特許第6509600号(P6509600)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6509600オキソカーボン系化合物を含む硬化物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6509600
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】オキソカーボン系化合物を含む硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08K 5/15 20060101AFI20190422BHJP
   C08K 5/34 20060101ALI20190422BHJP
   C08K 5/45 20060101ALI20190422BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   C08K5/15
   C08K5/34
   C08K5/45
   C08L101/00
【請求項の数】5
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2015-53873(P2015-53873)
(22)【出願日】2015年3月17日
(65)【公開番号】特開2016-172828(P2016-172828A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2017年12月5日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 正矩
(72)【発明者】
【氏名】平内 達史
(72)【発明者】
【氏名】浦田 稔
【審査官】 松浦 裕介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/049579(WO,A1)
【文献】 特開2006−225624(JP,A)
【文献】 特開2010−248515(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/087793(WO,A1)
【文献】 特開2004−099711(JP,A)
【文献】 特開2015−091923(JP,A)
【文献】 特開2012−046539(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/057036(WO,A1)
【文献】 特開2004−099712(JP,A)
【文献】 特開2004−099713(JP,A)
【文献】 特開2008−275726(JP,A)
【文献】 特開2010−065069(JP,A)
【文献】 特開2011−009347(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/052341(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0218335(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0224653(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソカーボン系化合物を含む硬化物を得るための製造方法であって、
該製造方法は、オキソカーボン系化合物を含む組成物を、酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で硬化させる工程を含み、
該組成物は、更に、樹脂を含み、
該オキソカーボン系化合物は、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物、又は、1分子中に下記式(1)及び/若しくは(2)における主骨格を2個以上有する化合物であって、600〜1500nmの波長域に吸収極大を有し、該組成物中に溶解していることを特徴とする硬化物の製造方法。
【化1】
式(1)及び(2)中、Ra1及びRa2は、同一又は異なって、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員又は6員の単環性芳香族複素環;3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環;3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性脂環式複素環;ベンゼン環;ナフタレン環;アントラセン環;又は、水素原子を表す。a1及びRa2の少なくとも一方は、該単環性芳香族複素環、該縮環性芳香族複素環、又は該縮環性脂環式複素環を表す。
該単環性芳香族複素環、該縮環性芳香族複素環、該縮環性脂環式複素環、ベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環は、置換基を有していてもよい。
該置換基は、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アルキル基、アリール基−Ar、アラルキル基、シアノ基、ハロゲン原子、又は、−R=R−Arである。Rは、N又はCHを表す。Arは、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、ハロゲン基で置換されていてもよいアルキル基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基で置換されていてもよいアリール基を表す。
【請求項2】
オキソカーボン系化合物を含む組成物を保存する方法であって、
該方法は、該組成物を酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で保存する方法であり、
該組成物は、更に、樹脂を含み、
該オキソカーボン系化合物は、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物、又は、1分子中に下記式(1)及び/若しくは(2)における主骨格を2個以上有する化合物であって、600〜1500nmの波長域に吸収極大を有し、該組成物中に溶解していることを特徴とする組成物の保存方法。
【化2】
式(1)及び(2)中、Ra1及びRa2は、同一又は異なって、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員又は6員の単環性芳香族複素環;3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環;3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性脂環式複素環;ベンゼン環;ナフタレン環;アントラセン環;又は、水素原子を表す。a1及びRa2の少なくとも一方は、該単環性芳香族複素環、該縮環性芳香族複素環、又は該縮環性脂環式複素環を表す。
該単環性芳香族複素環、該縮環性芳香族複素環、該縮環性脂環式複素環、ベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環は、置換基を有していてもよい。
該置換基は、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アルキル基、アリール基−Ar、アラルキル基、シアノ基、ハロゲン原子、又は、−R=R−Arである。Rは、N又はCHを表す。Arは、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、ハロゲン基で置換されていてもよいアルキル基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基で置換されていてもよいアリール基を表す。
【請求項3】
前記組成物は、更に、溶媒を含むことを特徴とする請求項2に記載の組成物の保存方法。
【請求項4】
