特許第6511289号(P6511289)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 呉羽テック株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6511289-内燃機関用プレエアフィルタ 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6511289
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】内燃機関用プレエアフィルタ
(51)【国際特許分類】
   B01D 39/16 20060101AFI20190425BHJP
   B01D 46/00 20060101ALI20190425BHJP
   D04H 1/46 20120101ALI20190425BHJP
   F02M 35/024 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   B01D39/16 A
   B01D46/00 F
   D04H1/46
   F02M35/024 511G
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-34054(P2015-34054)
(22)【出願日】2015年2月24日
(65)【公開番号】特開2016-155068(P2016-155068A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】391021570
【氏名又は名称】呉羽テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(72)【発明者】
【氏名】田中 万充
【審査官】 増田 健司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−180023(JP,A)
【文献】 特開平11−200139(JP,A)
【文献】 特開2010−131892(JP,A)
【文献】 特開平10−85526(JP,A)
【文献】 特開平11−222756(JP,A)
【文献】 特開2012−81389(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/053741(WO,A1)
【文献】 特開2006−255576(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 39/16
B01D 46/00
D04H 1/46
F02M 35/024
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
融点が80℃以上200℃以下である第1繊維と、融点が前記第1繊維よりも30℃以上高い中空構造を有し且つ捲縮した第2繊維とがニードルパンチによって交絡し、且つ、
一部または全部が溶融した前記第1繊維が第2繊維と融着した不織布から構成されることを特徴とする内燃機関用プレエアフィルタ。
【請求項2】
前記ニードルパンチによる交絡が、繊維ウェブの片側のみからニードルを侵入させることによって行われる請求項1に記載のプレエアフィルタ。
【請求項3】
厚さ方向への繊維配向度が20°以上50°以下である請求項1または2に記載のプレエアフィルタ。
【請求項4】
空気流出側の密度が、空気流入側の密度の1.05倍以上である請求項1〜のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
【請求項5】
前記第2繊維の繊度が4dtex以上40dtex以下であり、前記第1繊維の繊度が1dtex以上40dtex以下であり、
第1繊維及び第2繊維の合計に対して、第1繊維を20質量%以上90質量%以下含む請求項1〜のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
【請求項6】
前記第2繊維として、12dtex以下の中空捲縮繊維を、第2繊維全体に対して10質量%以上の割合で含む請求項に記載のプレエアフィルタ。
【請求項7】
前記第1繊維が、繊度1dtex以上10dtex以下の細繊維と、繊度10dtex超40dtex以下の太繊維の混合繊維であり、細繊維の割合が、細繊維と太繊維の合計に対して、10質量%以上である請求項1〜のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
【請求項8】
前記第1繊維が、ガラス転移温度が10℃以上の硬質繊維と、ガラス転移温度が10℃未満の軟質繊維とから構成される請求項1〜のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
【請求項9】
前記細繊維はガラス転移温度が10℃以上の硬質繊維であり、
前記太繊維はガラス転移温度が10℃以上の硬質繊維と、ガラス転移温度が10℃未満の軟質繊維とから構成される請求項に記載のプレエアフィルタ。
【請求項10】
前記第1繊維及び第2繊維が、共通の樹脂から構成されている請求項1〜のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
【請求項11】
不織布全体の平均繊度が7dtex以上20dtex以下であり、不織布全体の目付量が50g/m2以上250g/m2以下である請求項1〜10のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
【請求項12】
メインエアフィルタと、このメインエアフィルタの空気流入側に設けられた請求項1〜11のいずれかに記載のプレエアフィルタとから構成される内燃機関用エアフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気ラインに用いられるエアクリーナーの捕集効率及びダスト捕集量を向上させる目的で、メインエアフィルタの空気流入側に設けられる有用な不織布製のプレエアフィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車エンジン用エアフィルタには不織布材料または濾紙材料が用いられており、これら材料をプリーツ加工し、単位容積中の濾材面積を増やすことで、所定のダスト保持量を得ている。例えば、不織布材料を用いる場合、プリーツ数は少なくなるが、濾材厚さを大きくすることによって深層濾過が可能であり、所定のダスト保持量が得られる。また濾紙材料を用いる場合は、プリーツ数を増やす事によって、濾材面積を十分に増やして所望のダスト保持量を得られる。そしてさらにダスト保持量を増やす場合には、こうしたエアフィルタ(メインフィルタ)の上流側に不織布製のプレエアフィルタを設けることも行われている。
