【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は本発明により、請求項1に記載した層系によって達成される。本発明の有利な実施形態は従属請求項に示されている。
【0011】
本発明の層系はカルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層を含む。本発明の有利な実施形態において、カルコゲナイド化合物半導体は式Cu(In,Ga,Al)(S,Se)
2、特にCuInSe
2、CuInS
2、Cu(In,Ga)Se
2、またはCu(In,Ga)(S,Se)
2の黄銅鉱型の半導体である。本発明の別の有利な実施形態において、カルコゲナイド化合物半導体は式Cu
2ZnSn(S,Se)
4、特にCu
2ZnSnS
4の黄錫亜鉛鉱/黄錫鉱型の半導体である。上述の式において括弧内の元素は単独で、または組み合わせで存在し得る。
【0012】
層系は吸収層の上に配置されたバッファー層をさらに含む。バッファー層はインジウム(In)、硫黄(S)、ならびに、カリウム(K)およびセシウム(Cs)からなる群から選択された少なくとも1つの元素を有する半導体材料を含む。即ち、元素カリウムおよびセシウムはそれぞれの場合においてバッファー層中に単独で、または組み合わせで含まれ得る。バッファー層中に含まれる半導体材料は式A
xIn
yS
zと表され、ここでA=Kおよび/またはCsであり、パラメーターx、y、zの値は式で表される半導体材料中のそれぞれの物質の相対的分率を示す。式に述べた全ての物質中の物質の相対的分率(原子%)は、式中に示した全てのパラメーターの値の合計(x+y+z)に対する、関連するパラメーター(xまたはyまたはz)の値の比から得られる。A=KまたはA=Csの場合には、パラメーターxの値は、式に示した物質中のKまたはCsの相対的分率を示す。たとえば、式KIn
2S
3は、式に示した物質中のカリウムの相対的分率が1/6であることを示し、これは含量約17原子%に相当する。インジウムは式に示した物質中の相対的分率2/6で存在し、含量約33原子%に相当する。硫黄は式に示した物質中の相対的分率3/6で存在し、含量50原子%に相当する。ここに述べなかった元素、特に不純物も、バッファー層の半導体材料中に含まれ得ることが理解される。即ち、物質の相対的分率の表示は式に述べた物質のみを示す。A=KおよびCsの場合、即ち半導体材料がKおよびCsを組み合わせで含む場合には、パラメーターxの値は式の述べた物質中のKおよびCsの全体の相対的分率を示す。具体的な表現において、式に示した全ての物質中のKおよびCsの全体の相対的分率(原子%で表した全体の原子分率)は、パラメーターx、y、およびzの値の合計に対するパラメーターxの値の比(即ちx/(x+y+z))から得られる。
【0013】
バッファー層中の元素は、それぞれの場合において異なった酸化状態で存在することができるので、明白に別の指示がない限り、以下において元素名によって一様に全ての酸化状態を示す。たとえば、名称「カリウム」はカリウム元素およびカリウムイオン、ならびに化合物中のカリウムを意味する。
【0014】
本発明の層系の1つの実施形態において、バッファー層はカリウムのみを含む(セシウムを含まない。)式A
xIn
yS
zの半導体材料を含む。本発明の層系の別の実施形態において、バッファー層はセシウムのみを含む(カリウムを含まない。)式A
xIn
yS
zの半導体材料を含む。本発明の層系の別の実施形態において、バッファー層は式A
xIn
yS
zの半導体材料を含み、半導体材料はカリウムとセシウムの両方を含む。
【0015】
本発明者らの研究によって驚くべきことに示されたように、硫化インジウム含有バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムによって、太陽電池の効率を明白に増大させることができる。これに束縛されるわけではないが、効率が増大した理由は、カリウムまたはセシウムによって異なった結晶構造が形成され、それにより層の成長の間にカリウムなしまたはセシウムなしの硫化インジウムバッファー層に比べてより細かな結晶層が得られたことであると、今のところ推定される。カリウムまたはセシウムの原子半径が比較的大きいために硫化インジウムの結晶構造の形成が妨害されること、およびそれにより結晶性が低下することも推定される。その結果、吸収層からバッファー層への元素、たとえば銅の内向きの拡散が低減し、それにより太陽電池の効率が増大するという事実がある。
【0016】
さらに、硫化インジウム含有バッファー層中にカリウムおよび/またはセシウムを導入することによって、バッファー層のバンドギャップを拡大することができる。このことは、吸収層とバッファー層の界面におけるバンドの適合化およびバッファー層における光の吸収の低減の両方に有利である。本発明者らがさらに観察できたように、硫化インジウム含有バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムは比較的拡散し難く、その結果、バッファー層から吸収層には少ない割合しか拡散しない。したがって、それ以外の場合はいわゆるP1構造上で進展し、太陽電池モジュールの効率を制限し、微小光に対する応答を低下させる可能性がある短絡(シャント)経路を避けることができるという利点がある。これにより、太陽電池モジュールの透過率を改善し、ひいては効率を改善するために、バッファー層におけるカリウムおよび/またはセシウムの分率を増大させてバンドギャップをさらに拡大する可能性が開ける。
