【文献】
能美 仁,“インフラモニタリングのための振動可視化レーダーの開発”,SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」第1回シンポジウム,2014年11月 5日,発表番号4-8,7 Pages
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。尚、各実施形態の説明において、同一部分には同一符号を付して示し、重複する説明を省略する。なお、以下の説明において、アンテナ装置の実施形態はレーダ装置に適用されるものとする。
【0010】
(第1の実施形態)(2軸の仮想受信アレイ素子によるビーム形成)
図1乃至
図3を参照して、第1の実施形態に係るアンテナ装置について説明する。なお、ここではレーダ装置に適用されるものとする。
【0011】
図1は本実施形態に係るアンテナ装置の構成を示すブロック図である。
図1において、1A1〜1ANはA軸(図中、縦方向の軸)に配列されるアンテナ素子、1B1〜1BMはA軸とは異なるB軸(図中、横方向の軸)に配列されるアンテナ素子である。A軸に配列されるアンテナ素子1A1〜1ANで捕捉された信号は増幅器2A1〜2ANで増幅されて周波数変換器3Aに送られ、それぞれベースバンドの信号に変換された後、AD変換器4Aでデジタル信号に変換されて1〜NchのA軸受信信号#A1〜#ANとして仮想アレイ素子生成器5に送られる。一方、B軸に配列されるアンテナ素子1B1〜1BMで捕捉された信号は増幅器2B1〜2BMで増幅されて周波数変換器3Bに送られ、それぞれベースバンドの信号に変換された後、AD変換器4Bでデジタル信号に変換されて1〜NchのB軸受信信号#B1〜#BNとして仮想アレイ素子生成器5に送られる。
【0012】
上記仮想アレイ素子生成器5は、A軸受信信号#A1〜#ANとB軸受信信号#B1〜#BNを用いて、素子信号毎の乗算演算を行うことで、1〜N×Mchの仮想アレイ信号#1〜#N×Mを生成する。ここで生成された仮想アレイ信号#1〜#N×Mはビーム形成器6に送られる。このビーム形成器6は仮想アレイ信号#1〜#N×Mから#1〜#Bのマルチビームを形成する。
【0013】
上記構成において、
図2及び
図3を参照して、異なる2軸のリニアアレイを用いた受信方式について述べる。
図2は、
図1に示すアンテナ装置において、受信仮想アレイが形成される様子を示す概念図で、(a)はL字型に配列される2軸のリニアアレイ、(b)は受信素子信号の乗算により形成される仮想アレイを示している。また、
図3は、
図1に示すアンテナ装置において、2軸配列のリニアアレイによる観測座標系を示している。
【0014】
まず縦方向のA軸のリニアアレイについては、アンテナ素子1A1〜1ANの捕捉信号を周波数変換器3Aでベースバンドに変換し、更にAD変換器4Bでデジタル信号に変換する。同様に、横方向のB軸のリニアアレイについては、アンテナ素子1B1〜1BMの捕捉信号を周波数変換器3Bでベースバンドに変換し、更にAD変換器4Bでデジタル信号に変換する。
【0015】
A,B両軸の信号を用いて、仮想アレイ素子生成器5にて素子信号毎の乗算演算により、N×Mの仮想アレイ信号を生成する。これを定式化する。まず、観測方向(AZ,EL)を含めた2軸の入力信号を、それぞれXa,Xbと表すと次式となる。
【数1】
【0016】
(1)式において、an,bmは次式で定義される。
【数2】
【0017】
また、(2)式において、ka,kb,dan,dbmは次式で定義される。
【数3】
【0018】
なお、上式では、A軸アレイとB軸アレイの離隔距離が大きい場合を考えて、AZ角とEL角を添え字のa,bをつけて区分けしているが、離隔距離が小さい場合には、A軸アレイとB軸アレイからみたAZ角とEL角は等しくなる。
【0019】
以上より、仮想平面アレイの位相中心に入力される信号Xinとすると、2軸の信号XaとXbは次式となる。
【数4】
【0020】
この信号を用いて、本実施形態の要点である両ベクトルの乗算を行うと、次式となる。
【数5】
【0022】
ここで、A軸アレイとB軸アレイの離隔距離が小さい場合を考えて、ka=kbとすると、次式となる。
