特許第6509618号(P6509618)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6509618
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】サーチュイン遺伝子活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/03 20060101AFI20190422BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20190422BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20190422BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20190422BHJP
   A61K 8/9711 20170101ALI20190422BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   A61K36/03
   A61K38/02
   A61P43/00 111
   A61P43/00 105
   A23L33/105
   A61K8/9711
   A61Q19/08
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-84414(P2015-84414)
(22)【出願日】2015年4月16日
(65)【公開番号】特開2016-204273(P2016-204273A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年2月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉永 恵子
(72)【発明者】
【氏名】村上 桂
(72)【発明者】
【氏名】久保 幸也
【審査官】 春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−097021(JP,A)
【文献】 特表2011−500556(JP,A)
【文献】 特開平02−053731(JP,A)
【文献】 特開平10−158156(JP,A)
【文献】 特開2002−012552(JP,A)
【文献】 特開2009−067701(JP,A)
【文献】 特開平03−086831(JP,A)
【文献】 特開平11−169137(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/135400(WO,A1)
【文献】 白澤 卓二,長寿社会における基礎老化学の役割,日本老年医学会雑誌,2012年,第49巻,第1号,p.36−39
【文献】 Mattagajasingh I et al.,SIRT1 promotes endothelium-dependent vascular relaxation by activating endothelial nitric oxide synthase,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2007年 9月11日,Vol.104, No.37,p.14855-14860
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A23L 33/00−33/29
A61K 8/00− 8/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
医中誌WEB
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
わかめから分離したタンパク質であって、水、エタノール及び油のいずれにも溶解しないタンパク質を有効成分とすることを特徴とするサーチュイン遺伝子活性化剤。
【請求項2】
寿命延長剤であることを特徴とする請求項1に記載のサーチュイン遺伝子活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サーチュイン遺伝子活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
