(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記制御部は、前記無電区間への進入予告通知が入力されると、当該鉄道車両用電力変換装置を搭載した鉄道車両が前記無電区間へ進入するまでに、前記駆動用モータの回生電力の前記トランスを介した前記副電力変換装置への供給を開始させる、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項記載の鉄道車両用電力変換装置。
前記制御部は、前記遮断装置により前記トランスと前記架線とが電気的に遮断された状態で、前記回生電力の電圧及び位相が前記電力状態検出部が検出した他の架線から供給される電力の電圧及び位相となるように前記主電力変換装置を制御するとともに、前記回生電力の電圧及び位相が、前記他の架線から供給される電力の電圧及び位相と等しくなったと見做せる状態で、前記遮断装置の遮断状態を解除させる、
請求項3又は請求項4記載の鉄道車両用電力変換装置。
前記主電力変換装置は、複数設けられており、少なくとも1つの前記主電力変換装置は、他の主電力変換装置に対応する全ての滑走検知部で前記滑走状態が検知されていない状態では、前記回生電力の前記副電力変換装置への供給を停止している予備の主電力変換装置とされている、
請求項9記載の鉄道車両用電力変換装置。
前記予備の主電力変換装置は、他の主電力変換装置に対応する全ての滑走検知部で前記滑走状態が検知された後、少なくとも前記無電区間を通過するまでは、前記回生電力の前記副電力変換装置への供給を継続する、
請求項10記載の鉄道車両用電力変換装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に図面を参照して、好適な実施形態について説明する。
図1は、実施形態の列車及び架線状態の説明図である。
列車100は、電気機関車(鉄道車両)101と、電気機関車101により牽引(あるいは後方から推進)される客車(あるいは貨車)102と、を備えている。
【0010】
ここで、電気機関車101は、架線(き電線)11から交流電力が供給されるパンタグラフ12と、線路13を介して接地された車輪14と、を備えている。
また、架線11は、電源系統が異なる二つの架線11A、11Bと、を備え、二つの架線11A、11Bとの間には架線切り替えのためのセクション(無電区間[非通電区間])11Xが設けられている。
上記構成において、電気機関車101は、線路13側に設けられた地上子ET及び当該電気機関車101に設けられた車上子TTを介して、地上設備からの制御信号等の情報の送受信を行い、取得した情報を参酌して電気機関車101全体の制御を行う車両制御装置21を備えている。そして、地上設備からは、地上子ET及び車上子TTを介してセクション11Xへ到達するのに先だってセクション11Xに至る旨の予告(セクション到達予告)がなされる。
【0011】
[1]第1実施形態
図2は、第1実施形態にかかる機関車の電気系統の概要構成図である。
実施形態の電気機関車101は、
図2に示すように、架線(き電線)11から交流電力が供給されるパンタグラフ12と、線路13を介して接地された車輪14と、の間に、遮断器15及びトランス16の一次巻線(一次コイル)16Aが直列に接続されている。
【0012】
トランス16の複数(
図2では、N系統。Nは、2以上の整数。)の二次巻線(二次コイル)16Bには、それぞれ主電力変換装置(
図2中、CIと記載)17−1〜17−Nを介して駆動用のモータ18が接続されている。このモータ18は、本実施形態においては、惰行時に発電機として回生電力を供給する電力源とすることが可能とされている。
なお、以下の説明においては、主電力変換装置17−1〜17−Nをそれぞれ識別する必要が無い場合には、主電力変換装置17と表記するものとする。
【0013】
また、トランス16の複数(
図2では、4系統)の三次巻線(三次コイル)16Cには、それぞれ対応する副電力変換装置19A〜19Dが接続されている。ここで、副電力変換装置19A及び副電力変換装置19C(図中、それぞれAPUと表記)は、電気機関車101に搭載された補機(車載電気機器)20A及び補機20Cに対し電力を供給している。また副電力変換装置19B及び副電力変換装置19D(図中、LGUと表記)は、客車102に搭載された補機(車載電気機器)20B及び補機20Dに対し電力を供給している。
【0014】
パンタグラフ12と遮断器15との間には、架線電圧を検出し、検出した架線電圧を後述する制御部23に出力するための電圧検出器(PT:Potential transformer)27が設けられている。ここで、電圧検出器27は、架線11からの電力の供給の有無を検出する検出器として機能している。
【0015】
上記構成において、遮断器15は、車両制御装置21により制御される。
また、車両制御装置21の制御下で、制御部23は、主電力変換装置17及び副電力変換装置19A〜19Dを制御する。
【0016】
さらに各二次巻線16Bには、各二次巻線16Bを流れる電流を検出するための電流センサ24Bが設けられている。同様に、各三次巻線16Cには、各三次巻線16Cを流れる電流を検出するための電流センサ24Cが設けられている。
【0017】
図3は、主電力変換装置の概要構成ブロック図である。
主電力変換装置17は、大別すると、通常動作時において、コンバータPWM制御信号PWM1に基づいてトランス16から入力された交流電力を直流電力に変換するとともに、回生電力供給動作時には、コンバータPWM制御信号PWM1に基づいて後述のインバータ32から入力された直流電力を交流電力に変換してトランス16に供給するコンバータ(CNV)31と、通常動作時には、インバータPWM制御信号PWM2に基づいてコンバータ31から入力された直流電力を三相交流電力に変換してモータ18に供給するとともに、インバータPWM制御信号PWM2に基づいてモータ18の回生電力(交流電力)を直流電力に変換してコンバータ31に供給するインバータ(INV)32と、コンバータ31−インバータ32間で入出力される直流電力の電圧を検出する直流電圧センサ33と、を備えている。
【0018】
図4は、制御部の一部を構成する電圧信号生成部の詳細構成ブロック図である。
