(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ペリクル枠は、通常矩形をしており、四隅にコーナー部を有するため、機械的強度を求めて徒に剛性の高い材料を選択すると、外部から力が加わった際、コーナー部等で損壊する虞があった。また、セラミックなど、所定形状に仕上げるために機械加工を必要とする材料を選択した場合には、特にコーナー部の内周の加工をどのように行なうかなど、ペリクル枠とその製造方法に関しては、なお改善の余地が残されていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の実施形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態として、ペリクル枠が提供される。このペリクル枠は、枠形状に形成されたペリクル枠であり、ヤング率が150GPa以上で、かつビッカース硬度が800以上の焼結体からなり、前記枠形状におけるコーナー部は直線部の幅以上の幅を確保し、前記コーナー部のうちの少なくとも1つの幅は前記直線部の幅より広いものであって良い。
【0008】
かかるペリクル枠は、高いヤング率およびビッカース硬度の焼結体を用いているので、ペリクル枠にペリクル膜を張設した際に発生する膜張力により、ペリクル枠が変形するのを抑制できる。しかも、少なくとも一つのコーナー部の幅が直線部の幅より広いので、コーナー部の強度が高くでき、ペリクル枠の変形や損壊を、更に抑制できる。
【0009】
(2)こうしたペリクル枠において、前記コーナー部の外周および内周の少なくとも一方の平面形状が、直線の組み合わせまたは前記直線部から連接する曲線により構成されていることを特徴として良い。こうすれば、容易に、コーナー部の幅を直線部の幅より広くできる。直線の組み合わせを採用すれば、平面研削盤などの加工機械を用いることができ、加工の工数を低減できる。また、直線部に連接する曲線とすれば、マシニングセンターなどを用いて、最小1回の加工で、滑らかな形状に仕上げられる。
【0010】
(3)あるいは、前記コーナー部の前記内周の平面形状が、前記コーナー部に連接する両側の直線部に接する円弧であることを特徴としてよい。こうすれば、コーナー部の内周面の加工を行なう加工工具の径を最大化でき、加工効率の向上が可能となる。なお、内周面の平面形状は、円弧に限る必要はなく、円弧以外に、例えば、楕円弧、放物線、双曲線または自由曲線など、いずれの曲線またはその組合せを採用しても良い。いずれの曲線を採用するかは、加工装置の機能や、ペリクル枠の形状に要求される仕様に応じて決定すれば良い。
【0011】
(4)他方、前記コーナー部の前記外周の平面形状は、少なくとも1つの直線を含むことを特徴として良い。 こうすれば、外周の加工を平面研削盤により行なうことができ、外周の加工を容易に行なうことができる。外周の平面形状は、一つの直線による面取り形状の他、複数の直線により構成された形状、直線と曲線とが組み合わされた形状などとしても良い。いずれの形状を採用するかは、加工装置の機能や、ペリクル枠の形状に要求される仕様に応じて決定すれば良い。
【0012】
(5)こうしたペリクル枠において、ヤング率が250GPa以上あるいはビッカース硬度が1000以上であることを特徴として良い。こうすれば、ペリクル枠の焼結体のヤング率およびビッカース硬度の少なくとも一方が高いので、比較的大きいサイズの開口径を有するペリクル枠や、その断面積が小さいペリクル枠であっても、ペリクル膜を張設した際のペリクル枠の変形を抑制できる。この結果、半導体ウェハにパターンを形成する露光工程で使用されるフォトマスク(ガラスマスク等)の歪みの発生を抑制してペリクルを貼付することができ、露光時のフォトマスクの歪みなどにより光学特性の低下を抑制できる。
【0013】
(6)こうしたペリクル枠において、前記焼結体は、セラミック、超硬合金、サーメット、およびそれらの複合材のうちのいずれか一つ、もしくはこれらの材料の組み合わせであることを特徴として良い。これらの材料を用いれば、露光光に対して高い耐久性を確保できる。
【0014】
(7)前記セラミックは、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、サイアロンおよびそれらの複合材のうちのいずれか一つであることを特徴として良い。これらの材料は、加工性に優れ、更に好ましい。
【0015】