SIR2(silent information regulator 2)ファミリー(サーチュイン)は、酵母の老化の原因であるゲノム不安定性を抑制するヒストン脱アセチル化酵素として最初に同定された。それ以降、サーチュインは、全ての生命体で見いだされ、ストレスや老化から保護するように働くことが示されている。例えば、哺乳類には、7つのサーチュイン(SIRT1〜7)が存在し、中でもSIRT1を強制発現させることで、老化に伴う遺伝子の発現変化が抑制されることが明らかとなっている。また、カロリー制限をすることは、霊長類を含む多岐にわたる生物種において、老化を遅延させ、寿命が延長させることが知られているが、カロリー制限により、脳や腎臓、肝臓、白色脂肪組織、骨格筋を含む種々の組織において、SIRT1を含むサーチュインの発現が上昇することが報告されている。これらの研究結果より、サーチュインは寿命延長作用を媒介することから、その遺伝子は長寿遺伝子とも呼ばれ、近年、盛んに研究がされている。
【0003】
サーチュイン遺伝子を活性化する物質としては、赤ワインに含まれる成分であるレスベラトロールが以前より知られているが、レスベラトロール以外にもこのような活性を有する化合物や素材が多数提案されている。
【0004】
例えば、フラボノイド類を有効成分とするサーチュイン活性化剤(特許文献1)、乳酸菌由来成分を有効成分とするサーチュイン発現増強剤(特許文献2)、スダチより抽出される化合物を有効成分とするNAD依存性脱アセチル化酵素活性化剤(特許文献3)、カッコンエキスを有効成分とするサーチュイン1活性化剤(特許文献4)、グネツム科植物の抽出物及びグネチンCからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とするサーチュイン活性化剤(特許文献5)、卵殻膜成分を含有することを特徴とするサーチュイン遺伝子活性化剤(特許文献6)等、安全性の高い天然物由来の成分が知られている。
【0005】
このような状況下、サーチュイン遺伝子を活性化し得る更なる新規な素材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−326872号公報
【特許文献2】特開2008−195673号公報
【特許文献3】特開2009−126799号公報
【特許文献4】特開2010−270012号公報
【特許文献5】特開2011−079797号公報
【特許文献6】特開2014−231487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、サーチュイン遺伝子を活性化し得る新規な素材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討を行った結果、わかめ由来成分がサーチュイン遺伝子を活性化することを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1)わかめ由来成分を有効成分とすることを特徴とするサーチュイン遺伝子活性化剤、
(2)前記わかめ由来成分が、わかめを含水エタノール溶液で洗浄してなることを特徴とする前記(1)に記載のサーチュイン遺伝子活性化剤、
(3)前記わかめ由来成分が、タンパク質を40質量%以上含有することを特徴とする前記(1)に記載のサーチュイン遺伝子活性化剤、
(4)寿命延長剤であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載のサーチュイン遺伝子活性化剤、
からなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明のサーチュイン活性化剤は、サーチュイン遺伝子を活性化することができる。
本発明のサーチュイン活性化剤は、サーチュイン遺伝子を活性化することにより寿命を延長することができる。
本発明のサーチュイン活性化剤は、サーチュインの作用が関係する各種疾患等の予防又は治療剤等として利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明で言うところのわかめとは、分類学的にはコンブ目チガイソ科ワカメ属に属する海藻類である。わかめの種類としては、ワカメ(Undaria pinnatifida)、ヒロメ(U.undarioides)、アオワカメ(U.peterseniana)があり、本発明ではいずれも好ましく用いられる。また、本発明に用いられるわかめの部位に特に制限はなく、葉、芽かぶ等のいずれを用いても良い。また、本発明に用いられるわかめとしては、例えば乾燥わかめ(例えば乾燥カットわかめ、素干しわかめ等)、ボイル塩蔵わかめ、塩蔵わかめ、生わかめ等のいずれでもよく、葉の厚さや色あるいは原料産地、形態も問わない。
【0012】
