(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記カム部材は、前記回転軸に垂直な断面が円形であり、該回転軸が該円形の中心から偏心している円形偏心カム、あるいは前記回転軸に垂直な断面が非円形である非円形カムである、請求項1に記載のめっき装置。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、繊維束をめっきする連続式のめっき装置において、繊維束がめっき液中で張ることと緩むこととを繰り返すことにより、めっき液が繊維束の内側まで行きわたることとなるという点に着目し、めっき槽内で繊維束が張ることと緩むこととを繰り返しながらめっき槽内を移動するように、繊維束を案内する繊維束案内手段を設けることにより、繊維束を構成する繊維に略均等にめっきを施すことができる簡単な構造のめっき装置を実現したものである。
【0026】
従って、本発明のめっき装置において、繊維束案内手段は、めっき液で満たされためっき槽内で繊維束を張ったり緩めたりするものであればどのようなものでもよいが、以下の実施形態では、繊維束案内手段は、回転軸を有するカム部材であって、特に、回転軸に垂直な断面が円形であり、回転軸が円形の中心から偏心している円形偏心カムである場合について説明する。しかし本発明はこれに限定されない。例えば、繊維束案内手段は、回転軸を有するカム部材であって、回転軸に垂直な断面が非円形である非円形カムであってもよい。
【0027】
また、本発明のめっき装置において、繊維束をめっきするめっき処理部の構成は特に限定されるものではない。以下の実施形態の説明では、実施形態1として、めっき処理部として、複数の電解めっき部と複数のストライクめっき部とを有するめっき装置を挙げる。しかし、めっき処理部は複数の電解めっき部と複数のストライクめっき部とに限定されない。繊維の種類、めっきの種類やめっき厚に応じて適宜設定することが可能であって、例えば、1つの電解めっき部であってもよいし、1つの無電解めっき部であってもよいし、複数の電解めっき部であってもよいし、複数の無電解めっき部であってもよい。実施形態2では、複数の電解めっき部でのめっき電流を下流側の電解めっき部ほど高くしためっき装置を挙げる。実施形態3として、電解めっき槽の上流側に無電解めっき槽を有するめっき装置を挙げる。さらに、本発明のめっき装置では、同時に複数の繊維束のめっきを行うようにしてもよく、実施形態4として、3つの繊維束のめっきを同時に行うためっき装置を挙げ、実施形態4の変形例として、3つの繊維束のめっきを同時に行う場合の繊維束案内手段の他の例を挙げる。しかし、同時にめっきする繊維束の数は実施形態1〜4で説示する1つや3つに限定されず任意の数であってよい。本明細書において、「略」とは、プラスマイナス10%の範囲を示す。
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0029】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1によるめっき装置100を説明するための図であり、
図1(a)はめっき装置100の概略図、
図1(b)はめっき装置100の送り出し機構10aの模式図、
図1(c)はめっき装置100の巻き取り機構20aの模式図、
図1(d)はめっき装置100の繊維束案内手段(円形偏心カム)101の斜視図、
図1(e)は
図1(a)のE部分の拡大図、
図1(f)は
図1(a)のF部分の拡大図である。
【0030】
なお、実施形態1で説明するめっき装置100は、本発明のめっき装置の一例であり、本発明のめっき装置は実施形態1のものに限定されない。
【0031】
図1(a)に示すめっき装置100は、繊維束Wをめっきする装置である。
【0032】
めっき装置100は、繊維束Wを送り出す送り出し機構10aと、繊維束Wを巻き取る巻き取り機構20aとを有する。
【0033】
ここで、繊維束Wは、複数の繊維を纏めた束である。繊維束Wの構造は任意の形態であってよい。例えば、繊維束Wは、複数の繊維が一体になるように複数の繊維を撚り合わせた撚糸であってもよいし、各繊維を単に束ねたものであってもよい。
【0034】
繊維束を構成する繊維の材質は任意のものであってよい。好ましい実施形態において、繊維束を構成する繊維はポリエステル繊維であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、繊維束を構成する繊維は、そのほかのアラミド、ナイロン、ポリエチレンなどの樹脂繊維、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、金属繊維であってもよい。
【0035】
繊維束に対する電解めっきの種類は任意であり得る。好ましい実施形態において、ポリエステル繊維に対する銅めっきであるが、本発明はこれに限定されない。例えば、ポリエステル繊維に対するニッケルめっき、銀めっき、金めっきなどであってもよい。
【0036】
送り出し機構10aは、
図1(b)に示すように、繊維束Wを送り出す送り出しボビン10a1と、送り出しボビン10a1を繊維束Wの送り出しが行われるように支持するボビン支持部材10a2とを有する。
【0037】
巻き取り機構20aは、
図1(c)に示すように、繊維束Wを巻き取るための巻き取りボビン20a1と、巻き取りボビン20a1を繊維束Wの巻き取りが行われるように支持するボビン支持部材20a2と、巻き取りボビン20a1を一定の巻き取り速度で回転させるボビン駆動部20a3とを有する。
【0038】
実施形態1において、めっき装置100の送り出し機構10aは、送り出しボビン10a1を能動的に駆動する手段を有していないが、送り出し機構10aは、巻き取り機構20aの巻き取りボビン20a3が繊維束Wを巻き取ることにより繊維束Wが引っ張られる力で繊維束を送り出すように構成されている。ただし、送り出し機構10aは、送り出しボビン10a1を駆動する駆動源を有し、巻き取り機構20aで巻き取りボビン20a1が繊維束Wを巻き取る速度と同じ速度で繊維束Wを送り出すように駆動源により送り出しボビン10a1を駆動するようにしてもよい。
【0039】
さらに、めっき装置100は、送り出し機構10aと巻き取り機構20aとの間に配置されためっき処理部100aを有する。めっき処理部100aは、めっき液で満たされた複数のめっき槽13a、14a、111、121、131、114と、繊維束Wが張ることと緩むこととを繰り返しながらこれらのめっき槽内を移動するように、繊維束Wを案内する繊維束案内手段101とを有する。
【0040】