【0017】
本発明によれば、バッファー層はA=Kおよび/またはCsとして下記の組成の式A
xIn
yS
zの半導体材料を含む。
0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および
0.30≦y/(y+z)≦0.45。有利には以下の組成が存在する。0.02≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45;または0.03≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45;または0.04≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45。これらの範囲において、太陽電池の効率の顕著な改善が有利に得られる。
【0018】
本発明の層系の有利な実施形態において、バッファー層はA=Kおよび/またはCsとして下記の組成の式A
xIn
yS
zの半導体材料を含む。
0.05≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45。これらの範囲において、太陽電池の効率の特に高度な改善が有利に得られる。特に有利には、半導体材料は下記の組成を有する。
0.05≦x/(x+y+z)≦0.20および0.30≦y/(y+z)≦0.45。これらの値について、特に高い効率を測定することができた。
【0019】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層は0.05≦x/(x+y+z)≦0.15および0.35≦y/(y+z)≦0.45として式K
xIn
yS
zの硫化カリウムインジウム半導体材料を含む。これらの値について、特に高い効率を測定することができた。
【0020】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層は0.05≦x/(x+y+z)≦0.12および0.35≦y/(y+z)≦0.45として式Cs
xIn
yS
zの硫化セシウムインジウム半導体材料を含む。これらの値について、特に高い効率を測定することができた。
【0021】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層はフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)からなる群から特に選択される少なくとも1つのハロゲンを有する。有利には、バッファー層のハロゲン含量はバッファー層のアルカリ含量に相当し、これはたとえばハロゲン化合物としてのカリウムまたはセシウムの導入との化学量論に起因する。本出願人の研究によって示されたように、太陽電池の効率をさらに改善することができるようなバッファー層の光学的バンドギャップはハロゲンによってさらに拡大することができる。
【0022】
本発明の別の有利な実施形態において、層系は上述のように実装され、「第1のバッファー層」と称されるA
xIn
yS
z含有バッファー層および第2のバッファー層を含み、第2のバッファー層は第1のバッファー層の上に配置されている。第2のバッファー層は好ましくは非ドープ酸化亜鉛(ZnO)および/または非ドープ酸化亜鉛マグネシウム(ZnMgO)を含む。この構造により、特に効率の高い太陽電池を製造することができる。
【0023】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、(第1の)バッファー層は亜鉛(Zn)を含み、亜鉛含量はバッファー層の元素に対して最大で15原子%である。好ましくは、第1のバッファー層の亜鉛含量は第2のバッファー層まで増大する。
【0024】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層の層厚は5nm−150nmの範囲、特に15nm−60nmの範囲である。
【0025】
本発明の層系の別の有利な実施形態において、バッファー層はバッファー層のバンドギャップが2電子ボルト(eV)−2.8電子ボルト(eV)の範囲に存在するように実装される。これにより、特に高い効率を有する太陽電池を製造することができる。
【0026】
別の有利な実施形態において、本発明のバッファー層は10原子%以下のモル分率の銅を含む。バッファー層のバンドギャップは銅によって低減されるので、吸収層から大量の銅が内向きに拡散することは不利である。その結果、バッファー層における光の吸収が増大し、それにより効率が低下する。本発明者の研究が示したように、バッファー層においてカリウムおよび/またはセシウムを用いることにより、吸収層からバッファー層への銅の内向きの拡散を有利に阻止することができる。バッファー層中の銅のモル分率を10原子%以下にすることによって、高い効率の太陽電池を確保することができる。
