特許第6510356号(P6510356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510356
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】ウエハ支持装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20190422BHJP
   H02N 13/00 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   H01L21/68 R
   H02N13/00 D
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-151344(P2015-151344)
(22)【出願日】2015年7月30日
(65)【公開番号】特開2017-34042(P2017-34042A)
(43)【公開日】2017年2月9日
【審査請求日】2018年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221111
【氏名又は名称】モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【弁理士】
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】森川 裕次
【審査官】 山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−100844(JP,A)
【文献】 特開2015−123409(JP,A)
【文献】 特開2004−014603(JP,A)
【文献】 特開2003−249544(JP,A)
【文献】 特開2004−022888(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0008676(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
H02N 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも表面がPBN(熱分解窒化ホウ素)またはC−PBN(微量カーボンを含有する熱分解窒化ホウ素)からなる本体と、この本体表面に部分的に形成されるPG(熱分解黒鉛)による凸部とを有し、該PG凸部の上面をウエハ載置面とすることを特徴とするウエハ支持装置。
【請求項2】
複数のPG凸部が同一の高さに形成されて一つのウエハ載置面を与えることを特徴とする、請求項1記載のウエハ支持装置。
【請求項3】
複数のPG凸部が互いの間に間隔を置いて点在していることを特徴とする、請求項2記載のウエハ支持装置。
【請求項4】
本体が、絶縁基材上に導体電極が配置され、導体電極の表面をPBNまたはC−PBNからなる絶縁被膜層が形成されてなり、静電チャックとして使用されることを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか記載のウエハ支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や液晶の製造プロセスに用いられるウエハ支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶の製造プロセスにおいて、ドライエッチングやPVD(物理的気相蒸着法)などを行う際にウエハを固定するための装置として静電チャックが広く用いられている。
【0003】
静電チャックは、たとえば図2に示すように、グラファイト板1の周囲をPBN(熱分解窒化ホウ素)などの絶縁層2で被覆してなる絶縁基材の表面に静電チャック用の導体電極3が所定パターンに配置されると共に、裏面にはヒータ用の導体電極4が所定パターンに配置され、これら電極3,4を絶縁被膜層5で被覆した構成を有する。図示しないが、電極3,4の両端は端子を通じて電源に接続されている。
【0004】
このような構成の静電チャックにおいて、絶縁被膜層5の表面6にウエハ7を載置し、電極3の端子間に電圧を印加すると、クーロン力が発生し、ウエハ7を静電的にチャックする。図2の構成ではヒータ電極4が設けられているので、適正なチャック吸引力が発揮される最適温度に被吸着物6を均一に加熱しながらウエハ7をチャックすることができる。
【0005】
