特許第6510529号(P6510529)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6510529薄膜太陽電池、薄膜太陽電池用層系及び薄膜太陽電池用層系の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510529
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】薄膜太陽電池、薄膜太陽電池用層系及び薄膜太陽電池用層系の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/0749 20120101AFI20190422BHJP
   H01L 31/18 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
   H01L31/06 460
   H01L31/04 420
【請求項の数】19
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-539927(P2016-539927)
(86)(22)【出願日】2014年12月23日
(65)【公表番号】特表2016-541124(P2016-541124A)
(43)【公表日】2016年12月28日
(86)【国際出願番号】CN2014094607
(87)【国際公開番号】WO2015096689
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年8月10日
(31)【優先権主張番号】13199305.7
(32)【優先日】2013年12月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516175526
【氏名又は名称】バンブ・デザイン・アンド・リサーチ・インスティテュート・フォー・グラス・インダストリー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パーム,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】ポールナー,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ハップ,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ダリボル,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】ディートミュラー,ローラント
(72)【発明者】
【氏名】バーマ,ラジニーシ
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−204810(JP,A)
【文献】 特開2012−174759(JP,A)
【文献】 特開2013−062394(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129557(WO,A1)
【文献】 特開2012−204617(JP,A)
【文献】 特表2013−520566(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02200097(EP,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0247745(US,A1)
【文献】 特開平10−125941(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1952222(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/02−31/078、31/18−31/20
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜太陽電池100用の層系であって、
・カルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層
・前記吸収層の上に配置されたバッファー層を含み、
前記バッファー層が式AInの半導体材料を有し、Aがカリウム(K)および/またはセシウム(Cs)であり、
前記バッファー層(5)において、A=Kであり、
0.05≦x/(x+y+z)≦0.15および
0.35≦y/(y+z)≦0.45である、
または
前記バッファー層(5)において、A=Csであり、
0.05≦x/(x+y+z)≦0.10および
0.35≦y/(y+z)≦0.45である、
である、層系
【請求項2】
前記バッファー層が、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)からなる群から選択される少なくとも1つのハロゲンを有する、請求項1に記載の層系
【請求項3】
前記バッファー層のハロゲン含量が前記バッファー層のアルカリ含量に相当する、請求項に記載の層系
【請求項4】
Inを含有する第1のバッファー層の上に第2のバッファー層が配置される、請求項1からのいずれか一項に記載の層系
【請求項5】
前記第2のバッファー層が非ドープ酸化亜鉛(ZnO)および/または非ドープ酸化亜鉛マグネシウム(ZnMgO)を含む、請求項に記載の層系
【請求項6】
前記バッファー層が亜鉛(Zn)を含み、亜鉛含量が最大で15原子%である、請求項1からのいずれか一項に記載の層系
【請求項7】
前記第1のバッファー層の亜鉛含量が前記第2のバッファー層まで増大する、請求項に記載の層系
【請求項8】
・基板
・前記基板の上に配置されたリア電極
・前記リア電極の上に配置された、請求項1からのいずれか一項に記載の層系、および
・前記層系の上に配置されたフロント電極
を含む薄膜太陽電池100
【請求項9】
請求項1からのいずれか一項に記載の層系を製造する方法であって、
a)カルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層を調製すること、および
b)前記吸収層の上にバッファー層を配置することを含み、
前記バッファー層が式AInの半導体材料を有し、0.05≦x/(x+y+z)≦0.20および0.35≦y/(y+z)≦0.45であり、Aがカリウムおよび/またはセシウムであり、前記バッファー層が少なくとも1つのカリウム化合物および硫化インジウムをベースとして、および/または少なくとも1つのセシウム化合物および硫化インジウムをベースとして製造される、方法。
【請求項10】
前記バッファー層が、原子層蒸着(ALD)、イオン層ガス蒸着(ILGAR)、噴霧熱分解、化学気相蒸着(CVD)もしくは物理気相蒸着(PVD)、スパッタリング、熱蒸発、または電子線蒸発によって製造される、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記バッファー層が、
i)カリウム化合物、またはii)セシウム化合物、またはi)およびii)の両方、
ならびに硫化インジウム
の個別の供給源から製造される、請求項または10に記載の方法。
【請求項12】
前記吸収層がインライン法または回転法においてカリウム化合物および/またはセシウム化合物の少なくとも1つの蒸気ビーム11ならびに硫化インジウムの少なくとも1つの蒸気ビーム12を通して輸送される、請求項から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記蒸気ビーム11、12が、少なくとも部分的に重なっている、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記バッファー層が少なくとも1つのハロゲン化カリウムおよび/または硫化カリウムを含む少なくとも1つの二元カリウム化合物、および/またはKInS、KIn、KIn、KIn、および/またはKInを含む少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物を含む少なくとも1つの三元カリウム化合物、ならびに/あるいは少なくとも1つのハロゲン化セシウムおよび/または硫化セシウムを含む少なくとも1つの二元セシウム化合物、および/またはCsInS、CsIn、CsIn、CsIn、および/またはCsInを含む少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物を含む少なくとも1つの三元セシウム化合物をベースとして製造される、請求項から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1からのいずれか一項に記載の層系を製造する方法であって、
