特許第6510405号(P6510405)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510405
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】温度センサ
(51)【国際特許分類】
   G01K 1/08 20060101AFI20190422BHJP
   G01K 7/22 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   G01K1/08 Q
   G01K7/22 D
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-518109(P2015-518109)
(86)(22)【出願日】2014年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2014078206
(87)【国際公開番号】WO2015060380
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2017年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-220902(P2013-220902)
(32)【優先日】2013年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-23578(P2014-23578)
(32)【優先日】2014年2月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】森 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 達也
(72)【発明者】
【氏名】西 俊紀
(72)【発明者】
【氏名】大矢 誠二
(72)【発明者】
【氏名】大矢 俊哉
【審査官】 平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−127747(JP,A)
【文献】 実開昭57−004712(JP,U)
【文献】 特開平11−218449(JP,A)
【文献】 特開2009−175129(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00−19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度センサであって、
感温体および素子電極線を有する感温素子と、
前記素子電極線に接合されるシース芯線を内包するシース部と、
先端側に底部を有して軸線方向に延びる筒形状をなし、自身の内部空間に、少なくとも、前記感温素子を収容するとともに前記素子電極線と前記シース芯線との接合部を収容する包囲部と、
前記内部空間に配置され、前記感温体のうち、先端側の端部と後端側の端部との間に位置する側周部の少なくとも一部に接する保持部材と、
が設けられ、
前記包囲部の内部のうち前記感温体の先端側には空泡が備えられており、
前記包囲部の先端側から前記軸線に沿う方向に投影して見たときに、前記空泡は、少なくとも前記感温体の先端面を内包し、
前記保持部材は、前記包囲部における前記底部の内壁面に当接している温度センサ。
【請求項2】
温度センサであって、
感温体および素子電極線を有する感温素子と、
前記素子電極線に接合されるシース芯線を内包するシース部と、
先端側に底部を有して軸線方向に延びる筒形状をなし、自身の内部空間に、少なくとも、前記感温素子を収容するとともに前記素子電極線と前記シース芯線との接合部を収容する包囲部と、
前記内部空間に配置され、前記感温体のうち、先端側の端部と後端側の端部との間に位置する側周部の少なくとも一部に接する保持部材と、
が設けられ、
前記包囲部の内部のうち前記感温体の先端側には空泡が備えられており、
前記包囲部の先端側から前記軸線に沿う方向に投影して見たときに、前記空泡は、少なくとも前記感温体の先端面を内包し、
前記底部は、曲面形状であり、
前記底部から、前記感温体の先端側の端部に至るまでの一つの連続的な空泡が形成されている温度センサ。
【請求項3】
前記包囲部の先端側から前記軸線に沿う方向に投影して見たときに、前記空泡は、少なくとも前記感温体の先端向き面を内包する請求項1または2に記載の温度センサ。
【請求項4】
