(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510274
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】加工食品用油脂分離抑制剤
(51)【国際特許分類】
A23L 29/212 20160101AFI20190422BHJP
A23L 23/00 20160101ALI20190422BHJP
C11B 5/00 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
A23L29/212
A23L23/00
C11B5/00
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-40463(P2015-40463)
(22)【出願日】2015年3月2日
(65)【公開番号】特開2016-158571(P2016-158571A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2017年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉川 隆一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳
【審査官】
福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−274927(JP,A)
【文献】
特開2005−318871(JP,A)
【文献】
特開2007−006724(JP,A)
【文献】
特開2010−130982(JP,A)
【文献】
特開2010−252758(JP,A)
【文献】
特開2009−112269(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/055690(WO,A1)
【文献】
特開2012−157342(JP,A)
【文献】
特開平11−313600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23D
C11B
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS/FSTA(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉と、(b)ソルビタン脂肪酸エステルとを含有することを特徴とする加工食品用油脂分離抑制剤。
【請求項2】
さらに、(c)増粘安定剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の加工食品用油脂分離抑制剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の加工食品用油脂分離抑制剤を含有することを特徴とする加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工食品に配合することにより、加工食品中の油脂分離を抑制することができる加工食品用油脂分離抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油脂を含有する加工食品、例えば、中華まんの具材、ミートソースなどは、しばしば製造工程中や製造後の保管中、個包装後に当該食品中の油脂が分離し、油浮きが起こるなどの問題を引き起こすことが知られている。
【0003】
加工食品中の油脂の分離を抑制することを目的として、油脂を含有する水産畜産ねり製品に紅藻類粘質物を添加使用することを特徴とする油脂含有食品の品質改良法(特許文献1参照)、キチン及び/またはキトサンを含有してなる保油性の優れた冷凍食品、チルド食品、または畜肉、魚肉練り製品(特許文献2参照)、馬鈴薯澱粉とハイアミロ−ス澱粉あるいはアミロ−ス含量の高い澱粉質を乳化剤と共にα化処理することにより保水性および保油性をあわせ持ち、さらに100℃以下で加熱して弾力のあるゲルを形成することを特徴とする澱粉由来の食品用素材(特許文献3参照)、ハイアミロ−ス澱粉またはアミロ−ス含量の高い澱粉質をα化処理することによりえられる保水性および保油性をあわせ有する澱粉由来の食品用素材(特許文献4参照)、肉類の配合率が、全配合質量基準で10%以上である加工食品において、卵黄、及び/又は、リゾリン脂質を配合してなる加工食品(特許文献5参照)、肉類の配合率が全配合質量基準で6%以上のパスタソースにおいて、植物ステロール類と卵黄リポ蛋白質との複合体を配合することを特徴とするパスタソース(特許文献6参照)、少なくとも、澱粉、油脂及び脂肪酸エステルを含有する食品組成物であって、脂肪酸エステルとして、少なくとも、ポリグリセリン脂肪酸エステルとモノグリセリン脂肪酸エステルとを含有し、かつ、ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率が18〜65%であることを特徴とする食品組成物(特許文献7参照)、少なくとも、澱粉、油脂および脂肪酸エステルを含有する食品組成物であって、脂肪酸エステルとして、少なくとも、ポリグリセリン脂肪酸エステルとグリセロリン脂質とを含有し、上記のポリグリセリン脂肪酸エステルの構成脂肪酸の炭素数が20以下であることを特徴とする食品組成物(特許文献8参照)などが開示されている。しかし、これらの技術は一長一短であり、必ずしも満足の得られるものとは言えない。
【0004】
【特許文献1】特公昭50−4746号公報
【特許文献2】特開平3−139238号公報
【特許文献3】特開平8−9871号公報
【特許文献4】特開平8−9907号公報
【特許文献5】特開2004−73100号公報
【特許文献6】特開2008−167693号公報
【特許文献7】特開2010−130982号公報
