【実施例1】
【0026】
<第1工程>
図1は、本発明の実施例1で用いる電解セルを示す図であり、この電解セルを準備する工程が第1工程となる。
電解セルはカソードカートリッジ1、クロスヘッド回転子2及びアノード治具3と、これら1〜3を収容するとともに水性電解質を貯留できる第1の浴槽4と、第1の浴槽4を収容するとともに温度調整用の液体(通常は水)を貯留できる第2の浴槽5と、クロスヘッド回転子2を磁力によって回転させるスターラー6と、直流電源7とで構成されている。
カソードカートリッジ1には一辺が23mmの正方形のカソード側開口部が設けられており、そのカソード側開口部に半導体ウエハの一方の面に形成されている金属面(通常は銀メッキ面)を対向させてセットでき、また、カソード8を介して半導体ウエハと直流電源7を接続できるようになっている。
アノード治具3にはカソード側開口部と対向する位置に、一辺が10mmの正方形のアノード側開口部が設けられており、そのアノード側開口部にアノード電極10(金属ナノ結晶と同種の材料が最適)を配置し、また、アノード9を介してアノード電極10と直流電源7を接続できるようになっている。
【0027】
<第2工程>
電解セルの第1の浴槽4に水性電解質を導入するとともに、第2の浴槽5に適宜の温度の水(5〜20℃)を貯留する。
浴槽4に導入する水性電解質は、金属塩としての硝酸銀を含むとともにアミン系錯化剤を溶解させた純水である。
実施例1では、硝酸銀の濃度は1mol/L、アミン系錯化剤の濃度は3mol/Lとしたが、硝酸銀については0.1mol/L以上(望ましくは0.25〜2mol/L)であれば良く、アミン系錯化剤については、銀とアミンが1:2で錯体を形成し一般的に錯化剤は多めに入れた方が良いことが知られていることから、硝酸銀の濃度の2〜3倍の濃度とする。すなわち、アミン系錯化剤の濃度は0.2mol/L以上(望ましくは0.5〜6mol/L)であれば良いということになる。
硝酸銀の濃度やアミン系錯化剤の種類等と銀結晶析出との関係については後述する。
【0028】
<第3工程>
半導体ウエハをカソード8に接続するとともに、第1の浴槽4内の水性電解質中に浸漬する。
なお、カソード8の接続と水性電解質中への浸漬は、どちらが先でも良い。
【0029】
<第4工程>
第2の浴槽5に適宜の温度の水を貯留して、水性電解質の温度を所定の温度範囲に維持するとともに、直流電源7を作動させカソード8とアノード9との間に直流電流を流す。
また、スターラー6を作動させてクロスヘッド回転子2を450rpm程度のスピードで回転させ、カソード側開口部とアノード側開口部との間にある水性電解質を攪拌する。
なお、第2の浴槽5内に貯留されている水の温度と室温に差がある時には、水を入れ替えたり適宜の手段で冷却したり温めたりして、水の温度を所定の温度範囲に維持する。
そして、半導体ウエハの金属面上に平均粒径が20nm〜500nmの銀ナノ結晶を所望の厚さ(用途に応じて1〜40μm)になるまで通電を継続して、銀ナノ結晶層を形成する。
ここで、析出される銀ナノ結晶の平均粒径は、水性電解質の硝酸銀濃度、錯化剤の種類や濃度、液温及び電流密度の大きさによってコントロールでき、電流密度を高くすると粒径が小さくなり、低くすると粒径が大きくなるものの、同時に電流密度を高くすると結晶層に疎の部分が増え、低くすると結晶層から疎の部分が減ることが実験的に分かった。
したがって、本発明の製造方法においては、銀ナノ結晶の粒径は小さいほど良いということにはならず、平均粒径50nm〜200nmの方が密な銀ナノ結晶層を得やすく、平均粒径50nm〜150nmが最も密で接合性の良い銀ナノ結晶層を得やすい。
【0030】
図2(1)〜(6)及び
図3(1)〜(4)に示す工程は、半導体装置用接合材の製造後、半導体ウエハ11から複数の半導体チップを支持体の接合領域にダイボンドし、銀ナノ結晶層12を介して半導体チップ11と支持体16とを接合させて半導体装置を製造する工程であるが、続けて説明する。
<第5工程>
図2(1)に示すように、第1工程〜第4工程によって得られた厚さ1〜40μmの銀ナノ結晶層12を形成した半導体ウエハ11を、40〜70℃のお湯に10〜180秒間浸漬して湯洗する。