(8)本発明の他の実施形態として、枠形状のペリクル枠を製造する方法が提供される。この製造方法によれば、焼結体材料を、ペリクル枠成形体に作製し、前記ペリクル枠成形体を、所定の温度で焼結して枠形状より大きな形状の高剛性の焼結体とし、前記ペリクル枠のコーナー部は直線部の幅以上の幅を確保し、前記コーナー部のうちの少なくとも1つの幅は前記直線部の幅より広くなるように、前記コーナー部の外周面および内周面の少なくともいずれか一方を加工するものとして良い。この製造方法によれば、露光に対して高い耐久性を持ち、コーナー部の強度が高く、ペリクル枠の変形や損壊を、更に抑制し得るペリクル枠を容易に製造できる。
【0016】
(9)上記の製造方法において、前記コーナー部の内周面を、所定切削半径の第1の切削工具で加工した後、前記所定切削半径より小さな切削半径の第2の切削工具で加工することを特徴として良い。こうすれば、ペリクル枠の内周面の加工における各切削工具の削り代を適正にでき、全体の加工時間を短縮できる。
【0017】
(10)また、前記コーナー部の前記外周面を、平面研削盤で、直線形状に加工することを特徴として良い。こうすれば、ペリクル枠の外周面の加工を容易に行なうことができる。
【0018】
(11)ここで、前記高剛性の焼結体は、セラミック、超硬合金、サーメットおよびそれらの複合材のうちのいずれか一つであることを特徴として良い。これらの材料を用いれば、露光に対して高い耐久性を持ち、粉塵の発生の少ないペリクル枠を容易に製造できる。
【0019】
(12)上記の製造方法において、前記高剛性の焼結体は、ヤング率が150GPa以上で、かつビッカース硬度が800以上の焼結体からなることを特徴として良い。かかる剛性を備えていれば、製造されたペリクル枠は、ペリクル膜を張設した際に発生する膜張力により変形するのを抑制できる。なお、焼結体の剛性としては、ヤング率が250GPa以上およびビッカース硬度が1000以上の少なくとも一方が満たされることが、更に望ましい。
【0020】
本発明は、上記の他、ペリクル枠以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、ペリクル枠にペリクル膜を貼付したペリクルとして、あるいはそうしたペリクルの製造方法としても実現可能である。更にこうしたペリクルをフォトマスクを搭載するフォトマスク組立やその製造方法として実現しても良い。また、製造したペリクル枠の検査方法、ペリクル枠の製造装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[ペリクル枠の構造]
図1は、本発明の各実施形態に共通のペリクル枠10の形状を示す斜視図である。また、
図2は、
図1の2−2矢視断面図である。
図2では、理解の便を図って、ペリクル枠10の片面に張設されたペリクル膜30を併せて記載した。ペリクル枠10にペリクル膜30を張設したものをペリクル40と呼ぶ。本明細書では、ペリクル枠の全ての面のうち、ペリクル膜が張設される二つの面を区別する場合には、
図2においてペリクル膜が張設された側を「上面」といい、反対の面を「下面」という。また、この両面と外側の面の3つの面を含めて「外周面」と呼び、ペリクル枠の内側の面を「内周面」と呼ぶことがある。また、これらの面をそれぞれ区別する必要がない場合は、単に「表面」と呼ぶことがある。
【0023】
両図に示すように、このペリクル枠10は、略長方形状の枠体であり、長方形状をなす上下左右の直線部31〜34の太さ(断面縦横寸法)は、4つのコーナー部51〜54を除いて同一である。ペリクル枠10の4つのコーナー部51〜54の形状の詳細は後述するが、コーナー部51〜54においては、内周および外周が所定形状の加工されている。
図1に示した例では、外周が45度の面取り、内周が1/4円弧に、それぞれ切削加工されている。コーナー部51〜54の形状は、もとよりこれに限る訳ではなく、面取りなどの直線的な加工、回転刃による曲線状(円弧、楕円弧や放物線、自由曲線などを含む)の加工、およびこれらの組み合わせが考えられ、いずれの形状を外周・内周とするかの組み合わせも任意である。また、コーナー部51〜54を異なる形状とすることも差し支えない。
【0024】
こうしたペリクル枠10は、後述する製造方法により製造されるが、焼結体により形成されたペリクル枠の共通する構造について、まず説明し、その後、製造方法の実施形態、種々の製造方法により製造されたペリクル枠の実施形態の順に説明する。
【0025】
このペリクル枠10には、左右の枠体に4箇所、窪み12,14が設けられている。窪み12,14は、
図2に示したように、有底の丸穴であり、底部は円錐形状に整えられている。この窪み12,14は、ペリクルの製造およびその後のフォトマスクに取り付ける際の位置決めに用いられる。位置決めに際しては、図示しないペリクル製造装置あるいはペリクル取り付け装置に設けられた位置決めピンが、4箇所の窪み12,14に嵌合する。