【0027】
一般に、バッファー層はAをカリウム(K)および/またはセシウム(Cs)として、0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45である式A
xIn
yS
zの半導体材料と、該半導体材料とは異なる1つまたは複数の他の成分(不純物)からなる(またはこれから作られる)。本発明の有利な実施形態において、バッファー層は実質的に上述の半導体材料から作られる。これは、上述の半導体材料と異なるバッファー層の成分(不純物)の分率は無視できることを意味している。
【0028】
バッファー層の半導体材料の分子式の元素に基づかない場合には、物質(不純物)のモル分率はバッファー層中の全ての物質の物質量の合計に対する(即ち、バッファー層中の半導体材料および不純物に対する)この物質の物質量の分率を原子%で表している。
【0029】
バッファー層が上述の半導体材料および該半導体材料とは異なる成分からなるように、バッファー層について述べた半導体材料とは異なるバッファー層の成分(不純物)が無視できない分率を有することがあり得る。この場合には、Aがカリウム(K)および/またはセシウム(Cs)であって0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45である式A
xIn
yS
zの半導体材料のバッファー層中における百分率(原子%)(即ち、半導体材料の元素のそれぞれの百分率(原子%)の合計)は、少なくとも75%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%、さらにより好ましくは少なくとも95%、最も好ましくは少なくとも99%であることが有利である。即ちバッファー層は少なくとも75%の上述の半導体材料および最大25%の該半導体材料とは異なる成分、好ましくは少なくとも80%の上述の半導体材料および最大20%の該半導体材料とは異なる成分、より好ましくは少なくとも85%の上述の半導体材料および最大15%の該半導体材料とは異なる成分、さらにより好ましくは少なくとも90%の上述の半導体材料および最大10%の該半導体材料とは異なる成分、さらにより好ましくは少なくとも95%の上述の半導体材料および最大5%の該半導体材料とは異なる成分、最も好ましくは少なくとも99%の上述の半導体材料および最大1%の該半導体材料とは異なる成分からなる(全てのデータは原子%である。)。
【0030】
本発明の特に有利な実施形態において、バッファー層中の全ての不純物(即ち、Aがカリウム(K)および/またはセシウム(Cs)であって0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45である分子式A
xIn
yS
zによる半導体材料と異なる全ての物質)のモル分率の合計は、最大25原子%、好ましくは最大20原子%、より好ましくは最大15原子%、さらにより好ましくは最大10原子%、さらにより好ましくは最大5原子%、最も好ましくは最大1原子%である。
【0031】
本発明の層構造の有利な実施形態において、バッファー層はカリウムおよび/またはセシウム、インジウム、ならびに硫化物(ならびにカリウムまたはセシウムがハロゲン化合物に蒸着された場合に、おそらくハロゲン、たとえば塩素)以外の実質的な分率の元素を含まない。このことは、バッファー層がたとえば炭素等の他の元素を含まず、製造技術の観点から避けられない最大でも1原子%以下のモル分率でしか他の元素を含まないことを意味する。これにより、高い効率を保証することが可能である。
【0032】
本発明の層系において、バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率は一定の深さプロファイルを有し得る。本発明の文脈において、「深さプロファイル」は層構造の層に直交する方向、即ち層構造の個別の層厚に平行な方向を表す。あるいは、バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率は一定でない深さプロファイルを有し得る。たとえば、バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率は、吸収層に近い表面から吸収層から遠いバッファー層の表面まで低下する勾配を有する。バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率が、吸収層に近い表面から吸収層から遠いバッファー層の表面まで上昇する勾配を有することも同様に可能である。バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率が、吸収層に近い表面から吸収層から遠いバッファー層の表面まで初めに低下し、ついで再び上昇する勾配を有すること、即ち2つの表面の間で最小値を有することも同様に可能である。さらに、バッファー層中のカリウムおよび/またはセシウムの分率が、吸収層に近い表面から吸収層から遠いバッファー層の表面まで初めに上昇し、ついで再び低下する勾配を有すること、即ち2つの表面の間で最大値を有することも可能である。全バッファー層中の個別の元素のモル分率は本発明の特許請求の範囲に含まれる。一定でない深さプロファイルは、たとえば気相蒸着速度を変化させることによって製造できる。
