特許第6509303号(P6509303)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6509303
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】情報処理装置、方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 17/50 20060101AFI20190422BHJP
【FI】
   G06F17/50 638
   G06F17/50 612A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-209076(P2017-209076)
(22)【出願日】2017年10月30日
【審査請求日】2018年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】309025096
【氏名又は名称】日本システム開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120581
【弁理士】
【氏名又は名称】市原 政喜
(72)【発明者】
【氏名】谷川 智久
(72)【発明者】
【氏名】谷林 徹
(72)【発明者】
【氏名】一條 寛和
【審査官】 松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−086892(JP,A)
【文献】 特開2010−277328(JP,A)
【文献】 特開2011−070503(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 17/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格納したデータに基づいて所定の組成で製造された製品についてのシミュレーションを実行する情報処理装置であって、
前記製品の製造に用いる原料データおよび量として設定すべき単位を格納する原料マスターと、
前記製品の製造に用いるプロセスの処理内容を含むプロセスデータを格納するプロセスマスターと、
製造された前記製品に対し実行される評価条件および評価結果を示す単位を含む評価データを格納する評価マスターと、
前記原料マスターから選択された複数の原料の、前記格納された単位により設定された量での配合と、前記プロセスマスターから選択された複数のプロセスの処理時間を含む設定とにより製造された製品の試験を行った結果得られる、前記評価マスターから選択された評価条件による評価を行って得られた評価結果の値との組み合わせである配合設計データを格納するデータベースと、
前記データベースに含まれる複数の原料の配合、複数のプロセスの設定および評価の値の複数の組合せに基づいて前記製品に関する予測モデルを生成する生成手段と、
前記予測モデルを用いて、シミュレーションを実行するシミュレーション実行手段と
を備えたことを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記シミュレーション実行手段は、前記データベースには格納されていない前記原料の配合または前記プロセスの設定により製品を製造した場合の、評価の値を、重回帰分析を使用したシミュレーションにより取得し、
前記予測モデルは、前記評価の各々について前記原料ごとおよび前記プロセスごとの回帰係数を含むことを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記シミュレーション実行手段は、前記データベースには格納されていない前記製品の評価の値を得られるであろう前記原料の配合または前記プロセスの設定をシミュレーションにより取得し、前記シミュレーションにより取得する原料又はプロセスは、前記製品を製造するために必要な原料又はプロセスのなかから一部を予め選択することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
格納したデータに基づいて所定の組成で製造された製品についてのシミュレーションを実行する情報処理方法であって、
前記製品の製造に用いる原料データおよび量として設定すべき単位を格納する原料マスターから選択された複数の原料の配合と、前記製品の製造に用いるプロセスの処理内容を含むプロセスデータを格納するプロセスマスターから選択された複数のプロセスの設定とにより製造された製品の試験を行い、その結果得られる、製造された前記製品に対し実行される評価条件および評価結果を示す単位を含む評価データを格納する評価マスターから選択された評価条件による評価を行って得られた評価結果の評価の値との組み合わせである配合設計データをデータベースに格納する格納ステップと、