オキソカーボン系化合物を含む組成物を使用する方法であって、
該方法は、該組成物を酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で使用する方法であり、
該組成物は、更に、樹脂を含み、
該オキソカーボン系化合物は、下記式(1)で表される化合物、下記式(2)で表される化合物、又は、1分子中に下記式(1)及び/若しくは(2)における主骨格を2個以上有する化合物であって、600〜1500nmの波長域に吸収極大を有し、該組成物中に溶解していることを特徴とする組成物の使用方法。
【化3】
式(1)及び(2)中、Ra1及びRa2は、同一又は異なって、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員又は6員の単環性芳香族複素環;3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環;3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性脂環式複素環;ベンゼン環;ナフタレン環;アントラセン環;又は、水素原子を表す。a1及びRa2の少なくとも一方は、該単環性芳香族複素環、該縮環性芳香族複素環、又は該縮環性脂環式複素環を表す。
該単環性芳香族複素環、該縮環性芳香族複素環、該縮環性脂環式複素環、ベンゼン環、ナフタレン環、及びアントラセン環は、置換基を有していてもよい。
該置換基は、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アルキル基、アリール基−Ar、アラルキル基、シアノ基、ハロゲン原子、又は、−R=R−Arである。Rは、N又はCHを表す。Arは、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、ハロゲン基で置換されていてもよいアルキル基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基で置換されていてもよいアリール基を表す。
【請求項5】
前記組成物は、更に、溶媒を含むことを特徴とする請求項4に記載の組成物の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オキソカーボン系化合物を含む硬化物の製造方法の他、オキソカーボン系化合物を含む組成物の保存又は使用の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オキソカーボン系化合物は、炭素と酸素とのみから構成される環状のオキソカーボン基を含む化合物であり、その構造に由来して波長600〜1500nm付近に吸収帯を有するため、近赤外線吸収色素等として使用されている。オキソカーボン系化合物を用いた製品としては、例えば、オキソカーボン系化合物の一種であるスクアリリウム系化合物、酸化防止剤及び紫外線吸収剤を含有するプラズマディスプレイパネル用フィルターが開発されており(特許文献1)、酸化防止剤を用いることでフィルターの耐光性を改善している。
【0003】
ところで、特許文献1のように、色素を含む製品では光による色素の劣化が課題となることがある。そこで、アゾ染料等の色素に一重項酸素消光剤を添加することで光安定性を改善する技術が提案されている(非特許文献1)。また、酸素濃度を制限した雰囲気下で素子の組み立て工程を行うことで、光吸収にかかわる増感色素(ルテニウム錯体色素、メチン色素等)の自己光酸化分解を抑制し、光耐久性を改善する技術も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−350013号公報
【特許文献2】特開2001−35549号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中澄博行著、「機能性色素の科学」、株式会社化学同人、2013年10月15日、p.70−p.72
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり特許文献1では、スクアリリウム系化合物に酸化防止剤を併用させることで耐光性を改善している。だが、酸化防止剤を用いなくても、オキソカーボン系化合物の光による劣化を抑制するための工夫の余地があった。
【0007】
また市場に置かれる多くの製品は、製造段階で高温環境下に晒されることがあるため、高温環境下に晒された後でも各種物性が低下することなく安定して発揮できることが求められる。すなわち耐熱性が求められるが、オキソカーボン系化合物を用いた製品について耐熱性を検討したような文献等はこれまでにない。例えば特許文献1〜2及び非特許文献1では、耐熱性の検討はなされていない。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、オキソカーボン系化合物を含み、かつ耐光性及び耐熱性に優れる硬化物を容易に与えることができる製造方法、並びに、オキソカーボン系化合物を含む組成物を安定に保存又は使用することを可能とする保存又は使用の方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、オキソカーボン系化合物を用いた製品について種々検討するうち、硬化時や保存又は使用時の雰囲気によって、オキソカーボン系化合物に由来する物性が変化することを見いだした。そして、オキソカーボン系化合物を含む組成物を酸素濃度が所定範囲にある雰囲気下で硬化させると、硬化工程等での物性低下が抑制され、耐光性とともに耐熱性にも優れる硬化物が容易に得られることを見いだした。また、オキソカーボン系化合物を含む組成物を酸素濃度が所定範囲にある雰囲気下で保存又は使用すると、光や熱による物性低下が充分に抑制されて安定に保存又は使用できることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達した。
【0010】
すなわち本発明は、オキソカーボン系化合物を含む硬化物を得るための製造方法であって、該製造方法は、オキソカーボン系化合物を含む組成物を、酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で硬化させる工程を含む硬化物の製造方法である。
本発明はまた、オキソカーボン系化合物を含む組成物を保存又は使用する方法であって、該方法は、該組成物を酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で保存又は使用する組成物の保存又は使用の方法でもある。
以下に本発明を詳述する。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も本発明の好ましい形態である。
【0011】
〔硬化物の製造方法〕
本発明の硬化物の製造方法は、オキソカーボン系化合物を含む組成物を、酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で硬化させる工程(硬化工程とも称す)を含む。本発明の作用効果を損なわない限り、通常の硬化物の製造で行われる他の工程を1又は2以上含んでもよい。
【0012】
<硬化工程>
上記硬化工程は、酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で行う。通常の空気中の酸素濃度は約20体積%であるが、10体積%以下の雰囲気下で硬化させることで、硬化工程等での物性低下が抑制され、耐光性とともに耐熱性にも優れる硬化物を容易に得ることが可能になる。酸素濃度は、好ましくは3体積%以下、より好ましくは1体積%以下、特に好ましくは0.5体積%以下、最も好ましくは0.3体積%以下である。
本明細書中、酸素濃度は、酸素濃度計(例えば、新コスモス電機株式会社製、コスモテクターXPO−318)にて測定することができる。
【0013】