【特許文献8】特開2010−252758号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加工食品の製造工程中や製造後の保管中、個包装後に当該食品中の油脂分離を抑制することができる加工食品用油脂分離抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の油脂加工澱粉と、特定の乳化剤を併用することにより、上記課題を解決することを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉と、(b)ソルビタン脂肪酸エステルとを含有することを特徴とする加工食品用油脂分離抑制剤、
(2)さらに、(c)増粘安定剤を含有することを特徴とする上記(1)に記載の加工食品用油脂分離抑制剤、
(3)上記(1)又は(2)に記載の加工食品用油脂分離抑制剤を含有することを特徴とする加工食品、
からなっている。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加工食品用油脂分離抑制剤により、加工食品の製造工程中や製造後の保管中、個包装後に当該食品に含まれる油脂が分離することを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられる(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉は、澱粉にモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを添加し、均一に混合してモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルが吸着された澱粉とし、さらに加熱・熟成することにより得られる。
上記、澱粉にモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを添加する際、均一に混合する際、あるいは均一に混合した後に所望により乾燥処理を行うこともできる。
【0009】
上記油脂加工澱粉の原料となる澱粉としては、タピオカ澱粉、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、甘藷澱粉、緑豆澱粉、サゴ澱粉、エンドウ豆澱粉、あるいはこれらの澱粉に、架橋処理した加工澱粉(例えば、リン酸架橋澱粉など)、アセチル化処理した加工澱粉、エステル化処理した加工澱粉(例えば、酢酸澱粉など)、エーテル化処理した加工澱粉(例えば、ヒドロキシプロピル澱粉など)、酸化処理した加工澱粉(例えば、ジアルデヒド澱粉など)、酸処理した加工澱粉、湿熱処理した加工澱粉、さらに架橋、アセチル化、エステル化、エーテル化などの処理を2以上組み合わせて施した加工澱粉などが挙げられる。これら澱粉は1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができ、好ましいのはリン酸架橋タピオカ澱粉である。
【0010】
上記油脂加工澱粉に含まれるモノグリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンと脂肪酸とのエステル化物、又はグリセリンと油脂とのエステル交換された生成物が挙げられる。
【0011】
モノグリセリン脂肪酸エステルの原料として用いられる脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸(例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸など)が挙げられ、好ましくは炭素数16〜18の直鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸(例えばパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸など)である。
【0012】
モノグリセリン脂肪酸エステルとしては、ポエムOL−200V(商品名;理研ビタミン社製)、エマルジーOL−100H(商品名;理研ビタミン社製)などが商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0013】
上記油脂加工澱粉に含まれるグリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、モノグリセリンモノ脂肪酸エステルと有機酸(又は有機酸の酸無水物)との反応、又はグリセリンと有機酸と脂肪酸との反応により得られる生成物が挙げられる。グリセリン有機酸脂肪酸エステルの種類としては、例えばグリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルなどが挙げられる。これらグリセリン有機酸脂肪酸エステルは、1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができ、好ましくはグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルである。
【0014】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸(例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸など)が挙げられ、好ましくは炭素数16〜18の直鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸(例えばパルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸など)である。
【0015】