なお、図2は双極型静電チャックの構成例を示すものである。単極型静電チャックの場合は、絶縁基材上に単一の導体電極を配置したものを絶縁被膜層5で被覆した構成を有し、チャック電極3と、絶縁被覆膜5の表面6に載置した7との間に電圧印加することによってウエハ7をチャックする。
【0006】
静電チャックにおける絶縁被膜層4は、10〜1013Ω・cmの範囲の電気抵抗率を有することが好ましい。絶縁被膜層5の電気抵抗率がこの範囲にあると、電極とウエハとの間に極微弱電流が流れることを許容し、ジョンソンラーベック効果によりチャック吸引力が大幅に増大する。
【0007】
この観点から、本出願人は、CVD(化学的気相蒸着法)を用いてPBNに微量のカーボンを含有させたC−PBNで絶縁被膜層4とすることにより上記範囲の電気抵抗率を与える手法を発案した(特許文献1)。具体的には、PBN成形のための反応ガス(たとえば三塩化ホウ素+アンモニア)にカーボン添加のために必要なガス(たとえばメタン)を加えて減圧高温CVD炉内に導入することにより、微量カーボンを含有するPBN成形体からなる絶縁被膜層5を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第2756944号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、PBN(微量カーボンを含有するC−PBNを含む。以下同じ。)による絶縁被膜層5を形成した静電チャックは概ね満足すべき性能を発揮し得るものであるが、PBNは結晶質であるため、高温での使用条件において、PBN絶縁被膜層5からPBNの結晶が脱離してパーティクルを発生させ、これがウエハの裏面に付着して製品価値を著しく低下させるという問題があった。
【0010】
この点について発明者が実験を行ったところ、静電チャックのチャック電極パターン上に多数のパーティクルが発生することを確認した。このことから、絶縁被膜層5の表面6に直接載置されたウエハ7がチャック電極3に吸着されたときに、柔らかいPBNの表面6を引っ掻いてパーティクルを発生させているものと推測された。
【0011】
本発明は、上述した従来技術の不利欠点を解消し、パーティクルの発生を抑制できるウエハ支持装置を提供することを課題とする。なお、パーティクルの発生は、特に高温でのチャッキング時に顕著に見られるが、常温でのチャッキング時や単にウエハをPBN表面に接触させただけでも微量のパーティクルが発生することがあるので、静電チャックに限らず、ウエハ支持装置全般に共通する課題として認識することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者は、PBN絶縁被膜層の表面に、PBNより硬い熱分解黒鉛(PG)を部分的にコーティングすることによりパーティクルの発生を抑制できるのではないかとの考えに基いて実験と研究を重ねた結果、本発明を創案した。
【0013】
すなわち、本願の請求項1に係る発明は、少なくとも表面がPBNまたはC−PBNからなる本体と、この本体表面に部分的に形成されるPG(熱分解黒鉛)による凸部とを有し、該PG凸部の上面をウエハ載置面とすることを特徴とするウエハ支持装置である。
【0014】
本願の請求項2に係る発明は、請求項1記載のウエハ支持装置において、複数のPG凸部が同一の高さに形成されて一つのウエハ載置面を与えることを特徴とする。
【0015】
本願の請求項3に係る発明は、請求項2記載のウエハ支持装置において、複数のPG凸部が互いの間に間隔を置いて点在していることを特徴とする。
【0016】
本願の請求項4に係る発明は、請求項1ないし3のいずれか記載のウエハ支持装置において、本体が、絶縁基材上に導体電極が配置され、導体電極の表面をPBNまたはC−PBNからなる絶縁被膜層が形成されてなり、静電チャックとして使用されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ウエハは、PBN(またはC−PBN)の表面に接触することなく、PBNより硬いPGからなる凸部の表面に載置されるので、パーティクルの発生を大幅に低減させることができ、パーティクルがウエハの裏面に付着して製品価値を低下させることを効果的に防止する。
【0018】
また、PBN表面にPGを全面コーティングするのではなく、PBN表面を部分的に覆う凸部としてPGを点状、線状、帯状、格子状などに形成することにより、ウエハの裏面がPG凸部表面(ウエハ載置面)に接触する面積が小さくなるので、この点からもパーティクルの発生を防止ないし抑制すると共に、PBNとPGの熱膨張率差による応力を分断・開放することでPGの剥離を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態による静電チャックの断面図である。
