(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
風力発電や太陽光発電に代表される再生可能エネルギーに接続する系統電力の安定化、燃料コスト削減及び環境負荷低減を目的に、蒸気タービン発電プラントの起動時間の更なる短縮が求められている。
【0003】
蒸気タービンの起動時には、蒸気の温度や流量が急激に上昇する結果、タービンロータの表面が内部と比較して昇温し、半径方向の温度勾配が大きくなることで熱応力が増大する。この熱応力によってタービンロータに蓄積される低サイクル熱疲労がタービンロータ材料の限界値を超えると、タービンロータにクラックが発生し得る。各起動停止サイクルの間にタービンロータに蓄積される低サイクル熱疲労は、熱応力によるタービンロータ寿命の減少分、すなわち寿命消費率(LC)で定義することができる。ここで、寿命消費率は、低サイクル熱疲労によってタービンロータにクラックが発生し得る時点を100%とする。
【0004】
一回の起動中に発生した熱応力ピーク値(σmax)と、その起動によるタービンロータの寿命消費量(LC)とには、一定の相関がある。蒸気タービンの停止時間が長くなると、自然冷却によりタービンロータ内部の温度が低下する。その結果、起動時の熱応力が増加し、それに応じて寿命消費率が上昇する。従って、寿命消費率の上昇を抑えるためには、起動時間を長くして熱応力の増加を抑える必要がある。
【0005】
発電プラントの運用開始時には、当該発電プラントの運用年数以内に寿命消費率の積算値が100%を超えないように、当年度の年間起動回数及び起動1回当たりの標準的な寿命消費率(寿命消費率計画値)が決定され、この寿命消費率計画値に基づいて熱応力制限値が設定される。
【0006】
発電プラントの起動制御は、予め設定された起動スケジュールに基づいて行われる。起動スケジュールは、起動開始から目標負荷到達までの、ボイラー点火、蒸気タービン起動、タービン昇速、ヒートソーク、負荷上昇、負荷保持等開始時刻及びタービン回転速度上昇率、発電機出力上昇率、ヒートソーク時間、負荷保持時間等の起動制御パラメータからなり、起動中の熱応力ピーク値が熱応力制限値を超えないように設定される。
【0007】
発電プラントの制御方法に関する従来技術として、特許文献1及び特許文献2に記載のものがある。
【0008】
特許文献1に開示されている発電プラントの運転最適化方法及び運転最適化システムによれば、発電プラントの各機器の運転制限値およびプラントの環境規制値の双方または何れか一方の制約条件を満たし、複数の評価指標である目的関数を勘案して、発電プラント運転時の操作量を求める多目的最適化問題において、技術者や運転員である意思決定者の経験や試行錯誤による繰り返し計算を少なくし、かつ短い計算時間で意思決定者が満足する最適な操作量を求めることができる。
【0009】
また、特許文献2に開示されている火力発電プラント起動時運転支援装置によれば、起動完了時刻(併入時刻または目標負荷到達時刻)を正確に守り、かつタービン起動時最も重要な運転制約条件である熱応力を規定値内におさえ、起動所要時間(略して起動時間と呼ぶ)を最短にできる起動スケジュールを作成できる。また、異常発生など予期せぬ原因でスケジュールのずれが発生しても、原因が解消した後はターピン熱応力予測に基づいて元のスケジュールに可能な限り近いスケジュールを作成できるため、起動完了時刻のずれを最小に止めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。なお、各図中、同一の部分には同一の符号を付し、重複した説明は適宜省略する。
【0018】
(第1の実施例)
図1は、本発明の第1の実施例に係る蒸気タービン発電プラント(以下単に「発電プラント」という。)の概略構成図である。
【0019】
図1において、発電プラント200は、熱源装置201と、蒸気発生装置202と、蒸気タービン203と、発電機204と、熱源媒体量調整装置214と、主蒸気加減弁215と、蒸気タービン起動制御装置(以下単に「起動制御装置」という。)1とを備えている。本実施例では、熱源装置201がガスタービンである場合、すなわち発電プラント200がコンバインドサイクル発電プラントである場合を例に説明する。
【0020】
熱源装置201では、熱源媒体205(本例ではガス燃料、液体燃料、水素含有燃料等の燃料)に保有される熱量により低温媒体206(本例では燃料とともに燃焼される空気)が加熱され、高温媒体207(本例ではガスタービン201を駆動した燃焼ガス)として蒸気発生装置202に供給される。
