(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6509828
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】低放射率を有するフレキシブルプリント回路
(51)【国際特許分類】
H05K 1/02 20060101AFI20190422BHJP
G01J 1/02 20060101ALI20190422BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20190422BHJP
G01J 5/06 20060101ALN20190422BHJP
【FI】
H05K1/02 F
G01J1/02 C
H05K3/28 C
!G01J5/06
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-520026(P2016-520026)
(86)(22)【出願日】2014年9月29日
(65)【公表番号】特表2016-541107(P2016-541107A)
(43)【公表日】2016年12月28日
(86)【国際出願番号】FR2014052448
(87)【国際公開番号】WO2015049448
(87)【国際公開日】20150409
【審査請求日】2017年7月7日
(31)【優先権主張番号】13/02295
(32)【優先日】2013年10月2日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512056094
【氏名又は名称】ソシエテ、フランセーズ、ド、デテクトゥル、ザンフラルージュ、ソフラディル
【氏名又は名称原語表記】SOCIETE FRANCAISE DE DETECTEURS INFRAROUGES SOFRADIR
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】ダビド、ロベール
(72)【発明者】
【氏名】イブ、ロワイエ
【審査官】
原田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−266846(JP,A)
【文献】
特開平10−148578(JP,A)
【文献】
特開平08−240480(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 3/28
G01J 1/02
G01J 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の端(48a、48b)と、
前記第1及び第2の端との間に延在し、導電性トラック(52)を備えるフレキシブル中央部(50)であって、前記導電性トラック(52)はポリマー材料で被覆され、前記第1及び第2の端を電気的に接続する、フレキシブル中央部(50)と、を備え、
前記フレキシブル中央部は、前記ポリマー材料及び前記導電性トラックの放射率よりも小さい放射率を有する材料からなる熱シールド(54)で、少なくとも部分的に被覆され、
前記熱シールド(54)は、50から200nmの範囲の厚さを有し、
前記熱シールド(54)の材料は導電性であることを特徴とするフレキシブルプリント回路。
【請求項2】
前記熱シールド(54)の材料は、0.05よりも小さな放射率を有する、請求項1に記載のフレキシブルプリント回路。
【請求項3】
前記フレキシブル中央部(50)は、各々が熱シールド(54a、54b)で被覆された2つの主要な表面(50a、50b)を備える、請求項1又は2に記載のフレキシブルプリント回路。
【請求項4】
前記熱シールド(54)の材料は、金、銀、銅、及びタングステンの中から選択される、請求項1から3のいずれかに記載のフレキシブルプリント回路。
【請求項5】
前記導電性トラック(52)の1つと前記熱シールド(54)との間に電気相互接続ビア(56)を備える、請求項1から4のいずれかに記載のフレキシブルプリント回路。
【請求項6】
高温源、低温源、及び請求項1から5いずれかに記載のフレキシブルプリント回路を備える赤外線検出器であって、
前記第1の端は前記低温源に熱的に接続され、前記第2の端は前記高温源に熱的に接続され、前記フレキシブル中央部に温度勾配をもたらす、赤外線検出器。
【請求項7】
前記フレキシブルプリント回路は、真空クライオスタット容器の中に配置される、請求項6に記載の赤外線検出器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、低放射率を有するフレキシブルプリント回路及び、その冷却型赤外線検出器における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線光検出器は赤外線光子を吸収し、それらを電気信号に変換する。それは通常、フォトダイオード、量子井戸、あるいは量子ドットのような感光性素子の配列を含む。感光性素子を形成する検出材料は、例えば、テルリウム、水銀、及びカドミウムの合金(HgCgTe)である。
