特許第6510963号(P6510963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510963
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 141/12 20060101AFI20190422BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20190422BHJP
   C10M 135/36 20060101ALN20190422BHJP
   C10M 137/10 20060101ALN20190422BHJP
   C10M 139/00 20060101ALN20190422BHJP
   C10M 101/02 20060101ALN20190422BHJP
   C10M 109/00 20060101ALN20190422BHJP
   C10M 107/02 20060101ALN20190422BHJP
   C10N 10/02 20060101ALN20190422BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20190422BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20190422BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20190422BHJP
【FI】
   C10M141/12
   C10M169/04
   !C10M135/36
   !C10M137/10 Z
   !C10M139/00 A
   !C10M101/02
   !C10M109/00
   !C10M107/02
   C10N10:02
   C10N30:00 Z
   C10N30:06
   C10N40:04
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-235198(P2015-235198)
(22)【出願日】2015年12月1日
(65)【公開番号】特開2017-101151(P2017-101151A)
(43)【公開日】2017年6月8日
【審査請求日】2018年2月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
(74)【代理人】
【識別番号】100191330
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】安田 高真
(72)【発明者】
【氏名】小松原 仁
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一聡
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特表平08−508531(JP,A)
【文献】 特開2001−323292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00〜177/00
C10N 10/00〜 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油、(A)チアジアゾールを組成物全量基準で0.3質量%以上、(B)下記一般式(4)で示される末端にカルボキシ基を有するチオリン酸エステルを組成物全量基準で0.05質量%以上、および(C)ホウ素含有無灰分散剤を組成物全量基準、ホウ素元素換算で50質量ppm以上含有し、組成物の硫黄含有量が硫黄元素換算で0.3質量%以上、リン含有量がリン元素換算で0.2質量%以下であることを特徴とする潤滑油組成物。
【化1】
(式(4)中、Rは水素原子もしくは炭素数1〜20の炭化水素基、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Rは炭素数1〜8の2価の炭化水素基を示す。)
【請求項2】
基油が、水素化精製基油、ワックス異性化基油およびポリα−オレフィンから選ばれる基油からなることを特徴とする請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
(D)ホウ酸エステルおよび/またはアルカリ金属ホウ酸塩もしくはその水和物を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
金属系清浄剤、粘度指数向上剤および摩擦調整剤から選ばれる少なくとも1種の添加剤をさらに含有することを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
無段変速機用であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の潤滑油組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、好ましくは無段変速機用、特に金属ベルト式無段変速機用に好適な潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の自動変速機や無段変速機は軽量小型化が望まれており、組み合わされるエンジンの高出力化に伴い、動力伝達能力の向上が追求されている。この軽量小型化は、装着される車両の燃費向上が目的である。
特に金属ベルト式無段変速機の場合、ベルトとプーリー間の摩擦係数を向上することができれば、小型化が可能になるため、そこに使用される潤滑油は金属間摩擦係数を高く保つ特性のものが好まれる。
