(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記錘部材は、前記半径方向に延びた全長の、前記半径方向の内側の端部までの長さが前記半径方向の外側の端部までの長さよりも長くなる位置で、前記支持部材に支持されている請求項1から6のうちいずれか1項に記載の調速装置。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る調速装置の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0009】
[実施形態1]
<調速装置の構成>
図1は、本発明の第1の実施形態(実施形態1)である携帯用時計(例えば腕時計)における調速装置(てんぷ)1を示す斜視図、
図2は、
図1におけるA−A線に沿った断面を示す断面図である。
なお、
図2において、てん真2及びひげぜんまい3は記載を省略している。
図示の調速装置1は、てん真2と、ひげぜんまい3と、支持部材4と、錘部材5と、を備えている。
【0010】
てん真2は、軸の上下が図示を省略した地板とてんぷ受けとに回転自在に支持されている。
ひげぜんまい3は、内側の端部がてん真2に接合され、外側の端部が、図示を省略したてんぷ受けに固定されている。
支持部材4は、平面視で+字状に形成されている。支持部材4は、例えばシリコンで形成されている。支持部材4は、+字の中心部に略円筒状に形成された基部6と、基部6を中心として放射状に延びた4つのアーム部7とが一体的に形成されている。
【0011】
基部6は、円筒状の内側にてん真2が嵌め合わされててん真2に結合している。4つのアーム部7は、基部6を中心にして等角度間隔(角度90[度]間隔)の配置となっている。したがって、アーム部7は、てん真2を中心とする半径方向に沿って外側に延びている。
アーム部7は、上側の壁が無い直方体の箱状に形成されていて、4つのアーム部7は同じ形状となっている。
【0012】
錘部材5は、直方体状に形成されていて、各アーム部7の箱状の空間7aにそれぞれ配置されている。したがって、錘部材5もてん真2を中心とした半径方向に沿って延びている。錘部材5は、例えば銅やニッケルで形成されている。つまり、錘部材5は、支持部材4に比べて、温度の変化に応じた熱膨張率が大きい。また、本実施形態では、錘部材5は、支持部材4(特に、アーム部7)よりも重量が重い。
なお、本実施形態の場合、錘部材5の熱膨張率は、支持部材4の熱膨張率の6倍を超える大きさである。
【0013】
錘部材5は、アーム部7に1か所だけ接合されて支持されている。具体的には、錘部材5の、てん真2に対して半径方向の外側の端部5aが、アーム部7の半径方向の外側の端部7bに接合されている。この錘部材5とアーム部7との接合としては、接着剤による接着、熱による溶着、ねじによる締結、凹凸形状による嵌め合いなど、公知の接合方法を適用することができる。錘部材5は、外側の端部5a以外はアーム部7に接合されていない。
これにより、錘部材5は、温度の変化に応じた熱膨張、熱収縮する場合、アーム部7に支持された外側の端部5aを基準として、アーム部7に対して半径方向の内側に、拘束されずに伸縮する。
【0014】
<調速装置の作用>
次に、本実施形態の携帯用時計における調速装置1の作用について説明する。
図3は、支持部材4のアーム部7と錘部材5とが、温度の上昇に応じて熱膨張したときの様子を示す
図2相当の断面図であり、(A)は熱膨張前の常温状態を示し、(B)は常温状態から温度が上昇したときの状態を表す。
【0015】
図3(A)に示すように、熱膨張前は、アーム部7と錘部材5とを組み合わせた部材の重心Gは、てん真2の中心Oから、半径方向の距離Rgにある。なお、本実施形態においては、錘部材5の単体の重心G5は、アーム部7の単体の重心G7よりも半径方向の外側にある。
【0016】
常温から温度が上昇すると、
図3(B)に示すように、支持部材4はてん真2の中心Oを基準にして、熱膨張率に応じて膨張し、アーム部7は半径方向の外側方向Roに伸長する。この結果、アーム部7の外側の端部7bは半径方向の外側方向Roに変位する。
錘部材5も熱膨張率に応じて膨張するが、錘部材5の外側の端部5aがアーム部7の外側の端部7bに接合されているため、錘部材5自体はアーム部7の外側の端部7bとともに、半径方向の外側方向Roに変位する。
【0017】
一方、錘部材5は、アーム部7に支持されている外側の端部5aを基準として、半径方向の内側方向Riに拘束されることなく伸長する。錘部材5の熱膨張率はアーム部7の熱膨張率に対して大きいため、錘部材5の重心G5は、半径方向の内側方向Riに変位するとともに、アーム部7と錘部材5とを組み合わせた部材の重心Gも、半径方向の内側方向Riに変位する。
【0018】
この結果、てん真2の中心Oから、アーム部7と錘部材5とを組み合わせた部材の重心Gまでの半径方向の距離Rgは、
図3(A)に示した常温状態における対応する距離Rgよりも短くなる。
つまり、この実施形態の調速装置1は、支持部材4及び錘部材5の重心Gが、温度の上昇にしたがって、てん真2の中心Oからの距離Rgが小さくなるように形成されている。
