(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6509892
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】生体の身体表面を処置するための装置
(51)【国際特許分類】
A61N 1/14 20060101AFI20190422BHJP
H05H 1/24 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
A61N1/14
H05H1/24
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-553705(P2016-553705)
(86)(22)【出願日】2014年11月6日
(65)【公表番号】特表2017-503621(P2017-503621A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】DE2014000572
(87)【国際公開番号】WO2015070832
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2017年9月12日
(31)【優先権主張番号】102013019057.6
(32)【優先日】2013年11月15日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512158435
【氏名又は名称】シノギー・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CINOGY GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100189913
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 健
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】ワンドケ、ディルク
(72)【発明者】
【氏名】トゥルートビヒ、レオンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ストルック、カール−オットー
(72)【発明者】
【氏名】ハーンル、ミルコ
(72)【発明者】
【氏名】パラースケ、フランク
(72)【発明者】
【氏名】ヘルトレイン、シュテフェン
(72)【発明者】
【氏名】デシュライン、ゲオルク
【審査官】
細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/106735(WO,A2)
【文献】
特表2012−503508(JP,A)
【文献】
特表2013−515516(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/14
A61N 1/44
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体で遮断された放電プラズマによって生体の身体表面を処置するための装置であって、平坦で、可撓性のある誘電体(4)を有し、該誘電体は、高電圧源(3)に接続された電極(1)を前記身体表面から遮蔽し、かつ、対向電極として機能する前記身体表面への載置のために適切であり、かつ構造化された表面(7)で形成されており、該表面は、前記誘電体(4)と前記身体表面との間のプラズマ放電用のガス空間を可能にしてなる装置において、
前記誘電体(4)の前記構造化された表面(7)には、ケア材料または処置促進材料からなる、固体の、開放気孔のマトリクスからなる層(11)が設けられていることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記層(11)は、前記誘電体(4)の構造化された表面に相補的な表面を有する別の層として形成されていることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記層(11)は、前記誘電体(4)と共に屈曲可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記誘電体(4)の前記表面の構造体は、突出している突起(8)から形成されていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
前記突起(8)は、前記身体表面への載置のための自由な平面状の端面(9)を有することを特徴とする請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記層(11)は、身体によって吸収可能な材料からなることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