ここで、繊維束案内手段101は、回転軸を有するカム部材であり、さらに具体的には回転軸に垂直な断面の形状が円形状である円形偏心カム(以下、単に偏心カムともいう。)である。偏心カム101の回転中心C1は、回転軸に垂直な断面の円形の中心軸から偏心している。この実施形態1のめっき装置100は、繊維束案内手段101として偏心カムを用いることで、繊維束Wは回転する偏心カム101の外周面に接して移動することにより、送り出し機構10aから偏心カム101を介して巻き取り機構20aに至る繊維束Wの経路の長さが増減するため、その結果、めっき槽のめっき液中を移動する繊維束Wが張ることと繊維束が緩むこととが行われる。なお、繊維束案内手段は、回転軸に垂直な断面が円形である偏心カム101に限定されるものではなく、回転軸に垂直な断面が非円形、例えば楕円形状である非円形カムであってもよい。
【0041】
繊維束案内部材(偏心カム101)により、送り出し機構から偏心カムまでの繊維束の経路に対して、偏心カムから巻取り機構までの繊維束の経路は180°折り返されている。このようにすることで、従来の送り出し機構と巻取り機構との間で繊維束を一直線に移動させる場合に比べて、装置をコンパクトにすることが可能となる。
【0042】
実施形態1において、偏心カムにより、送り出し機構から偏心カムまでの繊維束の経路に対して、偏心カムから巻取り機構までの繊維束の経路は180°折り返されているが、本発明はこれに限定されない。例えば、折り返される角度は任意の角度であってよい。
【0043】
また、各めっき槽の繊維束Wの移動方向における両側には、給電部150a、150bが配置されている。ここで、給電部150aは、
図1(e)に示すように、繊維束Wにめっき電流を印加するための1つの給電電極151と、給電電極151aに繊維束Wが接触するように繊維束Wを支持する複数の支持体152を含み、給電部150aの上流側あるいは下流側のいずれかに位置するめっき槽に給電する第1の給電部である。ここで、給電電極151は、負電極であり、正電極(図示せず)はめっき槽内に設けられている。
【0044】
給電部150bは、
図1(f)に示すように、2つの給電電極151と、これらの給電電極151に繊維束Wが接触するように繊維束Wを支持する複数の支持体152とを含み、給電部150bの上流側および下流側に位置するめっき槽に給電する第2の給電部となっている。
【0045】
さらに、めっき装置100は、めっき処理部100aの前段に設けられた前処理部10と、めっき処理部100aの後段に設けられた後処理部20とを有する。前処理部10には、脱脂処理槽11aおよび第1の水洗槽12aが設けられ、後処理部20には、第2の水洗槽21a、変色防止処理槽22a、第3の水洗槽23a、乾燥室24aが設けられている。
【0046】
前処理部10、めっき処理部100a、および後処理部20は、送り出し機構10aから巻き取り機構20aに至る繊維束の経路に沿ってその上流側から下流側に向けて順に配置されている。
【0047】
以下、本実施形態1のめっき装置100を
図1、
図2を用いて詳細に説明する。
【0048】
図2は、
図1に示すめっき装置100の構造を具体的に説明するための図であり、
図2(a)はめっき装置100の概略図、
図2(b)は
図2(a)のIIb−IIb線断面図、
図2(c)は
図2(a)のIIc−IIc線断面図である。
【0049】
前処理部10では、めっきが施される繊維束Wの各繊維の表面の汚れを除去する処理が行われ、めっき処理部100aでは、繊維束Wに対する電解めっきが行われ、後処理部20では、繊維束Wのめっき液を洗い流す処理などが行われる。なお、前処理部10と送り出し機構10aとの間には、送り出し側のガイドローラ15が設けられ、巻き取り機構20aの直前には、巻き取り側のガイドローラ25が設けられている。
【0050】
〔前処理部10〕
前処理部10は、繊維束Wに対して酸による脱脂処理を施す脱脂処理部11と、脱脂処理が施された繊維束Wの水洗いを行う第1の水洗部12とを含む。
【0051】
脱脂処理部11は、繊維束Wに対する脱脂処理のための処理液で満たされる脱脂処理槽11aと、脱脂処理槽11aから溢れた処理液を受けるオーバーフロー受溝11bとを有し、脱脂処理槽11aからオーバーフロー受溝11bに溢れ出した脱脂処理液は廃棄されるようになっている。
【0052】
第1の水洗部12は、脱脂処理が施された繊維束Wを水洗いするための水洗槽12aと、水洗槽12aから溢れた洗浄水を受けるオーバーフロー受溝12bとを有し、水洗槽12aからオーバーフロー受溝12bに溢れ出した洗浄水は廃棄されるようになっている。
【0053】
〔めっき処理部100a〕
めっき処理部100aは、第1、第2のストライクめっき部13、14と、第1、第2、第3、第4の電解めっき部110、120、130、140とを含み、これらの2つのストライクめっき部および4つの電解めっき部は、繊維束Wの経路に沿ってその上流側から下流側に向けて順に配置されている。
【0054】
第1のストライクめっき部13は、水洗いされた繊維束Wに1回目のストライクめっきを施すめっき部であり、第2のストライクめっき部14は、1回目のストライクめっきが施された繊維束Wに対して2回目のストライクめっきを施すめっき部である。
【0055】
好ましい実施形態において、ストライクめっき(第1のストライクめっき部および第2のストライクめっき部)の電流は、電解めっき(第1、第2、第3、第4の電解めっき部)の電流に比べて高くする。このようにすることにより、繊維束W素地の不働態皮膜を除去、活性化し電解めっきの密着することをより効率的に行うことが可能となる。しかし、本発明のめっき装置100におけるめっき処理部100aの構成はこれに限定されない。すなわち、実施形態1では、めっき処理部100aが第1、第2のストライクめっき部13、14を有する場合について説示しているが、本発明はこれに限定されない。ストライクめっき部は設けなくてもよいし、1つ以上の任意の数であってもよい。また、ストライクめっき部を複数設けた場合に各ストライクめっき部におけるめっき条件は同じであってもよいし、それぞれ異ならせてもよい。
【0056】
第1の電解めっき部110は、ストライクめっきが施された繊維束Wに1回目の電解めっきを施すめっき部である。第2、第3、第4の電解めっき部120、130、140はそれぞれ、ストライクめっきが施された繊維束Wに2回目、3回目、4回目の電解めっきを施すめっき部である。実施形態1においては、めっき処理部100aが第1、第2、第3、第4の電解めっき部110、120、130、140を有する場合について説示しているが、本発明はこれに限定されない。電解めっき部は1つ以上の任意の数であってよい。
【0057】
また、複数設けた場合に各電解めっき部におけるめっき条件は同じであってもよいし、それぞれ異ならせてもよい。
【0058】
第1の電解めっき部110は、
図2(b)および