これにより、調速装置1は、支持部材4及び錘部材5の、てん真2を中心とする慣性モーメントが、温度の上昇にしたがって小さくなる。
【0019】
調速装置は一般に、温度の上昇に伴って、ひげぜんまいのばね定数が低下して、調速装置の振動周期が長くなる。
本実施形態の調速装置1も、温度の上昇に伴って、ひげぜんまい3のばね定数が低下する。
しかし、本実施形態の調速装置1は、温度の上昇により、支持部材4及び錘部材5の慣性モーメントが小さくなるため、調速装置1の振動周期を短くする方向に作用する。この結果、調速装置1は、支持部材4及び錘部材5の慣性モーメントを変化させることによって、ひげぜんまい3のばね定数が変化することによる調速装置1の振動周期の変化を防止又は抑制することができる。
【0020】
しかも、本実施形態の調速装置1は、てん輪に相当する支持部材4と錘部材5とが、1か所だけで接合されているため、支持部材4も錘部材5も、温度の変化による歪を発生させる応力が作用しないか、又は応力の作用が少ない。よって、支持部材4及び錘部材5の耐久性が、応力によって低下するのを防止又は抑制する。
【0021】
本実施形態の調速装置1は、錘部材5が支持部材4(特に、アーム部7)よりも重量が重いため、錘部材5が支持部材4よりも重量が軽い場合に比べて、温度の上昇による錘部材5及び支持部材4を組み合わせた部材の重心の移動量が大きくなる。したがって、本実施形態の調速装置1は、錘部材5が支持部材4よりも重量が軽い場合に比べて、慣性モーメントの調整可能範囲を拡張することができる。
また、本実施形態の調速装置1は、錘部材5の、半径方向の外側の端部5aが支持部材4に支持されているため、端部5aよりも半径方向の内側の部分が支持部材4に支持されている構成に比べて、錘部材5の重心G5が半径方向の内側方向Riに移動する長さを最大にすることができる。
【0022】
<変形例>
本実施形態の調速装置1は、個別に形成された例えばシリコンで形成された支持部材4と、例えば銅又はニッケルで形成された錘部材5とを接合することで、これら支持部材4と錘部材5とを一体化している。しかし、調速装置1は、この形態に限定されるものでは無く、支持部材4と錘部材5とを個別に形成するのではなく、一体的に形成したものであってもよい。
そのような一体に形成する技術としては、例えばシリコンを型とするリーガ(LIGA:Lithographie(リソグラフィ),Galvanoformung(電鋳),Abformung(成形))プロセスを適用することが可能である。
【0023】
すなわち、LIGAプロセスにより、アーム部7となる箱状に形成されたシリコンを型とし、この型の内部に下地の電極として銅を形成し、電鋳により銅の電極上に、錘部材5となるニッケルの層を成長させ、その後、電極の銅のうち、外側の端部5aを除いた部分を例えばエッチングで除去する。これにより、ニッケルの錘部材5の外側の端部5aだけが銅を介してアーム部7に接合された状態で、ニッケルの錘部材5とシリコンの支持部材4(アーム部7)とを一体的に形成することができる。
【0024】
本実施形態の調速装置1は、支持部材4が4つのアーム部7を備えたものであるが、アーム部7は4つに限定されず、てん真2の中心O回りに等角度間隔で2つ以上であればよく、4つから8つまでの範囲の個数であることが配置のバランスの観点から好ましい。
錘部材5は、アーム部7と同数であることが好ましいが、てん真2の中心O回りに等角度間隔で配置されれば、アーム部7の数と同じでなくてもよい。
【0025】
また、アーム部7は、半径方向に直線状に延びたものに限定されず、曲線状に延びたものであってもよい。
アーム部7は、箱状の空間7aを有する形状でなくてもよく、薄板状のものであってもよい。ただし、箱状の空間7aを有する形状であれば、この空間7aに錘部材5を配置し、1か所でのみ接合された錘部材5の重量を受けることができる。しかも、錘部材5の側面にアーム部7の側壁が接するため、てん真2の中心O回りに振動しているときに、錘部材5が、半径方向に直交する方向に振られて動くのを防止又は抑制することもできる。
【0026】
錘部材5が支持される支持部材4(アーム部7)の部分は、半径方向の外側の端部7bに限定されるものでは無く、錘部材5を配置することができるスペースを確保できる限り、アーム部7の如何なる部分であってもよい。
図4は、全て(例えば2つ)のアーム部7の外側の端部7bに結合した円環状の部分8を有していて、その円環状の部分8に錘部材5が接合されている支持部材14を示す平面図である。
【0027】
本実施形態の調速装置1は、
図4に示すように、支持部材4に代えて、全てのアーム部7の外側の端部7bに結合した円環状の部分8を有している支持部材14を備えたものであってもよく、錘部材5は、アーム部7ではなく、環状の部分8に接合されていてもよい。なお、この支持部材14は、従来の調速装置におけるてん輪に相当する。
ただし、環状の部分8が無い方が、支持部材14自体の慣性モーメントが小さくなり、錘部材5の慣性モーメントに対する支持部材14の慣性モーメントの割合を小さくすることができる。これにより、温度の変化による支持部材14及び錘部材5の全体の慣性モーメントの変化を大きくすることができる。