【数7】
【0023】
これは、乗算演算により、anとbmの位置ベクトルの加算の位置に仮想素子信号が生成されることを示している。
【0024】
受信ビーム出力は、ビーム形成器6において、(5)式の要素にサイドローブ低減用のウェイトとして、サイドローブ低減用のテーラーウェイト(非特許文献3)等を乗算し、ビーム指向方向制御用の複素ウェイトを乗算した後、DBF(Digital Beam Forming、非特許文献1)による加算を行い、次式となる。
【数8】
【0025】
(8)式において、ビーム指向方向制御用の複素ウェイトWpnmは次式で表現できる。
【数9】
【0026】
(9)式において、kpは次式で定義される。
【数10】
【0027】
この仮想アレイ信号Xを用いて、マルチビームを形成するには、(8)式のAZp,ELpを複数設定すればよい。
【0028】
以上のように、本実施形態は、A軸とB軸の2軸の受信信号を用いて、乗算演算により仮想アレイ素子信号を生成している。この方式は、MIMO(Multiple Input Multiple Output,非特許文献2)において、Nchの送信信号とMchの受信信号より、N×Mの仮想アレイ信号を得る方式に相当するが、MIMOが送信し受信する信号が自動的に乗算演算を実施しているのに対して、本実施形態の方式では受信×受信の乗算演算を行っていることに特徴がある。
【0029】
なお、乗算信号を用いることにより、各仮想アレイ素子信号間の熱雑音に相関成分が発生するため、無相関の場合に比べて、ビーム出力におけるSN比(信号対熱雑音電力比)が変動する場合もある。これによって所要の利得が不足する場合には、A軸のアンテナ素子1A1〜1ANまたはB軸アンテナ素子1B1〜1BMを、必要な利得を補償できるようにサブアレイ化してもよい。この場合、サブアレイビームを電子走査する必要がある場合には、アンテナ素子の各々に移相器を配備して、それぞれ位相制御することにより走査すればよい。また、ハードウェア規模が許容できるのであれば、アナログ合成のサブアレイではなく、A軸またはB軸の列数を必要な利得分増やし、周波数変換器やAD変換器も増やして、DBF合成するようにしてもよい。
【0030】
すなわち、本実施形態に係るアンテナ装置では、A軸に沿って一次元に配列したN素子受信アレイ(Xan、n=1〜N)と、それと異なるB軸に沿って一次元に配列したM素子受信アレイ(Xbm、m=1〜M)において、両軸の素子信号の乗算Xan×Xbm(n=1〜N、m=1〜M)によりN×M素子の仮想アレイ信号を生成して、その素子信号に所定のウェイトを乗算して加算することにより、アンテナビームを形成するようにしている。このため、異なる2軸のN段とM列のリニアアレイ信号を用いて、仮想的な面アレイのN×Mの受信素子信号を生成することができ、これによって任意のマルチビームを形成することができ、アンテナ開口を低コストで有効活用することができる。
【0031】
(第2の実施形態)(平面アレイによる受信仮想アレイ)
次に、第2の実施形態に係るアンテナ装置について、
図4及び
図5を参照して説明する。第1の実施形態では、2軸のリニアアレイを用いる方式について述べた。これに対して、第2の実施形態では、受信平面アレイを用いる場合について述べる。これは、通常の平面アレイのビーム形成用のアレイに対して、本実施形態の手法を切り替え適用する場合のためである。
【0032】
図4は、第2の実施形態に係るアンテナ装置の構成を示すブロック図、
図5は
図4に示すアンテナ装置において受信仮想アレイが形成される様子を示す概念図である。
図4において、111〜1NMはN段、M列に配列されるアンテナ素子である。各アンテナ素子111〜1NMの捕捉信号はそれぞれ受信増幅器211〜2NMで増幅された後、2系統に分配される。一方の系統には縦段(A軸)用の受信移相器7A11〜7ANMが設けられ、他方の系統には横列(B軸)用の受信移相器7B11〜7BNMが設けられる。
【0033】
縦段(A軸)の系統の受信信号は、受信移相器7A11〜7ANMで位相制御が施され、給電回路構成の縦段(A軸)用の受信合成器8A1〜8AMにより縦段毎に合成されてM列の合成信号Xb1〜XbMが生成され、図示しない周波数変換器でベースバンドに変換され、AD変換器でデジタル信号に変換されてDBF信号として出力される。