【0031】
<第6工程>
図2(2)に示すように、湯洗した半導体ウエハ11を銀ナノ結晶層12が上側となるように載置した後、上方から40〜100℃の温風を30〜300秒間当てて乾燥する。
【0032】
<第7工程>
図2(3)に示すように、乾燥させた半導体ウエハ11を銀ナノ結晶層12が下側となるようにウエハ固定シート13の上面に載置した後、上方から円盤状のブレード14を用いて縦方向及び横方向に適宜の間隔でカットし、複数の半導体チップ15に個片化する。
図2(4)は個片化した半導体チップ15を示す拡大図である。
【0033】
<第8工程>
図3(1)に示すように、銅を主な材料とし、表面に厚さ4μm程度の銀めっき層を形成して接合領域とした支持体(リードフレーム16)を準備する。
次に、接合領域が上側となるようにしてホーミングガス17の雰囲気中に置かれたホットプレート上にリードフレーム16を載置する。
ホットプレートの表面は250〜350℃に加熱してあり、その上にリードフレーム16を1〜90秒間載置することによって、表面の接合領域を含むリードフレーム16全体を加熱しておく。
【0034】
<第9工程>
図3(2)に示すように、ホーミングガス17の雰囲気中において、半導体チップ15を、その銀ナノ結晶層12全面がリードフレーム16の接合領域に接触するようにダイボンドし、半導体チップ15の上面側から150gの荷重を200msecかけて
図3(3)に示す状態とする。
なお、ホーミングガス17は半導体チップ15(特に、配線パターンに使用される金属やチップバックメタル19)、リードフレーム16及び銀ナノ結晶層12の酸化を防止するためのものであり、窒素ガス95%及び水素ガス5%を含有するガスである。
【0035】
<第10工程>
第9工程によって半導体チップ15がリードフレーム16の接合領域にダイボンドされると、その接合領域は予め加熱してあるため、ダイボンド直後から銀ナノ結晶層12は熱せられ焼結が開始される。
ホットプレートの表面は250〜350℃を保持できるようになっており、その上にリードフレーム16を0.5〜60分間載置しておくことによって、銀ナノ結晶層12の焼結が終了する。
そして、焼結終了後にリードフレーム16をホットプレートから移して冷却すると接合工程が完了する。
焼結が終了すると銀ナノ結晶層12はバルクのAg層となるため、融点が高く(約960℃)電気抵抗率の低い(3〜5μΩ・cm)接合層20で半導体チップ15とリードフレーム16が接合された
図3(4)の接合体が得られる。
【0036】
このようにして得られた接合体をモールドした素子の断面図が
図4であり、
図4左下の四角形で囲まれた部分の写真が
図5である。
図4及び
図5において、18はリードフレーム16の表面に形成されている厚さ4μm程度の銀めっき層、19は半導体チップ15の接合部となるチップバックメタル、20はバルクのAg層よりなる接合層、21はモールド樹脂である。
そして、
図5の写真から、ボイドがなく半導体チップ15の下の接合層20の厚さが均一であるとともに、接合層20とリードフレーム16の接合領域である銀めっき層18及びチップバックメタル19との密着性が極めて良好であることが分かる。
なお、
図5の接合層20の部分には、小さい穴があることを示す黒い部分が散在しているが、この穴は焼結によってナノ結晶が成長することで自然に生じる細孔であり、焼結の際に発生したガスや金属ナノ接合材塗布時等における空気巻き込みによって生じる一般的なボイドとは異なるものである。
【0037】
また、銀ナノ結晶層12を焼結する時の温度と接合強度との関係をダイシェア強度試験(せん断強度試験)によって確認したところ、250℃(焼結時間1分)で平均11N/平方mm、300℃(焼結時間1分)で平均27N/平方mm、350℃(焼結時間1分)で平均37N/平方mmであった。
高融点半田材を用いた接合強度を同強度試験によって確認した結果、平均29N/平方mmであり、10N/平方mm程度でも半導体装置の組立てに耐えられることが分かっているので、250〜350℃(焼結時間1分)で銀ナノ結晶層12を焼結した接合体はいずれも通常の使用に耐え得るものと評価できる。
