特許第6511312号(P6511312)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6511312
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ液圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/171 20060101AFI20190425BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20190425BHJP
【FI】
   B60T8/171 Z
   B60T8/1761
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-62385(P2015-62385)
(22)【出願日】2015年3月25日
(65)【公開番号】特開2016-179788(P2016-179788A)
(43)【公開日】2016年10月13日
【審査請求日】2017年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】315019735
【氏名又は名称】ヴィオニア日信ブレーキシステムジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116034
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 啓輔
(72)【発明者】
【氏名】関谷 智明
(72)【発明者】
【氏名】小林 正史
(72)【発明者】
【氏名】半田 俊之
【審査官】 谷口 耕之助
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−001118(JP,A)
【文献】 特開平09−267736(JP,A)
【文献】 特開2012−171404(JP,A)
【文献】 特開2009−023468(JP,A)
【文献】 特開平9−71236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/171
B60T 8/1761
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧源から複数の車輪ブレーキへの液圧路に介装された常開型比例電磁弁である入口弁と、ブレーキ液圧制御と左右の車輪ブレーキの液圧差が所定の範囲内となるように左右のうち高摩擦側の車輪ブレーキのブレーキ液圧を制御する液圧差制御とを実行可能な制御部とを有する車両用ブレーキ液圧制御装置であって、
前記制御部は、
前記ブレーキ液圧制御における増圧制御から減圧制御の切り替え時のホイールシリンダ圧であるロック圧を、車体減速度から推定するロック圧推定手段と、
前記切り替え時の前記入口弁の駆動電流から、前記入口弁の上下流の差圧を推定する差圧推定手段と、
前記ロック圧と前記差圧とから、前記入口弁の上流液圧を推定する上流液圧推定手段と、
左右の一方の車輪について前記ブレーキ液圧制御を実行し、かつ、他方の車輪について前記液圧差制御を実行している場合に、前記他方の車輪の車輪減速度を前記車体減速度として推定する車体減速度推定手段と、を備え、
前記ロック圧推定手段は、前記車体減速度推定手段で推定した車体減速度に基づいてロック圧を推定することを特徴とする車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項2】
前記ロック圧推定手段は、前記車体減速度と前記ロック圧とを対応付けたマップを用いて、前記ロック圧を推定することを特徴とする請求項1に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【請求項3】
