(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
咀嚼・嚥下困難者用に適した性質を持つ付着性が低下した食品であり、直径20mmのプランジャーで圧縮速度10mm/secの速度で試料の厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値が500000(N/m2)以下であり、及び/又は圧縮速度10mm/secで試料を2回、70%まで潰したときの荷重(N)を測定し、試料に付着して、引き離そうとする力(N)の面積(エネルギー)を算出した付着性が400(J/m3)以下となる付着性が低下した食品を製造する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の付着性が400J/m3以下に低下した食品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、食品原料に、超音波を照射することにより軟化食品を製造する方法である。本発明は、さらに、食品原料を軟化させるための成分を食品原料中に導入する際に、超音波を使用し、軟化食品を製造する方法である。また、本発明の方法は、軟化食品の加工方法でもある。
【0013】
1.食品原料
適応対象となる食品原料は、生鮮原料でも凍結解凍原料でもよい。本発明において食品原料を食品素材ともいう。対象は食品の原料となる食材であり、そのままではかたくて咀嚼・嚥下困難者、高齢者、乳幼児等に適さない食品であり、食用となるすべての食材である。好ましくは、魚肉等の魚介類の肉や畜肉などの食肉、卵、青果物、芋類、穀物、海藻等であり、さらに好ましくは魚介類の肉、特に好ましくは魚肉である。青果物とは、野菜類及び果物類をいう。魚介類の種、畜肉の種、品種、青果物の種には制限はない。具体的には、例えば、魚介類として、サケ、さば、ホキ等の魚類、アワビ、サザエ、ミルガイ、エビ、カニ、タコ、イカ、ナマコ、クラゲ等の貝類やその他の水産動物等が挙げられ、畜肉として、鶏肉、牛肉、豚肉、羊肉等が挙げられ、卵は、卵製品も含む。野菜類として、ブロッコリー、カリフラワー、ニンジン、ダイコン等が挙げられ、果物として、リンゴ、ナシ等が挙げられ、芋類として、サトイモ、ジャガイモ、サツマイモ等が挙げられ、穀類としてダイズ、ソラマメ等が挙げられ、海藻としてワカメ、コンブ等が挙げられる。また食品原料の形態についても特に制限はなく、切身やブロックなど、どの形態も選択することができる。
【0014】
また、上記の食品原料を原料として、本発明の方法で軟化した食品原料を、軟化食品原料又は軟化食品という。具体的には、例えば、軟化魚肉、軟化食肉、軟化青果物等という。
【0015】
2.超音波による軟化
従来は、食品原料を軟化させるために、食品原料に対してテンダライズ処理を行ったり、タンブリング処理又は減圧処理を行うことにより、酵素等の食品原料を軟化するための成分を食品原料中に含浸させていた(特開2011-92216号公報、特開2013-247928号公報等)。ここで、テンダライズ処理とは、針状の器具を刺し通し、原形を保ったまま食品原料の硬い筋や繊維を切断する等の物理的損傷を与える処理をいい、タンブリング処理とは、一般的に、回転させる等により食品原料に物理的処理を行い、調味液を食品原料組織内部に一様に浸透させる処理をいう。
【0016】
本発明においては、超音波を用いることにより、食品原料を軟化させるための成分を食品原料中に導入することなく、食品原料のかたさを変化させて、軟化することができる。また、超音波と食品原料を軟化させるための成分を併用して、食品原料を軟化することもできる。すなわち、超音波を用いて食品原料を軟化させるための成分の食品原料への導入効果を高めて効率的に食品原料に導入する。食品原料を酵素、増粘剤、ゲル化剤等の食品原料を軟化する成分を含んだ調味液等の溶液に浸漬した状態で食品原料に超音波を照射すればよい。ここで、食品原料を溶液に浸漬するとは、食品原料を食品原料が完全に沈む程度の量の溶液中に入れることも、食品原料が浸る程度の量の溶液中に浸すことも含む。
【0017】
超音波は、超音波発生装置を用いて発生させる。例えば、超音波発生装置は、超音波発振器と超音波振動子を含み、超音波発振器で特定周波数を作り出し、超音波振動子の振動により超音波が発生する。例えば、超音波振動子を備えた容器中に食品原料を入れ、超音波を発生させることにより食品原料に超音波を照射する。超音波振動子は、例えば、容器の底面や側面に備えてあればよく、複数の超音波振動子が備えてあってもよい。容器に食品原料を入れたときに、超音波振動子と食品原料の距離が数cm〜数十cm、好ましくは5〜20cmになるようにして超音波を発生する。好ましくは、容器に液体を入れ、液体中で食品原料に超音波を照射する。液体としては、種々の調味料を含む調味液を用いればよく、また、食品原料を軟化するための成分を含んでいてもよい。
【0018】
さらに、超音波振動子を備えた容器を用いずに、食品材料を容器に入れ、容器中に超音波振動子を入れて超音波を照射してもよい。
【0019】
