特許第6509830号(P6509830)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6509830アルミニウム‐マグネシウム合金製の自動車車両用装飾品のリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6509830
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】アルミニウム‐マグネシウム合金製の自動車車両用装飾品のリング
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/047 20060101AFI20190422BHJP
   C22C 21/06 20060101ALI20190422BHJP
   B60R 13/04 20060101ALI20190422BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20190422BHJP
   C25D 11/16 20060101ALI20190422BHJP
   C25D 11/18 20060101ALI20190422BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20190422BHJP
【FI】
   C22F1/047
   C22C21/06
   B60R13/04 Z
   C25D11/04 304
   C25D11/16 301
   C25D11/18 301B
   C25D11/18 301C
   !C22F1/00 613
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686A
   !C22F1/00 681
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
   !C22F1/00 673
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-520756(P2016-520756)
(86)(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公表番号】特表2016-529387(P2016-529387A)
(43)【公表日】2016年9月23日
(86)【国際出願番号】IB2014001583
(87)【国際公開番号】WO2014203077
(87)【国際公開日】20141224
【審査請求日】2017年4月24日
(31)【優先権主張番号】13/01401
(32)【優先日】2013年6月17日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516265609
【氏名又は名称】コンステリウム ロールド プロダクツ シンゲン ゲーエムベーハー アンド シーオー.カーゲー
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM ROLLED PRODUCTS SINGEN GmbH & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】クラ,マリ−アンヌ
(72)【発明者】
【氏名】アフセス,アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ギリシュ,ヴォルクマール
【審査官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第01873278(EP,A1)
【文献】 国際公開第2009/068168(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/00 − 3/02
C22C 21/06
B60R 13/04
C25D 11/04
C25D 11/16
C25D 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートメタルまたはストリップの成形および艶出しによる、アルミニウム合金製の自動車車両の外側の装飾品のリングの製造方法であって、シートメタルまたはストリップは下記の連続段階:
a)高純度、すなわち、Mg≦1.1、Cu≦0.10、他の元素≦0.30、残りはアルミニウムからなる組成(重量%)のAA5000系合金製プレートのダイレクトチル(DC)鋳造
b)少なくとも1時間の間、温度480〜530℃でのプレートの加熱
c)熱間圧延および冷却