酸素濃度を上述した範囲にする手段は特に限定されないが、例えば、系中の酸素を不活性ガスと置換して、不活性ガス雰囲気下にて硬化を行うことが好適である。不活性ガスは特に限定されず、例えば、窒素の他、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の希ガスが挙げられる。中でも、アルゴン、窒素が好ましく、特に窒素が好ましい。また、減圧下、常圧下、加圧下のいずれの雰囲気下でもよい。
【0014】
上記硬化工程における硬化手段は特に限定されないが、熱や、活性エネルギー線照射(光照射とも称す)を用いて硬化させることが好適である。すなわち上記硬化工程は、加熱工程及び/又は活性エネルギー線照射工程であることが好ましい。
【0015】
上記加熱工程の温度は特に限定されないが、例えば、30〜400℃とすることが好ましく、この温度範囲内で段階的に変化させてもよい。より好ましくは50〜300℃である。加熱時間も特に限定されないが、製造効率を考慮すると、例えば、1分間〜30時間とすることが好適である。より好ましくは1分間〜10時間である。
【0016】
上記活性エネルギー線照射工程において、使用する活性エネルギー線は特に限定されないが、例えば、紫外線、可視光線、電子線、α線、β線、γ線等の電離放射線、マイクロ波、高周波、赤外線、レーザー光線等が好適である。中でも、容易に取り扱うことができる点から、紫外線又は可視光線が好ましく、より好ましくは波長180〜500nmの紫外線又は可視光線である。また、10〜100000mJ/cmで硬化させることが好ましい。照射時間は、活性エネルギー線の種類や照射量等によって適宜設定すればよい。例えば、波長180〜500nmの紫外線又は可視光線の照射時間は、0.1マイクロ秒〜30分が好ましく、より好ましくは0.1ミリ秒〜1分である。
【0017】
上記硬化工程では、硬化を1段階で行ってもよく、また、1次硬化(予備硬化)、2次硬化(本硬化)のように2段階以上で行ってもよい。2段階硬化法は、例えば、特開2014−149514号公報〔0189〕〜〔0196〕に記載のように行うことが好ましい。なお、硬化を複数段階で行う場合、そのうちの少なくとも1つの硬化工程を上述した酸素濃度雰囲気下で行えばよい。
【0018】
上記硬化工程はまた、所定の酸素濃度雰囲気下で行う限り、熱プレス成形、熱ラミネート成形、押出成形、射出成形、注型重合、プレス成形、カレンダー成形、注型製膜等の成型工程であってもよい。これらの工程を加熱して行う場合の温度は特に限定されず、上述した加熱温度と同様であることが好ましい。
【0019】
上記硬化工程として具体的には、例えば、オキソカーボン系化合物を含む組成物を加熱成形する工程;オキソカーボン系化合物を含む組成物に光照射して成形する工程;オキソカーボン系化合物を含む組成物を、基材(樹脂板、フィルム又はガラス板等)にコーティングした後、加熱又は光照射する工程;等が好適である。成形やコーティングは、通常の手法で行えばよい。
【0020】
<オキソカーボン系化合物を含む組成物>
上記硬化工程に供する組成物(以下、単に「組成物」とも称す)は、オキソカーボン系化合物を含むものであればよい。オキソカーボン系化合物を含むことで、耐熱性及び透過性に優れた硬化物を与えることができ、また、上記組成物が更に樹脂を含む場合、樹脂との相溶性にも優れるものとなる。上記組成物は、更に樹脂を含むことが好ましい。また、必要に応じ、他の成分を含んでもよい。各含有成分は、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
【0021】
ここで、本発明の製造方法により得られる硬化物の形状は特に限定されず、平板状やフィルム状、シート状の他、波板状、球面状、ドーム状、ペレット状等の様々な形状が挙げられ、基板等上に形成された硬化膜であってもよい。例えば、上記組成物が更に樹脂を含む場合、得られる硬化物は、樹脂膜(樹脂層とも称す)や、樹脂ペレット等になり得る。この点で、上記組成物が更に樹脂を含む場合、当該組成物を、樹脂層形成用組成物又は樹脂ペレット用組成物と称することができる。
【0022】
以下、上記組成物における必須又は任意の含有成分について説明する。
−オキソカーボン系化合物−
オキソカーボン系化合物は、炭素と酸素とのみから構成される環状のオキソカーボン基を1個又は2個以上含む化合物であり、本発明では、近赤外線吸収色素として使用されているオキソカーボン系色素(好ましくは有機化合物)を用いることが好適である。例えば、600〜1500nmの波長域に吸収極大を有するものが好ましい。この波長域に吸収極大を有することで、特に600nm〜1600nmの領域における光の吸収を低減でき、これに起因する光学ノイズを除去することが可能となる。これによって、オキソカーボン系化合物を含む硬化物が、可視光透過率が高く、かつ近赤外領域の遮断性能に優れるという、光学ノイズ低減のために好適な物性を有することにもなる。吸収極大の波長域は、より好ましくは600〜1300nm、更に好ましくは650〜1100nmである。
本明細書中、「吸収極大」とは、波長と吸光度との関係を、X軸を波長とし、Y軸を吸光度とする二次元グラフで表した場合に、吸光度が増加から減少に転じる頂点を意味する。
【0023】
上記オキソカーボン系化合物は、上記組成物中に分散又は溶解して含有されていることが好適である。中でも、オキソカーボン系化合物が組成物中に溶解していることがより好ましい。すなわちオキソカーボン系化合物は、組成物に含まれる他の含有成分(好ましくは、樹脂及び/又は溶媒)に溶解するものであることが好ましい。これにより、オキソカーボン系化合物を高濃度で均一に分散又は溶解した組成物や硬化物を与えることができ、オキソカーボン系化合物に由来する物性をより充分に発揮することができる。
【0024】
上記オキソカーボン系化合物はまた、環状オキソカーボン基に加えて複素環及び/又は芳香族環を有する化合物が好適である。より好ましくは環状オキソカーボン基及び含窒素環を有する化合物であり、更に好ましくは環状オキソカーボン基及び含窒素複素環(インドレニン)を有する化合物である。これにより、酸素濃度を制御した雰囲気において耐光性及び耐熱性がより一層優れた組成物や硬化物を与えることが可能になる。
【0025】
上記複素環及び/又は芳香族環を有するオキソカーボン系化合物としては、スクアリリウム系化合物、クロコニウム系化合物が好適である。すなわち本発明のオキソカーボン系化合物は、スクアリリウム系化合物及びクロコニウム系化合物からなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好適である。また、異なる構造を有した2種類以上のオキソカーボン系化合物を混合して使用することも好ましい。例えば、異なる構造を有した2種類以上のスクアリリウム化合物を混合して使用する形態が挙げられる。これにより、酸素濃度を制御した雰囲気において耐光性及び耐熱性がより一層優れた組成物や硬化物を与えることが可能になる。
【0026】
スクアリリウム系化合物はスクアリリウム系色素とも称され、その構造は特に限定されないが、例えば、下記式(1)で表される化合物が好ましい。クロコニウム系化合物はクロコニウム系色素とも称され、その構造は特に限定されないが、例えば、下記式(2)で表される化合物が好ましい。なお、1分子内に、式(1)及び/又は(2)における主骨格(スクアリリウム骨格、クロコニウム骨格)を2個以上有する化合物であってもよい。
【0027】
【化1】
【0028】
上記式(1)及び(2)中、Ra1及びRa2は、同一又は異なって、複素環、芳香族環又は水素原子を表し、Ra1及びRa2の少なくとも一方は、複素環又は芳香族環を表す。複素環及び芳香族環は、置換基を有していてもよい。
【0029】
上記複素環としては、芳香族複素環、脂環式複素環が挙げられる。