超音波処理は、キャビテーションの発生を伴うように行うことが好ましく、このために超音波の照射方向、発振周波数、照射強度、照射時間、及び照射雰囲気温度を制御し、液体を介して超音波の照射を行うことが好ましい。ここで、キャビテーションとは、超音波により液体中に真空の気泡が発生することをいうが、本発明においては食品材料中の液体中でキャビテーションを発生させる。気泡が破裂することにより衝撃波を発生し、この衝撃波により食品原料の軟化が促進され、さらに、軟化させる成分の食品原料中への導入が促進される。このキャビテーションの物理的効果により付着性が低下し、より咀嚼・嚥下困難者用食品に適した食品に改変することができる。
【0020】
食品原料に照射する超音波の周波数は、20kHz〜200kHz、好ましくは25kHz〜170kHzの範囲であることが好ましく、より好ましくは25kHzの低周波数である。この周波数は例示であり、超音波の出力(W)が高い場合にはより高周波でもよい。
【0021】
また、食品原料に照射する超音波の周波数は一定である必要はなく、20〜200kHzの周波数を2種以上組み合わせて、照射してもよい。ここで、周波数を2種以上組合せるとは、複数の周波数を一定時間間隔で発振させることにより、複数の周波数の超音波を発生させ照射することをいう。例えば、25kHzと100kHzの周波数の超音波を組合せればよく、10秒間ずつの照射を繰り返せばよい。
【0022】
食品原料に照射する超音波の照射強度は、300〜3000Wの出力の照射強度が好ましい。また、出力を振動子面積で除した値である超音波出力密度は、0.5〜50W/cm
2が好ましく、より好ましくは0.5〜10W/cm
2である。
【0023】
実際に食品原料に照射する超音波の強度は、例えば、音圧計を用いて測定することができる。
【0024】
食品原料に超音波を照射するときの温度(照射雰囲気温度)は限定されないが、温度が低すぎると食品原料が凍結してしまい、温度が高すぎると食品原料が加熱されることで品位が低下してしまうことから、0〜40℃程度の範囲内で実施されることが好ましく、より好ましくは5〜20℃の範囲である。
【0025】
また、食品原料に超音波を照射する時間は限定されず、超音波を処理する食品原料の種類や量により適宜調節することができるが、1〜60分間、好ましくは10〜30分間である。超音波の照射は連続的でもよいし、断続的でもよい。
【0026】
3.食品原料を軟化させる成分
本発明の方法においては、食品原料に超音波を照射するだけで、食品原料の軟化を達成することができるが、食品原料を軟化させるための成分を用いてもよく、食品原料を軟化する成分を食品原料中に含浸させるときに超音波を照射すればよい。
【0027】
食品原料を軟化させるための成分としては、酵素や増粘剤、ゲル化剤等が挙げられる。 酵素としては、食品原料の構成成分を分解する酵素が挙げられる。例えば、食品原料が畜肉、魚肉等タンパク質を主成分とする場合、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)が挙げられる。タンパク質分解酵素として、例えばバシラス(Bacillus)属(例えばバシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、バシラス・サーモプロテオリティカス(Bacillus thermoproteolyticus)、バシラス・リシェニフォルミス(Bacillus licheniformis)等)の産生するタンパク質分解酵素、アスペルギルス(Aspergillus)属(例えばアスペルギルス・オリーゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・メレンス(Aspergillus mellens)等)の産生する酵素、リゾパス(Rhizopus)属(例えばリゾパス・ニベウス(Rhizopus niveus)、リゾパス・デレマー(Rhizopus delemar)等)の産生するタンパク質分解酵素、ペプシン、パンクレアチン、パパイン、ブロメライン等が挙げられる。これらのタンパク質分解酵素は単独、又は2種以上を組み合わせてもよい。タンパク質分解酵素は、酵素溶液として溶媒に希釈して用い、対象食品原料の種類によっても異なるが、酵素溶液中のタンパク質分解酵素濃度として0.001〜10質量%となるように添加し、よく懸濁して用いる。これらのタンパク質分解酵素は市販の酵素製剤を用いることができる。酵素製剤としては、例えば、ブロメラインF(天野エンザイム)、プロテックス6L(ジェネンコア)、オリエンターゼ 22BF(エイチビィアイ)、プロチンSD-AY-10(天野エンザイム)、ビオプラーゼSP-15FG(ナガセケムテックス)、アルカラーゼ 2.4LFG(ノボザイムズ)、スミチーム MP(新日本化学工業)、アロアーゼ XA-10(ヤクルト薬品工業)等を用いることができる。酵素溶液を調製する際の溶媒は、特に限定されず、酵素が変性や失活せず、食品衛生上問題ないものであればよい。
【0028】
