特許第6510654号(P6510654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510654
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】自律移動体及び信号制御システム
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20060101AFI20190422BHJP
   G08G 1/087 20060101ALI20190422BHJP
   G08G 1/09 20060101ALI20190422BHJP
   G08G 1/16 20060101ALN20190422BHJP
【FI】
   G05D1/02 K
   G08G1/087
   G08G1/09 D
   !G08G1/16 D
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-538077(P2017-538077)
(86)(22)【出願日】2016年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2016075535
(87)【国際公開番号】WO2017038883
(87)【国際公開日】20170309
【審査請求日】2018年2月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-172003(P2015-172003)
(32)【優先日】2015年9月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−187698(JP,A)
【文献】 特開昭57−071098(JP,A)
【文献】 特開2012−200818(JP,A)
【文献】 特開2008−152714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/00−1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩道を含む指定区域内を自由に移動する自律移動体において、
前記指定区域内の外部環境に対して自己の位置を推定すると同時に、平面的又は立体的な前記指定区域の環境地図を作成するSLAM機能部と、
前記SLAM機能部の出力に基づいて、前記自律移動体の走行経路を周囲の物体と接触しないように適宜変更する走行制御部と、
前記走行経路の前方の所定範囲の外界を撮影する撮影部と、
前記撮影部の撮影結果に基づいて、前記指定区間内の歩行者用信号機を認識するとともに、当該歩行者用信号機の信号灯色及び点灯点滅切替えを判定する信号灯色判定部と、
前記歩道を走行中の前記自律移動体が横断歩道に到達した時点で、前記撮影部の撮影結果に基づいて、前記横断歩道の対向側で信号待ちをしている歩行者の数及び位置を認識する歩行者認識部と
を備え、前記走行制御部は、前記歩行者認識部による認識結果に基づき、青色点灯時になる前に歩行者による横断時の混雑度合いを予測し、前記信号灯色判定部による判定結果に基づき、前記歩行者用信号機の信号灯色が赤色から青色に切り替わるタイミングに同期して前記自律移動体を走行開始させながら、当該混雑度合いの予測結果に応じて前記自律移動体を横断開始時から迅速に回避移動させる
ことを特徴とする自律移動体。
【請求項2】
前記自律移動体の周囲の音声を集音しながら前記歩行者の存在や接近状態を認識する音声マイクを備え、
前記走行制御部は、前記自律移動体が横断開始したときに、前記SLAM機能部、前記撮影部及び前記音声マイクの検知結果に基づいて、車両用信号機の赤色点灯を無視して侵入する車両の存在を認識した場合、当該車両が目前を通り過ぎるまで走行を開始せずに停止した後、前記横断歩道を渡り切るまでに時間的余裕がないと判断した場合、前記自律移動体を次の横断開始タイミングまで待機させる
ことを特徴とする請求項1に記載の自律移動体。
【請求項3】
前記走行制御部は、前記自律移動体が前記横断歩道を渡り始めた際に、前記SLAM機能部の出力に基づいて対向側の前記歩行者を認識したとき、当該横断歩道の側縁に近付くように横方向又は斜め方向にずれながら前記自律移動体を進行し、その後当該側縁に沿って走行させる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の自律移動体。
【請求項4】
前記SLAM機能部の出力に基づいて、前記横断歩道にいる複数の前記歩行者の移動方向及び速度をそれぞれ予測する歩行予測部をさらに備え、
前記走行制御部は、前記歩行予測部による予測結果に基づいて、前記自律移動体を前記歩行者同士の隙間に沿って走行させる