【0026】
ペリクル枠10の下辺および上辺の枠体には、貫通孔20がそれぞれ設けられている。この貫通孔20は、フォトマスクにペリクル40が取り付けられた後、ペリクルとフォトマスクに囲まれた空間と外部環境との気圧調整に用いられる。外部環境から粉塵が侵入しないよう、貫通孔20には、図示しないフィルタが設けられる。
【0027】
[ペリクル枠の製造方法の概略]
図1、
図2に示したペリクル枠10は、以下の製造工程を経て製造される。この製造工程の概略を
図3に示した。ペリクル枠10を製造する場合には、まず粉体を製作する(工程P10)。ここで粉体とは、焼結体の元になる物質であり、後述する様に窒化ケイ素やジルコニア、あるいはアルミナなどの原料粉末に焼結助剤などを適宜加え湿式混合した後、噴霧乾燥法によって50ないし100μmの顆粒に作製したものである。原料粉末の粒径の測定は、レーザー回折・散乱法により行なったが、動的光散乱法や沈降法により行なってもよい。
【0028】
次に、この粉体を成型し、ペリクル枠の原形を形成する(工程P20)。本実施形態では、焼成後に、約縦(
図1、上下方向)153mm×横(同図、左右方向)124mm×枠体(断面縦横)6mm程度になるように成型した。後述する焼成工程により、ペリクル枠の外形は、20ないし30%程度縮むため、予め、焼成後のペリクル枠より大きく成型する。なお、ペリクル枠は、半導体露光装置における露光用マスクの大きさに合わせて種々の大きさが可能である。
【0029】
粉体を成型した後、これを所定温度で焼成する(工程P30)。焼成温度は、粉体の組成によるが、一般に1500℃以上である。焼成することにより、高いヤング率と硬度とを持つ焼結体が得られる。サンプルにおけるヤング率と硬度については、後述する。
【0030】
焼成後、外形を、マシニングセンターなどを用いて、外形を加工する処理を行なう(工程P40)。ペリクル枠の外形は、焼成により20ないし30%程度縮むため、0.5ないし1.0パーセントの寸法バラツキが不可避であり、寸法精度を出すために、焼成後に外形を加工する処理を行なって、所望の大きさとする本実施形態の外形加工は、マシニングセンターなどを用いた研削加工により行なったが、他の手法によっても良い。研削加工により、50μm程度の寸法精度および平坦度が得られる。マシニングセンターを用いた外形形状の加工の詳細は後述する。外形の研削加工には、コーナー部51〜54の外周および内周の加工も含まれる。
【0031】
続いて、平研加工を行なう(工程P50)。平研加工とは、幅20mm程度の円盤形状のダイヤモンド砥石を高速回転し、外形研削したペリクル枠10の上面および下面を平らに加工する。平坦度が、10μm以下、好ましくは5μm程度となるよう加工する。
【0032】
その後、露光光の反射を抑えるためブラストにより粗さ調整を行なう(工程P60)。ブラストは種々の手法が知られているが、本実施形態では、粒度♯600(平均粒径約30ミクロン)の炭化ケイ素砥粒によるサンドブラストにより、ペリクル枠10の表面を粗化した。もとより、化学エッチングによって粗さを調整しても良い。なお、ブラスト加工は必ずしも行なわなくても差し支えない。
【0033】
以上の工程により、実施形態のペリクル枠10のサンプルを製造した。なお、ペリクル枠10のサンプルの製造時に、併せてテストピースを製造した。テストピースは、上述したペリクル枠10の製造工程と同じ工程により、外形寸法40mm×30mm、厚さ4mmに仕上げた。表面粗さも、炭化ケイ素砥粒によるサンドブラストにより、同様に仕上げた。後述するヤング率、ビッカース硬度などの硬度、表面色相などは、全てこのテストピースにより計測したが、同じ物性と考えられるので、以下の説明では、全てペリクル枠のヤング率等であるとして説明する。
【0034】
[ペリクル枠の製造方法の実施形態]
上記製造工程により、各種サンプルを製造した。以下、製造方法の実施形態1ないし3について説明する。実施形態1ないし3として示す製造方法の詳細を
図4にまとめた。
(1)製造方法の実施形態1:
図3に示した製造工程に従い、以下の工程で、原材料の主成分として窒化ケイ素を用いたペリクル枠を製造した。
まず、α型窒化ケイ素が90%以上で平均粒径が0.7μmの窒化ケイ素粉末と、焼結助剤として平均粒径が1.5μmの酸化イットリウム及び平均粒径1.0μmの酸化アルミニウムを重量比で94:3:3の割合で湿式混合し、成型用有機バインダを加えた後、通常の噴霧乾燥法により窒化ケイ素素地粉末を作製した。これが粉体製作工程P10に相当する。