図2(c)に示すように、めっき液Lを溜めるめっき槽111と、めっき槽111から溢れ出しためっき液Lを受けるオーバーフロー受溝112、114と、第2の給電部150bの給電電極151が配置された電極配置領域113とを有する。なお、
図1(a)に示す第2の給電部150bは、具体的には、
図2(a)に示すように、隣接する2つの第1の給電部150aからなる。
【0059】
ここで、第1の電解めっき部110では、対向する外壁101aの間にめっき槽111が配置されており、めっき槽111の上流側および下流側には電極配置領域113が配置されている。めっき槽111は、第1の内壁101bにより囲まれてめっき液Lで満たされた領域であり、電極配置領域113は、対向する外壁101aと、対向する第2の内壁101cとにより囲まれて水Wtで満たされた領域である。電極配置領域113に配置された給電電極151と電極配置領域113を通過する繊維束Wとの接触部分は、水に浸かっている。
【0060】
ここで、電極配置領域113に配置される給電電極151は、固定の電極でもよいが、回転可能な回転電極とすることで、繊維束Wとの接触の際の摩擦を低減できる。また、電極配置領域113は、水が存在することにより上流側のめっき液などの除去する洗浄する機能やめっき電流の給電により加熱する給電電極を冷却する機能も有する。このため、電極配置領域113は、給電電極151として繊維束Wの移動とともに回転する回転電極を備えることにより回転水冷電極槽として用いることができる。
【0061】
第1の電解めっき部110では、外壁101aと第1の内壁101bとの間にはオーバーフロー受溝112が形成され、さらに、対向する第2の内壁101cの一方と第1の内壁101bとの間、および対向する第2の内壁101cの他方と仕切壁101dとの間にはオーバーフロー受溝114が形成されている。さらに、第1のめっき部110のオーバーフロー受溝114とその隣のめっき部(第2のめっき部120および第2のストライクめっき部14)のオーバーフロー受溝124、14bとは仕切壁101dにより仕切られている。なお、オーバーフロー受溝112とオーバーフロー受溝114とは繋がっていても繋がっていなくてもよい。
【0062】
第1の電解めっき部110の第1の内壁101b、第2の内壁101c、および仕切壁101dには、繊維束貫通孔110aが形成されている。第1の電解めっき部110は、繊維束Wが、めっき槽111の上流側の仕切壁101d、第2の内壁101c、および第1の内壁101bの繊維束貫通孔110aを通してめっき槽111に入り、さらにめっき槽111の下流側の第1の内壁101bの繊維束貫通孔110aを通してめっき槽111から出て、さらに、めっき槽111の下流側の第2の内壁101cおよび仕切壁101dの繊維束貫通孔110aを通して第2のめっき部120に向かうように構成されている。繊維束貫通孔110aの直径は、めっき槽111に満たされているめっき液Lの流出ができるだけ少なく、かつ、繊維束Wがそれぞれの壁を通り抜ける際に大きな摩擦が発生しないような寸法に設定されている。この繊維束貫通孔110aから流出しためっき液Lおよび水Wtはオーバーフロー受溝114に溜まるようになっている。
【0063】
また、めっき槽111の繊維束貫通孔110aの高さは、
図2(b)に示すように、めっき槽111の深さ(2X)の2分の半分(X)とするのが好ましい。これは、めっき槽111内での繊維束Wの上側の領域とその下側の領域とで、めっき液のイオン濃度の差が出ないようにするためである。1つの実施形態において、めっき槽111の底からの繊維束貫通孔110aの高さは、例えば、30センチ程度である。ただし、めっき槽111の全体の容量などによっては、もっと深い位置やもっと浅い位置が適切である場合もある。
【0064】
さらに、めっき槽111は、めっき液Lをめっき槽111に供給するためのめっき液供給管115bと、めっき液Lをめっき槽111から排出するためのめっき液排出管115cと、めっき液Lを循環させるためのめっき液循環管115aとを有している。めっき槽111にはめっき液供給管115bのめっき液吐出口115dが位置している。めっき液循環管115aはめっき液供給管115bとめっき液排出管115cとの間に接続されており、めっき液Lを循環させる循環ポンプ116が、めっき液循環管115a、めっき液供給管115bおよびめっき液排出管115cにより形成されるめっき液循環経路115の途中に設けられている。このようなめっき液Lを循環させる構成を用いることにより、めっき槽内におけるめっき液の成分の濃度分布に大きな偏りが生じないようにすることが可能となる。さらに、めっき槽111の底面には、エアーを吹き出すバブリング装置160を配置してもよい。バブリング装置160を設けることにより、めっき槽111内でめっき液Lがさらに滞留しないようになっている。
【0065】
なお、第1の電解めっき部110以外のめっき部、すなわち、第2、第3、第4の電解めっき部120、130、140もそれぞれ、めっき槽121、131、141と、オーバーフロー受溝122、124、132、134、142、144と、電極配置領域123、133、143とを有し、第1のめっき部110と同じ構成となっている。1つの実施形態において、第1、第2、第3、第4の電解めっき部110、120、130、140は同一容量を有し、これらの4つの電解めっき部に供給される電解めっきのためのめっきは同一であるが、本発明は上記実施形態に限定されない。これらの4つの電解めっき部の容量は異なっていてもよいし、めっき電流も異なっていてもよい。
【0066】
さらに、第1および第2のストライクめっき部13、14もそれぞれ、ストライクめっき槽13a、14aと、オーバーフロー受溝13b、13c、14b、14cと、電極配置領域13d、14dとを有し、第1のめっき部110と同じ構成となっている。
【0067】
第2の電解めっき部120と第3の電解めっき部130との間には、繊維束Wが所定の経路に沿って移動するように繊維束Wを案内する繊維束案内手段101として偏心カムが設けられている。実施形態1のめっき装置100では、繊維束案内手段101である偏心カムが、繊維束Wに接して回転することにより、めっき槽13a、14a、めっき槽111、121、131、141のめっき液中を移動する繊維束Wが張ることと繊維束Wが緩むこととが周期的に繰り返し行われる。
【0068】
これにより、従来のめっき液を繊維束に吹き付けるためのノズルや高圧のめっき液をノズルに供給するための装置を用いることなく、めっき液中で繊維束をほぐすことができ、繊維束を構成する繊維に略均等にめっきを施すことができるめっき装置を簡単な構造にできる。また、本発明の繊維束案内部材を設けることにより、繊維束の経路が一直線ではなくなるため、従来の送り出し機構と巻取り機構との間で繊維束を一直線に移動させる場合に比べて、装置をコンパクトにすることが可能となる。実施形態1として、繊維束案内部材を1つ設ける場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、複数の繊維束案内部材を設け、繊維束の経路を蛇行させるようにしてもよい。このようにすることで、さらにコンパクト化が図れる。