この場合において、電圧信号生成部40は、通常の走行時には、架線11からパンタグラフを介して入力される交流電力と同一の位相及び同一の電圧(実効電圧)を有する電圧信号Vsvを生成し出力するとともに、セクション(無電区間)11Xを走行することによる架線電圧の消失時には、セクション11Xに侵入する直前に入力されていた交流電力と同一の位相及び同一の電圧(実効電圧)を有する電圧信号Vsvを仮想架線電圧信号として生成し、出力する。
【0019】
電圧信号生成部40は、電圧検出器27が検出した架線電圧に基づいて所定の閾値時間以上架線電圧が検出されなかった場合に、架線11から電力が供給されていないと判別して停電検知信号を“H”レベル(“1”)として出力する停電検知部41と、電圧検出器27が検出した架線電圧(瞬時電圧値の変動)に基づいて、架線11から供給される交流電力の位相を検出する電源位相検出部42と、電圧検出器27が検出した架線電圧に基づいて架線11から供給される交流電力の実効電圧を演算する電源電圧演算部43と、電源位相検出部42が検出した位相と後述する仮想架線電圧位相信号の位相との位相差を算出する減算器44と、減算器44の出力である位相差を所定範囲内に制限するリミッタ45と、後述の仮想架線電圧生成部51が出力した仮想架線電圧位相信号θvにリミッタ45の出力を加算する加算器46と、を備えている。
【0020】
減算器44、リミッタ45、加算器46は、これらの組み合わせにより位相変化率リミッタを構成しており、仮想架線電圧位相信号θvの値を徐々に電源位相検出部42の出力に近づける機能を有している。この電圧変化率リミッタの設定値は、電圧信号Vsvを使う補機の制御が異常なく追従可能な値(例えば180度/s)を設定する。例えば、この位相変化率リミッタの設定値を180度/sにする場合は、電圧信号生成部40の処理がマイクロコンピュータ上で実行されるプログラム等で1ms周期で実行されているとすると、リミッタ45の制限値を0.18度(=180度/1000ms)とすればよい。
【0021】
さらに電圧信号生成部40は、電源電圧演算部43が演算した実効電圧と後述する仮想架線電圧値信号Vvとの電圧差を算出する減算器47と、減算器47の出力である電圧差を所定範囲内(例えば、360度以内)に制限するリミッタ48と、電源電圧演算部43の出力にリミッタ48の出力を加算する加算器49と、を備えている。
減算器47、リミッタ48、加算器49は、これらの組み合わせにより電圧変化率リミッタを構成しており、仮想架線電圧値信号Vvの値を徐々に電源電圧検出部43の出力に近づける機能を有している。この電圧変化率リミッタの設定値は、電圧信号Vsvを使う補機の制御が異常なく追従可能な値(例えば、200V/s)を設定する。例えば、この電圧変化率リミッタの設定値を200V/sにする場合は、電圧信号生成部40の処理がマイクロコンピュータ上で実行されるプログラム等として1ms周期で実行されているとすると、リミッタ45の制限値を0.2V(=200V/1000ms)とすればよい。
【0022】
さらに電圧信号生成部40は、切替スイッチ50の一方の端子T11を介して加算器46の出力が入力され、切替スイッチ52の一方の端子T21を介して加算器49の出力が入力され、仮想架線電圧値信号Vv、仮想架線電圧位相信号θv及び架線電圧信号Vsvを出力する仮想架線電圧生成部51を備えている。
【0023】
ここで、仮想架線電圧生成部51は、例えば、制御入力を電源位相値及び電源電圧値(実効値)とするマイクロコンピュータ上で実行されるプログラムとして構成されており、この仮想架線電圧生成部51において、停電検知部41が架線11から電力が供給されていると判別されている期間中は、仮想架線電圧値信号Vvは、電源電圧演算部43が演算した架線11から供給される交流電力の実効電圧値と等しい値となっている。また、仮想架線電圧生成部51において、停電検知部41が架線11から電力が供給されていると判別されている期間中は、仮想架線電圧位相信号θvは、架線11から供給される交流電力の位相値と等しい値となっている。
【0024】
従って、仮想架線電圧生成部51において、停電検知部41が架線11から電力が供給されていると判別されている期間中に出力される架線電圧信号Vsvは、電源電圧演算部43が演算した架線11から供給される交流電力の実効電圧値と等しい値となっている。
【0025】
換言すれば、電圧信号生成部40が実効的な動作は行っていない場合と等価であり、電圧検出器27が検出した架線電圧がそのまま架線電圧信号Vsvとして出力されている状態となっている。
【0026】
また、仮想架線電圧生成部51において、停電検知部41が架線11から電力が供給されていないと判別されている期間中は、仮想架線電圧値信号Vvは、停電検知部41が架線11から電力が供給されていないと判別した直前の仮想架線電圧値信号Vvをそのまま出力し続け、仮想架線電圧位相信号θvは、停電検知部41が架線11から電力が供給されていないと判別した直前の仮想架線電圧位相信号θvをそのまま出力し続ける。
従って、仮想架線電圧生成部51において、停電検知部41が架線11から電力が供給されていないと判別されている期間中、すなわち、セクション通過中に出力される架線電圧信号Vsvは、電検知部41が架線11から電力が供給されていないと判別した直前の架線11から供給された交流電力の実効電圧値と等しい値を出力し続けることとなっている。
【0027】
以下においては、後述の回生準備動作の期間の開始から、回生電力が補機20A〜20Dに供給される無電区間であるセクション11Xを電気機関車101が通過するまでの期間を、回生処理期間と呼ぶものとし、この回生処理期間以外の期間を非回生処理期間と呼ぶものとする。
上記構成において、仮想架線電圧生成部51は、非回生処理期間には、電源位相検出部42の出力した架線11から供給される交流電力の位相と同一の仮想架線電圧位相信号θvを生成して減算器44及び切替スイッチ50の他方の端子T12に出力する。
同様に、非回生処理期間には、仮想架線電圧生成部51は、仮想架線電圧値信号Vv=0を減算器47及び切替スイッチ52の他方の端子T22に出力する。
【0028】
