(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6510993
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月8日
(54)【発明の名称】部分メッキ方法及びスパークプラグ用の主体金具の製造方法、並びにメッキ品の製造方法及びスパークプラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 5/02 20060101AFI20190422BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20190422BHJP
C25D 21/04 20060101ALI20190422BHJP
C25D 21/10 20060101ALI20190422BHJP
H01T 21/02 20060101ALI20190422BHJP
【FI】
C25D5/02 A
C25D7/00 G
C25D21/04
C25D21/10 301
C25D21/10 302
H01T21/02
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-26364(P2016-26364)
(22)【出願日】2016年2月15日
(65)【公開番号】特開2017-145438(P2017-145438A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2018年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097434
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和久
(72)【発明者】
【氏名】松浦 俊臣
(72)【発明者】
【氏名】松谷 渉
(72)【発明者】
【氏名】葛西 隆
【審査官】
萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭59−190383(JP,A)
【文献】
特開平05−013956(JP,A)
【文献】
特開2008−013822(JP,A)
【文献】
実開平02−087072(JP,U)
【文献】
特開2003−183896(JP,A)
【文献】
特開2008−019496(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0111339(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00−7/12
C25D 17/00−21/22
H01T 7/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ槽のメッキ液中に、被メッキ物を、その液面の上方にメッキ非対象部分を露出させて浸漬し、浸漬されているメッキ対象部分の表面にのみ電気メッキによるメッキ被膜を形成する部分メッキ方法において、
そのメッキの進行中、前記液面を所定の液位に保持し、その保持状態の下で、
メッキ液の該液面を含む少なくとも液面寄りにあるメッキ液に、該液面に沿って被メッキ物に向かう液流を、該液流が前記メッキ対象部分における液面寄り部位の表面を洗って該表面に滞留又は付着する気泡の除去が可能な流速で付与し、かつ、この液流の付与状態の下で、被メッキ物を、平面視したときに、被メッキ物を連続又は断続的に回転させ、該表面における前記液流に対する上流向き面をその回転における周方向において連続又は断続的に変化させることを特徴とする部分メッキ方法。
【請求項2】
前記液流を、平面視したときに、前記メッキ槽において所定の一定方向の液流としたことを特徴とする請求項1に記載の部分メッキ方法。
【請求項3】
メッキ槽のメッキ液中に、被メッキ物を、その液面の上方にメッキ非対象部分を露出させて浸漬し、浸漬されているメッキ対象部分の表面にのみ電気メッキによるメッキ被膜を形成する部分メッキ方法において、
そのメッキの進行中、前記液面を所定の液位に保持し、その保持状態の下で、
メッキ液の該液面を含む少なくとも液面寄りにあるメッキ液に、該液面に沿って被メッキ物に向かう液流を、該液流が前記メッキ対象部分における液面寄り部位の表面を洗って該表面に滞留又は付着する気泡の除去が可能な流速で付与する一方、この液流にて、被メッキ物の平面視したときの周方向における前記表面の全域が洗われるように、該液流の流れ方向を変化させることを特徴とする部分メッキ方法。
【請求項4】
前記液流を、平面視したとき、前記メッキ槽において、複数の異なる流れ方向として付与されるように設定しておき、その流れ方向を、右回り若しくは左回りで順次、又は、適宜の順で時間間隔をおいて変えることを特徴とする請求項1又は3のいずれか1項に記載の部分メッキ方法。
【請求項5】
前記流速を、所定の許容範囲内での一定の流速とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の部分メッキ方法。
【請求項6】
前記被メッキ物が、筒状部材の先端面に、火花ギャップ形成用の接地側電極用の棒材が突き合せ状に固定されてなるスパークプラグ用の主体金具であって、前記メッキ非対象部分が該棒材の自由端である先端を含む大部分であり、前記メッキ対象部分が、前記筒状部材の全体と、該棒材におけるメッキ非対象部分以外の部分である、スパークプラグ用の主体金具であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の部分メッキ方法。