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の自律移動体。
【請求項5】
前記走行制御部は、前記自律移動体が前記横断歩道を渡る途中で、走行困難な状況となったとき、前記歩行者用信号機が青色点灯から青色点滅に切り替わった時点で、当該自律移動体を最寄りの前記歩道に退避させる
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の自律移動体。
【請求項6】
前記自律移動体の所定位置に取り付けられ、当該自律移動体の走行前方向及び走行後方向のいずれか一方又は両方に向けて発光可能な方向指示部を備え、
前記走行制御部は、前記自律移動体の走行状態に合わせて、前記方向指示部を所定タイミングで発光させる
ことを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一項に記載の自律移動体。
【請求項7】
前記自律移動体の所定位置に取り付けられたスピーカをさらに備え、
前記走行制御部は、前記方向指示部の発光状態に合わせて前記スピーカから音声を出力させる
ことを特徴とする請求項6に記載の自律移動体。
【請求項8】
歩道を含む指定区域内を自由に移動する自律移動体と連携する信号制御システムにおいて、
前記指定区間内の歩行者用信号機の信号灯色及び点灯点滅切替えを制御する信号灯色制御部と、
前記信号灯色制御部からの信号を送信する信号送信部と
を備え、
前記自律移動体は、
前記指定区域内の外部環境に対して自己の位置を推定すると同時に、平面的又は立体的な前記指定区域の環境地図を作成するSLAM機能部と、
前記SLAM機能部の出力に基づいて、前記自律移動体の走行経路を周囲の物体と接触しないように適宜変更する走行制御部と、
前記信号送信部からの制御信号を受信する信号受信部と、
前記歩道を走行中の前記自律移動体が横断歩道に到達した時点で、前記撮影部の撮影結果に基づいて、前記横断歩道の対向側で信号待ちをしている歩行者の数及び位置を認識する歩行者認識部と
を備え、前記走行制御部は、前記歩行者認識部による認識結果に基づき、青色点灯時になる前に歩行者による横断時の混雑度合いを予測し、前記信号受信部を介して得られた前記信号灯色制御部の制御に基づき、前記歩行者用信号機の信号灯色が赤色から青色に切り替わるタイミングに同期して前記自律移動体を走行開始させながら、当該混雑度合いの予測結果に応じて前記自律移動体を横断開始時から迅速に回避移動させる
ことを特徴とする信号制御システム。
【請求項9】
前記自律移動体に設けられ、当該自律移動体の周囲の音声を集音しながら前記歩行者の存在や接近状態を認識する音声マイクを備え、
前記走行制御部は、前記自律移動体が横断開始したときに、前記SLAM機能部、前記撮影部及び前記音声マイクの検知結果に基づいて、車両用信号機の赤色点灯を無視して侵入する車両の存在を認識した場合、当該車両が目前を通り過ぎるまで走行を開始せずに停止した後、前記横断歩道を渡り切るまでに時間的余裕がないと判断した場合、前記自律移動体を次の横断開始タイミングまで待機させる
ことを特徴とする請求項8に記載の信号制御システム。
【請求項10】
前記走行制御部は、前記自律移動体が前記横断歩道を渡り始めた際に、前記SLAM機能部の出力に基づいて対向側の前記歩行者を認識したとき、当該横断歩道の側縁に近付くように横方向又は斜め方向にずれながら前記自律移動体を進行し、その後当該側縁に沿って走行させる
ことを特徴とする請求項8又は9に記載の信号制御システム。
【請求項11】
前記自律移動体に設けられ、前記SLAM機能部の出力に基づいて、前記横断歩道にいる複数の前記歩行者の移動方向及び速度をそれぞれ予測する歩行予測部をさらに備え、
前記走行制御部は、前記歩行予測部による予測結果に基づいて、前記自律移動体を前記歩行者同士の隙間に沿って走行させる
ことを特徴とする請求項8乃至10のいずれか一項に記載の信号制御システム。
【請求項12】
前記走行制御部は、前記自律移動体が前記横断歩道を渡る途中で、走行困難な状況となったとき、前記歩行者用信号機が青色点灯から青色点滅に切り替わった時点で、当該自律移動体を最寄りの前記歩道に退避させる
ことを特徴とする請求項8乃至11のいずれか一項に記載の信号制御システム。
【請求項13】
前記自律移動体の所定位置に取り付けられ、当該自律移動体の走行前方向及び走行後方向のいずれか一方又は両方に向けて発光可能な方向指示部を備え、
前記走行制御部は、前記自律移動体の走行状態に合わせて、前記方向指示部を所定タイミングで発光させる
ことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか一項に記載の信号制御システム。