前記データベースに含まれる複数の原料の、前記格納された単位により設定された量での配合、複数のプロセスの処理時間を含む設定および評価の値の組合せに基づいて前記製品に関する予測モデルを生成する生成ステップと、
前記予測モデルを用いて、シミュレーションを実行するシミュレーション実行ステップと
を備えたことを特徴とする情報処理方法。
【請求項5】
格納したデータに基づいて所定の組成で製造された製品についてのシミュレーションを行う情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記情報処理方法は、
前記製品の製造に用いる原料データおよび量として設定すべき単位を格納する原料マスターから選択された複数の原料の配合と、前記製品の製造に用いるプロセスの処理内容を含むプロセスデータを格納するプロセスマスターから選択された複数のプロセスの設定とにより製造された製品の試験を行い、その結果得られる、製造された前記製品に対し実行される評価条件および評価結果を示す単位を含む評価データを格納する評価マスターから選択された評価条件による評価を行って得られた評価結果の評価の値との組み合わせである配合設計データをデータベースに格納する格納ステップと、
前記データベースに含まれる複数の原料の、前記格納された単位により設定された量での配合、複数のプロセスの処理時間を含む設定および評価の値の組合せに基づいて前記製品に関する予測モデルを生成する生成ステップと、
前記予測モデルを用いて、シミュレーションを実行するシミュレーション実行ステップと
を備えたことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は情報処理装置、方法、およびプログラムに関し、より具体的には、配合データとプロセスデータなどの実験データを管理し、配合設計を支援する情報処理装置、方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
かつて、化学製品などの配合設計を、コンピュータを用いて行う方法が提案されていたが、例えば原材料やプロセスが多い場合には、結果に寄与するパラメータの数が多くなり、コンピュータを用いた方法でも最適な配合設計を行うことは困難であるため、結局熟練した技術者(熟練者)の知識や経験に基づいて、配合設計が行われることが多かった。しかし、熟練者が配合設計を行うと、データ管理は個人任せになり、データの整理・共有化がされていないと、いずれデータが散逸してしまったり、実験データの引き継ぎが適切に行われず、技術者の教育も困難になったりした。
【0003】
そこで、配合シミュレーションから得られた多数のデータを使って、技術者教育や後継者育成を目的とし、配合設計用シミュレーションデータベース装置、配合設計用システム、方法およびプログラムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の配合設計用シミュレーションデータベース装置1は、配合実験で用いられた原料データとプロセスデータと評価データが実験データとして登録されるデータベース部2と、実験データに基づいて予測モデルを構築するモデル構築部3を備え、装置1の配合シミュレーション部4は、ユーザが入力した原料データとプロセスデータに基づいて、予測モデルを用いた配合シミュレーションを行なって、入力された原料とプロセスから予測される配合結果の評価を出力データとして出力し、装置1の結果反映部5は、入力データと出力データを実験データとしてデータベース部に登録して、配合シミュレーションの結果をデータベース部に反映させるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−277328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の、例えば特許文献1の配合設計用シミュレーションデータベース装置1は、特定の対象製品についてのみ原材料やプロセスのデータベースを管理し、シミュレーションをするというものであり、様々な製品に対して応用するため種々のパラメータをどのようにマスター管理するか、具体的な予測モデルをどのように生成するかなどが明確になっておらず、結局特定の製品にしか対応できないものになっているという問題がある。
【0006】