【0028】
図5は、
図4に示した錘部材5に代えて、支持部材14に支持された部分よりも半径方向の外側に延びた部分を有する錘部材15を適用した例を示す図であり、(A)は平面図、(B)は(A)におけるB−B線に沿った断面を示す断面図である。
図1,4に示した実施形態の調速装置1は、錘部材5の半径方向の外側の端部5aが支持部材4,14に接合された構造であったが、調速装置1は、
図5に示すように、半径方向の外側の端部15cよりも半径方向の内側の部分が支持部材14に接合されていてもよい。
【0029】
この場合、調速装置1は、錘部材15の、支持部材14(環状の部分8)の孔8aに突起15aが嵌め合わされて支持された部分(突起15a)から半径方向の内側の端部15bまで内側部分15dの長さL1が、支持部材14(環状の部分8)に支持された部分(突起15a)から半径方向の外側の端部15cまで外側部分15eの長さL2よりも長く形成されている。
【0030】
そして、温度の上昇により、内側部分15dは支持された部分を基準として半径方向の内側方向Riに向かって伸びることで、その重心Gdは半径方向の内側方向Riに移動する。一方、温度の上昇により、外側部分15eは支持された部分を基準として半径方向の外側方向Roに向かって伸びることで、その重心Gdは半径方向の外側方向Roに移動する。
【0031】
温度の上昇により、錘部材15が支持されている部分(突起15a)は支持部材14(環状の部分8)の膨張にしたがって半径方向の外側方向Roに移動する。そして、支持されている部分の外側方向Roへの移動に拘わらず支持部材14及び錘部材15の全体の重心が内側方向Riに移動するように、内側部分15dの長さL1と外側部分15eの長さL2とを設定しておくことにより、この調速装置1も、温度の上昇により慣性モーメントを小さくすることができる。
【0032】
なお、本発明における錘部材は、
図5の錘部材15のように、外側部分15eを有していてもよいが、外側部分15eを有しないもの(錘部材の半径方向の外側の端部で支持部材に支持されている形態:
図1,4に示した錘部材5)の方が、温度の上昇による半径方向の内側方向Riへの錘部材の重心の移動量が大きくなって好ましい。
【0033】
上述した実施形態の調速装置1は、錘部材5,15の半径方向に一様な形状であるが、一様な形状に限らず、半径方向の内側に向かうにしたがって幅が広くなったり、厚さが厚くなったりして重量が大きくなる形状を採用することもできる。このように、半径方向の内側に向かうにしたがって重量が大きくなる形状の錘部材によれば、温度の上昇により、重心が半径方向の内側に移動する量を、一様な幅、厚さの錘部材による重心の移動する量よりも大きくすることができる。
【0034】
上述した実施形態の調速装置1は、支持部材4及び錘部材5の重心Gが、温度の上昇にしたがって、てん真2の中心Oからの距離Rgが小さくなるように形成されているが、温度上昇により距離Rgが変化しないように形成されていてもよい。また、調速装置1は、温度上昇により、支持部材4(アーム部7)単体の重心G7の外側への移動量に比べて支持部材4及び錘部材5の重心Gの外側への移動量が小さくなるように形成されていてもよい。これらの場合、支持部材4及び錘部材5の慣性モーメントは、温度の上昇にしたがって小さくなるわけではないが、温度上昇に対する慣性モーメントの増大の割合が、支持部材4(アーム部7)単体での慣性モーメントの増大の割合よりも小さくなる。したがって、温度上昇による調速装置1の特性の変化を抑制することができる。
【0035】
以上説明した実施形態、変形例は、温度が上昇する場合であるが、温度が下降する場合は温度が上昇する場合とは反対に、ひげぜんまい3のばね定数が温度の下降に伴って大きくなり、支持部材24及び錘部材25の慣性モーメントが温度の下降に伴って大きくなる。
このように、本実施形態、変形例の調速装置1は、温度が下降したときも、支持部材24及び錘部材25の慣性モーメントが増大することにより、ひげぜんまい3のばね定数の増大による調速装置1の振動周期の変化を防止又は抑制することができる。
【0036】
[実施形態2]
図6は、第2の実施形態(実施形態2)の調速装置21における支持部材24のアーム部27と錘部材25とが、温度の上昇に応じて熱膨張したときの様子を示す
図2相当の断面図であり、(A)は熱膨張前の常温状態を示し、(B)は常温状態から温度が上昇したときの状態を表す。なお、
図6において、G27は支持部材24(特にアーム部27)の重心を示し、G25は錘部材25の重心を示し、Gは支持部材24及び錘部材25の重心を示す。
【0037】
上述した実施形態1及びその変形例の調速装置1は、ひげぜんまい3が、温度の上昇によりばね定数が低下する特性を有するものであるが、これとは反対に、ひげぜんまい3が、温度の上昇によりばね定数が大きくなる特性を有するものである場合は、本発明に係る調速装置の一実施形態として、
図6に示した調速装置21を適用することができる。
【0038】
すなわち、
図6に示した調速装置21は、
図3に示した支持部材4に代えて支持部材24を適用し、錘部材5に代えて錘部材25を適用し、ひげぜんまい3が、温度の上昇によりばね定数が大きくなる特性を有するものである。