上記芳香族複素環としては、例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員又は6員の単環性芳香族複素環;3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環;等が挙げられ、より具体的にはピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、キノキサリン環、ナフチリジン環、シンノリン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、チオフェン環、フラン環、チアゾール環、オキサゾール環、インドール環、イソインドール環、インダゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンズトリアゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、プリン環、カルバゾール環等が挙げられる。
【0030】
上記脂環式複素環としては、例えば、窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員又は6員の単環性脂環式複素環;3〜8員の環が縮合した二環又は三環性で窒素原子、酸素原子及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性脂環式複素環;等が挙げられ、より具体的にはピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、モルホリン環、チオモルホリン環、ホモピペリジン環、ホモピペラジン環、テトラヒドロピリジン環、テトラヒドロキノリン環、テトラヒドロイソキノリン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環、ジヒドロベンゾフラン環、テトラヒドロカルバゾール環等が挙げられる。
【0031】
上記芳香族環としては、炭素数5〜14の芳香族環が好ましく、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等が挙げられる。
【0032】
上記複素環の中でも特に好ましくは5員又は6員の複素環であり、上記芳香族環の中でも特に好ましくは5員又は6員の芳香族環である。
【0033】
上記複素環及び芳香族環は、1個又は2個以上の置換基を有してもよいが、当該置換基の数は5個以下が好ましい。各環が2個以上の置換基を有する場合、同一の置換基であってもよいし異なる置換基であってもよい。このような置換基として具体的には、例えば、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アルキル基、アリール基−Ar、アラルキル基、シアノ基、ハロゲン原子、−R=R−Ar(Rは、N又はCHを表す。Arは、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、ハロゲン基で置換されていてもよいアルキル基、シアノ基及びハロゲン原子からなる群から選択される置換基で置換されていてもよいアリール基を表す。)等が挙げられる。アルキル基及びアルコキシ基は、1個又は2個以上の置換基を有してもよく(当該置換基の数は3個以下が好ましい。)、この置換基として、例えば、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、シアノ基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0034】
上記式(1)及び(2)中、Ra1及びRa2として特に好ましくは、下記式(3)で表される構造単位を表すことである。Ra1及びRa2は、同一であってもよいし異なっていてもよい。
【0035】
【化2】
【0036】
上記式(3)中、環Aは、構成員数が4〜9員である不飽和炭化水素環を表す。X及びYは、同一又は異なって、有機基又は極性官能基を表す。nは、0〜6であり、かつm以下の整数を表す。mは、環Aの構成員数から3を引いた値である。*は、上記式(1)におけるスクアリリウム骨格又は上記式(2)におけるクロコニウム骨格との結合部位を表し、スクアリリウム骨格又はクロコニウム骨格に結合する炭素原子(式(3)中、矢印で示す炭素原子)が、炭化水素環(環A)を形成している。環Bは、芳香族炭化水素環、芳香族複素環又はこれら環構造を含む縮合環を表し、置換基を有していてもよい。
【0037】
上記環Aは、構成員数が4〜9員である不飽和炭化水素環を表すが、スクアリリウム骨格又はクロコニウム骨格に結合する炭素原子(式(3)中、矢印で示す炭素原子)とピロール環を構成する炭素原子との間に少なくとも1個の二重結合を有する不飽和炭化水素環であればよい。環Aは、この二重結合以外にも不飽和結合(好ましくは二重結合)を有するものであってもよいが、環Aが有する二重結合は1個であることが好ましい。環Aとして好ましくは5〜8員環であり、より好ましくは6〜8員環である。環Aの構造としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、シクロノネン、シクロノナジエン、シクロノナトリエン、シクロノナテトラエン等のシクロアルケン構造が挙げられる。中でも、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のシクロアルカンモノエンが好ましい。
【0038】
上記X、Yが表し得る有機基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオオキシ基(アルキルチオ基)、アルキルオキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオオキシ基(アリールチオ基)、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アミド基(−NHCOR)、スルホンアミド基(−NHSO)、カルボキシ基(カルボン酸基)、シアノ基等が挙げられる。Rは、任意の1価の有機基を表す。また、極性官能基としては、例えば、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基(スルホン酸基)等も挙げられる。
【0039】
上記Xが表す有機基又は極性官能基として好ましくは、アルキル基、アルキルオキシカルボニル基又はアリール基であり、より好ましくはアルキル基又はアリール基である。この場合、アルキル基の炭素数は、直鎖状又は分岐状のアルキル基であれば1〜6が好ましく、より好ましくは1〜4であり、脂環式のアルキル基であれば4〜7が好ましく、より好ましくは5〜6である。アリール基の炭素数は6〜10が好ましく、より好ましくは6〜8である。具体的には、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基又はフェニル基等が好適である。
【0040】
上記Yが表す有機基又は極性官能基として好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、フェニル基、アルコキシカルボニル基(エステル基)、アミド基、スルホンアミド基又は水酸基であり、より好ましくはアルキル基又は水酸基である。この場合、アルキル基の炭素数は1〜5が好ましく、より好ましくは1〜3、更に好ましくは1〜2である。具体的には、メチル基、エチル基、水酸基等が好適である。
【0041】
上記nは、0〜6であり、かつm以下の整数を表すが、好ましくは0〜5の整数、より好ましくは0〜3の整数、更に好ましくは0〜2の整数である。nが1以上である場合、環Aを構成する炭素原子に結合する水素原子は、Yで置換されることになる。nが2以上であり、Yが複数存在する場合には、各Yは同じであってもよいし異なっていてもよい。また、nが2以上である場合、複数のYは各々別の炭素原子に結合していてもよいし、2個のYが1個の炭素原子に結合していてもよい。
【0042】