【0035】
次に、素地粉末を金型プレス法により外形寸法=184×149×幅7mm程度に成型した。これが成型工程P20に相当する。更に、成型体を脱バインダー後、窒素ガス20気圧の雰囲気中で1850℃×2時間保持したのち、窒素ガス圧を75気圧に増圧してさらに2時間保持することにより、緻密な窒化ケイ素焼結体(寸法153×124×幅6mm)を焼成した。これが、焼成工程P30に相当する。
【0036】
その後、外形をマシニングセンターで、高さHout=149、幅Wout=120、各直線部31〜34の幅L1=2mmに加工した。また、内側の開口部の最大高さHin=145mm、最大幅Win=116mmに加工した。更に、コーナー部51〜54の外側を45度面取り加工し、内周を半径r1のダイヤモンドビットでアール面取り加工した。コーナー部51〜54の幅L2は、一例では約2.2mmであった。コーナー部51〜54の幅L2の求め方については、後で詳しく説明する。こうした研削等による外形加工処理により得られたペリクル枠の形状を、
図5の平面図に示した。この形状は、製造方法1ないし3に共通する例示である。
【0037】
図5において、破線で示した領域ARは、このペリクル枠をフォトマスクに取り付けた場合に、矩形のフォトマスクの有効として使用可能な範囲である。通常の露光領域の最大値を26mm×33mm、縮小倍率を1/4とすれば、有効使用範囲として必要となる大きさは、幅104.0×高さ132.0となる。この大きさを確保するためには、コーナー部の内周のアール面との半径は、ペリクル枠の内側の大きさが、本実施形態のように、幅116×高さ145の場合、21.3mmとなる。従って、これ以下のアール面取りまでは許容される。もとより、ペリクル枠の内側の寸法が異なれば、アール面取りの半径も異なることになる。
【0038】
上記の外形加工の後、ペリクル枠の上面および下面をダイヤモンド砥石にて平研加工した。これが平研加工工程P50に相当する。最後に、#600の炭化ケイ素砥粒によりサンドブラスト研磨を行ない、表面を粗化した。これが表面粗さ調整工程に相当する。
【0039】
以上の処理により、窒化ケイ素を主成分とするペリクル枠10を得た。このペリクル枠は、
図6では、サンプル番号2として示した。このペリクル枠10のヤング率とビッカース硬度とを計測したところ、ヤング率320GPa、ビッカース硬度1500であった。このペリクル枠10の外観は、灰色であった。ヤング率は、JIS R1602「ファインセラミックスの弾性率試験方法」に記載の動的弾性率試験方法に示された超音波パルス法に規定の方法で測定した。またビッカース硬度は、JIS R1610「ファインセラミックスの硬さ試験方法」に記載のビッカース硬さ試験方法に規定の方法により測定した。これらのヤング率およびビッカース硬度の測定は、他の実施形態により得られたペリクル枠についても同様である。なお、測定は、他の方法によっても良い。また硬度は他の方法、例えばロックウェル硬度として測定し、既知の手法により、ビッカース硬度としての値に置き換えても良い。
【0040】
(2)製造方法の実施形態2:
同様に、原材料の主成分としてジルコニアを用いたペリクル枠を、以下の工程により製造した。
まず、イットリア3モル%の部分安定化ジルコニアの粉末(比表面積7m
2 )に成型用有機バインダを加えて湿式混合し、通常の噴霧乾燥法によりジルコニア素地粉末を作製した(工程P10)。次に、この粉末を金型プレス法により、外形寸法=199×161×幅8mmに成型した(工程P20)。その後、この成型体を、脱バインダーし、大気中1500℃で4時間焼成したのち、更にカーボンケース内で不活性ガス雰囲気中、1450℃、150MPaで2時間HIP焼成した(工程P30)。
【0041】
こうして得られた焼結体の外形を、マシニングセンターで、高さHout=149、幅Wout=120、各直線部31〜34の幅L1=2mmに加工した。また、内側の開口部の最大高さHin=145mm、最大幅Win=116mmに加工した。更に、コーナー部51〜54の外側を45度面取り加工し、内周を半径r1のダイヤモンドビットでアール面取り加工した(工程P40)。コーナー部51〜54の幅L2は、一例では2.2mmであった。コーナー部51〜54の幅L2については、後で詳しく説明する。更に、外形研削した焼結体の上面および下面をダイヤモンド砥石にて平研加工した(工程P50)。最後に、#600の炭化ケイ素砥粒によりサンドブラスト研磨を行ない、表面を粗化した(工程P60)。
【0042】
以上の処理により、ジルコニアを主成分とするペリクル枠10を得た。このペリクル枠は、
