特許第6510412号(P6510412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6510412-フォトクロミック眼鏡レンズ 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510412
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】フォトクロミック眼鏡レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/10 20060101AFI20190422BHJP
   G02C 7/00 20060101ALI20190422BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20190422BHJP
   G02B 5/23 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   G02C7/10
   G02C7/00
   G02B5/26
   G02B5/23
【請求項の数】18
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2015-536210(P2015-536210)
(86)(22)【出願日】2013年10月10日
(65)【公表番号】特表2015-531497(P2015-531497A)
(43)【公表日】2015年11月2日
(86)【国際出願番号】FR2013052426
(87)【国際公開番号】WO2014057226
(87)【国際公開日】20140417
【審査請求日】2016年10月7日
(31)【優先権主張番号】1259714
(32)【優先日】2012年10月11日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】598142955
【氏名又は名称】エシロール アンテルナショナル
【氏名又は名称原語表記】ESSILOR INTERNATIONAL
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】アメリー クドラ
(72)【発明者】
【氏名】エレーヌ モーリー
【審査官】 池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−522270(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0240067(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0241602(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/10
G02B 5/23
G02B 5/26
G02C 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方主面及び後方主面を有するフォトクロミック眼鏡レンズであって、
(i)フォトクロミック基板と、
(ii)前記フォトクロミック眼鏡レンズの前記前方主面に形成された1つ以上の層を含むフィルタと、を具備し、
前記フィルタは、700nm以下の全厚を有し、且つ、前記前方主面に対し、
− 0°〜15°の入射角に対して、330ナノメートル〜380ナノメートルの波長にわたり、40%以下であるUVAにおける平均反射率(Rm,UVA)、
− 0°〜15°の入射角に対して、420ナノメートル〜450ナノメートルの波長にわたり、5%以上である青色における平均反射率(Rm,B)、
− 0°〜15°の入射角に対するスペクトル反射率曲線であって、
− 435ナノメートル未満の波長で最大反射率を有し、且つ、
− 70ナノメートル以上の半値全幅(FWHM)を有するスペクトル反射率曲線、及び、
− 0°〜15°の入射角に対して、関係式Δspectral=1−[R0°~15°(480nm)/R0°~15°(435nm)]によりパラメータΔspectralが0.8以上であるように定義される、パラメータΔspectralであって、
− R0°~15°(480nm)が、対象とする入射角における480ナノメートルの波長での前記前方主面の反射率の値を表し、
− R0°~15°(435nm)が、対象とする入射角における435ナノメートルの波長での前記前方主面の反射率の値を表す、
パラメータΔspectral、という特性をもたらす、フォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項2】
前記フィルタが600ナノメートル以下の全厚を有する、請求項1に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項3】
前記UVAにおける平均反射率(Rm,UVA)が5%以上である、請求項1又は2に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項4】
前記フィルタが11以下の層を含む干渉フィルタである、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項5】
前記フィルタの各層の個々の厚さが200ナノメートル以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項6】
前記青色における平均反射率(Rm,B)が10%以上である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項7】
最大反射率が410nm以下の波長で得られる、請求項1〜6のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項8】
半値全幅(FWHM)が75ナノメートル以上である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項9】
前記半値全幅が150ナノメートル以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項10】
0°〜15°の入射角に対して、380ナノメートル〜780ナノメートルの波長にわたり、前記前方主面からの平均光反射率(Rv)が2.5%以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項11】
前記フィルタが、前記前方主面に、
− 0°〜15°の入射角θ、及び30°〜45°の入射角θ’に対して、関係式Δangular=1−[Rθ’(435nm)/Rθ(435nm)]により定義されるパラメータΔangularであって0.6以上のパラメータΔangularを有し、
− Rθ(435nm)は、前記フィルタを含む主面の入射角θに対して435ナノメートルの波長での反射率の値を表し、
− Rθ’(435nm)は、前記フィルタを含む主面の入射角θ’に対して435ナノメートルの波長での反射率の値を表す
という追加的な特性をもたらす、請求項1〜10のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項12】
前記フィルタが、前記前方主面に、
− 0°〜15°の入射角に対して35%以下である、400ナノメートル〜450ナノメートルの波長にわたる400ナノメートル〜450ナノメートルの平均反射率(Rm,400nm~450nm)を有している
という追加的な特性をもたらす、請求項1〜11のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項13】
前記フォトクロミック基板が、フォトクロミック化合物でコーティングされた透明基板を含んでいる、請求項1〜12のいずれか1項に記載のフォトクロミック眼鏡レンズ。
【請求項14】
1つ以上の層から形成されたフィルタであって、前記フィルタの厚さが700ナノメートル以下であり、且つ透明基材の主面の1つに適用された前記フィルタが、透明基材の前記主面に対し、
− 0°〜15°の入射角に対して31%未満である、330ナノメートル〜380ナノメートルの波長にわたるUVAにおける平均反射率(Rm,UVA)、
− 0°〜15°の入射角に対して5%以上である、420ナノメートル〜450ナノメートルの波長にわたる青色における平均反射率(Rm,B)、
− 0°〜15°の入射角に対するスペクトル反射率曲線であって、
− 435ナノメートル未満の波長で最大反射率を有し、且つ、
− 70ナノメートル以上の半値全幅(FWHM)を有するスペクトル反射率曲線、及び、
− 0°〜15°の入射角に対して、関係式Δspectral=1−[R0°~15°(480nm)/R0°~15°(435nm)]によりパラメータΔspectralが0.8以上であるように定義される、パラメータΔspectralであって、
− R0°~15°(480nm)が、対象とする入射角における480ナノメートルの波長で前方主面の反射率の値を表し、
− R0°~15°(435nm)が、対象とする入射角における435ナノメートルの波長で前方主面の反射率の値を表す
パラメータΔspectral、という特性をもたらすことを特徴とする、1つ以上の層から形成されたフィルタ。
【請求項15】
前記フィルタの各層の個々の厚さが200ナノメートル以下である、請求項14に記載のフィルタ。
【請求項16】
前記フィルタの半値全幅が76nm以上且つ150nm以下である、請求項14又は15に記載のフィルタ。
【請求項17】