【請求項7】
スパークプラグ用の主体金具の製造工程のうちの該主体金具へのメッキ方法に、請求項6に記載の部分メッキ方法を用いることを特徴とする、スパークプラグ用の主体金具の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の部分メッキ方法を用いることを特徴とする、メッキ品の製造方法。
【請求項9】
請求項7に記載のスパークプラグ用の主体金具の製造方法で製造した該主体金具を用いることを特徴とする、スパークプラグの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部品や金属製品(以下、金属部材又は単に部材ともいう)の表面(露出面)の全部ではなく、その一部又は大部分など、部分を電気メッキによってメッキする部分メッキ方法、及び、スパークプラグ用の主体金具の製造工程のうちの該主体金具へのメッキ方法に、部分メッキ方法を用いるスパークプラグ用の主体金具の製造方法
等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属部材の表面のうち、例えば、その一部を除く大部分の部位(メッキ対象部分)に電気メッキ(以下、単にメッキともいう)をする部分メッキ方法としては、被メッキ物である部材のうち、メッキ非対象部分(メッキ不要部位)に、樹脂の塗布等によるマスキング(絶縁)をしてメッキする方法がある。この方法ではマスキングした被メッキ物を、通常の全体メッキと同様に、直接、又は回転バレルに入れてメッキ液中に浸漬してメッキの析出を行い、メッキ後においてマスキング材を除去することになる。すなわち、この方法だと、メッキ前のマスキングのための作業だけでなく、メッキ後のその除去といった面倒な作業が必要となる。また、部分メッキではなく、全体をメッキした後で、メッキ非対象部分を特定の酸液(酸性の溶液)に浸漬して、その不要部位のメッキ被膜(以下、単にメッキともいう)を事後的に剥離、除去することで、部分メッキを得るということも行われている。
【0003】
一方、部分メッキでも、メッキ非対象部分が、被メッキ物の一端側の一部又は部分であるような場合には、被メッキ物をメッキ液中にメッキ非対象部分がその液面の上方に露出(突出)するように浸漬し、浸漬させているメッキ対象部分の表面にのみメッキ被膜を形成することも提案されている(特許文献1)。しかし、このような方法による部分メッキにおいては、次のような解決すべき課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平05−98490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電気メッキにおいては給電開始(電極間への通電開始)に伴うメッキ液中の薬品の反応により、その進行中(液中の金属イオンの被メッキ物(陰極)の表面への析出過程)に、その液中において多量のガス(例えば、水素ガス)が微小な気泡となって無数、発生する。このような気泡は液中を上昇して液面に浮遊し、滞留するため、被メッキ物の液没している部位(メッキ対象部分)のうち、その液面近傍(液面寄り部位)の表面に付着し易い。例えば、
図6に示した被メッキ物10(メッキ槽101中に図示)のように、異径筒状の筒状部材(以下、本体部分ともいう)11の先端面(図示、上端面)13に対し、相対的に小さな横断面で上方に延びる棒材31を有するような構造のものにおいて、その棒材31の部位はメッキをかけずに、本端部分11にはその先端面13も、それより図示下方の部分(浸漬部分)と同様の膜厚で確実にメッキをしたいという場合がある。このような場合には、同図に示したように、棒材31の略全体をメッキ液200の液面200mの上に突出させ、かつ、その液面200mが本体部分11の先端面13の少し(例えば数mm)上に位置するようにして浸漬する必要がある。結果、その先端面13の上においては実質的な液200の深さ(液面200mと先端面13との距離)200dが浅くなる。この液の浅い部位は、液中で発生し、本体部分11の外側面に沿って上昇する気泡群の影にもなり、したがって、その部位には、気泡が溜る気泡溜りとなり易い。すなわち、このような部材の部分メッキにおいては、とくにその本体部分11の先端面13の上に、
図6の拡大図中に示したように、多くの気泡(気泡群)Kが滞留し付着しがちとなる。
【0006】
このように、液面上に被メッキ物の部分を露出させてメッキする部分メッキ方法(以下、露出による部分メッキ方法ともいう)において、その液面の近傍(液面寄り部位)において、気泡の滞留や付着があると、その影響により、該液面寄り部位における被メッキ物(陰極)への電流密度が小さくなるため、その部位の表面においてメッキの進行(メッキ(金属)の析出)が妨げられる。結果、この液面寄り部位のメッキ(被膜)の厚みが他に比べ局所的に薄くなってしまう。とりわけ上記した
図6に例示したような形状、構造の被メッキ物10のように、部分メッキをする場合にはこうした問題が顕在化しやすい。すなわち、このような被メッキ物10では、その本体部分11における先端面13のメッキ(被膜)の厚みが局所的に他より薄くなるなど、メッキの膜厚精度の低下が大きくなる。因みに、
図6に例示した被メッキ物(部材)10は、その詳細は後述するが、スパークプラグ用の主体金具(仕掛品)である。
