(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6509866
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】宇宙飛行体の電気スラスタに推進剤流体を供給するための改良された流量調整システム
(51)【国際特許分類】
B64G 1/40 20060101AFI20190422BHJP
F03H 1/00 20060101ALN20190422BHJP
【FI】
B64G1/40 A
!F03H1/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-538748(P2016-538748)
(86)(22)【出願日】2014年12月9日
(65)【公表番号】特表2016-539852(P2016-539852A)
(43)【公表日】2016年12月22日
(86)【国際出願番号】FR2014053238
(87)【国際公開番号】WO2015086982
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2017年11月13日
(31)【優先権主張番号】1362430
(32)【優先日】2013年12月11日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】516227272
【氏名又は名称】サフラン・エアクラフト・エンジンズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ビアル,バネッサ
(72)【発明者】
【氏名】ロラン,アントニー
(72)【発明者】
【氏名】ジブドー,ケビン
(72)【発明者】
【氏名】ルロワ,ベーチュア
【審査官】
長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−287550(JP,A)
【文献】
仏国特許出願公開第02973081(FR,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0175247(US,A1)
【文献】
米国特許第06286304(US,B1)
【文献】
特開2008−088931(JP,A)
【文献】
特開平04−175472(JP,A)
【文献】
実開平05−083370(JP,U)
【文献】
特開昭60−036787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/40
F03H 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙飛行体の電気スラスタ(3)用の推進剤流体の流量を調整するためのシステムであり、飛行体が、推進剤流体のタンク(2)、および前記タンク(2)の出口に接続される流量調整器(1)を含み、
流量調整器(1)が、コンピュータ(13)によって制御され、かつタンクを離れる推進剤流体の流量を変えるために推進剤流体を加熱し推進剤流体の物性を変更するように構成されたヒータ素子(11)を含み、
コンピュータ(13)が、加熱の大きさに応じて、および環境パラメータに応じて推進剤流体の流量を規定するために経験的に決定されている複数の経験的較正曲線をその中にロードしている記憶メモリを含み、それにより、前記コンピュータ(13)がまた、推進剤流体の流量を決定する機能を果たすことを特徴とする、システム。
【請求項2】
経験的較正曲線が、さまざまな環境パラメータの下で前記調整システムの地上試験中に決定される、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記コンピュータ(13)が、前記経験的較正曲線を基礎として計算される複数の半経験的較正曲線を有し、前記半経験的較正曲線が、経験的較正曲線のそれらと異なる環境パラメータについて加熱の大きさに応じて推進剤流体流量を規定する、請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記コンピュータ(13)が、加熱の大きさ、および環境パラメータに応じて推進剤流体の流量を規定する半経験的較正曲線を計算するように前記経験的較正曲線を使用するように構成される、請求項1から3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記ヒータ素子(11)が、熱キャピラリ管を通して流れる加熱電流の大きさに応じて加熱を行う前記熱キャピラリ管である、請求項1から4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記推進剤流体が、キセノンである、請求項1から5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