また、食品原料が野菜、果物等ペクチンやセルロースを主成分とする場合、セルラーゼ、ペクチナーゼ及びヘミセルラーゼが挙げられ、これら3種類のうち少なくとも1種を含む酵素が用いられる。具体的には、例えばトリコデルマ・ビリデ(Trichoderma viride)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、リゾパス(Rhizopus)属(リゾパス・ニベウス(Rhizopus niveus)、リゾパス・デレマー(Rhizopus delemar)等)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、ビブリオ・アルギノリチカス(Vibrio alginolyticus)等の産生する酵素が挙げられる。本発明において、セルラーゼ活性を有する酵素をセルラーゼ系酵素、ぺクチナーゼ活性を有する酵素をぺクチナーゼ系酵素、ヘミセルラーゼ活性を有する酵素をヘミセルラーゼ系酵素という。すなわち、本発明の方法においては、セルラーゼ系酵素、ペクチナーゼ系酵素及びヘミセルラーゼ系酵素の3種類のうち少なくとも1種を含む酵素を使用する。これらの酵素は、酵素溶液として溶媒に希釈して用い、対象の種類によっても異なるが、酵素溶液中の酵素濃度として0.001〜10重量%となるように添加し、よく懸濁して用いる。これらの分解酵素は市販の酵素製剤を用いることができる。酵素製剤としては、例えば、ヘミセルラーゼ「アマノ」90((主)ヘミセルラーゼ、(副)セルラーゼ・ペクチナーゼ)(天野エンザイム社);ビスコザイムL((主)ヘミセルラーゼ、(副)ペクチナーゼ)(ノボザイム社);PECLYVELI(樋口商会)((主)ペクチナーゼ・ヘミセルラーゼ、(副)セルラーゼ);Rapidase ADEX-G(DSMジャパン)((主)ペクチナーゼ・ヘミセルラーゼ);Rapidase Pineapple(DSMジャパン)((主)ペクチナーゼ・ヘミセルラーゼ);Rapidase FC(DSMジャパン)((主)ペクチナーゼ・セルラーゼ);Rapidase TF(DSMジャパン)((主)ペクチナーゼ・ヘミセルラーゼ);セルラーゼXL-531(長瀬産業)((主)セルラーゼ);スミチームSPC(新日本化学社)((主)ペクチナーゼ、(副)セルラーゼ・ヘミセルラーゼ)等を用いることができる。酵素溶液を調製する際の溶媒は、特に限定されず、酵素が変性や失活せず、食品衛生上問題ないものであればよい。
【0029】
増粘剤やゲル化剤としては、デンプン、カードラン、こんにゃく粉、ゼラチン、寒天、ガム類、卵白等が挙げられ、これらの1種又は複数種を混合したものを用いることができる。好適には、デンプン、カードラン及び卵白を混合したものを用いることができる。
【0030】
デンプンの由来植物は限定されず、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、馬鈴薯デンプン等いずれの由来のデンプンも用いることができる。デンプンは市販のものを用いればよい。デンプンには、デンプン誘導体も含まれる。デンプン誘導体として、デンプンに種々の官能基を導入したものがあり、例えば、カルボキシメチルデンプン、ヒドロキシアルキルデンプン、酢酸デンプン、リン酸デンプン等がある。また、架橋デンプンも含まれる。カードランは微生物により生産される発酵多糖類をいい、(C
6H
10O
5)
nで表されるD-グルコースがC1位とC3位でβ-グルコシド結合した非イオン性の直鎖状の多糖類(β-1,3グルカン)である。デンプン製剤として、例えば「松谷マーガレット(松谷化学工業化素株式会社)」等が挙げられる。カードランは公知の方法で製造することができる。また、β-1,3グルカンを90重量%程度含む市販のカードラン製剤を用いてもよい。市販のカードラン製剤としては、キリン協和フーズ「カードランスNS」等がある。卵白は鳥類の卵の卵黄膜と卵殻膜の間のゾル上の物質をいい、好ましくはニワトリの卵白である。卵白は市販の乾燥品を用いることもできる。
【0031】
また、上記の増粘剤やゲル化剤には、ヒドロキシプロピルセルロースやカルボキシメチルセルロース等のセルロース系添加物、トレハロース等の糖、ソルビトール、マルチトール、マンニトール、エリスリトール等の糖アルコールが含まれていてもよい。
【0032】
増粘剤やゲル化剤は、pH調整のため緩衝剤中に溶解又は懸濁させて用いる。緩衝液はpH7.5〜8.5に調整して用いることが好ましい。緩衝液の種類は限定されないが、例えば、クエン酸とリン酸3ナトリウムを添加すればよい。
【0033】
増粘剤やゲル化剤を用いて食品原料を軟化するときは酵素を用いる必要はなく、増粘剤やゲル化剤のみにより十分な軟化を達成することができるが、酵素を併用してもよい。
【0034】
食品原料を軟化させる成分は、調味液中に混合して用いればよい。
食品原料を軟化するための成分を含む液体中に食品原料を浸漬し、食品原料に超音波を照射することにより、食品原料中に食品原料を軟化するための成分が効率的に含浸し、軟化を促進することができる。また、食品原料を軟化するための成分として酵素を用いた場合、超音波を照射することにより酵素と食品原料の基質との接触機会が増加し、より効率的に酵素を作用させることができ、結果的に酵素反応を促進し、軟化を促進することができる。
【0035】
