特許第6510342号(P6510342)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6510342Al含有鋼用連続鋳造パウダーおよび連続鋳造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510342
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】Al含有鋼用連続鋳造パウダーおよび連続鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/108 20060101AFI20190422BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20190422BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20190422BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   B22D11/108 F
   B22D11/20 A
   C22C38/00 301Z
   C22C38/00 302Z
   C22C38/58
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-137731(P2015-137731)
(22)【出願日】2015年7月9日
(65)【公開番号】特開2017-18978(P2017-18978A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年4月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】志賀 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】轟 秀和
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 洋一
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 芳春
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−226712(JP,A)
【文献】 特開2011−183424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/108
C21C 7/076
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともAl:0.1〜1.5%を含有するAl含有鋼の連続鋳造に用いるパウダーであって、このパウダーは、CaO:15〜25%、SiO:20〜35%、Al:3〜15%、NaO:10〜20%、F:5〜15%、BaO:7〜12%、C:1〜5%を含有してなる成分組成を有し、かつ、塩基度が0.6≦CaO/SiO≦1.0、1300℃における粘度が0.5〜2poise、凝固温度が800〜1000℃、かつ鋳型と凝固シェルとの間に流入したときに前記パウダーが形成するパウダーフィルムのトータル厚み0.5〜3mmのうち、前記鋳型に接する側の厚み10〜50%が、少なくともカスピダインを含む結晶相を晶出するものであることを特徴とするAl含有鋼用連続鋳造パウダー。
【請求項2】
前記Al含有鋼は、Alを含有するFe−Ni合金、Fe−Cr合金またはFe−Ni−Cr合金であることを特徴とする請求項1に記載のAl含有鋼用連続鋳造パウダー。
【請求項3】
前記パウダーの単一の酸化物粒子径が、平均粒径15〜50μmであり、かつ、15〜25μmの粒径範囲が50%以上を占めることを特徴とする請求項1または2に記載のAl含有鋼用連続鋳造パウダー。
【請求項4】
C≦1.0%、Si≦2.0%、Mn≦2.0%、Ni≦50%、Cr≦25%、Al:0.1〜1.5%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる溶融合金を、引抜速度:500〜900mm/分、溶湯の過熱度:5〜50℃の条件下で、請求項1〜3のいずれかに記載の連続鋳造パウダーを用いて連続鋳造することを特徴とするAl含有鋼の連続鋳造方法。
【請求項5】