【0069】
〔後処理部20〕
後処理部20は、電解めっきが施された繊維束Wを洗浄水で洗浄する第2の水洗部21と、洗浄された繊維束Wに対して変色防止処理を施す変色防止処理部22と、変色防止処理が施された繊維束Wを洗浄水で洗浄する第3の水洗部23と、洗浄水で洗浄された繊維束Wを熱風で乾燥させる熱風乾燥部24とを有する。
【0070】
第2の水洗部21は、電解めっき処理が施された繊維束Wを水洗いするための水洗槽21aと、水洗槽21aから溢れた洗浄水を受けるオーバーフロー受溝21bとを有し、水洗槽21aからオーバーフロー受溝21bに溢れ出した洗浄水は廃棄されるようになっている。
【0071】
変色防止処理部22は、洗浄された繊維束Wに対する変色防止処理のための処理液で満たされる変色防止処理槽22aと、変色防止処理槽22aから溢れた処理液を受けるオーバーフロー受溝22bとを有し、変色防止処理槽22aからオーバーフロー受溝22aに溢れ出した処理液は廃棄されるようになっている。
【0072】
第3の水洗部23は、変色防止処理が施された繊維束Wを水洗いするための水洗槽23aと、水洗槽23aから溢れた洗浄水を受けるオーバーフロー受溝23bとを有し、水洗槽23aからオーバーフロー受溝23bに溢れ出した洗浄水は廃棄されるようになっている。
【0073】
熱風乾燥部24は、洗浄された繊維束Wの熱風乾燥を行うための熱風乾燥室24aと、熱風乾燥室24aに熱風を送る送風手段24bとを有する。
【0074】
なお、後処理部20と巻き取り側のガイドローラ25との間には導電度測定部31が設けられており、繊維束Wに接触させる一定距離離れた一対の測定電極31aおよび31bを有している。従って、このめっき装置100では、めっきが施された繊維束Wの導電度が導電度測定部31で測定されるようになっている。
【0075】
次に、本実施形態1のめっき装置100の動作について説明する。
【0076】
まず、
図1および
図2に示すように、送り出し機構10aから繊維束Wを引き出し、送り出し側のガイドローラ15、前処理部10、めっき処理部100a、後処理部20、導電度測定部31、および巻き取り側のガイドローラ25を通して、繊維束Wの先端を巻き取り機構20aの巻き取りボビン20a1に巻き付けた状態とする。
【0077】
この状態で、巻き取り機構20aのボビン駆動部20a3を起動させると、繊維束Wが巻き取り機構20aの巻き取りボビン20a1により一定の巻き取り速度で巻き取られることとなり、繊維束Wが送り出し機構10aから所定経路を通過して巻き取り機構20aに向けて一定速度で移動する。このとき、めっき処理部100aでは、繊維束案内手段としての偏心カム101が繊維束Wに接触しながら回転することとなる。
【0078】
偏心カム101が繊維束Wに接触しながら回転することで、繊維束Wはその移動経路上で張ることと緩むこととを繰り返す。
【0079】
すなわち、偏心カム101の外周面のうちで偏心カム101の回転中心C1から遠い部分が繊維束Wに接触したときは、送り出し機構10aから偏心カム101を介して巻き取り機構20aに至る繊維束Wの経路が長くなる。これにより、送り出し機構10aと巻き取り機構20aとで繊維束Wが引っ張られて延びた状態となる。逆に、偏心カム101の外周面のうちで偏心カム101の回転中心C1から近い部分が繊維束Wに接触したときは、送り出し機構10aから偏心カム101を介して巻き取り機構20aに至る繊維束Wの経路が短くなる。これにより、送り出し機構10aと巻き取り機構20aとの間で繊維束Wが縮んだ状態となる。
【0080】
従って、繊維束Wは、繊維束Wが張ることと繊維束Wが緩むこととを繰り返しながら、前処理部10、めっき処理部100a、および後処理部20を通過することとなる。
【0081】
具体的には、前処理部10では、繊維束Wは、繊維束Wが張ることと繊維束Wが緩むこととを繰り返しながら、脱脂処理部11による脱脂処理、および第1水洗部12による洗浄処理が施される。
【0082】
この場合、繊維束Wが伸縮することで脱脂処理のための薬液や洗浄水が繊維束の内側まで行きわたることとなり、これらの処理が効果的に行われることとなる。
【0083】
めっき処理部100aでは、繊維束Wは、繊維束Wが張ることと繊維束Wが緩むこととを繰り返しながら、第1、第2のストライクめっき部13、14によるストライクめっき処理が施され、さらに、第1、第2、第3、第4の電解めっき部110、120、130、140による4回の電解めっき処理が施される。
【0084】
この場合、繊維束は、各めっき部のめっき槽に満たされためっき液に浸漬した状態で、繊維束が張ることと緩むこととが繰り返し行われることにより、めっき液が繊維束の内側まで行きわたることとなり、繊維束を構成する各繊維がめっきにより被覆され易くなる。その結果、繊維束を構成する各繊維に対して均一なめっき膜厚でめっきを行うことができる。したがって、めっき液を繊維束Wに吹き付ける吹き付けノズルや高圧のめっき液をノズルに供給するための装置を用いることなく、めっき液中で繊維束をほぐすことができ、繊維束を構成する繊維に略均等にめっきを施すことができるめっき装置を簡単な構造にできる。
【0085】
後処理部20では、繊維束Wは、周期的に繊維束Wが張ることと繊維束Wが緩むこととを繰り返しながら、第2水洗部21による洗浄処理、変色防止処理部22による変色防止処理、第3水洗部23による洗浄処理、および熱風乾燥部24による熱風乾燥処理が施される。
【0086】
この場合、洗浄水や変色防止処理のための薬液、さらには乾燥のための熱風が繊維束の内側まで行きわたることとなり、これらの処理が効果的に行われることとなる。
【0087】
そして、後処理が施された繊維束Wは、導電度測定部31で導電度が測定される。この測定の際にも、繊維束Wは偏心カム101の回転に合わせて伸縮することとなるが、導電度測定部31の一対の測定電極31a、31b間の距離は、送り出し機構10aから偏心カム101を介して巻き取り機構20aに至る繊維束Wの経路の長さに比べて極端に短く、測定結果に大きな影響を与えるものではない。ただし、極めて正確な測定が要求される場合は、偏心カムの回転周期内で複数回測定を行った結果を平均すればよい。
【0088】
