許文献4:特許5770576号公報)、一酸化窒素産生促進剤の用途(特許文献5:特開2014−47160号公報)を見いだして特許出願している。
また化学合成技術が公開されている(非特許文献1:Esahak Ali, et al., Phytochemistry,1982,21,243−244)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−105236号公報
【特許文献2】特開2015−74653号公報
【特許文献3】特許第5266046号公報
【特許文献4】特許5770576号公報
【特許文献5】特開2014−47160号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Esahak Ali, et al., Phytochemistry,1982,21,243−244
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、PGC1α産生促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、ヘリピロンAの新たな用途を調査研究した結果、PGC1α産生促進
作用を知見したので提案する。
すなわち、本発明の主な構成は、次のとおりである。
(1)ヘリピロンAを有効成分とするPGC1α産生促進剤。
(2)経口剤である(1)に記載のPGC1α産生促進剤。
(3)(1)又は(2)に記載のPGC1α産生促進剤を有効成分とする神経の伝達改善剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有効成分であるヘリピロンAは、PGC1α産生促進作用を有するため、PGC1α産生が低下した状態を改善する。これによりPGC1αが関与する種々の神経伝達障害や短期記憶障害を改善し、老化やアルツハイマー症に伴う種々の病態の治療・予防に役立つことが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】神経細胞中のPGC1αがヘリピロンAによって増加することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ヘリピロンAを有効成分とするPGC1α産生促進剤に係るものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で用いるヘリピロンAは化学的に合成される。あるいは植物から抽出することができる。合成方法は公知であるが、以下に概要を示す。
[ヘリピロンA(Helipyrone A)の化学合成]
ヘリピロンA(Helipyrone A)の化学合成については、上述したように非特許文献1(Esahak Ali, et al., Phytochemistry,1982,21,243−244)、に開示されている。
例えば、本発明では、次のように合成した。
400mLのヘキサン溶媒を用いて、四塩化チタンの存在下で化合物1 ジエチルケトン(3−pentanone)172gと化合物2 テトラヒドロ−1,4−オキサジン(terahydro−1,4−oxazine (morpholine) )1,000gを4℃で、3時間で反応させ、蒸留処理で精製し、化合物3(N−イソプロペニル)−テトラヒドロ−1,4−オキサジン((N−isopropenyl)− terahydro−1,4−oxazine)503.57g(収率81.1%)を得た。
200mLのトルエン溶媒を用いて、化合物3(N−イソプロペニル)−テトラヒドロ−1,4−オキサジン((N−isopropenyl)− terahydro−1,4−oxazine)167gを化合物4 エチルマロニルクロライド(ethyl malonyl chloride)81gとメタノール−氷冷(−17℃〜−11℃
)条件で反応させ、一般式(2)で表される化合物を合成した。
【0013】
【化2】
一般式(2)
【0014】
化合物3と化合物4との反応は2N塩酸添加で終了させ、クロロホルム抽出後に硫酸マグネシウム乾燥処理を行った。その次に反応溶液にトルエン200mLと25%塩酸400mLを順次加えて液−液分配でトルエン層を回収した。トルエン層を0.1N塩酸400mLで洗浄し、硫酸マグネシウム乾燥処理後にトルエンを真空エバポレーターで除去して橙色油状溶液を得た。
この溶液にPPA(ポリリン酸)1kgを加え、110℃〜118℃で環化して化合物5を合成した。化合物5は室温に冷却し、クロロホルム抽出で回収し、硫酸マグネシウム乾燥処理後に真空エバポレータ−でクロロホルムを除去した。固形物をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=50:1(v/v))で橙色固形の化合物5を45.7g得た。本反応の収率は18.3%であった。
【0015】
この化合物5について1N塩酸の存在下でホルムアルデヒドを重合反応することで化合物6 ヘリピロンA(Helipyrone A)を化学合成した。化合物5の45.7gをエタノール460mLに溶解し、濃塩酸2.5mLの存在下でホルムアルデヒド(37%)247.81gを79℃で還流反応させ、結晶が析出した。この結晶をエタノール300mLで洗浄し、白色結晶としてヘリピロンA(Helipyrone A)を34.01g得た。本反応の収率は71.6%であった。