前記空泡は、前記感温素子の先端向き面から前記側周部にわたって配置され、前記感温素子から前記空泡の先端側境界までの寸法は、前記感温素子から前記空泡の側方側境界までの寸法よりも大きい請求項1に記載の温度センサ。
【請求項5】
前記底部は、曲面形状であり、
前記底部から、前記包囲部における筒形状の円筒面と前記底部との境界に至るまでの一つの連続的な前記空泡が形成されている請求項1からのいずれか1項に記載の温度センサ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2013年10月24日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2013−220902号に基づく優先権と、2014年2月10日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2014−023578号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2013−220902号の全内容と日本国特許出願第2014−023578号の全内容を本国際出願に援用する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、サーミスタ素子やPt抵抗体素子等の感温素子を備える温度センサに関する。
【背景技術】
【0003】
一般的に、サーミスタ素子等の感温素子と、感温素子の電極から延びる素子電極線と溶接接合によって電気的に接続される金属芯線を内部で絶縁保持するシース部と、感温素子、金属芯線及びシース部を収容する金属チューブと、金属チューブ内に充填され感温素子および金属芯線を保持するセメントと、から主に構成された温度センサが知られている(例えば、特許文献1から3参照。)。
【0004】
このようなセンサは、車載用温度センサ、または設置式汎用エンジン等の排ガス測定に用いられている。言い換えると、高温用センサのように測定温度が高く、かつ感熱部周囲に振動が加わる使用条件の下で用いられるセンサとして使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−175129号公報
【特許文献2】特許第4760584号公報
【特許文献3】特許第4768432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1から3に記載の温度センサでは、感温素子を金属チューブの内部で保持するために、セメントを金属チューブの先端にまで充填している。その方法としては、金属チューブに充填されたセメントが固化する前に、遠心力などを作用させてセメントを金属チューブの先端まで詰める方法等が例示することができる。
【0007】
しかしながら上述の温度センサは、冷熱サイクル試験のように高温条件および低温条件に繰り返し置かれると、感温素子の素子電極線や金属芯線(無機絶縁ケーブル:シース)に応力が加わり、強度が小さい素子電極線と金属芯線との接合部が切断される場合がある。
【0008】
具体的には、温度センサが高温条件下から低温条件下に移されると、感温素子の周辺部の温度が、高温から低温に急激に低下する場合がある。この場合、外壁を構成する金属チューブの温度が最初に低下し、この温度低下により金属チューブは収縮する。その後内部に配置されたシースの温度が低下し始め、シースの収縮が始まる。言い換えると、金属チューブの収縮が始まるタイミングと、その内部に配置されたシースの収縮が始まるタイミングとが異なっている。
【0009】
そのため、金属チューブが収縮を始めた時点では、シースは熱により膨張したままの状態にあることになる。金属チューブの収縮は、その中に充填されたセメントを介して感温素子の素子電極線やシースに伝わり、これらの部材の接合部に応力が加わることで、接合部が切断される原因ともなりうる。
【0010】
本発明の一局面においては、熱応力による感温素子の接合部の切断が抑制された構成を有する温度センサを提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの局面における温度センサは、感温素子と、シース部と、包囲部と、保持部材と、を備える。
感温素子は、感温体および素子電極線を有する。シース部は、前記素子電極線に接合されるシース芯線を内包する。包囲部は、先端側に底部を有して軸線方向に延びる筒形状をなし、自身の内部空間に、少なくとも、前記感温素子を収容すると共に前記素子電極線と前記シース芯線との接合部を収容する。保持部材は、前記内部空間に配置され、前記感温体のうち、先端側の端部と後端側の端部との間に位置する側周部の少なくとも一部に接する。
