特許第6510971号(P6510971)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6510971接合体の製造方法、及びスパークプラグの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510971
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】接合体の製造方法、及びスパークプラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/067 20060101AFI20190422BHJP
   H01T 13/20 20060101ALI20190422BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20190422BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20190422BHJP
【FI】
   B23K26/067
   H01T13/20 E
   H01T13/20 B
   B23K26/21 L
   B23K26/00 N
   B23K26/21 N
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-250945(P2015-250945)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-203252(P2016-203252A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-84999(P2015-84999)
(32)【優先日】2015年4月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097434
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】山本 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】脇田 英和
(72)【発明者】
【氏名】大原 穂波
(72)【発明者】
【氏名】祐森 翔
(72)【発明者】
【氏名】松谷 渉
【審査官】 岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−68421(JP,A)
【文献】 特開昭51−118196(JP,A)
【文献】 特開2004−255461(JP,A)
【文献】 特開2013−12314(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/067
H01T 13/20
B23K 26/21
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの部材を突き合せ、その突き合せ面の外周縁にレーザ光を照射し、その外周縁を含め、該突き合せ面を周方向に沿ってレーザ溶接することによる接合体の製造方法であって、
1つのレーザ光を回析光学素子を用いて多数のレーザ光に分岐し、分岐された多数のレーザ光を、前記外周縁を包囲する環状配置で設けられた多数の反射体でそれぞれ反射させ、反射させられた各レーザ光を、該外周縁の周方向に沿う多数の箇所に向けて照射することによって、該外周縁を含め、該突き合せ面を周方向に沿ってその多数の箇所を同時溶接することで接合体を製造するにあたり、
分岐される各レーザ光の強度に、少なくとも強弱2種となる差をつけ、各レーザ光による前記外周縁から該突き合わせ面の央部に向かって溶融される深さが同じにならないようにレーザ溶接することを特徴とする接合体の製造方法。
【請求項2】
前記外周縁に向けて照射されるレーザ光のうち、該外周縁において隣り合うレーザ光によって該突き合せ面に生成される溶融範囲が、少なくとも、前記外周縁では重畳しないように各レーザ光を照射することを特徴とする、請求項1に記載の接合体の製造方法。
【請求項3】
前記外周縁に向けて照射されるレーザ光のうち、該外周縁において隣り合わない複数のレーザ光によって該突き合せ面に生成される溶融範囲が、該突き合せ面の央部で重畳するように、各レーザ光の強度に差をつけることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項4】
前記突き合せ面を線対称形状のものとし、前記外周縁に向けて照射されるレーザ光が、該突き合せ面の線対称形状に対応した対称配置の各方向から、対称の強度分布での照射となるものとしたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項5】