本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤は、わかめ由来成分を有効成分とするものである。わかめ由来成分としては、サーチュイン遺伝子活性化作用を有するものであれば特に制限はないが、例えば、わかめを含水エタノール溶液で洗浄することにより脱塩処理したもの(以下、「脱塩わかめ」という)、わかめから分離したタンパク質(以下、「わかめタンパク質」という)を40質量%以上、好ましくは60質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有する組成物(以下、「わかめタンパク質含有組成物」という)等が挙げられる。以下、脱塩わかめ及びわかめタンパク質含有組成物の製造方法の概略を示す。
【0013】
<脱塩わかめの製造方法>
先ず、濃度が10〜60%(v/v)の含水エタノールでわかめを洗浄する。洗浄方法に特に制限はないが、例えばわかめを含水エタノールに浸漬し攪拌する方法や、超音波等で処理する方法等が挙げられる。また、洗浄されるわかめの形状に特に制限はないが、洗浄処理の効率の観点から、チップ状に切断してあるものが好ましい。また、洗浄時間は、洗浄方法やわかめの形状等に応じて適宜設定すれば良く、例えば、チップ状に切断したわかめを含水エタノールに浸漬し、撹拌する方法であれば5〜60分間とすることができる。また、洗浄温度は、わかめに含まれる有効成分の流出に影響しない程度に設定すれば良く、例えば0〜30℃であることが好ましい。また、洗浄後、濾過したわかめを再び含水エタノールで洗浄する操作を1回〜3回実施しても良い。また、洗浄後、濾過したわかめを乾燥し、自体公知の方法により粉末化しても良い。
【0014】
<わかめタンパク質含有組成物の製造方法>
わかめタンパク質含有組成物は、自体公知のタンパク質分離法により、わかめからタンパク質を分離して製造することができる。タンパク質分離法としては、例えば、(1)pH3.0〜5.0の緩衝液に浸漬して組織を軟化し、かつ糖類、色素などを溶出・除去した後、アルカリ類を用いて溶解し、酸を加えてpHを4.5〜5.0に調整して沈殿として回収する酸沈工程を含む方法、(2)等電点よりも高いpHの水性抽出剤で抽出し、該タンパク質抽出液を等電点付近のpHに調整する酸沈処理により、タンパク質を沈殿させて回収する等電点沈殿法、(3)イオン交換体吸着法、(4)膜分離法、(5)アルギン酸リアーゼ等の酵素で処理し、これを遠心分離処理して上清を廃棄し沈殿物を回収することにより、粘質多糖類を除去し、該沈殿物をエタノールを用いて洗浄し、色素、脂質等を除去することにより、タンパク質を分離する方法が挙げられる。中でも、本発明においては、前記(5)の方法が簡便に実施でき、風味の良好なわかめタンパク質含有組成物が得られるため好ましい。尚、前記(5)の方法により分離されるわかめタンパク質は、不溶性のものである。不溶性とは、水、エタノール及び油のいずれにも溶解しないことをいう。
【0015】
上記製造方法において、わかめタンパク質含有組成物の原料として脱塩わかめを用いると、わかめタンパク質の抽出率が高まるとともに、海藻独特の臭いが低減したわかめタンパク質含有組成物が得られるため好ましい。また、上記製造方法において、得られたわかめタンパク質含有組成物をセルラーゼ等の酵素で処理することにより、セルロース等の水溶性成分を除去すると、わかめタンパク質の抽出率が高まるため好ましい。アルギン酸リアーゼ及びセルラーゼ等による酵素処理の温度及びpHは常識的に許容される範囲内の条件であれば良いが、その酵素の至適温度、至適pHで行うことが反応時間の短縮や酵素の安定性上望ましい。
【0016】
ここで、わかめタンパク質含有組成物のタンパク質の含有量は、ケルダール法(日本食品科学工学会 新食品分析法編集委員会編、「新・食品分析法」、光琳、平成8年11月30日発行、p.33−38)により試料の全窒素量を測定し、係数6.25を乗じてタンパク質含有量とすることにより算出できる。
【0017】
本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤は、わかめ由来成分のみをそのまま用いても良く、或いはわかめ由来成分以外に本発明の効果を阻害しない範囲で他の任意の成分(医薬品添加物、食品添加物及び食品素材等)を配合し、少なくともわかめ由来成分を含有する組成物として調製しても良い。
【0018】