また、超音波を用いて食品原料を軟化する成分を食品原料に含浸させる前に、食品原料に対してテンダライズ処理を行ってもよい。テンダライズ処理は魚肉に物理的損傷を与えるほか、後の食品原料を軟化するための成分をテンダライズ処理による損傷箇所から原料内部へ効率良く導入する目的で行う。テンダライズ処理には、先の尖った細い針状の器具を用いる。例えば、ようじ、ドライバー、錐、千枚通し等を用いることができる。また、一度に複数の穴を開けるために、食器として用いられる家庭用フォークや生け花用の剣山、及びテンダライザー等も用い得る。さらに、カッター、ドリル、ミシン等を含む自動穴あけ機、ナイフなどの刃物類、レーザー、超音波、風圧及び水圧等を利用した傷つけ処理も含む。テンダライズに用いる器具をテンダライザーと呼ぶ。なおテンダライズ処理における穿孔密度は、孔1個/7.5mm×7.5mm以上で行えばよい。「孔1個/7.5mm×7.5mm以上」とは、7.5mm×7.5mmの単位面積あたり1個以上の穿孔が形成されることを意味する。また、上記の細い針状の器具の食品原料に穿孔する部分の太さは、φ1.5〜5mm、好ましくはφ1.7〜3.5mm、さらに好ましくはφ2〜2.5mmである。また、テンダライズ処理する場合の孔の深さは、原料の片側から孔をあけ、原料の厚さの3/4に達する程度の孔が望ましく、また、片側に皮がついているような原料の場合、皮目に傷がつき、焼成後の見た目が悪くなるのを防ぐため、皮がついていない面から孔をあけるのが好ましい。
【0036】
本発明において、テンダライズ処理は孔あけ処理、あるいは孔あけ処理を含む物理的加工ということもできる。
【0037】
超音波を用いることにより、上記の食品原料を軟化させるための成分だけでなく、調味液中の調味成分等の食品原料を導入したい成分も効率的に食品原料中に導入することができる。
【0038】
4.超音波により製造した軟化食品の物性
食品原料に超音波を照射した場合、超音波の作用で食品原料が軟化する。さらに、酵素、増粘剤、ゲル化剤等の食品原料を軟化する成分を含む溶液に食品原料を浸し、食品原料に超音波を照射することにより、食品原料を軟化する成分が効率的に食品原料中に入り込み、その作用により食品原料が軟化する。また、酵素を用いた場合、食品原料中の酵素の基質となる物質と酵素の接触が促進され、酵素反応が効率的に進むことにより軟化が促進され、食品原料の軟化度が大きくなる。
【0039】
また、超音波を照射することにより製造した軟化食品は、軟化度が高まるだけではなく、付着性や凝集性が低下し、さらに食品原料の保水性も向上する。
【0040】
軟化度
本発明の方法で製造した軟化食品の軟化度は、物性としてのかたさで表すことができる。かたさは、例えば、日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフード(UDF)自主規格の方法あるいはそれに準ずる方法で測定することができる。日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフード自主規格の方法は以下のとおりである。
【0041】
試料を直径40mmの容器に高さ15mmに充填し、直径20mmのプランジャーで圧縮速度10mm/sec、クリアランス5mmで測定する。測定は20±2℃で行う。ただし、測定容器に移すことで物性が変化するもの、測定容器に移せないもの、不定形なものなどは測定に支障のないことを確認して、クリアランスを試料の厚さ30%として直接測定してもよい。プランジャーの材質には規定はなく、測定機器としては、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置を用いる。
【0042】
例えば、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置としてテクスチャーアナライザー(例えば、TA Xt plus(英弘精機社製))を用い、本発明の方法で製造した軟化食品又は該軟化食品を加熱調理した食品に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値を測定することにより行えばよい。ここで、加熱調理は例えば、畜肉、魚肉等の食品の中心温度が70℃となる条件でスチーム加熱することにより行う。荷重値は、N/m
2で表すことができ、本発明の軟化食品を加熱調理した場合、上記方法で測定したときのかたさが、500,000 N/m
2以下、好ましくは100,000 N/m
2以下、さらに好ましくは、50,000 N/m
2以下、さらに好ましくは30,000 N/m
2以下、さらに好ましくは28,000 N/m
2以下、さらに好ましくは26,000 N/m
2以下、さらに好ましくは24,000 N/m
2以下、特に好ましくは22,000 N/m
2以下である。
【0043】
日本介護食品協議会では、介護食を咀嚼の容易さにより、4つの区分に分けている。すなわち、「容易にかめる」ものを区分1とし、「歯ぐきでつぶせる」ものを区分2とし、「舌でつぶせるもの」を区分3とし、「かまなくてもよい」ものを区分4としている。区分1から区分4の上記方法で測定したときのかたさ上限値は、区分1が5×10
5N/m
2、区分2が5×10
4N/m
2、区分3が1×10
4N/m
2(ゾルの場合)、区分4が3×10
3N/m