【0007】
一方、電気メッキの進行中においては、メッキ液の補充や、その濃度の均一保持等のための攪拌が行われる。このため、このような攪拌による液流によって、被メッキ物の表面に滞留又は付着する気泡をその表面から分散、除去するということも考えられる。しかし、メッキ槽中において単にそのような攪拌を行う場合には、メッキ液の液面が波立ち、又は、液位が上下に変動するから、液面を所望とする精度の液位に保持することができない。結果、液面寄り部位におけるメッキの析出する範囲も上下に変化するから、上記した局所的なメッキ厚精度の低下だけでなく、液位方向におけるメッキ対象部分(領域)の精度低下も招いてしまう。このように、露出による部分メッキ方法においては、液面寄り部位の表面におけるメッキ被膜の厚みの精度低下など、メッキ精度が低下するといった問題があった。
【0008】
こうしたことから理解されるが、露出による部分メッキ方法においては、メッキについて高精度が要求される部材(以下、精密メッキ部品(製品))への適用は不向きである。
図6に示したような被メッキ物(主体金具)10では、その棒材31の部分は、後工程で火花ギャップの形成のためにL字形に曲げ加工され、しかも、その変形に伴う棒材31表面への影響は、その大部分に及ぶ一方で、その本体部分11の先端面13には所望とする厚さのメッキが高精度で要求される。このため、このような精密メッキ部品たる主体金具には、従来は上記したように、全体をメッキした後に、メッキ不要箇所を酸液(酸性の溶液)等に浸漬して事後的に不要のメッキを剥離、除去するか、マスキング法をとることを余儀なくされており、これがその製造効率を低下させているといった問題があった。
【0009】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたもので、メッキ液中にある被メッキ物の表面のうち、液面寄り部位の表面に滞留又は付着する無数の気泡の除去を、液面の波立等を招くような液の攪拌によることなくできるようにし、その液面寄り部位におけるメッキの厚みが局所的に薄くなる等のメッキ精度の低下を招くことのない、露出による部分メッキ方法、及び、スパークプラグ用の主体金具の製造工程のうちの該主体金具へのメッキ方法に、部分メッキ方法を用いるスパークプラグ用の主体金具の製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に記載の発明は、メッキ槽のメッキ液中に、被メッキ物を、その液面の上方にメッキ非対象部分を露出させて浸漬し、浸漬されているメッキ対象部分の表面にのみ電気メッキによるメッキ被膜を形成する部分メッキ方法において、
そのメッキの進行中、前記液面を所定の液位に保持し、その保持状態の下で、
メッキ液の該液面を含む少なくとも液面寄りにあるメッキ液に、該液面に沿って被メッキ物に向かう液流を、該液流が前記メッキ対象部分における液面寄り部位の表面を洗って該表面に滞留又は付着する気泡の除去が可能な流速で付与し、かつ、この液流の付与状態の下で、被メッキ物を、平面視したときに、被メッキ物を連続又は断続的に回転させ、該表面における前記液流に対する上流向き面をその回転における周方向において連続又は断続的に変化させることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、前記液流を、平面視したときに、前記メッキ槽において所定の一定方向の液流としたことを特徴とする請求項1に記載の部分メッキ方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、メッキ槽のメッキ液中に、被メッキ物を、その液面の上方にメッキ非対象部分を露出させて浸漬し、浸漬されているメッキ対象部分の表面にのみ電気メッキによるメッキ被膜を形成する部分メッキ方法において、
そのメッキの進行中、前記液面を所定の液位に保持し、その保持状態の下で、
メッキ液の該液面を含む少なくとも液面寄りにあるメッキ液に、該液面に沿って被メッキ物に向かう液流を、該液流が前記メッキ対象部分における液面寄り部位の表面を洗って該表面に滞留又は付着する気泡の除去が可能な流速で付与する一方、この液流にて、被メッキ物の平面視したときの周方向における前記表面の全域が洗われるように、該液流の流れ方向を変化させることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、前記液流を、平面視したとき、前記メッキ槽において、複数の異なる流れ方向として付与されるように設定しておき、その流れ方向を、右回り若しくは左回りで順次、又は、適宜の順で時間間隔をおいて変えることを特徴とする請求項1又は3のいずれか1項に記載の部分メッキ方法である。
請求項5に記載の発明は、前記流速を、所定の許容範囲内での一定の流速とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の部分メッキ方法である。
【0012】
請求項6に記載の発明は、前記被メッキ物が、筒状部材の先端面に、火花ギャップ形成用の接地側電極用の棒材が突き合せ状に固定されてなるスパークプラグ用の主体金具であって、前記メッキ非対象部分が該棒材の自由端である先端を含む大部分であり、前記メッキ対象部分が、前記筒状部材の全体と、該棒材におけるメッキ非対象部分以外の部分である、スパークプラグ用の主体金具であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の部分メッキ方法である。