【0021】
蒸気発生装置202(本例では排熱回収ボイラ)では、熱源装置201で生成した高温媒体207の保有熱との熱交換により給水が加熱されて蒸気208が発生し、この蒸気208によって蒸気タービン203が駆動される。蒸気タービン203には発電機204が同軸に連結されており、この発電機204によって蒸気タービン203の回転駆動力が電力に変換される。発電機204の発電電力は、例えば電力系統(図示せず)に出力される。蒸気タービン203には温度計213が設けられており、この温度計213によって蒸気タービン203の初段のケーシング等のメタル温度が計測される。
【0022】
熱源媒体量調整装置214(本例では燃料調整弁)は、熱源装置201に対する熱源媒体205の供給経路に設けられ、熱源装置201に供給する熱源媒体量を調整する。熱源媒体量調整装置214は、発電プラント200のプラント負荷を調整する調整装置として機能する。また、熱源媒体205の供給経路には、熱源媒体量調整装置214の下流側に流量計211が設けられており、この流量計211によって熱源装置201に対する熱源媒体205の供給量が計測される。
【0023】
主蒸気加減弁215は、蒸気発生装置202と蒸気タービン203とを接続する主蒸気配管に設けられ、蒸気タービン203に供給する蒸気流量を調節する。主蒸気加減弁215は、発電プラント200のプラント負荷を調整する調整装置として機能する。また、主蒸気配管には、主蒸気加減弁215の下流側(蒸気タービン203側)の位置に圧力計212が設けられ、この圧力計212によって主蒸気配管を流れる主流蒸気の圧力が計測される。
【0024】
起動制御装置1は、起動制御パラメータ記憶部2と、起動スケジュール計算部3と、画面表示部5と、指示入力部6と、機器操作量計算部7と、機器状態量取得部8とを備えている。
【0025】
起動制御パラメータ記憶部2は、起動パターン、起動制御パラメータ及び制約条件を記憶している。
【0026】
起動スケジュール計算部3は、機器状態予測プログラム4に従って動作し、起動制御パラメータ記憶部2に記憶されている起動パターン、起動制御パラメータ及び制約条件と、機器状態量取得部8から入力される機器状態量とに基づき、発電プラント200の現行の起動スケジュールを計算すると共に、当該制約条件とは異なる制約条件に基づいた起動スケジュール変更案を計算する。
【0027】
画面表示部5は、起動スケジュール計算部3で計算された現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案のそれぞれの起動完了予定時刻を表示する。
【0028】
指示入力部6は、オペレータ(操作者)による入力操作に応じて、現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案への切替指令を起動スケジュール計算部3に出力する。
【0029】
機器操作量計算部7は、起動スケジュール計算部3から入力された現行の起動スケジュールに基づいてプラント機器類の操作量(以下「機器操作量」という。)を計算し、当該機器操作量に対応する制御信号11をプラント機器類に出力する。本実施例におけるプラント機器類は、熱源媒体量調整装置214及び主蒸気加減弁215である。
【0030】
機器状態量取得部8は、プラント計器類から入力された計測信号12を機器状態量に変換し、起動スケジュール計算部3に出力する。本実施例におけるプラント計器類は、熱源媒体205の供給経路に設けられた流量計211、蒸気発生装置202と蒸気タービン203とを接続する主蒸気配管に設けられた圧力計212、及び蒸気タービン203に設けられた温度計213である。
【0031】
図2は、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案のそれぞれの出力曲線及び熱応力曲線を示す図である。以下、制約条件として熱応力制限値を用いた場合の例を説明する。
【0032】
図2(a)及び(b)において、実線で示す出力曲線21及び熱応力曲線34は、熱応力制限値31を制約条件とする現行の起動スケジュールを起動開始から現在点まで実行した結果を示し、破線で示す出力曲線22及び熱応力曲線35は、現行の起動スケジュールを現在点から起動完了まで実行した場合の予測を示す。一点鎖線で示す出力曲線23及び熱応力曲線36は、熱応力制限値32を制約条件とする起動スケジュールの変更案(以下「起動スケジュール変更案A」という。)を現在点から起動完了まで実行した場合の予測を示す。二点鎖線で示す出力曲線24及び熱応力曲線37は、熱応力制限値33を制約条件とする起動スケジュールの変更案(以下「起動スケジュール変更案B」という。)を現在点から起動完了まで実行した場合の予測を示す。