0°〜15°の入射角に対して、380ナノメートル〜780ナノメートルの波長にわたり、前記フィルタを含む前記透明基材の主面からの平均光反射率(Rv)が2.5%以下である、請求項14〜16のいずれか1項に記載のフィルタ。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の少なくとも1つのフォトクロミック眼鏡レンズ、又は請求項14〜17のいずれか1項に記載の少なくとも1つのフィルタを含む眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は眼鏡光学の分野に関する。
【0002】
より具体的には、フォトクロミック基板を含む眼鏡レンズであって、その前方主面が、眼鏡レンズのフォトクロミック性能を低下させることなく眼鏡着用者の網膜に対する青色光の光毒性の影響を減少させるべく意図された光学フィルタを含む眼鏡レンズに関する。
【背景技術】
【0003】
本特許出願の全体を通じて、値、特に波長及び入射角の範囲に言及している。「値xとyの間に含まれる」という表現は「xからyまでの範囲」を意味し、限界x及びyが当該範囲に含まれているものと理解されたい。
【0004】
肉眼で見える光は、波長が380ナノメートル(nm)から780nm前後である光スペクトルにわたる。約380nm〜580nmの当該スペクトルの当該部分は、実質的に青色の高エネルギー光に対応している。
【0005】
多くの研究(例えば、Kitchel E.,「The effects of blue light on ocular health」,Journal of Visual Impairment and Blindness Vol.94,No.6,2000、又はGlazer−Hockstein et.al.,Retina Vol.26 No.1,pp.1−4,2006)に、青色光が目、特に網膜に対し光毒性の影響を及ぼすことが示唆されている。
【0006】
具体的には、眼球光生物学の研究(Algvere P.V.et,al.,「Age−Related Maculopathy and the Impact of the Blue Light Hazard」,Acta Ophthalmo.Scand.,Vol.84,pp.4−15,2006)及び臨床研究(Tomany S.C.et.al.,「Sunlight and the 10−Year Incidence of Age−Related Maculopathy.The Beaver Dam Eye Study」,Arch Ophthalmol.Vol.122,pp.750−757,2004)に、強過ぎる青色光に過度に長い時間露出された場合、加齢性黄斑変性症(AMD)等の重大な眼疾患を誘発する恐れがある。
【0007】
従って、潜在的に有害な青色光、特に有害であることが知られる波長帯域への露出を制限することが推奨される(青色光B(λ)の有害な機能に関しては特にISO規格8980−3:2003(E)のテーブルB1を参照されたい)。
【0008】
にもかかわらず、約465nm〜495nmの当該青色光の一部は、概日周期と呼ばれる生物学的リズムを調整する機構の役割を果たす限り、有益である。
【0009】
以下では、465nm〜495nmの当該青色光を「時間生物学的」であると定義する。
【0010】
この理由のため、光毒性青色光が網膜まで透過するのを阻止又は制限する眼鏡レンズで両眼を覆うことが推奨される。
【0011】
400nm〜460nmの青色光のスペクトルの不都合な部分を、吸収又は反射により所望の範囲の波長の光を部分的に遮断する薄膜を含むレンズにより、少なくとも部分的に減衰させる方法が、例えば特許出願国際公開第2008024414号パンフレットにおいて既に提案されている。
【0012】
更に、当業者は、一方では着用者の視力を良好に保つため、他方では着用者の概日周期のサイクルに悪影響を及ぼさないよう、網膜が受ける有害な青色光の量を最小限に抑えながら、465nmよりも高い波長について可視光が効果的に透過されるようにするフィルタを研究に取り組んでいる。
【0013】
また、380nmを下回る紫外光(UV)が肉眼に極めて有害であることも知られている。
【0014】
周辺光の強さに応じて色合いが変化するフォトクロミック眼鏡レンズを用いることが知られている。そのようなレンズに用いられる有機フォトクロミック化合物は一般に、およそ330nm〜380nmの波長の光スペクトルにわたるUVA光の影響下で発色する化合物である。
【0015】
このようなフォトクロミック基板は、当該範囲の波長の光に照射されると暗くなるため、光の可視領域における光透過が減少する。
【0016】
UVA光による基板の照射が減少又は終了すると、フォトクロミック基板は次第に明るくなる。
【0017】
時間生物学サイクルに顕著な影響を及ぼすことなく、青色光をフィルタするフォトクロミック眼鏡レンズを製造するにはいくつかの問題がある。
【0018】
主な問題の一つは、フィルタリングが推奨される420nm〜450nmの波長が、フィルタリングしてはならない、又は過度にしてはならない330nm〜380nm及び465nm〜495nmの波長に近いことである。
【0019】
一般に、限られた通過帯域を有し、且つ当該通過帯域に反射ピークが集中している選択的な狭帯域フィルタを設計することは可能である。光毒性青色光の網膜までの透過を制限すべく、充分な狭帯域フィルタは、420nm〜450nmの間で30nmの半値全幅、及び435nmの中心波長で最大反射率を有していなければならない。
【0020】
実際には、極めて選択的な狭帯域フィルタは一般に、全厚が大きい、及び/又は、厚さが大きい少なくとも1つの層を含むスタックを含む相当数の誘電層からなる。
【0021】
そのようなフィルタは、特に真空下で堆積される場合、大量生産に時間を要し且つ高価である。複数の層、フィルタの全厚、及び複数の界面の存在もまた良好な機械的特性の実現を困難にしている。
【0022】
更に、既に上で述べたように、層の数が制限され、且つ全厚が大量生産に適している狭帯域反射フィルタはスペクトルの選択の幅が狭く、概日周期のサイクルを調整する範囲で光の大部分を反射しがちである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
従って、本発明の目的の一つは、フォトクロミック基板を含み、且つ周囲環境から生じる光照射の全てを考慮して目が受ける420nm〜450nmの波長の光毒性青色光を減少させる反射フィルタを含んでいて、レンズのフォトクロミック機能に顕著な影響を及ぼすことなく、しかも465nm〜495nmの波長において優れた透過性を保証する眼鏡レンズを提供することである。
【0024】
従って、好適には、本発明によるフィルタを、従来の反射防止フィルタの代わりに用いる(例えば、欧州特許第614957号明細書の例3に述べるような摩耗防止コーティングを含むグレーのOrma(登録商標)Transitions(登録商標)VI基板上にZrO2(29nm)/SiO2(22nm)/ZrO2(68nm)/ITO(7nm)/SiO2(85nm)をこの順序で堆積したスタックで形成された反射防止フィルタ)は、従来型のフィルタに比べて、可視透過率を(絶対値で)5%以上、より良好には3%以上は低下させない。
【0025】
本発明の別の目的は、従来型の反射防止フィルタと同様又は類似の反射防止性能を有する反射フィルタを含む眼鏡レンズを提供することである。
【0026】
本発明の別の目的は、上述の特性を有し、且つ大量生産が容易且つ安価な反射フィルタを含む眼鏡レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の目的を達成して、従来技術の上述の短所を改善すべく、本発明は、眼鏡レンズの着用者の網膜に到達する光毒性青色光の量が減少させることが可能であると共に、着用者の概日周期のサイクルを極力維持し、且つ眼鏡レンズのフォトクロミック機能に悪影響を及ぼさない反射フィルタを備えたフォトクロミック眼鏡レンズを提案する。
【0028】
この目的のため、本発明は、前方主面及び後方主面を有し、フォトクロミック基板及び眼鏡レンズの前記前方主面に形成された1つ以上の層を含むフィルタを含むフォトクロミック眼鏡レンズに関する。
【0029】
本発明によれば、前記フィルタは700nm以下の全厚を有し、フォトクロミック眼鏡レンズの前記前方主面に、
− 0°〜15°の入射角に対して、330ナノメートル〜380ナノメートルの波長にわたり、40%以下、より良好には35%以下であるUVA(Rm,UVA)における平均反射係数と、
− 0°〜15°の入射角に対して、420ナノメートル〜450ナノメートルの波長にわたり、5%以上である青色(Rm,B)における平均反射係数と、
− 0°〜15°の入射角に対するスペクトル反射率曲線であって、
− 435ナノメートル未満の波長で最大反射率、及び
− 70ナノメートル以上の半値全幅(FWHM)を有する反射率曲線と、
− 0°〜15°の入射角に対して、関係式Δspectral=1−[R0°~15°(480nm)/R0°~15°(435nm)]により当該パラメータΔspectralが0.8以上であるように定義されるパラメータΔspectralとを有し、
− R0°~15°(480nm)は、注目する入射における480ナノメートルの波長での前方主面の反射率の値を表し、
− R0°~15°(435nm)は、注目する入射における435ナノメートルの波長での前方主面の反射率の値を表す
という特性をもたらす。
【0030】
従って、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズは、当該眼鏡レンズの着用者の網膜への光毒性青色光の透過を、その平均反射率が420nm〜450ナノメートルの波長にわたることにより減少させることができる一方で、330nm〜380ナノメートルの波長にわたり平均反射率が制限されるためフォトクロミック基板をUV光により効果的に活性化することができる。
【0031】