請求項7に記載の発明は、スパークプラグ用の主体金具の製造工程のうちの該主体金具へのメッキ方法に、請求項6に記載の部分メッキ方法を用いることを特徴とする、スパークプラグ用の主体金具の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、上記したように、メッキ液に液流を、気泡の除去が可能の流速で付与するものであるから、メッキ液中で発生し、前記メッキ対象部分における液面寄り部位の表面(以下、単に「表面」ともいう)に滞留又は付着する気泡(気泡群)が、その液流により洗われるようにして除去される。しかも、メッキの進行中においては、上記したように被メッキ物を回転させるものとしているため、被メッキ物の表面のうち、液流の上流を向く前記表面は、経時的に周回状に変化する。これにより、該表面のうち液流の下流側に位置する背面(流れの影)の位置が変化するから、その特定の背面に気泡が集中したり、滞留又は付着(以下、単に「付着」ともいう)することもない。これにより、前記メッキ対象部分における液面寄り部位の表面の全周が、メッキ液の液流によって洗われる。すなわち、その液流により、表面のうち、平面視したとき(上から見たとき)、全周が洗われ、付着する気泡の除去が得られるため、従来におけるような気泡の付着に起因する電気メッキの進行中における電流密度の低下が防止されるので、液面寄り部位の該表面においてもメッキの析出の安定が図られる。そして、本発明では、メッキ槽中で液を攪拌させることによる気泡の分散、除去をするものでなく、その液流にて、気泡の分散、除去をするものであるから、液位に問題のある大きな波立等の発生をさせることもない。結果、メッキ厚、及び液位方向におけるメッキ領域も含め、メッキ精度の向上が図られる。
【0014】
本発明において、メッキ液にその液面に沿う液流を付与するのを、液面を含む少なくとも液面寄りにあるメッキ液としたのは、 気泡の付着が大きな問題となるのは、被メッキ物のうち、主としてメッキ液に浸漬されているメッキ対象部分における液面寄り部位の表面であるからである。したがって、これより深く、例えば、メッキ液の深さの全体において、その液流を付与することとしてもよいが、常にその必要があるわけではない。被メッキ物の形状、構造ごとに、気泡の付着が問題となる、液面寄りの深さは異なるので、それらを考慮して、液流を付与するべき液面寄りのメッキ液の深さを設定すればよい。
【0015】
本発明において、「流速」は、表面を洗って該表面に付着する気泡の除去が可能な範囲で、かつメッキ析出に支障が出ない範囲で、適宜に設定すればよい。また、被メッキ物の「回転」の速度は、メッキの析出に支障がない(均一なメッキが得られる)ように、なるべくゆっくり、しかも、付着する気泡の除去が、その回転にともなって、平面視したとき、その周方向における全周において効率的に、万遍なく行われるように、被メッキ物の平面視したときの(横断面)形状等を勘案して設定すればよい。そして、この回転は、連続でも、例えば、適宜の回転角で回転させて、所定時間停止し、その後、この回転、停止を繰り返すような断続的な回転(不連続回転)としてもよい。メッキ対象部分における液面寄り部位の平面視したとき(横断面)、形状が、円形であるような場合には、連続回転が好ましいといえるが、これが例えば、正方形であるような場合には、90度ずつ回転させ、その対角方向に液流が流れるようにしてもよい。こうすることで、液の円滑な流れが得られるため、より効率的な気泡の除去が得られる。なお、このような回転は、適宜の回転数ごと、正転と、逆回転を繰り返すようにしてもよい。
【0016】
そして、本発明において、「回転」は、被メッキ物が平面視したとき、円形の場合には、その中心、又は被メッキ物内の任意点を中心とする自転とするのがよいが、自転させながら所定の軌道(例えば、円)で公転させてもよい。すなわち、本発明における回転は、単純な自転でなくともよい。要は、メッキの進行中において発生し、その表面に付着する気泡が、メッキ液の液流によって、その周方向の全域において万遍なく洗われるような回転とすればよい。なお、本発明におけるような露出による部分メッキ方法では、被メッキ物は、例えば、液面上において、露出箇所を掴む等して吊り下げることになる。よって、このような場合における「回転」は、例えば、液面上に、回転制御できるチャック装置を設けておき、露出しているメッキ非対象部分をその爪でチャックし(つかみ)、チャック装置を回転制御すればよい。また、本発明においては、被メッキ物自体にも、液流の流れ方向への動きを付与してもよい。
【0017】
そして、このような液流は、請求項2に記載の発明のように、平面視したとき、前記メッキ槽において所定の一定方向の液流とするのがよい。例えば、平面視したとき、メッキ槽の一方の側(端)から、対向する他方の側(端)に向かう一定方向の液流である。例えば、メッキ層が平面視したとき、矩形であるような場合には、その槽の平面視したとき、向かい合う辺相互間において、層流状態で液が流れるようにするのがよい。このようにすれば、メッキ液の液流が安定するから、その液面を所定の一定の液位(一定範囲内の液位)に保持するのが容易となるし、メッキ装置の複雑化も招かない。ただし、このような液流の流れ方向は、メッキの進行中において変化させてもよい。すなわち、平面視したとき、メッキ槽を固定して見たとき、被メッキ物に向かう液流の流れ方向は、メッキの進行中において変化させてもよい。