図2】従来技術による静電チャックの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1に本発明の一実施形態による静電チャックの一例を断面図で示す。この静電チャックは、グラファイト板1の周囲をPBN(熱分解窒化ホウ素)などの絶縁層2で被覆してなる絶縁基材の表面に静電チャック用の導体電極3が所定パターンに配置されると共に、裏面にはヒータ用の導体電極4が所定パターンに配置され、これら電極3,4を絶縁被膜層5で被覆した構成を有する。図示しないが、電極3,4の両端は端子を通じて電源に接続されている。この静電チャックの構成および作用は、既述した従来技術による静電チャック(図2)と基本的に同様である。
【0021】
しかしながら、既述した従来技術による静電チャックはPBN絶縁被膜層5の表面6にウエハ7を直接載置して使用されるのに対し、この静電チャックにおいては、絶縁被膜層5の表面を部分的に覆うようにPG(熱分解黒鉛)による凸部8が複数形成されており、これら凸部8の上面は実質的に面一に形成されてウエハ7に対する載置面9を与えている点で大きく相違している。この構成により、ウエハ7はPBN絶縁被膜層5の表面6には接することなく、PBNより硬いPGからなる凸部8の上面によるチャック面9上に載置されることになるので、高温での使用条件においても、パーティクルの発生を防止または大幅に低減することができる。
【0022】
以下に試験例と共に本発明の実施例を挙げてさらに本発明について説明する。
【0023】
厚さ10mmの円盤状グラファイト板1の表面に熱CVD法により300μm厚のPBN絶縁層2を形成し、さらに、同じく熱CVD法により50μm厚のPG層を表裏両面に形成した後、その表面側を部分的に除去して所定パターンのチャック電極3を形成すると共に、裏面側についても部分的に除去して所定パターンのヒータ電極4を形成した。次いで、同じく熱CVD法により、電極3,4を有するPBN絶縁層2の全面を被覆するように厚さ100μm厚のカーボン添加PBN(C−PBN)絶縁被膜層5を形成して、試験例1の静電チャックを製造した。この静電チャックは、既述した従来技術による静電チャック(図2)において、絶縁被膜層5をC−PBNで形成したものである。
【0024】
絶縁被膜層5を形成する際にメタンガスを用いなかったこと以外は試験例1と同様にして、試験例2の静電チャックを製造した。この静電チャックは、既述した従来技術による静電チャック(図2)において、絶縁被膜層5をカーボン不添加のPBNで形成したものである。
【0025】
試験例1の静電チャックを得た後、さらに、C−PBN絶縁被膜層5の表面に、熱CVD法により5μm厚のPG層を形成した後、PGによる円柱状(直径1mm)の凸部8が中心間距離3mmで多数点在するように部分的に切除して、図1に示す構成の静電チャック(本発明実施例)を製造した。
【0026】
これらの静電チャックについて、±0.25kV、±0.30kVおよび±0.50kVのDC電圧を印加したときのシリコンウエハ7に対するチャック力を測定したところ、表1に示す結果を得た。
【0027】
【表1】
【0028】
特許文献1においても実証されているように、PBN絶縁被膜層5を有する試験例2の静電チャックに比べて、絶縁被膜層5をC-PBNとした試験例1の静電チャックはチャック力が大幅に増大している。C−PBN絶縁被膜層5上にPG凸部8を多数点在させた本発明実施例による静電チャックは、ウエハ載置面9がPG凸部8の上面によって与えられることになるので、PG凸部8を有しない試験例2の静電チャックと比べると、PG凸部8の高さ(本例では5μm)だけチャック電極3から離れており、これによってチャック力が低下しているが、その低下はわずかであり、実用上十分なチャック力を発揮し得るものであることを確認した。
【0029】
本発明実施例の静電チャックにおいて、絶縁被膜層5の表面6に形成したPG凸部8は、その後も剥離することがなかった。PG凸部8は、絶縁被膜層表面6のPBNに非接触にウエハ7を支持するために、絶縁被膜層表面6を部分的に覆うものとして点状、線状、帯状、格子状などに形成することができるが、上記実施例のように、多数のPG凸部8が各々独立した状態で点在するように形成することが、ウエハ裏面の接触面積を極小化してよりパーティクル発生抑制効果を高める上で好ましい。