a)カルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層を調製すること、および
b)前記吸収層の上にバッファー層を配置することを含み、
前記バッファー層が式AInの半導体材料を有し、Aがカリウムおよび/またはセシウムであり、前記バッファー層
i)KInS、KIn、KIn、KIn、および/またはKInを含む少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物をベースとして、および/またはCsInS、CsIn、CsIn、CsIn、および/またはCsInを含む少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物をベースとして製造される、方法。
【請求項16】
前記バッファー層が、原子層蒸着(ALD)、イオン層ガス蒸着(ILGAR)、噴霧熱分解、化学気相蒸着(CVD)もしくは物理気相蒸着(PVD)、スパッタリング、熱蒸発、または電子線蒸発によって製造される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップb)において前記バッファー層(が気相から蒸着され、蒸着される材料の少なくとも1つの成分の濃度がその気相、前記吸収層の上に蒸着される前の気相における選択的結合により、低減している、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記吸収層がインライン法または回転法において三元カリウムインジウム硫黄化合物の蒸気ビーム11、12)を通して、および/または三元セシウムインジウム硫黄化合物の蒸気ビーム11、12)を通して輸送される、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記蒸気ビーム11、12が、少なくとも部分的に重なっている、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は太陽電池および太陽電池モジュールの製造の技術分野に含まれ、薄膜太陽電池用層系ならびに該層系を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池および太陽電池モジュール用の薄膜系はよく知られており、基板およびその上に適用される材料に応じて、種々のデザインのものが市販されている。材料は、入射する太陽光スペクトルが最大限に利用されるように選択されている。物性および技術的取扱い性のため、非晶質、ミクロ形態、または多結晶のシリコン、テルル化カドミウム(CdTe)、ヒ化ガリウム(GaAs)、硫化セレン化銅インジウム(ガリウム)(Cu(In,Ga)(S,Se))およびスルホセレン化銅亜鉛スズ(黄錫亜鉛鉱グループのCZTS)の半導体、ならびに有機半導体を含む薄膜系が、太陽電池に特に適している。五元半導体であるCu(In,Ga)(S,Se)は黄銅鉱半導体のグループに属し、これらはCIS(二セレン化銅インジウムまたは二硫化銅インジウム)またはCIGS(二セレン化銅インジウムガリウム、二硫化銅インジウムガリウム、または二スルホセレン化銅インジウムガリウム)と称されることが多い。略称CIGSにおいて、Sはセレン、硫黄、またはこの2つのカルコゲンの混合物を表し得る。
【0003】
現在のCu(In,Ga)(S,Se)系の薄膜太陽電池および太陽電池モジュールには、p型導電性Cu(In,Ga)(S,Se)吸収層とn型導電性フロント電極との間にバッファー層を必要とする。フロント電極は通常、酸化亜鉛(ZnO)を含む。現在の知識によれば、このバッファー層によって吸収材料とフロント電極との間の電子的適合が可能になっている。さらに、このバッファー層は、引き続くDCマグネトロンスパッタリングによるフロント電極の蒸着のプロセスステップにおいて、スパッタリング損傷に対する保護の役割を果たしている。さらに、p型およびn型半導体の間に高抵抗の中間層を構築することによって、電子的に良好な導電ゾーンから不良な導電ゾーンへの電流の漏れを防ぐことができる。
【0004】
今日まで、バッファー層として硫化カドミウム(CdS)が最も多く用いられてきた。効率の良い電池の製造を可能にするため、硫化カドミウムは化学浴プロセス(CBDプロセス)において湿式化学的に蒸着される。湿式化学的プロセスが、真空プロセスとして特徴付けられる現在の薄膜太陽電池の製造のプロセスサイクルに適合しないことは、欠点である。CdSバッファー層の別の欠点は、これが毒性のある重金属であるカドミウムを含むことである。そのため、製造プロセスにおいて安全性への高い注意を払わなければならず、廃水処理に費用がかかることから、製造コストが高くなる。CdSバッファー層の別の欠点は、硫化カドミウムが電子バンドギャップ約2.4eVの半導体であるという事実である。したがって、Cu(In,Ga)(S,Se)/CdS/ZnO太陽電池において、CdSで既に膜厚が数十nmとなり、入射光は大部分吸収される。この層において生成した電荷キャリアは直ちに再結合し、ヘテロジャンクションのこの領域およびバッファー材料において再結合中心として作用する多くの結晶欠陥が存在するため、バッファー層で吸収された光は電気収率としては失われる。その結果、太陽電池の効率は低下する。これは薄膜太陽電池にとっての欠点である。
【0005】
したがって、Cu(In,Ga)(S,Se)半導体のファミリーからの種々の硫化カドミウムの代替物、たとえばスパッタしたZnMgO、CBDによって蒸着したZn(S,OH)、CBDによって蒸着したIn(O,OH)、および電子層蒸着(ALD)、イオン層ガス蒸着(ILGAR)、噴霧熱分解、または熱蒸発もしくはスパッタリング等の物理気相蒸着(PVD)プロセスによって蒸着した硫化インジウムが、種々の吸収剤として試験されてきた。
【0006】
しかし、これらの材料はCdSバッファー層で得られる効率と同じ効率を達成できないため、市販用には適していない。太陽電池の効率は入射したパワーと太陽電池によって発生した電気的パワーとの比として表され、表面積が小さい実験室用の電池でCdSバッファー層について約20%、表面積が大きなモジュールについて10%−15%である。さらに、代替のバッファー層には大きな不安定性、ヒステリシス効果、または光、熱、および/または湿気にさらした際の効率の低下の問題がある。
【0007】
硫化インジウム系のバッファー層を有する層系は、たとえばWO2009141132A2によって知られている。しかし、これらの層系の今日までの開発において、硫化インジウムバッファー層を有する太陽電池の効率はCdSバッファー層を有する太陽電池の効率よりも低いことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第09/141132号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、経済的で環境に適合した製造方法によって、バッファー層を有するカルコゲナイド化合物半導体系の層系であって、それから製造した太陽電池が高い効率および高い安定性を有する層系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は本発明により、請求項1に記載した層系によって達成される。本発明の有利な実施形態は従属請求項に示されている。