【0003】
より詳細に説明すると、エンジン用エアフィルタには、低圧力損失、高ダスト清浄化効率、高ダスト保持量などの特性が求められおり、特に近年は、高ダスト清浄効率の要求が高まっている。高ダスト清浄効率を達成するには、フィルタ材料の目を細かくすることが有効であるが、その反面、目詰まりが早くなるという欠点が生じる。こうした目詰まりを低減してフィルタの交換頻度を減らす目的で、従来、メインとなるエンジン用エアフィルタの前にダスト保持量を得るための補助的なプレエアフィルタが用いられている。このプレエアフィルタが直ぐに目詰まりしたのでは、フィルタの交換頻度を低減するという本来の目的を達成できないため、プレエアフィルタの目は粗く設計されている。またダスト保持量を多くするため、プレエアフィルタは厚く設計されている。更にこうしたプレエアフィルタは、ダスト負荷時に厚み方向に潰れて薄くならない様に、また圧力損失が生じにくい様に材料設計する必要がある。こうしたプレエアフィルタとして、従来、霧状に塗布した樹脂バインダーで繊維ウェブを結合したレジンボンドタイプの短繊維不織布が厚さを確保しやすい為に用いられている(特許文献1など)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−85526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、レジンボンドタイプの不織布の場合は、所定の剛性を確保するため、多くの樹脂を不織布に付着させる必要があり軽量化が難しい。また付着レジンが多くなると、ダスト保持量も低下し、圧力損失も大きくなる。
【0006】
更には、自動車の走行環境によってはエンジンの吸気ラインに水が浸入してくることがあり、こうした浸入水を保持し、水がメインフィルタ側に抜けるのを抑制しつつ、水保持時でも圧力損失が大きくならない特性(水浸入時耐性)が優れていることも望ましい。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、軽量化した時でも剛性を確保可能であり、ダスト保持性にも優れ、かつ水浸入時耐性にも優れる内燃機関用プレエアフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、不織布にレジンボンド加工せずとも、中空構造を有する捲縮した中空捲縮繊維を、低融点繊維とニードルパンチで交絡した後で熱融着することにより、(i)低融点繊維が厚さ方向に配向する際に、中空捲縮繊維も協力して厚さ方向の配向度が高まること、(ii)中空捲縮繊維を用いているために平面方向の絡み合いの複雑さは維持されてダスト清浄化効率が維持されること、(iii)厚さ方向に配向した冷却固化後の低融点繊維が柱の役割を果たし不織布の剛性が高められること、(iv)熱処理により一部または全部の低融点繊維が溶融する際に、低融点繊維が細径化して繊維間の空間を拡大しながら、繊維同士の交絡点では繊維同士が接合しやすくなるため、空間強度が維持され、意外なことに、水を不織布内に保持することが可能となり、この構成により水浸入時耐性が良好なものとなること、(v)及びレジンボンドと同重量で比較しても、剛性は維持され、ダスト保持性や水保持特性は大きく改善され、プレエアフィルタ性能が大きく向上すること、等を見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明に係る内燃機関用プレエアフィルタは、以下の点に要旨を有する。
[1]融点が80℃以上200℃以下である第1繊維と、融点が前記第1繊維よりも30℃以上高い中空構造を有し且つ捲縮した第2繊維とがニードルパンチによって交絡し、且つ、
一部または全部が溶融した前記第1繊維が第2繊維と融着した不織布から構成されることを特徴とする内燃機関用プレエアフィルタ。
[2]前記ニードルパンチによる交絡が、繊維ウェブの片側のみからニードルを侵入させることによって行われる[1]に記載のプレエアフィルタ。
[3]厚さ方向への繊維配向度が20°以上50°以下である[1]または[2]に記載のプレエアフィルタ。
[4]融点が80℃以上200℃以下である第1繊維と、融点が前記第1繊維よりも30℃以上高い中空構造を有し且つ捲縮した第2繊維とが交絡し、且つ、一部または全部が溶融した前記第1繊維が第2繊維と融着しており、
厚さ方向への繊維配向度が20°以上50°以下である内燃機関用プレエアフィルタ。
[5]空気流出側の密度が、空気流入側の密度の1.05倍以上である[1]〜[4]のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
[6]前記第2繊維の繊度が4dtex以上40dtex以下であり、前記第1繊維の繊度が1dtex以上40dtex以下であり、
第1繊維及び第2繊維の合計に対して、第1繊維を20質量%以上90質量%以下含む[1]〜[5]のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
[7]前記第2繊維として、12dtex以下の中空捲縮繊維を、第2繊維全体に対して10質量%以上の割合で含む[6]に記載のプレエアフィルタ。
[8]前記第1繊維が、繊度1dtex以上10dtex以下の細繊維と、繊度10dtex超40dtex以下の太繊維の混合繊維であり、細繊維の割合が、細繊維と太繊維の合計に対して、10質量%以上である[1]〜[7]のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
[9]前記第1繊維が、ガラス転移温度が10℃以上の硬質繊維と、ガラス転移温度が10℃未満の軟質繊維とから構成される[1]〜[8]のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
[10]前記細繊維はガラス転移温度が10℃以上の硬質繊維であり、
前記太繊維はガラス転移温度が10℃以上の硬質繊維と、ガラス転移温度が10℃未満の軟質繊維とから構成される[8]に記載のプレエアフィルタ。
[11]前記第1繊維及び第2繊維が、共通の樹脂から構成されている[1]〜[10]のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
[12]不織布全体の平均繊度が7dtex以上20dtex以下であり、不織布全体の目付量が50g/m2以上250g/m2以下である[1]〜[11]のいずれかに記載のプレエアフィルタ。