【請求項14】
前記自律移動体の所定位置に取り付けられたスピーカをさらに備え、
前記走行制御部は、前記方向指示部の発光状態に合わせて前記スピーカから音声を出力させる
ことを特徴とする請求項13に記載の信号制御システム。
【請求項15】
前記走行制御部は、前記歩行者用信号機が青色点滅に切り替わった時点で、前記信号受信部を介して緊急信号を送信し、
前記信号灯色制御部は、前記信号送信部を介して受信した前記緊急信号に基づいて、前記歩行者用信号機の青色点滅時間を所定時間延長する
ことを特徴とする請求項12に記載の信号制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律移動体及び信号制御システムに関し、特に歩行者と同様に横断歩道を安全に横断する自律移動体及びその自律移動体と連携する信号制御システムに適用して好適なるものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動清掃ロボットなどの自律走行可能なロボットには、外部環境に対して自己の位置を推定すると同時に環境地図を作成するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術が搭載されたものが数多く提案されている。
【0003】
このSLAM技術を用いた自律移動ロボットは、高精度に自己の位置を推定しながら、実空間内に存在する物体の3次元位置を表現する環境地図を動的に生成することにより、自己の移動経路を特定して環境内を自律的に移動するようになされている。
【0004】
数年前から特定地域においては、人間とロボットが共存する社会の実現のための先端的技術の取り組みとして、街中の遊歩道等の実環境を自律移動ロボットに走行させる公開ロボット走行実験が行われている。
【0005】
従来から特許文献1のように、無人移動装置が移動しながら固定障害物や移動障害物を検知し、それらの衝突を回避しながら移動予定経路に沿った移動を再開するようになされたものが提案されている。
【0006】
実際に自律移動ロボットが公道を走行する場合、横断歩道を自律的に渡ることは技術的に非常に難しく、現在の横断歩道の走行手順としては、随伴する操作者が一旦停止させるなど自律移動ロボットのスイッチ等を操作する必要がある。
【0007】
横断歩道の安全確認については、特許文献2のように、横断歩道を含む監視領域内を撮像しながら、信号待ちの歩行者を画像抽出し、そのとき得られる人数や待機時間などの情報に基づいて車両用信号機や歩行者用信号機を制御するようになされたものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−294934号公報
【特許文献2】特開平11−275562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、自律移動ロボットが横断歩道を自律的に渡る場合、単に歩道を走行するのと異なり、車道を走行する自動車と接触や衝突する可能性があり、また横断歩道や車道脇の歩道を歩く歩行者の通行を妨げる可能性もある。
【0010】
このような危険な可能性への対策として、特許文献1のように自律移動ロボットが単に障害物を回避するだけでは不十分であり、特許文献2のように信号機制御系においてカメラ撮影結果による歩行者認識に基づく信号機制御だけでも不十分である。
【0011】
自律移動ロボットを、操作者を随伴させることなく完全に自律的に横断歩道を渡らせるためには、車道を走行する車両及び横断歩道を横断中の歩行者に対して十分な安全性を配慮した対処が強く要求される。
【0012】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、従来よりも格段と高い安全性を確保しながら走行可能な自律移動体及び信号制御システムを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
かかる課題を解決するため本発明においては、歩道を含む指定区域内を自由に移動する自律移動体において、前記指定区域内の外部環境に対して自己の位置を推定すると同時に、平面的又は立体的な前記指定区域の環境地図を作成するSLAM機能部と、前記SLAM機能部の出力に基づいて、前記自律移動体の走行経路を周囲の物体と接触しないように適宜変更する走行制御部と、前記走行経路の前方の所定範囲の外界を撮影する撮影部と、前記撮影部の撮影結果に基づいて、前記指定区間内の歩行者用信号機を認識するとともに、当該歩行者用信号機の信号灯色及び点灯点滅切替えを判定する信号灯色判定部と、前記歩道を走行中の前記自律移動体が横断歩道に到達した時点で、前記撮影部の撮影結果に基づいて、前記横断歩道の対向側で信号待ちをしている歩行者の数及び位置を認識する歩行者認識部とを備え、前記走行制御部は、前記歩行者認識部による認識結果に基づき、青色点灯時になる前に歩行者による横断時の混雑度合いを予測し、前記信号灯色判定部による判定結果に基づき、前記歩行者用信号機の信号灯色が赤色から青色に切り替わるタイミングに同期して前記自律移動体を走行開始させながら、当該混雑度合いの予測結果に応じて前記自律移動体を横断開始時から迅速に回避移動させるようにした。