前記接合体がスパークプラグの電極用チップであり、前記2つの部材のうちの一方が貴金属チップであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法。
【請求項6】
軸線方向に軸孔を有する絶縁体と、この軸孔内においてその先端に突出するように配置された中心電極と、前記絶縁体の周囲を取り囲む主体金具と、基端がこの主体金具の先端に接合されて、先端が前記中心電極の先端との間で火花放電間隙を保持して対向するように設けられた接地側電極と、を含んでなるスパークプラグの製造方法であって、
前記中心電極の先端及び前記接地側電極の先端のうちの少なくとも一方に電極用チップが固着されてなるスパークプラグの製造方法において、
その電極用チップに、請求項5に記載の接合体の製造方法で製造された電極用チップを用い、該電極用チップが、前記貴金属チップを前記火花放電間隙側に位置するようにして固着することを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2つの部材、例えば、2つの小物の柱状部材をその端面相互で突き合せ、その突き合せ面の外周縁にレーザ光を照射し、その外周縁を含め、該突き合せ面を周方向に沿ってレーザ溶接することによる接合体の製造方法、及び、この接合体がスパークプラグの電極用チップ(複合体チップ)である、接合体の製造方法、並びにこの製造方法により製造した電極用チップを用いたスパークプラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、接合体が前記したようなスパークプラグの電極用チップであり、2つの柱状部材をその端面相互で突き合せ、その突き合せ面(接触している相互の面)の外周縁にレーザ光を照射し、その外周縁を含む突き合せ面を周方向に沿ってレーザ溶接する方法としては次のものが知られている(特許文献1)。一方の部材(例えば、Ni合金部材)を、回転可能に設けられた基台上のチャック装置に、その回転中心と同軸となるようにしてチャッキングし、この部材に対して他方の部材(例えば、Pt等の貴金属材)を突き合せて、同軸状に位置決めし、保持する。そして、このチャック装置と共に、この両部材(ワーク)をその軸回りに回転させながら、一つ(一台)のレーザ溶接装置のレーザ光照射ヘッドから、その突き合せ面の外周縁に向けてレーザ光(以下、レーザともいう)を例えばパルス発振にて、その回転速度(設定回転角度)に対応ないし同期させて照射する。この照射によって、その突き合せ面を外周に沿ってレーザ溶接するというものである。このような回転方式によるレーザ溶接法では回転手段が必要となるだけでなく、例えば、1回転(360度回転)中、45度間隔で、パルス発振して溶接する場合においては、8回の照射(溶接工程)となるため溶接工程が、その分、長くなる。これに対し、対向配置で2台のレーザ溶接装置を設ける場合には、その工程を半分にできるが、いずれも、照射回数分の溶接工程を要する他、次のような問題がある。
【0003】
というのは、パルス発振、或いは連続発振に限らず、周方向に沿って、順次、周回してのレーザ溶接となるため、その時間の先後等に起因する溶接ひずみ等の発生である。スパークプラグの電極用チップを得るための円柱体同士のような接合体は、その直径(突き合せ面)が1mm程度、或いはそれ以下の小物である上に、その用途からして極めて高い寸法精度、及び高度の接合強度が要求される。このため、このような接合体では、突き合せ面の外周縁より奥に位置する突き合せ面の央部(本明細書では、中央若しくは中心、又はこれら寄り部位をいう)も含め、できるだけ均一かつ高精度に、しかも、なるべく、その面の全体において溶接(溶着)されるようにする必要がある。このように、100%ではないにせよ、その面の全体において溶接したい場合には、レーザ光の照射開始時から、突き合せ面の外周縁よりその面の奥の央部まで十分な溶融(溶込み)が得られる加熱、すなわち、レーザ強度(出力)でのその照射が必要となる。しかし、同じ出力でレーザを繰り返し照射しても、照射開始時とその後の照射途中、さらには、終端では、溶接過程で付与され続ける蓄熱エネルギーの増大に伴い、溶融深さ(範囲)が次第に深くなる。すなわち、外周縁から央部に向かう溶融(溶け込み)深さが、増大ないし変化することになる。このため、レーザ光の照射開始時から十分な溶融(溶込み)が得られる設定でレーザ照射を行うと、その後、過加熱による溶け過ぎ(溶融過多)が生じ、溶接スパッタの発生(溶融金属の飛散、付着)や、それによる溶接部の肉やせ(えぐれ)が生じるなどの不具合が発生することがある。
【0004】