本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズの各主面のスペクトル特性(反射率、Rm、Rv等)は、基板を通過せずに空中から主面に到達する入射光線に対して従来の方法で決定される。
【0032】
本発明による、スペクトル特性Rm,UVA、Rm,B、最大反射率、半値全幅、及びΔspectralが、前方主面に対する0°〜15°の入射角に対して定義される場合、前記特性は好適には前方主面に対する15°に等しい入射角について定義される。
【0033】
更に、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズはその前方主面にフィルタを有し、当該フィルタの上述のように定義されるパラメータΔspectralにより、
− 光毒性青色光の反射率(当該反射率の強度は量R0°~15°(435nm)に関係する)を最大化すること、及び
− 465nm〜495nmの時間生物学的青色光の反射率(当該反射率の強度は量R0°~15°(480nm)に関係する)を最小化することができる。
【0034】
提案するフィルタは、前方主面に70nmよりも大きく、狭帯域フィルタよりも大きい半値全幅を有するスペクトル反射率曲線をもたらし、全厚は700nm以下である。
【0035】
従って、そのようなフィルタを備えたフォトクロミック眼鏡レンズは、大量生産が煩雑でなく且つ安価に行える。
【0036】
最後に、当該フィルタは、420ナノメートル〜450ナノメートルの光毒性青色光の波長の帯域に比べて中心がずれている。
【0037】
具体的には、当該フォトクロミック眼鏡レンズは、435ナノメートルよりも短い波長で最大反射率を有している。
【0038】
これにより、余り厚くなく、且つUVA光及び465nm〜495nmの時間生物学的光に関するフォトクロミック眼鏡レンズの性能を低下させることなく光毒性青色光を極めて効果的にフィルタリングする広帯域のフィルタを得られる。
【0039】
更に、以下は本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズの他の有利且つ非限定的な特徴である。すなわち、
− UVA(Rm,UVA)における平均反射係数は30%以下、より良好には25%以下、更に良好には15%以下であり、
− フォトクロミック基板は1つ以上のフォトクロミック化合物でコーティングされた透明基材を含み、
− フォトクロミック基板は1つ以上のフォトクロミック化合物が組み込まれた透明基材を含み、
− フィルタの全厚は600ナノメートル以下、好適には500ナノメートル以下であり、
− UVA(Rm,UVA)における平均反射係数は、5%以上、より良好には10%以上、更に良好には12%以上である。従って、UVA(Rm,UVA)における平均反射係数は一般に5%〜40%にあり、より良好には35%nm以下、好適には10%〜30%、より良好には10%〜25%、更に良好には10%〜18%にあり、
− フィルタは干渉フィルタであり、
− フィルタは11以下の層、好適には2〜10の層、より好適には4〜9の層を含み、
− フィルタの各層の個々の厚さは200ナノメートル以下であり、
− 青色(Rm,B)における平均反射係数は10%以上、より良好には20%以上、更に良好には30%以上であり、
− 最大反射率は、410nm以下、より良好には400nm以下、更に良好には390nm以下の波長で得られ、
− 半値全幅(FWHM)は75ナノメートル以上、更に良好には80ナノメートル以上であり、
− 半値全幅は150ナノメートル以下、好適には120ナノメートル以下、更に良好には110nm以下である。
【0040】
従って、半値全幅は一般に70nm〜150nm、好適には75nm〜120nm、より良好には75nm〜100nm、更に良好には75〜90nmの範囲にある。
【0041】
最後に、以下は本発明による眼鏡レンズの他の有利且つ非限定的な特徴である。すなわち、
− 前方主面からの平均光反射係数(Rv)は2.5%以下、より良好には1.5%以下、更に良好には1%以下であり、
− 眼鏡レンズの各々の主面からの平均光反射係数(Rv)は、2.5%以下、好適には1.5%以下であり、
− 眼鏡レンズの後方主面は、UV防止、すなわちUVをほとんど反射しないコーティング、好適にはUV及び可視光領域で効果的な反射防止コーティングを含み、
− 15°の入射角に対して、前方主面の最大反射率における反射率の値は、所与の入射角に対して、且つ435nmの波長において、前方主面の反射率の値よりも好適には少なくとも1.2倍、より良好には少なくとも1.5倍、最適には1.7倍高く、
− フィルタは、前方主面に、
− 0°〜15°の入射角θ、及び30°〜45°の入射角θ’に対して、関係式Δangular=1−[Rθ’(435nm)/Rθ(435nm)]により定義されるパラメータΔangularであって0.6以上のパラメータΔangularを有し、ここに、
− Rθ(435nm)は、前記フィルタを含む主面の入射角θに対して435ナノメートルの波長での反射率の値を表し、
− Rθ’(435nm)は、前記フィルタを含む主面の入射角θ’に対して435ナノメートルの波長での反射率の値を表す、
− パラメータΔangular(θ,θ’)は好適には15°に等しい入射角θに対し、及び45°に等しい入射角θ’に対して定義されるという追加的な特性をもたらし、
− 前記フィルタは、前記前方主面に、
− 0°〜15°の入射角に対して35%以下である、400ナノメートル〜450ナノメートルの波長にわたる400ナノメートル〜450ナノメートルの平均反射係数(Rm,400nm~450nm)を有しているという追加的な特性をもたらす。
【0042】
好適には、400ナノメートル〜450ナノメートルの平均反射係数(Rm,400nm~450nm)は、前方主面への15°に等しい入射角に対して定義される。
【0043】
本発明による眼鏡レンズに使用可能なフィルタはまた、フォトクロミックでない透明基材の主面の少なくとも1つに配置された場合に特に有利である。
【0044】
従って、本発明はまた、前記フィルタの厚さが700ナノメートル以下であり、且つ前記フィルタが透明基材の主面の1つに適用された場合に、透明基材の前記主面に、
− 0°〜15°の入射角に対して31%未満、好適には30%以下、更に良好には25%以下である、330ナノメートル〜380ナノメートルの波長にわたるUVA(Rm,UVA)における平均反射係数、
− 0°〜15°の入射角に対して5%以上である、420ナノメートル〜450ナノメートルの波長にわたる青色(Rm,B)における平均反射係数、及び
− 0°〜15°の入射角に対するスペクトル反射率曲線であって、
− 435ナノメートル未満の波長で最大反射率、及び
− 70ナノメートル以上の半値全幅(FWHM)を有する反射率曲線と、
− 0°〜15°の入射角に対して、関係式Δspectral=1−[R0°~15°(480nm)/R0°~15°(435nm)]により当該パラメータΔspectralが0.8以上であるように定義されるパラメータΔspectralとを有し、
− R0°~15°(480nm)は、注目する入射における480ナノメートルの波長で前方主面の反射率の値を表し、
− R0°~15°(435nm)は、注目する入射における435ナノメートルの波長で前方主面の反射率の値を表すという特性をもたらすことを特徴とする1つ以上の層から形成されたフィルタをも提案する。
【0045】
更に、以下の部分は本発明によるフィルタの他の有利且つ非限定的な特徴である。すなわち、
− 前記フィルタの各層の個々の厚さは200ナノメートル以下であり、
− 前記フィルタの半値全幅(FWHM)は76nm以上且つ150nm以下であり、
− フィルタを含む前記透明基材の主面からの平均光反射係数(Rv)は2.5%以下、より良好には1.5%以下、さらに良好には0.7%以下である。
【0046】
更に、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズは、眼鏡の構成要素として有利に用いられる。
【0047】
従って、本発明はまた、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズを少なくとも1つ、又は本発明によるフィルタを少なくとも1つ含んでいる眼鏡をも提案する。
【0048】
更に、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズ又は本発明によるフィルタを治療目的又は青色光の光毒性に関する疾病の防止に用いることが特に有利であることが分かる。
【0049】
本発明は、着用者の視覚コントラストを向上させるべく本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズの利用を提案する。
【0050】
最後に、本発明は、着用者の目を青色光の光毒性から少なくとも部分的に保護するため、特に加齢に伴う黄斑変性(AMD)等の変性過程から保護するために本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズを用いることを提案する。本発明について、添付の図面を参照しながら更に詳細に記述する。図面においてフォトクロミック眼鏡レンズは、前方主面に本発明によるフィルタを有している。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本出願の実施例1及び2に従い用意された特定のフォトクロミック眼鏡レンズの前方主面への15°の入射角、及び本発明のフィルタの特徴を有しないフィルタでコーティングされたフォトクロミック眼鏡レンズのスペクトル反射率曲線を示す(比較例C1及びC2を参照)。
図2】本出願の実施例1及び2に従い用意された特定のフォトクロミック眼鏡レンズの前方主面への15°の入射角、及び本発明のフィルタの特徴を有しないフィルタでコーティングされたフォトクロミック眼鏡レンズのスペクトル反射率曲線を示す(比較例C1及びC2を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0052】