【0038】
次に、半導体装置用接合材(銀ナノ結晶層)の製造に適した製造条件(錯化剤の種類及び硝酸銀の濃度と銀結晶析出との関係)について説明する。
【0039】
錯化剤としては、ハロゲン化物及びリンを含有しないアミン系錯化剤に着目し、各種のアミン系錯化剤を1mol/Lの硝酸銀を含有する純水に建浴させてみたが、炭素数が5以上のアミン系錯化剤(n−ペンチルアミン、n−ヘプチルアミン及びn−オクチルアミン)とtert−ブチルアミンは、水に溶けにくく沈殿や分離が発生したため、錯化剤としては適していないことが分かった。
そこで、錯化剤を用いない1mol/Lの硝酸銀を含有する純水、錯化剤として炭素数が2のエチルアミン、炭素数が3のn−プロピルアミン並びに炭素数が4のn−ブチルアミン、sec−ブチルアミン及びイソブチルアミンを、1mol/Lの硝酸銀を含有する純水に3mol/L溶解させた水性電解質について、
図1の電解セルを用いて電気分解を行った。
【0040】
表1は各水性電解質について析出した銀結晶の粒径の良否と銀ナノ結晶の品質の良否を示している。
表1によると、アミン系錯化剤を用いない水性電解質では結晶粒径が数百nm以上となり好適な粒径の銀ナノ結晶層を得られないこと、水に溶解するアミン系錯化剤を用いた水性電解質では200nm以下の好適な粒径の銀ナノ結晶層が得られること及び水に溶解するアミン系錯化剤の中でもn−ブチルアミンとイソブチルアミンが、粒径及び品質の両面で良い品質の銀ナノ結晶層を得るために特に適していることが分かる。
なお、表1の品質判定△(めっき膜が疎又は不均一)は、半導体装置用接合材として用いることはできるが、接合後の焼成工程の処理時間を長くする必要があるため、生産性に影響を与えるおそれがある。
【表1】
【0041】
表1のアミン系錯化剤のうち、エチルアミン、n−ブチルアミン及びイソブチルアミンを用いた場合について、めっき膜の外観写真及びFE−SEM写真(10万倍)を
図6に示す。
図6に示すとおり、エチルアミンを用いた場合、めっき膜の外観はほぼ均一であるが、結晶層に疎の部分が多いことが分かる。これに対してn−ブチルアミンとイソブチルアミンを用いた場合、めっき膜の外観がほぼ均一であるとともに、結晶層も密であることが分かる。
これらの実験結果から、n−ブチルアミン及びイソブチルアミンは、粒径及び品質の両面で良い品質の銀ナノ結晶層を得るために特に適した錯化剤であることが分かった。
【0042】
そこで、錯化剤としてn−ブチルアミンを用い、硝酸銀の濃度を変化させて銀ナノ結晶を析出できるか否か実験を行った。
その結果、硝酸銀の濃度を0.1mol/L未満とした場合、電流密度を高めても銀ナノ結晶を析出することはできなかったが、硝酸銀の濃度を0.1mol/L以上とすれば銀ナノ結晶を析出できること、硝酸銀の濃度が高いほど電流密度を低くしても銀ナノ結晶を析出できることが分かった。
ただし、直流電源の仕様や経済性を考慮すれば、硝酸銀の濃度は0.25〜2mol/Lが望ましく、0.5〜1.5mol/Lが最適である。
【0043】
さらに、銀ナノ結晶層、半導体チップの接合部及び支持体の接合領域の表面粗さが、半導体装置の信頼性に与える影響について実験を行った。
実験に用いた半導体装置は、半導体チップの接合部に上記第1〜7工程によって銀ナノ結晶層を設け、支持体としての銅リードフレームの接合領域に施された銀めっき上に、上記第8〜10工程によって接合したものとした。
そして、接合前に銀ナノ結晶層と接合領域に施された銀めっき表面の中央を通る線上における断面の変位を測定した。
その結果、半導体チップの接合部に設けた銀ナノ結晶層は非常に平坦度が高く、その変位の差である最大断面高さは最大で1.7μmしかなかったが、銅リードフレームの接合領域に施された銀めっきは概して平坦度が低く、かつ、最大断面高さが1〜5μmとばらついていた。
【0044】
そこで、銀めっきの最大断面高さが2〜3μmの銅リードフレームと、4〜5μmの銅リードフレームに分けて半導体装置を作製し、電気的特性テストを行った結果、銀めっきの最大断面高さが4〜5μmの銅リードフレームを使用した半導体装置では良品数が0%、銀めっきの最大断面高さが2〜3μmの銅リードフレームを使用した半導体装置では良品数が100%となった。