前記差圧推定手段は、前記駆動電流と前記差圧とを対応付けたマップを用いて、前記差圧を推定することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用ブレーキ液圧制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ液圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アンチロックブレーキ制御(以下、ABS制御ともいう。)を実行可能な車両用ブレーキ液圧制御装置として、上下流の差圧を調整可能な常開型比例電磁弁を入口弁として採用したものが知られている(特許文献1参照)。この構成では、ABS制御における増圧制御において、圧力センサで検出したマスタシリンダ圧(入口弁の上流液圧)に基づいて駆動電流の大きさを設定することで、入口弁の開弁量を調整して増圧制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−23468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来技術のようにマスタシリンダ圧を検出する圧力センサを設ける場合には、コストが高くなるといった問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、高価な圧力センサを用いることなく、入口弁の上流液圧を推定することで、コスト削減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両用ブレーキ液圧制御装置は、液圧源から複数の車輪ブレーキへの液圧路に介装された常開型比例電磁弁である入口弁と、ブレーキ液圧制御と左右の車輪ブレーキの液圧差が所定の範囲内となるように左右のうち高摩擦側の車輪ブレーキのブレーキ液圧を制御する液圧差制御とを実行可能な制御部とを有する。
前記制御部は、前記ブレーキ液圧制御における増圧制御から減圧制御の切り替え時のホイールシリンダ圧であるロック圧を、車体減速度から推定するロック圧推定手段と、前記切り替え時の前記入口弁の駆動電流から、前記入口弁の上下流の差圧を推定する差圧推定手段と、前記ロック圧と前記差圧とから、前記入口弁の上流液圧を推定する上流液圧推定手段と、左右の一方の車輪について前記ブレーキ液圧制御を実行し、かつ、他方の車輪について前記液圧差制御を実行している場合に、前記他方の車輪の車輪減速度を前記車体減速度として推定する車体減速度推定手段と、を備え、前記ロック圧推定手段は、前記車体減速度推定手段で推定した車体減速度に基づいてロック圧を推定する
【0007】
この構成によれば、車体減速度から推定したロック圧と、ブレーキ液圧制御における増圧制御から減圧制御の切り替え時の駆動電流から推定した差圧とに基づいて、上流液圧を推定する。そのため、高価な圧力センサを用いることなく、上流液圧を推定することができ、コスト削減を図ることができる。
また、液圧差制御を実行している他方の車輪のブレーキ液圧は、ブレーキ液圧制御を実行している一方の車輪のブレーキ液圧との液圧差が所定の値となるように制御されることから、他方の車輪のブレーキ液圧が高くなるのが抑制されて、他方の車輪のスリップ量が小さくなる。そのため、液圧差制御を実行している他方の車輪の車輪減速度を車体減速度としてロック圧を推定することで、上流液圧を精度良く推定することができる。
【0008】
また、前記した構成において、前記ロック圧推定手段は、前記車体減速度と前記ロック圧とを対応付けたマップを用いて、前記ロック圧を推定するように構成することができる。
【0009】
これによれば、車体減速度とロック圧とを対応付けたマップを、実験やシミュレーション等によって予め設定しておくことで、車体減速度からロック圧を容易に推定することができる。
【0010】
また、前記した構成において、前記差圧推定手段は、前記駆動電流と前記差圧とを対応付けたマップを用いて、前記差圧を推定するように構成することができる。
【0011】
これによれば、駆動電流と差圧とを対応付けたマップを、実験やシミュレーション等によって予め設定しておくことで、駆動電流から差圧を容易に推定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高価な圧力センサを用いることなく、入口弁の上流液圧を推定することができるので、コスト削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る車両用ブレーキ液圧制御装置を備えた車両の構成図である。
図2】液圧ユニットの構成を示す構成図である。
図3】制御部の構成を示すブロック図である。
図4】制御部の動作を示すフローチャートである。
図5】左側の車輪についてABS制御が実行され、右側の車輪について液圧差制御が実行された場合における、左右の同軸輪の各車輪における各パラメータを比較したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1に示すように、車両用ブレーキ液圧制御装置1は、車両2の各車輪3に付与する制動力を適宜制御する装置である。車両用ブレーキ液圧制御装置1は、油路や各種部品が設けられる液圧ユニット10と、液圧ユニット10内の各種部品を適宜制御するための制御部100とを主に備えている。