d)通過連続炉での中間焼きなましを含む冷間圧延、すなわち、3秒から5分の間、合金のソルバス温度および初期溶融温度間に維持、次に、空気中または水中での焼き入れ、
によって作製される方法。
【請求項2】
d)段階の後および成形前に、170℃での3〜15時間に等価な時間t(eq)の100〜200℃の温度での最終焼きなましを含み、
【数1】
であって、eq(ケルビン)は温度であり、t(eq)(時間)は焼きなまし時間であり、Trefは443Kの基準温度、すなわち170℃、および、trefは3〜15時間の範囲の基準時間であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プレートの組成はAA5657型で、すなわち(重量%)、
Si:≦0.08、Fe:≦0.10、Cu:≦0.10、Mn:≦0.03、Mg:0.6〜1.0、Zn:≦0.05、Ti:≦0.020、他の元素は各々<0.05、および、他の元素は合計で<0.15、残りはアルミニウムであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
プレートの組成はAA5205型で、すなわち(重量%)、
Si:≦0.15、Fe:≦0.7、Cu:0.03〜0.10、Mn:≦0.10、Mg:0.6〜1.0、Zn:≦0.05、Ti:≦0.05、他の元素は各々<0.05、および、他の元素は合計で<0.15、残りはアルミニウムであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
プレートは高純度AA5000系合金製で、その組成(重量%)は、Mg:≦1.1、他の元素は≦0.10、残りはアルミニウムであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
プレートの組成はAA5505型で、すなわち(重量%)、
Si:≦0.06、Fe:≦0.04、Cu:≦0.01、Mn:≦0.03、Mg:0.8〜1.1、Zn:≦0.03、Ti:≦0.010、他の元素は各々<0.05、および、他の元素は合計で<0.10、残りはアルミニウムであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
プレートの組成はAA5210型で、すなわち(重量%)、
Si:≦0.06、Fe:≦0.04、Cu:≦0.01、Mn:≦0.03、Mg:0.35〜0.60、Zn:≦0.03、Ti:≦0.020、他の元素は各々<0.05、および、他の元素は合計で<0.10、残りはアルミニウムであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
中間焼きなましの維持期間は、5秒から2分の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
中間焼きなまし温度は、450〜550℃の範囲にあることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
ウィンドウフレーム、車体の側方トリムストリップまたは後部ドアの装飾品のトリムストリップ、ラジエータグリルの装飾品およびバンパリングを含むグループから選択され、
Mg≦1.1、Cu≦0.10、他の元素≦0.30、残りはアルミニウムからなる組成(重量%)のAA5000系合金製であり、
従来の脱脂、25VのDC電圧下で、75℃でのホスホ‐硫酸媒体での電子艶出し、すすぎ、50℃でのアルカリ性エッチング、室温でのスマット除去、すすぎ、21℃での直流下の硫酸媒体での陽極酸化、ニッケルでの冷却、つぎに熱湯の、二段階での封孔段階を含むシートメタルまたはストリップの艶出し後、
続いて、当業者には「カーウォッシュテスト」の名称で公知のテスト、すなわち、pH1の溶液での10分の酸性エッチング、すすぎ、1時間40℃に維持することによる乾燥、pH11〜14のアルカリ性溶液中への10分間の浸漬の維持、すすぎ、乾燥および磨き布での拭きが続き、
艶の損失が視覚的に全く確かめられないことを、
特徴とする、自動車車両の外側の装飾品のリング。
【請求項11】
ウィンドウフレーム、車体の側方トリムストリップまたは後部ドアの装飾品のトリムストリップ、ラジエータグリルの装飾品およびバンパリングを含むグループから選択され、
Mg≦1.1、Cu≦0.10、他の元素≦0.30、残りはアルミニウムからなる組成(重量%)のAA5000系合金製であり、
従来の脱脂、25VのDC電圧下で、75℃でのホスホ‐硫酸媒体での電子艶出し、すすぎ、50℃でのアルカリ性エッチング、室温でのスマット除去、すすぎ、21℃での直流下の硫酸媒体での陽極酸化、ニッケルでの冷却、つぎに熱湯の、二段階での封孔段階を含むシートメタルまたはストリップの艶出し後、