図6では、サンプル番号3として示した。このペリクル枠10のヤング率とビッカース硬度とを計測したところ、ヤング率210GPa、ビッカース硬度1200であった。また、外観は、灰色を呈した。
【0043】
(3)製造方法の実施形態3:
同様に、原材料の主成分としてアルミナと炭化チタンの複合セラミックからなるペリクル枠を、以下の工程により製造した。
まず、平均粒径0.5μmのαーアルミナ粉末70%、平均粒径1.0μmの炭化チタン28%、残部をMgCO
3:Y
2O
3=1:1の焼結助剤からなる複合材料を湿式混合し、成型用有機バインダを加えたのち通常の噴霧乾燥法によりアルミナ・炭化チタン複合セラミック素地粉末を作製した(工程P10)。次に、この素地粉末を金型プレス法により外形寸法=184×149×幅7mmに成型した(工程P20)。その後、この成型体を脱バインダーし、不活性ガス中で1700℃で3時間保持し、焼成した(工程P30)。こうして緻密な黒色複合セラミック焼結体が得られた。
【0044】
こうして得られた焼結体の外形を、マシニングセンターで、高さHout=149、幅Wout=120、各直線部31〜34の幅L1=2mmに加工した。また、内側の開口部の最大高さin=145mm、最大幅Win=116mmに加工した。更に、コーナー部51〜54の外側を45度面取り加工し、内周を半径r1のダイヤモンドビットでアール面取り加工した(工程P40)。コーナー部51〜54の幅L2は、一例では2.2mmであった。コーナー部51〜54の幅L2については、後で詳しく説明する。更に、外形研削した焼結体の上面および下面をダイヤモンド砥石にて平研加工した(工程P50)。最後に、#600の炭化ケイ素砥粒によりサンドブラスト研磨を行ない、表面を粗化した。(工程P60)。
【0045】
以上の処理により、アルミナ・炭化チタンを主成分とする複合セラミックのペリクル枠10を得た。このペリクル枠は、
図6では、サンプル番号4として示した。このペリクル枠10のヤング率とビッカース硬度とを計測したところ、ヤング率420GPa、ビッカース硬度2100であった。また、外観は黒褐色を呈した。
【0046】
(4)比較例の実施形態1:
原材料の主成分としてアルミナを用いたペリクル枠を、以下の工程により製造した。
まず、平均粒径2.0μmのαーアルミナ粉末99%、残部をSiO
2 :MgO:CaO比が2:1:1の焼結助剤からなるアルミナセラミック材料100部を湿式混合し、成型用有機バインダを加えたのち通常の噴霧乾燥法により高純度アルミナ素地粉末を作製した(工程P10)。次に、この素地粉末を金型プレス法により外形寸法=184×149×幅7mmに成型した(工程P20)。その後、この成型体を脱バインダーし、大気中で1600℃で2時間保持し、焼成した(工程P30)。こうして緻密な高純度アルミナ焼結体が得られた。
【0047】
こうして得られた焼結体の外形を、マシニングセンターで、149×120×幅2mmに研削加工した(工程P40)。更に、外形研削した焼結体の上面および下面をダイヤモンド砥石にて平研加工した(工程P50)。最後に、#600の炭化ケイ素砥粒によりサンドブラスト研磨を行ない、表面を粗化した。(工程P60)。
【0048】
以上の処理により、アルミナを主成分とする複合材からなるペリクル枠10を得た。このペリクル枠は、
図6では、サンプル番号5として示した。このペリクル枠10のヤング率とビッカース硬度とを計測したところ、ヤング率380GPa、ビッカース硬度1400であった。また、外観は、白色を呈した。
【0049】
以上の実施形態1ないし3により、略長方形の枠形状に形成されたペリクル枠で、ヤング率150GPaかつビッカース硬度800以上の焼結体からなり、しかもコーナー部の幅が、枠を形成する直線部の幅より広いペリクル枠を容易に製造できる。
【0050】
[ペリクル枠のコーナー部の加工]
次に、ペリクル枠のコーナー部の加工の詳細について説明する。
図5に示したペリクル枠の平面形状では、各コーナー部は、外周が直線により面取りされており、内周が半径r1のアール面取りされていた。このコーナー部は、種々の形状に加工できるので、以下、図を参照しつつ、コーナー部の加工例について説明する。
【0051】
加工例1:
コーナー部の加工例1を、
図7の外形加工処理工程図を用いて詳しく説明する。
図7に示した工程図は、
図3における外形加工処理(工程P40)の一部を示すものである。本実施形態におけるペリクル枠の外形加工処理(工程P40)では、