一方、一つのレーザ光を、回析光学素子(DOE)を用い、照射される側の仮想平面に向けて多数のレーザ光に分岐し、集光レンズを介して分岐された各レーザ光をミラー等の反射体で反射して、多数の箇所に向けて同時照射して、多数箇所を同時溶接するという溶接法も知られている(特許文献2)。この方法により、レーザ光を間隔をおいて環状(例えば、円環状)の配置となるように拡散状に複数に分岐し、反射体で反射させ、上記突き合せ面の外周縁における周方向に沿うその外周縁の各所に照射し、溶接することとすれば、回転手段も不要であり、レーザの照射も工程的には1回ですむ。そして、同時照射となるから、照射時間の先後差に基づく溶接ひずみや、周方向における入熱のバラツキもなくすことができるから、周方向の各位置における溶融深さも一定にできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−277272号公報
【特許文献2】特開2005−219070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような回析光学素子(DOE)を用いた多数箇所の同時溶接においても、突き合せ面の央部(中心若しくは中央、又はこれら寄り部位)まで、すなわち、その面全域において溶融して溶接する場合には、分岐された各レーザによる熱エネルギーが、その突き合せ面の央部での溶融が得られるように、レーザの強度を設定する必要がある。一方、このような溶接とすれば、突き合せ面の央部において、同時に、多数の各レーザによる入熱範囲が重畳する(重なる)ことになる結果、周方向における入熱のアンバランスはないとしても、むしろ、央部での局所的な溶融過多を招きやすい。これにより、周方向に順次、溶接する方法よりも、むしろスパッタの発生(溶融金属の飛散、付着)や、溶接部の肉やせの発生の問題が大きい場合がある。とはいえ、分岐された各レーザの出力を全体的に下げれば、突き合せ面の央部での溶融が得られず、所望とする接合強度が得られない。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたもので、回析光学素子(DOE)を用いて分岐した多数のレーザ光による、多数箇所の同時溶接による溶接法において、過剰溶融によるスパッタの発生(飛散)や、それによる溶接部位の肉やせ(えぐれ)の発生を低減し、しかも、高接合強度の接合体が得られる製造方法等を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明は、2つの部材を突き合せ、その突き合せ面の外周縁にレーザ光を照射し、その外周縁を含め、該突き合せ面を周方向に沿ってレーザ溶接することによる接合体の製造方法であって、
1つのレーザ光を回析光学素子を用いて多数のレーザ光に分岐し、分岐された多数のレーザ光を、前記外周縁を包囲する環状配置で設けられた多数の反射体でそれぞれ反射させ、反射させられた各レーザ光を、該外周縁の周方向に沿う多数の箇所に向けて照射することによって、該外周縁を含め、該突き合せ面を周方向に沿ってその多数の箇所を同時溶接することで接合体を製造するにあたり、
分岐される各レーザ光の強度に、少なくとも強弱2種となる差をつけ、各レーザ光による前記外周縁から該突き合わせ面の央部に向かって溶融される深さが同じにならないようにレーザ溶接することを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の本発明は、前記外周縁に向けて照射されるレーザ光のうち、該外周縁において隣り合うレーザ光によって該突き合せ面に生成される溶融範囲が、少なくとも、前記外周縁では重畳しないように各レーザ光を照射することを特徴とする、請求項1に記載の接合体の製造方法である。
請求項3に記載の本発明は、前記外周縁に向けて照射されるレーザ光のうち、該外周縁において隣り合わない複数のレーザ光によって該突き合せ面に生成される溶融範囲が、該突き合せ面の央部で重畳するように、各レーザ光の強度に差をつけることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか1項に記載の接合体の製造方法である。
【0010】
請求項4に記載の本発明は、前記突き合せ面を線対称形状のものとし、前記外周縁に向けて照射されるレーザ光が、該突き合せ面の線対称形状に対応した対称配置の各方向から、対称の強度分布での照射となるものとしたことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の接合体の製造方法である。
請求項5に記載の本発明は、前記接合体がスパークプラグの電極用チップであり、前記2つの部材のうちの一方が貴金属チップであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合体の製造方法である。