【0017】
各車輪3には、それぞれ車輪ブレーキFL,RR,RL,FRが備えられ、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRには、液圧源としてのマスタシリンダ5から供給される液圧により制動力を発生するホイールシリンダ4が備えられている。マスタシリンダ5とホイールシリンダ4とは、それぞれ液圧ユニット10に接続されている。そして、ブレーキペダル6の踏力(運転者の制動操作)に応じてマスタシリンダ5で発生したブレーキ液圧が、制御部100および液圧ユニット10で制御された上でホイールシリンダ4に供給される。
【0018】
制御部100には、各車輪3の車輪速度を検出する車輪速センサ91が接続されている。そして、この制御部100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)および入出力回路を備えており、車輪速センサ91などからの入力と、ROMに記憶されたプログラムやデータに基づいて各種演算処理を行うことによって、制御を実行する。なお、制御部100の詳細は、後述することとする。
【0019】
図2に示すように、液圧ユニット10は、運転者がブレーキペダル6に加える踏力に応じたブレーキ液圧を発生する液圧源であるマスタシリンダ5と、車輪ブレーキFR,FL,RR,RLとの間に配置されている。
【0020】
液圧ユニット10は、ブレーキ液が流通する油路(液圧路)を有する基体であるポンプボディ11に油路と各種の電磁バルブが配置されることで構成されている。マスタシリンダ5の出力ポート5a,5bは、ポンプボディ11の入力ポート11aに接続され、ポンプボディ11の出力ポート11bは、各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに接続されている。そして、通常時はポンプボディ11内の入力ポート11aから出力ポート11bまでが連通した油路となっていることで、ブレーキペダル6の踏力が各車輪ブレーキFL,RR,RL,FRに伝達されるようになっている。なお、マスタシリンダ5の出力ポート5aに接続された液圧系統は、車輪ブレーキFL,RRに接続され、マスタシリンダ5の出力ポート5bに接続された液圧系統は、車輪ブレーキRL,FRに接続され、これらの各系統は、略同様の構成を有している。
【0021】
各液圧系統には、入力ポート11aと出力ポート11bを繋ぐ液圧路上に、供給する電流に応じてその上下流の液圧の差を調整可能な常開型比例電磁弁である調圧弁12が設けられている。調圧弁12には、並列して、出力ポート11b側へのみの流れを許容するチェック弁12aが設けられている。
【0022】
調圧弁12よりも車輪ブレーキRL,FR,RL,FR側の液圧路は途中で分岐して、それぞれが出力ポート11bに接続されている。そして、各出力ポート11bに対応する各液圧路上には、それぞれ常開型比例電磁弁である入口弁13が配設されている。各入口弁13には、並列して、調圧弁12側へのみの流れを許容するチェック弁13aが設けられている。
【0023】
各出力ポート11bとこれに対応する入口弁13との間の液圧路からは、それぞれ、常閉型電磁弁からなる出口弁14を介して調圧弁12と入口弁13の間に繋がる還流液圧路19Bが設けられている。
【0024】
この還流液圧路19B上には、出口弁14側から順に、過剰なブレーキ液を一時的に吸収するリザーバ16、チェック弁16a、ポンプ17およびオリフィス17aが配設されている。チェック弁16aは、調圧弁12と入口弁13の間へ向けての流れのみを許容するように配置されている。ポンプ17は、モータ21により駆動され、調圧弁12と入口弁13の間へ向けての圧力を発生するように設けられている。オリフィス17aは、ポンプ17から吐出されたブレーキ液の圧力の脈動および調圧弁12が作動することにより発生する脈動を減衰させている。
【0025】
入力ポート11aと調圧弁12を繋ぐ導入液圧路19Aと、還流液圧路19Bにおけるチェック弁16aとポンプ17の間の部分とは、吸入液圧路19Cにより接続されている。そして、吸入液圧路19Cには、常閉型電磁弁である吸入弁15が配設されている。
【0026】