支持部材24におけるアーム部27は、てん真2(
図1参照)を中心とした半径方向の外側に延びている。アーム部27は、内周側の端部に近い部分に内周壁27aが形成されている。
【0039】
錘部材25は、アーム部27に1か所だけ接合されて支持されている。具体的には、錘部材25の、てん真2に対して半径方向の内側の端部25bが、アーム部27の内周壁27aに接合されている。これにより、錘部材25は、温度の変化に応じた熱膨張、熱収縮する場合、アーム部27に支持された内側の端部25bを基準として、アーム部27に対して半径方向の外側に、拘束されずに伸縮する。
このように構成された調速装置21によれば、支持部材24及び錘部材25の重心Gの、てん真2の中心Oから距離Rgは、常温状態(
図6(A))よりも温度の上昇した状態(
図6(B))で大きくなる。
【0040】
そして、この距離Rgの増大の割合は、支持部材24単独の重心G27の距離の増大割合よりも大きくなる。
したがって、調速装置21は、支持部材24及び錘部材25の、てん真2を中心とする慣性モーメントが、温度の上昇にしたがって大きくなるが、この慣性モーメントが大きくなる割合が、支持部材24単独で慣性モーメントが大きくなる割合よりも大きい。
【0041】
このように、本実施形態の調速装置21は、温度の上昇により、ひげぜんまい3のばね定数が大きくなることによって調速装置21の振動周期を短くなる方向に変化させようとしても、支持部材24及び錘部材25の慣性モーメントの増大により、調速装置21の振動周期が短くなるのを防止又は抑制することができる。
なお、本実施形態の調速装置21は、温度が下降したときは、ひげぜんまい3のばね定数が小さくなることによって調速装置21の振動周期を長くなる方向に変化させようとしても、支持部材24及び錘部材25の慣性モーメントの低下により、調速装置21の振動周期が長くなるのを防止又は抑制することができる。
【0042】
[実施形態3]
本発明に係る調速装置は、特定の温度(例えば、常温)において、慣性モーメントを変動させることなく錘部材が支持部材に支持される部分を変えられるようにしてもよい。つまり、錘部材が支持部材に支持される候補となる部分(被支持候補部)を複数備えていて、それらの被支持候補部のうちから1つを選択して被支持部とすることで、被支持部から自由端までの長さを変えることができ、温度変化によって生じる慣性モーメントの変化の度合いを調整することが可能となる。
【0043】
図7は、本発明の第3の実施形態(実施形態3)である調速装置31における支持部材となるフレーム34と、4つの錘部材35とを示す斜視図であり、(A)は外側凸部35aが外側貫通孔39aに嵌め合わされた状態、(B)は中間凸部35bが中間貫通孔39bに嵌め合わされた状態、(C)は内側凸部35cが内側貫通孔39cに嵌め合わされた状態、をそれぞれ示す。
【0044】
実施形態3の調速装置31は、
図7に示すように、フレーム34及び錘部材35を備え、これらの他に、ひげぜんまい及びてん真を備えている。なお、これらひげぜんまい及びてん真は、実施形態1の調速装置1におけるひげぜんまい3及びてん真2と変わるところはないため、図示及び説明を省略する。
図8(A)はフレーム34の平面図、
図8(B)は錘部材35の側面図である。
【0045】
フレーム34は、例えばシリコン製で、
図8(A)に示すように、中心部に略円筒状に形成された、てん真が固定される基部36と、基部36の中心O回りに角度90[度]間隔で半径方向に放射状に延びた4つのアーム37とを備えている。
また、フレーム34は、4つのアーム37の外側端を結ぶ、Oを中心とする円環状の内側リム38cと、内側リム38cと同心で、内側リム38cの外側に形成された中間リム38bと、中間リム38bと同心で、中間リム38bの外側に形成された外側リム38aとを備えている。
【0046】
ここで、アーム37と内側リム38cとは、各アーム37の外側端部に形成された第1接合部39hによって接合されている。また、内側リム38cと中間リム38bとは、各第1接合部39hに対して、中心O回りの角度θだけずれた位置に形成された4つの第2接合部39gによって接合されている。
さらに、中間リム38bと外側リム38aとは、各第2接合部39gに対して、中心O回りの角度θだけずれた位置に形成された4つの第3接合部39fによって接合されている。
【0047】
なお、角度θは特定の値に限定されることはないが、第1接合部39h、第2接合部39g及び第3接合部39fが半径方向に一直線上に並ばないように設定される。本例の場合の角度θは、0[度]の他、90[度]の倍数にならないように設定され、例えば、30[度]に設定されている。
各接合部39f,39g,39hには、それぞれ貫通孔39a,39b,39c(結合構造)が形成されている。これら3つの貫通孔39a,39b,39cは、半径方向の、中心Oから異なる距離の3つの位置で錘部材35を支持する支持候補部となっている。
なお、貫通孔39aを外側貫通孔39a、貫通孔39bを中間貫通孔39b、貫通孔39cを内側貫通孔39cということがある。
【0048】