[13]メインエアフィルタと、このメインエアフィルタの空気流入側に設けられた[1]〜[12]のいずれかに記載のプレエアフィルタとから構成される内燃機関用エアフィルタ。
【0010】
本発明の内燃機関用エアフィルタは、メインエアフィルタと、このメインエアフィルタの空気流入側に設けられた前記プレエアフィルタとから構成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、中空構造を有する捲縮した中空捲縮繊維を、低融点繊維とニードルパンチで交絡した後で熱融着しているため、低融点繊維が中空捲縮繊維と協力して厚さ方向の配向度を高めて繊維全体の剛性を高めることができる。また中空捲縮繊維を用いているために面方向の目の複雑さは維持されてダスト保持性も高める事ができる。さらには低融点繊維が細径化して繊維間の空間を拡大しながら、繊維同士の交絡点では一部または全部が溶融固化した低融点繊維により中空捲縮繊維等のプレエアフィルタを構成する繊維同士が接合されやすくなるため、水を不織布内に保持することが可能となり、良好な水浸入時耐性が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明のプレエアフィルタを用いた内燃機関用エアフィルタの一例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の内燃機関用プレエアフィルタは、融点が80℃以上200℃以下である第1繊維(以下、低融点繊維という)と、融点が前記低融点繊維よりも30℃以上高い中空構造を有し且つ捲縮した第2繊維(以下、中空捲縮繊維という)とから構成される繊維ウェブをニードルパンチで交絡しており、厚さ方向への繊維配向度が高められている。そしてこれらの繊維に熱をかけてサーマルボンドによって接合(融着)することで、一部または全部が溶融した低融点繊維が細径化して第2繊維と融着し、繊維間の空間を拡大しながら、繊維同士の交絡点では繊維同士が接合しやすくなるため、空間形状を強固に保つことができる様になる。こうした厚さ方向への配向性が高く、かつ空間形状にも優れた不織布をプレエアフィルタに用いると、剛性、低圧力損失性、高ダスト保持性、及び水浸入時耐性を良好にすることができる。以下、各構成について順に説明する。
【0014】
1.第2繊維(中空捲縮繊維)
前記中空捲縮繊維は、プレエアフィルタを軽量且つ嵩高に仕上げ、不織布の平面方向の目の複雑さを維持して、ダスト捕集量向上に寄与する。また中空捲縮繊維は曲げ剛性を有するため、これを配合した不織布は、風等の圧力を受けても変形し難く、長期間の使用が可能となる。この中空捲縮繊維を第1繊維(低融点繊維)と組み合わせ、ニードルパンチをした上で熱融着することで、剛性、低圧力損失性、高ダスト保持性、及び水浸入時耐性を良好にできる。中空捲縮繊維が示す高い反発弾性は、プレエアフィルタの水保持性の向上に寄与する。
【0015】
前記中空捲縮繊維の捲縮率は、例えば、10%以上が好ましく、より好ましくは12%以上、更に好ましくは14%以上であり、例えば、30%以下が好ましく、より好ましくは28%以下であり、更に好ましくは25%以下である。適度な捲縮率の繊維を使用することで、不織布を軽量化しつつ厚さ形状を維持することが可能となる。
【0016】
また前記中空捲縮繊維の捲縮数は、例えば、3個/インチ以上が好ましく、より好ましくは5個/インチ以上であり、更に好ましくは7個/インチ以上であり、例えば、25個/インチ以下が好ましく、より好ましくは20個/インチ以下であり、更に好ましくは15個/インチ以下である。捲縮数が25個/インチを超える様な微細捲縮では、不織布の厚さを保持するのが難しくなってくる。なお本発明において、「インチ」は25.4mmである。
【0017】
また本発明では、第2繊維(中空捲縮繊維)は中空である必要がある。中空構造にすることで、嵩高さを維持しつつ軽量化が可能になる。中空捲縮繊維の中空率は、例えば、5%以上が好ましく、より好ましくは7%以上であり、更に好ましくは9%以上であり、例えば、60%以下が好ましく、より好ましくは45%以下であり、更に好ましくは35%以下である。適度な中空率にすることで、反発弾性を維持でき、また風圧によるへたりを抑制でき、さらには水浸入時耐性をさらに向上するのにも有効である。
【0018】
前記中空捲縮繊維としては、熱収縮率の異なる樹脂を同時に押し出した偏心構造、又はサイドバイドサイド構造を有する複合繊維(コンジュゲート繊維);熱収縮率の異なる繊維を組み合わせたバイコン繊維;繊維の表側と裏側とで熱処理等の処理の程度を異ならせて立体捲縮を発現させた中空捲縮繊維等の各種繊維が例示できる。立体捲縮繊維では、コイル形状、スパイラル形状等の三次元的捲縮を形成することが可能である。また本発明の中空捲縮繊維は、汎用の化学繊維に機械的な捲縮加工を施した機械的捲縮繊維であってもよい。これらの繊維のうちより好ましくは、複合繊維(コンジュゲート繊維)またはバイコン繊維である。また本発明では、サーマルボンド時において加熱処理に供する前に既に捲縮している中空捲縮繊維の使用が好ましい。
【0019】
中空捲縮繊維の融点は、低融点繊維の融点よりも30℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは80℃以上高い。低融点繊維よりも十分に高い融点を示すことで、低融点繊維の溶融温度以上で中空捲縮繊維及び低融点繊維からなる繊維ウェブをサーマルボンドすることが可能となる。なお融点の上限は特に限定されず、融点を示さなくても(すなわち溶融前に分解が開始しても)よい。中空捲縮繊維の融点は、中空捲縮繊維を構成する素材の種類にも依るが、通常、150℃以上350℃以下であり、より好ましくは200℃以上300℃以下である。
【0020】
中空捲縮繊維としては、通常、化学繊維が使用され、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリアリレート等のポリエステル樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド樹脂;ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−塩化ビニル共重合体等のアクリル樹脂;ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ビニロン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂等のポリビニルアルコール系樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂、ビニリデン樹脂、ポリクラール樹脂等のポリ塩化ビニル系樹脂;ポリウレタン樹脂等の合成樹脂;ポリエチレンオキサイド樹脂、ポリプロピレンオキサイド樹脂等のポリエーテル系樹脂;等を原料とする合成繊維;レーヨン、ポリノジック等の再生繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維等を好ましく使用できる。本発明では、中空捲縮繊維が熱や湿気等で劣化しにくく、適度な剛性を有し、入手が容易であることからポリエステル樹脂を原料に含む繊維が好ましい。
