(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6509586
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】塩害対策用混和材および鉄筋コンクリートの塩害対策方法
(51)【国際特許分類】
C04B 22/08 20060101AFI20190422BHJP
C04B 22/06 20060101ALI20190422BHJP
C04B 22/14 20060101ALI20190422BHJP
C04B 22/10 20060101ALI20190422BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20190422BHJP
C04B 103/60 20060101ALN20190422BHJP
C04B 111/20 20060101ALN20190422BHJP
【FI】
C04B22/08 Z
C04B22/06 Z
C04B22/14 B
C04B22/10
C04B28/02
C04B103:60
C04B111:20
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-41451(P2015-41451)
(22)【出願日】2015年3月3日
(65)【公開番号】特開2016-160146(P2016-160146A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】樋口 隆行
(72)【発明者】
【氏名】宇城 将貴
(72)【発明者】
【氏名】寺崎 聖一
【審査官】
小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−294693(JP,A)
【文献】
特開2001−322848(JP,A)
【文献】
特開2001−064054(JP,A)
【文献】
国際公開第2010/143506(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/077418(WO,A1)
【文献】
荒井康夫,セメントの材料化学,日本,大日本図書株式会社,2006年 9月20日,改訂2版,第88頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
C04B 103/60
C04B 111/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO原料、Al2O3原料、およびFe2O3原料を混合したものを熱処理して得られ、カルシウムアルミノフェライト、および遊離石灰の合計100質量部中、カルシウムアルミノフェライトを30〜90質量部、遊離石灰を10〜70質量部の割合で含有する熱処理物を粉砕してなる塩害対策用混和材。
【請求項2】
CaO原料、Al2O3原料、およびFe2O3原料に、さらにCaSO4原料を混合したものを熱処理して得られ、カルシウムアルミノフェライト、遊離石灰、および無水石膏の合計100質量部中、カルシウムアルミノフェライトを10〜90質量部、遊離石灰を20〜70質量部、無水石膏を10質量部以下の割合で含有する熱処理物を粉砕してなる塩害対策用混和材。
【請求項3】
熱処理物を炭酸化処理してなる請求項1または2記載の塩害対策用混和材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の塩害対策用混和材をコンクリートに配合してなる鉄筋コンクリートの塩害対策方法。
【請求項5】
塩害対策用混和材をコンクリート中のセメントに対してカルシウムアルミノフェライト含有量が10〜20質量%となるようにコンクリートに配合してなる請求項4に記載の鉄筋コンクリートの塩害対策方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野で使用される鉄筋コンクリートの塩害対策方法および塩害対策用混和材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートのひび割れは、塩化物の浸透や中性化の進行を加速させ、鉄筋腐食に伴うコンクリート片の剥離や落下を誘発させる。特に沿岸部や道路関連のコンクリートでは、海からの飛来塩分や凍結防止剤の散布によって塩害が生じやすく、コンクリートのひび割れを低減する材料や技術の開発が進んでいる(特許文献1)。
また、塩害対策としてカルシウムフェロアルミネート化合物が有効であることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−64054号公報
【特許文献2】WO2011/108159号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、塩化物浸透抑制効果とひび割れ抵抗性を有する塩害対策用混和材および鉄筋コンクリートの塩害対策方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、(1)CaO原料、Al
2O
3原料、およびFe
2O
3原料を混合したものを熱処理して得られ、カルシウムアルミノフェライト、および遊離石灰の合計100質量部中、カルシウムアルミノフェライトを30〜90質量部、遊離石灰を10〜70質量部の割合で含有する熱処理物を粉砕してなる塩害対策用混和材、(2)CaO原料、Al
2O
3原料、およびFe
2O
3原料に、さらにCaSO