錘部材35は、例えば銅製で、例えばシリコン製のフレーム34に比べて、温度の変化に応じた熱膨張率が大きい。
錘部材35は、
図8(B)に示すように矩形の板状に形成され、下面には、貫通孔39a,39b,39cに対応して嵌め合わされる被支持候補部として3つの凸部35a,35b,35c(結合構造)が形成されている。
3つの凸部35a,35b,35cのうち、図示左側の自由端35d(以下、内側自由端35dという。)に近い凸部35cを内側凸部35c、図示真ん中の凸部35bを中間凸部35b、図示右側の自由端35e(以下、外側自由端35eという。)に近い凸部35aを外側凸部35aということがある。
【0049】
ここで、凸部35aと凸部35bとの間隔は、貫通孔39aと貫通孔39bとの、Oを中心とする半径方向の距離の差と同じである。同様に、凸部35bと凸部35cとの間隔は、貫通孔39bと貫通孔39cとの、Oを中心とする半径方向の距離の差と同じである。
3つの貫通孔39a,39b,39cのうち選択されたいずれか1つの貫通孔39a,39b,39cを支持部とし、この選択された1つの貫通孔39a,39b,39cに対応した1つの凸部35a,35b,35cを被支持部とする。
【0050】
支持部として選択されたいずれか1つの貫通孔39a(又は貫通孔39b、貫通孔39c)に、その貫通孔39a(又は貫通孔39b、貫通孔39c)に対応して被支持部とされた1つの凸部35a(又は凸部35b、凸部35c)が嵌め合わされることで、フレーム34と錘部材35とが結合されて錘部材35はフレーム34に支持される。
具体的には、外側貫通孔39aには外側凸部35aが対応し、中間貫通孔39bには中間凸部35bが対応し、内側貫通孔39cには内側凸部35cが対応している。
図9は、
図7に示した各状態における断面図であり、(A)は
図7(A)のC−C線に沿った断面に対応し、(B)は
図7(B)のD−D線に沿った断面に対応し、(C)は
図7(C)のE−E線に沿った断面に対応する。
【0051】
図7(A)に示すように外側貫通孔39aが選択されたときは、外側貫通孔39aに外側凸部35aが嵌め合わされて結合された状態で半径方向に延びた姿勢の錘部材35は、
図9(A)に示すように、他の凸部35b,35cはフレーム34に拘束されない。つまり、錘部材35は、外側凸部35aのみでフレーム34に支持されている。
【0052】
したがって、温度の上昇により錘部材35が伸縮するときは、外側凸部35aを基準として内側自由端35dが半径方向の内側に向けて伸び、錘部材35の重心は半径方向の内側に移動する。一方、フレーム34は、中心Oを基準にして半径方向の外側に向けて伸びるが、錘部材35の熱膨張率はフレーム34の熱膨張率よりも大きいため、錘部材35の内側自由端35dが半径方向の内側に移動することになり、フレーム34と錘部材35との全体の質量の分布は中心Oに近づく方向に移動する。
【0053】
この結果、フレーム34と錘部材35との全体の慣性モーメントは、温度上昇前よりも小さくなる。
よって、ひげぜんまいのばね定数が温度の上昇により小さくなる温度特性を有するものであるとき、温度の上昇によりひげぜんまいの振動周期は長くなるが、温度の上昇によりフレーム34と錘部材35との全体の慣性モーメントが小さくなるため、ひげぜんまいの温度特性を打ち消す方向に、調速装置31の歩度が調整される。
【0054】
図7(B)に示すように中間貫通孔39bが選択されたときは、、中間貫通孔39bに中間凸部35bが嵌め合わされて結合された状態で半径方向に延びた姿勢の錘部材35は、
図9(B)に示すように、他の凸部35a,35cはフレーム34に拘束されない。つまり、錘部材35は、中間凸部35bのみでフレーム34に支持されている。
【0055】
したがって、温度の上昇により錘部材35が伸縮するときは、中間凸部35bを基準として内側自由端35dが半径方向の内側に向けて伸び、外側自由端35eが半径方向の外側に向けて伸びる。中間凸部35bから内側自由端35dまでの距離R2は、中間凸部35bから外側自由端35eまでの距離R3よりも長いため、錘部材25の重心は中心Oに近づく方向に移動する。
一方、フレーム34は、中心Oを基準にして半径方向の外側に向けて伸びるが、錘部材35の熱膨張率はフレーム34の熱膨張率よりも大きいため、フレーム34と錘部材35との全体の質量の分布は中心Oに近づく方に移動する。
【0056】
この結果、フレーム34と錘部材35との全体の慣性モーメントは、温度上昇前よりも小さくなる。
よって、ひげぜんまいのばね定数が温度の上昇により小さくなる温度特性を有するものであるとき、温度の上昇によりひげぜんまいの振動周期は長くなるが、温度の上昇によりフレーム34と錘部材35との全体の慣性モーメントが小さくなるため、ひげぜんまいの温度特性を打ち消す方向に、調速装置31の歩度が調整される。
【0057】
図7(C)に示すように内側貫通孔39cが選択されたときは、、内側貫通孔39cに内側凸部35cが嵌め合わされて結合された状態で半径方向に延びた姿勢の錘部材35は、
図9(C)に示すように、他の凸部35a,35bはフレーム34に拘束されない。つまり、錘部材35は、内側凸部35cのみでフレーム34に支持されている。
【0058】
