(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
直列接続されている複数の前記燃料電池セルの最端部に電気的に接続され、前記燃料電池セルで発電された電力を導くリード部を前記基体管の前記一端部側および前記他端部側に形成する工程と、
前記Aタイプセルスタックおよび前記Bタイプセルスタックの少なくとも一方のセルスタックの前記リード部上に識別部を形成する工程と、
を含み、
焼成前の基体管上にリード部材料および識別部材料を成膜した後に一体焼成して前記リード部および前記識別部を形成する請求項2または請求項3に記載の燃料電池カートリッジの製造方法。
前記一端部側および前記他端部側の前記基体管上に形成され、直列接続されている複数の前記燃料電池セルの最端部に電気的に接続されて前記燃料電池セルで発電された電力を導くリード部と、
前記Aタイプセルスタックおよび前記Bタイプセルスタックの少なくとも一方のセルスタックの前記リード部上に形成された識別部と、
を備えている請求項7に記載の燃料電池カートリッジ。
複数の前記セルスタックが、各基体管の軸方向の対応する任意の位置において前記気孔率の値が異なるセルスタックを含み、相対的に前記気孔率の値が小さいセルスタックが前記燃料電池カートリッジ内の中央領域に配置され、相対的に前記気孔率の値が大きいセルスタックが前記燃料電池カートリッジ内において前記中央領域の外側周辺となる外側周辺領域に配置されている請求項6から請求項8のいずれかに記載の燃料電池カートリッジ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
セルスタックにおいて複数の燃料電池セルは直列接続されているため、各燃料電池セルを流れる電流量(発電反応)は等しく、各燃料電池セルの電圧は異なる。各燃料電池セルを流れる電流量は基体管の長手方向(軸方向)で等しいため、電流量は燃料供給側の燃料電池セルに比べ、発電反応のポテンシャルが低い燃料排出側の燃料電池セルで律速する。
【0008】
基体管の一端より供給された燃料ガスは、基体管の内部を通り、他端側より排出される。セルスタックの発電部(燃料電池セル)にて燃料ガス中の反応寄与成分(H
2、CO)が消費されるため、燃料ガスが排出される側に近いほど、反応寄与成分の濃度は薄くなる。このため、燃料ガスが供給される側の燃料電池セルに比べ、燃料ガスが排出される側の燃料電池セルは性能(電圧)が低くなる。また、基体管の燃料ガスが排出される側では、燃料ガスが供給される側よりも基体管内部を流通した分、圧力損失が生じる。そのため、基体管の燃料ガスが排出される側では、燃料ガスが供給される側よりも燃料ガスの分圧が低く、発電反応が起こりにくい。したがって、セルスタックの電流量は、燃料ガスが排出される側にある燃料電池セルの電流量にて律速する。
【0009】
燃料ガスが排出される側の燃料電池セルは性能(電圧)が低くなる、または、電流量が発電反応のポテンシャルが低い燃料電池セルで律速されると、燃料電池セルが直列接続されたセルスタックの発電量も低く抑えられてしまい、仮に発電反応のポテンシャルが高い燃料電池セルがあったとしても燃料電池カートリッジの発電効率を上げられない。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、燃料電池セルの発電反応を促進させ、燃料電池カートリッジの発電効率を向上させることを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の燃料電池カートリッジおよびその製造方法、並びに燃料電池モジュールおよび燃料電池システムは以下の手段を採用する。
【0012】
本発明は、
両端開放型であり、軸方向において一端部側に対して他端部側の気孔率が大きい多孔質の基体管を基材とし該基材上に電気的に直列接続されている複数の燃料電池セルを備えたすべてのセルスタックを、前記基体管の前記一端部側と前記他端部側に対して、前記複数の燃料電池セルの所定の方向で電気的な直列接続を規定し、前記基体管の前記一端部側が燃料ガスの流れ方向の上流側に向き、前記基体管の前記他端部側が燃料ガスの流れ方向の下流側に向くよう配置する燃料電池カートリッジの製造方法を提供する。
【0013】
本発明において、基体管の気孔率は一端部側よりも他端部側の方が大きい。基体管の気孔率の大きい方(他端部側)を燃料ガスが排出される側(下流側)に配置することで、下流側での発電反応を促進できる。それにより、セルスタックの電流を律速していた下流側での発電反応量が増加するため、セルスタック全体の発電能力を上げることができる。そして、本発明では、一端部側から他端部側に向けて気孔率が大きくなっている基体管に着目し、燃料電池カートリッジに配置されるすべてのセルスタックを基体管の他端側が燃料ガスの流れ方向の下流側に向くように配置することとした。それにより、燃料電池カートリッジ全体の発電能力を上げることができる。
【0014】
上記発明の一態様では、前記セルスタックがAタイプセルスタックおよびBタイプセルスタックを含み、前記一端部側が正極であり前記他端部側が負極である前記Aタイプセルスタックを形成し、前記一端部側が負極であり前記他端部側が正極である前記Bタイプセルスタックを形成し、前記Aタイプセルスタックおよび前記Bタイプセルスタックを電気的に直列に接続してもよい。
【0015】
上記発明の一態様によれば、AタイプセルスタックおよびBタイプセルスタックは気孔率の分布傾向は同じであり、極性のみを反転したセルスタックである。極性を反転させてセルスタックを並べられるため、カートリッジの直列配線が容易となる。例えばAタイプセルスタックだけを形成し、上下を反転させて極性の異なるBタイプセルスタックとした場合には、気孔率の分布傾向も反転してしまう。そのようなAタイプセルスタックとBタイプセルスタックとを並べると、気孔率の小さい箇所が燃料ガスの下流側に配置され、発電反応が促進されずに下流側セルスタックでの電流が低下する。それにより、セルスタックの発電量が低下する。
【0016】
上記発明の一態様において、前記Aタイプセルスタックは、負極側を上にして吊り下げ焼成することにより形成し、前記Bタイプセルスタックは、正極側を上にして吊り下げ焼成することにより形成することができる。
【0017】
吊り下げて焼成した基体管は、吊り下げたときに上側にある方の気孔率が高くなり、下側にあるほうの気孔率が低くなる。
【0018】
上記発明の一態様において、直列接続されている複数の前記燃料電池セルの最端部に電気的に接続され、前記燃料電池セルで発電された電力を導くリード部を前記基体管の前記一端部側および前記他端部側に形成する工程と、前記Aタイプセルスタックおよび前記Bタイプセルスタックの少なくとも一方のセルスタックの前記リード部上に識別部を形成する工程と、を含み、焼成前の基体管上にリード部材料および識別部材料を成膜した後に一体焼成して、前記リード部および前記識別部を形成するとよい。
【0019】
カートリッジの構造上、燃料ガスが供給される側(上流側)では長いリード部が必要とされる。上記発明によれば、基体管の気孔率が小さい一端部側はリード部が長く、燃料ガスが供給される側に配置されるため、発電効率への影響は少ない。
【0020】
基体管に気孔率分布が生じる前に識別部材料を成膜し、基体管と一体焼成することで、AタイプセルスタックおよびBタイプセルスタックを識別できるようになる。それにより気孔率の分布を間違えることなく、AタイプセルスタックおよびBタイプセルスタックを適切に配置できる。