【0003】
赤外線(0.7μmから14μmで推移する波長)においては、周囲温度で後述の動作を行う際に、検出対象となる光子は、検出材料の温度雑音に相当するエネルギーを有する。従って、検出器はそれ自体を惑わせないように、50K から200Kの範囲の温度に冷却される。検出ブロックは、使用温度に応じて、液体窒素、液体ヘリウム、あるいは冷却装置を含むクライオスタット(cryostat)に熱的に結合されている。
【0004】
図1は、検出ブロック10とクライオスタット20を備える赤外線検出器の従来例を概略的に示している。
【0005】
赤外線検出器は、フォトダイオードの配列を含むHgCgTe基板で形成される検出回路12を備える。検出回路12は、シリコン基板で形成される読出回路14に結合されている。回路14は、検出回路のフォトダイオードによって生成された信号の読出及び増幅を可能としている。
【0006】
検出回路12は、一般的に読出回路14上にハイブリッド形成され、一体的な組立品を形成し、これら二つの回路間の電気的な接続を容易にしている。これを向上するため、検出回路12の前面は、インジウムのミクロスフェア(microspheres)16によって、読出回路14の前面に接続されている。赤外線は、
図1において矢印18で表されており、検出回路12の背面からフォトダイオードに達している。
【0007】
検出ブロック10は、回路12、14及びミクロスフェア16で形成され、クライオスタット20に設置されている。後者は、タイトパッケージ(tight package)22、低温源24、及び低温源と検出ブロックとの間の熱交換を可能とする低温フィンガ(cold finger)26を備えている。
【0008】
パッケージ22は、その内部に設置された検出ブロック10を有するタイトボリューム(tight volume)を規定する。赤外線18を透過する窓22’が設けられており、検出回路12の上方に、かつ、それに対して平行に設置されている。
【0009】
低温フィンガ26は、その下部端で低温源24に熱的に接触している。その上部端では、低温フィンガ26に対して垂直に配置された低温面28あるいは低温テーブルに到達している。この低温面は、検出ブロック10にとって機械的な支持として用いられている。低温面は、例えばアルミナのような、良好な熱導体である材料で作られている。
【0010】
従って、検出ブロック10は、低温フィンガ26及び低温面28を介して低温源24に熱的に接続されている。
【0011】
検出器には、さらに冷却シールド30が設けられており、冷却シールド30は、開口30’によって貫通されており、ダイアフラムとして振る舞う。開口30’は、入射した赤外線18を検出回路12が観測する角度を決定する。冷却シールド30は、クライオスタットの高温壁で発生する寄生放射(parasitic radiation)や、有用な放射18の望ましくない反射を吸収する。冷却シールドは、機械的及び熱的な振る舞いの意味で低温面28が該当する。
【0012】
いわゆる近接電子基板(proximity electronic board)40が、クライオスタット20の外部に配置されている。この基板は、検出回路12の駆動に必要となる信号を生成し、アナログ−デジタル変換器によって検出器で発生した信号をデジタル化する。
【0013】
読出回路14と近接基板40との間の電気的接続は、読出回路上の接触パッド42、はんだ線44、次いでアルミナからなる低温テーブル28内の金属トラック、そして最終的にフレキシブルプリント回路46によって実現される。フレキシブルプリント回路46は、一方では、第1の電気コネクタ48aによって低温テーブル28に固定され、他方では、第2の電気コネクタ48bによって、パッケージ22の壁に、及び電子基板40に固定されている。
【0014】
赤外線検出器の温度は、その性能、特に暗電流に直接的な影響を及ぼす。高い検出性能には、焦点面の温度、すなわち、検出回路の温度が一定に保たれなければならい。
【0015】
熱損失を限定するために、パッケージ22によって境界を定められたクライオスタット容器内に真空が生成される。これにより、検出回路に対するクライオスタットの高温部分からの対流による熱交換が存在しなくなる。
【0016】
しかしながら、
図1の検出器においては、伝導及び放射による熱交換を制限することは提供されていない。このような熱の流れは、検出器の性能及びクライオスタットの効率に悪影響を及ぼす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