【0021】
前記中空捲縮繊維の繊度は、例えば、4dtex以上が好ましく、より好ましくは5dtex以上であり、更に好ましくは6dtex以上であり、40dtex以下が好ましく、より好ましくは20dtex以下であり、更に好ましくは15dtex以下である。なお繊度の異なる複数の中空捲縮繊維を含む時には、各繊度の中空捲縮繊維の割合(質量基準)を考慮した加重平均によって、中空捲縮繊維の繊度を求める。
【0022】
前記中空捲縮繊維は、全体として前記平均の繊度を満足する限り、その一部又は全部に繊度が12dtex以下、好ましくは5dtex以上10dtex以下、より好ましくは6dtex以上10dex以下、特に好ましくは7dtex以上8.5dtex以下の中空捲縮繊維(以下、細中空捲縮繊維という)を含むのが好ましい。細中空捲縮繊維を含むことで、ダスト保持量をより向上できる。細中空捲縮繊維の割合は、中空捲縮繊維全体に対して、例えば、10質量%以上、好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、特に好ましくは100質量%である。
なお前記中空捲縮繊維は、前記平均の繊度を満足することが可能な限り、繊度12dtex超の太中空捲縮繊維を含んでいてもよい。
【0023】
なお中空捲縮繊維(細捲縮繊維、太捲縮繊維を含む)の繊度は、これらを構成する樹脂の素材にもよるが、一般的には、サーマルボンド前でも、サーマルボンド後でも(すなわちプレエアフィルタ中でも)同じである。
【0024】
中空捲縮繊維の繊維長は、短繊維であれば特に限定されず、例えば、300mm以下、好ましくは100mm以下であり、また10mm以上、好ましくは20mm以上の範囲から適宜選択できる。なお中空捲縮繊維の繊維長は、繊維を伸長せずまっすぐに伸ばした状態で測定されることとする。
【0025】
中空捲縮繊維の割合は、低融点繊維と中空捲縮繊維の合計に対して、例えば、10質量%以上が好ましく、より好ましくは12質量%以上であり、更に好ましくは15質量%以上であり、例えば、80質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以下であり、更に好ましくは60質量%以下である。
【0026】
2.第1繊維(低融点繊維)
低融点繊維は、従来のレジンボンド法によるバインダー樹脂に代わって、不織布を強固に接合する為に使用される。低融点繊維を使用することでプレエアフィルタに必要な繊維間接着や剛性を得られるため、従来技術のようにバインダー樹脂を含浸・スプレーなどにより塗布した後、不要な水分を乾燥させるという工程を減らすことができる。さらに低融点繊維による接合によれば、繊維間接着強度が高いため、必要なサイズに打抜き・カットする際にカット端面での糸残りが少なくなるというメリットもある。また低融点繊維は、バインダー樹脂として一般的なポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、合成ゴム系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂などと比較して安価なため好ましい。こうした低融点繊維を中空捲縮繊維と組み合わせ、ニードルパンチしてサーマルボンドで接合することによって厚さ方向の配向度が高まり、不織布の剛性、ダスト保持性、低圧力損失、及び水浸入時耐性を実現できる。
【0027】
低融点繊維の融点は、80℃以上、好ましくは90℃以上であり、より好ましくは100℃以上である。融点の上限は、サーマルボンドの処理可能温度や中空捲縮繊維の耐熱性などに応じて適宜設定でき、例えば、200℃以下、好ましくは180℃以下であり、より好ましくは160℃以下である。なお融点の異なる複数の樹脂を組み合わせて低融点繊維が形成されている場合(例えば、芯鞘構造、偏心構造、またはサイドバイサイド構造などの場合)、融点の低い側の樹脂の融点が、低融点繊維の融点であるとみなす。
【0028】
低融点繊維としては、融点の異なる複数の樹脂を組み合わせた芯鞘構造、偏心構造、あるいはサイドバイサイド構造を有する複合繊維;変性ポリエステル繊維;変性ポリアミド繊維;変性ポリプロピレン繊維等の変性ポリオレフィン繊維等が使用できる。前記複合繊維に使用される樹脂の組み合わせには、ポリエチレン−ポリプロピレン、ポリプロピレン−変性ポリプロピレン等のポリオレフィン系の組み合わせの他、ポリエチレン−ポリエステル、ポリエステル−変性ポリエステル、ナイロン−変性ナイロン等が挙げられる。また融点によっては、単一の樹脂からなる低融点繊維も使用できる。中でも、生産性がよく入手が容易であることから、芯鞘構造を有する複合繊維が好ましく、融点の選択範囲が広いことから、ポリエステル−変性ポリエステル樹脂からなる芯鞘構造を有する複合繊維が特に好ましい。一方、ダスト保持量を高めるには、厚さ方向の配向度が高くなる傾向にあるポリエチレン−ポリプロピレン、ポリプロピレン−変性ポリプロピレン等のポリオレフィン系低融点繊維の使用が推奨される。
【0029】
低融点繊維の繊度は、1dtex以上が好ましく、より好ましくは1.5dtex以上であり、更に好ましくは2dtex以上であり、40dtex以下が好ましく、より好ましくは30dtex以下であり、更に好ましくは20dtex以下である。なお繊度の異なる複数の低融点繊維を含む時には、各繊度の低融点繊維の割合(質量基準)を考慮した加重平均によって、低融点繊維の繊度を求める。
【0030】
前記低融点繊維は、繊度が1dtex以上(好ましくは1.5dtex以上、より好ましくは2dtex以上)、10dtex以下(好ましくは8dtex以下、より好ましくは5dtex以下)である細低融点繊維と、繊度が10dtex超(好ましくは12dtex以上、より好ましくは14dtex以上)、40dtex以下(好ましくは30dtex以下、より好ましくは20dtex以下)の太低融点繊維の混合繊維として使用することが好ましい。太低融点繊維は、ニードルパンチによって厚さ方向の繊維配向度を高めるのに有効であり、特に細低融点繊維と中空捲縮繊維とを組み合わせてニードルパンチした後でサーマルボンドすることで、厚さ方向に強い柱構造を導入できる。また太低融点繊維は、サーマルボンド時の熱処理により細径化されることで、水保持の為の空間を形成するのに効果的である。