上記組成物の調製に用いられるわかめ由来成分以外の任意の成分としては、例えば賦形剤(乳糖、デキストリン、コーンスターチ、結晶セルロース等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等)、崩壊剤(カルボキシメチルセルロースカルシウム、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム等)、結合剤(デンプン糊液、ヒドロキシプロピルセルロース液、アラビアガム液等)、溶解補助剤(アラビアガム、ポリソルベート80等)、甘味料(砂糖、果糖ブドウ糖液糖、ハチミツ、アスパルテーム等)、着色料(β−カロテン、食用タール色素、リボフラビン等)、保存料(ソルビン酸、パラオキシ安息香酸メチル、亜硫酸ナトリウム等)、増粘剤(アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等)、酸化防止剤(BHT、BHA、アスコルビン酸、トコフェロール等)、香料(ハッカ、ストロベリー香料等)、酸味料(クエン酸、乳酸、DL−リンゴ酸等)、調味料(DL−アラニン、5´−イノシン酸ナトリウム、L−グルタミン酸ナトリウム等)、pH調整剤(クエン酸、クエン酸三ナトリウム等)、乳化剤又は界面活性剤(グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、アルキル硫酸エステル塩、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム等)、油剤(高級アルコール、エステル油、流動パラフィン、ワセリン、スクワラン、ロウ、天然油脂、シリコーン油等)、低級アルコール類(エタノール、イソプロピルアルコール等)、多価アルコール類(プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、マルチトール等)、紫外線吸収剤(パラアミノ安息香酸エチル、サリチル酸オクチル、パラメトキシケイ皮酸2−エチルヘキシル、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等)、無機粉末(タルク、カオリン、窒化ホウ素等)、有機粉末(セルロースパウダー、架橋型シリコーン末、ポリ四フッ化エチレン粉末等)、ビタミン類、ミネラル類、アミノ酸類等が挙げられる。
【0019】
本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤を医薬品として調製する場合、その剤形に特に制限はなく、投与経路に応じて任意の剤形に調製することができる。経口投与に適した剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤、トローチ剤等が挙げられ、非経口投与に適した剤形としては、例えば注射剤、点滴剤、坐剤、吸入剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ローション剤、パップ剤等が挙げられる。尚、注射剤は、静脈注射、筋肉注射、皮下注射、点滴等のいずれに用いるものであっても良い。
【0020】
上記医薬品100質量%中のわかめ由来成分の含有量は、その成分の種類や医薬品の剤形、投与経路等により異なるが、通常0.1〜100質量%、好ましくは1〜95質量%、より好ましくは5〜50質量%の範囲内に設定することができる。
【0021】
また、本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤は飲食品、化粧料等に添加して使用することができる。
【0022】
本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤を飲食品に添加して使用する場合、添加対象となる飲食品の形態に特に制限はないが、例えば清涼飲料、ドロップ、キャンディ、チューインガム、チョコレート、グミ、ヨーグルト、アイスクリーム、プリン、ゼリー菓子、クッキー、錠菓等が挙げられる。
【0023】
上記飲食品に対するサーチュイン遺伝子活性化剤の添加量はわかめ由来成分の種類や飲食品の形態等により異なるが、通常0.1〜95質量%、好ましくは0.5〜80質量%、より好ましくは1〜50質量%の範囲内に設定することができる。
【0024】
本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤を化粧料に添加して使用する場合、添加対象となる化粧料の形態に特に制限はないが、例えば化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック等の皮膚化粧料、メイクアップベースローション、メイクアップベースクリーム等の下地化粧料、乳液状、油性、固形状等の各剤型のファンデーション、アイカラー、チークカラー等のメイクアップ化粧料、ハンドクリーム、レッグクリーム、ネッククリーム、ボディローション等の身体用化粧料等が挙げられる。
【0025】