【0011】
本発明の層系はカルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層を含む。本発明の有利な実施形態において、カルコゲナイド化合物半導体は式Cu(In,Ga,Al)(S,Se)、特にCuInSe、CuInS、Cu(In,Ga)Se、またはCu(In,Ga)(S,Se)の黄銅鉱型の半導体である。本発明の別の有利な実施形態において、カルコゲナイド化合物半導体は式CuZnSn(S,Se)、特にCuZnSnSの黄錫亜鉛鉱/黄錫鉱型の半導体である。上述の式において括弧内の元素は単独で、または組み合わせで存在し得る。
【0012】
層系は吸収層の上に配置されたバッファー層をさらに含む。バッファー層はインジウム(In)、硫黄(S)、ならびに、カリウム(K)およびセシウム(Cs)からなる群から選択された少なくとも1つの元素を有する半導体材料を含む。即ち、元素カリウムおよびセシウムはそれぞれの場合においてバッファー層中に単独で、または組み合わせで含まれ得る。バッファー層中に含まれる半導体材料は式AInと表され、ここでA=Kおよび/またはCsであり、パラメーターx、y、zの値は式で表される半導体材料中のそれぞれの物質の相対的分率を示す。式に述べた全ての物質中の物質の相対的分率(原子%)は、式中に示した全てのパラメーターの値の合計(x+y+z)に対する、関連するパラメーター(xまたはyまたはz)の値の比から得られる。A=KまたはA=Csの場合には、パラメーターxの値は、式に示した物質中のKまたはCsの相対的分率を示す。たとえば、式KInは、式に示した物質中のカリウムの相対的分率が1/6であることを示し、これは含量約17原子%に相当する。インジウムは式に示した物質中の相対的分率2/6で存在し、含量約33原子%に相当する。硫黄は式に示した物質中の相対的分率3/6で存在し、含量50原子%に相当する。ここに述べなかった元素、特に不純物も、バッファー層の半導体材料中に含まれ得ることが理解される。即ち、物質の相対的分率の表示は式に述べた物質のみを示す。A=KおよびCsの場合、即ち半導体材料がKおよびCsを組み合わせで含む場合には、パラメーターxの値は式の述べた物質中のKおよびCsの全体の相対的分率を示す。具体的な表現において、式に示した全ての物質中のKおよびCsの全体の相対的分率(原子%で表した全体の原子分率)は、パラメーターx、y、およびzの値の合計に対するパラメーターxの値の比(即ちx/(x+y+z))から得られる。
【0013】
バッファー層中の元素は、それぞれの場合において異なった酸化状態で存在することができるので、明白に別の指示がない限り、以下において元素名によって一様に全ての酸化状態を示す。たとえば、名称「カリウム」はカリウム元素およびカリウムイオン、ならびに化合物中のカリウムを意味する。
【0014】
本発明の層系の1つの実施形態において、バッファー層はカリウムのみを含む(セシウムを含まない。)式AInの半導体材料を含む。本発明の層系の別の実施形態において、バッファー層はセシウムのみを含む(カリウムを含まない。)式AInの半導体材料を含む。本発明の層系の別の実施形態において、バッファー層は式AInの半導体材料を含み、半導体材料はカリウムとセシウムの両方を含む。
【0015】
本発明者らの研究によって驚くべきことに示されたように、硫化インジウム含有バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムによって、太陽電池の効率を明白に増大させることができる。これに束縛されるわけではないが、効率が増大した理由は、カリウムまたはセシウムによって異なった結晶構造が形成され、それにより層の成長の間にカリウムなしまたはセシウムなしの硫化インジウムバッファー層に比べてより細かな結晶層が得られたことであると、今のところ推定される。カリウムまたはセシウムの原子半径が比較的大きいために硫化インジウムの結晶構造の形成が妨害されること、およびそれにより結晶性が低下することも推定される。その結果、吸収層からバッファー層への元素、たとえば銅の内向きの拡散が低減し、それにより太陽電池の効率が増大するという事実がある。
【0016】
さらに、硫化インジウム含有バッファー層中にカリウムおよび/またはセシウムを導入することによって、バッファー層のバンドギャップを拡大することができる。このことは、吸収層とバッファー層の界面におけるバンドの適合化およびバッファー層における光の吸収の低減の両方に有利である。本発明者らがさらに観察できたように、硫化インジウム含有バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムは比較的拡散し難く、その結果、バッファー層から吸収層には少ない割合しか拡散しない。したがって、それ以外の場合はいわゆるP1構造上で進展し、太陽電池モジュールの効率を制限し、微小光に対する応答を低下させる可能性がある短絡(シャント)経路を避けることができるという利点がある。これにより、太陽電池モジュールの透過率を改善し、ひいては効率を改善するために、バッファー層におけるカリウムおよび/またはセシウムの分率を増大させてバンドギャップをさらに拡大する可能性が開ける。
【0017】
本発明によれば、バッファー層はA=Kおよび/またはCsとして下記の組成の式AInの半導体材料を含む。
0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および
0.30≦y/(y+z)≦0.45。有利には以下の組成が存在する。0.02≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45;または0.03≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45;または0.04≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45。これらの範囲において、太陽電池の効率の顕著な改善が有利に得られる。
【0018】
本発明の層系の有利な実施形態において、バッファー層はA=Kおよび/またはCsとして下記の組成の式AInの半導体材料を含む。
0.05≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45。これらの範囲において、太陽電池の効率の特に高度な改善が有利に得られる。特に有利には、半導体材料は下記の組成を有する。
0.05≦x/(x+y+z)≦0.20および0.30≦y/(y+z)≦0.45。これらの値について、特に高い効率を測定することができた。
【0019】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層は0.05≦x/(x+y+z)≦0.15および0.35≦y/(y+z)≦0.45として式KInの硫化カリウムインジウム半導体材料を含む。これらの値について、特に高い効率を測定することができた。
【0020】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層は0.05≦x/(x+y+z)≦0.12および0.35≦y/(y+z)≦0.45として式CsInの硫化セシウムインジウム半導体材料を含む。これらの値について、特に高い効率を測定することができた。
【0021】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層はフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)からなる群から特に選択される少なくとも1つのハロゲンを有する。有利には、バッファー層のハロゲン含量はバッファー層のアルカリ含量に相当し、これはたとえばハロゲン化合物としてのカリウムまたはセシウムの導入との化学量論に起因する。本出願人の研究によって示されたように、太陽電池の効率をさらに改善することができるようなバッファー層の光学的バンドギャップはハロゲンによってさらに拡大することができる。