【0016】
得られたヘリピロンA(Helipyrone A)の物性値を以下に示す。
外観:白色結晶
NMRスペクトル(400 MHz, 溶媒;CDCl
H−NMR
δ=a 1.231、b 1.969、c 2.554、d 3.616、e 11.199
13C NMR(400 MHz、溶媒;CDCl
δ=I→169.335(t) H→168.499(m), G→160.160(m), F→108.709(m), E→101.592(t), D→24.368(qt), C→19.176(t), B→11.689(qt), A→9.476(q)
【0017】
【化3】
一般式(3)
【化4】
一般式(4)
分子量:320.341g/mol(質量分析)
分子式:C1720 (質量分析)
融点:218−220℃
【0018】
本発明のヘリピロンA(Helipyrone A)を含有するPGC1α産生促進剤としては、経口投与、経皮投与、直腸内投与、注射などの投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することができる。
このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤、凍結乾燥製剤などが挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。
上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングルコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水などが挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤などの慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0019】
ヘリピロンAは神経細胞のPGC1α産生量を増加させ、血中PGC1α量の増加をもたらす。従って上記作用を有することにより、PGC1αの欠乏や不足に伴う各種疾患、特に神経系の障害や、記憶障害の改善剤として使用できる。
なおヘリピロンAをPGC1α産生促進剤としてヒトに投与する場合は、経口投与が好ましく、成人1日当たり1mg〜10gを投与すればよい。
【実施例】
【0020】
ヘリピロンAのPGC1α産生促進効果試験
PGC1α産生促進試験としてラット胎仔から調製した初代培養神経細胞を用いて試験を行った。
【0021】
[in vitro試験]
1.試験方法
妊娠17日目のSDラット(日本エスエルシー)から胎仔を取り出し、大脳皮質と海馬を単離した後、神経細胞分散液キット(住友ベークライト)を用いてキットに添付の説明書に従い、初代神経細胞を調製した。調製したラット初代神経細胞を2% B27(Gibco)、0.5 mM L−グルタミン(Gibco)、1% ペニシリン−ストレプトマイシン(Sigma)を含むニューロベイサル培地(Gibco)で4×10 cells/mlの濃度になるように縣濁し、ポリ−L−リジンコートの48ウエルプレート(IWAKI)に350 μlずつ播種し、37℃、5% CO環境下で7日間培養した。
次いで各ウエル当たり最終濃度を0、1、3μMになるようにヘリピロンAを添加した。ヘリピロンAの添加72時間培養後上清を除去し、細胞を回収した。
回収した細胞を用いてPGC1α遺伝子の発現量を測定した。
RNeasy Mini kit(QIAGEN社)を用い添付の説明書に従ってRNAを調製した。調製した200 ngのRNAを用いて、PrimeScript RT reagent kit(Takara社)を使用し、添付の説明書に従いcDNAを作製した。PGC1α遺伝子発現量は、1.5 μl cDNA、ラットPGC1α taq man probe(TaqMan Gene expression assays: Applied Biosystems)とLightCycler 480 Probe Master(Roche)を混合し、LightCycler 480 II(Roche)を用いて、95℃、5分、(95℃、10秒→60℃、30秒)×45サイクル、50℃、30秒の反応条件で測定を行った。内部標準としてGAPDHの発現量をRodent GAPDH control Reagent(Life Technologies)を使用し、上記と同様な反応で測定した。測定により得られたCp値からGAPDHを内部標準としてΔΔCt法により、各サンプルの相対的遺伝子発現量を求めた。
【0022】
2.試験結果
試験結果を図1に示す。PGC1α量は、ヘリピロンA無添加の場合の測定結果を1とする相対値で表示した。図に示すように、ラット胎仔から得た初代神経細胞において、ヘリピロンAの添加により神経細胞におけるPGC1αの遺伝子発現量の増加が確認された。
以上の試験結果から、ヘリピロンAは神経細胞のPGC1αの産生を促進することが明らかとなった。したがって、ヘリピロンAは、PGC1αが低下することに伴うエネルギー代謝障害、糖尿病性疾患、神経障害や記憶障害に有用である。また遺伝子組換法によるPGC1α発現、産生における培養液中の成分としてヘリピロンAを用いることができる。
図1