このため本発明では、様々な製品に対応して原料データとプロセスデータを柔軟に構築し、配合シミュレーションを行うことができる配合設計支援方法、システムおよびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、格納したデータに基づいて所定の組成で製造された製品についてのシミュレーションを実行する情報処理装置であって、製品の製造に用いる原料データおよび量として設定すべき単位を格納する原料マスターと、製品の製造に用いるプロセスの処理内容を含むプロセスデータを格納するプロセスマスターと、製造された製品に対し実行される評価条件および評価結果を示す単位を含む評価データを格納する評価マスターと、原料マスターから選択された複数の原料の、格納された単位により設定された量での配合と、プロセスマスターから選択された複数のプロセスの処理時間を含む設定とにより製造された製品の試験を行った結果得られる、評価マスターから選択された評価条件による評価を行って得られた評価結果の値との組み合わせである配合設計データを格納するデータベースと、データベースに含まれる複数の原料の配合、複数のプロセスの設定および評価の値の複数の組合せに基づいて製品に関する予測モデルを生成する生成手段と、予測モデルを用いて、シミュレーションを実行するシミュレーション実行手段とを備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の情報処理装置において、シミュレーション実行手段は、データベースには格納されていない原料の配合またはプロセスの設定により製品を製造した場合の、評価の値を、重回帰分析を使用したシミュレーションにより取得し、予測モデルは、評価の各々について原料ごとおよびプロセスごとの回帰係数を含むことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の情報処理装置において、シミュレーション実行手段は、データベースには格納されていない製品の評価の値を得られるであろう原料の配合またはプロセスの設定をシミュレーションにより取得し、シミュレーションにより取得する原料又はプロセスは、製品を製造するために必要な原料又はプロセスのなかから一部を予め選択することを特徴とする。
【0015】
請求項4に記載の発明は、格納したデータに基づいて所定の組成で製造された製品についてのシミュレーションを実行する情報処理方法であって、製品の製造に用いる原料データおよび量として設定すべき単位を格納する原料マスターから選択された複数の原料の配合と、製品の製造に用いるプロセスの処理内容を含むプロセスデータを格納するプロセスマスターから選択された複数のプロセスの設定とにより製造された製品の試験を行い、その結果得られる、製造された製品に対し実行される評価条件および評価結果を示す単位を含む評価データを格納する評価マスターから選択された評価条件による評価を行って得られた評価結果の評価の値との組み合わせである配合設計データをデータベースに格納する格納ステップと、データベースに含まれる複数の原料の、格納された単位により設定された量での配合、複数のプロセスの処理時間を含む設定および評価の値の組合せに基づいて製品に関する予測モデルを生成する生成ステップと、予測モデルを用いて、シミュレーションを実行するシミュレーション実行ステップとを備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項5に記載の発明は、格納したデータに基づいて所定の組成で製造された製品についてのシミュレーションを行う情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、製品の製造に用いる原料データおよび量として設定すべき単位を格納する原料マスターから選択された複数の原料の配合と、製品の製造に用いるプロセスの処理内容を含むプロセスデータを格納するプロセスマスターから選択された複数のプロセスの設定とにより製造された製品の試験を行い、その結果得られる、製造された製品に対し実行される評価条件および評価結果を示す単位を含む評価データを格納する評価マスターから選択された評価条件による評価を行って得られた評価結果の評価の値との組み合わせである配合設計データをデータベースに格納する格納ステップと、データベースに含まれる複数の原料の、格納された単位により設定された量での配合、複数のプロセスの処理時間を含む設定および評価の値の組合せに基づいて製品に関する予測モデルを生成する生成ステップと、予測モデルを用いて、シミュレーションを実行するシミュレーション実行ステップとを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によると、製品の製造に用いる原料データを格納する原料マスターと、製品の製造に用いるプロセスデータを格納するプロセスマスターと、製造された製