続いて、当業者には「カーウォッシュテスト」の名称で公知のテスト、すなわち、pH1の溶液での10分の酸性エッチング、すすぎ、1時間40℃に維持することによる乾燥、pH11〜14のアルカリ性溶液中への10分間の浸漬の維持、すすぎ、乾燥および磨き布での拭きが続き、
前記シートメタルまたはストリップから裁断したサンプルについて測定した重量損失が浸漬表面の40mg/dm2を越えないことを、
特徴とする、自動車車両の外側の装飾品のリング。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、ウィンドウフレーム、カーボディまたはドアの側方トリムストリップ、後部ドアの装飾品のトリムストリップ、ラジエータグリルの装飾品およびバンパリングなどの、主にカーボディの外側で使用されるアルミニウム合金製自動車車両用トリムストリップまたは装飾品のリングの分野に関するものである。
【0002】
本発明は、さらに詳細には、この種の用途に特に適し、成形および艶出し後、特に自動洗車場の洗浄液製品を構成する、特にアルカリ性がますます強くなる溶液による腐食に優れた耐性を示す組成および熱処理のAA5000系アルミニウム合金製シートメタルに関するものである。
【背景技術】
【0003】
アルミニウム合金は、自動車産業での艶のある装飾部品の製造に、鋼鉄およびプラスチック材料と競合して、広く使用される。
【0004】
それは、特に、ウィンドウフレーム、カーボディまたはドアの側方トリムストリップ、後部ドアの装飾品のトリムストリップ、ラジエータグリルの装飾品およびバンパリングなどの、カーボディの外側のトリムストリップまたは装飾品のリングの場合である。
【0005】
以下に続く説明で扱うアルミニウム合金は全て、特に異なる記載がなければ、「Aluminum Association」によって、定期的に出版される「Registration Record Series」で定義される名称に従って示されている。
【0006】
今日では、二つのタイプの製品、すなわち、陽極酸化/艶出し処理前の押出成形形鋼および成形シートメタルが市場を二分している。
【0007】
押出成形形鋼には、主に、AA6000系、および、特にAA6401型のいわゆる高純度合金が使用される。成形シートメタルとしては、北アメリカでは、AA3000および8000型合金が優勢であるが、ヨーロッパでは、むしろAA5000系高純度合金が使用される。
【0008】
しかしながら、これらの後者から作製されたシートメタルは、特に強アルカリ溶媒体における腐食耐性に関して、AA6000系の形鋼から作製された製品より性能が劣ると、自動車製造者に判断されている。
【0009】
実際、この種のブライトシートメタルの仕様書の主要なパラメータの中で、特定の機械抵抗、良好な成形性、および、特に艶出しと陽極酸化への良好な適合性並びにこのようにして得られた外観の車両寿命全体にわたる劣化のない維持が挙げられる。
【0010】
この最後のパラメータは、特に、アルカリ性をますます高める溶液へ向かう、すなわち、最終的な陽極層のpHの安定性を越えて、結局致命的欠陥となる艶の損失をもたらし得る、自動洗車場の洗浄製品の最近の進化とともに拘束性のあるものとなった。
【0011】
したがって、認定試験は、自動車製造者によって各製品(合金、加工様式、表面処理)を区別するために、発展した。
【0012】
最も普及したのは、「カーウォッシュテスト」の名称で公知であり、最終製品のサンプルを極めてアルカリ性の、すなわち、pH11〜14の溶液に10分間部分的に浸漬し、次にエッチング製品の洗浄後、艶の損失があるかどうかを視覚的に測定するものである。
【0013】
正確な実験手順は、後の「課題を解決するための手段」の章に記載される。最近最も使用されているアルカリ性水溶液は、12.5g/lのNaOH、4.64g/lのNa3PO4‐12H2Oおよび0.33g/lのNaClからなる。「実施例」の章で報告した試験の際測定したそのpHは13.5であった。
【0014】
補足として、および、結果を定量化するために、作業中にサンプルの重量損失を測定してよい。
【0015】
この主題についての主要な研究は、実質的に、極めてアグレッシブなこれらの溶液に対する陽極層の耐性を大きくすることを目的とした艶出し表面処理および、とりわけ、最終的な陽極酸化処理の条件に集中している。それは、特に「アルカリ性クリーナーによる陽極酸化アルミニウムの腐食:原因と処理」Plat.Surf.Finish、74(2)、1987、p.73〜76に報告されたL.E.CohenおよびJ.A.Hookの研究の場合である。