上記溶融合金は、さらに、Mo≦7%、Cu≦4%およびTi≦1.5%のうちから選ばれる1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項4に記載のAl含有鋼の連続鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al含有鋼、特にAl含有Fe−Ni−Cr合金、ステンレス鋼や、耐熱鋼、高耐食鋼などを連続鋳造する際に用いる連続鋳造用パウダーと、そのパウダーを用いて表面欠陥のないスラブを連続鋳造する方法について提案する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造において、鋳型内に所謂モールドパウダー(以下、単にパウダーと略称する)を使用することが知られている。パウダーは、鋳型内の溶鋼の液面で溶融してパウダーフィルムを形成し、これにより溶鋼が大気によって酸化されることを防止している。また、パウダーは、鋳型と凝固シェルとの間に流入してパウダーフィルムを形成し、スラブと鋳型との間の潤滑性、スラブから鋳型への抜熱性を適正化および向上させている。
【0003】
Fe−Ni−Cr合金の連続鋳造用パウダーは、一般に、CaO、SiO、Al、NaO、Fなどの酸化物粒子にて構成されている。さらに、骨材となるC(グラファイト)を添加して溶融速度を調節している。溶鋼中に活性な元素であるAlを含むと、パウダー中のSiOと下記の通り反応して、パウダー組成が大きく変化することがある。
3(SiO)+4Al=2(Al)+3Si ・・・(1)
(括弧内はパウダー中成分組成、下線は溶融合金中成分を表す。)
【0004】
これに対して、従来はパウダー組成を適正化して、反応後であっても粘度、凝固温度といった物性値を問題のない範囲に納めるという技術を開発している。つまり、反応後であってもパウダーが鋳型/凝固シェル間に流入して、鋳型/凝固シェル間の潤滑は保つという技術を開示している(例えば、特許文献1〜4参照)。
【0005】
しかしながら、鋳型/凝固シェル間に形成されたパウダーフィルム断面において鋳型側にカスピダインなどの結晶相が観察されない場合には、鋳型による冷却が強冷かつ不均一になり易く、スラブ表面にデプレッション、縦割れ、横割れなどをもたらし、表面性状を悪化させる。その結果、スラブ研削歩留まりが悪化するといった課題が残っていた。
【0006】
また、TiおよびAl含有鋼に用いる連続鋳造パウダーと、それを用いた連続鋳造方法が開示されている(例えば、特許文献5参照)。パウダーフィルムにカスピダインなどの結晶相が晶出するとスラブ表面性状が良化して、研削歩留まりも向上することが示されている。ただし、この技術が有効なのは、溶鋼55トン規模の取鍋1つを連続鋳造するに留まっており、60トン規模の取鍋2つ以上を鋳込むと鋳造時間が長くなって、(1)式の反応がさらに進行してしまい、パウダーフィルムの鋳型側に結晶相が形成されないという現象が生じた。その結果、研削歩留まりが低下するという問題だけでなく、2つ目の取鍋を鋳造中に、ブレークアウト(凝固シェルが破れて溶鋼が漏出すること、以下B.O.と略称する)を引き起こす問題があった。また、研削歩留まり自体も最高で97.7%に留まっており、まだ改善の余地があった。
【0007】
さらに、(1)式の進行に伴い、パウダーの溶融が遅くなるという課題もあった。その理由は、パウダー中にアルミナが富化すると、粘度が高くなるためか、連続的に溶融するべきである酸化物粒子の溶融が遅くなる課題もあった。その結果、スラブ表面性状が悪化して、研削歩留まりを落とすことがあった。
【0008】
なお、パウダーの形状に関しては、顆粒パウダーの形状について技術の開示がある(例えば、特許文献6〜8参照)。
【0009】
ただし、Alを含有する溶融合金の場合、この顆粒のサイズを制御するだけでは、スラブ表面性状を改善することは出来なかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平09−076049号公報
【特許文献2】特開平09−085404号公報
【特許文献3】特開平09−122858号公報
【特許文献4】特開平11−226712号公報
【特許文献5】特開2003−94150号公報
【特許文献6】特開平11−277201号公報
【特許文献7】特開2013−163194号公報
【特許文献8】特開2015−016493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、Alを含有するFe−Ni−Cr合金を連続鋳造する場合には、従来のパウダーでは、凝固温度、粘度といった物性値だけではなくて、溶融パウダーが鋳型/凝固シェル間に流入したとき鋳型側に結晶相が形成されない問題があった。そのため、鋳型内で不均一冷却が起こり、スラブ表面にデプレッション、縦割れ、横割れなどをもたらし、最悪の場合には、ブレークアウトを引き起こして鋳造中止に至る恐れがある。
【0012】