また、最大断面高さが4〜5μmの銅リードフレームを使用した不良品を断面解析した結果、半導体チップの中央部に未接合部分があることを確認した。すなわち、不良品の発生は、半導体チップと銅リードフレームの接合部分に、
図7に示すような隙間が生じることが原因であり、特に支持体側の表面に存在するうねりが接合強度に悪影響を及ぼすものと考えられる。
これらの結果及び考察から、本発明の半導体装置用接合材を用いて半導体チップと支持体を接合するに際しては、接合部分における表面の最大断面高さを4μm未満とすることが必要であり、3μm以下とする方が良いということができる。
そして、本発明の金属ナノ結晶層による半導体装置用接合材としては、特に支持体側に金属ナノ結晶層を積層する場合に、その表面の最大断面高さを4μm未満、好ましくは3μm以下、さらに好ましくは2.5μm以下とすることが信頼性を上げるために重要である。
【0045】
以上の実験結果等を総合して、硝酸銀の濃度1mol/L、n−ブチルアミンの濃度3mol/Lである水性電解質を用い、電気分解によって半導体チップの接合部に厚さ10μm程度の半導体装置用接合材を形成した後、接合領域の最大断面高さが2.5μm以下である平坦度の高い銅リードフレームに半導体チップを焼結接合して作製した半導体装置の試験サンプル(サンプル数50)について、代表的な信頼性試験であるPCT試験(プレッシャークッカーテスト)を実施した。
ここで、PCT試験とは通常よりかなり高い2気圧、かつ、湿度100%の環境下で行う性能試験であり、今回の試験では試験サンプルとしてトランジスタを用いたので、コレクタ・エミッタ飽和電圧を測定するとともに、外観検査(目視による異常確認)を行った。
その結果、全ての試験サンプルについて、96時間の試験期間後の電圧変動率が初期値から±10%の範囲に収まり、外観検査でも異常は確認できなかった。
この試験結果からみて、本発明の半導体装置用接合材を用いた半導体装置における電気特性の変動率は高融点半田を用いた半導体装置における電気特性の変動率と遜色がないことが分かる。
なお、同じPCT試験を行って確認したわけではないが、ハロゲン化物やリンを含む接合材では、PCT試験が半導体装置に含まれる配線等の酸化の影響を受けやすい試験であることから、このような結果は得られないものと予測される。
【0046】
さらに、同様にして形成された半導体装置用接合材(銀ナノ結晶層)の表面部の定量測定を行ったところ、酸素が13.9%、窒素が0.7%、銀が22.7%、炭素が62.7%含まれていた。なお、測定条件はXPS測定深さ5nm、XPS測定範囲300×700μmである。
また、1mm四方の範囲に深さ40〜50nmのアルゴンスパッタを施した後、同様の測定条件で定量測定を行ったところ、酸素が6.1%、窒素が1.4%、銀が40.1%、炭素が52.5%含まれていた。
これらの測定結果から、銀ナノ結晶中には残渣としてn−ブチルアミンが存在していること及び銀ナノ結晶層の表面側には炭素由来の不純物が堆積していることが確認できた。
なお、後者は表層部にn−ブチルアミンの炭素対窒素比より相当高い比率の炭素が存在していることからそのように推定される。
【実施例2】
【0047】
実施例2における半導体装置用接合材の製造方法が実施例1と異なる点は、半導体ウエハの金属面上に平均粒径が20nm〜500nmの銀ナノ結晶層12を形成する第4工程において、カソード8とアノード9との間に直流電流を流すのに代えてパルス電流を流す点である。
そのため、第1工程で準備する電解セルが備える直流電源7はオンタイム(以下「tON」という。)及びオフタイム(以下「tOFF」という。)を変更することのできるパルス電源に置き換える。
【0048】
平均粒径が20nm〜500nmの銀ナノ結晶を所望の厚さになるまでカソード8とアノード9との間に直流電流を流すのに代えてパルス電流を流すことによって、銀ナノ結晶層12の密度を高めることができる。
その理由は、直流電流を流した場合、
図8(A)に示すように、アノード側に発生する拡散層が時間とともに成長し電極表面のイオン濃度が低くなるのに対して、パルス電流を流した場合、