細低融点繊維の割合は、細低融点繊維と太低融点繊維の合計に対して、例えば、10質量%以上が好ましく、より好ましくは20質量%以上であり、更に好ましくは30質量%以上であり、100質量%以下が好ましく、より好ましくは70質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以下であり、特に好ましくは45質量%以下である。
【0031】
これら低融点繊維の繊度は、サーマルボンド前の繊度を指す。例えば、芯鞘構造を有する低融点繊維の場合には、通常、芯と鞘の重量比は30:70〜70:30(より好ましくは40:60〜60:40、更に好ましくはほぼ50:50)であり、サーマルボンド後の低融点繊維の繊度はサーマルボンド前の繊度に対して、通常0.3〜1倍である。サーマルボンド後の低融点繊維の繊度は、例えば、0.4dtex以上が好ましく、より好ましくは0.6dtex以上であり、更に好ましくは0.8dtex以上であり、36dtex以下が好ましく、より好ましくは27dtex以下であり、更に好ましくは18dtex以下である。
【0032】
低融点繊維としては、ガラス転移温度が10℃以上の硬質繊維であるのが好ましい。硬質繊維を用いる事で、プレエアフィルタの剛性を確保できる。硬質繊維のガラス転移温度は、好ましくは20℃以上であり、より好ましくは30℃以上であり、例えば、90℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以下である。
【0033】
また低融点繊維として複数の繊維を組み合わせて用いる場合、前記硬質繊維に、ガラス転移温度が10℃未満の軟質繊維とを組み合わせるのが好ましい。軟質繊維を用いることで、プレエアフィルタの剛性を保ちつつ、折れにくいしなやかな柱構造を導入できる。軟質繊維のガラス転移温度は、8℃以下が好ましく、より好ましくは5℃以下であり、更に好ましくは2℃以下である。なお軟質繊維のガラス転移温度の下限は特に限定されないが、例えば、−10℃以上であってもよく、−5℃以上であってもよい。
軟質繊維を用いる場合、その割合は、低融点繊維全体に対して、例えば、10質量%以上が好ましく、より好ましくは15質量%以上であり、更に好ましくは20質量%以上であり、例えば、80質量%以下が好ましく、より好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以下である。
【0034】
低融点繊維が細低融点繊維と太低融点繊維の両方から構成される場合、細低融点繊維としてガラス転移温度が10℃以上の硬質繊維が使用され、太低融点繊維としてガラス転移温度が10℃以上の硬質繊維と、ガラス転移温度が10℃未満の軟質繊維とが組み合わせて使用されることが好ましい。太低融点繊維としての硬質繊維と軟質繊維の割合(質量比)は、例えば、10/90〜90/10が好ましく、より好ましくは30/70〜70/30であり、更に好ましくは40/60〜60/40である。
【0035】
低融点繊維の割合は、中空捲縮繊維と低融点繊維の合計に対して、例えば、20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、例えば、90質量%以下、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0036】
低融点繊維の繊維長は、短繊維であれば特に限定されず、例えば、300mm以下が好ましく、より好ましくは100mm以下であり、また10mm以上が好ましく、より好ましくは20mm以上である。
【0037】
3.他の繊維
本発明では、前記中空捲縮繊維及び低融点繊維以外の繊維を使用してもよい。他の繊維としては、例えば、中空捲縮繊維と同等の範囲の融点を有する非中空捲縮繊維、天然繊維などが挙げられる。具体的には、例えば、綿、麻、毛、絹等の天然繊維;レーヨン、ポリノジック、キュプラ(登録商標)ヨセル(登録商標)等の再生繊維;アセテート繊維、トリアセテート繊維等の半合成繊維;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド繊維;ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリ乳酸繊維、ポリアリレート繊維等のポリエステル繊維;ポリアクリロニトリル繊維、ポリアクリロニトリル−塩化ビニル共重合体繊維等のアクリル繊維;ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等のポリオレフィン繊維;ビニロン繊維、ポリビニルアルコール繊維等のポリビニルアルコール系繊維;ポリ塩化ビニル繊維、ビニリデン繊維、ポリクラール繊維等のポリ塩化ビニル系繊維;ポリウレタン繊維等の合成繊維;ポリエチレンオキサイド繊維、ポリプロピレンオキサイド繊維等のポリエーテル系繊維等が例示できる。
他の繊維の繊度及び繊維長は、中空捲縮繊維と同等の範囲から選択できる。
【0038】
中空捲縮繊維、低融点繊維、及び必要に応じて使用される他の繊維は、共通の樹脂から構成される繊維(特に化学繊維)であるのが好ましい。共通の樹脂とは、一の樹脂とその変性樹脂とを含み、例えば、一の樹脂がポリエステル樹脂である場合、その共通の樹脂の範囲には、ポリエステル樹脂と変性ポリエステル樹脂とが含まれる。共通の樹脂を使用することで、プレエアフィルタのリサイクル性が高まる。
【0039】
本発明のプレエアフィルタでは、第1繊維と第2繊維の割合は、全繊維中、例えば、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。残りは他の繊維である。
【0040】
前記中空捲縮繊維、低融点繊維、及び必要に応じて使用される他の繊維は、混綿し、カーディングし、クロスラッピングすることで積層繊維ウェブにされる。繊維ウェブを形成した時の全繊維の加重平均繊度は、例えば、7dtex以上が好ましく、より好ましくは8dtex以上であり、更に好ましくは9dtex以上であり、例えば、20dtex以下が好ましく、より好ましくは17dtex以下であり、更に好ましくは15dtex以下である。
【0041】
また繊維ウェブを形成した時の繊維目付量(繊維質量だけに基づく目付量)及び総目付量(全ての使用樹脂成分に基づく目付量)は、例えば、50g/m2以上が好ましく、より好ましくは80g/m2以上であり、更に好ましくは100g/m2以上であり、250g/m2以下が好ましく、より好ましくは200g/m2以下であり、更に好ましくは180g/m2以下である。なお、積層繊維ウェブでの繊維目付量及び総目付量は、不織布乃至プレエアフィルタでの繊維目付量及び総目付量と同等である。本発明によれば、これら繊維目付量及び総目付量を小さくしても優れた剛性を達成でき、不織布乃至プレエアフィルタを軽量化できる。