【0034】
同様に、横列(B軸)の系統の受信信号は、受信移相器7B11〜7BNMで位相制御が施され、給電回路構成の横列(B軸)用の受信合成器8B1〜8BNにより横列毎に合成されてN段の合成信号Xa1〜XaNが生成され、図示しない周波数変換器でベースバンドに変換され、AD変換器でデジタル信号に変換されてDBF信号として出力される。
【0035】
上記構成において、本実施形態の平面アレイによる受信仮想アレイについて、
図5を参照して説明する。
【0036】
図5(a)は、N段受信信号Xa1〜XaN、M列受信信号Xb1〜XbMのN×M受信アレイを示している。この受信アレイを仮想的に形成するため、
図5(b)に示すように各段、各列毎に観測範囲を覆うビームを形成する。ここで、受信素子信号の乗算演算により、
図5(c)に示すN×M素子による仮想アレイが形成される。
【0037】
具体的には、まず、形成ビームが目的の捜索範囲を覆うように、受信移相器7A11〜7ANM,7B11〜7BNMの位相を設定する。広角範囲にビ−ム形成するには、例えば、開口中央部を中心として、開口端で2次位相を設定する方式がある。A軸及びB軸のアレイに対して、ビーム走査角も含めて定式化すると次の通りである。
【数11】
【0038】
なお、リニアアレイであるため、A軸はEL角走査、B軸はAZ角走査のみとなる。
【0039】
上記の処理により、A軸とB軸のリニアアレイの信号が得られるため、第1の実施形態と同様の手法で仮想面アレイの信号を生成し、任意のビームを形成することができる。
【0040】
以上の説明では、A軸とB軸の2次位相を設定し、合成回路によりアナログビームを形成した後、仮想アレイ素子信号を得る方式について述べたが、アナログ合成の際に、不要波の方向にヌルを形成する手法等を含む、任意の位相制御を行う方式(非特許文献4)を採用してもよい。
【0041】
以上のように、本実施形態に係るアンテナ装置は、所定の1軸(A軸)はN素子(N段)、それと異なる1軸(B軸)におけるM素子(M列)のN×M素子の平面アレイにおいて、A軸の各々の段において移相器Pam(m=1〜M)により位相を制御した後にアナログ合成し、B軸の各々の列において、移相器Pbn(n=1〜N)により位相を制御した後にアナログ合成した出力を、それぞれA軸のN素子受信アレイ(Xan、n=1〜N)と、B軸の一次元に配列したM素子受信アレイ(Xbm、m=1〜M)として、両軸の素子信号の乗算Xan×Xbm(n=1〜N、m=1〜M)によりN×M素子の仮想アレイ信号を生成して、その素子信号に所定のウェイトを乗算して加算することにより、アンテナビームを形成する。すなわち、面アレイの場合に、異なる2軸のN段とM列の合成後のリニアアレイ信号を用いて、仮想的な平面アレイのN×Mの受信素子信号を生成して、任意のマルチビームを形成することができる。
【0042】
(第3の実施形態)(間引きを用いた平面アレイによる受信仮想アレイ)
第2の実施形態では、面アレイの信号を用いて、仮想アレイによってビーム形成する手法について述べた。この際に、コスト低減等のために間引きアレイ(非特許文献5)にする方式がある。
【0043】
図6は第3の実施形態に係るアンテナ装置として、間引きアレイ構成を適用した場合の素子配列例を示す概念図である。
図6において、(a)は間引きアレイの素子配列、(b)は縦列及び横段のリニアアレイ合成による素子配列、(c)は(b)の受信素子信号の乗算により形成される仮想アレイを示している。本実施形態では、
図6(a)に示すように、各段、各列において素子の間引き位置が異なっている。
【0044】
間引きアレイでは、一般にグレーティングローブが発生する。しかしながら、本実施形態では、第2の実施形態で説明した手法でA軸及びB軸給電回路による受信合成器により合成してA軸及びB軸の信号を得るとき、A軸の各段、B軸の各列のリニアアレイで間引きの位置が異なるため、その後、仮想アレイ素子信号を生成すると、各素子信号に対するグレーティングローブの影響は軽減されている。このため、その仮想アレイ素子信号を用いてビーム形成しても、間引きアレイの影響は軽減されている。したがって、間引きアレイ構成であっても、第2の実施形態と同様の方式で、グレーティングローブの影響の小さい任意のビームを形成することができる。