【0016】
封孔段階中のケイ酸塩または遷移金属塩の添加の有効性は、「アルカリ性媒体に耐性のある封孔」アルミニウム合金の表面処理についてのシンポジウム、CETIM/CERTEC、2008で特にS.Jolivetによって実証された。それは、また、Henkel KGAAによって2006年に出願された欧州特許出願公開第1873278号明細書「シールド陽極酸化アルミニウムのケイ酸塩処理」の対象となる。
【0017】
他の研究は、特に、R.Steins等によって「高性能陽極酸化層」European Aluminium Congress、2009で報告されたもののように、酸化層の形状の影響を対象とする。
【0018】
さらに、最新の解決方法は、陽極層でのシラン塩基を有するゾル‐ゲル層の活用に関するものであり、それは最終製品の耐性を大幅に増大させる。それらの解決方法は、特にErbsloh AGによって2008年に出願された国際公開第2009/068168号「極めて高い耐食性を有するアルミニウム合金製のコンポーネントおよびその製造方法」の対象となる。
【0019】
実際、前記のように、AA5000系およびAA6000系の合金間に差異は観察されていたが、基板の冶金学的影響に関する研究はほとんどない。今日ヨーロッパで使用される合金は、一般的に、AA5000系のシートメタルにはAA5657さらにAA5005またはAA5210型、および、AA6000系の形鋼にはAA6401型の合金などの極めて純粋なベース(Al99.9MgまたはAl99.7MgおよびAl99.9MgSi)に由来する。
【0020】
圧延またはシートメタル製品は、一般的に、「H2x」の名称で公知の焼きなまし状態に置かれ、それによって、製品に最小限の機械抵抗、しかしながら、艶出しおよび陽極酸化段階に続く成形段階に十分な成形性を保証する。
【0021】
糸状の製品は、一般的に、最終製品の形状に近い形状で、冶金状態T4(溶体化処理され、焼き入れされる)またはT6(溶体化処理され、焼き入れされ、および、時効処理される)に置かれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は、特定の条件下で作製され、変形され、最終製品を作製するために使用されるシートメタルまたはストリップの十分な機械抵抗および十分な成形性を保持しながら、アルカリ性の強い、すなわち、pH値が11〜14の溶液と接触したときのその艶の維持に関して、AA6000系の糸状/押出成形製品の性能と同様な性能に達することができるAA5000系の圧延製品を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は、下記の連続段階によって作製されるシートメタルまたはストリップの成形および艶出しによる、特にアルミニウム合金製のウィンドウフレームまたはカーボディトリムのような自動車車両の外側の装飾品のリングの製造方法である。
【0024】
高純度、すなわち、Mg≦1.1、Cu≦0.10、他の元素≦0.30、残りアルミニウムのような組成(重量%)のAA5000系合金製プレートのダイレクトチル(DC)鋳造。
【0025】
少なくとも1時間の間、480〜530℃の温度でプレートを加熱し、通常厚さ5〜30mmまで熱間圧延し、冷却し、次に、通過連続炉での中間焼きなましを含む冷間圧延、すなわち、通常3秒から5分の間、合金のソルバス温度および初期溶融温度間での維持、次に、圧下率15〜70%で厚さ0.4〜1.5mmまでの最終冷間圧延前の空気中または水中での焼入れ。
【0026】
シートメタルまたはストリップの後の成形を容易にするために、170℃での3〜15時間に等しい期間の間100〜200℃の温度での焼きなましが実施されてよい。
【0027】
好ましい一実施態様によると、プレートの組成はAA5657型で、すなわち(重量%)、
Si:≦0.08、Fe:≦0.10、Cu:≦0.10、Mn:≦0.03、Mg:0.6〜1.0、Zn:≦0.05、Ti:≦0.020、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.15、残りはアルミニウムである。
【0028】
本発明の別の一変形態様によると、プレートの組成はAA5205型で、すなわち(重量%)、
Si:≦0.15、Fe:≦0.7、Cu:0.03〜0.10、Mn:≦0.10、Mg:0.6〜1.0、Zn:≦0.05、Ti:≦0.05、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.15、残りはアルミニウムである。
【0029】