このように、本実施形態1では、繊維束Wにストライクめっきを行うための2つのめっき槽13a、14aと、ストライクめっきが施された繊維束Wに電解めっきを施すための4つのめっき槽111〜114とを備え、繊維束Wをこれらのめっき槽を順に通過させて連続的に繊維束Wに対する電解めっきを行うめっき装置100において、繊維束が張ることと緩むこととを繰り返しながら複数の電解めっき槽内を移動するように、繊維束を案内する繊維束案内手段である偏心カム101を備えたので、複雑な機構を用いることなく簡単な構成で、繊維束を構成する各繊維に対して均等に均一なめっき膜厚でめっきを行うことができる。
【0089】
特に、偏心カム101のカム運動によってめっき液中を移動する繊維束Wに張りと緩みの運動を規則的に繰り返し与えるので、繊維束W自体に大きな緊張をもたらさないで、緩んだ状態でめっきができ、繊維束Wの内部まで均質なめっき皮膜が得られる。
【0090】
また、巻き取りボビン20a1の駆動によってのみ装置全体が駆動するので、装置全体の構造が非常に簡単になる。
【0091】
繊維束Wのような導電性の悪い被めっき物においては、めっき電流は正電極と負電極との間の最短経路に集中するので、長大なめっき槽では略均等な電流密度を得ることは難しく、めっき槽の中央部の電流密度は非常に低くなるが、本実施形態1のめっき装置100のように、繊維束Wの移動経路に沿って配置された複数のめっき槽を備えることで、めっき電流の集中を緩和でき、めっき膜の膜厚や成分の調整など成膜作業の制御がし易くなる。
【0092】
さらに、本実施形態1のめっき装置100では、めっき槽が複数設けられているので、上流側で形成されるめっき膜が薄く、下流側で形成されるめっき膜が厚い場合に、上流側および下流側のそれぞれのめっき条件に応じためっき電流値の選択ができ、電流制御によって効率よく均質なめっき膜が得られる。また、従来の繊維束Wの送り速度(線速度)によってめっき厚が制御される場合と比べると、製造可能なめっき膜の膜厚は大きくすることが可能である。
【0093】
めっき装置100では、複数のめっき槽の配列が繊維束案内部材101を起点として方向が変えられるので、コンパクトな配置が可能となり、作業性も著しく改善できる。
【0094】
本発明のめっき装置100では、めっき槽を複数備えているので異種金属の多層めっきを連続的に行うことが可能である。めっき膜の密着性をよくするため、あるいは表面めっき膜の弱点を補うために、表面めっきの金属とは異なる金属で下地めっきが行われる場合がしばしばあるが、上流側のめっき槽で下地めっきを行い、下流側のめっき槽で表面めっきを行うことで、異種金属の多層めっきが容易に連続的に行うことができる。
【0095】
金属膜を形成するめっき金属としては、金、銀、銅、亜鉛、ニッケル、およびその合金など任意の金属であり得る。導電性やコストの観点から、銅やニッケルが好ましいが、本発明はこれに限定されない。どの金属を下地めっきとし、どの金属を表面めっきとするかは導電性や耐久性など求められる特性に応じて適宜設定すればよいことは明らかである。
【0096】
本実施形態1のめっき装置100は、無電解めっき膜を連続的に形成する連続無電解めっき装置として用いることも可能である。無電解めっきは、洗浄脱脂、表面改質(エッチング)、表面調整(コンディショニング)、触媒付与前洗浄(プリディップ)、触媒付与、活性化(アクセレート)、無電解めっき、洗浄などの一連の処理を経て行われるが、めっき装置100は、めっき槽に備えられている正電極の部分をめっき液などの液体に浸漬する位置とめっき液などの液体に接触しない位置との間で移動可能(例えば、めっき槽に対して着脱可能、あるいはめっき槽の上下方向にスライド移動可能)に構成されている。従って、正電極をめっき槽から取り外すことにより無電解めっきを行う各々の処理のための処理槽として用いることが可能となる。また、各めっき槽の間に配置されている回転水冷電極槽(電極配置領域)を洗浄槽として、さらに回転電極(給電電極)をガイドローラとして用いることで、繊維束Wの連続無電解めっき装置となる。具体的には、例えば、めっき槽13a、14a、めっき槽111、121、131、141を、それぞれ、エッチング槽(13a)、コンディショナー槽(14a)、プリディップ槽(111)、キャタリスト槽(121)、アクセレート槽(131)および無電解めっき槽(141)として使用することで連続無電解めっきが行える。
【0097】
さらに、無電解連続めっきでは、エッチング処理、無電解めっき処理などの前後の処理に比べて長時間を要する処理については、一定速度で移動する繊維束Wが処理槽内に滞在する時間を調整する滞在時間調整機構が用いられる。
【0098】
図2Aは、このような滞在時間調整機構50の一例を説明するための図である。
【0099】
滞在時間調整機構50は、処理液中に対向するように配置される一対の円筒回転体50aおよび50bを有する。円筒回転体50aおよび50bは回転可能に支持されており、一定の速さで移動する繊維束Wが処理槽111内に滞在する時間が所定の時間となるのに必要な巻き数だけ繊維束Wが円筒回転体50aおよび50bに巻かれている。
【0100】
このような構成の滞在時間調整機構50では、繊維束Wが巻き数に応じた回数だけ対向する円筒回転体50aおよび50bの間で往復することとなり、一定速度で移動する繊維束Wが処理槽内に滞在する時間を稼ぐことができる。このように滞在時間調整機構を備えることにより、無電解めっきの各工程における処理時間が統一でき、巻取り機構により一定速度で移動する繊維束Wを連続的に処理することが可能となる。
【0101】
なお、実施形態1では、めっき装置100において、繊維束Wに対する2つの槽で2回のストライクめっきが行われ、その後、繊維束Wに対する4つの槽で4回の電解めっきが行われる場合を示したが、ストライクめっきの回数および電解めっきの回数は、実施形態1で示した回数に限定されず、例えば、繊維束Wに対するストライクめっきは1つの槽で1回だけや3回以上行う場合であってもよい。同様に、繊維束Wに対する電解めっきは2回〜3回であったり、5回以上行う場合であってもよい。
【0102】
(実施形態1の変形例)
また、上記実施形態1のめっき装置100では、繊維束案内手段として、回転軸に垂直な断面が円形であり、回転軸が円形の中心から偏心している円形偏心カム101を用いた場合を示したが、繊維束案内手段は実施形態1のものに限定されるものではない。
【0103】
図3は、
図1に示すめっき装置100の変形例を説明するための図であり、
図3(a)および
図3(b)は、
図1に示す円形偏心カム101とは形状が異なる他の繊維束案内手段102を示す斜視図および断面図である。
【0104】
上記実施形態1のめっき装置100は、円形偏心カム101に代えて、
図3(a)に示すように回転軸に垂直な断面が非円形、例えば、卵型形状である非円形状カム102を用いたものでもよい。なお、
図3(a)、(b)中、C2は非円形状カム102の回転中心を示す。
【0105】