これらの結果、非実効回生処理期間においては、仮想架線電圧生成部51には、加算器46の出力及び加算器49の出力が入力される。そして、仮想架線電圧生成部51は、加算器46及び加算器49の出力に基づいて実効的に制御に影響を与えない(=実効的に零)架線電圧信号Vsvを出力することとなる。
このとき、仮想架線電圧生成部51が出力する仮想架線電圧位相信号θv及び仮想架線電圧値信号Vvは、リミッタ45及びリミッタ48が実効的に動作していない場合には、それぞれ電源位相検出部42が検出した架線11から供給される交流電力の位相及び電源電圧演算部43が演算した架線11から供給される交流電力の実効電圧と等しい値を有している。
【0029】
また、仮想架線電圧生成部51は、セクション11Xの通過時(無電期間:停電時)には、停電検知信号に基づいて、切替スイッチ50は、端子T12側に切り替えられ、切替スイッチ52は、端子T22側に切り替えられている。したがって、仮想架線電圧生成部51には、自己が出力した仮想架線電圧位相信号θv及び仮想架線電圧値信号Vvが入力されることとなる。
【0030】
この結果、セクション11Xの通過時(無電期間:停電時)においては、停電検知部41が架線11から電力が供給されていないと判別した直前まで入力されていた電源位相検出部42の出力した架線11から供給される交流電力の位相と同一の位相に相当する位相及び直前まで入力されていた電源電圧演算部43が演算した架線11から供給される交流電力の実効電圧と同一の電圧を有する架線電圧信号Vsvを出力し続けることとなる。
【0031】
図5は、コンバータ制御部として機能する制御部の機能構成ブロック図である。
制御部23は、非回生処理期間において車両制御装置21から入力される直流リンク電圧指令信号VdcRefに基づいて、直流電圧センサ33により検出した直流電圧(直流リンク電圧)が直流リンク電圧指令信号VdcRefに相当する電圧となるように直流リンク電圧制御信号を出力するコンバータ31用の直流リンク電圧制御部61Cと、直流リンク電圧制御信号及び電源位相検出部の出力に基づいてコンバータ電流指令信号IsRefを生成し出力するコンバータ電流指令生成部62と、を備えている。
【0032】
また、制御部23は、二次巻線16Bに設けられた電流センサ24の出力及びコンバータ電流指令信号に基づいてコンバータ電流制御信号IsRefを出力するコンバータ電流制御部63と、電源電圧演算部の出力とコンバータ電流制御部の出力を加算する加算器64と、加算器64の出力信号に仮想電圧生成部が出力した架線電圧信号Vsvを加算する加算器65と、加算器65の出力に基づいてコンバータPWM制御信号PWM1をコンバータに出力するコンバータPWM制御部66と、を備えている。
【0033】
図6は、インバータ制御部として機能する制御部の機能構成ブロック図である。
制御部23は、回生処理期間において車両制御装置21から入力される直流リンク電圧指令信号VdcRefに基づいて、直流電圧センサ33により検出した直流電圧(直流リンク電圧)が直流リンク電圧指令信号VdcRefに相当する電圧となるように直流リンク電圧制御信号を出力するインバータ32用の直流リンク電圧制御部61Iと、直流リンク電圧制御部61Iの出力に牽引力指令信号を加算して出力する加算部71と、を備えている。
【0034】
また、制御部23は、加算部71の出力に基づいてインバータ電流指令信号としてのq軸電流指令信号IqRef及びd軸電流指令信号IdRefを生成し出力するインバータ電流指令生成部72と、q軸電流指令信号IqRef及びd軸電流指令信号IdRefに基づいてインバータ電流制御信号を出力するインバータ電流制御部73と、インバータ電流制御部73の出力に基づいてインバータPWM制御信号PWM2をインバータに出力するPWM制御部74と、を備えている。
【0035】
上記構成において、非回生処理期間においては、直流リンク電圧制御部61Cは動作し、直流リンク電圧制御部61Iは停止(出力0)する。
一方、回生処理期間においては、直流リンク電圧制御部61Cは停止(出力0)し、直流リンク電圧制御部61Iは動作する。このとき、牽引力指令信号は牽引力=0となるように設定されている。
【0036】
続いて、第1実施形態の動作を説明する。
図7は、第1実施形態の動作説明図である。
時刻t1において、地上設備から軌道回路を用いてセクション11Xに至ることが予告されるタイミング以前においては、一次巻線16Aに供給される架線電圧の位相と二次巻線16Bに供給される電圧の位相とは、一致している。
【0037】
そして時刻t1において、地上子ET及び車上子TT(
図1参照)を介した地上設備からのセクション制御信号に基づいて、セクション11Xに至ることが予告されると、コンバータ電流指令信号(IsRef)及びインバータ電流指令信号(IqRef)は、モータ18のトルク(電動機トルク)が徐々に減少するように制御する。すなわち、コンバータのコンバータ電流指令生成部62は、コンバータ31からインバータ32に流れる直流側電流(=直流リンク電流)が徐々に零になるように制御を行う。
【0038】
この結果、コンバータ電流指令生成部62は、時刻t2において、コンバータの直流側電流(=直流リンク電流)がほぼ零となるように制御を行い、インバータ電流指令生成部72は、時刻t2において、インバータ32からモータ18に流れる三相交流側電流がほぼ零となるように制御を行う。
そして、時刻t2において、制御部23は、主電力変換装置17の動作を回生動作モードとするために回生準備動作に移行する。すなわち、時刻t2において、非回生処理期間から回生処理期間に移行する。
【0039】
これにより、動作状態となった直流リンク電圧制御部(インバータ)61Iは、コンバータ31からトランス16に流れるコンバータ31の交流側電流が徐々に増加するように制御を行う。また、インバータ電流指令生成部72は、モータ18が生成しコンバータ31に出力する回生電流である直流側電流(=直流リンク電流)が徐々に増加するように制御を行う。
【0040】
これにより、非通電区間であるセクション11Xに機関車101が至った場合でも、モータ18の回生電力をトランス16を介して副電力変換装置19A〜19Dに供給することが可能となり、副電力変換装置19A〜19Dは、見かけ上、架線11から継続して電力が供給され続けている状態を維持する準備が完了する。