最初に、眼鏡レンズは一般に前方主面及び後方主面を有することを想起されたい。
【0053】
ここで、眼鏡レンズの前方主面は、眼鏡着用者の目から最も遠くに位置する眼鏡レンズの主面であると理解されたい。これは一般に凸面である。対照的に、「後方主面」という表現は、眼鏡レンズが用いられるときに、着用者の目から最も近くに位置する眼鏡レンズの主面を示すために用いられる。これは一般に凹面である。
【0054】
公知のように、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズは、鉱物又は有機ガラス、好適には有機ガラス製の透明基材を含んでいる。
【0055】
本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズの基板は一般に、中心において1〜5ミリメートルの厚さを有している。
【0056】
本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズの基板は好適には、例えば熱可塑性又は熱硬化性の有機ガラス製である。
【0057】
基板に適した熱可塑性物質として、(メタ)アクリル(コ)ポリマー、特にポリメチルメタクリレート(PMMA)、チオ(メタ)アクリル(コ)ポリマー、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリカーボネート(PC)、ポリウレタン(PU)、ポリチオウレタン、ポリオール(アリルカーボネート)(コ)ポリマー、熱可塑性エチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル、ポリエピスルフィド、ポリエポキシド、ポリカーボネート/ポリエステルコポリマー、エチレン/ノルボルネン又はエチレン/シクロペンタジエンコポリマー及びそれらのブレンド等の環状オレフィンコポリマーが挙げられる。
【0058】
用語「(コ)ポリマー」は、コポリマー又はホモポリマーを意味するものと理解されたい。用語「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタクリレートを意味するものと理解されたい。用語「ポリカーボネート(PC)」は、本発明の文脈ではホモポリカーボネートと、コポリカーボネート及びコポリカーボネート鎖の両方を意味するものと理解されたい。
【0059】
例えばPPG Industires社(ORMA(登録商標)ESSILORレンズ)から商品名CR−39(登録商標)で市販されているジエチレングリコールビスアリルカーボネート、又はポリチオウレタンポリマーの(共)重合により得られた基板はが特に推奨される。これらの基板は、上記モノマーのブレンドの重合により得ることができ、又はこれらのポリマーとコポリマーがブレンドされていてもよい。
【0060】
他の好適な基板はポリカーボネートである。
【0061】
基板は、眼鏡レンズに特定の光学的及び/又は機械的特性をもたらすべく1つ以上の機能的コーティング、例えば、衝撃防止コーティング、摩耗防止コーティング、反射防止コーティング、UV防止コーティング、静電気防止コーティング、偏光コーティング、汚れ防止及び/又は曇り防止コーティングがなされていてよい。これら全てのコーティングは眼鏡レンズ分野で公知である。
【0062】
本発明による眼鏡レンズの基板は特に、フォトクロミック基板である。
【0063】
この表現は、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズの基板が、1種以上のフォトクロミック化合物が基板全体に分散されたものであるか、又はフォトクロミック化合物を含む機能的コーティングが基板の一方の表面に堆積されたものであることを意味するものと理解されたい。
【0064】
本発明によるフォトクロミック化合物は、UV照射、特にUVA照射の影響下で活性化可能なフォトクロミック化合物である。
【0065】
本発明によるフォトクロミック化合物は好適には有機フォトクロミック化合物である。
【0066】
このようなフォトクロミック化合物の例は、例えば文書欧州特許第1268567号明細書及び欧州特許第1161512号明細書に記述されている。
【0067】
一般に、フォトクロミック眼鏡レンズは、
− フォトクロミック眼鏡レンズが、%で表され、ISO規格8980−3に従い定義された最大可視透過率Tv,maxを有する非励起状態又は「明」状態と、
− フォトクロミック眼鏡レンズが最小可視透過率Tv,minを有する励起状態又は「暗」状態を有している。
【0068】
非励起状態と励起状態との間における可視透過率ΔTvの低下、すなわち最大可視透過率Tv,maxと最小可視透過率Tv,minとの可視透過率の差Tv,max−Tv,minは、フォトクロミック眼鏡レンズへの光入射によるフォトクロミック化合物の活性化の結果生じ、当該入射光は特にUV光可視放射を含んでいる。
【0069】
400nm〜450nmの波長に対する、可視領域における光放射に起因する可視透過率ΔTvの低下への寄与をΔTv,400nm~450nmと表記する。
【0070】
本発明は、可視領域における光放射の影響下で部分的に活性化する有機フォトクロミック化合物により有利に実施することができる。
【0071】
本発明は特に、可視透過率ΔTvの低下に対する寄与ΔTv,400nm~450nmが、可視透過率ΔTvの当該低下の少なくとも20%に等しい(すなわちΔTv,400nm~450nm/ΔTv≧0.2)、より良好には30%以上(ΔTv,400nm~450nm/ΔTv≧0.3)フォトクロミック化合物のケースに適合する。
【0072】
フォトクロミック化合物が基板全体に分散されたフォトクロミック基板は、当業者に公知の2種の異なる工程により得ることができる。すなわち、
− 第1のステップにおいて基板の表面の少なくとも一方をフォトクロミック化合物を含む薄膜で覆うことからなる熱転写工程。昇華ステップと呼ばれる第2のステップにおいて、基板と薄膜が一緒に加熱されることにより薄膜に含まれるフォトクロミック化合物が基板内へ移動する。そのような方法は、特に米国特許第4286957号明細書及び米国特許第4880667号明細書に記載されている。第2のステップの後、フォトクロミック化合物は次いで、薄膜が堆積した基板の当該面の直下に位置する体積内に存在している。フォトクロミック化合物は次いで、典型的には10〜150ミクロンの深さにわたり基板内に存在する。
− フォトクロミック化合物を基板のブランクの製造に用いた原料に組み込むいわゆるキャストインプレイス工程。有機ガラス製の基板の場合、当該工程は、有機材料の成形ステップ及び重合ステップの前に、フォトクロミック化合物を有機ポリマーに取り込んでブレンドするものである。
【0073】
別の技術は、フォトクロミックコーティングを基板の一方の面に堆積させるものであり、当該コーティンは基板にフォトクロミック特性をもたらす。コーティングは好適にはスピンコーティングにより堆積される。使用するフォトクロミック化合物は例えば、スピロオキサジン系から、又は実際にクロメン系(例えば上述の欧州特許第1268567号明細書及び欧州特許第1161512号明細書に引用されているスピロオキサジン及びクロメンを参照)から選択されていてよい。
【0074】
上述のように、眼鏡レンズのフォトクロミック基板は、眼鏡レンズの前方主面、又は眼鏡レンズの後方主面のいずれかに各種のコーティングを含んでいてよい。
【0075】
フォトクロミック基板「上」に存在する、又はフォトクロミック基板「上」に堆積されたコーティングは、
(i)フォトクロミック基板の一方の表面の上方に位置していて、
(ii)必ずしもフォトクロミック基板と接触していない、すなわちフォトクロミック基板と注目するコーティングとの間に1つ以上の中間コーティングが配置されていてよく、且つ
(iii)フォトクロミック基板の表面を必ずしも完全に覆う訳ではないコーティングとして定義される。
【0076】
層Aが層Bの下側に置かれていると言う場合、層Bが層Aよりも基板から遠くにあるものと理解されたい。
【0077】
一実施形態において、フォトクロミック基板は、ラッカーにより基板の前面に堆積されたフォトクロミック化合物でコーティングされた透明基板を含んでいる。
【0078】
好適な一実施形態において、フォトクロミック機能コーティングは、透明基板の前面と直接接触する。
【0079】
本発明によれば、眼鏡レンズの前方主面はフィルタを含んでいる。
【0080】
別の好適な実施形態において、フィルタは、それ自体が眼鏡レンズのフォトクロミックコーティングに堆積されている摩耗防止及び/又は傷防止コーティングの上に直接堆積されている。
【0081】
フィルタを堆積する前に、主面(群)へのフィルタの接着力を向上させる目的で前記基板の表面に物理的又は化学的活性化処理を施すことは従来技術である。
【0082】
この前処理は一般に真空下で行われる。これは、エネルギー粒子、例えばイオンビーム(イオン前洗浄又はIPC)又は電子ビームによる照射、コロナ放電処理、グロー放電処理、UV処理又は一般に酸素又はアルゴンプラズマである真空プラズマ内での処理を指す。これはまた、酸又は基礎面処理及び/又は溶媒(水又は有機溶媒(群))を用いた処理を指す。
【0083】
本発明によれば、フィルタは1つ以上の層を含み、700ナノメートル以下の全厚を有している。
【0084】
フィルタの全厚を制限することで、一方では、フィルタの機械的特性、例えばフォトクロミック基板への接着力又は熱抵抗が良好なであることを保証できるようになる。他方、一般に厚さが増大するにつれて眼鏡レンズへの堆積に要する時間が増大するため、そのようなフィルタの生産コストを制限することも可能になる。