図8(B)に示すように、tON時においてはアノード側に拡散層が成長するが、tOFF時においては電気二重層及び拡散層はどちらも減少するので、拡散層の厚さが薄く保たれ、電極表面のイオン濃度を高く保って高電流密度での電解が持続するためである。
【0049】
図9は直流電流、パルス電流印加により得られためっき膜のFE−SEM写真である。
電流密度は直流電流印加並びにtONが20msec及び40msecのパルス電流印加の場合において4A/dm
2、tONが10msecのパルス電流印加の場合において21A/dm
2であり、膜厚は直流電流印加で1μm、5μm及び10μm、パルス電流印加で1μm及び5μmである。
なお、パルス電流のtOFFはいずれも400msecである。
これらの写真から、直流電流印加により得られためっき膜(以下「直流めっき膜」という。)の場合、各膜厚において空洞部分が確認でき、その空洞部分は膜厚が薄くなるほど大きく、かつ、多くなっていることが分かる。空洞部分は焼結の際に細孔発生の原因にもなるため、その後の焼成工程で長い処理時間が必要となる。
また、パルス電流印加により得られためっき膜の場合、各膜厚において直流めっき膜と比べ、空洞部分が極めて少ないか確認できないレベルとなっている。この状態であれば、焼結の際に発生する細孔は小さく、かつ、少なくなるので、その後の焼成工程における処理時間は直流めっき膜の処理時間よりも短くなる。
【0050】
次に、第9工程から第10工程において、ダイボンドしてから銀ナノ結晶層12の焼結が終了するまで荷重をかけるようにしたのは、金属ナノ結晶層を接合材として用いるダイボンドでは、真実接触面積が接合強度に大きく関係していることが分かったからである。
真実接触面積(Ar[mm
2])は、ダイボンドにおける垂直荷重(W[kg])及び接合材の膜厚、材質(特に硬さ)によって変化する塑性流動圧力(P0[kg/mm
2])と以下の関係がある。
Ar=W/P0・・・(1)
ただし、その関係は金属ナノ結晶層の表面粗さが正規分布に従う場合、すなわち、表面の凹凸のばらつきが小さい場合に成り立つものであるところ、
図9に示した9種類のめっき膜については、いずれも表面の凹凸のばらつきは小さい状態であることが確認できた。
【0051】
そして、チップ面積(S[mm
2])が0.3136mm
2(一辺が0.56mmである正方形)の半導体チップに対して実験を重ねた結果、Arは0.001676mm
2以上なければ十分な強度が得られないことが分かった。
このことから、チップ面積に対する真実接触面積割合(a[%])は、a=Ar/S×100であるので、Ar及びSに0.001676及び0.3136を代入すれば、a≧0.53とする必要のあることが分かる。
また、式(1)を変形すればW=Ar×P0となり、a=Ar/S×100を変形すればAr=a×S/100となるので、次の式が導かれる。
W=a×S×P0/100・・・(2)
式(2)にa≧0.53を代入すると、W≧0.0053×S×P0となり、P0はビッカース硬さから求められるので、チップ面積と接合材のビッカース硬さを得れば、最低限必要なダイボンド荷重を決定できる。
【0052】
さらに、実施例1においては、接合領域に施された銀めっき表面又はその銀めっき表面に形成された金属ナノ結晶層表面の最大断面高さを小さくすることが信頼性を上げるために重要であることをつきとめたが、実施例2においては金属ナノ結晶層表面のうねりが実施例1と比べて大きめとなり、そのうねりが大きいと接合強度に悪影響を及ぼすことをつきとめた。
そして、様々な条件のパルス電流を印加して得られた種々の厚さの銀ナノ結晶層について実験を重ねた結果、表面のうねりが0.38μm以下であれば十分な接合強度が得られ、0.21μm以下であればより大きな接合強度が得られることが分かった。
【0053】
実施例の変形例を列記する。
(1)実施例1及び2の第1〜第4工程においては、半導体ウエハに銀ナノ結晶層を形成したが、半導体ウエハに代えて支持体の接合領域に銀ナノ結晶層を形成するようにしても良い。
(2)実施例1及び2の第1〜第4工程においては、硝酸銀を含む水性電解質を用いて銀ナノ結晶を析出させたが、金、銅又は金、銀若しくは銅を主材料とする合金の金属ナノ結晶を析出させ、金属ナノ結晶層を形成するようにしても良い。
