特許第6511345号(P6511345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6511345
(24)【登録日】2019年4月12日
(45)【発行日】2019年5月15日
(54)【発明の名称】熱処理用電力変換装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20190425BHJP
【FI】
   H02M7/48 E
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-123337(P2015-123337)
(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公開番号】特開2017-11835(P2017-11835A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年2月26日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年5月18日、自社ウェブサイトに公開。<URL:http://www.k−neturen.co.jp/Portals/0/images/ir/news/20150515sicmosfetpowersupply.pdf>
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年5月18日に開催された重工業研究会にて配布されたペーパーに発表、これに基づく記事が平成27年5月20日刊行の日刊工業新聞に発表。
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金井 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】杉本 真人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 春樹
【審査官】 遠藤 尊志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−004099(JP,A)
【文献】 特開2013−013163(JP,A)
【文献】 特開平09−233832(JP,A)
【文献】 特開平05−068331(JP,A)
【文献】 特開平07−255166(JP,A)
【文献】 特開平11−111441(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00844807(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/42−7/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流を直流に変換する順変換部と、上記順変換部からの直流を一定に制御する平滑部と、上記平滑部からの直流をSiC半導体で構成されたスイッチング素子でON/OFFすることにより高周波に変換する逆変換部と、上記順変換部と上記逆変換部とを制御する制御部とを備え、
上記逆変換部から出力される電力の定格であって、上記逆変換部から出力される高周波電力の周波数と、上記逆変換部から高周波が出力されている時間である通電時間と、上記通電時間/(上記通電時間+通電していない時間)から求まる使用率とに応じて定まる定格を有する、熱処理用電力変換装置。
【請求項2】
前記制御部は、上記周波数、上記通電時間、上記使用率及び上記スイッチング素子の使用可能な温度での電力を関係付けるデータを備えており、上記通電時間と上記使用率が設定されると、上記データに基づいて最大許容電流を求めて、出力の停止又は制御を行う、請求項1に記載の熱処理用電力変換装置。
【請求項3】
交流を一旦直流に変換し更にスイッチング素子で直流をON/OFFすることにより高周波に変換する熱処理用電力変換方法において、
変換後の高周波の周波数と、変換後の高周波を出力している時間である通電時間と、上記通電時間/(上記通電時間+通電していない時間)から求まる使用率とに応じて、SiC半導体で構成された上記スイッチング素子のジャンクション温度が所定の値を超えない範囲で、最大出力電力を増加させるようにした、熱処理用電力変換方法。
【請求項4】
上記スイッチング素子の損失による温度上昇分と上記スイッチング素子の冷却による温度減少分の差分により得られる上記スイッチング素子のジャンクション温度の上限が、上記スイッチング素子の定格内である設計値となるまで最大出力電力を増加させる、請求項3に記載の熱処理用電力変換方法。
【請求項5】