【0022】
本発明の別の有利な実施形態において、層系は上述のように実装され、「第1のバッファー層」と称されるAIn含有バッファー層および第2のバッファー層を含み、第2のバッファー層は第1のバッファー層の上に配置されている。第2のバッファー層は好ましくは非ドープ酸化亜鉛(ZnO)および/または非ドープ酸化亜鉛マグネシウム(ZnMgO)を含む。この構造により、特に効率の高い太陽電池を製造することができる。
【0023】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、(第1の)バッファー層は亜鉛(Zn)を含み、亜鉛含量はバッファー層の元素に対して最大で15原子%である。好ましくは、第1のバッファー層の亜鉛含量は第2のバッファー層まで増大する。
【0024】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層の層厚は5nm−150nmの範囲、特に15nm−60nmの範囲である。
【0025】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層はバッファー層のバンドギャップが2電子ボルト(eV)−2.8電子ボルト(eV)の範囲に存在するように実装される。これにより、特に高い効率を有する太陽電池を製造することができる。
【0026】
別の有利な実施形態において、本発明のバッファー層は10原子%以下のモル分率の銅を含む。バッファー層のバンドギャップは銅によって低減されるので、吸収層から大量の銅が内向きに拡散することは不利である。その結果、バッファー層における光の吸収が増大し、それにより効率が低下する。本発明者の研究が示したように、バッファー層においてカリウムおよび/またはセシウムを用いることにより、吸収層からバッファー層への銅の内向きの拡散を有利に阻止することができる。バッファー層中の銅のモル分率を10原子%以下にすることによって、高い効率の太陽電池を確保することができる。
【0027】
一般に、バッファー層はAをカリウム(K)および/またはセシウム(Cs)として、0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45である式AInの半導体材料と、該半導体材料とは異なる1つまたは複数の他の成分(不純物)からなる(またはこれから作られる)。本発明の有利な実施形態において、バッファー層は実質的に上述の半導体材料から作られる。これは、上述の半導体材料と異なるバッファー層の成分(不純物)の分率は無視できることを意味している。
【0028】
バッファー層の半導体材料の分子式の元素に基づかない場合には、物質(不純物)のモル分率はバッファー層中の全ての物質の物質量の合計に対する(即ち、バッファー層中の半導体材料および不純物に対する)この物質の物質量の分率を原子%で表している。
【0029】
バッファー層が上述の半導体材料および該半導体材料とは異なる成分からなるように、バッファー層について述べた半導体材料とは異なるバッファー層の成分(不純物)が無視できない分率を有することがあり得る。この場合には、Aがカリウム(K)および/またはセシウム(Cs)であって0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45である式AInの半導体材料のバッファー層中における百分率(原子%)(即ち、半導体材料の元素のそれぞれの百分率(原子%)の合計)は、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%であることが有利である。即ちバッファー層は少なくとも75%の上述の半導体材料および最大25%の該半導体材料とは異なる成分、好ましくは少なくとも80%の上述の半導体材料および最大20%の該半導体材料とは異なる成分、より好ましくは少なくとも85%の上述の半導体材料および最大15%の該半導体材料とは異なる成分、さらにより好ましくは少なくとも90%の上述の半導体材料および最大10%の該半導体材料とは異なる成分、さらにより好ましくは少なくとも95%の上述の半導体材料および最大5%の該半導体材料とは異なる成分、最も好ましくは少なくとも99%の上述の半導体材料および最大1%の該半導体材料とは異なる成分からなる(全てのデータは原子%である。)。
【0030】
本発明の特に有利な実施形態において、バッファー層中の全ての不純物(即ち、Aがカリウム(K)および/またはセシウム(Cs)であって0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45である分子式AInによる半導体材料と異なる全ての物質)のモル分率の合計は、最大25原子%、好ましくは最大20原子%、より好ましくは最大15原子%、さらにより好ましくは最大10原子%、さらにより好ましくは最大5原子%、最も好ましくは最大1原子%である。
【0031】
本発明の層構造の有利な実施形態において、バッファー層はカリウムおよび/またはセシウム、インジウム、ならびに硫化物(ならびにカリウムまたはセシウムがハロゲン化合物に蒸着された場合に、おそらくハロゲン、たとえば塩素)以外の実質的な分率の元素を含まない。このことは、バッファー層がたとえば炭素等の他の元素を含まず、製造技術の観点から避けられない最大でも1原子%以下のモル分率でしか他の元素を含まないことを意味する。これにより、高い効率を保証することが可能である。
【0032】
本発明の層系において、バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率は一定の深さプロファイルを有し得る。本発明の文脈において、「深さプロファイル」は層構造の層に直交する方向、即ち層構造の個別の層厚に平行な方向を表す。あるいは、バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率は一定でない深さプロファイルを有し得る。たとえば、バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率は、吸収層に近い表面から吸収層から遠いバッファー層の表面まで低下する勾配を有する。バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率が、吸収層に近い表面から吸収層から遠いバッファー層の表面まで上昇する勾配を有することも同様に可能である。バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率が、吸収層に近い表面から吸収層から遠いバッファー層の表面まで初めに低下し、ついで再び上昇する勾配を有すること、即ち2つの表面の間で最小値を有することも同様に可能である。さらに、バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率が、吸収層に近い表面から吸収層から遠いバッファー層の表面まで初めに上昇し、ついで再び低下する勾配を有すること、即ち2つの表面の間で最大値を有することも可能である。全バッファー層中の個別の元素のモル分率は本発明の特許請求の範囲に含まれる。一定でない深さプロファイルは、たとえば気相蒸着速度を変化させることによって製造できる。
【0033】
本発明は、基板、基板の上に配置されたリア電極、上述のように実装され、リア電極の上に配置された層系、および層系の上に配置されたフロント電極を含む薄膜太陽電池にさらに拡張される。基板はたとえば金属、ガラス、プラスチック、またはセラミック基板であり、ガラスが好ましい。しかし、他の透明なキャリア材料、特にプラスチックも用いることができる。リア電極は有利にはモリブデン(Mo)または他の金属を含む。リア電極の有利な実施形態において、リア電極は吸収層に隣接するモリブデンの副層およびモリブデンの副層に隣接する窒化シリコンの副層(SiN)を有する。そのようなリア電極は、たとえばEP1356528A1によって公知である。フロント電極は好ましくは透明な導電性酸化物(TCO)、特に好ましくはアルミニウム、ガリウム、またはホウ素ドープ酸化亜鉛および/または酸化インジウムスズ(ITO)を含む。