(3)実施例1及び2の第1〜第4工程で用いる電解セルは、クロスヘッド回転子2、第2の浴槽5及びスターラー6を有しているが、装備しなくても良い。水性電解質の攪拌が必要ならば、適宜の攪拌手段を別途用意しても良いし、水性電解質の温度維持が必要ならば適宜の冷却手段や加温手段を用いれば良い。
(4)実施例1及び2の第1〜第4工程においては、半導体ウエハに対して前処理を施さなかったが、必要に応じて半導体ウエハや支持体のめっきを施す表面に対して、脱脂、酸活性、エッチング(化学研磨)等の前処理を行っても良い。
(5)実施例1及び2の第4工程では、銀ナノ結晶を所望の厚さ(1〜40μm)になるようにしたが、銀ナノ結晶の厚さは接合する半導体チップの大きさや用途に応じて適宜選択する。
ただし、銀ナノ結晶層形成に要する時間やコスト及び接合強度等を考慮すると、銀ナノ結晶層の厚さは3〜20μm程度がより適しているといえる。
【0054】
(6)実施例1及び2の第5工程においては、半導体ウエハ11を40〜70℃のお湯に10〜180秒間浸漬して湯洗したが、湯洗は場合によっては必要なく、お湯の温度や浸漬時間は金属ナノ結晶層の形成手法、厚さ及び材質に応じて調整する。
また、お湯に代えて洗浄液に浸漬したり、浸漬に代えてお湯や洗浄液を金属ナノ結晶層2の表面に流したりして洗浄しても良く、めっき液の組成や半導体ウエハ11の材質、製品への影響等を考慮して決定する。
(7)実施例1及び2の第6工程においては、半導体ウエハ11に40〜100℃の温風を30〜300秒間当てて乾燥したが、乾燥は場合によっては必要なく、乾燥時間は温風の温度や半導体ウエハ11のサイズ及び材質、めっき液の組成、製品への影響等によって大きく変化するので、製造に際しては実施例の温度範囲や時間範囲にとらわれることなく温度や時間を最適化する必要がある。
また、酸化を防止するために温風に代えて窒素ガスや不活性ガスを当てても良い。
さらに、温風を当てず表面を40〜100℃に熱したプレートの上に載置するか、内部を40〜100℃に保てる乾燥室内に収容して乾燥させても良い。その場合、酸化を防止するために窒素ガスや不活性ガス雰囲気下で乾燥させるとより良い。
(8)実施例1及び2の第8工程においては、250〜350℃に加熱したホットプレートの上にリードフレーム16を1〜90秒間載置することによって、表面の接合領域を含むリードフレーム16全体を加熱したが、加熱時間はホットプレートの表面温度及びリードフレーム16の材質やサイズによって大きく変化するので、製造に際しては実施例の温度範囲や時間範囲にとらわれることなく温度や時間を最適化する必要がある。
(9)実施例1及び2の第8工程においては、半導体チップ15をリードフレーム16にダイボンドしてから銀ナノ結晶層12の焼成が終了するまでの時間を短縮するため、ダイボンド前にリードフレーム16をホットプレート上に載置し全体を加熱したが、加熱は必ずしも必要なく、加熱する場合でも接合領域のみ加熱するようにしても良い。
また、加熱手段もホットプレートに限らず、内部の温度を500℃程度までの任意の温度に保持できる焼成室を用いる等、少なくとも接合領域である銀めっき層18を加熱できるものであれば適宜選択することができる。
(10)実施例1及び2の第9工程においては、ダイボンドをホーミングガス17の雰囲気中で行い、同じく第10工程においては、銀ナノ結晶層12の焼成をホーミングガス17の雰囲気中で行ったが、半導体チップ、リードフレーム16及び金属ナノ結晶層に使用する材料が酸化しない、又は酸化してもその影響が小さくて酸化にこだわる必要がない場合等には、通常の大気雰囲気中で行っても良い。
特に、第9工程はダイボンド後の処理であり、銀ナノ結晶層12や銀めっき層18の露出部分が少ないので、ホーミングガス17の雰囲気中で行う必要性はより低い。
また、ホーミングガス17としては、窒素ガス95%及び水素ガス5%を含有するガスを用いたが、酸素を含まない安定したガス(例えば、窒素ガスや不活性ガス)であれば、どのようなガスであっても良い。
【0055】