【0045】
以上のように、本実施形態に係るアンテナ装置は、面配列の受信アレイ素子を間引いてコスト低減を図る。このとき、間引きアンテナの面アレイをアナログ合成する際に、間引きによるグレーティングロ−ブ発生の影響を軽減することができる。また、影響が残存する場合でも、仮想アレイ素子により、グレーティングローブ発生の方向のサイドローブを低減することができる。
【0046】
(第4の実施形態)(複数種アンテナの共用)
図7及び
図8を参照して第4の実施形態に係るアンテナ装置について説明する。ここでは、複数の周波数帯、複数の偏波、複数の受信帯域等において互い共用する場合の例について述べる。
【0047】
図7に、第4の実施形態に係るアンテナ装置として、互いに異なる種別1と種別2の受信リニアアレイをL字型に配置した場合の構成を示す。このL字型のリニアアレイを増やせば、2種別以上の場合にも対応できる。例えば、受信帯域を変える場合には、周波数変換器のローカル信号、AD変換器のサンプリング速度等を変えたものをL字型に配列することになる。以上の方式は異なる2軸であればよい。例えば
図8に示すように、種別T1〜Tpそれぞれを受け持つ受信N段と種別R1〜Rpを受け持つN×M素子の受信仮想アレイを配列するようにしてもよい。これらの配置により、同一開口面に複数の種別の仮想アレイを構成することができる。
【0048】
具体的には、本実施形態では、偏波、周波数、受信帯域等を変えたPセットのアンテナ装置を、同一アンテナ開口面に共用配列する場合を想定している。
【0049】
すなわち、2軸のリニアアレイでは、2軸のアンテナに平行に偏波、周波数等を変えたPセットのアンテナを付加することで、同一開口面に偏波または周波数共用アンテナを構成することができる。
【0050】
(第5の実施形態)(送信及び2軸の仮想受信アレイ素子によるビーム形成)
第1の実施形態では、受信のみの場合について述べた。本実施形態は、レーダ装置のように送信を付加する場合について述べる。
【0051】
図9A、
図9Bは第5の実施形態に係るレーダ装置において、それぞれ受信アレイ、送信アレイの構成を示すブロック図で、
図9Aは受信系統、
図9Bは送信系統を示している。このときの送受信アレイの外観を
図10に示す。
【0052】
本実施形態の受信系統は、
図9Aに示すように、
図1に示した第1の実施形態と同様の構成である。また、本実施形態の送信系統は、
図9Bに示すように、送信信号を送信分配器10によってM分配してM列の送信分配器111〜11Mに供給し、各列の送信分配器111〜11MによってN分配してN×M系統の送信信号を生成し、各系統の送信移相器1211〜12NMで位相を制御し、送信増幅器1311〜13NMで電力増幅した後、アンテナ素子1411〜14NMから送出する。
【0053】
アレイの配置としては、
図10に示すように、送信面アレイの周囲にL字型に受信アレイを配置するのが開口を有効に活用していることになる。ビ−ム形成手法としては、
図10に示すように、送信ビームを所定の観測範囲に形成し、その範囲内に受信マルチビームを形成することにより、同時に広角範囲を観測することができる。
【0054】
なお、送信は受信アレイと独立に設定できるため、送信アレイは任意の形状でよく、極端には固体化送信機や電子管の送信機を用いて、アンテナはパラボラアンテナにすることもできる。
【0055】
以上のように、第5の実施形態では、送信装置の周囲に、受信アレイを配置する。すなわち、送信装置の周囲に異なる2軸のN段とM列のリニアアレイ信号を用いて、仮想的な平面アレイのN×Mの受信素子信号を生成することにより、レーダ装置を構成することができる。
【0056】
(第6の実施形態)(面アレイによる送信及び受信仮想アレイ)
第2の実施形態では、受信面アレイの場合について述べた。本実施形態では、送信と受信を共用にした面アレイの場合について述べる。
【0057】
図11は、第6の実施形態に係るレーダ装置において、送受信アレイアンテナの構成を示すブロック図、