そこで、本発明の目的は、Alを含有するFe−Ni−Cr合金等のAl含有鋼の連続鋳造に適した連続鋳造パウダーを提供すること、および、その連続鋳造パウダーを用いて、表面欠陥の無いAl含有鋼スラブを製造する連続鋳造方法を提案することにある。特に、Al含有鋼の連続鋳造に対して、60トン規模の取鍋2つ以上を鋳込むことが可能な長時間鋳造に耐えうる連続鋳造パウダーを提供することを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題に対して、本発明者らは鋭意研究した。まず、従来のパウダーでNCF800を鋳造したところ、2つ目の取鍋を鋳込んでいる際に、スラブの表面にデプレッションが発生してきていることを掴んだ。その原因を、鋳造後のパウダーフィルムを採取して電子顕微鏡観察したところ、鋳型側に結晶相が少なくなっていたために、鋳型内の一次冷却で強冷却かつ不均一冷却となり表面性状を悪化させたと考えた。そこで、鋭意パウダーを変化させて鋳造を実施した結果、結晶相としてはカスピダイン3CaO・2SiO・CaF、ネフェリンNaO・Al・2SiOのどちらかまたは両方がよく、フィルムのトータル厚み0.5〜3mmのうち、10〜50%が結晶相であると良好な表面性状となることを突き止めた。
【0014】
これを実現するには1300℃における粘度が0.5〜2poise、凝固温度が800〜1000℃の物性を有するパウダーが適しており、この物性を確保するにはBaOの添加が有効であることが分かった。
【0015】
さらに、酸化物粒子径も溶融に対して影響することが判明した。単一の酸化物粒子径が、平均粒径15〜50μmであり、かつ、15〜25μmの粒径範囲が50%以上を占めるパウダーを適用すると、Al含有鋼、特にAl含有Fe−Ni−Cr合金を連続鋳造に対して、溶融速度が適正となり、スラブの性状が安定化した。本発明はこのようにして完成したものであり、以下の通りである。
【0016】
すなわち、本発明は、少なくともAl:0.1〜1.5%を含有するAl含有鋼の連続鋳造に用いるパウダーであって、このパウダーは、CaO:15〜25%、SiO:20〜35%、Al:3〜15%、NaO:10〜20%、F:5〜15%、BaO:7〜12%、Cを1〜5%含有してなる成分組成を有し、かつ、塩基度(C/S)が0.6≦CaO/SiO≦1.0、1300℃における粘度が0.5〜2poise、凝固温度が800〜1000℃、かつ鋳型と凝固シェルとの間に流入したときにパウダーが形成するパウダーフィルムのトータル厚み0.5〜3mmのうち、鋳型に接する側の厚み10〜50%が、少なくともカスピダインを含む結晶相を晶出する性質を持つAl含有鋼用連続鋳造パウダーである。
【0017】
また、Al含有鋼は、Alを含有するFe−Ni合金、Fe−Cr合金またはFe−Ni−Cr合金であることが好ましい。
【0018】
さらに、このAl含有鋼用連続鋳造パウダーは、単一の酸化物粒子径が、平均粒径15〜50μmであり、かつ、15〜25μmの粒径範囲が50%以上を占めることが好ましい。
【0019】
本発明では、このパウダーを用いた連続鋳造方法も提案する。すなわち、C≦1.0%、Si≦2.0%、Mn≦2.0%、Ni≦50%、Cr≦25%、Al:0.1〜1.5%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる溶融合金を、引抜速度:500〜900mm/分、溶湯の過熱度:5〜50℃の条件下で、上記の連続鋳造パウダーを用いたAl含有Fe−Ni−Cr合金の連続鋳造方法である。
【0020】
上記溶融合金は、さらに、Mo≦7%、Cu≦4%、Ti≦1.5%のうちから選ばれる1種または2種以上を含んでも構わない。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明にかかるパウダーの物性と性質を上記のように限定した理由について説明する。
Al:0.1〜1.5%
本発明では、Alを0.1〜1.5%含有するAl含有鋼、特に、Al含有Fe−Ni合金、Fe−Cr合金、Fe−Ni−Cr合金に有効であるため、このように定めた。
【0022】
1300℃における粘度:0.5〜2poise
パウダー粘度は、溶融パウダーが鋳型/凝固シェル間に流入する特性を決めるので、重要な物性値である。本発明では、(1)式に従い、パウダー中のアルミナがピックアップするので、粘度が上昇する傾向にある。これを考慮して、この範囲とした。つまり、0.5poise未満と低すぎたり、逆に2poiseを超えて高いと、デプレッション、縦割れ、横割れ、ブリーディング等のスラブ表面欠陥を引き起こし、研削歩留まりを落とす。したがって、1300℃における粘度は0.5〜2poiseと規定した。好ましくは0.5〜1.5poise未満、より好ましくは0.5〜1.3poiseである。
【0023】
凝固温度:800〜1000℃
凝固温度は、800℃未満と低すぎたり、1000℃を超えて高いと、デプレッション、縦割れ、横割れ、ブリーディング等のスラブ表面欠陥を引き起こし、研削歩留まりを落とす。本発明では、(1)式に従い、パウダー中のアルミナがピックアップするので、反応後、凝固温度は上昇傾向にある。これを加味して、凝固温度を800〜1000℃と定めた。
【0024】
パウダーフィルム厚さ:0.5〜3mm