(実施形態2)
図4は、本発明の実施形態2によるめっき装置200を説明するための概略図であり、めっき装置200の構造を示す。
【0106】
実施形態2のめっき装置200は、実施形態1のめっき装置100におけるめっき処理部100aとは異なる構成のめっき処理部200aを備えている。このめっき処理部200aは、実施形態1のめっき処理部100aと同様にめっき槽の容量が同一である4つの電解めっき部を有するが、それぞれの電解めっき部のめっき槽211、221、231、241での電解めっきのための電流A1、A2、A3、A4を、繊維束Wの経路の下流側ほど高くなるように設定する電流設定手段200bを有する点で実施形態1のめっき処理部100aとは異なる。
【0107】
この電流設定手段200bは、外部の電源から電圧を受け、めっき電流を各めっき槽に供給するめっき電源であり、負電圧Bvを出力する1つの負端子Nと、正電圧Ep1〜Ep4、Es1、Es2を出力する6つの正端子P1〜P4、S1〜S2とを有している。
【0108】
ここで、負端子Nは、めっき装置200における複数の第1の給電部150aおよび複数の第2の給電部150bの給電電極151に共通接続されている。正端子P1、P2、P3、P4はそれぞれ、4つの電解めっき部のめっき槽211、221、231、241の内部に設けられている正電極(図示せず)に接続され、正端子S1、S2はそれぞれ、第1のストライクめっき部13のストライクめっき槽13a、第1のストライクめっき部13のストライクめっき槽14aの内部に設けられている正電極(図示せず)に接続されている。
【0109】
正端子P1、P2、P3、P4には、正電圧Ep1、Ep2、Ep3、Ep4(Ep1<Ep2<Ep3<Ep4)が印加されるようになっており、これにより、4つの電解めっき部のめっき槽211、221、231、241での電解めっきの電流A1、A2、A3、A4が、繊維束Wの経路の下流側ほど高くなるように設定されている。
【0110】
また、この実施形態2では、2つのストライクめっき槽13a、13bの内部に設けられている正電極(図示せず)に接続された正端子S1、S2には、正電圧Es1、Es2(Es1=Es2>Ep4)が印加されるようになっている。これにより、2つのストライクめっき部13a、14aでのストライクめっきの電流が、電解めっき槽211、221、231、241でのめっき電流のどれよりも高いめっき電流となっている。
【0111】
なお、ここでは、2つのストライクめっき槽13a、13bの内部の正電極(図示せず)に接続された正端子S1、S2から出力される正電圧Es1、Es2は同じ電位としているが、正端子S1、S2から出力される正電圧Es1、Es2は異なっていてもよい。例えば、正電圧Es1、Es2の大小関係は、Es1>Es2あるいはEs1<Es2である。
【0112】
このように繊維束の経路に沿って並ぶ複数の電解めっき槽での電解めっきの電流を経路の下流側ほど徐々に高くすることにより、めっき厚さが増大するにつれてめっきの際の電気抵抗が下降する繊維束Wに対して良好にめっきを施すことが可能となる。その結果、繊維束Wの移動速度を一定速度に保ったまま、めっき層の厚さを効率的に厚くめっきすることが可能となる。また、4つの電解めっき部のめっき槽211、221、231、241の大きさ(繊維束の経路に沿った長さ)が同一で、すなわちめっき処理時間が同一であっても、これらの電解めっき部で繊維束Wに形成されるめっき層の厚さを電解めっき部毎に変えることが可能となる。
【0113】
図4に示す実施形態においては、電解めっきを行う工程全体において、上流側から下流側にかけてめっき電流が高くする場合(A1<A2<A3<A4)について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、隣接する槽でのめっき電流を同じとしてもよいし(例えば、A1=A2<A3<A4、A1<A2=A3<A4など)、電解めっきを行う工程の一部において、上流側よりも下流側のめっき電流を低くしてもよい(例えば、A1<A2<A3>A4)。例えば、最後のめっき槽におけるめっき電流を、その直前のめっき槽のめっき電流よりも低くすることにより、直前のめっき槽のめっき電流と同じもしくは高くする場合に比べて表面のめっき層をより緻密な層に生成し、膜質を向上させることが可能となる。
【0114】
以上のことから、めっき層の厚みを効率的に厚くしたい場合は、上流側の電流値に対して下流側の電流値を上げていくことが効果的であり、めっき層の膜質などを向上させたい場合は、上流側の電流値に対して下流側の電流値を下げていくのが効果的である。すなわち、めっき層の求められる条件に応じて下流側にいくほどめっきの電流値の調整範囲は広く、その範囲から適切な電流値を調整することが求められる。
【0115】
さらに上記実施形態1および2のめっき装置100あるいは200では、前処理部10で洗浄された繊維束Wに対して直接ストライクめっきを施しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、ストライクめっきを施す前に繊維束Wに対して無電解めっきを施すようにしてもよいし、ストライクめっきを行わず、無電解めっきを施した後に直接電解めっき槽で電解めっきを行ってもよい。
【0116】
以下は、実施形態2のめっき装置200を用いて実際に行った具体的な処理の例である。
【0117】
原材料である繊維束Wとしては、約100本のポリエステルフィラメントを撚った糸が用いられた。この糸の各ポリエステルフィラメントの表面は銅の無電解めっきによって形成された約10オーム/mの電気抵抗を持つ銅被膜で覆われていた。
【0118】
めっき槽13aでは、めっき電圧(0.4V〜0.8V)、めっき電流(0.3A〜0.8A)で銅のストライクめっきが繊維束Wに対して行われた。
【0119】
めっき槽14a、111、121、131、141では、以下のめっき電圧およびめっき電流で銅の電解めっきが繊維束Wに対して行われた。
【0120】
めっき槽14a
(めっき電圧:1.3V〜1.7V、めっき電流:0.9A〜1.6A)
めっき槽111
(めっき電圧:0.9V〜1.3V、めっき電流:0.9A〜1.8A)
めっき槽121
(めっき電圧:2.2V〜3.4V、めっき電流:1.8A〜4.8A)
めっき槽131
(めっき電圧:2.2V〜3.5V、めっき電流:3.8A〜7.2A)
めっき槽141
(めっき電圧:2.4V〜3.4V、めっき電流:7.5A〜13.5A)
繊維束Wの送り速度は、80〜200m/hrであり、0.3〜3オーム/mの電気抵抗を持つ銅めっき被覆繊維束が得られた。
【0121】
図4Aは、めっき前後の繊維束Wを説明するための図であり、
図4A(a)およびず4A(b)は、繊維束Wの生地の外観を示すSEM写真およびその拡大写真を示し、