【0021】
上記発明の一態様において、前記基体管の軸方向の対応する任意の位置における前記気孔率を測定し、該測定した気孔率に基づき、相対的に前記気孔率の値が小さいセルスタックを前記燃料電池カートリッジ内の中央領域に配置し、相対的に前記気孔率の値が大きいセルスタックを前記燃料電池カートリッジ内において前記中央領域の外側周辺となる外側周辺領域に配置することが好ましい。
【0022】
上記発明の一態様によれば、燃料電池カートリッジの中央領域に相対的に気孔率の小さいセルスタックを配置することで、燃料電池カートリッジの中央領域よりも該中央領域の外側周辺となる外側周辺領域にあるセルスタックでの発電反応が促進される。発電反応による発熱に伴って中央領域の温度が上がりやすい構造の燃料電池カートリッジでは、セルスタック間の発電能力の違いが、発電反応による発熱量の違いを相殺し、燃料電池カートリッジ内の温度分布差が生じにくくなる。これにより、カートリッジの発電効率を上げることができる。「中央領域」および「外側周辺領域」は燃料電池カートリッジの横断面を2つの領域に分けたときの呼称であり、「中央領域」は燃料電池カートリッジの横断面の中心を含む領域である。「外側周辺領域」は「中央領域」の外側周辺の領域であり、燃料電池カートリッジの横断面の縁部側にある。
【0023】
また本発明は、
両端開放型である多孔質の基体管および前記基体管上に形成され電気的に接続されている複数の燃料電池セルを備えた複数のセルスタックと、複数の前記セルスタックの一端部が配置され、前記セルスタックに燃料ガスが供給される燃料ガス供給部と、複数の前記セルスタックの他端部が配置され、セルスタックに供給された前記燃料ガスが排出される燃料ガス排出部と、を備え、前記セルスタックの前記一端部側と前記他端部側に対して、前記複数の燃料電池セルが所定の方向で電気的に直列接続され、すべての前記セルスタックにおける前記基体管の気孔率が、前記一端部側は前記他端部側に対して大きくされた燃料電池カートリッジを提供する。
【0024】
本発明において、基体管の気孔率は一端部側よりも他端部側の方が大きい。基体管の気孔率の大きい方(他端部側)を燃料ガスが排出される側(下流側)に配置することで、下流側での発電反応を促進できる。それにより、セルスタックの電流を律速していた下流側での発電反応量が増加するため、セルスタック全体の発電能力を上げることができる。また本発明では、一端部側に対して他端部側の気孔率が大きくなっている基体管に着目し、燃料電池カートリッジに配置されるすべてのセルスタックを基体管の他端部側が燃料ガスの流れ方向の下流側に向くように配置することとした。それにより、燃料電池カートリッジ全体の発電能力を上げることができる。
【0025】
上記発明の一態様では、複数の前記セルスタックが、前記一端部側が正極であり前記他端部側が負極であるAタイプセルスタックと、前記一端部側が負極であり前記他端部側が正極であるBタイプセルスタックと、を含んでいてもよい。
【0026】
上記発明の一態様において、前記一端部側および前記他端部側の前記基体管上に形成され、直列接続されている複数の前記燃料電池セルの最端部に電気的に接続されて前記燃料電池セルで発電された電力を導くリード部と、前記Aタイプセルスタックおよび前記Bタイプセルスタックの少なくとも一方のセルスタックの前記リード部上に形成された識別部と、を備えていることが好ましい。
【0027】
複数の前記セルスタックが、各基体管の軸方向の対応する任意の位置において前記気孔率の値が異なるセルスタックを含み、相対的に前記気孔率の値が小さいセルスタックが前記燃料電池カートリッジ内の中央領域に配置され、相対的に前記気孔率の値が大きいセルスタックが前記燃料電池カートリッジ内において前記中央領域の外側周辺となる外側周辺領域に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、基体管の軸方向にある気孔率分布を考慮して燃料電池カートリッジ内にセルスタックを配置することで、律速となる部分での燃料電池セルの発電反応量を増加させることができる。それによりセルスタック全体の発電量が増加し、燃料電池カートリッジの発電効率を向上させられる。そのような燃料電池カートリッジを備えた燃料電池モジュールや、該燃料電池モジュールを備えた燃料電池システムは発電性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明に係る燃料電池カートリッジおよびその製造方法、並びに燃料電池モジュールおよび燃料電池システムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0031】
以下においては、説明の便宜上、紙面を基準として「上」及び「下」の表現を用いて各構成要素の位置関係を特定するが、鉛直方向に対して必ずしもこの限りである必要はない。例えば、紙面における上方向が鉛直方向における下方向に対応してもよい。また、紙面における上下方向が鉛直方向に直行する水平方向に対応してもよい。以下においては、基体管の長手方向(軸方向)の距離を「長さ」と呼ぶ。
【0032】
〔第1実施形態〕
本実施形態に係る燃料電池システムは、燃料ガスおよび酸化剤ガスの供給を受けて発電する複数のセルスタックを備えた複数の燃料電池カートリッジにより構成される燃料電池モジュールを備えている。
【0033】
まず、
図1から
図3を参照して本実施形態に係るセルスタックについて説明する。ここで、
図1は、本実施形態に係るセルスタックの側面図である。
図2は、
図1のX−Xの矢視断面図である。
図3は、
図1のY−Yの矢視断面図である。
【0034】
セルスタック101は、円筒形状の基体管103と、基体管103の外周面上に複数形成された燃料電池セル105と、隣り合う燃料電池セル105の間に形成されたインターコネクタ107とを有する。燃料電池セル105は、燃料極109と固体電解質111と空気極113とが積層して形成されている。
【0035】
セルスタック101は、基体管103の外周面上に形成された複数の燃料電池セル105の内、基体管103の軸方向において最も端に形成された燃料電池セル105に電気的に接続されたリード部114を有する。リード部114は、電気的に接続された複数の燃料電池セル105の両端部にある。基体管の一端部側にあるリード部114aの長さは、他端部側にあるリード部114bよりも長い。リード部114は、燃料電池セル105に電気的に接続されたリード膜115(115a,115b)と、リード膜115上に形成された保護膜117とを含んでいる。リード膜115は、基体管上に形成されており、一端が燃料電池セル105に電気的に接続され、他端は基体管103の端部に向けて延びている。リード膜115は、基体管103の端部側で上面が露出されている。リード膜115を覆う保護膜117の上には、適宜シール接合膜119が積層されていてもよい。リード膜115(115a,115b)は、リード部114aのリード膜115aの長さ(La)が、リード部114bのリード膜115bの長さ(Lb)よりも長い。
【0036】
基体管103は、多孔質材料からなり、例えば、CaO安定化ZrO
2(CSZ)、又はY
2O
3安定化ZrO
2(YSZ)、又はMgAl
2O