4原料を混合したものを熱処理または後添加して得られ、カルシウムアルミノフェライト、遊離石灰、および無水石膏の合計100質量部中、カルシウムアルミノフェライトを20〜60質量部、遊離石灰を20〜70質量部、無水石膏を10質量部以下の割合で含有する熱処理物を粉砕してなる(1)の塩害対策用混和材、(3)熱処理物を炭酸化処理してなる(1)または(2)の塩害対策用混和材、(4)(1)〜(3)のいずれかの塩害対策用混和材をコンクリートに配合してなる鉄筋コンクリートの塩害対策方法、(5)塩害対策用混和材をコンクリート中のセメントに対してカルシウムアルミノフェライト含有量が10〜20質量%となるようにコンクリートに配合してなる(4)の鉄筋コンクリートの塩害対策方法、である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、塩化物を含む凍結防止材を散布しても鉄筋コンクリートの膨張率が高く、塩害によるひび割れ発生を防止することが可能となるなどの効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明で使用される、部、%は、特に規定しない限り質量基準である。
また、本発明で云うコンクリートとは、セメントペースト、セメントモルタル、およびセメントコンクリートを総称するものである。
【0008】
本発明の熱処理物とは、CaO原料、Al
2O
3原料、およびFe
2O
3原料、あるいは、これら原料に、さらにCaSO
4原料を混合したものを熱処理して得られる。
【0009】
CaO原料としては、石灰石や消石灰などが挙げられる。Al
2O
3原料としては、ボーキサイトやアルミ残灰などが挙げられる。Fe
2O
3原料としては銅カラミや市販の酸化鉄などが挙げられる。CaSO
4原料としては二水石膏、半水石膏および無水石膏などが挙げられる。
これらの原料には不純物を含む場合があるが、本発明の効果を阻害しない範囲内では特に問題とはならない。不純物としては、SiO
2、MgO、TiO
2、ZrO
2、MnO、P
2O
5、Na
2O、K
2O、Li
2O、硫黄、フッ素、塩素などが挙げられる。
【0010】
本発明において、CaO原料、Al
2O
3原料、およびFe
2O
3原料、あるいは、CaO原料、Al
2O
3原料、およびFe
2O
3原料に、さらにCaSO
4原料を混合したものを熱処理する方法は、特に限定されるものではない。
例えば、電気炉やキルンなどを用いて、1000〜1600℃の温度で焼成することが好ましく、1200〜1500℃がより好ましい。1000℃未満では、練り混ぜ直後のコンクリートの流動性の確保が難しい場合や初期強度の発現性が充分でない場合があり、1600℃を超えると無水石膏が分解する場合や初期強度の発現性が不十分になる場合がある。熱処理の時間は、その温度にもよるが、最高温度での保持時間は0〜2.0時間が好ましく、0.25〜1.75時間がより好ましい。
【0011】
本発明の熱処理物には、カルシウムアルミノフェライト、遊離石灰や無水石膏が含まれる。
本発明で云う遊離石灰とは、通常f−CaOと呼ばれるものである。
本発明で云うカルシウムアルミノフェライトとは、4CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3(C
4AFと略記)や6CaO・2Al
2O
3・Fe
2O
3(C
6A
2Fと略記)や6CaO・Al
2O
3・Fe
2O
3(C
6AFと略記)で示されるものである。
【0012】
本発明の熱処理物に含まれる各成分の含有量は、以下の範囲であることが好ましい。カルシウムアルミノフェライトの含有量は、CaO原料、Al
2O
3原料、およびF
e
2O
3原料を混合したものを熱処理する場合、カルシウムアルミノフェライト
、遊離
石灰の合計100部中、カルシウムアルミノフェライトを30〜90部、遊離石灰を
10〜70部の割合で含有する熱処理物が好ましい。
また、CaO原料、Al
2O
3原料、およびFe
2O
3原料に、さらにCaSO
4原料
を配合する場合には、カルシウムアルミノフェライトの含有量は、カルシウムアルミノフェライト、遊離石灰、無水石膏の合計100部中、20〜60部が好ましく、30〜50部がより好ましい。遊離石灰の含有量は、20〜70部が好ましく、30〜60部がより好ましい。無水石膏の含有量は、遊離石灰、カルシウムアルミノフェライトおよび無水石膏の合計100部中、10部以下が好ましく、1〜9部がより好ましい。なお、無水石膏は、カルシウムアルミノフェライト、遊離石灰を含む熱処理物に混合しても良い。
【0013】
また、本発明の熱処理物を炭酸ガスで処理し、熱処理物中に炭酸カルシウムを生成させることは塩害対策用混和材の性能を確保する上で好ましい。炭酸ガスによる処理温度は400〜700℃が好ましい。
炭酸カルシウムの含有量は、炭酸カルシウム、カルシウムアルミノフェライト、遊離石灰、および無水石膏の合計100部中、0.5〜10部であることが好ましく、1〜6部がより好ましい。前記範囲外では、塩害抑制性能の向上が見られない場合がある。
【0014】
上記各成分の含有量は、従来一般の分析方法で確認することができる。例えば、粉砕した試料を粉末X線回折装置にかけ、生成鉱物を確認するとともにデータをリートベルト法にて解析し、各成分を定量することができる。また、化学成分と粉末X線回折の同定結果に基づいて、各成分の量を計算によって求めることもできる。
炭酸カルシウムの含有量は、示差熱天秤(TG−DTA)や示差熱熱量測定(DSC)などによって、炭酸カルシウムの脱炭酸に伴う質量変化から定量することができる。
【0015】
本発明の塩害対策用混和材の粉末度は、ブレーン比表面積で2500〜9000cm
2/gが好ましく、3500〜9000cm
2/gがより好ましい。2500cm