【0033】
本発明は、基板、基板の上に配置されたリア電極、上述のように実装され、リア電極の上に配置された層系、および層系の上に配置されたフロント電極を含む薄膜太陽電池にさらに拡張される。基板はたとえば金属、ガラス、プラスチック、またはセラミック基板であり、ガラスが好ましい。しかし、他の透明なキャリア材料、特にプラスチックも用いることができる。リア電極は有利にはモリブデン(Mo)または他の金属を含む。リア電極の有利な実施形態において、リア電極は吸収層に隣接するモリブデンの副層およびモリブデンの副層に隣接する窒化シリコンの副層(SiN)を有する。そのようなリア電極は、たとえばEP1356528A1によって公知である。フロント電極は好ましくは透明な導電性酸化物(TCO)、特に好ましくはアルミニウム、ガリウム、またはホウ素ドープ酸化亜鉛および/または酸化インジウムスズ(ITO)を含む。
【0034】
本発明の薄膜太陽電池の有利な実施形態において、バッファー層とフロント電極との間に第2のバッファー層が配置される。第2のバッファー層は好ましくは非ドープ酸化亜鉛および/または非ドープ酸化亜鉛マグネシウムを含む。
【0035】
本発明は上述のように実装された本発明の層系を製造する方法にさらに拡張される。
【0036】
本方法は、上述のように実装され、カルコゲナイド化合物半導体を含む吸収層が調製されるステップを含む。好都合には、吸収層はRTP(「急速熱処理」)プロセスによって、リア電極を有する基板の上に適用される。Cu(In,Ga)(S,Se)
2吸収層については、リア電極の上に前駆体層が最初に蒸着される。前駆体層は銅、インジウム、および/またはガリウム元素を含み、これらはスパッタリングによって適用される。さらに、前駆体層は元素状セレンおよび/または元素状硫黄を含み、これらは熱蒸発によって適用される。これらのプロセスの間、元素が実質的に未反応のままであるように、基板の温度は100℃未満である。ついで、この前駆体層が硫黄含有雰囲気中および/またはセレン含有雰囲気中で急速熱処理によって反応し、Cu(In,Ga)(S,Se)
2黄銅鉱半導体を形成する。
【0037】
本方法はバッファー層が吸収層の上に配置され、バッファー層がA
xIn
yS
zを含み、Aはカリウムおよび/またはセシウムであるステップをさらに含む。バッファー層は上述の層系のバッファー層に相当して実装される。特に、式A
xIn
yS
zの半導体材料を有し、0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45であるバッファー層が製造される。
【0038】
原則としてバッファー層の製造のためには、カリウムまたはセシウムの分率と硫化インジウムの分率との比が制御できる全ての化学的、物理的蒸着法が好適である。有利には、本発明のバッファー層は原子層蒸着(ALD)、イオン層ガス蒸着(ILGAR)、噴霧熱分解、化学気相蒸着(CVD)、または物理気相蒸着(PVD)によって吸収層に適用される。本発明のバッファー層は好ましくはスパッタリング(陰極スパッタリング)、熱蒸発、または電子線蒸発によって、特に好ましくはカリウム(好ましくはハロゲン化カリウム化合物の形態で)および/またはセシウム(好ましくはハロゲン化セシウム化合物の形態で)ならびに硫化インジウムの個別の供給源から蒸着される。硫化インジウムはインジウムおよび硫黄の別々の供給源から、またはIn
2S
3化合物半導体材料を含む1つの供給源から蒸発される。硫黄源と組み合わせたその他の硫化インジウム(In
6S
7またはInS)も可能である。
【0039】
特に有利には、本発明のバッファー層は真空法によって蒸着される。真空法には特に、酸素または水酸化物の組み込みが真空下において防止されるという利点がある。バッファー層中の水酸化物成分は、熱および光の影響下における効率の過渡状態に関与していると考えられる。さらに、真空法には湿式化学が不要で標準的な真空コーティング装置を用いることができるという利点がある。
【0040】
本発明の方法の特に有利な実施形態において、バッファー層は少なくとも1つのカリウム化合物および硫化インジウムをベースとして、および/または少なくとも1つのセシウム化合物および硫化インジウムをベースとして製造される。バッファー層を製造するために少なくとも1つのカリウム化合物および硫化インジウムが出発材料(源)として用いられ、および/または少なくとも1つのセシウム化合物および硫化インジウムが出発材料(源)として用いられる。バッファー層が「少なくとも1つのカリウム化合物および硫化インジウムをベースとして、および/または少なくとも1つのセシウム化合物および硫化インジウムをベースとして」製造される処方によって、バッファー層の化学量論が出発材料の成分の化学量論に対して逸脱しない場合と、バッファー層の化学量論が出発材料の成分の化学量論に対して逸脱する場合の両方が含まれる。