【0042】
なお本発明では、前記総目付量を満足する範囲の少量のバインダー樹脂を噴霧し、レジンボンドを組み合わせてもよいが、バインダー樹脂を噴霧、含浸しない方が好ましい。
【0043】
4.ニードルパンチ
中空捲縮繊維と低融点繊維とを含む前記繊維ウェブは、平面方向に繊維が配向しており、こうした繊維ウェブをニードルパンチすることで、厚さ方向の繊維の配向度を高めることができる。非中空捲縮繊維を用いると、たとえ低融点繊維を用いても、厚さ方向の配向度を高めることは困難であり、中空捲縮繊維と低融点繊維とを組み合わせることで初めて厚さ方向の配向度が高くなる。そしてさらにサーマルボンドを組み合わせることで、プレエアフィルタの剛性、ダスト保持性、低圧力損失、水浸入時耐性を実現できる。より詳細に説明すると、繊維が厚さ方向に配向する不織布は、ダスト負荷時の厚さの維持性、及び剛性に非常に優れているが、プレエアフィルタでは繊維密度が低いために繊維ウェブ間の層間剥離やダスト抜けが発生しやすい。一方、繊維が平面方向に配向する不織布は、ダストの捕集性能に優れているが、厚さ方向の剛性に劣るため、ダスト負荷により厚さがへたり、ダスト保持量が少なくなる傾向がある。そこで、平面方向に配列された積層繊維ウェブに中空捲縮繊維を混綿することで、繊維ウェブが平面方向に形成されていても繊維ウェブに含まれる中空捲縮繊維が厚さ方向へも配向するとともに、ニードルパンチ加工をすることで繊維ウェブの一部を厚さ方向に配向させると、厚さ方向に対する剛性が大きくなりフィルタとしての捕集性能が向上する。なお厚さ方向への繊維の配向度は、得られるプレエアフィルタでの配向度によって評価できる。
【0044】
前記ニードルパンチによる交絡は、不織布の片側のみからニードルを侵入させることによって行うのが好ましい。繊維ウェブの片面側からニードルパンチ加工することで、単層でありながら厚さ方向に連続した密度勾配構造を形成できる。この密度勾配は、複数層からなる繊維ウェブの積層による密度勾配よりも簡便に形成でき、かつ緩やかである。なお密度勾配の大きさは、得られるプレエアフィルタで評価できる。
【0045】
ニードルパンチの針太さは、例えば、0.78mm以下が好ましく、より好ましくは0.75mm以下であり、更に好ましくは0.70mm以下であり、0.35mm以上が好ましく、より好ましくは0.40mm以上であり、更に好ましくは0.45mm以上である。太さの異なる2種類の針、例えば0.60mm以上(好ましくは0.78mm以下)の太い針と、0.60mm未満(より好ましくは0.35mm以上)の細い針とを組み合わせてもよい。太い針でパンチすることで大きい繊維束を形成して厚さ方向に配向する一方で、細い針も使用することで厚さ方向への繊維配向度を緩和しかつパンチ穴の開きすぎを防止してパンチ面を高密度化することができる。
なお針太さと針番手の関係は、一般的に、28番手(0.78mm)、30番手(0.75mm)、32番手(0.70mm)、42番手(0.45mm)、44番手(0.40mm)、46番手(0.35mm)として知られているが、これに限定されるものではない。
【0046】
ニードルの単位面積当たりの打ち込み本数(ペネ数)は、例えば、15〜25本/cm2が好ましく、より好ましくは17〜23本/cm2であり、更に好ましくは18〜22本/cm2である。
【0047】
ニードルパンチを行うにあたり、表面から入れた針が裏面に出ないように(すなわち針深さ0mm)調整するとよい。不織布全体に亘って繊維を交絡させるのではなく、不織布の厚さのある一定の深さまでの繊維を交絡させることで、厚さ方向に繊維の配向勾配を形成しやすくなる。
【0048】
5.サーマルボンド
以上の様にしてニードルパンチされた繊維ウェブは、低融点繊維の融点以上であり、かつ中空捲縮繊維の融点未満の温度に加熱する事で、溶融繊維によって繊維間同士が接着・接合され、不織布の形状を固定し、強度を確保できる。本発明ではこのサーマルボンドの際に低融点繊維が細径化し、一部または全部が溶融した前記第1繊維が第2繊維と融着することで、水保持の為の空間を形成できる。そして繊維の交絡点は低融点繊維によって確実に接着・接合できるため、空間強度を強くでき、水を保持しても空間の形状を維持でき、水が膜化するのを防止でき、水保持時の圧力損失の増大も抑制できる。
【0049】
サーマルボンド時の加熱温度は、例えば、100℃以上が好ましく、より好ましくは120℃以上であり、更に好ましくは140℃以上であり、例えば、200℃以下が好ましく、より好ましくは190℃以下であり、更に好ましくは180℃以下である。
【0050】
加熱時間は、例えば、10秒以上が好ましく、より好ましくは20秒以上であり、更に好ましくは30秒以上であり、例えば、5分以下が好ましく、より好ましくは3分以下であり、更に好ましくは2分以下である。
【0051】
6.エアフィルタ
以上のようにしてサーマルボンドされた不織布は、適当な形態にカット加工することでプレエアフィルタにできる。また必要に応じて、カット加工前又はカット加工後に、ニードルパンチ加工面を加熱ロールや加熱板間を通して平滑処理してもよい。平滑処理をすることで、ニードルパンチ穴を小さくでき、さらにはニードルパンチ面の毛羽立ちを防止して高密度面の密度アップによる捕集効率を向上できる。加えて不織布の剛性が増すためハンドリング性やカット加工性も向上する。プレエアフィルタの裏表の判別も容易になる。
【0052】
プレエアフィルタは、内燃機関の吸気系に設置されるメインフィルタを保護する役割を有しており、前記吸気系においてメインエアフィルタの上流側(空気流入側)に設けられる。図1は、このプレエアフィルタとメインエアフィルタとから構成される内燃機関用エアフィルタの一例を示す一部切り欠き概略斜視図である。図示例のメインエアフィルタ2は、不織布又は濾紙をプリーツ加工した複数の整列したフィルタ材4と、このフィルタ材4を固定する枠体3とから構成されている。そしてこのメインエアフィルタ2の空気流入側には、プレエアフィルタ1が配設されており、内燃機関に供給される空気は、まずこのプレエアフィルタ1を通って粗くダストが除去され、次いでメインエアフィルタ2で細かいダストも除去される。
【0053】
本発明のプレエアフィルタは、中空捲縮繊維が低融点繊維で固定されており、かつ厚さ方向への繊維配向度が適切な値になっており、また単層でありながら優れた密度勾配を有している。そのため剛性とダスト保持量に優れており、かつ低圧力損失特性も有し、加えて水浸入時耐性にも優れている。そのため、メインエアフィルタを有効かつ長期間に亘って保護可能であり、またダスト捕集効率も向上できる。