4とされる。この基体管103は、燃料電池セル105とインターコネクタ107とリード膜115とを支持すると共に、基体管103の内周面に供給される燃料ガスを基体管103の細孔を介して基体管103の外周面に形成される燃料極109に拡散させるものである。
【0037】
基体管は円筒型の長尺部材である。基体管は軸方向(長手方向)に向けて気孔率分布を有している。基体管の気孔率は、基体管の一端部側に対して他端部側が大きくなる。
【0038】
燃料極109は、Niとジルコニア系電解質材料との複合材の酸化物で構成され、例えば、Ni/YSZが用いられる。この場合、燃料極109は、燃料極109の成分であるNiが燃料ガスに対して触媒作用を有する。この触媒作用は、基体管103を介して供給された燃料ガス、例えば、メタン(CH
4)と水蒸気との混合ガスを反応させ、水素(H
2)と一酸化炭素(CO)に改質するものである。また、燃料極109は、改質により得られる水素(H
2)及び一酸化炭素(CO)と、固体電解質111を介して供給される酸素イオン(O
2−)とを固体電解質111との界面付近において電気化学的に反応させて水(H
2O)及び二酸化炭素(CO
2)を生成するものである。なお、燃料電池セル105は、この時、酸素イオンから放出される電子によって発電する。また、燃料極109は所定膜厚を得るために複数に分けて形成しても良い。
【0039】
固体電解質111は、ガスを通しにくい気密性と、高温で高い酸素イオン導電性とを有するYSZが主として用いられる。この固体電解質111は、空気極で生成される酸素イオン(O
2−)を燃料極に移動させるものである。また、固体電解質111は所定機能を得るために複数に分けて形成しても良い。
【0040】
空気極113は、例えば、LaSrMnO
3系酸化物、又はLaCoO
3系酸化物で構成される。この空気極113は、固体電解質111との界面付近において、供給される空気等の酸化性ガス中の酸素を解離させて酸素イオン(O
2−)を生成するものである。
【0041】
インターコネクタ107は、SrTiO
3系などのM
1−xL
xTiO
3(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物から構成され、燃料ガスと酸化性ガスとが混合しないように緻密な膜となっている。また、インターコネクタ107は、酸化雰囲気と還元雰囲気との両雰囲気下で安定した電気導電性を有する。このインターコネクタ107は、隣り合う燃料電池セル105において、一方の燃料電池セル105の空気極113と他方の燃料電池セル105の燃料極109とを電気的に接続し、隣り合う燃料電池セル105同士を所定の方向へと直列に接続して、セルスタック101としての正極と負極を規定するものである。また、インターコネクタ107は所定機能を得るために複数に分けて形成しても良い。
【0042】
リード膜115(115a,115b)は、電子伝導性を有すること、及びセルスタック101を構成する他の材料との熱膨張係数が近いことが必要であることから、Ni/YSZ等のNiとジルコニア系電解質材料との複合材で構成されている。リード膜の材料は燃料極の材料を同じであってよい。このリード膜115は、インターコネクタにより直列に接続される複数の燃料電池セル105で発電された直流電力をセルスタック101の端部付近まで導出すものである。
【0043】
保護膜117は、固体電解質111と同じ材料で構成されている。保護膜117は、燃料ガスおよび酸化性ガスのリークを防止する役割と、リード膜115が酸化性ガスに曝されるのを防ぐ役割を果たす。
【0044】
シール接合膜119は、セルスタック101と接着剤との接着強度を向上させるために表面粗度を高くするという役割を果たす膜である。シール接合膜119の材料は例えばCaTiO
3とYSZの混合物である。シール接合膜119は、ローラー印刷で形成されるとよい。
【0045】
セルスタック101は以下のように製造することができる。
まず、カルシウム安定化ジルコニア(CSZ)などの材料を、押し出し成形法により基体管103の形状に成形する(以降「成形した基体管」と呼ぶ)。次に、燃料極材料、固体電解質材料、インターコネクタ材料、リード膜材料、保護膜材料にそれぞれ水系ビヒクルなどを混合し、スラリーを作製する。スクリーン印刷法を用いて、燃料極用スラリー、リード膜用スラリー、固体電解質用スラリー、保護膜用スラリー、およびインターコネクタ用スラリーを、成形した基体管上に順に成膜する。
【0046】
本実施形態では、燃料極109およびリード膜115(115a,115b)、固体電解質111および保護膜117を同じ材料で構成する。よって、燃料極用スラリーおよびリード膜用スラリーを作製・印刷する工程は実質的に同じ工程である。また、固体電解質用スラリーおよび保護膜用スラリーを作製・印刷する工程も実質的に同じ工程である。リード膜用スラリーは燃料電池セルの両端に印刷するが、成形した基体管の一端部側のリード膜115aの長さが他端部側のリード膜115bよりも長くなるように印刷する。保護膜用スラリーは、リード膜115の上面が基体管103の端部で露出するよう、リード膜用スラリーの上に印刷する。
【0047】
他端部側(リード膜が短い方(リード膜115b))が鉛直方向上に向くよう成形した基体管を吊り下げ、大気中にて1350℃〜1500℃、3時間〜5時間、一体焼成して、基体管103、燃料極109、リード膜115、固体電解質111、インターコネクタ107、および保護膜117を形成する。
【0048】
次に、空気極材料に水系ビヒクルを混合して空気極用スラリーを作製する。焼成後のインターコネクタ107上に空気極用スラリーをスクリーン印刷する。また、シール接合膜材料に水系ビヒクルなどを混合し、シール接合膜用スラリーを作製する。焼結後の保護膜117の上にシール接合膜用スラリーをローラー印刷する。その後、他端部側(リード膜が短い方(リード膜115b))が鉛直方向上に向くよう基体管103を吊り下げ、大気中にて1100℃〜1400℃、1時間〜4時間で焼成し、空気極113およびシール接合膜119を形成する。
【0049】
吊り下げ焼成すると、鉛直方向下側(下側)では基体管が収縮されるが、鉛直方向上側(上側)では自重がかかり基体管が下側ほど収縮しない。そのため、焼成後の基体管では上側にあった方の気孔率が大きくなり、下側にあった方の気孔率が小さくなる。
【0050】
また成形した基体管、燃料極材料、固体電解質材料などを吊り下げて一体焼成すると基体管の軸方向に重力がかかり、各素子(燃料極109、固体電解質111、インターコネクタ107などによる燃料電池セル)は基体管の軸方向で長さに違いが生じる。吊り下げた際に鉛直方向上側に配置された各素子は、鉛直方向下側に配置された各素子よりも長くなる。たとえば、鉛直方向上側に配置された素子は、鉛直方向下側に配置された素子に比べて素子長さが約8%長くなる。
【0051】
次に、
図4と
図5とを参照して本実施形態に係るSOFCモジュール201及びSOFCカートリッジ203について説明する。ここで、
図4は、SOFCモジュール201の一態様を示すものである。また、
図5は、SOFCカートリッジ203の一態様の断面図を示すものである。
【0052】
SOFCモジュール201は、
図4に示すように、例えば、複数のSOFCカートリッジ203と、これら複数のSOFCカートリッジ203を収納する圧力容器205とを有する。また、SOFCモジュール201は、燃料ガス供給管207と複数の燃料ガス供給枝管207aとを有する。またSOFCモジュール201は、燃料ガス排出管209と複数の燃料ガス排出枝管209aとを有する。また、SOFCモジュール201は、酸化性ガス供給管(不図示)と酸化性ガス供給枝管(不図示)とを有する。また、SOFCモジュール201は、酸化性ガス排出管(不図示)と複数の酸化性ガス排出枝管(不図示)とを有する。