【0018】
上記各発明では、被メッキ物を平面視したとき、回転させているが、請求項3に記載の本発明では、被メッキ物の平面視したときの周方向における前記表面の全域が洗われるように、該液流の流れ方向を変化させることとしたものである。そして、この場合も含め、本発明においては請求項4に記載の本発明のように、被メッキ物に向かう液流が、前記メッキ槽において、平面視したとき、複数の異なる流れ方向として付与されるように設定しておき、その流れ方向を、適宜の順で時間間隔をおいて変えるようにしてもよい。例えば、平面視したとき、矩形のメッキ槽において、その4つの壁から、それぞれ垂直な方向に水平な液流としてメッキ液に流れを付与できるようにしておき、4つの壁において、順次、時間間隔をおいて、その液流の付与を変化させる、というものである。
【0019】
本発明において、「所定の液位」は、被メッキ物におけるメッキ対象部分の上端(メッキ対象部分と、メッキ非対象部分との境界)となるべき位置(液面の高さ位置)であり、所定の液位、すなわち、液面の高さ位置は、要求されるメッキ精度に基づいて付与される許容範囲内において設定すればよい。すなわち、前記液面を所定の液位に保持する際には、メッキ領域の寸法精度、すなわち、メッキ領域の上端位置の寸法精度に基づいて付与される許容範囲内で、その液位の許容範囲を設定すればよい。また、本発明では、前記流速は、上記もしたように「表面」を洗って該表面に付着する気泡の除去が可能な範囲で、かつメッキ析出に支障が出ない範囲で、試験メッキ等に基づいて適宜に設定すればよいが、請求項5に記載の本発明のように、所定の許容範囲内での一定の流速とすればよい。
【0020】
そして、請求項6に記載の発明のように、前記被メッキ物が、筒状部材の先端面における外側に、火花ギャップ形成用の接地側電極用の棒材が突き合せ状に固定されてなるスパークプラグ用の主体金具であって、前記メッキ非対象部分が該棒材の自由端である先端を含む大部分であり、前記メッキ対象部分が、前記筒状部材の全体と、該棒材におけるメッキ非対象部分以外の該筒状部材の先端面寄りの基端部分であるものにおいては、筒状部材の先端面面においても、前記気泡の滞留又は付着を有効に防止できるため、部分メッキ方法でありながらも、メッキ精度の高い主体金具が効率よく得られる。このため、スパークプラグ用の主体金具の製造工程のうちの該主体金具へのメッキ方法に、このような部分メッキ方法を用いるスパークプラグ用の主体金具の製造方法によれば、スパークプラグ自体のコストの低減も期待される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の部分メッキ方法を具体化した実施形態例を説明する模式図であって、Aはメッキ槽の平面図(上から見た図)、Bはその中央横縦断面図。
【
図2】
図1において、メッキの進行過程で、被メッキ物を平面視したとき、回転させている状態の模式的説明図。
【
図3】部分メッキの終了後の被メッキ物である主体金具を用いてスパークプラグを組立てる過程を説明する半縦断面図。
【
図4】本発明の部分メッキ方法を具体化した別の実施形態例に用いるメッキ槽、及び液流の方向変化の種類を説明する平面模式図。
【
図5】
図4の液流の方向変化手段を用いて液流の方向の変化を説明する平面模式図。
【
図6】スパークプラグ用の主体金具、及びこれを被メッキ物として、従来の露出による部分メッキ方法で部分メッキをするときの説明用の模式的断面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る部分メッキ方法を具体化した実施の形態例について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本形態例においては、
図6に示したスパークプラグ用の主体金具を被メッキ物10とする。この被メッキ物(以下、主体金具ともいう)10は、上記もしたように異径の筒状部材(本体部分)11の先端面(図示の上端面)13の一側に、火花ギャップ形成用の接地側電極用の棒材31が突き合せ状態で溶接等により固定されてなるものである。そして、
図6に示したように、メッキ非対象部分は、該棒材31の自由端である先端33を含むその大部分の上下領域(メッキ液200の液面200mより上に露出する部分)であり、メッキ対象部分が、筒状部材11の上下間の全体と、該棒材31のうち、該筒状部材11の先端面13からその先端33に向かう数mmの所定の上下領域(
図6における深さ領域200d)である。このため、以下の部分メッキにおいては、メッキの進行中において、筒状部材11の軸線Gを鉛直にし、その先端面13を上にしてこのメッキ対象部分を液中に浸漬させ、棒材31の自由端である先端33を含む所定部位をメッキ液200の液面200mの上方に突出させ、電気メッキ(例えば、Znメッキ)するものとする。なお、このように部分メッキとして棒材31の大部分をメッキ非対象部分(メッキ不要部分)とするのは、詳細は後述するが、この棒材31部分は、メッキ付きの主体金具とした後のスパークプラグとしての組み立て、製造過程で、上記もしたように、火花ギャップの形成のため、L字状に折り曲げ加工されることから、その際におけるメッキの剥離や、それら等に起因する異常放電の発生防止のためである。
【0023】
図1を参照しながら、まず、本例方法の電気メッキに用いるメッキ装置について説明する。この装置をなすメッキ槽(以下、単に槽ともいう)101は、例えば、平面視したときにおいて(