【0041】
そして、回生準備動作が確実に完了した時刻t3において、遮断器15は開状態(オフ状態:遮断状態)とされる。
したがって、時刻t3〜時刻t4の期間においては、架線11からパンタグラフ12及びトランス16の一次巻線16Aを介した副電力変換装置19A〜19Dへの電力供給は行われていないが、主電力変換装置17が、モータ18の回生電力をトランス16を介して副電力変換装置19A〜19Dに供給していることとなる。したがって、副電力変換装置19A〜19Dは、補機20A〜補機20Dへの電力供給を継続し、補機20A〜補機20Dは動作を継続した状態を維持している。
【0042】
一方、時刻t3〜時刻t4の期間においては、未だ電圧検出器27は、架線電圧を検出しているので、停電検知信号は“0”レベルのままとなっている。
【0043】
そして、時刻t4において、電気機関車101が無電区間であるセクション11Xに至ると、電圧検出器27は、架線電圧を検出できなくなり、停電検知信号が“1”レベルに遷移する。
この結果、停電検知信号が“1”レベルとなったので、切替スイッチ50は、端子T12側に切り替えられる。また、切替スイッチ52は、端子T22側に切り替えられている。したがって、仮想架線電圧生成部51には、自己が出力した仮想架線電圧位相信号θV及び仮想架線電圧値信号Vvが入力されることとなる。
【0044】
この結果、仮想架線電圧生成部51は、直前まで入力されていた電源位相検出部42の出力した架線11から供給される交流電力の位相と同一の位相に相当する位相及び直前まで入力されていた電源電圧演算部43が演算した架線11から供給される交流電力の実効電圧と同一の電圧を有する架線電圧信号Vsvを加算器65を介してPWM制御部66に出力し続けることとなる。
【0045】
このとき、コンバータ電流制御部63の出力は零となっているので、実効的にPWM制御部66には、架線電圧信号Vsvが出力されることとなる。これにより、コンバータ31は、インバータ32が出力しているモータ18の回生電力を、架線11Aから電力供給を受けていた状態と同様(位相及び電圧)として、二次巻線16B及び三次巻線16Cを介して、セクション11X通過期間中(時刻t4〜時刻t5)、副電力変換装置19A〜19Dを介して補機20A〜20Dに供給する。したがって、補機20A〜20Dは動作を継続させることとなる。
【0046】
そして、時刻t5において、電気機関車101がセクション11Xを通過し終え、架線11Bに至ると、電圧検出器27は、再び架線電圧を検出することとなり、停電検知信号が“0”レベルに遷移する。
【0047】
この時点においては、
図7に示すように、架線11Bから供給される交流電力の位相及び電圧は、架線11Aから供給されていた交流電力の位相及び電圧とは異なるものとなっている。このため、制御部23は、主電力変換装置17からのモータ18の回生電力の補機20A〜20Dへの供給を継続したままとする。
【0048】
このとき、仮想架線電圧生成部51には、再び加算器46及び加算器49を介して、電源位相検出部42及び電源電圧演算部43の出力が入力されることとなる。したがって、仮想架線電圧生成部51は架線電圧信号Vsvを徐々に電圧検出器27で検出した電圧波形に近づけていく。そして、コンバータ31が出力している交流側電力である回生電力の位相が架線11Bから供給される交流電力の位相および電圧と等しくなったと判断される(=判断可能な)時刻を時刻t6とする。
そこで、制御部23は、時刻t7において、架線電圧信号Vsvが電圧検出器27で検出した電圧波形と一致したことを検出すると、遮断器15を再び閉状態(オン状態)とする。
【0049】
コンバータ電流指令生成部62は、コンバータ電流指令信号(IsRef)によりトランス16側に出力している回生電力の電流量が徐々に減少し、零となるように制御する。また、インバータ電流指令生成部72は、インバータ電流指令信号(IqRef、IdRef)によりコンバータ31側に出力している回生電力の電流量が徐々に減少し、零となるように制御する。
【0050】
この結果、コンバータ電流指令生成部62は、モータ18の回生電力による電流が零となった時刻t8において、コンバータ31の直流側電流(=直流リンク電流)がほぼ零となるように制御を行う。また、インバータ電流指令生成部72は、時刻t8において、インバータ32の直流側電流がほぼ零となるように制御を行う。
【0051】
そして、時刻t8において、制御部23は、主電力変換装置17の動作を回生動作モードから通常動作モードに移行する。すなわち、制御部23は架線11(架線11B)から供給された電力をトランス16の一次巻線16A及び三次巻線16Cを介して、副電力変換装置19A〜19Dに供給し、副電力変換装置19A〜19Dが対応する補機20A〜20Dに電力を供給する状態である通常動作モードに移行する。
【0052】
以上の説明のように、本第1実施形態によれば、電気機関車101が無電区間であるセクション11Xを通過している場合であっても、架線11からの電力供給に代えて、駆動用のモータ18による回生電力をインバータ32、コンバータ31、トランス16の二次巻線16B及び三次巻線16Cを介して、副電力変換装置19A〜19D、ひいては、補機20A〜20Dに電力を供給できる。したがって、補機の動作を止めることなく、セクション11Xを通過できるようになり、補機としての空気調和装置等の大電力の装置の復帰動作等も不要となり、快適な運行が行える。
【0053】
[2]実施形態の変形例
[2.1]変形例
図2に示した回路において、遮断器15の開状態(オフ状態:遮断状態)、すなわち、トランス16の一次巻線16Aが解放状態においては、主電力変換装置17を動作させると、スイッチング動作に伴って一次巻線16Aに大きなサージ電圧が発生する場合がある。
【0054】
図8は、サージ電圧発生時の説明図である。
図8に示すように、PWM制御波形P1を入力すると、目的とする出力電圧波形P2に対して大きなサージ電圧P3が発生している。
そこで、本変形例は、このサージ電圧P3を抑制するために、遮断器15が閉状態(オン状態)である場合と、開状態(オフ状態)である場合とで、PWM波形生成時のキャリア周波数を変更している。
【0055】
以下、詳細に説明する。