【0085】
好適な一実施形態において、フィルタの全厚は600ナノメートル以下、より良好には500nm以下である。
【0086】
フィルタの全厚は一般に、200nmより大きく、好適には250nmより大きい。
【0087】
本出願において、前方主面への所与の入射角に対する眼鏡レンズのスペクトル反射率は、当該入射角での反射率の(すなわち反射係数の)変化を波長の関数として表す。スペクトル反射率曲線は、スペクトル反射率のグラフ表現に対応しており、スペクトル反射率(縦座標)を波長(横座標)の関数として描いている。スペクトル反射率曲線は、分光光度計、例えばURA(万能反射率アクセサリ)を備えたPerkin Elmer Lambda 850を用いて測定することができる。
【0088】
mと表記する平均反射係数は、ISO規格13666:1998に定義された通りであり、ISO規格8980−4に従い(17°より小さく、典型的には15°の入射角で)測定される、すなわち、400nm〜700nmの光スペクトル全体にわたるスペクトル反射率(重み無し)平均を指す。
【0089】
同様に、Rvと表記され、本出願で平均光反射率とも呼ぶ光反射係数は、ISO規格13666:1998に定義された通りであり、ISO規格8980−4に従い(17°より小さく、典型的には15°の入射角で)測定される。すなわち、380nm〜780nmの可視光スペクトル全体にわたるスペクトル反射率の加重平均を指す。
【0090】
類推的に、330nm〜380nmの波長にわたるスペクトル反射率の(重み無し)平均に対応している、Rm,UVAと表記する330nm〜380nmのUVAにおける平均反射係数が定義される。
【0091】
同様に、420nm〜450nmの波長にわたるスペクトル反射率の(重み無し)平均に対応している、Rm,Bと表記する420nm〜450nmの青色における平均反射係数が定義される。
【0092】
400nm〜450nmの波長にわたるスペクトル反射率の(重み無し)平均に対応している、Rm,400nm~450nmと表記する400nm〜450nmの平均反射係数が定義される。
【0093】
本発明によれば、UVA Rm,UVAにおける平均反射係数、及び青色Rm,Bにおける平均反射係数は、前方主面への0°(垂直入射)〜15°の範囲にある、好適には15°の入射角に対して測定することができる。
【0094】
更に本出願において、
− R0°~15°(480nm)は、当該前方主面への0°〜15°の入射角に対する、480nmの波長での眼鏡レンズの前方主面の反射率の値を表し、
− R0°~15°(435nm)は、当該前方主面への0°〜15°の入射角に対する、435nmの波長での眼鏡レンズの前方主面の反射率の値を表す。
【0095】
パラメータΔspectralは次いで関係式Δspectral=1[R0°~15°(480nm)/R0°~15°(435nm)]により定義される。以下の説明で分かるように、本パラメータΔspectralにより、フィルタが光毒性青色光を効果的に排除して、時間生物学的青色光を送信する方法を定量化することができる。
【0096】
同様に、
− Rθ(435nm)は、本発明によるフィルタを含む眼鏡レンズの主面の反射率の値を表し、当該値は、435ナノメートルの波長で、前方主面への0°〜15°の入射角θに対して(測定又は計算により)決定され、
− Rθ’(435nm)は、本発明によるフィルタを含む眼鏡レンズの主面の反射率の値を表し、当該値は、435ナノメートルの波長で、前方主面への30°〜45°の入射角θ’に対して(測定又は計算により)決定される。
【0097】
パラメータΔ(θ,θ’)が次いで関係式Δ(θ,θ’)=1−[Rθ’(435nm)/Rθ(435nm)]により定義される。レンズの前面側又は後面側から発した青色光の各々の寄与を考慮することにより、本パラメータΔ(θ,θ’)が、着用者の網膜に到達する光毒性青色光の量を効果的に制限するのに眼鏡レンズがどの程度寄与するかを本明細書の残りの部分で示す。
【0098】
本発明によれば、フィルタは、眼鏡レンズの前方主面に、当該主面への0°〜15°の入射角に対して、UVA Rm,UVAにおける平均反射係数が40%以下、より良好には35%以下であるという特性をもたらす。
【0099】
フィルタは従って、UVA Rm,UVAにおける平均反射係数を制限すべく設計されている。これにより、330nm〜380nmの波長の範囲で、レンズの前方主面に到達するUVA光の排除を最小化することができる。従って、眼鏡レンズのフォトクロミック基板までUVA光を透過させることにより、フィルタはフォトクロミック基板の前面に堆積されたフォトクロミック化合物の活性化を阻害しない。フォトクロミック化合物は阻害されず、330nm〜380nmのUVA光の動作の下で発色してフォトクロミック基板を暗くすることができる。更に、UVA光(特にフォトクロミック化合物により吸収された)の眼鏡レンズを通る着用者の網膜までの透過が大幅に減少するため、UVA光の有害な影響から着用者を保護する。
【0100】
本発明の好適な一実施形態によれば、眼鏡レンズの前方主面への0°〜15°の範囲にある、好適には15°の入射角に対する、UVA Rm,UVAにおける平均反射係数は、30%以下、より良好には25%以下、更に良好には20%以下、最適には15%以下である。
【0101】
好適には、本発明による眼鏡レンズは、フィルタが前記前方主面に以下の特性、すなわち、
− 0°〜15°の入射角に対して35%以下である、400〜450ナノメートルの波長にわたる400〜450nmの範囲(Rm,400nm~450nm)の平均反射係数という特性をもたらす。
【0102】
この特徴は、フォトクロミック化合物が可視光範囲に活性化領域を有する場合きに特に有利である。
【0103】
また、本発明によれば、フィルタは眼鏡レンズの前方主面に、当該主面への0°〜15°の入射角に対して、青色Rm,Bにおける平均反射係数が5%以上であるという特性をもたらす。
【0104】
本発明の好適な一実施形態によれば、眼鏡レンズの前方主面への0°〜15°の範囲にある、好適には15°の入射角に対して、青色Rm,Bにおける平均反射係数は10%以上、より良好には20%以上、更に良好には30%以上、最適には50%以上である。
【0105】
本発明によれば、フィルタはまた前方主面に、当該前方主面への0°〜15°の範囲にある、好適には15°の入射角に対するスペクトル反射率曲線を有するという特性をもたらし、当該反射率は、
− 435ナノメートル未満の波長で最大反射率、及び
− 70ナノメートル以上の半値全幅(FWHM)を有している。
【0106】
具体的には、図1及び2に見られるように、本発明による眼鏡レンズの前方主面のスペクトル反射率曲線は一般に、380nm〜500nmの波長において、高さ(最大反射率)及び半値全幅(FWHM)により特徴付けられる「ベル」形状をなしている。
【0107】
本発明によれば、最大反射率は、435nm未満の波長に対して得られる。従って、光毒性青色光の420nm〜450nmの波長の帯域の中心波長(435nm)に相対的にずれている。
【0108】
好適には、最大反射率は、410nm以下、より良好には400nm以下、更に良好には390nm以下の波長で生じる。
【0109】
好適な一実施形態において、当該シフトは、最大反射率はまた、350nm以上の波長で生じるように制限される。好適には、最大反射率は、360nmより長く、より良好には370nm以上の波長で生じる。最適には、最大反射率は、380nmより長い波長で生じる。
【0110】
本発明によれば、前方主面への0°〜15°の入射角に対して、注目するスペクトル反射率曲線の半値全幅は70nm以上である。
【0111】
フィルタを含む主面への0°〜15°の入射角に対して、自身のスペクトル反射率曲線が、70ナノメートル以上の半値全幅(FWHM)を有するように寸法決めされたフィルタを、以下では広帯域フィルタと称す。
【0112】
好適な一実施形態において、半値全幅は75nm以上、より好適には80ナノメートル以上、更に好適には90nm以上である。
【0113】
又好適には、半値全幅は150ナノメートル未満、より良好には120ナノメートル未満、更に良好には110nm未満である。
【0114】
再び本発明によれば、フィルタは最後に、眼鏡レンズの前方主面に上で定義されたような0.8以上のパラメータΔspectralを有しているという特性をもたらす。
【0115】
上で定義されたように、パラメータΔspectralは、R0°-15°(435nm)と表記する、前方主面への0°〜15°の入射角に対する435nmでの反射率、及びR0°-15°(480nm)と表記する、前方主面への0°〜15°の入射角に対する480nmでの反射率の両方に依存する。
【0116】
着用者の一方の目の前に配置された本発明による眼鏡レンズの場合、眼鏡レンズの前方主面に直接到達して着用者の目に達する420nm〜450nmの波長に含まれる光毒性青色光の量は、量R0°-15°(435nm)に逆比例的に変化するものと理解されたい。
【0117】
同様に、眼鏡レンズの前方主面に直接到達して着用者の目に達する465nm〜495nmの波長に含まれる光刺激を与える青色光の量は、量R0°-15°(480nm)に逆比例的に変化する。
【0118】
従って、パラメータΔspectralを、Δspectral≧0.8であるように選択することにより、光毒性青色光に対してだけでなく、時間生物学的青色光にも極めて効果的なフィルタを備えた眼鏡レンズが得られる。
【0119】
具体的には、パラメータΔspectralは、
(i)反射率R0°-15°(480nm)の値が減少する、すなわち眼鏡レンズの前方主面へ入射して前方主面により反射される光刺激を与える青色光の量が減少するに従い増大し、
