特許第6510080号(P6510080)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510080
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】二重コーティングを備えた拡張アンカー
(51)【国際特許分類】
   F16B 13/06 20060101AFI20190422BHJP
   E04B 1/41 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   F16B13/06 B
   E04B1/41 503G
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-563979(P2017-563979)
(86)(22)【出願日】2016年6月7日
(65)【公表番号】特表2018-523065(P2018-523065A)
(43)【公表日】2018年8月16日
(86)【国際出願番号】EP2016062851
(87)【国際公開番号】WO2016198378
(87)【国際公開日】20161215
【審査請求日】2017年12月8日
(31)【優先権主張番号】15171632.1
(32)【優先日】2015年6月11日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591010170
【氏名又は名称】ヒルティ アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】グスタッハ ペーター
(72)【発明者】
【氏名】ベッケルト ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンクラー ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】ショルツ パトリック
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−157106(JP,A)
【文献】 特表2009−527623(JP,A)
【文献】 特開2006−348314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 13/00−13/14
F16B 23/00−43/02
E04B 1/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
− 第1の要素としての少なくとも1つのアンカー体(20)と、
− 第2の要素としての少なくとも1つのボルト(10)とを備えた拡張アンカーであって、前記ボルト(10)が拡張体(12)を有しており、前記拡張体(12)が前記アンカー体(20)に対して引抜方向(101)に移動されると、前記拡張体(12)が前記アンカー体(20)を径方向外方へと押しやり、
内層(61)と当該内層(61)を覆う外層(62)とを備えた二重コーティングが、前記第1及び第2の要素の一方の要素上で且つ前記第1及び第2の要素の他方の要素との接触領域に設けられており、前記外層(62)が、前記他の要素に対して摩擦係数(μ2)を有しており、前記摩擦係数(μ2)が、前記他の要素に対する前記内層(61)の摩擦係数(μ1)より大きいことを特徴とする拡張アンカー。
【請求項2】
前記他の要素に対する前記外層(62)の前記摩擦係数(μ2)が、前記他の要素に対する前記内層(61)の前記摩擦係数(μ1)よりも、少なくとも20%、50%、または100%大きいことを特徴とする請求項1に記載の拡張アンカー。
【請求項3】
前記二重コーティングが、少なくとも前記拡張体(12)に設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の拡張アンカー。
【請求項4】
前記アンカー体(20)が、前記ボルト(10)を少なくとも部分的に取り囲む拡張スリーブであり、
前記拡張体(12)が拡張コーンであることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の拡張アンカー。
【請求項5】
ボルトタイプの拡張アンカーであることを特徴とする請求項1から4までのいずれか1項に記載の拡張アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の要素としての少なくとも1つのアンカー体、好ましくは拡張スリーブと、第2の要素としての少なくとも1つのボルトとを備えた拡張アンカーであって、このボルトは拡張体、好ましくは拡張コーン(cone)を有しており、この拡張体がアンカー体に対して相対的に引抜方向にずらされると、拡張体がアンカー体を径方向に外へと押しやる拡張アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