【0053】
燃料ガス供給管207は、圧力容器205の外部に設けられ、SOFCモジュール201の発電量に対応して所定ガス組成と所定流量の燃料ガスを供給する燃料ガス供給部(不図示)に接続されると共に、複数の燃料ガス供給枝管207aに接続されている。この燃料ガス供給管207は、上述の燃料ガス供給部から供給される所定流量の燃料ガスを、複数の燃料ガス供給枝管207aに分岐して導くものである。また、燃料ガス供給枝管207aは、燃料ガス供給管207に接続されると共に、複数のSOFCカートリッジ203に接続されている。この燃料ガス供給枝管207aは、燃料ガス供給管207から供給される燃料ガスを複数のSOFCカートリッジ203に略均等の流量で導き、複数のSOFCカートリッジ203の発電性能を略均一化させるものである。
【0054】
燃料ガス排出枝管209aは、複数のSOFCカートリッジ203に接続されると共に、燃料ガス排出管209に接続されている。この燃料ガス排出枝管209aは、SOFCカートリッジ203から排出される排燃料ガスを燃料ガス排出管209に導くものである。また、燃料ガス排出管209は、複数の燃料ガス排出枝管209aに接続されると共に、一部が圧力容器205の外部に配置されている。この燃料ガス排出管209は、燃料ガス排出枝管209aから略均等の流量で導出される排燃料ガスを圧力容器205の外部に導くものである。
【0055】
圧力容器205は、内部の圧力が0.1MPa〜約1MPa、内部の温度が大気温度〜約550℃で運用されるので、耐力性と酸化性ガス中に含まれる酸素などの酸化剤に対する耐食性を保有する材質が利用される。例えばSUS304などのステンレス系材が好適である。
【0056】
ここで、本実施形態においては、複数のSOFCカートリッジ203が集合化されて圧力容器205に収納される態様について説明しているが、これに限られず例えば、SOFCカートリッジ203が集合化されずに圧力容器205内に収納される態様とすることもできる。
【0057】
SOFCカートリッジ203は、
図5に示す通り、複数のセルスタック101と、発電室215と、燃料ガス供給室(燃料ガス供給部)217と、燃料ガス排出室(燃料ガス排出部)219と、酸化性ガス供給室221と、酸化性ガス排出室223とを有する。また、SOFCカートリッジ203は、上部管板225aと、下部管板225bと、上部断熱体227aと、下部断熱体227bとを有する。なお、本実施形態においては、SOFCカートリッジ203は、燃料ガス供給室217と燃料ガス排出室219と酸化性ガス供給室221と酸化性ガス排出室223とが
図5のように配置されることで、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れる構造となっているが、必ずしもこの必要はなく、例えば、セルスタックの内側と外側とを平行して流れる、または酸化性ガスがセルスタックの長手方向と直交する方向へ流れるようにしても良い。
【0058】
発電室215は、上部断熱体227aと下部断熱体227bとの間に形成された領域である。この発電室215は、セルスタック101の燃料電池セル105が配置され、燃料ガスと酸化性ガスとを電気化学的に反応させて発電を行う領域である。また、この発電室215のセルスタック101長手方向の中央部付近での温度は、燃料電池モジュール201の定常運転時に、およそ700℃〜1000℃の高温雰囲気となる。
【0059】
燃料ガス供給室217は、SOFCカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aとに囲まれた領域である。また、燃料ガス供給室217は、上部ケーシング229aに備えられた燃料ガス供給孔231aによって、燃料ガス供給枝管207aと連通されている。また、燃料ガス供給室217には、円筒形状であるセルスタック101の一方の端部が、燃料ガス供給室217に対して開放して配置されている。セルスタック101の一方の端部とは、基体管の気孔率が小さい方(基体管の一端部側、吊り下げ焼成時に鉛直方向下を向いていた方)の端部であり、全てのセルスタック101について同様な方向で気孔率の小さい方が配置される。この燃料ガス供給室217は、燃料ガス供給枝管207aから燃料ガス供給孔231aを介して供給される燃料ガスを、複数のセルスタック101の基体管103の内部に略均一流量で導き、複数のセルスタック101の発電性能を略均一化させるものである。
【0060】
燃料ガス排出室219は、SOFCカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bとに囲まれた領域である。また、燃料ガス排出室219は、下部ケーシング229bに備えられた燃料ガス排出孔231bによって、燃料ガス排出枝管209aと連通されている。また、燃料ガス排出室219には、円筒形状であるセルスタック101の他方の端部が、燃料ガス排出室219に対して開放して配置されている。セルスタック101の他方の端部とは、基体管の気孔率が大きくなる方(基体管の他端部側、吊り下げ焼成時に鉛直方向上を向いていた方)の端部であり、全てのセルスタック101について同様な方向で気孔率の大きい方が配置される。この燃料ガス排出室219は、複数のセルスタック101の基体管103の内部を通過して燃料ガス排出室219に供給される排燃料ガスを集約して、燃料ガス排出孔231bを介して燃料ガス排出枝管209aに導くものである。
【0061】
SOFCモジュール201の発電量に対応して所定ガス組成と所定流量の酸化性ガスを酸化性ガス供給枝管へと分岐して、複数のSOFCカートリッジ203へ供給する。酸化性ガス供給室221は、SOFCカートリッジ203の下部ケーシング229bと下部管板225bと下部断熱体227bとに囲まれた領域である。また、酸化性ガス供給室221は、下部ケーシング229bに備えられた酸化性ガス供給孔233aによって、図示しない酸化性ガス供給枝管と連通されている。この酸化性ガス供給室221は、図示しない酸化性ガス供給枝管から酸化性ガス供給孔233aを介して供給される所定流量の酸化性ガスを、後述する酸化性ガス供給隙間235aを介して発電室215に導くものである。
【0062】
酸化性ガス排出室223は、SOFCカートリッジ203の上部ケーシング229aと上部管板225aと上部断熱体227aとに囲まれた領域である。また、酸化性ガス排出室223は、上部ケーシング229aに備えられた酸化性ガス排出孔233bによって、図示しない酸化性ガス排出枝管と連通されている。この酸化性ガス排出室223は、発電室215から、後述する酸化性ガス排出隙間235bを介して酸化性ガス排出室223に供給される排酸化性ガスを、酸化性ガス排出孔233bを介して図示しない酸化性ガス排出枝管に導くものである。
【0063】