(ii)反射率R0°-15°(435nm)の値が増大する、すなわち眼鏡レンズの前方主面に直接到達して、前方主面により反射される光毒性青色光の量が増大するに従い増大する。
【0120】
好適な一実施形態において、本発明による広帯域フィルタを備えた眼鏡レンズのパラメータΔspectralは0.85以上、より良好には0.90以上である。
【0121】
好適には、465nm〜495nmの波長のスペクトル透過の(重み無し)平均に対応する、前方主面への0°〜15°の入射角に対する本発明による眼鏡レンズの465nm〜495nmの青色範囲の平均透過係数は80%以上、より良好には85%以上、更に良好には90%以上である。
【0122】
これは特に、体内時計を同期させる役割を果たす465nm〜495nmの時間生物学的青色光の大部分が、当該眼鏡レンズの着用者の目まで透過されることが保証できるようになる。
【0123】
好適には、前方主面への0°〜15°の入射角に対する480nmでの眼鏡レンズの透過係数は70%以上、より良好には90%以上、更に良好には94%以上である。
【0124】
再び本発明によれば、フィルタは最後に、フィルタを含む眼鏡レンズの主面に、上で定義されたように0.6以上であるパラメータΔangularを有するという特性をもたらす。
【0125】
上で定義されたように、パラメータΔangularは、Rθ(435nm)と表記する主面への0°〜15°の入射角θに対する435nmでの反射率、及びRθ’(435nm)と表記する主面への30°〜45°の入射角θ’に対する435nmでの反射率の両方に依存する。
【0126】
着用者の目の前に配置された眼鏡レンズは、一方で前方主面に直接入射する光を、他方で着用者の後ろから発せられて後方主面により反射された間接光を受光するものと理解されたい。
【0127】
着用者の後ろから発せられて眼鏡レンズにより着用者の目の方向へ反射された光は主に眼鏡レンズの後方主面へ30°〜45°の入射角で入射する。
【0128】
30°〜45°の入射角で着用者の後ろから発せられた当該可視光は、第1の反射が生じる後方主面を通過し、次いで基板を通過してフィルタを含む前方主面に到達する。
【0129】
当分野で公知のように、眼鏡レンズの前方主面に堆積されたフィルタの光学的特性、例えば反射率は、光が前方主面側又は後方主面側から入射しているか否かと等価である。
【0130】
従って、着用者の一方の目の前に配置された本発明による眼鏡レンズの場合、眼鏡レンズの前方主面に直接到達して着用者の目まで達する420nm〜450nmの波長に含まれる光毒性青色光の量が、量Rθ(435nm)に逆比例的に変化するものと理解されたい。
【0131】
同様に、着用者の後ろから間接的に到達して眼鏡レンズにより反射される420nm〜450nmの波長に含まれる光毒性青色光の量は、量Rθ’(435nm)に比例的に変化する。
【0132】
従って、Δangular≧0.6であるようにパラメータΔangularを選択することにより、光毒性の青色光に対して最適化された効果的フィルタを有する眼鏡レンズが得られる。具体的には、パラメータΔangularは、
(i)反射率Rθ’(435nm)の値が減少する、すなわち着用者の後ろから進んできて眼鏡レンズにより着用者の網膜の方向に反射される光毒性青色光の量が減少するに従い増大し、
(ii)反射率Rθ(435nm)の値が増大する、すなわち眼鏡レンズの前方主面に直接到達して前方主面により反射される光毒性青色光の量が増大するに従い増大する。
【0133】
従って、着用者の網膜まで達する光毒性青色光の総量が減少し、着用者の網膜は光毒性青色光の有害なリスクから保護される。
【0134】
好適な一実施形態において、本発明による広帯域のフィルタを備えた眼鏡レンズのパラメータΔangularは0.7以上、より良好には0.75以上、更に良好には0.8以上である。
【0135】
好適には、パラメータΔangularは、ほぼ15°に等しい入射角θ、及びほぼ45°に等しい入射角θ’に対して決定される。
【0136】
本発明によれば、眼鏡レンズの前方主面上に形成されたフィルタは、1つ以上の層を含んでいる。
【0137】
フィルタの層は、堆積の厚さが1nm以上あるように画定される。従って、厚さが1nm未満の層はフィルタの層の数として一切カウントされない。フィルタと基板の間に堆積された任意選択的な下層もまた、干渉フィルタの層の数としてカウントされない。
【0138】
別途指示しない限り、本出願に開示する全ての層厚は、物理的な厚さであって光学的な厚さではない。
【0139】
好適な一実施形態において、フィルタの各層の個々の厚さを200ナノメートル以下である。
【0140】
本発明によるフィルタの各層の個々の厚さを制限することで、各層の機械的特性、例えば相互の接着力又は割れ耐性が良好であることを保証できるようになる。また、この厚さ範囲では、製造公差が緩く、そのような層を眼鏡レンズの全面にわたり均一の厚さで堆積させることがより容易である。
【0141】
本発明の好適な一実施形態において、フィルタの各層の個々の厚さは150ナノメートル以下、より良好には120nm以下である。
【0142】
本発明の他の好適な実施形態において、レンズが含まれるフィルタは干渉フィルタである。これが意味するところは、フィルタが、干渉フィルタを備えた眼鏡レンズの一方の主面上に形成された少なくとも1つの層を含み、当該層が基板の屈折率とは少なくとも0.1単位異なる屈折率を有していることである。そのようなフィルタの光学的特性、例えば反射率は、空気/層及び基板/層界面から生じる複数の反射同士の干渉から生じる。
【0143】
本発明の干渉フィルタが少なくとも2つの層を含む場合、少なくとも1つの高屈折率層又は「HI層」とも表記される「ハイインデックス層」、及び少なくとも1つの低屈折率層又は「LI層」とも表記される「ローインデックス層」を含んでいる。
【0144】
本特許出願において、干渉フィルタの層が高屈折率層であると言われるのは、屈折率が1.60より高い、好適には1.65以上、より好適には1.70以上、更に好適には1.80以上、更に良好には1.90以上の場合である。同様に、干渉フィルタの層が低屈折率層であると言われるのは、屈折率が1.50未満、好適には1.48以下、より良好には1.47以下の場合である。
【0145】
別途指示しない限り、本出願で言及する屈折率は、温度が25℃及び550nmに等しい基準波長におけるものである。
【0146】
好適な一実施形態において、干渉フィルタに含まれる層は11未満であり、好適には層の個数が2〜10層、より良好には4〜9層、最適には4〜7層である。HI及びLI層は干渉フィルタで交互に積層されている必要はないが、本発明の一実施形態では交互に積層されていてよい。2つ(以上)のLI層が互いに堆積されていてよいのと同様に、2つ(以上)のHI層が互いに堆積されていてよい。
【0147】
特に、フィルタが8又は9層を含む干渉フィルタである本発明の特定の実施形態において、スタックの全厚は好適には450nm〜600nmの範囲にある。
【0148】
特に、フィルタが6又は7層を含む干渉フィルタである本発明の特定の実施形態において、スタックの全厚は好適には500nm未満、より良好には300nm〜500nmの範囲にある。
【0149】
特に、フィルタが4又は5層を含む干渉フィルタである本発明の特定の実施形態において、スタックの全厚は好適には300nm未満、より良好には200nm〜300nmの範囲にある。
【0150】
HI層は、当分野で公知である従来型の高屈折率層である。これらは一般に、1種以上の鉱物酸化物、すなわち非限定的な例として、ジルコニア(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)、アルミナ(Al23)、五酸化タンタル(Ta25)、酸化ネオジム(Nd25)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化プラセオジム(Pr23)、チタン酸プラセオジム(PrTiO3)、酸化ランタン(La23)、五酸化ニオブ(Nb25)、又は酸化イットリウム(Y23)が含まれる。任意選択的に、HI層はまた、屈折率が上で示したように1.60より高い前提でシリカその他の低屈折率材料を含んでいてよい。好適な材料は、TiO2、PrTiO3、ZrO2、Al23、Y23及びそれらの混合物である。
【0151】
LI層もまた、従来型の公知の低屈折率層であって、非限定的に、シリカ(SiO2)、又はシリカとアルミナの混合物、特にアルミナがドープされたシリカを含んでいてよく、アルミナは干渉フィルタの熱抵抗の増大に寄与する。各LI層は好適には、LI層の総重量に対してシリカを少なくとも80重量%、より良好にはシリカを少なくとも90重量%含む層であって、更に良好にはシリカ層からなる。
【0152】
任意選択的に、ローインデックス層はまた、結果として生じる層の屈折率が1.50未満であれば高屈折率材料を含んでいてよい。
【0153】
SiO2とAl23の混合物を含むLI層を用いる場合、当該層におけるシリカとアルミナの総重量に対して好適にはAl23を1重量%〜10重量%、より良好には1〜8重量%、更に良好には1重量%〜5重量%含んでいる。
【0154】
例えば、4重量%未満のAl23がドープされたSiO2の層、又は8%のAl23がドープされたSiO2の層を用いてよい。Umicore Materials AGから販売されているLIMA(登録商標)混合物(屈折率1.48〜1.50)又はMerck KGaAから販売されている物質L5(登録商標)(500nmの波長に対して1.48に等しい屈折率)等、市販のSiO2/Al23混合物を用いてよい。
【0155】
干渉フィルタの外部の層は一般に、典型的にはシリカ系のローインデックス層であり、当該外部の層の総重量に対して、好適にはシリカを少なくとも80重量%及びより良好にはシリカを少なくとも90重量%(例えばアルミナがドープされたシリカの層)を含んでいて、更に良好には外部シリカ層からなる。