また別の一実施態様によると、プレートは高純度AA5000系合金製で、その組成(重量%)は、Mg:≦1.1、他の元素は≦0.10、残りはアルミニウムである。
【0030】
この実施態様によると、プレートの組成はAA5505型、すなわち(重量%)、
Si:≦0.06、Fe:≦0.04、Cu:≦0.01、Mn:≦0.03、Mg:0.8〜1.1、Zn:≦0.03、Ti:≦0.010、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.10、残りはアルミニウムとなりうる。
【0031】
更にこの実施態様によると、プレートの組成は同様にAA5210型、すなわち(重量%)、
Si:≦0.06、Fe:≦0.04、Cu:≦0.01、Mn:≦0.03、Mg:0.35〜0.60、Zn:≦0.03、Ti:≦0.020、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.10、残りはアルミニウムとなりうる。
【0032】
中間焼きなまし、すなわち、合金のソルバス温度および初期溶融温度間での維持期間は好ましくは5秒から2分の範囲にあり、好ましい一実施態様によると、中間焼きなまし温度は450〜550℃の範囲にある。
【0033】
本発明は、また、前記のような方法によって製造され、ウィンドウフレーム、カーボディの側方トリムストリップまたは後部ドアの装飾品のトリムストリップ、ラジエータグリルの装飾品およびバンパリングを含むグループから選択される装飾品のリングを含む。
【0034】
本発明は、また、前記の一つまたは複数の実施態様による方法によって製造される装飾品のリングであって:
従来の脱脂、通常25VのDC電圧下で、75℃でのホスホ‐硫酸媒体での電子艶出し、すすぎ、通常50℃でのアルカリ性エッチング、室温でのスマット除去、すすぎ、通常21℃での直流下の硫酸媒体での陽極酸化、ニッケルでの冷却、つぎに熱湯の、二段階での封孔(すなわち、室温の酢酸ニッケル溶液でのプレ封孔、つぎに沸騰水でのベーマイト処理)段階を含むシートメタルまたはストリップの艶出し後、
続いて、当業者には「カーウォッシュテスト」の名称で公知のテスト、すなわち、pH1の溶液、すなわち、0.1モル/lのHClを含む水溶液での10分の酸性エッチング、すすぎ、1時間40℃に維持することによる乾燥、通常は前記のようなpH11〜14のアルカリ性溶液中への10分間の浸漬の維持、すすぎ、乾燥および磨き布での拭きが続き、
艶の損失が視覚的に全く確かめられないことを、
特徴とする方法によって製造される装飾品のリングを目的とする。
【0035】
別の好ましい特徴によると、前記の一つまたは複数の態様による方法によって製造される装飾品のリングは、
従来の脱脂、通常25VのDC電圧下で、75℃でのホスホ‐硫酸媒体での電子艶出し、すすぎ、通常50℃でのアルカリ性エッチング、室温でのスマット除去、すすぎ、通常21℃での直流下の硫酸媒体での陽極酸化、ニッケルでの冷間、つぎに熱湯の、二段階での封孔を含むシートメタルまたはストリップの艶出し後、
続いて、当業者には「カーウォッシュテスト」の名称で公知のテスト、すなわち、pH1の溶液での10分の酸性エッチング、すすぎ、1時間40℃に維持することによる乾燥、pH11〜14のアルカリ性溶液中への10分間の浸漬の維持、すすぎ、乾燥および磨き布での拭きが続き、
前記シートメタルまたはストリップから裁断したサンプルについて測定した重量損失が浸漬表面の40mg/dm2を越えないことを、
特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】前記のようなpH11〜14のアルカリ性溶液に10分間浸漬後のアルミニウムサンプルの陽極層の断面の観察を示す概略図である。陽極層(1+2)の標準的な厚さは5〜6μmである。約1μm(1)は、10分のテスト後、化学溶解によってエッチングされる。陽極層(2)の残りは層の厚さ全体にわたってエッチング通路を備え、下にある金属(3)のエッチングが時々観察される。通路のサイズは約100nmである。
図2】左はサンプル5505 H22で、右は6401 T6で、10分間のアルカリ性エッチング後の走査電子顕微鏡で観察したサンプルの表面を示す概略図である。概略図は二つのサンプルについて同様な観察面を図示している。したがって、欠陥密度を直接比較できる。この概略図から、サンプル6401 T6に比較してサンプル5505 H22で図示したように、アルカリ試験での悪い挙動がより高い欠陥密度につながることが明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、特に、pH11〜14の、極めてアルカリ性の溶液からなる自動洗車場の洗浄製品のような厳しい腐食環境にある自動車車両の外側のトリムストリップまたは装飾品のリングの製造に使用されるシートメタルまたはストリップの、陽極層の安定性のpHを越えているのにもかかわらず、十分な機械抵抗および十分な成形性を維持しながら、車両の寿命全体にわたってその艶を維持することができる合金および熱処理、さらに変形範囲の適切な選択にある。