上部管板225aは、上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとの間に、上部管板225aと上部ケーシング229aの天板と上部断熱体227aとが略平行になるように、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また上部管板225aは、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101が夫々挿入されている。この上部管板225aは、複数のセルスタック101の一方の端部をシール部材及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、燃料ガス供給室217と酸化性ガス排出室223とを隔離するものである。
【0064】
下部管板225bは、下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとの間に、下部管板225bと下部ケーシング229bの底板と下部断熱体227bとが略平行になるように下部ケーシング229bの側板に固定されている。また下部管板225bは、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応した複数の孔を有し、該孔にはセルスタック101が夫々挿入されている。この下部管板225bは、複数のセルスタック101の他方の端部をシール部材及び接着部材のいずれか一方又は両方を介して気密に支持すると共に、燃料ガス排出室219と酸化性ガス供給室221とを隔離するものである。
【0065】
セルスタック101には、上部管板225aおよび下部管板225bとのシール部分にはシール接合膜119を設けて表面粗度を高くしてあり、セルスタック101とシール部材及び接着部材との接着強度を向上させてある。
【0066】
上部断熱体227aは、上部ケーシング229aの下端部に、上部断熱体227aと上部ケーシング229aの天板と上部管板225aとが略平行になるように配置され、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また、上部断熱体227aには、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。上部断熱体227aは、この孔の内面と、上部断熱体227aに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス排出隙間235bを有する。
【0067】
この上部断熱体227aは、発電室215と酸化性ガス排出室223とを仕切るものであり、上部管板225aの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。上部管板225a等はインコネルなどの高温耐久性のある金属材料から成るが、上部管板225a等が発電室215内の高温に晒されて上部管板225a等内の温度差が大きくなることで熱変形することを防ぐものである。また、上部断熱体227aは、発電室215を通過して高温に晒された排酸化性ガスを、酸化性ガス排出隙間235bを通過させて酸化性ガス排出室223に導くものである。
【0068】
本実施形態によれば、上述したSOFCカートリッジ203の構造により、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、排酸化性ガスは、基体管103の内部を通って発電室215に供給される燃料ガスとの間で熱交換がなされ、金属材料から成る上部管板225a等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて酸化性ガス排出室223に供給される。また、燃料ガスは、発電室215から排出される排酸化性ガスとの熱交換により昇温され、発電室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく発電に適した温度に予熱昇温された燃料ガスを発電室215に供給することができる。
【0069】
下部断熱体227bは、下部ケーシング229bの上端部に、下部断熱体227bと下部ケーシング229bの底板と下部管板225bとが略平行になるように配置され、上部ケーシング229aの側板に固定されている。また、下部断熱体227bには、SOFCカートリッジ203に備えられるセルスタック101の本数に対応して、複数の孔が設けられている。この孔の直径はセルスタック101の外径よりも大きく設定されている。下部断熱体227bは、この孔の内面と、下部断熱体227bに挿通されたセルスタック101の外面との間に形成された酸化性ガス供給隙間235aを有する。
【0070】
この下部断熱体227bは、発電室215と酸化性ガス供給室221とを仕切るものであり、下部管板225bの周囲の雰囲気が高温化し強度低下や酸化性ガス中に含まれる酸化剤による腐食が増加することを抑制する。下部管板225b等はインコネルなどの高温耐久性のある金属材料から成るが、下部管板225b等が高温に晒されて下部管板225b等内の温度差が大きくなることで熱変形することを防ぐものである。また、下部断熱体227bは、酸化性ガス供給室233に供給される酸化性ガスを、酸化性ガス供給隙間235aを通過させて発電室215に導くものである。
【0071】
本実施形態によれば、上述したSOFCカートリッジ203の構造により、燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるものとなっている。このことにより、基体管103の内部を通って発電室215を通過した排燃料ガスは、発電室215に供給される酸化性ガスとの間で熱交換がなされ、金属材料から成る下部管板225b等が座屈などの変形をしない温度に冷却されて燃料ガス排出室219に供給される。また、酸化性ガスは排燃料ガスとの熱交換により昇温され、発電室215に供給される。その結果、ヒーター等を用いることなく発電に必要な温度に昇温された酸化性ガスを発電室215に供給することができる。
【0072】
発電室215で発電された直流電力は、複数の燃料電池セル105に設けたNi/YSZ等からなるリード膜115によりセルスタック101の端部付近まで導出した後に、保護膜117に覆われなく、リード膜115の上面が露出している基体管103の端部で集電板(不図示)と電気的に接続される。SOFCカートリッジ203の集電棒(不図示)に集電板(不図示)を介して集電して、各SOFCカートリッジ203の外部へと取り出される。前記集電棒によってSOFCカートリッジ203の外部に導出された電力は、各SOFCカートリッジ203の発電電力を所定の直列数および並列数へと相互に接続され、SOFCモジュール201の外部へと導出されて、図示しないインバータなどにより所定の交流電力へと変換されて、電力負荷へと供給される。
【0073】
本実施形態によれば、SOFCカートリッジ203において、複数のセルスタック101は、基体管103の気孔率が大きくなる方(吊り下げ焼成時に鉛直方向上側を向いていた方)を燃料ガスの排出側(燃料ガスの流れ方向下流側)に向けて配置されている。基体管103の気孔率が大きいと発電反応が促進される。したがって、本実施形態によれば、セルスタック101に流れる電流を律速していた燃料ガスの流れ方向下流側での発電反応量を増加させ、セルスタック全体の発電能力を上げることができる。
【0074】
またセルスタック101において、基体管103の気孔率が大きくなる方(吊り下げ焼成時に鉛直方向上側を向いていた方)では、基体管103の気孔率が小さくなる方よりも各素子の長さが長くなっている。各燃料電池セルに流れる電流量は等しい。燃料電池セルが長いと電流の流れる面積が広くなり、単位面積当たりの電流量が小さくなる(電流密度が低下する)。そのため、長い燃料電池セルでは、短い燃料電池セルよりも実質的に電圧が高くなり、結果として燃料電池の性能が向上する。