【0033】
現在点以降、制約条件として熱応力制限値31を維持した場合(現行の起動スケジュールを継続した場合)は、熱応力曲線35で示すように熱応力は熱応力制限値31以下に抑えられ、出力曲線22で示すように起動完了予定時刻25において発電プラント200の出力が100%に達する(起動が完了する)と予測される。
【0034】
それに対して、現在点以降、制約条件を熱応力制限値31から熱応力制限値32まで緩めた場合(現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案Aに切り替えた場合)は、熱応力曲線36で示すように熱応力は熱応力制限値32まで許容され、出力曲線23で示すように起動完了予定時刻26において発電プラント200の出力が100%に達する(起動が完了する)と予測される。さらに、制約条件を熱応力制限値31から熱応力制限値33まで緩めた場合(現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案Bに切り替えた場合)は、熱応力曲線37で示すように熱応力は熱応力制限値33まで許容され、出力曲線24で示すように起動完了予定時刻27において発電プラント200の出力が100%に達する(起動が完了する)と予測される。すなわち、起動制御装置1は、起動スケジュールの制約条件を緩めることで、起動完了予定時刻を早めることができる。
【0035】
また、起動スケジュール計算部3は、現在点から起動完了までの熱応力曲線35〜37、現在点から起動完了までの出力曲線22〜24及び起動完了予定時刻25〜27の計算に現在点の機器状態量を反映させることにより、これらの精度を向上させることができる。
【0036】
本実施例では、起動スケジュール計算部3が、熱応力制限値31と現在点の機器状態量とに基づいて現行の起動スケジュールを計算すると共に、熱応力制限値31とは異なる熱応力制限値32,33と現在点の機器状態量とに基づいて起動スケジュール変更案A,Bを計算する。
【0037】
ここで、起動スケジュール変更案A,Bの熱応力制限値32,33を設定する簡便な方法として、現行の起動スケジュールの熱応力制限値31を定数倍(例えば1.1倍、1.2倍)したものを熱応力制限値32,33とするという方法が考えられるが、本実施例では、現行の起動スケジュールの起動完了予定時刻25を所定時間分(例えば10分、20分)だけ早めた時刻を起動スケジュール変更案A,Bの起動完了予定時刻26,27として設定し、これら起動完了予定時刻26,27に基づいて計算した起動スケジュール変更案A,Bの熱応力ピーク値σmaxを熱応力制限値32,33とするという方法を用いる。これにより、オペレータは、所定の時間単位(例えば10分単位)で起動完了予定時刻を早めることが可能となる。
【0038】
なお、熱応力制限値32,33の計算方法としては、起動完了予定時刻26,27から熱応力制限値32,33を逆算する関数の生成は困難であるため、熱応力制限値を現行の熱応力制限値31から少しずつ増やしながら起動スケジュール変更案の計算を繰り返し、起動完了予定時刻が起動完了予定時刻26,27と一致するときの熱応力制限値を熱応力制限値32,33とするという方法を用いる。
【0039】
図3は、本実施例に係る画面表示部5に表示される起動スケジュール選択画面の一例を示す図である。
【0040】
図3において、起動スケジュール選択画面5aには、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの起動完了予定時刻と、現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれへの切替を指示する選択ボタン51,52とが表示される。なお、本実施例では、2つの起動スケジュール変更案を計算する構成としたが、本発明はこれに限定されず、3つ以上の起動スケジュール変更案を計算する構成としてもよい。
【0041】
図4は、起動制御装置1の動作フローを示す図である。
【0042】
図4において、起動制御装置1は、プラント起動前の待機処理(ステップ101)を実行中にプラント起動の命令を受けると、機器状態量取得部8で機器状態量を取得し(ステップ102)、起動スケジュール計算部3で現行の起動スケジュール(起動完了予定時刻25を含む)を計算する(ステップ103)。ステップ103に続いて、起動スケジュール計算部3で、現行の起動スケジュールと機器状態量とに基づき、発電プラント200が起動完了状態にあるか否かを判定する(ステップ104)。