【0038】
本発明は、自動車製造者によってその認定試験中に広く使用されているような、極めてアルカリ性の、すなわち、pH値11〜14の溶液と接触して、陽極層のエッチングが二つの異なる方式によって展開することについて本出願人がおこなった確認に基づくものである。これは、そのようなアルカリ性溶液中に10分間浸漬した後の厚さ5〜6μmの陽極層の断面を走査電子顕微鏡で見た図1に明らかに表れている。
【0039】
第一の方式(1)は、封孔酸化物膜の比較的緩慢で、均一な化学溶解に対応し、一方、第二の方式(2)は、陽極層に続いて、下にある金属の、急速で、局所化されたエッチングに対応し、酸化物層を横断する狭いトンネルの形成として表れる。
【0040】
本出願人は、また、第一の方式による酸化物層の均質なエッチングは、合金の種類およびその冶金状態とは比較的無関係であるが、反対に、酸化物層を横断する局所化されたエッチングの度合いは合金およびその冶金状態に大きく左右されることに気づいた。
【0041】
この後者は試験したAA5000系の様々な合金の場合目立った効果を有するが、AA6000系合金の場合にはこの効果は顕著なものとしては表れない。
【0042】
この挙動の相違は、局所化されたエッチング密度に原因があり、その密度は望ましくない場合に比較すると、望ましい場合には明らかにより小さい。
【0043】
それは、二つのサンプルについて、pH11〜14のアルカリ性溶液に10分間浸漬後、走査電子顕微鏡で得られ、同じ拡大率の画像を示す図2に表示されている。
【0044】
左側の画像は、好ましくない挙動に導く、冷間圧延および温度250℃での1時間の最終焼きなまし(H22状態)後のAA5505型合金に対応し、右側の画像は、好ましい挙動に導く、T6状態(焼入れおよび時効)で押出成形されたAA6401型合金に対応する。
【0045】
今日、AA6000系合金製の形鋼に比較して、AA5000系合金製のシートメタルの挙動を改善するための産業的解決方法は全く知られていない。
【0046】
本出願人は、「カーウォッシュテスト」の名称で公知の認定試験のときに6000系および5000系の合金間のこの挙動の差異、および、特に、実施例に記載した差異を確認して、また上述した観察の理由により、それが合金の種類に固有のものではなく、製品の製造方法に関するものと考察した。
【0047】
より正確には、AA5000系合金の好ましくない挙動は最終焼きなまし熱処理中のMg2Si相の沈澱に原因があった。本出願人は、このことから、最終焼きまなし熱処理中と、特に冷間圧延中のすべての中間焼きなましにおいてもMg2Si相の微粒子の沈澱の影響を考慮する、より適切な作製方法に、提起された問題への解決方法を発見した。
【0048】
解決方法は、「フラッシュ」型、すなわち、連続通過炉で、合金のソルバス温度および初期溶融温度間の温度で、通常、3秒から5分間の冷間圧延中の中間焼きなましにあり、最終冷間圧延段階前に空気または水焼き入れが続き、その間に熱間鍛造によって機械抵抗が改善することが判明した。
【0049】
穏健な、すなわち、温度100〜200℃で、170℃での3〜15時間に等価な時間の補足の焼きなましは、必要ならば、シートメタルまたはストリップの後の成形を容易にするために実施することができる。
【0050】
等価な時間t(eq)は、下記式によって定義される。
【0051】
【数1】
【0052】
但し、上記式において、T(ケルビン)は温度であり、tは焼きなまし期間、Trefは443Kの基準温度、すなわち170℃、および、trefは3〜15時間の範囲の前記の基準時間である。
【0053】
本発明による合金は、ブライトシートメタル(いわゆる「ハイグロス」合金)の作製のために使用され、極めて純粋なベース(Al99.9MgまたはAl99.7Mg)から得られるもののようなAA5000系のいわゆる高純度合金、すなわち、重量%で表示した化学組成がMg≦1.1、Cu≦0.10、他の元素≦0.30で、残りがアルミニウムであるような、または、さらに純粋で、化学組成がMg≦1.1、他の元素≦0.10、残りがアルミニウムであるようなAA5000系合金である。
【0054】