図12は、
図11に示す送受信アレイアンテナの外観を示す図である。
図11において、送信系は
図9Bに示す構成と同構成であり、受信系は
図4に示す構成と同構成であり、両者はサーキュレータ1511〜15NMによって共用される。
【0058】
受信のA軸及びB軸における受信合成器81〜8N、91〜9Mにおいて、受信マルチビームを形成するためには、所定の観測範囲の覆うビームを形成する必要がある。このため、
図12に示すように、A軸用及びB軸用の2系統の受信移相器711〜7NMが必要となる。送信については、所定の観測範囲を覆うように、面アレイとして送信移相器1111〜11NMを設定する。
【0059】
以上のように、第6の実施形態では、送信アレイと受信アレイを共用するレーダ装置であり、開口面に送信及び受信アレイを共用して、受信は第2の実施形態の方法でビーム形成し、送信は独立にビーム形成することで、レーダ装置を構成することができる。
【0060】
(第7の実施形態)(間引きを用いた平面アレイによる送信及び受信仮想アレイ)
第6の実施形態では、面アレイの信号を用いて、仮想アレイによるビーム形成する手法について述べた。この際に、コスト低減等のために間引きアレイにする方式がある。
図13は第7の実施形態に係るレーダ装置のアンテナ装置として、間引きを用いた平面アレイによる送信及び受信仮想アレイの外観を示している。
【0061】
受信素子の間引きアレイにしても、第6の実施形態の手法でA軸及びB軸それぞれの素子出力を合成して、A軸及びB軸の信号を得ると、第3の実施形態と同様の効果により、間引きによるグレーティングローブの影響を軽減することができる。
【0062】
また、送信素子の間引きアレイの場合については、送信間引きによるグレーティングローブ発生の方向に、受信仮想アレイ素子を用いたヌル制御ビーム(非特許文献6)を形成して、グレーティングローブの影響を抑圧することができる。
【0063】
以上のように、第7の実施形態では、少なくとも送信アレイか受信アレイを間引きし、グレーティングローブが発生する方向に、受信仮想アレイによるヌルを形成するレーダ装置を構成しているので、少なくとも送信アレイか受信アレイを間引きし、間引きアンテナを構成した場合でも、間引きによるグレーティングロ−ブの発生の影響を軽減することができ、影響が残存する場合でも、グレーティングローブが発生する方向に、受信仮想アレイによるヌルを形成することにより、間引きした場合でもサイドローブの低いレーダ装置を構成することができる。
【0064】
(第8の実施形態)(複数種の送信及び受信アンテナの共用)
次に、複数の周波数帯、複数の偏波、複数の受信帯域等の共用の場合の例について述べる。
図14は、第8の実施形態に係るレーダ装置として、異なる種別1(F1帯)と種別2(F2帯)の場合のL字型の構成の受信アレイを採用した場合である。本実施形態では、F1帯受信にL字型に配列したM1列とN1列を用い、F2帯受信にL字型に配列したM2列とN2列を用いている。このL字型の受信アレイを増やせば、2種別以上にも対応できる。送信については、開口共用でもよいが、実装を容易にするために分割する場合は、
図14に示すように、送信開口をF1送信(N1段毎送信)とF2帯送信(N2段毎送信)に分割すればよい。この構成において、送信出力、送信利得が不足する場合は、送信出力の増大、受信雑音指数の低減、開口面積の増加等で対応する。これらの配置により、同一開口面に複数の種別の仮想アレイを構成することができる。
【0065】
以上のように、第8の実施形態では、偏波、周波数、受信帯域等を変えたPセットのレーダ装置を、同一アンテナ開口面に共用配列する。すなわち、第4の実施形態と同様に、送信装置を加え、アンテナに平行に偏波、周波数等を変えたPセットのアンテナを付加することで、同一開口面に偏波または周波数共用のレーダ装置を構成することができる。
【0066】
(第9の実施形態)(パルス圧縮レーダ装置)