【0014】
以上の自律移動体によれば、自律移動体が歩道から横断歩道を渡る際に、時間的に十分な余裕をもたせた横断開始タイミングに合わせることよって、青色点灯時間内に渡り切れなくなるおそれを未然に防止することができる。
【0015】
また本発明においては、歩道を含む指定区域内を自由に移動する自律移動体と連携する信号制御システムにおいて、前記指定区間内の歩行者用信号機の信号灯色及び点灯点滅切替えを制御する信号灯色制御部と、前記信号灯色制御部からの信号を送信する信号送信部とを備え、前記自律移動体は、前記指定区域内の外部環境に対して自己の位置を推定すると同時に、平面的又は立体的な前記指定区域の環境地図を作成するSLAM機能部と、前記SLAM機能部の出力に基づいて、前記自律移動体の走行経路を周囲の物体と接触しないように適宜変更する走行制御部と、前記信号送信部からの制御信号を受信する信号受信部と、前記歩道を走行中の前記自律移動体が横断歩道に到達した時点で、前記撮影部の撮影結果に基づいて、前記横断歩道の対向側で信号待ちをしている歩行者の数及び位置を認識する歩行者認識部とを備え、前記走行制御部は、前記歩行者認識部による認識結果に基づき、青色点灯時になる前に歩行者による横断時の混雑度合いを予測し、前記信号受信部を介して得られた前記信号灯色制御部の制御に基づき、前記歩行者用信号機の信号灯色が赤色から青色に切り替わるタイミングに同期して前記自律移動体を走行開始させながら、当該混雑度合いの予測結果に応じて前記自律移動体を横断開始時から迅速に回避移動させるようにした。
【0016】
以上の信号制御システムによれば、自律移動体が歩道から横断歩道を渡る際に、時間的に十分な余裕をもたせた横断開始タイミングに設定することよって、青色点灯時間内に渡り切れなくなるおそれを未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来よりも格段と高い安全性を確保しながら屋外の歩道等を走行可能な自律移動体及び信号制御システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る自律移動ロボット及び信号制御システムの全体構成を示す外観図である。
図2】同発明の実施形態に係る自律移動ロボットの外観構成を示す斜視図及び側面図である。
図3】同実施形態にかかる自律移動ロボットの機能構成を示すブロック図である。
図4】同実施形態にかかる横断時の歩行者衝突回避機能の説明に供する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0020】
(1)信号制御システムの概略構成
図1(A)及び(B)は本発明の信号制御システム1を示し、車道2を横切るように敷設された横断歩道3を基準として、当該横断歩道3の両端の路側に設置された支柱上部に、歩行者用信号機4(4A、4B)が互いに対面するように設置されている。
【0021】
信号制御部5は、該当都市の交通管制システム(図示せず)からの系統制御に従い、特定の交差点や道路における歩行者用信号機4(4A、4B)及びこれに対応する車両用信号機6(6A、6B)の信号表示をそれぞれ制御する。
【0022】
本発明における信号制御部5は、自律移動ロボット10から無線通信を介して要求信号を受信すると、当該要求信号に応じて現在の歩行者用信号機4の表示状態(信号の灯色や、その点灯開始時間及び点灯終了時間、青信号の場合には点滅開始時間及び点滅終了時間など)をリアルタイムで送信する。
【0023】
また本発明における信号制御部5は、自律移動ロボット10から無線通信を介して緊急信号を受信すると、当該緊急信号に応じて歩行者用信号機4の青点滅時間を調整する。
【0024】
本発明における自律移動ロボット10は、自律的に自由に移動することができ、一般的な歩道7を走行するのみならず、目的地を目指して車道2を横切る必要がある場合には、最寄りの横断歩道3まで到達し、当該横断歩道3を交通ルールを守りながら渡り切るようになされている。
【0025】
(2)自律移動ロボットの構成