図5に示したペリクル枠を得るために、外周面および内周面を加工する。この加工には、ペリクル枠の直線状4辺の加工と4つのコーナー部51〜54の加工とが含まれる。以下では、コーナー部51〜54の加工のみを取り上げて説明するが、4辺とコーナー部とは、連続して加工しても良いし、別々に加工しても良い。
【0052】
コーナー部の外形加工工程では、ペリクル枠のコーナー部の外周をまず加工し(ステップS41)、次に内周を加工する(ステップS43)。但し、加工の順序は、内周加工を先に行ない、後で外周加工を行なうようにしても良い。加工用の工作機械(本実施形態ではマシニングセンター)による加工手順として可能なものであれば、内周・外周加工の先後は問わない。例えば枠体のある部分の外周加工と他の部分の内周加工とを同時に行なうことができる工作機械であれば、外周・内周を同時に加工しても差し支えない。
【0053】
工程S41の外周加工工程では、
図8に示したように、4つのコーナー部51〜54を45度面取り加工する。面取りの長さをCとする。また工程S43の内周加工工程では、半径r1のダイヤモンドビット71を用いて加工するので、内周は半径r1のアール面取りとなる。
図8では、ダイヤモンドビット71による加工代は省略している。
【0054】
このとき、コーナー部の幅L2は、次式(1)により求められる。
L2=√2・L1−√2C/2+r1(√2−1) …(1)
なお、√2は、2の平方根を示す。
このコーナー部の幅L2が、枠体の幅L1以上であり、コーナー部51〜54のうちの少なくとも一箇所が、枠体の幅L1より大きくされている。このため、コーナー部51〜54のうちの少なくとも一箇所については、以下の不等式(2)が満たされるように、面取りCの長さおよびダイヤモンドビット71の半径がr1選択されている。
L2>L1 従って、
(2−√2)(L1+r1)>C …(2)
本実施形態では、L1=2mmであり、ダイヤモンドビット71として半径r1=2mmのものを選択した。このとき、45度面取りの長さCは、
C<2.35
とすれば良い。以下、ダイヤモンドビット71の半径と、L2>L1となる面取り長さCの上限値との関係の一例を示す。
r1(mm) C(mm)
2 2.35
4 3.52
6 4.69
8 5.86
10 7.03
12 8.21
【0055】
本実施形態では、外周の45度面取り加工の長さCは、2mmとした。この結果、コーナー部の幅L2の理論値は、3・√2−2となり、実測値としては上述したように、2.2mmであった。コーナー部51〜54の外周が45度面取り、内周がアール面取りの場合、コーナー部の幅L2は、コーナー部において、直線部との接続箇所から見ていくと、コーナー部の仮想的な頂点に向けて徐々に増加するものの、外周の45度面取りとの位置関係で減少に転じる。従って、加工例1では、コーナー部の幅L2は、45度面取りの中心を通る法線方向の幅として規定した。
【0056】
加工例1によるペリクル枠は、コーナー部51〜54の外周が45度面取りされ、内周が半径r1のアール面取りされ、コーナー部51〜54の幅L2は、枠体の直線部31〜34の幅L1より大きい形状に仕上がった。また、外周および内周の加工は容易であった。
【0057】
加工例2:
次に、外周もアール面取りした場合の加工例について説明する。
図9は、外周を半径R1でアール面取りし、内周を半径r1のダイヤモンドビット71によりアール面取りした例を示している。外周を加工するダイヤモンドビットの半径は、アール面取りの半径R1の大きさに合わせて適宜選択すれば良い。
【0058】
このとき、コーナー部の幅L2が、枠体の幅L1より大きくなる、即ち、L2>L1を満たすためには、以下の不等式(3)が満たされるように、外周面のアール面取りの半径R1を定めれば良い。
R1<L2+r1 …(3)
上記不等式(3)が満たされるアール面取りの半径R1が選択されていれば、外周面のアール面取りの中心は内周面のアール面取りの中心よりも、距離Dだけペリクル枠側に存在することになるので、コーナー部の幅L2は、枠体の幅L1より大きくなる。加工例2では、L2=2mm、r1=2mm、R1=2.8mmとした。このとき、コーナー部の幅の理論値は、0.8+√2となり、実測値としては上述したように、2.2mmであった。
【0059】
加工例2によるペリクル枠は、コーナー部51〜54の外周が半径R1のアール面取りされ、内周が半径r1のアール面取りされ、コーナー部51〜54の幅L2は、枠体の直線部31〜34の幅L1より大きい形状に仕上がった。コーナー部51〜54の外周が半径R1のアール面取り、内周が半径r1のアール面取りの場合、コーナー部の幅L2は、コーナー部において、直線部との接続箇所から見ていくと、コーナー部の仮想的な頂点に向けて徐々に増加し、仮想的な頂点を通る法線方向において最大となる。従って、加工例2では、コーナー部の幅L2は、アール面取りの中心を通る法線方向の幅として規定した。加工例2により加工したコーナー部の形状は、コーナー部の幅L2の変化が滑らかで、変曲点を有しない。このため、応力の集中を生じる虞が小さい。