図9は、実施形態の変形例の動作説明図である。
時刻t11において、地上設備からセクション11Xに至ることが予告されると、コンバータ電流指令信号及びインバータ電流指令信号は、モータ18のトルク(電動機トルク)が徐々に減少するように制御する。すなわち、コンバータ電流指令生成部62は、コンバータ31からインバータ32に流れる直流側電流(=直流リンク電流)が徐々に零になるように制御を行う。
【0056】
この結果、コンバータ電流指令生成部62は、時刻t12において、コンバータの直流側電流(=直流リンク電流)がほぼ零となるように制御を行い、インバータ電流指令生成部は、時刻t12において、インバータ32からモータ18に出力する三相交流側電流がほぼ零となるように制御を行う。
【0057】
そして、時刻t12において、制御部23は、主電力変換装置17の動作を回生動作モードとするために回生準備動作に移行する。すなわち、時刻t12において、非回生処理期間から回生処理期間に移行する。
【0058】
このとき、トランス16の電気的固有周波数と、コンバータ31のキャリア周波数が近い値であると、トランス16内で共振現象が発生し、通常よりも大きな電圧が発生することがある。これを回避するため、コンバータ電流指令生成部62は、通常動作時よりも、PWM制御部66で用いるキャリア周波数を高く変更する(回生動作時キャリア周波数>通常動作時キャリア周波数)。直流リンク電圧制御部(インバータ)61Iは、コンバータ31からトランス16に流れるコンバータ31の交流側電流が徐々に増加するように制御を行う。また、インバータ電流指令生成部72は、モータ18が生成しコンバータ31に出力する回生電流である直流側電流(=直流リンク電流)が徐々に増加するように制御を行う。
【0059】
このようにトランス16の電気的固有周波数と、コンバータ31のキャリア周波数が近い値である場合に、通常動作時キャリア周波数よりも高い回生動作時キャリア周波数を用いることにより、トランス16内部で発生する共振現象に起因する大電圧の発生、すなわち、
図8に示したように、トランス16の出力電圧波形P1に対して、それを大きく超える電圧P3が発生することを抑制できる。
【0060】
図10は、第1変形例によるサージ電圧発生時の説明図である。
図10に示すように、PWM制御波形P11を入力しても、目的とする出力電圧波形P2に対して発生するサージ電圧P13が抑制されていることがわかる。
【0061】
そして、無電区間であるセクション11Xに機関車101が至った場合でも、モータ18の回生電力が、インバータ32、コンバータ31及びトランス16を介して副電力変換装置19A〜19Dに供給される。したがって、副電力変換装置19A〜19Dにおいては、見かけ上、架線11から継続して電力が供給され続けている状態を維持する準備が完了する。
【0062】
そして、回生準備動作が確実に完了した時刻t3において、遮断器15は開状態(オフ状態:遮断状態)とされる。
したがって、時刻t13〜時刻t14の期間においては、架線11からパンタグラフ12及びトランス16の一次巻線16Aを介した副電力変換装置19A〜19Dへの電力供給は行われていない。しかしながら、主電力変換装置17がモータ18の回生電力をトランス16を介して副電力変換装置19A〜19Dに供給している。この結果、副電力変換装置19A〜19Dは、補機20A〜補機20Dへの電力供給を継続し、補機20A〜補機20Dは動作を継続した状態を維持している。
【0063】
一方、未だ電圧検出器27は、架線電圧を検出しているので、時刻t13〜時刻t14の期間においては、停電検知信号は“0”レベルのままとなっている。
【0064】
そして、時刻t14において、電気機関車101が無電区間であるセクション11Xに至ると、電圧検出器27は、架線電圧を検出できなくなり、停電検知信号が“1”レベルに遷移する。
この結果、停電検知信号が“1”レベルとなったので、切替スイッチ50は、端子T12側に切り替えられる。また、切替スイッチ52は、端子T22側に切り替えられている。したがって、仮想架線電圧生成部51には、自己が出力した仮想架線電圧位相信号θV及び仮想架線電圧値信号Vvが入力されることとなる。
【0065】
これらの結果、仮想架線電圧生成部51は、直前まで入力されていた電源位相検出部42の出力した架線11から供給される交流電力の位相と同一の位相に相当する位相及び直前まで入力されていた電源電圧演算部43が演算した架線11から供給される交流電力の実効電圧と同一の電圧を有する架線電圧信号Vsvを加算器65を介してPWM制御部66に出力し続けることとなる。
【0066】
このとき、コンバータ電流制御部63の出力は零となっているので、実効的にPWM制御部66には、架線電圧信号Vsvが出力されることとなる。すなわち、コンバータ31は、インバータ32が出力しているモータ18の回生電力を、架線11Aから電力供給を受けていた状態と同様(位相及び電圧)として、二次巻線16B及び三次巻線16Cを介して、セクション11X通過期間中(時刻t14〜時刻t15)、副電力変換装置19A〜19Dを介して補機20A〜20Dに供給して、動作を継続させることとなる。
【0067】
そして、時刻t15において、電気機関車101がセクション11Xを通過し終え、架線11Bに至ると、電圧検出器27は、再び架線電圧を検出することとなり、停電検知信号が“0”レベルに遷移する。
【0068】
この時点においては、
図10に示すように、架線11Bから供給される交流電力の位相及び電圧は、架線11Aから供給されていた交流電力の位相及び電圧とは異なるものとなっている。したがって、制御部23は、主電力変換装置17からのモータ18の回生電力の補機20A〜20Dへの供給を継続したままとする。
【0069】
このとき、仮想架線電圧生成部51には、再び加算器46及び加算器49を介して、電源位相検出部及び電源電圧演算部の出力が入力されることとなり、架線電圧信号Vsvは、徐々に電圧検出器27で検出した電圧波形に近づけられていく。そして、コンバータ31が出力している交流側電力である回生電力の位相が架線11Bから供給される交流電力の位相及び電圧と等しくなったと判断される(=判断可能な)時刻を時刻t16とする。