したがって、温度の上昇により錘部材35が伸縮するときは、内側凸部35cを基準として内側自由端35dが半径方向の内側に向けて伸び、外側自由端35eが半径方向の外側に向けて伸びる。内側凸部35cから内側自由端35dまでの距離R4は、内側凸部35cから外側自由端35eまでの距離R5よりも長いため、錘部材25の重心は中心Oに近づく方向に移動する。
一方、フレーム34は、中心Oを基準にして半径方向の外側に向けて伸びるが、錘部材35の熱膨張率はフレーム34の熱膨張率よりも大きいため、フレーム34と錘部材35との全体の質量の分布は中心Oに近づく方に移動する。
【0059】
この結果、フレーム34と錘部材35との全体の慣性モーメントは、温度上昇前よりも小さくなる。
よって、ひげぜんまいのばね定数が温度の上昇により小さくなる温度特性を有するものであるとき、温度の上昇によりひげぜんまいの振動周期は長くなるが、温度の上昇によりフレーム34と錘部材35との全体の慣性モーメントが小さくなるため、ひげぜんまいの温度特性を打ち消す方向に、調速装置31の歩度が調整される。
【0060】
ここで、本実施形態3の調速装置31は、通常使用される温度(伸縮が無い基準の状態となる温度。例えば常温)では、フレーム34と錘部材35とが結合されている部分が外側貫通孔39aと外側凸部35aとの組み合わせであるか、又は中間貫通孔39bと中間凸部35bとの組み合わせであるか、又は内側貫通孔39cと内側凸部35cとの組み合わせであるかの別に拘わらず、フレーム34の半径方向における錘部材35の位置は同じである。したがって、上述した3つの組み合わせでの、フレーム34と錘部材35との全体の慣性モーメントは同じになる。
【0061】
一方、上述した3つの組み合わせでの、温度が上昇した状態での慣性モーメントが小さくなる度合いは、結合する部分に応じて異なる。
すなわち、温度が上昇した状態では、外側貫通孔39aと外側凸部35aとが結合されている場合に、伸びの基準となる部分(外側凸部35a)から内側自由端35dまでの距離R1が他の組み合わせの場合に比べて最も長い。また、伸びの基準となる部分(外側凸部35a)から外側自由端35eまでの距離は略ゼロである。したがって、外側貫通孔39aと外側凸部35aとが結合されている場合に、他の組み合わせの場合よりも慣性モーメントの小さくなる度合いが最も大きい。
【0062】
また、内側貫通孔39cと内側凸部35cとが結合されている場合に、伸びの基準となる部分(内側凸部35c)から内側自由端35dまでの距離R4が他の組み合わせの場合に比べて最も短い。しかも、伸びの基準となる部分(内側凸部35c)から外側自由端35eまでの距離R5が他の組み合わせの場合に比べて最も長い。したがって、内側貫通孔39cと内側凸部35cとが結合されている場合に、他の組み合わせの場合よりも慣性モーメントの小さくなる度合いが最も小さい。
【0063】
また、中間貫通孔39bと中間凸部35bとが結合されている場合に、伸びの基準となる部分(中間凸部35b)から内側自由端35dまでの距離R2が、上記2つの組み合わせの中間の長さになる。しかも、伸びの基準となる部分(中間凸部)から外側自由端35eまでの距離R3も上記2つの組み合わせの中間の長さになる。したがって、中間貫通孔39bと中間凸部35bとが結合されている場合に、慣性モーメントの小さくなる度合いは他の組み合わせの場合の中間の度合いとなる。
【0064】
このように、本実施形態3の調速装置31によれば、貫通孔39a,39b,39cと、その貫通孔39a,39b,39cに対応した凸部35a,35b,35cとの組み合わせを選択することができ、これにより、フレーム34と錘部材35とが組み合わされるひげぜんまいの温度特性による歩度の変動を打ち消すのに適した慣性モーメントの変動を選択することができる。したがって、調速装置31の歩度の調整作業を容易にすることができる。
【0065】
なお、貫通孔39a,39b,39cと凸部35a,35b,35cとは着脱可能であるため、上述した3つの組み合わせを試して最も適した組み合わせが確認された後に、その組み合わせで嵌め合わされた貫通孔39a(又は貫通孔39b、貫通孔39c)と凸部35a(又は凸部35b、凸部35c)とに、接着剤を塗布するなどして両者を固着させればよい。
【0066】
また、本実施形態3の調速装置31は、フレーム34に対して、錘部材35を、内外反対向きに接合させることもできる。すなわち、
図9において、錘部材35の内側自由端35dを半径方向の外側に向け、錘部材35の外側自由端35eを半径方向の内側に向けた姿勢として、貫通孔39aと凸部35cとを接合し、又は貫通孔39bと凸部35bとを接合し、又は貫通孔39cと凸部35aとを接合することが可能である。
この場合、調速装置31は、ひげぜんまいが温度の上昇により振動周期が短くなる温度特性を有している場合に、フレーム34と錘部材35との全体の慣性モーメントを、ひげぜんまいの温度特性による歩度の変動を打ち消す方向に調整することができる。
【0067】