【0075】
SOFCカートリッジ203において、基体管103の気孔率が小さい方において、特に気孔率が小さくなる基体管103の端部付近の領域は、燃料ガスの流れ方向上流側のカートリッジ構造上長いリード部114aが必要な領域に配置されている。このため、セルスタック101では、燃料ガスの流れ方向上流側のリード部114aのリード膜115aの長さ(La)が、燃料ガスの流れ方向下流側リード部114bのリード膜115bの長さ(Lb)よりも長い。リード部(114a、114b)では、発電がおこなわれないため、燃料ガスの流れ方向上流側のリード部114aはリード膜115bより長い構造であっても、基体管103の気孔率が小さいことによる発電効率への影響は少ない。
【0076】
〔第2実施形態〕
第2実施形態は、電流の流れる方向が異なる2種類のセルスタックを作製し、同一カートリッジ内に配置することを特徴とする。特に説明のない構成については、第1実施形態と同様とする。
【0077】
本実施形態について、図面を用いて説明する。
図6は、本実施形態に係るセルスタックの側面図である。同図において(A)はAタイプセルスタックの側面図、(B)はBタイプセルスタックの側面図である。
図7は、
図6(A)の正極側のX−Xの矢視断面図である。
図8は、
図6(A)の負極側のY−Yの矢視断面図である。
図9は、
図6(B)の負極側のX−Xの矢視断面図である。
図10は、
図6(B)の正極側のY−Yの矢視断面図である。
【0078】
本実施形態において、セルスタックはAタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bを含んでいる。Aタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bはそれぞれ、第1実施形態と同様に、円筒形状の基体管103と、基体管103の外周面上に複数形成された燃料電池セル105と、隣り合う燃料電池セル105の間に形成されたインターコネクタ107とを有する。セルスタック(101a,101b)は、燃料電池セル105は、燃料極109と固体電解質111と空気極113とが積層して形成されている。
【0079】
Aタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bは、基体管103の外周面上に形成された複数の燃料電池セル105の内、基体管103の軸方向において最も端に形成された燃料電池セル105に電気的に接続されたリード部114(114a,114b)を有する。リード部114はリード膜115(115a,115b)とリード膜上に形成された保護膜117とを備えている。リード膜115は、一端が燃料電池セル105に電気的に接続され、他端は基体管103の端部に向けて延びている。リード膜115は、基体管103の端部側で上面が露出されている。リード膜115を覆う保護膜117の上には、適宜シール接合膜119が積層されていてもよい。Aタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bにおいて、正極側に設けられたリード膜115aはインターコネクタ107を介して最端部の燃料電池セル105の空気極113に電気的に接続されている。負極側に設けられたリード膜115bは最端部の燃料電池セル105の燃料極109と電気的に接続されている。
【0080】
基体管103、燃料電池セル105の各構成、インターコネクタ107、リード膜115、シール接合膜119および保護膜117の材料などは第1実施形態と同様である。
【0081】
Aタイプセルスタック101aは、正極側に比べて負極側の基体管103の気孔率が大きくなるセルスタックである。Aタイプセルスタック101aにおいて、正極側に設けられたリード部114aおよびリード膜115a(La)が、負極側に設けられたリード部114bおよびリード膜115b(Lb)よりも長い。Aタイプセルスタック101aにおいて、負極側にある燃料電池セル105bは正極側にある燃料電池セル105aよりも長い。
【0082】
Bタイプセルスタック101bは、負極側に比べ正極側の基体管103の気孔率が大きくなるセルスタックである。Bタイプセルスタックにおいて、負極側に設けられたリード部114aおよびリード膜115a(La)が、正極側に設けられたリード部114bおよびリード膜115b(Lb)よりも長い。Bタイプセルスタック101bにおいて、正極側にある燃料電池セル105bは負極側にある燃料電池セル105aよりも長い。
【0083】
Aタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bの少なくとも一方のセルスタックには、リード部上に識別部121が設けられているとよい。識別部121は、リード部上の形成される箇所に応じて各層の形成膜と同一の材料を用いて設置する。例えば
図9に示すようにリード膜115aに接するよう形成される識別部121(l)は、保護膜117と同一の材料を用いて、保護膜117の形成に併せて容易に設置することができる。また、
図9で保護膜117の直上に形成されている識別部121(p)は、シール接合膜119と同一の材料を用いて設置する。識別部121(l)および識別部121(p)はどちらか一方だけ設置されてもよい。
【0084】
識別部121はAタイプセルスタック101aとBタイプセルスタック101bとを外観で識別できるよう形成されたものである。例えば、Bタイプセルスタック101bの正極側のリード部114b上に環状ラインの識別部121が設けられるとよい。なお、Aタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bの両方に識別部121を設ける場合には、識別部121の位置、形状などをパターン分けする。
【0085】
識別部121は上記の環状ラインに限定されるものでなく、製造工程の中で併せて設けることができ、外観識別ができれば形状を適宜変更が可能である。
【0086】
Aタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bは以下のように製造することができる。
図11に、吊り下げ焼成する際のAタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bの概略側面図を示す。同図において(A)は吊り下げ焼成する際のAタイプセルスタック101a、(B)は吊り下げ焼成する際のBタイプセルスタック101b、紙面上側が鉛直方向上である。簡略化のため
図11では、未焼成の燃料電池セル105’、未焼成のリード部114a’,114b’、および未焼成の識別部121(l)’,121(p)を表示している。
【0087】
第1実施形態と同様に、成形した基体管上に、燃料極用スラリー、リード膜用スラリー、固体電解質用スラリー、保護膜用スラリー、およびインターコネクタ用スラリーを順に成膜する。リード膜用スラリーは、Aタイプセルスタック101aの正極側およびBタイプセルスタック101bの負極側の方のリード膜115aが、Aタイプセルスタック101aの負極側およびBタイプセルスタック101bの正極側の方のリード膜115bよりも長くなるように印刷する。識別部121(l)を形成するための識別部(l)用スラリーには、保護膜用スラリーを転用する。識別部(l)用スラリーは、成膜した保護膜用スラリーの端部と間隔をあけるよう成膜したリード膜用スラリー上にスクリーン印刷する。識別部用スラリーは、基体管103の周方向を一周するよう環状に成膜するとよい。