【0012】
包囲部の内部のうち感温体の先端側には空泡が備えられる。
この温度センサは、前記包囲部の先端側から前記軸線に沿う方向に投影して見たときに、前記空泡は、少なくとも前記感温体の先端面を内包するように構成されている。
【0013】
なお、空泡は、固体や液体を内部に含まない空間として形成されており、例えば、ガス(大気など)を内部に含んだ空間として形成してもよく、あるいは、真空の空間として形成してもよい。
【0014】
この温度センサによれば、感温体の先端側に存在する空泡が、感温体の先端面を内包するように形成されることにより、感温素子やシース芯線や接合部にかかる熱応力を軽減することができる。つまり、高温状態にある温度センサを低温状態に移行させる際に、外部に露出している包囲部の温度が最初に低下し、その後に包囲部の内部空間に配置された保持部材や感温素子や素子電極線やシース芯線の温度が低下する。
【0015】
包囲部が温度低下により熱収縮すると、包囲部の底部により保持部材は後端側へ押しこまれる。この際、感温体の先端側に空泡が存在すると、当該空泡によって保持部材の後端側への押し込みが吸収される。その結果、感温素子が後端側へ押しこまれないため、素子電極線とシース芯線との接合部に働く熱応力が低減される。少なくとも感温体の先端面が内包されるように空泡が形成されていれば上記効果は発揮される。なお、前記包囲部の先端側から前記軸線に沿う方向に投影して見たときに、感温体の先端向き面が内包されるように空泡が形成されていてもよい。これにより、上記効果はより発揮される。
【0016】
上記の温度センサにおいては、前記保持部材は、前記包囲部における前記底部の内壁面に当接していてもよい。これにより、包囲部の先端部分である底部と保持部材とが直接接触することになる。包囲部の底部から保持部材を介して感温体に至る熱伝導経路が形成され、温度センサとしての応答速度が向上しやすくなる。
【0017】
上記の温度センサにおいて、前記空泡は、前記感温素子の前記先端向き面から前記側周部にわたって配置され、前記感温素子から前記空泡の先端側境界までの寸法は、前記感温素子から前記空泡の側方側境界までの寸法よりも大きくてもよい。これにより、感温素子の先端側に空泡による空間を確保できる。その結果、保持部材の軸線方向への収縮を吸収する十分な空間を確保でき、当該収縮による応力を吸収しやすくなる。
【0018】
上記の温度センサにおいては、前記底部は曲面形状であり、前記底部から、前記包囲部における筒形状の円筒面と前記底部との境界に至るまでの一つの連続的な前記空泡が形成されていてもよい。このように包囲部の底部から、筒形状の円筒面と底部との境界に至るまでの一つの連続的な空泡を形成することにより、素子電極線とシース芯線との接合部にかかる熱応力を軽減しやすくなる。
【0019】
つまり、包囲部の底部から、筒形状の円筒面との底部との境界までの領域に設けられた空泡により、包囲部の熱収縮による保持部材の後端側への押し込みが吸収され、素子電極線とシース芯線との接合部に働く熱応力が低減される。特に、包囲部の底部から、筒形状の円筒面と底部との境界に至るまでの一つの連続的な空泡を形成することにより、不連続な空泡が形成されている場合と比較して保持部材の後端側への押し込みが吸収されやすくなり、素子電極線とシース芯線との接合部に働く熱応力が低減されやすくなる。
【0020】
上記の温度センサにおいては、前記底部は曲面形状であり、前記底部から、前記感温体の先端側の端部に至るまでの一つの連続的な空泡が形成されていてもよい。このように包囲部の底部から、感温体の先端側の端部に至るまでの一つの連続的な空泡を形成することにより、素子電極線とシース芯線との接合部にかかる熱応力をさらに軽減しやすくなる。
【0021】
つまり、包囲部の底部から、感温体の先端側の端部までの領域に設けられた空泡により、包囲部の熱収縮による保持部材の後端側への押し込みが吸収され、素子電極線とシース芯線との接合部に働く熱応力が低減される。特に、包囲部の底部から、感温体の先端側の端部に至るまでの一つの連続的な空泡を形成することにより、不連続な空泡が形成されている場合と比較して保持部材の後端側への押し込みが吸収されやすくなり、素子電極線とシース芯線との接合部に働く熱応力が低減されやすくなる。
【発明の効果】
【0022】