グリセリン有機酸脂肪酸エステルとしては、ポエムW−10(商品名;理研ビタミン社製、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル)、ポエムB−10(商品名;理研ビタミン社製、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル)、ポエムK−30(商品名;理研ビタミン社製、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル)などが商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0016】
澱粉にモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを添加し、均一に混合する方法としては、澱粉粒が破壊されない状態で澱粉の表面にモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを均一に吸着させる方法であれば特に制限はない。使用する装置としては公知の混合装置であれば特に制限はなく、例えばリボンミキサー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサー、V型混合機などが挙げられる。
また、上記均一に混合する際に、乾燥処理を伴う方法が好ましい。より具体的には、例えば、(a)平衡水分を保った澱粉若しくは水分含有量を約20〜40質量%に調整した澱粉を流動層乾燥機中で流動状態とし、そこにモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを噴霧して乾燥し、粉末を得る方法、(b)水分含有量を約50質量%程度に調整した澱粉のケーキにモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを添加し、混合及び分散させた後、棚段式通風乾燥機などを用いて乾燥し、粉末を得る方法、(c)水分含有量を約60〜70質量%に調整したスラリー状の澱粉にモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを添加し、混合及び分散させた後、噴霧乾燥機又はドラムドライヤーなどを用いて乾燥し、粉末を得る方法などを実施することができる。
【0017】
澱粉に対するモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルの添加量としては、澱粉100質量部に対して例えば約0.0012〜8質量部が挙げられ、好ましくは約0.02〜2質量部、より好ましくは約0.04〜0.8質量部である。
【0018】
モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルが吸着された澱粉は、次に加熱・熟成が行われる。熟成は乾燥工程をそのまま延長・継続しても良いが、高温で処理することにより比較的短時間で行うことができる。熟成は、通常例えば棚段式通風乾燥機を用いて、約30〜180℃、好ましくは約30〜140℃の温度範囲で行われる。熟成を約120℃以上で行う場合には、澱粉がデキストリン化しないよう注意が必要である。熟成に要する時間は、澱粉に対するモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルの吸着量、熟成温度、熟成装置の熱効率などにより異なるが、例えば水分約35質量%に調湿したコーンスターチにモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを約0.25%添加、混合し、室温で約20時間乾燥した澱粉では、約60℃で約5時間程度、あるいは約140℃で約1時間程度などである。
【0019】
加熱・熟成終了後、得られた加工澱粉は水分約8〜18%、好ましくは約10〜14%に調湿され、製品とされる。
【0020】
本発明で用いられる(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉は、さらに油脂を含む油脂加工澱粉であることが好ましい。上記さらに油脂を含む油脂加工澱粉は、澱粉にモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルと、油脂を添加し、均一に混合してモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルと油脂が吸着された澱粉とし、さらに加熱・熟成することにより得られる。
上記、澱粉にモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルと、油脂を添加する際、均一に混合する際、あるいは均一に混合した後に所望により乾燥処理を行うこともできる。
【0021】
上記油脂としては、食用可能な油脂であれば特に制限はなく、例えばサフラワー油、大豆油、菜種油、綿実油、ヒマワリ油、米糠油、コーン油、椰子油、パーム油、パーム核油、カポック油、落花生油、オリーブ油、ハイオレイック菜種油、ハイオレイックサフラワー油、ハイオレイックコーン油及びハイオレイックヒマワリ油などの植物油脂、牛脂、ラード、魚油及び乳脂などの動物油脂、さらにこれら動植物油脂を分別、水素添加又はエステル交換したもの、並びに中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)などが挙げられる他、モノグリセリンジ脂肪酸エステル及びプロピレングリコールジ脂肪酸エステルもこれらに含まれる。好ましくはサフラワー油、大豆油、ヒマワリ油又はコーン油などである。また、上記食用油脂の一部又は全部の代替品として油分を多く含む穀粉、例えば生大豆粉などを用いても良い。
【0022】
澱粉に、モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルと、油脂を添加する方法としては、例えばモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステル、油脂をそれぞれ別々に澱粉に添加する方法、あるいは予めモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルと、油脂を混合し、必要であれば加熱・溶融した、モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルと、油脂の混合物(以下「油脂組成物」という)を澱粉に添加する方法などが挙げられる。なかでも、加熱・溶融した油脂組成物を澱粉に添加する方法が好ましい。