またさらに、これらの潤滑油による燃費低減も求められている。具体的には潤滑油の低粘度化による、攪拌抵抗の低減や、湿式クラッチパックの空転時や流体潤滑時の粘性抵抗の低減による動力損失の軽減によって、燃費の改善に寄与するものである。
【0003】
従来の変速機油としては、ロックアップクラッチの摩擦特性を良好に維持し、初期シャダー防止性能と、これを長期間維持させるために、摩擦調整剤、金属系清浄剤、無灰分散剤、摩耗防止剤などを最適化した変速機油組成物が提案されている(例えば、特許文献1〜7参照。)。
【0004】
例えば、特許文献1には、特定のカルシウムサリシレートとSP系極圧剤、特定のコハク酸イミド及びホウ素含有無灰分散剤を特定量含有する、シャダー防止寿命に優れ、かつ疲労寿命が長いという優れた性能を有する変速機用潤滑油組成物が、特許文献2には、特定の構造を有する有機酸金属塩、摩耗防止剤、及びホウ素含有コハク酸イミドを必須成分として配合した、高い金属間摩擦係数とスリップ制御機構に対するシャダー防止性を両立する無段変速機用潤滑油組成物が、特許文献3には、カルシウムサリシレート、りん系摩耗防止剤、摩擦調整剤、及び分散型粘度指数向上剤を配合した、高い金属間摩擦係数とスリップ制御機構に対するシャダー防止性を両立し、長期にわたって使用可能な無段変速機用潤滑油組成物が、特許文献4には、ジチオカーバメート化合物、及び炭素数8〜30を有する分岐鎖状脂肪酸とアミンの縮合物、更にはアミン系酸化防止剤を配合した、シャダー防止性能に優れ、かつシャダー防止寿命の長い潤滑油組成物が、特許文献5には、カルシウムスルホネート及び亜リン酸エステル類、更に、サルコシン誘導体あるいはカルボン酸とアミンの反応生成物を配合した、スリップロックアップ装置に対してシャダー防止寿命の性能を有し、ベルト式CVT装置に対してスクラッチノイズ防止長寿命の性能を有する自動変速機油組成物が、特許文献6には、特定のアルカリ土類金属スルホネートを特定量含有する、スリップ制御機構付自動変速機用として酸化安定性に優れると共に、シャダー振動防止性能および長期間の使用によってもその性能が持続される長期耐久性を有する自動変速機油組成物が開示されている。また、特許文献7には、カルシウムサリシレートとマグネシウムサリシレート、特定の摩擦調整剤及びホウ酸変性コハク酸イミドを特定量含む、優れたシャダー防止性と一定の伝達トルク容量を有する自動変速機油が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−113391号公報
【特許文献2】特開2001−323292号公報
【特許文献3】特開2000−355695号公報
【特許文献4】特開平11−50077号公報
【特許文献5】特開平10−306292号公報
【特許文献6】特開平10−25487号公報
【特許文献7】特開2000−63869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、低粘度化を進めると、潤滑部の油膜が薄くなり、摩耗や焼付が発生しやすくなる。すなわち、低粘度化の背反性能として油膜厚さ低下に起因する極圧性、耐摩耗性の低下を生じる。また、無段変速機油においては伝達効率向上のためベルト容量(金属間摩擦係数)の向上も必要となるが、これも極圧性、耐摩耗性の低下を招くものとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは前記課題について鋭意研究した結果、チアジアゾールおよびリン含有硫黄系添加剤を特定量含有し、かつ、組成物の硫黄およびリンの含有量が特定の範囲にある潤滑油が無段変速機のベルト容量すなわち高金属間摩擦係数と極圧性、耐摩耗性を両立でき、さらにホウ素系化合物を特定量含有させることにより、金属/金属の動摩擦係数を高く設定でき、急加速時に発生する金属ベルトのノイズを抑制するのに好適であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、基油、(A)チアジアゾールを組成物全量基準で0.3質量%以上、(B)リンを含有する硫黄系添加剤を組成物全量基準で0.05質量%以上、および(C)ホウ素含有無灰分散剤を組成物全量基準、ホウ素元素換算で50質量ppm以上含有し、組成物の硫黄含有量が硫黄元素換算で0.3質量%以上、リン含有量がリン元素換算で0.2質量%以下であることを特徴とする潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の潤滑油組成物は、省燃費化(低粘度化)に対応した無段変速機油に求められる性能を満足すると同時に、金属間摩擦係数の高低に起因せずに発生する無段変速機特有のベルトノイズを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳述する。
【0011】
本発明の潤滑油組成物は、基油として、鉱油系基油および/または合成油系基油を含有する。
【0012】
鉱油系基油としては、原油を常圧蒸留および減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの1種もしくは2種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系またはナフテン系などの鉱油系基油等が例示できる。
【0013】