上記環Bは、芳香族炭化水素環、芳香族複素環又はこれら環構造を含む縮合環を表し、置換基を有していてもよい。置換基を有する場合、置換基の数は1個でもよいし2個以上でもよい。環Bとしては、例えば、下記式(A−1)〜(A−12)の構造を有する環や、これら環の水素原子の1つ以上が任意の置換基で置換された環等が挙げられる。中でも、ベンゼン環(A−1)、ナフタレン環(A−2、A−3)又はこれらに置換基が置換した環が好ましく、ベンゼン環(A−1)又はベンゼン環(A−1)に置換基が置換した環がより好ましい。ここで置換基としては、X及びYが表す有機基として上述した基が挙げられ、その中でも特に、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4の直鎖状又は分岐状アルキル基)、アリール基、アルコキシ基、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜2のアルキルチオ基)、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、等の電子供与性基;ハロゲノ基(好ましくは、クロロ基又はブロモ基等)、アルコキシカルボニル基(エステル基とも称す)、カルボキシ基(カルボン酸基とも称す)、スルホ基(スルホン酸基とも称す)、ニトロ基等の電子吸引性基;が好ましく、特に電子吸引性基が好ましい。
【0043】
【化3】
【0044】
上記式(A−1)〜(A−12)は、環Bをピロール環の一部を含んで表したものであり、例えば式(A−1)は、下記構造式中、aの矢印で示されるピロール環のβ位の炭素原子と、下記構造式中、bの矢印で示されるピロール環のα位の炭素原子とを含んで表記されている。
【0045】
【化4】
【0046】
ここで、上記式(3)で表される構造単位が、上記式(1)におけるスクアリリウム骨格又は上記式(2)におけるクロコニウム骨格に結合してなるオキソカーボン系化合物には、互変異体が存在する。詳しくいうと、上記式(3)で表される構造単位が式(1)におけるスクアリリウム骨格に結合した場合には、下記式(1−1)で表される化合物の他、下記式(1−0)又は(1−2)で表される互変異体が存在する。上記式(3)で表される構造単位が式(2)におけるクロコニウム骨格に結合した場合には、下記式(2−1)で表される化合物の他、下記式(2−0)、(2−2)又は(2−3)で表される互変異体が存在する。
本発明のオキソカーボン系化合物として上記式(1)又は(2)で表される化合物を少なくとも用いる場合、上記式(1)又は(2)で表される化合物のみならず、それぞれに対応する互変異体をも包含するものとする。
【0047】
【化5】
【0048】
【化6】
【0049】
上記スクアリリウム系化合物及びクロコニウム系化合物の製造方法は特に限定されないが、例えば、ピロール環含有化合物を中間原料とし、これをスクアリン酸又はクロコン酸と反応させることにより製造することができる。この製造には、公知の合成手法を適宜採用することができ、例えば、特開2002−286931号公報、特開2007−31644号公報、特開2007−31645号公報、特開2007−169315号公報に記載の方法で合成することができる。また、得られた化合物は、必要に応じて、濾過、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、昇華精製、再結晶、晶析等の公知の精製手段によって適宜精製してもよい。
【0050】
上記ピロール環含有化合物としては、例えば、下記式(4)で表される化合物が好ましい。下記式(4)中、環A、環B、X、Y及びnは、それぞれ上記式(3)における各記号と同じである。
【0051】
【化7】
【0052】
上記ピロール環含有化合物として具体的には、例えば、4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、6−メチル−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、6−フルオロ−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、6,8−ジフルオロ−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、6−クロロ−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、5,7−ジクロロ−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、5,6,8−トリクロロ−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、6−ブロモ−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、6,8−ジブロモ−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、6−トリフルオロメチル−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール−8−カルボン酸、4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール−6−カルボン酸、6−フェニル−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、8−フェニル−4a−メチル−2,3,4,4a−テトラヒドロ−1H−カルバゾール、6b−メチル−7,8,9,10−テトラヒドロ−6bH−ベンゾ[a]カルバゾール、10a−メチル−6,7,8,9,10,10a−ヘキサヒドロシクロヘプタ[b]インドール、11a−メチル−7,8,9,10,11,11a−ヘキサヒドロ−6H−シクロオクタ[b]インドール等が挙げられる。
【0053】
上記ピロール環含有化合物は、公知の合成手法を適宜採用することによって合成できる。例えば、Sami Sajjadifar等著の論文(「New 3H-Indole Synthesis by Fischer’s Method. Part I.」、Molecules 2010、Volume 15、2010年4月、p.2491−2498)や、Ian Collins等著の論文(「A convenient synthesis of highly substituted 2-pyridones」、Tetrahedron Letters、Volume 40、 Issue 21、1999年5月、p.4069−4072)に記載の合成法によって合成することができる。
【0054】
−樹脂−
上記組成物は、樹脂を1種又は2種以上含むことが好ましい。
樹脂としては特に限定されず、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。具体的には、例えば、ポリ(アミド)イミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、フッ素系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリビニル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、(メタ)アクリル系樹脂、スチレン樹脂、アクリル−スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂等の他、種々様々な樹脂を使用することができる。用途等に応じて好ましい物性を有する樹脂を適宜選択すればよいが、オキソカーボン系化合物を溶解又は分散できるものを用いることが好適である。例えば、高い耐光性が要求される用途では、フッ素系樹脂、ポリ(アミド)イミド樹脂等を用いることが好ましく、また、透明性(透過性)が要求される用途では、透明樹脂を用いることが好ましい。
【0055】
本明細書中、ポリ(アミド)イミド樹脂は、狭義のポリイミド樹脂(イミド結合を含み、アミド結合を含まないか又は若干量含んでもよい樹脂を意味し、ここでいうアミド結合とは、アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合を意味する。)、及び、ポリアミドイミド樹脂(アミック酸の脱水反応によりイミド結合を形成し得ないアミド結合とイミド結合とを含む樹脂を意味する。)のいずれをも包含する。