拡張アンカーは、例えば欧州特許出願公開第0514342号から知られている。これらの拡張アンカーは、部材の土台、例えば壁または天井における穿孔に嵌め込まれる。拡張スリーブとして形成されたアンカー体内に、ボルトに設けられており斜面を有する拡張コーンを引き込むことにより、このアンカー体が径方向に広げられて外へと押しやられ、これにより拡張アンカーが土台中で固定される。欧州特許出願公開第0514342号によれば、拡張コーンとアンカー体の間の接触領域に、摩擦を減らすコーティングが施されている。
【0003】
米国特許出願公開第2008050195号は、拡張スリーブの表面粗さが拡張アンカーの後端に向かって上昇する拡張アンカーを記載している。
【0004】
ドイツ特許出願公開第4225869号は、ステンレス鋼製アンカーを記載しており、このアンカーの場合、ネジもしくはナットを締めることにより、または拡張体を打ち込むことよりアンカー体の拡張が行われ、拡張工程中は2つの面が、面圧力を次第に増しながら相互に変位し、これに関し面圧力を受けるこれらの面は、ブロッキングに対抗するコーティングを備えており、面圧力を受ける面の一方には、亜鉛メッキまたは窒化処理によるコーティングが形成されており、かつ任意で潤滑塗料、ワックス、またはグリースから成る追加的な層が施されている。
【0005】
米国特許出願公開第2009290953号は、擦り落とせる外層を有する二重コーティングを備えたネジを記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0514342号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2008050195号公報
【特許文献3】ドイツ特許出願公開第4225869号公報
【特許文献4】米国特許出願公開第2009290953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、特に性能が良く、多方面で使用可能であると同時に、特に信頼でき、簡単に製造可能でもある拡張アンカーを提示することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は本発明により、請求項1の特徴を有する拡張アンカーによって解決される。好ましい実施形態は従属請求項に示されている。
【0009】
本発明による拡張アンカーは、両方の要素の一方に、もう一方の要素との接触領域で、内層とこの内層を覆っている外層とを有する二重コーティングが施されており、この外層がもう一方の要素に対する摩擦係数μ2を有しており、この摩擦係数μ2が、内層のもう一方の要素に対する摩擦係数μ1より大きいことを特徴とする。
【0010】
本発明の基本的思想は、トルク制御拡張式拡張アンカーの拡張領域に、異なる摩擦係数を有する多重コーティングを施し、その結果μ2>μ1であることに見いだすことができる。
【0011】
本発明は、拡張アンカーを設計する際に、拡張アンカーの形態変更が、一方ではアンカー挙動を改善させるが、そのことが他方で損害をもたらす状況を生じさせ得ることを認識した。つまり例えば、拡張体とアンカー体の間に高い摩擦係数を規定することは、一方では過度な静的引張荷重の際に、拡張体がアンカー体、つまりとりわけ拡張スリーブを通り抜けることを、したがって拡張アンカーの早すぎる機能不全を回避するために望ましいと言える。他方で高い摩擦係数は、とりわけ地震の場合の動的亀裂に関し、亀裂の入ったコンクリート中では不利であり得る。つまり拡張体と拡張スリーブとの間の摩擦係数が大きいと、その中に拡張アンカーが存在している亀裂が広がる際に、拡張体が拡張スリーブ内に確かにより深く引き込まれる。ただし大きな摩擦係数の場合、それに続いて亀裂が再び閉じる際にこの工程が逆行することはなく、拡張体は深く拡張スリーブ内に留まったままであり、これは周囲のコンクリートを損傷させ得る。したがって、亀裂が開いて続いて亀裂が閉じる際に、拡張スリーブ内で拡張体が前後に滑ることを保証するため、亀裂の入ったコンクリートには低い摩擦係数が有利であり得る。
【0012】
よって従来の拡張アンカーを設計する際には、動く亀裂がある亀裂の入ったコンクリート中での優れた特性を考慮して、アンカー体と拡張体との間の摩擦係数を低く選択し、ただしこれにより静的引抜荷重が比較的低くなるのか、または静的引抜荷重は高いが、亀裂の入ったコンクリート中および/もしくは動的状況では比較的劣った特性になる高い摩擦係数を選択するのかを決めなければならなかった。