鋳型と凝固シェルとの間に流入したときに鋳型に接する側に、パウダーフィルムを形成して、鋳型/凝固シェル間の潤滑、伝熱の調節を行うため、重要な役割を持つ。トータル厚み0.5mm未満と薄いと鋳型に焼き付き、スティッキングを起こす。逆に3mmを超えて厚いとオシレーションマークが深くなり、研削歩留まりを落とす。そのため、0.5〜3mmとした。好ましくは0.6〜2.5mmである。
【0025】
結晶相厚さおよび析出位置:
パウダーフィルムトータル厚み0.5〜3mmのうち、鋳型に接する側の10〜50%が、少なくともカスピダインを含む結晶相を形成する必要がある。10%未満と薄いとガラス質の挙動を取るために、強冷却となり、不均一冷却を起こす。その結果、デプレッション、縦割れ、横割れ、ブリーディング等のスラブ表面欠陥を引き起こし、研削歩留まりを落とす。また、50%を超えて厚いと、溶融パウダー層が薄くなり、凝固シェルの潤滑を阻害する。その結果、デプレッション、縦割れ、横割れ、ブリーディング等のスラブ表面欠陥を引き起こし、研削歩留まりを落とす。そのため、パウダーフィルムトータル厚み0.5〜3mmのうち、鋳型に接する側の10〜50%が結晶化することと定めた。なお、結晶は少なくともカスピダイン(3CaO・2SiO・CaF)が必要である。その他、ネフェリン(NaO・Al・2SiO)も好適である。さらに、Tiを1.5%以下含有する合金を連続鋳造する場合には、ペロブスカイト(CaO・TiO)が形成しても構わない。
【0026】
パウダー組成の酸弗化物部分を、CaO:15〜25%、SiO:20〜35%、Al:3〜15%、NaO:10〜20%、F:5〜15%、BaO:7〜12%と定めた理由を説明する。
【0027】
これらの成分は、いずれも、上記の粘度、凝固温度、結晶化挙動を満足するために、この範囲である必要がある。さらに、CaO:15〜25%、SiO:20〜35%、F:5〜15%の範囲は、粘度と凝固温度を適正化するためのみではなく、カスピダイン(3CaO・2SiO・CaF)を形成するために、この範囲とした。SiOの好ましい範囲は、24〜33%である。NaO:10〜20%は粘度と凝固温度を適正化するためのみではなく、ネフェリン(NaO・Al・2SiO)を形成するに必要なので、この範囲に定めた。Alの好ましい範囲は、3〜12%である。BaOは本発明で重要な元素である。BaOは(1)式の反応が進行しても、カスピダインを安定して形成する性質、つまり結晶促進作用を持つ。そのため、最低でも7%が必要である。なお、12%を超えての添加は、上記の粘度、凝固温度の範囲を満足できないために、7〜12%と定めた。好ましくは、8〜12%であり、より好ましくは、9〜11%である。
【0028】
骨材としてのC:1〜5%
Cはパウダーの溶融速度を制御するために添加されるものであり、1%未満では溶融が速すぎて、過剰流入を引き起こし、デプレッション、縦割れ、横割れ、ブリーディング等のスラブ表面欠陥を引き起こし、研削歩留まりを落とす。逆に、5%を超えて高いと、溶融速度が遅くなり過ぎて、流入が追い付かず、デプレッション、縦割れ、横割れ、ブリーディング等のスラブ表面欠陥を引き起こし、研削歩留まりを落とす。したがって、Cは1〜5%と規定した。
【0029】
塩基度(C/S):0.6≦CaO/SiO≦1.0
塩基度が0.6未満と低い場合にはパウダー中のシリカの活量が高くなるため、(1)式の反応が進行しやすくなり、上記の粘度、凝固温度、結晶化の挙動を妨げる。また、1.0を超えて高い場合には、上記の粘度、凝固温度、結晶化挙動を満足することが出来ない。したがって、塩基度は0.6≦CaO/SiO≦1.0と定めた。好ましくは0.6〜1未満であり、より好ましくは0.6〜0.98である。
【0030】
さらに、このAl含有鋼用連続鋳造パウダーは、単一の酸化物粒子径が、平均粒径15〜50μmであり、かつ、15〜25μmの粒径範囲が50%以上を占めることが好ましい。この理由を説明する。(1)式の反応に伴い、酸化物粒子の溶融は遅くなる傾向にある。逆に粒径が小さいと、溶融が速過ぎてしまい、パウダー流入が過多となり、フィルムの厚みが3mmを超えてしまう。そのために、平均粒径15〜50μmであり、かつ、15〜25μmの粒径範囲が50%以上を占めることと定めた。
【0031】
次に、このパウダーを用いた連続鋳造方法について説明する。
本発明のパウダーを適用する合金は、C≦1.0%、Si≦2.0%、Mn≦2.0%、Ni≦50%、Cr≦25%、Al:0.1〜1.5%、残部がFeおよび不可避的不純物からなる合金が最適である。
【0032】
上記の成分組成において、Cは材料の強度を保つために有用であり、Si、Mnは脱酸に有効な元素である。また、Niは組織をオーステナイトに保つために有用であり、Crは耐食性、耐熱性に有用な元素である。Alは脱酸に有効なだけではなく、耐熱性や耐高温酸化性に有用な元素である。
【0033】