赤外線検出器における熱損失を制限し、その冷却を最適化する要求が知られている。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この要求は、減少された放射率を有するフレキシブルプリント回路を赤外線検出器に提供することによって充足される傾向にある。このようなプリント回路は、第1及び第2の端と、この第1及び第2の端間に延在するフレキシブル中央部を備える。中央部は、ポリマー材料で被覆された導電性トラックを備え、第1及び第2の端を電気的に接続する。さらに、ポリマー材料及び導電性トラックよりも低い放射率を有する材料からなる熱シールドで少なくとも部分的に被覆されさている。
【0019】
好適な実施形態では、熱絶縁層の材料は導電体である。以下の金属、すなわち、金、銀、銅、及びタングステンの中から、有利に選択される。
【0020】
本発明は、さらに、このようなフレキシブルプリント回路を備える赤外線検出器を目指す。フレキシブルプリント回路の第1の端は検出器の低温源に熱的に接続されており、第2の端は高温源に熱的に接続されている。これにより、フレキシブル中央部における熱勾配が生じる。
【0021】
さらなる特徴及び利点は、以下に示す添付の図面に対応する特定の実施形態の非限定的な記述によって、より明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、上述した先行技術による赤外線検出器を示す。
【
図2】
図2は、本発明に係る熱絶縁層が設けられたフレキシブルプリント回路の概略的な上面図である。
【
図3】
図3は、
図2におけるフレキシブルプリント回路のA−A軸に沿った断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1のフレキシブルプリント回路46は、現在、フレキシブルプリント回路基板(flex−PCB)と呼ばれており、主に、一般的にはポリイミドといった、ポリマー材料のフィルムで形成されている。フレキシブルプリント回路46は、ポリイミドフィルムの中に埋め込まれた金属トラックを備える。このような金属トラックは、フレキシブルプリント回路の端に設けられた2つのコネクタを電気的に接続する。
【0024】
プリント回路は、その一端が低温テーブル(クライオスタットの内部)に取り付けられ、他端が(外部と熱交換する)クライオスタット壁に取り付けられているので、温度差を受ける。さらに、回路トラックを形成する金属(アルミニウム、銅)は、一般的に良好な熱導体である。従って、金属トラックは、一方の電気コネクタから他方の電気コネクタに対して、特に、クライオスタット壁から検出器の低温テーブルに対して熱を伝導する。しかしながら、このような伝導性の熱移動は、熱損失のわずかな部分にしか達しない。
【0025】
熱損失の主要な部分は、フレキシブルプリント回路の放射現象によって引き起こされる。実際、フレキシブルプリント回路の表面は、他の全ての物体のように、どのような温度であっても電磁放射を発する。このような電磁放射は、回路が高温であるほど、より強いものとなる。これは、熱放射とも呼ばれている。
【0026】
温度に加えて、フレキシブルプリント回路によって放射される電力は、その表面を形成する材料の放射率に依存する。εで表される材料の放射率は、表面によって受け取られた入射フローのエネルギーに対する、表面から放射されたエネルギーの比率として定義される。従って、材料の放射率が高いほど、放射エネルギーは顕著となる。
【0027】
従来のポリイミドに基づくフレックス回路の場合、放射率係数は高く、およそ0.7に等しい。従って、クライオスタット内部のフレックス回路によって放射された熱は著しい。
【0028】
このような放射性の熱損失を解消するため、ポリイミド及び金属トラックよりも低い放射率を有する材料で形成された熱絶縁層、あるいは熱シールドでフレキシブルプリント回路の一部を少なくとも部分的に被覆することが提供される。これにより、熱シールドを備えない従来のフレックス回路と比較して、クライオスタット容器内のフレックス回路によって放射される熱エネルギーが減少される。
【0029】
図2及び3は、それぞれ、低い放射率を有するフレキシブルプリント回路46’の上面及び横断面図を示す。
【0030】
細長い形状のプリント回路46’は、プリント回路の両端に位置する2つの電気コネクタ48a及び48bと、フレキシブル中央部50とを備え、フレキシブル中央部50は、例えば、2つのコネクタ48aと48bとの間に延在する長方形である。「フレキシブル中央部」とは、20mmより小さい曲率の半径で曲げることが可能な1つ又は複数の積層された材料を示す。
【0031】
プリント回路46’は、少なくともその中央部50内に、例えばポリイミドといったポリマーフィルム51、及びポリマー材料で被覆された金属電気トラック52を備える。トラック52は、2つのコネクタコネクタ48a及び48bを電気的に接続する。
【0032】
電気コネクタ48a及び48bは、剛性でもよいし、ポリマーフィルム51のようにフレキシブルでもよい。電気コネクタ48a及び48bは、検出器の部材の上に組み立てられるための機械的な固定部材をさらに備えてもよい。くさび又は補強材のような目的で金属部品が提供されてもよい。
【0033】
一例として、