【0034】
本発明の薄膜太陽電池の有利な実施形態において、バッファー層とフロント電極との間に第2のバッファー層が配置される。第2のバッファー層は好ましくは非ドープ酸化亜鉛および/または非ドープ酸化亜鉛マグネシウムを含む。
【0035】
本発明は上述のように実装された本発明の層系を製造する方法にさらに拡張される。
【0036】
本方法は、上述のように実装され、カルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層が調製されるステップを含む。好都合には、吸収層はRTP(「急速熱処理」)プロセスによって、リア電極を有する基板の上に適用される。Cu(In,Ga)(S,Se)吸収層については、リア電極の上に前駆体層が最初に蒸着される。前駆体層は銅、インジウム、および/またはガリウム元素を含み、これらはスパッタリングによって適用される。さらに、前駆体層は元素状セレンおよび/または元素状硫黄を含み、これらは熱蒸発によって適用される。これらのプロセスの間、元素が実質的に未反応のままであるように、基板の温度は100℃未満である。ついで、この前駆体層が硫黄含有雰囲気中および/またはセレン含有雰囲気中で急速熱処理によって反応し、Cu(In,Ga)(S,Se)黄銅鉱半導体を形成する。
【0037】
本方法はバッファー層が吸収層の上に配置され、バッファー層がAInを含み、Aはカリウムおよび/またはセシウムであるステップをさらに含む。バッファー層は上述の層系のバッファー層に相当して実装される。特に、式AInの半導体材料を有し、0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45であるバッファー層が製造される。
【0038】
原則としてバッファー層の製造のためには、カリウムまたはセシウムの分率と硫化インジウムの分率との比が制御できる全ての化学的、物理的蒸着法が好適である。有利には、本発明のバッファー層は原子層蒸着(ALD)、イオン層ガス蒸着(ILGAR)、噴霧熱分解、化学気相蒸着(CVD)、または物理気相蒸着(PVD)によって吸収層に適用される。本発明のバッファー層は好ましくはスパッタリング(陰極スパッタリング)、熱蒸発、または電子線蒸発によって、特に好ましくはカリウム(好ましくはハロゲン化カリウム化合物の形態で)および/またはセシウム(好ましくはハロゲン化セシウム化合物の形態で)ならびに硫化インジウムの個別の供給源から蒸着される。硫化インジウムはインジウムおよび硫黄の別々の供給源から、またはIn化合物半導体材料を含む1つの供給源から蒸発される。硫黄源と組み合わせたその他の硫化インジウム(InまたはInS)も可能である。
【0039】
特に有利には、本発明のバッファー層は真空法によって蒸着される。真空法には特に、酸素または水酸化物の組み込みが真空下において防止されるという利点がある。バッファー層中の水酸化物成分は、熱および光の影響下における効率の過渡状態に関与していると考えられる。さらに、真空法には湿式化学が不要で標準的な真空コーティング装置を用いることができるという利点がある。
【0040】
本発明の方法の特に有利な実施形態において、バッファー層は少なくとも1つのカリウム化合物および硫化インジウムをベースとして、および/または少なくとも1つのセシウム化合物および硫化インジウムをベースとして製造される。バッファー層を製造するために少なくとも1つのカリウム化合物および硫化インジウムが出発材料(源)として用いられ、および/または少なくとも1つのセシウム化合物および硫化インジウムが出発材料(源)として用いられる。バッファー層が「少なくとも1つのカリウム化合物および硫化インジウムをベースとして、および/または少なくとも1つのセシウム化合物および硫化インジウムをベースとして」製造される処方によって、バッファー層の化学量論が出発材料の成分の化学量論に対して逸脱しない場合と、バッファー層の化学量論が出発材料の成分の化学量論に対して逸脱する場合の両方が含まれる。
【0041】
本発明の方法の特に有利な実施形態において、バッファー層は少なくとも1つのハロゲン化カリウムおよび/または少なくとも1つの二元カリウム化合物、特に硫化カリウム、および/または少なくとも1つの三元カリウム化合物、特に少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物、たとえばKInS、KIn、KIn、KIn、および/またはKIn、ならびに/あるいは少なくとも1つのハロゲン化セシウムおよび/または少なくとも1つの二元セシウム化合物、特に硫化セシウム、および/または少なくとも1つの三元セシウム化合物、特に少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物、たとえばCsInS、CsIn、CsIn、CsIn、および/またはCsInをベースとして製造される。ここ以降、「三元カリウム化合物」という用語は、カリウム(K)および他の2つの元素からなる三元化学化合物を意味する。特に、「三元インジウム硫黄化合物」は、元素カリウム(K)、インジウム(In)、および硫黄(S)からなる三元化学化合物である。同様に、「三元セシウム化合物」という用語は、セシウム(Cs)および他の2つの元素からなる三元化学化合物を意味する。特に、「三元セシウムインジウム硫黄化合物」は、元素セシウム(K)、インジウム(In)、および硫黄(S)からなる三元化学化合物である。元素はそれぞれの場合において種々の酸化状態で存在することができる。
【0042】
バッファー層を製造するために三元カリウム化合物、特に三元カリウムインジウム硫黄化合物、ならびに三元セシウム化合物、特に三元セシウムインジウム硫黄化合物を用いることによって、プロセス技術上の大きな利点がもたらされる。1つの重要な利点は、吸湿性、毒性、および可燃性に関して三元化合物が単純な取扱い性を有していることである。
【0043】
本発明の方法の1つの有利な実施形態によれば、バッファー層は少なくとも1つのカリウム化合物と硫化インジウムの蒸着によって、および/または少なくとも1つのセシウム化合物と硫化インジウムの蒸着によって製造される。この場合、バッファー層の化学量論は出発材料の成分の化学量論に相当する。
【0044】
有利な実施形態において、カリウム化合物および/またはセシウム化合物は1つまたは複数の第1の供給源から蒸発され、硫化インジウム(In)は別の第2の供給源から蒸発される。
【0045】
蒸着源の配置は、たとえば供給源の蒸気ビームが少なくとも部分的に、特に完全に重なるように設計される。この手段によって、極めて均一なバッファー層を生成することができ、それにより特に高い効率が得られる。本発明の文脈において、「蒸気ビーム」は、蒸着速度および均一性に関して、蒸発した材料の基材上への蒸着に技術的に適した供給源の出口の前の領域を意味する。供給源は、たとえば熱蒸発器、抵抗加熱器、電子ビーム蒸発器、または線状蒸発器の流出セル、ボートまたはるつぼである。
【0046】
代替の配置において、供給源の蒸気ビームは部分的にのみ重なるか、全く重ならない。好ましくは、カリウム化合物および/またはセシウム化合物は硫化インジウムの前に蒸着され、それにより吸収層の電気的界面不動態化が特に有利に得られる。これにより電荷キャリアの耐用年数が増大し、太陽電池の効率が改善される。
【0047】
本発明の方法の有利な実施形態において、吸収層はインライン法または回転法においてカリウム化合物および/またはセシウム化合物の蒸気ビームならびに硫化インジウムの蒸気ビームまたはインジウムおよび硫黄の蒸気ビームを通して輸送される。蒸気ビームは完全にまたは部分的に重なっている。
【0048】
本発明は上述のように実装される本発明の層系を製造するための代替の方法にさらに拡張される。
【0049】