推進剤流体が宇宙飛行体の電気スラスタ(3)に供給される流量を、流量調整器(1)によって調整する方法であって、流量調整器(1)が、コンピュータ(13)によって制御され、かつ推進剤流体の物性を変更しそれによりタンク(2)を離れる推進剤流体の流量を変更するためにタンク(2)からの出口において推進剤流体を加熱するように構成されたヒータ素子(11)を備え、
複数の経験的較正曲線が、加熱の大きさに応じて、および環境パラメータに応じて推進剤流体流量を規定するように決定され、コンピュータ(13)がまた推進剤流体の流量を決定する機能を果たすように、前記較正曲線がコンピュータ(13)にロードされることを特徴とする、方法。
【請求項8】
経験的較正曲線が、さまざまな環境パラメータの下で前記調整システムを試験することによって地上で決定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
複数の半経験的較正曲線がまた、前記経験的較正曲線から補間法によって決定され、前記理論較正曲線が、コンピュータ(13)にロードされる、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
流量調整器(1)が使用されている間に、前記コンピュータ(13)が、加熱の大きさ、および環境パラメータに応じて推進剤流体の流量を規定する半経験的較正曲線を計算するように前記経験的較正曲線を使用する、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にホール効果エンジンなどの電気スラスタの分野に、およびより正確には、宇宙飛行体に適した用途との関連において電気スラスタに供給される推進剤流体の流量を制御するための手段の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
電気スラスタにおいては、推進剤流体が、タンク内に貯蔵される。タンクは、電気スラスタの適切な動作を確保するように所与の流量を供給するために制御手段が設けられ、この制御手段に接続される。
【0003】
この種の制御手段は、一般的には、流量制御ユニット(FCU)と、または推進剤流体がキセノンである場合にキセノン流量制御装置(XFC)と、通常呼ばれる流量調整器を備え、その調整器は、流体の物性、およびしたがってタンクからの出口のその流量を変更するために熱キャピラリ管によって流体の加熱の制御を行う。
【0004】
それにもかかわらず、熱キャピラリ管の加熱電流と出ていく流量との間の相互関係を確実に確立するための関係はなく、その一方で、この関係に影響を及ぼす変数、および特に流量調整器が使用される周囲条件を表す環境パラメータを考慮に入れる。
【0005】
したがって、独立の流量計が、通常、実際の出ていく流量を測定するために流量調整器と関連付けられている。
【0006】
それにもかかわらず、宇宙用途においては、簡単な流量調整器機能を果たすための構成要素のこのような増加は、余分の質量を加えるという点で問題があり、所与の質量を地球静止軌道に打ち上げるのに必要とされるパワーを仮定すれば、これは非常な制約である。
【0007】
知られている代替案は、経時的に消費を決定するために、たとえばタンク内の圧力および温度を基礎として、解析的方法によって残っている推進剤の質量を評価することにある。この種の方法は、流量計の取付けを回避することができるが、やはりあまり正確でなく、安全マージンを維持するために、この種の方法を使用する宇宙飛行体は、その結果、推進剤流体の全消費の実際の終わりの前に寿命の終わりとされなければならない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、宇宙飛行体の電気スラスタ用の推進剤流体の流量を調整するためのシステムであり、飛行体が、推進剤流体のタンク、および前記タンクの出口に接続される流量調整器を含み、
流量調整器が、コンピュータによって制御され、かつタンクを離れる推進剤流体の流量を変えるために推進剤流体を加熱し推進剤流体の物性を変更するように構成されたヒータ素子を含むシステムであって、
コンピュータが、加熱の大きさに応じて、および環境パラメータに応じて推進剤流体の流量を規定するために経験的に決定されている複数の経験的較正曲線をその中にロードしている記憶メモリを含み、それにより、前記コンピュータがまた、推進剤流体の流量を決定する機能を果たすことを特徴とする、システムを提案することによって、この問題の少なくとも部分的な解決策を見出そうとしている。
【0009】
したがって、本発明により、構造変更をそれに必要とすることなく、流量調整機能および流量計機能を単一の構成要素、すなわち流量調整器で併せ持つことができ、それによって、2つの異なる構成要素を有する従来のシステムと比べてシステムの全質量を低減すると同時に、理論的な関係から流量を決定するシステムの精度よりも良好な精度を与える。