【0023】
油脂組成物中のモノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルと油脂との割合(モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステル:油脂)としては、約1:99〜99:1(質量比)の範囲を示すことができ、好ましくは約40:60〜80:20(質量比)の範囲である。
【0024】
澱粉に対する油脂組成物の添加量としては、澱粉100質量部に対して約0.003〜10質量部、好ましくは約0.05〜5.0質量部、より好ましくは約0.1〜1.0質量部である。
【0025】
澱粉と油脂組成物とを混合する方法、乾燥する方法、加熱・熟成する方法は、上記した、油脂を含まない場合と同様の方法で行うことができる。
【0026】
本発明で用いられる(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉には、本発明の目的を阻害しない範囲で、公知の食品用乳化剤、酸化防止剤が含まれていても良い。
公知の食品用乳化剤としては、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル又はレシチンなどが挙げられる。ここでレシチンには、分別レシチン、酵素分解レシチン又は酵素処理レシチンなどが含まれる。
公知の酸化防止剤としては、トコフェロール、アスコルビン酸パルミチン酸エステル、茶抽出物などが挙げられる。
【0027】
モノグリセリン脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉としては、日食バッタースターチ#200(商品名;日本食品化工社製)、日食ねりこみ澱粉IPYF(商品名;日本食品化工社製)などが商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0028】
本発明で用いられる(b)ソルビタン脂肪酸エステルとは、ソルビタン又はソルビトールと脂肪酸のエステル化生成物である。
【0029】
上記ソルビタン脂肪酸エステルの原料として用いられる脂肪酸としては、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば炭素数6〜24の直鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸(例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸など)が挙げられ、好ましくは炭素数18〜22の直鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸(例えばステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸など)、さらに好ましくはオレイン酸である。
【0030】
ソルビタン脂肪酸エステルとしては、ポエムS−65V(商品名;理研ビタミン社製、ソルビタントリステアリン酸エステル)、ポエムS−60V(商品名;理研ビタミン社製、ソルビタンモノステアリン酸エステル)、ポエムO−80V(商品名;理研ビタミン社製、ソルビタンモノオレイン酸エステル)などが商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0031】
本発明の加工食品用油脂分離抑制剤100質量%中の(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉の配合量としては、好ましくは50〜99.9質量%、さらに好ましくは65〜99.8質量%であり、(b)ソルビタン脂肪酸エステルの配合量としては、好ましくは0.01〜30質量%、さらに好ましくは0.1〜25質量%である。
【0032】
上記(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉、(b)ソルビタン脂肪酸エステルに加え、さらに、(c)増粘安定剤を含有することを特徴とする加工食品用油脂分離抑制剤も本発明の形態の一つである。
【0033】
上記増粘粘安定剤としては、キサンタンガム、グア−ガム、タラガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、サイリウムシードガム、ジェランガム、プルランなどが挙げられ、好ましくは、キサンタンガム、グアーガムである。これら増粘安定剤は、1種類又は2種類以上を組み合せて用いることができる。
【0034】
増粘安定剤としては、例えば、キサンタンガム(商品名:グリンステッドキサンタンJ;ダニスコジャパン社製)、グアーガム(商品名:スーパーゲルCSA200/50;パキスタンガムアンドケミカル社製)などが商業的に販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0035】
本発明の加工食品用油脂分離抑制剤に(c)増粘安定剤を配合する場合、加工食品用油脂分離抑制剤100質量%中、好ましくは0.01〜20質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。
【0036】
本発明の加工食品用油脂分離抑制剤には、本発明の目的を阻害しない範囲で他の任意の成分が含まれていても良く、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル以外の食品用乳化剤、糖類、調味料、風味原料、香辛料、蛋白質(大豆タンパク、卵白粉末など)、粉質改良剤(炭酸Ca、第三リン酸Ca、微粒二酸化ケイ素など)、pH調整剤などが挙げられる。