チャープ変調を行うパルス圧縮レーダ(非特許文献7)の場合に、素子信号の乗算を行い仮想アレイ信号を生成すると、位相回転が2倍になるため、周波数帯域が2倍に広がる。このため、チャープ帯域の逆数で決まるサンプリング速度でサンプリングすると、レンジ軸でグレーティングロ−ブが生じることになる。これを避けるためには、サンプリング速度を2倍にすればよいが、処理規模が増える。第9の実施形態は、その処理規模を削減する手法を提供する。
【0067】
図15は第9の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図15において、
図1に示した受信系統の構成と異なる点は、仮想アレイ素子生成器5の前に、帯域フィルタ14を配置し、ビーム形成器6の後段にパルス圧縮器15を配置したことにある。
【0068】
上記構成において、その処理の流れを
図16を参照して説明する。まず、受信アンテナ系で得られた
図16(a)に示す受信チャープ信号が帯域フィルタ14に入力されると、帯域フィルタ14では、FFT処理を行って
図16(b)に示す周波数軸の信号に変換し、チャープ帯域の下半分に帯域フィルタをかけて、
図16(c)に示す帯域の信号を取り出し、逆FFT処理することで時間軸の受信チャープ信号を抽出する。このように、素子信号毎に受信信号をFFT処理して周波数軸の信号に変換して、帯域フィルタをかけた後に、逆FFTして時間軸の信号に変換し、この信号を用いて、仮想アレイ素子生成を行う。また、パルス圧縮の際には、パルス圧縮のための参照信号についても、同じ周波数フィルタをかけた後に、2乗演算した参照信号を生成して、パルス圧縮処理を行う。
【0069】
以上のパルス圧縮の処理の流れを定式化する。まず、仮想アレイの各素子信号を代表してsig(t)(N×M素子の1素子)をFFTする。
【数12】
【0070】
このSin(ω)に対して、周波数フィルタをかけて、逆FFTする。
【数13】
【0071】
この信号を用いて、仮想アレイ素子生成(2乗演算)を実施する。
【0072】
次に参照信号(線形チャープ信号の場合)を表現すると、次式となる。
【数14】
【0073】
この参照信号としては、非線形チャープ信号、符号変調等、他の変調方式でもよい(非特許文献7)。この参照信号Sref(t)のサンプル長を入力信号に合わせて0埋めした信号に置き換える。
【数15】
【0074】
これをFFTして、参照信号の周波数軸の信号を得る。
【数16】
【0075】
このSref(ω)に対して、周波数フィルタをかけて、逆FFTする。
【数17】
【0076】
パルス圧縮で用いる参照信号は、この2乗であるため、次式となる。
【数18】
【0077】
この参照信号を用いて、仮想アレイ素子信号(素子信号の2乗演算後)によるビーム形成信号の周波数軸におけるパルス圧縮(非特許文献8)15を行うには、次式となる。
【数19】
【0078】
以上の説明では、送信信号のチャープ帯域が変化しない場合について述べたが、送信信号の帯域を変化させることができる場合には、必要なレンジ分解能に対するチャープ帯域の半分の帯域の信号を送信し、受信は上述の周波数フィルタをかけずに、サンプリング速度を送信帯域の2倍にして、パルス圧縮するようにしてもよい。この場合のパルス圧縮用の参照信号は、(18)式のように、2乗演算の結果を用いる。
【0079】
以上のように、第9の実施形態に係るレーダ装置では、パルス圧縮信号を用いる場合に、アレイアンテナの各受信素子信号(またはサブアレイ、以下同様)をFFT(高速フーリエ変換)して周波数軸に変換し、周波数フィルタをかけた後、逆FFTした時間軸の信号を用いて、素子間の乗算により仮想アレイ素子信号を生成する。すなわち、素子信号の乗算により仮想アレイ信号を生成すると、位相回転が倍になり、パルス圧縮信号の位相も倍に回転して帯域が2倍に広がる。そこで、本実施形態では、周波数フィルタで半分にした後に、乗算演算を行い、仮想アレイ素子信号を生成するるこれにより、レンジ軸のグレーティングローブを低減することができる。
【0080】
(第10の実施形態)(ドップラレーダ装置)