図4A(c)は、Cu電解めっきが施された後の繊維束Wの外観を示す写真を示し、
図4A(d)は、Cu電解めっきが施された後の繊維束Wの断面の写真を示す。
【0122】
図4A(a)および4A(b)を見てわかるとおり、電解めっき前の繊維の色は略白色なのに対して、
図4A(c)を見てわかるとおり、電解めっき後の繊維の表面は全体が淡赤色に変化しており、繊維の表面全体が銅めっきされているのが確認できる。また、
図4A(d)を見てわかるとおり、繊維の周方向に略均一の厚みで淡赤色になっている。このことから、略均一の厚みで銅めっきが行われているのが確認できる。
【0123】
(実施形態3)
図5は、本発明の実施形態3によるめっき装置300を説明するための概略図であり、めっき装置300の構造を示す。
【0124】
実施形態3のめっき装置300は、実施形態1のめっき装置100におけるめっき処理部100aとは異なる構成のめっき処理部300aを備えている。このめっき処理部300aは、実施形態1のめっき処理部100aの構成に加えて無電解めっき部を備えたものである。
【0125】
めっき処理部300aでは、第1のストライクめっき部のめっき槽13aの上流側に無電解めっき部のめっき槽34が設けられている。この無電解めっき部のめっき槽34の具体的な構造は、実施形態1で説明した第1の電解めっき部110のめっき槽111の正電極(図示せず)を取り外した構造となっている。すなわち、正電極が取り付けられためっき槽は、電解めっき部のめっき槽として用い、正電極が取り外されためっき槽は、無電解めっき部のめっき槽として用いることができる。
【0126】
無電解めっきの種類は任意であり得る。好ましい実施形態において、無電解めっきは、ポリエステル繊維に対して銅めっきであるが、本発明はこれに限定されない。例えば、無電解めっきは、ニッケルめっき、銀めっき、金めっきなどであってもよい。また、単一金属による単層めっきであってもよいし、異種金属などによる多層めっきであってもよい。
【0127】
無電解めっきに用いる触媒は任意であり得る。好ましい実施形態において、ポリエステル繊維に対する銅めっきにおいて無電解めっきに用いる触媒は、従来のパラジウム触媒に代わるコスト低減が図れる銀触媒であるが、本発明はこれに限定されない。例えば、無電解めっきに用いる触媒は、パラジウム触媒であってもよいし、銅触媒であってもよい。
【0128】
このような構成の実施形態3のめっき装置300では、送り出し機構10aから送り出された繊維束Wは、前処理部10で脱脂処理および洗浄処理が施された後、ストライクめっきが施される前に無電解めっきが施されることとなる。これによりストライクめっき層と、繊維束Wの繊維との密着性を高めることが可能である。また、従来、繊維束を無電解めっきする工程と繊維束を電解めっきする工程とは、それぞれ不連続な別工程となっていたため、生産効率が低かったのに対して、実施形態3におけるめっき装置300では、繊維束の無電解めっきと電解めっきとを同一行程で連続的に行うことが可能となり、生産効率の向上を図ることが可能となる。また、実施形態2で説示した複数の電解めっき槽でのめっき電流を上流側から下流側に向かうにつれて大きくする方法を用いると、繊維束のめっきを、繊維束を一定速度で移動させながら良好に施すことが可能となるため、無電解めっきの処理と電解めっき電流を下流側ほど高くする電解めっきの処理との相乗効果によりめっきの品質(例えば、繊維との密着性、膜質、膜厚精度)および生産性効率をより向上させることが可能となる。
【0129】
なお、上記実施形態1〜3では、1つの繊維束Wに対するめっき処理を連続的に行うめっき装置を示したが、めっき装置は、連続的なめっき処理を2以上の繊維束Wに対して同時に行うものでもよく、以下の実施形態4では、連続的なめっき処理を3つの繊維束Wに対して同時に行うめっき装置を示す。
【0130】
(実施形態4)
図6は、本発明の実施形態4によるめっき装置400を説明するための図であり、
図6(a)はめっき装置400の概略図、
図6(b)はめっき装置400の繊維束案内手段103を示す斜視図、
図6(c)は、
図6(a)のVIc−VIc線断面図、
図6(d)は、
図6(a)のVId−VId線断面図である。
【0131】
実施形態4のめっき装置400は、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対する連続的なめっきが同時行われるように構成したものである。
【0132】
すなわち、実施形態4のめっき装置400は、実施形態1のめっき装置100において、送り出し機構10aに加えてさらに2つの送り出し機構10bおよび10cを備えるとともに、巻き取り機構20aに加えてさらに2つの巻き取り機構20bおよび20cを備え、前処理部10に代わる前処理部40、めっき処理部100aに代わるめっき処理部400a、および後処理部20に代わる後処理部50を備えたものである。
【0133】
ここで、送り出し機構10bおよび10cは、送り出し機構10aと同一の構成を有し、それぞれの繊維束WbおよびWcを送り出すものである。巻き取り機構20bおよび20cは、巻き取り機構20aと同一の構成を有し、それぞれの繊維束WbおよびWcを巻き取るものである。
【0134】
前処理部40は、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対する前処理を同時に行うように構成されている。前処理部40には、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対する脱脂処理を同時に行うための脱脂処理槽41aおよび3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対する洗浄処理を同時に行うための水洗槽42aが設けられている。
【0135】
めっき処理部400aは、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対するストライクめっき処理および電解めっき処理を同時に行うように構成されている。
【0136】
めっき処理部400aは、実施形態1のめっき処理部100aにおける繊維束案内手段である偏心カム101に代わる拡張円形偏心カム103を有している。拡張円形偏心カム103は偏心カム101をその回転軸方向に拡張したものであり、3つの繊維束Wa、Wb、Wcが張ることと緩むこととを繰り返しながらこれらのめっき槽内を移動するように、繊維束Wを案内するものである。
【0137】