図1−A参照)、多数の被メッキ物10を相互に適度の間隔をおいて配置できる大きさの矩形で、所定の深さのものであり、その内部には所定の濃度、温度に管理されるメッキ液(亜鉛メッキ用のメッキ液)200が所定の液位(液面の高さ位置)で入れられている。メッキ槽101内の適所には、図示はしないが、被メッキ物(陰極)10の配置に応じ、必要な陽極(亜鉛、鉄、カーボンまたはチタン)が配置されている。
【0024】
一方、本例では、槽101の、例えば、平面視したとき、互いに向き合う一方の辺側から、対向する他方の辺側に層流(水平な流れ)の液流が確保されるように、一方の辺側(
図1の左側)の槽壁103にはその壁の幅方向、深さ方向の全域に、図示しない循環手段により、ろ過装置(図示せず)を介して送られるメッキ液200を、メッキ槽101中に水平に送り込む多数の槽内送込み口(槽内における液流の液流開始口)103aが設けられている(
図1−B参照)。そして、その槽壁103に対向する
図1の右側の槽壁105にはその壁の幅方向、深さ方向の全域に、メッキ槽101中に送り込まれて流されるメッキ液200を、前記ろ過装置に送り込む多数の流出口(槽内における液流終端口)105bが設けられている。これにより、メッキ液200は、メッキ槽101内において、その槽の一方の槽壁103の槽内送込み口(槽内における液流の液流開始口)103aを上流端として、対向する他方の槽壁105の流出口(槽内における液流終端口)105bを下流端として、その槽101内において、
図1中、破線矢印で示したように、液面200mに沿って所定(一定)の流速の液流で流れる設定とされている。この液流は、外部に設けられた、ろ過装置を含むメッキ液の循環手段(配管、バルブ、循環ポンプ等)により、所定の流量の液流となるように循環方式で、制御、管理されるように設定とされている。
図1等では説明用に、被メッキ物10を2個又は1個として簡略図示している。
【0025】
このようなメッキ槽101には、上記したようにその平面視したとき、被メッキ物(主体金具)10が、適宜の配置において、その筒状部材11の先端面13を上にする鉛直状態でもって、棒材31の大部分を、その液面200mの上方に所定量露出(突出)させ、メッキ液200中に浸漬される設定とされている。一方、その液面200mの上には、平面視したとき、被メッキ物10に対応して配置されたチャック装置201が設けられており、浸漬は、そのチャック爪203により、各被メッキ物(主体金具)10の棒材31における先端部位(露出部位の上端寄り部位)をつかみ、吊り下げ状にして下降させることで行う設定とされている。また、本例では各チャック装置201は、その浸漬位置において、各主体金具における平面視したとき、筒状部材(円筒部)11の中心(軸線)Gを回転中心として、適度の回転速度で、連続して同速で回転し、各主体金具を回転させ得るようにされている。
【0026】
このような本例では、メッキ前処理をした各主体金具10を、上記したようにしてチャック装置201により保持し、その液面200mの上方に、メッキ非対象部分を所定量露出させて浸漬する。ただし、このときの液面200mの液位(液面の高さ位置)には、適度の許容範囲が設定される。なお、この液位の保持、管理は、主体金具10の浸漬深さの制御(チャック装置201の下降位置の制御)や、メッキ槽101に設けるオーバーフロー手段により行えばよい。ここに、オーバーフロー手段としては、例えば、槽の壁面にオーバーフロー口を設けたり、槽中の平面視したとき、適所に多数のオーバーフロー管を立ち上げ、オーバーフロー口の下縁、オーバーフロー管の上端(開口)が液位となるようにしておけばよい。
【0027】
しかして本例では、各主体金具10を液中に浸漬し、液面200mを所定の液位に保持し、かつ、メッキ液200に、該液面200mに沿って上記循環手段で一定方向の流れを付与すると共に、各チャック装置201を回転駆動し、その状態において電気メッキのための給電を開始することで、メッキの進行(析出)を行えばよい。なお、液流の流速は、メッキ対象部分における液面200m寄り部位の表面である先端面13に付着する気泡(
図6の拡大図参照)の除去が可能な速さ、勢いを基準に設定されている。
【0028】
このような本例では、所望とするメッキ被膜の厚みが得られるまで、メッキの進行(メッキ時間)を行うことになるが、その工程中においては、液流が、槽101の一方の側の槽壁(内壁面)103aから、対向する他方の側の槽壁(内壁面)105bに向けて、
図1中、破線矢印で示したように一定方向への水平な流れとなって流れている。一方、被メッキ物10は、上記したように連続して回転しており、液流に対するその上流向き面が周方向において連続に変化している(
図2−A,B,C,D参照)。これにより、そのメッキ対象部分における、平面視したとき、周方向における表面の全域が洗われるから、その表面に、滞留し、又は付着しようとする気泡の除去が行われる。結果、そのメッキの進行中における気泡の付着による電流密度の低下を防止できるため、メッキが局所的に薄くなることもなく、良好な均質のメッキ被膜が形成される。
【0029】
しかも、本例の被メッキ物10のように、その筒状部材(主体金具10の本体部分)11の先端面13のように、その先端面13上におけるメッキ液の液位(