複数のPRIをもつ信号を送受信するドップラレーダの場合において、素子信号の乗算を行って仮想アレイ信号を生成すると、位相回転が2倍になってドップラ帯域が2倍に広がる。このため、ドップラアンビギュイティが生じることになる。LPRF(Low Pulse Repetition Frequency)の場合には、もともとドップラアンビギュイティがあるため、影響は無いが、ドップラアンビギュイティの無いHPRF(High PRF)の場合には、正しく速度を観測できないことになる。これを避けるためには、PRFを2倍にすればよいが、送信デューティが倍になる等の問題が生じる。そこで、第10の実施形態では、PRFは変えないで正しく速度を観測する手法を提供する。
【0081】
図17は第10の実施形態に係るレーダ装置の構成を示すブロック図である。
図17において、
図15の受信系統と異なる点は、仮想アレイ素子生成部5の前にドップラフィルタ16を配置し、パルス圧縮器15の後段にPRI軸FFT処理器17を配置したことにある。
【0082】
上記構成において、
図18を参照してその処理動作を説明する。本実施形態では、ドップラフィルタ16において、
図18(a)に示す素子信号毎にPRI軸についてFFT処理することでドップラ軸を求め、
図18(b)に示すように、処理するドップラ周波数以外を抑圧するようにフィルタをかけて
図18(c)に示す帯域の信号を抽出し、逆FFTして
図18(d)に示すPRI軸の信号に変換する。この信号を用いて、仮想アレイ素子生成を行えばよい。
【0083】
このドップラフィルタ16としては、もともとのPRF内の全ての観測をするには、PRFを低い周波数Lと高い周波数Hの2分割にして、各々のドップラ帯域毎に処理をする。この構成によれば、全PRFについてアンビギュイティの無い観測が可能となる。
【0084】
なお、
図17の系統では、第9の実施形態のパルス圧縮処理の後、PRI軸FFTをする場合について記述したが、線形演算であるため、順番を逆にしてもよい。また、パルス圧縮をしない場合には、パルス圧縮を除いてもよい。
【0085】
以上のように、第10の実施形態は、パルスドップラを用いるレーダ装置において、アレイアンテナの各受信素子信号(またはサブアレイ、以下同様)をPRI(Pulse Repetition Interval)軸FFT(高速フーリエ変換)してドップラ周波数軸に変換し、所定のドップラフィルタをかけた後、逆FFTした信号を用いて、素子間の乗算により仮想アレイ素子信号を生成し、必要に応じて、異なるドップラフィルタにおいて処理を繰り返す。すなわち、素子信号の乗算により仮想アレイ信号を生成すると、位相回転が倍になり、ドップラバンクの帯域が2倍に広がる。そこで、本実施形態では、ドップラフィルタで制限した後に、乗算演算を行い仮想アレイ素子信号を生成する。これにより、ドップラアンビギュイティを低減することができる。
【0086】
(第11の実施形態)(位置ベクトルの合成による間引きアレイ補間)
第1乃至第10の実施形態においては、主体となる受信素子信号の乗算を用いて位置ベクトルの合成位置に仮想アレイ素子信号を生成する手法を用いる場合について述べた。ここで、第11の実施形態では間引きアレイアンテナに適用する場合について述べる。
【0087】
第11の実施形態に係るレーダ装置において、
図19に2次元アレイに間引き処置を施した場合の素子配置例を示し、
図20に1次元アレイに間引き処置を施した場合の素子配置例を示している。間引きアレイアンテナの場合には、角度軸のサイドローブにグレーティングロ−ブが生じる。本実施形態では、この影響を抑圧するために、仮想アレイ素子信号を生成する手法を適用し、素子信号の乗算演算を行って、間引きした素子の位置に、素子位置ベクトルを加算した位置の仮想素子を生成する。これにより、間引きした素子の位置を補間することができ、角度軸のサイドローブを低減することができる。
【0088】
なお、この素子位置ベクトルの乗算に用いる素子信号は、もともとの間引きされたアレイの素子信号の中から選択してもよいし、他の受信アレイ素子信号を用いてもよい。
【0089】
以上のように、第11の実施形態は、アレイアンテナにおいて、素子(またはサブアレイ、以下同様)の間引きを行う場合に、アレイアンテナの素子信号を用いて、各素子信号を乗算し、乗算素子の位相中心からの位置ベクトルの合成位置にある仮想アレイ素子信号を生成することにより、間引きした素子の補間を行う。すなわち、間引きアレイアンテナの場合に、素子信号の乗算演算を行って素子位置ベクトルを加算した位置の素子を生成する。これにより、間引きの影響を軽減して角度軸のサイドローブを低減することができる。