拡張円形偏心カム103は、回転軸C3を有するカム部材であり、さらに具体的には回転軸に垂直な断面の形状が円形状である。拡張円形偏心カム103の回転中心C3は、回転軸に垂直な断面の円形の中心軸から偏心している。この実施形態4のめっき装置400は、繊維束案内手段104として拡張円形偏心カムを用いることで、繊維束Wa、Wb、Wcは回転する拡張円形偏心カム103の外周面に接して移動することにより、送り出し機構10aから拡張円形偏心カム103を介して巻き取り機構20aに至る繊維束Wa、Wb、Wcの経路が増減する。その結果、めっき槽のめっき液中を移動する繊維束Wa、Wb、Wcが張ることと繊維束が緩むこととが行われる。
【0138】
めっき処理部400aには、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対するストライクめっき処理を同時に行うための2つのめっき槽43aおよび44aが設けられ、さらに、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対する電解めっき処理を同時に行うための4つのめっき槽411、421、431、および441が設けられている。
【0139】
例えば、
図6(c)および
図6(d)に示すように、第1のめっき部410は、実施形態1の第1のめっき部110と同様に、めっき液Lを溜めるめっき槽411と、めっき槽411から溢れ出しためっき液Lを受けるオーバーフロー受溝412、414と、給電電極451が配置された電極配置領域413とを有する。
【0140】
ここで、外壁401aは、実施形態1の外壁101aに相当し、第1の内壁401bは、実施形態1の第1の内壁101bに相当し、第2の内壁401cは、実施形態1の第2の内壁101cに相当する。さらに、仕切壁401dは、実施形態1の仕切壁101dに相当する。
【0141】
第1のめっき部410の第1の内壁401b、第2の内壁401c、および仕切壁401dには、3つの繊維束Wa、Wb、Wcをそれぞれ通すための繊維束貫通孔410a、410b、410cが形成されている。さらに、めっき槽411には、3つの繊維束Wa、Wb、Wcが絡まないように分離する隔離棒411a〜411cが設けられている。また、めっき部410におけるめっき液循環管415a、めっき液供給管415b、めっき液排出管415c、および循環ポンプ416は、実施形態1における循環管115a、供給管115b、排出管115c、および循環ポンプ116と同一のものである。
【0142】
後処理部50は、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対する後処理を同時に行うように構成されている。後処理部50には、水洗槽51a、変色防止処理槽52a、水洗槽53a、熱風乾燥室54aが設置されている。これらは、実施形態1のめっき装置100の後処理部20における水洗槽21a、変色防止処理槽22a、水洗槽23a、熱風乾燥室24aに相当するものであり、それぞれ3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対する処理を同時に行う点で、実施形態1のめっき装置100におけるものと異なる。
【0143】
このような構成の実施形態4のめっき装置400では、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対するめっき処理を同時に連続して行うことができ、作業効率を大きく高めることができる。
【0144】
(実施形態4の変形例)
図7は、
図6に示すめっき装置400の繊維束案内手段103の変形例を説明するための図である。
【0145】
図7(a)および
図7(b)は、
図6(b)に示す繊維束案内手段(拡張円形偏心カム)103とは構造が異なる別の繊維束案内手段104を示す斜視図および断面図である。
【0146】
図7(a)および(b)に示す繊維束案内手段104は、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに同時に接するめっき装置400における拡張円形偏心カム103の断面形状を、非円形状としたものである。
【0147】
さらに、実施形態4のめっき装置400に用いられている3つの繊維束Wa、Wb、Wcに接する繊維束案内手段105は、
図7(c)および(d)に示すように、3つの偏心カム体、すなわち上段偏心カム体105a、中段偏心カム体105b、下段偏心カム体105cを組み合わせた複合偏心カムでもよい。この複合偏心カム105では、3つの偏心カム体105a〜105cの位相が120°間隔で異なる。
【0148】
このように複合偏心カム105において、3つの偏心カム体105a〜105cの位相を120°間隔で異なることにより、1つの繊維束Waに対応する偏心カム体105aが繊維束Waから受ける回転抑制力あるいは回転促進力が、他の2つ繊維束Wb、Wcに対応する偏心カム体105b、105cが繊維束Wb、Wcから受ける回転促進力あるいは回転抑制力により実質的に打ち消されることとなる。
【0149】
これにより、複合偏心カム105がその回転に伴って繊維束Wa、Wb、Wcから受ける負荷を一定に保持することができ、複合偏心カム105の1回転における繊維束Wa、Wb、Wcの送り速度の変動を抑えてより繊維束Wa、Wb、Wcの送り速度をより一定にすることができる。
【0150】
さらに、実施形態4では、複合偏心カム105に代えて
図7(e)および(f)に示すように断面が非円形状の3つのカム体、すなわち上段カム体106a、中段カム体106b、下段カム体106cを組み合わせた複合カム106を用いてもよい。
【0151】
この複合カム106においても、3つのカム体106a〜106cの位相を120°づつずらせることにより、複合偏心カム105と同様に複合カム106の回転に伴って繊維束Wa、Wb、Wcから受ける負荷を一定に保持することができ、複合カム106の1回転における繊維束Wa、Wb、Wcの送り速度の変動を抑えてより繊維束Wa、Wb、Wcの送り速度をより一定にすることができる。
【0152】
なお、実施形態4では、複数の繊維束に対する連続的なめっき処理を同時に行うめっき装置として、3つの繊維束Wa、Wb、Wcに対するめっき処理を同時に行うものを示したが、めっき装置は、2つの繊維束Wに対して、あるいは4つ以上の繊維束に対して連続的なめっき処理を同時に行うものでもよい。
【0153】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【解決手段】繊維束Wをめっきする装置100であって、繊維束Wを送り出す送り出し機構10aと、繊維束Wを巻き取る巻き取り機構20aと、送り出し機構10aと巻き取り機構20aとの間に配置され、めっき液で満たされためっき槽13a、14a、111、121、131、141と、繊維束Wが張ることと緩むこととを繰り返しながらこれらのめっき槽内を移動するように、繊維束を案内する繊維束案内手段を備えるように構成されている。