図6における深さ200d)が浅く、そこが、筒状部材11の外周面に沿って上昇する気泡の流れの影となるような部位であるとしても、液面200mにおいてもその液流が付与されており、さらに、筒状部材11も回転されているため、その気泡の付着を効果的に除去できる。これにより、主体金具10の本体部分11の先端面13、及び棒材31の基端部位におけるメッキ被膜が、他より局所的に薄くなることも効果的に防止できる。そして、このような気泡の除去のための液流は、攪拌(機械攪拌や空気攪拌)による液流によるものでなく、液面200mに沿うメッキ液200の水平方向への流れによるものであるから、液面を所定の液位に保持するのも容易に実現できる。
【0030】
なお、本例において被メッキ物の平面的な配置は、メッキ液200の液流により、それぞれの被メッキ物が効率的に洗われるようにするのがよい。具体的には、液流の上流に位置する被メッキ物が、下流側に位置する被メッキ物への液流を堰き止めるような配置とならないように、液流方向に十分な間隔を設けるか、液流の方向には被メッキ物を縦列させない配置とするとよい。これらは、メッキ槽を含む装置の規模、メッキ処理のタイプ(バッチ処理、連続処理)等を考慮して設定すればよい。
【0031】
かくして、本例の部分メッキ方法によれば、メッキ被膜(Znメッキ層)が、筒状部材11の全体と、棒材31における所望とする領域(基端寄り部位)に、高精度でメッキ被膜が形成されたスパークプラグ用の主体金具10が得られる。このような主体金具はその後、スパークプラグとしての組み立て過程に送られ、そこでは、
図3−A、Bに示したように、この主体金具10に対し、中心電極41等を含む中空軸状の碍子51が組み付けられ、主体金具10の後端15をカシメ加工することで固定される(
図3−C)。そして、
図3−Cに示したように、接地側電極用の棒材31における先端側をL字状に折り曲げることで、その折り曲げ後の棒材31の先端33と、碍子51の先端から突出するその中心電極41の先端との間で火花ギャップが形成され、スパークプラグ90として組立てられる。なお、このようにして組立て、製造されるスパークプラグ90の構造自体は従来公知のものである。因みに、主体金具10を構成する筒状部材11は、
図3−Cの上から、プラグホールへのネジ込み用のネジ部16、ネジ込み時の位置決めフランジ17、ねじ込み用多角形部18、そして、カシメ用の後端15等からなっている。
【0032】
そして、このような主体金具10は、上記メッキ方法を用いたことで、その先端面13及びその近傍における防蝕性の低下を招くこともない、メッキ精度の高い主体金具となすことができる。このように、上記メッキ工程を含む主体金具10の製造方法によれば、上記メッキ工程においてその先端面13等のメッキ精度が高められるから、棒材31の曲げ加工のため、従来のように、全体のメッキ後に不要のメッキを剥離、除去する必要もないし、マスキング法をとる必要もない。このため、部分メッキ方法でありながらも、メッキ精度の高い主体金具が効率よく得られる。そして、その部品としてだけでなく、スパークプラグとしての製造効率も高められることになるから、スパークプラグ自体のコストの低減も期待される。
【0033】
なお本例では、槽101内における液流の液流開始口103a及び液流終端口105bは、槽壁103,105の幅方向、及び深さ方向の全体に設けられている場合を例示したが、本発明ではこれに限定されるものではない。その液流により被メッキ物10におけるメッキ対象部分を洗って、その表面に滞留又は付着する気泡の除去ができればよいためである。したがって、例えば、液流の深さ方向の範囲について言えば、被メッキ物の形状、構造、大きさ等に応じ、気泡の滞留又は付着が問題となるメッキ液の該液面から下に向かう寸法、ないし領域に応じ、その除去が可能な範囲として設定すればよい。また、上記例では、被メッキ物の液面上の露出部分をチャックでつかみ、吊り下げると共に、チャック装置を回転させることとして、それを回転させる場合で説明したが、その回転手段は、液中に設ける回転手段にて具体化してもよいなど、適宜の手段とすればよい。
【0034】
さて次に、本発明の請求項3に記載の発明を具体化した実施の形態例について、
図4、
図5を参照しながら説明する。ただし、本例方法と、上記例における方法とは、上記例においては、液流の流れ方向を一定に保持する一方で、被メッキ物を、平面視したとき、回転させたのに対し、本例では、被メッキ物を、平面視したとき、回転させないで、その被メッキ物の表面の平面視したとき、周方向における全域が洗われるように、該液流の流れ方向を、その周方向における平面視したときにおいて変化させるようにした点が相違するのみである。また、被メッキ物も、そのメッキ対象部分も上記例におけるものと同じである。よって、上記例と同一又は共通するところは、適宜、その説明を省略し、以下、この相違点を中心として説明する。なお、本例では、液流の流れ方向を、メッキ槽を平面視したとき、
図4中に破線矢印で示したように、上下方向、左右方向の、それぞれにおいてどちらの方向へも変化させ得る場合とする。
図4に基づき、まず本例におけるこの液流の流れ方向の変化のさせ方について説明する。
【0035】
図4に示したように、メッキ槽101は、平面視したとき、例えば、矩形で、縦横においてそれぞれ対向する4つの槽壁103,104,105,106を有している。そして、その4つのいずれの槽壁にも、メッキ液200をメッキ槽101中に送り込み得るように設けられた多数の、図示はしないがメッキ液の槽内送込み口(槽内の液流の液流開始口)が設けられている。また、その4つのいずれの槽壁にも、それぞれ対向する槽壁の槽内送込み口から送り込まれた液を、循環手段を介して槽外のろ過装置に送込むための多数の流出口(槽内における液流終端口。図示せず。)が設けられている。これにより、