【0090】
(第12の実施形態)(位置ベクトルの合成による間引きアレイ補間+フィルタ)
第11の実施形態においては、間引きアレイアンテナに適用する場合について述べた。第12の実施形態では、パルス圧縮やドップラ処理を用いる間引きアレイのレーダ装置に適用する手法について述べる。
【0091】
図21に第12の実施形態に係るレーダ装置の構成を示す。間引きアレイの場合に、間引きを補間するための仮想アレイ素子信号と実アレイ素子信号が混在する場合には、両者において、別処理が必要となる。仮想アレイ素子信号(#A1〜#AM)では、第9の実施形態や第10の実施形態で述べたように、素子信号の2乗演算のために位相回転が2倍になるため、パルス圧縮やドップラ処理を行うレーダの場合には、仮想アレイ素子信号を生成する前に、第9の実施形態の周波数フィルタ14や第10の実施形態のドップラフィルタ16を適用する。すなわち、仮想アレイ系は、帯域フィルタ14、ドップラフィルタ16、仮想アレイ素子生成器5、ビーム形成器6及びパルス圧縮器15で構成される。
【0092】
一方、実アレイ素子信号(#AM+1〜#AN)では、単独の場合はドップラフィルタは不要であるが、仮想アレイ素子信号を処理するドップラ領域を合わせるために、ドップラフィルタ18を適用する。すなわち、実アレイ系は、ドップラフィルタ16’、ビーム形成器6’及びパルス圧縮器15’で構成される。
【0093】
仮想アレイ素子信号と実アレイ素子信号では、各々部分アレイによるビーム形成した後に、仮想アレイ素子信号は第9の実施形態の(18)式の参照信号によりパルス圧縮し、実アレイ素子信号では(17)式の参照信号によりパルス圧縮し、部分アレイによるビーム出力を更にビーム形成器18でビーム合成する。ドップラレーダの場合はPRI軸でFFTしてマルチビーム出力を得る。PRF(Pulse Repetition Frequency)信号全体に渡る処理をするためには、例えば、PRF内をF1とF2に2分割して、1回目は周波数フィルタ14でF1を抽出した処理し、2回目に周波数フィルタ14でF2を抽出して処理すればよい。
【0094】
なお、間引きアレイの場合で、全素子に対して2乗処理をして仮想アレイ素子信号とする場合には、別処理は必要なく、
図21の仮想アレイ素子に対する処理のみでよいのは言うまでもない。
【0095】
以上のように、第12の実施形態は、パルス圧縮信号またはパルスドップラの少なくともいずれか一方を用いるレーダ装置において、アレイアンテナの素子(またはサブアレイ、以下同様)の間引きを行う場合に、アレイアンテナの素子信号を用いて、各素子信号を乗算し、乗算素子の位相中心からの位置ベクトルの合成位置にある仮想アレイ素子信号を生成することにより、間引きした素子の補間を行う。仮想アレイ素子信号においては、仮想アレイ素子信号生成の前に、第9の実施形態の周波数フィルタまたは第10の実施形態のドップラフィルタを適用し、仮想アレイ素子信号以外(実アレイ素子信号)では、第10の実施形態のドップラフィルタを適用し、仮想アレイ素子信号と実アレイ素子信号で各々ビーム形成した後、必要に応じてパルス圧縮し、更に仮想アレイビームと実アレイビームを合成して全アレイのビーム信号を得る。
【0096】
すなわち、間引きアレイアンテナの場合に、素子信号の乗算演算を行って素子位置ベクトルを加算した位置の素子を生成する。したがって、パルス圧縮やドップラレーダの場合でも、間引きの影響を軽減して角度軸のサイドローブを低減することができる。
【0097】
上述したように本実施形態によれば、異なる2軸のリニアアレイにより、仮想的な平面アレイを生成して、アンテナ配列の間引きや、周波数/偏波共用アンテナを組み合わせることにより、低コストなアンテナ装置を提供することができる。さらに、送信装置と組み合わせることで、低コストなレーダ装置を提供することができる。
【0098】
その他、本実施形態は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。