以上のような構成の液圧ユニット10は、通常時には、各電磁弁に通電がなされず、入力ポート11aから導入されたブレーキ液圧は、調圧弁12、入口弁13を通って出力ポート11bに出力され、各ホイールシリンダ4にそのまま付与される。そして、アンチロックブレーキ制御を行う場合など、ホイールシリンダ4の過剰なブレーキ液圧を減圧する場合には、対応する入口弁13を閉じ、出口弁14を開くことで還流液圧路19Bを通してブレーキ液をリザーバ16へと流し、ホイールシリンダ4のブレーキ液を抜くことができる。また、運転者のブレーキペダル6の操作が無い場合にホイールシリンダ4の加圧を行う場合には、吸入弁15を開き、モータ21を駆動することで、ポンプ17の加圧力により積極的にホイールシリンダ4へブレーキ液を供給することができる。さらに、ホイールシリンダ4の加圧の程度を調整したい場合には、調圧弁12に流す電流を調整することで調整することができる。
【0027】
次に、制御部100の詳細について説明する。
図3に示すように、制御部100は、車輪速度取得手段110と、車体減速度推定手段の一例としての車体減速度算出手段120と、ロック圧推定手段130と、上流液圧推定手段140と、アンチロックブレーキ制御手段150と、液圧差制御手段160と、制御実行手段170と、差圧推定手段180と、記憶手段190とを備えている。
【0028】
車輪速度取得手段110は、各車輪速センサ91から各車輪3の車輪速度を取得する手段である。車輪速度取得手段110は、各車輪3の車輪速度を取得すると、取得した各車輪速度を車体減速度算出手段120に出力する。
【0029】
車体減速度算出手段120は、各車輪3の車輪速度に基づいて、各車輪3の車体減速度を算出する機能を有している。詳しくは、車体減速度算出手段120は、ABS制御が実行されていないと判定した場合には、車輪速度の前回値と今回値との差を、車体減速度として算出する。
【0030】
また、車体減速度算出手段120は、アンチロックブレーキ制御手段150から出力されてくる信号に基づいて、所定の車輪3について、ABS制御が実行されており、かつ、ABS制御の増圧制御開始時の車輪速度を2回以上取得したと判定した場合に、直近に取得した2つの増圧制御開始時の車輪速度の差を、車体減速度として算出する。つまり、車体減速度算出手段120は、ABS制御が行われている所定の車輪3の車輪減速度を車体減速度として算出する。
【0031】
また、車体減速度算出手段120は、アンチロックブレーキ制御手段150および液圧差制御手段160から出力されてくる信号に基づいて、左右の同軸輪のうち一方の車輪3についてABS制御を実行し、かつ、他方の車輪3について液圧差制御を実行しているか否かを判定する機能を有している。そして、車体減速度算出手段120は、一方の車輪3についてABS制御を実行し、かつ、他方の車輪3について液圧差制御を実行していると判定した場合には、当該判定の直前に取得した他方の車輪3の車輪速度と、判定時に取得した他方の車輪3の車輪速度との差を、車体減速度として算出する。つまり、車体減速度算出手段120は、液圧差制御が開始された場合には、液圧差制御が行われている方の車輪3の車輪減速度を車体減速度として算出する。なお、車体減速度算出手段120は、ABS制御が実行されている一方の車輪3について、増圧制御開始時の車輪速度が2回以上取得された後は、液圧差制御が実行されている他方の車輪3の車輪速度に基づいた車体減速度の算出は行わないように構成されている。
【0032】
そして、車体減速度算出手段120は、いずれの車輪3についても増圧制御開始時の車輪速度が2回以上取得されていない場合には、算出した車体減速度をロック圧推定手段130および上流液圧推定手段140に出力し、いずれかの車輪3について増圧制御開始時の車輪速度が2回以上取得された場合には、算出した車体減速度をロック圧推定手段130に出力する。
【0033】
ロック圧推定手段130は、車体減速度算出手段120から出力されてくる車体減速度に基づいて、ABS制御における増圧制御から減圧制御の切り替え時のホイールシリンダ圧であるロック圧を推定する機能を有している。ここで、車体減速度は路面μに比例し、ロック圧も路面μに比例する関係であることから、この関係を利用して、車体減速度からロック圧を推定することができる。詳しくは、ロック圧推定手段130は、車体減速度とロック圧とを対応付けたマップを用いて、ロック圧を推定している。なお、マップは、実験やシミュレーション等によって予め作成しておけばよい。ロック圧推定手段130は、ロック圧を推定すると、推定したロック圧を上流液圧推定手段140に出力する。