【0030】
次に、試験例1の静電チャックと本発明実施例の静電チャックについて、室温で静電チャックの電極3,4に電圧を印加せずに単にウエハを載置した場合(室温:wo/ESC)、500℃で静電チャックの電極3,4に電圧を印加せずに単にウエハを載置した場合(500℃:wo/ESC)、および、500℃で静電チャックの電極3,4に電圧を印加してウエハ7をチャッキングした場合(500℃:w/ESC)の3通りの条件において、発生したパーティクル数をサイズごとに計測したところ、表2に示す結果を得た。すなわち、C−PBN絶縁被膜層5上にPG凸部8を多数点在させた本発明実施例による静電チャックを用いると、C−PBN絶縁被膜層5の表面に直接ウエハを載置する試験例1の静電チャックに比べて、いずれの場合においてもパーティクル発生数が大幅に減少した。本発明実施例による静電チャックをウエハ支持装置として使用すると、いずれの場合も20μmを超える大きさのパーティクル発生量がゼロになり、パーティクル発生抑制効果が顕著に向上することを確認した。
【0031】
【0032】
上記実施例では、中心間距離3mmで直径1mm、高さ5μmのPG凸部8を点在させたが、C−PBN絶縁被膜層5の全表面積に対するPG凸部8の合計表面積の割合(PG凸部8の径や中心間距離によって増減する)やPG凸部8の高さが小さくなりすぎると、PG凸部8の上面9にウエハ7を載置したときに、ウエハ7の撓みによってウエハ裏面がC−PBN絶縁被膜層5の表面に接触して、パーティクル発生量を増大させてしまう。また、反対に、PG凸部合計表面積/絶縁被膜層全表面積の割合やPG凸部8の高さが大きくなりすぎると、実用上十分なチャック力を与えることができなくなる。
【0033】
これらを考慮しつつ、PG凸部8の中心間距離および高さ、ならびにPG凸部合計表面積/絶縁被膜層全表面積の割合を様々に変えて実験を行ったところ、PG凸部8の高さについては、中心間距離10mmで直径1mmとした場合、高さが1μmのときは、ウエハ7が撓んでウエハ裏面がC−PBN絶縁被膜層5に接触したが、高さを2μmとしたときは接触しなかった。また、PG凸部8の高さを20μmとすると、チャック力が大幅に低下して実用に値しなくなることが分かった。
【0034】
また、PG凸部合計表面積/絶縁被膜層全表面積の割合を変えてチャック力を測定したところ、この表面積割合が64%のときは、実用に値するチャック力を確保することができなかったが、この表面積割合を減少させていくにつれてチャック力が増加して、42%のときに4.0g/cm(印加電圧±0.5kV)のチャック力が得られた。この値は、8インチのウエハ7を吸着する直径190mmの静電チャック面積(ボルト穴やパターン間などチャック力を発揮することができない部分を除く有効面積:約198/cm)に換算すると約792gのチャック力に相当するから、8インチシリコンウエハの重量(約50g)に対して約16倍の安全率でチャッキングできていることを意味しており、実用上十分なチャック力である。
【0035】
これらの結果から、ウエハ7の撓みによるウエハ裏面のC−PBN絶縁被膜層5表面への接触を防止してパーティクル発生抑制効果を顕著に発揮させ、しかも実用上十分なチャック力を確保するためには、(1)PG凸部8の高さは、2μm以上で20μm以下であることが好ましく、(2)PG凸部合計表面積/絶縁被膜層全表面積の割合は、42%以下であることが好ましいことを確認した。また、PBNとPGの熱膨張率差による応力を分断・開放してPGの剥離を防止するために、PG凸部8の大きさ(直径)は5mm以下、特に3mm以下とすることが好ましいことも確認した。
【0036】
上記において実施例を中心として本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲に規定された発明の範囲内において広く変形ないし変更して実施可能である。たとえば、PG凸部8の上にTaC,SiC,NbCなどの炭化金属を成膜させることも、本発明の範囲内である。この場合は、PG凸部8上の該炭化金属膜の表面が互いに面一になってウエハ載置面9を与えることになる。また、PBNまたはC−PBNからなる絶縁被膜層5の膜厚は50〜300μmであることが好ましく、カーボン添加量は0〜10%であることが好ましい。
【符号の説明】
【0037】
1 グラファイト板
2 絶縁層
3 チャック電極
4 ヒータ電極
5 絶縁被膜層(PBNまたはC−PBN)
6 絶縁被膜層の表面
7 ウエハ
8 PG凸部
9 ウエハ載置面
図1
図2