本方法は、カルコゲナイド化合物半導体を含み、上述のように実装された吸収層が調製されるステップを含む。このステップに関しては、上記の方法の記述を参照する。本方法は、本発明の上述の層系のバッファー層に相当するバッファー層が吸収層の上に配置されるステップをさらに含む。特に、0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45である式AInの半導体材料を有するバッファー層が製造される。ここでバッファー層は少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物、たとえばKInS、KIn、KIn、KIn、および/またはKInをベースとして(のみ)、および/または少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物、たとえばCsInS、CsIn、CsIn、CsIn、および/またはCsInをベースとして(のみ)製造されることが重要である。即ち上記の方法とは対照的に、バッファー層は硫化インジウムをベースとして製造されない。たとえばバッファー層の製造のための出発材料として硫化インジウムは用いられない。
【0050】
バッファー層を製造するために三元カリウムインジウム硫黄化合物、ならびに三元セシウムインジウム硫黄化合物を用いることにより、既に述べたように取扱い性、吸湿性、毒性、および可燃性に関するプロセス技術上の大きな利点がもたらされる。さらに、比較的少数の出発材料(最も単純な場合にはただ1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物または1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物)によるバッファー層の製造が可能であり、それにより製造プロセスの複雑さ、したがって層系の製造コストが顕著に低減される。
【0051】
原則として、少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物をベースとして、および/または少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物をベースとしてバッファー層を製造するためには、全ての化学的、物理的蒸着法が適している。有利には、本発明のバッファー層は原子層蒸着(ALD)、イオン層ガス蒸着(ILGAR)、噴霧熱分解、化学気相蒸着(CVD)、または物理気相蒸着(PVD)によって吸収層に適用される。本発明のバッファー層は好ましくはスパッタリング(陰極スパッタリング)、熱蒸発、または電子線蒸発によって蒸着される。本発明のバッファー層は、特に有利には真空法によって蒸着される。真空法には、酸素または水酸化物の組み込みが真空下において防止されるという特別な利点がある。
【0052】
本発明の方法の有利な実施形態によれば、バッファー層は少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物および/または少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物の蒸着によって製造される。この場合、元素カリウムおよび/またはセシウムとインジウムおよび硫黄に関するバッファー層の化学量論は出発材料中のこれらの成分の化学量論に相当する。
【0053】
本発明の方法の別の有利な実施形態によれば、ステップb)においてバッファー層は気相から吸収層の上に蒸着されるが、蒸着される材料の少なくとも1つの成分の濃度は、気相、ひいては吸収層の上に蒸着される前の気層における選択的結合により、出発材料(カリウムインジウム硫黄化合物および/またはセシウムインジウム硫黄化合物)中のこの成分の濃度に比べて低減している。即ち、たとえば硫黄成分の濃度は出発材料中の濃度に比べて気相中で低減させることができる。この場合、カリウムおよび/またはセシウム、インジウムおよび硫黄成分に関するバッファー層の化学量論は、出発材料中のこれらの成分の化学量論にはもはや相当していない。ある成分の濃度は気相中において、たとえば、その上に成分が物理的および/または化学的に結合するゲッターエレメントによって低減させることができる。ある成分の濃度を気相において低減させるための種々の手段はそれ自体、たとえば国際特許出願WO2011/104235により当業者には公知であり、そのためここで詳細に取り扱う必要はない。それにより、特に太陽電池の効率をさらに改善するためにバッファー層中のカリウムおよび/またはセシウム、インジウム、および硫黄成分の化学量論を選択的に調整することは有利なことに可能である。
【0054】
たとえば、バッファー層は少なくとも1つのカリウムインジウム硫黄化合物を含む少なくとも1つの第1の供給源および/または少なくとも1つのセシウムインジウム硫黄化合物を含む少なくとも1つの第2の供給源を用いて製造される。蒸着源の配置は、たとえば供給源の蒸気ビームが少なくとも部分的に、特に完全に重なるように設計される。この手段によって、極めて均一なバッファー層を生成することができ、それにより特に高い効率が得られる。本発明の文脈において、「蒸気ビーム」は、蒸着速度および均一性に関して、蒸発した材料の基材上への蒸着に技術的に適した供給源の出口の前の領域を意味する。供給源は、たとえば熱蒸発器、抵抗加熱器、電子ビーム蒸発器、または線状蒸発器の流出セル、ボートまたはるつぼである。代替の配置において、供給源の蒸気ビームは部分的にのみ重なるか、全く重ならない。本発明の方法の有利な実施形態において、吸収層はインライン法または回転法において、1つまたは複数の第1の蒸気ビームおよび/または1つまたは複数の第2の蒸気ビームを通して輸送される。
【0055】
本発明の種々の実施形態は、本発明の範囲から逸脱することなく、単独でまたは任意の組み合わせで、存在することができる。
【0056】
以下、添付した図面を参照して本発明を詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0057】
図1】本発明の薄膜太陽電池の模式的断面図である。
図2図1の構造を有する薄膜太陽電池の、バッファー層中のカリウム分率の関数としての効率の測定を示す図である。
図3図1の構造を有する薄膜太陽電池の、バッファー層中のセシウム分率の関数としての効率の測定を示す図である。
図4】アルカリ分率の関数としてのKInバッファー層またはNaInバッファー層のバンドギャップの測定を示す図である。
図5】セシウム分率の関数としてのCsInバッファー層の光学的透過率の測定を示す図である。
図6】セシウム含有またはナトリウム含有硫化インジウムバッファー層を有する薄膜太陽電池の薄膜太陽電池モジュールの効率の測定を示す図である。
図7図6の薄膜太陽電池モジュールの短絡電流の測定を示す図である。
図8】本発明の層系のバッファー層を製造するためのインライン法の模式図である。
図9】本発明の層系のバッファー層を製造するための回転法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
図1は、本発明の層系1を有する本発明の薄膜太陽電池100の例示的な実施形態を断面視で純粋に模式的に描いた図である。薄膜太陽電池100は基板2およびリア電極3を含む。本発明の層系1がリア電極3の上に配置されている。本発明の層系1は吸収層4、第1のバッファー層5、ならびに場合によって第2のバッファー層6を含む。フロント電極7が層系1の上に配置されている。
【0059】
基板2はここではたとえば無機ガラスから作られているが、薄膜太陽電池100の製造の間に実施されるプロセスステップに関して十分な安定性ならびに不活性な性質を有する他の絶縁材料、たとえばプラスチック、特にポリマーまたは金属、特に金属合金をそれとともに用いることも同等に可能である。層厚および特定の材料特性に応じて、基板2は硬いプレートまたは可撓性のフィルムとして実装することができる。本発明の例示的な実施形態において、基板2の層厚はたとえば1mm−5mmである。
【0060】