上記化粧料に対するサーチュイン遺伝子活性化剤の添加量はわかめ由来成分の種類や化粧料の形態等により異なるが、通常0.001〜95質量%、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜10質量%の範囲内に設定することができる。
【0026】
本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤は、上記の通り医薬品として又は飲食品、化粧料等に添加して経口的若しくは非経口的に生体に投与することにより、生体内におけるサーチュイン遺伝子の発現を活性化することができる。尚、本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤の有効成分であるわかめ由来成分は、食品として広く食されているわかめに由来し、安全性の高い成分であることから、経口的に投与することが好ましい。
【0027】
本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤が発現を活性化するサーチュインに特に制限はないが、例えば哺乳類ではSIR2ファミリーに属する遺伝子としてSIRT(sirtuin)1〜7が見出されている。これらの中でも、とりわけSIRT1に対して、本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤は優れた発現活性化効果を発揮する。
【0028】
ここで、サーチュイン遺伝子の発現を活性化することによって、寿命延長効果以外にも、例えば、代謝改善(特に、インスリンや糖の恒常性が高まること又はインスリン感受性が亢進すること)、抗癌効果、心血管疾患(特に、動脈硬化)の予防、抗炎症効果、抗老化効果、白内障、骨粗鬆症、腎障害等の発症遅延の効果があることが報告されている。従って、本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤は、特にこのような効果を得るための用途に好ましく用いることができる。即ち、本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤は、例えば、寿命延長剤に加え、代謝改善剤、抗癌剤、血管疾患予防剤、抗炎症剤、抗老化剤、白内障予防剤、骨粗鬆症予防剤、腎障害予防剤として用いることができる。
【0029】
本発明のサーチュイン遺伝子活性化剤の生体に対する投与量は、該サーチュイン遺伝子活性化剤の配合組成や投与の目的、投与経路等により異なるが、例えば脱塩わかめを経口投与する場合、成人1日当たり10〜50000mgの範囲であり、わかめタンパク質含有組成物を経口投与する場合、成人1日当たり2〜10000mgの範囲である。
【0030】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
[製造例1]
[脱塩わかめの製造]
フレーク状乾燥わかめ200gに25%の含水エタノール4000mLを加え、これをスリーワンモーター(型式:BLh600;新東科学社製)を用いて速度「3」で60分間撹拌し、洗浄した。洗浄後、濾過して液部を除去し、固形部に25%(v/v)の含水エタノール4000mLを加え、更に同一の条件にて洗浄した。その後濾過して液部を除去し、固形部を90℃で1時間真空乾燥し、更に40℃で24時間真空乾燥し、得られた乾燥物を粉砕し、粉末状の脱塩わかめ約146.4gを得た。以上の操作を計6回繰り返し、粉末状の脱塩わかめ(試作品1)約878gを得た。尚、得られた脱塩わかめのタンパク質含有量は28%であった。
【0032】
[製造例2]
[わかめタンパク質含有組成物の製造]
水道水8000mLにクエン酸三ナトリウム二水和物160g、無水クエン酸1.6g、アルギン酸リアーゼ(製品名:アルギン酸リアーゼS;28000units/g;アマノエンザイム社製)40mg及び脱塩わかめ(試作品1)201.5gを加え、撹拌しながら45℃で4時間処理した。処理物を5000×g、15℃で5分間遠心分離し、上清液を廃棄し、沈殿物を回収した。
得られた沈殿物に水道水6000mL、クエン酸三ナトリウム二水和物80g、無水クエン酸0.8g及びアルギン酸リアーゼ(製品名:アルギン酸リアーゼS;28000units/g;アマノエンザイム社製)40mgを加え、撹拌しながら45℃で17時間処理した。処理物を5000×g、15℃で5分間遠心分離し、上清液を廃棄し、沈殿物を回収した。得られた沈殿物に超純水3000mLを加えて撹拌した後、5000×g、15℃で5分間遠心分離し、沈殿物を回収する操作を4回繰り返すことにより、該沈殿物を洗浄した。洗浄後、沈殿物を凍結乾燥して粉砕し、72.6gの粉砕物を得た。得られた粉砕物に100%エタノール700mlを加えて10分間撹拌し、濾過して液部を除去し、固形部を回収する操作を6回繰り返した。