【0041】
本発明の方法の特に有利な実施形態において、バッファー層は少なくとも1つのハロゲン化カリウムおよび/または少なくとも1つの二元カリウム化合物、特に硫化カリウム、および/または少なくとも1つの三元カリウム化合物、特に少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物、たとえばKInS
2、KIn
3S
5、KIn
5S
6、KIn
5S
7、および/またはKIn
5S
8、ならびに/あるいは少なくとも1つのハロゲン化セシウムおよび/または少なくとも1つの二元セシウム化合物、特に硫化セシウム、および/または少なくとも1つの三元セシウム化合物、特に少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物、たとえばCsInS
2、CsIn
3S
5、CsIn
5S
6、CsIn
5S
7、および/またはCsIn
5S
8をベースとして製造される。ここ以降、「三元カリウム化合物」という用語は、カリウム(K)および他の2つの元素からなる三元化学化合物を意味する。特に、「三元インジウム硫黄化合物」は、元素カリウム(K)、インジウム(In)、および硫黄(S)からなる三元化学化合物である。同様に、「三元セシウム化合物」という用語は、セシウム(Cs)および他の2つの元素からなる三元化学化合物を意味する。特に、「三元セシウムインジウム硫黄化合物」は、元素セシウム(K)、インジウム(In)、および硫黄(S)からなる三元化学化合物である。元素はそれぞれの場合において種々の酸化状態で存在することができる。
【0042】
バッファー層を製造するために三元カリウム化合物、特に三元カリウムインジウム硫黄化合物、ならびに三元セシウム化合物、特に三元セシウムインジウム硫黄化合物を用いることによって、プロセス技術上の大きな利点がもたらされる。1つの重要な利点は、吸湿性、毒性、および可燃性に関して三元化合物が単純な取扱い性を有していることである。
【0043】
本発明の方法の1つの有利な実施形態によれば、バッファー層は少なくとも1つのカリウム化合物と硫化インジウムの蒸着によって、および/または少なくとも1つのセシウム化合物と硫化インジウムの蒸着によって製造される。この場合、バッファー層の化学量論は出発材料の成分の化学量論に相当する。
【0044】
有利な実施形態において、カリウム化合物および/またはセシウム化合物は1つまたは複数の第1の供給源から蒸発され、硫化インジウム(In
2S
3)は別の第2の供給源から蒸発される。
【0045】
蒸着源の配置は、たとえば供給源の蒸気ビームが少なくとも部分的に、特に完全に重なるように設計される。この手段によって、極めて均一なバッファー層を生成することができ、それにより特に高い効率が得られる。本発明の文脈において、「蒸気ビーム」は、蒸着速度および均一性に関して、蒸発した材料の基材上への蒸着に技術的に適した供給源の出口の前の領域を意味する。供給源は、たとえば熱蒸発器、抵抗加熱器、電子ビーム蒸発器、または線状蒸発器の流出セル、ボートまたはるつぼである。
【0046】
代替の配置において、供給源の蒸気ビームは部分的にのみ重なるか、全く重ならない。好ましくは、カリウム化合物および/またはセシウム化合物は硫化インジウムの前に蒸着され、それにより吸収層の電気的界面不動態化が特に有利に得られる。これにより電荷キャリアの耐用年数が増大し、太陽電池の効率が改善される。
【0047】
本発明の方法の有利な実施形態において、吸収層はインライン法または回転法においてカリウム化合物および/またはセシウム化合物の蒸気ビームならびに硫化インジウムの蒸気ビームまたはインジウムおよび硫黄の蒸気ビームを通して輸送される。蒸気ビームは完全にまたは部分的に重なっている。
【0048】
本発明は上述のように実装される本発明の層系を製造するための代替の方法にさらに拡張される。
【0049】
本方法は、カルコゲナイド化合物半導体を含み、上述のように実装された吸収層が調製されるステップを含む。このステップに関しては、上記の方法の記述を参照する。本方法は、本発明の上述の層系のバッファー層に相当するバッファー層が吸収層の上に配置されるステップをさらに含む。特に、0.015≦x/(x+y+z)≦0.25および0.30≦y/(y+z)≦0.45である式A
xIn
yS
zの半導体材料を有するバッファー層が製造される。ここでバッファー層は少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物、たとえばKInS
2、KIn
3S
5、KIn
5S
6、KIn
5S
7、および/またはKIn
5S