2(ゾルの場合)である。本発明の方法により製造された軟化食品は、上記のそれぞれの区分に属するよう、超音波処理によりかたさ(荷重値)を調節できる。
【0044】
また、「嚥下食ピラミッド」(坂井他、日摂食嚥下リハ会誌、10(3):239-248(2006);坂井他、日本病態栄養学会誌、10(3): 269-279(2007))の基準により、かたさを定めてもよい。嚥下食ピラミッドの基準では、日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフード自主規格の測定方法において、圧縮速度以外はほぼ同等であり、試料を直径40mmに容器に高さ15mmまで充填し、φ20mm、高さ8mmのプランジャーで速度1mm/sec、クリアランス5mmで2回圧縮して測定する。この測定法で測定した場合のかたさは、40,000 N/m
2以下、好ましくは15,000 N/m
2以下、さらに好ましくは10,000 N/m
2以下である。
【0045】
本発明の方法により超音波照射を行って得られた軟化食品のやわらかさは均一であり、例えば上記方法で軟化食品の複数点のかたさを測定した場合、測定値のばらつきは少なく、例えば、複数点の測定値の変動係数(標準偏差/平均×100)は、20%以下、好ましくは15%以下である。
【0046】
凝集性及び付着性
本発明の方法で製造した軟化食品は、適切な凝集性及び付着性を有している。ここで、「凝集性」とは舌で押しつぶされた食物が結着し合って飲み込みやすい食塊を形成する能力のことをいう。食塊を形成しにくいと、気管に入りこみ誤嚥となる可能性が高くなる。また、「付着性」とは食物が口腔内にベタつく度合いのことをいい、この付着性が高過ぎると口腔内や咽頭などに食物が貼り付き、後に唾液に溶け出して誤嚥する可能性が高くなる。そのため、適度な粘度があって食塊形成しやすく、ベタつかずに軟らかく変形しながら咽頭を滑らかに通過するものが咀嚼・嚥下障害を有する者に適した物性条件となる。本発明の軟化食品は、適切な凝集性と付着性を有しているため、咀嚼したときの咀嚼物がまとまりやすく、食塊を形成し易い。従って、本発明の軟化食品は、咀嚼後飲み込みやすく、咀嚼後の繊維カス等が口内残存物として残りにくいので、誤嚥性肺炎を引き起こしにくい。凝集性や付着性は、上記のユニバーサルデザインフード自主規格によるかたさ測定法を2回繰り返すことにより測定することができる。凝集性及び付着性の算出法は、厚生労働省通知食安発第0212001号「特別用途食品の表示許可等について」(平成21年2月12日)に示されており、具体的には、凝集性及び付着性は以下の方法で算出する。
【0047】
凝集性、付着性はテクスチャアナライザークリープメータ(RE2-3305B:山電(株))を用いて測定する。
図1に凝集性及び付着性の算出方法を示す。凝集性は所定の負荷を連続2回加え、1回目と2回目の負荷面積(エネルギー)の比を求めることで算出することができる。付着性は試料に付着して、引き離そうとする力(N)の面積(エネルギー)を算出すればよく、
図1中A3の面積を求めることで算出することができる。
【0048】
本発明の軟化食品の凝集性は、0〜1.0、好ましくは0〜0.9である。また、付着性は1,000J/m
3以下、好ましくは500J/m
3以下、さらに好ましくは450J/m
3以下、特に好ましくは400J/m
3以下である。
【0049】
保水性
本発明においては、超音波処理を行った軟化食品への酵素等を含むか、あるいは含まない調味液の浸透度合いを浸漬歩留という。浸漬歩留は以下の式で表すことができる。浸漬歩留が高い程、超音波処理が良好に行われたと判断することができる。食品原料を本発明の方法で超音波処理した場合の浸漬歩留は、例えば、100%以上、好ましくは105%以上、さらに好ましくは110%以上である。
【0050】
浸漬歩留(%)=浸漬後重量/処理前重量×100
【0051】
また、超音波処理を行って得られた軟化食品は、加熱調理時の水分放出が抑制される。このため、上記のように浸漬させた調味液が食品原料全体に均一に留まっている。本発明においては、上記の処理を行った軟化食品を加熱調理したときに、食品から水分が放出される程度を加熱歩留といい、以下の式で表すことができる。加熱歩留が高い程、超音波処理を行った食品から水分が放出されないことを示し、食品原料を本発明の方法で処理し加熱調理した場合の加熱歩留は、処理を行わなかった場合の歩留より高く、例えば、80%以上、好ましくは91%以上、さらに好ましくは92%以上である。
【0052】
加熱歩留(%)(95℃、10分加熱)=処理後重量/処理前重量×100
【0053】
さらに、超音波処理を行って得られた軟化食品はパネルを用いた官能試験を行うことにより評価試験を行うことができ、他の方法で軟化処理を行った食品原料と区別することができる。
【0054】
官能評価は、例えば、本発明の方法で製造した軟化食品を加熱調理し、室温まで冷やした後に、加熱調理後のにおい(嫌なにおいかどうか)、脂の劣化具合(においや味の両面について総合的に判断)、食味(魚本来の味かどうか、苦味)、食感(やわらかさ、しっとり感)について、パネルによって評価することにより行えばよい。例えば、10名のパネルを用い、それぞれの評価項目について、1〜5のスコアを付けさせ、10名のスコアを平均すればよい。この際、本発明の方法によって製造していない食品を加熱調理したものを比較対象とし、該比較対象のスコアを3としてスコアを付けてもよい。このような官能評価により、本発明の方法で製造した魚肉は食感のスコアが4以上、好ましくは4.5以上であり、他のスコアも3以上である。