請求項6に記載の本発明は、軸線方向に軸孔を有する絶縁体と、この軸孔内においてその先端に突出するように配置された中心電極と、前記絶縁体の周囲を取り囲む主体金具と、基端がこの主体金具の先端に接合されて、先端が前記中心電極の先端との間で火花放電間隙を保持して対向するように設けられた接地側電極と、を含んでなるスパークプラグの製造方法であって、
前記中心電極の先端及び前記接地側電極の先端のうちの少なくとも一方に電極用チップが固着されてなるスパークプラグの製造方法において、
その電極用チップに、請求項5に記載の接合体の製造方法で製造された電極用チップを用い、該電極用チップが、前記貴金属チップを前記火花放電間隙側に位置するようにして固着することを特徴とする、スパークプラグの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、各レーザ光の強度に、少なくとも強弱2種となる差をつけ、前記外周縁から該突き合せ面の央部に向かって溶融される深さが同じにならないようにしている。これにより、本発明では、該突き合せ面の形状、大きさ等に応じ、局所的な過剰入熱による過剰溶融を発生させないように、突き合せ面の全域において、所望とする状態における溶接(溶着)を得ることができる。このため、多数箇所の同時溶接で、突き合せ面の全域を溶接したい場合でも、過剰溶融等に起因して発生していたスパッタの飛散や、それによる溶接部位の肉やせ(溶接面の凹みやえぐれ)もなく、効率的に、溶接面積を確保した接合強度の高い溶接が得られる。なお、分岐される各レーザ光の強度(強弱)は、分岐形態(照射方向)と共に、回析光学素子(DOE)の形状、構造に依存して得られるものであるから、溶接対象をなす両部材の突き合せ面の形状等に応じ、分岐するレーザ光に所望とする強度分布が得られるように形成した回析光学素子を用いればよい。
【0012】
突き合せ面を100%溶融して溶接する場合には、過剰溶融となりがちとなるだけでなく、その溶融に起因して接合体の高さ、傾斜等の精度にも影響が出ることがある。該外周縁において隣り合うレーザ光によって該突き合せ面に生成される溶融範囲は、重畳してもよいが、請求項2に記載のように、少なくとも、前記外周縁では重畳しないようにするのがよい。すなわち、溶融範囲は、外周縁において重畳し、周方向に連なるものとしてもよいが、そのようにすると、過剰溶融となりがちとなるのに対し請求項2に記載の発明のようにすることにより、過剰溶融が回避しやすくなる。しかも、外周縁での隣り合う各レーザ光による溶融範囲の重畳がない分、央部での溶融範囲の重畳があるとしても、その影響は外周面には及びにくくなり、したがって、スパッタ等の発生も少なくできる。なお、接合強度を高めたいときは、請求項3に記載の発明のようにすることで、過剰溶融が抑制され、しかも、突き合せ面の央部での接合も確保されるため、接合強度が高められる。
【0013】
なお、突き合せ面の形状は任意であるが、円形又は正多角形である場合のように、線対称形状であるときは、請求項4に記載のように、前記外周縁に向けて照射されるレーザ光が、該突き合せ面の線対称形状に対応した対称配置の各方向から、対称の強度分布での照射となるものとするのがよい。このようにすれば、突き合せ面における溶融のバランスを高めることができるためである。本発明において、溶接対象をなす部材(母材)の突き合せ面は、円や正多角形に限られない。一方、回析光学素子(DOE)の構造により得られるレーザ光の分岐の形態(配置)は、突き合せ面の外周縁の形状「輪郭」が円である場合には、それと同心の一円周上において等角度間隔となるようにするのがよいが、これに限定されるものでもなく、いずれの外周縁形状でも、溶接条件に応じて任意のものとすればよい。また、分岐の数は、突き合せ面の大きさ、その外周の形状等に応じて設定すればよい。そして、分岐された各レーザ光の強弱(強度分布)も、照射箇所において所望とする深さの溶融が得られるように設定すればよく、所望とする強弱が得られるように作られた回析光学素子(DOE)を用いればよい。
【0014】
なお、反射体は、分岐され、集光レンズを介して照射されるレーザ光を、溶接箇所に向けて所望とする反射による照射をさせることができればよく、平面ミラーに限らず、曲面ミラーを用いてもよい。そして、その反射は、焦点の手前でも、後方で行ってもよく、突き合せ面の外周縁で、所望とする入熱が得られる照射スポットの焦点が得られるようにすればよい。さらに、本発明における同時溶接工程においては、それに先立ち、要すれば、通常の溶接と同様に、仮付け溶接工程を含めてもよい。なお、接合体がスパークプラグの電極用チップ(複合体チップ)のように、各部材が小さく、軽いものである場合には、このように仮付けするか、突き合せ面に適度の面圧を付与すべきであり、その場合には、レーザ光に干渉しないように、適宜の手段で押さえ付ければよい。