2/g未満では、塩化物イオンの浸透抑制効果が不十分になる可能性や、初期強度の増進が不十分の場合や長期に亘って後膨張して強度が低下する場合がある。また、9000cm
2/gを超えるとコンクリートの流動性が低下するとともに、塩害抑制性能が不十分となる場合がある。
本発明の塩害対策用混和材の使用量は、コンクリート中のセメントと塩害対策用混和材の合計に対して、カルシウムアルミノフェライト量が10〜20%となるようにコンクリートに配合することが好ましい。
【0016】
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、および中庸熱などの各種ポルトランドセメント、これらセメントに対して、高炉スラグ、フライアッシュ、およびシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種を混合した各種混合セメント、ならびに石灰石粉末を混合したフィラーセメントなどが挙げられる。
【0017】
本発明では、砂、砂利の他、減水剤、高性能減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、高分子エマルジョン、凝結調整剤、セメント急硬材、ベントナイトなどの粘土鉱物、ゼオライトなどのイオン交換体、シリカ質微粉末、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、石膏、ケイ酸カルシウム、鋼繊維などを併用することが可能である。有機系材料としては、ビニロン繊維、アクリル繊維、炭素繊維などの繊維状物質などが挙げられる。
【実施例】
【0018】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されないことはもちろんである。
【0019】
「実験例1」
CaO原料、Al
2O
3原料、およびFe
2O
3原料、あるいは、CaO原料、Al
2O
3原料、Fe
2O
3原料およびCaSO
4原料を表1、2に記載するような所定の鉱物組成となるように混合した。この混合物を、電気炉を用いて1350℃で0.5時間熱処理し、得られた熱処理物をボールミルでブレーン比表面積3,500cm
2/gに粉砕し、塩害対策用混和材とした。
なお、遊離石灰(f−CaO)50部、カルシウムアルミノフェライト(C
4AF)40部、無水石膏(CaSO
4)10部の熱処理物について、炭酸ガス雰囲気下、600℃で処理を行い、処理時間を変えて、炭酸カルシウム(CaCO
3)含有量の異なる塩害対策用混和材を調製した。
次に、セメント450g、標準砂1350g、水225gを基準配合とし、表1、2に示すように塩害対策用混和材の種類とセメントに対する使用量を変えて、モルタルの膨張率、圧縮強さ、塩分浸透深さ、および曲げひび割れ発生強度比を評価した。塩害対策用混和材は、セメントに内割で配合した。
なお、遊離石灰(f−CaO)とカルシウムアルミノフェライト(C
4AF)を含む熱処理物に無水石膏(ブレーン比表面積5000cm
2/g、市販品)を添加した場合や、遊離石灰(f−CaO)とカルシウムアルミノフェライト(C
4AF)をそれぞれ純合成して、ブレーン比表面積3,500cm
2/gに粉砕して混合したものや、市販膨張材に純合成したカルシウムアルミノフェライト(C
4AF)を添加したものも評価した。
【0020】
(使用材料)
CaO原料:炭酸カルシウム(石灰石微粉末)、100メッシュ、市販品
Al
2O
3原料:ボーキサイト、90μm篩通過率100%、市販品
Fe
2O
3原料:酸化鉄粉末、ブレーン比表面積3000cm
2/g、市販品
CaSO
4原料:ニ水石膏、ブレーン比表面積5000cm
2/g、市販品
セメント:普通ポルトランドセメント、市販品、密度3.16g/cm
3
市販膨張材:f−CaO50部、3CaO・3Al
2O
3、CaSO
412部、CaSO
430部、エトリンガイト・石灰複合型膨張材、電気化学工業社製
砂:JIS標準砂
水:水道水
【0021】
(試験方法)
膨張率および圧縮強さ:JIS A 6202付属書1に準拠した。
塩分浸透深さ:材齢1日で脱型した40mm×40mm×160mmのモルタル試験体を材齢28日まで20℃水中で養生し、その後、疑似海水にモルタルを20℃環境下で浸漬した。浸漬3か月後にモルタル試験体を取り出し、モルタル断面に硝酸銀水溶液を吹きかけて、塩分浸透深さを測定した。測定は8か所測定し、平均値を求めた。
曲げひび割れ発生強度比:膨張率測定で用いた一軸拘束試験体を材齢28日まで20℃水中で養生した後、その後、疑似海水にモルタルを20℃環境下で浸漬した。浸漬3か月後にモルタル試験体を取り出し、端板を取り外した後、曲げ試験を実施した。ひび割れ発生時の荷重を計測し、塩害対策混和材を混和しない試験体との強度比を算出した。
【0022】
【表1】
【0023】
【表2】
【0024】
表1、2より、本発明について以下のことが分かる。
(1)カルシウムアルミノフェライト含有量が高くなるにしたがって塩分浸透が抑制される。(2)熱処理物に無水石膏を共存させると膨張性能が向上するため、無水石膏の含有量を調整することによって、塩分浸透の抑制効果と膨張性能が両立することが可能となる。(3)熱処理物に炭酸カルシウムを生成させることによって、膨張率が向上する。(4)塩害対策混和材を混和しない試験体に比べて、曲げひび割れ発生強度比が高くなり、塩分が浸透してもひび割れ抵抗性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明により、塩化物を含む凍結防止材を散布しても鉄筋コンクリートの膨張率が高く塩害によるひび割れ発生を防止することが可能となることから、土木分野などで広範に適用できる。