前記層(11)は、コラーゲンからなることを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記層(11)は、前記誘電体(4)のコーティングとして形成されることを特徴とする請求項1または3ないし7のいずれか1項に記載の装置。
【請求項9】
前記層は、前記誘電体(4)上に成長することによって形成されていることを特徴とする請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記層(11)の厚さは、前記突出する突起(8)の長さに対応することを特徴とする請求項4または5に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体で遮断されたプラズマによって生体の身体表面を処置するための装置であって、平坦な、可撓性のある誘電体を有し、該誘電体は、高電圧源に接続された電極を、身体表面から覆い、かつ、対向電極として機能する身体表面への接触のために適切であり、かつ構造化された表面で形成されており、該表面は、誘電体と身体表面との間のプラズマ放電用のガス空間を可能にしてなる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような装置は、特許文献1から公知である。ここでは、平面状の可撓性のある誘電体の平面寸法は、高電圧源に接続された電極よりも大きい。それ故に、皮膚表面への破壊的なフラッシュオーバーを確実に回避すべく、誘電体が電極を安全に身体表面に向けて遮蔽する。ここでは、電極は、誘電体の中へ四方八方に埋設されていており、1本の接続線のみで、誘電体から引き出すことができる。知られた装置の実施の形態では、誘電体を直接身体表面に平面状に載せることが可能である。過程においてプラズマ放電の形成を可能にするために、誘電体の、身体表面に向いる表面が、構造化されている。それ故に、誘電体と、身体表面との間に、プラズマ放電が起こる気体空間が形成される。
【0003】
健康な身体表面の場合では、身体表面のプラズマ放電を美容上の理由から行なうことができる。その目的は、例えば、身体表面を消毒し、かつ、有効成分による後続の処理のために準備するためである。このことによって、皮膚を通しての有効成分の摂取を改善する。身体表面のプラズマ放電は、更に、特に慢性創傷の場合、特に創傷治癒を促進するために適切であることが分かった。プラズマ処理は、強力な抗菌作用を有する。それ故に、細菌定着による創傷処置の妨害作用を、プラズマ処理によって妨げることができる。創傷治癒を妨げる細菌は、特に、黄色ブドウ球菌、緑膿菌、大腸菌および他の多剤耐性病原体を含む。更に、プラズマの作用によって、組織の複合体中の微小循環に、好影響を及ぼすことができる。
【0004】
従来の技術では、創傷処置のため、特に、慢性創傷のためには、創傷包帯を使用する。該創傷包帯は、湿った創傷処置の原理に従って、無菌創傷パッドを有する。該創傷パッドには、細菌を減少させるために、種々の殺菌の有効成分が備えられる。更に、傷を消毒の方法で洗浄する。深い層の場合には、創傷を、更に、外科的方法によってきれいにする。該方法は、しばしば、不十分な細菌の減少をもたらす。それ故に、感染のリスクと細菌の拡大リスクが生じる。バイオフィルムの形態をとる強力な定着の場合、ならびに高病原性病原体、例えばA群連鎖球菌の発生の場合には、創傷治癒を遅らせ、あるいは感染症によって阻止さえする。外科技術の使用に基づく効果的な方法は、すべて、侵襲的であり、痛みを伴い、かつ、痛みの処置および/または麻酔を必要とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】DE 10 2009 060 627 A1
【発明の概要】
【0006】
これに対し、本発明は、生体の身体表面の処置を改善した形で可能にするところの、明細書の最初の部分に記載のタイプの装置を提供するという課題が基礎になっている。
上記課題を解決するために、明細書の最初の部分に記載のタイプの装置は、本発明によれば、誘電体の表面には、ケア材料または処置促進材料の、固体の、開放気泡のマトリクスからなる層が設けられていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係わる装置は、誘電体の表面上に、開放気孔材料を有する。開放気泡材料には、誘電体で遮断されたプラズマ放電が形成されることができる。従って、一方では、身体表面のプラズマ処理の利点を活用し、他方では、身体表面を、ケア材料または処置促進材料との接触状態に保つことが可能である。従って、プラズマ処理の実行のためには、ケア材料または処置促進材料との接触を放棄する必要はない。このことは、プラズマ処理およびケア処理または処置促進処理を連続的に行なうときは、必要だろう。特に創傷包帯の場合には、プラズマ処理の実行のための創傷包帯の除去は、場合によっては非常に面倒である。
従って、本発明に係わる装置は、好ましくは繰り返し行われるプラズマ処理の形態をとる、身体表面の処置と、ケア材料または処置促進材料を用いた処置との組み合わせを可能にする。