上記の温度センサによれば、感温体の先端側に存在する空泡が、感温体の先端面を内包するように形成されることにより、素子電極線とシース芯線との接合部に働く熱応力が低減されやすくなり、熱応力による感温素子の不具合発生を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1の実施形態である温度センサの構造を説明する部分破断断面図である。
図2図1の金属チューブ先端側の内部構造を説明する断面図である。
図3】金属チューブの先端から軸線方向後端側に向かって、小径部、空泡、感温部の位置関係を、図2のIII−III断面に投影した状態として表した説明図である。
図4】金属チューブ内へのセメントの充填方法を説明する図である。
図5A-5B】図2の内部構造の他の例を説明する断面図である。
図6】本発明の第1の実施形態の変形例である温度センサの金属チューブ先端側の内部構造を説明する断面図である。
図7A-7B】図7Aは、図6の感温素子の構成を説明する模式図であり、図7B図7AにおけるVIIB−VIIB断面視図である。
図8】本発明の第2の実施形態である温度センサの金属チューブ先端側の内部構造を説明する断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1,101…温度センサ、10…サーミスタ素子(感温素子)、10P…感温素子、11…感温部(感温体)、12…電極線(素子電極線)、15…溶接点(接合部)、15P…金属抵抗体、20…シース部、21…金属芯線(シース芯線)、30…金属チューブ(包囲部)、31…チューブ先端(底部)、40…セメント(保持部材)、70,170…空泡
【発明を実施するための形態】
【0025】
〔第1の実施形態〕
この発明の第1の実施形態に係る温度センサについて、図1から図4および図5A図5Bを参照しながら説明する。
【0026】
本実施形態の温度センサ1は内燃機関の排気管などの流通管に装着することにより、測定対象ガスが流れる流通管内に配置させ、測定対象ガス(排気ガス)の温度検出に用いられるものである。温度センサ1には、サーミスタ素子(感温素子)10と、シース部20と、金属チューブ(包囲部)30と、取付け部50と、ナット部60と、が主に設けられている。
【0027】
サーミスタ素子10は測定対象ガスが流れる流通管内に配置される感温素子であり、金属チューブ30の内部に配置されるものである。サーミスタ素子10には、温度によって電気的特性(電気抵抗値)が変化するサーミスタ焼結体である感温部(感温体)11と、この感温部11の電気的特性の変化を取り出すための一対の電極線(素子電極線)12とが設けられている。
【0028】
シース部20は、一対の金属芯線(シース芯線)21を外筒22の内側にて絶縁保持するものである。シース部20には、金属製の外筒22と、導電性金属からなる一対の金属芯線21と、外筒22と2本の金属芯線21との間を電気的に絶縁して金属芯線21を保持する絶縁粉末(図示せず)と、が設けられている。
【0029】
金属チューブ30は、軸線方向に延びる筒状の部材の先端側を閉塞して形成した部材であり、耐腐食性金属(例えば、耐熱性金属でもあるSUS310Sなどのステンレス合金)から形成されたものである。金属チューブ30は、鋼板の深絞り加工によりチューブ先端(底部)31が閉塞した軸線方向に延びる筒状に形成され、筒状のチューブ後端が開放した形状に形成されている。金属チューブ30は、チューブ後端側が取付け部50の第2段部55の内面に当接するように、軸線方向寸法が設定されている。金属チューブ30のチューブ先端31は曲面形状に形成されている。
【0030】
金属チューブ30の内部には、サーミスタ素子10およびセメント(保持部材)40が配置されている。金属チューブ30には、先端部分に小径部32が形成され、その後端側に小径部32よりも径が大きな大径部33が形成されている。この小径部32および大径部33の間は、段差部34により接続されている。
【0031】
セメント40はサーミスタ素子10の周囲に充填されるものであり、サーミスタ素子10を保持してその揺動を抑制するものである。セメント40としては、熱伝導率が高く、高耐熱、高絶縁性の材料を用いてもよい。例えば、Al23やMgOなどの酸化物、AlNやTiNやSi34やBN等の窒化物、および、SiCやTiCやZrC等の炭化物が主体のセメント、または、Al23やMgOなどの酸化物、AlNやTiNやSi34やBN等の窒化物、および、SiCやTiCやZrC等の炭化物が主体で、Al23やSiO2やMgO等の無機バインダーを混合したセメントを用いてもよい。