【0013】
本発明はここにアプローチし、両方の要素(「アンカー体」または「ボルト」)の一方に、それぞれもう一方の要素との接触領域で、つまり両方の要素が相互に接触しており、互いに擦れ合うところで、内層および外層から成る二重コーティングを施す。この二重コーティングは、外層が、隣接するもう一方の要素との高い摩擦を有しており、内層が、隣接するもう一方の要素とのより低い摩擦を有するように実施される。この構成では、静的な場合には外層が作用して、高い静的荷重値を発生させることができる。これに対して動的な、とりわけ地震の状況では、アンカー体と拡張体との間で繰り返される摩擦運動により外層を除去することができ、したがってその後は低摩擦の内層が作用し、これが拡張体の効果的な前後の滑りを可能にし、それにより土台が損傷することを防ぐ。これにより、適用事例に応じてもう一方の摩擦係数が有利という上述のジレンマを解消することができ、かつ一方では、亀裂のないおよび亀裂の入ったコンクリート中での引張荷重に関して特に優れた静的性能を得ることができ、他方では、動的なもしくは地震の場合の特に優れた性能および/または亀裂が開いたり閉じたりする場合の特に高いロバスト性も得ることができる。
【0014】
外層は、内層を外に向かってカバーしており、つまり内層は、外層と、二重コーティングを担持している一方の要素との間に配置されている。例えば、内層を一方の要素上に直接配置することができる。しかしながら内層と一方の要素との間に、例えば腐食保護層のような1つまたは複数の中間層を設けてもよい。摩擦係数は、両方の層の間で飛躍的に変化させることができ、または両方の層の間で連続的に移り変わることができる。接触領域では、両方の要素が互いに当接し合っており、したがってそこでは両方の要素間で摩擦が生じる。
【0015】
本発明との関連では、基礎になっている物理的効果を考慮して、摩擦係数とは、とりわけ付着摩擦に関する摩擦係数のことであり得る。ただし滑り摩擦は一般的に付着摩擦と密接に関連しているので、基本的にはその代わりに、例えば測定し易くするために、滑り摩擦に関するそれぞれの摩擦係数を提示してもよい。
【0016】
アンカー体および/またはボルト、とりわけボルトの拡張体は、金属材料から成ることが好ましい。二重コーティングは、両方の要素の一方に、つまりアンカー体かまたはボルトに、とりわけボルトの拡張体に施されており、つまり両方の要素の一方が二重コーティングでコーティングされている。とりわけ、二重コーティングは物質結合により両方の要素の一方と結合している。
【0017】
本発明によればアンカー体は、ボルトに沿って変位可能にボルトに配置されており、とりわけ固定されている。「径方向」および「軸方向」と言う場合、これはとりわけボルトおよび/または拡張アンカーの長手軸に対してであり、この長手軸はとりわけボルトまたは拡張アンカーの対称軸および/または中心軸であり得る。拡張アンカーは、とりわけトルク制御拡張式拡張アンカーであり得る。
【0018】
本発明によれば、拡張体をアンカー体に対して相対的にボルトの引抜方向で軸方向にずらすと、アンカー体が拡張体によって径方向に外へと押しやられ、その際に土台中の穿孔壁に向かって押される。とりわけ拡張体に設けた斜面によって引き起こされ、好ましくは拡張スリーブとして形成されたアンカー体を広げることもできるこの工程の際に、拡張アンカーが穿孔中で固定される。引抜方向は、ボルトの長手軸に平行に走っており、かつ/または穿孔から外に向かっていることが好ましい。とりわけ、拡張体では拡張体の表面とボルトの長手軸との間隔が、引抜方向とは逆方向に向かって次第に増している。
【0019】
本発明によれば二重コーティングは、少なくとも両方の要素間の接触領域で施されており、つまりとりわけ、拡張体がアンカー体に作用してアンカー体を径方向に外へと押しやり得るようにアンカー体が拡張体に当接している領域で施されている。二重コーティングは接触領域を越えていてもよく、これは製造技術的な利点を有し得る。
【0020】
特に有利なのは、もう一方の要素に対する外層の摩擦係数が、もう一方の要素に対する内層の摩擦係数より少なくとも20%、50%、または100%大きく、つまりμ2>1.2×μ1、μ2>1.5×μ1、またはμ2>2×μ1であることである。両方の摩擦係数の有意な差により、上述の効果が特に明らかに現れる。
【0021】
本発明の好ましい一変形形態は、二重コーティングをボルトに、とりわけ少なくとも拡張体に施している。それに応じてつまり、両方の要素の一方はボルトであり、もう一方の要素はアンカー体、好ましくは拡張スリーブであり、かつとりわけ二重コーティングは少なくとも拡張体に物質結合により配置されている。これは、製造費および信頼性に関して有利であり得る。接触領域は、少なくとも拡張体に形成されるのが好ましい。