【0156】
一般に、HI層の物理的な厚さは10nm〜100nm、より良好には80nm以下、更に良好には70nm以下であり、LI層の物理的な厚さは10nm〜150nm、より良好には135nm以下、更に良好には120nmである。
【0157】
本発明の眼鏡レンズはまた、フィルタ内へ少なくとも1つの導電層を汲み込むことにより、静電気防止、すなわち顕著な静電荷を保持及び/又は発生しないようにできる。
【0158】
好適には、酸化インジウム、酸化スズ、又は酸化スズインジウム(ITO)等の導電性酸化物の追加的な層を指す。当該層は一般に、20nm未満、好適には5nm〜15nmの厚さを有している。
【0159】
好適には酸化ジルコニウムの層のようなハイインデックス層に隣接している。
【0160】
好適には、当該導電層は、フィルタの最後の(一般にシリカ系の)ローインデックス層(すなわち基板から最も遠い層)の下に配置される。
【0161】
本発明による一実施形態によれば、フィルタは下層の上に堆積されている。ここで、フィルタの当該下層は、フィルタの一部を形成するとは考えられない。
【0162】
「フィルタの下層」又は「タイ層」という表現は、摩滅及び/又は傷に対するフィルタの耐性等の機械的特性を向上させる、及び/又は基板に又は下側のコーティングへの接着を促進させる目的で用いる比較的大きい厚さのコーティングを意味するものと理解されたい。
【0163】
下層は、相対的に厚さが大きいため、一般にフィルタのフィルタ光学活性に寄与せず、特に下層にあるコーティング(一般に摩耗防止及び/又は傷防止コーティング)又は下層が眼鏡レンズの基板に直接堆積された眼鏡レンズの基板と同様の屈折率を有するケースで寄与しない。
【0164】
下層は、フィルタの摩滅耐性を向上させるのに充分厚くなければならいが、好適には下層の性質に応じて光を吸収しないように厚過ぎてはならず、これはISO規格13666:1998に定義されてISO規格8980−3に従い測定された視覚透過係数Tvを大幅に減少させる恐れがある。
【0165】
当該下層は、一般に厚さが300nm未満、より良好には厚さが200nm未満、一般に厚さが90nmより大きく、より良好には厚さが100nmより大きい。
【0166】
下層は好適にはSiO2主体の層を含み、好適には下層の総重量に対してシリカを少なくとも80重量%、より良好にはシリカを少なくとも90重量%含み、更に良好には下層はシリカからなる。当該シリカ系の下層は、一般に厚さが300nm未満、より良好には厚さが200nm未満、一般に厚さが90nmより大きく、更に良好には厚さが100nmより大きい。
【0167】
別の実施形態によれば、当該SiO2主体の層は、上で定義された割合でアルミナがドープされたシリカの下層であり、好適にはアルミナがドープされたシリカの層からなる。
【0168】
特定の一実施形態によれば、下層はSiO2の層からなる。
【0169】
下層が単分子層であることが好適である。しかし、下層は、特に下層及び下層コーティング(又は、下層が基板に直接堆積されている場合は基板)に無視できない屈折率の差がある場合に、積層(多層)であってもよい。これは特に、一般に摩耗防止及び/又は傷防止コーティングである下層コーティング、又は基板が高い屈折率を有する場合にあてはまるが、この表現は屈折率が1.55以上、好適には1.57以上であることを意味するものと理解されたい。
【0170】
この場合、下層は、主層と呼ばれる90nm〜300nmの厚さの層とは別に、任意選択的にコーティングされた基板と、厚さが90nm〜300nmの一般にシリカ系の層である当該層との間で挿入された好適には最大3つの他の層、より良好には最大2つの他の層を含んでいる。これらの追加的な層は好適には薄層であり、その機能は状況に応じて下層/下層コーティング界面又は下層/基板界面での複数の反射を制限することである。
【0171】
多層下層は好適には、主層とは別に、高屈折率であって厚さが80nm以下、より良好には50nm以下、更に良好には30nm以下の層を含んでいる。当該高屈折率層は、状況に応じて高屈折率基板又は下層高屈折率コーティングと直接接触する。無論、基板(又は下層コーティング)の屈折率1.55未満であっても、本実施形態を用いることができる。
【0172】
代替的に、下層は、主層及び上述の高屈折率層とは別に、屈折率が1.55以下、好適には1.52以下、より良好には1.50以下、厚さが80nm以下、より良好には50nm以下、更に良好には30nm以下であって上に前記高屈折率層が堆積されたSiO2主体の(すなわち好適にはシリカを少なくとも80重量%含んでいる)材料の層を含んでいる。典型的には、この場合、下層は、SiO2の25nmの層、ZrO2又はTa25の10nmの層及び下層の主層の層が、任意選択的にコーティングされた基板上にこの順に堆積されたものである。
【0173】
フィルタ及び任意選択的な下層は好適には、以下の技術の一つを用いて真空蒸着により堆積されている。i)蒸着、任意選択的にイオンビームを利用する蒸着、ii)イオンビームスパッタリング、iii)陰極スパッタリング又はiv)プラズマ強化された化学蒸着。これら各種の技術は、図書「Thin Film Processes」及び「Thin Film Processes II」(それぞれVossen and Kern編,Academic Press,1978 and 1991)に記述されている。真空蒸発技術が特に推薦される。
【0174】
好適には、フィルタが干渉フィルタである場合、フィルタのスタックの各層及び任意選択的な下層の堆積は真空蒸発により実行される。
【0175】
本発明の特別な一実施形態において、眼鏡レンズは、眼鏡レンズの前方主面からの平均光反射率Rvは2.5%以下である。
【0176】
好適には、当該平均光反射率Rvは2%以下、より良好には1.5%以下である。
【0177】
特に好適な一実施形態において、平均光反射率Rvは0.7%以下、より良好には0.6%以下である。
【0178】
好適な一実施形態において、眼鏡レンズは、眼鏡レンズの各主面からの平均光反射率Rv2.5%以下である。とりわけ、当該平均光反射率Rvは、特にレンズの後方主面から、1%以下、好適には0.7%以下である。
【0179】
本発明による好適な一実施形態によれば、後方主面は、PCT/EP2011/072386号明細書に記述されているような従来の反射防止コーティング又は実際に好適には、紫外光を殆ど反射しないUV領域で効果的な反射防止コーティングでコーティングされている。
【0180】
これにより、着用者の後ろから発せられ、レンズの後方主面へ入射して当該後方主面により着用者の目の方向に反射されがちなUV光から着用者の目を保護することができる。
【0181】
ISO規格13666:1998に定義された関数W(λ)により重み付けされた、280nm〜380nmの波長に対する、眼鏡レンズの後方主面からのUV RUVにおける平均反射係数は、30°の入射角、及び45°の入射角に対して7%以下、より良好には6%以下、更により良好には5%以下である。UV RUVにおける平均反射係数は以下の関係式により定義される。
【数1】
ここにR(λ)は、注目する波長における眼鏡レンズの後方主面からのスペクトル反射率を示し、W(λ)は、太陽スペクトルエネルギー分布Es(λ)と相対スペクトル効率関数S(λ)の積に等しい重み付け関数を示す。
【0182】
UV光線に対する透過係数を計算可能にするスペクトル関数W(λ)は、ISO規格13666:1998に定義されている。
【0183】
UV領域で効果的な反射防止コーティングは好適には、少なくとも1つの高屈折率層及び少なくとも1つの低屈折率層の積層を含んでいる。
【0184】
本発明によるフィルタは、むき出しのフォトクロミック基板に直接堆積されていてよい。特定の用途において、フィルタを含む眼鏡レンズの主面を、当該主面上にフィルタが形成される前に、1つ以上の機能コーティングでコーティングすることが好適である。従来から光学部品に用いられるこれらの機能コーティングは非限定的に、衝撃防止プライマ層、摩耗防止及び/又は傷防止コーティング、偏光子コーティング及び/又は着色コーティングであってよい。
【0185】
一般に、フォトクロミック基板の前方及び/又は後方主面は、衝撃防止プライマ層、摩耗防止及び/又は傷防止コーティングによりコーティングされている。
【0186】
フィルタは好適には摩耗防止及び/又は傷防止コーティングの上に堆積される。摩耗防止及び/又は傷防止コーティングは、眼鏡レンズの分野で摩耗防止及び/又は傷防止コーティングとして従来から用いられている任意の層であってよい。そのようなコーティングについて、特に文献欧州特許第0614957号明細書に記述されている。
【0187】
本発明による眼鏡レンズはまた、疎水性コーティング及び/又は疎油性コーティング(汚れ防止トップコーティング)又はくもり防止コーティング等、フィルタ上に形成されていて表面特性を変えることができるコーティングを含んでいてよい。そのようなコーティングについて、特に文献米国特許第7678464号明細書に記述されている。これらのコーティングは好適にはフィルタの外層に堆積されている。これらは一般に、厚さが10nm以下、好適には厚さが1〜10nm、より良好には厚さが1〜5nmである。
【0188】
典型的には、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズは、前方主面に衝撃防止プライマ層、摩耗防止及び/又は傷防止層、本発明によるフィルタ、及び疎水性及び/又は疎油性コーティングが順次コーティングされた基板を含んでいる。
【0189】
本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズは好適には、眼鏡用の眼鏡レンズ、又はフォトクロミック眼鏡レンズ素材である。従って、本発明はまた、少なくとも1つのそのようなフォトクロミック眼鏡レンズを含むフォトクロミック眼鏡にも関する。