【0034】
上流液圧推定手段140は、ABS制御が実行されている場合に、ロック圧推定手段130から出力されてくるロック圧と、後述する差圧推定手段180から出力されてくる差圧とから、入口弁13の上流液圧を推定する機能を有している。詳しくは、上流液圧推定手段140は、ロック圧に差圧を加算することで、上流液圧を推定している。ここで、上流液圧は、ポンプ17や調圧弁12が作動していない状態においては、マスタシリンダ圧と同じ値となっている。
【0035】
また、上流液圧推定手段140は、ABS制御が実行されていない場合には、車体減速度算出手段120から出力されてくる車体減速度に基づいて、上流液圧を推定する。具体的には、上流液圧推定手段140は、例えば、車体減速度と上流液圧とを対応づけたマップに基づいて、上流液圧を推定する。なお、マップは、実験やシミュレーション等によって予め作成しておけばよい。上流液圧推定手段140は、上流液圧を推定すると、推定した上流液圧をアンチロックブレーキ制御手段150と制御実行手段170に出力する。
【0036】
アンチロックブレーキ制御手段150は、車輪速センサ91で検出される車輪速度と、各車輪速度に基づいて推定される車体速度とに基づいて、ABS制御を実行するか否かを車輪3ごとに判定し、実行すると判定した場合には、ABS制御時の液圧制御の指示(減圧制御、保持制御および増圧制御のいずれにするかの指示)を車輪3ごとに決定する機能を有している。具体的には、例えば、アンチロックブレーキ制御手段150は、車輪速度と車体速度とに基づいて定まるスリップ率が、所定値以上になり、かつ、車輪加速度が0以下であるとき(車輪3の減速中)に車輪3がロックしそうになったと判定して、液圧制御の指示を減圧制御に決定する。ここで、車輪加速度は、例えば車輪速度から算出される。
【0037】
アンチロックブレーキ制御手段150は、車輪加速度が0よりも大きいときに、液圧制御の指示を保持制御に決定する。アンチロックブレーキ制御手段150は、スリップ率が所定値未満となり、かつ、車輪加速度が0以下であるときに、液圧制御の指示を増圧制御に決定する。
【0038】
そして、アンチロックブレーキ制御手段150は、液圧制御の指示を決定すると、その指示を制御実行手段170に出力する。また、アンチロックブレーキ制御手段150は、増圧制御の指示を制御実行手段170に出力する場合には、入口弁13の駆動電流の値を決めるための要求圧も制御実行手段170に出力するようになっている。この要求圧を算出するために、アンチロックブレーキ制御手段150は、下流液圧算出部151と、制御量算出部152と、要求圧算出部153とを備えている。
【0039】
下流液圧算出部151は、上流液圧推定手段140から出力されてくる上流液圧と、入口弁13および出口弁14の制御の履歴とに基づいて、入口弁13の下流液圧、つまりホイールシリンダ圧を算出する機能を有している。下流液圧算出部151は、下流液圧を算出すると、算出した下流液圧を要求圧算出部153に出力する。
【0040】
制御量算出部152は、ABS制御の状態に基づいて、下流液圧の増減量を制御量として算出する機能を有している。制御量算出部152は、制御量を算出すると、算出した制御量を要求圧算出部153に出力する。
【0041】
要求圧算出部153は、下流液圧算出部151から出力されてくる下流液圧と、制御量算出部152から出力されてくる制御量とに基づいて、下流液圧の目標値である要求圧を算出する機能を有している。具体的に、要求圧算出部153は、下流液圧に制御量を加算することで要求圧を算出する。要求圧算出部153は、要求圧を算出すると、算出した要求圧を制御実行手段170に出力する。
【0042】
また、アンチロックブレーキ制御手段150は、左右の同軸の車輪3のうち一方の車輪3についてABS制御を開始する場合には、開始したことを示す信号を液圧差制御手段160に出力するように構成されている。
【0043】
液圧差制御手段160は、アンチロックブレーキ制御手段150から左右の一方の車輪3についてABS制御を開始する信号を受けると、一方の車輪3における下流液圧の監視を開始し、一方の車輪3における下流液圧と、他方の車輪3における下流液圧との差が、所定の範囲内となるように、他方側(高摩擦側)の下流液圧を制御する液圧差制御を実行する機能を有している。なお、左右の車輪3の各下流液圧は、例えば、下流液圧算出部151での算出方法と同じ方法で算出することができる。液圧差制御手段160は、液圧差制御を実行した場合には、そのことを示す信号を車体減速度算出手段120に出力する。