合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン(エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、およびこれらの水素化物等)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、モノエステル(ブチルステアレート、オクチルラウレート)、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセパケート等)、ポリエステル(トリメリット酸エステル等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、リン酸エステル(トリクレジルホスフェート等)、含フッ素化合物(パーフルオロポリエーテル、フッ素化ポリオレフィン等)、シリコーン油、FT反応などの合成ワックスおよび/または石油精製工程から得られるワックス(好ましくは溶剤脱ロウ工程で得られるスラックワックス)を異性化、水素化して得られる高性能炭化水素基油、テルペン類のような天然由来の不飽和炭化水素を水添して得られる炭化水素基油等が例示できる。
【0014】
本発明に係る基油としては、上記した基油を単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせてもよい。
【0015】
本発明において用いる潤滑油基油の動粘度は特に制限はないが、その100℃での動粘度は、好ましくは1.5〜10mm/s、より好ましくは2.0〜7.0mm/s、特に好ましくは2.5〜4.5mm/sに調整してなることが望ましい。潤滑油基油の100℃での動粘度が10mm/sを超える場合は、低温粘度特性が悪化し、一方、その動粘度が1.5mm/s未満の場合は、潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油基油の蒸発損失が大きくなるため、それぞれ好ましくない。
【0016】
使用される潤滑油基油の粘度指数については格別の限定はないが、100以上であることが好ましく、より好ましくは120以上、さらに好ましくは130以上、特に好ましくは135以上であり、通常200以下、好ましくは180以下、さらに好ましくは160以下である。粘度指数を100以上とすることによって、低温から高温にわたり良好な粘度特性を示す組成物を得ることができる。一方、粘度指数が高すぎると低温時の粘度が高くなる傾向があり好ましくない。
【0017】
また、本発明において用いる潤滑油基油の硫黄含有量に特に制限はないが、0.1質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、0.005質量%以下であることが特に好ましく、実質的に0であることが最も好ましい。潤滑油基油の硫黄含有量を低減することで酸化安定性により優れた組成物を得ることができる。
【0018】
本発明に用いる基油としては、硫黄を含まない基材が好ましいことから、水素化分解鉱油系基油、石油系あるいはフィッシャートロピッシュ合成油等のワックスを50質量%以上含む原料を異性化して得られるワックス異性化基油、ポリα−オレフィンなどの合成油系基油などが特に好ましい。
【0019】
本発明の潤滑油組成物は、(A)成分として、チアジアゾールを含有する。
【0020】
チアジアゾール化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表される1,3,4−チアジアゾール、下記一般式(2)で表される1,2,4−チアジアゾール化合物及び下記一般式(3)で表される1,4,5−チアジアゾール化合物などが挙げられる。
【0021】
【化1】
【0022】
式(1)〜(3)中、R〜Rは同一でも異なっていてもよく、それぞれ水素原子または炭素数1〜20の炭化水素基を示し、a、b、c、d、e及びfは同一でも異なっていてもよく、それぞれ0〜8の整数を示す。
【0023】
炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルシクロアルキル基、アルキルアリール基、シクロアルキルアルキル基、アリールアルキル基が挙げられる。これらは異性体及び構造異性体がある場合には全ての異性体及び構造異性体を含む。
【0024】
炭素数1〜20の炭化水素基としては、より具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基;フェニル基、ナフチル基;などが挙げられる。
【0025】
このようなチアジアゾール化合物の具体例としては、2,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,3,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、3,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,4−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ヘキシルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−オクチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(n−ノニルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール、4,5−ビス(1,1,3,3−テトラメチルブチルジチオ)−1,2,3−チアジアゾール及びこれらの混合物などを好ましく挙げることができる。
【0026】
(A)成分の含有量は、組成物全量基準で、0.3質量%以上であり、0.5質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。また5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下がより好ましい。0.3質量%未満では金属間摩擦係数の向上効果が十分でなく、5質量%を超えると、湿式クラッチの目詰まりなどの問題が発生する。