【0088】
その後、リード膜の短い方が鉛直方向上に向くよう成形した基体管を吊り下げる。Aタイプセルスタック101aは負極側、Bタイプセルスタック101bは正極側が鉛直方向上に向ける。Aタイプセルスタック101aは正極側、Bタイプセルスタック101bは負極側が鉛直方向下に向ける。大気中にて1350℃〜1500℃、3時間〜5時間、一体焼成して、燃料極109、リード膜115、固体電解質111、インターコネクタ107、保護膜117、シール接合膜119、識別部121を形成する。
【0089】
次に、空気極材料に水系ビヒクルを混合して空気極用スラリーを作製する。焼成後のインターコネクタ上に空気極用スラリーをスクリーン印刷する。また、シール接合膜材料に水系ビヒクルを混合してシール接合膜用スラリーを作製する。焼結後の保護膜117の上にシール接合膜用スラリーをローラー印刷する。識別部121(p)を形成するための識別部(p)用スラリーには、シール接合膜用スラリーを転用する。識別部(p)用スラリーは、成膜したシール接合膜用スラリーの端部と間隔をあけるよう成膜した保護膜用スラリー上にスクリーン印刷する。その後、リード膜の短い方(リード膜115b)が鉛直方向上に向くよう基体管を吊り下げ、大気中にて1100℃〜1400℃、1時間〜4時間で焼成し、空気極113を形成する。
【0090】
上記のように製造したAタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bは、極性のみが反転したセルスタックとなる。第1実施形態と同様に焼成後の基体管では上側にあった方の気孔率が大きくなり、下側にあった方の気孔率が小さくなる。また、吊り下げた際に鉛直方向上側に配置された各素子は、鉛直方向下側に配置された各素子よりも長くなる。
【0091】
識別部(l)用スラリーおよび識別部(p)用スラリーは、成形した基体管を焼成する前に成膜されているため、一体焼成の際にセルスタックの吊り下げる向きを間違えにくくなる。リード部114aおよびリード部114bの長さで吊り下げる向きを確認できるとともに、識別部121を設けることで、Aタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bを外観で識別できる。
【0092】
図12に、本実施形態に係るSOFCカートリッジの概略構成図を示す。
図12では、説明に必要な構成のみを記載しているが、基本的な構成は第1実施形態のSOFCカートリッジと同様である。
【0093】
図12において、SOFCカートリッジ303は、ケーシング329と、複数のセルスタック101(Aタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101b)と、発電室315と、燃料ガス供給室317と燃料ガス排出室319とを有する。また、SOFCカートリッジは、上部管板325aと下部管板325bとを有する。酸化性ガスはセルスタックの長手方向と直交する方向へ流れる構造となっているが、必ずしもこの必要はなく、例えば、セルスタックの内側と外側とを平行して流れる、または燃料ガスと酸化性ガスとがセルスタック101の内側と外側とを対向して流れるようにしても良い。
【0094】
発電室315は、ケーシング329と上部管板325aと下部管板325bとの間に形成された領域である。セルスタック(101a,101b)の燃料電池セル105が配置され、燃料ガスと酸化性ガスとを電気化学的に反応させて発電を行う領域である。
【0095】
燃料ガス供給室317は、ケーシング329の上部と上部管板325aとで囲まれた領域である。燃料ガス供給室317は、ケーシング329の上部に備えられた燃料ガス供給孔331aによって、図示しない燃料ガス供給枝管と連通されている。また、燃料ガス供給室317には、円筒形のセルスタック101の一方の端部が、燃料ガス供給室317に対して開放して配置されている。セルスタック101の一方の端部とは、基体管の気孔率が小さい方(吊り下げ焼成時に鉛直方向下を向いていた方)の端部であり、全てのセルスタック101について同様な方向で気孔率の小さい方が配置される。
【0096】
燃料ガス排出室319は、ケーシング329の下部と下部管板325bとで囲まれた領域である。燃料ガス排出室319は、ケーシング329の下部に備えられた燃料ガス排出孔331bによって、図示しない燃料ガス排出枝管と連通されている。また、燃料ガス排出室319には、円筒形のセルスタック101の他方の端部が、燃料ガス排出室319に対して開放して配置されている。セルスタック(101a,101b)の他方の端部とは、基体管の気孔率が大きくなる方(吊り下げ焼成時に鉛直方向上を向いていた方)の端部であり、全てのセルスタック101について同様な方向で気孔率の大きい方が配置される。
【0097】
上部管板325aは、複数のセルスタック101の一方の端部(上端部)を支持している。下部管板325bは、複数のセルスタック101の他方の端部(下端部)を支持している。
【0098】
複数のセルスタック101は、複数のAタイプセルスタック101aおよび複数のBタイプセルスタック101bを含む。
【0099】
複数のAタイプセルスタック101aは集電部材により電気的に並列接続されてAタイプセルスタック群313aを構成する。Aタイプセルスタック群313aにおいて、複数のAタイプセルスタック101aは、すべて正極を燃料ガス供給室側(鉛直方向上側)に向け、負極を燃料ガス排出室側(鉛直方向下側)に向けて横に並べて配置されている。複数のAタイプセルスタック101aの正極側端部は、上部集電部材311で集合化されている。複数のAタイプセルスタック101aの負極側端部は、下部集電部材312によって集合化されている。上部集電部材311および下部集電部材312はそれぞれ導電性を有する。
【0100】
複数のBタイプセルスタック101bは集電部材により電気的に並列接続されてBタイプセルスタック群313bを構成する。Bタイプセルスタック群313bにおいて、複数のBタイプセルスタック101bは、すべて負極を燃料ガス供給室側(鉛直方向上側)に向け、正極を燃料ガス排出室側(鉛直方向下側)に向けて横に並べて配置されている。複数のBタイプセルスタック101bの負極側端部は、上部集電部材311で集合化されている。複数のBタイプセルスタック101bの正極側端部は、下部集電部材312によって集合化されている。
【0101】
Aタイプセルスタック群313aおよびBタイプセルスタック群313bはSOFCカートリッジ内に並べて配置されている。隣り合うAタイプセルスタック群313aおよびBタイプセルスタック群313bは、上部集電部材311または下部集電部材312のいずれか一方が電気的に接続されている。接続されていない側の集電部材311にはそれぞれ集電棒314などがつながれ、該集電棒314を介して電力をSOFCカートリッジ外部へと導出できる。
【0102】
本実施形態によれば、SOFCカートリッジ内に極性を反転させたAタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101bを配置することで、カートリッジ内の配線をセルスタックの一方の端部側および他方の端部側において、一方向にまとめられる。それにより集電をセルスタックの一方の端部側から他方の端部側へと接続するための取り回しが不要となり、Aタイプセルスタック101aとBタイプセルスタック101bとの接続配線部材を短くでき、直列配線が容易となる。