【0010】
特定の実施形態においては、経験的較正曲線は、さまざまな環境パラメータの下で前記調整システムを試験することによって地上で決定される。
【0011】
また、コンピュータは、前記経験的較正曲線を基礎として計算される複数の半経験的較正曲線を有することができ、前記半経験的較正曲線は、経験的較正曲線のそれらと異なる環境パラメータについて加熱の大きさに応じて推進剤流体流量を規定する。
【0012】
コンピュータは、加熱の大きさ、および環境パラメータに応じて推進剤流体の流量を規定する半経験的較正曲線を計算するように前記経験的較正曲線を使用するように構成され得る。
【0013】
例示として、ヒータ素子は、熱キャピラリ管を通して流れる加熱電流の大きさに応じて加熱を行う前記熱キャピラリ管である。
【0014】
また、本発明は、推進剤流体が宇宙飛行体の電気スラスタに供給される流量を、流量調整器によって調整する方法であって、流量調整器が、コンピュータによって制御され、かつ推進剤流体の物性を変更しそれによりタンクを離れる推進剤流体の流量を変更するためにタンクからの出口において推進剤流体を加熱するように構成されたヒータ素子を備え、
複数の経験的較正曲線が、加熱の大きさに応じて、および環境パラメータに応じて推進剤流体流量を規定するように決定され、コンピュータがまた推進剤流体の流量を決定する機能を果たすように、前記較正曲線がコンピュータにロードされることを特徴とする、方法を提供する。
【0015】
経験的較正曲線は、通常、温度および圧力のさまざまな条件の下で前記調整システムを試験することによって地上で決定される。
【0016】
特定の実施形態においては、複数の半経験的較正曲線はまた、前記経験的較正曲線から計算され、前記理論較正曲線は、コンピュータにロードされる。
【0017】
特定の実施形態においては、流量調整器が使用されている間に、前記コンピュータは、加熱の大きさ、および環境パラメータに応じて推進剤流体の流量を規定する半経験的較正曲線を計算するように前記経験的較正曲線を使用する。
【0018】
本発明の他の特徴、目的、および利点は、単に例示であり、非限定的であり、添付の図面を参照して読まれるべきである、次の説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】印加された加熱電流に応じて流量を較正するための経験的曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一態様のシステムを概略的に示している。
【0021】
図1は、それに配置される流量調整器1を有するダクト23によって一緒に接続される推進剤流体のタンク2と電気スラスタ3との間の流量を調整するためのシステムを示している。
【0022】
例示として、電気スラスタは、ホール効果エンジン、パルス化プラズマスラスタ、イオンスラスタ、またはより一般的には、推進剤流体を用いた任意の電気スラスタである。
【0023】
流量調整器1は、通常、発電機12によってパワーを供給され、コンピュータ13によって制御されるヒータ素子11を備える。ヒータ素子11は、ダクト23に流れる推進剤流体に直接的または間接的に熱を加え、電流の大きさは、コンピュータ13によって制御される。流量調整器1は、通常、タンク2からの出口に配置される。
【0024】
推進剤流体の加熱は、推進剤流体の物性を変更する働きをし、それによって、ダクト23の損失水頭を変更し、したがって、電気スラスタ3に搬送される推進剤流体の流量を変更する。推進剤流体の温度が高ければ高いほど、その粘度が増加し、ダクト23の推進剤流体の流量が少なくなる。
【0025】
ヒータ素子11は、さまざまなタイプのものであってもよい。
【0026】
例示として、これは、熱キャピラリ管を通して流れる加熱電流に応じてダクト23を加熱する前記熱キャピラリ管であってもよく、この場合、加熱電流は、コンピュータ13の制御の下で発電機12によって供給される。したがって、ダクト23に流れる推進剤流体は、熱キャピラリ管によって間接的に加熱され、この熱キャピラリ管は、ダクト23を介して推進剤流体を加熱する。この実施形態は、
図1に示されている。
【0027】
例示として、熱キャピラリ管は、この場合、直線部と比較して加熱領域を増加するためにコイルまたは螺旋になっている。
【0028】
また、ヒータ素子11は、ダクト23に配置される抵抗素子であってもよく、抵抗素子を通過する加熱電流に応じて直接にダクト23の推進剤流体を加熱する働きをし、この場合、加熱電流は、コンピュータ13の制御の下で発電機12によって供給される。
【0029】