【0027】
本発明の潤滑油は、(B)成分として、リンを含有する硫黄系添加剤を含有する。
【0028】
リンを含有する硫黄系添加剤は、潤滑油基油に十分溶解し、分子内にリンを含有する硫黄系化合物であれば特に制限はない。
このような化合物としては、例えば、チオリン酸、チオリン酸エステル類、チオ亜リン酸、チオ亜リン酸エステル類およびこれらの塩、並びにジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸モリブデン等が挙げられる。
【0029】
これら化合物の中でも、チオリン酸エステル類が好ましく、特に下記一般式(4)に示す末端にカルボキシ基を有するチオリン酸エステルが好ましい。
【0030】
【化2】
【0031】
式(4)中、Rは水素原子もしくは炭素数1〜20の炭化水素基、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、Rは炭素数1〜8の2価の炭化水素基を示す。
【0032】
およびRの炭化水素基の炭素数は、1〜20であり、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8である。
【0033】
およびRの炭化水素基としては、アルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基などが挙げられる。より具体的には、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロペンチル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基(クレジル基)、キシレニル基などが挙げられる。炭化水素基は飽和であっても不飽和であっても良く、直鎖状であっても分枝状であっても良い。これらの中でも、飽和炭化水素基が好ましく、アルキル基が特に好ましい。
【0034】
の2価の炭化水素基の炭素数は1〜8であり、好ましくは2〜6、より好ましくは2〜4である。
の炭化水素基としては、アルキレン基、シクロアルキレン基、アルキルシクロアルキレン基などが挙げられる。より具体的には、メチレン基、エチレン基などが挙げられる。炭化水素基は飽和であっても不飽和であっても良く、直鎖状であっても分枝状であっても良い。これらの中でも、飽和炭化水素基が好ましく、アルキレン基が特に好ましい。
【0035】
(B)成分の含有量は、組成物全量基準で、0.05質量%以上であり、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。0.05質量%未満ではギヤの焼付き防止性能が不十分となり、5質量%を超えると湿式クラッチのジャダー防止性能に悪影響を及ぼす。
【0036】
本発明の潤滑油は、(C)成分としてホウ素含有無灰分散剤を含有する。
【0037】
(C)ホウ素含有無灰分散剤としては、無灰分散剤をホウ素化合物で変性した変性物が挙げられる。
【0038】
無灰分散剤としては、例えば、炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する含窒素化合物又はその誘導体が挙げられる。
上記のアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でも良いが、好ましいものとしては、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン、エチレンから誘導されるαオレフィン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基や分枝状アルケニル基等が挙げられる。
このアルキル基又はアルケニル基の炭素数は任意であるが、好ましくは40〜400、より好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40未満の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が低下する恐れがあり、一方、炭素数が400を越える場合は、潤滑油組成物の低温流動性が悪化する恐れがあるため、それぞれ好ましくない。
【0039】
上記した含窒素化合物又はその誘導体としては、より具体例には、
(a)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するコハク酸イミド、あるいはその誘導体、
(b)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するベンジルアミン、あるいはその誘導体、
(c)炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するポリアミン、あるいはその誘導体
が挙げられる。
【0040】
前記(a)群のコハク酸イミドとしては、例えば、下記の一般式(5)又は(6)で示される化合物等が挙げられる。
【0041】
【化3】
【0042】
上記一般式(5)中、Rは炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、pは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
上記一般式(6)中、R及びRは、それぞれ個別に炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、qは0〜4、好ましくは1〜3の整数を示す。
【0043】