品に対し実行される評価データを格納する評価マスターと、原料マスターから選択された複数の原料の配合と、プロセスマスターから選択された複数のプロセスの設定とにより製造された製品の試験を行った結果得られる、評価マスターから選択された評価の値との組み合わせである配合設計データを格納するデータベースと、データベースに含まれる複数の原料の配合、複数のプロセスの設定および評価の値の複数の組合せに基づいて前記製品に関する予測モデルを生成する生成手段と、予測モデルを用いて、シミュレーションを実行するシミュレーション実行手段とので、様々な製品に対応して原料データとプロセスデータを柔軟に構築し、配合シミュレーションを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態の全体のシステム構成図である。
図2】本発明の一実施形態のデータベースの処理の概要を説明するための図である。
図3】本発明の一実施形態のシステムの機能ブロック図である。
図4】本発明の一実施形態の配合登録処理の一例を示すフローチャートである。
図5】本発明の一実施形態の組成設定の画面の例を示す図である。
図6】本発明の一実施形態の配合設計データの検索結果画面の一例を示す図である。
図7】本発明の一実施形態の組成マスターの例を示す図である。
図8】本発明の一実施形態のシミュレーションの対象となる製品の配合設計データの画面の一例を示す図である。
図9】本発明の一実施形態の重回帰モデルの画面の例を示す図である。
図10】本発明の一実施形態の配合設計データの物性予測のシミュレーション画面の一例を示す図である。
図11】本発明の一実施形態の物性シミュレーション処理のフローチャートである。
図12】本発明の一実施形態の配合設計データの配合予測のシミュレーション画面の一例を示す図である。
図13】本発明の一実施形態の組成マスターの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の情報処理装置、方法、およびプログラムについて図面を参照して実施形態を説明する。なお、異なる図面でも、同一の処理、構成を示すときは同一の符号を用いる。
【0020】
(システム構成)
図1は、本発明の一実施形態の全体のシステム構成図である。本実施形態では、図1に示すように、本システムの各種処理を実行する情報処理装置である配合設計支援サーバ101には、本システムで使用する各種マスターを備えたマスターデータ群102および配合設計データなどを格納する配合設計データベース103が接続されている。また、配合設計支援サーバ101は、各種クライアント端末111〜113とネットワーク104を介して接続し、各種クライアント端末からの要求等により、各種データベースにアクセスして配合設計支援を実行する。
【0021】
本実施形態では、図3の機能ブロック図に示すように1つの配合設計支援サーバ101で、各種処理、例えばマスター管理モジュール301によるマスター管理処理、配合処理モジュール302による配合設計処理、配合検索モジュール303による配合検索処理、シミュレーション処理モジュール304によるシミュレーション処理などを実行するが、これに限られず、さらに多くの処理を実行することができる。ここで、少なくとも以上4つの処理は配合設計支援サーバ101で実行するように記載したが、これとは別に複数のサーバを用意して以上の各種処理の機能を分担させることもできる。
【0022】
また、マスターデータ群102には、ユーザの各グループを管理するためのグループマスターおよびユーザマスター、製品の組成についての各情報を管理するための組成マスター、製品の成分についての各情報を管理するための成分マスター、製品の製造プロセスについての各情報を管理するためのプロセスマスター、製品に対する実験等により得られる評価内容である物性についての各情報を管理するための物性マスターなどを含むが、これに限られず各種のデータをマスターとして整理して格納することができる。
【0023】
すなわち、本実施形態の配合設計支援サーバ101は、取り扱うデータをそのままシステムに組み込んで使用するのではなく、種類別にマスター化しておき、マスターを管理することにより新たなデータが加わったときにも迅速、柔軟に対応できるようにしている。例えば、上述の組成マスターを例に説明すると、組成マスターには製品の各組成として指定することができる各組成材料についてのデータが格納され管理されている。具体的には、図7に示すようにメーカー、組成種別、製品名、単位、単価、その他配合設計に有用な情報を格納しておくことができる。組成マスターは、逐次更新管理され、最新の状態にしておけば、各種製品で共通する組成材料を個別に管理したり、調べたりする必要がなく、また誤った情報を使用することも回避することができる。