【0054】
密度勾配の大きさは、プレエアフィルタの空気流出側の密度と、空気流入側の密度の比によって評価でき、その大きさは求められるフィルタ性能により適宜設定できる。空気流出側の密度は、空気流入側の密度に対して、例えば、1.05倍以上が好ましく、より好ましくは1.10倍以上であり、更に好ましくは1.3倍以上にすることができ、例えば、3.0倍以下が好ましく、より好ましくは2.6倍以下であり、更に好ましくは2.0倍以下にすることができる。こうした範囲であれば、ダスト保持量をより大きくでき、フィルタライフをさらに長くできる。
【0055】
プレエアフィルタの空気流出側の密度は、例えば、0.012g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.018g/cm3以上であり、更に好ましくは0.022g/cm3以上であり、例えば、0.04g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.035g/cm3以下であり、更に好ましくは0.030g/cm3以下である。
プレエアフィルタの空気流入側の密度は、例えば、0.005g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.008g/cm3以上であり、更に好ましくは0.010g/cm3以上であり、例えば、0.025g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.020g/cm3以下であり、更に好ましくは0.018g/cm3以下である。
プレエアフィルタ全体の密度は、例えば、0.010g/cm3以上が好ましく、より好ましくは0.012g/cm3以上であり、更に好ましくは0.014g/cm3以上であり、例えば、0.030g/cm3以下が好ましく、より好ましくは0.026g/cm3以下であり、更に好ましくは0.023g/cm3以下である。
【0056】
プレエアフィルタの厚さ方向への繊維配向度は、例えば、20°以上が好ましく、より好ましくは25°以上であり、更に好ましくは30°以上であり、例えば、50°以下が好ましく、より好ましくは45°以下であり、更に好ましくは40°以下である。繊維配向度は実施例に記載の方法で測定することができる。
【0057】
プレエアフィルタの見掛け厚さは、例えば、3mm以上が好ましく、より好ましくは5mm以上であり、更に好ましくは6mm以上であり、例えば、12mm以下が好ましく、より好ましくは10mm以下であり、更に好ましくは8mm以下である。
【0058】
本発明のプレエアフィルタを後述する実施例の圧力損失試験に供した時の圧力損失は、例えば、40Pa以下であり、好ましくは30Pa以下であり、より好ましくは25Pa以下である。圧力損失の下限は特に限定されないが、例えば、15Pa程度であり、特に20Pa程度であっても良好なプレエアフィルタであると言える。
【0059】
本発明のプレエアフィルタを後述する実施例のダスト負荷時厚さ減少試験に供した時の厚さ減少率は、例えば、88%以上であり、好ましくは90%以上であり、より好ましくは92%以上である。また厚さ減少率の上限は特に限定されないが、例えば、100%以下であり、特に97%以下であっても良好なプレエアフィルタであると言える。
【0060】
プレエアフィルタを後述する実施例のダスト保持試験に供した時のダスト保持量は、例えば、90g/0.1m2以上であり、好ましくは100g/0.1m2以上、より好ましくは120g/0.1m2以上である。ダスト保持量の上限は特に限定されないが、例えば、300g/0.1m2以下であり、特に200g/0.1m2以下であっても良好なプレエアフィルタであると言える。
【0061】
プレエアフィルタを後述する実施例の水抜け試験に供した時、試験後における流出側のプレエアフィルタ表面では、水抜けがほとんど観察されず、プレエアフィルタ内部に水が浸入して保持されている。そのため水抜け試験におけるプレエアフィルタの水保持量は、5.5〜12gと極めて高い(より好ましくは6.0〜11g)。
【0062】
メインエアフィルタとしては、公知の種々のフィルタが使用できる。本発明のプレエアフィルタと組み合わせにおいて特に適したメインエアフィルタは、濾紙製または不織布製の濾材を用いたエアフィルタ、特に密度が高く、高ダスト清浄効率を発揮し得る濾紙製の濾材を用いたエアフィルタが好ましい。特にエアフィルタは、密度の異なる複数の層を積層したフィルタであり、例えば、以下の特性を有する。
【0063】
1)通気抵抗
メインエアフィルタの通気抵抗は、例えば、100Pa以上であり、好ましくは200Pa以上であり、400Pa以下、好ましくは300Pa以下である。
なお通気抵抗は、JIS D1612(自動車用エアクリーナ試験方法)に準じ、以下の条件で試験することで得られる値である。
有効濾過面積:1760cm2、投影面積:281cm2、空気量:5.7m3/分、空気速度:54cm/秒
【0064】
2)ダスト捕集効率、捕集量
メインエアフィルタのダスト捕集効率は、例えば、90%以上であり、好ましくは95%以上、より好ましくは97%以上であり、例えば、上限は特になく100%が好ましい。
またダスト捕集量は、例えば、70g以上であり、好ましくは100g以上、より好ましくは120g以上であり、例えば、200g以下、好ましくは180g以下である。
なおダスト捕集効率及び捕集量は、JIS D1612(自動車用エアクリーナ試験方法)に準じて実施し、特にダスト捕集効率はJIS D1612 9.4(3)で規定するフルライフ清浄効率試験に準じて実施し、またダスト捕集量はJIS D1612 10に準じて実施して得られる値である。それぞれの試験条件は、以下の様に設定される。
有効濾過面積:1760cm2、空気量:5.7m3/分、空気速度:54cm/秒、ダスト:JIS Z8901 8種、ダスト濃度:1g/m3、試験終了条件:増加抵抗300mmAq時
【0065】
本発明のエアフィルタが使用可能な内燃機関としては、ピストンエンジン(レシプロエンジン)、ロータリーエンジン、ガスタービンエンジン、ジェットエンジンなどが例示でき、好ましくは自動車用エンジンが挙げられる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0067】
本願明細書で採用した不織布の評価方法は以下の通りである。
(1)平均繊度;用いた繊維の繊度を、使用質量比に応じて加重平均した。
(2)捲縮率;JIS L1015の8.12.2法に準ず。
(3)中空率;繊維の断面写真から次式により算出した。