実施形態3の調速装置31は、支持部材であるフレーム34と錘部材35とがそれぞれ、これらフレーム34と錘部材35とを互いに結合する結合構造の一例としての貫通孔39a,39b,39cと凸部35a,35b,35cとを、その一部として有しているため、フレーム34と錘部材35とを結合させる結合部材を別途備える必要が無い。
【0068】
[実施形態4]
実施形態3の調速装置31は、支持部材であるフレーム34と錘部材35とがそれぞれ、これらフレーム34と錘部材35とを互いに結合する結合構造の一例としての貫通孔39a,39b,39cと凸部35a,35b,35cとを、その一部として有するものである。
しかし、本発明に係る調速装置は、支持部材と錘部材とがそれ自体の一部として結合構造を備えないものであってもよい。すなわち、本発明に係る調速装置は、支持部材と錘部材とを結合する結合部材を、これら支持部材と錘部材とは別体で備えていてもよい。
【0069】
図10は、本発明の第4の実施形態(実施形態4)である調速装置40における支持部材となるフレーム44と、4つの錘部材45とを示す斜視図である。
実施形態4の調速装置40は、
図10に示すように、フレーム44及び錘部材45を備え、これらの他に、ひげぜんまい及びてん真を備えている。なお、これらひげぜんまい及びてん真は、実施形態1の調速装置1におけるひげぜんまい3及びてん真2と変わるところはないため、図示及び説明を省略する。
【0070】
フレーム44は、例えばシリコン製で、中心部に略円筒状に形成された、てん真が固定される基部46と、基部46の中心Oを中心とするリング状のリム48と、中心O回りに角度90[度]間隔で、リム48から半径方向内側に向けて延びた4つのアーム49とを備えている。
【0071】
4つのアーム49はそれぞれ、半径方向の中心Oから遠い位置に形成された貫通孔49aと中心Oに近い位置に形成された貫通孔49bとを有している。これら2つの貫通孔49a,49bは、半径方向の、中心Oから異なる距離の2つの位置で錘部材45を支持する支持候補部となっている。
以下、貫通孔49aを外側貫通孔49a、貫通孔49bを内側貫通孔49bということがある。
なお、各貫通孔49a,49bには、後述する固定用ねじ41,42が組み合わされる雌ねじが形成されている。
【0072】
錘部材45は、例えば銅製で、例えばシリコン製のフレーム44に比べて、温度の変化に応じた熱膨張率が大きい。
錘部材45は、矩形の板状に形成され、貫通孔49a,49bにそれぞれ対応する貫通孔45a,45bが形成されている。
以下、貫通孔45aを外側貫通孔45a、貫通孔45bを内側貫通孔45bということがある。
【0073】
ここで、貫通孔45aと貫通孔45bとの間隔は、貫通孔49aと貫通孔49bとの間隔と同じである。
2つの貫通孔49a,49bのうち選択されたいずれか1つの貫通孔49a,49bを支持部とし、この選択された1つの貫通孔49a,49bに対応した1つの貫通孔45a,45bを被支持部とする。
また、調速装置40は、支持部となる貫通孔49a又は貫通孔49bと、被支持部となる貫通孔45a又は貫通孔45bとを結合する、フレーム44と錘部材45とは別体の固定用ねじ41,42(結合部材)を備えている。
【0074】
以下、固定用ねじ41を外側固定用ねじ41、固定用ねじ42を内側固定用ねじ42ということがある。
外側固定用ねじ41は、フレーム44の外側貫通孔49a及び錘部材45の外側貫通孔45aに対応していて、錘部材45の側から錘部材45の外側貫通孔45aを通してフレーム44の外側貫通孔49aに形成された雌ねじと締結される。これにより、フレーム44と錘部材45とが結合される。
【0075】
内側固定用ねじ42は、フレーム44の内側貫通孔49b及び錘部材45の内側貫通孔45bに対応していて、錘部材45の側から錘部材45の内側貫通孔45bを通してフレーム44の内側貫通孔49bに形成された雌ねじと締結される。これにより、フレーム44と錘部材45とが結合される。
外側固定用ねじ41は、内側固定用ねじ42に比べて小さい質量で形成されている。なお、外側固定用ねじ41と内側固定用ねじ42とは、その頭部の大きさのみが異なり、軸部及びねじ部は同じであってもよい。
【0076】
図11(A)は4つの外側固定用ねじ41のみによってフレーム44と錘部材45とが結合された状態を示す斜視図、
図11(B)は4つの内側固定用ねじ42のみによってフレーム44と錘部材45とが結合された状態を示す斜視図である。
調速装置40は、外側固定用ねじ41と内側固定用ねじ42との両方でフレーム44と錘部材45とが結合されるのではなく、
図11(A)に示すように4つの外側固定用ねじ41のみによってフレーム44と錘部材45とが結合されるか、又は
図11(B)に示すように4つの内側固定用ねじ42のみによってフレーム44と錘部材45とが結合される。
【0077】
そして、外側固定用ねじ41が、錘部材45の外側貫通孔45aを通してフレーム44の外側貫通孔49aに締結された状態(
図11(A)参照)での、外側固定用ねじ41、錘部材45及びフレーム44の全体の慣性モーメントと、内側固定用ねじ42が、錘部材45の内側貫通孔45bを通してフレーム44の内側貫通孔49bに締結された状態(
図11(B)参照)での、内側固定用ねじ42、錘部材45及びフレーム44の全体の慣性モーメントとが同じになるように、外側固定用ねじ41と内側固定用ねじ42との質量差が設定されている。