そこで、制御部23は、時刻t17において、架線電圧信号Vsvが電圧検出器27で検出した電圧波形と実効的に一致したことを検出すると、遮断器15を再び閉状態(オン状態)とする。
【0070】
コンバータ電流指令生成部62は、コンバータ電流指令信号によりトランス16側に出力している回生電力の電流量が徐々に減少し、零となるように制御し、インバータ電流指令生成部72は、INV電流指令信号によりコンバータ31側に出力している回生電力の電流量が徐々に減少し、零となるように制御する。
【0071】
この結果、コンバータ電流指令生成部62は、モータ18の回生電力による電流が零となった時刻t8において、コンバータ31の出力電流(=直流リンク電流)がほぼ零となるように制御を行い、インバータ電流指令生成部72は、時刻t18において、インバータ32の出力電流がほぼ零となるように制御を行う。
【0072】
そして、時刻t18において、制御部23は、主電力変換装置17の動作を回生動作モードから通常動作モードに移行する。
この段階においては、遮断器15は、既に閉状態(オン状態)であるため、PWM制御部66で用いるキャリア周波数及びPWM制御部74で用いるキャリア周波数を再び通常動作時キャリア周波数にさげ、主電力変換装置17の動作を回生動作モードから、架線11(架線11B)から供給された電力をトランス16の一次巻線16A及び三次巻線16Cを介して、副電力変換装置19A〜19Dに供給し、副電力変換装置19A〜19Dが対応する補機20A〜20Dに電力を供給する通常動作モードに移行する。
【0073】
以上の説明のように、本実施形態の第1変形例によれば、実施形態の効果に加えて、サージ電圧の発生を抑制でき、より安定して補機を動作させることが可能となる。
【0074】
[2.2]他の変形例
以上の説明においては、二つの主電力変換装置が同一の電気機関車101に搭載されているものとして説明したが、複数の電気機関車101に別々に搭載されているように構成することも可能である。
さらに3個以上の主電力変換装置を搭載する場合についても同様に適用が可能である。
さらにまた、複数の主電力変換装置が搭載されている場合には、回生電力の補機への供給は、複数の主電力変換装置のうち、少なくともいずれか一つが行うようにされているようにしてもよい。
【0075】
また、鉄道車両の走行速度を検出する速度検出部を備えて、鉄道車両の無電区間の通過時の走行速度が所定の走行速度未満の場合には、トランスを介した副電力変換装置への前記駆動用モータの回生電力の供給を禁止するようにしてもよい。これにより、惰行状態である無電区間において、鉄道車両の速度が必要以上に低下するのを防止することができる。
【0076】
[3]第2実施形態
本第2実施形態が上記第1実施形態と異なる点は、無電区間における回生動作時に車輪が滑ってしまう滑走が検出された場合に滑走を抑制して回生動作を確実に行わせている点である。
【0077】
上述した第1実施形態の制御を行う場合には、回生動作により車両に対してはブレーキがかかった状態となるが、補助電源、客車電源等の消費電力が高くブレーキ力が強くなってしまったり、レールと車輪との間の粘着係数が小さくなってしまったりしていると、滑走状態となることがある。
【0078】
このように滑走状態となると、レールや車輪を痛めるばかりで無く、必要な回生電力(回生エネルギー)も得られないこととなっていた。
そこで、本第2実施形態においては、滑走状態を抑制して効率的に回生動作を行わせるようにしている。
【0079】
以下、具体的に説明する。
図11は、第2実施形態において制御部の一部を構成する電圧信号生成部の詳細構成ブロック図である。
図11において、
図4と同様の部分には、同一の符号を付すものとする。
第2実施形態の電圧信号生成部40が第1実施形態の電圧信号生成部40と異なる点は、モータ18の出力に基づいて、滑走状態であるか否かを検出する滑走検出部71と、滑走検出部71が滑走状態を検出している場合に架線電圧信号Vsvを制限して、滑走時架線電圧信号Vsv’(<Vsv)を出力するパワー制御部72と、を備えた点である。
【0080】
図12は、第2実施形態においてコンバータ制御部として機能する制御部の詳細構成ブロック図である。
図12において、
図5と異なる点は、加算器65が、加算器64の出力信号にパワー制御部72が出力した架線電圧信号Vsvあるいは滑走時架線電圧信号Vsv’を加算する点である。
【0081】
続いて、第2実施形態の動作を説明する。
以下の説明においては、理解の容易のため、主電力変換装置を二つ備えている場合(N=2)、すなわち、主電力変換装置17−1〜17−2を備えているものとし、遮断器15が開状態(オフ状態:遮断状態)となっている期間(
図2において、時刻t3〜時刻t7)における動作のみを説明する。
また、本第2実施形態においては、主電力変換装置17−1側のモータ18−1に対応する車輪14で滑走が検出された場合について説明する。
【0082】
図13は、第2実施形態の動作説明図である。
遮断器15が開状態(オフ状態:遮断状態)となっている期間において、時刻t21に示すように、主電力変換装置17−1側のモータ18−1に対応する滑走検知部71により滑走が検知されると、主電力変換装置17−1側のパワー制御部72は、仮想架線電圧Vsvを制限して、滑走時仮想架線電圧Vsv’(<Vsv)を主電力変換装置17−1側の加算器65に出力する。
これにより、主電力変換装置17−1側において、加算器65は、主電力変換装置17−1側の加算器64の出力信号にパワー制御部72が出力した滑走時仮想架線電圧Vsv’を加算する。
【0083】
この結果、時刻t21において、仮想架線電圧生成部51は、直前まで入力されていた電源位相検出部42の出力した架線11から供給される交流電力の位相と同一の位相に相当する位相及び直前まで入力されていた電源電圧演算部43が演算した架線11から供給される交流電力の実効電圧と同一の電圧を有する架線電圧信号Vsvを出力していたのをやめて、電圧架線電圧信号Vsvよりも低い電圧を有する架線電圧信号Vsv’を加算器65を介してPWM制御部66に出力することとなる。
【0084】
この結果、主電力変換装置17−1側のコンバータ31(
図13中、CNV1と表記)の回生電力が低下し、この回生電力の低下に伴って電力変換装置17−1側のインバータ(