【0024】
さらに、本実施形態のシステムではアクセス権の管理なども行っているので、各データをマスター化することにより、詳細は後述するが、同一のマスターを使用しながら、ユーザグループを分割して、各グループが使用しないデータはアクセスできないようにし、誤入力を防止して、使用時の煩雑さを軽減させながら、管理者は1つのマスターを横断的に管理するようにすることもできる。
【0025】
以上のような各種マスターが配合設計支援サーバでは用いられるが、そのうち本実施形態では上述した5つのマスターを主に使用するので、それ以外のマスターについてここでは言及しないが、必要に応じ、本技術分野で知られた方法で、管理、活用することができる。また、本実施形態はマスターデータ群102に含めているが、これに限られず、各マスターは分けて格納しておくこともできるし、一部配合設計データベースなどとともに格納することもでき、システム構成は本技術分野で知られるいずれの方法も使用することができる。
【0026】
クライアント端末111〜113は、例えば、各種ユーザがシステム管理、マスター管理等の管理業務に使用したり、配合設計支援に使用したりするが、ネットワーク104を介して配合設計支援サーバ101と通信できるものであればパソコンに限られず、いずれかの端末装置を使用することができ、タブレット等の移動端末を使用することもできる。また、例えばタブレット端末とする場合、本実施形態でネットワーク104との接続は、例えば携帯電話の回線や、Wi−fi、BLUETOOTH(登録商標)等の無線ネットワークにより行うことができる。
【0027】
本実施形態では、以上の構成により、配合設計支援処理を実行するが、具体的には、実験で得た様々なデータをデータベースとして統合管理し、既存のデータの検索だけでなく、存在しないデータについてもシミュレーション機能による配合予測および物性予測を提供することにより、配合設計を支援する。以下、各支援機能の処理を説明するが、各マスターの保守、管理処理は以下の説明で各マスターの構成を理解できれば本技術分野で知られたいずれかのマスターデータの処理手法を使用して実行できるので、詳述しない。
【0028】
(配合設計データ設定処理)
配合設計は、所定の原料の組合せで配合し、所定の(製造)プロセスの組合せを使用することで製造された製品についてどのような性能や性質の評価ができるかを設計するものであり、まず、実験により得られたデータを入力、管理する必要がある。すなわち、配合設計で管理すべきデータは、原料の組合せ、プロセスの組合せ、およびこれらの組合せで製造された製品を所定の評価方法で評価した場合の評価結果のさらに組合せとなる。ここで、通常、製品の製造は一連の製造処理であるが、この一連の製造処理は一般にいくつかのプロセス単位に分解することができる。例えば、混合処理、加熱処理、冷却処理など各処理ごとの条件を定めて組み合わせることにより一連の製造処理を規定することができる。
【0029】
また、製造された製品の評価について、通常、1つの製品でも評価項目は複数あり、それぞれ評価方法や条件、得られる結果はさまざまである。例えば、評価内容が強度の場合も様々な条件の設定が考えられ、得られる結果は強度であるから、単位は応力などを表す単位になる。また、耐熱性等の評価であれば、単位は温度あるいは時間等とする場合が多い。以上の通り、配合設計データは、原料、プロセスおよび評価の各データの組合せとなるが、さらに原料、プロセスおよび評価とも、それ自体それぞれ複数のデータの組合せになっている。
【0030】
以上のような配合設計データの管理について図2を参照して説明する。本実施形態では、上述したように、各種マスターを介して、配合設計データの管理を行う。すなわち、原料の設定は原料のマスターを介して、プロセスの設定はプロセスマスターを介しておよび評価の設定は評価のマスターを介して行う。図2に示すように原料の配合は組成マスター202および成分マスター203から、プロセスはプロセスマスター204から、評価は物性マスター205から選択して入力する。ここで、本実施形態では便宜上、原料データとして、製品の主な原料となる組成に関する組成データと、添加剤等の副次的な材料に関する成分データとに分けてデータベース化し、マスターもそれぞれ組成マスターおよび成分マスターを備えているが、これに限られず1つのデータベースに統合することもできるし、さらに複数のデータベースに分けて管理することもできる。プロセスマスター、物性マスターも同様であるが、いずれにしても、組成、成分を含む原材料などを管理する原料マスター、製造工程を何らかの単位で規定するプロセスマスターおよび物性など評価を設定するための評価マスターを備えたシステムは本願発明の範囲に含まれる。