【0044】
制御実行手段170は、アンチロックブレーキ制御手段150から出力されてくる液圧制御の指示や要求圧に基づいて、入口弁13および出口弁14等を制御することで、下流液圧を制御する機能を有している。具体的に、制御実行手段170は、液圧制御の指示が減圧制御である場合には、入口弁13および出口弁14に電流を流すことで、入口弁13を閉じ、出口弁14を開けるように制御する。また、制御実行手段170は、液圧制御の指示が保持制御である場合には、入口弁13に電流を流し、出口弁14に電流を流さないことで、入口弁13および出口弁14を両方とも閉じるように制御する。
【0045】
そして、制御実行手段170は、液圧制御の指示が増圧制御である場合には、出口弁14に電流を流さないことで出口弁14を閉じ、入口弁13に要求圧に対応した駆動電流を流すことで、入口弁13の上下流の差圧をコントロールして、下流液圧を意図した増圧レートで増圧するようになっている。このような増圧制御を実現すべく、制御実行手段170は、主に、目標差圧設定手段171と、駆動電流設定手段172とを備えている。さらに、制御実行手段170は、後述する差圧推定手段180での計算に必要な駆動電流を取得するための駆動電流取得手段173を備えている。
【0046】
目標差圧設定手段171は、アンチロックブレーキ制御手段150から出力されてくる要求圧と、上流液圧推定手段140から出力されてくる上流液圧とに基づいて、入口弁13の上下流の差圧の目標値である目標差圧を算出して設定する機能を有している。具体的に、目標差圧設定手段171は、上流液圧から要求圧を減算することで、目標差圧を算出する。目標差圧設定手段171は、目標差圧を算出すると、算出した目標差圧を駆動電流設定手段172に出力する。
【0047】
駆動電流設定手段172は、目標差圧設定手段171から出力されてくる目標差圧に基づいて入口弁13を駆動するための駆動電流の値を設定する機能を有している。具体的に、駆動電流設定手段172は、目標差圧と駆動電流とを対応づけたマップに基づいて、駆動電流を設定する。なお、マップは、実験やシミュレーション等によって予め作成しておけばよい。
【0048】
詳しくは、駆動電流設定手段172は、入口弁13が現在の上下流の差圧に対して開き始めることが可能な駆動電流の初期値を目標差圧に基づいて設定している。なお、駆動電流の初期値を設定した後は、制御実行手段170は、駆動電流を、初期値から徐々に下げていくように制御する。
【0049】
駆動電流取得手段173は、液圧制御の指示が増圧制御から減圧制御に切り替わったときに、そのときの駆動電流(以下、「切り替え時の駆動電流」ともいう。)を取得する機能を有している。駆動電流取得手段173は、切り替え時の駆動電流を取得すると、取得した駆動電流を差圧推定手段180に出力する。
【0050】
差圧推定手段180は、駆動電流取得手段173から出力されてくる切り替え時の駆動電流から、入口弁13の上下流の差圧を推定する機能を有している。具体的に、差圧推定手段180は、駆動電流と差圧とを対応付けたマップを用いて、差圧を推定する。なお、マップは、実験やシミュレーション等によって予め作成しておけばよい。差圧推定手段180は、差圧を推定すると、推定した差圧を上流液圧推定手段140に出力する。
【0051】
記憶手段190は、前述したマップや、車輪速度、車体減速度、上流液圧などの各パラメータなどを記憶している。
【0052】
次に、制御部100の動作について図4に示すフローチャートを参照して詳細に説明する。なお、図4のフローチャートの処理は、各車輪3のそれぞれに対して行われている。以下の説明では、左右の車輪3(例えば左右の前輪)のうち左側の車輪3について制御する場合を代表して説明する。
【0053】
図4に示すように、制御部100は、車輪速センサ91から左側の車輪3の車輪速度を取得した後(S1)、左側の車輪3がABS制御中であるか否かを判断する(S2)。ステップS2においてABS制御中でないと判断した場合には(No)、制御部100は、車輪速度に基づいて車体減速度を算出し(S3)、車体減速度に基づいて上流液圧を推定する(S4)。
【0054】
ステップS2においてABS制御中であると判断した場合には(Yes)、制御部100は、増圧開始時の車輪速度を2回以上取得したか否かを判断する(S5)。ステップS5において取得していないと判断した場合には(No)、制御部100は、同軸輪における他方の車輪、つまり右側の車輪3に対して液圧差制御が実行されているか否かを判断する(S6)。