【0103】
従来のようにセルスタック間の直列接続にあたり、同一極性のセルスタックを上下で反転させて並べる前述のような効率的な直列配線を得ることが出来るが、基体管の軸方向の気孔率分布も上下で反転してしまうことで、上下反転したセルスタックの発電電流が異なるために、そのまま直列接続するとセルスタック全体の発電性能が低下する課題がある。本実施形態では、Aタイプセルスタック101aとBタイプセルスタック101bとは極性を反転させて並べた場合に、基体管の軸方向の気孔率分布は全てのセルスタックで同じ傾向を示すよう製造している。本実施形態によれば、気孔率の大きい方を同じ向きに配置して燃料ガス排出側に配置することができるため、燃料ガスの流れ方向下流側での発電反応を促進させ、セルスタック全体の発電能力を上げることができる。
【0104】
またセルスタック101(Aタイプセルスタック101aおよびBタイプセルスタック101b)において、基体管の気孔率が大きくなる方(吊り下げ焼成時に鉛直方向上側を向いていた方)では、基体管の気孔率が小さくなる方よりも各素子(燃料電池セル)の長さが長くなっている。セルスタックの上側と下側において流れる電流量は同じである。燃料電池セルが長いと電流の流れる面積が広くなり、単位面積当たりの電流が低くなる(電流密度が低下する)。そのため、長い燃料電池セルでは、短い燃料電池セルよりも実質的に電圧が高くなり、結果として燃料電池の性能が向上する。
【0105】
SOFCカートリッジ303において、基体管103の気孔率が小さい方は、燃料ガスの流れ方向上流側であり、特に気孔率が小さくなる基体管103の端部付近の領域は、カートリッジ構造上長いリード膜が必要な領域に配置されている。リード部では、発電がおこなわれないため、発電効率への影響は少ない。
【0106】
〔第3実施形態〕
第3実施形態では、吊り下げ焼成により製造したセルスタックの基体管103において気孔率に個体差が生じた際の態様について説明する。特に説明のない構成については、第1実施形態と同様とする。本実施形態について、図面を用いて説明する。
図13は、本実施形態に係るSOFCカートリッジの横断面図である。
図13では、複数のセルスタック(101H,101L)が上部管板225aに支持されている。
【0107】
吊り下げ焼成により製造した複数のセルスタック101は、焼成時の炉内での位置やロット間差などにより任意の位置における気孔率の値に個体差が生じる場合がある。そのような場合であっても吊り下げて焼成しているため、基体管の軸方向における気孔率分布の傾向は各セルスタック間で共通している。すなわち、複数のセルスタック101において、基体管の気孔率は一端部側(吊り下げ焼成の際鉛直方向下側に向けて配置される側)に対して他端部側(吊り下げ焼成の際鉛直方向上側に向けて配置される側)が大きくなっている。
【0108】
図14に、燃料極材料などと一体焼成した基体管(空気極印刷前)の気孔率を示す。同図において、横軸が基体管の気孔率、縦軸が吊り下げ下端からの位置(mm)、◆が基体管1、△が基体管2である。基体管1および基体管2は同じ炉内で吊り下げ焼成したものである。
図14によれば、基体管1および基体管2は軸方向における気孔率分布の傾向は同じであるが、任意の位置の気孔率の値に1%から2%程度の個体差があることがわかる。なお、空気極を成膜して焼成した後、基体管に高温で水素を通してNiOをNiに還元処理をすると、基体管の気孔率は
図14よりも更に高くなる。例えば、
図14の基体管の気孔率は23%〜26%程度であるが、還元処理後は30%〜50%程度に高くなる。
【0109】
SOFCカートリッジ203では、基体管の軸方向の対応する任意の位置における気孔率の値が相対的に大きいセルスタック101Hが、基体管の軸方向の対応する任意の位置における気孔率の値が相対的に小さいセルスタック101Lよりも外側に配置されている。「基体管の軸方向の対応する任意の位置」とは、例えば気孔率分布の方向を揃えて基体管を並べたときの基体管の一端部からの距離が同じである位置である。「外側」とは、SOFCカートリッジ内において、よりSOFCカートリッジの縁部に近い側である。
図13では、上部管板225aの外縁により近い側が「外側」である。
【0110】
本実施形態では、各セルスタック(セルスタック101Hおよびセルスタック101L)の軸方向の任意の位置における基体管の気孔率の個体差を管理する。具体的には、セルスタック101を製造する際、基体管の両端に余剰部ができるよう基体管材料を製品規格よりも長めに成形する。基体管を吊り下げて一体焼成した後、余剰部を切り取って基体管の気孔率を計測する。余剰部は、吊り下げた際に上側にくる余剰部(上)と、下側にくる余剰部(下)とがある。余剰部(上)および余剰部(下)の気孔率の値はそれぞれ分けて管理する。計測した任意の位置における基体管の気孔率の値に基づいて、各セルスタック(セルスタック101Hおよびセルスタック101L)のSOFCカートリッジ内での配置を決定する。複数のセルスタックの余剰部(上)同士の気孔率、および余剰部(下)同士の気孔率を比較し、相対的に気孔率が小さいセルスタック101Lは、SOFCカートリッジの中央領域Cに配置する。相対的に気孔率が大きいセルスタック101Hは、中央領域Cの外側の周辺となる外側周辺領域(外側周辺領域D)に配置する。
【0111】
各セルスタック(セルスタック101Lおよびセルスタック101H)をカートリッジ内に配置する際には、軸方向において基体管の気孔率が大きい方の端部が燃料ガスの流れ方向下流側に向くようにする。
【0112】
SOFCカートリッジでは、周囲構造物との熱伝達の影響から、中央領域(C)の温度が高くなる傾向がある。セルスタックは周辺温度が高いと発電反応が促進されるため、SOFCカートリッジの中央領域の温度が高くなっても、温度の低いSOFCカートリッジの外側周辺領域の発電反応が制限されるので、セルスタック全体としては電流が流れにくくなる。本実施形態によれば、相対的に気孔率の小さい基体管をSOFCカートリッジの中央領域に配置し、相対的に気孔率の大きな基体管をSOFCカートリッジの外側周辺領域に配置することで、カートリッジ内の温度分布と、各カートリッジの発電反応による発熱とを相殺させることができる。また、気孔率の大きな基体管が配置された外側周辺領域では温度を上げることができる。それにより、発電室内の温度分布に差が生じにくくなり、燃料電池の発電効率を上げることができる。
【0113】
また、上記では基体管の気孔率を相対的に比較し、基体管のカートリッジ内における配置を決定したが、気孔率の気孔率に閾値を設け、閾値より大きい気孔率の基体管はSOFCカートリッジの中央領域に配置し、閾値より小さい気孔率の基体管はSOFCカートリッジの外側周辺領域に配置することとしてもよい。閾値の設定は、例えば、事前に製造工程で計測した検査データから投入する基体管についてデータを統計処理し、バラツキの平均値を閾値としてカートリッジ内における基体管の配置を決定する。
【0114】
第3実施形態は、第2実施形態と組み合わせて実施することができる。
【0115】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することができる。