上記スイッチング素子の損失が、上記スイッチング素子への通電による損失と、上記スイッチング素子のスイッチング損失との和により定められる、請求項4に記載の熱処理用電力変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱処理の際に用いられる熱処理用電力変換装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理のうち通電により加熱する方法として、誘導加熱と直接通電加熱とがある。誘導加熱のうち特に焼入れ処理では、ワークへの熱処理を施す深さに応じて適切な周波数を選択している。
【0003】
熱処理用電力変換装置は、直流をパワー半導体によってスイッチングすることで、高周波に変換している。パワー半導体のスイッチング素子として近年、SiC(炭化ケイ素)を材料として製造されているSiC−MOSFETが注目されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、発振周波数が10kHzと100kHzとでは、スイッチング周波数が10倍異なるので、パワー半導体の温度上昇は大きく異なる。つまり、熱処理用電力変換装置のインバータの容量(最大定格値)を装置の動作範囲の最大周波数で決めると、出力する周波数が低い時には、温度上昇が低く、経済的ではない。また、動作周波数のみならず1回当たりの通電時間により上昇温度は異なり、経済的ではない。
【0005】
そこで、本発明は、使用状況に応じて出力を規格内で変化させることができる経済的な熱処理用電力変換装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、熱処理用電力変換装置において、交流を直流に変換する順変換部と、順変換部からの直流を一定に制御する平滑部と、平滑部からの直流をSiC半導体で構成されたスイッチング素子でON/OFFすることにより高周波に変換する逆変換部と、順変換部と逆変換部とを制御する制御部と、を備え、
逆変換部から出力される電力の定格であって、逆変換部から出力される高周波電力の周波数と、逆変換部から高周波が出力されている時間である通電時間と、通電時間/(通電時間+通電していない時間)から求まる使用率とに応じて定まる定格を有することを特徴とする。
【0007】
上記熱処理用電力変換装置において、制御部は、スイッチング素子の周波数、通電時間、使用率及びスイッチング素子の使用可能な温度での電力を関係付けるデータを備えており、通電時間と使用率が設定されると、データに基づいて最大許容電流を求めて、出力の停止又は制御を行う。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、交流を一旦直流に変換し更にスイッチング素子で直流をON/OFFすることにより高周波に変換する熱処理用電力変換方法において、
変換後の高周波の周波数と、変換後の高周波を出力している時間である通電時間と、通電時間/(通電時間+通電していない時間)から求まる使用率とに応じて、SiC半導体で構成されたスイッチング素子のジャンクション温度が所定の値を超えない範囲で、最大出力電力を増加させるようにしたことを特徴とする。
【0009】
上記熱処理用電力変換方法において、スイッチング素子の損失による温度上昇分とスイッチング素子の冷却による温度減少分の差分により得られるスイッチング素子のジャンクション温度の上限が、スイッチング素子の定格内である設計値となるまで最大出力電力を増加させる。
【0010】
上記熱処理用電力変換方法において、スイッチング素子の損失が、スイッチング素子への通電による損失と、スイッチング素子のスイッチング損失との和により定められる。
【0011】
上記熱処理用電力変換方法において、スイッチング素子への通電時間は、熱処理対象物の交換及びセッティングの時間よりも短くても長くてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、周波数、通電時間及び使用率に応じて定格を定めているので、低い周波数に電力変換する場合にはスイッチング素子の定格内で出力を大きくすることができ、経済的な装置及び方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る熱処理用電力変換装置の構成図である。
図2】使用率を説明するための図である。
図3】制御部に蓄積されているデータの一部を模式的に示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る熱処理用電力変換装置の設計思想を示す図であり、(a)はスイッチング素子がMOSFETの構造を有するとした場合におけるドレイン電流I波形及びVDS波形を示しており、(b)は損失波形を示している。