【0031】
図3は、本実施形態のシステムの機能ブロック図であり、図4は、本実施形態の配合登録処理の一例を示すフローチャートである。以下に詳述するように、配合設計支援サーバ101の配合処理モジュール302は、図4に示すフローチャートに沿って配合設計データの入力処理の支援を行い、所定の製品について組成データ、成分データ、プロセスデータを入力していき、そのような配合で製造される物性を入力して、配合設計データの入力は終了する(ステップ401〜408)。
【0032】
図5は本実施形態の組成設定の画面の例を示す図である。また、図6は、本実施形態の配合設計データの検索結果画面の一例を示す図であり、図7は、本実施形態の組成マスターの例を示す図である。図7に示すように各組成材料について単位や比重などが登録されており、配合設計する際に必要な情報を組成マスターから読み込んで計算できるようになっている。図5に示す配合設定画面で新たに組成材料を指定する場合は、このような組成マスター、あるいは組成マスターを選択しやすいように加工した表などをプルダウンメニューなどのようにして表示させて指定することができる(不図示)。すなわち、新たに組成を追加するときは行を追加し、すでに設定された組成についてはその行501にカーソルを合わせて、規定された単位の量を指定することにより配合の設定ができる。本実施形態では、図5に示すように、1つの画面で「検討1」〜「検討×」の複数の配合データを取り扱うことがでる。すなわち、項目502の各材料について「検討×」503ごとに、所望の量を設定することにより、配合データを設定することができる。成分データについても同様に設定することができ、本実施形態で原料データは組成データと成分データとの組み合わせになるから、配合データは各組成材料および成分材料と、それらについて設定した量(配合割合)の組合せとなる。なお、本実施形態では、組成マスターに単価や特性が設定できるので、これらの情報をもとに図5に示すように設定した量の場合の価格504や容積505を計算して表示することができる。
【0033】
同様に、プロセスデータ、物性データについても、それぞれプロセスマスター、物性マスターから項目を選択して、量、時間、条件などの指定を行って配合設計データを入力することができる。例えば、プロセスデータの場合は、一般には混練、加熱等配合された組成材料に対して何らかの処理をプロセスマスターから選択して規定する。混練であれば速度と時間、加熱であれば温度と時間などを選択したプロセスごとに設定することになり、上述の配合データと同様、プロセスデータは各プロセスと、それらについて設定した条件等の組合せとなる。同様に、物性データは、実験等の各評価と、それらについて得られた結果、例えば強度や、耐久性を示す値との組合せとなる。したがって、配合設計データベース103が管理する配合設計データは、配合データに基づき配合された組成物を、プロセスデータで規定される工程で製造された製品ごとに評価されて得られた物性データの組合せになる。例えば、図6に示すように組成データ601が全く同じでも、プロセスデータ602が異なれば物性データ603は、当然異なったものになるので、配合設計データは、配合データ、プロセスデータおよび物性データの組合せの数だけ存在することとなる。
【0034】
本実施形態では、以上のようにして配合設計データを入力し、配合設計データベース103に格納することにより、配合設計データを管理する。上記では、配合設計データの入力について説明したが、検索等により所望の配合設計データを抽出して、さらに新たな実験結果を加えて新たなデータとすることもできるし、修正削除など本技術分野で知られたいずれのデータベースの処理も適用することができる。
(本実施形態のシミュレーション処理)
以上説明したように、配合設計データベース103により、過去の実験データが配合設計データという態様で管理され、所望のデータを検索して、必要なデータ、例えば所定の組成で何種類かの工程で製造した製品がどのような物性を有するか等を容易に知ることができる。しかし、データベース上に存在しない組み合わせ、例えば未採用の配合割合により配合されて製造したり、未採用のプロセス条件を適用して製造されたりした場合に得られるであろう製品の物性は通常の検索では発見することができない。
【0035】
本実施形態では、シミュレーションを行うことで、物性等の予測を行う。シミュレーションによる予測としては、上記のように配合データおよびプロセスデータから得られるであろう物性データを予測する物性予測、および所望の物性からそのような製品を製造するための配合又はプロセスを予測する配合予測がある。物性予測も配合予測も基本的には同様であるが、以下、先ず物性予測について説明する。