【0055】
ステップS6において液圧差制御が実行されていないと判断した場合(No)、つまり両輪がABS制御中である場合には、制御部100は、上流液圧を前回値に設定する(S7)。ステップS6において液圧差制御が実行されていると判断した場合には(Yes)、制御部100は、右側の車輪3の車輪速度から車体減速度を算出する(S8)。
【0056】
ステップS5において増圧開始時の車輪速度を2回以上取得したと判断した場合には(Yes)、制御部100は、直近に取得した2つの増圧開始時の車輪速度から車体減速度を算出する(S9)。ステップS9およびステップS8の後、制御部100は、車体減速度からロック圧を推定する(S10)。
【0057】
ステップS10の後、制御部100は、ABS制御において増圧制御から減圧制御に切り替わったか否かを判断する(S11)。ステップS11において切り替わっていないと判断した場合には(No)、制御部100は、ステップS7に移行する。
【0058】
ステップS11において増圧制御から減圧制御に切り替わったと判断した場合には(Yes)、制御部100は、切り替え時の駆動電流を取得する(S12)。ステップS12の後、制御部100は、切り替え時の駆動電流から入口弁13の上下流の差圧を推定する(S13)。
【0059】
ステップS13の後、制御部100は、ロック圧と差圧から上流液圧を算出する(S14)。ステップS14およびステップS7の後、制御部100は、上流液圧に基づいて駆動電流を設定する(S15)。詳しくは、ステップS15において、制御部100は、上流液圧と、要求圧とに基づいて入口弁13の上下流の差圧の目標差圧を決定した後、当該目標差圧に基づいて駆動電流を設定する。
【0060】
次に、制御部100による駆動電流の設定方法の一例について、図5を参照して詳細に説明する。なお、図5は、左側の車輪3について、ブレーキ液圧制御の一例としてのABS制御が実行され、右側の車輪3について液圧差制御が実行された場合における、左右の同軸輪の各車輪3に対応した各パラメータを比較した図である。図5において、実線で示す各グラフは、左側の車輪3についての車輪速度VL、下流液圧PLおよび入口弁13の駆動電流ALを示し、破線で示す各グラフは、右側の車輪3についての車輪速度VRおよび下流液圧PRを示す。
【0061】
図5に示すように、ドライバーがブレーキペダル6を踏むと(時刻t0)、左右の車輪3が徐々に減速していく。この間、制御部100は、ステップS3,S4の処理を実行することで、車輪速度VLまたは車輪速度VRから算出した車体減速度に基づいて上流液圧PM(一点鎖線参照)を推定する。
【0062】
左側の車輪3についてスリップ率が所定値以上になると(時刻t1)、制御部100は、左側の車輪3についてABS制御を開始する。これにより、左側の車輪3において、入口弁13に駆動電流ALが供給されて入口弁13が閉じるとともに、出口弁14に電流が供給されて出口弁が開放されることで、左側の車輪3に対応した下流液圧PLが減圧されていく。なお、この際、入口弁13に供給する駆動電流ALは、入口弁13を閉弁可能な電流値であり、例えば最大値に設定される。
【0063】
また、この際、右側の車輪3についてABS制御の開始条件が満たされていない場合には、制御部100は、右側の車輪3について液圧差制御を開始し、その後は、左右の車輪3における各下流液圧PL,PRの差が一定となるように、右側の車輪3における下流液圧PRを制御する(時刻t2)。
【0064】
このように右側の車輪3について液圧差制御を開始した制御部100は、ステップS6,S8,S10の処理を実行することで、右側の車輪3の車輪速度VR(例えばVR1,VR2)に基づいて車体減速度を算出した後、車体減速度からロック圧を推定する。その後、左側の車輪3について保持条件が揃うと、制御部100は、駆動電流ALを減圧制御時と同じ値に保ったまま、出口弁14への電流供給を停止して出口弁14を閉じることで、保持制御を開始する(時刻t3)。
【0065】
その後、左側の車輪3について増圧条件が揃うと、制御部100は、ステップS7,S15の処理を実行することで、ステップS4で設定した上流液圧に基づいて駆動電流を設定する(時刻t4)。そして、制御部100は、設定した値まで駆動電流を下げることで、入口弁13を開放させて増圧制御を開始させる。
【0066】