第一の場合、重量%で表示した化学組成が、Si:≦0.08、Fe:≦0.10、Cu:≦0.10、Mn:≦0.03、Mg:0.6〜1.0、Zn:≦0.05、Ti:≦0.020、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.15、残りはアルミニウムであるAA5657型合金、またはさらに、重量%で表示した化学組成が、Si:≦0.15、Fe:≦0.7、Cu:0.03〜0.10、Mn:≦0.10、Mg:0.6〜1.0、Zn:≦0.05、Ti:≦0.05、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.15、残りはアルミニウムであるAA5205型合金が挙げられる。
【0055】
第二の場合、特に、組成(重量%)がSi:≦0.06、Fe:≦0.04、Cu:≦0.01、Mn:≦0.03、Mg:0.8〜1.1、Zn:≦0.03、Ti:≦0.010、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.10、残りはアルミニウムであるAA5505型合金、またはさらに、化学組成(重量%)が、Si:≦0.06、Fe:≦0.04、Cu:≦0.01、Mn:≦0.03、Mg:0.35〜0.60、Zn:≦0.03、Ti:≦0.020、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.10、残りはアルミニウムであるAA5210型合金が挙げられる。
【0056】
本発明によるシートメタルの製造は、主として、鋳造、典型的にはプレートのダイレクトチル(DC)鋳造およびそれらの皮むきを含む。
【0057】
次に、皮むきされたプレートは、温度480〜530℃で1時間以上加熱され、続いて、通常、5〜30mmの厚さになるまで熱間圧延され、冷却される。
【0058】
続いて、前記のような冷間圧延を受け、その間に製品は合金のソルバス温度および初期溶融温度間の範囲の温度、すなわち、通常450〜550℃で、中間焼きなましを受ける。
【0059】
この焼きなまし後、再度、圧下率15〜70%で、最終厚さが0.4〜1.5mmになるまで、冷間圧延が実施される。
【0060】
最終的に、得られたシートメタルまたはストリップは、必要ならば、前記の最終焼きなましを受ける。
【0061】
本発明は、下記の実施例から、その詳細もより良く理解されるであろうが、しかしながら、それらの実施例は何ら限定的な性格を有していない。
[実施例]
【実施例1】
【0062】
組成(重量%)がSi:0.06、Fe:0.06、Cu:0.04、Mg:0.76、Mn:≦0.03、Zn:≦0.05、Ti:≦0.020、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.15、残りはアルミニウムであるAA5657型合金製プレートをダイレクトチル(DC)鋳造によって鋳造した。
【0063】
プレートを1時間の間、温度490℃で加熱し、次に厚さ7.5mmに熱間圧延し、冷却後、中間焼きなましをせず、厚さ0.7mmまで冷間圧延した。
【0064】
最後に、得られたシートメタルを1時間の間、温度260℃で最終焼きなましした。
【0065】
コイルの二つのサンプル(「実施例」の段落の最後の要約的な表1のAおよびB)を採取して、艶出しおよび陽極酸化処理に続き、「カーウォッシュテスト」型認定試験を受けさせるが、どちらも前記のようなものである。
【0066】
10分の浸漬時間で、浸漬表面のmg/dm2で表示した試験中の重量損失値を下記表1に示した。二つのサンプルAおよびBは、類似の結果になり、すなわち、54および58mg/dm2の値になる。
【0067】
本発明の基礎に存在する考え、すなわち、AA5000系合金の不都合な挙動は最終焼きなまし熱処理中のMg2Si相の沈澱に帰することができるという考えを評価するために、熱処理(表1には「シミュレーション」と表示)を研究室で、最終焼きなまし状態で厚さ0.7mmのサンプルCについて実施し、従来の溶体化処理では変形範囲の間沈澱したMg2Siの全粒子を溶解させた。
【0068】
この実施例では、本発明による冷間成形および最終焼きなましはMg2Siの沈澱を生じさせないことが仮定された(および、下記の実施例で確認されるであろう)。
【0069】
このように処理したサンプルCは、艶出し/陽極酸化の完全なサイクルおよび「カーウォッシュテスト」型アルカリ試験を受け、どちらも前記のようなものであった。
【0070】
10分の浸漬時間後の重量損失値は、24mg/dm2であり、要求される特性に適合している。
【0071】
また、発明外のサンプルA、Bおよび本発明のシミュレーションを行うCを視覚的に評価したが、2つのサンプルAおよびBとは反対に、サンプルCにはいかなる艶の損失も確かめられなかった。