【0190】
フォトクロミック眼鏡レンズは、任意選択的に矯正を行う偏光レンズ又は着色サングラスレンズであってよい。
【0191】
フォトクロミック眼鏡レンズの基板の後方主面は、衝撃防止プライマ層、摩耗防止及び/又は傷防止層、UV防止反射防止コーティングであってもなくてもよい反射防止コーティング、及び疎水性及び/又は疎油性コーティングにより順次コーティングされていてよい。
【0192】
本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズは、特に加齢による黄斑変性等の変性過程に起因する眼機能の低下に苦しむ着用者の目を青色光の光毒性から保護するために特に有利である。
【0193】
上述のようなフォトクロミック眼鏡レンズは、着用者の視覚コントラストを向上させる効果がある。
【0194】
上述の、本発明による眼鏡レンズに用いられる、フォトクロミック基板を含むフィルタの大部分はまた、透明基板を含む眼鏡レンズの一方の主面に適用された場合に特に有利である。
【0195】
これらのフィルタのうち、本発明によるフィルタは、前記表面に適用されると、透明基板を含む眼鏡レンズの主面に、0°〜15°の入射角に対して、330ナノメートル〜380ナノメートルの波長にわたるUVA Rm,UVAにおける平均反射係数が31%未満、好適には30%以下であるという特性をもたらす。
【0196】
好適な一実施形態において、前記フィルタの各層の個々の厚さは200ナノメートル以下である。
【0197】
別の好適な実施形態において、本発明によるフィルタは、当該フィルタが堆積された主面のスペクトル反射率曲線の半値全幅FWHMは76nm以上150nm以下である。
【0198】
別の好適な実施形態において、本発明によるフィルタは、当該フィルタを含む透明基板の主面からの平均光反射率Rvが2.5%以下、より良好には1.5%以下、更に良好には1%以下である。
【0199】
本発明による別の一実施形態において、2個の前方及び後方主面の各々が本発明によるフィルタを含んでいる。一方が前方主面上及び他方が後方主面上にこのように形成された2個のフィルタは従って同一であっても、又は異なっていてもよい。
【0200】
以下の実施例は、本発明をより詳細に記述しているが限定を示唆するものではない。
【実施例】
【0201】
1.一般的手順及び動作モード
本発明によるフィルタは、摩耗防止コーティングがなされた(欧州特許第614957号明細書の例3に記述されているコーティング)グレーのフォトクロミックORMA(登録商標)Transitions(登録商標)VI眼鏡に堆積される。
【0202】
蒸発装置及びSiO2及びZrO2層の堆積条件(蒸発率、圧力)は、特許出願国際公開第2008107325号パンフレットに記述されている通りである。
【0203】
2.曲線の計算
本発明によるフィルタのスペクトル反射率曲線は、Thin Film CenterからのソフトウェアパッケージEssential Mac Leod(バージョン9.4)を用いてモデリングされた。
【0204】
フィルタの特徴及びそれらの特性は下の3節で与える。
【0205】
実施例1〜3のフィルタを備えたフォトクロミック眼鏡レンズを実際に製造して、それらのスペクトル反射率曲線を測定した。
【0206】
3.フィルタスタック及び特性。スペクトル反射率曲線。結果
実施例1〜3のフォトクロミック眼鏡レンズの構造上の特徴及び光学性能について以下で詳述する(以下の表1を参照)。
【0207】
280nm〜780nmの波長に対する、以下の実施例1〜2の前方主面への15°の入射の角度でのスペクトル反射率曲線を図1及び2に示す。これらの図も、比較例C1及びC2(下記参照)のスペクトル反射率曲線を示す。
【0208】
平均反射係数の値は、前方主面についてのものである。係数Rm,UVA、Rm,B、Rm,400nm~450nm、及びRvを、15°の入射角に対して示す(これら各種の値は、波長の対応する範囲にわたる重み無し平均である)。
【0209】
本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズが、光毒性青色光の反射率(Rm,B>10%)に関して極めて良好な特性を有しながら、可視領域における反射防止性能に悪影響を及ぼさない(15°の入射角に対してRv<2.5%)ことに注意されたい。
【0210】
実施例1〜3のフォトクロミック眼鏡レンズは更に、透明度に関して優れた特性及び良好な比色中立性、良好な摩耗及び傷耐性を有し、熱湯に浸された後の機械的表面加工に対する良好な耐性を有している。基板に対するコーティングの接着性もまた大いに満足すべきものである。
【0211】
【表1】
【0212】
比較例C1、C2及びC3
比較例C1及びC2の眼鏡レンズの構造的特徴及び光学的性能を以下に詳述する(以下の表2参照)。
【0213】
【表2】
【0214】
比較例C1及びC2のフィルタは、仏国特許第1254529号明細書の下で出願された出願人の未公開特許出願に記述されているものと同種の広帯域フィルタである。
【0215】
比較例C3は、ESSILORから販売されている、Crizal(登録商標)Alize反射防止処理によりコーティングされたグレーのOrma(登録商標)Transitions(登録商標)VIフォトクロミック眼鏡レンズである。
【0216】
更に、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズの効果(例3を参照)は、比較例C2のレンズに比べ、及び比較例C3のような市販のフォトクロミック眼鏡レンズに比べて、以下の表3で与える結果から理解されよう。
【0217】
%で表す眼鏡レンズの照射時の視覚透過係数Tvを、ISO規格8980−3に定義された標準測定条件の下で時間(ここでは分単位)の関数として測定した。
【0218】
これらの測定は、ISO規格8980−3の要件を満たすフォトクロミックテストベッドにより実行された。
【0219】
フォトクロミックテストベッドは、出力150ワットの2個のOriel(商標)キセノンランプからなる太陽シミュレータを含み、23℃+/−2℃の温度に調整されたチャンバ内に配置された眼鏡レンズを照射すべく、当該ランプのスペクトルを組み合わせた。
【0220】
高速MCS501フォトダイオードアレイ分光計により、ガラスのスペクトル透過を連続的に測定した。
【0221】
測定の目的は、フォトクロミック基板を含む眼鏡レンズの挙動を検証する、特に15分間の照明時間後に到達した可視透過率Tv[15分](%単位)のレベルを評価することであった。
【0222】
これにより、ISO規格8980−3に従い眼鏡レンズの「クラス」が評価できるようになった。
【0223】
当該規格によれば、18±2%未満の値Tv[15分]を有するフォトクロミック基板を含む眼鏡レンズは、クラス3の眼鏡レンズであると考えられる。
【0224】
v[15分]の値が18±2%よりも高ければ眼鏡レンズはクラス2だけに対応している。
【0225】
結果を以下の表3に示す。
【0226】
【表3】
【0227】
表3において、「青色のカットオフ」とラベル付けされた列は、表3の各種のレンズ例を、どの程度光毒性青色光のフィルタリングに効果的であるかにより特徴付けることができる。
【0228】
従って、当該列の行記号「O」は、対応する行のレンズが光毒性青色光を効果的に排除することを示す。逆に、当該列の行記号「X」は、対応する行のレンズが光毒性青色光を排除する効果が無いことを示す。
【0229】
更に、同じ表3において、列「フォトクロミック性能の維持」は表3の各種のレンズ例を、Crizal(登録商標)Alize反射防止処理でコーティングされた、従って比較例C3に対応する標準フォトクロミック眼鏡レンズに対する自身の可視透過率Tv[15分]の低下(絶対値)により特徴付けることができる。
【0230】
従って、当該列の行記号「O」は、対応する行のレンズの可視透過率Tv[15分]が比較例C3に比べて5%未満低下した(絶対値)ことを示す。逆に、当該列の行の記号「X」は対応する行のレンズの可視透過率Tv[15分]が比較例C3に比べて5%超(絶対値)低下したことを示す。比較例C3に対応する行の記号「−」は、比較が無目的であることを示す。
【0231】
本発明による例3のレンズは、クラス3着色レンズに対応するTv[15分]の値を実現可能にする。更に、測定により、着色/脱色率が本発明によるフィルタの存在による影響を受けないことが示された。着色/脱色曲線の形状は、比較例C3のような従来型のフォトクロミック眼鏡レンズと同一であった。
【0232】
比較例C2のレンズはTv[15分]の値が25%であり、これは可視透過率の値が7%以上増大したことを表している。
【0233】
当該レンズは、クラス2だけに対応している。
【0234】
本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズが、光毒性領域における青色光の効果的フィルタリング及び良好なスペクトル選択を可能にしながら、特にTv[15分]の値に関して優れたフォトクロミック特性を有し、本発明による眼鏡レンズは時間生物学的領域に対応する極めて僅かな青色光しかフィルタリングしないことに注目されたい。これは、所望のフィルタリング領域(420〜450nm)に相対的にシフトされて近UV及びUVAにおいて相対的に高い最大反射率、及び好適には意図的に制限した領域400〜450nm内の平均反射係率値とちょうど同じようなRm,UVA値の両方を有する広帯域フィルタを用いた結果である。
【0235】
従って、本発明によるフォトクロミック眼鏡レンズにより、良好なフォトクロミック性能を保証しながら、且つ高水準の時間生物学的青色光を維持しながら、光毒性青色光を排除することができる。
図1
図2