自律移動ロボット10は、図2(A)から(C)に示すように、自律的又は外部操作に応じて自走可能な二輪駆動型移動体であり、駆動二輪が直径をなすように取り付けられた略円盤状の走行ベース部11と、その平面上部から植立した略コ字状のセンサ保持部12とを備える。
【0026】
走行ベース部11は、本体下部に設けられ、前後方向中央位置の左右に設けられた一対の駆動輪13a、13bと、前後にそれぞれ設けられて自律移動ロボット10の走行に応じて揺動自在な前キャスタ14a及び後キャスタ14bとを備える。左右の駆動輪13a、13bはそれぞれ駆動モータ15a、15b(図3)によってそれぞれ独立して回転駆動し、駆動輪13a、13bの前進回転或いは後進回転によって前進及び後進し、駆動輪13a、13bの前進回転速度に差を与えることによって前進しつつ右或いは左に走行する。また、駆動輪13a、13bを互いに逆方向に回転駆動することによって自律移動ロボット10がスピン、即ちその位置で方向転換する。
【0027】
走行ベース部11における前キャスタ14aより前部位置には、斜め前方方向及び左右方向の障害物の検知を行うレーザレンジセンサ20が設けられている。またセンサ保持部12の上部中央には、3次元スキャン可能なRGB−Dセンサ21及び3D距離画像センサ22が設けられている。
【0028】
具体的にレーザレンジセンサ20は、設置位置から見た対象物(障害物)に照射し、その反射光を受光して距離を算出する。これを一定角度間隔で距離を測定することにより、平面上に扇状の距離情報を最大30m、角度240度の範囲で得ることができる。
【0029】
またRGB−Dセンサ21は、RGBカラーカメラ機能に加えて、当該カメラから見た対象物(障害物)までの距離を計測できる深度センサを有し、対象物の3次元スキャンを行うことができる。この深度センサは赤外線センサからなり、構造化光の単一のパターンを対象物に投影した状態で対象を撮影し、そのパラメータを用いて三角測量により画像上の各点のデプスを算出する。
【0030】
例えばRGB−Dセンサ21として、例えばKinect(マイクロソフト社の商標名)を適用した場合、水平視野57度、垂直視野43度、センサ範囲は1.2m〜3.5mの範囲を撮影することが可能であり、RGB画像は640×480、Depth(深度)画像は320×240画素で共に30フレーム/秒で取得できる。
【0031】
RGB−Dセンサ21をセンサ保持部12の上部中央に設置したのは、ほぼ床面に近い走行ベース部11では垂直視野が確保できないためであり、床面から0.6m〜1.8mの高さ確保が必要となる。
【0032】
3D距離画像センサ22は、LEDパルスを照射し、対象物からの反射光の到達時間を画素単位で計測すると同時に取得した画像情報を重畳することにより、対象物までの距離情報を画素単位で算出する。この3D距離画像センサ22は、上述のRGB−Dセンサ21よりも高精度の検出能力を有し、かつレーザレンジセンサ20よりも視野角が広いことから、屋外向けの補完センサとして必要である。
【0033】
3D距離画像センサ22として、例えばピクセルソレイユ(日本信号株式会社の商品名)を適用した場合、水平視野72度、垂直視野72度、センサ範囲は0.3m〜4.0mの範囲を撮影することが可能である。
【0034】
さらに自律移動ロボット10のセンサ保持部12の中央上部には、撮像カメラ23、集音マイク24及びスピーカ25が搭載されており、周囲環境の映像を取得すると同時に音声を集音し、必要に応じて発話や警告音を発するようになされている。
【0035】
これに加えて、自律移動ロボット10のセンサ保持部12における駆動輪13a、13bの近傍には、車両中心面に対して左右対称の位置関係となる一対の方向指示器26a、26bが取り付けられている。この方向指示器26は、発光色を切り替えて点滅可能な単数又は複数のLEDからなり、自律移動ロボット10の走行状態(走行時の進路方向及びその変化、さらには停止時を含む。)に合わせて点灯点滅するようになされている。
【0036】
この方向指示器26a、26bは、対となる左右の発光部位の間隔幅が30cm以上で、かつ地面からの高さ位置が35cm以上となるようにセンサ保持部12の所定位置に取り付けられており、走行前方向及び走行後方向に位置する歩行者に対して点滅発光により方向指示性を視認させ得るようになされている。
【0037】
なお方向指示器26a、26bは、走行ベース部11の直径幅以内に収まる範囲であれば、センサ保持部12の所定位置に対してそれぞれ開閉自在に収納可能な構造にしておき、横断歩道走行時のみ発光部位を左右外側に突出させるようにしても良い。
【0038】
また方向指示器26a、26bは、自律移動ロボット10の走行前方向または走行後方向のいずれか一方のみ発光させるようにしても良く、走行後方向のみ発光させる場合は、対となる左右の発光部位の間隔幅が15cm以上でも良い。