【0032】
取付け部50は金属チューブ30を支持する部材であり、少なくとも金属チューブ30の先端が外部に露出する状態で金属チューブ30の後端側の外周面を取り囲んで金属チューブ30を支持するものである。取付け部50には、径方向外側に突出する突出部51と、突出部51の後端側に位置すると共に軸線方向に延びる後端側鞘部52と、が設けられている。
【0033】
突出部51は、先端側に取り付け座53が設けられた環状の部材である。取り付け座53は、先端側に向かって径が小さくなるテ―パ形状の部材であり、排気管(図示せず)のセンサ取り付け位置に形成された後端側に向かって径が大きくなるテ―パ形状と対応したものである。取付け部50は、排気管のセンサ取り付け位置に配置されると、取り付け座53がセンサ取り付け位置のテーパ部に密着し、排気管外部への排気ガスの漏出を抑制するものである。
【0034】
後端側鞘部52は環状に形成された部材であり、後端側鞘部52には、先端側に位置する第1段部54と、第1段部54よりも外径が小さな第2段部55と、が形成されている。
【0035】
ナット部60は、六角ナット部61およびネジ部62を有するものである。なお、軸線方向は温度センサ1の長手方向であり、図1の上下方向である。温度センサ1の先端側は図1の下側であり、後端側は図1の上側である。
【0036】
金属芯線21は、先端部が溶接点(接合部)15によりサーミスタ素子の電極線12と電気的に接続されるものであり、後端部が抵抗溶接により加締め端子23と接続されるものである。つまり金属芯線21は、自身の後端が加締め端子23を介して外部回路、例えば車両の電子制御装置(ECU)等の接続用のリード線24と接続されるものである。
【0037】
一対の金属芯線21は絶縁チューブ25によって互いに絶縁されており、一対の加締め端子23も絶縁チューブ25により互いに絶縁されている。リード線24は導線を絶縁性の被覆材により被覆したものであり、リード線24は耐熱ゴム製の補助リング26の内部を貫通して配置されている。
【0038】
次に本実施形態の特徴である金属チューブ30の先端側の構成について図2から図4を参照しながら説明する。
金属チューブ30の内部に充填されたセメント40には、図2に示すように、感温部11の先端側(図2の左側)に空泡70が形成されている。空泡70は、固体や液体を内部に含まない空間として形成されており、例えば、ガス(大気など)を内部に含んだ空間として形成してもよく、あるいは、真空の空間として形成してもよい。空泡70は、図3に示すように、感温部11の先端面11Aを含む先端向き面11Bを内包する大きさを有している。
【0039】
ここで、感温部11の先端面11Aは、高さの低い六角柱状に形成された感温部11における軸線方向Lと直交する一対の側面のうちの最先端に配置されている側面である。また、先端向き面11Bは、軸線方向Lに沿って先端側から感温部11を見た際に、先端側に表れて目視できる全ての側面のことである。本実施形態のように六角柱状に形成された感温部11の場合には、先端面11Aに隣接する一対の側面および先端面11Aからなる3つの側面が先端向き面11Bとなる。
【0040】
本実施形態においては、高さの低い六角柱状に形成された感温部11の6つの側面のうち、軸線方向Lと直交する一対の側面(言い換えると、先端側の側面である先端面11Aおよび後端側の側面)を除いた他の4つの側面が、本発明の「側周部」の一例に相当する。セメント40は、本発明の「側周部」の一例に相当する他の4つの側面に接するように充填されている。なお、本実施形態では感温部11が高さの低い六角柱状に形成された例に適用して説明するが、感温部11の形状は六角柱状に限定されるものではなく、他の多角形柱状であってもよいし、円柱状であってもよい。
【0041】
空泡70の径は、図4に示すように、金属チューブ30の内部にセメント40を充填する充填針75の先端位置を調節することにより制御される。例えば、金属チューブ30に対する充填針75の相対的な先端位置を、セメント40の充填状態に応じて移動させることにより調節できる。具体的には、充填針75の先端を金属チューブ30の後端側へ比較的早い速度で移動させることによって空泡70の径が大きくなる。その一方で、充填針75の移動速度を遅くすることにより空泡70の径が小さくなる。
【0042】