得られた固形部を40℃で24時間真空乾燥し、61.9gの乾燥物を得た。得られた乾燥物のうち61.0gに水道水1500mLを加え、これに1N塩酸を加えpH4.8に調整した後に、セルラーゼ(製品名:セルラーゼT「アマノ」4;アマノエンザイム社製)2gを加え、45℃で5時間撹拌した。処理物を5000×g、15℃で5分間遠心分離し、上清液を廃棄し、沈殿物を回収した。
得られた沈殿物に超純水1200mLを加えて撹拌した後、5000×g、15℃で5分間遠心分離し、沈殿物を回収する操作を3回繰り返すことにより、該沈殿物を洗浄した。
洗浄した沈殿物に50%エタノール1000mLを加えて撹拌した後、5000×g、15℃で5分間遠心分離し、沈殿物を回収する操作を4回繰り返すことにより、沈殿物を更に洗浄した。洗浄した沈殿物に100%エタノール1000mLを加えて撹拌した後、5000×g、15℃で5分間遠心分離し、沈殿物を回収する操作を2回繰り返すことにより、沈殿物を更に洗浄した。
洗浄後、沈殿物を真空乾燥し、50.2gのわかめタンパク質含有組成物(試作品2;タンパク質含有量約80%)を得た。
【0033】
[試験例1]
[わかめ由来成分の長期摂取によるサーチュイン遺伝子発現活性化の評価]
【0034】
(1)わかめ由来成分混合飼料の調製
AIN−93G飼料(オリエンタル酵母工業社製)に脱塩わかめ(試作品1)を加えて均一になるように混合し、脱塩わかめを1質量%含有するわかめ由来成分混合飼料を調製した。
【0035】
(2)被検動物及び飼育環境
生後19週齢のC57BL/6Jマウス(雄)74匹にAIN−93G飼料(オリエンタル酵母工業社製)及び水道水を自由に摂取させて7日間予備飼育し、下記の群分けを行った後試験に供した。予備飼育期間及び試験期間を通してマウスは室温23±1℃、相対湿度45.5±5%、換気回数20回/時、照明時間8時〜20時に維持された飼育室で飼育した。
【0036】
(3)群分け及び飼育期間
予備飼育したマウスの群分けを行った。群分けでは、各群の平均体重値がほぼ等しくなるように、わかめ由来成分混合飼料摂取群(以下、「WC摂取群」という)及び対照群の2群(各群37匹)に分けた。WC摂取群にはわかめ由来成分混合飼料及び水道水を、対照群にはAIN−93G飼料(オリエンタル酵母工業社製)及び水道水を自由摂取させて88週間飼育した。飼育終了日に、生存していたマウスの体重を測定した後、解剖して肝臓を摘出した。尚、飼育終了日におけるマウスの生存率は、WC摂取群では56.3%であり、対照群では48.3%であった。即ち、わかめ由来成分として脱塩わかめを摂取したマウスは、寿命が延長したことが分かった。
【0037】
(4)DNAマイクロアレイによる遺伝子発現量の測定
飼育終了日に、生存していたマウスより血清コレステロール値が平均的な4匹の肝臓を各群から摘出し、摘出した肝臓を、その約10倍容量のRNAレーター試薬(Ambion社製)に浸漬し、4℃で一晩静置した。静置後の肝臓は、その後RNAの抽出に供するまでの間、−80℃で保存した。次に、トリゾール試薬(商品名:TRIzol;Invitrogen社製)を用いて各々の肝臓から全RNAを抽出し、RNeasy Mini キット (QIAGEN社製)を用い、添付の手順書に従いRNAを精製した。
続いて、精製したRNAについて、DNAマイクロアレイ(商品名:GeneChipmiRNA Array;Affymetrix社製)を用いて、添付の手順書に従い、GeneChip工程及びArrayのスキャンを実施した。GeneChip工程では、Mouse genome Array 430 2.0を用いた。Arrayのスキャンの際は、GeneChip 3000 Scannerを用いて画像データを取得し、GeneChipデータ解析システムGCOS(GeneChip Operating Software)を用いて、各サンプルのArray画像データを確認した。更に、統計解析ソフトウェアR(http://www.r−project.org/)及び統計解析ソフトウェアBioconductor(http://www.bioconductor.org/)を用いてサーチュイン遺伝子(SIRT1)の発現量を数値として抽出し、対照群の発現量(平均値)を1とした場合のWC摂取群の発現量(平均値)を算出した。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の結果から、わかめ由来成分として脱塩わかめを摂取したマウスは、サーチュイン遺伝子(SIRT1)の発現が活性化することが分かった。