【0039】
さらに方向指示器26a、26bは単一発光体でなくても、マトリクス状に配置された複数の発光体群として構成しても良く、この場合、指示方向に合わせた矢印形状パターンや停止時にはエクスクラメーションマークにて選択的に該当する発光体のみを点灯点滅させながら発光するようにしても良い。この結果、自律移動ロボット10は、従来の点滅による発光パターンでの方向指示のみならず、移動予定の方向を矢印形状の発光表示により歩行者に示しながら走行することが可能となる。
【0040】
(3)自律移動ロボットの内部の回路構成
図3は、自律移動ロボット10に搭載される統括制御部30の構成図である。統括制御部30はマイクロコンピュータを主体として構成され、全体の制御を司る走行制御部31、走行経路情報を記憶する目標走行経路制御部32、駆動系を制御する作動制御部33を備える。
【0041】
走行制御部31は、予め設定された走行経路情報を記憶する目標走行経路記憶部32からの走行経路情報と、レーザレンジセンサ20、RGB−Dセンサ21及び3D距離画像センサ22による各検出信号に基づいて自己位置推定と後述する環境地図の構築を同時に行いながら、走行経路の適否や変更の要否を判断したり、走行障害物の有無を判断する。
【0042】
例えば道路走行中の自律移動ロボット10が道端の縁石などの走行障害物に接触するか否かを判断し、接触する直前に一旦停止して当該利用者の追従方向に走行向きを変更する。走行制御部31は、決定した走行経路情報を作動制御部33に送り、作動制御部33は、該走行経路情報に応じて、左右のモータドライバ34a、34bを制御し、駆動モータa、bの回転を制御する。
【0043】
実際に自律移動ロボット10は、上述したSLAM技術を利用して、横断歩道を含む所定地域内の歩道等の実環境内の走行可能な対象エリアの環境地図を自動的に作成する。
【0044】
具体的には自律移動ロボット10は、レーザレンジセンサ20及び3D距離画像センサ22から得られる対象物との距離情報及び角度情報に基づいて、2次元格子で区切ったグリッド上の局所地図を移動環境を示すエリアとして設定していきながら、所望の対象エリア全体を表す環境地図を作成する。
【0045】
それと同時に自律移動ロボット10の一対の駆動輪13a、13bに対応するエンコーダ(図示せず)から読み出された回転角度に基づいて、自機の走行量を演算し、次の居所地図と現時点までに作成された環境地図とのマッチング及び自機の走行量から自己位置を推定する。
【0046】
また自律移動ロボット10は、信号制御システム1の信号制御部5(図1(B))と無線通信する通信部35を備え、信号制御システム1における信号制御部5から送信される歩行者用信号機4の信号灯色及び点灯点滅切替えを制御するための制御信号を受信する。
【0047】
さらに自律移動ロボット10は、二次電池又はキャパシタからなる比較的大容量の駆動用バッテリ36を内蔵しており、外部との給電台(図示せず)に設けられた給電端子に駆動用バッテリ36の充電端子を導通接続させることにより、商用電源から供給される電力を当該給電端子を介して駆動用バッテリ36に供給して充電することが可能となる。
【0048】
(4)自律移動ロボットによる横断歩道安全進行方法
本発明の自律移動ロボット10は、歩道を走行しながら横断歩道に到達した際、歩行者用信号機4を認識しながら、横断可能時間内でかつ対向する歩行者と接触や衝突をしないように、横断歩道を渡り切るようになされている。
【0049】
(4−1)時間内横断機能
自律移動ロボット10は、歩行者用信号機4を認識しながら、横断開始タイミングを調整する。具体的には、自律移動ロボット10は、横断歩道3の手前で待機状態とした後、歩行者用信号機4が赤色点灯から青色点灯に切り替わるタイミングに同期して走行を開始する。すなわち、自律移動ロボット10は、上述のタイミング以外は、たとえ歩行者用信号機4が青色点灯時であっても、十分に時間的余裕をもって横断できるように必ず停止する。
【0050】
歩行者用信号機4の点灯表示の切り替えタイミングを判断する手法として、第1に、自律移動ロボット10が歩行者用信号機4を撮影範囲に捉えて信号灯色及び点灯点滅切替えを判定する手法と、第2に、信号制御システム1における信号制御部5から無線通信を介して自律移動ロボット10に歩行者用信号機4の信号制御状態を通知する手法とが挙げられる。
【0051】
第1の手法では、自律移動ロボット10は、レーザレンジセンサ20及び撮像カメラ23を用いて歩行者用信号機4を距離(横断歩道幅)及び外観形状(信号機形状)に基づいて認識した後、輝度情報及び色度情報を検出すると同時に信号表示パターンを時系列的に判断することにより、信号灯色や点灯点滅状況及びその切替え状態をリアルタイムで把握する。