その他にも、セメント40を充填する際に、カーボンや、テオブロミンや、各種の有機バインダーなど比較的低温(例えば900℃以下)で揮発する昇華材料であって、セメント40が固化する過程で消滅してセメント40内に空隙を形成するものを金属チューブ30の内部に配置してもよい。このようにして形成された空隙が上述の空泡70となる。
【0043】
また感温部11の先端側に存在する空泡70は、図5Aに示すように、金属チューブ30のチューブ先端31から、金属チューブ30の円筒面およびチューブ先端31の境界である第1基準面L1に至るまでの一つの連続的な空泡70として形成されていてもよい。
【0044】
さらに感温部11の先端側に存在する空泡70は、図5Bに示すように、金属チューブ30のチューブ先端31から、サーミスタ素子10の感温部11における先端側の端部である第2基準面L2に至るまでの一つの連続的な空泡70として形成されていてもよい。
【0045】
上記の構成の温度センサ1によれば、感温部11の先端側に存在する空泡70が、感温部11の先端面11Aを内包するように形成されることにより、サーミスタ素子10の電極線12と金属芯線21との接合部たる溶接点15にかかる熱応力を軽減することができる。つまり、高温状態にある温度センサ1を低温状態に移行させる際に、外部に露出している金属チューブ30の温度が最初に低下し、その後に金属チューブ30の内部空間に配置されたセメント40やサーミスタ素子10や電極線12や金属芯線21の温度が低下する。
【0046】
金属チューブ30が温度低下により熱収縮すると、金属チューブ30のチューブ先端31によりセメント40は後端側へ押しこまれる。この際、感温部11の先端側に空泡70が存在すると、当該空泡70によってセメント40の後端側への押し込みが吸収される。その結果、感温部11が後端側へ押しこまれないため、電極線12と金属芯線21との接合部である溶接点15に働く熱応力が低減される。少なくとも感温部11の先端面11Aが内包されるように空泡70が形成されていれば上記効果は発揮されるが、感温部11の先端向き面11Bが内包されるように空泡70が形成されていれば、上記効果はより発揮される。その結果、電極線12と金属芯線21との溶接点15が熱応力によって断線することを抑制でき、熱応力によるサーミスタ素子10の不具合発生を抑制することができる。
【0047】
また、図5Aに示すように、金属チューブ30のチューブ先端31から、筒形状の円筒面とチューブ先端31との境界である第1基準面L1に至るまでの一つの連続的な空泡70を形成することにより、電極線12と金属芯線21との溶接点15にかかる熱応力を軽減しやすくなる。つまり、金属チューブ30のチューブ先端31から、筒形状の円筒面とのチューブ先端31との境界までの領域に設けられた空泡70により、金属チューブ30の熱収縮によるセメント40の後端側への押し込みが吸収され、電極線12と金属芯線21との溶接点15に働く熱応力が低減される。特に、金属チューブ30のチューブ先端31から第1基準面L1に至るまでの一つの連続的な空泡70を形成することにより、不連続な空泡70が形成されている場合と比較してセメント40の後端側への押し込みが吸収されやすくなり、熱応力によるサーミスタ素子10の不具合発生を抑制しやすくなる。
【0048】
さらに、図5Bに示すように、金属チューブ30のチューブ先端31から、感温部11の先端側の端部である第2基準面L2に至るまでの一つの連続的な空泡70を形成することにより、電極線12と金属芯線21との溶接点15にかかる熱応力をさらに軽減しやすくなる。つまり、金属チューブ30のチューブ先端31から第2基準面L2までの領域に設けられた空泡70により、金属チューブ30の熱収縮によるセメント40の後端側への押し込みが吸収され、電極線12と金属芯線21との溶接点15に働く熱応力が低減される。特に、金属チューブ30のチューブ先端31から第2基準面L2に至るまでの一つの連続的な空泡70を形成することにより、不連続な空泡70が形成されている場合と比較してセメント40の後端側への押し込みが吸収されやすくなり、熱応力によるサーミスタ素子10の不具合発生を抑制しやすくなる。
【0049】
ここで、特許請求の範囲と本実施形態とにおける文言の対応関係について説明する。
温度センサ1が温度センサの一例に相当し、サーミスタ素子10が感温素子の一例に相当し、感温部11が感温体の一例に相当し、電極線12が素子電極線の一例に相当する。
【0050】
シース部20がシース部の一例に相当し、金属芯線21がシース芯線の一例に相当し、金属チューブ30が包囲部の一例に相当し、チューブ先端31が底部の一例に相当し、溶接点15が接合部の一例に相当し、セメント40が保持部材の一例に相当し、空泡70が空泡の一例に相当する。