【0043】
ステップ104でYes(起動完了状態にある)と判定された場合は、起動制御装置1は動作を終了する(ステップ110)。
【0044】
一方、ステップ104でNo(起動完了状態にない)と判定された場合は、機器操作量計算部7で機器操作量を計算し、当該機器操作量に対応する制御信号11を熱源媒体量調整装置214及び主蒸気加減弁215に出力する(ステップ105)。
【0045】
ステップ105に続いて、起動スケジュール計算部3で、現行の制約条件(熱応力制限値31)とは異なる制約条件(熱応力制限値32,33)と機器状態量とに基づき、起動スケジュール変更案A,B(起動完了予定時刻26,27を含む)を計算する(ステップ106)。
【0046】
ステップ106に続いて、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの起動完了予定時刻25〜27を画面表示部5に表示させると共に、信号待ち受け処理を実行する(ステップ107)。
【0047】
信号待ち受け処理(ステップ107)の実行中、プラント機器類(熱源媒体量調整装置214及び主蒸気加減弁215)の制御信号出力タイミングを考慮して予め設定された一定時間毎にステップ105に移行し(経路a)、ステップ105以降の処理を前述の通り実行する。
【0048】
また、信号待ち受け処理(ステップ107)の実行中、プラント計器類211〜213の計測タイミングを考慮して予め設定された一定時間毎にステップ102に移行し(経路b)、ステップ102以降の処理を前述の通り実行する。
【0049】
また、信号待ち受け処理(ステップ107)の実行中、指示入力部6に対して入力操作が行われると、ステップ108に移行し(経路c)、起動スケジュール変更案A又はBへの切替指示を受け付け(ステップ108)、起動制御パラメータ記憶部2に記憶されている制約条件(熱応力制限値31)を、切替対象の起動スケジュール変更案A又はBに対応する制約条件(熱応力制限値32又は33)で更新する(ステップ109)。ステップ109に続いて、ステップ103以降の処理を前述の通り実行する。
【0050】
本実施例によれば、所望の起動完了予定時刻26,27に応じて設定された熱応力制限値32,32と現在点の機器状態量とに基づいて起動スケジュール変更案A,Bが計算されるため、発電プラント200の起動途中で簡便かつ安全に起動完了予定時刻25を所望の起動完了予定時刻26又は27に変更することが可能となる。これにより、オペレータは、発電プラント200の起動途中で電力需給等の変化に柔軟に対応することができる。
【0051】
(第2の実施例)
次に、本発明の第2の実施例を説明する。
【0052】
本実施例が第1の実施例と相違する点は、画面表示部5(
図1参照)に、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれについて、蒸気タービン203(
図1参照)が備えるタービンロータ(図示せず)の寿命消費率を表示させる点である。
【0053】
図5は、本実施例に係る画面表示部5に表示される起動スケジュール選択画面の一例を示す図である。
【0054】
図5において、起動スケジュール選択画面5aには、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの起動完了予定時刻及び寿命消費率が表示される。
【0055】
以下、寿命消費率の計算方法を説明する。
【0056】
図6は、一回の起動中に発生した熱応力の最大値(以下「熱応力ピーク値」という。)と寿命消費率との相関(以下「寿命消費率曲線」という。)を示す図である。ここでいう寿命消費率とは、熱応力によるタービンロータ寿命の減少分を示す指標であり、熱応力により発生する低サイクル熱疲労によってタービンロータにクラックが発生する時を100%とする。
【0057】
図6において、寿命消費率曲線300は、例えばタービンロータ材料の低サイクル熱疲労試験の結果に基づいて作成され、予め起動制御パラメータ記憶部2に記憶されている。起動スケジュール計算部3は、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの熱応力制限値31〜33(
図2(b)参照)を熱応力ピーク値σmaxとみなし、寿命消費率曲線300において熱応力制限値31〜33のそれぞれに対応する寿命消費率LCを求める。
【0058】