【0052】
第2の手法では、信号制御システム1における歩行者用信号機4の表示状態を自律移動ロボット10にリアルタイムで無線通信を介して送信することにより、当該自律移動ロボット10が歩行者用信号機の信号灯色や点灯点滅状況及びその切替え状態を把握する。
【0053】
なお、自律移動ロボット10は、歩行者用信号機4が赤色点灯から青色点灯に切り替わるタイミングに同期して横断開始したときに、レーザレンジセンサ20、撮像カメラ23及び音声マイク24の検知結果に基づいて、車両用信号機6の赤色点灯を無視して進入する車両の存在を認識した場合、当該車両が目前を通り過ぎるまで走行を開始せずに停止する。停止時間が比較的長く、横断歩道を渡り切るまでに時間的余裕がないと判断した場合、自律移動ロボット10は、今回の横断は見合わせて次回の横断開始タイミングまで待機する。
【0054】
(4−2)事前混雑予測機能
自律移動ロボット10は、横断歩道3で待機状態のとき、当該横断歩道3の対向側で信号待ちをしている歩行者の数及び位置を画像認識しておくことにより、歩行者用信号機4が青色点灯時になる前に歩行者による横断時の混雑度合いを予測する。
【0055】
具体的には、自律移動ロボット10は、レーザレンジセンサ20及び撮像カメラ23を用いて、対向側の横断歩道3で待ち状態にある歩行者の数及び位置を、距離(横断歩道幅)及び外観形状(人物認識及び顔認識)に基づいて認識した後、当該認識結果に基づいて実際の横断時の混雑度合いを予測する。
【0056】
(4−3)横断時の歩行者衝突回避機能
自律移動ロボット10は、横断歩道3を渡り始めた際に(図4(A))、対向側の歩行者を横断方向(真正面の進行方向)に認識したとき、横断歩道3の側縁(自転車専用レーンが形成されている場合は、その反対側の側縁)に近付くように横方向又は斜め方向にずれながら進行し、その後当該側縁に沿って車道を横断するように走行する(図4(B))。
【0057】
自律移動ロボット10は、SLAM技術による3次元の環境地図作成時に、レーザレンジセンサ20、RGB−Dセンサ21及び3D距離画像センサ22を用いて経路計画として横断歩道3を識別済みであるが、さらに撮像カメラ23を用いて実際の走行時に横断歩道3の画像を取り込んで、エッジ検出や輪郭抽出の画像処理技術を用いて横断歩道3を認識するようにしても良い。
【0058】
自律移動ロボット10は、横断歩道3を渡る際に、歩行者と横断歩道3の側縁及びその近傍ですれ違う可能性が高いと判断した場合、当該側縁よりもさらに外側に回避するように移動して歩行者との接触を未然に防止する(図4(C))。この判断は、上述の事前混雑予測機能によって、横断歩道3の混雑度合いを予測しておけば、横断開始時から迅速に回避移動を行うことが可能となる。
【0059】
自律移動ロボット10は、レーザレンジセンサ20を用いて横断歩道3の両幅内のエリアに対して出射したレーザ光の反射光を受光して、出射光の方向と出射光及び反射光の時間差とに基づいて、時間的に位置情報が変化する歩行者を検出することにより、当該歩行者の占める面積に基づき歩行者密度を算出する。
【0060】
また横断歩道3を複数の歩行者が横断する場合、自律移動ロボット10は、これら複数の歩行者の移動方向及び速度をそれぞれ予測することにより、歩行者同士の隙間に沿って移動することができ、歩行者との接触や衝突を未然に回避するようになされている。
【0061】
すなわち自律移動ロボット10は、RGB−Dセンサ21及び3D距離画像センサ22を用いて、自律移動ロボット10に対する歩行者の相対位置を位置データとして時系列的に順次検出し、当該歩行者についての時系列の複数の位置データに基づいて当該歩行者の実空間における位置を算出し、その実空間位置から相対移動ベクトルを算出する。この相対移動ベクトルに基づいて自律移動ロボット10と衝突又は接触する可能性の高い歩行者の相対移動軌跡を認識することが可能となる。
【0062】
また自律移動ロボット10は、上述の相対移動ベクトルに基づく歩行者認識手法以外にも、レーザレンジセンサ20により複数の3次元点群を計測して立体物を分離し、当該立体物の点群をクラスタリング(グループ化)して点群ごとに歩行者を識別するようにしても良く、時間経過に伴う移動情報に基づいて、接近してくる歩行者(横断歩道3を対向側から渡ってくる歩行者)の移動方向及び移動速度を予測することも可能となる。
【0063】
自律移動ロボット10が横断歩道3を渡る際、走行制御部31は方向指示器26a、26bを制御して、当該自律移動ロボット10の走行時の進路方向及びその変化に合わせて所定タイミング及び所定パターンで所定色にて点滅発光することにより、当該自律移動ロボット10の前後方向に存在する歩行者に対して進路方向や進路変更を視認させることが可能となる。