【0022】
特に有用なのは、アンカー体が、ボルトを少なくとも部分的に取り囲む拡張スリーブであること、および/または拡張体が拡張コーンであることである。これにより、周方向における特に均一な力の導入が達成される。ボルトの長手軸の周りの拡張スリーブの角度サイズは、少なくとも270°、とりわけ少なくとも315°または340°であることが好ましい。この実施形態により、ボルトが直接的にではなく、少なくとも大部分は拡張スリーブを介して間接的にのみ穿孔壁と擦れることを、特に簡単に保証することができる。本発明によれば拡張コーンは、拡張スリーブを拡張するため、つまり拡張スリーブを径方向に広げるために設けられている。1つのアンカー体または複数のアンカー体を設けることもでき、かつ相応の数の拡張体を設けることができる。拡張コーンは、数学的に厳密に円錐形の表面を有し得るが、そうでなくてもよい。
【0023】
本発明によればボルトは、とりわけ雄ネジ山として、雌ネジ山として、またはヘッドとして形成し得る荷重受け機構を有することができる。荷重受け機構は、引抜方向に向かう引張力を拡張アンカーに導入する働きをする。拡張体がボルトの第1の端部領域で配置され、かつ荷重受け機構がボルトの反対側の第2の端部領域で配置されるのが有用である。とりわけ、引抜方向の方向ベクトルを拡張体から荷重受け機構に向けることができる。拡張体の表面とボルトの長手軸との間隔は、荷重受け機構からの間隔が増すにつれて増えていくのが好ましい。
【0024】
拡張アンカーは、ボルトタイプの拡張アンカーであることが好ましい。このような拡張アンカーの場合、アンカーを設置する際に、ボルトがアンカー体に対して相対的に軸方向に動くことにより、拡張体がアンカー体内に引き込まれる。ボルトタイプの拡張アンカーの場合、ボルトは一体的に形成されているのが好ましく、とりわけ拡張体が隣接するボルト領域と一体的に実施されている。ボルトにストッパーを、例えば環状肩部を形成できることが好ましく、このストッパーは、アンカー体が拡張体から離れて変位することを制限する。
【0025】
その代わりに、拡張アンカーがスリーブタイプの拡張アンカーであることができる。スリーブタイプの拡張アンカーの場合、ボルトは、拡張体から分かれたアンカーロッドを有しており、拡張体は、好ましくは対応するネジ山を介してアンカーロッドと結合している。この場合、アンカーを設置する際のアンカー体内への拡張体の引き込みは、好ましくは少なくとも部分的には、拡張体に対して相対的なアンカーロッドの回転によって引き起こすことができ、この回転が、対応するネジ山によって形成されたスピンドルドライブにより、アンカーロッドに対して相対的な拡張体の軸方向の動きに変換される。とりわけスリーブタイプの拡張アンカーの場合、複数の部分に分かれても実施され得るアンカー体が、穿孔口まで達することもできる。
【0026】
以下では、添付図に概略的に示した好ましい例示的実施形態に基づいて本発明をより詳しく説明し、これに関し以下に示す例示的実施形態の個々の特徴は、本発明の枠内では基本的に単独でまたは任意の組合せで実現することができる。図では概略的に示している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】第1の実施形態に基づく、コンクリート土台中に設置された本発明による拡張アンカーの部分的に長手断面の図である。
図2図1からの拡張アンカーの詳細図である。
図3図1および図2の実施形態を一部変更した拡張アンカーのボルトの部分的に長手断面の図である。
図4】さらなる一実施形態に基づく、コンクリート土台中に設置された本発明による拡張アンカーの部分的に長手断面の図である。
図5図4からの拡張アンカーの詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
同じまたは類似に作用する要素は、図では同じ符号が付されている。
【0029】
図1および図2は、本発明による拡張アンカーの第1の例示的実施形態を示している。とりわけ図1が示すように、拡張アンカーは、ボルト10と、拡張スリーブとして形成されたアンカー体20とを有しており、アンカー体20はボルト10を取り囲んでいる。ボルト10は、横断面が一定の頸部領域11と、ボルト10の前端部領域で頸部領域11に隣接し、拡張コーンとして形成された、アンカー体20のための拡張体12とを有しており、拡張体12の表面は斜面13として形成されている。斜面13はここでは回転対称的に実施されている。ボルト10は拡張体12では、斜面13に基づいて頸部領域11からボルト10の前端部に向かって広がっている。ボルト10は頸部領域11の拡張体12に面していない側では、拡張スリーブとして形成されたアンカー体20のための例えば環状肩部として形成されたストッパー17を有している。ボルト10は拡張体12とは反対側の後端部領域では、ナット8のための雄ネジ山18を備えている。