図5】規則的な繰り返し電流、すなわち実際の正弦波を熱計算用の方形波で近似した電流からスイッチング素子のジャンクション温度を求める際の計算手法を示す図である。
図6】制御部に蓄積されているデータを模式的に示す図であり、(a),(b)は周波数100kHz,400kHzでの使用率αと電力との関係を、通電時間をパラメータとしてそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係る熱処理用電力変換装置の構成図である。図1に示すように、熱処理用電力変換装置(以下「電力変換装置」と称する。)10は、交流を直流に変換する順変換部11と、順変換部11からの直流を一定に制御する平滑部12と、スイッチング素子を所定の周波数でON/OFFすることにより平滑部12からの直流を高周波に変換する逆変換部13と、順変換部11及び逆変換部13を制御する制御部14とからなる。
【0016】
順変換部11は、コンバータとも呼ばれ、商用周波数を整流して直流に変換する。順変換部11は制御部14の出力制御により、電力変換装置10からの出力電力の大きさを調整する。
【0017】
平滑部12は、電流型の電力変換装置では順変換部11から出力された電流の脈動をリアクトルにより平滑化し、電圧型の電力変換装置では順変換部11から出力された電圧の脈動をコンデンサにより平滑化し、逆変換部13に出力する。
【0018】
逆変換部13は、スイッチング素子としてのパワー半導体素子をブリッジ回路となるように構成し、パワー半導体素子がスイッチングすることにより、直流を高周波に変換して出力する。ここで、パワー半導体素子としては、例えばSiC−MOSFETなどのSiC半導体素子が用いられる。SiC半導体素子はスイッチング速度が速く、電圧駆動であり、素子のON抵抗値が低いため消費電力が小さく、素子の耐圧が高く、素子が高電流密度のため小さいので電源それ自体が小型化、軽量化でき効率的であるから好適である。
【0019】
制御部14は、順変換部11へ出力制御信号、異常停止指示信号を出力することで、順変換部11を制御すると共に、逆変換部13へ周波数制御信号、異常停止指示信号を出力することで、逆変換部13を制御する。制御部14は、順変換部11及び逆変換部13からフィードバック信号をそれぞれ受け、順変換部11及び逆変換部13の状態を検知する。
【0020】
本発明の実施形態では、制御部14は、逆変換部13から出力される高周波電力の周波数と通電時間と使用率とに応じて、逆変換部13からの出力の停止又は制御を行う。そのため、制御部14は、スイッチング素子の周波数、通電時間、使用率及びスイッチング素子の使用可能な温度での電力を関係付けるデータを備えており、通電時間と使用率が設定されると、このデータに基づいて最大許容電流が求められる。よって、順変換部11からの電流フィードバック信号により検出した順変換部11の出力電流が通電時間、使用率及び周波数から求めた最大許容電流を超えると、逆変換13からの出力の停止を行うか出力を下げるなどの制御を行う。ここで、最大許容電流とは、スイッチング素子の周波数、通電時間、使用率及びスイッチング素子の使用可能な温度での電力を関係付けるデータから計算されるものであって、その条件で流すことができる最大の電流をいう。これにより、スイッチング素子の動作による温度上昇の値に基づいて、電力変換装置10が稼動している最中であっても、逆変換部13から出力される最大電力、つまり容量が定格化されている電力変換装置10からの出力の停止又は制御がなされる。
【0021】
ここで、使用率αについて説明する。図2は、使用率を説明するための図である。横軸は時間であり、縦軸は出力である。使用率αは次の関係式で求まる。
使用率α=通電時間tp/周期τ
=通電時間tp/(通電時間+通電していない時間)
通電時間tpとは、逆変換部13から高周波が出力されている時間であり、周期τとは通電時間と通電していない時間との和であり、あるパルスが出力され次のパルスが出力されるまでの時間である。
【0022】
制御部14には、使用率αと通電時間tpと周波数に対してスイッチング素子のジャンクション温度の上昇値ΔTjの際の電力との関係がデータとして蓄積されている。図3は、制御部14に蓄積されているデータの一部を模式的に示す図である。横軸は使用率%であり、縦軸は電力kWである。使用率100%では、電力がPと定まり、連続定格となる。しかしながら、使用率を低下させると、電力は大きくなり、通電時間が短くなるに従い電力の増加量が大きくなる。図3の縦軸の電力kWは、周波数に対してスイッチング素子のジャンクション温度の上昇値ΔTjの際の電流Aを電力kWに換算した値である。
【0023】