【0072】
この実施例は、本発明による中間焼きなましのプラス効果を有効とする。
【実施例2】
【0073】
実施例1の組成と同じ組成のAA5657型合金製プレートをダイレクトチル(DC)鋳造によって鋳造した。
【0074】
同様に、プレートを1時間の間、温度490℃で加熱し、次に厚さ6.5mmに熱間圧延し、冷却後、厚さ1.09mmまで冷間圧延した。
【0075】
次に、コイルは、装填炉で、8時間の間、温度360℃で中間焼きなましを受けた。
【0076】
次に、最終厚さが0.42mmになるまで、冷間圧延された。
【0077】
最後に、得られたコイルを、2.5時間の間、温度170℃で最終焼きなましした。
【0078】
本発明外では、中間焼きなましされる範囲が重要である。
【0079】
サンプル(表1のD)を採取して、艶出しおよび陽極酸化処理に続き、「カーウォッシュテスト」型認定試験を受けさせたが、どちらも前記のようなものであった。10分の浸漬時間後の重量損失値は75mg/dm2で、要求される値40mg/dm2を越える。
【0080】
また、サンプルDを視覚的に評価したが、試験後、顕著な艶の損失を示した。
【実施例3】
【0081】
組成(重量%)がSi:0.03、Fe:0.03、Cu:≦0.01、Mg:0.88、Mn<0.03、Zn:≦0.03、Ti:≦0.010、他の元素は各々<0.05、および、合計で<0.10、残りはアルミニウムであるAA5505型合金製プレートをダイレクトチル(DC)鋳造によって鋳造した。
【0082】
同様に、プレートを1時間の間、温度490℃で加熱し、次に厚さ7.5mmに熱間圧延し、冷却後、厚さ2.3mmまで冷間圧延した。
【0083】
次に、コイルは、本発明によると、通過炉で、温度500℃で、23秒の維持時間で、合金のソルバス温度より上で、中間焼きなましを受け、続いて、空気焼き入れされた。
【0084】
次に、最終厚さが1.6mmになるまで、冷間圧延を受けた。
【0085】
同一合金で、同じように変形され、しかし、中間焼きなましをせずに、もう一つのコイルも製造された。これは、温度250℃で1時間最終焼きなましを受けた。
【0086】
サンプル(第一のコイルはFおよびG、第二のコイルはE)を各コイルの中で採取して、艶出しおよび陽極酸化処理に続き、「カーウォッシュテスト」型認定試験を受けさせたが、どちらも前記のようなものであった。
【0087】
10分の浸漬時間後の重量損失値を以下の表1に示す。
【0088】
これらの結果は、本発明外の中間焼きなましのない製品(Eは58mg/dm2)と比較すると、ここでは最終焼きなましがなく、本発明による中間焼きなましをして製造された金属の最良の挙動を示している(Fは30mg/dm2、Gは29mg/dm2)。
【0089】
ここでは最終焼きなましがなく、中間焼きなましを受け、また、本発明によるサンプルF、G、および中間焼きなましがなく、本発明外のサンプルEを同様に視覚的に評価し、顕著な艶の損失を示すサンプルEとは反対に、サンプルFおよびGにはいかなる艶の損失も確かめられなかった。
【実施例4】
【0090】
実施例3の組成と同じ組成のAA5505型合金製プレートをダイレクトチル(DC)鋳造によって鋳造した。
【0091】
同様に、プレートを1時間の間、温度490℃で加熱し、次に厚さ7.5mmに熱間圧延し、冷却後、厚さ1.73mmまで冷間圧延した。
【0092】
次に、コイルは、本発明によると、通過炉で、温度520℃で、1分の維持時間で、合金のソルバス温度より上で、中間焼きなましを受け、続いて、水焼き入れされた。
【0093】
次に、冷間圧延を実施して、最終厚さを1.2mmにした。
【0094】
最後に、得られたコイルは3時間の間、温度170℃で、最終焼きなましを受けた。
【0095】
サンプルを最終焼きなましの前(H)および後(I)に採取して、艶出しおよび陽極酸化処理に続き、「カーウォッシュテスト」型認定試験を受けさせたが、どちらも前記のようなものであった。
【0096】
10分の浸漬時間後の重量損失値は類似しており、26mg/dm2および27mg/dm2である。
【0097】
また、本発明によるサンプルHおよびIを視覚的に評価したが、試験後、いかなる艶の損失も確かめられなかった。
【0098】
【表1】
【符号の説明】
【0099】
1 陽極層
2 陽極層
3 金属
【先行技術文献】
【特許文献】
【0100】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1873278号明細書
【特許文献2】国際公開第2009/068168号
図1
図2