(11)実施例1及び2の第9工程においては、半導体チップ15をダイボンドし、半導体チップ15の上面側から150gの荷重を200msecかけたが、荷重の大きさ及び荷重をかける時間は適宜選択すれば良い。
なお、荷重の大きさについては上記のとおりチップ面積と接合材のビッカース硬さによって最低限必要なダイボンド荷重を決定でき、荷重をかける時間については長いほど接合強度は増加するが、その増加率は200msec以上で鈍化するので、ダイボンド後継続して荷重をかけ続ける必要性は低い。
(12)実施例1及び2の第9工程においては、銀ナノ結晶層12全面が250〜350℃に加熱されたリードフレーム16の接合領域に接触するように半導体チップ15をダイボンドし、第3工程においてリードフレーム16を250〜350℃に保持することによって、銀ナノ結晶層12の焼結が終了するようにしたが、ダイボンド時にはリードフレーム16の温度を200〜250℃の比較的低温とし、ダイボンド後にホットプレートの表面温度を350〜400℃の比較的高温として銀ナノ結晶層12を焼結するようにしても良い。
そうすることによって、ダイボンド時に発生する応力を緩和できるとともに、焼結時間を短縮することができるという効果が得られる。
(13)実施例1及び2の第10工程においては、ホットプレートの表面温度を250〜350℃に保持し、その上にリードフレーム16を0.5〜60分間載置しておくことによって、銀ナノ結晶層12の焼結が終了するようにしたが、加熱温度や加熱時間はこの範囲に限らず、半導体チップ15やその接合部(チップバックメタル19)、リードフレーム16やその接合領域(銀めっき層18)及び金属ナノ結晶層の材質や用途等に応じて、適宜選択可能である。
そして、焼成する際の上限温度は接合部や接合領域等への影響や半導体チップ15の表面に形成される配線パターン(Al−Si)へのダメージを考慮すると、配線パターンに使用される金属の融点(Al−Siの場合577℃)以下とする必要があることから、第10工程における加熱温度は150〜577℃の範囲で選択可能である。
ただし、低い温度で焼成するには金属ナノ結晶層の材料を厳選する必要があり、高い温度で焼成すると装置コストが上がるとともに歩留まりや信頼性が下がるおそれがあるので、加熱温度の適値は200〜450℃、最適値は250〜350℃である。
なお、加熱温度の適値や最適値の範囲は、金属ナノ結晶層の材料だけでなく加熱装置、半導体チップ15、リードフレーム16等の仕様等にもよるので、銀ナノ結晶層12に代えて他の金属ナノ結晶層(金ナノ結晶層や銅ナノ結晶層等)を用いた場合にもあてはまるものである。
(14)実施例1及び2の第8〜第10工程においては、リードフレーム16の接合領域に銀ナノ結晶層12を形成した半導体チップ15をダイボンドしたが、半導体チップ15の銀ナノ結晶層12に代えて、又は加えてリードフレーム16の接合領域に銀ナノ結晶層を形成し、実施例と同様に半導体チップ15をダイボンドするようにしても良い。
そのうち、半導体チップ15及びリードフレーム16の両方に銀ナノ結晶層を形成する場合には、ダイボンド前及びダイボンド中に半導体チップ15やリードフレーム16を加熱することは行わず、ダイボンド後に加熱を開始する(予め加熱するとダイボンド前に銀ナノ結晶層の焼結が始まってしまうため)。
また、半導体チップ15には銀ナノ結晶層12を形成せず、リードフレーム16の接合領域に銀ナノ結晶層を形成する場合には、ダイボンド前及びダイボンド中に半導体チップ15又はその接合部(チップバックメタル19)を予め加熱するようにしても良い。
(15)実施例2の第4工程においては、印加するパルス電流のtONを10msec、20msec及び40msec、tOFFを400msecとし、印加するパルス電流の電流密度をtONが10msecの場合に21A/dm
2とし、tONが20msec及び40msecの場合に4A/dm
2としたが、これらは水性電解質の種類、液中の金属濃度、浴槽4の形状及び両電極の形状等の条件や、パルス電源容量及び経済性等の制約条件を考慮して適宜設定する。
なお、tONは短くtOFFは長く設定した方が、拡散層の厚さを薄く、かつ、電極表面のイオン濃度を高く保つためには適している。