本発明の実施形態に係る電力変換装置10の設計思想について説明する。図4は、本発明の実施形態に係る電力変換装置10の設計思想を示す図であり、(a)はスイッチング素子がMOSFETの構造を有するとした場合におけるドレイン電流I波形及びVDS波形を示し、(b)は損失波形を示している。何れの図も横軸は時間tである。電力変換装置10の出力定格は、スイッチング素子の温度特性と、電圧定格や温度バランスなどの他の特性と、によって定まる。スイッチング素子の温度は、スイッチング素子の損失と冷却とで定まり、スイッチング素子の損失は、次の関係式が成り立つ。
素子の損失=定常損失+スイッチング損失
【0024】
図4(a)及び(b)に示すように、横軸を時間にとってドレイン電流I波形と、ドレイン−ソース間の電圧VDS波形を示すと、IがVDSに対して位相が遅れている。このように波形の位相が重なった部分のIとVDSとの積でスイッチング損失が生じる。
【0025】
よって、定常損失とは、スイッチング素子への通電による損失であり、通電電流の値に依存する。一方、スイッチング損失は、スイッチング回数(つまり周波数)に比例する。従って、同じ電流を流しても、周波数が高いとスイッチング損失が大きくなり素子損失が大きい。
【0026】
それにも拘わらず、従来販売され使用されている電力変換装置では、発振周波数が高い電力変換装置、発振周波数が低い電力変換装置の何れも、最も損失が大きい最大周波数で、しかも連続運転を想定して定格化している。これでは、高周波でも周波数が低い場合には電流値を大きくすることが出来るにも拘わらず小さい電流を流している。また、動作周波数のみならず、使用率や1回当たりの通電時間でも上昇温度が異なる。すなわち、高周波焼入れなど、連続通電しないで非常に短い、例えば数秒乃至十数秒の通電では十分なスイッチング素子を冷却する時間があるにも拘わらず、定格化をする際に考慮されていない。
【0027】
そこで、本発明の実施形態では、各周波数に、通電時間及び使用率からスイッチング素子の冷却時間を考慮して定格として出力電力を決定する。すなわち、電力変換装置の発振周波数毎に、通電時間tp及び使用率αに応じて、逆変換部13で用いられるスイッチング素子の素子特性から、ジャンクション温度が所定の値を超えない電流量を求め、出力電力を求める。制御部14は、逆変換部13からの出力電流が、基準電流値よりも大きくなると、順変換部11及び逆変換部13の動作を停止して、逆変換部13からの出力を停止する。このように、電力変換装置の出力について使用率、通電時間を考慮して周波数毎に定格化し、周波数毎に細分化をしている。そのため周波数の値が小さい場合の余力を活用することができる。
【0028】
本発明の実施形態に係る熱処理用電力変換方法では、上述のように、交流を一旦直流に変換し更にスイッチング素子で直流をON/OFFすることにより高周波に変換する際、変換後の周波数と、通電時間/(通電時間+通電していない時間)から求まる使用率と、通電時間とに応じて、スイッチング素子のジャンクション温度が所定の値を超えない範囲で、最大出力電力を増加させるようにしている。
【0029】
スイッチング素子のジャンクション温度は、スイッチング素子の損失による温度上昇分とスイッチング素子の冷却による温度減少分の差分により求められ、その上限がスイッチング素子の定格内となるまで最大出力電力を増加させる。よって、経済性の良い熱処理を実現することができる。特に、スイッチング素子への通電時間は、熱処理対象物の交換時間やセッティング時間と比べ非常に短いので、経済性が極めて顕著となる。
【0030】
前述したように、素子の損失は定常損失とスイッチング損失との和で求まり、定常損失は電流に依存し、スイッチング損失は電流と電圧に依存するため、素子の損失はほとんど電流に依存することになる。また図3は電流依存と電圧依存の両方を考慮して計算した結果を示しており、図3に示したような制御部14に蓄積されるデータとしては、電力kWで表示をしているが、電流Aで表示してもよい。
【0031】
次に、制御部14が出力停止の基準となる電流値の計算手法の一例を説明する。図5は、規則的な繰り返し電流、すなわち実際の正弦波を熱計算用の方形波で近似した電流からスイッチング素子のジャンクション温度を求める際の計算手法を示す図である。図5(a)のように、電力損失Ptmの通電時間をtp、周波数をτとすると、図5(b)に示すように直近の2パルス以外は平均化して電力損失を近似化し、図5(c)に示すように、重ね合わせの理論を電力損失に適用する。これにより、温度上昇を求める。
【0032】
規則的な繰り返し方形電流からスイッチング素子のジャンクション温度Tjは、下記の式により求まることが知られている。
Tj=Tw+Ptm{(tp/τ)・R(j-w)+(1−tp/τ)・R(j−w)(τ+tp)−R(j-w)(τ)+R(j-w)(tp)}
この式は、次式に変形される。
Tj−Tw=(T∞+T3−T2+T1)・Ptm