この際、制御部100は、ステップS1の処理を実行することで、増圧開始時の車輪速度VL1を取得する。その後、制御部100は、駆動電流を徐々に下げていくことで、下流液圧PLを徐々に増圧させていく(時刻t4〜t5)。
【0067】
その後、左側の車輪3について減圧条件が揃うと、制御部100は、駆動電流を上げることで、減圧制御を開始する(時刻t5)。この際、制御部100は、ステップS11,S12の処理を実行することで、切り替え時の駆動電流AL1を取得する。
【0068】
また、制御部100は、ステップS13,S14の処理を実行することで、駆動電流AL1から差圧を推定した後、ロック圧と差圧から、時刻t5における上流液圧PMを算出する。なお、このときのロック圧は、例えば、減圧開始時の直近に取得した2つの車輪速度VR3,VR4から推定されてもよいし、液圧差制御の開始時の車輪速度VR1,VR2から推定されてもよい。つまり、ロック圧は、液圧差制御中に取得された右側の車輪速度VRから適宜推定することができる。
【0069】
制御部100は、上流液圧PMを算出した後、当該上流液圧PMとABS制御の要求圧とに基づいて駆動電流の目標値AL2を設定する。
【0070】
その後は、前述と同様にして保持制御が行われた後(時刻t6)、増圧制御が開始される(時刻t7)。そして、時刻t7において増圧制御を開始する際において、制御部100は、駆動電流を目標値AL2に基づいて制御して、増圧制御を開始する。
【0071】
また、この際、制御部100は、2回目の増圧開始時の車輪速度VL2を取得する。これにより、制御部100は、2つの増圧開始時の車輪速度VL1,VL2を取得することになるので、ステップS5,S9,S10の処理を実行することで、各車輪速度VL1,VL2から車体減速度を算出し、当該車体減速度からロック圧を推定する。
【0072】
その後、制御部100は、3回目の減圧制御を開始すると(時刻t8)、切り替え時の駆動電流AL3を取得する(S12)。これにより、制御部100は、その後のステップS13〜S15の処理を実行することで、駆動電流AL3から求めた差圧と、2つの増圧開始時の車輪速度VL1,VL2から求めたロック圧とに基づいて、時刻t8における上流液圧PMを算出した後、上流液圧PMとABS制御の要求圧とに基づいて駆動電流の目標値AL4を設定する。
【0073】
その後、制御部100は、次の3回目の増圧開始時において、駆動電流を目標値AL4に基づいて制御して、増圧制御を実行する。
【0074】
以上によれば、本実施形態において以下のような効果を得ることができる。
車体減速度から推定したロック圧と、切り替え時の駆動電流から推定した差圧とに基づいて、上流液圧PMを推定するので、高価な圧力センサを用いることなく、上流液圧PMを推定することができ、コスト削減を図ることができる。
【0075】
車体減速度とロック圧とを対応付けたマップに基づいてロック圧を推定するので、車体減速度からロック圧を容易に推定することができる。
【0076】
駆動電流と差圧とを対応付けたマップに基づいて差圧を推定するので、駆動電流から差圧を容易に推定することができる。
【0077】
液圧差制御を実行している右側の車輪3の下流液圧PRは、ABS制御を実行している左側の車輪3の下流液圧PLとの液圧差が所定の範囲内となるように制御されることから、右側の車輪3の下流液圧PRが高くなるのが抑制されて、右側の車輪3のスリップ率が小さくなる。そのため、液圧差制御を実行している右側の車輪3の車輪減速度を車体減速度として上流液圧PMを推定することで、高価な圧力センサを用いることなく、上流液圧PMを精度良く推定することができ、コスト削減を図ることができる。
【0078】
なお、本発明は前記実施形態に限定されることなく、以下に例示するように様々な形態で利用できる。
前記実施形態では、入口弁13の上下流の差圧やロック圧を、マップを用いて算出したが、本発明はこれに限定されず、例えば計算式などによって算出してもよい。
【0079】
前記実施形態では、ブレーキ液圧制御の一つであるABS制御を実行可能な車両用ブレーキ液圧制御装置に本発明を適用したが、本発明はこれに限定されず、例えば、車両の挙動安定化制御等を実行可能な車両用ブレーキ液圧制御装置に本発明を適用してもよい。
【符号の説明】
【0080】
1 車両用ブレーキ液圧制御装置
5 マスタシリンダ
13 入口弁
100 制御部
130 ロック圧推定手段
140 上流液圧推定手段
180 差圧推定手段
FL,FR,RL,RR 車輪ブレーキ
図1
図2
図3
図4
図5