【0036】
物性予測を実行する場合、まず近い製品の配合設計データを検索し、得られた配合設計データに基づいて、所望の配合比率を入力したり、プロセスの条件を変更したりすることにより、新たな配合データおよびプロセスデータの組合せについて、シミュレーションを行い、得られるであろう製品の物性を予測する。本実施形態では、重回帰モデルによりシミュレーションを行うが、これに限らず本技術分野で知られたいずれかの多変量解析を用いてシミュレーションを行なうことができる。
【0037】
図8〜11を参照して、物性シミュレーションの処理を説明する。図8は、本実施形態のシミュレーションの対象となる製品の配合設計データの画面の一例を示す図であり、図9は、本実施形態の重回帰モデルの画面の例を示す図である。図10は、本実施形態の配合設計データの物性予測のシミュレーション画面の一例を示す図であり、図11は、本実施形態の物性シミュレーション処理のフローチャートである。
【0038】
本実施形態の配合設計支援サーバ101のシミュレーション処理モジュール304は、対象となる製品の配合設計データが選択されると(ステップ1101)、各データをX軸801、Y軸802に割り振る(ステップ1102)。図8に示すようにX軸:予測に使うデータ(組成データ、プロセスデータ)およびY軸:予測したいデータ(物性データ)として重回帰モデルを作成することにより、X軸の値を変更した場合におけるY軸の値が予測できるようになる。このデータに基づいて、重回帰モデルを生成する(ステップ1103)。本実施形態の重回帰モデルは、対象製品の実績データをもとに、シミュレーションをするための予測式であり、具体的にはY=a+bX1+cX2+dX3・・・である。本式において、aは切片の係数であり、b、c、d・・・は、予測に使うデータの回帰係数である。すなわち、図8に示すX軸、Y軸に割り振ったデータに基づいて、重回帰分析を行い、切片の係数および回帰係数を求める。ここで、切片の係数および重回帰係数は、本技術分野で知られたいずれかの方法により取得するものとし、ここでは詳細には言及しない。
【0039】
図9を参照すると、Y軸の列901には図8で割り振った物性データが並び各物性データごとに換算係数902が設定される。ここで換算係数は、上記で得られた重回帰分析の各係数から各組成材料の量の単位などを換算して計算した係数であり、基本的に組成の量を設定していけばその配合により製造される製品の物性の値(Y値)が得られる。具体的には、図10に示すようなシミュレーション入力画面1001で各組成の項目に数値を入力することにより、物性の値が計算されて物性出力画面1004に出力される(ステップ1104)。例えば、No.38の組成データ1002を、予測入力フィールド1003にコピーし、カーボンCの値を62.5から65に変えて、このデータでシミュレーションをすると、予測物性データ1006が得られる。No.38の組成データ1002に対応するNo.38の物性データ1005と予測物性データ1006を比較すると、カーボンCの値を変えただけであるが、物性データは全般的に変化しているのが理解できる。
【0040】
以上により、本実施形態では重回帰モデルを用いて、配合を変化させた場合の物性の変化をシミュレーションで取得することができる。なお、上述の説明では、基本的に選択された配合データの全組成について回帰係数を求める方法を説明したが、これに限られることなく、あらかじめ指定した組成だけについて重回帰モデルを作成して、シミュレーションを行うことができる。理論的には、変化しない組成はモデルに含めなくても類似の結果が予想されるが、製品や組成の特性、その他の条件でより的確なシミュレーションとなることもあり、また、因子を減らせるので効率的なシミュレーションも可能となる。また、同様に対象となる物性を限定する、予測データ限定機能を指定して物性予測をすることもでき、同様の効果を得ることができる。
【0041】
次に、配合予測について説明すると、基本的には同様である。物性予測の場合と同様に、対象となる配合設計データを選択した後、上記の物性予測とは逆に、X軸に物性を、Y軸に組成を割り振り、重回帰モデルを生成する。モデルが生成されれば、上記の物性予測と同様に予測式を算出して、換算係数を求め、設定された物性の値に対して、組成を予測する。ただし、ここで、物性データは、それぞれ独立している点が物性予測の場合と異なる。すなわち、例えば強度の実験と耐久性の実験とは相互に関連はないので、物性予測の場合は強度の実験結果が耐久性の実験結果に影響を及ぼすことはなく、それぞれ独立した結果を得ることができる。しかし、配合予測の場合、組成原料の配合割合を規定することになる配合データは、その配合割合自体が物性に影響するので、所定の物性データとなる組成の組合せは無限になり特定できない可能性がある。