なお、コハク酸イミドとしては、イミド化に際してポリアミンの一端に無水コハク酸が付加した一般式(5)のようないわゆるモノタイプのコハク酸イミドと、ポリアミンの両端に無水コハク酸が付加した一般式(6)のようないわゆるビスタイプのコハク酸イミドがあるが、本発明では、モノタイプ及びビスタイプのコハク酸イミドをホウ素化合物で変性した変性物がいずれも使用可能であって、モノタイプの変性物とビスタイプの変性物を混合使用しても差し支えない。
【0044】
前記(b)群のベンジルアミンとしては、例えば、一般式(7)で示される化合物等が挙げられる。
【化4】
【0045】
上記一般式(7)中、Rは炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、rは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示している。
【0046】
このベンジルアミンは任意の方法で製造することができる。例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより一般式(7)で表されるベンジルアミンを得ることができる。
【0047】
前記(c)群のポリアミンとしては、例えば、一般式(8)で示される化合物等が挙げられる。
【化5】
【0048】
上記一般式(8)中、Rは炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、sは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0049】
このポリアミンも任意の方法で製造することができ、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、エチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニヤやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより一般式(8)で表されるポリアミンを得ることができる。
【0050】
含窒素化合物の誘導体には、前述したような含窒素化合物に炭素数2〜30のモノカルボン酸(脂肪酸等)やシュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部を中和したり、アミド化した、いわゆるカルボン酸変性化合物や、前述したような含窒素化合物に硫黄化合物を作用させた硫黄変性化合物が含まれる。
【0051】
ホウ素化合物およびホウ素化合物による変性の方法は何ら限定されるものでなく、任意の化合物および方法を採用することができる。一例を挙げれば、上述の含窒素化合物又はそれらの誘導体に、ホウ酸、ホウ酸塩又はホウ酸エステル等のホウ素化合物を作用させて、含窒素化合物又はそれらの誘導体中に残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和するか、アミド化する方法がある。
【0052】
なお、ここでいうホウ酸には、オルトホウ酸、メタホウ酸及びテトラホウ酸等が包含される。またホウ酸塩には、ホウ酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩等が包含され、より具体的には、例えば、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウム、五ホウ酸リチウム、過ホウ酸リチウム等のホウ酸リチウム;メタホウ酸ナトリウム、二ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸ナトリウム、六ホウ酸ナトリウム、八ホウ酸ナトリウム等のホウ酸ナトリウム;メタホウ酸カリウム、四ホウ酸カリウム、五ホウ酸カリウム、六ホウ酸カリウム、八ホウ酸カリウム等のホウ酸カリウム;メタホウ酸カルシウム、二ホウ酸カルシウム、四ホウ酸三カルシウム、四ホウ酸五カルシウム、六ホウ酸カルシウム等のホウ酸カルシウム;メタホウ酸マグネシウム、二ホウ酸マグネシウム、四ホウ酸三マグネシウム、四ホウ酸五マグネシウム、六ホウ酸マグネシウム等のホウ酸マグネシウム;及びメタホウ酸アンモニウム、四ホウ酸アンモニウム、五ホウ酸アンモニウム、八ホウ酸アンモニウム等のホウ酸アンモニウム等が含まれる。また、ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくは炭素数1〜6のアルキルアルコールとのエステルが挙げられ、より具体的には、例えば、ホウ酸モノメチル、ホウ酸ジメチル、ホウ酸トリメチル、ホウ酸モノエチル、ホウ酸ジエチル、ホウ酸トリエチル、ホウ酸モノプロピル、ホウ酸ジプロピル、ホウ酸トリプロピル、ホウ酸モノブチル、ホウ酸ジブチル、ホウ酸トリブチル等が挙げられる。
【0053】
(C)ホウ素含有無灰分散剤の含有量は、組成物全量基準、ホウ素元素換算で50質量ppm以上であり、100質量ppm以上が好ましく、300質量ppm以上がより好ましい。また1500質量ppm以下であることが好ましく、1000質量ppm以下がより好ましい。
【0054】
本発明の潤滑油は、(D)成分として、上述した(C)ホウ素含有無灰分散剤以外のホウ素含有化合物を含有することも好ましい。
【0055】
ホウ素含有無灰分散剤以外のホウ素含有化合物としては、例えば、(D−1)ホウ酸エステル、(D−2)アルカリ金属ホウ酸塩もしくはその水和物が挙げられる。その他として、ホウ酸金属塩を含有する金属系清浄剤も挙げられるが、本発明においては前記化合物がより好ましい。
【0056】
(D−1)ホウ酸エステルとしては、ホウ酸と好ましくはアルキルアルコールとのエステル、例えばホウ酸モノアルキル、ホウ酸ジアルキル、ホウ酸トリアルキルが挙げられる。