基板2の入光側表面にリア電極3が配置されている。リア電極3はたとえば不透明金属から作られている。これはたとえば蒸着または磁場補助陰極スパッタリングによって基板2の上に蒸着され得る。リア電極3はたとえばモリブデン(Mo)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、チタン(Ti)、またはそのような金属、たとえばモリブデン(Mo)を含む多層系から作られている。リア電極3の層厚は、この場合には1μm未満、好ましくは300nm−600nmの範囲、たとえば500nmである。リア電極3は薄膜太陽電池100の背面コンタクトとして作用する。基板2とリア電極3との間に、たとえばSi、SiON、またはSiCNから作られたアルカリバリアを配置してもよい。これは図1には詳細に示していない。
【0061】
リア電極3の上に本発明の層系1が配置されている。層系1は、たとえばCu(In,Ga)(S,Se)から作られ、リア電極3の上に直接適用された吸収層4を含む。吸収層4はたとえば緒言で述べたRTPプロセスによって蒸着されており、たとえば1.5μmの厚みを有する。
【0062】
吸収層4の上に第1のバッファー層5が配置されている。第1のバッファー層5は式KInまたはCsInの半導体材料を含み、
0.05≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45、好ましくは0.05≦x/(x+y+z)≦0.20および0.35≦y/(y+z)≦0.45である。
【0063】
Inについては、好ましくは以下が適用される。0.05≦x/(x+y+z)≦0.15および0.35≦y/(y+z)≦0.45。CsInについては、好ましくは以下が適用される。0.05≦x/(x+y+z)≦0.12および0.35≦y/(y+z)≦0.45。
【0064】
緒言において既に述べたように、カリウムまたはセシウムがハロゲン化合物として蒸着される場合には、第1のバッファー層5は有利にはハロゲンに加えて他の元素を殆ど含まない(1原子%以下)。バッファー層5の層厚は好ましくは15nm−60nmの範囲であり、たとえば30nmである。
【0065】
第2のバッファー層6は第1のバッファー層5の上に配置される。第2のバッファー層6は場合による。即ち、これは必ずしも層系1の中に存在しなくてもよい。バッファー層6は、たとえば非ドープ酸化亜鉛(i−ZnO)を含む。
【0066】
前面のコンタクトとして作用し、可視スペクトルの範囲の放射に透明なフロント電極7(「窓層」)は、第2のバッファー層6の上に配置される。通常、フロント電極7には、ドープされた金属酸化物(TCO=透明導電性酸化物)、たとえばn型導電性の、アルミニウム(Al)ドープ酸化亜鉛(ZnO)、ホウ素(B)ドープ酸化亜鉛(ZnO)、またはガリウム(Ga)ドープ酸化亜鉛(ZnO)が用いられる。フロント電極7の層厚は、たとえばおよそ300−1500nmである。環境の影響に対する保護のため、たとえばポリビニルブチラール(PVB)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、またはDNPから作られたプラスチック層(カプセル化フィルム)をフロント電極7に適用することができる。
【0067】
さらに、たとえば鉄含量が少ない純白のガラス(フロントガラス)から作られ、たとえば1−4mmの厚みを有する、日光に透明なカバープレートを備えてもよい。
【0068】
薄膜太陽電池または薄膜太陽電池モジュールの基本構造は、たとえば市販の薄膜太陽電池または薄膜太陽電池モジュールから当業者には公知であり、既に特許文献、たとえばDE19956735B4など数多くの出版物においても詳細に記述されている。
【0069】
図1に示した基板構成において、リア電極3は基板2に隣接している。層系1はスーパーストレート型の構成を有してもよく、この場合には基板2は透明であり、フロント電極7は入光側とは反対向きに基板2の表面上に配置されることが理解される。
【0070】
層系1は、層系1、リア電極3、およびフロント電極7が、種々のパターン線(リア電極には「P1」、コンタクトフロント電極/リア電極には「P2」、およびフロント電極の分離には「P3」)によってそれ自体公知の方法でパターン化された、集積型の直列接続薄膜太陽電池の製造のために用いられる。
【0071】
図2は、式KInの半導体材料を有する第1のバッファー層5におけるカリウム分率の関数としての、図1の構造による薄膜太陽電池100の効率のグラフを示す。薄膜太陽電池100は、ガラスから作られた基板2ならびにSiバリア層およびモリブデン層から作られたリア電極3を含む。Cu(In,Ga)(S,Se)から作られ、上述のRTPプロセスによって蒸着された吸収層4がリア電極3の上に配置されている。吸収層4の上には第1のバッファー層5が配置されている。第1のバッファー層5の層厚は30nmである。第1のバッファー層5の上には、非ドープ酸化亜鉛を含む厚み100nmの第2のバッファー層6が配置されている。第2のバッファー層6の上にはn型導電性酸化亜鉛を含む厚み1200nmのフロント電極7が配置されている。薄膜太陽電池100の面積は、たとえば1.4cmである。
【0072】
図2に示すように、インジウムおよび硫黄は第1のバッファー層5の中に以下のモル比で存在する。0.394≦y/(y+z)≦0.421。第1のバッファー層5のカリウム分率は0原子%から16原子%の間で変動する。測定の結果、約12.5%の最大効率が得られ、それにより、効率は第1のバッファー層5にカリウムを含まない比較の太陽電池の効率(約9%)より明確に大きいことが分かる。
【0073】
図3は、式CsInの半導体材料を有する第1のバッファー層5におけるセシウム分率の関数としての、図1の構造による薄膜太陽電池100の効率のグラフを示す。図3の構造の太陽電池は図2のそれに相当するが、第1のバッファー層5の硫化インジウム含有半導体材料がセシウムを含んでいるところが異なる。
【0074】
図3に示すように、インジウムおよび硫黄は第1のバッファー層5の中に以下のモル比で存在する。0.400≦y/(y+z)≦0.413。第1のバッファー層5のセシウム分率は約1.5原子%から約14原子%の間で変動する。測定の結果、約16%の最大効率が得られ、セシウム分率約8原子%までは効率は明らかに14%を超え、セシウム分率約10原子%以降では低下した。
【0075】
図4は、KClおよびInSの共蒸発によって製造したKIn(:Cl)バッファー層のカリウム含量の関数としての、電子ボルト(eV)で表した光学バンドギャップEの測定を示す。比較測定として、NaClおよびInSの共蒸発によって製造したNaIn(:Cl)バッファー層のナトリウム含量の関数としての光学バンドギャップEを示す。量比y/(y+z)は約0.39−0.42であった。バンドギャップは偏光解析法で測定し、カリウム含量はX線蛍光分析(XRFA)を用いて塩素含量から決定した。
【0076】
図4から明らかなように、バンドギャップはカリウム含量0−10.5原子%の範囲で約2eVから2.5eV近くまでほぼ直線的に増大し、その結果、薄膜太陽電池において吸収の低下のために短絡電流が対応して増大する。Na含有硫化インジウムバッファー層のバンドギャップは、K含有硫化インジウムバッファー層のバンドギャップより明らかに低い。
【0077】
図5は、セシウム分率の関数としての、ガラス上のCsInバッファー層の光学的透過率の測定を示す。バッファー層中のそれぞれのセシウム含量を図中に示す。最下部の曲線は参照測定としてのセシウムを含まない硫化インジウムバッファー層を示す。
【0078】
図5において、セシウム含量の増大とともに透過率増大の始まりが短波長側に移行していることが明確に分かる。これはバンドギャップの拡大によるものである。全体として、セシウム含量の増大とともに透過率の改善が観察される。
【0079】
図6は、In:CsClバッファー層(左)とIn:NaClバッファー層(右)を有する薄膜太陽電池モジュールの効率の比較を示す。明らかに、セシウム含有硫化インジウム半導体材料を含むバッファー層について、ナトリウム含有硫化インジウム半導体材料を含むバッファー層よりも明確に高い効率が得られる。