【0042】
例えば、A、B、Cという材料を使用するような3種類以上の材料の組合せの場合、理論的には重回帰モデルでシミュレーションが可能だが、実際にはそれぞれの材料の配合割合が相互に影響を受けるので、最も確からしい組合せになる保証はなく、精度の高い予測は容易ではない。したがって、組成予測を行う場合は材料の種類を1種類あるいはある程度限定した数とすることにより、精度の高い配合予測が可能となる。本実施形態のシステムは、上記した予測データ限定機能を有するので、配合予測シミュレーションの際に予測すべき組成を限定しておくことができる。具体的に、図12を参照して説明すると、配合予測シミュレーション画面の物性設定画面1201に所望の物性を設定した後、予測データ限定設定1203で対象となる配合データのうち、特に予測したい組成のみを指定しておけば、その組成に限定して予測することができる。その結果は予測表示画面1202に表示される。上記したように設定データの種類も設定データ限定設定1204を使用することにより、限定することができる。
【0043】
(グループマスターおよびユーザマスター処理)
本実施形態のシステムを使用するユーザは、使用目的や会社内の組織などにより、様々な属性を有する。グループマスターおよびユーザマスターは、そのようなユーザおよび属性を管理するマスターデータである。グループマスターおよびユーザマスターに登録することにより、各ユーザは自己が属するグループごと、および個人ごとに使用権限などを定められ、権限のない者の不用意なアクセスを防止することができる。例えば、図13に示すユーザマスターでは、各ユーザごとに各種データの閲覧や各種機能の使用を規定している。
【0044】
以上のように、グループマスターおよびユーザマスターは、ユーザの使用の確保と、セキュリティの確保のために主に使用されるが、本実施形態では、同一のマスターを使用しながら、ユーザグループを分割して、各グループが使用しないデータはアクセスできないようにすることができる。これにより、誤入力を防止して、使用時の煩雑さを軽減させながら、管理者は1つのマスターを横断的に管理するようにすることができる。例えば、1つのマスターでゴム製品を扱うユーザ、樹脂製品を扱うユーザなどを設定して、1つのマスターで管理する組成材料のうちゴム製品担当のユーザと樹脂製品担当のユーザとで扱うことができる材料を規定することができる。具体的には、原料・社員・配合・物性などに権限を持たせ、グループマスターにゴム製品担当のグループ(事業部1)および樹脂製品担当のグループ(事業部2)を登録しておく。ここで、ユーザマスターでユーザにグループ(権限)を設定し、グループにはゴム、樹脂、プラスチック、化粧品等を割り当てる。作業はグループ毎に管理されており、本実施形態のシステムにログインしたユーザは、そのユーザに設定されたグループの作業に関するデータしか参照できないので、配合を例えば作業やグループに紐付けておけば、ゴム製品にしか使用しない配合を樹脂製品担当のユーザが参照することができないようにすることができる。逆に、樹脂製品にしか使用しない配合はゴム製品の担当のユーザには参照できないようにすることができる。
【0045】
このように、原料(組成)/プロセス/物性に関して、それぞれのマスターでグループが指定でき、この設定によって、ログインした時に、ユーザ設定されたグループの原料(組
成)/プロセス/物性)だけが選択可能とすることができる。これにより、ユーザは自己が関係ある製品に関する情報しか取り扱わないから、作業の煩雑さを軽減することができ、誤った指定を防止することができる。また、管理者は1つのシステムで横断的にマスターを管理することができるので、効率的な運用ができる。
【要約】
【課題】 様々な製品に対応して原料データとプロセスデータを柔軟に構築し、配合シミュレーションを行うこと。
【解決手段】 原料の配合は組成マスター202および成分マスター203から、プロセスはプロセスマスター204から、評価は物性マスター205から選択して入力する。ここで、本実施形態では便宜上、原料データとして、製品の主な原料となる組成に関する組成データと、添加材等の副次的な材料に関する成分データとに分けてデータベース化し、マスターもそれぞれ組成マスターおよび成分マスターを備えている。
【選択図】 図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13