【0030】
この拡張アンカーを設置する際は、ボルト10を、拡張体12を先にして、引抜方向101とは逆方向に、ボルト10の長手軸100に平行に、図1に基づく土台5中の穿孔に押し込む。その際、ストッパー17により、拡張スリーブとして形成されたアンカー体20も穿孔内に運び込まれる。次いで、例えばナット8を締めることにより、ボルト10が再び穿孔から、長手軸100に平行に走っている引抜方向101に少し引き出される。その際、拡張スリーブとして形成されたアンカー体20は、穿孔壁との摩擦によって取り残され、ボルト10がアンカー体20に対して相対的に変位する。この変位の際、ボルト10の拡張体12がアンカー体20内に次第に深く入り込み、これによりアンカー体20は、拡張体12によって径方向に広げられて、穿孔壁に押される。このメカニズムにより、拡張アンカーが土台5中で据え付けられる。拡張アンカーが土台5中で据え付けられた拡張アンカーの設置状態を図1に示している。ナット8により、取付け部材6を土台5に固定することができる。
【0031】
とりわけ図2で認識できるように拡張体12は、その斜面13に形成されたアンカー体20との接触領域で、内層61および外層62から成る二重コーティングを備えており、この内層61は、外層62と、両方の層61、62をとりわけ物質結合によって担持している拡張体12との間に配置されている。これに関し、外層62の隣接するアンカー体20に対する摩擦係数、とりわけ付着摩擦係数μ2は、内層61の隣接するアンカー体20に対する摩擦係数、とりわけ付着摩擦係数μ1より大きく、つまりμ2>μ1である。単純な静的荷重状況では、ボルト10は拡張体12の外層62でアンカー体20と擦れ、したがって比較的高い摩擦係数μ2が作用し、これにより高い静的引抜荷重を達成することができる。これに対し動的荷重状況ではボルト10の外層62が擦り落とされ得る。その後、この場合には拡張体12は内層61でアンカー体20と擦れ、したがってこの場合は比較的低い摩擦係数μ1が作用し、アンカー体20内での拡張体12の有効な前後の滑りが可能になる。
【0032】
図1および図2の例示的実施形態では、層61および62から成る二重コーティングは拡張体12に記載された。しかし図3が示すように、図3では破線で概略的に強く拡大して示した層61および62を有する二重コーティングが、さらに頸部領域11上に延びていてもよい。
【0033】
図1図3の例示的実施形態では、拡張アンカーはいわゆるボルトタイプである。拡張アンカーをいわゆるスリーブタイプとして形成しているさらなる1つの例示的実施形態を図4および図5に示している。図1図3からの、拡張体12が軸方向に固定的に残りのボルト10に固定されており、とりわけ残りのボルト10と一体的に形成されている拡張アンカーとは異なり、図4および図5の例示的実施形態のボルト10は、拡張体12から分離したアンカーロッド15を有しており、つまりアンカーロッド15と拡張体12は2つの別個の部分である。斜面13を有する拡張体12は雌ネジ山を備えており、この雌ネジ山は、ボルト10のアンカーロッド15での雄ネジ山と対応している。それだけでなく図4および図5の拡張アンカーの場合、拡張スリーブとして形成されており複数の部分に分かれていてもよいアンカー体20が、穿孔口まで達しており、ボルト10の後端部領域には、幅を広くしたヘッド88が、アンカーロッド15に回転不能に配置されている。
【0034】
図4および図5の拡張アンカーを設置するには、アンカーロッド15を、好ましくはヘッド88を介し、長手軸100を中心に回転させる。アンカーロッド15のこの回転運動を、対応しているネジ山が、アンカーロッド15に対して相対的な、したがってアンカー体20に対して相対的な、拡張体12の軸方向運動に変換し、これが、斜面13を有する拡張体12をアンカー体20内に引き込む。
【0035】
図4および図5の拡張アンカーの場合も、ボルト10の拡張体12は、斜面13に形成されたアンカー体20との接触領域で、内層61および外層62から成る二重コーティングを備えており、これに関し、外層62の隣接するアンカー体20に対する摩擦係数μ2は、内層61の隣接するアンカー体20に対する摩擦係数μ1より大きく、つまりμ2>μ1であり、したがってこれによっても、特に優れた静的特性および動的特性を達成することができる。
図1-2】
図3
図4-5】