【0064】
具体的に自律移動ロボット10は、横断歩道3を渡り始めた際に、当該横断歩道3の側縁に近付くように左(右)方向又は斜め左(右)方向にずれる直前から、左側(右側)の方向指示器26b(26a)を所定タイミング(毎分60回から120回以下の一定周期)で橙色に点滅させることにより、前後方向及びその斜め方向に位置する歩行者は、自律移動ロボット10が進路変更していることを視認することができる。その際、走行制御部31は、方向指示器26b(26a)の点滅タイミングに同期して、スピーカ25から「左(右)方向に進みます」と発話させるようにしても良い。
【0065】
(4−4)横断時のトラブル対策機能
自律移動ロボット10は、横断歩道を渡る途中で、通常の走行が困難な状況(例えば、野犬や悪意の歩行者に取り囲まれる等)になり、歩行者用信号機4が青色点灯から青色点滅に切り替わった時点で、犬や歩行者が周囲から離れたタイミングで最寄りの歩道に退避する。
【0066】
実際に自律移動ロボット10が走行困難となり緊急停止又は速度低減すると、走行制御部31は、方向指示器26a、26bを制御して赤色で点滅発光(ハザード発光)させると同時に、スピーカ25から緊急事態である旨の発話メッセージやサイレンを発生することにより、周囲の歩行者に注意喚起することができる。
【0067】
ここで走行制御部31は、歩行者用信号機4が青色点滅に切り替わった時点で、通信部35を介して緊急信号を送信することにより、信号制御システム1の信号制御部5は、該当する歩行者用信号機4の青色点滅時間を所定時間(最長18秒間)延長すると同時に、対応する車両用信号機5の赤色点灯時間を同時間だけ延長する。この結果、自律移動体10が横断歩道3上で交通トラブルに遭う可能性を格段と低減して安全性を確保することができる。
【0068】
(5)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態によれば、自律移動ロボット10は、横断歩道3の手前で待機状態とした後、歩行者用信号機4が赤色点灯から青色点灯に切り替わるタイミングに同期して走行を開始することにより、横断中に赤信号に切り替わる可能性が非常に少なくて済み、十分に時間的余裕をもって横断することが可能となる。
【0069】
その際、自律移動ロボット10は、横断歩道3で待機状態のとき、歩行者による横断時の混雑度合いを予測しておき、横断歩道3を渡り始めた際に、横断歩道3の側縁にずれて当該側縁に沿って車道を横断するとともに、必要に応じて歩行者密度や各歩行者の移動方向や速度も予測して走行することにより、歩行者との衝突や接触を未然に回避することができる。
【0070】
(6)他の実施形態
本実施の形態においては、自律移動ロボット10を、主として歩道7を走行する自律型の搬送ロボットとして適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、オフィスフロア内の自律型掃除ロボット、建設現場や農薬散布などの自走式作業ロボット、自動セキュリティロボット、介護等の歩行ガイドロボットなどの種々の自走式ロボットに適用することができる。
【0071】
なお本実施の形態においては、本発明における信号灯色判定部、歩行者認識部及び歩行者予測部を、統括制御部30内の走行制御部31が全て実行する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、統括制御部30内に別途対応する回路を設けるようにしても良い。
【0072】
また本実施の形態においては、横断時の歩行者衝突回避機能や歩行時のトラブル対先機能に関して、自律移動ロボット10は、周囲に存在する歩行者等をレーザレンジセンサ20及び撮像カメラ23による検知結果に基づいて、その存在や接近状態を認識するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、さらに音声マイク24を用いて、周囲の音声を集音しながら歩行者等の存在や接近状態を認識するようにしても良い。
【符号の説明】
【0073】
1……信号制御システム、2……車道、3……横断歩道、4……歩行者用信号機、5……信号制御部、6……車両用信号機、7……歩道、10……自律移動ロボット、11……走行ベース部、12……センサ保持部、20……レーザレンジセンサ、21……RGB−Dセンサ、22……3D距離画像センサ、23……撮像カメラ、24……集音マイク、25……スピーカ、26a、26b……方向指示器、30……統括制御部、31……走行制御部、32……目標走行経路制御部、33……作動制御部、35……通信部、36……駆動用バッテリ。
図1
図2
図3
図4