アルキル基としては、炭素数1〜20、好ましくは1〜12のアルキル基が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のアルキル基(これらアルキル基は直鎖状でも分枝状でもよい)が挙げられる。
【0057】
(D−2)アルカリ金属ホウ酸塩またはその水和物としては、例えば、KB・nHOやNaB・nHO(nは0〜3、好ましくは0〜1の整数)などの組成式で表されるホウ酸カリウムまたはその水和物やホウ酸ナトリウムまたはその水和物を挙げることができる。
これらのアルカリ金属ホウ酸塩またはその水和物は、たとえば、ホウ素とアルカリ金属との原子比(ホウ素/アルカリ金属)が2.0〜4.5の範囲となるように、ホウ酸と水酸化カリウムもしくは水酸化ナトリウムを水に溶解させ、この溶液を、中性のアルカリ土類金属スルホネートあるいはコハク酸イミド系無灰分散剤を含む油性溶液に分散させ、反応させることより微粒子状の分散液として得ることができる。
【0058】
アルカリ金属ホウ酸塩水和物の市販品としては、たとえば、オロナイト・ジャパン株式会社から販売されているホウ酸カリウム水和物分散液OLOA9750(ホウ素濃度6.8重量%)、あるいはホウ酸カリウム水和物分散液OLOA312(ホウ素濃度6.9重量%)などが挙げられる。
【0059】
(D)成分を含有する場合、その含有量は、組成物全量基準、ホウ素元素換算量で10質量ppm以上が好ましく、50質量ppm以上がより好ましく、100質量ppm以上がさらに好ましい。また1000質量ppm以下が好ましく、500質量ppm以下がさらに好ましい。
なお、(C)成分および(D)成分の合計含有量は、組成物全量基準、ホウ素元素換算量で50質量ppm以上であり、100質量ppm以上が好ましく、300質量ppm以上がより好ましい。また1500質量ppm以下であることが好ましく、1000質量ppm以下がより好ましい。
【0060】
本発明の潤滑油組成物は、金属系清浄剤、粘度指数向上剤、摩擦調整剤のうち少なくとも1つを含有することが好ましい。
【0061】
金属系清浄剤としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルフォネート、フェネート、サリシレート、ナフテネート等を単独あるいは2種類以上組み合わせて使用することができる。ここでアルカリ金属としてはナトリウムやカリウム、アルカリ土類金属としてはカルシウム、マグネシウム等が例示される。また、具体的な金属系清浄剤としてはカルシウム又はマグネシウムのスルフォネート、フェネート、サリシレートが好ましく用いられる。なかでもカルシウムスルフォネートが好ましい。
【0062】
金属系清浄剤の全塩基価は0〜600mgKOH/gであることが好ましく、より好ましくは200mgKOH/g以上、さらに好ましくは300mgKOH/g以上、特に好ましくは400mgKOH/g以上である。また好ましくは600mgKOH/g以下である。600mgKOH/gを超えると、組成物の安定性が阻害される。
【0063】
金属系清浄剤の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属元素換算で、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また2質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。0.001質量%未満では、ノイズ防止性能が十分ではなく、2質量%を超えると、金属間摩擦係数が低下する。
【0064】
粘度指数向上剤としては、例えば、各種メタクリル酸エステルから選ばれる1種又は2種以上のモノマーの共重合体若しくはその水添物などのいわゆる非分散型粘度指数向上剤、又はさらに窒素化合物を含む各種メタクリル酸エステルを共重合させたいわゆる分散型粘度指数向上剤等が例示できる。他の粘度指数向上剤の具体例としては、非分散型又は分散型エチレン−α−オレフィン共重合体(α−オレフィンとしてはプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン等が例示できる。)及びその水素化物、ポリイソブチレン及びその水添物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体及びポリアルキルスチレン等が挙げられる。
【0065】
粘度指数向上剤の分子量は、せん断安定性を考慮して選定することが好ましい。具体的には、粘度指数向上剤の平均分子量は、例えば分散型及び非分散型ポリメタクリレートの場合では、重量平均分子量が5,000〜150,000、好ましくは5,000〜35,000のものが、ポリイソブチレン又はその水素化物の場合は重量平均分子量が800〜5,000、好ましくは1,000〜4,000のものが、エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物の場合は重量平均分子量が800〜150,000、好ましくは3,000〜12,000のものが望ましい。
【0066】
なお本発明において重量平均分子量とは、ウォーターズ社製150−C ALC/GPC装置において東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μLの条件下、示差屈折率計(RI)検出器を用いて測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0067】
本発明においては、これらの粘度指数向上剤の中から任意に選ばれた1種類あるいは2種類以上の化合物を、任意の量で含有させることができるが、通常、その含有量は、潤滑油組成物基準で0.1〜40質量%であるのが望ましい。