上記請求項5に記載の発明の製法のように、前記接合体がスパークプラグの電極用チップである場合には、前記2つの部材のうちの一方の部材を貴金属チップとするとよい。そして、上記請求項6に記載の本発明のように、前記中心電極の先端及び前記接地側電極の先端のうちの少なくとも一方に電極用チップが固着されてなるスパークプラグの製造方法において、その電極用チップに、請求項5に記載の接合体の製造方法で製造された電極用チップを用い、該電極用チップが、前記貴金属チップを前記火花放電間隙側に位置するようにして固着することにより、コストの増大を招くこともなく、着火性能及び耐久性に優れたスパークプラグを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の製造方法の実施の形態例において製造する(溶接)する接合体を説明するもので、Aは溶接前の各部材(母材)の側面図(正面図)、Bは溶接前において両部材を突き合せた状態の側面図(正面図)、Cは溶接後の接合体の側面図。
図2】本例において使用されるレーザ照射装置等からなる接合体の溶接、製造装置の全体を概念的に示す模式的斜視図。
図3図2の溶接、製造装置の全体を側面(正面)側から見た説明用の模式図。
図4図2及び図3において、分岐されたレーザ光が、突き合せ面の外周縁を照射する状態を説明する上から見た図。
図5】溶接後の接合体における突き合せ面の溶融範囲を説明する拡大模式図。
図6】スパークプラグを説明する縦半断面図、及び要部拡大図。
図7】溶接後の接合体における突き合せ面の溶融範囲の別例を説明する拡大模式図。
図8】溶接後の接合体における突き合せ面の溶融範囲の別例を説明する拡大模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を具体化した実施の形態例について、図1図5に基づいて詳細に説明する。ただし、本例において製造(溶接)対象をなす接合体は、スパークプラグの中心電極又は接地側電極の各端に溶接等により固着される複合体チップ(電極用チップ)である。これは、コストの増大を招くことなく、着火性を高めるため、各電極の火花放電間隙(火花ギャップ)側の各端に固着されるもので、図1の左図(A)に示したように、円柱体(又は円板)をなすニッケル部材11と、白金やイリジウム等の貴金属チップ(例えば、円柱体、又は円板)21との2つの部材(以下、両部材11,21、又は部材11、部材21)からなるものである。本例では、図1の中央(B)に示したように、その両部材11,21を、各端面(平面)13,23において相互に突き合せ、図1の右図(C)に示したように、その両端面(以下、突き合せ面ともいう)13,23の外周縁17を含め、突き合せ面(相互間)を溶融して溶接して、電極用チップをなす接合体30を得る場合とする。なお、溶接は、円をなす突き合せ面の中心から放射状に延びる多数の直線に沿って、外方から突き合せ面の外周縁17に向けて、以下に説明する溶接、製造装置100により、回析光学素子(DOE)にて分岐された多数のレーザ光を照射して溶接することによる。
【0017】
図2は、本例において使用されるレーザ照射装置等からなる接合体30の溶接、製造装置100の全体を概念的に示した模式的斜視図である。本装置100は、図示上から下向きにレーザ光を照射するレーザ生成装置(図示せず)が設けられており、これで生成されたレーザ光Laを、同図に示したように、レーザ光照射ヘッド(光学ヘッド、又は単にヘッドともいう)110から下向きに照射するものとされている。そして、そのヘッド100の下には、回析光学素子(例えば、石英製)120が上面に設けられたDOE支持板130が配置され、その下に、集光レンズ140、そして、この集光レンズ140の下に、溶接すべき両部材11,21を位置決めして載置し保持する基台150がそれぞれ、所定の間隔をおいて配置されている。
【0018】
本例において回析光学素子120は、ヘッド100から入射されたレーザ光Laがその照射方向の延長線に垂直な仮想平面に向けて、円錐の母線に沿うように等角度間隔で多数(本例では8)に拡散状に分岐されされるように構成されている。そして、分岐された各レーザ光(図中、実線)は、回析光学素子120の下に設けられた集光レンズ140を通過し、通過した各レーザ光L1、L2は、その下において、両部材11,21を包囲する各所に配置された多数の反射体(例えば、ミラー)160にて反射し、基台150上に位置決め保持された両部材11,21における溶接すべき端面(突き合せ面)の外周縁17における周方向の所定位置(等角度間隔位置)に向けて照射される設定とされている。このため、多数(本例では8)のミラー160は、回析光学素子120に入射されるレーザ光Laの照射方向の延長線に垂直な仮想平面において、その延長線を中心として描いた仮想円(Kc)を8等角度間隔で分割した位置に配置され、分岐され、集光レンズ140を介してて各ミラー160に入射する各レーザ光L1、L2が反射され、両部材11,21における溶接すべき突き合せ面の外周縁17における周方向の所定位置に向けて照射されように、それぞれ傾斜等が設定されて配置されている(図4参照)。なお、本例において、分岐されたレーザ光L1、L2の強度分布(出力分布)は、強弱、2種で、隣り合うもの交互が、強のレーザ光L1、弱のレーザ光L2となる設定とされている。レーザ光L1、レーザ光L2は、各光軸を実線で図示している。