本実施例に係る起動制御装置1によれば、第1の実施例と同様の効果が得られる他、オペレータは、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの寿命消費率を比較勘案した上で、現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案A又はBへの切替を実行するか否かを判断することができる。
【0059】
(第3の実施例)
次に、本発明の第3の実施例を説明する。
【0060】
本実施例が第1の実施例と相違する点は、画面表示部5(
図1参照)に、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれについて、発電プラント200の年間運用計画に対する影響の度合いを表示させる点である。
【0061】
まず、発電プラント200の年間運用計画について説明する。
【0062】
一般的に、発電プラント200の起動スケジュールは、蒸気タービン203の停止時間またはタービンロータ内部の温度に応じて、ホット、ウォーム、コールド等の起動モードに区分される。年間運用計画とは、起動モード区分ごとに寿命消費率及び年間起動回数を定めたものである。
【0063】
次に、年間運用計画の策定方法について説明する。
【0064】
同一の熱応力制限値で比較した場合、ホット区分、ウォーム区分、コールド区分の順に起動時間が長くなる。従って、要求起動時間に対するマージンが大きいホット区分では熱応力制限値を低めに(寿命消費率計画値を小さく)設定し、要求起動時間に対するマージンが小さいコールド区分では熱応力制限値を高めに(寿命消費率計画値を大きく)設定すると共に、各起動モード区分の年間起動回数を調整することで、運用コストとタービンロータ寿命とのバランスを考慮した効率の良い年間運用計画を立てることができる。
【0065】
具体的には、各起動モード区分の標準的な寿命消費率(以下「寿命消費率計画値」という。)をAhot,Awarm,Acold、各起動モード区分の当年度の予定起動回数(以下「年間起動回数計画値」という。)をBhot,Bwarm,Bcoldとし、寿命消費率計画値と年間起動回数計画値との積和値Ahot×Bhot+Awarm×Bwarm+Acold×Bcoldが当年度に許容される寿命消費率と一致するように各起動モード区分の年間起動回数計画値Bhot,Bwarm,Bcoldを決定する。このような年間運用計画の策定は、従来、一般的に行われている。
【0066】
本発明では、主として寿命消費率を寿命消費率計画値Ahot,Awarm,Acoldよりも大きくすることにより起動時間を短縮することを想定しているため、第2の実施例に係る起動スケジュール選択画面5a(
図5参照)のように、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの寿命消費率を表示することにより、オペレータは、各起動モード区分の寿命消費率計画値Ahot,Awarm,Acoldの見直しを図ることができる。
【0067】
しかしながら、第2の実施例に係る起動スケジュール選択画面(
図5参照)では、寿命消費率を増加させたことによる年間運用計画(特に各起動モード区分の年間起動回数Bhot,Bwarm,Bcold)に対する影響の度合いを把握することが難しい。
【0068】
図7は、本実施例に係る画面表示部5に表示される起動スケジュール選択画面の一例を示す図である。
【0069】
図7において、起動スケジュール選択画面5aには、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの残起動回数、残起動回数に対する寿命消費率超過分、及び起動完了予定時刻と、起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれへの切替を指示する選択ボタン51,52と、起動モード区分を選択するための起動モード区分選択欄53とが表示される。
図7に示す例では、起動モード区分としてウォーム区分が選択され、ウォーム区分における残起動回数及び寿命消費率超過分が表示されているが、ホット区分又はコールド区分を選択することにより、それぞれの起動モード区分における残起動回数及び寿命消費率超過分を表示させることができる。
【0070】
以下、現行の起動スケジュールがウォーム区分に属する場合を例に、残起動回数及び寿命消費率超過分の計算方法を説明する。
【0071】