【0056】
上記組成物が樹脂を含む場合、その含有量は特に限定されないが、例えば、樹脂総量(固形分)100質量部に対して、オキソカーボン系化合物の含有量が0.05〜30質量部になるように、樹脂の含有量を設定することが好ましい。これにより、可視光透過率がより高く、かつ近赤外領域の遮断性能により優れる硬化物を得ることが可能になる。当該オキソカーボン系化合物の含有量は、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上、より更に好ましくは0.5質量部以上、一層好ましくは1質量部以上、特に好ましくは2質量部以上、最も好ましくは3質量部以上であり、また、より好ましくは25質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、特に好ましくは15質量部以下、最も好ましくは10質量部以下である。
【0057】
上記樹脂の含有量はまた、上記組成物中の色素総量(オキソカーボン系化合物と後述する他の色素との総量)が、樹脂総量(固形分)100質量部に対して0.05〜35質量部になるように、設定することも好ましい。これにより、可視光透過率がより高く、かつ近赤外領域の遮断性能により優れる硬化物を得ることが可能になる。当該色素総量は、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上、より更に好ましくは0.5質量部以上、一層好ましくは1質量部以上、特に好ましくは2質量部以上、最も好ましくは3質量部以上であり、また、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは25質量部以下、特に好ましくは20質量部以下、最も好ましくは10質量部以下である。
【0058】
−他の色素−
上記組成物はまた、上述したオキソカーボン系化合物以外の色素(他の色素と称す)を1種又は2種以上含んでいてもよい。他の色素としては特に限定されず、例えば、用途等に応じて、600〜1500nmの波長域以外の近赤外線、赤外線、紫外線、可視光の各帯域において特定の波長に特性吸収を有する色素を使用目的に応じて適宜選択すればよい。また、耐光性向上の観点から、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収色素を用いてもよい。
【0059】
上記他の色素を含む場合、その含有量は特に限定されないが、例えば、オキソカーボン系化合物と他の色素との総量100質量%に対し、50質量%以下とすることが好ましい。より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。言い換えれば、オキソカーボン系化合物と他の色素との総量100質量%に対し、オキソカーボン系化合物が50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上である。
【0060】
−溶媒−
上記組成物はまた、溶媒を1種又は2種以上含むことが好適である。溶媒を含む場合、例えば塗工性等を高めることができる。
溶媒としては特に限定されないが、有機溶媒が好適であり、例えば、モノアルコール類;グリコール類;環状エーテル類;グリコールモノエーテル類;グリコールエーテル類;グリコールモノエーテルのエステル類(例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等);アルキルエステル類;ケトン類;芳香族炭化水素類;ハロゲン化芳香族炭化水素類;脂肪族炭化水素類;アミド類;等が好ましい。中でも、オキソカーボン系化合物を溶解又は分散できるものが好適である。また、オキソカーボン系化合物は、双極子モーメントが小さい溶媒中で高い耐久性を有するので、双極子モーメントが4D以下である溶媒が好ましく、双極子モーメントが3.5D以下である溶媒がより好ましく、3D以下である溶媒が特に好ましい。このような溶媒の具体例として、例えば、o−ジクロロベンゼン、シクロペンタノン、PGMEA、エチルシクロヘキサン、キシレン、トリメチルベンゼン、リモネン等が好ましい。
なお、溶媒中の水分含有量は3質量%以下であることが好ましい。
【0061】
上記組成物が溶媒を含む場合、その含有量は特に限定されないが、例えば、上記組成物が溶媒に加えて樹脂を含む場合は、樹脂総量(固形分)100質量部に対し、溶媒の含有量を10〜4000質量部とすることが好ましい。より好ましくは300〜3000質量部であり、更に好ましくは500〜2000質量部である。
【0062】
−添加剤−
上記組成物はまた、必要に応じて、適切な添加剤を1種又は2種以上含んでいてもよい。添加剤の具体例としては特に限定されないが、例えば、硬化剤、離型剤、レベリング剤、顔料、顔料分散剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、酸素補足剤、粘性改質剤、耐光安定剤、金属不活性化剤、過酸化物分解剤、充填剤、補強材、可塑剤、潤滑剤、防食剤、防錆剤、乳化剤、鋳型脱型剤、蛍光性増白剤、有機防炎剤、無機防炎剤、滴下防止剤、溶融流改質剤、静電防止剤、すべり付与剤、密着性付与剤、防汚剤、界面活性剤、消泡剤、重合禁止剤、光増感剤、表面改良剤、(近)赤外線カット剤、シランカップリング剤以外の密着向上剤、熱安定剤、防菌・防カビ剤、難燃剤等が挙げられる。
【0063】
上記添加剤を含む場合、その含有量は特に限定されないが、例えば、組成物の総量(固形分)100質量%に対し、添加剤の総量を0.00001質量%以上、10質量%以下とすることが好ましい。
【0064】
上記組成物の調製方法は特に限定されず、含有成分を通常の方法で混合することにより得ることができる。含有成分を混合する際には、必要に応じて、各成分又は混合物を加熱して、均一組成になるように混合することもできる。加熱温度としては、好ましくは20〜160℃、より好ましくは40〜140℃である。混合方法も特に限定されず、例えば、各種の混合機や分散機を用いて混合分散することによって上記組成物を調製することができる。分散工程及び混合工程も特に限定されず、通常の手法により行えばよく、各成分の添加混合順序は適宜選択できる。例えば、オキソカーボン系化合物に加えて樹脂及び溶媒を含む場合、樹脂にオキソカーボン系化合物を添加混合した後に溶媒を添加混合してもよく、溶媒に樹脂及びオキソカーボン系化合物を添加して混合してもよい。また、通常行われる他の工程を更に含むものであってもよい。その他、上記組成物が樹脂ペレット用組成物である場合は、溶融樹脂に色素紛体を練りこんで押し出し成型することで、上記組成物を調製してもよい。
【0065】
〔硬化物〕
本発明の製造方法により得られる硬化物は、耐光性及び耐熱性に極めて優れるうえ、透過性等にも優れ、更にオキソカーボン系化合物を含むことに起因して所定の波長域に吸収極大を有する。それゆえ、液晶表示装置や固体撮像素子、タッチパネル式表示装置等に使用される、赤外カットフィルター、紫外・赤外カットフィルター等の光選択透過フィルターの他、種々様々な用途に有用である。具体的には、例えば、後述する保存又は使用の方法により保存又は使用された組成物と同様の用途が挙げられる。このように上記製造方法により得られる硬化物は、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0066】
〔組成物の保存又は使用の方法〕
本発明の保存又は使用の方法(以下、保存/使用方法とも称す)では、オキソカーボン系化合物を含む組成物を、酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で保存又は使用する。
本明細書中、保存及び使用には、貯蔵、移送及び輸送も含むものとする。
【0067】