【0019】
本例では、分岐された各レーザ光L1,L2の各ミラー160への入射は、焦点の手前で行われ、照射されるべき外周縁17において焦点(照射スポット)が得られる設定とされている。なお、各レーザ光L1,L2の外周縁17への照射角は突き合せ面13、23と略平行でもよいが、本例では、適宜の傾斜角度が付与されている(図3参照)。そして、本例では、上記したように、分岐された8つのレーザ光のうち、平面視(図4図5参照)、90度間隔で(X軸、Y軸方向に)直交する4つのレーザ光L1が強度が強く、この高強度のレーザ光L1の間のレーザ光L2が強度が弱い(低い)ものとされて、強弱2種のレーザ光L1,L2となる設定とされている(図4等参照)。図4図5中、太い矢印線は高強度のレーザ光L1であり、細い矢印線は低強度のレーザ光L2である。これにより、この高強度のレーザ光L1の照射によってレーザ溶接される外周縁17から突き合せ面13、23の中心(央部)に向かって溶融される深さが深く、低強度のレーザ光L2の照射によってレーザ溶接される外周縁17から突き合せ面13、23の中心に向かって溶融される深さが浅くなるものとされ、同じにならものとされている。
【0020】
本例では、図5に示したように、この4つの高強度のレーザ光L1によって溶融される深さが、突き合せ面13、23の中心を含むものとされ、その中心において、それぞれの溶融範囲が、ダブルハッチングで示したように重畳する設定とされている。そして、他の4つの低強度のレーザ光L2によって溶融される深さが、シングルハッチングで示したように、その中心を含まず、しかも、深くなるものと溶融範囲が重畳しないように設定されている。すなわち、本例では、外周縁17において隣り合わない4つの高強度のレーザ光L1によって突き合せ面13、23に生成される溶融範囲が、突き合せ面13、23の央部で重畳するように設定されており、その央部での溶着が確実に行われるようにされている。なお、各レーザ光L1,L2による突き合せ面13、23における溶融範囲は、外周縁17から離間するほど、熱エネルギーが届きにくくなるから、その幅が狭くなるが、本例では、レーザ光のうち、外周縁17において隣り合うレーザ光L1,L2によって突き合せ面13、23に生成される溶融範囲が、外周縁17では重畳しないように設定されている。なお、これらの設定は、試験溶接を行うなど、段取り過程で、適宜、所望とする溶接が得られるように、溶接対象とされる部材の材質等に基づいて、調整し、設定すればよい。
【0021】
さて、次に、溶接、製造工程について説明する。本例では、上記した溶接、製造装置100における基台150の所定位置の上面に、両部材11,21を同心にして上下に突き合せた状態として載置し、位置決めして保持する(図2図3参照)。その位置決めの保持は、両部材11,21の同心状態の保持と共に、基台150上において動かないように、上の部材21の上向き端面を下に向けて、適宜の固定力で押すなどすればよく、適宜の手段を用いればよい。具体的には、分岐された8つのレーザ光L1,L2の各光束に干渉しないように、レーザ光相互の間から、図2図4中に2点鎖線で示したように、押え付け手段P(例えば、適宜の剛性を有するセラミックや金属からなる押え棒(棒材))によって、適宜の固定力Fで押さえつけるようにすればよい。なお、図示はしないが基台150上に、チャックを設けておき、下の部材11を、レーザ光の照射に支障がないように固定しておくこととしてもよい。
【0022】
上記の溶接、製造装置100により、両部材11,21を基台150上に位置決めして保持した後は、レーザ発振装置から出力されるレーザ光Laを光学ヘッド100を介して所定の出力で照射する。これにより、分岐されてミラー160で反射される各レーザ光L1,L2の照射により、両部材11,21の突き合せ面13、23の外周縁17を含め、その突き合せ面13、23は8方向から同時に溶接される。すなわち、光学ヘッド100を介して照射される所定の出力のレーザ光Laは、その下の回析光学素子120に入射され、上記したように環状配置の8等分に分岐され、この下に配置された集光レンズ140を介して、溶接対象の両部材11,21を包囲する配置で設けられた各ミラー160に入射されると同時に、反射され、接合体30となるべく両部材11,21の突き合せ面13、23の外周縁17に等角度間隔で照射される。この照射により、外周縁17を含め、突き合せ面13、23の中心に向けて入熱され、両部材11,21を溶融するから、その照射の停止により、外周縁17を含め、突き合せ面13、23が溶接され、接合体30を得ることができる。かくして得られた接合体30の接合面(突き合せ面13、23)は、図5に模式的に示したような溶融範囲となる。