【0040】
[試験例2]
[わかめ由来成分の短期摂取によるサーチュイン遺伝子発現活性化の評価]
【0041】
(1)わかめ由来成分混合飼料の調製
AIN−93G飼料(オリエンタル酵母工業社製)に脱塩わかめ(試作品1)を加えて均一になるように混合し、脱塩わかめを1質量%含有するわかめ由来成分混合飼料1を調製した。また、AIN−93G飼料(オリエンタル酵母工業社製)にわかめタンパク質含有組成物(試作品2)を加えて均一になるように混合し、わかめタンパク質含有組成物を0.25質量%含有するわかめ由来成分混合飼料2を調製した。
【0042】
(2)被検動物及び飼育環境
生後4週齢のSDラット(雄)12匹にAIN−93G飼料(オリエンタル酵母工業社製)及び水道水を自由に摂取させて7日間予備飼育し、下記の群分けを行った後試験に供した。予備飼育期間及び試験期間を通してラットは室温23±1℃、相対湿度45.5±5%、換気回数20回/時、照明時間8時〜20時に維持された飼育室で飼育した。
【0043】
(3)群分け及び飼育期間
予備飼育したラットの群分けを行った。群分けでは、各群の平均体重値がほぼ等しくなるように、わかめ由来成分混合飼料1摂取群(以下、「WC1摂取群」という)、わかめ由来成分混合飼料2摂取群(以下、「WC2摂取群」という)及び対照群の3群(各群4匹)に分けた。WC1摂取群にはわかめ由来成分混合飼料1及び水道水を、WC2摂取群にはわかめ由来成分混合飼料2及び水道水を、対照群にはAIN−93G飼料(オリエンタル酵母工業社製)及び水道水を自由摂取させて28日間飼育した。飼育終了日に、生存していたラットの体重を測定した後、解剖して肝臓を摘出した。
【0044】
(4)リアルタイムPCRによる遺伝子発現量の測定
摘出した肝臓を、その約10倍容量のRNAレーター試薬(Ambion社製)に浸漬し、4℃で一晩静置した。静置後の肝臓は、その後RNAの抽出に供するまでの間、−80℃で保存した。その後、MicroSmash(型式:MS−100;トミー精工社製)で肝臓を各々破砕処理し、得られた破砕液について、RNeasy Mini キット(QIAGEN社製)を用いて、添付の手順書に従い全RNAを抽出した。全RNAをUltraPure Distilled Water(Invitrogen社製)を用いて62.5ng/μLの濃度になるように希釈し、希釈した全RNAを16μLとHigh Capacity RNA−to−cDNA Master Mix(Applied Biosystem社製)4μLを混合した。その後、PCR用サーマルサイクラー「GeneAmp PCR System 9700」(Applied Biosystem社製)を使用して{25℃ 5分 → 42℃ 30分 → 85℃ 5分}×1サイクルのプログラムにて逆転写反応を行い、cDNA溶液を得た。
続いて、TaqMan Gene Expression Assays(Applied Biosystem社製)を用いてリアルタイムRCR解析を行った。具体的には、BioMark 48.48 Dynamic ArrayのSample inletsに、TaqMan Universal Master Mix II,no UNGを3μL、GE Sample Loading Reagentを0.30μL、cDNA溶液を2.70μL混合した溶液をアプライし、Assay inletsに、TaqMan Gene Expression Assayを3.0μL、Assay Loading Reagentを3.0μL混合した溶液をアプライした。反応は、{50℃ 2分 → 95℃ 10分}×1サイクル → {95℃ 15秒 → 60℃ 1分}×40サイクルのプログラムにて行った。得られたTATA box結合タンパク質遺伝子とサーチュイン遺伝子(SIRT1)のCt値(Thereshold Cycle)から各群についてサーチュイン遺伝子(SIRT1)発現量(平均値)を算出し、更に対照群の発現量(平均値)を1とした場合のWC1摂取群及びWC2摂取群の発現量を算出した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2の結果から、わかめ由来成分として脱塩わかめ又はわかめタンパク質含有組成物を摂取したラットは、サーチュイン遺伝子(SIRT1)の発現が活性化することが分かった。また、その効果は、脱塩わかめを1質量%含有するわかめ由来成分混合飼料1を摂取したWC1摂取群よりも、わかめタンパク質含有組成物を0.25質量%含有するわかめ由来成分混合飼料2を摂取したWC2摂取群のほうが高いことが確認された。