【0078】
図12は、
図11に示した各状態における断面図であり、(A)は
図11(A)のF−F線に沿った断面に対応し、(B)は
図11(B)のG−G線に沿った断面に対応する。
まず、
図11(A)に示すように、フレーム44と錘部材45とが、外側貫通孔49aと外側貫通孔45aとの部分で外側固定用ねじ41により結合されている場合について説明する。
【0079】
この場合、温度の上昇により錘部材45が伸びるとき、
図12(A)に示すように、外側貫通孔45aを基準として内側自由端45cが半径方向の内側に向けて伸び、外側貫通孔45aを基準として外側自由端45dが半径方向の外側に向けて伸びる。外側貫通孔45aから内側自由端45cまでの距離R6に比べて、外側貫通孔45aから外側自由端45dまでの距離は略ゼロであるから、錘部材45の重心は半径方向の内側に移動する。
【0080】
一方、フレーム44は、中心Oを基準にして半径方向の外側に向けて伸びるが、錘部材45の熱膨張率はフレーム44の熱膨張率よりも大きいため、錘部材45の内側自由端45cが半径方向の内側に移動することになり、フレーム44と錘部材45と外側固定用ねじ41との全体の質量の分布は中心Oに近づく方向に移動する。
【0081】
この結果、フレーム44と錘部材45と外側固定用ねじ41との全体の慣性モーメントは、温度上昇前よりも小さくなる。
よって、ひげぜんまいのばね定数が温度の上昇により小さくなる温度特性を有するものであるとき、温度の上昇によりひげぜんまいの振動周期は長くなるが、温度の上昇によりフレーム44と錘部材45と外側固定用ねじ41との全体の慣性モーメントが小さくなるため、ひげぜんまいの温度特性を打ち消す方向に、調速装置40の歩度が調整される。
【0082】
次に、
図11(B)に示すように、フレーム44と錘部材45とが、内側貫通孔49bと内側貫通孔45bとの部分で内側固定用ねじ42により結合されている場合について説明する。
【0083】
この場合、温度の上昇により錘部材45が伸びるとき、
図12(B)に示すように、内側貫通孔45bを基準として内側自由端45cが半径方向の内側に向けて伸び、外側自由端45dが半径方向の外側に向けて伸びる。内側貫通孔45bから内側自由端45cまでの距離R7は、内側貫通孔45bから外側自由端45dまでの距離R8よりも短いため、錘部材45の重心は中心Oから遠ざかる方向に移動する。
これにより、フレーム44と錘部材45と内側固定用ねじ42との全体の質量の分布は中心Oから遠ざかる方向に移動する。
【0084】
この結果、フレーム44と錘部材45と内側固定用ねじ42との全体の慣性モーメントは、温度上昇前よりも大きくなる。
よって、ひげぜんまいのばね定数が温度の上昇により大きくなる温度特性を有するものであるとき、温度の上昇によりひげぜんまいの振動周期は短くなるが、温度の上昇によりフレーム44と錘部材45と内側固定用ねじ42との全体の慣性モーメントが大きくなるため、ひげぜんまいの温度特性を打ち消す方向に、調速装置40の歩度が調整される。
【0085】
ここで、本実施形態4の調速装置40は、通常使用される温度(伸縮が無い基準の状態となる温度。例えば常温)では、フレーム44と錘部材45とが、外側固定用ねじ41による外側貫通孔49aと外側貫通孔45aとの組み合わせの結合であるか、又は内側固定用ねじ42による内側貫通孔49bと内側貫通孔45bとの組み合わせの結合であるかの別に拘わらず、フレーム44と錘部材45と外側固定用ねじ41又は内側固定用ねじ42との全体の慣性モーメントは同じである。
【0086】
一方、上述した2つの組み合わせでの、温度が上昇した状態での慣性モーメントの変動方向は、両者で反対となる。
このように、本実施形態4の調速装置40によれば、フレーム44の貫通孔49a,49bと、その貫通孔49a,49bに対応した錘部材45の貫通孔45a,45bと、固定用ねじ41,42との組み合わせを選択することができる。これにより、フレーム44と錘部材45と固定用ねじ41又は固定用ねじ42とが組み合わされるひげぜんまいの温度特性による歩度の変動を打ち消すのに適した慣性モーメントの変動を選択することができる。したがって、調速装置40の歩度の調整作業を容易にすることができる。
【0087】
なお、貫通孔49a,49bと貫通孔45a,45bと固定用ねじ41又は固定用ねじ42との組み合わせは着脱可能であるため、上述した2つの組み合わせを試して適した組み合わせが確認された後に、その組み合わせで組み合わされた貫通孔49a(又は貫通孔49b)と貫通孔45a(又は貫通孔45b)と固定用ねじ41(又は固定用ねじ42)とに、接着剤を塗布するなどして固着させればよい。
【0088】
また、本実施形態4の調速装置40は、フレーム44と錘部材45とは別体の固定用ねじ41又は固定用ねじ42で結合されるため、フレーム44及び錘部材45に、フレーム44と錘部材45とを互いに結合させる結合構造を形成する必要が無い。
なお、上述した各実施形態及び変形例の調速装置1,21,31,40におけるひげぜんまいは、シリコンで形成されたもの以外に、例えば金属で形成されたものであってもよい。