上記保存/使用方法では、保存又は使用時の雰囲気を酸素濃度10体積%以下とする。通常の空気中の酸素濃度は約20体積%であるが、10体積%以下の雰囲気下で保存又は使用することで、光や熱によるオキソカーボン系化合物の物性低下が充分に抑制されて安定に保存又は使用することができる。酸素濃度の好ましい範囲は上述したとおりである。
なお、本発明において「オキソカーボン系化合物を含む組成物を安定に保存又は使用する」とは、オキソカーボン系化合物による経時的な分解や反応が充分に抑制された状態で保存又は使用することを意味する。
【0068】
上記保存/使用方法の対象とする組成物は、オキソカーボン系化合物を含むものであればよいが、更に樹脂を含むことが好ましい。また、更に溶媒を含むことも好適である。このように上記組成物が更に樹脂を含む形態、上記組成物が更に溶媒を含む形態、並びに、上記組成物が更に樹脂及び溶媒を含む形態もまた、本発明の好適な形態である。更に、必要に応じ、他の成分(例えば、他の色素、添加剤)を含んでもよい。これら各含有成分の好適な形態や含有量等は上述したとおりであり、また、各含有成分は、それぞれ1種又は2種以上を使用することができる。
なお、上記組成物がオキソカーボン系化合物と溶媒とを含み、樹脂を含まない場合、溶媒の含有量は、オキソカーボン系化合物の総量1質量部に対し、1〜10000質量部とすることが好ましい。より好ましくは10〜8000質量部、更に好ましくは100〜5000質量部である。
【0069】
上記保存/使用方法では、安定性向上の観点から、−20〜100℃の温度条件下で組成物を保存又は使用することが好ましい。より好ましくは0〜60℃、更に好ましくは0〜50℃、最も好ましくは0〜30℃である。また、遮光保存することが好適である。これによりオキソカーボン系化合物を含む組成物の安定性がより向上される。
なお、保存期間は特に限定されず、使用態様や移動時間等に応じて任意に設定することができる。例えば、組成物の製造直後〜24時間という短期間であってもよいし、1日〜6ヶ月という中長期間であってもよいし、6ヶ月以上の長期間であってもよい。
【0070】
上記保存/使用方法により保存又は使用された組成物は、オキソカーボン系化合物に由来する物性を充分に発揮できるため、例えば、近赤外線吸収剤の他、熱線吸収剤、熱線遮蔽剤、レーザー溶着剤、偽造防止剤等の種々様々な用途に有用である。具体的には、例えば、近赤外線吸収剤(フラッシュ定着等の非接触定着トナー用近赤外線吸収剤;保温蓄熱繊維用近赤外線吸収剤;光記録媒体、液晶表示装置、光学文字読取機等における書き込み又は読み取り用の近赤外線吸収剤);カラートナー、近赤外吸収インク、インクジェット用インク、家庭用インクジェット用インク、偽造防止用インク(特に改ざん偽造防止用バーコード用インクや、偽造防止用オフセットインク)等のインク剤;ゴーグルのレンズ、遮蔽板、光導電材料等の光学部品;近赤外光増感剤;眼精疲労防止剤;プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤;レーザー治療用感光性色素;PETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤;感熱転写・感熱孔版等の光熱交換剤;感熱式のリライタブル記録の光熱交換剤;IDカードの偽造防止剤;プラスチックのレーザー透過溶着法(LTW:Laser Transmission Welding)用の光熱交換剤;熱線遮蔽剤;近赤外線吸収フィルター;カラーブラウン管選択吸収フィルター;等が挙げられる。
【0071】
〔硬化物の保存又は使用の方法〕
上記保存/使用方法は、硬化物を保存又は使用する方法にも適用できる。
すなわち、オキソカーボン系化合物を含む硬化物を保存又は使用する方法であって、該方法は、該硬化物を酸素濃度10体積%以下の雰囲気下で保存又は使用する、硬化物の保存又は使用の方法もまた、本発明者らによる発明の1つである。この方法における酸素濃度の好ましい範囲は上述したとおりである。
【0072】
上記保存/使用方法の対象とする硬化物は、オキソカーボン系化合物を含む硬化物であればよく、例えば、オキソカーボン系化合物を含む組成物を硬化させて得られる硬化物が挙げられる。この組成物は、本発明の硬化物の製造方法で用いた組成物であることが好ましい。また、硬化物を得るための製法は特に限定されないが、オキソカーボン系化合物に由来する物性が充分に発揮される等の観点からは、本発明の硬化物の製造方法を採用することが好ましい。すなわち上記保存/使用方法の対象とする硬化物は、本発明の硬化物の製造方法により得られた硬化物であることが好適である。
【発明の効果】
【0073】
本発明の硬化物の製造方法は、上述のような構成よりなるため、オキソカーボン系化合物を含み、かつ耐光性及び耐熱性に優れる硬化物を容易に与えることができる。また、本発明の保存又は使用の方法により、オキソカーボン系化合物を含む組成物を安定に保存又は使用することができる。したがって、本発明は、オキソカーボン系化合物を用いる技術分野で特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
図1】試験例2−1の加熱前及び加熱後スペクトル、並びに、試験例2−2の加熱前及び加熱後スペクトルである。
図2】試験例2−3の照射前及び照射後スペクトル、並びに、試験例2−4の照射前及び照射後スペクトルである。
図3】試験例2で用いたオキソカーボン系化合物B(粉末)の窒素雰囲気下でのTG−DTA測定結果である。
図4】試験例2で用いたオキソカーボン系化合物B(粉末)の空気雰囲気下でのTG−DTA測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」とは「質量部」を意味し、「%」とは「質量%」を意味する。
以下の試験例において、「窒素雰囲気」とは、系内の酸素を窒素に置換後、酸素濃度計(新コスモス電機株式会社製、コスモテクターXPO−318)にて測定した酸素濃度が1体積%以下であったことを意味する。「空気雰囲気」とは、通常の空気(酸素濃度は約20体積%)雰囲気を意味する。
【0076】
<ポリイミド樹脂Aの作製>
合成例1
1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸(アルドリッチ社製、純度95%)5部と無水酢酸(和光純薬社製)44部とをフラスコに仕込み、攪拌しながら反応器内を窒素ガスで置換した。窒素ガス雰囲気下で溶媒の還流温度まで昇温し、10分間溶媒を還流させた。その後、攪拌しながら室温まで冷却し、結晶を析出させた。析出した結晶を固液分離し、乾燥して目的物(1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物)の結晶を得た。続いて、温度計、撹拌器、窒素導入管、側管付き滴下ロート、ディーンスターク、冷却管を備えたフラスコに、窒素気流下、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(和光純薬社製)0.89部と、溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン7.6部を仕込んで溶解させた後、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物1部を室温にて固体のまま1時間かけて分割投入し、室温下2時間撹拌した。共沸脱水剤としてキシレンを2.6部添加して180℃で3時間反応を行い、ディーンスタークで還流して共沸する生成水を分離した。190℃に昇温しながらキシレンを留去した後、冷却しポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液を得た。このN−メチル−2−ピロリドン溶液をγ―ブチロラクトンで更に希釈し、固形分3%のポリイミド樹脂溶液とした。このポリイミド樹脂溶液1部に対して、メタノール50部で再沈し、固液分離した。固液分離したポリイミド樹脂をγ―ブチロラクトンで溶解し、再び固形分3%のポリイミド樹脂溶液とし、前記と同様にメタノール50部で再沈し、固液分離した。再沈して得られた樹脂を乾燥してポリイミド樹脂Aを得た。