【0055】
本発明の方法で、超音波処理を行って得られた軟化食品は、処理後、そのまま真空包装し、あるいは冷凍して保存又は流通させることができる。また、処理後スライスしてIQFとして保存又は流通させることもできる。さらに、処理後、加工しやすいようにチューブやリテーナーにて整形し冷凍し、保存又は流通させることもできる。
【0056】
本発明の方法で超音波処理を行った食品は、さらに、焼成処理、スチーム加熱等の加熱処理、缶詰処理等を行い、加工品とすることができる。例えば、魚肉に焼成処理、スチーム加熱等の加熱処理、缶詰処理等を行い、魚肉加工品とすることができる。すなわち、本発明は軟化魚肉等の軟化食品の加工品の製造方法を包含する。
【0057】
本発明の超音波を利用して製造した軟化食品は上記の物性を有しているため、咀嚼・嚥下困難者、高齢者や消化機能低下者に適した食品として用いることができる。
【実施例】
【0058】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0059】
実施例で用いた実験装置の説明
図2に実験装置の模式図を示す。実験装置は容器(超音波振動槽2)(日本テクノサービス株式会社製 ステンレス550mm×356mm×343mm)に超音波振動子3(385mm×430mm×145mm、投げ込み型多周波超音波発生装置、1000W可変式、25/45/72/100kHz、株式会社ソニックテクノロジー FL-1000)を底面に設置し、酵素入り調味液を約30L満たした。酵素は、Multifect PR6L(DUPONT GENENCOR)を使用した。酵素濃度は0.5(w/w)%であった。超音波発振器1により底面側から試料に対し超音波を一定時間照射した。超音波実験装置には音圧計5及び温度計4も備わっている。
図2中の矢印は超音波が伝播する方向を示す。以下の実施例は、それぞれ前示の実験装置を用いて行ったものであり、その実験操作とともに説明する。
【0060】
実施例1 超音波を用いて製造した軟化食品の特性
超音波実験装置1の容器に調味液6を入れ、4℃〜20℃以下の条件下にて、サケ切り身7(約70gにカットした切り身)に対して超音波振動子3を用いて30分間の照射を行った。網(425mm×280mm 18-8角バットアミ)の上に切り身を配置し、これを超音波発生装置から約10cmの位置(最適水深、最適位置については音圧計(OTARI 音圧計 SONOSABER-W水用標準型)を用いて最適条件を確認しながらサンプルの固定を行い所定時間超音波照射を行った。軟化食品の物性は、例えば、日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフード(UDF)自主規格の方法あるいはそれに準ずる方法で測定することができる。日本介護食品協議会の日本介護食品協議会のユニバーサルデザインフード自主規格の方法は以下のとおりである。試料を直径40mmの容器に高さ15mmに充填し、直径20mmのプランジャーで圧縮速度10mm/sec、クリアランス5mmで測定する。ただし、測定容器に移すことで物性が変化するもの、測定容器に移せないもの、不定形なものなどは測定に支障のないことを確認して、クリアランスを試料の厚さ30%として直接測定してもよい。プランジャーの材質には規定はなく、測定機器としては、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置を用いる。例えば、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能な装置としてテクスチャーアナライザー(例えば、TA XTplus(英弘精機社製))を用い、スチームチャンバーを用いて加熱調理した食品に、φ20mm円柱型プランジャーを10mm/secの速度で試料の厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値を測定することにより行えばよい。
【0061】
凝集性及び付着性については、圧縮速度10mm/secで試料を2回、70%まで潰したときの荷重(N)を測定した。凝集性は食品に負荷を加えると、試料が変形、破損する際に負荷を連続2回加えて、1回目と2回目の負荷面積(エネルギー)の比を算出したものである。また、付着性は試料に付着して、引き離そうとする力(N)の面積(エネルギー)を算出したものである。
【0062】
歩留測定については、30秒間網に魚を静置させ水切りを行った後、調味液への浸漬前、浸漬後、及び加熱後の重量をそれぞれ測定し算出した。歩留は、浸漬歩留及び加熱歩留で示した。浸漬歩留及び加熱歩留は以下の式で算出した。
【0063】
浸漬歩留(%)=浸漬後/処理前×100
加熱歩留(%)(95℃、10分加熱)=処理後/処理前×100
【0064】
軟化処理は以下の条件で行った。