【0051】
〔第1の実施形態の変形例〕
次に、本発明の第1の実施形態の変形例に係る温度センサついて図6および図7A図7Bを参照しながら説明する。本実施形態の温度センサの基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、感温素子の態様が異なっている。よって、本実施形態においては、図6および図7A図7Bを用いて感温素子に関する構成などについて説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
【0052】
本変形例の温度センサ1には、図6に示すように、白金抵抗体を用いた感温素子10Pや、金属チューブ30などが設けられている。
感温素子10Pは、図7Aおよび図7Bに示すように、アルミナ純度99.9%のセラミックス基体14Pと、セラミックス基体14Pの表面に膜状に形成される金属抵抗体15Pと、金属抵抗体15Pのうちセラミックス基体14Pと接する面とは反対側の面において金属抵抗体15Pを被覆するアルミナ純度99.9%のセラミックス被覆層17Pと、を有している。
【0053】
金属抵抗体15Pは、白金(Pt)を主体に構成されており、温度変化に応じて電気抵抗値が変化する。
セラミックス被覆層17Pは、セラミックスのグリーンシートを予め焼成することで得られた焼成済みのシートであり、接合層16Pにより焼成済みのセラミックス基体14Pの先端側(図7A図7Bにおける左側)に接合されて、金属抵抗体15Pの先端側を覆う状態で備えられている。
【0054】
なお、接合層16Pについても、アルミナ純度99.9%で構成されている。なお、この接合層16Pは、接合前はアルミナ粉末を含むペーストであり、焼成済みのセラミックス基体14Pとセラミックス被覆層17Pとを上記ペーストで貼り合わせた後、熱処理されることで、最終的に接合層16Pとなる。
【0055】
そして、金属抵抗体15Pのうち後端側(図7A図7Bにおける右側)は、厚膜パッド18Pを介して引出リード線21Pと接続されたあと、接続部分がリード線固定材19Pにより固定されることにより、引出リード線21Pと電気的に接続される。このように構成された感温素子10Pは、引出リード線21Pを介して外部機器などと電気的に接続される。
【0056】
なお、本変形例においては、感温素子10Pから引出リード線21Pを除いた構成が、本発明の「感温体」の一例に相当する。また、感温素子10Pにおけるチューブ先端31と対向する先端側の端部と、引出リード線21Pが接続される側の後端側の端部との間に位置する側面が、本発明の「側周部」の一例に相当する。セメント40は、本発明の「側周部」の一例に相当する上記側面に接するように充填されている。
【0057】
感温素子10Pのセラミックス基体14P、セラミックス被覆層17Pおよび接合層16Pは、アルミナ純度99.9%以上(本実施形態では、99.9%)で構成されており、耐マイグレーション性に優れる。
【0058】
つまり、温度センサ1は、被測定物の影響による金属抵抗体15Pの劣化を抑制できるとともに、セラミックス基体14P、セラミックス被覆層17Pおよび接合層16Pに含まれるアルミナ以外の成分によりマイグレーションが生じるのを抑制できることから、高温環境下(例えば、1000[℃])に晒される場合でも感温素子10Pの電気抵抗値が変動し難くなり、温度検出精度の低下を抑制できる。
【0059】
また、セメント40が感温素子10Pおよび金属チューブ30にそれぞれ接する状態で金属チューブ30の内部に配置されているため、感温素子10Pは、セメント40を介して金属チューブ30に支持される状態で備えられる。このため、振動などの外力を受けやすい使用環境においても、感温素子10Pと金属チューブ30との衝突を抑制でき、金属チューブ30との衝突に起因する感温素子10Pの破損を抑制できる。また、感温素子10Pがセメント40を介して金属チューブ30により支持されることから、金属芯線21に対する感温素子10Pの相対的位置の移動を抑制でき、感温素子10Pと金属芯線21との接続部分が断線するのを抑制できる。
【0060】
さらに、感温素子10Pが金属チューブ30の内部に備えられることから、感温素子10Pに水滴などが直接付着することがないため、水滴の付着による温度分布の偏りに起因する感温素子10Pでのクラック発生などの破損を抑制できる。