図4の上下方向において、上向き又は下向きに、同図の左右方向において、右向き又は左向きの、4種のうちの1つの液流が、その4種の中において、図示しない循環手段に設けられたバルブの開閉制御等で、変更制御できるように設定されている。なお、本例における液流の流れ方向は、
図4において、右向き、下向き、左向き、そして、上向きの順に、順次変更されるものとし、これを一巡として、メッキの進行中、多数回繰り返す設定とされている。なお、各槽壁に設けられる槽内送込み口と、流出口とは、相互に液流の循環方向が変わるだけであるから、各槽壁におけるそれらは、循環手段において流れ方向が変更できるように、その配管、開閉弁等の設置をしておくことで兼用できることは明らかである。
【0036】
すなわち、このような本例では、メッキの進行中において、循環ポンプの駆動と、弁操作により、
図5−A(左上)中の破線矢印で示したように、槽壁101の図示左の槽壁103から右の槽壁105に向けてメッキ液200を流し、その液流状態を所定時間保持し、その停止後、所定の時間間隔(停止時間)をおき、
図5−B(右上)中の破線矢印で示したように、図示上の槽壁104から下の槽壁106に向けてメッキ液200を流し、その液流状態を所定時間保持し、その停止後、所定の時間間隔をおき、
図5−C(右下)中の破線矢印で示したように、図示右の槽壁105から左の槽壁103に向けてメッキ液200を流し、その液流状態を所定時間保持し、その停止後、所定の時間間隔をおき、
図5−D(左下)中の破線矢印で示したように、図示下の槽壁106から上の槽壁104に向けてメッキ液200を流し、その液流状態を所定時間保持し、停止する。そして、この一巡の液流による液の流れをメッキの進行中において多数回繰り返せばよい。
【0037】
これにより、本例によれば、メッキの進行中において、液流は、メッキ液中で停止した状態に保持されている被メッキ物10に対し、平面視したとき、時間間隔をおいて、左右、上下の4方から、右回りで90度回転ごと、順次、流れ方向が変えられた液流となり、断続的に付与される。この付与により、被メッキ物10における平面視したとき、周方向における表面の全域がその液流にて洗われる。結果、本例でも、被メッキ物10の表面に付着し、又は付着しようする気泡が除去されることから、上記方法例におけるのと同様の効果が得られる。すなわち、本例方法は、
図1、
図2に示した、液流方向を変えない上記例において、時間間隔をおいて、平面視したとき、90度間隔で、被メッキ物を断続回転させることと同じである。
【0038】
このような本例において、液流の方向の変更は、前記したように平面視したとき、一方への回転(右回り)のみとすることなく、適宜、逆回転させてもよいし、上下、左右のように、交互に変更してもよい。なお、本例において、液流の方向の変更(切り替え)に際し、液流の停止状態を所定の時間おくこととしたのは、液面の安定を確保するためであるが、流速によってその必要がなければ、停止後における時間間隔はなくともよい。本例において流速は、液流の切り替え開始(流し始め)から一定の流速に向けて徐々に高めるようにしてもよい。また、上記例では、被メッキ物10が
図6に示したようなスパークプラグ用の主体金具であり、それをなす異径の筒状部材(本体部分)11の先端面(図示の上端面)13の一側に、火花ギャップ形成用の接地側電極用の棒材31が突き合せ状態で溶接等により固定されてなるものであり、棒材31の自由端を含む大部分を、液面200mの上方に所定量露出(突出)させることとしていることから、チャック爪203により、その棒材31における先端部位(露出部位の上端寄り部位)をつかみ、主体金具を平面視したとき、筒状部材(円筒部)11の中心(軸線)Gを回転中心として回転させる場合で説明したが、この回転は、接地側電極用の棒材31を中心(回転中心)として回転させてもよいなど、その回転中心の位置は、適宜に設定すればよい。
【0039】
本発明は、上記した各例におけるものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜、変更して具体化できる。例えば、前例では、平面視したとき、左右、上下の各線に沿う4方向の液流としたが、さらに多数の放射状方向の液流に変化させることとしてもよい。また、被メッキ物の形状次第では、一直線間において右行、左行の流れ方向(対向方向)にのみ、交互に変えることとしてもよい。液流で、付着する気泡の除去が被メッキ物の平面視したときにおける周囲の全域でできればよいためである。すなわち、液流の流れ方向の変化の数は、被メッキ物の横断面形状や、メッキ槽の形状、構造等に応じて、適宜の複数とすればよい。また、上記例では、被メッキ物として、スパークプラグ用の主体金具としたが、本発明では、これに限られず、露出による部分メッキ方法が適用できる部材である限り、形状、構造、そして、それらが精密メッキ部品であると否とに限らず広く適用できる。なお、メッキ金属は、Znに限られず、Ni等各種の電気メッキにおいても適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0040】
10 被メッキ物
101 メッキ槽
200 メッキ液
200m 液面
K 気泡