【0068】
摩擦調整剤としては、例えば無灰摩擦調整剤等が挙げられる。無灰摩擦調整剤としては、例えば、分子中に酸素原子及び窒素原子から選ばれる少なくとも1種のヘテロ原子を有する、炭素数6〜50の化合物が挙げられる。無灰摩擦調整剤の更なる具体例としては、炭素数6〜30のアルキル基又はアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖又は分岐状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ウレア系化合物、ヒドラジド系化合物等が挙げられる。
【0069】
これらの中でも、脂肪族アミド化合物が好ましく、下記一般式(9)または(10)で示される脂肪族アミド化合物が特に好ましい。
【0070】
【化6】
【0071】
一般式(9)において、Rは炭素数10〜30のアルキル基またはアルケニル基であり、直鎖もしくはメチル基を1つ置換基に持つ直鎖状の基である。RおよびRはそれぞれ個別に水素又は炭素数1〜3のアルキル基を示すが、特に水素であることが好ましい。 Rは炭素数1〜4のアルキレン基であり、特に炭素数2のアルキレン基が好ましい。RおよびRはそれぞれ個別に水素又は炭素数1〜3のアルキル基を示すが、特に水素が好ましい。Rは水素または炭素数1〜30のアルキル基またはアルケニル基であるが、炭素数10から30の直鎖状アルキル基またはアルケニル基であることが好ましい。またkは0〜6、好ましくは1〜4、mは0〜2、n、pおよびrはそれぞれ0〜1の整数を表す。
【0072】
およびRの炭素数は、それぞれ10以上であり、12以上が好ましく、16以上がより好ましく、18以上がさらに好ましい。一方、RおよびRの炭素数は、それぞれ30以下であり、26以下が好ましく、24以下がより好ましい。RおよびRは直鎖状のアルキル基またはアルケニル基が好ましいが、カルボニル基のα位にメチル基を有する直鎖状のアルキル基またはアルケニル基がより好ましい。またRおよびRは互いに同一であることが好ましい。
、Rの炭素数を10以上とすることによりベルトノイズ防止性を改善することができる。また炭素数が30を超えると組成物の低温時の粘度特性が悪化するため好ましくない。
【0073】
kは2以上が好ましく、4以下が好ましい。mは0または1が好ましく、0が最も好ましい。またpは1が好ましく、rは0が好ましい。こうすることにより高いベルトノイズ防止性を発揮することができる。
【0074】
一般式(9)で示される脂肪族アミド化合物としては脂肪酸ジアミドが好ましく、特に脂肪酸ポリアミンジアミド(例えば、ポリアルキレンポリアミンジイソステアリン酸アミドなど)が好ましい。
【0075】
【化7】
【0076】
一般式(10)において、RおよびRはそれぞれ個別に炭素数10〜30のアルキル基またはアルケニル基であり、直鎖もしくはメチル基を1つ置換基に持つ直鎖状の基である。mは3〜30の整数を表す。Xは個別に水素、R−CO−、またはR−CO−NH−(CH−を表す。ここでRおよびRは個別に炭素数10〜30のアルキル基またはアルケニル基であり、nは1〜3の整数である。
【0077】
およびRの炭素数は、それぞれ10以上であり、12以上が好ましく、14以上がより好ましく、16以上がさらに好ましい。一方、RおよびRの炭素数は、それぞれ30以下であり、26以下が好ましく、24以下がより好ましい。RおよびRは直鎖状のアルキル基またはアルケニル基が好ましいが、カルボニル基のα位にメチル基を有する主鎖が直鎖状のアルキル基またはアルケニル基がより好ましい。
、Rの炭素数を10以上とすることによりベルトノイズ防止性を改善することができる。また炭素数が30を超えると組成物の低温時の粘度特性が悪化するため好ましくない。
【0078】
mは3〜30の整数であり、3〜20が好ましく、3〜10がより好ましい。こうすることにより高いベルトノイズ防止性を発揮することができる。
【0079】
Xは水素原子、R−CO−、またはR−CO−NH−(CH−を表す。ここで、RおよびRはそれぞれ個別にアルキル基またはアルケニル基であり、その炭素数は10〜30、好ましくは12〜26、より好ましくは14〜24、さらに好ましくは16〜22である。またnは1〜3、好ましくは2の整数である。
【0080】
式(10)の構造単位−NX−(CH−におけるXは互いに同一であっても異なっていても良い。m個ある構造単位のうちの少なくとも1つのXはR−CO−またはR−CO−NH−(CH−であることが好ましい。
【0081】
化合物がRおよびRの両方を含む場合や、RまたはRを複数含む場合、それらRおよびRは、複数のR同士、複数のR同士、RおよびRのいずれにおいても互いに同一であっても異なっていても良い。
【0082】
摩擦調整剤の含有量は、組成物全量基準で0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上がより好ましく、1.2質量%以上がさらに好ましい。一方、3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がさらに好ましい。0.5質量%未満ではノイズ防止性に効果が十分ではなく、3質量%を超えるとクラッチのトルク容量が不足する。
【0083】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の性能を阻害しない範囲において、さらに性能を高める目的で必要に応じて、公知の潤滑油添加剤を単独で、又は数種類組み合わせて配合することができる。このような潤滑油添加剤としては、例えば、粘度調整剤、防錆剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、無灰分散剤、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、着色剤等が挙げられる。