【0061】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態に係る温度センサついて図8を参照しながら説明する。本実施形態の温度センサの基本構成は、第1の実施形態と同様であるが、第1の実施形態とは、空泡の形態が異なっている。よって、本実施形態においては、図8を用いて空泡の形態について説明し、その他の構成要素等の説明を省略する。
【0062】
本実施形態の温度センサ101のサーミスタ素子10における金属チューブ30の内部には、図8に示すように、サーミスタ素子10およびセメント40が配置されている。セメント40は、金属チューブ30のチューブ先端31の内壁面に接するように金属チューブ30の内部に充填されている。言い換えると、チューブ先端31の内壁面と後述する空泡170との間に、少なくともセメント40が配置されるように充填されている。ここで、感温部11におけるチューブ先端31と対向する先端側の端部と、電極線12が接続される後端側の端部との間に位置する側面が、本発明の「側周部」の一例に相当する。セメント40は、本発明の「側周部」の一例に相当する上記側面の少なくとも一部に接するように充填されている。
【0063】
更にセメント40には、感温部11の先端側(図8の左側)に空泡170が形成されている。言い換えると、空泡170は、セメント40および感温部11を内包し、かつ、チューブ先端31の内壁面を内包しないように形成されている。空泡170は、感温部11の先端面11Aから側面にわたって配置されている。感温部11から空泡170の先端側境界までの寸法Lxと、感温部11から空泡170の側方側境界までの寸法Lyとは、Lx>Lyの関係を満たしている。
【0064】
空泡170を形成する方法としては次の方法を例示することができる。まず、先端に昇華材料をコートした感温部11を準備する。コートは、感温部11の先端を昇華材料の液に浸す方法、または、感温部11の先端に昇華材料をスプレーする方法により行われる。そして、金属チューブ30に充填されたセメント40の中へ、準備した感温部11を挿入する。または、準備した感温部11を金属チューブ30内に配置してから、セメント40を金属チューブ30に充填する。最後に、焼成によってセメント40を固化させる過程において昇華材料を昇華させる。昇華材料が取り除かれた空間が空泡170として形成される。
【0065】
金属チューブ30内に感温部11およびセメント40を配置した後であって、セメント40を固化させる前に遠心脱泡処理を行ってもよい。遠心脱泡処理では、チューブ先端31が径方向外側となるように金属チューブ30を保持し、金属チューブ30を回転させる。これによりセメント40には、チューブ先端31に向かう遠心力が作用し、チューブ先端31におけるセメント40の密度が高くなる。言い換えると、感温部11の周辺におけるセメント40の密度が高くなり、当該周辺における熱伝導性が高くなる。更に、感温部11の保持性も高くなる。
【0066】
なお、上述のように昇華材料を用いて、または、昇華材料および遠心脱泡処理を併用して空泡170を形成してもよいし、以下に説明する逆遠心脱泡処理により空泡170を形成してもよい。逆遠心脱泡処理では、金属チューブ30内に感温部11およびセメント40を配置した後、チューブ先端31が回転の中心側に成るように金属チューブ30を保持し、金属チューブ30を回転させる。これによりセメント40には、チューブ先端31から離れる方向に遠心力が作用し、セメント40がチューブ先端31から離れることで、当該近傍において空間が生じる。最後に、焼成によってセメント40を固化させる過程においてセメント40が固化し、当該空間が空泡170として形成される。
【0067】
上記の構成の温度センサ101によれば、チューブ先端31とセメント40とが直接接触することになる。チューブ先端31からセメント40を介して感温部11に至る熱伝導経路が形成され、温度センサとしての応答速度を向上させることができる。さらに、感温部11の先端側に空泡170による空間を確保できる。その結果、セメント40の軸線方向Lへの収縮を吸収する十分な空間を確保でき、当該収縮による応力を吸収することができる。
【0068】
なお、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、本発明を上記の実施形態に適用したものに限られることなく、これらの実施形態を適宜組み合わせた実施形態に適用してもよく、特に限定するものではない。
図1
図2
図3
図4
図5A-5B】
図6
図7A-7B】
図8