【0080】
図7に、関連する短絡電流Isc(mA/cm)を示す。セシウム含有硫化インジウム半導体材料を含むバッファー層を有する太陽電池について、ナトリウム含有硫化インジウム半導体材料を含むバッファー層に比べて短絡電流の顕著な増大が観察される。即ち、バッファー層にCsClを導入することにより、透過率が改善される。
【0081】
図8は、A=カリウムまたセシウムであるAInから作られたバッファー層5を製造するためのインライン法の模式図である。基板2はリア電極3および吸収層4とともに第1の供給源8の第1の蒸気ビーム11を通して、第2の供給源9の第2の蒸気ビーム12を通して輸送される。輸送方向は参照符号10として矢印で示している。模式的に示したように、2つの供給源8、9の蒸気ビーム11、12は部分的に重なっている。
【0082】
式KInまたはCsInの半導体材料を製造するための出発材料として、カリウム化合物またはセシウム化合物および硫化インジウムを用いることができる。したがって、第1の供給源8はカリウムおよび/またはセシウムの供給源8であり、第2の供給源9は硫化インジウムの供給源である。たとえば、カリウムまたはセシウムとカルコゲンである硫黄との化合物、特にKSまたはCsSを用いることができる。あるいは、カリウムまたはセシウムのハロゲン塩、たとえばフッ化カリウム(KF)もしくはフッ化セシウム(CsF)、塩化カリウム(KCl)もしくは塩化セシウム(CsCl)、または相当する臭化物またはヨウ化物を用いることができる。これにより、特に製造環境において比較的有害性が低いこれらの材料を容易に取り扱うことができるという利点が得られる。このようにして、吸収層4はカリウムまたはセシウムのハロゲンまたは硫化物と硫化インジウムが混合された薄膜で被覆される。2つの供給源8、9は、たとえばそれからそれぞれの物質が熱蒸発する流出セルである。あるいは、カリウムまたはセシウムとインジウムおよび硫黄のモル分率の必要な比が得られる限り、蒸気ビーム11、12を発生する他の任意の形態がバッファー層5を蒸着するために適している。代替の供給源は、たとえば線状蒸発器のボートまたは電子ビーム蒸発器のるつぼである。カリウム化合物またはセシウム化合物は硫化インジウムより前に吸収層4の上に蒸着されるので、界面の電気的不動化が得られ、それにより太陽電池の効率が改善される。
【0083】
あるいは、本発明の方法の性能のために、カリウムまたはセシウムの1つまたは複数の供給源8および硫化インジウムの1つまたは複数の供給源9を一次元的または二次元的に交互に配置してもよく、それにより、吸収層4の上に、
・2つ以上のカリウムまたはセシウムの層が1つまたは複数の硫化インジウム層と交互に蒸着され、または
・2つ以上の硫化インジウムの層が1つまたは複数のカリウムまたはセシウムの層と交互に蒸着される。即ち、極めて均一なバッファー層5を製造することができ、それにより太陽電池の効率が増大する。効率をさらに改善するために界面を電気的に不動態化するため、カリウムまたはセシウムの層を吸収層4の上の最初の層として適用することが特に有利である。
【0084】
あるいは、式KInの半導体材料を製造するための出発材料として少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物、たとえばKInS、KIn、KIn、KIn、および/またはKInのみを用いることが可能であり、また式CsInの半導体材料を製造するための出発材料として少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物、たとえばCsInS、CsIn、CsIn、CsIn、および/またはCsInのみを用いることが可能である。ここで硫化インジウムの使用はなくてもよい。したがって、第1の供給源8は三元カリウムインジウム硫黄化合物の供給源であり、第2の供給源9は三元セシウムインジウム硫黄化合物の供給源である。第1の供給源8が第1の三元カリウムインジウム硫黄化合物の供給源であり、第2の供給源9がこれとは異なる第2の三元カリウムインジウム硫黄化合物の供給源であることも可能である。同様に、第1の供給源8が第1の三元セシウムインジウム硫黄化合物の供給源であり、第2の供給源9がこれとは異なる第2の三元セシウムインジウム硫黄化合物の供給源であることも可能である。それぞれの場合に、3つ以上の供給源8、9を用いることも考えられる。既に述べたように、三元カリウムインジウム硫黄化合物ならびに三元セシウムインジウム硫黄化合物を用いることによって、製造技術上の顕著な利点がもたらされる。2つの供給源が同一の三元カリウムインジウム硫黄化合物または同一の三元セシウムインジウム硫黄化合物を含むことが考えられる。ただ1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物またはただ1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物を含むただ1つの供給源8が存在することも考えられる。
【0085】
図9は、回転法の例を用いた本発明の方法の代替の実施形態を示す。基板2はリア電極3および吸収層4とともに、回転可能な試料キャリア13の上に、たとえば試料カルーセルの上に配置される。交互に配置されたカリウムまたはセシウムの供給源8および硫化インジウムの供給源9が、試料キャリア13の下に設置されている。バッファー層5の蒸着の間に、試料キャリア13が回転する。したがって、基板2は蒸気ビーム11、12の中に移動して被覆される。
【0086】
回転可能な試料キャリア13の上の回転する基板2を用いる実験室プロセスと基板2が直線的に供給される工業的なインライン法との両方において、供給源8、9の蒸発速度は、カリウムおよび/またはセシウムの分率が変動し、それによりバッファー層5においてカリウムおよび/またはセシウムの勾配が発生するように選択することができる。
【0087】
あるいは、図9の供給源8、9に関して、第1の供給源8は三元カリウムインジウム硫黄化合物または三元セシウムインジウム硫黄化合物の供給源であってよく、第2の供給源9は三元カリウムインジウム硫黄化合物または三元セシウムインジウム硫黄化合物の供給源であってよい。
【0088】
上の議論から、薄膜太陽電池において以前用いられたCdSバッファー層の欠点は本発明によって克服でき、これによって製造された太陽電池の効率および安定性も極めて良いか、より良いことが明らかになった。これはカリウムまたはセシウムを含む硫化インジウムバッファー層によって達成できた。カリウムまたはセシウムの導入によって様々な結晶構造が形成され、それにより層が成長する間に細かい結晶層が生じる。さらに、原子半径が比較的大きいので硫化インジウムの結晶構造の形成が妨げられ、それにより結晶性も低下する。カリウムおよびセシウムのイオン半径はナトリウムに比べて大きく、それにより拡散傾向が低減する。カリウムおよびセシウムによって、硫化インジウムバッファー層の光学的バンドギャップを拡大させることができる。ナトリウム含有硫化インジウムバッファー層に比べて、バンド適合化の改善、光吸収の低減、ならびに短絡電流の顕著な増大および透過率の改善、ならびに全体としての効率の向上が得られる。同時に、製造方法は経済的、効果的で、環境上安全である。
【0089】
本発明の層系を用いて、従来のCdSバッファー層を有する太陽電池に匹敵する太陽電池特性を得ることができることが示された。本発明の構造によって、16%までの極めて高い効率を得ることができた。これは当業者に予測できず、驚くべきことであった。
【符号の説明】
【0090】
1 層系
2 基板
3 リア電極
4 吸収層
5 第1のバッファー層
6 第2のバッファー層
7 フロント電極
8 第1の供給源
9 第2の供給源
10 輸送方向
11 第1の蒸気ビーム
12 第2の蒸気ビーム
13 試料キャリア
100 薄膜太陽電池
図1
図2
図3
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図8
図9