また、ヒータ素子11は、熱交換器、たとえば流体−流体型熱交換器であってもよく、所望の温度に推進剤流体をもたらすために、熱伝達流体が、ダクト23に流れる推進剤流体と熱を交換するようにコンピュータ13によって制御される温度でそれを通して流れる。
【0030】
本発明においては、コンピュータ13はまた、流量計として働くように構成され、ヒータ素子11によって推進剤流体に加えられる加熱の大きさに応じてダクト23の推進剤流体の流量について正確な情報を供給する。
【0031】
コンピュータ13は、経験的に決定され、加熱の大きさに応じて、および特に周囲温度および周囲圧力などの環境パラメータに応じて推進剤流体の流量を規定する、複数の経験的較正曲線を有する。これらの経験的較正曲線は、システムが動作中の間に使用に生かせるように、コンピュータ13の記憶メモリにロードされる。これらの経験的較正曲線は、コンピュータ13の記憶メモリにロードされる。
【0032】
したがって、コンピュータ13は、加熱の大きさに応じて、および考慮されたさまざまな環境パラメータに応じて流量値を規定する一束の経験的曲線を有するように構成される。合わせて、これらの経験的曲線は、流量を決定できるようにする一連のプロットを形成する。
【0033】
したがって、使用中の環境パラメータに応じて、たとえば、システムの温度およびシステムの入口の圧力などのパラメータに応じて、コンピュータ13は、適切な較正曲線を決定し、ヒータ素子11によって加えられる加熱の大きさに応じてダクト23の推進剤流体の流量を決定する。たとえば、システムの温度、システムの入口の圧力、およびヒータ素子11に印加される電流を基礎として、コンピュータ13は、その記憶メモリにロードされたいずれの曲線がこれらのさまざまなパラメータに最も近いかを決定し、この時、流量の値をそれから推論する。
【0034】
したがって、流量調整器1は、加えられるべき追加の構成要素を必要とすることなく、そのコンピュータ13によって流量計機能を果たし、それによって、システムの全質量を最小限にする。
【0035】
例示として、経験的較正曲線は、さまざまな人為的に加えられる環境パラメータの下で流量調整器システムを試験することによって地上で決定され、この人為的に加えられる環境パラメータは、流量調整器システムが宇宙飛行体上で使われている間に受けることになる環境パラメータを実質的に再現する。
【0036】
図2は、所与の環境パラメータの場合に、印加される加熱電流に応じて流量を較正するための経験的曲線の一例を示している。この曲線は、ヒータ素子として熱キャピラリ管を使用しながら得られた。この曲線は、加熱の大きさを表す熱キャピラリ管において通過する電流の関数として熱キャピラリ管を通過する流量を示している。
【0037】
したがって、持続時間Tの間に印加される加熱電流の変化に応じて、コンピュータ13は、この持続時間T中に流量調整器1を通過している推進剤流体の量を決定することができる。
【0038】
この種の曲線は、一般的な理論式よりも正確である加熱電流と流量との関係を提示し、この理論式は、精度が悪く、推進剤流体の流量が、たとえば周囲温度および圧力などのさまざまな環境パラメータの変化に応じて正確に決定され得るようにならない。
【0039】
有利な方法では、複数の半経験的較正曲線が、任意の2つの連続する曲線の間のより小さな増分、したがってより高い精度を有するように、試験中に得られるさまざまな経験的較正曲線を基礎として確立され、一方で過大な数の試験を必要としない。
【0040】
例示として、これらの半経験的較正曲線は、2つの経験的較正曲線の間の変化が線形であることを仮定することによって得られる。
【0041】
たとえば、2つの異なる圧力値P1およびP2について得られ、一方他の環境パラメータは一定に保たれている、加熱電流に応じた流量の変化について2つの理論較正曲線を検討すれば、これらの2つの経験的較正曲線を基礎としてP1からP2の範囲にある圧力値についてより小さな増分を得ることができる。もちろん、同じ原理がまた、圧力以外のパラメータ、たとえば周囲温度に適用され得る。
【0042】
これらの半経験的較正曲線は、経験的較正曲線が得られた後に地上で計算ユニットによって得られることができ、次いで、それらは、コンピュータ13にロードされ得る。
【0043】
また、これらの半経験的較正曲線は、調整システムの使用の条件に応じてコンピュータ13によって直接得られ得る。したがって、有利なことに、この場合経験的較正曲線のみがコンピュータにロードされ、それよって、情報を記憶するために必要とされるメモリの量が低減される。
【0044】
したがって、本発明により、加えられるべき追加の構成要素を必要とすることなく、したがってシステムの全質量を大きくすることなく、それにもかかわらず流量の正確な決定を維持しながら、流量調整器1によって流量機能を果たすことができる。