【0023】
このように、本発明では、多数箇所の同時溶接によるものであるから、従来のように1つの光学ヘッドから発振されるレーザ光にて、周方向に、順次、周回して、時間差をつけて溶接する場合のような溶接ひずみの発生という問題はない。その上に、周方向において分岐されて照射されるレーザ光は、その強度に上記したような大小(強度分布)が差異がつけられたレーザ光L1,L2とされ、突き合せ面13、23の央部に向かう溶融深さが異なるものとされている。このため、その強度に差を設けることなく、各レーザにて央部での溶融を確保し、溶接した場合と異なり、央部における過剰入熱、過剰溶融を発生させることが防止ないし抑制される。一方で、外周縁17において隣り合わない4つの高強度のレーザ光L1によって突き合せ面13、23に生成される溶融範囲が、その央部で重畳するようにされているから、央部も含め、突き合せ面13、23の全域において所望とする状態での接合が得られる。とくに、本例では、外周縁17において隣り合うレーザ光L1,L2によって突き合せ面13、23に生成される溶融範囲が、外周縁17では重畳しないように設定されているから、同時溶接による央部での溶融範囲の重畳があるとしても、その影響は接合体30の外周縁17ないし外周面には及びにくくなり、したがって、スパッタの飛散や、それによる溶接部位の肉やせ(溶接面の凹みやえぐれ)もなく、接合強度の低下も少ない所望とする溶接がなされた接合体30が得られる。さらに、本例では、突き合せ面13、23において、X軸、Y軸に関して対称方向で、しかも、強度についても対称となるように、レーザ光を照射しているため、突き合せ面13、23全体における接合のバランスも保持されている。このため、傾きもない、高精度の接合体30が得られる。
【0024】
そして、本例では、その製造対象をなす接合体30が、スパークプラグの電極用チップである。したがって、このような製法で製造された接合体(電極用チップ)30は、精度も接合強度も高いから、これを、図6に示したようなスパークプラグ201における中心電極221、接地側電極231の火花放電間隙(火花ギャップ)側の各先端(火花放電間隙側に位置する端)に、貴金属チップ21が火花放電間隙(火花ギャップ)側に位置するようにして溶接等によって固着してなるものでは、コストの増大を招くことなく、着火性能のみならず、その耐久性等の向上も期待される。すなわち、図6のスパークプラグ201は、軸線G方向に軸孔241を有する絶縁体251と、この軸孔241内においてその先端側に突出するように配置された中心電極221と、絶縁体251の周囲を取り囲む筒状の主体金具261と、一端である基端がこの主体金具261の先端に接合され、他端である先端が中心電極221の先端に対向するように設けられた接地側電極231とを含む構成のものであり、その構成自体は従来、公知のものであるが、本例製法で製造してなる接合体30(電極用チップ)を用い、貴金属チップ21が火花放電間隙側に位置するようにして、中心電極221、接地側電極231の火花放電間隙側の各端(先端)に、接合体30における一方の端面を介して固着しているから、着火性能及び耐久性も高いスパークプラグとなすことができる。なお、このような接合体(電極用チップ)30は、中心電極221の先端及び接地側電極231の先端の双方ではなく、いずれか一方にのみ、その貴金属チップ21が火花放電間隙側に位置するようにして固着することとしてもよい。
【0025】
本例では、レーザ光照射ヘッド100から照射される1つのレーザ光Laが、平面視、回析光学素子120により、1つの円周上において8つに等角度間隔で分岐され、その分岐されたレーザ光のうち、直交する4方向からのレーザ光L1が、他のレーザ光L2よりも強度が相対的に大きくなる2種の強度のものとされていることは、上記したとおりである。このような分岐の数、配置や光の強度分布、強弱の種類等は、接合体30となるべき溶接対象の両部材における突き合せ面の形状や、溶接対象部材の材質(融点)等に応じて、所望とする溶接の仕様が得られるように、設計、製造した回析光学素子を用いればよい。各レーザ光の強度差等は、突き合せ面の形状や、溶接対象部材の材質(融点)等に応じて、外周縁から突き合せ面の央部に向かって、スパッタ等の発生を招く過剰溶融とならず、突き合せ面の全体において高い接合強度が得られるように、それぞれ所望とする溶融深さが得られるように、適宜の差がつくように設定すればよい。