ここで、T∞=(tp/τ)・R(j-w)
T3=(1−tp/τ)・R(j−w)(τ+tp)
T2=R(j-w)(τ)
T1=R(j-w)(tp)
T∞は、損失の通電率(tp/τ)の割合が無限大時間与えられることを意味し、連続定格時の熱抵抗×通電率(tp/τ)により求める。
T3は、(τ+tp)時間における損失から、(τ+tp)時間の損失の通電率(tp/τ)の割合が引かれることを意味する。
−T2は、τ時間における損失分を引くことを意味する。
T1は、tp時間における損失分を足すことを意味する。
ここで、τとは繰り返し時間であり、R(j-w)(t)は時間tにおける過渡熱抵抗(℃/W)である。Twは冷却水の温度(℃)である。
【0033】
このようにしてジャンクション温度Tjが求まる。逆変換部13のスイッチング素子におけるジャンクション温度が基準値に達すると、制御部14により順変換部11及び逆変換部13の動作を停止し、出力を制御する。スイッチング素子が動作して通電により損失が生じ、基準以上にジャンクション温度が高くなると、スイッチング素子が破壊されるからである。損失は、例えば次のようにして求めた定常損失とスイッチング損失の和で求める。
【0034】
定常損失については、或る電流のときの損失値を実測しておき、その損失値に、電流増加による損失増加率と、電流増加による素子の損失増加率とをそれぞれ掛けて求める。一方、スイッチング損失については、1kHz当たりのスイッチング損失の値を実測しておき、その値に対して周波数を掛け、電流増加分を加味して求める。
このようにして求めた定常損失とスイッチング損失との和に対し、上述のT∞+T3−T2+T1を掛けた値が、所定温度以下となるような関係とする。
【0035】
所定温度は、使用するスイッチング素子により定まるので、この関係を満たす電流(「基準電流」と呼ぶ。)を求めれば、スイッチング素子に流れる電流が基準電流を超えない範囲で、出力を増加させることができる。
【0036】
上記の手法により求めた結果を説明する。図6は制御部14に蓄積されているデータを模式的に示す図であり、図6(a),(b)は周波数がそれぞれ100kHz,400kHzでの使用率αと電力との関係を、通電時間tpをパラメータとして示している。tpの値であるt1〜t4は、t1<t2<t3<t4の関係を満たす。
【0037】
熱処理用電力変換装置において、周波数が100kHzの高周波を出力する場合、図6(a)に示すように定格が定まる。使用率αを低下すると、電力を大きくすることができる。また、通電時間tpがt2,t3,t4では、使用率に応じて出力電力を変えることができる。
【0038】
周波数が400kHzの高周波を出力する場合、図6(b)に示すように、定格が定まる。使用率αを低下すると、電力を大きくすることができる。また、通電時間tpがt1,t2,t3,t4では、使用率に応じて出力電力を変えることができる。
【0039】
同じ設計思想の電力変換装置であれば、周波数に応じて出力電力を定格内で変化させることができ、低周波の周波数がより多くの電力を出力することになる。
【0040】
よって、本発明の実施形態に係る熱処理用電力変換装置では、出力周波数に応じて個別の定格が設定される。従来は、高い周波数の電力変換装置の定格と、低い周波数の電力変換装置の定格とは同じであった。一方、本発明の実施形態では、電力変換装置の定格に応じて低い周波数の定格を大きくするようにして経済性を高めることができる。また、出力周波数に応じて順変換部11、逆変換部13、制御部14の部品を取り換えたり、部品の定数を変更したりすることが必要となる場合もあるが、そのような微調整などの変更はスイッチにより切り替えをすることにより、発振周波数を変更することもできる。
【0041】
本発明は、特許請求の範囲に記載した範囲で適宜設計変更することができる。
なお、逆変換部13から出力される電力の定格は、逆変換部13から出力される高周波電力の周波数と、通電時間と、通電時間/(通電時間+通電していない時間)から求まる使用率とに応じて定まる定格であり、周波数、通電時間、使用率の何れか一以上のパラメータを変化させて定まるようにすればよい。つまり、これらの三つのパラメータのうち一つのパラメータのみを変化させて定まるようにしても、二つのパラメータを変化させ一つのパラメータを変化させないで定まるようにしても、三つのパラメータの全てのパラメータを変化させてもよく、これらは本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
10:熱処理用電力変換装置
11:順変換部
12:平滑部
13:逆変換部
14:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6