1.酵素溶液への浸漬のみ(コントロール)(
図3では、「浸漬のみ」と表示)
切り身(n=3)を食品原料として用い、凍結原料を4℃の低温室で解凍し、テンダライズ処理を2回行い、酵素を含む調味液(25L)に15分間浸漬し、5℃で24時間、酵素反応を行った。次いで、-30℃で急速冷凍し、95℃に設定したスチームチャンバーで10分間処理し酵素を失活させた。その後、放冷し室温で軟化度、凝集性及び付着性を測定し、浸漬歩留及び加熱歩留を算出した。
【0065】
テンダライズ処理とは、針状の器具を刺し通し、原形を保ったまま食品原料の硬い筋や繊維を切断する等の物理的損傷を与える処理をいう。テンダライズ処理には、テンダライザー(4.5×4.5mm, 線径2.3φ)を用いた。酵素Multifect PR6L(DUPONT GENENCOR)を0.5%以下で一定量添加した。
【0066】
2.減圧法(コントロール)(
図3では、「減圧法」と表示)
切り身(n=3)を食品原料として用い、凍結原料を4℃の低温室で解凍し、テンダライズ処理を2回行い、酵素溶液(375mL)に入れ0.09MPa条件下で5分間減圧し、その後常圧に戻すという操作を4回繰り返すことにより酵素溶液を含浸させ、5℃で24時間、酵素反応を行った。次いで、-30℃で急速冷凍し、95℃に設定したスチームチャンバーで10分間処理し酵素を失活させた。その後、放冷し室温で軟化度(かたさ、Firmness)、凝集性及び付着性を測定し、浸漬歩留及び加熱歩留を算出した。
【0067】
3.酵素の存在下での25kHzの超音波処理(
図3では、「25kHz」と表示)
切り身(n=3)を食品原料として用い、凍結原料を4℃の低温室で解凍し、テンダライズ処理を2回行い、酵素を含む調味液(25L)に入れ、切り身に超音波を1000W、25kHzで15分間照射した。次いで、5℃で24時間、酵素反応を行った。次いで、-30℃で急速冷凍し、95℃に設定したスチームチャンバーで10分間処理し酵素を失活させた。その後、放冷し室温で軟化度、凝集性及び付着性を測定し、浸漬歩留及び加熱歩留を算出した。
【0068】
4.酵素の非存在下での25kHzの超音波処理(
図3では、「25kHz(酵素なし)」と表示) 切り身(n=3)を食品原料として用い、凍結原料を4℃の低温室で解凍し、テンダライズ処理を2回行い、酵素を含まない調味液(25L)に入れ、切り身に超音波を1000W、25kHzで15分間照射した。次いで、5℃で24時間、酵素反応を行った。次いで、-30℃で急速冷凍し、酵素を失活させた。その後、放冷し室温で軟化度、凝集性及び付着性を測定し、浸漬歩留及び加熱歩留を算出した。
【0069】
5.テンダライズ無しで酵素の存在下での25kHzの超音波処理(
図3では、「テンダライズ無」と表示)
切り身(n=3)を食品原料として用い、凍結原料を4℃の低温室で解凍し、酵素を含む調味液(25L)に入れ、切り身に超音波を1000W、25kHzで15分間照射した。次いで、5℃で24時間、酵素反応を行った。次いで、-30℃で急速冷凍し、酵素を失活させた、その後、放冷し室温で軟化度、凝集性及び付着性を測定し、浸漬歩留及び加熱歩留を算出した。
【0070】
結果を
図3に示す。
図3に示すように、超音波による酵素反応の促進効果について確認できた。酵素の存在下での25kHzの超音波処理を行う方法において、減圧法よりも約30%切り身が軟化されていることが確認できた。また、従来では野菜や肉等を凍結解凍しテンダライズした物を減圧含浸する手法が用いられているが、テンダライズ処理無しの切り身に対して酵素の存在下での25kHzの超音波処理を行う方法により、ユニバーサルデザインフード(UDF)区分2の軟化度50000(N/m
2)以下になるため、より効率的に軟化食品を製造できることが示された。
【0071】
図4Aに凝集性を、
図4Bに付着性の結果を示す。
図4Bに示すように酵素の存在下での25kHzの超音波処理を行う方法において、減圧法に比べ付着性が約50%低下し、より嚥下困難者用食品として適した物性となることが確認できた。
【0072】
図5Aに浸漬歩留の結果を示し、
図5Bに加熱歩留の結果を示す。
図5A及び
図5Bに示すように、浸漬歩留は酵素の存在下での25kHzの超音波処理を行う方法と減圧法ではほぼ同じ歩留であるが、加熱歩留では酵素の存在下での25kHzの超音波処理を行う方法において、減圧法に比べて約6%程度高くなることを確認できた。このように減圧法に比べてより緩和な条件で軟化させ、歩留効果も高まることが示唆された。
【0073】
実施例2 超音波の照射時間の検討
実施例1で用いたサケの切り身を用い、酵素の存在下での25kHzの超音波処理の方法により食品原料を製造する際に、超音波処理の時間を5分、15分、30分又は60分で行い、超音波の照射時間による軟化食品への影響を検討した。
【0074】
図6−1に軟化度(かたさ、Firmness)の結果を示す。
図6−1に示すように、照射時間が長いほど軟化する傾向が確認できた。15分程度の照射が最適時間と考えられた。
【0075】
図6−2Aに付着性の結果を示し、