ケア材料または処置促進材料からなる層は、誘電体の構造化された表面に相補的である表面を有する別個の層として形成されていてもよい。このことは有利である。何故ならば、このことによって、空気空間(Luftraeume)の発生を回避し、それ故に、層内に均一なプラズマ形成を行なうからである。
層が、誘電体と共に屈曲可能であるように、形成されていることは好ましい。かくして、不規則に形成された本体部分からもなる誘電体で載置可能である可撓性のある電極装置の、その利点が維持されている。
【0008】
特許文献1から公知の電極装置のように、本発明に係わる装置においても、誘電体の表面の、突出する突起からなる構造体が形成されていてもよい。突起が身体表面との接触のための自由な平坦な端面を有することは好ましい。
【0009】
特に好ましい実施の形態では、層は、身体によって吸収可能な材料からなる。層は、好ましい実施の形態では、コラーゲンからなる。その目的は、層を、数日程度の期間で身体によって吸収するためである。本発明に係わる装置は、ケア材料または処置促進材料、特にコラーゲンからなる層の吸収後も、身体表面のプラズマ処理が引き続き可能であるという利点を提供する。従って、慢性創傷を処置する場合には、コラーゲンを処置促進のために吸収した後でも、装置を変えることなく、プラズマ処理を、必要な場合には繰り返し行なうことができる。
【0010】
本発明に係わる装置のために使用されるところの、コラーゲン製の固体の可撓性のあるマトリクス製造方法は、基本的には、EP 2 322 232 A2から公知である。従って、この層の製造方法の説明を省略することができる。
ケア材料または処置促進材料からなる特定の層が、プラスチック担体上に成長することができ、このことによって、層が、即座に、プラスチック担体にしっかり結合されていることは知られている。この場合、層を、別個の層として製造する必要はなく、却って、誘電体の構造化された表面上に成長することができる。これは、特にコラーゲン層のために、有利である。この場合、成長した層は、自動的に、誘電体の表面の構造体に相補的に形成される。
【0011】
本発明のように、特に完全に身体によって吸収可能なケア材料または処置促進材料からなる層を用いて、プラズマ処理のための装置を、構造化された誘電体表面と組み合わせることは、美容分野、例えば特に医療分野において、多数の有利な処置選択肢を開く。特に、コラーゲン層との組み合わせで、重大な成功が、組み合わせなしでは治りが良くないか、または全く治らない創傷を処置の際に、達せられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】構造化された表面と、別個に製造された層とからなる誘電体を有する装置の略図を示す。層の表面は、誘電体の表面に相補的に形成されている。
【
図2】使用のために適切な組み合わされた状態にある、
図1の装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳述する。図面における略図は、適切なライン2を介して高電圧源3に接続されている平面状の、可撓性のある電極1を示す。図示した実施の形態では、高電圧電源は、交流電圧を供給する。
【0014】
電極は、平面状の誘電体4に埋設されており、従って、完全に周囲から遮蔽されている。平面状の誘電体は、従って、短辺5と、裏側6および反対側の処理面7の形態をとる長辺とを有する。処置面7上には、誘電体4の直方体本体から突き出ている突起8がある。該突起は、図示した実施の形態では、円筒状に形成されているが、他の如何なる形状も有することができる。突起8が円筒状に形成されており、かつ、同一の高さを有することは好ましい。その目的は、自由な、平らな端面9が、処置されるべき身体表面上の共通の載置面を形成することができるためである。複数の突起の間に、ここでは、突起8の高さの中間空間10が形成されているのは、電極装置の突起の端面9が、処置されるべき身体表面上に、載っているときである。
【0015】
その点までは特許文献1によって公知である電極装置とは、本発明によれば、層11が協働する。該層は、ケア材料または処置促進材料からなる開放気泡のマトリクスから形成されている。ケア材料または処置促進材料は、ここでは、キャリア層としてケア物質または処置促進物質がドープされているところの層を意味する。
層は、電極装置の、身体表面に向いている表面に、相補的に形成されている。従って、層11は、複数の突起8の間の空間10を埋め。かつ、該突起8に相補的な開口部12を有する。それ故に、層11は、
図2に示した組み立てられた状態では、平面状の電極装置に対し、誘電体4を補う。電極装置は、身体表面へ載置するための滑らかな接触面13を有する。
図示した実施の形態では、層11の厚さは、突起8の長さに対応する。このことが有利なのは、層11が、身体によって完全に吸収可能な材料からなる場合である。従って、使用中に、層は姿を消すのである。
図1では別個に示されており、かつ層11を有しない電極装置は、身体表面に残っている。層11の厚さが突起8の長さに対応するとき、突起8の端面9は、接触面13と面一であり、従って、層11がまだ完全に存在するとき、端面は、既に身体表面に載っている。層11の材料は、身体によって吸収されるとき、従って、電極装置の位置は変化しない。