上記ソルビタン脂肪酸エステル以外の食品用乳化剤としては、モノグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチンなどが挙げられる。ここでレシチンには、分別レシチン、酵素分解レシチン、酵素処理レシチンなどが含まれる。
【0037】
本発明の加工食品用油脂分離抑制剤は(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉、(b)ソルビタン脂肪酸エステル、あるいは、(a)モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はグリセリン有機酸脂肪酸エステルを含む油脂加工澱粉、(b)ソルビタン脂肪酸エステル及び(c)増粘安定剤とを均一に混合することにより得られる。その際、ソルビタン脂肪酸エステルは、60℃以上に加熱・溶融して用いることができる。上記の均一に混合する方法としては特に制限はなく、例えばリボンミキサー、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、レーディゲミキサー、V型混合機などの公知の混合装置を用いることができる。
【0038】
本発明の加工食品用油脂分離抑制剤を含有することを特徴とする加工食品も本発明の形態の一つである。当該加工食品とは、油脂を含有する加工食品であれば特に制限はなく、例えば、中華まんの具材、ミートソース、カレー、ハンバーグ、ミートボール、ミートローフ、餃子、焼売、ワンタン、春巻き、ピロシキ、コロッケ、メンチカツ、ホワイトソース、ベシャメルソース、コーンスープ、クラムチャウダーなどが挙げられる。
【0039】
本発明の加工食品用油脂分離抑制剤の加工食品に対する添加量としては、加工食品の形態によっても変わるので一概には言えないが、加工食品100質量部中、好ましくは0.05〜5質量部、さらに好ましくは0.1〜1質量部である。
【0040】
本発明の加工食品用油脂分離抑制剤の加工食品への添加方法は、特に制限はなく、加工食品の製造工程において、原材料と、本発明の加工食品用油脂分離抑制剤を混合すれば良い。
【0041】
以下に本発明を実施例で具体的に説明するが、これは本発明を単に説明するだけのものであって、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0042】
[油脂加工澱粉の作製]
(1)油脂加工澱粉1の作製
モノグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムOL−200V;理研ビタミン社製)50質量%とサフラワー油50質量%からなる油脂組成物を約60℃に加熱・溶融した。水分12.5%に調湿したリン酸架橋タピオカ澱粉(商品名:ネオビスT−100;日本食品化工社製)100質量部に対して前記油脂組成物を0.5質量部添加し、高速攪拌混合機(型式:レーディゲミキサーFM130D;松坂技研社製)で10分間混合した。得られた混合物をトレーに広げて機内温度約60℃の棚段式通風乾燥機で水分約12.0%まで乾燥し、乾燥物を粉砕し、得られた粉末をポリ袋に詰めて約60℃で2週間熟成し、油脂加工澱粉1を得た。
【0043】
(3)油脂加工澱粉2の作製
油脂加工澱粉1の製法において、モノグリセリン脂肪酸エステルをグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムW−10;理研ビタミン社製)に替えた以外は同様に操作し、油脂加工澱粉2を得た。
【0044】
(3)油脂加工澱粉3の作製
油脂加工澱粉1の製法において、モノグリセリン脂肪酸エステルをグリセリンコハク酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムB−10;理研ビタミン社製)に替えた以外は同様に操作し、油脂加工澱粉3を得た。
【0045】
(3)油脂加工澱粉4の作製
油脂加工澱粉1の製法において、モノグリセリン脂肪酸エステルをグリセリンクエン酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムK−30;理研ビタミン社製)に替えた以外は同様に操作し、油脂加工澱粉4を得た。
【0046】
(4)油脂加工澱粉5の作製
油脂加工澱粉1の製法において、モノグリセリン脂肪酸エステルをグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムW−10;理研ビタミン社製)に替えて、リン酸架橋タピオカ澱粉をアセチル化タピオカ澱粉(商品名:MT−01;日本食品化工社製)に替えた以外は同様に操作し、油脂加工澱粉5を得た。
【0047】
(4)油脂加工澱粉6の作製
油脂加工澱粉1の製法において、モノグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムOL−200V;理研ビタミン社製)50質量%とサフラワー油50質量%からなる油脂組成物を、モノグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムOL−200V;理研ビタミン社製)25質量%、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムW−10;理研ビタミン社製)25質量%、サフラワー油50質量%からなる油脂組成物に替えた以外は同様に操作し、油脂加工澱粉6を得た。
【0048】
(5)油脂加工澱粉7の作製
油脂脂加工澱粉1の製法において、モノグリセリン脂肪酸エステルを用いなかった以外は同様に操作し、油脂加工澱粉7を得た。
【0049】
<加工食品用油脂分離抑制剤>
(1)原材料
油脂加工澱粉1〜7
リン酸架橋タピオカ澱粉(商品名:ネオビスT−100;日本食品化工社製)