【0060】
加工例3:
次に、コーナー部の加工例3について説明する。
図10は加工例3を示す外形加工固定図である。加工例3では、まず第1の加工工具を用いて内周加工工程1(ステップS45)を行ない、続けて加工工具を第2の加工工具に代えて内周加工工程2(ステップS46)を行なう。最後に外周加工工程(ステップS47)を行なう。なお、内周、外周の加工の順序は問わないのは、加工例1と同様である。
【0061】
図11は、加工例3における内周加工工程1、2の概要を示す説明図である。加工例3では、まず大径のダイヤモンドビット82により、内周を加工した後、これより小径のダイヤモンドビット81により更に内周を加工する。ダイヤモンドビット82の半径r2は、ダイヤモンドビット81の半径r1より大きい。また、外周加工工程(ステップS47)では、コーナー部の外側を、45度面取りにより、距離Cだけ面取り加工している。
【0062】
この場合のコーナー部の幅L2が枠体の幅L1より大きくなる条件は、加工性1で記載したものと同様である。但し、二つのダイヤモンドビット81,82の研削代ΔLに対応して、コーナー部の幅L2は、√2・ΔLだけ長くなる。従って、枠体の幅L1との関係で言えば、
L2>L1 かつ L1+ΔL=L3 従って、
(2−√2)(L1+r1)+2・ΔL>C …(4)
という関係が成り立つことになる。研削代ΔLが0.4mmであれば、45度面取りの長さCの上限値は、ダイヤモンドビット81の半径r1に対して、
r1(mm) C(mm)
2 3.15
4 4.32
6 5.49
8 6.66
10 7.83
12 9.01
となる。
【0063】
加工例3によるペリクル枠は、コーナー部51〜54の外周が45度面取りされ、内周が半径r1のアール面取りされ、コーナー部51〜54の幅L2は、枠体の直線部31〜34の幅L1より大きい形状に仕上がった。なお、加工例3におけるコーナー部の幅L2の定義は、加工例1と同様である。
【0064】
加工例3の場合、まず大径のダイヤモンドビット82で加工を行ない、それから小径のダイヤモンドビット81を用いて加工するので、最終的な内周のアール面取りの半径を小さくしながら、トータルの加工時間を短縮できる。
【0065】
二つのダイヤモンドビット81,82の半径r1,r2は、種々の組合せが可能であるが、上記実施形態1ないし3のペリクル枠については、切削加工に要する時間やアール面取りの半径などからして、r1=5mm、r2=12mm、削り代ΔLが0.2〜0.4mm程度が最も効率よく加工できた。45度面取りの長さC=2mm、削り代ΔL=0.4としたときのコーナー部の幅L2は、約4mmであった。もとより、両者の組合せは、ペリクル枠の材料に依存する加工容易性や、加工に用いるマシニングセンターなどの加工装置の加工能力などより、最適な組合せは異なるので、これらの諸パラメータを調整して、仕上がりの状態や加工時間が最適になるように選択すれば良い。
【0066】
[ペリクル枠の実施形態]
上述した製造方法および外形加工により、ペリクル枠を製造した。製造したペリクル枠にサンプル番号1ないし5を付し、その特性を、
図6にまとめた。図示するように、サンプル番号1は、ジュラルミン(JIS A7075)を黒色アルマイト処理したものであり、従来品(比較例)である。そのヤング率は72GPa、ビッカース硬度は、170程度であった。
【0067】
これらのサンプル番号のペリクル枠を、半導体製造の露光装置に装着し、評価を行なった。評価の内容は、
[1]所定の累積光量の露光による劣化が認められないこと、
[2]ペリクル膜やフォトマスクの貼付により枠体がゆがまないこと、
[3]取扱中の外力により、ペリクル枠か折損しないこと、
の3つとした。
【0068】
上記サンプルのうち、サンプル番号2〜5のものは、全ての評価項目を満たしたが、サンプル番号1は、耐光性に乏しく低剛性であることから、累積光量による劣化やペリクル膜の貼付による歪みなどが発生した。
【0069】
図6に示した検査結果の評価から、ペリクル枠10を、ヤング率150GPaかつビッカース硬度800以上の焼結体から構成し、かつコーナー部51〜54のうちの少なくとも一つの幅L2を、直線部31〜34の幅L1より広くすれば、十分な耐久性が得られることが分かった。
【0070】