中空率(%)=(中空部の断面積/繊維の断面積)×100
(4)捲縮数;JIS L 1015の7.12法に準ず。
(5)繊維長;JIS L 1015 8.4.1 C)直接法(C法)に基づき、繊維を伸長せずまっすぐに伸ばし、置尺上で測定する。
【0068】
(6)目付;JIS L1913の6.2法に準ず。
(7)見掛け厚さ;JIS1級鋼尺を用いて見掛け厚さを測定した。
(8)全体密度;プレエアフィルタ全体の目付を、プレエアフィルタ全体の見掛け厚さで除して求めた。
(9)流入側密度、流出側密度、密度比
半分の厚さになるように断面を鋭利なカッターでカットし、流入側と流出側に分離する。それぞれの目付と見掛け厚さを測定し、次式により算出する。
流入側密度(g/cm3)=流入側の目付/流入側の見掛け厚さ
流出側密度(g/cm3)=流出側の目付/流出側の見掛け厚さ
密度比=流出側密度/流入側密度
【0069】
(10)厚さ方向繊維配向度
プレエアフィルタの断面を日立ハイテクノロジーズ社製の走査電子顕微鏡TM3000型MINISCOPEを使用して倍率40倍で画像を撮影する。なお撮影時にはゼロ点あわせとして、撮影後の写真のヨコ方向及びタテ方向が、不織布の機械方向(MD)及び幅方向(CD)方向と一致するようにした。
その後撮影した画像をA4サイズに印刷し、流出側の任意の1mm2中にある繊維を長さ0.1mmごとに画像に含まれる全ての繊維について分度器で角度を測定する。測定された角度の平均値を繊維配向度とする。但し、角度は0〜90°までで評価し、90°を超える場合には、(180°−測定値)で求められる角度を繊維配向度の評価に用いることとする。
【0070】
(11)水抜け試験
JIS L1092 7.2法に準ずる撥水度試験装置を用いて評価をする。
試験片ホルダに予め重量を測定した200mm×200mmの試験片を設置し、水250mlを漏斗に入れて試験片上に散布する。
水の散布開始から2分後に試験片を取り出し、表面に付着している水の状態を目視観察し、下記の基準で圧力損失特性を評価する。
○:表面に水の付着が少なく、不織布の内部に水が浸入している
×:表面に水が多く付着している(すなわち、圧力損失が高い)
表面に付着している余分な水を除去した後、試験片の重量を測定し、次式により算出する。
水保持量(g)=試験後の試験片重量(g)−試験前の試験片重量(g)
また水抜け性は、水抜けの有無を、試験後における流出側の試験片表面を目視及び触感により評価する。
【0071】
(12)ダスト負荷時厚さ減少率
200mm×200mm寸法の試験片の見掛け厚さ(t0)を測定した後、試験片に15kg/m2の荷重を負荷した状態での見掛け厚さ(t1)を測定し、次式により算出する。
ダスト負荷時厚さ減少率(%)=(t1/t0)×100
【0072】
(13)圧力損失
JIS D1612(自動車用エアクリーナ試験方法)に準じ、以下の条件で試験することにより測定できる。
有効濾過面積:0.1m2、空気量:3.6m3/分、空気速度:60cm/秒
【0073】
(14)ダスト保持量
JIS D1612 9.4(3)で規定するフルライフ清浄効率試験に準じ、JIS Z8901−8種紛体を空気量3.6m3/minで投入した。増加抵抗150mmAq時に試験を終了し、その段階でのダスト保持量を決定した。
【0074】
実施例1
高融点繊維としての中空顕在捲縮ポリエステル繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)、融点260℃、繊度6.6dtex、繊維長51mm、捲縮率20%、捲縮数9個/インチ、中空率27%)20重量%と、第1の低融点ポリエステル繊維(芯がPET・鞘が変性ポリエステル(L−PET)、融点110℃、ガラス転移温度60℃、繊度4.4dtex、繊維長51mm)15重量%と、第2の低融点ポリエステル繊維(芯がPET・鞘が変性ポリエステル(L−PET)、融点110℃、ガラス転移温度60℃、繊度17dtex、繊維長51mm)65重量%をそれぞれ計量、混綿後、カーディングし、次いでクロスラッピングして積層繊維ウェブを得た。この積層繊維ウェブを、その片面側から、針番手40番のニードル(オルガン針社製:FPD1−40、ブレード寸法0.50mm)で針本数20本/cm2、針深さ0mmでニードルパンチ加工した。次いで熱風の温度を160℃に保ったコンベア式連続熱処理機の中で1分間熱処理を行い、目付150g/m2、見掛け厚さ7.2mmのプレエアフィルタ用短繊維不織布を得た。
【0075】
実施例2〜7、比較例1〜2
高融点繊維及び低融点繊維の種類と量を下記表1〜2に示す様に変更し、かつニードルパンチ条件を表1〜2に示す様に変更した以外は、実施例1と同様にした。
なお本製造例において使用した繊維は以下の通りである。
「中空顕在捲縮繊維(コンジュゲート)」とは、サイドバイサイド構造を有する中空の捲縮繊維であって、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、融点260℃、繊度7.7dtex、繊維長51mm、捲縮率16%、捲縮数8個/インチ、中空率10%である。
「非中空繊維」とは、中実の捲縮繊維であって、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなり、融点260℃、繊維長51mm、表に示す捲縮率、捲縮数、繊度を有する繊維である。
「L−PP」とは、融点130℃、ガラス転移温度−20℃、繊度20dtex、繊維長64mmのポリエチレン樹脂及びポリプロピレン樹脂からなる低融点繊維である。
【0076】
比較例3
ニードルパンチにより繊維を交絡させないこと以外は、実施例1と同様の方法によりプレエアフィルタ用短繊維不織布を得た。
【0077】
比較例4〜5
非中空繊維(ポリエチレンテレフタレート(PET)、融点260℃、繊度6.6dtex又は17dtex、繊維長51mm)の100重量%を計量、カーディングし、次いでクロスラッピングして積層繊維ウェブを得た。この積層繊維ウェブを、その片面側から表2に示す条件でニードルパンチ加工した後、アクリル系エマルジョンをスプレー塗布して含浸させた。熱風の温度を150℃に保ったコンベア式連続熱処理機の中で5分間熱処理兼乾燥し、プレエアフィルタ用短繊維不織布を得た。
【0078】
実施例及び比較例で得られたプレエアフィルタ用短繊維不織布の各特性を評価した。結果を表1〜2に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のプレエアフィルタは、内燃機関の吸気ラインに使用できる。
【符号の説明】
【0082】
1 プレエアフィルタ
2 メインエアフィルタ
3 枠体
4 フィルタ材
図1