【0077】
<オキソカーボン系化合物の合成>
合成例2
上述したSami Sajjadifar等著の論文やIan Collins等著の論文等に記載の合成方法に従ってピロール環含有化合物を合成した後、スクアリン酸又はクロコン酸と反応させることで、オキソカーボン系化合物A〜Fを作製した。オキソカーボン系化合物A〜Fの構造式を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
試験例1
オキソカーボン系化合物Aと、6%ポリイミド樹脂A溶液との混合溶液(総量100%中、オキソカーボン系化合物A:0.3%、ポリイミド樹脂A固形分:6.0%、シクロペンタノン:93.7%)をろ過して不溶分等を取り除いた後、ガラス基板に0.4ml垂らし、スピンコーター(ミカサ社製、1H−DX)を用い、0.2秒間かけて2000回転(rpm)にし、10秒間その回転数で保持し、その後0.2秒間かけて0回転(rpm)になるようにして樹脂層を成膜した。樹脂層を成膜したガラス基板を、精密恒温器(ヤマト科学社製、DH611)を用いて、100℃で3分間初期乾燥した後(これを「初期乾燥ガラス基板」と称す)に、イナートオーブン(ヤマト科学社製、DN610I)を用いて50℃で30分間乾燥(窒素置換有り又は窒素置換無し)した後、20分で200℃に昇温し、200℃で30分間追加乾燥(窒素雰囲気下又は空気雰囲気下)し、樹脂層を備えたガラス基板(これを「コーティングガラス基板」と称す)を得た。乾燥後の樹脂層の膜厚は1μmであった。
このようにして作製したコーティングガラス基板について、以下の試験方法に従って、加熱による吸光度の変化を確認した。
なお、50℃での乾燥を「窒素置換有り」で行い、かつ200℃での追加乾燥を「窒素雰囲気下」で行った例を試験例1−1とし、50℃での乾燥を「窒素置換無し」で行い、かつ200℃での追加乾燥を「空気雰囲気下」で行った例を試験例1−2とした。
【0080】
<加熱による吸光度変化>
初期乾燥ガラス基板(樹脂層を成膜したガラス基板を100℃で3分間初期乾燥した後のもの)の吸収スペクトルを分光光度計(日立製作所社製、U−2910)にて測定し、これを加熱前スペクトルとした。次に、試験例1−1及び試験例1−2のそれぞれで得たコーティングガラス基板の吸収スペクトルを分光光度計にて測定し、これを加熱後スペクトルとした。これらのスペクトルから最大吸収波長(λmax)を読み取り、λmaxにおける吸光度の残存率(=「λmaxでの加熱後スペクトルの吸光度/λmaxでの加熱前スペクトルの吸光度)×100」)を算出した。結果を表2に示す。
【0081】
<UV照射による吸光度変化>
試験例1−1又は1−2で得たコーティングガラス基板の吸収スペクトルを分光光度計(日立製作所社製、U−2910)にて測定し、これを照射前スペクトルとした。次に、空気又は窒素雰囲気下のいずれかで、下記のUV照射条件の下、UV照射(700mJ)を5回行った後、各基板の吸収スペクトルを分光光度計にて測定し、これを照射後スペクトルとした。これらのスペクトルから最大吸収波長(λmax)を読み取り、λmaxにおける吸光度の残存率(=「λmaxでの照射後スペクトルの吸光度/λmaxでの照射前スペクトルの吸光度)×100」)を算出した。結果を表3に示す。
なお、試験例1−1で得たコーティングガラス基板を用い、かつUV照射を「窒素雰囲気下」で行った例を試験例1−3とし、試験例1−2で得たコーティングガラス基板を用い、かつUV照射を「空気雰囲気下」で行った例を試験例1−4とした。
−UV照射条件−
照射ランプ:フュージョン社製、ランプDバルブ
コンベアスピード:1.2メートル/分
照度:270mW/cm
1パスあたりの積算照射量:700mJ/cm
UV照度計:ウシオ電機社製、UIT−250
UVセンサー:ウシオ電機社製、UVD−S365
【0082】
試験例2〜6
オキソカーボン系化合物Aの代わりにオキソカーボン系化合物B〜Fを用いたこと以外は、試験例1と同様にして、加熱及び紫外線(UV)照射による吸光度の変化を確認した。結果を表2及び3に示す。また、試験例2−1の加熱前及び加熱後スペクトル、並びに、試験例2−2の加熱前及び加熱後スペクトルを図1に示し、試験例2−3の照射前及び照射後スペクトル、並びに、試験例2−4の照射前及び照射後スペクトルを図2に示す。
なお、試験例2−1の加熱前スペクトルと、試験例2−2の加熱前スペクトルとは、ほぼ重なっていた。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
表2、3より、以下のことを確認した。
試験例1〜6のいずれにおいても、窒素雰囲気下で加熱又は光照射させて得た硬化物は、空気雰囲気下で加熱又は光照射させて得た硬化物に比べて、加熱又は光照射前後の吸光度残存率が著しく高い。つまり、窒素雰囲気下で硬化させた場合は、硬化時の熱や光による劣化が充分に抑制されている。したがって、オキソカーボン系化合物を含む組成物を所定の酸素濃度雰囲気下で硬化させる工程を含むことで、オキソカーボン系化合物に由来する特性が劣化することなく、当該特性を硬化後も発揮できる硬化物が得られることが分かった。
【0086】
試験例7
メスフラスコを用いて、オキソカーボン系化合物B:約10mgを、その5000倍の量のγ―ブチロラクトンに希釈した溶液を調製した。この調製直後の溶液の吸収スペクトルを分光光度計(日立製作所社製、U−2910)にて測定し、これを保存前スペクトルとした。次に、この溶液を、窒素雰囲気下又は空気雰囲気下で40℃にて1時間保存した後、溶液の吸収スペクトルを分光光度計にて測定し、これを保存後スペクトルとした。これらの吸収スペクトルから最大吸収波長(λmax)を読み取り、保存前後のλmaxにおける吸光度の残存率(=「λmaxでの保存後スペクトルの吸光度/λmaxでの保存前スペクトルの吸光度)×100」)を算出した。結果を表4に示す。
なお、「窒素雰囲気下」で保存した例を試験例7−1とし、「空気雰囲気下」で保存した例を試験例7−2とした。
【0087】
試験例8
γ―ブチロラクトンの代わりにメチルセロソルブを用いたこと以外は、試験例7と同様にして、保存前後のλmaxにおける吸光度の残存率を算出した。結果を表4に示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表3、4より、以下のことを確認した。
試験例7、8のいずれにおいても、窒素雰囲気下でオキソカーボン系化合物を含む組成物を保存した場合、空気雰囲気で保存した場合に比べて吸光度残存率が著しく高い(表4参照)。また今回の試験は温度40℃で行ったことから、窒素雰囲気下で保存又は使用すると、特に熱による劣化が充分に抑制されることが分かる。また、表3の結果から、窒素雰囲気下で保存又は使用した場合、光による劣化も充分に抑制されることも読み取ることができる。したがって、オキソカーボン系化合物を含む組成物を所定の酸素濃度雰囲気下で保存又は使用することで、当該組成物の物性が劣化することなく安定に保存又は使用することができることが分かった。
【0090】
参考のため、試験例2で用いたオキソカーボン系化合物B(粉末)の窒素雰囲気下でのTG−DTA測定結果を図3に、空気雰囲気下でのTG−DTA測定結果を図4にそれぞれ示す。図3、4より、5%重量減少温度はともに281℃であった。この結果と、上述の表2、4との結果から、オキソカーボン系化合物を単独使用するよりも、溶媒及び/又は樹脂と混合した場合に特に、雰囲気条件により耐熱性に大きな差が生じることが分かった。この点から、本発明の作用効果をより充分に発揮するためには、本発明の製造方法に用いる組成物は、オキソカーボン系化合物に加えて、樹脂及び/又は溶媒を含むことが好ましく、また、本発明の保存又は使用の方法に供する組成物は、オキソカーボン系化合物に加えて、樹脂及び/又は溶媒を含むことが好適である。
図1
図2
図3
図4