また、本実施形態のペリクル枠は、いずれもコーナー部が面取りされており、エッジにより他の部品を傷つけたりする可能性が抑制されている。特に加工例2により加工されたペリクル枠は、コーナー部51〜54の外周に角部が存在しないため望ましい。
【0071】
また、上記の実施形態のペリクル枠10のうち、窒化ケイ素セラミックのサンプル番号2、ジルコニアを用いたサンプル番号3、複合セラミックのサンプル番号4では、ペリクル枠10の色が、それぞれ灰色、灰色、黒褐色となっている。このため、このペリクル枠10を露光装置における露光に用いると、枠体からの反射光が抑制され、反射光が被露光物(半導体等)に回り込むことがない。このため、露光時の不良を低減できる。また、枠体に、塵埃や微粉体などの粉塵が付着した場合、これを目視検査で容易に発見することができた。枠体に付いた粉塵は、露光時にマスクに付着することがあり、装着前にこうした粉塵を検査で発見しやすいことは、ペリクル枠として望ましい。
【0072】
図6に示したサンプル番号2ないし5のペリクル枠は、何れも上面および下面の平坦度を10μm以下、実際には5μm以下としている。ペリクル枠10は、高いヤング率および硬度(ビッカース硬度)を備えるから、ペリクル膜の張設による歪みはほとんど生じない。従って、ペリクルをフォトマスクに貼りつけてもフォトマスクに歪がほとんど生じることはなく、半導体パターンの露光時の光学的特性が、ペリクルの貼付によって低下することがほとんどない。
【0073】
[変形例]
・変形例1:
上記各実施形態では、ペリクル枠の厚みは3mm程度、幅を2mm程度としたが、露光装置側の要求に応じた寸法とすればよい。本発明のペリクル枠は、高いヤング率と硬度(ビッカース)を備えるので、その厚みや枠体の幅を、更に小さくすることも可能である。もとより、枠体の厚みや幅は、実施形態の寸法より大きくしても良い。
【0074】
・変形例2:
上記実施形態では、ペリクル枠の固さはビッカース硬度で規定したが、ロックウェル硬度などに換算して規定しても良い。
【0075】
・変形例3:
焼結体としては、通常のセラミックの他に、超硬合金、サーメット、およびそれらの複合材のうちのいずれか一つ、もしくはこれらの材料の組み合わせやその複合材も用いられ得る。また、セラミックとしては、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、サイアロンおよびそれらの複合材のうちのいずれか一つを用いることも差し支えない。
【0076】
・変形例4:
上述した実施形態では、ペリクル枠の外形の加工は、ダイヤモンドビットを用いた研削としたが、他の加工方法を用いても良い。例えば、ミーリング加工、レーザー加工などを用いても良い。
【0077】
・変形例5:
上述した実施形態では、4つのコーナー部51〜54の幅L2を直線部の幅L1より大きくしたが、コーナー部の幅L2は、直線部の幅L1以上であればよく、かつ少なくとも一つのコーナー部の幅L2が直線部の幅L1より大きければ良い。従って、矩形のペリクル枠であれば、1つ、2つ、あるいは3つのコーナー部の幅L2が、直線部の幅L1より大きい実施形態を取ることも差し支えない。
【0078】
・変形例6:
上述した実施形態では、直線部の幅L1は、4辺いずれも等しいものとしたが、上下の直線部31,32と左右の直線部33,34とで異なるものとしても良い。あるいは全ての辺の幅が異なるものとしても良い。こうした場合、コーナー部の幅L2は、コーナー部に接続する二つの直線部のいずれに対しても、それ以上の幅を有するものとし、少なくとも一つのコーナー部において、接続する二つの直線部の幅より大きいものとすれば良い。
【0079】
・変形例7:
コーナー部の外周を直線状に面取りする場合、45度面取りに限り必要はなく、30度面取りなど、異なる角度で面取りしても差し支えない。また、二つ以上の直線で面取りしても良い。直線と曲線を組み合わせた形状としても良い。またアール面取りする場合、円弧形状以外の形状、例えば楕円や放物線、自由曲線などにより面取りしても良い。円弧により面取りする場合、円弧の接線と直線部が一致する必要がなければ、外周をアール面取りする円弧の中心は、内周のアール面取りの円弧の中心に対して、コーナー部の側に限定されるものではなく、内周のアール面取りの円弧の中心より、ペリクル枠の中心側に配置することも可能である。
【0080】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現できる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。