8をベースとして(のみ)、および/または少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物、たとえばCsInS
2、CsIn
3S
5、CsIn
5S
6、CsIn
5S
7、および/またはCsIn
5S
8をベースとして(のみ)製造されることが重要である。即ち上記の方法とは対照的に、バッファー層は硫化インジウムをベースとして製造されない。たとえばバッファー層の製造のための出発材料として硫化インジウムは用いられない。
【0050】
バッファー層を製造するために三元カリウムインジウム硫黄化合物、ならびに三元セシウムインジウム硫黄化合物を用いることにより、既に述べたように取扱い性、吸湿性、毒性、および可燃性に関するプロセス技術上の大きな利点がもたらされる。さらに、比較的少数の出発材料(最も単純な場合にはただ1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物または1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物)によるバッファー層の製造が可能であり、それにより製造プロセスの複雑さ、したがって層系の製造コストが顕著に低減される。
【0051】
原則として、少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物をベースとして、および/または少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物をベースとしてバッファー層を製造するためには、全ての化学的、物理的蒸着法が適している。有利には、本発明のバッファー層は原子層蒸着(ALD)、イオン層ガス蒸着(ILGAR)、噴霧熱分解、化学気相蒸着(CVD)、または物理気相蒸着(PVD)によって吸収層に適用される。本発明のバッファー層は好ましくはスパッタリング(陰極スパッタリング)、熱蒸発、または電子線蒸発によって蒸着される。本発明のバッファー層は、特に有利には真空法によって蒸着される。真空法には、酸素または水酸化物の組み込みが真空下において防止されるという特別な利点がある。
【0052】
本発明の方法の有利な実施形態によれば、バッファー層は少なくとも1つの三元カリウムインジウム硫黄化合物および/または少なくとも1つの三元セシウムインジウム硫黄化合物の蒸着によって製造される。この場合、元素カリウムおよび/またはセシウムとインジウムおよび硫黄に関するバッファー層の化学量論は出発材料中のこれらの成分の化学量論に相当する。
【0053】
本発明の方法の別の有利な実施形態によれば、ステップb)においてバッファー層は気相から吸収層の上に蒸着されるが、蒸着される材料の少なくとも1つの成分の濃度は、気相、ひいては吸収層の上に蒸着される前の気層における選択的結合により、出発材料(カリウムインジウム硫黄化合物および/またはセシウムインジウム硫黄化合物)中のこの成分の濃度に比べて低減している。即ち、たとえば硫黄成分の濃度は出発材料中の濃度に比べて気相中で低減させることができる。この場合、カリウムおよび/またはセシウム、インジウムおよび硫黄成分に関するバッファー層の化学量論は、出発材料中のこれらの成分の化学量論にはもはや相当していない。ある成分の濃度は気相中において、たとえば、その上に成分が物理的および/または化学的に結合するゲッターエレメントによって低減させることができる。ある成分の濃度を気相において低減させるための種々の手段はそれ自体、たとえば国際特許出願WO2011/104235により当業者には公知であり、そのためここで詳細に取り扱う必要はない。それにより、特に太陽電池の効率をさらに改善するためにバッファー層中のカリウムおよび/またはセシウム、インジウム、および硫黄成分の化学量論を選択的に調整することは有利なことに可能である。
【0054】
たとえば、バッファー層は少なくとも1つのカリウムインジウム硫黄化合物を含む少なくとも1つの第1の供給源および/または少なくとも1つのセシウムインジウム硫黄化合物を含む少なくとも1つの第2の供給源を用いて製造される。蒸着源の配置は、たとえば供給源の蒸気ビームが少なくとも部分的に、特に完全に重なるように設計される。この手段によって、極めて均一なバッファー層を生成することができ、それにより特に高い効率が得られる。本発明の文脈において、「蒸気ビーム」は、蒸着速度および均一性に関して、蒸発した材料の基材上への蒸着に技術的に適した供給源の出口の前の領域を意味する。供給源は、たとえば熱蒸発器、抵抗加熱器、電子ビーム蒸発器、または線状蒸発器の流出セル、ボートまたはるつぼである。代替の配置において、供給源の蒸気ビームは部分的にのみ重なるか、全く重ならない。本発明の方法の有利な実施形態において、吸収層はインライン法または回転法において、1つまたは複数の第1の蒸気ビームおよび/または1つまたは複数の第2の蒸気ビームを通して輸送される。
【0055】
本発明の種々の実施形態は、本発明の範囲から逸脱することなく、単独でまたは任意の組み合わせで、存在することができる。
【0056】
以下、添付した図面を参照して本発明を詳細に説明する。