起動制御パラメータ記憶部2には、各起動モード区分の寿命消費率計画値Ahot,Awarm,Acold、及び各起動モード区分の年間起動回数計画値Bhot,Bwarm,Bcoldが予め記憶されている。ここで、ウォーム区分の寿命消費率計画値Awarmを0.024%、ウォーム区分の年間起動回数計画値Bwarmを16回とし、過去にウォーム区分の起動スケジュールを1回、寿命消費率0.025%で実行していたものとする。この場合、現在の残起動回数は16回−1回=15回と計算され、ウォーム区分の寿命消費率計画値Awarmが0.024%であるため、過去の起動スケジュールの寿命消費率超過分は、0.025%−0.024%=0.001%ptと計算される。ここで、現行の起動スケジュールの寿命消費率は、特に変更がなければウォーム区分の寿命消費率計画値Awarm(=0.024%)と一致するため、現行の起動スケジュールの寿命消費率超過分は、0.024%−Awarm(=0.024%)=0.000%ptと計算される。これに過去の寿命消費率超過分0.001%ptを加算すると、現在の寿命消費率超過分は0.001%ptとなる。その結果、起動スケジュール選択画面5aには、現行の起動スケジュールにおける残起動回数として「15」、残起動回数15回に対する寿命消費率超過分として「0.001」と表示される。
【0072】
続いて、起動スケジュール変更案Aの残起動回数及び寿命消費率超過分を計算する。ここで、起動スケジュール変更案Aの寿命消費率を0.045%とすると、起動スケジュール変更案Aの寿命消費率超過分は、0.045%−Awarm(=0.024%)=0.021%ptと計算される。これに過去の寿命消費率超過分0.001%ptを加算すると、起動スケジュール変更案Aに切り替えた場合の残起動回数15回に対する寿命消費率超過分は0.022%ptとなる。その結果、起動スケジュール選択画面5aには、起動スケジュール変更案Aの残起動回数として「15」、残起動回数15回に対する寿命消費率超過分として「0.022」と表示される。
【0073】
続いて、起動スケジュール変更案Bの残起動回数及び寿命消費率超過分を計算する。ここで、起動スケジュール変更案Bの寿命消費率を0.049%とすると、起動スケジュール変更案Bの寿命消費率超過分は、0.049%−Awarm(=0.024%)=0.025%ptと計算される。これに過去の寿命消費率超過分0.001%ptを加算すると、起動スケジュール変更案Bに切り替えた場合の残起動回数15回に対する寿命消費率超過分は0.026%ptと計算される。このように寿命消費率超過分(0.026%pt)が起動1回あたりの寿命消費率計画値Awarm(=0.025%)を超えた場合は、残起動回数(15回)から1回分を差し引き、寿命消費率超過分(0.026%pt)から起動1回あたりの寿命消費率計画値Awarm(=0.024%)を差し引くことにより、それぞれを補正する。その結果、起動スケジュール選択画面5aには、起動スケジュール変更案Bに切替後の残起動回数として「14」、残起動回数14回に対する寿命消費率超過分として「0.002」と表示される。これにより、オペレータは、寿命消費率超過分が起動1回あたりの寿命消費率計画値を超えた場合でも、残起動回数及び当該残起動回数に対する寿命消費率超過分を正しく把握することができる。
【0074】
本実施例に係る起動制御装置1によれば、第1の実施例と同様の効果が得られる他、オペレータは、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの年間運用計画に対する影響の度合い(残起動回数及び当該残起動回数に対する寿命消費量超過分)を比較勘案した上で、現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案A又はBへの切替を実行するか否かを判断することができる。
【0075】
(第4の実施例)
次に、本発明の第4の実施例を説明する。
【0076】
本実施例が第1の実施例と相違する点は、画面表示部5(
図1参照)に、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれについて、起動完了までの燃料消費量を表示させる点である。
【0077】
図8は、本実施例に係る画面表示部5に表示される起動スケジュール選択画面の一例を示す図である。
【0078】
図8において、起動スケジュール選択画面5aには、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの起動完了までの燃料消費量が表示される。
【0079】