ソルビタン脂肪酸エステル1(商品名:ポエムS−65V;理研ビタミン社製 ソルビタントリステアリン酸エステル)
ソルビタン脂肪酸エステル2(商品名:ポエムO−80V;理研ビタミン社製 ソルビタンモノオレイン酸エステル)
ジグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムJ−2081V;理研ビタミン社製)
デカグリセリン脂肪酸エステル(商品名:ポエムJ−0081HV;理研ビタミン社製)
キサンタンガム(商品名:グリンステッドキサンタンJ;ダニスコジャパン社製)
【0050】
(2)配合
上記原材料を用いて作製した加工食品用油脂分離抑制剤の配合組成を表1及び表2に示した。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
(3)作製
上記表1及び表2に記載の原材料の2倍量をビニール袋に入れて2分間混合し、加工食品用油脂分離抑制剤(実施例品1〜8、比較例品1〜6)を作製した。
【0054】
<油脂分離抑制の評価>
[中華まんの具材での評価]
(1)中華まんの具材の作製
蛋白加水分解物(商品名:HAP−GL;理研ビタミン社製)3g、醤油15g、グラニュー糖15g、水39gを混合し、混合水72gを得た。また、食塩1.5g、粉末こんぶだし(商品名:こんぶだしMS;理研ビタミン社製)0.3g、加工食品用油脂分離抑制剤(実施例品1〜8のいずれか又は比較例品1〜6のいずれか)1.2gを混合し、混合粉末3gを得た。また、粒状大豆蛋白(商品名:フジニックエース100;不二製油社製)5g、水10gを混合し、水戻し粒状大豆蛋白15gを得た。また、豚ウデ肉(脂肪20%)を挽き目6mmでチョッピングし、豚挽き肉120gを得た。
ボールにラード12g、ポークオイル(商品名:ポークオイルG;理研ビタミン社)3g、おろし生姜3g、おろしにんにく1.5gを添加し、IHヒーター(型式:KIH−1400/R;小泉成器社製)で30秒間加熱攪拌後、みじん切り筍30g、水戻し椎茸7.5gを添加し、1分30秒間加熱攪拌した。次に混合水72gを添加し、45秒間加間熱攪拌し、さらに豚挽き肉120g、水戻し粒状大豆蛋白15g、混合粉末3gを添加し、2分30秒間加熱攪拌した。最後に、30gの水で3gの馬鈴薯でん粉(商品名:かめ;松谷化学工業社製)を溶いた液を添加し、歩留り96.0%になるまで加熱攪拌し、中華まんの具材(試験区1〜14)288gを得た。
なお、歩留りは、下記計算式により算出した。
歩留り(%)=(B/A)×100
A:原材料全体の重さ(g)
B:得られた中華まんの具材の重さ(g)
【0055】
(2)油脂分離抑制の評価
得られた中華まんの具材(試験区1〜14)を300mLビーカーへ入れ、30分室温(約25℃)で放冷した後、冷蔵庫(庫内温度約5℃)で約16時間保存した。保存後の中華まんの具材についての油脂分離抑制(油浮き抑制)の評価につき、下記表3に示す評価基準に従い10名のパネラーでおこなった。また、結果はそれぞれ10名の評価点の平均値として求め、下記基準にて記号化した。結果を表4に示す。
記号化
◎◎:平均値4
◎ :平均値3.5以上4未満
〇 :平均値2.5以上3.5未満
△ :平均値1.5以上2.5未満
× :平均値1.5未満
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
結果より、実施例品1〜8を用いた試験区1〜8は、油浮きを抑制できた。特に実施例品2を用いた試験区2は優れた評価であり、実施例品7、8を用いた試験区7、8はさらに優れた評価であった。
一方、比較例品1及び2を用いた試験区9及び10は油浮きの抑制が不十分であり、比較例品3〜6を用いた試験区11〜14は、油浮きを抑制できなかった。
【0058】
[レトルトミートソースでの評価]
(1)レトルトミートソースの作製
ボールにみじん切りした野菜(玉葱、人参)90g、牛挽き肉90g、トマトペースト30g、ドミグラスソース15g、調味料(上白糖、食塩、香辛料)15g、加工用食品用油脂分離抑制剤(実施例品2又は比較例品1)1.5g、水58.5gを順次添加し、IHヒーター(型式:KIH−1400/R;小泉成器社製)で10分間加熱撹拌し、ミートソース(試験区15、16)300gを得た。
【0059】
(2)油脂分離抑制の評価
得られたミートソース(試験区15、16)を300mLビーカーへ入れ、30分室温(約25℃)で放冷した後、冷蔵庫(庫内温度約5℃)で約16時間保存した。保存後のミートソースについての油脂分離抑制(油浮き抑制)の評価につき、中華まんの具材の油浮きの評価と同一の評価基準・方法にて評価した。結果を表5に示す。
【0060】
【表5】
結果より、実施例品2を用いた試験区15では、油浮きを抑制できた。一方、比較例品1を用いた試験区16は、油浮きの抑制が不十分であった。
【0061】
[カレーでの評価]
(1)カレーの作製
カレールウ(商品名:赤缶カレーミックス;エスビー社製)100gを70℃に温めた水1200gに溶かし込み、カレーソース1300gを得た。次に、ボールに1.5cm角にカットした牛肉45g、ラード30g、人参6g、玉葱15g、ジャガイモ9g、カレーソース193.5g、加工食品用油脂分離抑制剤(実施例品2又は比較例品1)1.5gを順次添加し、IHヒーター(型式:KIH−1400/R;小泉成器社製)で10分間加熱撹拌し、カレー(試験区17、18)300gを得た。
【0062】
(2)油脂分離抑制の評価
得られたカレー(試験区17、18)を300mLビーカーへ入れ、30分室温(約25℃)で放冷した後、冷蔵庫(庫内温度約5℃)で約16時間保存した。保存後のカレーについての油脂分離抑制(油浮き抑制)の評価につき、中華まんの具材の油浮きの評価と同一の評価基準・方法にて評価した。結果を表6に示す。
【0063】
【表6】
結果より、実施例品2を用いた試験区17は油浮きを抑制できた。一方、比較例品1を用いた試験区18は、油浮きの抑制が不十分であった。