しかし、層11が、突起8の長さよりも厚く形成されていることも可能である。それ故に、円筒形の突起8の場合には、層11も、相応に円筒形の止まり穴を開口部12として有する。このことは、層の材料が、吸収されず、身体表面に移行するケア成分または処置促進成分のみを含むときは、特に問題がない。層11が吸収可能な材料からなるとき、しかも層11が吸収によって消えるときは、誘電体4と、身体表面との間の距離が減少する。従って、この場合には、層11が吸収されるときに、誘電体4が身体表面の方向に従うように、一定の予圧下で電極装置を身体表面に取り付けることを引き起こさねばならない。
【0016】
層11の材料が、創傷治癒を促進しかつ完全に吸収可能である固体のコラーゲンマトリクスであることは好ましい。このようなマトリクスの製造は、EP 2 322 232 A2に記載されている。該公報を参照されたい。
【0017】
誘電体4がキャスタブルなプラスチックであることは好ましい。その目的は、突起8を誘電体4に一体成形することができるためである。しかし、突起8を別個に製造し、かつ誘電体4と結合することも考えられる。突起8は、この場合、誘電体4の接続部分を形成することができ、かつ、片われと結合して誘電体4を形成することができる。このような2部構成の場合には、電極1を誘電体4の2つの部分の間に挿入することができることは適切である。
図示のように電極1を誘電体4に完全に埋設することは、有利であり、かつ、特に、誘電体4を突起8と一体成形することを可能にする。しかしまた、電極1から身体表面へのフラッシュオーバーを確実に防止するように、誘電体4のみによって電極1を処置面7に向けて遮蔽するような適用例も考えられる。電極1を裏側6に向けて被覆することは、必要な場合には省略することができ、あるいは、絶縁を他の方法で行なうことができる。
【0018】
図示した突起8は、誘電体4の処置面7の構造体の考えられる実施の形態の1つにすぎない。プラズマ放電のために必要な中間空間10を形成するためには、例えば、平行な溝、格子状のノッチ等の形態をとる任意の構造体が可能である。誘電体4の表面に相補的に形成されており、かつ、空間10を完全に満たす層11は、自らの開放気孔性の故に、誘電体4と身体表面との間の複数のチャネルを形成する。これらのチャネルには、電極1と、対向電極である身体表面の間に、誘電体で遮断されたプラズマ放電が生じる。従って、プラズマ放電を、層11の材料部分の中にある複数のチャネル内で、実行する。
【0019】
この場合、誘電体の処置面7の構造化を、規則的なパターンで行なう必要はない。処置面に亘って均等なプラズマ形成が生じるためには、空間10の、処置面7上の作用面に亘って統計的に均一な分布のみが、重要である。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載の事項を、そのまま、付記しておく。
[1] 誘電体で遮断されたプラズマによって生体の身体表面を処置するための装置であって、平坦な、可撓性のある誘電体(4)を有し、該誘電体は、高電圧源(3)に接続された電極(1)を、身体表面から覆い、かつ、対向電極として機能する身体表面への接触のために適切であり、かつ構造化された表面(7)で形成されており、該表面は、前記誘電体(4)と身体表面との間のプラズマ放電用のガス空間を可能にしてなる装置において、
前記誘電体(4)の表面には、ケア材料または処置促進材料からなる、固体の、開放気泡のマトリクスからなる層(11)に設けられていることを特徴とする装置。
[2] 前記層(11)は、前記誘電体(4)の構造化された表面に相補的な表面を有する別の層として形成されていることを特徴とする[1]に記載の装置。
[3] 前記層(11)は、前記誘電体(4)と共に屈曲可能であることを特徴とする[1]または[2]に記載の装置。
[4] 前記誘電体(4)の前記表面の構造体は、突出している突起(8)から形成されていることを特徴とする[1]ないし[3]のいずれか1項に記載の装置。
[5] 前記突起(8)は、前記身体表面への接触のための自由な平面状の端面(9)を有することを特徴とする[4]に記載の装置。
[6] 前記層(11)は、身体によって吸収可能な材料からなることを特徴とする[1]ないし[5]のいずれか1項に記載の装置。
[7] 前記層(11)は、コラーゲンからなることを特徴とする[6]に記載の装置。
[8] 前記層(11)は、前記誘電体(4)のコーティングとして形成されることを特徴とする[1]または[3]ないし[7]のいずれか1項に記載の装置。
[9] 前記層は、前記誘電体(4)上に成長することによって形成されていることを特徴とする[8]に記載の装置。
[10] 前記層(11)の厚さは、前記突出する突起(8)の長さに対応することを特徴とする[4]または[5]に記載の装置。
【符号の説明】
【0020】
1 電極
3 高電圧源
4 誘電体
7 表面
11 層