本実施例に係る起動制御装置1によれば、第1の実施例と同様の効果が得られる他、オペレータは、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの起動完了までの燃料消費量を比較勘案した上で、現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案A又はBへの切替を実行するか否かを判断することができる。
【0080】
(第5の実施例)
次に、本発明の第5の実施例を説明する。
【0081】
本実施例が第1の実施例と相違する点は、画面表示部5(
図1参照)に、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの出力曲線及び熱応力曲線を表示させる点である。
【0082】
図9は、本実施例に係る画面表示部5に表示される起動スケジュール選択画面の一例を示す図である。
【0083】
図9において、起動スケジュール選択画面5aには、起動開始から現在点までの出力曲線21及び熱応力曲線34と、現行の起動スケジュールの現在点から起動完了までの出力曲線22及び熱応力曲線35と、起動スケジュール変更案Aの現在点から起動完了までの出力曲線23及び熱応力曲線36と、起動スケジュール変更案Bの現在点から起動完了までの出力曲線24及び熱応力曲線37と、現行の起動スケジュールの熱応力制限値31を示す制限ラインと、切替対象の起動スケジュールを選択するための起動スケジュール選択欄54と、起動スケジュール選択欄54で選択された起動スケジュールへの切替を指示する決定ボタン55とが表示される。
【0084】
本実施例に係る起動制御装置1によれば、第1の実施例と同様の効果が得られる他、オペレータは、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案A,Bのそれぞれの出力曲線22〜24及び熱応力曲線35〜37を比較勘案した上で、現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案A又はBへの切替を実行するか否かを判断することができる。
【0085】
(第6の実施例)
次に、本発明の第6の実施例を説明する。
【0086】
本実施例が第1の実施例と相違する点は、起動スケジュール変更案の制約条件を、起動スケジュール計算部3が所定の計算式に基づいて設定するのではなく、オペレータに指定させる点である。
【0087】
図10は、本実施例に係る起動制御装置1の動作フローを示す図である。
【0088】
図10において、信号待ち受け処理(ステップ107)の実行中、指示入力部6の操作を介して制約条件が指定され、起動スケジュール変更案の計算が指示されると(経路d)、起動スケジュール計算部3で制約条件を受け付け(ステップ111)、起動制御パラメータ記憶部2に記憶させる(ステップ112)。ステップ112に続いて、起動スケジュール変更案を計算する(ステップ103)。ステップ103に続いて、ステップ107に遷移し(経路e)、ステップ107以降の処理を前述の通り実行する。
【0089】
図11は、本実施例に係る画面表示部5に表示される起動スケジュール選択画面の一例を示す図である。
【0090】
図11において、起動スケジュール選択画面5aには、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案のそれぞれの起動完了予定時刻及び熱応力制限値と、起動スケジュール計算部3に起動スケジュール変更案の計算を指示するための計算ボタン56と、起動スケジュール計算部3に起動スケジュール変更案への切替を指示する決定ボタン57とが表示される。
【0091】
熱応力制限値入力欄58には、指示入力部6の操作を介して入力した起動スケジュール変更案の熱応力制限値が表示される。起動完了予定時刻表示欄59には、起動スケジュール変更案の起動完了予定時刻が表示されるが、起動スケジュール変更案が計算される前は何も表示されない。熱応力制限値入力欄58に熱応力制限値を入力した後に計算ボタン56をクリック、タップ等すると、起動スケジュール変更案が計算され、
図12に示すように、起動スケジュール変更案の起動完了予定時刻が起動完了予定時刻表示欄59に表示される。その後、決定ボタン57をクリック、タップ等すると、現行の起動スケジュールが起動スケジュール変更案に切り替わる。
【0092】
ここで、計算ボタン56を操作してから決定ボタン57が操作されるまでにタイムラグが生じると、その間に機器状態量が変化することにより、起動完了予定時刻に大きな誤差が生じるおそれがある。
【0093】
そこで、決定ボタン57は、起動スケジュール変更案の計算終了後(