図6−2Bに凝集性の結果を示す。長時間照射するにしたがって、身の表面が柔らかくなり付着性、凝集性が増加したと考えられる。また、超音波照射することで減圧法に比べ付着性が約50%低下し、より嚥下困難者用食品に適した軟化食品であることが確認できた。
【0076】
図6−3Aに浸漬歩留の結果を示し、
図6−3Bに加熱歩留の結果を示す。超音波照射5分では浸漬液が身に入りにくいため歩留が低く、照射15分で歩留が最大となり、それ以降は柔らかくなり過ぎて、身崩れが起きるため、歩留が低下していく傾向が確認された。
【0077】
実施例3 超音波の周波数の検討
実施例1で用いたサケの切り身を用い、酵素の存在下での超音波処理の方法により食品原料を製造する際に、照射する超音波の周波数を25kHz、45kHz、100kHz及び25kHzと100kHzの交互照射(25kHzで10秒間照射し、100kHzで10秒間照射を所定時間繰り返し照射)とし、超音波の周波数による軟化食品への影響を検討した。照射時間は30分であった。
【0078】
図7−1に軟化度の結果を示す。
図7−1に示すように、25kHzが一番かたさが低下し、低周波ほど軟化効果が高いことが確認できた。調味液や身の質によっても軟化度に与える影響がある可能性がある。
【0079】
図7−2Aに付着性の結果を示し、
図7−2Bに凝集性の結果を示す。
図7−2Aに示すように、周波数が増加するにしたがって、付着性が増加する傾向が確認された。また、
図7−2Bに示すように、周波数が増加するに従って、凝集性も増加する傾向が確認されたが、25kHzと100kHzの交互照射ではそれほど増加しなかった。
【0080】
図7−3Aに浸漬歩留の結果を示し、
図7−3Bに加熱歩留の結果を示す。
図7−3A及び
図7−3Bに示すように、低周波である25kHzでの歩留(浸漬歩留、加熱歩留)が他の周波数に比べて高くなることが確認できた。
【0081】
また、
図7−4に175kHz,1000Wの超音波を処理した場合の結果を示す。
図7−4Aに軟化度(かたさ、Firmness)を示し、
図7−4Bに付着性を示す。
図7−4は、175kHzの高周波帯でも同様に軟化食品を製造することが可能であることを示している。
【0082】
実施例4 超音波の照射強度の検討
実施例1の「酵素の存在下での25kHzの超音波処理」の検討において、超音波の照射強度を28kHz、1800Wで行った。
軟化度(かたさ、Firmness)、付着性及び凝集性、並びに浸漬歩留及び加熱歩留を表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1に示すように、1800Wでの照射によっても、良好な物性を有する軟化食品を製造することができた。
【0085】
実施例5 サケ以外の魚種に対する超音波処理の検討
実施例1で用いたサケの切り身をホキの切り身に代えて酵素の存在下での超音波処理の影響を検討した。
図8に、軟化度(かたさ、Firmness)(
図8A)、付着性(
図8B)及び凝集性(
図8C)、並びに浸漬歩留及び加熱歩留を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
図8に示すように、ホキの切り身においても、軟化食品を製造することができた。このように比較的軟らかい切り身であるホキに対しても照射時間や周波数等の緩和な条件で軟化させることが示唆された。
【0088】
実施例6 野菜に対する超音波処理の検討
酵素溶液への浸漬のみ(
図9−1及び9−2では「浸漬のみ」と表示)サトイモ(約100g)を食品原料として用い、輪切り(約5mm)にした凍結原料を4℃の低温室で解凍した。実施例1と同様の超音波処理の方法により、酵素を含む調味液(25L)に30分間浸漬し、5℃で24時間酵素反応を行った。減圧法についても実施例1と同様に行った。超音波照射は実施例1の「酵素の存在下での25kHzの超音波処理」の検討と同様の方法で30分間照射した(
図9−1及び9−2では「超音波」と表示)。
図9−1に歩留結果を示す。
図9−1Aは、浸漬歩留を示し、
図9−1Bは加熱歩留を示す。
図9−1に示すように、従来法である減圧処理に比べて超音波処理は歩留(浸漬歩留、加熱歩留)が向上していることが確認できた。
【0089】
また、
図9−2に物性値として、軟化度(かたさ、Firmness)(
図9−2A)及び付着性(
図9−2B)及び凝集性(
図9−2C)の結果を示す。超音波試験区では付着性が低下し、凝集性が高くなる傾向があることから、嚥下困難者用食品として適した物性となることが確認できた。
【0090】
実施例7 超音波の高出力密度下の検討
DKSHジャパン社製UIP1000hd(約600W,20kHz)出力密度41W/cm
2を用いて、酵素存在下で検討を実施した。実施例1で用いたサケで酵素入り調味液500mLに対して切り身1枚を片面1分間照射した後、裏返し、更に片面1分間(合計2分間)超音波を照射した。投げ込み型超音波装置(約0.6W/cm
2)では魚肉を軟化させるために約15分間の照射を要したため、更に時間短縮・酵素反応促進を期待し、強力な超音波装置(ホーン型)で検討を行った。その硬さの結果を表3に示す。表3に示すように、2分間の照射でも高出力密度下の超音波照射を行えば、軟化できる可能性が示唆された。
【0091】
【表3】