図2及び
図3のコネクタ48bは、プリント回路の中に形成された穴のアセンブリを備え、当該穴はポリマーフィルム51に形成された穴に重ね合わさる。コネクタ48aは、よりシンプルにボンディングパッドを備える。
【0034】
プリント回路46’は、少なくとも中央部50の一部を被覆する熱シールド54も備えている。シールド54は、ポリマー及び電気トラック52よりも低い放射率係数を有する材料で作られている。好ましくは、シールド54の放射率係数は、0.05以下である。
【0035】
図2及び
図3の好ましい実施形態では、フレキシブル中央部50は、2つの主要な表面50a及び50bを備え、より有利には表面50a及び50bは平行である(
図3)。熱シールド54は、これらの面の少なくとも一方を被覆する。好ましくは、表面50a及び50bの各々は、それぞれ熱絶縁層54a及び54bで完全に被覆される。
【0036】
シールド54の(あるいは、シールド54a及び54bの)材料は、好ましくは導電性である。この材料は、有利には、最小放射率の材料である、金、銀、銅、及びタングステン(放射率はそれぞれ、0.018から0.035の間、0.02から0.032の間、0.03から0.04の間)から選択される。
【0037】
金のような低放射率の金属のフレックス回路上への堆積は、金属は熱伝導が良いため、現在まで想定されていない。金属層の堆積は、伝導性の熱流を増加させる結果となり、これを回避することが望まれている。しかしながら、放射の減少は、伝導現象の増加よりもさらに顕著になることが観察されている。従って、一般的に熱損失は減少する。
【0038】
従って、困難にかかわらず、熱伝導は熱放射と比較して軽微な現象であるため、フレキシブルプリント回路上に、厚さが小さく且つ放射率が低い金属層を堆積することにより、赤外線検出器における熱損失を減少させることが可能である。
【0039】
伝導熱移動は、熱シールド54の厚さに伴って増加する。
図2及び3のプリント回路では、シールド54の厚さは50nmから200nmの間で有利に選択される。このような厚さの範囲は、伝導と放射現象との間の良好なトレードオフを得ることを可能にする。
【0040】
さらに、熱シールドとしての導電性材料の利用は、検出器が設置された環境による電磁ノイズを減少することを可能にする。
【0041】
一例として、冷却された赤外線検出器が、地上又は空間の観測のために、人工衛星で現在使用されている。そのとき、これら赤外線検出器は、検出器の部品内で電荷を発生する、太陽放射を含む顕著な電磁ノイズにさらされる。導電性シールド54は、このような電荷を取り除くことを可能とし、したがって、赤外線検出への電荷の影響を減少させる。これを達成するため、金属シールド54と、電流を運ぶ金属トラック52の1つとの間に少なくとも1つの相互接続ビア56を、
図2及び3のフレキシブルプリント回路に提供してもよい。
【0042】
フレキシブルプリント回路46’は、先行技術のフレキシブルプリント回路のように容易に製造でき、使用できる。実際、その形成には、PCB回路産業における標準的な方法が要求されるだけである。
【0043】
シールド54は、好ましくは、フレキシブルプリント回路上に低放射率の金属を、例えば真空スパッタリングによって堆積することで形成される。変形例として、シールド54は、単層の絶縁体、SLI、又は複数のSLI(複層絶縁体(multiple layer insulation)、MLI)のスタックで形成されてもよい。この場合、シールド54は、例えば、接着剤によって、プリント回路のポリマー表面に接着されている。
【0044】
フレキシブルプリント回路46’は、特に、検出器の検出回路とクライオスタット壁との間で、冷却された赤外線検出器のクライオスタットに統合されることが意図されている。クライオスタットの外壁は、近接基板を支持してもよい。検出器に向けられた信号及び検出器で生成された信号は、検出回路と近接基板との間で、フレキシブルプリント回路の電気トラックを通過する。
【0045】
この好適な低放射率フレックス回路の実施例では、コネクタ48aは低温テーブル又は赤外線検出器の読出回路に電気的及び機械的に接続されている。従って、プリント回路の一端は検出器の低温源に熱的に接続されている。低温源は、使用温度に応じて、液体窒素、液体ヘリウム、又は液体空気タンクである。低温源は、例えば、パルスガスチューブ(pulsed gas tube)のような冷凍機でもよい。従来、検出回路を支持している低温テーブルは、低温フィンガを介して低温源に熱的に接続されている。好ましくは、低温源の温度は約50Kである。
【0046】
コネクタ48bを支持する反対の端は、高温源、すなわち、いずれも周囲温度であるクライオスタットの外壁や近接基板に熱的に接続されている。この周囲温度は、検出回路の名目動作温度よりずっと高温である。この周囲温度は、例えば、300Kに等しい。
【0047】
最後に、対流性の熱移動を解消するために、真空がクライオスタット内に生成される。