【0026】
すなわち、上記例では、突き合せ面13、23の央部で、分岐された8のレーザ光のうち、隣り合わない4のレーザ光L1による溶融範囲が重畳し、他のレーザ光L2による溶融範囲が重畳しないように、各レーザ光L1,L2の強度に2種の差をつけた場合で説明したが、突き合せ面13、23が、大きく、その中心での溶融が得られにくいような場合には、分岐するレーザ光の数を増やし、溶融範囲が突き合せ面13、23の央部で多く重畳することになるように、レーザ光の数をさらに増やしてもよい。逆に、突き合せ面13、23が小さく、その中心(央部)での溶融が得られやすいような場合には、図7に示したように、レーザ光の分岐の数が8であるとしても、2つの対向するレーザ光L1による溶融範囲が、突き合せ面13、23の央部で重畳するだけとしてもよい。そして、相対的に強度の低いレーザ光L2、L3についても強度を変え、その溶融深さが3種になるようにしてもよい。すなわち、レーザ光の強度は3種以上にしてもよい。
【0027】
なお、溶接対象の部材が角柱体(角棒)のため、図8に示したように、突き合せ面13、23の形状が、例えば、正方形のものでも、図5に示した円形のものと同様に、突き合せ面13、23の央部で、分岐された8のレーザ光のうち、4のレーザ光L1による溶融範囲が重畳し、他のレーザ光L2による溶融範囲が重畳しないように、各レーザ光L1,L2の強度に差をつけるなど、本発明は、突き合せ面の形状に関係なく、そして、適数の強度差をつけることで具体化できる。また、回析光学素子で分岐する多数のレーザ光のパターンは、溶接する部材の突き合せ面の形状等に応じて設定すればよい。その面が円又は正多角形であれば、それに対応した環状線において配置されるものとすればよいが、その配置はそれに限定されるものではない。
【0028】
また、上記例では、溶接すべき両部材を円柱体、又は角柱体のものとして説明したが、本発明はこれに限られることなく、広く、突き合せ面の外周縁の多数箇所を同時溶接すべき接合体に適用できるのであり、スパークプラグの電極用チップのような小物に限定されるものでもない。そして、突き合せ面をなす両部材の端面が、相互に異径であるとしても、本発明は適用できる。ただし、その場合には、突き合せ面の外周縁に対し、分岐されたレーザ光が問題なく照射されるように、要すれば、突き合せ面のうち、大きい方の部材における突き合せ面に対し、適宜、入射角がつくようにして照射すればよい。また本発明は、例えば2枚の方形(又は矩形)の板を重ね合わせて、その重ね合せ面の外周縁を、その外周に沿って溶接する場合にも適用できる。なお、本発明において、突き合せ面とは、両部材を溶接するために合わせたときの接触面を意味する。そして、このような板の接合の場合にも同じ大きさの板でなくとも適用できる。
【0029】
なお、突き合せ面が矩形であれば、分岐する多数のレーザ光のパターンも、これを包囲する矩形環状線において配置される設定としてもよいが、それに限定されるものではない。そして、その突き合せ面(長方形)の縦横長さ比次第では、その突き合せ面の全域が効率よく溶接されるように、分岐されて照射するレーザ光の向き、強さも、適宜に設定すればよい。さらに、突き合せ面の形状にかかわらず、その央部で重畳させるまでもなく、例えば、突き合せ面の全領域近くまで溶接できるような場合には、溶融範囲を重畳させなくともよい。
【0030】
本発明において、回析光学素子は、上記もしたように、レーザ光の分岐数、分岐されたレーザ光の照射方向(分岐パターン、配置)、レーザ光強度(出力)として付与すべき、その大小等の要求される仕様に基づいて設計すればよい。また、回析光学素子に入射されるレーザ光の出力、すなわち、レーザ光の発振装置で生成され、ヘッドから照射されるレーザ光の強度は、分岐されるレーザ光の合計強度に基づき、それが得られるものに設定すればよい。そして、この出力は、溶接すべき部材(金属)の融点、突き合せ面の大きさ、その直径等に基づいて所望とする加熱による溶融が得られるように、要すれば、試行しながら設定すればよい。また、分岐したレーザ光を集光焦点の後で、反射体で反射させる場合には、突き合せ面の外周縁で集光するような、適宜の曲率の凹面鏡を用いればよい。さらに、反斜体は、ミラー以外に、照射する各レーザ光を反射できる光学素子であればよい。
【符号の説明】
【0031】
11,21 部材
12,23 突き合せ面(部材の端面)
17 突き合せ面の外周縁
30 接合体(スパークプラグの電極用チップ)
120 回析光学素子
160 ミラー(反射体)
La 1つのレーザ光
L1,L2 回析光学素子で分岐された多数のレーザ光
201 スパークプラグ
221 中心電極
231 接地側電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8