また、Al含有鋼がFe−Ni合金またはFe−Ni−Cr合金である場合は、Niの下限値は5%であり、Al含有鋼がFe−Cr合金またはFe−Ni−Cr合金である場合は、Crの下限値は10%である。
【0034】
なお、上記成分に加え、Mo≦7%、Cu≦4%、Ti≦1.5%のうちから選ばれる1種または2種以上を含んでも構わない。Mo、Cuは耐食性に有用であり、Tiは耐熱性や耐高温酸化性に有用な元素である。
【0035】
引抜速度:500〜900mm/分
引き抜き速度が500mm/分未満では、スラブの鋳型内滞在時間が長くなり、強冷却となる。そのため、不均一冷却となり、デプレッション、縦割れ、横割れ、ブリーディング等のスラブ表面欠陥を引き起こし、研削歩留まりを落とす。逆に、900mm/分を超えて速いと、鋳型内での凝固シェルの成長が追いつかず、ブレークアウトを引き起こす。そのため、引抜速度は500〜900mm/分と定めた。
【0036】
溶湯の過熱度:5〜50℃
過熱度が5℃未満と低いと、溶融合金が浸漬ノズル内で凝固してノズル閉塞を引き起こし、鋳造停止となる。逆に50℃を超えて高いと(1)式の反応が進行しすぎて、溶融パウダーの粘度、凝固温度を上げてしまう。その結果、デプレッション、縦割れ、横割れ、ブリーディング等のスラブ表面欠陥を引き起こし、研削歩留まりを落とす。そのため、溶湯の過熱度は5〜50℃とした。
【実施例】
【0037】
表1に示した成分組成を持つ溶融合金を溶製し、表1に示すパウダーを用いて連続鋳造してスラブを製造した。
溶製は、電気炉で、鉄屑、純ニッケル、フェロクロム、ステンレス屑などの原料を溶解し、AODあるいはVODのいずれか一方または両方を用いて精錬し、所定の成分とした。なお、表1には、連続鋳造に用いたパウダーの成分組成と、その物性値および連続鋳造の条件についても併記した。本発明では、Al含有Fe−Ni合金/Fe−Cr合金/Fe−Ni−Cr合金を、長時間に亘り安定して連続鋳造できるために、取鍋1つだけのみならず、一部では2つもしくは3つまで鋳造した。
【0038】
なお、溶鋼成分、パウダー成分およびパウダーの物性値は、以下の方法で評価した。
・溶鋼成分:蛍光X線分析装置により定量分析した。表1に示した成分の残部は、Feを主に含み、その他に、微量のP、S等を含んでいる。
・パウダー成分:Cは燃焼法により、その他成分は、化学分析により定量分析した。表1に示す各成分の合計が100%に満たないのは、これら成分以外にも、MgO、Fe等の不可避的不純物を含むためである。
・粘度:回転円筒法により測定した。すなわち、鉄坩堝中にパウダーを入れ、縦型抵抗炉内で溶解し、その後、鉄製のローターを挿入、回転することで粘度を測定した。
・凝固温度:上記粘度測定の際に、温度降下していくと急激に粘度の値が立ち上がる点が求まる。この変曲点を凝固温度とした。
【0039】
表2には、表1に示した溶融合金を連続鋳造した際の、パウダーの組成変化と凝固した時の結晶相、連続鋳造における異常有無、製造したスラブの表面品質と研削後のスラブ歩留まりの結果も示した。
・溶鋼の過熱度:タンディッシュで溶鋼温度を測温して特定した。
・スラブ表面欠陥:スラブを目視で観察して特定した。ここで言う欠陥は、デプレッション、縦割れ、横割れ、ブリーディング、スティッキングなどである。
・パウダーの組成変化(最終アルミナ濃度):鋳型より鋳込み後のフィルムを採取して、化学分析により定量分析した。
・パウダーフィルム厚:鋳込み後のフィルムを用いて10点測定し、その平均値とした。
・結晶相厚み:上記のフィルムを埋め込み研磨して、SEM観察することで測定した。
・結晶相:鋳込み後のパウダーフィルムを採取し、X線回折することで結晶相を特定した。
・スラブ研削歩留:研削前後での重量変化により求めた。
・総合評価:平均研削歩留で評価した。◎は95以上、○は90以上95未満、×は90未満とした。また、ブレークアウト(B.O.で示す)したチャージは×とした。
【0040】
表から明らかな通り、本発明の範囲にある連続鋳造用パウダーを用い、鋳造条件も満たしていれば、表面性状に優れたスラブが製造できることが分かる。特に、発明例1〜6、8、9は、2番、3番鍋まで鋳込んでも、スラブの研削歩留が安定して良いレベルであることが明らかである。この結果からも長時間鋳造の安定性に優れることが分かる。
【0041】
発明例9、10は、CCパウダーの化学成分は、本発明の範囲にあるが、酸化物の粒径が好ましい範囲を外れていたために、若干スラブ表面性状が悪化し、その結果研削歩留が低下した。
【0042】
比較例11〜22は、本発明の範囲を外れるために、スラブ研削歩留を落としたり、ブレークアウトを引き起こした。特に、2番、3番鍋まで鋳込めたとしても、段階的にスラブの研削歩留が著しく低下することが分かる。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】