【0084】
粘度調整剤は、α−オレフィンと重合性不飽和結合を有するエステル単量体との共重合体以外の粘度調整剤である。粘度調整剤としては、例えば、非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度調整剤、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体系粘度調整剤が挙げられる。これらの中でも、粘度調整剤は、好ましくは非分散型又は分散型ポリ(メタ)アクリレート系粘度調整剤であり、より好ましくは非分散型又は分散型ポリメタクリレート系粘度調整剤である。粘度調整剤としては、その他に、非分散型若しくは分散型エチレン−α−オレフィン共重合体又はその水素化物、ポリイソブチレン又はその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、ポリアルキルスチレン等を挙げることができる。
本発明では、低温粘度特性と粘度温度特性が良好である必要があるとの観点から、ポリ(メタ)アクリレート系粘度調整剤が好ましい。
また組成物のせん断安定性の観点から重量平均分子量は50,000以下が好ましく、30000以下が好ましい。増粘効果の観点からは5000以上が好ましい。
なお重量平均分子量とは、ウォーターズ社製150−C ALC/GPC装置において東ソー社製のGMHHR−M(7.8mmID×30cm)のカラムを2本直列に使用し、溶媒としてテトラヒドロフランを用い、温度23℃、流速1mL/分、試料濃度1質量%、試料注入量75μLの条件下、示差屈折率計(RI)検出器を用いて測定した標準ポリスチレン換算の重量平均分子量を意味する。
【0085】
防錆剤としては、例えば、アルケニルコハク酸エステル、多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0086】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0087】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、ベンゾトリアゾール又はその誘導体等が挙げられる。
【0088】
無灰分散剤としては、(C)成分に関する説明において例示した、コハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアミン等のホウ素を含有していない含窒素化合物およびその誘導体が挙げられる。
【0089】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン、ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0090】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、イミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0091】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000mm/s以上100000mm/s以下のシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸とのエステル、メチルサリチレートとo−ヒドロキシベンジルアルコールとのエステル等が挙げられる。
【0092】
これらその他の添加剤の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、0.01〜20質量%であってよい。
【0093】
本発明の潤滑油組成物の硫黄含有量は、硫黄元素換算で0.3質量%以上であり、0.35質量%以上が好ましい。また3質量%以下であることが好ましく、2質量%以下がより好ましい。0.3質量%未満では摩耗防止性や金属間摩擦係数向上に効果が十分ではなく。3質量%を超えるとクラッチのジャダー防止性能が不足する。
【0094】
本発明の潤滑油組成物のリン含有量は、リン元素換算で0.2質量%以下であり、0.15質量%以下が好ましい。また0.03質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。0.03質量%未満では摩耗防止性やシャダー防止性に効果が十分ではなく、また0.2質量%を超えるとシール材との適合性が不足する。
【0095】
本発明の潤滑油組成物の用途は制限されるものではなく広く使用することができるが、好ましくは無段変速機に、特に金属ベルト式無段変速機に好適に使用できる。
これは、本発明の潤滑油組成物においては、チアジアゾールおよびリン含有硫黄系添加剤を特定量含有し、かつ、組成物の硫黄およりリンの含有量を上記の特定の範囲とすることにより、無段変速機のベルト容量すなわち高金属間摩擦係数と極圧性、耐摩耗性を両立することができ、さらにホウ素系化合物を特定量含有させることにより、金属/金属の動摩擦係数を高く設定でき、急加速時に発生する金属ベルトのノイズを抑制することができるためである。
【実施例】
【0096】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0097】
(実施例1〜15および比較例1〜5)
表1に示す組成の潤滑油組成物を調製した。各添加剤の添加量(質量%)は組成物全量基準である。各潤滑油組成物の性状について評価し表1に併記した。
【0098】
【表1】