図13中、INV1と表記)の回生出力が低下し、モータ18のトルクが小さくなって、滑走状態を収束させる側(滑走を再粘着させる側)に動作することとなる。
【0085】
一方、主電力変換装置17−2側のコンバータ31(
図13中、CNV2と表記)の回生電力は、主電力変換装置17−1側のコンバータ31(CNV1)の回生電力が低下した分を補うように、回生電力を増加させる。この回生電力の増加に伴って電力変換装置17−2側のインバータ(
図13中、INV2と表記)の回生出力が増加する。
【0086】
これにより、主電力変換装置17−1側及び主電力変換装置17−2側の一対のコンバータ31は、主電力変換装置17−1側及び主電力変換装置17−2側の一対のインバータ32が出力しているモータ18の回生電力を、トータルとして架線11Aから電力供給を受けていた状態と同様(位相及び電圧)として、二次巻線16B及び三次巻線16Cを介して、セクション11X通過期間中(時刻t4〜時刻t5)、副電力変換装置19A〜19Dを介して補機20A〜20Dに供給する。したがって、補機20A〜20Dは動作を継続させることとなる。
【0087】
そして、時刻t22に示すように、滑走状態が解消し、主電力変換装置17−1側のパワー制御部72は、仮想架線電圧Vsv’に代えて、再び仮想架線電圧Vsvを電力変換装置17−1側の加算器65に出力するので、主電力変換装置17−1及び主電力変換装置17−2は、再び時刻t21の前と同様の状態に戻ることとなる。
【0088】
以上の説明のように、本第2実施形態によれば、駆動状態にあった電力変換装置において、滑走を抑制しつつ、補機20A〜20Dへの電力供給を継続できるので、レールや車輪を痛めることもなく、必要な回生電力(回生エネルギー)を得ることができる。
以上の説明においては、主電力変換装置17が2個の場合であったが、3個以上であっても同様に適用が可能である。
【0089】
[4]第3実施形態
次に再び
図2を参照して、第3実施形態にかかる機関車の電気系統について説明する。
本第3実施形態が第2実施形態と異なる点は、待機状態(非駆動状態)にある主電力変換装置を、駆動状態にある主電力変換装置に対応する車輪が滑走状態となった場合に駆動することで滑走状態を抑制するようにした点である。
以下の説明においては、説明の簡略化のため、主電力変換装置を三つ備えている場合(N=3)、すなわち、主電力変換装置17−1〜17−3を備えているものとし、遮断器15が開状態(オフ状態:遮断状態)となっている期間(
図2において、時刻t3〜時刻t7)における動作のみを説明する。
また、本第3実施形態においては、二つの主電力変換装置17−1、17−2(
図2参照)が駆動状態となっているものとし、一つの主電力変換装置17−3が待機状態となっているものとして主電力変換装置17−1側のモータ18−1に対応する車輪14で滑走が検出された場合について説明する。
【0090】
ここで、主電力変換装置17−3は、主電力変換装置17−1及び主電力変換装置17−2が滑走状態の影響を受けずに正常に動作している場合には、電力変換動作は行っていない、待機状態にあるものとする。なお、三つの主電力変換装置のうち、いずれか一つあるいは二つを待機状態の主電力変換装置とするかは、任意で有り、例えば、使用頻度を均一にするため順番で待機状態の主電力変換装置とすることが可能である。
【0091】
続いて、第3実施形態の動作を説明する。
以下の説明においても、理解の容易のため、遮断器15が開状態(オフ状態:遮断状態)となっている期間(
図2において、時刻t3〜時刻t7)における動作のみを説明する。また、本第3実施形態においては、初期状態において、二つの主電力変換装置17−1、17−2(
図2参照)は、対となって一つの主電力変換装置として動作しているものとする。
【0092】
図14は、第3実施形態の動作説明図である。
遮断器15が開状態(オフ状態:遮断状態)となっている期間において、時刻t31に示すように、主電力変換装置17−1側のモータ18−1に対応する滑走検知部71により滑走が検知されると、主電力変換装置17−1側のパワー制御部72は、仮想架線電圧Vsvを制限して、滑走時仮想架線電圧Vsv’(<Vsv)を主電力変換装置17−1側の加算器65に出力する。
【0093】
これにより、主電力変換装置17−1側において、加算器65は、主電力変換装置17−1側の加算器64の出力信号にパワー制御部72が出力した滑走時仮想架線電圧Vsv’を加算する。
【0094】
これにより、時刻t31において、仮想架線電圧生成部51は、直前まで入力されていた電源位相検出部42の出力した架線11から供給される交流電力の位相と同一の位相に相当する位相及び直前まで入力されていた電源電圧演算部43が演算した架線11から供給される交流電力の実効電圧と同一の電圧架線電圧信号Vsvの出力していたのをやめて、電圧架線電圧信号Vsvよりも低い電圧を有する架線電圧信号Vsv’を加算器65を介してPWM制御部66に出力することとなる。
【0095】
この結果、主電力変換装置17−1側のコンバータ31(
図14中、CNV1と表記)の回生電力が低下し、この回生電力の低下に伴って電力変換装置17−1側のインバータ(
図14中、INV1と表記)の回生出力が低下し、モータ18のトルクが小さくなって、滑走状態を収束させる側に動作することとなる。
【0096】
一方、主電力変換装置17−2側のコンバータ31(
図13中、CNV2と表記)の回生電力は、主電力変換装置17−1側のコンバータ31(CNV1)の回生電力が低下した分を補うように、回生電力を増加させる。この回生電力の増加に伴って電力変換装置17−2側のインバータ(
図13中、INV2と表記)の回生出力が増加する。
【0097】
これにより、主電力変換装置17−1側及び主電力変換装置17−2側の一対のコンバータ31は、主電力変換装置17−1側及び主電力変換装置17−2側の一対のインバータ32が出力しているモータ18の回生電力を、トータルとして架線11Aから電力供給を受けていた状態と同様(位相及び電圧)として、二次巻線16B及び三次巻線16Cを介して、セクション11X通過期間中(時刻t4〜時刻t5)、副電力変換装置19A〜19Dを介して補機20A〜20Dに供給する。したがって、補機20A〜20Dは動作を継続させることとなる。