図10において、ステップ103からステップ107への遷移後)から所定の時間(例えば5分間)に限り操作可能となり、当該所定の時間経過後に操作不能となるように構成してもよい。これにより、起動スケジュール変更案を計算してから所定の時間が経過した後は、改めて現在点の機器状態量に基づいて起動スケジュール変更案を計算することが余儀なくされ、起動スケジュール変更案の計算終了時点から起動スケジュール変更への切替時点までのタイムラグの発生を防ぐことが可能となる。
【0094】
本実施例に係る起動制御装置1によれば、第1の実施例と同様の効果が得られる他、オペレータの指定した制約条件に基づいて起動スケジュール変更案が計算されると共に、オペレータは、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案のそれぞれの起動完了予定時刻を比較勘案した上で、現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案への切替を実行するか否かを判断することができる。
【0095】
(第7の実施例)
次に、本発明の第7の実施例を説明する。
【0096】
本実施例は、第6の実施例において、オペレータによる指定項目を、起動スケジュール変更案の制約条件から起動スケジュール変更案の起動完了予定時刻に置き換えたものに相当する。
【0097】
以下、第6の実施例との相違点を中心に説明する。
【0098】
図13は、本実施例に係る起動制御装置1の動作フローを示す図である。
【0099】
図13において、信号待ち受け処理(ステップ107)の実行中、指示入力部6の操作を介して起動完了予定時刻が入力され、起動スケジュール変更案の計算が指示されると(経路d)、起動スケジュール計算部3で起動完了予定時刻を受け付け(ステップ113)、起動制御パラメータ記憶部2に記憶させる(ステップ114)。続いて、機器状態量と現行の制約条件とに基づいて現行の起動スケジュールを計算すると共に、現在点の機器状態量と指定された起動完了予定時刻とに基づいて起動スケジュール変更案を計算する(ステップ103)。このとき、起動スケジュール変更案の制約条件を計算し、起動制御パラメータ記憶部2に記憶させる(ステップ112)。ステップ112に続いて、ステップ107に遷移し(経路e)、ステップ107以降の処理を前述の通り実行する。
【0100】
図14は、本実施例に係る画面表示部5に表示される起動スケジュール選択画面の一例を示す図である。
【0101】
図14において、起動スケジュール選択画面5aには、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案のそれぞれの起動完了予定時刻及び寿命消費率と、起動スケジュール計算部3に起動スケジュール変更案の計算を指示するための計算ボタン56と、起動スケジュール計算部3に起動スケジュール変更案への切替を指示する決定ボタン57とが表示される。
【0102】
起動完了予定時刻入力欄60には、指示入力部6の操作を介して入力された起動完了予定時刻が表示される。寿命消費率表示欄61には、起動スケジュール変更案の寿命消費率が表示されるが、起動スケジュール変更案が計算される前は何も表示されない。起動完了予定時刻入力欄60に起動完了予定時刻を入力した後、計算ボタン56をクリック、タップ等すると起動スケジュール変更案が計算され、
図15に示すように、起動スケジュール変更案の寿命消費率が寿命消費率表示欄61に表示される。その後、決定ボタン57をクリック、タップ等すると、現行の起動スケジュールが起動スケジュール変更案に切り替わる。
【0103】
本実施例によれば、第1の実施例と同様の効果が得られる他、オペレータの指定した起動完了予定時刻に基づいて起動スケジュール変更案が計算されると共に、オペレータは、現行の起動スケジュール及び起動スケジュール変更案のそれぞれの寿命消費率を比較勘案した上で、現行の起動スケジュールから起動スケジュール変更案への切替を実行するか否かを判断することができる。
【0104】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、あるいは、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。
【0105】
また、上記した実施例は、コンバインドサイクル発電プラントの起動制御を対象としたものであるが、本発明はこれに限定されず、原子力発電所、化石燃料を用いたコージェネレーションプラント、ボイラー等の起動に時間を要する産業プラントにも適用可能である。