【0098】
しかしながら、時刻t32に示すように、主電力変換装置17−1側のモータ18−1に対応する滑走検知部71により滑走が検知されている状態で、さらに、主電力変換装置17−2側のモータ18−1に対応する滑走検知部71により滑走が検知されると、主電力変換装置17−2側のパワー制御部72は、仮想架線電圧Vsvを制限して、滑走時仮想架線電圧Vsv’(<Vsv)を主電力変換装置17−2側の加算器65に出力する。
【0099】
これにより、主電力変換装置17−2側においても、加算器65は、主電力変換装置17−2側の加算器64の出力信号にパワー制御部72が出力した滑走時仮想架線電圧Vsv’を加算する。
【0100】
これにより時刻t32において、仮想架線電圧生成部51は、直前まで入力されていた電源位相検出部42の出力した架線11から供給される交流電力の位相と同一の位相に相当する位相及び直前まで入力されていた電源電圧演算部43が演算した架線11から供給される交流電力の実効電圧と同一の電圧を有する架線電圧信号Vsvを出力していたのをやめて、架線電圧信号Vsvの電圧よりも低い電圧を有する架線電圧信号Vsv’を加算器65を介してPWM制御部66に出力することとなる。
【0101】
この結果、主電力変換装置17−2側のコンバータ31(
図14中、CNV2と表記)の回生電力が低下し、この回生電力の低下に伴って電力変換装置17−2側のインバータ(
図14中、INV2と表記)の回生出力が低下し、モータ18のトルクが小さくなって、滑走状態を収束させる側に動作することとなる。
【0102】
そして、主電力変換装置17−3側のコンバータ31(
図14中、CNV3と表記)の回生電力は、主電力変換装置17−1側のコンバータ31(CNV1)の回生電力が低下した分及び主電力変換装置17−1側のコンバータ31(CNV1)の回生電力が低下した分を補うように、回生電力の出力を開始し、回生電力を増加させる。この回生電力の増加に伴って電力変換装置17−3側のインバータ(
図14中、INV3と表記)の回生出力が増加する。
【0103】
これにより、主電力変換装置17−1、主電力変換装置17−2及び主電力変換装置17−3の三つのコンバータ31は、主電力変換装置17−1側、主電力変換装置17−2側及び主電力変換装置17−3の三つのインバータ32が出力しているモータ18の回生電力を、トータルとして架線11Aから電力供給を受けていた状態と同様(位相及び電圧)として、二次巻線16B及び三次巻線16Cを介して、セクション11X通過期間中(時刻t4〜時刻t5)、副電力変換装置19A〜19Dを介して補機20A〜20Dに供給する。したがって、補機20A〜20Dは動作を継続させることとなる。
【0104】
そして、時刻t33に示すように、主電力変換装置17−1側のモータ18−1に対応する車輪の滑走状態が解消すると、主電力変換装置17−1側のパワー制御部72は、架線電圧信号Vsv’に代えて、再び架線電圧信号Vsvを電力変換装置17−1側の加算器65に出力するので、主電力変換装置17−3側のコンバータ31(
図14中、CNV3と表記)の回生電力は、主電力変換装置17−1側のコンバータ31(CNV1)の回生電力が低下した分を補うのに十分なように、回生電力を減少させる。この回生電力の減少に伴って電力変換装置17−3側のインバータ(
図14中、INV3と表記)の回生出力も減少する。
【0105】
これにより、主電力変換装置17−1、主電力変換装置17−2及び主電力変換装置17−3の三つのコンバータ31は、主電力変換装置17−1側、主電力変換装置17−2側及び主電力変換装置17−3の三つのインバータ32が出力しているモータ18の回生電力を、再びトータルとして架線11Aから電力供給を受けていた状態と同様(位相及び電圧)として、二次巻線16B及び三次巻線16Cを介して、セクション11X通過期間中(時刻t4〜時刻t5)、副電力変換装置19A〜19Dを介して補機20A〜20Dに供給する。したがって、補機20A〜20Dは動作を継続させることとなる。
【0106】
そして、時刻t34に示すように、主電力変換装置17−1側のモータ18−1に対応する車輪の滑走状態が解消すると、主電力変換装置17−3側のパワー制御部72は、架線電圧信号Vsv’に代えて、再び架線電圧信号Vsvを電力変換装置17−3側の加算器65に出力するので、主電力変換装置17−1、主電力変換装置17−2及び主電力変換装置17−1は、回生電力供給比率が均等になるように動作する。
【0107】
これは、再び時刻t31の前と同じ状態に戻すと、一対の主電力変換装置だけでは、負荷が大きすぎて、再び滑走状態に移行する虞があるので、当該無電区間においてこれを回避するためである。
【0108】
以上の説明のように、本第3実施施形態によれば、3個の主電力変換装置17を備えた鉄道車両において、滑走を抑制しつつ、補機20A〜20Dへの電力供給を継続できるので、レールや車輪を痛めることもなく、必要な回生電力(回生エネルギー)を得ることができるともに、同一の無電区間で再び滑走状態に移行するのを抑制できる。
以上の説明においては、主電力変換装置が3個の場合であったが、主電力変換装置を2個備えた鉄道車両の場合であっても、いずれか一方の主電力変換装置のみを駆動している状態で、当該主電力変換装置に対応する車輪が滑走したことを検知した場合に、他方の非駆動状態にある主電力変換装置を駆動させて、滑走を抑制しつつ、補機への電力供給を継続させることも可能である。
同様に主電力変換装置17が4個以上であっても同様に適用が可能である。この場合に、非駆動状態にある主電力変換装置17が複数存在する場合には、いずれか一つあるいは複数の主電力変換装置17を駆動状態に移行させるかは任意である。
【0109】
また、以上の説明においては、遮断器の接地側には、一つのトランス16の一つの一次巻線16Aが電気的に接続されている場合について説明したが、複数のトランスの複数の一次巻線が遮断器の接地側に電気的に接続されている場合でも同様に適用が可能である。
【0110】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。